IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図1
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図2
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図3
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図4
  • 特許-III族窒化物半導体の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20220928BHJP
   C30B 19/04 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B19/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019049759
(22)【出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2020152582
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【弁理士】
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史郎
(72)【発明者】
【氏名】守山 実希
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-154254(JP,A)
【文献】特開2011-230966(JP,A)
【文献】特開2008-150239(JP,A)
【文献】特開2015-199635(JP,A)
【文献】国際公開第2010/092736(WO,A1)
【文献】特開2007-254201(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaとNaとを混合した混合融液に窒素を含むガスを供給して、サファイア基板上にMOCVD法により成長させたGaN層を有する種基板上にGaNをフラックス法により育成するGaNの製造方法において、
育成した前記GaNと前記種基板との間の界面の単位面積当たりに含まれる全原子数を界面全量として、Alの界面全量が3×1014/cm2 以下、かつSiの界面全量が5×1014/cm2 以下、となるようにして、結晶成長初期に発生する種基板との界面近傍の結晶粒の直径を14μm以上、結晶粒の密度を1×107 /cm2 以下に制御することにより、前記種基板の曲率半径が5m以上となるように反りが制御されたGaNを育成する
ことを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
育成した前記GaNの前記種基板との界面近傍における結晶粒の直径は48μm以上52μm以下、結晶粒の密度は6×104 /cm2以上7×104 /cm2以下となるように、前記GaNを育成する、ことを特徴とする請求項1に記載のGaNの製造方法。
【請求項3】
前記種基板の裏面にTa保護膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のGaNの製造方法。
【請求項4】
記Gaと前記Naは固体を用いて坩堝に投入し、該坩堝の材料はAl及びSiを含まないBN、PBN、イットリア、及びTaのうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のGaNの成長方法。
【請求項5】
前記Alと前記Siは前記界面に20~200nmの厚さに分布させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のGaNの成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス法によるIII 族窒化物半導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
III 族窒化物半導体を結晶成長させる方法として、アルカリ金属とGaなどのIII 族元素の混合融液に窒素を溶解させ、液相でIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させるフラックス法が知られている。アルカリ金属としてはナトリウム(Na)が一般に用いられており、Naフラックス法と呼ばれている。
【0003】
フラックス法では、種基板としてサファイア基板上にMOCVD法などによってGaN層を形成したテンプレート基板や、GaN自立基板などを用いている。
【0004】
特許文献1には、結晶中のSi濃度を2×1017/cm3 より少なくすることで育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りを低減できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-157760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発明者らの検討によると、従来の方法では育成したGaN結晶の反りは十分に低減できなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、フラックス法による種基板上へのIII 族窒化物半導体結晶の育成において、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、GaNaとを混合した混合融液に窒素を含むガスを供給して、サファイア基板上にMOCVD法により成長させたGaN層を有する種基板上にGaNフラックス法により育成するGaNの製造方法において、育成したGaNと種基板との間の界面単位面積当たりに含まれる全原子数を界面全量として、Alの界面全量が3×1014/cm2 以下、かつSiの界面全量が5×1014/cm2 以下、となるようにして、結晶成長初期に発生する種基板との界面近傍の結晶粒の直径を14μm以上、結晶粒の密度を1×10 7 /cm 2 以下に制御することにより、種基板の曲率半径が5m以上となるように反りが制御されたGaNを育成することを特徴とするIII 族窒化物半導体の製造方法である。
【0009】
本発明において、GaNと種基板との界面近傍における結晶粒の直径が14μm以上、結晶粒の密度が1×107 /cm3 以下に制御することにより、成長するGaNの反りをより低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、育成したGaNの反りを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】結晶成長装置の構成を示した図。
図2】実施例1のGaN結晶の深さとAl密度との関係を示したグラフ。
図3】実施例1のGaN結晶の深さとSi密度との関係を示したグラフ。
図4】比較例のGaN結晶の深さとAl密度との関係を示したグラフ。
図5】比較例のGaN結晶の深さとSi密度との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、フラックス法によって種基板上にIII 族窒化物半導体結晶を育成するものである。まず、フラックス法の概要について説明する。
【0013】
(フラックス法の概要)
本発明に用いるフラックス法は、フラックスとなるアルカリ金属と、原料であるIII 族金属とを含む混合融液に、窒素を含むガスを供給して溶解させ、液相でIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる方法である。
【0014】
原料であるIII 族金属は、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)の少なくともいずれか1つであり、その割合によって育成させるIII 族窒化物半導体の組成を制御することができ、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、AlGaInNなどを育成することができる。特にIII 族金属としてGaのみを用いることが好ましい。つまり、本発明は特にGaNの育成に好適である。
【0015】
フラックスであるアルカリ金属は、通常ナトリウム(Na)を用いるが、カリウム(K)を用いてもよく、NaとKの混合物であってもよい。さらには、リチウム(Li)やアルカリ土類金属を混合してもよい。
【0016】
混合融液には、炭素(C)を添加してもよい。Cの添加により、結晶成長速度を速めることができる。また、混合融液には、結晶成長させるIII 族窒化物半導体の伝導型、磁性などの物性の制御や、結晶成長の促進、雑晶の抑制、成長方向の制御、などの目的でC以外のドーパントを添加してもよい。たとえばn型ドーパントとしてゲルマニウム(Ge)などを用いることができ、p型ドーパントとしてマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カルシウム(Ca)などを用いることができる。
【0017】
窒素を含むガスは、窒素分子や、アンモニア等の窒素を構成元素として含む化合物の気体であり、それらの混合ガスでもよく、さらには、窒素を含むガスが希ガス等の不活性ガスに混合されていてもよい。
【0018】
(種基板の構成)
本発明では、混合融液中に種基板(種結晶)を配置し、その種基板上にIII 族窒化物半導体を育成する。種基板は、加熱、加圧する前から混合融液中に配置してもよいし、加熱、加圧して成長温度、成長圧力に達してから混合融液中に配置してもよい。種基板には、III 族窒化物半導体からなる自立基板や、テンプレート基板を用いることができる。
【0019】
自立基板は、GaN、AlGaN、AlNなど任意の組成のIII 族窒化物半導体とすることができる。通常は、フラックス法によって育成したいIII 族窒化物半導体と同一組成のIII 族窒化物半導体とする。
【0020】
テンプレート基板は、下地となる下地基板上に、バッファ層を介してc面を主面とするIII 族窒化物半導体層が形成された構成である。
【0021】
下地基板の材料は、その表面にIII 族窒化物半導体を育成可能な任意の材料でよい。たとえば、サファイア、ZnO、スピネルなどを用いることができる。
【0022】
下地基板上のIII 族窒化物半導体層は、GaN、AlGaN、AlNなど任意の組成のIII 族窒化物半導体とすることができる。通常は、フラックス法によって育成したいIII 族窒化物半導体と同一組成のIII 族窒化物半導体とする。III 族窒化物半導体層はMOCVD法、HVPE法、MBE法など、任意の方法によって成長させたものでよいが、結晶性や成長時間などの点でMOCVD法やHVPE法が好ましい。
【0023】
自立基板の厚さは任意である。また、テンプレート基板のIII 族窒化物半導体層の厚さは任意であるが、2μm以上とすることが望ましい。フラックス法では、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体層がメルトバックする可能性があるため、自立基板に貫通孔が空いてしまったり、テンプレート基板のIII 族窒化物半導体層が完全に除去されて下地基板が露出しない厚さとする必要があるためである。ここでメルトバックは、III 族窒化物半導体が混合融液中に溶解して除去されることをいう。ただし、一般的にはテンプレート基板のIII 族窒化物半導体層が厚すぎると、種基板に大きな反りが発生してしまうため10μm以下の厚さとすることが望ましい。
【0024】
種基板の上面には、ドット状の窓が複数空けられたマスクを設けてもよい。この窓から種基板の表面を露出させることで、種結晶領域(すなわちIII 族窒化物半導体をエピタキシャル成長させる起点となるIII 族窒化物半導体の表面)をドット状に点在させている。
【0025】
このように種結晶領域をドット状に点在させることで、結晶育成初期においてIII 族窒化物半導体を横方向成長させ、転位を曲げることで転位密度を低減して結晶品質を向上させることができる。また、成長過程で結晶中にボイドが形成されるため、結晶育成終了後に種基板と育成したIII 族窒化物半導体結晶との分離を容易とすることができる。
【0026】
種基板表面にエッチングなどによって溝を設けることで、種結晶領域をドット状に点在させてもよい。
【0027】
マスクは、ALD法(原子層堆積法)、CVD法(化学気相成長法)、スパッタなど任意の方法によって形成することができるが、特にALD法により形成することが望ましい。緻密で均一な厚さに形成することができ、フラックス法による育成中においてマスクが溶解してしまうのを抑制することができる。マスクの材料は、フラックスに対して耐性を有し、そのマスクからはIII 族窒化物半導体が成長しないような材料であればよい。ただし、後述の理由からAlを含まない材料が好ましい。たとえば、TiO2 、ZrO2 などを用いることができる。マスクの厚さは、10nm以上500nm以下とすることが望ましい。
【0028】
マスクの窓の配置パターンは、周期的なパターンが望ましい。特に、正三角形の三角格子状のパターンが望ましい。窓をこのような配置パターンとすることで、各種結晶領域からIII 族窒化物半導体が均質に育成し、III 族窒化物半導体の結晶品質の向上を図ることができる。また、下地基板がc面サファイア基板である場合、その各辺の方位はサファイアのa面に対して5~15°の角度を成すことが望ましい。
【0029】
各窓の形状は、円、三角形、四角形、六角形など任意の形状でよいが、円または正六角形とすることが好ましい。各窓に露出するIII 族窒化物半導体表面からの結晶成長をより均一とするためである。また、正六角形とする場合、その各辺の方位はIII 族窒化物半導体のm面とすることが望ましい。
【0030】
(結晶成長装置の構成)
本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法では、たとえば以下の構成の結晶成長装置1000を用いる。結晶成長装置1000は、Naフラックス法を用いてIII 族窒化物半導体の単結晶を成長させるためのものである。
【0031】
図1に示すように、結晶成長装置1000は、圧力容器1100と、圧力容器蓋1110と、中間室1200と、反応室1300と、反応室蓋1310と、回転軸1320と、ターンテーブル1330と、側部ヒーター1410と、下部ヒーター1420と、ガス供給口1510と、ガス排気口1520と、真空引き排気口1530と、測定用通気口1540と、Qmass取付口1550と、を有する。
【0032】
圧力容器1100は、結晶成長装置1000の筐体である。圧力容器蓋1110は、圧力容器1100の鉛直下方の位置に配置されている。中間室1200は、圧力容器1100の内部の室である。反応室1300は、坩堝CB1を収容し、その内部で半導体単結晶を成長させるための室である。反応室蓋1310は、反応室1300の蓋である。
【0033】
回転軸1320は、正回転および負回転をすることができるようになっている。回転軸1320は、モーター(図示せず)から回転駆動を受けることができる。ターンテーブル1330は、回転軸1320に連れまわって回転することができる。側部ヒーター1410および下部ヒーター1420は、反応室1300を加熱するためのものである。
【0034】
ガス供給口1510は、圧力容器1100の内部に窒素ガスを含むガスを供給するための供給口である。ガス排気口1520は、圧力容器1100の内部からガスを排気するためのものである。真空引き排気口1530は、圧力容器1100を真空引きするためのものである。測定用通気口1540は、圧力容器1100の内部のガスを測定のために抽出するためのものである。測定用通気口1540のガスの流れの下流の位置には、O2 センサーや露点計が配置されている。Qmass取付口1550は、Qmass装置を取り付けるためのものである。
【0035】
結晶成長装置1000は、坩堝CB1の内部の温度および圧力を調整するとともに坩堝CB1を回転させることができる。そのため、坩堝CB1の内部では、所望の条件で種結晶から半導体単結晶を成長させることができる。
【0036】
(本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法について)
次に、本発明のIII 族窒化物半導体の製造方法について説明する。まず、炉内雰囲気を不活性ガスに置換し、炉内を加熱し、その後真空引きすることにより、炉内の酸素を十分に低減する。
【0037】
次に、酸素や露点など雰囲気が制御されたグローブボックス内で所定量の固体のアルカリ金属、固体のIII 族金属を計量する。その後、種基板と、計量した所定量の固体のアルカリ金属と、固体のIII 族金属とを坩堝CB1に投入する。
【0038】
次に、原料を配置した坩堝CB1を、反応室1300内のターンテーブル1330上に配置し、反応室1300を密閉し、さらに反応室1300を圧力容器1100内に密閉する。そして、反応室1300内および圧力容器1100内を真空引きした後、窒素を含むガスを反応室1300内部および圧力容器1100内部に供給する。圧力が結晶成長圧力まで達したら、炉内を結晶成長温度まで昇温する。結晶成長温度はたとえば700℃以上1000℃以下、結晶成長圧力はたとえば2MPa以上10MPa以下である。昇温の過程で、坩堝CB1中の固体のアルカリ金属や固体のIII 族金属は溶けて液体となり、混合融液を形成する。
【0039】
次に、反応室1300内の温度が結晶成長温度に達したら、坩堝CB1を回転させることで混合融液を攪拌し、混合融液中のアルカリ金属とIII 族金属の濃度分布が均一になるようにする。窒素が混合融液に溶解していき、過飽和状態になると種基板の上面からIII 族窒化物半導体の結晶成長が始まる。
【0040】
結晶成長温度、結晶成長圧力を維持して種基板上面に十分にIII 族窒化物半導体結晶を育成した後、坩堝CB1の回転と反応室1300の加熱を停止して温度を室温まで低下させ、圧力も常圧まで低下させ、III 族窒化物半導体の育成を終了する。
【0041】
ここで本発明では、結晶成長の初期において、育成するIII 族窒化物半導体結晶にAlやSiがなるべく含まれないようにする。そして、その育成したIII 族窒化物半導体のAlの界面全量が3×1014/cm2 以下、かつSiの界面全量が5×1014/cm2 以下となるようにする。このようにIII 族窒化物半導体を育成すれば、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りを低減することができる。
【0042】
ここで界面全量とは、育成したIII 族窒化物半導体と種基板との間の界面単位面積当たりに含まれる全原子数である。界面全量は、たとえば、SIMSなどによって厚さ方向(界面に垂直な方向)の原子の密度分布を測定し、その密度を厚さ方向に積分することでも計測できる。
【0043】
AlやSiは、育成したIII 族窒化物半導体結晶内において種基板との界面近傍のごく狭い範囲に偏在しており、界面に20~200nmの厚さで0.5atm%以上のAlやSi原子が集中している。そのため、育成したIII 族窒化物半導体結晶の厚さが1000nm以上であれば、AlおよびSiの界面全量は、育成したIII 族窒化物半導体結晶の厚さにほとんど依存しない。したがって、実際にAlやSiの界面全量を測定する場合、全ての厚さについてAlやSiの密度を計測する必要はなく、界面近傍について密度を計測すれば十分に界面全量を評価できる。
【0044】
本発明により育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りを低減できる理由は、次のように推察される。育成開始時において種基板と混合融液との界面にAlやSiが存在すると、AlやSiは窒化されやすいため、Gaが窒化する前にAlやSiが窒化し、結晶成長の起点となる核が形成される。AlやSiが多く存在すると、その核も高密度に形成される。
【0045】
そして、この核を中心にしてIII 族窒化物半導体は結晶成長するが、核が多数存在する場合には、育成するIII 族窒化物半導体の結晶粒は小さく高密度となる。一方、核が少ない場合には、育成するIII 族窒化物半導体の結晶粒は大きく低密度となる。
【0046】
結晶成長の初期に生じた結晶粒は、育成が進むにつれて合体していき、結晶欠陥も減少していく。結晶粒は六角錐台状である。ここで、結晶粒同士が合体すると、厚さ方向において構造の違いが生じ、それに起因して応力が発生する。この応力はIII 族窒化物半導体の反りの要因となり、合体する結晶粒が多いほど強くなる。したがって、育成開始時において種基板と混合融液との界面にAlやSiが多数存在し、結晶成長初期に発生する結晶粒が小さく高密度であるほど、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りは大きくなる。逆に、育成開始時において種基板と混合融液との界面にAlやSiが少なく、結晶成長初期に発生する結晶粒が大きく低密度であるほど、育成後のIII 族窒化物半導体結晶の反りは小さくなる。
【0047】
以上のように、結晶成長の初期に種基板と混合融液との界面に存在するAlやSiの量(すなわちAlやSiの界面全量)が、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りに影響し、Alの界面全量が3×1014/cm2 以下、Siの界面全量が5×1014/cm2 以下であれば、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りを十分に低減することができる。たとえば、曲率半径を5m以上とすることができる。
【0048】
なお、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りをより低減するために、Alの界面全量は2×1014/cm2 以下とすることが望ましい。より望ましくは1.5×1014/cm2 以下、さらに望ましくは1×1014/cm2 以下である。また、同様の理由により、Siの界面全量は3×1014/cm2 以下とすることが望ましい。より望ましくは2.5×1014/cm2 以下、さらに望ましくは2×1014/cm2 以下である。
【0049】
また、育成したIII 族窒化物半導体結晶の種基板との界面近傍の結晶粒の大きさ(直径)は、14μm以上、結晶粒の密度は1×107 /cm2 以下とするのがよく、より望ましい結晶粒の大きさは14~16μm、結晶粒の密度は6×105 ~8×105 /cm2 である。ここで結晶粒の大きさは、観察したい断面の手前数μm~数十μmまで剥離や研磨などにより除去し、平坦化した後、その断面を蛍光顕微鏡やカソードルミネセンス装置により観察したグレインの平均径によって定義する。結晶粒の大きさおよび密度がこの範囲であれば、育成したIII 族窒化物半導体結晶の反りをより低減することができる。より望ましい結晶粒の大きさは、24~26μm、結晶粒の密度は2×105 ~3×105 /cm2 であり、さらに望ましい結晶粒の大きさは、48~52μm、結晶粒の密度は6×104 ~7×104 /cm2 である。
【0050】
(界面全量の制御について)
AlおよびSiの界面全量は、たとえば以下の方法によって低減することができる。1つは、材料として不純物が少ないものを用いることである。具体的には、坩堝CB1に配置する固体のアルカリ金属、固体のIII 族金属として、あるいは、炉に供給する窒素ガスとして、純度が高いものを用いる。
【0051】
他の1つは、グローブボックス内で坩堝CB1に材料を配置してから炉内に坩堝CB1を搬入するまでの作業時間を短縮することである。グローブボックス内に残存したAlやSiが、坩堝CB1内の材料や坩堝CB1自体に付着することで、AlやSiの界面全量が増加するためである。
【0052】
他の1つは、坩堝CB1の材料として、AlやSiを含まないものを用いることである。たとえばBN、PBN、イットリア、Taなどを用いる。
【0053】
他の1つは、炉内の不純物を十分に低減しておくことである。たとえば、炉内雰囲気を窒素ガス等の不活性ガスに置換し、炉内を加熱し、真空引きすることで、炉内の不純物を低減することができる。
【0054】
他の1つは、下地基板としてサファイアを用いたテンプレート基板の場合には、下地基板の裏面にTaなどの保護膜を成膜することである。
【0055】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0056】
結晶成長装置1000を用いて、以下のようにして種基板上にGaN結晶を育成した。まず、炉内(反応室1300および圧力容器1100内)の雰囲気を窒素ガスに置換し、炉内を加熱し、真空引きを行うことで炉内の酸素や水分を低減した。これにより、GaN結晶の育成開始時点において炉内雰囲気の酸素濃度が0.02ppm以下となるようにした。
【0057】
次に、Ar雰囲気のグローブボックス内でアルミナ製の坩堝CB1の中に種基板、純度6Nの固体Ga、固体Naを配置した。種基板には、サファイア基板上にMOCVD法によって一様に平坦なGaN層を形成し、その後、GaN層の一部をドライエッチングして正六角形がハニカム状に配列されたパターンにパターニングしたものを用いた。グローブボックス内の雰囲気の酸素濃度および露点を測定したところ、酸素濃度は0.03ppm、露点は-90℃であった。また、固体Naは、メトー・スペシオ製ERグレードのものを用いた。その後、坩堝CB1をグローブボックス内に放置した。このグローブボックス内での作業時間の合計は10時間とした。
【0058】
次に、坩堝CB1を炉に搬入して炉を密閉し、炉内に窒素を供給して炉内の圧力が2.87MPaとなるまで加圧した。窒素は純度6Nのものを使用した。次いで圧力を一定に保ちながら1℃/分の速さで炉を加熱して成長温度(856℃)まで昇温し、種基板上へのGaN結晶の育成を開始した。
【0059】
成長温度に到達後、圧力容器1100の開閉口を囲って密閉する部屋(下室)内の雰囲気を窒素ガスから空気に置換した。これにより、炉外から圧力容器1100内へ、さらに圧力容器1100内から反応室1300内へと空気が徐々に侵入するようにした。炉内雰囲気の酸素濃度は時間経過とともに徐々に増加し、育成開始時点では炉内雰囲気の酸素濃度は0.015ppmであり、育成開始から10時間後には酸素濃度が0.02ppmに達した。その後は炉外の雰囲気を調整することで酸素濃度が0.1ppm以下となるように調整した。
【0060】
GaN結晶の育成開始から90時間経過後、温度と圧力を常温、常圧に戻してGaN結晶の育成を終了し、炉から種基板を取り出し、エタノール等でNa、Gaを取り除いた。降温時の熱応力によって、育成したGaN結晶は種基板から剥離していた。得られたGaN結晶は、厚さ0.8mmで曲率半径は9mであった。
【0061】
また、育成されたGaN結晶の種基板側の表面近傍をSIMSにより分析し、Al密度とSi密度を算出した。図2は、育成したGaN結晶の深さとAl密度(atoms/cm3 )との関係を示したグラフである。また、図3は、育成したGaN結晶の深さとSi密度(atoms/cm3 )との関係を示したグラフである。深さ方向は、GaN結晶から種基板に向かう方向であり、深さ25.5μmのところがGaN結晶と種基板の界面である。GaN結晶と種基板の界面に存在する不純物は、SIMS解析においてノックオン効果により種基板側に押し込まれる。そこで、界面近傍において密度が検出下限以上となる範囲で、密度を積分することにより、界面全量を算出した。その結果、Alの界面全量は、1.5×1014/cm2 、Siの界面全量は、2.3×1014/cm2 であった。
【0062】
(比較例1)
坩堝CB1をグローブボックス内に放置する時間を延ばし、グローブボックス内での作業時間の合計を20時間とした以外は実施例1と同様の条件で種基板上にGaN結晶を育成した。育成したGaN結晶は、実施例1と同様に種基板から剥離しており、厚さ0.7mm、曲率半径は0.5mであった。
【0063】
また、実施例1と同様に、育成されたGaN結晶の種基板側の表面近傍をSIMSにより分析し、Al密度とSi密度を算出した。図4は、育成したGaN結晶の深さとAl密度(atoms/cm3 )との関係を示したグラフである。また、図5は、育成したGaN結晶の深さとSi密度(atoms/cm3 )との関係を示したグラフである。実施例1と同様にして界面全量を算出したところ、Alの界面全量は1.3×1015/cm2 、Siの界面全量は1.3×1015/cm2 であった。
【0064】
実施例1と比較例1とでは、グローブボックスでの作業時間のみが異なっている。そのため、グローブボックス内に坩堝CB1を放置した時間を長くすることにより、グローブボックス内に残存していたAlやSiが、坩堝CB1内の材料あるいは坩堝CB1自体に付着し、その結果、比較例1は実施例1よりもAlやSiの界面全量が多くなったと考えられる。そして、そのAlやSiの界面全量が多くなったことで、育成したGaN結晶の反りが増大したと考えられる。
【実施例2】
【0065】
種基板として、サファイア基板上にMOCVD法によってGaN層を形成し、GaN層上にアルミナからなるマスクを形成し、GaN層表面が所定のパターンに露出したものを用いた。所定のパターンとは、正六角柱がハニカム状に配列されたパターンである。それ以外は実施例1と同様の条件で種基板上にGaN結晶を育成した。得られたGaN結晶は、実施例1と同様に反りが低減されていた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明により得られるIII 族窒化物半導体結晶は、半導体素子作成用の基板などに利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1000:結晶成長装置
CB1:坩堝
1100:圧力容器
1300:反応室
1410:側部ヒータ
1420:下部ヒータ
図1
図2
図3
図4
図5