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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】自動車用トルク検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G01L3/10 317
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019011806
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020118624
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン ジェイコブ
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-095433(JP,A)
【文献】特開2000-155073(JP,A)
【文献】特開2010-204053(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123561(WO,A1)
【文献】米国特許第04774845(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向片側の端部にドライブピニオンギヤを有するドライブピニオンと、
前記ドライブピニオン外嵌固定された内輪と、使用時にも回転しない固定部分に内嵌固定された外輪と、該内輪と該外輪との間に配置された複数個の転動体とを有する、1対の転がり軸受と、
前記ドライブピニオンの、前記転がり軸受のうちの軸方向片側の転がり軸受の転動体よりも軸方向他側に存在する部分の軸方向に離隔した2箇所位置に直接または他の部材を介して支持固定され、かつ、磁気特性を円周方向に関して交互に変化させた被検出面を有する、1対のエンコーダと、
前記固定部分に支持固定され、かつ、前記被検出面のそれぞれに対向する検出部を有する、1対のセンサと、を備え
前記エンコーダのうちの一方のエンコーダが、前記転がり軸受のうちの軸方向他側の転がり軸受の内輪に対して支持固定されており、かつ、前記エンコーダのうちの他方のエンコーダが、前記軸方向片側の転がり軸受の内輪に対して支持固定されている、
自動車用トルク検出装置。
【請求項2】
軸方向片側の端部にドライブピニオンギヤを有するドライブピニオンと、
前記ドライブピニオン外嵌固定された内輪と、使用時にも回転しない固定部分に内嵌固定された外輪と、該内輪と該外輪との間に配置された複数個の転動体とを有する、1対の転がり軸受と、
前記ドライブピニオンの、前記転がり軸受のうちの軸方向片側の転がり軸受の転動体よりも軸方向他側に存在する部分の軸方向に離隔した2箇所位置に直接または他の部材を介して支持固定され、かつ、磁気特性を円周方向に関して交互に変化させた被検出面を有する、1対のエンコーダと、
前記固定部分に支持固定され、かつ、前記被検出面のそれぞれに対向する検出部を有する、1対のセンサと、を備え
前記エンコーダのうちの一方のエンコーダが、前記転がり軸受のうちの軸方向他側の転がり軸受の内輪に対して支持固定されており、かつ、前記エンコーダのうちの他方のエンコーダが、前記ドライブピニオンのうち、前記軸方向他側の転がり軸受の内輪が外嵌固定された部分より軸方向他側に存在する部分に支持固定されている、
自動車用トルク検出装置。
【請求項3】
前記転がり軸受の前記内輪は、前記ドライブピニオンに締り嵌めにより外嵌固定されている、請求項1または2に記載の自動車用トルク検出装置。
【請求項4】
前記固定部分が、前記ドライブピニオンを収納したハウジングである、請求項1~のうちのいずれか1項に記載の自動車用トルク検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源から駆動輪に伝達されるトルクや、駆動輪が路面から受ける反力に基づいて生じるトルクを測定するための自動車用トルク検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン、電動モータなどの駆動源の制御やトランスミッションの制御など、車両の様々な制御を行うために、駆動系のトルクを測定することが従来から行われている。特開昭61-127952号公報には、トルク検出素子を内蔵したトルク検出器を、トランスミッションケースの後端部に嵌合により取り付けたトルク検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-127952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動系のトルクに基づいて、車両の制御を行う際には、前記トルクの測定をできるだけ車輪に近い側で行うことが好ましい場合がある。
【0005】
本発明は、上述のような事情に鑑み、駆動系のトルクの測定を、より車輪に近い側で行うことができる、自動車用トルク検出装置の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車用トルク検出装置は、ドライブピニオンと、1対の転がり軸受と、1対のエンコーダと、1対のセンサと、を備える。
前記ドライブピニオンは、軸方向片側の端部にドライブピニオンギヤを有する。
前記1対の転がり軸受のそれぞれは、前記ドライブピニオン外嵌固定された内輪と、車体やこの車体に支持固定された部材などの使用時にも回転しない固定部分に内嵌固定された外輪と、該内輪と該外輪との間に配置された複数個の転動体とを有する。
前記1対のエンコーダは、前記ドライブピニオンの、前記転がり軸受のうちの軸方向片側の転がり軸受の転動体よりも軸方向他側に存在する部分の軸方向に離隔した2箇所位置に直接、または、前記転がり軸受の内輪などの他の部材を介して支持固定され、かつ、磁気特性を円周方向に関して交互に変化させた被検出面を有する。
前記1対のセンサは、前記固定部分に支持固定され、かつ、前記被検出面のそれぞれに対向する検出部を有する。
【0007】
前記転がり軸受の前記内輪を、前記ドライブピニオンに締り嵌めにより外嵌固定することが好ましい。
【0008】
前記エンコーダのうちの一方のエンコーダを、前記転がり軸受のうちの軸方向他側の転がり軸受の内輪に対して支持固定することができる。この場合、前記エンコーダのうちの他方のエンコーダを、前記軸方向片側の転がり軸受の内輪に対して支持固定することができる。あるいは、前記エンコーダのうちの他方のエンコーダを、前記ドライブピニオンのうち、前記軸方向他側の転がり軸受の内輪が外嵌固定された部分より軸方向他側に存在する部分に支持固定することができる。
【0009】
前記固定部分を、前記ドライブピニオンを収納したハウジングとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
上述のような本発明の自動車用トルク検出装置では、1対のエンコーダをドライブピニオンに直接または他の部材を介して支持固定して、該ドライブピニオンに加わるトルクを検出するようにしている。このため、特開昭61-127952号公報に記載のトルク検出装置のように、トランスミッションの出力軸に加わるトルクを検出するように構成された構造や、プロペラシャフトに加わるトルクを検出するように構成された構造と比較して、より車輪に近い側で駆動系のトルクを測定することができる。
【0011】
さらに、本発明の自動車用トルク検出装置では、前記1対のエンコーダを、前記ドライブピニオンの、1対の転がり軸受のうちの軸方向片側(ドライブピニオンギヤに近い側)の転がり軸受の転動体よりも軸方向他側(ドライブピニオンギヤから遠い側)に支持固定するようにしている。このため、前記1対のエンコーダの設置スペース(特に軸方向片側のエンコーダの設置スペース)を確保しつつ、デファレンシャルギヤの噛合部で発生する噛み合い反力に基づいて、前記ドライブピニオンに加わるアキシアル荷重のトルク測定に対する影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、自動車の駆動系を示す模式図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の第1例のトルク検出装置を示す、図1のX部拡大図に相当する略断面図である。
図3図3は、エンコーダおよびセンサの取付態様を示す、図2のY部拡大図である。
図4図4は、本発明の実施の形態の第1例のトルク検出装置を模式的に示す、斜視図である。
図5図5(A)は、ドライブピニオンにトルクが加わっていない状態での1対のセンサの出力信号を示す線図であり、図5(B)は、ドライブピニオンにトルクが加わった状態での1対のセンサの出力信号を示す線図である。
図6図6は、エンコーダおよびセンサの取付態様の別例を示す、図3と同様の図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の第2例のトルク検出装置を示す、略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1図4を参照しつつ説明する。エンジンや電動モータである駆動源の回転は、トランスミッション1により変速され、プロペラシャフト2や継手3を介して、デファレンシャルギヤ4のドライブピニオン5に伝達され、このデファレンシャルギヤ4により左右1対の車軸6に分配される。このような構成により、左右1対の駆動輪7を、必要に応じて異なる回転速度で駆動させることが可能となっている。
【0014】
ドライブピニオン5は、軸方向片側(図1の下側および図2の右側)の端部に、ベベルギヤであるピニオンギヤ8を有する。なお、ドライブピニオン5に関して、軸方向片側とはデファレンシャルギヤ4側(たとえばFR車の後端側)をいい、軸方向他側とはプロペラシャフト2側(たとえばFR車の前端側)をいう。
【0015】
ドライブピニオン5は、棒状のシャフト部9と、このシャフト部9の軸方向片側にシャフト部9と一体に設けられたピニオンギヤ8とを有する。シャフト部9は、軸方向片側の大径部10と軸方向他側の小径部11とを、円すい台形状を有する接続部12により接続することで構成されている。
【0016】
ドライブピニオン5は、炭素鋼などの金属材料や、炭素繊維などの強化繊維を混入した合成樹脂の材料製である。ただし、ドライブピニオン5は、強度および耐久性を確保しつつ、後述するように、トルク検出のための捩れ量を確保する面からは、クロム鋼やクロムモリブデン鋼などの機械構造用炭素鋼製とすることが好ましい。
【0017】
本例では、ドライブピニオン5を含むデファレンシャルギヤ4が、ハウジング13内に収納されている。ハウジング13は、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの軽合金をダイキャスト成形したり、鋳鉄などの鉄系合金に鋳造加工や切削加工などを施したりすることにより製造される。
【0018】
ドライブピニオン5は、それぞれが円すいころ軸受である、1対の転がり軸受14a、14bにより、ハウジング13の内側に回転自在に支持されている。1対の転がり軸受14a、14bのそれぞれは、内輪19a、19bと、外輪25a、25bと、複数個の転動体28a、28bとを備える。
【0019】
ドライブピニオン5には、デファレンシャルギヤ4のピニオンギヤ8とリングギヤ29との噛合部で発生する噛み合い反力に基づいて、アキシアル荷重(モーメント)が加わる。本例では、ドライブピニオン5のアキシアル荷重に対する剛性を十分に確保すべく、ドライブピニオン5をハウジング13に対し回転自在に支持する転がり軸受14a、14bの内輪19a、19bを、ドライブピニオン5のシャフト部9に締り嵌めで外嵌固定している。すなわち、ドライブピニオン5は、ハウジング13に対して1対の転がり軸受14a、14bにより、片持ち式(オーバーハング式)に支持固定されている。
【0020】
具体的には、1対の転がり軸受14a、14bのうち、軸方向片側の転がり軸受14aの内輪19aは、シャフト部9の大径部10の軸方向中間部に締り嵌めにより外嵌固定されている。また、軸方向片側の転がり軸受14aの外輪25aは、ハウジング13の軸方向片側の端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定されており、かつ、転動体28aは、内輪19aと外輪25aとの間に配置されている。
【0021】
一方、1対の転がり軸受14a、14bのうち、軸方向他側の転がり軸受14bの内輪19bは、シャフト部9の小径部11の軸方向中間部に締り嵌めにより外嵌固定されている。また、軸方向片側の転がり軸受14bの外輪25bは、ハウジング13の軸方向中間部乃至軸方向他側の端部の内周面に締り嵌めにより内嵌固定されており、かつ、転動体28bは、内輪19bと外輪25bとの間に配置されている。
【0022】
なお、本例では、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aと、軸方向他側の転がり軸受14bの転動体28bとには、背面組み合わせ型の接触角が付与されている。
【0023】
本例では、1対の転がり軸受14a、14bを、転動体28a、28bとして円すいころを採用した円すいころ軸受を使用しているが、ラジアル荷重に加えアキシアル荷重も支承可能であれば、アンギュラ型または深溝型の玉軸受などの他の種類の転がり軸受を使用することもできる。
【0024】
本例の自動車用トルク検出装置は、ドライブピニオン5に加わるトルクを検出するためのもので、ドライブピニオン5および1対の転がり軸受14a、14bに加え、1対のエンコーダ15a、15bと、1対のセンサ16a、16bとを備える。
【0025】
1対のエンコーダ15a、15bは、ドライブピニオン5のシャフト部9のうち、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aよりも軸方向他側に存在する部分(シャフト部9のうち、軸方向他側の端部から、軸方向片側の内輪19aの軸方向他側の端部が外嵌された部分にかけての部分)の軸方向に離隔した2箇所位置に支持固定され、かつ、磁気特性を円周方向に関して交互に変化させた被検出面17a、17bをそれぞれ有する。
【0026】
本例では、エンコーダ15a、15bはそれぞれ、金属製で円筒形状を有する芯金18a、18bと、該芯金18a、18bの外周面に形成された、磁性ゴム製の被検出面17a、17bとを備える。エンコーダ15a、15bは、それぞれの芯金18a、18bを、ドライブピニオン5のシャフト部9に外嵌固定された転がり軸受14a、14bのそれぞれの内輪19a、19bの小径側端部に外嵌固定している。これにより、エンコーダ15a、15bは、シャフト部9のうち、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aよりも軸方向他側に存在する部分の軸方向に離隔した2箇所位置にそれぞれ、内輪19a、19bを介して支持固定されている。
【0027】
被検出面17a、17bのそれぞれは、N極とS極とを円周方向に関して交互にかつ等ピッチで配置することにより、磁気特性を円周方向に関して交互に変化させている。ただし、芯金18a、18bの円周方向等間隔複数箇所に透孔や径方向内方に凹んだ凹部を形成することにより、被検出面17a、17bを構成することもできる。なお、被検出面17a、17bの1回転当たりの磁気特性変化の回数は、トルク伝達時のドライブピニオン5の捩れ変形量や後述する演算器のトルク算出のための基準クロックなどに応じて決定される。
【0028】
本例では、図4に示すように、ドライブピニオン5にトルクが加わっていない初期状態で、デファレンシャルギヤ4側のエンコーダ15aの被検出面17aのN極(またはS極)と、プロペラシャフト2側のエンコーダ15bの被検出面17bのN極(またはS極)とが同位相となるように、エンコーダ15a、15bが、転がり軸受14a、14bのそれぞれの内輪19a、19bに支持固定されている。したがって、ドライブピニオン5にトルクが加わっていない状態での、後述する1対のセンサ16a、16bの出力信号同士の位相差である初期位相差は、0となる。ただし、デファレンシャルギヤ4側のエンコーダ15aの被検出面17aのN極(またはS極)と、プロペラシャフト2側のエンコーダ15bの被検出面17bのS極(またはN極)とが同位相となる、すなわち前記初期位相差が半周期となるように、エンコーダ15a、15bを支持固定することもできる。あるいは、前記初期位相差を求めることができれば、デファレンシャルギヤ4側のエンコーダ15aに対するプロペラシャフト2側のエンコーダ15bの円周方向位置は、任意に決めることができる。
【0029】
センサ16a、16bは、使用時、すなわち、ドライブピニオン5の回転時にも回転しない部分に支持固定され、かつ、エンコーダ15a、15bのそれぞれの被検出面17a、17bに対向する検出部20a、20bを有する。本例では、センサ16a、16bは、支持部21a、21bと、検出部20a、20bとを含む。支持部21a、21bのそれぞれは、円筒形状を有する嵌合筒部22a、22bと、嵌合筒部22a、22bの円周方向1箇所位置から軸方向に突出するセンサ取付部23a、23bとを有する。検出部20a、20bのそれぞれは、センサ取付部23a、23bの内側面に、合成樹脂製でドーム形状を有する保持部24a、24bを形成し、保持部24a、24bに磁気検出素子を包埋することにより構成されている。センサ16a、16bはそれぞれの嵌合筒部22a、22bを、ハウジング13に内嵌固定された転がり軸受14a、14bのそれぞれの外輪25a、25bの小径側端部に、締り嵌めで内嵌固定することにより、ハウジング13に対し支持固定されている。ただし、センサ16a、16bは、外輪25a、25bに、ねじ止めや接着などにより支持固定することもできる。
【0030】
センサ16a、16bのそれぞれの出力信号は、ドライブピニオン5とともにエンコーダ15a、15bが回転することに伴い、周期的に変化する。ドライブピニオン5にトルクが加わることに伴って、ドライブピニオン5が弾性的に捩れ変形すると、1対のエンコーダ15a、15bが回転方向に相対変位する。この結果、1対のセンサ16a、16bの出力信号同士の間に存在する位相差比ε(=位相差λ/周期T)が変化する。位相差比εは、ドライブピニオン5の捩れ変形量、および、このドライブピニオン5に加わるトルクの大きさに応じた値をとる。したがって、車両の走行中の位相差比εに基づいて、その時点でドライブピニオン5に加わるトルクを求めることができる。具体的には、前記位相差比εと前記トルクとの関係を、予め計算や実験などにより求め、図示しない演算器のメモリ中にマップや計算式として記憶しておく。車両の走行中、演算器は、まず、1対のセンサ16a、16bの出力信号から位相差比εを求め、次いで、この位相差比εに対応するトルクを、前記マップや計算式を用いて算出する。
【0031】
なお、ドライブピニオン5の回転に伴うセンサ16a、16bのそれぞれの出力信号の変化の周波数および周期Tは、ドライブピニオン5の回転速度に応じた値をとる。したがって、前記周波数または周期Tに基づいて、ドライブピニオン5の回転速度を求めることもできる。
【0032】
本例の自動車用トルク検出装置では、1対のエンコーダ15a、15bを自動車のデファレンシャルギヤ4を構成するドライブピニオン5に、転がり軸受14a、14bの内輪19a、19bを介して外嵌固定し、このドライブピニオン5に加わるトルクを検出するようにしている。このため、特開昭61-127952号公報に記載のトルク検出装置のように、トランスミッションの出力軸に加わるトルクを検出する構造や、プロペラシャフト2に加わるトルクを検出する構造と比較して、より駆動輪7に近い側で駆動系のトルクを検出することができる。
【0033】
さらに、本例の自動車用トルク検出装置では、1対のエンコーダ15a、15bの設置スペース、特に軸方向片側のエンコーダ15aの設置スペースを確保しつつ、ピニオンギヤ8とリングギヤ29との噛合部からドライブピニオン5に加わるアキシアル荷重(噛み合い反力)のトルク測定に対する影響を抑えることができる。
【0034】
すなわち、シャフト部9aのうち、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aよりも軸方向片側に存在する部分、すなわち、内輪19aの大径側端部からピニオンギヤ8よりも軸方向他側に位置する部分にかけての範囲には、軸方向片側のエンコーダ15aを設置するためのスペースが十分に存在しない。仮に、軸方向片側のエンコーダ15aの設置スペースを確保すべく、内輪19aの大径側端部からピニオンギヤ8までの距離を長くした場合、ドライブピニオン5に加わるアキシアル荷重に基づいて、該ドライブピニオン5に作用するモーメントが大きくなる。この結果、ドライブピニオン5やハウジング13などの弾性変形量が大きくなって、エンコーダ15aとセンサ16aとの位置関係がずれて、トルク測定に影響を与える可能性がある。
【0035】
本例では、1対のエンコーダ15a、15bを、ドライブピニオン5のシャフト部9のうち、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aよりも軸方向他側に存在する部分に支持固定するようにしているため、上述のような不都合の発生を防止することができる。
【0036】
また、本例では、1対の転がり軸受14a、14bの内輪19a、19bを、ドライブピニオン5のシャフト部9に締り嵌めで外嵌固定している。このため、シャフト部9aのうち、軸方向片側の転がり軸受14aの転動体28aよりも軸方向片側に存在する部分では、ピニオンギヤ8とリングギヤ29との噛合部からドライブピニオン5に加わるアキシアル荷重に対する剛性が高い。この面からも、前記アキシアル荷重のトルク測定に対する影響を抑えることができる。
【0037】
本例では、1対のエンコーダ15a、15bのそれぞれは、芯金18a、18bを、転がり軸受14a、14bのそれぞれの内輪19a、19bの小径側端部に外嵌固定することにより、ドライブピニオン5に支持固定されている。このため、1対のエンコーダ15a、15b同士の間の距離を十分に確保することができ、ドライブピニオン5にトルクが加わった際の1対のエンコーダ15a、15b同士の回転方向の相対変位量を大きくすることができる。この結果、ドライブピニオン5に加わるトルク検出の精度向上を図ることができる。
【0038】
また、1対のエンコーダ15a、15bのそれぞれを、芯金18a、18bを、転がり軸受14a、14bのそれぞれの内輪19a、19bの小径側端部に外嵌固定することにより、ドライブピニオン5に支持固定し、かつ、1対のセンサ16a、16bのそれぞれを、嵌合筒部22a、22bを、転がり軸受14a、14bのそれぞれの外輪25a、25bの小径側端部に、締り嵌めで内嵌固定することにより、ハウジング13に対し支持固定している。このため、1対のエンコーダ15a、15bと1対のセンサ16a、16bとの同軸度を十分に確保することができ、ドライブピニオン5に加わるトルク検出の精度向上を図ることができる。
【0039】
ただし、エンコーダ15a、15bのうちの一方または両方を、図6に示したエンコーダ15cのように、ドライブピニオン5に直接外嵌固定することもできる。また、センサ16a、16bについても、一方または両方を、図6に示したセンサ16cのように、ハウジング13aに直接固定することもできる。具体的には、たとえば、ハウジング13aに形成された通孔26に、センサ16cの支持部27を挿通し、この支持部27をねじ止めなどによりハウジング13aに対し支持固定することができる。
【0040】
また、本例では、デファレンシャルギヤ4側のエンコーダ15aとセンサ16aとを、デファレンシャルギヤ4側の転がり軸受14aの両側部分のうち、デファレンシャルギヤ4と反対側、すなわちプロペラシャフト2側に配置するようにしている。このため、デファレンシャルギヤ4の噛合部で発生する摩耗粉によるセンサ16aの出力信号への影響を小さく抑えることができる。なお、円すいころ軸受の端部にシールを設ければ、前記摩耗粉によるセンサ16aの出力信号への影響をより小さく抑えることができる。
【0041】
[実施の形態の第2例]
図7は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、1対の転がり軸受14a、14bのうち、デファレンシャルギヤ4から遠い側、すなわちプロペラシャフト2側(図7の左側)の転がり軸受14bの両側部分に、1対のエンコーダ15d、15eおよび1対のセンサ16d、16eが配置されている。
【0042】
1対のエンコーダ15d、15eのうち、デファレンシャルギヤ4側(図1の右側)のエンコーダ15dは、芯金18cを、プロペラシャフト2側の転がり軸受14bの内輪19bの小径側端部に外嵌固定することにより、この内輪19bを介してドライブピニオン5のシャフト部9に支持固定されている。1対のセンサ16d、16eのうち、デファレンシャルギヤ4側のセンサ16dは、支持部21cの嵌合筒部22cを、プロペラシャフト2側の転がり軸受14bの外輪25bの小径側端部に締り嵌めで内嵌固定することにより、検出部20cをエンコーダ15dの被検出面17cに対向させるようにして、外輪25bを介してハウジング13に支持固定されている。
【0043】
1対のエンコーダ15d、15eのうち、プロペラシャフト2側のエンコーダ15eは、ドライブピニオン5のシャフト部9のうちでプロペラシャフト2側の転がり軸受14bが外嵌固定された部分のプロペラシャフト2側に隣接する部分に、シャフト部9に直接締り嵌めで外嵌固定されている。1対のセンサ16d、16eのうち、プロペラシャフト2側のセンサ16eは、検出部20dをエンコーダ15eの被検出面17dに対向させるようにして、支持部27aをハウジング13にねじ止めなどにより支持固定することで、ハウジング13に直接支持固定されている。ただし、プロペラシャフト2側のセンサ16eを、プロペラシャフト2側の転がり軸受14bの外輪25bの大径側端部に支持固定することもできる。
【0044】
本例の自動車用トルク検出装置では、1対のセンサ16d、16e同士の間の距離が、実施の形態の第1例の1対のセンサ16a、16b同士の間の距離と比較して短い。このため、駆動系にトルクが加わることに伴いハウジング13が捩れ方向に弾性変形した場合でも、1対のセンサ16d、16eの円周方向位置の初期位置からのずれ量を小さく抑えられ、センサ16d、16eの出力信号への影響を小さく抑えることができる。
【0045】
また、ドライブピニオン5のシャフト部9の、1対の転がり軸受14a、14bのうちのピニオンギヤ8から遠い側(プロペラシャフト2側)の転がり軸受14bの両側部分に、1対のエンコーダ15d、15eを支持固定し、かつ、1対のセンサ16d、16eを、ハウジング13aの内周面のうちで、1対のエンコーダ15d、15eとドライブピニオン5の軸方向に関する位置が一致する部分に支持固定している。このため、ドライブピニオン5に作用するモーメントによって、ハウジング13aのうちでセンサ16d、16eを支持する部分が弾性変形する量を小さく抑えることができる。要するに、ピニオンギヤ8とリングギヤ29との噛合部からドライブピニオン5に加わるアキシアル荷重のトルク測定に対する影響を抑えることができる。その他の構成および作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【符号の説明】
【0046】
1 トランスミッション
2 プロペラシャフト
3 継手
4 デファレンシャルギヤ
5 ドライブピニオン
6 車軸
7 駆動輪
8 ピニオンギヤ
9 シャフト部
10 大径部
11 小径部
12 接続部
13、13a ハウジング
14a、14b 転がり軸受
15a、15b、15c、15d、15e エンコーダ
16a、16b、16c、16d、16e センサ
17a、17b、17c、17d 被検出面
18a、18b、18c 芯金
19a、19b 内輪
20a、20b、20c、20d 検出部
21a、21b、21c 支持部
22a、22b、22c 嵌合筒部
23a、23b センサ取付部
24a、24b 保持部
25a、25b 外輪
26 通孔
27、27a 支持部
28a、28b 転動体
29 リングギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
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図7