(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】紡糸口金および繊維ウェブの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01D 4/02 20060101AFI20220928BHJP
D04H 1/736 20120101ALI20220928BHJP
【FI】
D01D4/02
D04H1/736
(21)【出願番号】P 2019514324
(86)(22)【出願日】2019-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2019009539
(87)【国際公開番号】W WO2019198397
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018075939
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】船越 祥二
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓
(72)【発明者】
【氏名】田村 知樹
(72)【発明者】
【氏名】兼森 康宜
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/133006(WO,A1)
【文献】特開2000-328347(JP,A)
【文献】特開2011-63926(JP,A)
【文献】国際公開第03/014429(WO,A1)
【文献】特開平11-302916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 4/02
D04H 1/736
D04H 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズル孔が形成された1枚の板状部材または紡糸方向に複数枚の前記板状部材が積層されて構成された紡糸口金であって、
少なくとも1枚の前記板状部材が、
主面内の略矩形の領域内に前記複数のノズル孔が形成されており、
前記ノズル孔が前記矩形の短辺方向に一定の間隔で並んだノズル孔列が、前記矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでおり、
前記矩形の領域内に、複数の前記ノズル孔列と交差し、前記矩形の一方の長辺からもう一方の長辺にわたって一続きで延びる、前記ノズル孔が存在しない非形成帯を有し、
前記ノズル孔列のうち前記非形成帯が交差しているノズル孔列では、各ノズル孔列中で、前記ノズル孔が並ぶ前記一定の間隔の位置に前記非形成帯が交差している部分ではノズル孔が形成されておらず、その形成されていないノズル孔の個数と同じ個数のノズル孔が当該ノズル孔列の短辺方向に補充して形成されており、
全てのノズル孔列のノズル孔の個数が同じである、
紡糸口金。
【請求項2】
複数のノズル孔が形成された1枚の板状部材または紡糸方向に複数枚の前記板状部材が積層されて構成された紡糸口金であって、
少なくとも1枚の前記板状部材が、
主面内の略矩形の領域内に前記複数のノズル孔が形成されており、
前記ノズル孔が前記矩形の短辺方向に並んだノズル孔列が、前記矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでおり、
前記矩形の領域内に、複数の前記ノズル孔列と交差し、前記矩形の一方の長辺からもう一方の長辺にわたって一続きで延びる、前記ノズル孔が存在しない非形成帯を有し、
前記ノズル孔列のうち前記非形成帯が交差していないノズル孔列では、各ノズル孔列中で前記ノズル孔が一定の間隔で並んでおり、
前記ノズル孔列のうち前記非形成帯が交差しているノズル孔列では、各ノズル孔列中の少なくとも一部の前記ノズル孔の間隔が、前記非形成帯が交差していないノズル孔列中のノズル孔の間隔よりも狭くなっており、
全てのノズル孔列のノズル孔の個数が同じである、
紡糸口金。
【請求項3】
前記非形成帯の中に分割線を有する、請求項1または2の紡糸口金。
【請求項4】
前記非形成帯を有する前記板状部材が前記分割線で分割可能である、請求項3の紡糸口金。
【請求項5】
前記非形成帯を有する前記板状部材が、2つ以上の部材が接合されて構成されたものであり、
隣り合う前記2つ以上の部材の接合位置の板状部材の主面における接合線が、前記非形成帯と重なっている、請求項1または2の紡糸口金。
【請求項6】
前記分割線または前記接合線が一本の直線であり、この直線と前記矩形の長辺との成す角度(鋭角)が30~70度の範囲である、請求項3~5のいずれかの紡糸口金。
【請求項7】
前記非形成帯を有する前記板状部材が、2つ以上の部材が間隔をあけて並んで構成されており、
隣り合う前記2つ以上の部材の間隙が、前記非形成帯と重なっている、請求項1または2の紡糸口金。
【請求項8】
前記非形成帯を有する前記板状部材に形成された前記ノズル孔が、さらに孔径の小さな複数の孔が集まって構成されたノズル孔群である、請求項1~7のいずれかの紡糸口金。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかの紡糸口金を用いて繊維ウェブを製造する、繊維ウェブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紡糸口金と、その紡糸口金を用いた繊維ウェブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な繊維ウェブの製造方法は、原料であるチップを押出機で押出すことでポリマとし、加熱ボックス内に設置されたポリマ用の配管を通じて紡糸パックにポリマを導く。その後、導入されたポリマは、紡糸パック内に配置された濾材・フィルターを通ることでポリマ中にある異物を除去され、多孔板にて分配され、紡糸口金のノズル孔から吐出される。その後、延伸工程を通過し、捕集ネット上に繊維ウェブが形成され、最終的にシートとして巻き取られる。
紡糸口金には、多数のノズル孔が穿孔されており、近年は、(i)ノズル孔の孔数をより多くすること、(ii)紡糸口金自体を広幅化すること、により、生産性の向上が図られている。
【0003】
(i)のノズル孔の多数配置については、加工限界までノズル孔を密に穿孔し、ノズル孔を密集させて配置する必要がある。その際に生じる課題に関して、例えば、特許文献1では、口金の吐出面の一部をノズル孔が穿孔されていない無穿孔領域にすることが開示されている。これは、口金吐出面の中央部を無穿孔領域とし、それを挟んで左右両側をノズル孔が穿孔されている穿孔領域にする技術である。これにより、無穿孔領域において、糸条走行に伴う随伴流に起因した上昇気流を形成しやすくなり、少量の不活性ガスがこの上昇気流により口金面近傍に向かい易くなり、つまりは、不活性ガスによる口金面シールを良好に行うことができる。
【0004】
また、特許文献2には、湿式紡糸用の紡糸口金ではあるが、口金吐出面の一部を、一方の長辺から他方の長辺に向かい、長辺方向に直角の方向に延びるノズル孔が形成されていない欠落域とする技術が開示されている。これにより、凝固液流を紡糸口金の中央部にまで供給させることで、生産性を低下させること無く、単糸間バラツキを抑制した繊維を得ることができる。
【0005】
(ii)の紡糸口金の広幅化については、スパンボンドの大手設備メーカであるライフェンホイザー社(ドイツ)が幅5.2mの紡糸機を2017年4月にプレスリリースしている点からも、幅3m以上の超大型の紡糸口金が主流となりつつある状況であり、今後は更なる広幅化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-138464号公報
【文献】特開昭63-235522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(ii)の紡糸口金の広幅化については、特に幅3m以上もあるような非常に幅の広い大型の口金を製作する場合には、高額な長尺加工機が必要となるため、口金の製作費用が高額となる。また、このような長尺加工機では、1つの口金を製作するのに非常に長い時間が必要となる。
【0008】
特許文献1、2には、上述のように、ノズル孔を密集させて配置する際の課題を解決する方法は開示されているが、広幅の口金を製作する具体的な方法は何ら開示されていない。
そこで、本発明は、広幅でありながら、比較的に安価で導入可能な汎用加工機を用いて安価に製作できる紡糸口金を提供する。また、複数台の汎用加工機を同時に使用することにより、短期間で製作ができる紡糸口金を提供する。また、紡糸口金の幅が加工機の幅の制約を受けないため、所望の幅で製作できる紡糸口金を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決する本発明の第1の紡糸口金は、複数のノズル孔が形成された1枚の板状部材または紡糸方向に複数枚の板状部材が積層されて構成された紡糸口金であって、
少なくとも1枚の上記板状部材が、
主面内の略矩形の領域内に上記複数のノズル孔が形成されており、
上記ノズル孔が上記矩形の短辺方向に並んだノズル孔列が、上記矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでおり、
上記矩形の領域内に、複数の上記ノズル孔列と交差し、上記矩形の一方の長辺からもう一方の長辺にわたって一続きで延びる、上記ノズル孔が存在しない非形成帯を有し、
上記ノズル孔列のうち上記非形成帯が交差していないノズル孔列では、各ノズル孔列中で上記ノズル孔が一定の間隔で並んでおり、
上記ノズル孔列のうち上記非形成帯が交差しているノズル孔列では、各ノズル孔列中の少なくとも一部の上記ノズル孔の間隔が、上記非形成帯が交差していないノズル孔列中のノズル孔の間隔よりも狭くなっており、
全てのノズル孔列のノズル孔の個数が同じである。
【0010】
(2)上記課題を解決する本発明の第2の紡糸口金は、複数のノズル孔が形成された1枚の板状部材または紡糸方向に複数枚の上記板状部材が積層されて構成された紡糸口金であって、
少なくとも1枚の上記板状部材が、
主面内の略矩形の領域内に上記複数のノズル孔が形成されており、
上記ノズル孔が上記矩形の短辺方向に一定の間隔で並んだノズル孔列が、上記矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでおり、
上記矩形の領域内に、複数の上記ノズル孔列と交差し、上記矩形の一方の長辺からもう一方の長辺にわたって一続きで延びる、上記ノズル孔が存在しない非形成帯を有し、
上記ノズル孔列のうち上記非形成帯が交差しているノズル孔列では、各ノズル孔列中の上記ノズル孔が並ぶ上記一定の間隔の位置に上記非形成帯が交差している部分ではノズル孔が形成されておらず、その形成されていないノズル孔の個数と同じ個数のノズル孔が当該ノズル孔列の短辺方向に補充して形成されており、
全てのノズル孔列のノズル孔の個数が同じである。
【0011】
本発明の第1および第2の紡糸口金は、以下の(3)~(8)の少なくとも1つの構成を備えることが好ましい。
(3)上記非形成帯の中に分割線を有する。
(4)上記非形成帯を有する上記板状部材が上記分割線で分割可能である。
(5)上記非形成帯を有する上記板状部材が、2つ以上の部材が接合されて構成されたものであり、隣り合う上記2つ以上の部材の接合位置の板状部材の主面における接合線が、上記非形成帯と重なっている。
(6)上記分割線または上記接合線が一本の直線であり、この直線と上記矩形の長辺との成す角度(鋭角)が30~70度の範囲である。
(7)上記非形成帯を有する上記板状部材が、2つ以上の部材が間隔をあけて並んで構成されており、隣り合う上記2つ以上の部材の間隙が、上記非形成帯と重なっている。
(8)上記非形成帯を有する上記板状部材に形成された上記ノズル孔が、さらに孔径の小さな複数の孔が集まって構成されたノズル孔群である。
【0012】
(9)本発明の繊維ウェブの製造方法では、本発明の第1または第2の紡糸口金を用いて繊維ウェブを製造する。
【0013】
本発明における各用語の意味を以下に列記する。
「主面」とは、板状部材の面のうち、他の面よりもはるかに面積の大きい面をいう。
「長辺方向」とは、板状部材の主面内の多数のノズル孔が配設された略矩形域の辺が長い方向をいう。
「短辺方向」とは、板状部材の主面内の多数のノズル孔が配設された略矩形領域の辺が短い方向をいう。
「ノズル孔列」とは、短辺方向に向かい直線状にノズル孔が配置されたノズル孔の配列をいう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、比較的に安価で導入可能な汎用加工機を用いて、大型の紡糸口金の製作できるので、紡糸口金の製作費用を削減できる。また、複数台の汎用加工機を同時に使用することにより、短期間で大型の紡糸口金を製作できる。さらには、本発明の紡糸口金を用いると、目付バラツキが良好な繊維ウェブを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の紡糸口金を構成する板状部材を主面側から見た概略平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の紡糸口金を構成する板状部材の別の実施形態を主面側から見た概略平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の紡糸口金を構成する板状部材のさらに別の実施形態を主面側から見た概略平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1の紡糸口金を構成する板状部材の主面の概略部分拡大図である。
【
図5】
図5は、1枚の板状部材で構成された本発明の紡糸口金の概略断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の紡糸口金を構成する板状部材における非形成帯の配置形態の例であり、(a)は複数個を配置、(b)は途中で屈曲させて配置、(c)は途中で屈曲させ、さらに方向を反転させて配置、(d)は湾曲して配置した概略部分平面図である。
【
図7】
図7は、複数の板状部材が積層されて構成された本発明の紡糸口金の概略断面図であって、分割線の形態の例を図示しており、(f)は複数の板状部材の全てにわたって分割線がある形態であり、(g)は一部の板状部材に分割線がある形態である。
【
図8】
図8は、本発明の第1の紡糸口金を構成する板状部材の別の実施形態の主面の概略部分拡大図である。
【
図9】
図9は、本発明の第2の紡糸口金を構成する板状部材の主面の概略部分拡大図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の紡糸口金を構成する板状部材の別の実施形態の主面の概略部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[紡糸口金]
以下、本発明の実施形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
図1~3、6は、本発明の紡糸口金を構成する板状部材の様々な実施形態を主面側から見た概略平面図である。
図4、8、9、10は、板状部材の主面の概略部分拡大図である。
図5、7は、本発明の紡糸口金の概略断面図である。なお、これらは、本発明の要点を正確に伝えるための概念図であり、図を簡略化しており、本発明の紡糸口金1は特に制限されるものでなく、板状部材16の数、形成領域3の数、非形成帯4の数、ノズル孔2の数、ならびにその寸法比などは実施の形態に合わせて変更できる。
【0017】
図5、7を参照する。
図5は1枚の板状部材16で構成された紡糸口金1、
図7は複数の板状部材16で構成された紡糸口金1である。紡糸口金1は紡糸パック10の中に固定され、多孔板11の直下に配置される。紡糸パック10に導かれたポリマは、多孔板11を通過して紡糸口金1のノズル孔2から吐出された後、冷却装置(図示せず)により冷却され、糸条として牽引した後に、捕集ネット(図示せず)上に重ね広げられて繊維ウェブを形成する。この場合、冷却装置は、糸条を挟んで対向した位置に設置されており、糸条に向かい常温または温度調整された気流を吹き付ける。
【0018】
図1~3、6を参照する。板状部材16は、主面17に、ノズル孔2が形成された形成領域3とノズル孔が形成されていない非形成帯4とを含む略矩形の領域が形成されている。1枚の板状部材16で構成された紡糸口金1では、板状部材16の一方の主面17が紡糸口金1の吐出面5となる。複数の板状部材16で構成された紡糸口金1では、紡糸方向最下流の板状部材16の一方の主面17が紡糸口金1の吐出面5となる。
【0019】
[第1の紡糸口金]
再び
図4を参照し、本発明の第1の紡糸口金を構成する板状部材16のノズル孔2の配置について詳細に説明する。板状部材16の主面17には、ノズル孔2が矩形の短辺方向に並んだノズル孔列12が、矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでいる。この矩形の領域内には、ノズル孔が存在しない非形成帯4が、複数のノズル孔列12と交差しながら、矩形の一方の長辺からもう一辺の長辺にわたって一続きで伸びている。ノズル孔列12のうち非形成帯4が交差していないノズル孔列12aでは、ノズル孔2が一定の間隔で並んでいる。一方、ノズル孔列12のうち非形成帯4が交差しているノズル孔列12bでは、ノズル孔2の間隔が、非形成帯4が交差していないノズル孔列12aと比べて狭くなっている。このようにノズル孔列12bでは列中のノズル孔2の間隔が狭くなっているので、ノズル孔列12bの非形成帯4と交差している部分にはノズル孔2が存在していないにも関わらず、ノズル孔列12b中のノズル孔2の個数はノズル孔列12a中のノズル孔2の個数と同じになっている。その結果、全てのノズル孔列12のノズル孔2の個数が同じになっている。なお、
図4では、ノズル孔列12b中のノズル孔2の間隔が均等に狭くなっているが、一部分のノズル孔2の間隔が狭くなっているだけでもよい。要するに、ノズル孔列12b中のノズル孔2の個数がノズル孔列12a中のノズル孔2の個数と同じになっていればよい。
【0020】
主面17に形成されているノズル孔2は、長辺方向に連続して隣り合うように格子状に配列されていてもよく(
図4参照)、1列または複数列ずつ飛ばすように千鳥状に配列されていてもよい(
図9参照)。
【0021】
図4に示すような板状部材16で構成された紡糸口金1は、各ノズル孔列12中のノズル孔2の個数が同じであるので、繊維ウェブを製造する際に、各ノズル孔列12から吐出されるポリマの吐出総量を合わせることができ、その結果、得られる繊維ウェブの目付バラツキを均一化することができる。また、糸条に対抗した位置に設置された冷却装置で糸条を冷却する場合には、ノズル孔列12に1列に配置された糸条に対して、直交する方向に気流を吹き付ける。そのため、各ノズル孔列12中のノズル孔2の個数が同じ場合には、ノズル孔列12毎に糸条数が同じとなるため、ノズル孔列12毎の糸条冷却を均一化することができる。特に、糸条の冷却性能は、糸条を直交する気流の風速、風温を均一化することが有効であることから、ノズル孔列12の糸条数を合わせることは、気流の風速、風温バラツキを極限にまで抑制できる。さらに、ノズル孔列12中のノズル孔2の個数、ひいては糸条数を合わせることは、ノズル孔列12毎に随伴流の形態を合わせることになるため、上記の風速、風温バラツキを低減することとなる。この場合、1つのノズル孔列12の中に配設されている全てのノズル孔2から吐出されるポリマ吐出量が均一であることが最も好ましいが、その限りでは無く、ノズル孔列12毎にポリマの総吐出量が均一であればよい。
【0022】
非形成帯4が交差していないノズル孔列12a中では、必ずしも全てのノズル孔2が抜けなく一定の間隔で並んでいる必要はない。
図10を参照する。この
図10に図示されているように、ノズル孔列12a中にノズル孔2が抜けている部分18があってもよい。この抜けている部分18を除けば、ノズル孔列12中のノズル孔2は一定の間隔で並んでいる。この
図10の形態についても、「非形成帯4が交差していないノズル孔列12aでは、各ノズル孔列12a中でノズル孔2が一定の間隔で並んでいる」ものとする。なお、
図10の形態でも、ノズル孔列12a中のノズル孔2の個数とノズル孔列12b中のノズル孔2の個数とは同じである。
【0023】
上述したように、板状部材16は、主面17の矩形の領域内に、非形成帯4が矩形の一方の長辺からもう一辺の長辺にわたって一続きで伸びている。この非形成帯4にはノズル孔2が形成されていないので、板状部材16を非形成帯4の部分で分割することもできる。逆に言うと、板状部材を2つ以上の部材を並べた構造とし、この部材と部材とが並んでいる境界部分を非形成帯4にすることもできる。この構造について図を使って説明する。
【0024】
再び
図2を参照する。この板状部材16では、非形成帯4の中に分割線8があり、分割線8を挟んで並ぶ部材16-1、16-2の幅r1、r2が汎用加工機で加工が可能な幅となっている。先ず汎用加工機で部材16-1、16-2にノズル孔2を形成した後に、部材16-1、16-2を並べることで、汎用加工機で加工可能な幅を超える大型の板状部材16を製造できる。部材16-1、16-2を並べたうえで、さらに接合処理を施してもよい。接合処理としては、隣り合う部材同士をピンで位置決めした上で、溶接または拡散接合するのが好ましい。あるいは、ボルトやネジによる固定でもよい。分割線8の全周において溶接処理を施すと、主面17では分割線8が実質的には見えなくなり、分割線8があった箇所が接合線13となる。また、部分的に溶接処理を施すことでもよい。この場合、主面17には部分的に分割線8が見えている状態となる。板状部材16は、分割線8で再び分割できる構造であっても、分割できない構造であってもよい。
【0025】
再び
図3を参照する。この板状部材16は、2つの部材16-1、16-2が間隔14をあけて並び、この間隙14が非形成帯4と重なっている構造である。このように、2つの部材16-1、16-2の位置が固定できるのであれば、必ずしも部材同士を接合する必要はない。また、部材16-1、16-2の2つがあることで板状部材16の機能が発現するので、このように2つの部材16-1、16-2が間隙14をあけて並べられている構造であっても、1枚の板状部材16として数える。
【0026】
図2、
図3の板状部材16は2つの部材16-1、16-2を並べて構成されているが、紡糸口金1の幅に応じて、汎用加工機で加工可能な幅の部材を3つ以上並べて構成してもよい。
【0027】
このように、本発明における板状部材16の構造であれば、汎用加工機でノズル孔2を穿孔加工しながらも、汎用加工機で加工可能な幅の制約を受けることなく、所望の幅の大型の板状部材16を製作できる。さらに、複数台の汎用加工機を同時に使用することにより、大型の板状部材16を短期間で製作することもできる。そして、本発明の紡糸口金1はこのような特徴を有する板状部材16で構成されているので、所望の幅で製作することができ、さらに大型であっても短期間で製作することができる。
【0028】
再び
図2を参照する。本発明における板状部材16では、分割線8と矩形の長辺との成す角度θ(鋭角)を、溶接処理により分割線8が実質的に見えなくなっている場合は接合線13と矩形の長辺との成す角度θ(鋭角)を、それぞれ30~70度の範囲とするのが好ましい。
【0029】
角度θが大きくなるにつれて、非形成帯4と交差しているノズル孔列12bにおいて、必然的に非形成帯4と重なっている範囲、言い換えるとノズル孔12が形成されない範囲の長さが長くなり、非形成帯4と重なったが故に形成されなかったノズル孔12の数が多くなる。形成されなかったノズル孔12と同じ個数分のノズル孔12は、同じノズル孔列12b中の非形成帯4と重なっていない部分に補充されて形成されるものの、形成されなかったノズル孔12の個数が多くなり過ぎると、非形成帯4と重なっていない部分でのノズル孔4の間隔が狭くなり過ぎ、ノズル孔4の加工が難しくなっていく。角度θが70度以下であれば、ノズル孔列12bと非形成帯4との重なる範囲が長くなり過ぎず、結果的にノズル孔4の加工も容易になるので好ましい。
【0030】
角度θが小さくなるにつれて、非形成帯4が矩形の一方の長辺からもう一方の長辺に至るまでの長辺方向の距離が長くなっていく。この長辺方向の距離が長くなると、必然的に板状部材16を構成する個々の部材の長辺方向の幅が長くなり、汎用加工機で加工できる幅を超えてしまう場合がある。角度θが30度以上であれば、個々の部材の長辺方向の幅が長くなり過ぎず、汎用加工機で加工できる範囲の幅に収まるので好ましい。
【0031】
図7を参照する。
図7の紡糸口金1は複数の板状部材16が紡糸方向に積層されて構成されている。
図7(f)に示すように、紡糸方向に積層された全ての板状部材16にわたって、分割線8があってもよい。
複合紡糸を行う場合には、ノズル孔2の個数が異なる複数の板状部材16を紡糸方向に複数枚積層する構成となることが多いので、この
図7に図示するような形態となる。
【0032】
複数の板状部材16が積層されて構成された紡糸口金1は、構成する全ての板状部材16が、2つ以上の部材が接合されたものであってもよい。この場合、例えば
図7(f)に図示されているように、紡糸方向に積層された全ての板状部材16にわたって分割線8がある。各板状部材16の主面17の矩形領域にある分割線8は、紡糸方向で同じ位置にあることが好ましい。これは、複合紡糸において、所望の繊維断面を得るためには、紡糸口金1の上部の板状部材16のノズル孔2に供給される複数のポリマが、途中の流路において、分割、合流することで複合ポリマ流を形成し、最終的に下部の板状部材16のノズル孔2に供給され、紡糸口金1から吐出される。その際に、流路が連通している、上部の板状部材16の複数のノズル孔2と、下部の板状部材16のノズル孔2とのポリマ紡糸方向に垂直な方向の位置が、可能な限り近接していることが、ポリマの圧力損失を低減できるため好ましい。特に、芯鞘となる複合断面を得る場合には、芯ポリマが通過するノズル孔2の位置をポリマ紡糸方向で合わせることにより、芯成分ポリマの流路圧損を低減できるために好ましい。このことから、各々の板状部材16のノズル孔2の配置位置を決める分割線8は、紡糸方向で同じであることが好ましい。
【0033】
また、複数の板状部材16が積層されて構成された紡糸口金1は、構成する板状部材16の中に、2つ以上の部材が接合されたものではなく1つの部材からなるものがあってもよい。この場合、例えば
図7(g)に図示されているように、分割線8のある板状部材16と分割線のない板状部材16とが混在する。複合紡糸に用いられる紡糸口金1では、紡糸方向の最下部以外に配置された板状部材16には、複数のポリマを流す必要があるため、多数のノズル孔2が穿孔される。一方、最下部に配置される板状部材16には、複数のポリマが合流した複合ポリマを吐出するためのノズル孔2が穿孔されるので、ノズル孔2の個数は上部に配置される板状部材16よりも少なくてもよい。1つの部材に穿孔するノズル孔2の個数が少ないほど歩留りが高くなり、製作費用の削減効果が得られやすくなるので、上部に配置される板状部材16は2つ以上の部材が接合された構成とし、個々の部材に穿孔するノズル孔2の個数を減らすのがよい。一方、最下部に配置される板状部材16は、上述のとおりノズル孔2の個数が少なくてもよいので、たとえノズル孔2を穿孔する部材の幅が広くなったとしても、極めて高額な長尺加工機を必要としないため、製作費用を抑制することができる。これは、長尺加工機の特徴として、主面に穿孔する単位面積当たりのノズル孔2の個数が多いほど、つまりはノズル孔2の配置密度が高いほど、ノズル孔2の加工、位置精度が必要となることから、加工機自体が非常に高額となる。ノズル孔数が少ない場合には、長尺加工機の中でも加工精度を落とした加工機を使用することができるため、製作費用を抑制することができる。また、ノズル孔2の個数が少なければ、長尺加工機を用いたとしても、加工納期が短くなるため、口金加工費用を抑制することができる。
【0034】
図6を参照する。
図6は非形成帯4の様々な形態について説明した図である。
図6(a)に示すように、非形成帯4は矩形の領域に一つ以上あればよく、長辺方向に複数設ければ、板状部材16を分割する個数を多くし、分割された一つの部材の長さを短くすることができる。この場合、非形成帯4は等間隔に配置することが好ましいが、この限りでは無い。また、
図6(b)に示すように、非形成帯4は長辺の一つの辺からもう一辺の長辺に渡り伸びているが、その途中の位置で屈曲していてもよい。また、
図6(c)に示すように、上記の
図6(b)と同様に、非形成帯4は途中で屈曲し、長辺方向に向かう方向が反転してもよい。また、
図6(d)に示すように、非形成帯4は湾曲していてもよい。また、これまでに示した形態が複合的に合わさっていてもよい。
【0035】
図8を参照する。
図8は板状部材16の別の実施形態を示す図である。この実施形態の板状部材16では、ノズル孔2が孔径の小さな多数の孔が集まって形成されたノズル孔群9になっている。
図8では、3つの小さなノズル孔が集まってノズル孔群9が形成されている。ただし、1つのノズル孔群9を形成する小さなノズル孔の個数に制約は無い。
板状部材16の主面17の全体の形状は、主面17内のノズル孔2が形成された矩形の領域に合わせて、矩形とすることが好ましいが、それに限定されず、多角形であってもよい。
【0036】
ノズル孔2の断面形状は、丸形状がポリマの吐出均一性、ポリマの均一計量性の観点で最も好ましいが、それに限定されず、丸形以外の異形断面状や中空断面状であってもよい。但し、丸形以外の断面形状とする場合は、ポリマの計量性を確保するために、ノズル孔2のポリマ吐出方向の長さを大きくするのが好ましい。また、ノズル孔2は、全て同じ形状とすることが好ましいが、その限りでは無く、丸形状や異形断面状が混合された状態であってもよい。この場合、各々のノズル孔2から吐出されるポリマの吐出量が合うように、ノズル孔2のポリマ吐出方向の長さを調整することが好ましい。
【0037】
[第2の紡糸口金]
次に、本発明の第2の紡糸口金について説明をする。第2の紡糸口金は、非形成帯4が交差しているノズル孔列中のノズル孔2の配置を除いて第1の紡糸口金と同じであるので、その異なる部分を除いては上述した第1の紡糸口金の特徴がそのまま適用できる。
図9を参照する。板状部材16の主面17には、ノズル孔2が矩形の短辺方向に一定の間隔で並んだノズル孔列12が、矩形の長辺方向に一定の間隔で並んでいる。この矩形の領域内には、ノズル孔が存在しない非形成帯4が、複数のノズル孔列12と交差しながら、矩形の一方の長辺からもう一辺の長辺にわたって一続きで伸びている。非形成帯4が交差しているノズル孔列12bでは、一定の間隔で並ぶノズル孔2が形成されるべき位置が非形成帯4と重なっていると、その位置ではノズル孔2が形成されていない。そのため、そのままでは、ノズル孔列12b中のノズル孔2の個数は、形成されなかったノズル孔15の個数分だけ、非形成帯4と交差していないノズル孔列12a中のノズル孔2の個数よりも少なくなってしまう。そこで、非形成帯4が交差しているノズル孔列12bでは、形成されなかったノズル孔15の個数分だけ、列の外側にノズル孔2が補充して形成されている。こうすることで、非形成帯4が交差しているノズル孔列12b中のノズル孔2の個数が、非形成帯4と交差していないノズル孔列12a中のノズル孔2の個数と同じになり、結果的に全てのノズル孔列12中のノズル孔2の個数を同じにできる。第2の紡糸口金では、構成する板状部材16の主面17内の矩形の領域内の全体にわたって、ノズル孔2が短辺方向に等間隔で配置されていることから、糸条間の距離を合わせることができる。そのため、冷却装置の気流により糸条の揺れが発生した場合であっても、糸条が接触することを抑制できる。
【0038】
また、紡糸口金1から吐出された繊維ウェブは、通常、製品部分と製品部分の両端部にある製品にはならない耳部分とで構成されている。そのため、主面17のノズル孔2が形成された矩形の領域内の長辺方向の両端部にあるノズル孔列12は繊維ウェブの耳部分に対応し、それ以外のノズル孔列12は繊維ウェブの製品部分に対応する。耳部分では繊維の目付などを厳密に管理する必要がないため、耳部分に対応するノズル孔列12中のノズル孔2の個数は、製品部分に対応するノズル孔列12中のノズル孔2の個数よりも少なくなる場合がある。本発明においては、矩形の領域内の両端部を除いた、繊維ウェブの製品部分に対応するノズル孔12が、上述した第1および第2の紡糸口金における板状部材16の特徴的なノズル孔2の配置を満足していればよい。
本発明は、極めて汎用性の高い発明であり、公知の紡糸口金および繊維ウェブの製造方法によって得られる全ての繊維ウェブに適用できる。従って、繊維ウェブを構成するポリマにより特に限られるものではない。例えば、本発明に好適な繊維ウェブを構成するポリマの一例を挙げれば、ポリエステル、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリプロピレン等々が挙げられる。さらに、上記したポリマに、紡糸安定性等を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色顔料、表面改質剤等の各種機能性粒子や有機化合物等の添加剤が含有されていてもよく、共重合が含まれてもよい。
【0039】
本発明に用いられるポリマは、単一成分で構成しても、複数成分で構成してもよい。複数成分の場合には、例えば、芯鞘、サイドバイサイド等の構成が挙げられる。繊維ウェブを形成する繊維の断面形状は、丸、三角、扁平等の異形状や中空であってもよい。繊維ウェブの単糸繊度は特に限られるものではないが、単糸繊度が小さければ小さいほど、従来の技術との差異が明確となる。繊維ウェブの単糸数も特に限られるものではないが、繊維ウェブの単糸数が多ければ多いほど、従来の技術との差異が明確となる。
本発明で得られる繊維ウェブの厚みは、0.05~1.5mmであることが好ましい。より好ましくは0.10~1.0mm、さらに好ましくは0.10~0.8mmである。厚みの範囲が0.05~1.5mmの範囲内であると、柔軟性と適度なクッション性を備えることができる。
【0040】
本発明で得られる繊維ウェブの目付は、10~100g/m2であることが好ましい。より好ましい目付の下限値は13g/m2以上である。目付が10g/m2以上であると、実用に供し得る機械的強度の繊維ウェブを得ることができる。
本発明の紡糸口金を用いて繊維ウェブを製造するに際し、紡糸速度は、3,500~6,500m/分であることが好ましい。より好ましくは4,000~6,500m/分であり、さらに好ましくは4,500~6,500m/分である。紡糸速度を3,500~6,500m/分とすることにより、高い生産性を有することになる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお実施例における特性値の測定法等は次のとおりである。
【0042】
(1)繊維ウェブの目付
JIS L1913(2010年)6.2「単位面積当たりの質量」に基づいて測定した。20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m2当たりの質量(g/m2)で表した。
(2)繊維ウェブの目付CV(%)
5cm×5cmの繊維ウェブから縦方向、横方向にそれぞれ16個ずつ、合計256個の試料を採取した。各試料の質量を測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算し、少数点以下第一位を四捨五入して、各試料の目付(g/m2)を算出した。そして、各資料の目付の値からCV値(標準偏差/平均値×100(%))を算出した。
【0043】
[実施例1]
1枚の板状部材で構成された第1の紡糸口金を用いて繊維ウェブを製造した。この板状部材16に穿孔されているノズル孔2は、
図4に図示されているような配置である。非形成帯4が交差していないノズル孔列12aでは各ノズル孔2は格子状に配置されている。非形成帯4が交差しているノズル孔列12b中のノズル孔2は、非形成帯4が交差していないノズル孔列12a中のノズル孔2の間隔よりも狭く配置されており、全てのノズル孔列12でノズル孔2は18個配置されている。矩形の領域内での単位面積当たりのノズル孔2の配置密度は3.3個/cm
2であり、各ノズル孔2の直径はφ0.30mmである。板状部材16は、
図6(a)のように2つの非形成帯を有し、この非形成帯上の分割線で長辺方向に3つに分割されており、分割線と矩形の長辺との成す角度θは45°である。
この第1の紡糸口金を用いて、メルトフローレート(MFR)が35g/10分のポリプロピレン樹脂を押出機で溶融し、紡糸温度が235℃でノズル孔2から、単孔吐出量0.56g/分で糸条を紡出した。紡出した糸条を冷却装置にて冷却、固化した後、牽引装置にて牽引し延伸し、移動するネット上に捕集してポリプロピレン長繊維からなる繊維ウェブを採取した。最終的に得られた長繊維の繊維径は16.1μm、繊維ウェブの目付は18g/m
2、目付のCV値は2.8%となった。後述の分割構造ではない紡糸口金を用いた参考例と比較しても、同じ目付CV値を得ており、最良の結果となった。
【0044】
[実施例2]
1枚の板状部材で構成された第2の紡糸口金を用いた以外は実施例1と同じ紡糸条件で繊維ウェブを製造した。この板状部材16に穿孔されているノズル孔2は、
図9に図示されているような配置である。非形成帯4が交差していないノズル孔列12aでは、ノズル孔2は千鳥状に配置されている。非形成帯4が交差しているノズル孔列12a中では、非形成帯4が交差している部分ではノズル孔2が形成されておらず、その形成されていないノズル孔2の個数(1個)が短辺方向の外側に補充して形成されている。ノズル孔列12中のノズル孔2の個数、矩形の領域内でのノズル孔2の配置密度、ノズル孔2の直径、板状部材16の分割数、分割線と矩形の長辺との成す角度θは、実施例1で用いた第1の紡糸口金と同じである。
得られた長繊維の繊維径は16.1μm、繊維ウェブの目付は18g/m
2、目付のCV値は2.9%となった。後述の分割構造ではない紡糸口金を用いた参考例と比較しても、同等の目付CV値を得ており、良好な結果となった。
【0045】
[実施例3、4、5]
分割線と矩形の長辺とが成す角度θの影響を調べるために、実施例3、4、5を実施した。実施例3では、角度θが30°で、紡糸口金が長辺方向に2つに分割され、1つのノズル孔列12中には20個のノズル孔2が配置されている以外は実施例1と同じ第1の紡糸口金を用い、実施例1と同じ紡糸条件で繊維ウェブを製造した。実施例4では、角度θが70°で、1つのノズル孔列12中には14個のノズル孔2が配置されている以外は実施例1と同じ第1の紡糸口金を用い、単孔吐出量を0.84g/分に変更した以外は実施例1と同じ紡糸条件で繊維ウェブを製造した。実施例5では、角度θが80°で、1つのノズル孔列12中には10個のノズル孔2が配置されている以外は実施例1と同じ第1の紡糸口金を用い、単孔吐出量を1.12g/分に変更した以外は実施例1と同じ紡糸条件で繊維ウェブを製造した。
【0046】
実施例3では、実施例1と比較して角度θが小さくなり、非形成帯4の長辺方向の距離が長くなるため、実施例1と比較して分割個数が2個に減った。
実施例4、5では、実施例1と比較して角度θが大きくなり、非形成帯4とノズル孔列12とが重なる範囲が増えた。非形成帯4とノズル孔列12とが重なる範囲が増えると、その分だけ重なっていない範囲でのノズル孔2の間隔が狭くなっていくが、加工上の制約があるため、ノズル孔2の間隔を狭くするにも限界がある。そのため、非形成帯4とノズル孔列12とが重なる範囲が増えると、ノズル孔列12中のノズル孔2の個数が減る場合がある。実施例4、5では、実施例1と比較してノズル孔列12中に配置されるノズル孔2の個数が、それぞれ14個、10固に減り、単位面積当たりのノズル孔2の配置密度が、実施例4では1.8個/cm2、実施例5では1.0個/cm2になった。実施例1と比較してノズル孔2の配置密度が低い実施例4、5では、紡糸口金1のポリマ吐出量が減り、生産性がやや低くなった。
【0047】
実施例3では、得られた長繊維の繊維径は16.1μm、繊維ウェブの目付は18g/m2、目付のCV値は3.0%となった。実施例4では、得られた長繊維の繊維径は19.5μm、繊維ウェブの目付は18g/m2、目付のCV値は3.0%となった。実施例5では、得られた長繊維の繊維径は22.8μm、繊維ウェブの目付は18g/m2、目付のCV値は3.1%となった。後述の分割構造ではない紡糸口金を用いた参考例と比較して、実施例3、4では同等の目付CV値を得ており、良好な結果となった。実施例5では参考例と比較するとやや見劣りする目付CV値ではあるが、それでも良好な結果となった。
【0048】
[参考例]
主面に非形成帯がなく、1つの部材のみからなる分割構造ではない板状部材で構成されている以外は、実施例1と同じ紡糸口金を用い、実施1と同じ紡糸条件で繊維ウェブを製造した。割得られた長繊維の繊維径は16.1μm、繊維ウェブの目付は18g/m2、目付のCV値は2.8%となった。
この参考例では、良好な目付バラツキの繊維ウェブが得られたが、板状部材が分割構造ではないため、板状部材の幅が広くなり、製作費用が増え、製作に要する期間も長くなった。
実施例1~5、参考例の結果を表1にまとめた。
【0049】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、一般的な溶融紡糸法に用いられる紡糸用パックに限らず、溶液紡糸法に用いられる紡糸用パックにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0051】
1:紡糸口金
2:ノズル孔
3:形成領域
4:非形成帯
5:吐出面
8:分割線
9:ノズル孔群
10:紡糸パック
11:多孔板
12:ノズル孔列
12a:非形成帯に交差していないノズル孔列
12b:非形成帯に交差しているノズル孔列
13:接合線
14:間隙
15:形成されていないノズル孔
16:板状部材
17:板状部材の主面
18:ノズル孔が抜けている部分