(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】継手構造、及び自動車部品
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20220928BHJP
B23K 26/323 20140101ALI20220928BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K26/323
B23K11/00 570
(21)【出願番号】P 2019060395
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187616(JP,A)
【文献】特開2008-173666(JP,A)
【文献】特開2013-52413(JP,A)
【文献】特開平9-216069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/36
B23K 26/323
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素量が0.09質量%以上である第1の鋼板部材と、
前記第1の鋼板部材に板厚方向に重ねられた、炭素量が0.09質量%以上である第2の鋼板部材と、
前記第2の鋼板部材における前記第1の鋼板部材が重ねられた側と反対側に、前記板厚方向に重ねられた、炭素量が0.05質量%以下である第3の鋼板部材と、
前記第1の鋼板部材、前記第2の鋼板部材、及び前記第3の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合する溶接部と、を備え、
前記第3の鋼板部材が、前記第2の鋼板部材の端部で折り返されて、前記第1の鋼板部材と前記第2の鋼板部材との間に配されている折り返し部を有し、
前記折り返し部は、前記溶接部によって前記第1の鋼板部材及び前記第2の鋼板部材と接合されている
ことを特徴とする継手構造。
【請求項2】
前記溶接部の一部または全部がスポット溶接部、シーム溶接部、又はレーザ溶接部であることを特徴とする請求項1に記載の継手構造。
【請求項3】
前記溶接部が、前記板厚方向及び前記折り返し部が伸びる方向に直行する方向に、間隔を空けて複数設けられ、
前記第3の鋼板部材の前記折り返し部が、前記溶接部の間において切り欠き部を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の継手構造。
【請求項4】
前記折り返し部が、互いに離隔されて複数設けられている
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項5】
前記継手構造が、追加溶接部をさらに備え、
前記追加溶接部は、前記第1の鋼板部材及び前記第2の鋼板部材のうち一方と、前記第3の鋼板部材と、前記折り返し部とを接合する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項6】
前記第2の鋼板部材及び前記第3の鋼板部材が、接着剤によって接着されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項7】
さらに、前記第2の鋼板部材及び前記折り返し部が、接着剤によって接着されている
ことを特徴とする請求項6に記載の継手構造。
【請求項8】
前記溶接部が複数設けられ、
前記複数の前記溶接部の一部または全部がレーザ溶接部であり、
前記レーザ溶接部の平面視での形状が、直線状、曲線状、円状、円周状、及び円弧状からなる群から選択される一種以上である
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項9】
前記継手構造が、さらに、第4の鋼板部材を備え、
前記第4の鋼板部材は、前記第1の鋼板部材における前記第2の鋼板部材が重ねられた側と反対側、又は、前記第2の鋼板部材と前記第3の鋼板部材との間に、前記板厚方向に重ねられ、
前記溶接部は、前記第1の鋼板部材、前記第2の鋼板部材、及び前記第4の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合する
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の継手構造。
【請求項10】
炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第1の骨格部材と、
前記第1の骨格部材に板厚方向に重ねられた、炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第2の骨格部材と、
前記第2の骨格部材における前記第1の骨格部材が重ねられた側と反対側に、前記板厚方向に重ねられた、炭素量が0.05質量%以下の鋼板から構成される外装部材と、
前記第1の骨格部材、前記第2の骨格部材、及び前記外装部材が重ねられた部分に形成されて互いを溶接する溶接部と、を備え、
前記外装部材が、前記第2の骨格部材の端部で折り返されて、前記第1の骨格部材と前記第2の骨格部材との間に配されている折り返し部を有し、
前記折り返し部は、前記溶接部によって前記第1の骨格部材及び前記第2の骨格部材と接合されている
ことを特徴とする自動車部品。
【請求項11】
Aピラー、Bピラー、サイドシル、又はルーフレールであることを特徴とする請求項10に記載の自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は継手構造及び自動車部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車産業では、車体の軽量化による燃費向上を目的として、車体への高強度鋼板の適用が進められている。車体を構成する鋼板の強度を高めることにより、必要な強度を少ない鋼板量で確保することができ、車体の軽量化を達成することができる。
【0003】
しかしながら、高強度鋼板を車体材料として用いる場合、鋼板同士の溶接部の強度を確保することが難しくなる。例えば、車体材料として用いられる高強度鋼板の溶接方法として現在広く用いられているのはスポット溶接である。
図1に、鋼板の引張強さと、鋼板のスポット溶接部の十字引張強さ(CTS)との関係を概略的に示す。鋼板の引張強さを高めるにつれて、スポット溶接部の十字引張強さも増大する。しかしながら、鋼板の引張強さが約780MPaを超えると、十字引張強さが低下する傾向が生じる。これは、スポット溶接部の溶接金属が硬いほど、ナゲットが脆くなるからであると考えられる。
【0004】
高強度鋼板の溶接部の強度を確保する手段として、特許文献1には、引張強さが400~700MPa、母材の成分組成中におけるCの含有量が0.05~0.12質量%の範囲であり、次式{Ceqt=C+Si/30+Mn/20+2P+4S}で表される炭素当量Ceqtが0.18質量%以上0.22質量%以下の範囲であるとともに、次式{Ceqh=C+Si/40+Cr/20}で表される炭素当量Ceqhが0.08質量%以上であり、さらに、当該鋼板の表面から3μmまでの範囲の深さにおいて、GDS分析法によって測定される平均酸素濃度OC(%)が次式{OC≦0.5}で表される範囲であるスポット溶接用鋼板が開示されている。
【0005】
特許文献2には、二枚以上の鋼板を重ね合せた板組を、一対の溶接電極で挟持し、加圧しながら電流を流して溶接する抵抗スポット溶接方法であって、少なくとも二つの工程からなり、通電により所定の径のナゲットを形成する本通電工程と、本通電工程と同じ加圧力で挟み込んだまま、1サイクル以上20サイクル以下の休止と、短時間の通電からなる後熱通電工程を有することを特徴とする抵抗スポット溶接方法が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載の技術では、鋼板の成分等の制御を通じて溶接部強度の改善が図られている。特許文献2に記載の技術では、後熱通電工程を通じて溶接部強度の改善が図られている。しかしながら、特許文献1の技術によれば、鋼板の溶接部以外の箇所における成分設計の自由度が妨げられる。特許文献2の技術によれば、ナゲットの脆化をある程度緩和することは可能であるが、近年一層高まっている溶接部強度への要求を満たすことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-102370号公報
【文献】特開2010-115706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い接合強度を有する継手構造及び自動車部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る継手構造は、炭素量が0.09質量%以上である第1の鋼板部材と、前記第1の鋼板部材に板厚方向に重ねられた、炭素量が0.09質量%以上である第2の鋼板部材と、前記第2の鋼板部材における前記第1の鋼板部材が重ねられた側と反対側に、前記板厚方向に重ねられた、炭素量が0.05質量%以下である第3の鋼板部材と、前記第1の鋼板部材、前記第2の鋼板部材、及び前記第3の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合する溶接部と、を備え、前記第3の鋼板部材が、前記第2の鋼板部材の端部で折り返されて、前記第1の鋼板部材と前記第2の鋼板部材との間に配されている折り返し部を有し、前記折り返し部は、前記溶接部によって前記第1の鋼板部材及び前記第2の鋼板部材と接合される。
(2)上記(1)に記載の継手構造では、前記溶接部が、前記板厚方向及び前記折り返し部が伸びる方向に直行する方向に、間隔を空けて複数設けられ、前記複数の前記溶接部の一部または全部がスポット溶接部であってもよい。
(3)上記(2)に記載の継手構造では、前記第3の鋼板部材の前記折り返し部が、前記スポット溶接部の間において切り欠き部を有してもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の継手構造では、前記折り返し部が、互いに離隔されて複数設けられていてもよい。
(5)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の継手構造では、前記継手構造が、追加溶接部をさらに備え、前記追加溶接部は、前記第1の鋼板部材又は前記第2の鋼板部材の一方又は両方と、前記第3の鋼板部材とを接合し、前記第1の鋼板部材又は前記第2の鋼板部材の他方とは分かれていてもよい。
(6)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の継手構造では、前記第2の鋼板部材及び前記第3の鋼板部材が、接着剤によって接着されていてもよい。
(7)上記(6)に記載の継手構造では、さらに、前記第2の鋼板部材及び前記折り返し部が、接着剤によって接着されていてもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の継手構造では、前記溶接部が複数設けられ、前記複数の前記溶接部の一部または全部がレーザ溶接部であり、前記レーザ溶接部の平面視での形状が、直線状、曲線状、円状、円周状、及び円弧状からなる群から選択される一種以上であってもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の継手構造では、前記継手構造が、さらに、第4の鋼板部材を備え、前記第4の鋼板部材は、前記第1の鋼板部材における前記第2の鋼板部材が重ねられた側と反対側、又は、前記第2の鋼板部材と前記第3の鋼板部材との間に、前記板厚方向に重ねられ、前記溶接部は、前記第1の鋼板部材、前記第2の鋼板部材、及び前記第4の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合してもよい。
(10)本発明の別の態様に係る自動車部品は、炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第1の骨格部材と、前記第1の骨格部材に板厚方向に重ねられた、炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第2の骨格部材と、前記第2の骨格部材における前記第1の骨格部材が重ねられた側と反対側に、前記板厚方向に重ねられた、炭素量が0.05質量%以下の鋼板から構成される外装部材と、前記第1の骨格部材、前記第2の骨格部材、及び前記外装部材が重ねられた部分に形成されて互いを溶接する溶接部と、を備え、前記外装部材が、前記第2の骨格部材の端部で折り返されて、前記第1の骨格部材と前記第2の骨格部材との間に配されている折り返し部を有し、前記折り返し部は、前記溶接部によって前記第1の骨格部材及び前記第2の骨格部材と接合されていてもよい。
(11)上記(10)に記載の自動車部品は、Aピラー、Bピラー、サイドシル、フロアメンバー、バンパー、フロントサイドメンバー、リアサイドメンバー、バッテリーフレーム、又はルーフレールであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い接合強度を有する継手構造及び自動車部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】鋼板の引張強さと、鋼板のスポット溶接部の十字引張強さ(CTS)との関係を概略的に示すグラフである。
【
図2】本発明の継手構造の一例の断面概略図である。
【
図4】本発明の継手構造の一例の製造方法の概略図である。
【
図5】折り返し部が切り欠き部を有する本発明の継手構造の一例の斜視図である。
【
図6】複数の折り返し部が間隔を空けて設けられた本発明の継手構造の一例の斜視図である。
【
図7A】追加溶接部を有する本発明の継手構造の一例の斜視図である。
【
図7B】
図7Aの継手構造のVIIB-VIIB断面図である。
【
図7C】
図7Aの継手構造のVIIC-VIIC断面図である。
【
図8A】追加溶接部を有する本発明の継手構造の一例の斜視図である。
【
図8B】
図8Aの継手構造のVIIIB-VIIIB断面図である。
【
図8C】
図8Aの継手構造のVIIIC-VIIIC断面図である。
【
図9A】接着剤を用いる本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図9B】接着剤を用いる本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図10A】直線状又は曲線状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図10B】直線状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図10C】直線状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図10D】曲線状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図11】直線状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図12A】円状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図12B】円状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図13A】円周状又は円弧状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図13B】円周状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図13C】円弧状のレーザ溶接部を有する本発明の継手構造の一例の平面図である。
【
図14】第4の鋼板部材をさらに含む本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図15】第4の鋼板部材をさらに含む本発明の継手構造の一例の断面図である。
【
図16】L字引張試験片(形状A)の正面断面図及び側面図である。
【
図17】L字引張試験片(形状B)の正面断面図及び側面図である。
【
図18】L字引張試験片(形状C)の正面断面図及び側面図である。
【
図19】L字引張試験片(形状D)の正面断面図及び側面図である。
【
図20A】本発明の自動車部品の例の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、自動車部品の複数の骨格部材を溶接する部分においてスポット溶接部の強度を高める手段を鋭意検討した。そして本発明者らは、自動車部品の骨格部材は高強度鋼板とされることが通常である一方、骨格部材と組み合わせて用いられる外装部材にあたる鋼板は比較的軟質なものとされることが多い点に着目した。骨格部材は、自動車の強度を確保するためのものであるので、高強度が求められる。そのため、骨格部材は比較的多量の炭素(C)を含有する。一方、外装部材は、自動車の美観を向上させるための種々の曲げ加工を受けるものであり、この用途を考慮すると軟質であることが望ましい。そのため、外装部材のC含有量は、骨格部材のC含有量よりも少ないことが通常である。
【0013】
そして本発明者らは、外装部材として用いられている鋼板を、溶接部の炭素を希釈する手段として用いることに想到した。具体的には、複数の骨格部材を溶接する箇所において、外装部材も同時に溶接することにより、外装部材が炭素希釈手段として機能することを本発明者らは発見した。
【0014】
一方、複数の骨格部材と外装部材とを溶接する手段としてスポット溶接又はレーザ溶接を用いた場合には、上述の炭素希釈効果が充分に発現しないことも明らかになった。これは、外装部材は継手構造の一番外側に配置されているため、スポット溶接やレーザ溶接などで製造された溶融凝固部に占める外装部材由来の材料の割合が小さく、炭素の希釈効果が少ないこと、また、外装部材が骨格部材同士の溶接界面から離れているため、溶接界面近傍での炭素希釈効果が十分でないことによると考えられた。
【0015】
本発明者らは、さらなる検討を重ねた。その結果、外装部材に折り返し部を設け、この折り返し部を骨格部材同士の間に配することで、炭素希釈効果を一層高められることが明らかになった。このような構成を有する継手構造では、骨格部材のうちの1つを2枚の外装部材で挟んだ領域が形成され、この領域がスポット溶接される。このように、複数の外装部材を分散配置することによって、炭素の希釈を促進することができると推定された。
また、外装部材を骨格部材同士の間のみに配した場合は、このような効果が充分に得られないことも明らかになった。外装部材を骨格部材同士の間のみに配して溶接部を製造した場合、溶融凝固部のうち骨格部材同士の溶接界面付近においては炭素希釈効果が得られるものの、溶融凝固部全体での炭素希釈効果は不十分となり、接合強度を充分に高めることはできなかった。即ち、本発明者らは、軟質な外装部材を溶接部に複数配し、しかも、これら複数の外装部材同士を用いて一方の骨格部材を挟み込むことで、初めて炭素希釈効果が充分に発現することも知見した。
【0016】
さらに、本発明者らは、上述の構成は自動車部品の骨格部材及び外装部材をスポット溶接する場合のみならず、3枚以上の鋼板部材を溶接して製造される継手構造全般において、異種の鋼板を混合することによって溶接部の特性を改善する手段として広く適用可能であることを知見して、本発明を完成するに至った。
【0017】
上述の知見によってなされた本実施形態に係る継手構造の具体的な態様について、以下に説明する。
【0018】
本発明の一態様に係る継手構造は、
図2の概略図及び
図3の断面写真の例に示されるように、第1の鋼板部材11と、第1の鋼板部材11に板厚方向に重ねられた第2の鋼板部材12と、第2の鋼板部材12における第1の鋼板部材11が重ねられた側と反対側に、板厚方向に重ねられた第3の鋼板部材13と、第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13が重ねられた部分に形成されて互いを溶接する溶接部15と、を備える。ここで、第3の鋼板部材13が、第2の鋼板部材12の端部で折り返されて、第1の鋼板部材11と第2の鋼板部材12との間に配されている折り返し部131を有し、折り返し部131は、溶接部15によって第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12と溶接されている。
【0019】
なお、当然のことながら、本実施形態に係る継手構造1が備えるいずれか1つ以上の鋼板部材の端部の全てが上述の構成を有する必要はない。以下、特に断りが無い限り、「端部」との用語は、溶接部15および折り返し部131の一方又は両方による溶接構造に関係する端部(溶接端部)を意味する。しかしながら、本実施形態に係る継手構造1が備えるいずれか1つ以上の鋼板部材が、溶接構造に関係しない端部(非溶接端部)を有することは妨げられない。また、上記以外の形態を有する溶接部をさらに継手構造が有することも妨げられない。例えば、
図6に示されるように、複数の折り返し部131が間隔を空けて設けられており、折り返し部131の間が従来の溶接構造となっていてもよい。即ち、本実施形態に係る継手構造1の構成をその一部又は全部で有する継手構造は、本実施形態に係る継手構造に該当すると判断される。
【0020】
継手構造1における第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12は、互いに板厚方向に重ねられる。これら第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12の形状は特に限定されない。第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12の端部を略直線状とすることは、後述する折り返し部131を容易に形成できるので好ましい。
【0021】
なお、本実施形態に係る継手構造1においては第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12は等価なものである。従って、継手構造1における第1の鋼板部材11と第2の鋼板部材12とが入れ替えられていてもよい。本実施形態では、便宜上、後述する第3の鋼板部材は溶接部において第2の鋼板部材と接して配されるものとするが、第3の鋼板部材は溶接部において第1の鋼板部材と接して配されてもよい。鋼板部材の間の位置関係に関する他の事項に関しても同様である。
【0022】
継手構造1における第3の鋼板部材13は、第2の鋼板部材における第1の鋼板部材が重ねられた側と反対側に、板厚方向に重ねられる。第3の鋼板部材13の形状は特に限定されず、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12等の形状に応じて適宜選択することができる。
【0023】
継手構造1における溶接部15は、第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13が重ねられた部分に形成されて、第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13を溶接する。溶接部15は、継手構造1の溶接強度を担う部分である。
【0024】
継手構造1における第3の鋼板部材13は、折り返し部131を有する。折り返し部131は、第2の鋼板部材12の端部において第3の鋼板部材13を折り返すことによって形成されており、さらに第1の鋼板部材11と第2の鋼板部材12との間に配されている。換言すると、第3の鋼板部材13は、第2の鋼板部材12の端部において折り返されて、第2の鋼板部材12をその両面で挟んでいる。そして、折り返し部131は、溶接部15によって第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12と溶接されている。換言すると、溶接部15は、第1の鋼板部材11、折り返し部131、第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13の全てを溶接するものとされている。
【0025】
第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12の材質は、継手構造の強度を確保するために、炭素量が単位質量%で0.09%以上である鋼板とする(以下、炭素量の単位「質量%」を「%」と略す)。第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12の炭素量を、0.10%以上、0.12%以上、0.15%以上、又は0.20%以上と規定してもよい。第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12の炭素量の上限を規定する必要はないが、例えばこれらの炭素量を0.48%以下、0.43%以下、又は0.37%以下としてもよい。第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12の機械的強度を具体的に規定する必要はないが、例えばこれらの引張強度は780MPa以上としてもよい。また、当然のことながら、第1の鋼板部材11、及び第2の鋼板部材12の炭素量及び機械的強度が相違してもよい。
【0026】
一方、第3の鋼板部材13の材質は、溶融凝固部における炭素希釈効果を得るために、炭素量が0.05%以下である鋼板とする。第3の鋼板部材の炭素量を0.04%以下、0.035%以下、0.03%以下、0.02%以下、又は0.01%以下としてもよい。第3の鋼板部材13の炭素量の下限を規定する必要はないが、例えばこれらの炭素量を0.0001%以上、0.0002%以上、又は0.0004%以上としてもよい。第3の鋼板部材13の機械的強度を具体的に規定する必要はないが、例えばこれらの引張強度は440MPa以下、390MPa以下、又は340MPa以下としてもよい。
【0027】
各鋼板部材の材質及び溶接手段の組み合わせの最も好適な一例として、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12の少なくとも一方を、例えば引張強さ780MPa以上(炭素量0.09%以上)の鋼板(高強度鋼板)とし、第3の鋼板部材13を例えば引張強さ440MPa以下(炭素量0.05%以下)の比較的低強度の鋼板とし、溶接手段をスポット溶接とすることが挙げられる。より好適には、第3の鋼板部材13を引張強さ390MPa以下の極低炭素鋼板(炭素量0.02%以下)とすることが望ましい。最適には、第3の鋼板部材13を引張強さ340MPa以下の極低炭素鋼板(炭素量0.01%以下)とすることがさらに望ましい。この場合、溶接部15を形成するために第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13が一旦溶融され、この際に第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12の炭素が第3の鋼板部材13及びその折り返し部131によって希釈される。従って、溶接部15の炭素量及び硬度は、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12よりも低くなる。
【0028】
図1に示されるように、引張強さ約780MPa以上の鋼板を溶接して得られる溶接継手の十字引張強さ(剥離強度)は、鋼板の引張強さが高いほど、低くなることが通常である。しかしながら、本実施形態に係る継手構造1においては、第3の鋼板部材13及び折り返し部131を介して溶接部15の炭素量及び硬度を低くすることによって、引張強さ約780MPa以上の鋼板を溶接して得られる溶接部15の十字引張強さを高く保つことができるのである。
【0029】
ここで着目されるべきは、溶接部15の炭素を希釈するための第3の鋼板部材13及び折り返し部131が、1つの部品となっている点である。これにより、継手構造1の部品点数を削減し、その製造能率を向上させることができる。また、折り返し部131は、スポット溶接時にチリの飛散を防止する効果も有する。通常の高強度鋼板のスポット溶接においては、チリが発生しやすいという問題がある。チリが構造物の外面に付着すると、塗装不良や外観不良などが生じる。また、チリを除去する工程を構造物の製造方法に設けると、構造物の製造工数の増大が生じる。しかし本実施形態に係る継手構造1では、第2の鋼板部材12の端部を覆う第3の鋼板部材13の折り返し部131が、第2の鋼板部材12からのチリの飛散を防止する。
【0030】
さらに、溶接部15の炭素を希釈するための手段として、第3の鋼板部材13と、その折り返し部131との両方が設けられている点にも着目されるべきである。希釈手段を複数に分けることによって、希釈効率及び希釈速度を高めることができる。このことは、溶接部15の製造手段がスポット溶接である場合に、特に有利となる。スポット溶接とは、重ね合わせた母材を、先端に適切に成形した電極の先端で挟み、比較的小さい部分に電流及び加圧力を集中して局部的に加熱し、同時に電極で加圧して行う抵抗溶接である。また、この電極の内部には冷却水などの冷媒を流通させるための流路が設けられており、加熱及び加圧を行った直後に、電極によって溶接部を急速に冷却し、凝固させることが多い。
【0031】
上述の継手構造1の製造方法は特に限定されない。上述の継手構造1の製造方法の一例は、
図4に示されるように
(1)第2の鋼板部材12、及び第3の鋼板部材13を重ね合わせる工程(第1重ね合わせ工程)と、
(2)第3の鋼板部材13を折り返して折り返し部131を形成する工程(折り返し工程)と、
(3)折り返し部131が第1の鋼板部材11と第2の鋼板部材12との間に配されるように、第1の鋼板部材11と、第2の鋼板部材12及び第3の鋼板部材13とを重ね合わせる工程(第2重ね合わせ工程)と、
(4)第1の鋼板部材11及び第3の鋼板部材13における、第2の鋼板部材12及び折り返し部131と重ねられた領域を、電極3の先端で挟み、電極3を用いて電流を流して局部的に加熱しながら電極3で加圧する工程(スポット溶接工程)と
を備える。
【0032】
本実施形態に係る継手構造1の構成は、様々に変形することができる。例えば
図5に示されるように、溶接部15が板厚方向及び折り返し部が伸びる方向に直行する方向に間隔を空けて複数設けられ、第3の鋼板部材13の折り返し部131が、溶接部15の間において切り欠き部132を有していてもよい。換言すると、折り返し部131が、溶接部15において溶接部15を覆うように幅広く延在し、溶接部15の間においては狭く延在するものであってもよい。これにより、溶接部15の強度を高めながら、継手構造1の軽量化及び材料コストの削減を達成することができる。
【0033】
また、全ての溶接部において折り返し部131が設けられている必要はない。例えば上述した
図6に示されるように、折り返し部131が、互いに離隔されて複数設けられていてもよい。即ち、折り返し部131は局所的に設けられていてもよい。折り返し部131が設けられない箇所においては、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12は折り返し部131を介さずに溶接される。これにより、継手構造1のうち溶接強度を高める必要が無い箇所において第3の鋼板部材13の使用量を削減し、継手構造1の軽量化及び材料コストの削減を達成することができる。なお、
図6に例示された継手構造においては、折り返し部131の間に、第1~第3の鋼板部材を溶接するが折り返し部131を溶接しない溶接部が形成されているが、折り返し部131の間にこのような溶接部を設けなくともよい。
【0034】
鋼板部材が、複数の接合手段の組み合わせによって接合されることも妨げられない。例えば、第2の鋼板部材12及び第3の鋼板部材13が、溶接部15とは別の接合手段(例えば接着剤)によって接着されていてもよい。
図9Aに例示された継手構造1では、第2の鋼板部材12及び第3の鋼板部材13が、溶接部15とは別の接合手段である接着剤17によって接着されている。また、さらに第2の鋼板部材12及び折り返し部131が、溶接部15とは別の接合手段(例えば接着剤)によって接着されていてもよい。
図9Bに例示された継手構造1では、第2の鋼板部材12及び第3の鋼板部材13、並びに第2の鋼板部材12及び折り返し部131が、溶接部15とは別の接合手段である接着剤17によって互いに接着されている。第1の鋼板部材11が、折り返し部131及び第2の鋼板部材12のうち一方又は両方と、溶接部15とは別の手段(例えば接着剤)によって接着されることも妨げられない。
【0035】
溶接部15が溶接によって製造された溶接部である際の、溶接手段の一例としてスポット溶接を既に挙げた。しかし、溶接部の種類はスポット溶接部に限定されない。例えば、溶接部を、シーム溶接によって製造されたシーム溶接部、あるいはレーザ溶接によって製造されたレーザ溶接部とすることができる。レーザ溶接によれば、多様な形状の溶接部15を形成することができる。例えば、レーザ溶接部15を線状に形成してもよい。この場合の継手構造の断面図は
図10Aの通りとなる。また、レーザ溶接部15が、断続的な短い直線状に形成された場合、継手構造の平面図は
図10Bの通りとなり、また、レーザ溶接部15が連続した直線状に形成された場合、継手構造の平面図は
図10Cの通りとなり、また、レーザ溶接部15がジグザグ線状に形成された場合、継手構造の平面図は
図10Dの通りとなる。
図11に示されるように、レーザ溶接部15を第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12の端部から若干離隔した箇所であって、折り返し部131の端部にあたる箇所に、平面視での形状が直線状となるように形成してもよい。
また、レーザ溶接部の平面視での形状を円状にしてもよい。この場合の継手構造の断面図は
図12Aの通りとなり、平面図は
図12Bの通りとなる。
レーザ溶接部の平面視での形状を円周状、又は円周のうち一部が欠けた形状(いわゆる円弧状、又はC字状)にしてもよい。この場合、継手構造の断面図は
図13Aの通りとなる。継手構造の平面図は、レーザ溶接部15の平面視での形状が円周状の場合は
図13Bの通りとなり、レーザ溶接部15の平面視での形状が円弧状の場合は
図13Cの通りとなる。
1つの継手構造1において、これらの形状のうち一種のみを用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、当然のことながら、レーザ溶接とスポット溶接とを併用することも妨げられない。また、継手構造1においてスポット溶接及びレーザ溶接に代えてシーム溶接を用いてもよいし、スポット溶接とシーム溶接とを併用することも妨げられない。
【0036】
溶接部15の構成は、上に例示された形態のいずれであってもよい。さらに、工程を適宜組み合わせることにより、1つの継手構造1に複数種類の形態の溶接部15を形成してもよい。即ち、継手構造1に複数含まれる溶接部15の一部又は全部を、上述の形態とすることができる。
【0037】
本実施形態に係る継手構造1を構成する鋼板部材の枚数は、3枚に限定されない。本実施形態に係る継手構造1が有する折り返し部131の効果は、鋼板部材の枚数とは関係しないからである。例えば、継手構造1がさらに第4の鋼板部材を備えてもよく、第1の鋼板部材における第2の鋼板部材が重ねられた側と反対側、又は、前記第2の鋼板部材と前記第3の鋼板部材との間に、前記板厚方向に重ねられ、前記溶接部は、前記第1の鋼板部材、前記第2の鋼板部材、及び前記第4の鋼板部材が重ねられた部分に形成されて互いを接合するものであってもよい。
図14に例示される継手構造1は、さらに第4の鋼板部材14を備え、第4の鋼板部材14は、第1の鋼板部材11における第2の鋼板部材12が重ねられた側と反対側に板厚方向に重ねられ、溶接部15は、第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第4の鋼板部材14が重ねられた部分に形成されて互いを接合するものである。
図15に例示される継手構造1は、さらに第4の鋼板部材14を備え、第4の鋼板部材14は、第2の鋼板部材12と第3の鋼板部材13との間に板厚方向に重ねられ、溶接部15は、第1の鋼板部材11、第2の鋼板部材12、及び第4の鋼板部材14が重ねられた部分に形成されて互いを接合するものである。また、鋼板部材の枚数を5枚以上にすることも妨げられない。
【0038】
図7A及び
図8Aに示されるように、継手構造1が、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12のうち一方と、第3の鋼板部材13と、折り返し部131とを接合する追加溶接部16を備えてもよい。
図7A及び
図7B(
図7Aの継手構造のVIIB-VIIB断面図)に示される追加接合部16は、第2の鋼板部材12と、第3の鋼板部材13と、折り返し部131とを接合する例であり、
図8A及び
図8B(
図8Aの継手構造のVIIIB-VIIIB断面図)に示される追加接合部16は、第1の鋼板部材11と、第3の鋼板部材13と、折り返し部131とを接合する例である。この追加接合部16において、第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12のうち追加接合部16によって接合されていないものは、追加接合部16において切り欠き部を有していてもよい。4枚の鋼板(第1~第3の鋼板部材、及び折り返し部)を接合する接合部15においては、稀に、第1の鋼板部材11と折り返し部131との間、又は第2の鋼板部材12と第3の鋼板部材13との間で接合不良が生じる恐れがある。接合部15に加えて追加接合部16を継手構造1に設けることによって、第3の鋼板部材13と他の鋼板部材との接合強度を確実に向上させることができる。
【0039】
本実施形態に係る継手構造1の用途は特に限定されない。本実施形態に係る継手構造1の用途の好適な一例として、自動車のピラー(さらに具体的な例として、Aピラー又はBピラー)、サイドシル、及びルーフレールが挙げられる。自動車のピラー及びルーフレールは、自動車の強度を確保するための骨格部材を構成する2枚の高強度鋼板と、自動車の外装を構成する鋼板とを含む場合がある。ここで、骨格部材用の高強度鋼板を本実施形態に係る継手構造1の第1の鋼板部材11及び第2の鋼板部材12とし、外装用の鋼板を第3の鋼板部材13とすることができる。即ち、このような自動車部品は、
図20A~
図20Eに示されるように、炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第1の骨格部材21と、第1の骨格部材21に板厚方向に重ねられた、炭素量が0.09質量%以上の鋼板から構成される第2の骨格部材22と、第2の骨格部材22における第1の骨格部材21が重ねられた側と反対側に、板厚方向に重ねられた、炭素量が0.05質量%以下の鋼板から構成される外装部材23と、第1の骨格部材21、第2の骨格部材22、及び外装部材23が重ねられた部分に形成されて互いを溶接する溶接部25と、を備え、外装部材23が、第2の骨格部材22の端部で折り返されて、第1の骨格部材21と第2の骨格部材22との間に配されている折り返し部231を有し、折り返し部231は、溶接部25によって第1の骨格部材21及び第2の骨格部材22と接合されているものとされる。これにより、自動車2の部品点数を増大させることなく、ピラー及びルーフレールの溶接部の強度を向上させ、自動車の衝突安全性を向上させることができる。具体的には、本実施形態に係る自動車部品をBピラーに適用することにより、自動車2の側面衝突時の溶接部25の破断を、一層強固に防止することができる。本実施形態に係る自動車部品をルーフレールに適用することにより、自動車2のポール側面衝突時の溶接部25の破断を一層強固に防止することができる。本実施形態に係る自動車部品をサイドシルに適用することにより、スモールオーバーラップ衝突試験での溶接部25の破断を一層強固に防止することができる。
【0040】
さらに、本実施形態に係る自動車部品では、溶接部25の強度の向上が外装部材23を用いて達成されているので、部品点数及び工程の増大を最小限とすることができる。当然のことながら、自動車部品が、上述した継手構造1の諸特徴を有してもよい。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するために、本発明による継手構造及び従来構造による継手構造の強度を比較する実験を行った。
【0042】
図16に示すL字引張試験片は、鋼板Aと鋼板Bとを重ね合わせてスポット溶接して得られた物である。スポット溶接部は、鋼板A及び鋼板Bを溶接する(2枚溶接構造)。以下、
図16に示すL字引張試験片の形状を、形状aと称する。
【0043】
図17に示すL字引張試験片は、鋼板Aと鋼板Bとを重ね合わせ、さらに鋼板Cを、鋼板Bにおける鋼板Aが重ねられた側と反対側に重ね合わせてスポット溶接して得られた物であり、ここで、鋼板Cは折り返し部を備えない。スポット溶接部は、鋼板A、鋼板B、及び鋼板Cを溶接する(3枚溶接構造)。以下、
図17に示すL字引張試験片の形状を、形状bと称する。
【0044】
図18に示すL字引張試験片は、鋼板Aと鋼板Bとを重ね合わせ、さらに鋼板Cを、鋼板Bにおける鋼板Aが重ねられた側と反対側に重ね合わせてスポット溶接して得られた物であり、ここで、鋼板Cは鋼板Aと鋼板Bとの間に配された折り返し部を備えるが、スポット溶接部は鋼板Cには及ばないものとされている。即ち、スポット溶接部は、鋼板A、鋼板Cの折り返し部、及び鋼板Bを溶接するが、鋼板Cとは分かれている(3枚溶接構造)。以下、
図18に示すL字引張試験片の形状を、形状cと称する。
【0045】
図19に示すL字引張試験片は、鋼板Aと鋼板Bとを重ね合わせ、さらに鋼板Cを、鋼板Bにおける鋼板Aが重ねられた側と反対側に重ね合わせてスポット溶接して得られた物であり、ここで、鋼板Cは鋼板Aと鋼板Bとの間に配された折り返し部を備え、スポット溶接部は鋼板A、鋼板Cの折り返し部、鋼板B、及び鋼板Cの全てを溶接している(4枚溶接構造)。以下、
図19に示すL字引張試験片の形状を、形状dと称する。
【0046】
種々の引張強さを有する鋼板から、これら形状a~dのいずれかのL字引張試験片を作成し、継手強度を評価した。その結果を以下の表1に示す。なお、「ナゲット径」は、試験片形状a及び形状bについてはA-B間ナゲット径(鋼板Aと鋼板Bとの界面におけるナゲット径)であり、試験片形状c及び形状dについてはA-C間ナゲット径(鋼板Aと、鋼板Cの折り返し部との界面におけるナゲット径)である。また、十字引張強度試験で得られた強度が3.0kN以上となる例を、継手強度が優れた例と判断した。表に記載の鋼板の炭素量は以下の通りであった。
270MPa :0.003質量%
300MPa :0.04質量%
340MPa :0.01質量%
780MPa :0.10質量%
980MPa :0.15質量%
1500MPa:0.22質量%
【0047】
【0048】
表1に示される結果からわかるように、本発明の特徴を備える形状Dによれば、優れた継手強度を確保することができた。一方、炭素量が低い鋼板Cを備えず単に高強度鋼板をスポット溶接した形状A、並びに、鋼板Cを備えるが鋼板Bの片側においてしか溶接されていない形状B及び形状Cによれば、優れた継手強度を確保できなかった。これら実験結果からは、炭素量が低い複数の鋼板Cを、高強度鋼板を挟んで分散配置することが、継手強度の確保のために極めて顕著な効果を奏していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、高い溶接強度を有する継手構造及び自動車部品を提供することができる。特に、本発明は、溶接によって靭性が低下する場合がある高強度鋼板から構成される継手構造及び自動車部品に、高い溶接強度を付与することができる。従って、本発明は高い産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0050】
1 継手構造
11 第1の鋼板部材
12 第2の鋼板部材
13 第3の鋼板部材
131 折り返し部
132 切り欠き部
14 第4の鋼板部材
15 溶接部
16 追加溶接部
17 接着剤
2 自動車
21 第1の骨格部材
22 第2の骨格部材
23 外装部材
231 折り返し部
25 溶接部
3 電極