(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/40 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
C23C2/40
(21)【出願番号】P 2020014487
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 優太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 好司
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-121065(JP,A)
【文献】特開2006-265666(JP,A)
【文献】特開2013-224457(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0110723(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴を収納するポットと、一部が前記溶融金属めっき浴中に浸漬された、大気遮断しながら前記溶融金属めっき浴中に鋼帯を連続的に侵入させるスナウトと、前記溶融金属めっき浴中に浸漬された、前記溶融金属めっき浴中に侵入させた鋼帯を方向転換させて溶融金属めっき浴の浴面より上方に引き上げるシンクロールと、を備える連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置であって、
前記溶融金属めっき浴の浴面を覆うように配設された板状の構造体であって、前記溶融金属めっき浴の深さ方向に伸びる少なくとも一つの浸漬板を有する構造体を備え
、
前記構造体および前記浸漬板は、前記溶融金属めっき浴の浴面の一部分であって、波動の進行方向を遮る位置に設置されることを特徴とする連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【請求項2】
前記浸漬板の長さが、前記ポットの深さの10%以上の長さであることを特徴とする請求項1に記載の連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置を用いて溶融金属めっき鋼帯を製造するステップを含むことを特徴とする溶融金属めっき鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置では、鋼帯は、大気遮断されたスナウトの内部を介してめっき浴に侵入し、めっき浴に配設されたシンクロールによってめっき浴面より上方向に引き上げられることによって、連続的にめっき処理を施されている。このような連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置では、スナウト内のめっき浴面に発生する波によって溶融金属のドロス、酸化物、異物等が浮遊して鋼帯の表面に付着することにより品質欠陥が発生することがある。このような背景から、品質欠陥の発生を抑制する方法が提案されている。具体的には、特許文献1には、スナウト内で鋼帯に直面する方向から不活性ガスを吹き付けるスリットノズルを設置する方法が記載されている。また、特許文献2には、スナウト内の浴面の波動を測定し、得られた測定結果に基づいて波動を消去する振動をスナウト及びスナウト内のめっき浴中に浸漬した振動板に付与する方法が記載されている。また、特許文献3には、スナウト内のめっき浴面上に浴面被覆材を覆うことによって異物の付着を防止する方法が記載されている。また、特許文献4には、スナウト内を通過する鋼帯とスナウトの内壁面との間の浴面位置に、複数の貫通部が形成された平板状の消波用抵抗体を少なくとも1枚以上配設する方法が記載されている。また、特許文献5,6には、めっき浴の浴面の少なくとも一部を覆うように消波構造物を設置し、スナウト以外の外乱によって発生した浴面変動を抑えることにより、スナウト内の浴面の波動を消去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-158796号公報
【文献】特開2001-303224号公報
【文献】特開平7-145463号公報
【文献】特開2002-161348号公報
【文献】特開2006-265666号公報
【文献】特開2008-121065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載の方法では、設備の設置スペースが大きく、また設備の構造が複雑になるため、設備の設置が困難という問題があった。また、特許文献3,4に記載の方法では、スナウト内に構造物を設置するため、構造物が鋼帯と接触しやすくなり、他の品質欠陥が発生するという問題があった。さらに、特許文献5,6に記載の方法では、特許文献1~4に記載の方法と比較して簡易な設備で浴面変動を抑えることが可能であるが、特許文献1~4に記載の方法と比較して波動の消去効果が小さいことが問題となっている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、めっき浴面の波動に起因する品質欠陥の発生を簡易な設備構成によってより効果的に抑制可能な連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために、連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置においてめっき浴面の波動に影響する因子について鋭意研究した。その結果、本発明の発明者らは、めっき浴面の波動は、めっき浴の浴面上に板状の構造体を浮いた状態で配設することにより抑制できることを知見した。また、めっき浴の深さ方向に伸びる板を構造体に設けることにより、構造体と波との衝突面積が増えて消波効果がさらに高まり、めっき浴面の波動をさらに抑制できることを知見した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに検討を加えて想到されたものである。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
本発明に係る連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置は、溶融金属めっき浴を収納するポットと、一部が前記溶融金属めっき浴中に浸漬された、大気遮断しながら前記溶融金属めっき浴中に鋼帯を連続的に侵入させるスナウトと、前記溶融金属めっき浴中に浸漬された、前記溶融金属めっき浴中に侵入させた鋼帯を方向転換させて溶融金属めっき浴の浴面より上方に引き上げるシンクロールと、を備える連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置であって、前記溶融金属めっき浴の浴面を覆うように配設された板状の構造体であって、前記溶融金属めっき浴の深さ方向に伸びる少なくとも一つの浸漬板を有する構造体を備える。
【0008】
前記浸漬板のポット深さ方向の長さは、前記ポットの深さの10%以上の長さであることが望ましい。
【0009】
本発明に係る溶融金属めっき鋼帯の製造方法は、本発明に係る連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置を用いて溶融金属めっき鋼帯を製造するステップを含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置及び製造方法によれば、めっき浴面の波動に起因する品質欠陥の発生を簡易な設備構成によってより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の構成を示す縦断面図及びA-A矢視図である。
【
図2】
図2は、従来の連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の構成を示す縦断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の変形例の構成を示す縦断面図及びA-A矢視図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の変形例の構成を示す縦断面図及びA-A矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の構成について説明する。
【0013】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態である連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置の構成を示す縦断面図及びA-A矢視図である。
図1(a),(b)に示すように、本発明の一実施形態である連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置1は、図示しない連続焼鈍炉で焼鈍された鋼帯Sに対して大気遮断された状態で溶融金属めっき処理が施されるように、溶融金属めっき浴2aを収納するポット2と、一部が溶融金属めっき浴2a中に浸漬された、大気遮断しながら溶融金属めっき浴2a中に鋼帯Sを連続的に侵入させるスナウト3と、溶融金属めっき浴2a中に浸漬された、溶融金属めっき浴2a中に侵入した鋼帯Sを方向転換させて溶融金属めっき浴面2bより上方に引き上げるシンクロール4と、を備えている。溶融金属としては、溶融亜鉛、亜鉛を主成分とする溶融Zn-Al合金、Alを主成分とする溶融Al-Zn合金、及びそれ以外の溶融金属等を例示できる。
【0014】
また、連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置1は、溶融金属めっき浴面2bを覆うように配設された板状の構造体5を備え、構造体5は、溶融金属めっき浴2aの深さ方向に伸びる2個の浸漬板5aを有している。なお、本実施形態では、浸漬板5aを2個有する構造体5を1個設置したが、構造体5の個数は少なくとも1個あればよい。また、浸漬板5aの個数は2個としたが、浸漬板5aの個数は2個に限定されることはなく、少なくとも一つあればよい。
【0015】
また、浸漬板5aの深さ方向の長さは特に限定するものではないが、ポット2内の溶融金属めっき浴2aの深さの10%以上の長さを有することが好ましい。一方、浸漬板5aをシンクロール4の最下面より深い位置までの長さとして設置しても問題はないものの、改善効果は飽和する上、浮かせた状態での設置が難しくなるため、浸漬板5aの深さはシンクロール4の最下面までとすることが好ましい。
【0016】
また、構造体5の設置個数や設置位置、溶融金属めっき浴面2bに接している面積は特に限定するものではないが、例えば
図3や
図4に示すように、ドロスを除去する場所等、波動が発生する場所がある場合は、波動の進行方向を遮る位置等に構造体5及び浸漬板5aを設置すると効率良く波動を抑えられる。また、波動の進行方向を遮る位置等に設置した構造体に加えて、複数個の構造体5を設置してもよい。なお、鋼帯Sの搬送上の観点から、スナウト3内には構造体5を配置しないことが好ましく、鋼帯Sの引き上げ領域でも鋼帯Sに接触しない位置に設置することが好ましい。
【0017】
また、構造体5の形状として、長方形を例示したが、これに限定するものではなく、個数も特に限定するものではないが、構造体5の表面積として、ポット2の浴表面積の5%以上とすることが好ましく、構造体5の最も長い1辺の長さは、それに近接するポット2の1辺の長さの10%以上であることが好ましい。構造体5の最も短い1辺の長さは特に限定するものではなく、構造体5を安定して浴表面に設置できればよい。構造体5の最も長い一片の長さの上限は特に限定するものではなく、取り扱いしやすいサイズとすればよい。
【0018】
また、ドロス等の付着物が付着した際に構造体5を容易に交換可能なように、構造体5の昇降機構を設けることが好ましい。また、構造体5は、簡易な治具を用いて溶融金属めっき浴面2bの移動に伴い昇降可能な程度に固定して配設してもよい。また、構造体5を構成する材料は、溶融金属と反応しない材料であり、さらにはめっき浴温度でも耐熱性を維持できる材料とすることが好ましい。また、構造体5を構成する材料は、溶融金属の保温性を有し、また溶融金属の酸化を防止する材料であることが望ましい。このような素材として例えば、ステンレス鋼があげられる。浴面に浮かせて設置しやすくするために、中空構造としたり、中空部分に断熱材を設置するとさらに好ましい。
【0019】
このような構成によれば、溶融金属めっき浴面2bの波動が構造体5及び浸漬板5aに衝突することによって消波力が発生し、溶融金属めっき浴面2bの波動を抑制できるので、溶融金属めっき浴面2bの波動に起因する品質欠陥の発生を簡易な設備構成によってより効果的に抑制することができる。また、溶融金属めっき浴面2b近傍での溶融金属めっき浴2aの温度低下を抑制できるので、溶融金属めっき浴面2b近傍でのドロスの生成、成長を抑制することができる。
【0020】
なお、図示しないが、連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置1には、連続焼鈍のための焼鈍炉、雰囲気や速度を制御して通板するための各種装置等、操業に必要な通常の付帯装置が付設されていることは言うまでもない。また、本実施形態では、めっき浴補充用に金属インゴット6aを溶融するプリメルトポット6が付設されているが、本発明はこれに限定されるものではない。プリメルトポット6を付設し、且つ、ポット2との間に浴深さを浅くした溶融金属連絡流路7を配設することにより、金属インゴット6aの投入時の溶融金属めっき浴面2bの変動を抑えることができる。但し、金属インゴット6aをポット2の溶融金属めっき浴2a中に装入してもよい。
【実施例】
【0021】
図1(a),(b)に模式図で示した連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置1を用いて、冷延鋼帯に溶融亜鉛めっき処理を施したものを本発明例とした。ポット2を上から見た時のサイズとしては、鋼帯の板幅方向と垂直な方向が4000mm、鋼帯の板幅方向と同じ方向の長さが4000mm、ポット2中の溶融亜鉛めっき浴の深さを2000mmとした。実施例では構造体5は1個とし、浸漬板の個数[個]及び浸漬板の深さ寸法[mm]の変更を行った。具体的には、浸漬板の個数は1~3個として、ポットの設備構成上設置できる最大寸法を、浸漬板の深さ500mm、構造体の長さ500mmとした。本実施例では、構造体はスナウト及び鋼帯に対して平行に配設したが、めっき浴面上を覆うことのできる面積が増える箇所だとなおよい。また、比較例として、
図2に示す従来の連続溶融金属めっき装置を用いて同様に冷延鋼帯に溶融亜鉛めっき処理を施した。用いた冷延鋼帯は、板厚0.7~1.2mm×幅800~1200mmの鋼帯各100mコイルとし、溶融亜鉛めっき浴への侵入板温は440~490℃、溶融亜鉛めっき浴のAl濃度は0.10~0.20%、通板速度は120~150m/minとした。得られた溶融亜鉛めっき鋼帯について、ドロスや酸化物等の付着による品質欠陥の発生個数を評価した。品質欠陥の発生個数は、得られた溶融亜鉛めっき鋼帯各部から500×500mmの大きさの試験片を10個採取し、試験片の表面を目視により観察することによって評価した。評価結果を以下の表1に示す。
【0022】
【0023】
表1に示すように、本発明例によれば、めっき浴面の波動が抑制され、めっき浴面の波動に起因する品質欠陥の個数を顕著に低減できることが確認された。また、本発明例によれば、浸漬板を2個以上設けることにより、めっき浴面の波動がさらに抑制され、めっき浴面の波動に起因する品質欠陥の個数をさらに低減できることが確認された。
【0024】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0025】
1 連続溶融金属めっき鋼帯の製造装置
2 ポット
2a 溶融金属めっき浴
2b 溶融金属めっき浴面
3 スナウト
4 シンクロール
5 構造体
5a 浸漬板
6 プリメルトポット
6a 金属インゴット
7 溶融金属連絡流路
S 鋼帯