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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】脳血流量の特徴量の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20220928BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61B10/00 E ZDM
A61B10/00 H
A61B5/1455
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019029663
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020130724
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【弁理士】
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】四方田 聡
(72)【発明者】
【氏名】中村 伸
(72)【発明者】
【氏名】知野見 健太
(72)【発明者】
【氏名】秋永 伸幸
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/165602(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009420(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/008773(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/398
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
健常者の群と認知機能障害者の群とを含む被験者に脳活動を誘発する課題を与えるステップと、
前記被験者に前記課題を与えた際に前記被験者の計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップと、
前記脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップと、
前記課題、前記計測部位および前記特徴量の組に対する、前記健常者の群と前記認知機能障害者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値を算出するステップと、
前記課題、前記計測部位および前記特徴量の組と、算出された前記指標値とを関連付けたデータを複数取得するステップと、
算出された前記指標値に基づいて、前記複数のデータのうち、前記被験者が前記健常者であるか前記認知機能障害者であるかを判別するための有効性が高い順に前記複数のデータの組み合わせを取得するステップと、
取得された前記複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に表示するステップと、を備える、脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項2】
表示された前記複数のデータの組み合わせに対して、前記データの数が異なる複数のモデルを作成するとともに、作成された前記複数のモデルそれぞれの正答率に基づいて、前記被験者が前記健常者であるか前記認知機能障害者であるかを判別するために必要な前記データの数を取得するステップをさらに備える、請求項1に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項3】
前記データの数を取得するステップは、前記複数のデータの数が異なる複数の回帰モデルを作成するとともに、作成された前記複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて、前記被験者が前記健常者であるか前記認知機能障害者であるかを判別するために必要な前記データの数を取得するステップを含む、請求項2に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項4】
前記データの数を取得するステップは、前記正答率が所定のしきい値以上となる、前記データの数を取得するステップを含む、請求項2または3に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項5】
前記有効性が高い順に、前記指標値が関連付けられた前記複数のデータを並べ替えるステップをさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項6】
前記脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、前記脳血流量の変化の平均値を取得する期間を異ならせて、前記課題が行われている期間に含まれる所定の期間中の前記脳血流量の変化の平均値、および、前記課題が行われていない期間に含まれる所定の期間中の前記脳血流量の変化の平均値に基づいて取得した、複数種類の前記脳血流量の変化の平均値の少なくともいずれか1つを前記脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項7】
前記脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、前記課題が行われている期間中の、前記脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心、または、前記脳血流量の変化を示す曲線における傾きの最大値の少なくともいずれか1つを前記脳血流量の変化に関する特徴量として取得するステップを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項8】
前記課題を与えるステップは、同一の前記課題において難易度が異なる複数の前記課題を与えるステップを含み、
前記脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、互いに難易度が異なる複数の前記課題が行われている期間同士の前記脳血流量の平均値の差分または比を前記特徴量として取得するステップを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項9】
前記課題を与えるステップは、前記被験者に対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくともいずれか1つを前記課題として前記被験者に与えるステップを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項10】
前記脳血流量の変化を測定するステップは、前記脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、前記酸素化ヘモグロビン量および前記脱酸素化ヘモグロビン量の総量である総ヘモグロビン量の変化の少なくともいずれか1つを測定するステップを含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項11】
前記計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップは、国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4のうちの少なくとも1つを含んだ範囲に設定された前記計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【請求項12】
前記計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップは、近赤外分光法により、前記計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の脳血流量の特徴量の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳血流量の特徴量の抽出方法に関し、特に、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップを備える脳血流量の特徴量の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップを備える脳活動特徴量の抽出方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、近赤外分光法を用いて、認知課題実行中の被験者の脳血流データを計測する認知機能障害判別装置が開示されている。上記特許文献1の認知機能障害判別装置では、被験者に対して様々な認知課題を与えて、機能的近赤外分光法(fNIRS)によって複数の測定部位を計測した脳血流データに対して複数の特徴量の抽出を行い、抽出された特徴量と予め構築しておいた認知機能障害の判定に用いるモデルとにより、被験者の認知機能の判別を行うように構成されている。
【0004】
上記特許文献1の認知機能障害判別装置では、認知機能に障害があるかどうかが既知である被験者に対して、認知課題実行中の脳血流データの特徴量を取得し、取得された特徴量に基づいて認知機能障害の判定に用いるモデルが構築される。上記特許文献1の認知機能障害判別装置では、認知機能障害の判定に用いるモデルを構築する際に、逐次選択法により、健常者の群と非健常者(認知機能障害者)の群とを区別するための判断基準に有用な特徴量が選択されている。なお、逐次選択法の特徴選択基準としては、各2群(健常者の群と非健常者の群)の推定正答率の平均値が用いられている。そして、上記特許文献1では、健常者の群と非健常者(認知機能障害者)の群との弁別を行うための特徴量(判断基準)として、7つの測定部位を含む前頭全野の右側の領域における特徴量と、5つの測定部位を含む左側頭葉の後方の領域における特徴量との合計12つの特徴量が選択されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2012/165602号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の認知機能障害判別装置では、健常者の群と非健常者の群とを区別するための判断基準に有用な特徴量が、一定の規則に従って特徴量を選択する逐次選択法により選択されているため、選択された特徴量が比較的限定されてしまう場合があると考えられる。このため、健常者の群と認知機能障害者の群とを弁別するための有用な特徴量(判断基準)の抽出漏れに起因して、被験者が健常者であるか非健常者であるかを適切に判別することができない場合があるという問題点が考えられる。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、有用な判断基準の抽出漏れに起因して、被験者が健常者であるか非健常者であるかを適切に判別することができなくなるのを抑制することが可能な脳血流量の特徴量の抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面における脳血流量の特徴量の抽出方法は、健常者の群と認知機能障害者の群とを含む被験者に脳活動を誘発する課題を与えるステップと、被験者に課題を与えた際に被験者の計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップと、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップと、課題、計測部位および特徴量の組に対する、健常者の群と認知機能障害者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値を算出するステップと、課題、計測部位および特徴量の組と、算出された指標値とを関連付けたデータを複数取得するステップと、算出された指標値に基づいて、複数のデータのうち、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するための有効性が高い順に複数のデータの組み合わせを取得するステップと、取得された複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に表示するステップと、を備える。
【0009】
この発明の一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法は、上記のように、健常者の群と認知機能障害者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値に基づいて、指標値と関連付けた複数のデータのうち、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するための有効性が高い順に複数のデータの組み合わせを取得するステップと、取得された複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に表示するステップと、を備える。これにより、指標値と関連付けられた複数のデータが、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するための有効性が高い順に表示されるので、有効性が高い指標値が関連付けられた複数のデータを容易に把握することができる。その結果、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するのに有用な特徴量(判断基準)の抽出漏れが生じるのを抑制することができるので、有用な判断基準の抽出漏れに起因して、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを適切に判別することができなくなるのを抑制することができる。
【0010】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、表示された複数のデータの組み合わせに対して、データの数が異なる複数のモデルを作成するとともに、作成された複数のモデルそれぞれの正答率に基づいて、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を取得するステップをさらに備える。このように構成すれば、データの数が異なる複数のモデルの正答率に基づいて被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために(取得および表示が)必要なデータの数を容易に把握することができる。
【0011】
上記被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する構成において、好ましくは、データの数を取得するステップは、複数のデータの数が異なる複数の回帰モデルを作成するとともに、作成された複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を取得するステップを含む。このように構成すれば、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて容易に取得することができる。
【0012】
上記被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する構成において、好ましくは、データの数を取得するステップは、正答率が所定のしきい値以上となる、データの数を取得するステップを含む。このように構成すれば、所定のしきい値に基づいて、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するために必要なデータの数を容易に判定することができる。
【0013】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、有効性が高い順に、指標値が関連付けられた複数のデータを並べ替えるステップをさらに備える。このように構成すれば、取得された複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に容易に表示することができる。
【0014】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、脳血流量の変化の平均値を取得する期間を異ならせて、課題が行われている期間に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値、および、課題が行われていない期間に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値に基づいて取得した、複数種類の脳血流量の変化の平均値の少なくともいずれか1つを脳血流量の変化に関する特徴量として取得するステップを含む。このように構成すれば、複数種類の脳血流量の変化の平均値のいずれかから脳血流量の変化に関する特徴量を取得することができるので、健常者の群と認知機能障害者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するためにより十分な数の判断基準を取得することができる。
【0015】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、課題が行われている期間中の、脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心、または、脳血流量の変化を示す曲線における傾きの最大値の少なくともいずれか1つを脳血流量の変化に関する特徴量として取得するステップを含む。このように構成すれば、たとえば、ある期間における脳血流量の変化の平均値が同じであっても、面積重心または傾きの最大値が異なる場合があるので、脳血流量の変化に関する特徴量として、面積重心または傾きの最大値の少なくともいずれか1つを含むことによって、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを精密に判別することができる。
【0016】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、課題を与えるステップは、同一の課題において難易度が異なる複数の課題を与えるステップを含み、脳血流量の変化に関する特徴量を取得するステップは、互いに難易度が異なる複数の課題が行われている期間同士の脳血流量の平均値の差分または比を特徴量として取得するステップを含む。ここで、認知課題実行時の脳血流データの計測においては、被験者ごとに課題への慣れや、経験、教育レベルなどのバイアスがかかる。したがって、被験者に対して、共通した一定難易度の認知課題を実行することは、ある被験者にとっては簡単すぎるため脳活動が検出されず、ある被験者にとっては難しすぎるため課題の実行をあきらめてしまう場合がある。そこで、上記のように構成することによって、被験者に応じた難易度の課題による脳活動の変化を測定することができるので、被験者の認知課題に対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することができる。
【0017】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、課題を与えるステップは、被験者に対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知の少なくともいずれか1つを課題として被験者に与えるステップを含む。このように構成すれば、被験者に脳活動を誘発する複数種類の課題を与えることができるので、健常者の群と認知機能障害者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するためにさらに十分な数の判断基準を取得することができる。
【0018】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、脳血流量の変化を測定するステップは、脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、酸素化ヘモグロビン量および脱酸素化ヘモグロビン量の総量である総ヘモグロビン量の変化の少なくともいずれか1つを測定するステップを含む。このように構成すれば、被験者の脳血流量の変化を複数種類の指標により取得することができるので、健常者の群と認知機能障害者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者が健常者であるか認知機能障害者であるかを判別するためにさらに十分な数の判断基準を取得することができる。なお、酸素化ヘモグロビン量は、課題に対して比較的敏感に反応する一方、被験者の体動など、課題以外の要因によっても敏感に反応してしまい、測定結果にノイズが含まれる場合がある。一方、脱酸素化ヘモグロビン量は、被験者の体動などには鈍感(脳活動部位の局在性に対して精度がある)であるので、脳血流量の変化の指標として脱酸素化ヘモグロビン量を用いることによって、ノイズが比較的少ない測定の結果を得ることができる。
【0019】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップは、国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4のうちの少なくとも1つを含んだ範囲に設定された計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップを含む。このように構成すれば、一般的に脳波を計測する際に使用される範囲(全頭連合野、運動野、間隔野)の脳血流量の変化を測定することができるので、課題に対する脳血流量の変化を適切に測定することができる。
【0020】
上記一の局面による脳血流量の特徴量の抽出方法において、好ましくは、計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップは、近赤外分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)により、計測部位毎の脳血流量の変化を測定するステップを含む。このように構成すれば、NIRS装置を用いて被験者の脳血流量の変化を測定することができる。その結果、NIRS装置は、非侵襲であり、磁気共鳴画像(Magnetic Resonances Imaging:MRI)などと比較した場合、大掛かりな設備を必要としないので、被験者の脳血流量の変化を簡便に測定することができる。なお、NIRS装置は、被験者の頭部に装着され、近赤外光により、被験者の脳血管中のヘモグロビン量の変化を測定することにより、脳血流量の変化を測定する装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、上記のように、有用な判断基準の抽出漏れに起因して、被験者が健常者であるか非健常者であるかを適切に判別することができなくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態による脳活動特徴量の抽出方法を実施するための脳活動計測システムの全体構成を説明するための図である。
図2】本発明の一実施形態による脳活動を測定する際の測定部位を示した模式図である。
図3】国際10-20法の測定部位を説明するための模式図である。
図4】本発明の一実施形態によるタスク期間とレスト期間のタイミングチャートおよびタスクの強度の時間変化を示すグラフである。
図5】(a)は、本発明の一実施形態による脳活動特徴量の抽出方法における特徴量(タスク-レスト間の平均値差)を説明するための図である。(b)は、本発明の一実施形態による脳活動特徴量の抽出方法における別の特徴量(面積重心)を説明するための図である。(c)は、本発明の一実施形態による脳活動特徴量の抽出方法におけるさらに別の特徴量(波形傾き)を説明するための図である。
図6】課題、計測部位および特徴量と、課題、計測部位および特徴量の組に対する健常者の群と非健常者の群とを区別するための指標値と、を関連付けた複数のデータを説明するための図である。
図7】被験者が健常者であるか非健常者であるかを判別するための試行およびその正答率を説明するための図である。
図8】被験者が健常者であるか非健常者であるかを判別するための複数のデータの組み合わせを取得するフローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
まず、図1図3を参照して、本発明の一実施形態による脳活動特徴量の抽出方法を実施するための脳活動計測システム100の構成について説明する。
【0025】
(脳活動計測システムの構成)
図1に示すように、脳活動計測システム100は、脳活動計測装置1と、データ処理装置2と、表示装置3と、を備えている。
【0026】
脳活動計測装置1は、近赤外分光法(NIRS)を用いて被験者Pの脳活動を光学的に計測し、時系列の計測結果データを生成する装置(光計測装置)である。具体的には、脳活動計測装置1は、NIRS装置である。脳活動計測装置1は、近赤外光の波長領域の計測光を被験者Pの頭部表面上に配置した送光プローブ(図示せず)から照射する。そして、頭部内で反射した計測光を頭部表面上に配置した受光プローブ(図示せず)に入射させて検出することにより、計測光の強度(受光量)を取得する。送光プローブおよび受光プローブは、それぞれ複数設けられ、頭部表面上の所定位置に各プローブを固定するためのホルダ4に取り付けられる。本実施形態では、脳活動計測装置1は、脳血流量の変化の指標として、複数波長(たとえば、780nm、805nmおよび830nmの3波長)の計測光の強度(受光量)とヘモグロビンの吸光特性とに基づいて、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビンおよび総ヘモグロビンの変化量を計測する。
【0027】
データ処理装置2は、脳活動計測装置1から送られた計測データの統計処理を行う。すなわち、データ処理装置2は、被験者Pの認知機能の程度を判定するための統計データを算出するように構成されている。データ処理装置2は、CPU、メモリおよびハードディスクドライブなどを備えたPC(パーソナルコンピュータ)により構成されている。
【0028】
表示装置3は、被験者Pに実行させるためのタスク(図4参照)を表示するように構成されている。表示装置3は、液晶ディスプレイなどのモニタである。なお、タスクは、特許請求の範囲の「課題」の一例である。
【0029】
図2は、脳活動計測装置1によって被験者Pの脳の血流量を測定する際の計測部位を示している。また、図3は、国際10-20法における計測部位を示した図である。脳活動計測装置1では、被験者Pの脳活動の測定データを取得する際の計測部位は、図3に示す国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4を含んだ範囲に設定されている。具体的には、国際10-20法の、F3、F4、P3、P4のいずれかを含んだ範囲として、図2に示すような54チャンネルを計測部位に設定する。その際、関心領域(ROI)として、ROI1~ROI5を設定する。
【0030】
(脳活動特徴量の抽出方法)
次に、図4図7を参照して、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための複数のデータの組み合わせおよび数を取得する本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法について説明する。
【0031】
図4に示すように、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、健常者の群と非健常者の群とを含む被験者Pに脳活動を誘発するタスクが与えられる(図8のステップS1参照)を備える。具体的には、図4のタイミングチャートに示すように、タスクを与える際には、被験者Pに複数回のタスクが与えられる。また、被験者Pに複数回のタスクを与える場合には、被験者Pにタスクを与える際のタスク期間31と、被験者Pにタスクを与えないレスト期間32とが交互に繰り返される。タスク期間31は、たとえば、15秒間である。また、レスト期間32は、たとえば、30秒間である。レスト期間32では、被験者Pに無意味な言葉を発音させることにより、被験者Pの脳血流量の変化を測定する際のベースラインを構築する。レスト期間32に被験者Pに発音させる無意味な言葉としては、たとえば、「あ、い、う、え、お」である。なお、図4では、タスクが4回繰り返される例を示している。
【0032】
なお、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、タスクを与える際(図8に示すステップS1参照)は、被験者Pに対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知をタスクとして被験者Pに与える。具体的には、被験者Pに与えるタスクを感覚刺激とする場合、被験者Pの感覚器に感覚刺激を与える。たとえば、被験者Pの手のひらに保冷剤を当てることよって、被験者Pに冷感覚刺激を与える。また、被験者Pに与えるタスクを計算とする場合、被験者Pに計算問題を与える。たとえば、計算問題として、認知症の診断用のミニメンタルステート検査(MMSE)で用いられているシリアルセブン(100-7)を用いる。なお、シリアルセブン(100-7)は、100から7を連続で引く問題である。また、被験者Pに与えるタスクを記憶および想像とする場合、脳活動特徴量の抽出方法を実施する実験者が被験者Pの手に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てる問題を与える。類似する文字は、たとえば、「ス」、「マ」、「ヌ」である。また、被験者Pに与えるタスクを空間認知とする場合、表示装置3に風景写真を表示させ、被験者Pに、風景写真に描かれた建物が模式図として示された地図を渡して、風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを番号で回答させる問題を与える。
【0033】
また、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、タスクを与える際(図8に示すステップS1参照)は、同一のタスクにおいて難易度が異なる複数のタスクを与える。具体的には、図4のタイミングチャートに示すように、3回目および4回目のタスクの難易度が、1回目および2回目のタスクの難易度よりも高くなるように被験者Pに対してタスクを与える。たとえば、被験者Pに計算問題を与える場合、1回目および2回目のタスクでは、100から7を連続で引く問題を被験者Pに対して与え、3回目および4回目のタスクでは、100から7を連続で引く問題よりも難易度の高い100から3を連続で引く問題を被験者Pに対して与える。なお、偶数の引き算と奇数の引き算とでは、奇数の引き算の方が難易度が高い。また、実験者が被験者Pの手に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てる問題を与える場合、1回目および2回目のタスクでは、被験者Pの手に書く文字を1文字とし、3回目および4回目のタスクでは、被験者Pの手に書く文字を2文字とする。また、表示装置3に風景写真を表示させ、被験者Pに、風景写真に描かれた建物が模式図として示された地図を渡して、風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを番号で回答させる問題を与える場合、たとえば、3回目および4回目のタスクでは、1回目および2回目のタスクよりも道路や建物の数を増やすことなどによってタスクの難易度を高くする。
【0034】
また、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、被験者Pにタスクを与えた際に被験者Pの計測部位毎の脳血流量の変化が測定される(図8に示すステップS2参照)。詳細には、脳血流量の変化を測定する際、脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、酸素化ヘモグロビン量および脱酸素化ヘモグロビン量の総量である総ヘモグロビン量の変化が測定される。また、図2および図3に示すように、脳血流量の変化を測定する際、国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4を含んだ範囲に設定された計測部位毎の脳血流量の変化が測定される。また、脳血流量の変化を測定する際、上記のように近赤外分光法(NIRS)により、計測部位毎の脳血流量の変化が測定される。
【0035】
また、図5に示すように、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、脳血流量の変化に関する特徴量が取得される(図8のステップS3参照)。詳細には、図5(a)に示すように、脳血流量の変化に関する特徴量を取得する際、脳血流量の変化の平均値を取得する期間を異ならせて、タスク期間31に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値、および、レスト期間32に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値に基づいて取得した複数種類の脳血流量の変化の平均値が、脳血流量の変化に関する特徴量として取得される。また、図5(b)および図5(c)に示すように、脳血流量の変化に関する特徴量を取得する際、タスク期間31中の、脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心(図5(b)参照)、および、脳血流量の変化を示す曲線における傾きの最大値(図5(c)参照)が、脳血流量の変化に関する特徴量として取得される。
【0036】
具体的には、図5(a)に示すように、脳血流量の変化に関する特徴量として、特徴量1~5が取得される。特徴量1は、タスク期間31(図4参照)全体の脳血流量の変化の平均値と、タスク期間31の直前のレスト期間32(図4参照)全体の脳血流量の変化の平均値との差分である。特徴量2は、タスク期間31全体の脳血流量の変化の平均値と、タスク期間31の直前のレスト期間32全体の脳血流量の変化の平均値およびタスク期間31の直後のレスト期間32全体の脳血流量の変化の平均値を平均した値との差分である。特徴量3は、タスク期間31の後半における脳血流量の変化の平均値と、タスク期間31の直前のレスト期間32の後半における脳血流量の変化の平均値との差分である。特徴量4は、タスク期間31の後半における脳血流量の変化の平均値と、タスク期間31の直前のレスト期間32の後半における脳血流量の変化の平均値およびタスク期間31の直後のレスト期間32の後半における脳血流量の変化の平均値を平均した値との差分である。特徴量5は、タスク期間31の前半における脳血流量の変化の平均値と、タスク期間31の直前のレスト期間32の後半における脳血流量の変化の平均値との差分である。すなわち、特徴量5は、被験者Pにタスクを与えた直後の(立ち上がりの)脳血流量の変化である。
【0037】
また、図5(b)および図(c)に示すように、脳血流量の変化に関する特徴量として、それぞれ、特徴量11および特徴量21が取得される。特徴量11は、タスク期間31(図4参照)において、脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心の位置を含むタスク期間31における相対位置(重心点f)を示している。なお、特徴量11は、所定期間における脳血流量の変化の平均値に基づく特徴量1~5と異なり、脳血流量の絶対値の影響を受けにくいので、被験者Pや計測部位の差異により異なる計測時の光路長の影響を受けにくい。特徴量21は、タスク期間31において、脳血流量の変化を示す曲線のタスク期間31開始後10秒までの間において傾きが最大となる場合の傾きである。
【0038】
また、図6に示すように、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、タスク、計測部位および特徴量の組に対する、健常者の群と非健常者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値が算出される(図8のステップS4参照)。具体的には、複数の被験者Pを、認知機能健常者(以下、NDCという)のグループと、軽度認知機能障害者(以下、MCIという)のグループとに分ける。そして、課題、計測部位および特徴量の組み合わせが異なる複数の条件において、NDCとMCIとを区別することができたか否かの指標となる指標値を算出する。指標値の算出は、Mann-WhitneyのU検定における有意差(p値)、および、感度・特異度の指標となるYouden-Indexを用いて行う。なお、p値およびYouden-Indexは、特許請求の範囲の「指標値」の一例である。
【0039】
なお、図6の表において、p-value、Task、ChannelおよびSignalは、それぞれ、p値、タスクの種類、計測部位、脳血流量の変化の指標となる信号の種類を示している。Taskにおいて、Reikan、Keisan、SumanuおよびKuukanは、それぞれ、被験者Pに冷感覚刺激を与えるタスク、被験者Pに計算問題を与えるタスク、被験者Pに形が類似している文字を当てる問題を与えるタスク、および、被験者Pに風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを回答させる問題を与えるタスクを示している。Signalにおいて、Oxyhb、DeoxyhbおよびTotalhbは、それぞれ、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、総ヘモグロビン量の変化を示している。なお、Oxyhbは、(ダイナミックレンジが高く)タスクに対して比較的敏感に反応する一方、被験者Pの体動など、タスク以外の要因によっても敏感に反応してしまい、測定結果にノイズが含まれる場合がある。一方、Deoxyhbは、被験者Pの体動などには鈍感である(脳活動部位の局在性に対して精度がある)ので、脳血流量の変化の指標としてDeoxyhbを用いることによって、ノイズが比較的少ない測定の結果を得ることができる。
【0040】
また、図6の表において、Feature_type、Feature_combiおよびTrialは、それぞれ、特徴量の種類、特徴量の組み合わせ、および、特徴量を算出するタスクを示している。Feature_typeにおいて、Feature1、Feature2、Feature3、Feature4、Feature5、Feature11およびFeature21は、それぞれ、特徴量1、特徴量2、特徴量3、特徴量4、特徴量5、特徴量11および特徴量21を示している。Feature_combiは、タスクの試行の組み合わせを表している。たとえば、図6の最上段に記載されたデータにおける、「Trial-3」は、タスク「Sumanu」が複数回(たとえば、4回)試行された際の、3回目の試行の際の測定結果を特徴量としている。この場合、1回の試行の測定結果のみが特徴量とされているので、「Feature_combi」は、「Single」とされる。また、図6の上から2番目に記載されたデータにおける、「Trial-2×4」は、タスク「Reikan」が複数回(たとえば、4回)試行された際の、2回目と4回目の試行の際の各々の測定結果の差分を特徴量としている。この場合、2回の試行の測定結果が差分されているので、「Feature_combi」は、「Diff」とされる。また、図6の上から14番目に記載されたデータにおける、「Trial-3×4」は、タスク「Reikan」が複数回(たとえば、4回)試行された際の、3回目と4回目の試行の際の各々の測定結果の比を特徴量としている。この場合、2回の試行の測定結果の比が用いられているので、「Feature_combi」は、「Ratio」とされる。
【0041】
また、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、課題、計測部位および特徴量の組と、算出された指標値とを関連付けたデータが複数取得される。また、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、有効性が高い順に、指標値が関連付けられた複数のデータが並び替えられる(図8のステップS6参照)。また、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、取得された複数のデータの組み合わせが、有効性が高い順に表示される(図8のステップS7参照)。
【0042】
具体的には、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、課題、計測部位および特徴量の組と、算出された指標値とが関連付けられる(図8のステップS5参照)。図6では、課題、計測部位および特徴量の組と指標値とが関連付けられた20個のデータが示されているが、実際に算出されるデータの個数はこれに限らない。そして、有効性が高い指標値の順に、課題、計測部位および特徴量の組と、指標値とを関連付けたデータが並べ替えられる。図6では、p値の小さい順に、関連付けられたデータ1~20が並べられている。そして、有効性が高い指標値の順に並べ替えられたデータが、脳活動特徴量の抽出を行う者(医師等)がデータを確認するための表示部(図示しない)に表示される。
【0043】
また、図7に示すように、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、算出された指標値に基づいて、複数のデータのうち、被験者が健常者であるか非健常者であるかを判別するための有効性が高い順に複数のデータの組み合わせが取得される。そして、複数のデータの数が異なる複数の回帰モデルを作成するとともに、作成された複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数が取得される。
【0044】
具体的には、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、取得(表示)された複数のデータの複数の組み合わせそれぞれに基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための複数の回帰モデルが作成される(図8のステップS9参照)。たとえば、図7に示すように、複数のデータ(マーカ)の数を増加させながら、それぞれ、回帰モデルが作成される。そして、作成された回帰モデルに基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別した際のそれぞれの正答率が取得される(図8のステップS10参照)。そして、取得されたそれぞれの正答率に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの組み合わせおよび数が取得される。
【0045】
より具体的には、図7に示すように、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、図6に示した有効性が高い指標値の順に並べ替えられたデータの組み合わせの数を異ならせて、ロジスティック回帰試行を行い、NDCとMCIとを区別する正答率を取得する。ロジスティック回帰試行においては、目的変数を二値(NDC:0-MCI:1)とした回帰モデルを構築する。そして、構築した回帰モデルにより、二値を区別するための検証を行い正答率を取得する。検証は、たとえば、10分割交差検証を行う。その結果、図7に示すように、p値の小さい順に並べ替えられたデータの個数が増加するに従って、二値を区別するための交差検証による正答率が高くなっている。なお、図7では、p値に基づいて並べ替えられたデータを用いた場合の交差検証の正答率、Youden-Indexに基づいて並べ替えられたデータを用いた場合の交差検証の正答率、および、ランダムに並べられたデータを用いた場合の交差検証の正答率を示している。そして、取得された正答率に基づいて、被験者PがNDCであるかMCIであるかを判別するために必要なデータの組み合わせおよび数が取得される。
【0046】
なお、本実施形態の脳活動特徴量の抽出方法では、正答率が所定のしきい値以上となる、データの数を取得する。たとえば、図7に示す例では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数は20以上である。具体的には、図7に示す例では、p値に基づいて並べ替えられたデータを用いた場合、データの数が40個以上60個以下において交差検証の正答率が略90%に達しているので、被験者PがNDCであるかMCIであるかを判別するために必要なデータの組み合わせを、p値に基づいて並べ替えられた上位40以上60以下のデータの組み合わせとする。なお、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数は、計測対象群に依存する。
【0047】
(判断基準を取得するフロー)
次に、図8を参照して、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための複数のデータの組み合わせおよび数(被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために十分な数の判断基準)を取得するフローを説明する。
【0048】
まず、ステップS1において、健常者の群と非健常者の群とを含む被験者Pに脳活動を誘発するタスクを与える。なお、ステップS1においては、同一のタスクにおいて難易度が異なる複数回のタスクを与える。
【0049】
次に、ステップS2において、被験者Pにタスクを与えた際の被験者Pの計測部位毎の脳血流量の変化を測定する。なお、ステップS2においては、脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、総ヘモグロビン量の変化を測定する。
【0050】
次に、ステップS3において、脳血流量の変化に関する特徴量を取得する。なお、ステップS3においては、脳血流量の変化に関する特徴量として、脳血流量の変化の平均値を取得する期間を異ならせて、タスク期間に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値、および、レスト期間に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値に基づいて取得した、複数種類の脳血流量の変化の平均値(特徴量1~5)と、タスク期間中の脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心(特徴量11)と、タスク期間中の脳血流量の変化を示す曲線における傾きの最大値(特徴量21)と、を取得する。
【0051】
次に、ステップS4において、タスク、計測部位および特徴量の組に対する、健常者の群と非健常者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値(p値およびYouden-Index)を算出する。
【0052】
次に、ステップS5において、タスク、計測部位および特徴量の組と、ステップS4において算出された指標値(p値およびYouden-Index)とを関連付ける。
【0053】
次に、ステップS6において、有効性の高い指標値(p値およびYouden-Index)の順に、タスク、計測部位および特徴量の組と、算出された指標値とを関連付けたデータを並べ替える。
【0054】
次に、ステップS7において、ステップS6において並べ替えられた複数のデータの組み合わせを、脳活動特徴量の抽出を行う者(医師等)がデータを確認するための表示部(図示しない)に表示する。
【0055】
次に、ステップS8において、ステップS7において表示された複数のデータの組み合わせを、データの数を異ならせて複数取得する。
【0056】
次に、ステップS9において、ステップS8において取得された複数のデータの複数の組み合わせそれぞれに基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための複数の回帰モデルを作成する。
【0057】
次に、ステップS10において、ステップS9において作成された回帰モデルに基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別した際のそれぞれの正答率を取得する。
【0058】
次に、ステップS11において、ステップS10において取得されたそれぞれの正答率に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの組み合わせおよび数(被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために十分な数の判断基準)を取得する。
【0059】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
本実施形態では、上記のように、健常者の群と非健常者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値に基づいて、指標値と関連付けた複数のデータのうち、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための有効性が高い順に複数のデータの組み合わせを取得する。そして、取得された複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に表示する。これにより、指標値と関連付けられた複数のデータが、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するための有効性が高い順に表示されるので、有効性が高い指標値が関連付けられた複数のデータを容易に把握することができる。その結果、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するのに有用な特徴量(判断基準)の抽出漏れが生じるのを抑制することができるので、有用な判断基準の抽出漏れに起因して、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを適切に判別することができなくなるのを抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、上記のように、表示された複数のデータの組み合わせに対して、データの数が異なる複数のモデルを作成するとともに、作成された複数のモデルそれぞれの正答率に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する。これにより、データの数が異なる複数のモデルの正答率に基づいて被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために(取得および表示が)必要なデータの数を容易に把握することができる。
【0062】
また、本実施形態では、上記のように、複数のデータの数が異なる複数の回帰モデルを作成するとともに、作成された複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する。これにより、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を複数の回帰モデルそれぞれの正答率に基づいて容易に取得することができる。
【0063】
また、本実施形態では、上記のように、正答率が所定のしきい値以上となる、データの数を取得する。これにより、所定のしきい値に基づいて、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を容易に判定することができる。
【0064】
また、本実施形態では、上記のように、有効性が高い順に、指標値が関連付けられた複数のデータを並べ替える。これにより、取得された複数のデータの組み合わせを、有効性が高い順に容易に表示することができる。
【0065】
また、本実施形態では、上記のように、脳血流量の変化の平均値を取得する期間を異ならせて、タスク期間31に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値、および、レスト期間32に含まれる所定の期間中の脳血流量の変化の平均値に基づいて取得した、複数種類の脳血流量の変化の平均値を脳血流量の変化に関する特徴量として取得する。これにより、複数種類の脳血流量の変化の平均値のから脳血流量の変化に関する特徴量を取得することができるので、健常者の群と非健常者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するためにより十分な数の判断基準を取得することができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記のように、タスク期間31中の、脳血流量の変化を示す曲線により形成される領域の面積重心、および、脳血流量の変化を示す曲線における傾きの最大値を、脳血流量の変化に関する特徴量として取得する。これにより、ある期間における脳血流量の変化の平均値が同じであっても、面積重心または傾きの最大値が異なる場合があるので、脳血流量の変化に関する特徴量として、面積重心または傾きの最大値の少なくともいずれか1つを含むことによって、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを精密に判別することができる。
【0067】
また、本実施形態では、上記のように、同一のタスクにおいて難易度が異なる複数のタスクを与える。また、互いに難易度が異なる複数のタスク期間同士の脳血流量の平均値の差分または比を特徴量として取得する。これにより、被験者Pに応じた難易度のタスクによる脳活動の変化を測定することができるので、被験者Pのタスクに対する適応に個人差がある場合でも、認知機能の程度を判定することができる。
【0068】
また、本実施形態では、上記のように、被験者Pに対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知をタスクとして被験者Pに与える。これにより、被験者Pに脳活動を誘発する複数種類のタスクを与えることができるので、健常者の群と非健常者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するためにさらに十分な数の判断基準を取得することができる。
【0069】
また、本実施形態では、上記のように、脳血流量の変化の指標として、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、酸素化ヘモグロビン量および脱酸素化ヘモグロビン量の総量である総ヘモグロビン量の変化を測定する。これにより、被験者Pの脳血流量の変化を複数種類の指標により取得することができるので、健常者の群と非健常者の群とを判別するための複数のデータの数を効果的に増やすことができる。その結果、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するためにさらに十分な数の判断基準を取得することができる。
【0070】
また、本実施形態では、上記のように、国際10-20法の、F3、F4、P3およびP4を含んだ範囲に設定された計測部位毎の脳血流量の変化を測定する。これにより、一般的に脳波を計測する際に使用される範囲(全頭連合野、運動野、間隔野)の脳血流量の変化を測定することができるので、タスクに対する脳血流量の変化を適切に測定することができる。
【0071】
また、本実施形態では、上記のように、近赤外分光法(near-infrared spectroscopy:NIRS)により、計測部位毎の脳血流量の変化を測定する。これにより、NIRS装置を用いて被験者Pの脳血流量の変化を測定することができる。その結果、NIRS装置は、非侵襲であり、磁気共鳴画像(Magnetic Resonances Imaging:MRI)などと比較した場合、大掛かりな設備を必要としないので、被験者の脳血流量の変化を簡便に測定することができる。
【0072】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0073】
たとえば、上記実施形態では、酸素化ヘモグロビン量の変化、脱酸素化ヘモグロビン量の変化、および、総ヘモグロビン量の変化を測定する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、酸素化ヘモグロビン量の変化だけを測定してもよいし、脱酸素化ヘモグロビン量の変化だけを測定し、総ヘモグロビン量の変化だけを測定してもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、p値に基づいて並べ替えられたデータにより、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの組み合わせおよび数を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、Youden-Indexに基づいて並べ替えられたデータにより、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの組み合わせおよび数を取得してもよい。
【0075】
また、上記実施形態では、感度・特異度の指標として、Youden-Indexを用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、感度・特異度の指標として、Youden-Index以外を用いてもよい。たとえば、AUCを用いてもよい。
【0076】
また、上記実施形態では、タスク、計測部位および特徴量の組に対する、健常者の群と非健常者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値の算出を、Mann-WhitneyのU検定における有意差(p値)、および、感度・特異度の指標となるYouden-Indexを用いて行った例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、タスク、計測部位および特徴量の組に対する、健常者の群と非健常者の群とを区別するために有効か否かの指標となる指標値の算出を、他の指標値を用いて行ってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、被験者Pに対する感覚刺激を与えるタスクとして、被験者Pに冷感覚刺激を与える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pの感覚器に感覚刺激を与えられるタスクであれば、被験者Pに対する感覚刺激を冷感覚刺激以外としてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、被験者Pに計算問題を与える場合、100から7を連続で引く問題などを用いたが、本発明はこれに限られない。本発明では、四則演算のどんな計算問題を用いてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、被験者Pに与えるタスクを記憶および想像とする場合、被験者Pの手に形が類似している文字を書き、被験者Pがその文字を当てる問題を与える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pに与えるタスクを記憶および想像とする場合、他の問題を与えるようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、被験者Pに与えるタスクを空間認知とする場合、被験者Pに、風景写真の風景が見えるためにはどの位置に立っていればよいかを回答させる問題を与える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pに与えるタスクを空間認知とする場合、他の問題を与えるようにしてもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、被験者Pに対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知をタスクとして被験者Pに与える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pに対する感覚刺激、計算、記憶、想像および空間認知以外のタスクを被験者Pに与えるようにしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、同一のタスクにおいて難易度が異なる複数のタスクを与える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、同一のタスクにおいて難易度が等しい複数のタスクを与えるようにしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、脳血流量の変化に関する特徴量として、特徴量1、特徴量2、特徴量3、特徴量4、特徴量5、特徴量11および特徴量21の7つの特徴量を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、脳血流量の変化に関する特徴量として、特徴量1、特徴量2、特徴量3、特徴量4、特徴量5、特徴量11および特徴量21から少なくともいずれか1つを取得してもよいし、いずれか2~6つを取得するようにしてもよい。また、特徴量1、特徴量2、特徴量3、特徴量4、特徴量5、特徴量11および特徴量21以外の特徴量を取得するようにしてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別する際に、10分割交差検証を行い正答率を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別する際に、10分割交差検証以外の方法を行い正答率を取得するようにしてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する際に、ロジスティック回帰試行を行う例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する際に、ロジスティック回帰試行以外の回帰試行または機械学習などを行うようにしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得する例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、被験者Pが健常者であるか非健常者であるかを判別するために必要なデータの数を取得しないようにしてもよい。この場合、図8のフローにおいて、表示部に表示された複数のデータの組み合わせを、データの数を異ならせて複数取得するステップ(ステップS8)以降のステップを省略することができる。
【符号の説明】
【0087】
31 タスク期間(課題が行われている期間)
32 レスト期間(課題が行われていない期間)
P 被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8