(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】磁性粒子操作装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20220928BHJP
G01N 1/34 20060101ALI20220928BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20220928BHJP
B03C 1/23 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B01J19/08 D
G01N1/34
B03C1/00 A
B03C1/00 H
B03C1/23
(21)【出願番号】P 2019001184
(22)【出願日】2019-01-08
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村松 晃
(72)【発明者】
【氏名】花房 信博
(72)【発明者】
【氏名】山野 彩花
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/105159(WO,A1)
【文献】特開2017-215217(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147130(WO,A1)
【文献】特開2016-117032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0195523(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00 - 19/32
B03C 1/00 - 1/32
G01N 1/00 - 1/44
G01N 35/00 - 35/10
C12M 1/00 - 1/40
C12N 15/00 - 15/90
G01N 33/543
C12Q 1/00 - 1/70
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部において目的物質に対する処理を行なうための処理液からなる複数の処理液層が互いの間にゲル層を挟んで長手方向に重層されているとともに、前記目的物質を捕捉する磁性粒子が内部に装填された管状デバイスを保持するためのデバイス保持部と、
前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイス内の前記磁性粒子に磁力を作用させて前記磁性粒子を
追従させ、それによって前記磁性粒子を前記管状デバイスの外側から操作するための磁力源と、
前記デバイス保持部に保持される前記管状デバイスに近接する位置で前記管状デバイスの長手方向へ前記磁力源を移動させる磁力源移動機構と、
前記磁性粒子に捕捉された目的物質に対する処理が前記管状デバイス内の前記各処理液層においてなされるように、前記磁力源移動機構の動作を制御して前記管状デバイス内の前記磁性粒子を前記各処理液層へ順次移動させる処理動作を実行するように構成された動作制御部と、
前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記長手方向における前記磁力源の位置を、前記磁力源移動機構による前記磁力源の駆動量に基づいて検出するように構成された位置検出部と、
前記処理動作の実行中に
前記磁性粒子が前記磁力源に追従しなくなるエラーを検知するエラー検知部と、を備え、
前記動作制御部は、前記エラー検知部が前記エラーを検知したときに前記磁力源移動機構による前記磁力源の移動を停止させて前記処理動作を中断し、前記エラーが解除されたときに中断した前記処理動作を再開するように構成され、かつ前記処理動作が中断されたときの前記磁力源の位置が前記管状デバイスの前記処理液層に相当する位置であるときは、前記エラーが解除された後で中断した前記処理動作を再開する前に、前記長手方向における当該処理液層の一端と他端との間の前記磁性粒子を前記磁力源によって回収するように前記磁力源を移動させる回収動作を実行するように構成されている、磁性粒子操作装置。
【請求項2】
前記デバイス保持部を覆う開閉式のカバーと、
前記カバーに設けられ、前記カバーが閉じられているときに前記デバイス保持部に保持されている前記管状デバイスを前記磁力源側へ押圧して前記管状デバイスの反りを矯正する押圧機構と、をさらに備え、
前記エラー検知部は、前記処理動作の実行中に前記カバーが開けられたことを前記エラーとして検知するように構成されている、請求項1に記載の磁性粒子操作装置。
【請求項3】
前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記各処理液層の位置情報を保持する位置情報保持部をさらに備え、
前記位置検出部は、前記位置情報保持部に保持されている前記位置情報に基づいて前記管状デバイスの前記長手方向における前記磁力源の位置を検出するように構成されている、請求項1又は2に記載の磁性粒子操作装置。
【請求項4】
前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記処理液層と前記ゲル層との境界の位置を光学的に検出するように構成された境界検出部をさらに備え、
前記位置情報保持部に保持される前記位置情報は、前記境界検出部により検出された前記境界の位置である、請求項3に記載の磁性粒子操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部において目的物質の分離や精製といった処理を行なうための処理液の層がゲル層を挟んで重層された管状デバイス内で、目的物質を補足した磁性粒子を操作するための磁性粒子操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部において溶解/固定液、洗浄液、溶出液といった処理液からなる複数の処理液層がゲル層を挟んで重層された管状デバイスを用いて、核酸などの目的物質の分離・精製を行なうことが提案され、実施もなされている(特許文献1参照。)。
【0003】
そのような管状デバイスを用いる目的物質の分離・精製は、目的物質を捕捉した磁性粒子を管状デバイス内に導入し、管状デバイスの外側の磁石で管状デバイス内の磁性粒子を操作することによって行なわれる。処理液層が洗浄液である場合、その処理液層内で磁性粒子による高速の撹拌運動がなされるように、磁石を管状デバイスの長手方向に沿って高速で往復動させるということが行われる。
【0004】
上記のような磁性粒子を用いた目的物質の分離・精製を自動的に行なうために、管状デバイス内の磁性粒子を操作するための磁力源を管状デバイスの長手方向へ自動的に移動させる磁性粒子操作装置が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2015/177933A1
【文献】特開2016-117032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような磁性粒子操作装置では、管状デバイスと磁力源との距離を一定に保った状態で磁力源を管状デバイスの長手方向へ移動させる必要がある。磁力源の動作中に管状デバイスと磁力源との距離が何らかのエラーによって大きくなった場合、管状デバイス内の磁性粒子に作用する磁力が弱くなり、磁性粒子が磁力源の動作に追従しにくくなる。そのような状態で磁力源の動作を続行しても、目的物質に対する所望の処理が十分になされず、新たな管状デバイスを用いて処理を最初からやり直す必要があり、管状デバイスが無駄になるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、磁性粒子に作用する磁力に影響を与えるエラーが磁力源の動作中に発生した場合でも、管状デバイスを引き続き使用できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁性粒子操作装置は、内部において目的物質に対する処理を行なうための処理液からなる複数の処理液層が互いの間にゲル層を挟んで長手方向に重層されているとともに、前記目的物質を捕捉する磁性粒子が内部に装填された管状デバイスを用いて、目的物質に対する処理を行なうための装置である。当該磁性粒子操作装置は、前記管状デバイスを保持するためのデバイス保持部と、前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイス内の前記磁性粒子に磁力を作用させて前記磁性粒子を前記管状デバイスの外側から操作するための磁力源と、前記デバイス保持部に保持される前記管状デバイスに近接する位置で前記管状デバイスの長手方向へ前記磁力源を移動させる磁力源移動機構と、前記磁性粒子に捕捉された目的物質に対する処理が前記管状デバイス内の前記各処理液層においてなされるように、前記磁力源移動機構の動作を制御して前記管状デバイス内の前記磁性粒子を前記各処理液層へ順次移動させる処理動作を実行するように構成された動作制御部と、前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記長手方向における前記磁力源の位置を、前記磁力源移動機構による前記磁力源の駆動量に基づいて検出するように構成された位置検出部と、前記処理動作の実行中におけるエラーを検知するエラー検知部と、を備えている。そして、前記動作制御部は、前記エラー検知部が前記エラーを検知したときに前記磁力源移動機構による前記磁力源の移動を停止させて前記処理動作を中断し、前記エラーが解除されたときに中断した前記処理動作を再開するように構成され、かつ前記処理動作が中断されたときの前記磁力源の位置が前記管状デバイスの前記処理液層に相当する位置であるときは、前記エラーが解除された後で中断した前記処理動作を再開する前に、前記長手方向における当該処理液層の一端と他端との間の前記磁性粒子を前記磁力源によって回収するように前記磁力源を移動させる回収動作を実行するように構成されている。
【0009】
すなわち、本発明に係る磁性粒子操作装置では、まず、磁力源を移動させる処理動作中のエラーが発生したときに処理動作を中断させ、エラーが解除された後で処理動作を再開する。ただし、管状デバイスの処理液層の側方で磁力源を高速で動作させているときに磁力源を急に停止させると、磁性粒子が磁力源から離脱して処理液層内に拡散するため、その後、エラーが解除して処理動作を続行しても、一部の磁性粒子が磁力源に追従しないことが考えられる。そこで、エラーの発生により処理動作が中断されたときは、エラーが解除された後で、処理液層内に拡散しているすべての磁性粒子を磁力源によって回収するように、すなわち、処理液層内に拡散しているすべての磁性粒子が磁力源に追従する状態となるように、磁力源をその処理液層内の両端間で移動させる。この回収動作を実行した後で、処理動作を再開することで、磁性粒子が磁力源に追従しないような状態で処理動作が続行されることを防止しつつ、エラーが発生した後も管状デバイスを引き続き使用することができる。
【0010】
ところで、管状デバイスは、樹脂製のチューブで構成されていることが一般的であり、完全に真っ直ぐであるとはいえないものも存在する。管状デバイスに反りがある場合、磁力源を管状デバイスの長手方向へ沿って一軸方向へ移動させたときに、管状デバイスの反っている部分と反っていない部分とで磁力源と管状デバイスとの距離が変わってしまい、管状デバイス内の磁性粒子を正確に操作できない虞がある。
【0011】
そこで、本発明に係る磁性粒子操作装置に、前記デバイス保持部を覆う開閉式のカバーと、前記カバーに設けられ、前記カバーが閉じられているときに前記デバイス保持部に保持されている前記管状デバイスを前記磁力源側へ押圧して前記管状デバイスの反りを矯正する押圧機構と、をさらに備えることが考えられる。この場合、処理動作の実行中にカバーが空けられてしまうと管状デバイスの反りが矯正されなくなるので、前記エラー検知部は、前記処理動作の実行中に前記カバーが開けられたことを前記エラーとして検知するように構成されることが好ましい。
【0012】
さらに好ましい実施形態では、前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記各処理液層の位置情報を保持する位置情報保持部をさらに備え、前記位置検出部は、前記位置情報保持部に保持されている前記位置情報に基づいて前記管状デバイスの前記長手方向における前記磁力源の位置を検出するように構成されている。
【0013】
また、本発明の磁性粒子操作装置に用いられる管状デバイスは、通常、各処理液層の位置の正確性が担保されるものであるため、管状デバイスにおける各処理液層の位置の設計値を位置情報として位置情報保持部にもたせておけば、その位置情報に基づいて磁力源を所望の層へ正確に移動させたり、磁力源の現在位置を正確に把握したりすることができる。しかし、管状デバイスの反りや温度等、何らかの要因によって各処理液層の位置が設計値からずれることも考えられる。そこで、前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイスの前記処理液層と前記ゲル層との境界の位置を光学的に検出するように構成された境界検出部をさらに設けてもよい。その場合、前記位置情報保持部に保持される前記位置情報を、前記境界検出部により検出された前記境界の位置とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁性粒子操作装置では、磁力源を移動させる処理動作中のエラーが発生したときに当該処理動作を中断させ、エラーが解除された後、処理液層内に拡散しているすべての磁性粒子を磁力源によって回収する回収動作を実行し、その後、処理動作を再開するように構成されているので、磁性粒子が磁力源に追従しないような状態で処理動作が続行されることを防止しつつ、エラーが発生した後も管状デバイスを引き続き使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】磁性粒子操作装置の一実施例を示す概略構成図である。
【
図2】同実施例で用いられる管状デバイスの一例を示す図である。
【
図3】同磁性粒子操作装置のデバイス保持部に管状デバイスが保持された状態を示す概略構成図である。
【
図4】同実施例の処理動作中におけるエラー検知とそのときの処理動作の中断及び再開の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】同実施例の回収動作を工程順に示すイメージ図である。
【
図6】同実施例の回収動作後に再開される処理動作を示すイメージ図である。
【
図7】管状デバイスの各層の境界を検出する機能を備えた磁性粒子操作装置の一実施例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、磁性粒子操作装置の実施形態について説明する。
【0017】
まず、
図2を参照して、磁性粒子操作装置で用いられる管状デバイスの一例について説明する。
【0018】
管状デバイス100は、管の内部において一端側から長手方向に、試料層102、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、溶出液層106が重層されたものである。
【0019】
試料層102を構成する試料には核酸などの目的物質を捕捉した磁性粒子が含まれている。処理液層104は、磁性粒子に捕捉された目的物質の処理を行なうための処理液からなる。処理液としては、磁性粒子に捕捉された目的物質から爽雑物質を取り除くための洗浄液が挙げられる。溶出液層106を構成する溶出液は、処理液層104を経て分離・精製等の処理がなされた目的物質を溶解させるためのものであり、例えば純水を用いることができる。
【0020】
次に、磁性粒子操作装置の一実施例について説明する。
【0021】
図1及び
図3に示されているように、磁性粒子操作装置は、管状デバイス100を嵌め込むための窪み4を有する前面パネル2を備えているとともに、前面パネル2の背後に、磁力源8、保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14を備えている。
【0022】
磁力源8は、管状デバイス100内の磁性粒子を操作するための磁力を発生させるものであり、例えば永久磁石によって実現される。ボールネジ12は、前面パネル2の窪み4に嵌め込まれる管状デバイス100の長手方向と平行に設けられており、ステッピングモータ14によって回転させられる。保持ブロック10はボールネジ12と螺合しており、ボールネジ12が回転することによってボールネジ12の軸方向へ移動するようになっている。
【0023】
ここで、前面パネル2は管状デバイス100を保持するデバイス保持部を構成し、保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14は磁力源8を管状デバイス100の長手方向へ移動させるための磁力源移動機構を構成する。
【0024】
前面パネル2の窪み4の底面に、窪み4に嵌め込まれた管状デバイス100に対して磁力源8を露出させるための開口が設けられている。磁力源8は、保持ブロック10によって窪みに嵌め込まれる管状デバイス100の近傍で保持されており、保持ブロック10がボールネジ12の軸方向への移動に伴って管状デバイス100の長手方向へ移動する。管状デバイス100内の磁性粒子は、磁力源8からの磁力の作用によって磁力源8の動作に追従し、管状デバイス100内を長手方向へ移動する。
【0025】
前面パネル2を覆う開閉式のカバー16が設けられている。カバー16の内側には、カバー16が閉じられたときに窪み4に嵌め込まれた管状デバイス100を磁力源8側へ押圧するための押圧板18が弾性部材20を介して取り付けられている。カバー16が閉じられると、押圧板18は、管状デバイス100と当接するとともに弾性部材20によって管状デバイス100側へ付勢され、これによって管状デバイス100の反りが矯正される。押圧板18及び弾性部材20は、管状デバイス100を押圧して反りを矯正するための押圧機構を構成する。
【0026】
前面パネル2とカバー16との内側面には、カバー16の開閉状態を検出するためのマイクロセンサ22及びピン24が設けられている。
図1及び
図3では、前面パネル2側にマイクロセンサ22、カバー16側にピン24が設けられているが、逆に、前面パネル2側にピン24、カバー16側にマイクロセンサ22が設けられていてもよい。
【0027】
磁性粒子操作装置は、ステッピングモータ14の動作を制御するための制御装置26を備えている。制御装置26は、演算素子や記憶媒体を備えた電子回路によって実現することができる。制御装置26は、動作制御部28、位置検出部30、エラー検知部32及び位置情報保持部34を備えている。動作制御部28、位置検出部30及びエラー検知部32は、演算素子がプログラムを実行することによって実現される機能であり、位置情報保持部34は記憶媒体の一部の記憶領域によって実現される機能である。
【0028】
動作制御部28は、管状デバイス100内の磁性粒子を試料層102から各処理液層104、溶出液層106へと順に移行させ、磁性粒子に捕捉された目的物質に対する所定の処理動作を実行するように、ステッピングモータ14の動作を制御して磁力源8を管状デバイス100の長手方向へ移動させるように構成されている。目的物質の精製処理は、処理液層104内において磁性粒子を管状デバイス100の長手方向へ高速で往復運動させることによって行なう。
【0029】
位置検出部30は、ステッピングモータ14に与えられた駆動パルス数に基づいて、管状デバイス100の長手方向における磁力源8の位置を検出するように構成されている。位置情報保持部34は、管状デバイス100内の各処理液層104の位置に関する情報を保持している。したがって、位置検出部30により検出される磁力源8の位置と位置情報保持部34に保持されている各処理液層104の位置に関する情報に基づいて、磁力源8が管状デバイス100のどの層に相当する位置にあるか、すなわち、磁性粒子が現在、どの層内に存在しているかを認識することができる。
【0030】
エラー検知部32は、管状デバイス100内の目的物質に対する処理動作の実行中のカバー16の開閉状態をマイクロセンサ22からの信号に基づいて検出し、処理動作の実行中にカバー16が開けられたことをエラーとして検知するように構成されている。エラーを検知した後でカバー16が閉じられた場合、エラー検知部32は、エラーを解除するように構成されている。
【0031】
動作制御部28は、処理動作を実行中にエラー検知部32によってエラーが検知されたときは、実行中の処理動作を中断し、エラーが解除されたときは中断した処理動作を再開するように構成されている。処理動作を中断するとは、ステッピングモータ14の駆動を中止して磁力源8の動作を停止させることをいう。
【0032】
動作制御部28は、中断した処理動作を再開させる際に、位置検出部30によって検出された磁力源8の停止位置と位置情報保持部34に保持されている各処理液層104の位置情報とに基づいて、磁力源8が管状デバイス100のどの層に相当する位置にあるかを検出する。そして、動作制御部28は、磁力源8が処理液層104に相当する位置にあるときは、処理動作を再開する前に回収動作を実行するように構成されている。
【0033】
回収動作とは、処理液層104内に拡散したすべての磁性粒子が磁力源8に追従する状態となるように、その処理液層104の一端と他端(図において上端と下端)の間で磁力源8を移動させる動作である。処理液層104内で磁性粒子を高速動作させているときに磁力源8の動作を停止させると、
図5(A)に示されているように、磁性粒子110の一部が磁力源8の磁場から離脱して処理液層104内に拡散してしまう場合がある。そこで、
図5(B)及び(C)に示されているように、処理動作を再開する前に、磁力源8を処理液層104の一端と他端との間で低速で移動させ、処理液層104内に拡散した磁性粒子110を磁力源8によって回収し、すべての磁性粒子110が磁力源8の動作に追従する状態にする。動作制御部28は、このような回収動作を行なった後で、
図6に示されているように、その処理液層104内での処理動作を再開するように構成されている。
【0034】
この実施例における処理動作中におけるエラー検知とそのときの処理動作の中断及び再開の動作を、
図3とともに
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0035】
管状デバイス100が窪み4に嵌め込まれてカバー16が閉じられ、処理動作の開始が入力されると、動作制御部28は所定の処理動作を開始する。処理動作の実行中、制御装置26にはマイクロセンサ22からの信号が定期的に取り込まれる(ステップS1)。エラー検知部32は、マイクロセンサ22の信号に基づいてカバー16が空いているか否かを判定する(ステップS2)。カバーが空いていない場合には、処理動作が続行される(ステップS2、S5)。
【0036】
カバー16が空いている場合(ステップS2)、エラー検知部32はエラーを検知する(ステップS3)。エラー検知部32によってエラーが検知された場合、動作制御部28は、ステッピングモータ14の駆動を停止して処理動作を中断する(ステップS4)。処理動作が中断された場合は、その後、エラー検知部32によってエラーが解除されるまで、処理動作の中断状態が維持される。
【0037】
処理動作が中断された後でカバー16が閉じられた場合(ステップS2、S5)、エラー検知部32はエラーを解除する(ステップS6)。エラーが解除されると、動作制御部28は、磁力源8の停止位置が管状デバイス100のどの層に相当する位置にあるかを検出する(ステップS7)。磁力源8の停止位置が管状デバイス100の処理液層104に相当する位置である場合、回収動作を実行した後で処理動作を再開する(ステップS8~S10)。一方で、磁力源8の停止位置が管状デバイス100のゲル層108に相当する位置である場合には、上記の回収動作を行なうことなく、処理動作を再開する(ステップS8、S10)。
【0038】
上記のように、処理動作の実行中にカバー16が開けられた場合でも、同じ管状デバイス100を用いて処理動作を続行することができる。逆にいえば、処理動作の実行中にカバー16を空けても管状デバイス100が無駄になることはないので、処理動作中に進捗状況を確認するためにカバー16を空けることができる。
【0039】
位置情報保持部34に保持される各処理液層104の位置情報としては、例えば管状デバイス100の各層の設計値を用いることができる。しかしながら、各処理液層104の実際の位置が管状デバイス100の個体差等によって設計値と異なっていることも考えられる。
【0040】
そこで、磁性粒子操作装置に、管状デバイス100の各処理液層104の実際の位置を取得する機能を設けるようにしてもよい。
図7は、管状デバイス100の各処理液層104の実際の位置を取得する機能を有する磁性粒子操作装置の一実施例を示している。
【0041】
図7の実施例は、保持ブロック10に物質の反射率を検出する光学センサ40が取り付けられ、制御装置26に境界検出部36が設けられている点において、
図1及び
図3に示された実施例と異なっている。境界検出部36は、演算素子がプログラムを実行することによって得られる機能である。
【0042】
境界検出部36は、光学センサ40によって得られる信号に基づいて管状デバイス100の各層の境界の位置を検出するように構成されている。具体的には、境界検出部36は、光学センサ40を管状デバイス100の長手方向に走査させ、光の反射率が変化する位置を管状デバイス100の各層の境界の位置として検出する。境界検出部36によって検出された各層の境界の位置が当該管状デバイス100の処理液層104の位置に関する情報として位置情報保持部34に保持される。
【0043】
以上において説明した実施例では、処理動作中にカバー16が開けられることのみを処理動作の中断の原因となるエラーとして検知するようになっているが、本発明はこれに限定されるものではなく、管状デバイス100内の磁性粒子が磁力源8に正常に追従しなくなるような事項であれば、カバー16の開閉状態に加えて又はカバーの開閉状態とともに、エラーとして検知することができる。エラーとして検知される事項としては、例えば、窪み4からの管状デバイス100の離脱が挙げられる。
【符号の説明】
【0044】
2 前面パネル
4 窪み
6 開口
8 磁力源
10 保持ブロック
12 ボールネジ
14 ステッピングモータ
16 カバー
18 押圧板
20 弾性部材
22 マイクロセンサ
24 ピン
26 制御装置
28 動作制御部
30 位置検出部
32 エラー検知部
34 位置情報保持部
36 境界検出部
40 光学センサ
100 管状デバイス
102 試料層
104 処理液層
106 溶出液層
108 ゲル層