(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】リチウムイオンキャパシタ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/06 20130101AFI20220928BHJP
H01G 11/22 20130101ALI20220928BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20220928BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20220928BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20220928BHJP
H01M 4/60 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
H01G11/06
H01G11/22
H01G11/24
H01G11/50
H01G11/62
H01M4/60
(21)【出願番号】P 2019181473
(22)【出願日】2019-10-01
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】三木田 梨歩
【審査官】菊地 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-166060(JP,A)
【文献】特開2017-216310(JP,A)
【文献】特開2004-165151(JP,A)
【文献】国際公開第2006/115023(WO,A1)
【文献】特開2013-225413(JP,A)
【文献】特開2013-020760(JP,A)
【文献】特開2020-136436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/06
H01G 11/22
H01G 11/24
H01G 11/50
H01G 11/62
H01M 4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積が1000m
2/g以上でありイオンを吸脱着する炭素質材料を正極活物質として含む正極と、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む負極と、
支持塩として少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のうち1以上のリチウムイミド塩を含み、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と
、を備え
、
前記負極は、ナフタレン骨格を有する前記有機骨格層を備える前記層状構造体を含み、下記(1)~(5)のうち1以上を満たす、リチウムイオンキャパシタ。
(1)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[110]面ピーク強度の比である強度比P
110
/P
011
が0.6以下を示す。
(2)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[11-1]面ピーク強度の比である強度比P
11-1
/P
011
が0.2以上を示す。
(3)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[10-2]面ピーク強度の比である強度比P
10-2
/P
011
が0.2以上を示す。
(4)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[102]面ピーク強度の比である強度比P
102
/P
011
が0.4以上を示す。
(5)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[112]面ピーク強度の比である強度比P
112
/P
011
が0.4以上を示す。
【請求項2】
前記イオン伝導媒体は、前記支持塩と有機溶媒とを含む非水系電解液であり、前記リチウムイミド塩が1.4mol/L以上1.6mol/L以下の濃度で含有する、請求項1に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記負極は、式(1)で表される構造を有する前記層状構造体を含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオンキャパシタ。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウムイオンキャパシタを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしては、芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と、有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含む負極活物質を用いたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この層状構造体は、芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥法で製造される。噴霧乾燥法では、従来とは異なる性状(形状など)の層状構造体を得ることができる。また、リチウムイオンキャパシタとしては、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びLiBF4を所定範囲で含む電解液と、ポリアセン系半導体物質(PAS)を正極活物質とす
る正極と、フェノール樹脂原料から成る難黒鉛化炭素を負極活物質とするものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このリチウムイオンキャパシタでは、高温高電圧環境を経た後の特性変化を小さくすることができるとしている。また、リチウムイオン電池用電解液としては、LiFSI及び水を所定比率で含有するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この電解液では、従来よりもイオン抵抗をより低下することができる。また、電解液として、炭素数3~6のカーボネートと、ビニレンカーボネートと、六フッ化リン酸リチウムと、0.25mol/Lのリチウムビス(オキサラトボレート)とを含むものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。この電解液を、リチウムコバルト複合酸化物の正極活物質を有する正極と、黒鉛の負極活物質を有する負極とに用いると、40℃の高温フロート試験において、サイクル寿命を向上することができるとしている。
【0003】
更に、黒鉛を活物質とする作用極と、リチウム金属の対極と、作用極と対極との間に介在しエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを含む非水系溶媒に1MのLiPF6を支持塩とし4-フルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加剤として含む電解液
を用いたハーフセルが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このハーフセルでは、室温で30回の充放電サイクルを行ったあと、リチウムイオン脱離状態において55℃で保存し、室温に戻して10回の充放電サイクルを行う評価において、FECを5質量%加えると高温保存時の容量維持率が向上することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-166060号公報
【文献】特開2017-216310号公報
【文献】特開2017-212153号公報
【文献】特開2008-159588号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Electrochem.Soc.162,(2015),A1683-A1692
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献1の蓄電デバイスでは、例えば、高温で保存したあとの充放電特性の低下を抑制することは、まだ十分検討されていなかった。また、特許文献2~4や非特許文献1の蓄電デバイスでは、充放電に関する特性を向上することができるとしているが、負極活物質として層状構造体を用いることは検討されていなかった。有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体では、一般的な負極活物質である黒鉛の電位(Li基準電位で0.1V)などに比して高い電位(Li基準電位で0.7V~0.8V)を有しており、一般的な電解液の添加剤や支持塩などをそのまま適用しても効果を示さないなど、一般的な物質をそのまま利用することができないことがあった。そして、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を電極活物質とする電極に対して、適用する添加剤、支持塩および非水系溶媒の組み合わせは数多あり、高温保存性などの特性を高めることは容易ではなかった。このように、層状構造体を電極活物質に用いた電極の高温保存後の充放電特性を高めることが求められていた。
【0007】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、層状構造体を負極活物質とするものの高温保存後の充放電特性を高めることができるリチウムイオンキャパシタを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、イオンを吸着する正極活物質を含む正極と芳香族ジカルボン酸アルカリ金属塩の層状構造体を負極活物質として含む負極を備えたリチウムイオンキャパシタにおいて、特定のイミド塩を支持塩として添加すると、高温保存後の充放電特性を高めることができることを見いだし、本開示の発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本開示のリチウムイオンキャパシタは、
比表面積が1000m2/g以上でありイオンを吸脱着する炭素質材料を正極活物質と
して含む正極と、
2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と前記有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む負極と、
支持塩として少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のうち1以上のリチウムイミド塩を含み、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本明細書で開示するリチウムイオンキャパシタでは、層状構造体を負極活物質とするものにおいて、高温保存後の充放電特性を高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)やリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などのリチウムイミド塩は、優れた熱安定性を示し、それを含むイオン伝導媒体は、広い温度範囲で高いイオン伝導度を示す。そして、層状構造体である負極活物質の初回リチウム吸蔵時に、リチウムイミド塩の分解によって負極表面に被膜が形成して界面が安定化されるために、更なるイオン伝導媒体の分解等の副反応が抑制されるためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ナフタレン骨格を有する層状構造体の構造の一例を示す説明図。
【
図2】リチウムイオンキャパシタ20の一例を示す説明図。
【
図4】実験例1~3の高温保存試験における容量維持率の評価結果。
【
図5】実験例1~3の高温保存試験における電極抵抗の評価結果。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リチウムイオンキャパシタ)
本開示のリチウムイオンキャパシタは、正極と、負極と、イオン伝導媒体とを備えている。正極は、比表面積が1000m2/g以上でありイオンを吸脱着する炭素質材料を正
極活物質として含む。負極は、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を負極活物質として含む。イオン伝導媒体は、支持塩として少なくともリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)のうち1以上のリチウムイミド塩を含み、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する。
【0013】
負極は、有機骨格層とアルカリ金属元素層とを有する層状構造体を負極活物質として含んでいる。この電極活物質は、キャリアであるリチウムイオンを吸蔵放出するものである。この負極活物質は、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層と有機骨格層のカルボン酸に含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成するアルカリ金属元素層とを備える層状構造体を含む。
【0014】
この層状構造体は、2以上の芳香環が縮合した縮合芳香族ジカルボン酸アニオンを含む有機骨格層を有する。この層状構造体は、縮合芳香族化合物のπ電子相互作用により層状に形成され、空間群P21/cに帰属される単斜晶型の結晶構造を有するものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。この層状構造体は、式(1)で表される構造を有するものとしてもよい。但し、この式(1)において、nは0以上3以下の整数であり、この縮合芳香族化合物は、この構造中に置換基、ヘテロ原子を有してもよい。具体的には、縮合芳香族化合物の水素の代わりに、ハロゲン、鎖状又は環状のアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基、アシル基、アミド基、水酸基を置換基として持っていてもよいし、縮合芳香族化合物の炭素の代わりに、窒素、硫黄、酸素が導入された構造であってもよい。より具体的には、この層状構造体は、式(2)に示す縮合芳香族化合物としてもよい。なお、式(1)、(2)において、Aはアルカリ金属である。また、層状構造体は、異なるジカルボン酸アニオンの酸素4つとアルカリ金属元素とが4配位を形成する次式(3)の構造を備えているものとすることが、構造的に安定であり、好ましい。但し、この式(3)において、Rは2以上の芳香環が縮合した縮合芳香環構造を有し、複数あるRのうち2以上が同じであってもよいし、1以上が異なっていてもよい。また、Aはアルカリ金属である。このように、アルカリ金属元素によって有機骨格層が結合した構造を有することが好ましい。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
この層状構造体において、有機骨格層に含まれる縮合芳香環構造は、例えばナフタレンやアントラセン、ピレンなどが挙げられる。この縮合芳香環構造は、五員環や六員環、八員環としてもよく、六員環が好ましい。この有機骨格層は、芳香環に1又は2以上のカルボキシアニオンが結合した構造を有するものとしてもよい。有機骨格層は、ジカルボン酸アニオンのうちカルボン酸アニオンの一方と他方とが縮合芳香環構造の対角位置に結合されている芳香族化合物を含むものとするのが好ましい。カルボン酸が結合されている対角位置とは、一方のカルボン酸の結合位置から他方のカルボン酸の結合位置までが最も遠い位置としてもよく、例えば縮合芳香環構造がナフタレンであれば2,6位が挙げられる。
【0019】
アルカリ金属元素層は、例えば
図1に示すように、カルボン酸アニオンに含まれる酸素にアルカリ金属元素が配位して骨格を形成している。
図1は、2、6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを具体例とする、層状構造体の構造の一例を示す説明図である。アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属は、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができるが、Liが好ましい。なお、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、リチウムイオンキャパシタのキャリアであり、充放電により層状構造体に吸蔵・放出されるリチウムイオンと異なるものとしてもよいし、同じものとしてもよく、例えば、Li,Na及びKなどのうちいずれか1以上とすることができる。また、アルカリ金属元素層に含まれるアルカリ金属元素は、層状構造体の骨格を形成することから、充放電に伴うイオン移動には関与しないもの、すなわち、充放電時に吸蔵放出されないものと推察される。このように構成された層状構造体は、
図1に示すように、構造においては、有機骨格層とこの有機骨格層の間に存在するLi層(アルカリ金属元素層)とにより形成されている。エネルギー貯蔵メカニズムにおいては、層状構造体の有機骨格層はレドックス(e
-)サイトとして機能する一方、アルカリ金属元素層はキャリアである金属イオンの吸蔵サイト(アルカリ金属イオン吸蔵サイト)として機能するものと考えられる。この層状構造体は例えば、2、6-ナフタレンジカルボン酸アルカリ金属塩が好ましい。
【0020】
この層状構造体は、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンとアルカリ金属カチオンとを含む溶液を噴霧乾燥する噴霧乾燥法により作製されるものとしてもよい。噴霧乾燥は、スプレードライヤーにより行うものとしてもよい。噴霧乾燥条件は、例えば、装置の規模や作製する電極活物質の量によって適宜調整すればよい。噴霧乾燥する調製溶液は、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンの濃度が0.1mol/L以上、より好ましくは、0.2mol/L以上であることが好ましい。また、調製溶液は、縮合芳香族ジカルボン酸アニオンのモル数A(mol)に対するアルカリ金属カチオンのモル数B(mol)であるモル比B/Aが2.2以上であることが好ましい。このように、アルカリ金属カチオンを過剰とすることにより、負極の抵抗をより低減することができ、好ましい。このモル比B/Aは、2.5以上であるものとしてもよい。また、このモル比B/Aは、3.0以下であるものとしてもよい。乾燥温度は、例えば、100℃以上250℃以下の範囲とすることが好ましい。100℃以上では、溶媒を十分に除去することができ、250℃以下では、消費エネルギーをより低減でき好ましい。乾燥温度は、120℃以上や150℃以上がより好ましく、220℃以下がより好ましい。また、供給液量は、作製する規模にもよるが、例えば、0.1L/h以上2L/h以下の範囲としてもよい。また、調製溶液を噴霧するノズルサイズは、作製する規模にもよるが、例えば、直径0.5mm以上5mm以下の範囲としてもよい。
【0021】
ナフタレン骨格を有する有機骨格層を備える層状構造体を含む負極では、噴霧乾燥法により作製すると、その層状構造体を含む電極は、X線回折測定結果が下記(1)~(5)のうち1以上を満たす。更に、この負極は、下記(6)~(10)のうち1以上を満たすことが好ましい。ナフタレン骨格を有する層状構造体において、[110]面、[11-1]面、[10-2]面、[102]面及び[112]面の面間隔は、有機骨格層における、ナフタレン骨格とナフタレン骨格との層状構造に基づく間隔である。また、[200]面の面間隔は、アルカリ金属元素層とアルカリ金属元素層との間における有機骨格層に基づく間隔である。[011]面のピーク強度P011に対する[X]面のピーク強度Pxのピーク強度比Px/P011が下記範囲内にあると、結晶性が良好な層状構造体であるといえ、また、噴霧乾燥法で作製されたものであるともいえる。
(1)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[110]面ピーク強度の比である強度比P110/P011が0.6以下を示す。
(2)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[11-1]面ピーク強度の比である強度比P11-1/P011が0.2以上を示す。
(3)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[10-2]面ピーク強度の比である強度比P10-2/P011が0.2以上を示す。
(4)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[102]面ピーク強度の比である強度比P102/P011が0.4以上を示す。
(5)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[112]面ピーク強度の比である強度比P112/P011が0.4以上を示す。
(6)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[110]面ピーク強度の比である強度比P110/P011が0.2以上0.4以下の範囲内である。
(7)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[11-1]面ピーク強度の比である強度比P11-1/P011が0.2以上0.5以下の範囲内である。
(8)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[10-2]面ピーク強度の比である強度比P10-2/P011が0.2以上0.5以下の範囲内である。
(9)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[102]面ピーク強度の比である強度比P102/P011が0.6以上を示す。
(10)電極のX線回折測定での[011]面ピーク強度に対する[112]面ピーク強度の比である強度比P112/P011が0.5以上を示す。
【0022】
この負極は、負極活物質としての上述した層状構造体と、結着材と、導電材とを含む負極合材が集電体に形成されているものとしてもよい。負極合材は、結着材として水溶性ポリマーを含むものとしてもよい。水溶性ポリマーは、カルボキシメチルセルロース(CMC)を少なくとも含み、ポリビニルアルコール(PVA)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)のうちいずれか1以上を含むものとしてもよい。カルボキシメチルセルロースは、例えば、カルボキシメチル基の末端がナトリウムやカルシウムなどである無機塩としてもよいし、カルボキシメチル基の末端がアンモニウムであるアンモニウム塩としてもよい。この負極合材は、負極活物質と導電材と結着材との全体(以下、合材全体とも称する)のうちカルボキシメチルセルロースを1.5質量%以上3.5質量%以下の範囲で含むことが好ましい。カルボキシメチルセルロースが1.5質量%以上では、負極合材に含まれる物質の分散が十分となり、電極抵抗をより低下することができる。また、カルボキシメチルセルロースが3.5質量%以下では、電子パスの阻害発生をより抑制することができ、電極抵抗をより低下することができる。CMCがこの範囲では、電極抵抗をより低下することにより、電極容量をより向上することができる。また、負極合材は、合材全体のうちカルボキシメチルセルロースを2.0質量%未満含むものとしてもよい。あるいは、負極は、カルボキシメチルセルロースを1.8質量%以上2.5質量%以下の範囲で含むことがより好ましい。この範囲では、更に電極抵抗を低減させ、更に電極容量を向上することができる。
【0023】
CMCやPEOを含む水溶性ポリマーは、合材全体のうち5質量%以上12質量%以下の範囲で負極に含まれることが好ましい。ポリエチレンオキシドは、分子量が50万以上であることが好ましく、100万以上がより好ましく、200万以上が更に好ましい。この分子量は、50万以上では、より良好な機能を奏する。この分子量は、300万以下の範囲としてもよい。ポリエチレンオキシドは、電極に8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。スチレンブタジエン共重合体は、電極に8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。ポリビニルアルコール(PVA)は、電極に8質量%以下の範囲で含むことが好ましい。8質量%以下であれば、活物質、導電材、水溶性ポリマーの量が少なくなり過ぎないため、活物質や導電材、水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。また、負極は、上述した水溶性ポリマーに加えて、又はこれに代えて他の結着材を含むものとしてもよい。結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエン-モノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等としてもよい。これらは、単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。
【0024】
導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維などの炭素質材料、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。負極は、電極合材全体のうち導電材を5質量%以上25質量%以下の範囲で含むことが好ましく、10質量%以上としてもよいし、15質量%以上としてもよい。5質量%以上であれば、電極に十分な導電性を持たせることができ、充放電特性の劣化を抑制できる。また、25質量%以下であれば、活物質や水溶性ポリマーが少なくなり過ぎないため、活物質や水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。
【0025】
負極は、負極活物質をより多く含むことが好ましく、負極合材全体のうち負極活物質が65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上としてもよい。また、負極活物質は、負極合材全体のうち85質量%以下や75質量%以下の範囲としてもよい。負極活物質を85質量%以下の範囲で含むものでは、導電材や水溶性ポリマーの量が少なくなり過ぎないため、導電材や水溶性ポリマーの機能を十分に発揮できる。
【0026】
負極において、負極合材は、溶剤を用いてペースト状又は坏土状にして集電体に形成されることが好ましい。この溶剤としては、水を用いてもよいし、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いてもよい。ここでは水溶性ポリマーを用いるため、水が好適である。集電体としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。このうち、負極の集電体は、アルミニウム金属とすることがより好ましい。即ち、層状構造体は、アルミニウム金属の集電体に形成されていることが好ましい。アルミニウムは、豊富に存在し、耐食性に優れるからである。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0027】
正極は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている公知の正極を用いてもよい。正極は、例えば、正極活物質として炭素質材料を含むものとしてもよい。炭素質材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。なお、正極では、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を吸着、脱離して蓄電するものと考えられるが、さらに、イオン伝導媒体に含まれるアニオン及びカチオンの少なくとも一方を挿入、脱離して蓄電するものとしてもよい。
【0028】
正極は、例えば上述した正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に用いる導電材、結着材、溶剤、集電体は、例えば、負極で例示したものなどを適宜用いることができる。
【0029】
このリチウムイオンキャパシタにおいて、イオン伝導媒体は、例えば、支持塩(支持電解質)と有機溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。支持塩は、少なくともLiFSI及びLiTFSIのうち1以上のリチウムイミド塩を含む。また、支持塩として、更に公知のリチウム塩を含むものとしてもよい。このリチウム塩としては、例えば、LiPF6,LiBF4、LiClO4,LiAsF6,Li(CF3SO2)2N,LiN(C2F5SO2)2などが挙げられ、このうちLiPF6やLiBF4などが好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2.0mol/L以下であることがより好ましく、1.4mol/L以上1.6mol/L以下であることが更に好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。有機溶媒としては、例えば、非プロトン性の有機溶媒を用いることができる。このような有機溶媒としては、例えば環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エステル、環状エーテル、鎖状エーテル等が挙げられる。環状カーボネートとしては、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等がある。鎖状カーボネートとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等がある。環状エステルカーボネートとしては、例えばガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン等がある。環状エーテルとしては、例えばテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等がある。鎖状エーテルとしては、例えばジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル等がある。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、非水系電解液としては、そのほかにアセトニトリル、プロピルニトリルなどのニトリル系溶媒やイオン液体、ゲル電解質などを用いてもよい。
【0030】
このリチウムイオンキャパシタは、正極と負極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオンキャパシタの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の微多孔フィルムが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複合して用いてもよい。
【0031】
このリチウムイオンキャパシタの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図2は、リチウムイオンキャパシタ20の一例を示す模式図である。このリチウムイオンキャパシタ20は、カップ形状の電池ケース21と、正極活物質を有しこの電池ケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、電池ケース21の開口部に配設されガスケット25を介して電池ケース21を密封する封口板26と、を備えている。このリチウムイオンキャパシタ20は、正極22と負極23との間の空間にイオン伝導媒体27が満たされている。また、この負極23は、上述した芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として有する。また、イオン伝導媒体27には、LiFSI及びLiTFSIのうち1以上のリチウムイミド塩が含まれている。
【0032】
以上詳述したリチウムイオンキャパシタでは、縮合芳香環構造を含む層状構造体を負極活物質とするものにおいて、高温保存後の充放電特性を高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、LiFSIやLiTFSIなどのリチウムイミド塩は、優れた熱安定性を示し、それを含むイオン伝導媒体は、広い温度範囲で高いイオン伝導度を示す。そして、層状構造体である負極活物質の初回リチウム吸蔵時に、リチウムイミド塩の分解によって負極表面に被膜が形成して界面が安定化されるために、更なるイオン伝導媒体の分解等の副反応が抑制されるためであると推察される。特に、イオンを吸着する正極活物質を含む正極と、縮合芳香族ジカルボン酸金属塩の層状構造体を負極活物質として含む負極とを備えたリチウムイオンキャパシタにおいて、負極は、一般的な負極活物質である黒鉛の電位(Li基準電位で0.1V)などに比して高い電位(Li基準電位で0.7V~0.8V)を有しており、一般的な電解液の支持塩や添加剤などをそのまま適用しても効果を示さないことがある。このため、このリチウムイオンキャパシタでは、一般的な物質をそのまま利用することができなかった。ここでは、LiFSIやLiTFSIを支持塩とすることによって、高温環境を経たリチウムイオンキャパシタの充放電特性を特異的に向上させることができるものと推察される。
【0033】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0034】
以下には、本開示のリチウムイオンキャパシタを具体的に作製した例について説明する。まず、層状構造体をスプレードライ法及び溶液混合法により合成し、電極を作製して評価した例を参考例として説明する。
【0035】
[参考例1,2]
(噴霧乾燥法での2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの層状構造体の合成)
スプレードライ法により層状構造体を作製した。2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムの合成には、出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物(LiOH・H2O)を用いた。2,6-ナフタレンジカルボン酸が0.2mol/L、水酸化リチウムが0.44mol/Lとなるように水に水酸化リチウムを加え撹拌し、調製溶液(水溶液)を調製した。この調製溶液をスプレードライヤー(マイクロミストスプレードライヤーMDL-050、藤崎電機製)を用いて噴霧乾燥させ、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(SD-Naph)の粉末を析出させた。調製溶液の噴霧量(供給量)は0.04L/分、乾燥温度は200℃とした。
【0036】
上記手法で作製した噴霧乾燥法での2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを74.1質量%、粒子状炭素導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500)を18.5質量%、結着材としてのポリビニルアルコール(PVA:ゴウセネックス,T-330,日本合成化学)を7.4質量%を混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔集電体に単位面積当たりの活物質が3mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2cm2の面積に打ち抜いて円盤状の電極を作製し、これを参考例6の電極とした。また、結着材としてカルボキシメチルセルロース(CMC:ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を1.9質量%及びポリビニルアルコール(PVA)を5.6質量%用いた以外は、参考例1と同様に作製した電極を参考例2とした。
【0037】
[参考例3]
溶液混合法により層状構造体を作製した。出発原料として2,6-ナフタレンジカルボン酸および水酸化リチウム1水和物を用い、水酸化リチウム1水和物(0.556g)にメタノール(100mL)を加え撹拌した後に2,6-ナフタレンジカルボン酸を1.0g加え、1時間撹拌した。撹拌したのち溶媒を除去し、真空下150℃で16時間乾燥することにより、白色の粉末試料の2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naph)を得た。この溶液混合法により作製したNaphを活物質として81.0質量%、結着材としてCMCを1.9質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR:日本ゼオン、BM-400B)を2.9質量%用いた以外は、参考例1と同様に作製したものを参考例3の電極とした。
【0038】
(X線回折測定)
参考例1~3の電極のX線回折測定を行った。測定は、放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用し、X線回折装置(リガク製UltimaIV)を用いて行った。また、測定は、X線の単色化にはグラファイトの単結晶モノクロメーターを用い、印加電圧を40kV、電流30mAに設定し、5°/分の走査速度で、電極活物質については2θ=5°~60°の角度範囲で行い、電極については2θ=5°~35°の角度範囲で行った。
【0039】
(蓄電デバイス:二極式評価セルの作製)
エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、支持電解質の六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/Lになるように添加して非水電解液を作製した。上記の手法にて作製した電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に上記非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0040】
(充放電特性評価)
上記作製した二極式評価セルを20℃の温度環境下、0.1mAで0.5Vまで還元した容量を放電容量とした。また、その後0.1mAで1.5Vまで酸化した容量を充電容量とした。また、得られた充放電カーブを用い、電位差に対して充放電カーブの微分値を算出し微分曲線を得た。また、この微分曲線にある2つの異なる内部抵抗性微分カーブのピーク差から充放電分極を算出し、印加電流を考慮してIV抵抗を算出した。なお、IV抵抗は、2サイクル目の充放電カーブを用いた。
【0041】
(結果と考察)
表1に参考例1~3の製造方法、面指数、ピーク強度比P
x/P
011をまとめた。ピーク強度比は、[011]面のピーク強度P
011に対する[X]面のピーク強度P
xの比とした。
図3は、参考例1~3の電極のXRD測定結果である。表1、
図3に示すように、スプレードライ法により作製した電極活物質を含む参考例1、2の電極においては、従来の溶液混合法により作製した電極活物質を含む参考例3の電極と同じ2θ位置にピークが出現した。また、溶液混合法で合成した参考例3のXRDパターンに対して、参考例1、2のXRDパターンでは、[110]面、[11-1]面、[10-2]面、[102]面及び[112]面のピークが相違していた。具体的には、スプレードライ法により作製した電極活物質を含む参考例1、2の電極では、[011]面ピーク強度に対する[110]面ピーク強度の比である強度比P
110/P
011が0.6以下、特に0.2以上0.4以下の範囲内であった。また、参考例1、2では、[011]面ピーク強度に対する[11-1]面ピーク強度の比である強度比P
11-1/P
011が0.2以上、特に0.2以上0.5以下の範囲内であった。また、参考例1、2では、[011]面ピーク強度に対する[10-2]面ピーク強度の比である強度比P
10-2/P
011が0.2以上、特に0.2以上0.5以下の範囲内であった。また、参考例1、2では、[011]面ピーク強度に対する[102]面ピーク強度の比である強度比P
102/P
011が0.4以上、特に0.6以上を示した。また、参考例1、2では、[011]面ピーク強度に対する[112]面ピーク強度の比である強度比P
112/P
011が0.4以上、特に0.5以上を示した。このように、このピーク強度比のいずれか1以上を満たせば、ナフタレン構造を含む層状構造体がスプレードライ法で作成されたものであると特定できることがわかった。
【0042】
【0043】
次に、活性炭を正極活物質とした正極を用いたリチウムイオンキャパシタを作製し、充放電特性などを評価した結果を実験例として説明する。なお、実験例1、2が実施例に相当し、実験例3が比較例に相当する。なお、実験例1、2において、層状構造体は同じであることから、負極のX線回折は、参考例1、2と同様の結果が得られた。
【0044】
[実験例1]
(2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極の作製)
スプレードライ法で作製した2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム(Naph)を74質量%、導電材としてカーボンブラック(東海カーボン、TB5500(直径約50nm))を18質量%、水溶性ポリマーであるカルボキシメチルセルロース(CMC:ダイセルファインケム、CMCダイセル1120)を2質量%、ポリビニルアルコール(PVA:三菱ケミカル、T-330)を6質量%となるように秤量して混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚の銅箔及び炭素を蒸着したCu(日本黒鉛製)の集電体に単位面積当たりの2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム活物質が2.5mg/cm2となるように均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて負極とした。
【0045】
(負極の調整:プレドープ処理)
上述した負極を作用極とし、リチウム金属箔を対極として、両電極の間に非水電解液を含浸させたセパレータを挟んで二極式セルを作製した。非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、所定の支持塩を1.1mol/Lになるように添加したものとした。この二極式セルを用いて、20℃の温度環境下、電圧範囲0.5~1.5V(vs.Li/Li+)、電流値1.5mA(C/10相当)で充放電を行うことにより、負極の容量確認を行い、負極にSOC75%に相当するリチウムを吸蔵させた(プレドープ処理)。
【0046】
(活性炭正極の作製)
活性炭(キャタラー、EXC-11G)を90質量%、導電材としてデンカブラック(デンカ)を4.0質量%、CMCを1.0質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC:ダイセルファインケム、CMCダイセル2200)を1.0質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR:JSR、TRD102A)を5.0質量%となるように秤量して混合し、分散剤として水を適量添加、分散してスラリー状合材とした。このスラリー状合材を10μm厚のアルミニウム箔集電体に、単位体積あたりの正極活物質が4.0mg/cm2となるように均一に塗布し、120℃で真空乾燥して塗布シートを作製した。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて正極とした。
【0047】
(リチウムイオンキャパシタの作製)
EC、DMC、EMCを体積比で30:40:30の割合で混合した溶媒に所定の支持塩と、必要に応じて添加剤を添加し、非水系電解液を作製した。上述した正極と、調整した負極との間に、この非水系電解液を含侵させたセパレータを挟んで非対称型のリチウムイオンキャパシタを作製した。このキャパシタを用いて、20℃の温度環境下、Li基準電位での電圧範囲を1.5~3.1Vとし、電流値1.5mA(1C相当)の定電流充放電を5サイクル繰り返し、得られた放電曲線から作製したキャパシタの初期容量を算出した。
【0048】
[実験例1、2]
支持塩として、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI,キシダ化学製)を1.1mol/Lになるように添加した非水系電解液を用いてプレドープ処理を行い、この非水系電解液を用いて作製したキャパシタを実験例1とした。支持塩として、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI,キシダ化学製)を1.1mol/Lになるように添加した非水系電解液を用いてプレドープ処理を行い、この非水電解液を用いて作製したキャパシタを実験例2とした。
【0049】
[実験例3]
支持塩として、LiPF6を1.1mol/Lになるように添加した非水系電解液を用いてプレドープ処理を行い、この非水系電解液を用いて作製したキャパシタを実験例3とした。
【0050】
(高温保存試験)
実験例1~3のキャパシタに対し、高温保存試験を行った。試験環境温度を60℃に設定し、作製したキャパシタを電流値1.5mA(1C相当)、Li基準電位で1.4-3.0Vまで充電したのち、電流を流さない状態で試験温度環境(60℃)で放置した。所定の高温保存時間を経過すると、試験環境温度を20℃に設定し、Li基準電位での電圧範囲を1.4V~3.0Vとし、電流値1.5mA(1C相当)で定電流充放電試験を実施した。得られた放電曲線から、高温保存後の容量、容量維持率、抵抗を算出した。なお、容量維持率(%)は、初期容量Q0(mAh/g)と、高温保存後の容量Qp(mAh/g)とを用い、Qp/Q0×100の式から算出した。また、抵抗は充電開始1秒後の電圧変化を電流値で除算して求めた。高温保存後の容量を求める高温保存時間は、50h、100h、200h、300h、400h、500h、600h及び700hとした。
【0051】
(充放電サイクル試験)
実験例1~3のキャパシタに対し、充放電サイクル試験を行った。試験環境温度を20℃に設定し、作製したキャパシタをLi基準電位での電圧範囲を1.4V~3.0Vとし、電流値は10mA(10C相当)で1000サイクルの定電流充放電を繰り返した。得られた放電曲線から各サイクルにおける容量と容量維持率を算出した。なお、容量維持率(%)は、初期容量Q0(mAh/g)と、nサイクル時の容量Qn(mAh/g)とを用い、Qn/Q0×100の式から算出した。
【0052】
(結果と考察)
表2に実験例1~3の電解液の組成、高温保存試験での容量維持率(%)、抵抗(Ωcm
2)をまとめた。
図4は、実験例1~3の高温保存試験における容量維持率の評価結果である。
図5は、実験例1~3の高温保存試験における電極抵抗の評価結果である。
図6は、実験例1のサイクル試験での充放電曲線である。
図7は、実験例2のサイクル試験での充放電曲線である。
図8は、実験例3のサイクル試験での充放電曲線である。表2及び
図4に示すように、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウムを含む層状構造体を含む電極を用いたキャパシタでは、LiTFSIやLiFSIを用いた電解液において、高い容量維持率を示した。また、
図5に示すように、60℃保存時において、LiTFSIやLiFSIを用いた電解液を有するキャパシタでは、保存時間に対してIV抵抗をより低減できることが明らかになった。60℃保存時の各時間における充放電カーブ(
図6~8)から、LiTFSIやLiFSIを用いたキャパシタにおいて、劣化が抑制されていることが分かった。活性炭正極において、点線で示した2.3V以上ではアニオン種、2.3V未満では溶媒和リチウムイオンの吸着、脱離による電気二重層形成によってエネルギー貯蔵を行う。実験例1,2では、2.3V以上の容量は高温保存後に変化が見られなかった。また、2.3V未満の容量において、LiPF
6を用いた電解液を有するキャパシタ(実験例3)では充電開始に抵抗増加に相当する充電電圧の上昇がみられ、その領域の放電容量が減少することがわかった。一方、 LiFSIを用いた電解液を有するキャパシタ(実験例2)では、充電開始の電圧上昇が抑制され、その領域の放電容量の減少が少ないことがわかった。更に、LiTFSIを用いた電解液を有するキャパシタ(実験例1)では、充電開始の電圧上昇が非常に少なく、その領域の放電容量の減少が非常に少ないことがわかった。この抵抗の要因は、主に、層状構造体を有する電極界面での電荷移動抵抗であることから、LiPF
6を含む電解液に比べ、LiTFSIやLiFSIを用いた電解液では、層状構造体を含む電極界面に安定で低抵抗な界面を構築し、更に高温下においても劣化することなく安定に存在するため、容量を維持することができると考えられた。
【0053】
LiFSIやLiTFSIなどのリチウムイミド塩を用いることにより高温保存時やサイクル試験での充放電特性が向上する要因について、以下考察する。このような効果が生じるのは、例えば、リチウムイミド塩が優れた熱安定性と高いイオン伝導度を示すためであると推察された。また、LiFSIやLiTFSIでは、LiPF6に比して高温保存試験における抵抗上昇が抑制されていることから、初回のリチウム吸蔵時に、リチウムイミド塩の分解によって負極表面に安定な被膜が形成して界面が安定化し、電解液の分解等といった副反応が抑制されたためであると推察された。一方、LiPF6を用いた場合には、そのような被膜は生成しないものと推察された。このため、LiFSIやLiTFSIに由来する被膜が特異的に高温保存後の充放電特性の向上に寄与しているものと考えられた。
【0054】
【0055】
更に、
図6~8に示すように、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジリチウム負極と活性炭正極とを備えた蓄電デバイスにおいて、活性炭正極上では、ゼロ電荷電位(Potential of zero charge;PZC)としてのリチウム基準電位での2.4Vより高電位側では、アニオンの吸脱着が起こり、それより低電位側では溶媒和Li
+(Li
+(solv.)
4)の吸脱着が起きる。実験例3のように、1.1MのLiPF
6を支持塩とする電解液を用いた場合、サイクル数の増加に伴い活性炭正極上での溶媒和Li
+の吸脱着時に容量劣化が急激に進行することが示唆された(
図8)。一方、実験例1のように1.1MのLiTFSIを支持塩とする電解液(
図6)や、実験例2のように1.1MのLiFSIを支持塩とする電解液 (
図7)を用いた場合、活性炭正極上での溶媒和Li
+の吸脱着時の劣化が抑制されることがわかった。アニオンや溶媒和Li
+の吸脱着により充放電が行われるリチウムイオンキャパシタの構成に対して、LiFSIやLiTFSIが特異的に、負極表面での副反応に加えて、活性炭正極上での吸脱着反応にも影響を与えていることが示唆された。即ち、支持塩と負極との組み合わせだけではなく、支持塩と負極と更に正極との組み合わせにおいても、特別な効果が得られていることがわかった。
【0056】
本開示は、上記の実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本開示は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
20 リチウムイオンキャパシタ、21 電池ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 イオン伝導媒体。