(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
H01B 7/18 20060101AFI20220928BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01B7/18 H
H01B7/02 F
(21)【出願番号】P 2019014300
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒木 謙一郎
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/116807(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168830(WO,A1)
【文献】特開2018-41714(JP,A)
【文献】特開2018-41606(JP,A)
【文献】特開2015-69726(JP,A)
【文献】実開昭56-108111(JP,U)
【文献】特開2006-351322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/18
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、絶縁材料よりなり、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有するコア線と、
前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも高い強度を有する線材が、前記コア線の軸線方向に交差して、前記コア線の外周を包囲してなる保護層と、を有し、
前記保護層を構成する前記線材は、前記絶縁被覆の表面に食い込んでいることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
導体と、絶縁材料よりなり、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有するコア線と、
前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも高い強度を有する線材が、前記コア線の軸線方向に交差して、前記コア線の外周を包囲してなる保護層と、を有し、
前記保護層は、前記絶縁被覆の表面に、0.014N/mm
2以上
かつ0.032N/mm
2
以下の密着力で密着していることを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
前記保護層は、前記絶縁被覆の表面に、0.014N/mm
2以上
かつ0.032N/mm
2
以下の密着力で密着していることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記保護層を構成する前記線材は、少なくとも、前記コア線の軸線方向に交差する第一の方向に沿って配置された第一の群と、前記コア線の軸線方向および前記第一の方向に交差する第二の方向に沿って配置された第二の群と、よりなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記保護層は、前記線材が編まれた編組体よりなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記保護層を構成する前記線材は、前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも、高い融点を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記保護層を構成する前記線材は、有機繊維よりなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項8】
前記保護層を構成する前記線材は、アラミド繊維よりなることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項9】
前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料は、架橋ポリマーを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項10】
前記保護層の外周を被覆して、絶縁体よりなるシースを有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関し、さらに詳しくは、コア線の外周に保護層を有する絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体が絶縁被覆によって被覆された絶縁電線を、自動車内等、外部からの衝撃を受けやすい箇所において使用する際に、衝撃によって絶縁被覆が損傷を受け、導体に対する絶縁被覆の保護性能や絶縁性能が損なわれないようにすることが重要である。衝撃によって絶縁被覆が破断し、導体が露出すると、短絡や断線に至る可能性もある。
【0003】
衝撃による絶縁被覆の損傷を防ぐための方法として、耐衝撃性の高い材料を用いて絶縁被覆を形成する形態を挙げることができる。そのような絶縁被覆を用いる形態は、例えば特許文献1に開示されている。また、別の方法として、ワイヤーハーネスにおいて、絶縁電線の外側に配置される外装部材として、耐衝撃性または衝撃吸収性を有する材料や構造よりなるものを用いる形態を挙げることができる。そのような外装部材を用いる形態は、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-159359号公報
【文献】特開2017-175801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される例のように、絶縁電線を構成する絶縁被覆の材料の耐衝撃性を高める場合には、電線の絶縁被覆として求められる絶縁性や柔軟性等の諸特性を満たしながら、高い耐衝撃性を有する材料を使用する必要がある。しかし、それら諸特性と両立しながら耐衝撃性を高めることには、限界がある。
【0006】
一方、絶縁電線の外側に、耐衝撃性や衝撃吸収性の高い外装部材を配置するとすれば、外装部材の存在により、ワイヤーハーネスの配策に必要な空間が大きくなってしまう。特に、外装部材の衝撃吸収性を高めようとすれば、特許文献2に開示される蛇腹構造のように、外装部材が大きな空間を占めやすい。近年、自動車等において、ワイヤーハーネスの省スペース化が求められており、衝撃への対策を目的として、大きな空間を占める外装部材を用いることは、省スペース性の観点からは好ましくない。
【0007】
このように、絶縁被覆の構成材料の検討、および外装部材の材料や構造の検討によって、絶縁電線自体、またワイヤーハーネス全体として、省スペース性を確保しながら、絶縁電線を衝撃の印加から保護することには、限界がある。それらとは別の方策により、絶縁電線を衝撃の印加から保護できるようにすることが望まれる。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、衝撃からの保護と、省スペース性を両立することができる絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明にかかる第一の絶縁電線は、導体と、絶縁材料よりなり、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有するコア線と、前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも高い強度を有する線材が、前記コア線の軸線方向に交差して、前記コア線の外周を包囲してなる保護層と、を有し、前記保護層を構成する前記線材は、前記絶縁被覆の表面に食い込んでいるものである。
【0010】
本発明にかかる第二の絶縁電線は、導体と、絶縁材料よりなり、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有するコア線と、前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも高い強度を有する線材が、前記コア線の軸線方向に交差して、前記コア線の外周を包囲してなる保護層と、を有し、前記保護層は、前記絶縁被覆の表面に、0.014N/mm2以上の密着力で密着しているものである。
【0011】
ここで、上記本発明にかかる第一の絶縁電線において、前記保護層は、前記絶縁被覆の表面に、0.014N/mm2以上の密着力で密着しているとよい。
【0012】
また、上記本発明にかかる第一の絶縁電線および第二の絶縁電線において、前記保護層を構成する前記線材は、少なくとも、前記コア線の軸線方向に交差する第一の方向に沿って配置された第一の群と、前記コア線の軸線方向および前記第一の方向に交差する第二の方向に沿って配置された第二の群と、よりなるとよい。前記保護層は、前記線材が編まれた編組体よりなるとよい。
【0013】
前記保護層を構成する前記線材は、前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料よりも、高い融点を有するとよい。前記保護層を構成する前記線材は、有機繊維よりなるとよい。前記保護層を構成する前記線材は、アラミド繊維よりなるとよい。
【0014】
前記絶縁被覆を構成する前記絶縁材料は、架橋ポリマーを含むとよい。前記絶縁電線は、前記保護層の外周を被覆して、絶縁体よりなるシースを有するとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記発明にかかる第一の絶縁電線および第二の絶縁電線は、コア線の外周に、コア線の絶縁被覆を構成する絶縁材料よりも高い強度を有する線材よりなる保護層を有している。保護層を構成する線材の強度により、絶縁電線に外から衝撃が印加された際に、衝撃がコア線に伝わりにくくなっている。特に、第一の絶縁電線においては、保護層を構成する線材が絶縁被覆の表面に食い込んでいることにより、また、第二の絶縁電線においては、保護層が絶縁被覆の表面に0.014N/mm2以上の密着力で密着していることにより、保護層が、コア線に対して、高い耐衝撃性を付与することができる。また、線材が、コア線の軸線に沿って移動しにくくなっており、いずれの絶縁電線においても、衝撃の印加等によって、線材がコア線の軸線に沿って特定の箇所に集中するような事態が起こりにくい。コア線に対する線材の緩みも発生しにくい。よって、保護層が、コア線の外周において、均一性高く、高い衝撃保護性能を発揮することができる。また、保護層は、コア線の外周に密着しているため、保護層を設置しても、絶縁電線の外径が大きくなりにくい。このように、高い耐衝撃性と省スペース性を両立することができる。
【0016】
ここで、上記第一の絶縁電線において、保護層が、絶縁被覆の表面に、0.014N/mm2以上の密着力で密着している場合には、絶縁被覆への線材の食い込みと、密着力の高さの両方の効果により、保護層が絶縁被覆に特に強く密着する。その結果、絶縁電線において、特に高い耐衝撃性が得られる。
【0017】
また、上記第一の絶縁電線および第二の絶縁電線において、保護層を構成する線材が、少なくとも、コア線の軸線方向に交差する第一の方向に沿って配置された第一の群と、コア線の軸線方向および第一の方向に交差する第二の方向に沿って配置された第二の群と、よりなる場合には、保護層が、コア線の表面において、様々な方向から印加される衝撃に対して、高い耐衝撃性を示しやすい。
【0018】
保護層が、線材が編まれた編組体よりなる場合には、コア線の表面の各部に、均一性高く、また複数の方向に沿って、線材が配置されることになる。また、編組体の編み目構造によって、線材がコア線の表面で移動しにくくなっている。よって、保護層が、コア線の各部において、様々な方向から印加される衝撃に対して、特に高い耐衝撃性を示す。また、絶縁電線を電磁的にシールドする編組シールドを形成するための設備を用いて、保護層を簡便に形成することができる。
【0019】
保護層を構成する線材が、絶縁被覆を構成する絶縁材料よりも、高い融点を有する場合には、保護層をコア線の表面に配置した後、コア線と保護層の複合体を、絶縁材料の融点以上、またはそれに近い温度まで加熱することで、絶縁被覆の表面に保護層を構成する線材を食い込ませやすい。また、絶縁被覆の表面に、保護層を高い密着力で密着させやすい。それらの結果、コア線に対して保護層が高い耐衝撃性を発揮する絶縁電線を、簡便に形成することができる。
【0020】
保護層を構成する線材が、有機繊維よりなる場合には、保護層を軽量に形成することができる。また、同様に有機ポリマーを主成分としてなるコア線の絶縁被覆に対して高い親和性を示すため、加熱等によって保護層を絶縁被覆の表面に密着させやすい。
【0021】
保護層を構成する線材が、アラミド繊維よりなる場合には、アラミド繊維は、種々の有機繊維の中で高い強度を有する材料であり、軽量で、高い耐衝撃効果を発揮する保護層を、形成することができる。
【0022】
絶縁被覆を構成する絶縁材料が、架橋ポリマーを含む場合には、保護層をコア線の外周に配置した状態で、保護層を絶縁被覆に食い込みまたは密着させるために、絶縁被覆を構成する絶縁材料の融点以上、またそれに近い温度までの加熱を行った際にも、架橋構造により、絶縁被覆の物性や形状を維持しやすい。よって、絶縁被覆の有する機能を維持したまま、保護層を絶縁被覆に食い込みまたは密着させ、保護層によって付与される高い耐衝撃性を利用することができる。架橋密度の調整により、融点等の物性の制御も、行いやすい。
【0023】
絶縁電線が、保護層の外周を被覆して、絶縁体よりなるシースを有する場合には、シースが、保護層を物理的に保護し、保護層を構成する線材の位置ずれも抑制する役割を果たす。よって、保護層によって高い耐衝撃性が発揮される状態を、長期にわたって維持することができる。絶縁電線の取り扱い性も高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線を示す図であり、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【
図2】上記絶縁電線の保護層を示す図であり、(a)は編組体の編組構造を示す平面図、(b)は保護層と絶縁被覆の界面の状態を説明する断面図である。
【
図3】コア線に対する保護層の密着力と、電線強度との関係を示す図である。
【
図4】保護層を除去した後の絶縁被覆の表面に対する撮影像である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施形態にかかる絶縁線について詳細に説明する。
【0026】
[第一の実施形態にかかる絶縁電線]
まず、本発明の第一の実施形態にかかる絶縁電線1について説明する。
図1に、絶縁電線1の構成を示す。絶縁電線1は、コア線10と、コア線10の外周に配置された保護層20と、保護層20のさらに外周に配置されたシース30とを有している。後に詳しく説明するように、保護層20は、線材21の集合体よりなり、保護層20を構成する線材21が、コア線10の絶縁被覆12に食い込んで、密着している。
【0027】
コア線10は、長尺状の導電性材料よりなる導体11と、絶縁材料よりなり、導体11の外周を被覆する絶縁被覆12とを有している。従来一般の導体と絶縁被覆を有する絶縁電線を、コア線10として利用することもできる。
【0028】
コア線10を構成する導体11の構造は特に限定されるものではないが、柔軟性の観点から、素線11aを複数撚り合わせた撚線よりなることが好ましい。図示した形態においては、複数の素線11aを撚り合わせてなる撚線を複数集合させて、さらに撚り合わせた親子撚構造を採用している。導体11の導体断面積、および導体11が撚線より構成される場合の素線径は、特に限定されない。
【0029】
導体11の構成材料も、特に限定されるものではなく、種々の導電性材料を用いることができるが、絶縁電線の導体としては、銅または銅合金を用いることが一般的である。銅以外にも、アルミニウム、マグネシウム、鉄などの金属、またはそれらを主成分とする合金を用いてもよい。導体11が撚線よりなる場合に、全ての素線11aが同じ金属材料よりなっても、複数の金属材料よりなる素線11aが撚り合わせられてもよい。また、導体11は、補強線としての有機繊維等、導電性材料よりなる素線11a以外の線材を、適宜含むものであってもよい。
【0030】
コア線10の絶縁被覆12を構成する絶縁材料としては、絶縁性のポリマー材料、またはそれに各種添加剤を添加したものを用いることができる。ポリマー材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。ポリマー材料は、架橋されていても、されていなくてもよい。しかし、保護層20との密着のために加熱を行った際に、絶縁被覆12の形状や材料物性を維持しやすくする観点から、架橋ポリプロピレン等、架橋ポリマーを用いることが好ましい。
【0031】
また、絶縁被覆12を構成するポリマー材料は、保護層20の食い込みや密着を強化する観点、また食い込み形成や密着の工程の簡便性の観点から、後述する保護層20を構成する線材21よりも、低い融点(または軟化温度;以下においても同様)を有することが好ましい。ポリマー材料が架橋ポリマーである場合には、架橋密度によって、融点を制御することができる。
【0032】
絶縁被覆12の厚さは、特に限定されるものではないが、保護層20の食い込みや密着のために、絶縁被覆12の一部が溶融されたとしても、絶縁被覆としての構造と機能を維持するのに十分な厚さを有することが好ましい。一方、保護層20が設けられていることにより、絶縁被覆12の厚さによって耐衝撃性を確保する必要はない。
【0033】
シース30は、保護層20の外周を被覆して、保護層20を物理的に保護するとともに、編組構造等、保護層20における線材21の集合構造の維持を補助する役割を果たす。編組体等よりなる保護層20を露出させないことにより、絶縁電線1の取り扱い性を高める効果も有する。シース30は、いかなる絶縁体よりなってもよいが、絶縁性のポリマー材料、またはそれに適宜添加剤が添加されたものよりなることが好ましい。シース30を構成するポリマー材料としても、コア線10の絶縁被覆12と同様、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。シース30の厚さも、特に限定されるものではなく、絶縁電線1を過度に大径化しない範囲で、保護層20に対して十分な保護性能を発揮できるように選択すればよい。なお、保護層20が十分に高い強度を有し、保護が必要ない場合や、線材21の集合構造が強固に維持できる場合等には、シース30を省略してもよい。
【0034】
本絶縁電線1を構成する絶縁被覆12、シース30、保護層20は、それぞれ複数の層よりなってもよい。また、絶縁被覆12と保護層20の間、保護層20とシース30の間、シース30の外周部等に、それら以外の部材が配置されてもよい。そのような部材としては、接着剤を例示することができる。接着剤は、絶縁被覆12と保護層20の間、また保護層20とシース30の間に配置され、両側の部材を相互に接着することができる。
【0035】
(保護層の構成)
上記のように、保護層20は、線材21の集合体より構成されている。保護層20を構成する線材21は、コア線10の絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い強度を有している。ここで、保護層20を構成する線材21と、絶縁被覆12を構成する絶縁材料の強度の比較は、破断強度、特に引張破断強度に基づいて行うことが好ましい。引張破断強度は、有機ポリマーを主成分とする材料に対しては、JIS K 7161に準拠して、金属材料に対しては、JIS Z 2241に準拠して、評価することができる。また、保護層20を構成する線材21と、絶縁被覆12を構成する絶縁材料の強度との比較は、それぞれの断面積で規格化した値について行う。
【0036】
保護層20において、線材21は、コア線10の軸線方向Aに交差する方向に軸線を沿わせて、コア線10の外周を包囲している。本実施形態においては、保護層20は、複数の線材21を編み込んで、中空筒状に成形した編組体よりなっている。
図2(a)に示すように、編組体を構成する線材21は、軸線方向Aに交差し、かつ相互に交差する2つの方向d1,d2に長手方向を沿わせて、編み込まれている。
【0037】
図2(b)に示すように、保護層20を構成する線材21は、コア線10の絶縁被覆12の表面に食い込んでいる。つまり、絶縁被覆12の表面に、線材21の周に沿って少なくとも一部の領域と同じ形状および寸法、あるいはそれよりも少し大きな寸法で陥没した陥没部13が形成されており、その陥没部13に、線材21の周に沿って少なくとも一部の領域が、収容されている。陥没部13の内壁面は、線材21の外周面に、密着している。
【0038】
本実施形態にかかる絶縁電線1においては、コア線10の外周に密着して、コア線10の絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い強度を有する線材21よりなる、保護層20が形成されている。高強度の材料よりなる保護層20でコア線10が包囲されていることによって、絶縁電線1の外部から衝撃が及ぼされた際に、保護層20がコア線10に対して耐衝撃性を発揮し、コア線10の絶縁被覆12が、衝撃の印加によって、損傷や破断を起こすのを、抑制することができる。特に、保護層20において、線材21が、コア線10の軸線方向Aに交差する方向d1,d2に沿って配置され、コア線10の外周を包囲しているため、コア線10の周に沿って様々な方向から印加される衝撃に対して、耐衝撃性を発揮することができる。
【0039】
衝撃の印加によって、絶縁被覆12が損傷や破断を起こすと、導体11に対する保護や絶縁等、絶縁被覆12が本来有する機能を維持できなくなる可能性がある。また、絶縁被覆12の損傷や破断により、絶縁被覆12の中の導体11にまで、影響が及ぶ可能性もある。しかし、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、保護層20が高い耐衝撃性を有することで、衝撃の印加に伴うそれらの現象を抑制し、衝撃が印加される可能性のある環境でも、絶縁電線1を、本来の性能を維持しながら、使用することが可能となる。
【0040】
さらに、保護層20を構成する線材21が、コア線10の絶縁被覆12の表面に食い込んでいることにより、保護層20がコア線10に密着し、コア線10に対して保護層20が発揮する耐衝撃性が、高められる。また、線材21の食い込みにより、線材21が、編組構造等、所定の配置をとったまま、コア線10の軸線方向Aに沿った位置ずれや、コア線10の径方向外側への緩みを、起こしにくくなっている。そのため、絶縁電線1が振動や衝撃の印加を受けても、コア線10に対する保護層20の密着度が低下する事態や、線材21がコア線10の軸線方向Aの特定の箇所に集中し、線材21の分布密度に粗密が生じる事態が起こりにくい。その結果、コア線10の軸線方向Aに沿って高い均一性をもって、保護層20が耐衝撃性付与の効果を発揮し、またそのように均一性高く耐衝撃性を発揮する状態を、長期にわたって維持することができる。
【0041】
このように、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、保護層20の存在によって、コア線10を衝撃の印加から保護することができ、衝撃の印加による絶縁被覆12の損傷や破断、さらには導体11への影響を抑制することができる。コア線10の外周に配置される保護層20によって耐衝撃性を担保できるため、コア線10を構成する絶縁被覆12は、導体11を衝撃の印加から保護できるだけの強度や耐衝撃性を備える必要はない。よって、従来一般の絶縁電線等、種々の絶縁電線をコア線10として用いて、その外周に保護層20を設けることで、耐衝撃性を高めることができる。本実施形態にかかる絶縁電線1は、高い耐衝撃性を有することで、自動車等、衝撃が印加されやすい箇所において、好適に用いることができる。
【0042】
また、保護層20は、線材21を絶縁被覆12の表面に食い込ませて、コア線10の表面に密着しているため、保護層20を設けても、絶縁電線1全体の外径が、著しく大きくはなりにくい。よって、絶縁電線1がワイヤーハーネス等として用いられる場合に、耐衝撃性や衝撃吸収性を有する嵩高い外装部材を外側に配置する必要がなく、絶縁電線1およびワイヤーハーネスの省スペース性を確保することができる。本実施形態にかかる保護層20と同様に、絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い強度を有する材料を、シート状やテープ状、チューブ状等、面形状に成形し、コア線10の外周に保護層として配置する場合にも、高い耐衝撃性を得ることができるが、これらの場合には、保護層を含めた絶縁電線全体の外径が大きくなり、また質量も大きくなりやすい。これに対し、上記のように、保護層20を線材21より構成し、絶縁被覆12に食い込ませることで、面形状の部材を用いて保護層を構成する場合よりも、絶縁電線1全体としての外径および質量を、小さく抑えることができる。絶縁電線1の柔軟性も確保しやすい。線材21を用いることで、面形状の部材を用いる場合よりも、保護層20を構成する高強度の材料の総量が少なくなるが、上記のように、線材21を絶縁被覆12の表面に食い込ませて、線材12の位置ずれや緩みを抑制することで、少量の材料で、高い耐衝撃性を確保することができる。近年、自動車内の配線において、省スペース化が求められているが、高い省スペース性を耐衝撃性と両立する本実施形態にかかる絶縁電線1は、自動車内で、好適に使用することができる。
【0043】
絶縁電線1において、保護層20を構成する線材21が絶縁被覆12の表面に食い込んでいることは、絶縁電線1の断面を観察し、
図2(b)のような陥没部13の形成と、陥没部13への線材21の嵌まり込みを検出することで、確認できる。あるいは、コア線10の外周から保護層20を除去したうえで、絶縁被覆12の表面を観察して、陥没部13に由来する溝状の構造が残存しているのを検出することで、確認できる(
図4参照)。
【0044】
保護層20を構成する線材21は、コア線10の絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い強度を有するものであれば、どのようなものであっても構わない。線材21を構成する材料として、金属材料、無機繊維、有機繊維を例示することができる。
【0045】
金属材料よりなる線材21としては、銅、アルミニウム、鉄、あるいはそれらの合金よりなる細線を挙げることができる。絶縁電線を電磁的にシールドするための編組シールド体に用いられるのと同様の金属細線を、好適に利用することができる。金属材料は、有機繊維や無機繊維と比較して、軽量性や低廉性においては劣るが、非常に高い材料強度を有しており、特に高い耐衝撃性を発揮することができる。無機繊維としては、ガラス繊維や炭素繊維を挙げることができる。有機繊維としては、アラミド繊維等の抗張力繊維を挙げることができる。アラミド繊維等の抗張力繊維は、高い強度と軽量性を両立することができ、保護層20を構成する線材21として、最も好適に利用することができる。また、コア線10の絶縁被覆12と同様に有機ポリマー材料よりなることで、絶縁被覆12に対して、高い密着性を示しやすいため、絶縁被覆12への密着により、高い耐衝撃性を付与することができる。
【0046】
さらに、線材21が絶縁被覆12の表面に食い込んだ状態を簡便に形成する観点から、線材21は、絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い融点を有すること、また絶縁被覆12を構成する絶縁材料の融点において、耐衝撃性の付与に影響を与えるような変性を起こさないものであることが好ましい。上記で列挙した金属材料や無機繊維、また抗張力繊維は、いずれも、絶縁電線1の絶縁被覆12として多用されるポリマー材料との比較において、そのような特性を満たす場合が多い。アラミド繊維に代表される抗張力繊維は、融点が高く(あるいは融点を有さず)、また高い耐熱性を有することからも、線材21として好適に利用することができる。なお、絶縁被覆12を構成する絶縁材料よりも高い融点を有するとは、絶縁被覆12の融点よりも高温に加熱しても溶融しない状態を指し、融点を有さない、つまり熱変性を起こす前に溶融しない場合も含むものとする。
【0047】
保護層20を構成する線材21の外径は、特に限定されるものではない。保護層20全体としての厚さも、特に限定されるものではない。
【0048】
保護層20における線材21の配置は、コア線10の軸線方向Aに交差する方向に長手方向を沿わせ、コア線10の外周を全周にわたって包囲していれば、どのようなものであってもかまわない。上記で説明した編組構造以外にも、コア線10の軸線方向Aを中心に線材21を螺旋状に巻き付けた構造を例示することができる。保護層20は、第一の方向d1に沿った第一の群の線材21と、第二の方向d2に沿った第二の群の線材21とを、少なくとも含んでいることが好ましい。ここで、第一の方向d1と第二の方向d2は、ともにコア線10の軸線方向Aに交差し、かつ相互に交差している。そのように複数の異なる方向に線材21を配置して保護層20を構成することで、コア線10を、多様な方向からの衝撃の印加から、保護しやすくなる。複数の異なる方向に線材21を配置する形態としては、上記編組構造の他、コア線10の外周に、複数の異なる方向の螺旋をなして、線材21を巻き付ける形態を例示することができる。
【0049】
保護層20を、線材21を編み込んだ編組体として構成することで、螺旋等、線材21をコア線10の外周に巻き付ける場合と比較して、特に高い耐衝撃性を得ることができる。第一の方向d1に沿った線材21と第二の方向d2に沿った線材21が交差する編み目22によって、両方向d1,d2に沿った線材21が固定され、コア線10の軸線方向A等に位置ずれを起こし、線材21の分布における粗密や緩みを生じるのを、効果的に抑制できるからである。さらに、第一の方向d1および第二の方向d2に沿って配置する線材21を、それぞれ、1本ずつ独立した状態ではなく、複数本で束にして撚り合わせた状態で編み上げれば、束となった線材21の撚り合わせと、編み目22による束同士の固定の両方の効果により、線材21の分布における粗密や緩みの発生を、特に効果的に抑制することができる。
【0050】
保護層20を構成する線材21の密度は、高い耐衝撃性を発揮する観点から、67%以上であることが好ましい。一方、保護層20を軽量化する観点から、80%以下であることが好ましい。線材21の密度とは、保護層20の面において線材21が占める面積の割合であり、保護層20が編組体よりなる場合には、編組密度に対応する。
【0051】
上記のように、本実施形態にかかる絶縁電線1においては、保護層20を構成する線材21が、コア線10の絶縁被覆12の表面に食い込んでいることにより、線材21がコア線10の外周に密着し、位置ずれや緩み等を起こしにくく、保護層20によって、高い耐衝撃性が発揮される。ここで、絶縁被覆12に線材21が食い込んだ状態において、絶縁被覆12に対する保護層20の密着力が、後に実施例に示すような引き抜き試験によって計測される値として、50N以上、さらに好ましくは80N以上であるとよい。保護層20と絶縁被覆12の間の接触面積で規格化すると、0.014N/mm2以上、さらに好ましくは0.022N/mm2以上であるとよい。
【0052】
保護層20が絶縁被覆12に対してこのように高い密着力を示すことにより、保護層20によって発揮される耐衝撃性を、効果的に高めることができる。また、線材21の位置ずれや緩みを強固に抑制し、コア線10の軸線方向Aに沿って均一性高く、耐衝撃性が高められた状態を、特に維持しやすくなる。保護層20の絶縁被覆12に対する密着力の向上は、後述するように、絶縁被覆12の溶融または軟化と固化に伴う融着によって、達成することができる。あるいは、表面に陥没部13を有する絶縁被覆12の表面と、保護層20の間に接着剤を介在させて、密着を補助してもよい。
【0053】
(絶縁電線の製造方法)
次に、本実施形態にかかる絶縁電線1の製造方法について、簡単に説明する。
【0054】
最初に、コア線10を準備する。コア線10は、素線11aを撚り合わせる等して形成した導体11の表面に、ポリマー組成物の押し出し成形等によって、絶縁被覆12を形成することで、製造することができる。絶縁被覆12に対しては、成形後、適宜、架橋処理を行ってもよい。
【0055】
次に、コア線10の外周に、保護層20を配置する。保護層20の配置は、保護層20の構成に応じた方法で行えばよい。螺旋状の線材21よりなる保護層20とする場合には、コア線10の外周に、線材21を巻き付ければよい。編組体よりなる保護層20とする場合には、コア線10の外周に、線材21を筒状に編み上げればよい。従来より、絶縁電線のシールド体として、筒状の編組シールドが多用されているが、そのような編組シールドを形成するための設備を用いて、編組体よりなる保護層20を、簡便に形成することができる。いずれの場合にも、コア線10の表面と保護層20の間には、できるかぎり空隙を形成せず、線材21を絶縁被覆12に接触させることが好ましい。また、保護層20と絶縁被覆12の間に接着剤の層を配置する場合には、保護層20を配置する前に、コア線10の表面に、接着剤の塗布、押し出し等を行っておけばよい。
【0056】
コア線10の外周に配置した保護層20においては、線材21をコア線10の絶縁被覆12の表面に食い込ませる必要がある。絶縁被覆12への線材21の食い込みは、線材21を配置する前に、絶縁被覆12の表面に、陥没部13となる微細な溝を形成しておくことや、螺旋状への線材21の巻き付けや編組構造への線材21の編み上げを、コア線10に対して緊密に行い、力学的に線材21を絶縁被覆12に食い込ませること等により、行うこともできるが、次に述べるように、加熱による絶縁被覆12の軟化や溶融を利用することで、簡便に、強固な食い込みを達成することができる。
【0057】
つまり、コア線10の外周に保護層20を配置し、線材21を絶縁被覆12に接触させた状態で、コア線10と保護層20の集合体を加熱する。この際、加熱は、絶縁被覆12を構成する絶縁材料が軟化あるいは溶融する状態まで、特に絶縁被覆12の表面の一部が溶融する状態まで、行うことが好ましい。加熱温度が高くなるほど、また加熱時間が長くなるほど、絶縁被覆12の軟化や溶融が、コア線10の内側まで進行するが、所望の状態が達成されるように、加熱温度および加熱時間を設定すればよい。絶縁被覆12の表面が軟化または溶融すると、絶縁被覆12に接触していた線材21が、絶縁被覆12の表面から沈み込むようにして、表面の少なくとも一部を絶縁材料に包囲され、絶縁材料に抱き込まれた状態となる。この状態で、コア線10と保護層20の集合体を冷却すると、絶縁材料が、線材21を抱き込んだ状態のまま固化する。これにより、
図2(b)に示すように、絶縁被覆12の表面に線材21の形状に合致する陥没部13が形成され、線材21がその陥没部13に嵌まり込んで、陥没部13の内壁に密着した状態となる。特に、絶縁被覆12の表面が、軟化されるだけではなく、溶融された場合には、線材21と陥没部13の内壁面の間で、融着による強固な接着が形成されやすい。
【0058】
このように、加熱によって、線材21を絶縁被覆12の表面に食い込ませる際に、両者の間の密着力を高める観点から、コア線10と保護層20の集合体を、絶縁被覆12の融点以上に加熱することが好ましい。この場合に、絶縁被覆12を構成する絶縁材料が、線材21を構成する材料よりも高い融点を有していれば、絶縁被覆12を構成する絶縁材料の融点以上、かつ線材21を構成する材料の融点未満の温度に集合体を加熱することで、線材21の溶融による強度の低下を避けながら、絶縁材料の溶融を経て、線材21を絶縁被覆12に深く食い込ませ、高い密着力を得ることができる。例えば、絶縁被覆12が架橋ポリエチレンよりなり、線材21がアラミド繊維よりなる場合に、加熱を70℃よりも高温で行うことが好ましい。ただし、加熱に際し、加熱温度および加熱時間は、線材21を構成する材料が、熱によって、溶融以外にも、耐衝撃性に影響を与えるような変性を起こさない程度に、留めておくことが好ましい。例えば、上記のように、絶縁被覆12が架橋ポリエチレンよりなり、線材21がアラミド繊維よりなる場合に、加熱温度は、アラミド繊維が熱変性を起こさない150℃以下に留めておくことが好ましい。
【0059】
さらに、加熱は、絶縁被覆12の形状および物性に大きな影響が生じないような範囲で行うことが好ましい。例えば、絶縁被覆12の少なくとも表面近傍の領域は、加熱により、保護層20を構成する線材21の食い込みが可能な程度に、溶融または軟化を起こすが、絶縁被覆12全体としての形状および物性において、加熱を経て冷却した後に、絶縁被覆12としての機能に影響を及ぼすような変化を残さない状態とすることが好ましい。そのような状態は、加熱温度や加熱時間の選択に加えて、絶縁被覆12を構成する絶縁材料の選択によっても、実現することができる。例えば、絶縁被覆12を、架橋ポリエチレン等の架橋ポリマーより構成しておくことで、架橋構造によって、絶縁被覆12全体としての形状および物性を維持しながら、未架橋部の寄与によって、線材21の食い込みを許容する軟化や溶融を達成することができる。架橋密度の調整により、軟化温度や融点を、ある程度の範囲で、制御することができる。
【0060】
加熱等を経て、線材21を絶縁被覆12に食い込ませた状態で、保護層20を形成した後、適宜、保護層20の表面に、シース30を形成すればよい。シース30の形成は、ポリマー組成物の押し出し成形等によって、行うことができる。
【0061】
[第二の実施形態にかかる絶縁電線]
次に、本発明の第二の実施形態にかかる絶縁電線について説明する。ここでは、上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1と構成の異なる部分についてのみ説明する。他の構成は、上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1と同様である。
【0062】
上記第一の実施形態にかかる絶縁電線1においては、保護層20を構成する線材21が、コア線10の絶縁被覆12の表面に食い込んでいた。しかし、第二の実施形態にかかる絶縁電線においては、線材21は、必ずしも、コア線10の絶縁被覆12の表面に食い込んでいない。
【0063】
そして、第二の実施形態にかかる絶縁電線においては、保護層20が、コア線10の絶縁被覆12の表面に、所定以上の密着力で密着している。具体的には、密着力は、後に実施例に示すような引き抜き試験によって計測される値として、50N以上となっている。保護層20と絶縁被覆12の間の接触面積で規格化すると、密着力は、0.014N/mm2以上となっている。さらには、密着力は、上記引き抜き試験によって計測される値として、80N以上、規格化した値として、0.022N/mm2以上であるとよい。
【0064】
このように高い密着力で、保護層20がコア線10の絶縁被覆12の表面に密着していることにより、保護層20が、コア線10に対して、高い耐衝撃性を付与することができる。また、保護層20を構成する線材21の各部がそれぞれ、絶縁被覆12に高い密着力で密着することにより、コア線10の各位置に配置された線材21が、コア線10の軸線方向Aに位置ずれを起こしにくく、線材21の密度に粗密が生じにくい。また、各線材21が、コア線10の径方向に、緩みを起こしにくい。その結果、コア線10の軸線方向Aに沿って高い均一性をもって、保護層20による耐衝撃性向上の効果を発揮し、またそのように均一性高く耐衝撃性を発揮する状態を、長期にわたって維持することができる。
【0065】
上記のような密着力での保護層20の絶縁被覆12への密着は、第一の実施形態について説明した絶縁被覆12への線材21の食い込みによって達成されても、他の形態によって達成されてもよい。例えば、融着による形態を例示することができる。上記のように、絶縁被覆12に保護層20を構成する線材21を接触させた状態で、加熱を行うと、必ずしも絶縁被覆12への線材21の食い込みを伴わずに、軟化または溶融した絶縁材料によって、保護層20と絶縁被覆12の間に、融着が起こる場合がある。このような融着により、強い密着を達成することもできる。あるいは、絶縁被覆12と保護層20の間に接着剤の層を設け、接着剤を介した接着により、強い密着を達成してもよい。複数の形態による密着を併用して、保護層20と絶縁被覆12の界面における密着力を高めるようにしてもよい。
【実施例】
【0066】
以下に本発明の実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、コア線の絶縁被覆に対する保護層の密着性と、耐衝撃性の関係について、評価を行った。
【0067】
[試料の作製]
試験試料として、
図1に示すような保護層を有する絶縁電線を作製した。具体的には、アルミニウム合金素線を撚り合わせて、導体断面積16mm
2の導体を準備した。その外周に、架橋ポリエチレンよりなる厚さ1.0mmの絶縁被覆を形成し、コア線とした。なお、架橋ポリエチレンの引張破断強度は15~20MPa、融点(架橋前)は150℃であった。
【0068】
そして、コア線の外周に、アラミド繊維の一種であるケブラー(登録商標)よりなる線材を筒状に編んで配置し、編組体よりなる保護層を形成した。この際、編組体の筒形状の内径をコア線の外径と略等しくし、コア線の表面に線材を接触させた。なお、ケブラー線材は、引張破断強度が2800MPaであり、融点を有していない。
【0069】
そして、コア線と保護層の集合体を加熱した後、放冷した。加熱温度および加熱時間は、絶縁被覆に対する編組の密着力が、10N(試料1),80N(試料2),120N(試料3)となるように、3とおりに選択した。
【0070】
さらに、保護層の外周に、電線被覆と同材料よりなる、厚さ0.7mmのシースを形成し、試験試料とした。試験試料としては、加熱を受けた保護層が上記のような密着力を示す試料1~3に加え、参照用に、保護層を設けた後に加熱していないもの(参照試料1)も準備した。さらに、保護層およびシースを設けず、コア線のままの試料(参照試料2)も準備した。
【0071】
[試験方法]
上記で得られた各試料に対して、下記の各試験を、室温、大気中にて行った。
【0072】
(絶縁被覆の表面の観察)
試料1~3について、それぞれ、シースおよび保護層をコア線の表面から除去した。そして、コア線の絶縁被覆の表面を目視観察し、保護層を構成する線材が食い込んでいた陥没部に相当する溝状の構造が残っているかどうかを、確認した。溝状の構造が観察された場合を、線材の食い込みありと判定し、観察されなかった場合を、線材の食い込みなしと判定した。
【0073】
(密着力の測定)
引き抜き試験により、試料1~3に対して、それぞれ、コア線の表面に対する保護層の密着力を測定した。具体的には、各試料を150mmに切り出し、端部から75mmの領域のシースおよび保護層を剥がして、コア線を露出させた。コア線の外径と同等の径を有する貫通孔を金属板に形成し、その貫通孔に、露出したコア線を挿通した。そして、コア線を50mm/秒の速度で引張り、コア線を保護層から引き抜いた。引き抜きに要する荷重をロードセルにて測定し、最大荷重を、コア線の表面に対する保護層の密着力とした。得られた荷重は、コア線が保護層に被覆されていた領域の表面積である3700mm2で除して、規格化した。
【0074】
(電線強度の測定)
試料1~3および参照試料1,2について、電線強度の測定を行った。具体的には、各試料の外周部から、径方向中心に向かって、厚さ10mmのブレードを押し付けた。そして、ブレードに印加される荷重をロードセルにて測定しながら、印加荷重を徐々に増大させ、絶縁被覆が破断して導体が露出した際の印加荷重の値を、電線強度とした。このように測定した電線強度の値が大きいほど、電線の耐衝撃性が高いとみなすことができる。
【0075】
[試験結果]
下の表1に、各試料について得られた測定結果を示す。また、
図3に、測定によって得られた、コア線の表面に対する保護層の密着力と、電線強度との関係を示す。
図3では、試料1~3の測定値をプロット点で示すとともに、参照試料1,2の電線強度を破線で示している。さらに、試料1~3のプロット点に対する近似直線を、実線で示している。
図4には、試料2について、上記「絶縁被覆の表面の観察」の試験において、保護層を除去したコア線の絶縁被覆の表面を撮影した写真を示す。写真において、周囲の部位よりも明るく観察される編み目状の部位が、保護層の線材が食い込んでいた陥没部に対応する溝構造である。
【0076】
【0077】
表1および
図3によると、保護層の密着力が上昇するのに伴い、電線強度が高くなっていることが分かる。そして、密着力と電線強度の相関性は、線形によく近似することができる。また、保護層の密着力が小さい試料1においては、絶縁被覆への線材の食い込みが起こっていないのに対し、密着力の大きい試料2,3においては、線材が絶縁被覆に食い込んでいる。これらのことから、保護層を構成する線材をコア線の絶縁被覆に食い込ませ、絶縁被覆に対する保護層の密着力を高めることで、電線強度を高め、耐衝撃性を向上させられることが分かる。
【0078】
自動車に用いられる絶縁電線において、おおむね、上記のようにして測定される電線強度が5000N以上であれば、十分な耐衝撃性を有するとみなすことができる。試料1~3に対する近似直線によると、5000Nとの電線強度は、50N、つまり0.014N/mm2との保護層の密着力に対応しており、保護層がそれ以上の密着力で絶縁被覆に密着していれば、自動車用電線として十分に高い耐衝撃性を獲得できることが分かる。なお、電線強度を、13000Nを超えて高くすべく、保護層の密着力を、130Nを超えて高めようとしても、保護層を構成するケブラーの熱劣化が発生し、それ以上の電線強度の向上は難しいことも、確認している。
【0079】
保護層をコア線の外周に配置して加熱を行っていない参照試料1においては、保護層を設けていない参照試料2と同じ電線強度しか得られていない。つまり、線材よりなる保護層をコア線の外周に配置するだけでは、絶縁電線の耐衝撃性を高めることができず、保護層を構成する線材をコア線の絶縁被覆に食い込ませることや、絶縁被覆への保護層の密着力を高めることが、耐衝撃性の向上に必要である。さらに、保護層の密着力を10Nとした試料1では、それら参照試料1および参照試料2と比較して、電線強度が向上しておらず、保護層の密着力が、線材が絶縁被覆に食い込まない程度に小さいと、耐衝撃性の向上には実質的な効果を有さないと言える。
【0080】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 絶縁電線
10 コア線
11 導体
11a 素線
12 絶縁被覆
13 陥没部
20 保護層
21 線材
22 編み目
30 シース
A コア線の軸線方向
d1 第一の方向
d2 第二の方向