(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】結晶粒解析装置、結晶粒解析方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/204 20190101AFI20220928BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01N33/204
G01N23/203
(21)【出願番号】P 2019049845
(22)【出願日】2019-03-18
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】森本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】中村 修一
(72)【発明者】
【氏名】玉木 輝幸
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-096545(JP,A)
【文献】特開2009-250639(JP,A)
【文献】国際公開第2014/033928(WO,A1)
【文献】特開2002-286607(JP,A)
【文献】特開2007-031793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/204
G01N 23/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料における結晶の画像信号を取得する画像信号取得手段と、
前記画像信号に基づく解析対象領域に、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ当該結晶粒を含む3つの結晶粒と接する三重点を粒界点として設定する粒界点設定手段と、
前記粒界点設定手段により設定された粒界点であって、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインを設定するライン設定手段と、
前記画像信号に基づく解析対象領域に、介在物を設定する介在物設定手段と、
前記ライン設定手段により設定されたラインが前記介在物内を通る場合に、当該介在物内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行うライン変更処理手段と、
前記固定点が属する粒界における第1の粒界エネルギーと、当該固定点を固定位置から解放し、前記介在物内を除く領域の位置であって粒界エネルギーが最小となる平衡位置に移動させた際の、当該移動させた固定点が属する粒界における第2の粒界エネルギーとを算出する粒界エネルギー算出手段と、
前記第2の粒界エネルギーが前記第1の粒界エネルギー未満である場合に、前記固定点を解放する処理を行う固定点処理手段と、を有し、
前記介在物設定手段は、前記介在物の時間の経過に伴う大きさの変化を導出することを特徴とする結晶粒解析装置。
【請求項2】
前記介在物設定手段は、前記介在物の各時間における大きさを、当該介在物の周囲の当該介在物を構成する元素の濃度と、当該介在物と異なる前記介在物の大きさと、当該介在物と当該介在物と異なる前記介在物との距離と、当該介在物の位置と、のうちの少なくとも1つに基づいて導出することを特徴とする請求項1に記載の結晶粒解析装置。
【請求項3】
前記介在物設定手段は、前記介在物が最初に配置される位置に応じて、前記介在物の最初の大きさを決定することを特徴とする請求項1または2に記載の結晶粒解析装置。
【請求項4】
前記固定点処理手段は、前記介在物の大きさが閾値以下である場合に、当該介在物内の前記固定点を解放する処理を行うことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の結晶粒解析装置。
【請求項5】
前記粒界点設定手段は、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ当該結晶粒を含む3つの結晶粒と接する三重点と、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の中間点に対応し、且つ当該結晶粒を含む2つの結晶粒と接する二重点とを粒界点として設定することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の結晶粒解析装置。
【請求項6】
前記粒界エネルギー算出手段は、前記固定点が前記介在物から解放される際の、当該解放される固定点が属する粒界における第3の粒界エネルギーを更に算出し、
前記固定点処理手段は、前記第2の粒界エネルギーが前記第1の粒界エネルギー未満であり、且つ前記第1の粒界エネルギーと前記第3の粒界エネルギーとの差が閾値未満である場合に、前記固定点を解放する処理を行うことを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の結晶粒解析装置。
【請求項7】
前記粒界点設定手段により設定された粒界点で発生する駆動力を、その粒界点が属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーを用いて演算する駆動力演算手段と、
前記駆動力演算手段により演算された駆動力を用いて、前記粒界点の時間の経過に伴う位置の変化を演算する位置演算手段とを更に有することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の結晶粒解析装置。
【請求項8】
金属材料における結晶の画像信号を取得する画像信号取得ステップと、
前記画像信号に基づく解析対象領域に、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ当該結晶粒を含む3つの結晶粒と接する三重点を粒界点として設定する粒界点設定ステップと、
前記粒界点設定ステップにより設定された粒界点であって、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインを設定するライン設定ステップと、
前記画像信号に基づく解析対象領域に、介在物を設定する介在物設定ステップと、
前記ライン設定ステップにより設定されたラインが前記介在物内を通る場合に、当該介在物内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行うライン変更処理ステップと、
前記固定点が属する粒界における第1の粒界エネルギーと、当該固定点を固定位置から解放し、前記介在物内を除く領域の位置であって粒界エネルギーが最小となる平衡位置に移動させた際の、当該移動させた固定点が属する粒界における第2の粒界エネルギーとを算出する粒界エネルギー算出ステップと、
前記第2の粒界エネルギーが前記第1の粒界エネルギー未満である場合に、前記固定点を解放する処理を行う固定点処理ステップと、を有し、
前記介在物設定ステップは、前記介在物の時間の経過に伴う大きさの変化を導出することを特徴とする結晶粒解析方法。
【請求項9】
請求項1~7の何れか1項に記載の結晶粒解析装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶粒解析装置、結晶粒解析方法、及びプログラムに関し、特に、結晶粒の状態を解析するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属材料の結晶粒の状態をコンピュータで解析することが行われている。結晶粒の解析対象である金属材料として、例えば、電磁鋼板の金属材料では、二次再結晶化後の結晶粒の粒径を巨大化させる必要があり、これを実現するためにこれを実現するために、結晶粒間にインヒビターを介在物として介在させる手法が用いられている。
【0003】
この場合、インヒビターが結晶粒間に介在している間は結晶粒の成長が抑制された状態で進行するので、この介在物を考慮して計算を実行することが必要である。このような介在物を考慮して結晶粒の状態をコンピュータで解析する技術として、特許文献1、2に記載の技術がある。
【0004】
特許文献1、2では、結晶粒の粒界に対応する位置に点を設定すると共に、同一の粒界上で互いに隣接する2つの点を両端点とするラインを設定する。そして、ラインが介在物を通る場合に、介在物内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行う。また、粒界エネルギーに基づいて、固定点を解放する処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5298603号公報
【文献】特許第4751355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では、介在物が変更されない。従って、特許文献1、2に記載の技術では、結晶粒の画像から観測できるインヒビターしか設定されない。このため、介在物が存在する環境下での結晶粒の状態を解析する際に、結晶粒の状態が実際の状態と乖離する虞がある。具体的には例えば、特許文献1、2に記載の技術では初期状態として設定した介在物(固定点)に応じた結晶成長(二次再結晶)の最終状態の推定においては問題を生じない。しかし、実用的に二次再結晶を制御するための熱処理条件を考慮する際には、二次再結晶の時間的な進行に応じた温度制御や雰囲気制御が必要となる。特許文献1、2に記載の技術ではこのような粒成長の途中過程の結晶組織に実態との大きな乖離が生じるため、実用的な熱処理条件の制御には適用できない。この原因を考察した結果、乖離を解消するには、介在物を単なる固定点として認識するのでなく、固定点としての強度が時間とともに変化するような解析が重要となると考えられた。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、介在物が存在する環境下での結晶粒の状態を解析する際に、結晶粒の状態が実際の状態と乖離することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶粒解析装置は、金属材料における結晶の画像信号を取得する画像信号取得手段と、前記画像信号に基づく解析対象領域に、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ当該結晶粒を含む3つの結晶粒と接する三重点を粒界点として設定する粒界点設定手段と、前記粒界点設定手段により設定された粒界点であって、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインを設定するライン設定手段と、前記画像信号に基づく解析対象領域に、介在物を設定する介在物設定手段と、前記ライン設定手段により設定されたラインが前記介在物内を通る場合に、当該介在物内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行うライン変更処理手段と、前記固定点が属する粒界における第1の粒界エネルギーと、当該固定点を固定位置から解放し、前記介在物内を除く領域の位置であって粒界エネルギーが最小となる平衡位置に移動させた際の、当該移動させた固定点が属する粒界における第2の粒界エネルギーとを算出する粒界エネルギー算出手段と、前記第2の粒界エネルギーが前記第1の粒界エネルギー未満である場合に、前記固定点を解放する処理を行う固定点処理手段と、を有し、前記介在物設定手段は、前記介在物の時間の経過に伴う大きさの変化を導出することを特徴とする。
【0009】
本発明の結晶粒解析方法は、金属材料における結晶の画像信号を取得する画像信号取得ステップと、前記画像信号に基づく解析対象領域に、前記結晶に含まれる結晶粒の粒界の両端点に対応し、且つ当該結晶粒を含む3つの結晶粒と接する三重点を粒界点として設定する粒界点設定ステップと、前記粒界点設定ステップにより設定された粒界点であって、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインを設定するライン設定ステップと、前記画像信号に基づく解析対象領域に、介在物を設定する介在物設定ステップと、前記ライン設定ステップにより設定されたラインが前記介在物内を通る場合に、当該介在物内に固定点を発生させ、当該固定点を端点とするラインの変更処理を行うライン変更処理ステップと、前記固定点が属する粒界における第1の粒界エネルギーと、当該固定点を固定位置から解放し、前記介在物内を除く領域の位置であって粒界エネルギーが最小となる平衡位置に移動させた際の、当該移動させた固定点が属する粒界における第2の粒界エネルギーとを算出する粒界エネルギー算出ステップと、前記第2の粒界エネルギーが前記第1の粒界エネルギー未満である場合に、前記固定点を解放する処理を行う固定点処理ステップと、を有し、前記介在物設定ステップは、前記介在物の時間の経過に伴う大きさの変化を導出することを特徴とする。
【0010】
本発明のプログラムは、前記結晶粒解析装置の各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、介在物が存在する環境下での結晶粒の状態を解析する際に、結晶粒の状態が実際の状態と乖離することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】結晶粒解析装置で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。
【
図2】結晶粒解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】結晶粒画像と、二重点及び三重点と、ライン及び粒界との一例を示す図である。
【
図4】二重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【
図5】三重点に生じる駆動力の計算方法の一例を説明する図である。
【
図6】インヒビターの設定方法の一例を説明する図である。
【
図7】ライン変更処理部によるライン変更処理の一例を説明する図である。
【
図8】固定点が固定二重点である場合の粒界エネルギーの算出方法の一例を説明する図である。
【
図9】固定点が固定三重点である場合の粒界エネルギーの算出方法の一例を説明する図である。
【
図10-1】結晶粒解析装置が行う処理動作の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。尚、以下に示す本発明の実施形態においては、結晶粒の解析対象である金属材料として、介在物であるインヒビターを用いて製造される電磁鋼板を適用した場合を例に挙げて説明を行う。
【0014】
図1は、結晶粒解析装置で行われる解析方法の一例を概念的に示す図である。尚、
図1では、説明の都合上、電磁鋼板を構成する多数の結晶粒のうち、1つの結晶粒Aのみを示しているが、実際には、多数の結晶粒により電磁鋼板が形成されるということは言うまでもない。
【0015】
本実施形態の結晶粒解析装置では、
図1に示すようにして、結晶粒をモデル化するようにしている。
まず、
図1(a)に示すように、結晶粒Aの3つの粒界ua~ucの両端点に対応する位置に三重点ia、ie、ifを設定し、粒界ua~ucの中間点に対応する位置に二重点ib~id、ig~iiの各粒界点を設定する。ここで、三重点ia、ie、ifとは、3つの直線が交わる点(すなわち、3つの結晶粒と接する点)をいい、二重点ib~id、ig~iiとは、2つの直線が交わる点(2つの結晶粒と接する点)をいう。そして、同一の粒界ua~uc上で互いに隣接する点(粒界点)iを互いに結ぶ直線(ライン)を設定する。
以上のように、本実施形態では、粒界ua~ucの両端の位置だけでなく、粒界ua~ucの途中の形状も出来るだけ忠実に表すことができるように、二重点ib~id、ig~iiを設定するようにしている。
【0016】
以上のようにしてモデル化された結晶の各点(二重点及び三重点)ia~iiの夫々について、時間tで生じる駆動力Fi(t)[N]を算出する。そして、算出した駆動力Fi(t)に基づいて、Δt[sec]が経過した後(時間t+Δt)における各点(二重点及び三重点)ia~iiの位置を算出する。そうすると、
図1(a)に示す各点(二重点及び三重点)ia~iiの位置は、例えば、
図1(b)に示す位置に移動する。
【0017】
本実施形態の結晶粒解析装置では、以上のように、結晶粒Aに含まれる粒界ua~ucの両端点に対応する三重点ia、ie、ifと、粒界ua~ucの中間点に対応する二重点ib~id、ig~iiとの夫々に生じる駆動力Fi(t)を算出して、三重点ia、ie、ifと、二重点ib~id、ig~iiとが移動する様子を解析する。これにより、例えば、
図1(a)に示す結晶粒Aaが、
図1(b)に示す結晶粒Abのように、時間の経過と共に変化する様子を、大きな計算負荷をかけることなく出来るだけ正確に解析することができる。尚、インヒビター(介在物)を介した結晶粒の挙動については、
図7~
図9を用いた説明の際に詳述する。
【0018】
以下に、結晶粒解析装置の構成について詳細に説明する。
図2は、本実施形態の結晶粒解析装置の機能構成の一例を示すブロック図である。尚、結晶粒解析装置100のハードウェアは、パーソナルコンピュータ等、CPU、ROM、RAM、ハードディスク、画像入出力ボード、各種インターフェース、及びインターフェースコントローラ等を備えた情報処理装置を用いて実現することができる。そして、特に断りのない限り、
図2に示す各ブロックは、CPUが、ROMやハードディスクに記憶されている制御プログラムを、RAMを用いて実行することにより実現される。そして、
図2に示す各ブロック間で、信号のやり取りを行うことにより、以下の処理が実現される。
本実施形態と、特許文献1、2に記載の技術とは、インヒビター設定部118及び固定点処理部120における処理の追加と、濃度分布設定部124の追加がなされた点が主として異なる。以下では、説明の都合上、特許文献1、2に記載の技術と同じ部分も詳細に説明するが、インヒビター設定部118、固定点処理部120、及び濃度分布設定部124に関連する部分以外の部分は、以下に説明する内容に限定されず、例えば、特許文献1、2に記載の技術を適用することができる。
【0019】
図2において、結晶画像取得部101は、例えば、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)法で得られた「『電磁鋼板の結晶粒A』及び『電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビター』の画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」等を取得して、ハードディスク等に記憶するためのものである。尚、以下の説明では、電磁鋼板の結晶粒A及び電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビターの画像を、必要に応じて、結晶粒画像と称する。尚、結晶画像取得部101は、EBSP法による結晶分析を行う分析装置から、前述した信号を直接取得するようにしてもよいし、DVDやCD-ROM等のリムーバル記憶媒体から、前述した信号を間接的に取得してもよい。
【0020】
結晶画像表示部102は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像を、表示装置200に表示させる。尚、表示装置200は、LCD(Liquid Crystal Display)等のコンピュータディスプレイを備えている。また、操作装置300は、キーボードやマウス等のユーザインターフェースを備えている。
【0021】
点設定部103は、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像信号に基づく解析対象領域内において、結晶画像表示部102により表示された結晶粒Aの画像に対して、ユーザが操作装置300を用いて指定した点(二重点及び三重点)iを取得し、取得した点(二重点及び三重点)iの数と、その点iの初期位置ri(0)を示すベクトルとを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、本実施形態では、ユーザは、点(二重点及び三重点)iの数と初期位置を、任意に指定することができるものとする。また、点iの設定は、ユーザによる指定はなく、自動で行うようにしてもよい。
【0022】
また、点設定部103は、計算対象の点(二重点又は三重点)iにおけるΔt[sec]後の位置ri(t+Δt)を示すベクトルが、後述するようにして位置計算部116により計算されると、その点iの位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。また、点設定部103は、後述のライン変更処理部119及び固定点処理部120からの入力に基づいて、現在設定している点iの設定を変更し、これをRAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0023】
ライン設定部104は、点設定部103で設定された点(二重点及び三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインpに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。このように、ラインpは、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iを両端点とする直線である。また、ライン設定部104は、後述するライン変更処理部119での固定点の発生に伴って、ラインpの変更を行う処理も行う。
【0024】
粒界設定部105は、ライン設定部104により設定されたラインpのうち、点設定部103により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uに関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
【0025】
図3は、結晶画像表示部102により表示される結晶粒画像と(
図3(a))、点設定部103により設定される点(二重点及び三重点)iと(
図3(b))、ライン設定部104、粒界設定部105により設定されるラインp、粒界u(
図3(c))の一例を示す図である。尚、説明の都合上、
図3(b)、(c)では、
図3(a)に示す結晶粒画像31に含まれる多数の結晶粒Aのうち、破線で囲まれた結晶粒A1に対して設定された点i、ラインp、粒界uのみを示している。また、
図3(a)に示す結晶粒画像31には、一例として、結晶粒A1の周辺にのみ、介在物であるインヒビター(k1~k4)を示しているが、当該インヒビターは、実際には結晶粒画像31に点在しているものである。
【0026】
図3(a)に示すようにして結晶粒画像31が表示されると、ユーザは、マウス等の操作装置300を用いて、粒界uの両端点に対応する位置を三重点iとして指定すると共に、粒界uの中間点の位置を二重点iとして指定する。そうすると、
図3(b)に示すように、例えば、結晶粒A1に対して、二重点i2~i4、i6~i10、i12~i15、i17、i18と、三重点i1、i5、i11、i16との各粒界点が設定される。
【0027】
そして、これら二重点及び三重点i1~i18に基づいて、
図3(c)に示すように、ラインp1~p18と、粒界u1~u4とが設定される。ここで、例えば、ラインp1は、三重点i1と二重点i2とにより特定される。また、粒界u1は、三重点i1、i5を両端として相互に接続されるラインp1~p4により特定される。尚、
図3(c)に示すように、粒界u1は、結晶粒A1、A2の粒界であり、粒界u2は、結晶粒A1、A5の粒界であり、粒界u3は、結晶粒A1、A4の粒界であり、粒界u4は、結晶粒A1、A3の粒界である。
【0028】
解析温度設定部106は、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)[℃]を、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。尚、解析温度設定部106が取得する解析温度θ(t)は、時間に依らない一定値であっても、時間に依存する値であっても(解析温度θ(t)が時間の経過と共に変化するようにしても)よい。
【0029】
方位設定部107は、結晶画像取得部101により取得された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0030】
粒界エネルギー(γ)記憶部108は、粒界エネルギー記憶手段の一例であり、例えば、単位長さ当たりの粒界エネルギーγ[J/m]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
【0031】
例えば、
図3(c)に示した粒界u1における「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」は、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により設定された解析温度θ(t)とに対応した「単位長さ当たりの粒界エネルギーγ」を、粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。また、粒界エネルギー(γ)記憶部108は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0032】
粒界エネルギー(γ)設定部109は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、前述したようにして粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、粒界エネルギー(γ)設定部109は、読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0033】
易動度記憶部110は、易動度Mi[cm
2/(V・sec)]と、粒界uを介して互いに隣接する2つの結晶粒Aの方位ξの差分Δξの絶対値と、解析温度θ(t)との関係を示すグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせを記憶する。尚、以下の説明では、これらグラフ、数値列、式、又はそれらの組み合わせをグラフ等と称する。
例えば、
図3(c)に示した粒界u1における易動度Miは、結晶粒A1の方位ξ1と結晶粒A2の方位ξ2との差分Δξの絶対値と、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに対応した易動度Miを、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出すことにより得られる。尚、易動度記憶部110は、例えば、RAM又はハードディスクを用いて構成される。
【0034】
易動度設定部111は、方位設定部107により設定された結晶粒Aの方位ξと、解析温度設定部106により取得された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界設定部105により設定された全ての粒界uの易動度Miを、前述したようにして易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。
【0035】
解析時間設定部112は、例えば、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間T[sec]を取得して、RAM又はハードディスクに設定(記憶)する。そして、解析時間設定部112は、解析完了時間Tが経過するまで、時間tを監視する。
【0036】
解析点判別部113は、点設定部103により設定された全ての点(二重点及び三重点、並びに固定点)iを、計算対象の点として、重複することなく順番に指定する。そして、解析点判別部113は、指定した点iが、固定点であるか否かを判別し、固定点でない場合には、更に、二重点であるのか、それとも三重点であるのかを判別する。
【0037】
二重点用駆動力計算部114は、解析点判別部113により、計算対象の点iが二重点であると判別された場合に、その二重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図4は、二重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。
図4では、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。
【0038】
図4において、二重点iと、その二重点に隣接する2つの点i-1、i+1とにより定まる円弧41の曲率半径をRi(t)[m]とする。また、二重点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγの大きさ(絶対値)をγiとする。そうすると、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさは、以下の(1)式で表される。また、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向は、二重点iから曲率中心Oに向かう方向である。
【0039】
【0040】
(1)式を用いて、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を求めるために、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点i、及びその二重点iに隣接する2つの点i-1、i+1の情報を、点設定部103から読み出す。次に、二重点用駆動力計算部114は、二重点iと、その二重点iに隣接する2つの点i-1、i+1とにより定まる円弧41の曲率中心O及び曲率半径Ri(t)を計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iに属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγiを、粒界エネルギー(γ)設定部109から取得する。
【0041】
そして、二重点用駆動力計算部114は、曲率半径Ri(t)と、単位長さ当たりの粒界エネルギーγiとを(1)式に代入して、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の大きさを計算する。また、二重点用駆動力計算部114は、計算対象の二重点iから曲率中心Oに向かう方向を計算し、二重点iに生じる駆動力Fi(t)の方向を決定する。
【0042】
図2の説明に戻り、三重点用駆動力計算部115は、解析点判別部113により、計算対象の点iが三重点であると判別された場合に、その三重点に生じる駆動力Fi(t)を計算する。
図5は、三重点に生じる駆動力Fi(t)の計算方法の一例を説明する図である。尚、
図5では、三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する場合を例に挙げて説明する。また、
図5では、三重点iに隣接する3つの点を夫々「1」、「2」、「3」で表記している。
【0043】
まず、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iと、その三重点iに隣接する3つの点1、2、3の情報を、点設定部103から読み出す。そして、三重点用駆動力計算部115は、計算対象の三重点iから、点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトルを計算する。また、三重点用駆動力計算部115は、点1、2、3が属する粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)を、粒界エネルギー(γ)設定部109から取得する。
【0044】
そして、三重点用駆動力計算部115は、単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)とを、以下の(2)式に代入して、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を計算する。
【0045】
【0046】
尚、(2)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
このように、本実施形態では、点1、2、3が属する粒界uにおける単位長さ当たりの粒界エネルギーγi1、γi2、γi3の大きさ(絶対値)と同じ大きさを有し、且つ、計算対象の三重点iから、その三重点iに隣接する点に向かう方向を有する3つのベクトルDi1(t)、Di2(t)、Di3(t)のベクトル和が、三重点iに生じる駆動力Fi(t)として計算される。
【0047】
図2の説明に戻り、位置計算部116は、二重点iと三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する。まず、二重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
【0048】
位置計算部116は、二重点用駆動力計算部114により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。また、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miを、易動度設定部111から取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の二重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、以下の(3)式に代入して、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0049】
【0050】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、以下の(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の二重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる電磁鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0051】
【0052】
そして、位置計算部116は、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の二重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0053】
次に、三重点iの時間の経過に伴う位置の変化を計算する方法の一例を説明する。
位置計算部116は、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1~Mi3を、易動度設定部111から取得する。
【0054】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1~Mi3を用いて、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。具体的に、位置計算部116は、計算対象の三重点iから点1、2、3に向かう方向を有する単位ベクトル(dij(t)/|dij(t)|)と、計算対象の三重点iが属する3つの粒界uの易動度Mi1~Mi3とを、以下の(5)式に代入して、計算対象の三重点iの易動度Miを計算する。
【0055】
【0056】
尚、(5)式において、jは、計算対象の三重点iに隣接する3つの点を識別するための変数である。
また、位置計算部116は、三重点用駆動力計算部115により計算された駆動力Fi(t)を示すベクトル(計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトル)を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが属する粒界uの易動度Miと、計算対象の三重点iの駆動力Fi(t)を示すベクトルとを、前述した(3)式に代入して、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルを計算する。
【0057】
その後、位置計算部116は、点設定部103に設定されている「計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトル」を取得する。そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iの速度vi(t)を示すベクトルと、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルと、時間Δtとを、前述した(4)式に代入して、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算する。本実施形態では、このようにして、計算対象の三重点iの時間の経過に伴う位置の変化が計算される。尚、前述したように、時間Δtは、点iの位置を計算するタイミング(間隔)を規定するものであり、解析対象となる電磁鋼板の種類や、解析条件、解析精度等に応じて予め定められている。
【0058】
そして、位置計算部116は、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを、点設定部103に出力する。このようにすることによって、前述したように、計算対象の三重点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103で設定される。
【0059】
解析時間設定部112は、位置計算部116において、解析完了時間Tが経過したとき、又は解析完了時間Tが経過した後の位置ri(t+Δt)が、位置計算部116に計算されたか否かを判定することによって、解析完了時間Tまで解析が終了したか否かを判定する。
【0060】
解析画像表示部117は、解析時間設定部112により、解析完了時間Tまで解析が終了したと判定されると、位置計算部116により計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。
【0061】
濃度分布設定部124は、解析対象領域内のマトリックス(インヒビターkが存在する領域以外の領域)における介在物構成元素の濃度の分布を設定する。介在物構成元素は、インヒビターkを構成する元素である。例えば、インヒビターkがAlN(窒化アルミニウム)である場合、介在物構成元素は、AlとNである。この場合、Alの濃度の分布と、Nの濃度の分布とが設定される。以下の説明では、解析対象領域内のマトリックスにおける介在物構成元素の濃度の分布を、必要に応じて元素濃度分布と称する。
【0062】
本実施形態では、時間tが0(ゼロ)における元素濃度分布(元素濃度分布の初期値)は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて設定されるものとする。元素濃度分布の初期値として、例えば、解析対象の電磁鋼板に対する実験データから得られる元素濃度分布や、仮想的に想定した元素濃度分布を用いることができる。その後の時間tにおいては、濃度分布設定部124は、例えば、時間の経過と共に解析対象領域から出る介在物構成元素に応じて元素濃度分布が変化するものとして、元素濃度分布を設定することができる。各時間tにおける元素濃度分布は、例えば、解析対象の電磁鋼板に対する実験データを用いて定めることができる。各時間tにおける元素濃度分布は、例えば、介在物構成元素の拡散速度を用いた数値シミュレーションを行って解析的に定めてもよい。
【0063】
また、後述するように本実施形態では、インヒビター設定部118により、時間t毎に各インヒビターkの大きさが設定(変更)される。そこで、濃度分布設定部124は、以上のようにして元素濃度分布を設定した後、インヒビターkの大きさの増減に対応するように、時間t(t>0)における元素濃度分布を計算(再設定)してもよい。
例えば、現在の時間tにおいて、インヒビターkの大きさが、現在の時間tよりもΔtだけ前の時間t-Δtにおける大きさよりも小さいとする。この場合、現在の時間tにおいて、当該インヒビターkから、当該インヒビターkの周囲に介在物構成元素が放出されていることになる。この場合、放出される介在物構成元素の量は、時間t、t-Δt間におけるインヒビターkの大きさの減少量に応じて定めればよい。本実施形態では、三次元解析を行う場合を例に挙げて説明する。従って、インヒビターkの大きさは体積になる。尚、二次元解析を行う場合には、インヒビターkの大きさは面積になる。
【0064】
一方、現在の時間tにおいて、インヒビターkの大きさが、現在の時間tよりもΔtだけ前の時間t-Δtにおける大きさよりも大きいとする。この場合、現在の時間tにおいて、インヒビターkの周囲から、当該インヒビターkに介在物構成元素が取り込まれていることになる。この場合、取り込まれる介在物構成元素の量は、時間t、t-Δt間におけるインヒビターkの大きさの増加量に応じて定めればよい。
濃度分布設定部124は、以上のインヒビターkの大きさの変化による介在物構成元素の濃度の変化に基づいて、現在の時間tにおける元素濃度分布を計算する。
尚、各時間tにおける元素濃度分布の設定方法は、以上のようなものに限定されない。例えば、差分法を用いた数値シミュレーションにより、元素濃度分布を計算してもよい。また、数値シミュレーションでは、介在物構成元素の時間発展方程式を用いてもよい。この際、例えば、フェーズフィールド法等の手法を用いてもよい。
【0065】
インヒビター設定部118は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、ユーザが操作装置300を用いて介在物であるインヒビターk(k1~k4)を指定すると、結晶画像取得部101で取得された結晶粒画像信号に基づいて、指定されたインヒビターkの領域を検出する。そして、インヒビター設定部118は、検出したインヒビターkの領域を球で近似して、インヒビターkの重心位置bkを示す座標情報と、その半径rに係る情報を計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0066】
図6は、インヒビターの設定方法の一例を説明する図である。
図6において、破線部は、検出されたインヒビターkの領域を示している。この場合、インヒビター設定部118は、破線で示した検出領域を、
図6に示すように球で近似して、インヒビターkの重心位置bkを示す座標に関する情報と、その半径rに関する情報を計算する。ここで、インヒビター設定部118により設定されるインヒビターkは、粒界点と異なり、時間の経過に伴う位置の変化をしないものである。
【0067】
インヒビター設定部118は、以上のようにしてインヒビターkの重心位置と、時刻t=0における半径とを設定する。尚、結晶画像取得部101により取得された結晶粒画像信号に基づく解析対象領域内にインヒビターkを設定していれば、以上のようにしてインヒビターkの重心位置を設定しなくてもよい。例えば、予め設定された数のインヒビターkの重心位置のそれぞれをランダムに設定してもよい。また、時刻t=0におけるインヒビターkの半径も、以上のようにして設定する必要はない。例えば、時刻t=0における全てのインヒビターkの半径を予め設定された一定値としてもよい。また、時刻t=0における全てのインヒビターkの半径を予め設定する際に、インヒビターkの位置によって、時刻t=0におけるインヒビターkの半径を異ならせてもよい。例えば、電磁鋼板の表面からの距離(板厚方向の深さ)に応じて、時刻t=0におけるインヒビターkの半径を異ならせてもよい。例えば、電磁鋼板の表面に近い位置にあるインヒビターkであるほど、時刻t=0における半径を小さくすることができる。
【0068】
インヒビター設定部118は、時間t(t>0)においては、インヒビターkの半径rkを時間t毎に設定(変更)する。本実施形態では、インヒビター設定部118は、以下の(6)式に基づいて、時間tにおけるインヒビターkの半径rkを計算する。
rk=F(f(t),g(m,t),h(sk'/sk,dk',t),u(yk)) ・・・(6)
【0069】
(6)式において、Fは、関数f(t)、g(m,t)、h(sk'/sk,dk',t)、u(yk)に依存する関数である。
関数f(t)は、時間t(のみ)に依存する関数である。
関数g(m,t)は、インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mと時間t(のみ)に依存する関数である。即ち、g(m,t)は、インヒビターkの周囲の介在物構成元素の時間tにおける濃度m(のみ)に依存する関数である。例えば、インヒビターkの重心位置から所定の範囲内の各位置における介在物構成元素の濃度の平均を、介在物構成元素毎に計算し、計算した介在物構成元素毎の濃度の平均を、インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mとして採用することができる。この場合、mの数は、介在物構成元素の数と等しくなる。ただし、インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mは、このようにして求める必要はない。複数の介在物構成元素のうち、予め定めれた一部の介在物構成元素の濃度のみを、関数g(m,t)のmに含めてもよい。
【0070】
関数h(sk'/sk,dk',t)は、インヒビターkの大きさskに対するインヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'の比sk'/skと、インヒビターk、k'の(重心位置の)距離dk'と、時間t(のみ)に依存する関数である。即ち、関数h(sk'/sk,dk',t)は、時間tにおける、インヒビターkの大きさskに対するインヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'の比sk'/skと、インヒビターk、k'の(重心位置の)距離dk'(のみ)に依存する関数である。インヒビターkの周囲のインヒビターk'として、例えば、インヒビターkの重心位置から所定の範囲内に重心位置があるインヒビターkのうち、半径が最も大きいインヒビターkを採用することができる。本実施形態では、三次元解析を行うので、インヒビターk、k'の大きさは、例えば、インヒビターk、k'の体積である。尚、二次元解析を行う場合、インヒビターk、k'の大きさは、例えば、インヒビターk、k'の面積である。
関数u(yk)は、電磁鋼板の表面からインヒビターkの重心位置まで距離yk(のみ)に依存する関数である。
【0071】
関数f(t)、g(m,t)、h(sk'/sk,dk',t)、u(yk)を、現在の時間tよりもΔtだけ前の時間t-Δtにおけるインヒビターkの半径r'kに対する変更量とすると、時間tにおけるインヒビターkの半径rkは、例えば、以下の(6a)式で表すことができる。
rk=r'k+f(t)+g(m,t)+h(sk'/sk,dk',t)+u(yk) ・・・(6a)
【0072】
関数f(t)としては、例えば、時間tが経過するほど小さな値(絶対値が大きい負の値)になる関数を採用することができる。関数g(m,t)としては、例えば、インヒビターkの周囲の介在物構成元素の時間tにおける濃度mが低いほど小さな値(絶対値が大きい負の値)になる関数を採用することができる。関数h(sk'/sk,dk',t)としては、例えば、インヒビターkの大きさskに対するインヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'の比sk'/skが大きく、インヒビターkとインヒビターk'との距離dk'が小さいほど小さな値(絶対値が大きい負の値)になる関数を採用することができる。関数u(yk)としては、電磁鋼板の表面からインヒビターkの重心位置まで距離ykが短いほど小さな値(絶対値が大きい負の値)になる関数を採用することができる。具体的な関数の形や係数については、例えば、解析対象の電磁鋼板に対する実験データを用いて回帰分析の手法を用いて定めることができる。また、具体的な関数の形や係数として、仮想的に想定したものを用いてもよい。また、結晶粒解析装置100を実際に運用しながら、妥当な解析結果(または目標とする解析結果)が得られるように、具体的な関数の形や係数をトライアンドエラーにより定めてもよい。
【0073】
関数f(t)、g(m,t)、h(sk'/sk,dk',t)、u(yk)は、全て用いる必要はなく、これらの何れか1つまたは2つまたは3つを用いてもよい。簡単な例として、関数Fが、関数f(t)のみに依存するものとすると、時間tにおけるインヒビターkの半径rkは、例えば、以下の(6b')式および(6b'')式で表すことができる。
rk=rk0(1-t/200) (0<t≦200[sec]) ・・・(6b')
rk=0 (t>200[sec]) ・・・(6b'')
ここで、rk0は、時間t=0におけるインヒビターkの半径である。(6b')式は、時間tが0超200[sec]以下の場合に適用される式であり、(6b'')式は、時間tが200[sec]超の場合に適用される式である。
【0074】
ライン変更処理部119は、ライン設定部104で設定されている各ラインpについて、インヒビター設定部118で設定されたインヒビターk内を通るか否かを判定し、ラインpがインヒビターk内を通る場合に、ラインpを変更する処理を行う。
【0075】
図7は、ライン変更処理部119によるライン変更処理の一例を説明する図である。
図7(1a)~(6a)は、ライン変更処理部119による処理前のラインpの一例が示されている。また、
図7(1a)~(6a)に示す各ラインpに対する第1の処理例を
図7(1b)~(6b)に示し、第2の処理例を
図7(1c)~(6c)に示している。
【0076】
具体的に、ライン変更処理部119は、
図7(1a)に示すように、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの端点(粒界点)がインヒビターk内にない場合には、
図7(1b)又は
図7(1c)に示すように、ラインp上の任意の位置に二重点inを発生させ、ラインpを2つのラインに分割する。そして、ライン変更処理部119は、発生させた二重点inをインヒビターkの重心位置(bk)に移動させ、これを固定点ikとする処理を行う。この場合の固定点ikは、ラインpの端点とラインを構成する固定二重点となる。この場合、
図7(1b)又は
図7(1c)に示すように、固定点ikが新たに発生すると共に、ラインpが、固定点ikを端点とする2つのラインp'1及びp'2に分割される。
【0077】
また、ライン変更処理部119は、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの一方の端点(粒界点)がインヒビターk内にある場合(
図7(2a)~(4a)に示す場合)には、インヒビターk内にある端点をインヒビターkの重心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(
図7(2b)~(4b)又は
図7(2c)~(4c)に示す固定点ik)とする処理を行う。この場合、ラインpが固定点ikを一方の端点とするラインに変更される。
【0078】
また、ライン変更処理部119は、ラインpがインヒビターk内を通る場合であって、ラインpの両方の端点(粒界点)がインヒビターk内にある場合(
図7(5a)及び(6a)に示す場合)には、インヒビターk内にあるラインpを消滅させる処理を行う(
図7(5b)及び(6b)、又は、
図7(5c)及び(6c))。さらに、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある2つの点をインヒビターkの重心位置(bk)に位置する1つの固定点ik(
図7(5b)及び
図7(6b)、又は、
図7(5c)及び(6c)に示す固定点ik)とし、ラインpの各端点とラインを構成していたそれぞれの端点と固定点ikとを端点とするラインを構築する処理を行う。
【0079】
すなわち、ライン変更処理部119は、ライン設定部104により設定されたラインpがインヒビターk内を通る場合に、当該インヒビターk内に重心位置bkを固定位置とする固定点ikを発生させ、当該固定点ikを端点とするラインの変更処理を行う。
【0080】
そして、ライン変更処理部119は、点設定部103及びライン設定部104に対して、点の変更(消滅、発生を含む)、ラインの変更(消滅、発生を含む)に伴う各種の再設定処理を行わせる。
【0081】
後述するように、本実施形態では、以上のようにして設定された固定点ikが、ある条件を満たすと、当該固定点ikを通常の点(移動可能な点)にして、当該固定点ikを解放する。
そこで、有効範囲設定部122は、固定点ikを解放させるか否かを決定する際に考慮する粒界uの範囲に関する情報を、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて取得し、RAM又はハードディスクに設定する。ここでは、この粒界uの範囲に関する情報を、操作装置300の操作に基づいて取得しているが、結晶粒解析装置100に有効範囲記憶部を設けて、そこから、予め記憶された「粒界uの範囲に関する情報」を読み出すようにしてもよい。尚、以下の説明では、この範囲を、必要に応じて有効範囲と称する。
本実施形態では、インヒビターkの重心位置bkを中心とする球を有効範囲として設定するものとする。よって、粒界エネルギー(E)算出部121は、有効範囲の半径に関する情報を有効範囲設定部122から取得する。この有効範囲は、実験的に求めることができるものである。具体的に説明すると、固定点ikと、当該固定点ikと隣接する点iとを結ぶ2つの直線のなす角度のうち、最も鋭角な角度(例えば
図8、
図10の角度2β)が、何度であるときに、固定点ikが適切に解放されるのかを実験的に求めておき、その求めた角度に基づいて、固定点ikが適切に解放される有効範囲を決定するようにすることができる。ただし、固定点ikを含み、且つインヒビターkよりも広い領域であって、粒界エネルギーを算出する対象を画定する領域であれば、どのように有効範囲を決定してもよい。
【0082】
また、本実施形態では、有効範囲設定部122で設定された有効範囲内にある粒界uにおいて固定点ikが解放されるとき(直前又は直後を含む)に生じる粒界エネルギーの増大分が、ある乗り越え可能な所定のエネルギーよりも小さくなった場合(固定点ikが解放されるとき(直前又は直後を含む)の粒界エネルギーと、固定点ikが固定されているときの粒界エネルギーとの差が、ある所定のエネルギーよりも小さくなった場合)に、固定点ikを解放するようにしている。
そこで、障壁エネルギー設定部123は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、この所定のエネルギーに関する情報(エネルギーの値)を取得し、RAM又はハードディスクに設定する。ここでは、この所定のエネルギーに関する情報(エネルギーの値)を、操作装置300の操作に基づいて取得しているが、結晶粒解析装置100に障壁エネルギー記憶部を設けて、そこから、予め記憶された"所定のエネルギーに関する情報(エネルギーの値)"を読み出すようにしてもよい。尚、以下の説明では、この所定のエネルギーを障壁エネルギーと称する。
【0083】
粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikの座標情報、当該固定点ikを端点とするラインpの他方の各端点の位置を示す情報、当該固定点ikを重心位置bkとするインヒビターkに関する情報を取得する。また、粒界エネルギー(E)算出部121は、粒界エネルギー(γ)設定部109から固定点ikが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを取得する。更に、粒界エネルギー(E)算出部121は、有効範囲に関する情報を取得する。
【0084】
粒界エネルギー(E)算出部121は、これらの取得した情報に基づいて、固定点ikがインヒビターkに拘束されて固定されているときの、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEiを計算(算出)する。
本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、有効範囲内において、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEiを算出する。また、本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikを重心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとして粒界エネルギーEiの計算(算出)を行う。
【0085】
ここで、具体的に、
図8及び
図9を用いて、固定点ikが、二重点(固定二重点)である場合と三重点(固定三重点)である場合の粒界エネルギーEiの算出方法について、以下に説明する。
図8は、固定点ikが固定二重点である場合の粒界エネルギーの算出方法の一例を説明する図である。
図9は、固定点ikが固定三重点である場合の粒界エネルギーの算出方法の一例を説明する図である。
図8及び
図9では、インヒビターkの形状が球である場合を例に挙げて示す。
【0086】
まず、固定点ikが二重点である場合、
図8(a)に示すように、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikと当該固定点ikに隣接する点ir、itとを最短距離で結ぶラインpa、pbの点ir、it方向の延長線と、有効範囲801との交点802、803を求める。ここで、インヒビターk内には、粒界uは存在しない。このため、粒界エネルギー(E)算出部121は、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さL1、L2として、固定点ikと交点802、803との間の長さKから、インヒビターkの半径rの長さを差し引いた長さを求める。
【0087】
また、固定点ikは二重点であるため、2つの有効長さL1、L2(=K-r)の部分は、同一の粒界uに属していると見なすことができる。よって、例えば、
図8に示した、固定点ikが二重点である場合の粒界エネルギーEiは、以下の(7)式により算出される。
Ei=(ラインpa、pbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×(L1+L2) ・・・(7)
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、固定点ikを端点の1つとする仮想ライン(点ikと、点802、803とを最短距離で結ぶ仮想ライン)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEiが算出されることになる。前述したように、インヒビターkの半径rの長さは、時間t毎に設定される。従って、例えば、インヒビターkの半径rが時間tの経過と共に短くなれば、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さL1、L2は大きくなる。この場合、固定点ikが二重点である場合の粒界エネルギーEiは、時間tの経過と共に大きくなる。
【0088】
一方、
図9(a)に示すように、固定点ikが三重点である場合は、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikを端点とする各ラインpa、pb、pcのうち、平衡位置wを挟む位置にあるラインpa、pbの延長線(平衡位置が存在する領域を画定する2つの仮想ライン)と、有効範囲801との交点802、803を求める。平衡位置wとは、固定点ikが固定位置(インヒビターkの重心位置bk)から解放されて、インヒビターk内を除く領域の位置であって、粒界エネルギーEが最小となる位置をいう。
また、インヒビターk内には、粒界uは存在しない。このため、粒界エネルギー(E)算出部121は、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さとして、固定点ikと交点802、803との間の長さKから、インヒビターkの半径rの長さを差し引いた長さを求める。
【0089】
また、固定点ikが三重点であるため、2つの有効長さL1、L2(=K-r)の部分は、夫々、異なる粒界uに属していると見なすことができる。よって、例えば、
図9に示した固定点ikが三重点である場合の粒界エネルギーEiは、以下の(8)式により算出される。
Ei=(ラインpaを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ1)×L1+(ラインpbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ2)×L2 ・・・(8)
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、固定点ikを端点の1つとする仮想ライン(点ikと、点802、803とを最短距離で結ぶ仮想ライン)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEiが算出されることになる。前述したように、インヒビターkの半径rの長さは、時間t毎に設定される。従って、例えば、インヒビターkの半径rが時間tの経過と共に短くなれば、粒界エネルギーEiの算出の際に用いられる有効長さL1、L2は大きくなる。この場合、固定点ikが三重点である場合の粒界エネルギーEiは、時間tの経過と共に大きくなる。
【0090】
更に、粒界エネルギー(E)算出部121は、平衡位置wにあるときの、解放された固定点ikが属する粒界の粒界エネルギーEi'を計算(算出)する。
本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、有効範囲801内において、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEi'を算出する。また、本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iを重心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとし、また、その他のインヒビターkは存在しないものとして粒界エネルギーEi'を算出する。
【0091】
ここで、具体的に、
図8及び
図9を用いて、固定点iが、二重点(固定二重点)である場合と三重点(固定三重点)である場合の粒界エネルギーEi'の算出方法について、以下に説明する。
【0092】
まず、固定点ikが二重点である場合、粒界エネルギー(E)算出部121は、前述したようにして、点802、803と、有効長さL1、L2とを求める。ここで、固定点ikが二重点である場合には、ラインpaを含む有効長さL1の部分と、ラインpbを含む有効長さL2の部分とは、同一の粒界uに属していると見なすことができる。このため、平衡位置wは、点802と点803とを最短距離で結んだライン(仮想ライン)805上の任意の位置となる。ここで、ライン(仮想ライン)805の長さをQ0とする。また、ライン805における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpa、pbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγと見なすことができる。
【0093】
よって、例えば、
図8に示した、平衡位置wにあるときの粒界エネルギーEi'は、以下の(9)式により算出される。
Ei'=(ラインpa、pbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×(Lw1+Lw2)=(ラインpa、pbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×Q0 ・・・(9)
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、平衡位置wを通る仮想ライン(点802、803を最短距離で結ぶ仮想ライン)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEi'が算出されることになる。
【0094】
尚、
図8に示す例では該当しないが、ライン805がインヒビターk内を通る場合には、ライン805の長さ(Q0)から、ライン805のインヒビターk内を通る部分の長さを差し引いた長さに対して、単位長さ当たりの粒界エネルギーγを乗算することになる。
【0095】
一方、
図9に示すように、固定点ikが三重点である場合、粒界エネルギー(E)算出部121は、前述したようにして、点802、803を求め、有効長さL1、L2を求める。ここで、固定点ikが三重点である場合には、ラインpaを含む有効長さL1の部分と、ラインpbを含む有効長さL2の部分とは、夫々、異なる粒界uに属していると見なすことができる。ここでは、一例として、平衡位置wが、
図9に示す位置である場合について説明を行う。
【0096】
この場合、粒界エネルギー(E)算出部121は、点802と平衡位置wとを最短距離で結ぶライン(仮想ライン)901と、点803と平衡位置wとを最短距離で結ぶライン(仮想ライン)902と、固定点ikと平衡位置wとを最短距離で結ぶライン(仮想ライン)903とを形成する。この際、粒界エネルギーEi'の算出に用いられる有効長さは、ライン901の長さB1、ライン902の長さB2、及び、ライン903の長さからインヒビターkの半径rを差し引いた長さB3となる。
【0097】
そして、ライン901における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpaを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ1と見なすことができる。また、ライン902における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ2と見なすことができる。また、ライン903のインヒビターk内を除く部分における粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγは、ラインpc(固定点ikと点ivとを最短距離で結ぶライン)を含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ3と見なすことができる。
【0098】
よって、例えば、
図9に示した固定点ikが三重点である場合の粒界エネルギーEi'は、以下の(10)式により算出される。
Ei'=(ラインpaを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×B1+(ラインpbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×B2+(ラインpcを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×B3 ・・・(10)
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、平衡位置wを通る仮想ライン(仮想ライン901~903)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEi'が算出されることになる。
【0099】
更に、本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが解放されるとき(直前又は直後を含む)の、その解放される固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEi''を計算(算出)する。
本実施形態では、有効範囲内において、固定点ikが属する粒界uの粒界エネルギーEi''を算出する。また、本実施形態では、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iを重心位置bkとするインヒビターk内(インヒビターkの表面(境界)は含まない)には、粒界uは存在しないものとし、また、その他のインヒビターkは存在しないものとして粒界エネルギーEi''を算出する。
【0100】
ここで、具体的に、
図8及び
図9を用いて、固定点iが、二重点(固定二重点)である場合と三重点(固定三重点)である場合の粒界エネルギーEi''の算出方法について、以下に説明する。
【0101】
まず、固定点ikが二重点である場合、粒界エネルギー(E)算出部121は、前述したようにして、点802、803と、有効長さL1、L2とを求める。
次に、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikと点802、803とを最短距離で結んだ2つのライン(仮想ライン)のなす角を二等分する線とインヒビターkとの交点804を求める。本実施形態では、固定点ikは、この点804に解放されるものとする。そして、粒界エネルギー(E)算出部121は、点804と、点802、803とを最短距離で結んだライン(仮想ライン)の長さM1、M2を求める。更に、粒界エネルギー(E)算出部121は、点802、803を最短距離で結んだライン(仮想ライン)の長さQ0を求める。
ここで、固定点ikは二重点であるため、2つの有効長さL1、L2(=K-r)の部分は、同一の粒界uに属していると見なすことができる。よって、例えば、
図8に示した、固定点ikが解放されるときの(点804における)粒界エネルギーEi''は、以下の(11)式により算出される。
Ei''=(ラインpa、pbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ)×(M1+M2) ・・・(11)
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、点804を端点の1つとする仮想的なライン(点804と、点802、803とを最短距離で結ぶ仮想ライン)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEi''が算出されることになる。
【0102】
一方、
図9に示すように、固定点ikが三重点である場合、粒界エネルギー(E)算出部121は、前述したようにして、点802、803を求め、有効長さL1、L2を求める。更に、粒界エネルギー(E)算出部121は、前述したようにして、交点804を求める。そして、粒界エネルギー(E)算出部121は、点804と、点802、803とを最短距離で結んだライン(仮想ライン)の長さM1、M2を求める。
【0103】
ここで、固定点ikが三重点である場合には、ラインpaを含む有効長さL1の部分と、ラインpbを含む有効長さL2の部分とは、夫々、異なる粒界uに属していると見なすことができる。よって、例えば、
図9に示した、固定点ikが解放されるときの、当該固定点iが属する粒界uの有効範囲801内における粒界エネルギーEi''は、以下の(12)式により算出される。
Ei''=(ラインpaを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ1)×M1+(ラインpbを含む粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγ2)×M2 ・・・(12)
尚、
図9(a)では、固定点ikと点802、803とを最短距離で結んだ2つのライン(仮想ライン)のなす角を二等分する線上の点に平衡位置wがある場合を例に挙げて示しているが、平衡位置wは、固定点ikと点802、803とを最短距離で結んだ2つのラインのなす角を二等分する線上の位置に限定されるものではない。
このように本実施形態では、固定点ikが属する粒界の仮想的な仮想ラインであって、点804を端点の1つとする仮想的なライン(点804と、点802、803とを最短距離で結ぶ仮想ライン)の長さと、固定点ikが属する粒界における単位長さ当たりの粒界エネルギーとを用いて、粒界エネルギーEi''が算出されることになる。
【0104】
図2の説明に戻り、固定点処理部120は、粒界エネルギー(E)算出部121された粒界エネルギーEiと、粒界エネルギーEi'とを比較し、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満であるか否かを判定する。すなわち、固定点処理部120は、以下の(13)式を満足するか否かを判定する。
Ei'<Ei ・・・(13)
この判定の結果、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)でない場合には、固定点ikを解放しない。
【0105】
一方、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満である場合、固定点処理部120は、粒界エネルギー(E)算出部121で算出された粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギー設定部123から読み出した障壁エネルギーE0未満であるか否かを判定する。すなわち、固定点処理部120は、以下の(14)式を満足するか否かを判定する。
Ei''-Ei<E0 ・・・(14)
この判定の結果、粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満でない場合には、固定点処理部120は、固定点ikが属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下であるか否かを判定する。この判定は、インヒビターkの半径が小さいのにも関わらず固定点ikが解除(解放)されないことを抑制するために行われる。閾値は、このような観点から予め定められる。閾値は、0(ゼロ)であっても0(ゼロ)を上回る値であってもよく、例えば、固定点ikが属する結晶粒の大きさに応じて定めることができる。固定点処理部120は、例えば、固定点ikが属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが、結晶粒の外接円の半径の1/n(nは正の整数)以下であるか否かを判定することができる。この判定の結果、固定点ikが属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値より大きい場合、固定点処理部120は、固定点ikを解放しない。
一方、粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満である場合と、固定点ikが属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下である場合には、固定点ikを解除する(解放する)処理を行う。
【0106】
具体的に、
図8(b)に示すように、本実施形態では、固定点ikが二重点である場合、固定点処理部120は、固定点ikを、点804の位置に移動させ、固定を解除して、通常の点ikとする処理を行う。すなわち、固定点処理部120は、固定点ikの代わりに、固定点ikと点802、803とを最短距離で結んだ2つのライン(仮想ライン)のなす角を二等分する線とインヒビターkとの交点804に、通常の点ikを生成する。
【0107】
また、
図9(b)に示すように、本実施形態では、固定点ikが三重点である場合、固定点処理部120は、固定点ikを、点804の位置に移動させ、固定を解除して、通常の点ikとする処理に加えて、次の処理を行う。すなわち、固定点処理部120は、当該通常の点ik及び点ivと結ばれる固定二重点ixを、インヒビターkの重心位置bkに生成する。ここで、
図9(b)に示すように、点ivは、固定点ikに隣接していた点ir、it、ivのうち、通常の点ikと結ばれない点である。
【0108】
尚、固定点ikの移動後の点の位置は、点804の位置に限定されるわけではなく、例えば、粒界エネルギーEi''が最小となる点の位置に移動させる形態であっても適用できる。この場合の粒界エネルギーEi''の算出方法は、固定点ikが二重点である場合には前述した(11)式により算出され、また、固定点ikが三重点である場合には前述した(12)式により算出される。
また、(14)式の代わりに、例えば、粒界エネルギーEiから粒界エネルギーEi''からを減算した値の絶対値が、障壁エネルギーE0未満であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0109】
このように本実施形態では、(13)式と(14)式の両方を満足すること、または、インヒビターkの半径rが閾値以下であることが、固定点ikの解放条件となる。
図2の説明に戻り、固定点処理部120は、点設定部103に対して、固定点iの変更に伴う再設定を行わせる。
【0110】
次に、
図10-1~
図10-4のフローチャートを参照しながら、結晶粒解析装置100が行う処理動作の一例を説明する。尚、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、CPUが、ROMやハードディスクから制御プログラムを読み出して実行を開始することにより、
図10-1に示すフローチャートの処理が開始される。
【0111】
まず、
図10-1のステップS1において、結晶画像取得部101は、電磁鋼板の結晶粒A及び電磁鋼板の結晶粒A間に存在するインヒビターの画像信号(結晶粒画像信号)と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されるまで待機する。結晶粒画像信号と、その画像信号に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号とが入力されると、処理はステップS2に進む。
このように本実施形態では、例えば、ステップS1の処理を行うことにより、画像信号取得手段の一例が実現される。
【0112】
処理がステップS2に進むと、結晶画像表示部102は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づく結晶粒画像31を、表示装置200に表示させる。このとき、結晶画像表示部102は、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとの入力をユーザに促すための画像も表示装置200に表示させる。そして、ここでは、解析温度θ(t)と、解析完了時間Tとが順次入力された後に、結晶粒画像31を参照しながらユーザが点(二重点又は三重点)iを指定できるようにする場合を例に挙げて説明する。
【0113】
次に、ステップS3において、解析温度設定部106は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されるまで待機する。そして、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が入力されると、処理はステップS4に進む。
【0114】
ステップS4に進むと、解析温度設定部106は、入力された解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)を、RAM又はハードディスクに設定する。尚、
図10-1~
図10-4のフローチャートでは、解析対象の電磁鋼板(結晶粒A)の解析温度θ(t)が、一定値である場合を例に挙げて説明する。
【0115】
次に、ステップS5において、解析時間設定部112は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、解析完了時間Tが入力されるまで待機する。そして、解析完了時間Tが入力されると、処理はステップS6に進む。
【0116】
処理がステップS6に進むと、解析時間設定部112は、入力された解析完了時間Tを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0117】
次に、ステップS7において、点設定部103は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。点(二重点又は三重点)iが指定されると、処理はステップS8に進む。
【0118】
処理がステップS8に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点iの位置ri(t)を示すベクトルを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0119】
次に、ステップS9において、点設定部103は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、点(二重点又は三重点)iを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされていない場合、処理はステップS7に戻り、既に指定された点(二重点又は三重点)iと別の点(二重点又は三重点)iが指定されるまで待機する。
【0120】
一方、ステップS9の判定の結果、点iを指定する作業の終了指示がなされた場合、処理はステップS10に進む。処理がステップS10に進むと、点設定部103は、ステップS7で指定されたと判定した点(二重点又は三重点)iの数(すなわち、ステップS7の処理を行った回数)NIを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS7~S10の処理を行うことにより、粒界点設定手段の一例が実現される。
【0121】
次に、
図10-2のステップS11において、インヒビター設定部118は、結晶画像表示部102により表示された結晶粒画像31に対して、インヒビターkが指定されるまで待機する。インヒビターkが指定されると、処理はステップS12に進む。
【0122】
処理がステップS12に進むと、インヒビター設定部118は、ステップS1で取得された結晶粒画像信号に基づいて、ステップS11で指定されたと判定したインヒビターkの領域を検出し、この検出領域を球で近似して、インヒビターkの重心位置bkを示す座標情報と、その半径rに関する情報を計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
【0123】
次に、ステップS13において、インヒビター設定部118は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされたか否かを判定する。この判定の結果、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされていない場合には、ステップS11に戻り、既に指定されたインヒビターkと異なる別のインヒビターkが指定されるまで待機する。
【0124】
一方、ステップS13の判定の結果、インヒビターkを指定する作業の終了指示がなされた場合、処理はステップS14に進む。処理がステップS14に進むと、インヒビター設定部118は、ステップS11で指定されたと判定したインヒビターkの数(すなわち、ステップS11の処理を行った回数)NKを計算して、RAM又はハードディスクに設定する。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS11~S14の処理を行うことにより、介在物設定手段の一例が実現される。
【0125】
次に、ステップS15において、有効範囲設定部122は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、有効範囲801に関する情報(本実施形態では、有効範囲801の半径に関する情報)が入力されるまで待機する。そして、有効範囲801に関する情報が入力されると、処理はステップS16に進む。
【0126】
処理がステップS16に進むと、有効範囲設定部122は、有効範囲801に関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS17において、障壁エネルギー設定部123は、ユーザによる操作装置300の操作に基づいて、障壁エネルギーE0に関する情報(本実施形態では、障壁エネルギーE0の値)が入力されるまで待機する。そして、障壁エネルギーE0に関する情報が入力されると、処理はステップS18に進む。
処理がステップS18に進むと、障壁エネルギー設定部123は、障壁エネルギーE0に関する情報を、RAM又はハードディスクに設定する。
【0127】
次に、ステップS19において、ライン設定部104は、ステップS8で設定された点(二重点又は三重点)iのうち、同一の粒界u上で互いに隣接する2つの点iにより特定されるラインp及びその数NPを、RAM又はハードディスクに設定する。尚、このステップS15におけるラインpの設定に際しては、インヒビターkの存在を考慮せずに行われる。具体的に、ライン設定部104は、ラインpを、そのラインpを特定する2つの点iにより定義する。例えば、
図3(c)に示したラインp1は、以下の(15)式のように定義される。
p1={i1,i2} ・・・(15)
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS19の処理を行うことにより、ライン設定手段の一例が実現される。
【0128】
次に、ステップS20において、粒界設定部105は、ステップS19で設定されたラインpのうち、ステップS8により設定された三重点iを両端として互いに接続されたラインpにより特定される粒界uを、RAM又はハードディスクに設定する。具体的に、粒界設定部105は、粒界uを、その粒界uを特定する複数のラインpにより定義する。例えば、
図3(c)に示した粒界u1は、以下の(16)式のように定義される。
u1={p1,p2,p3,p4} ・・・(16)
【0129】
次に、ステップS21において、方位設定部107は、ステップS1で入力されたと判定された「結晶粒画像31に含まれる各結晶粒Aの方位ξを示す信号」に基づいて、結晶粒画像31に含まれる全ての結晶粒Aの方位ξを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0130】
次に、ステップS22において、粒界エネルギー(γ)設定部109は、ステップS21で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、粒界エネルギー(γ)記憶部108に記憶されたグラフ等から、ステップS20で設定された全ての粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを読み出す。そして、粒界エネルギー(γ)設定部109は、読み出した単位長さ当たりの粒界エネルギーγを、RAM又はハードディスクに設定する。
【0131】
次に、ステップS23において、易動度設定部111は、ステップS21で設定された結晶粒Aの方位ξと、ステップS4で設定された解析温度θ(t)とに基づいて、易動度記憶部110に記憶されたグラフ等から、ステップS20で設定された全ての粒界uの易動度Miを読み出す。そして、易動度設定部111は、読み出した易動度Miを、RAM又はハードディスクに設定する。
次に、ステップS24において、濃度分布設定部124は、元素濃度分布の初期値(時間tが0(ゼロ)における元素濃度分布)を設定する。
【0132】
次に、
図10-3のステップS25において、解析時間設定部112は、時間tを0(ゼロ)に設定する。
【0133】
解析時間設定部112で解析時間tが0に設定されると、処理はステップS26に進む。処理がステップS26に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pを1に設定する。この際、ライン変更処理部119は、ステップS19で設定したラインpに関する情報を、ライン設定部104から取得する。
【0134】
次に、ステップS27において、ライン変更処理部119は、増減する点の数を示すΔNIを0(ゼロ)に設定すると共に、増減するラインの数を示すΔNPを0(ゼロ)に設定する。
【0135】
次に、ステップS28において、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kを1に設定する。この際、ライン変更処理部119は、ステップS12で設定されたインヒビターkに関する情報(インヒビターkの重心位置bkを示す座標情報及びその半径rに係る情報)を、インヒビター設定部118から取得する。
【0136】
ここで、以下の説明においては、必要に応じて、
図7に示した図も参照しながら説明を行う。
ステップS29において、ライン変更処理部119は、ステップS26で取得したラインpに関する情報及びステップS28で取得したインヒビターkに関する情報に基づいて、ラインpがインヒビターk内を通るか否かを判定する。この際、インヒビターkの表面(境界)は、インヒビターk内でないと判定される。この判定の結果、ラインpがインヒビターk内でない場合(
図7(1a)~(6a)に該当しない場合)、処理はステップS39に進む。
【0137】
一方、ステップS29の判定の結果、ラインpがインヒビターk内を通る場合には、処理はステップS30に進む。処理がステップS30に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
【0138】
ステップS30の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にない場合(
図7(1a)に示す場合)、処理はステップS31に進む。処理がステップS31に進むと、ライン変更処理部119は、ラインp上の任意の位置に二重点(
図7(1b)又は
図7(1c)に示す二重点in)を発生させる。これにより、ラインpは、2つのラインに分割されることになる。
【0139】
次に、ステップS32において、ライン変更処理部119は、ステップS31でラインp上に発生させた二重点(
図7(1b)又は
図7(1c)に示す二重点in)をインヒビターkの重心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(
図7(1b)又は
図7(1c)に示す固定点ik)とする。この場合の固定点ikは、ラインpの端点とラインを構成する固定二重点となる。これにより、固定点ikが新たに発生し、点の数が1つ増えることになる。また、ラインpが2つのライン(
図7(1b)又は
図7(1c)にそれぞれ示すラインp'1、p'2)に分割されるため、ラインの数も1つ増えることになる。また、この場合、ライン変更処理部119は、新たに発生させた固定点ikに関する情報(例えば、当該点が固定点であることを示す情報やその座標情報)、及び、新たに設定したラインに関する情報(例えば、ラインpの各端点と当該固定点ikとの間にラインが設定されたことを示す情報)を、RAM又はハードディスクに記憶する。
【0140】
次に、ステップS33において、ライン変更処理部119は、ステップS31及びS32の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ増えたため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を加算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を加算して、当該ΔNPを変更する。
【0141】
一方、ステップS30の判定の結果、ラインpの端点がインヒビターk内にある場合(
図7(2a)~(6a)に示す場合)、処理はステップS34に進む。処理がステップS34に進むと、ライン変更処理部119は、ラインpの両端点がインヒビターk内にあるか否かを判定する。
【0142】
ステップS34の判定の結果、ラインpの両端点がインヒビターk内にない場合、すなわち、ラインpの端点の一方のみがインヒビターk内にある場合(
図7(2a)~(4a)に示す場合)、処理はステップS35に進む。処理がステップS35に進むと、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある端点をインヒビターkの重心位置(bk)に移動させ、これを固定点ik(
図7(2b)~(4b)又は
図7(2c)~(4c)に示す固定点ik)とする。尚、
図7(3a)に示す場合には、インヒビターk内にある端点がインヒビターkの重心位置(bk)にあるため、当該移動の処理は行われない。この場合には、点の数及びラインの数の増減が生じないため、増減する点の数を示すΔNI及び増減するラインの数を示すΔNPの変更は行われない。また、この場合、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある端点を固定点ikに変更したことを示す情報を、RAM又はハードディスクに記憶する。
【0143】
一方、ステップS34の判定の結果、ラインpの両端点がインヒビターk内にある場合(
図7(5a)及び(6a)に示す場合)、処理はステップS36に進む。処理がステップS36に進むと、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にあるラインpを消滅させる(
図7(5b)及び(6b)、又は、
図7(5c)及び(6c))。これにより、ラインの数は1つ減ることになる。
【0144】
次に、ステップS37において、ライン変更処理部119は、インヒビターk内にある2つの点をインヒビターkの重心位置(bk)に移動させ(本例では、第1の処理例となる)、これを1つの固定点ik(
図7(5b)及び
図7(6b)に示す固定点ik)とする。尚、
図7(6a)に示す場合には、インヒビターk内にある一方の端点がインヒビターkの重心位置(bk)にあるため、当該一方の端点については移動の処理は行われない。このステップS37の処理により、点の数は1つ減ることになる。また、この場合、ライン変更処理部119は、ラインpにおける2つの端点を1つの固定点ikに変更したことを示す情報、及び、当該ラインpを消滅させたことを示す情報を、RAM又はハードディスクに記憶する。
【0145】
次に、ステップS38において、ライン変更処理部119は、ステップS36及びS37の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ減ったため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を減算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を減算して、当該ΔNPを変更する。
【0146】
ステップS33、ステップS35、或いはステップS38の処理が終了すると、処理はステップS39に進む。処理がステップS39に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NKより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NKより小さい場合には、ステップS14で設定された全てのインヒビターkについて処理していないと判定し、処理はステップS40に進む。
【0147】
処理がステップS40に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のインヒビターを示す変数kに1を加算して、処理対象のインヒビターkを変更する。この際、ライン変更処理部119は、ステップS40で設定したインヒビターkに関する情報(インヒビターkの重心位置bkを示す座標情報及びその半径rに関する情報)を、インヒビター設定部118から取得する。そして、変更したインヒビターkに対して、ステップS29以降の処理を再度行う。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS25~S40の処理を行うことにより、ライン変更処理手段の一例が実現される。
【0148】
一方、ステップS39の判定の結果、処理対象のインヒビターを示す変数kがステップS14で設定された数NK以上である場合には、ステップS14で設定された全てのインヒビターkについて処理したと判定し、処理はステップS41に進む。
【0149】
処理がステップS41に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pがステップS19で設定された数NPより小さいか否かを判定する。この判定の結果、処理対象のラインを示す変数pがステップS19で設定された数NPより小さい場合には、ステップS19で設定された全てのラインpについて処理していないと判定し、処理はステップS42に進む。
【0150】
処理がステップS42に進むと、ライン変更処理部119は、処理対象のラインを示す変数pに1を加算して、処理対象のラインpを変更する。この際、ライン変更処理部119は、当該ステップS42で設定したラインpに関する情報を、ライン設定部104から取得する。そして、変更したラインpに対して、ステップS28以降の処理を再度行う。
【0151】
一方、ステップS41の判定の結果、処理対象のラインを示す変数pがステップS19で設定された数NP以上である場合には、ステップS19で設定された全てのラインpについて処理したと判定し、処理はステップS43に進む。
【0152】
処理がステップS43に進むと、ライン変更処理部119は、点設定部103に対して、現在設定している増減する点の数を示すΔNIの情報を出力し、現在設定されている点の数NIに、出力した増減する点の数を示すΔNIを加算させ、点の数NIの再設定を行わせる。また、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、現在設定している増減するラインの数を示すΔNPの情報を出力し、ステップS19で設定したラインの数NPに、出力した増減するラインの数を示すΔNPを加算させ、ラインの数NPの再設定を行わせる。
【0153】
次に、ステップS44において、ライン変更処理部119は、点設定部103及びライン設定部104に対して、点の変更(消滅、発生を含む)、ラインの変更(消滅、発生を含む)に伴う各種の再設定処理を行わせる。
【0154】
具体的に、ライン変更処理部119は、点設定部103に対して、ステップS26~ステップS43の処理で生じた点の変更(消滅、発生を含む)に関する情報を出力し、ステップS8における点iの再設定を行わせる。この際、点設定部103は、発生した固定点ikに関しては、その点の位置を示す座標情報を当該点が固定点であることを示す情報と共に、RAM又はハードディスクに設定する。
【0155】
また、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、ステップS26~ステップS43の処理で生じたラインの変更(消滅、発生を含む)に関する情報を出力し、ステップS19におけるラインpの再設定を行わせる。この際、ライン変更処理部119は、ライン設定部104に対して、点設定部103で再設定した点iに基づいて、ラインの再設定を行わせるようにしてもよい。
【0156】
更に、粒界設定部105では、点設定部103における点iの再設定及びライン設定部104におけるラインpの再設定を契機として、ステップS20における粒界uの再設定が行われる。更に、粒界エネルギー(γ)設定部109では、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、ステップS22における単位長さ当たりの粒界エネルギーγの再設定が行われる。更に、易動度設定部111では、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、ステップS23における易動度Miの再設定が行われる。
【0157】
次に、
図10-4のステップS45において、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iを1に設定する。これにより計算対象の点iが設定される。
次に、ステップS46において、解析点判別部113は、計算対象の点iが、固定点(ik)か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)でない場合、処理はステップS47に進む。
【0158】
処理がステップS47に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点iが、二重点か否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点iが、二重点である場合、処理はステップS48に進む。
【0159】
処理がステップS48に進むと、二重点用駆動力計算部114及び位置計算部116による二重点用駆動力・位置算出処理が行われる。二重点用駆動力・位置算出処理では、(1)式により、二重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルを計算することと、(4)式により、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の二重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算することを含む処理が実行される。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS48の処理を行うことにより、駆動力演算手段及び位置演算手段の一例が実現される。
【0160】
ステップS47の判定の結果、計算対象の点iが、二重点でなく、三重点である場合、処理はステップS49に進む。
処理がステップS49に進むと、三重点用駆動力計算部115及び位置計算部116による三重点用駆動力・位置算出処理が行われる。三重点用駆動力・位置算出処理では、(2)式により、計算対象の三重点iに生じる駆動力Fi(t)を示すベクトルを計算することと、(4)式により、現在の時間tからΔt[sec]が経過したときに、計算対象の三重点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを計算することを含む処理が実行される。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS49の処理を行うことにより、駆動力演算手段及び位置演算手段の一例が実現される。
【0161】
ステップS46の判定の結果、計算対象の点iが、固定点(ik)である場合、処理はステップS50に進む。
処理がステップS50に進むと、固定点処理部120は、解析点判別部113で判定処理された固定点iの座標情報と、当該固定点iとラインpを構成する他方の各点の位置を示す情報とを、点設定部103から読み出す。そして、固定点処理部120は、処理対象の固定点iを重心位置bkとするインヒビターkに関する情報(重心位置bkを示す座標情報及びその半径rに関する情報)を、インヒビター設定部118から読み出す。更に、固定点処理部120は、有効範囲801に関する情報(有効範囲801の半径に関する情報)を、有効範囲設定部122から読み出す。
【0162】
次に、ステップS51において、粒界エネルギー(E)算出部121は、ステップS50で読み出された情報を取得すると共に、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγを粒界エネルギー(γ)設定部109から読み出す。そして、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが属する粒界uの単位長さ当たりの粒界エネルギーγと、有効長さL1、L2とを用いて、固定点iが重心位置bkに固定されているときの、当該固定点iが属する粒界uの有効範囲801内における粒界エネルギーEiを計算(算出)する。
ここで、固定点i(ik)が二重点である場合には、例えば、(7)式を用いて粒界エネルギーEiが算出される。一方、固定点i(ik)が三重点である場合には、例えば、(8)式を用いて粒界エネルギーEiが算出される。
このように本実施形態では、例えば、粒界エネルギーEiにより第1の粒界エネルギーが実現され、ステップS51の処理を行うことにより、粒界エネルギー算出手段の一例が実現される。
【0163】
次に、ステップS52において、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点iが固定位置(インヒビターkの重心位置bk)から解放されて、粒界エネルギーEが最小となる位置(平衡位置)にあるときの、当該解放された固定点iが属する粒界uの有効範囲801内における粒界エネルギーEi'を計算(算出)する。
ここで、固定点i(ik)が二重点である場合には、例えば、(9)式を用いて粒界エネルギーEi'が算出される。一方、固定点i(ik)が三重点である場合には、例えば、(10)式を用いて粒界エネルギーEi'が算出される。
このように本実施形態では、例えば、粒界エネルギーEi'により第2の粒界エネルギーが実現され、ステップS52の処理を行うことにより、粒界エネルギー算出手段の一例が実現される。
【0164】
次に、ステップS53において、固定点処理部120は、ステップS51で算出された粒界エネルギーEiと、ステップS52で算出された粒界エネルギーEi'とを比較し、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満(Ei'<Ei)であるか否かを判定する。この判定の結果、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満でない場合、処理は後述するステップS60に進む。一方、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満である場合、処理はステップS54に進む。
【0165】
処理がステップS54に進むと、粒界エネルギー(E)算出部121は、固定点ikが解放されるときの、当該固定点iが属する粒界uの有効範囲801内における粒界エネルギーEi''を計算(算出)する。
ここで、固定点i(ik)が二重点である場合には、例えば、(11)式を用いて粒界エネルギーEi''が算出される。一方、固定点i(ik)が三重点である場合には、例えば、(12)式を用いて粒界エネルギーEi''が算出される。
このように本実施形態では、例えば、粒界エネルギーEi''により第3の粒界エネルギーが実現され、ステップS54の処理を行うことにより、粒界エネルギー算出手段の一例が実現される。
【0166】
次に、ステップS55において、固定点処理部120は、障壁エネルギーE0に関する情報を、障壁エネルギー設定部123から読み出す。そして、固定点処理部120は、粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満であるか否かを判定する。この判定の結果、粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満でない場合、処理は後述するステップS60に進む。
一方、粒界エネルギーEi''から、粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満である場合、処理はステップS56に進む。
【0167】
処理がステップS56に進むと、固定点処理部120は、ステップS46で判定した固定点i(ik)が二重点か否かを判定する。この判定の結果、固定点i(ik)が二重点である場合、処理はステップS57に進む。処理がステップS57に進むと、固定点処理部120は、固定点i(ik)を、インヒビターkの表面(境界)に移動させ、固定を解除して、点804の位置に通常の点i(ik)を生成する(
図8(b)を参照)。そして、処理は後述するステップS61に進む。
【0168】
一方、固定点i(ik)が二重点ではなく、三重点である場合、処理はステップS58に進む。処理がステップS58に進むと、固定点処理部120は、固定点i(ik)を、インヒビターkの表面(境界)に移動させ、固定を解除して、点804の位置に通常の点i(ik)を生成する。更に、固定点処理部120は、固定点i(ik)に隣接していた点i(ir、it、iv)のうち、生成した通常の点i(ik)と結ばれない点i(iv)と、生成した通常の点i(ik)と結ばれる固定二重点i(ix)を、インヒビターkの重心位置(bk)に生成する(
図9(b)を参照)。
次に、ステップS59において、ライン変更処理部119は、ステップS58の処理で点の数及びラインの数がそれぞれ1つ増えたため、現在設定されている、増減する点の数を示すΔNIに1を加算して、当該ΔNIを変更すると共に、現在設定されている、増減するラインの数を示すΔNPに1を加算して、当該ΔNPを変更する。そして、処理は後述するステップS61に進む。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS57、S58の処理を行うことにより、固定点処理手段の一例が実現される。
【0169】
ステップS53において、粒界エネルギーEi'が粒界エネルギーEi未満でない場合と判定された場合と、ステップS55において、粒界エネルギーEi''から粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満でないと判定された場合、処理はステップS60に進む。処理がステップS60に進むと、固定点処理部120は、固定点i(ik)が属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下であるか否かを判定する。この判定の結果、固定点i(ik)が属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下である場合、処理は、前述したステップS56に進む。これにより、固定点i(ik)による固定が解除される(ステップS57、S58を参照)。一方、固定点i(ik)が属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下でない場合、処理はステップS61に進む。
【0170】
以上のようにして処理がステップS61に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さいか否かを判定する。この判定の結果、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NIより小さい場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされていないと判定し、処理はステップS62に進む。
処理がステップS62に進むと、解析点判別部113は、計算対象の点を示す変数iに1を加算して、計算対象の点iを変更する。そして、変更した点iに対して、ステップS46以降の処理を再度行う。
【0171】
一方、ステップS61において、計算対象の点を示す変数iが点設定部103で現在設定されている点の数NI以上であると判定された場合には、点設定部103で現在設定されている全ての点iについて処理がされたと判定し、処理はステップS63に進む。
処理がステップS63に進むと、固定点処理部120は、点設定部103に対して、ステップS57、S58における点iの変更に伴う再設定を行わせる。また、これと同時に、位置計算部116は、点設定部103に対して、ステップS48又はステップS49で計算された点iが存在する位置ri(t+Δt)を示すベクトルを出力する。これにより、点iの現在の位置ri(t)を示すベクトルが、点設定部103に再設定される。
【0172】
そして、ライン設定部104では、点設定部103における点iの再設定を契機として、ラインpの再設定が行われる。更に、粒界設定部105では、点設定部103における点iの再設定及びライン設定部104におけるラインpの再設定を契機として、粒界uの再設定が行われる。更に、粒界設定部105における粒界uの再設定を契機として、粒界エネルギー(γ)設定部109及び易動度設定部111における再設定も行われる。
【0173】
次に、ステップS64において、解析時間設定部112は、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きいか否かを判定する。すなわち、解析完了時間Tが経過したか否かを判定する。この判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tより大きくない場合(解析完了時間Tが経過していない場合)、処理はステップ65に進む。処理がステップS65に進むと、解析時間設定部112は、現在設定している時間tに時間Δtを加算して、時間tを更新する。
【0174】
次に、ステップS66において、濃度分布設定部124は、更新後の時間tにおける元素濃度分布を導出し、元素濃度分布を当該導出した元素濃度分布に変更する。
【0175】
次に、ステップS67において、インヒビター設定部118は、更新後の時間tにおけるインヒビターkの大きさ(半径rk)を導出し、インヒビターkの大きさ(半径)を当該導出した大きさ(半径rk)に変更する。前述したように本実施形態では、インヒビター設定部118は、(6)式のtをステップS65で更新された時間tとして、更新後の時間tにおけるインヒビターkの大きさ(半径rk)を導出する。尚、大きさの変更の対象となるインヒビターkは、直前のステップS63における再設定処理で再設定されたインヒビターk(固定点i(ik))である。
以上のように本実施形態では、例えば、ステップS67の処理を行うことにより、介在物設定手段の一例が実現される。
尚、ステップS66、S67の処理をステップS63において行ってもよい。
その後、処理はステップS26に戻り、ステップS26以降の処理を再度行う。そして、ステップS64において、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい(解析完了時間Tが経過した場合)と判定されるまで、ステップS26~ステップS67までの処理が繰り返し行われる。
【0176】
一方、ステップS64の判定の結果、時間tが、ステップS6で設定した解析完了時間Tよりも大きい場合(解析完了時間Tが経過した場合)、処理はステップS68に進む。処理がステップS68に進むと、解析画像表示部117は、ステップS48又はステップS49で計算された「点iの位置ri(t+Δt)のベクトル」に基づいて、時間tが0(ゼロ)からT[sec]までの間に、結晶粒Aの状態がどのように推移するのかを示す画像を、表示装置200に表示させる。そして、
図10-1~
図10-4の一連のフローチャートを終了する。
【0177】
尚、ステップS3で入力される解析温度θ(t)が時間に依存する場合、例えば、ステップS65の後に、ステップS65で設定された時間t+Δtにおける解析温度θ(t+Δt)を読み出し、その解析温度θ(t+Δt)における単位長さ当たりの粒界エネルギーγと易動度Miとを再設定してから、ステップS26以降の処理を行うようにすればよい。
【0178】
以上のように本実施形態では、インヒビター設定部118は、同一の粒界上で互いに隣接する2つの粒界点を両端点とするラインpがインヒビターk内を通る場合に、当該インヒビターk内に固定点ikを発生させ、当該固定点ikを端点とするラインpの変更処理を行う際に、インヒビターkの大きさ(半径rk)を時間tに依存して変化させる。従って、インヒビターkが存在する環境下での結晶粒の状態を解析する際に、結晶粒Aの状態が実際の状態と乖離することを抑制することができる。また、仮想的にインヒビターkの大きさを時間tに依存して変化させることで、新規材料の開発の指針を得ることができる。
【0179】
また、本実施形態では、インヒビター設定部118は、インヒビターkの大きさ(半径rk)を、当該インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mと、当該インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'と、当該インヒビターk、k'の距離dk'と、電磁鋼板の表面から当該インヒビターkの重心位置まで距離ykとに応じて変化させる。従って、結晶粒Aの状態が実際の状態と乖離することをより一層抑制することができる。
【0180】
また、本実施形態では、インヒビター設定部118は、インヒビターkの初期の位置(電磁鋼板の表面からの距離(板厚方向の深さ))に応じて、初期の大きさを設定する。従って、結晶粒Aの初期の状態が実際の状態と乖離することをより一層抑制することができる。
【0181】
また、本実施形態では、固定点処理部120は、固定点ikが属するインヒビターkの現在の時間tにおける半径rが閾値以下である場合、固定点ikを解除する(解放する)。従って、インヒビターkの半径が小さいのにも関わらず固定点ikが解除(解放)されないことを抑制することができる。これにより、固定点ikが解除(解放)されないことにより、結晶粒Aの状態が実際の状態と乖離することを抑制することができる。
【0182】
[変形例1]
本実施形態のように、インヒビターkの大きさ(半径rk)を時間tに依存して変化させる際に、当該インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mと、当該インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'と、当該インヒビターk、k'の距離dk'と、電磁鋼板の表面から当該インヒビターkの重心位置まで距離ykとを考慮するのが好ましい。しかしながら、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、当該インヒビターkの周囲の介在物構成元素の濃度mと、当該インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'と、当該インヒビターk、k'の距離dk'と、電磁鋼板の表面から当該インヒビターkの重心位置まで距離ykとのうちの1つ又は2つ又は3つを考慮し、残りは考慮しなくてもよい。尚、インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'を考慮せずに、インヒビターk、k'の距離dk'を考慮する場合、関数h(sk'/sk,dk',t)は関数h(dk',t)になる。これとは逆に、インヒビターk、k'の距離dk'を考慮せずに、インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'を考慮する場合、関数h(sk'/sk,dk',t)は関数h(sk'/sk,t)になる。また、インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'は、必ずしもインヒビターkの大きさskに対するインヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'の比sk'/skで評価する必要はない。例えば、インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'は、インヒビターkの大きさskとインヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'との差で評価しても、インヒビターkの周囲のインヒビターk'の大きさsk'そのもので評価してもよい。
【0183】
[変形例2]
本実施形態では、粒界uの再現性を高めるために二重点を設定するようにしたが、二重点を設定せずに、三重点のみを設定するようにしてもよい。このようにする場合、例えば、
図10-4のステップS47、S48を省略する。そして、ステップS58、S59の代わりに、固定点iをインヒビターの表面に移動させ、通常の点iを生成するようにする。また、ステップS57の代わりに、固定点iを消滅させると共に、当該固定点iと当該固定点iに隣接する2つの点とを最短距離で結ぶ2つのラインを消滅させて当該固定点iが属する2つの粒界を消滅させた後、固定点iに隣接していた2つの点を結ぶ粒界(ライン)を発生させ、増減する点及びラインの数を示すΔNI及びΔNPを1減算する処理を行う。
【0184】
[変形例3]
本実施形態では、結晶粒解析装置が解析する材料の一例である金属材料として、電磁鋼板を例に挙げて説明したが、本発明に係る結晶粒解析装置が解析する材料は、このようなものに限定されず、インヒビター等の介在物を用いて製造されるものであれば、如何なるものでも適用可能である。尚、結晶粒解析装置が解析する金属材料が異なる場合には、粒界エネルギー(γ)記憶部108や易動度記憶部110に記憶されるグラフ等の内容等、結晶粒解析装置に入力されるデータが、材料に応じて異なることになる。
【0185】
[変形例4]
本実施形態では、粒界エネルギーEi''から粒界エネルギーEiを減算した値が、障壁エネルギーE0未満であるか否かを判定する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、特許文献2のように、障壁エネルギーE0を考慮せず、このような判定を行わなくてもよい。
【0186】
[変形例5]
本実施形態では、インヒビター設定部118において、
図6に示すように、検出したインヒビターkの領域を球で近似してインヒビターkを設定するようにしているが、インヒビターkの形状は球に限定されない。例えば、検出したインヒビターkの領域の形状に応じて、近似する形状を変更するようにしてもよい。この際、例えば、インヒビターkを楕円体に近似する場合には、楕円体の重心位置(固定位置)を示す座標情報と、楕円体の長軸の長さに係る情報と、楕円体の短軸の長さに係る情報を計算して、当該インヒビターkをRAM又はハードディスクに設定する形態を採る。また、例えば、インヒビターkを多面体に近似する場合には、例えば固定位置として重心位置を示す座標情報と、当該多面体における各頂点を示す座標情報を計算して、当該インヒビターkをRAM又はハードディスクに設定する形態を採る。尚、二次元解析を行う場合には、楕円体は楕円に置き換わり、多面体は多角形に置き換わる。
【0187】
[その他の変形例]
尚、以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0188】
100:結晶粒解析装置、101:結晶画像取得部、102:結晶画像表示部、103:点設定部、104:ライン設定部、105:粒界設定部、106:解析温度設定部、107:方位設定部、108:粒界エネルギー(γ)記憶部、109:粒界エネルギー(γ)設定部、110:易動度記憶部、111:易動度設定部、112:解析時間設定部、113:解析点判別部、114:二重点用駆動力計算部、115:三重点用駆動力計算部、116:位置計算部、117:解析画像表示部、118:インヒビター設定部、119:ライン変更処理部、120:固定点処理部、121:粒界エネルギー(E)算出部、122:有効範囲設定部、123:障壁エネルギー設定部、124:濃度分布設定部、200:表示装置、300:操作装置