(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】洗浄液交換予測分析システム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G01N33/00 D
(21)【出願番号】P 2019015260
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000134707
【氏名又は名称】株式会社ナカヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牛山 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】黒飛 孝治
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-509860(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0323367(US,A1)
【文献】特開2010-022325(JP,A)
【文献】特開平06-299371(JP,A)
【文献】特開昭62-185158(JP,A)
【文献】特開平10-290918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 - 33/46
C23G 1/00 - 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄した洗浄液の交換時期を予測する洗浄液交換予測分析システムにおいて、
センサデータ収集部、
エッジ検出部、洗浄液交換時期予測部を有し、
前記センサデータ収集部は、
洗浄槽に取り付けられたpHセンサにて計測したセンサデータを収集し、当該センサデータからデータ開始からデータ終点までの洗浄液のpH値のpH値推移を出力し、
前記エッジ検出部は、
「洗浄液つぎ足し」イベントを検出する機能を有し、
前記pH値推移から前記センサデータの各極大値と各極小値を求め、かつ、前記極大値について、前の極小値との差分を求め、当該差分が予め設定した閾値を超えた場合、前記前の極小値から前記極大値の区間を前記「洗浄液つぎ足し」イベントに基づくエッジとして検出し、
前記洗浄液交換時期予測部は、
前記pH値
の履歴データから洗浄液の交換時期を示す予測
する機能を有し、
前記「洗浄液つぎ足し」イベントを含まない区間のデータを使用して前記洗浄液の交換時期を予測する
ことを特徴とする洗浄液交換予測分析システム。
【請求項2】
請求項1に記載された洗浄液交換予測分析システムにおいて、
前記
洗浄液交換時期予測部は、
前記洗浄液の交換時期予測に必要な最低時間kを定義し、
直前エッジからデータ終点までの時間が前記
最低時間kより大きい場合、前記エッジから前記データ終点までの区間の第1データ範囲を使用して前記洗浄液の交換時期を予測し、
前記直前エッジから前記データ終点までの時間が前記
最低時間kより小さい場合、前記第1データ範囲の一つ前のエッジ区間の第2データ範囲を使用して前記洗浄液の交換時期を予測する
ことを特徴とする洗浄液交換予測分析システム。
【請求項3】
請求項1に記載された洗浄液交換予測分析システムにおいて、
さらに、前記閾値を修正する閾値修正部を有し、
前記閾値修正部は、前記エッジ検出部にて検出したエッジの各区間のエッジ候補について、エッジ検出のエッジ訂正があった場合、訂正されたエッジ候補の最大値と最小値の差分から、閾値候補を生成し、当該閾値候補は、前記差分がエッジと訂正した場合、「差分-ε」の閾値候補を生成し、前記差分がエッジでないと訂正した場合、「差分+ε」の閾値候補を生成し、
現在使用の現在閾値および前記各閾値候補でエッジ検出の正解率を計算し、最も正解率の高い閾値を新閾値し、当該最も正解率の高い閾値は、前記エッジ検出と前記エッジ訂正の一致率の高いものとする
ことを特徴とする洗浄液交換予測分析システム。
【請求項4】
請求項
1に記載された洗浄液交換予測分析システムにおいて、
前記エッジ検出部は、
極大値から一定時間後のpH値が前の極小値よりも大きい場合、前記前の極小値から前記極大値の区間を「洗浄液つぎ足し」イベントに基づくエッジとして検出する
ことを特徴とする洗浄液交換予測分析システム。
【請求項5】
請求項
1に記載された洗浄液交換予測分析システムにおいて、
前記エッジ検出部は、
極大値が前の極大値よりも大きい場合、当該極大値と一つ前の極小値の区間を「洗浄液つぎ足し」イベントに基づくエッジとして検出する
ことを特徴とする洗浄液交換予測分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液交換時期を予測する洗浄液交換予測分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
洗浄液の交換時期を診断する方法として、特開2017-72458号公報(特許文献1)に記載された技術がある。この公報には「PCBで汚染された機器内を洗浄した洗浄液を、触媒を充填した触媒カラムに循環させることにより、洗浄液中のPCBを脱塩素化分解する反応系において、触媒及び洗浄液の劣化を診断する方法であって、反応系から採取した触媒及び洗浄液を用いて、それらの反応時間が長くなるほど減少または増加する特性値とPCB分解能との相関関係を求め、前記相関関係に基づいて、それらの特性値で以て互いに独立する触媒閾値及び洗浄液閾値を設定し、診断時点における触媒の特性値が触媒閾値を越えている場合には、触媒が劣化したと判定し、診断時点における洗浄液の特性値が洗浄液閾値を越えている場合には、洗浄液が劣化したと判定する。」との記載がある(要約書参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、「洗浄した洗浄液を、触媒を充填した触媒カラムに循環させる」ための洗浄液循環手段を必要としている。
また、本出願人は、洗浄液の交換時期を予測する上で、洗浄装置に用いられる洗浄液が、使用時間の経過とともに、洗浄液のpH値が上下に波打ちながら下降することを見出した。
【0005】
そこで、本発明では、洗浄液循環手段を必要としない洗浄液の洗浄液交換時期を予測する技術を提案するものであり、洗浄液のpH値推移に着目し、pH値推移から洗浄液の交換時期を予測する技術を提供することを目的とする。
【0006】
また、pH値推移から洗浄液の交換時期を予測する技術に取り組んだ結果、使用された洗浄液に未使用の洗浄液をつぎ足すと、この「洗浄液つぎ足し」イベントのタイミングでは、pH値が急激に上昇することが分かった。
故に、pHセンサにより計測したセンサデータのpH値推移から、つまり、現在値データのpH値が所定の閾値を下回ったとき、洗浄液の交換時期と予測する方法にあっては、「洗浄液つぎ足し」により、予測誤差が大きくなり、洗浄液の交換時期を正確に予測することが難しい課題があった。
【0007】
そこで、本発明では、上記pH値推移から洗浄液の交換時期を予測する技術における新たな課題を是正し、洗浄液の交換時期を精度よく予測する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の洗浄液交換予測分析システムの一つは、洗浄した洗浄液の交換時期を予測する洗浄液交換予測分析システムにおいて、
センサデータ収集部、エッジ検出部、洗浄液交換時期予測部、を有し、
前記センサデータ収集部は、
洗浄槽に取り付けられたpHセンサにて計測したセンサデータを収集し、当該センサデータからデータ開始からデータ終点までの洗浄液のpH値のpH値推移を出力し、
前記エッジ検出部は、
「洗浄液つぎ足し」イベントを検出する機能を有し、
前記pH値推移から前記センサデータの各極大値と各極小値を求め、かつ、前記極大値 について、前の極小値との差分を求め、当該差分が予め設定した閾値を超えた場合、前記前の極小値から前記極大値の区間を前記「洗浄液つぎ足し」イベントに基づくエッジとして検出し、
前記洗浄液交換時期予測部は、
前記pH値推移から洗浄液の交換時期を予測する機能を有し、
前記「洗浄液つぎ足し」イベントを含まない区間のデータを使用して前記洗浄液の交換 時期を予測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、洗浄液の交換時期を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の洗浄液交換予測分析システムの構成を示すブロック図。
【
図2】
図2は、pHセンサにて計測した洗浄液pH値推移グラフおよび洗浄液の交換時期予測を示す予測線を示す特性図。
【
図3】
図3は、本発明の洗浄液交換予測装置のエッジ検出部におけるエッジ検出の概要を説明する特性図。
【
図4】
図4は、本発明の洗浄液交換予測装置のエッジ検出部におけるエッジ検出処理手順を示すフローチャート。
【
図5】
図5は、本発明の洗浄液交換予測装置の洗浄液交換時期予測部にて洗浄液の交換時期を正しく予測する上で使用するデータ範囲の選択、決定する方法の概要を説明する特性図。
【
図6】
図6は、本発明の洗浄液交換予測装置の洗浄液交換時期予測部における洗浄液交換予測処理手順を示すフローチャート。
【
図7】
図7は、本発明の洗浄液交換予測装置のエッジ検出部におけるエッジ検出の閾値候補を生成するアリゴリズムの概要を説明する図。
【
図8(A)】
図8は、
図7のアリゴリズムの一例を示す図であり、
図8(A)は、差分とエッジ検出と訂正後(正解)の関係を示すテーブル。
【
図8(B)】
図8は、
図7のアリゴリズムの一例を示す図であって、
図8(B)は、差分と訂正後と現在の閾値(現在閾値)と閾値候補の関係を示し、各差分に対する各閾値の正解率を示すテーブル。
【
図9(A)】
図9は、
図7のアリゴリズムの他の例を示す図であり、
図9(A)は、差分とエッジ検出と訂正後(正解)の関係を示すテーブル。
【
図9(B)】
図9は、
図7のアリゴリズムの他の例を示す図であり、
図9(B)は、差分と訂正後と現在閾値と複数の閾値候補の関係を示し、各差分に対する各閾値の正解率を示すテーブル。
【
図10】本発明の洗浄液交換予測装置のエッジ検出部におけるエッジ検出方法の他の例を説明する特性図。
【
図11】本発明の洗浄液交換予測装置のエッジ検出部におけるエッジ検出方法のさらに他の例を説明する特性図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本出願人は、洗浄槽の洗浄液、つまり、板金などの洗浄対象物を何回か洗浄した洗浄槽の使用中の洗浄液に未使用の洗浄液をつぎ足して洗浄効果の劣化を補う洗浄装置において、洗浄槽にpHセンサを取り付け、pHセンサにより計測したセンサデータのpH値推移から洗浄液の交換時期を予測する新しい取り組みを行った。
以下、新しい取り組みの内容について図面を参照して説明する。以下の実施例は、洗浄した洗浄液に未洗浄の洗浄液を所定のタイミングでつぎ足し、例えば、板金などを洗浄槽の洗浄液で洗浄する洗浄装置を前提としている。
以下、その実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の洗浄液交換予測分析システムの構成を示すブロック図である。
【0014】
洗浄液交換予測分析システムは、洗浄装置1、洗浄液交換予測装置2、システム管理装置3を備えている。
【0015】
洗浄装置1は、例えば、板金洗浄の工程において、洗浄槽11の洗浄液12は、経時に伴って変化(劣化)することから適当なタイミングでつぎ足す洗浄液つぎ足し機構13を有する。
【0016】
洗浄液交換予測装置2は、例えば、内部に格納されたプログラムに従って各部の動作を制御する演算装置を含むサーバからなり、pHセンサにて計測した洗浄液pH値推移および洗浄液pH値推移を元に洗浄した洗浄液の交換時期を予測する予測線を求め、予測線を、例えば、システム管理装置3のグラフ表示部32に表示する機能を有する。
【0017】
また、洗浄液交換予測装置2は、洗浄槽11に洗浄液つぎ足し機構13により新しい洗浄液12をつぎ足した場合、洗浄槽11中の洗浄した洗浄液12のpH値が特徴的な変化する区間、つまり、エッジを検出(特徴検出の一種)し、このエッジ検出区間のデータ範囲を除いて、洗浄液の交換時期を予測する機能、および使用者がシステム管理装置3にて、pH値の極大値と極小値の差分によるエッジ検出とともに差分の訂正操作を行ったとき、その操作を受けてエッジ検出を訂正し、新たな閾値を自動的に設定する機能を有する。
【0018】
そのために、pHセンサ21、センサデータ(pH値)収集部22、センサデータ(pH値)保存部23、エッジ検出部25、エッジ検出時刻部24、洗浄液交換時期予測部26、閾値修正部27などを有する。
【0019】
pHセンサ21は、例えば、洗浄装置1の洗浄漕11に取り付けられ、洗浄漕11における洗浄液12のpH(ピーエッチ)の算出と水素イオン濃度([H+])、つまり、洗浄液のpH値を計測する。
【0020】
pH(ピーエッチ)とは、周知のとおり、洗浄液の水素イオン濃度を表す指標のことであり、つまり、洗浄液の液体が酸性なのか、アルカリ性なのかを表す尺度である。
【0021】
センサデータ(pH値)収集部22は、pHセンサ21にて計測した洗浄液12のpH値を含むセンサデータを収集する。
【0022】
センサデータ(pH値)保存部23は、例えば、データベース(DB)からなり、センサデータ(pH値)収集部22にて収集したセンサデータをpH値の履歴データとして記憶する。
【0023】
エッジ検出部25は、センサデータからpH値の特徴部のエッジ検出を行い、つまり、洗浄装置1による「洗浄液つぎ足し」タイミング(洗浄液つぎ足しイベント)を検出する機能を有する。
【0024】
エッジ検出時刻部24は、エッジ検出時の時刻を計測するものである。
【0025】
洗浄液交換時期予測部26は、pH値の履歴データから洗浄液の交換時期を予測する機能を有する。
【0026】
すなわち、エッジ検出部25にてエッジ検出処理を実行により、pH値が急激に上昇する時間帯、つまり、「洗浄液つぎ足し」イベント発生時間をエッジ検出間として取得し、エッジ検出間のデータ、換言すれば、「洗浄液つぎ足し」イベントを除いたデータを使用してpH値推移の予測線を求める。そして、この予測線からpH値が予め設定した閾値を下回る予測時期を求め、これを洗浄液の予測交換時期とする。
閾値修正部27は、例えば、システム管理装置3からエッジの訂正指示を受けたとき、訂正されたエッジ候補の差分から、閾値候補を作成する。
エッジ検出、洗浄液交換予測および閾値訂正の詳細については後述する。
【0027】
システム管理装置3は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)からなり、システム操作部31、グラフ表示部32を含む。
【0028】
システム操作部31はpH値の閾値などを設定するキーボードからなり、グラフ表示部32は洗浄液のpH値を含むセンサデータの推移を示すグラフを表示する。
【0029】
図2は、pHセンサ21にて計測した洗浄液pH値推移線および洗浄液の交換時期予測を示す予測線を示す特性図である。
【0030】
同図において、横軸は、時間(日)を示し、横軸はpH値(7-9)を示している。また、実線はpHセンサ21にて計測したセンサデータのpH値推移線(sensor)を示し、一点鎖線は、洗浄液の交換時期(交換予測日)を示す予測線(predict)を示す。
ここで、pH値推移線が上下(複数の極大、極小)に波打って下降しているのは、洗浄対象物を洗浄槽11の洗浄液が洗浄により撹拌されることに起因するものである。その中でpH値が極端に極小値から極大値に変化する範囲、つまり、時間t8~t9およびt14~t15の範囲は、洗浄槽11に洗浄液12をつぎ足したときの区間であり、「洗浄液つぎ足しイベント」を示す区間である。
【0031】
本出願人は、洗浄液のpH値推移をもとに洗浄液の交換時期を予測する実験を繰り替えし行った結果、洗浄液をつぎ足して洗浄対象物を洗浄する洗浄方法において、「洗浄液つぎ足しイベント」を示す区間におけるデータを含むセンサデータを使用して洗浄液の交換時期を予測した場合、精度の高い交換時期を予測することが期待できないという課題があることを発見した。
【0032】
そこで、本発明では、洗浄液に含まれるpH値に着目し、このpH値を用いて洗浄液の交換時期を予測する。
【0033】
また、洗浄液のpH値推移をもとに洗浄液の交換時期を予測するのみならず、洗浄液をつぎ足して洗浄する場合にあっては、「洗浄液つぎ足しイベント」の区間に着目し、この「洗浄液つぎ足しイベント」の区間におけるpH値が極端に上昇するデータを除いて、換言すれば、「洗浄液つぎ足しイベント」を含まない区間のデータを使用して一点鎖線で示す洗浄液の交換時期を予測するものである。
つまり、この「洗浄液つぎ足しイベント」区間におけるpH値の極小および極大(極値)を求め、極大値と極小値の差分が予め設定した閾値を超えた場合、この「洗浄液つぎ足しイベント」区間の範囲をエッジ部分と判定し、このエッジ検出以降のデータ、例えば、最初のエッジ検出から次のエッジ検出までのデータ、又は最後のエッジ検出からデータ終点までのデータを洗浄液の交換時期の予測に使用するデータとする。
エッジ検出の詳細や閾値については後述する。
【0034】
本例によれば、引用文献1に記載されたような「洗浄液循環手段」を設けることなく、pHセンサを設ける簡単な構成により、洗浄液の交換時期を予測することができる。
また、洗浄液をつぎ足して洗浄する場合にあっても、予測に邪魔となる「洗浄液つぎ足し」イベントの区間におけるデータを除く、他の区間のデータを利用して、洗浄液交換時期の予測を行うことにより、洗浄液交換時期を精度よく予測することができる。
【0035】
図3は、エッジ検出部25におけるエッジ検出の概要を説明する特性図である。
エッジ検出部25は、以下の処理手順でエッジ検出を行う。
【0036】
(1)まず、データ始点(t_start)~データ終点(t_end)間において、pHセンサ21にて計測したpH値を含むセンサデータ(全取得データ)について、極値(P)、つまり、極大値(P3、P5、P7、P9、P11、P13、P15、P17、P19)および極小値(P2、P4、P6、P8、P10、P12、P14、P16、P18)を求める。
(2)次に、それぞれの極大値について、直前の極小値との差分を求める。例えば、極小値P8と極大値P9との差分や極小値P14と極大値P15との差分を求める。
(3)最後に差分が予め設定した閾値を超えたか否かを判定し、差分が閾値を超えた場合、直前の極小値から極大値間をエッジ部分として判定し、検出する。閾値は、例えば、システム管理装置3のシステム操作部31を利用して手動により設定する。この閾値の詳細は、後述する。
【0037】
本例では、時間t8~t9における極小値P8~極大値P9の範囲および時間t14~t15における極小値P14~極大値P15の範囲、つまり、「洗浄液つぎ足し」イベントの区間(範囲)をエッジと判定する。
【0038】
図4は、エッジ検出部25におけるエッジ検出処理手順を示すフローチャートである。
図4のフローチャートに基づく動作は以下のとおりである。
【0039】
ステップS241:
エッジ検出部25は、データの極大値、極小値を全て求める。
【0040】
ステップS242:
エッジ検出部25は、最初の極大値を抽出する。
【0041】
ステップS243:
エッジ検出部25は、最初の極大値と一つ前(直前)の極小値との差分を計算する。
【0042】
ステップS244:
エッジ検出部25は、ステップS243における差分が閾値以上か否かを判定し、差分が閾値以上である場合(Yes)、ステップS245に進み、差分が閾値以上でない場合(No)、ステップS246に進む。
【0043】
ステップS245:
エッジ検出部25は、差分が閾値以上である場合(Yes)、前(直前)の極小値~最大値の時間をエッジと判定し、ステップS246に進む。
また、ここでは、閾値をエッジ判定に用いているが、本願はこれに限定しない。任意の極大値(2n+1)の値が、直前の極大値(2n-1)の値よりも大きい場合にエッジ検出と判断するようにしてもよい。
【0044】
ステップS246:
エッジ検出部25は、次の極大値があるか否かを判定し、ある場合(Yes)は、ステップS247に進み、ない場合(No)は、処理を終了する。
【0045】
ステップS247:
エッジ検出部25は、次の極大値について、ステップS243~ステップS247を繰り返す。
【0046】
図5は、洗浄液交換時期予測部26にて洗浄液の交換時期を正しく予測する上で使用するデータ範囲の選択、決定する方法の概要を説明する特性図である。
【0047】
洗浄液交換時期予測部26は、以下の処理手順で洗浄液の交換時期予測に使用するデータ範囲を決定する。
【0048】
(1)まず、予測に必要な最低時間、例えば、一週間程度を定義する。この最低時間は、手動にて設定する。例えば、システム管理装置3のシステム操作部31を利用して予め設定する。以下、この値をkとする。
(2)そして、現在時刻に最も近いエッジ検出~データ終点までの時間(t15~t_end)がkより大きい場合(t_end-t15>k)は、現在時刻に最も近いエッジ検出~データ終点までの時間(t15~t_end)におけるpH値のデータ範囲を洗浄液の交換時期を予測用として選択し、使用する。
(3)現在時刻に最も近いエッジ検出~データ終点までの時間(t15~t_end)がkより小さい場合(t_end-t15<k)は、一つ前のエッジ検出間の時間(t9~t14)におけるデータ範囲を洗浄液の交換時期を予測用として選択し、使用する。なお、時間(t9~t14)もkより小さい場合(t14-t9<k)は、その一つ前の時間(t_start~t8)におけるpH値のデータ範囲を洗浄液の交換時期を予測用として選択し、使用する。
【0049】
図6は、洗浄液交換時期予測部26における洗浄液交換予測処理手順を示すフローチャートである。
図6のフローチャートに基づく動作は以下のとおりである。
【0050】
ステップS220:
まず、センサデータ(pH値)収集部にて、センサデータから洗浄液の交換時期予測に使用するpH値データを取得する。
【0051】
ステップS240:
次に、エッジ検出部にて、取得したpH値データに対してエッジ検出処理を実行する。
【0052】
ステップS261~S267:
洗浄液交換時期予測部26は、以下の洗浄液交換予測処理を実行する。
【0053】
ステップS261:
洗浄液交換時期予測部26は、最後のエッジ検出~データ終点までの時間が洗浄液の交換時期予測に必要な最低時間以上か否かを判定する。
ここで、最低時間以上の場合(Yes)は、ステップS262に進み、最低時間以上でない場合(No)は、ステップS263に進む。
【0054】
ステップS262:
洗浄液交換時期予測部26は、「最後のエッジ検出~データ終点」間のデータ(pH値)を予測に使用するデータとし、ステップS266に進む。
【0055】
ステップS263:
洗浄液交換時期予測部26は、ステップS261から進んできた場合、「最後のエッジ検出~データ終点」間のデータの一つ前のエッジ-エッジ間のデータを予測に使う候補データとする。ステップS264から戻ってきた場合、現在の候補データの一つ前のエッジ-エッジ間のデータを予測に使う候補データとする。
【0056】
ステップS264:
洗浄液交換時期予測部26は、ステップS263における候補データの時間(エッジ-エッジ間の時間)が予想に必要な最低時間以上か否かを判定する。
ここで、候補データの時間(エッジ-エッジ間の時間)が予想に必要な最低時間以上でない場合(No)は、ステップS263に戻り、候補データの時間(エッジ-エッジ間の時間)が予想に必要な最低時間以上の場合(Yes)は、ステップS265に進む。
【0057】
ステップS265:
ステップS263における候補データを予測に使うデータとし、ステップS266に進む。
【0058】
ステップS266:
洗浄液交換時期予測部26は、ステップS262またはステップS265にて選択した予測に使うデータから洗浄液の交換時期を予測する予測線を計算する。
【0059】
ステップS267:
洗浄液交換時期予測部26は、ステップS266にて計算した予測線におけるpH値が予め設定した閾値に到達する時間を洗浄液の交換時期(交換予測日)とする。
【0060】
上述した処理手順で正しくエッジ検出を行うためには、エッジ検出時の閾値を適切に設定する必要がある。この閾値は、使用環境によって変化する。このため、使用者が適切な閾値を設定するのは難しい。
【0061】
そこで、本発明では、洗浄液交換予測分析システムに使用者がエッジの検出誤差を手動で訂正できる機能を有するシステム管理装置3を設け、使用者がエッジ検出誤差を訂正したとき、洗浄液交換予測分析システムが訂正されたデータ範囲をエッジと検出しないようにするため、エッジ検出のための閾値を新たに決定する。以下、詳細について説明する。
【実施例2】
【0062】
図7は、エッジ検出の閾値候補を生成するアリゴリズムの概要を説明する図であり、差分とエッジ検出と訂正(エッジ訂正)後とを生成する閾値候補の関係を示すテーブルである。
【0063】
同図において、差分は、「エッジ候補の極大値-極小値の差分」(D1~D4)を示し、エッジ検出および訂正後は、各エッジ候補について、エッジと判定した場合を○、エッジでないと判定した場合を×にて表記する。
【0064】
閾値候補は、システム管理装置3からの訂正指示を受け、閾値修正部27にて、エッジ訂正があった場合、訂正されたエッジ候補の差分(D2、D3)から、2つの閾値候補(D2-ε、D3+ε)を作成し生成する。例えば、差分D2のように×を○に訂正した場合は、閾値候補「D2-ε」、つまり、「D2-ε」を生成し、差分D3のように○を×に訂正した場合は、閾値候補「差分+ε」、つまり、「D3+ε」を生成する。εは、予め設定した値であり、差分より小さく、例えば、予め小さな値(0.005)を設定しておく。
【0065】
新閾値の選択は、現在閾値および各閾値候補(「D2-ε」、「D3+ε」)でエッジ検出の正解率を計算し、最も正解率の高い物を新閾値とする。
ここで、正解率は、訂正後のエッジ判定が正解データとし、エッジ判定(○×)の一致率とする。具体例については後述する。
【0066】
図8は、
図7のアリゴリズムの一例を示す図であり、
図8(A)は、差分とエッジ検出と訂正後(正解)の関係を示すテーブル、
図8(B)は、差分と訂正後と現在の閾値(現在閾値)と閾値候補の関係を示し、各差分に対する各閾値の正解率を示すテーブルである。
【0067】
同図において、現在閾値=0.20、ε=0.005とし、以下の手順で新閾値を選択し、設定する。本例では、現在閾値を0.20としているが、この現在閾値は、例えば、洗浄液12を撹拌したとき、pH値が普通に波打つ極小値―極大値の差分を基準に設定する。pH値が波打つ極小値―極大値の差分は、洗浄時の条件により変化するので、その変化に応じて設定すればよく、0.20に限定する必要はない。
【0068】
(1)差分が0.21のとき、訂正が発生している。訂正は、○から×への訂正である(
図8A参照)。
(2)このため、まず、この訂正時における閾値候補を閾値候補=差分+εに基づいて求める。つまり、閾値候補=0.21+0.005=0.215を生成する(
図8B参照)。
(3)次に、現在閾値と閾値候補とそれぞれの閾値の○×の正解率を計算する。訂正後のデータを正解データとする。つまり、現在閾値および閾値候補の正解率は、訂正後データとの一致率とする。とすると、
(4)現在閾値の正解率は、訂正後の×と現在閾値の×および訂正後の○と現在閾値の○とが一致しており、2/3となり、閾値候補の正解率は、閾値候補の×と訂正後の×、閾値候補の○と訂正後の○(2か所)とが一致しており、3/3となる。
(5)次いで、2つの閾値候補の中で最も高い閾値候補0.215を新閾値として選択し、設定する。
【0069】
図9は、
図7のアリゴリズムの他の例を示す図であり、
図9(A)は、差分とエッジ検出と訂正後(正解)の関係を示すテーブル、
図9(B)は、差分と訂正後と現在閾値と複数の閾値候補の関係を示し、各差分に対する各閾値の正解率を示すテーブルである。
【0070】
同図において、現在の閾値=0.20、ε=0.005とし、以下の手順で新閾値を選択し、設定する。
【0071】
(1)差分が0.18と0.19のとき、訂正が発生している。訂正は、いずれも×から○への訂正である(
図9(B)参照)。
(2)このため、まず、この訂正時における閾値候補を閾値候補=差分-εに基づいて求める。つまり、差分0.18の訂正による閾値候補=0.18-0.005=0.175を生成し、また、0.19の訂正による閾値候補=0.19-0.005=0.185を生成する。
(3)現在閾値と閾値候補とそれぞれの閾値の○×の正解率を計算する。訂正後のデータを正解データとする。つまり、正解率は、訂正後データとの一致率とする(
図9B参照)。とすると、
(4)訂正後の×と現在閾値の×および訂正後の○と現在閾値の○とが一致しており、現在閾値の正解率は、2/4となり、閾値候補0.175の正解率は閾値候補の×と訂正後の×、閾値候補の○と訂正後の○(3か所)とが一致しており、閾値候補の正解率は、4/4となり、閾値候補0.185の正解率は閾値候補の×と訂正後の×、閾値候補の○と訂正後の○(2か所)とが一致しており、閾値候補の正解率は、3/4となる。
(5)3つの閾値候補の中で最も高い閾値候補0.175を新閾値として選択し、設定する。
【0072】
以上述べた実施例によれば、使用者がエッジの誤検出を手動で訂正できる機能を有する手段(システム管理者装置3)を洗浄液交換予測分析システムに追加することにより、使用者は、閾値の設定について考慮することなく、最初にエッジ検出の正誤を判定するだけで、システム側で適切な閾値が自動的に設定することができる。
2回目以降は適切な閾値が設定された状態のため、エッジ検出の正誤判定も必要なくなる。
【実施例3】
【0073】
図10は、エッジ検出部25におけるエッジ検出方法の他の例を説明する特性図である。
【0074】
同図において、エッジ検出の極大値の時間から一定時間後のpH値が前の極小値よりも大きい場合は、極小値~極大値のpH値をエッジと判定する。
このとき、洗浄液のつぎ足し以外の変化であれば、pH値の上昇があっても一定時間後にpH値の推移は元に戻る。一定時間が経ってもpH値が高いまま、つまり、前の極小値以下にならない場合ならば、洗浄液のつぎ足しがあったと考えることができる。
【0075】
例えば、一定時間=aとすると、時間t9における極大値P9からa後の時間t9+aにおけるpH値P9’>t8の時間t8の極小値P8である場合、時間t8~t9の間をエッジと検出する。時間t14~t15の間も同様にエッジと検出する。
【実施例4】
【0076】
図11は、エッジ検出部25におけるエッジ検出方法のさらに他の例を説明する特性図である。
【0077】
同図において、ある極大値が前の極大値より大きい場合、極小値~極大値の間をエッジと判定する。
このとき、pH値の推移は下降しているため、通常は極大値よりも徐々に下降する。そのため、前の極大値より大きくなったならば、洗浄液のつぎ足しによるpH値の上昇があったと考えることができる。
【0078】
例えば、時間t9における極大値P9について、その一つ前(時間t7)の極大値P7より大きいので、時間t8(一つ前の極小値P8)~時間t9をエッジと判定する。時間t14~時間t15も同様にエッジと判定する。
【0079】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、上述した「洗浄液つぎ足しイベント」を必要とする洗浄方法を前提とした実施例では、「エッジ検出部」を必須要件となるが、「洗浄液つぎ足しイベント」を必要としない洗浄法では、この要件を省略してもよい。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0080】
1 洗浄装置
11 洗浄槽
12 洗浄液
13 洗浄液つぎ足し機構
2 洗浄液交換予測装置
21 pHセンサ
22 センサデータ収集部
23 センサデータ(pH値)保存部
24 エッジ検出時刻部
25 エッジ検出部
26 洗浄液交換時期予測部
27 閾値修正部
3 システム管理装置
31 システム操作部
32 グラフ表示部