(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】鋼材破面の判別装置及び判別方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20220928BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20220928BHJP
G01N 3/06 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01N3/08
G01B11/24 A
G01N3/06
(21)【出願番号】P 2020045435
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2021-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】長尾 涼太
(72)【発明者】
【氏名】田近 久和
(72)【発明者】
【氏名】半田 恒久
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-042010(JP,A)
【文献】特開昭60-143770(JP,A)
【文献】特開2019-158423(JP,A)
【文献】米国特許第4864867(US,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0063499(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第106442122(CN,A)
【文献】黒田 敏雄 他,三次元立体画像構築システムの開発とステンレス鋼破面への適用,溶接学会論文集,2001年,第20巻,第1号,143~151頁
【文献】小池 宏侑 他,金属材料の破壊形態の定量化に関する研究,栃木県産業技術センター 研究報告,2015年,No.12,108~111頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00~3/62
G01B 11/24
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の破面の形状を測定する3次元測定装置と、該3次元測定装置で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、該3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された前記2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを判別する判別手段とを備えていることを特徴とする鋼材破面の判別装置。
【請求項2】
前記判別手段は、抽出された前記2次元断面の形状データにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa
12、a
23、a
34、・・・、a
n-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb
13、b
24、・・・、b
n-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、
(a)点1と点2間の線分12については、a
12>αであれば延性破壊部、a
12≦αであれば脆性破壊部と判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部と判断されている場合に、b
13>βであれば延性破壊部と判断し、b
13≦βであれば脆性破壊部と判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部と判断されている場合に、a
23>αかつb
13≦βであれば延性破壊部と判断し、a
23≦αあるいはb
13>βであれば脆性破壊部と判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部か延性破壊部かを判断することを特徴とする請求項1に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項3】
前記判別手段によって判別された脆性破壊部または延性破壊部の任意の2次元平面に対する投影長さを算出する投影長さ算出手段を備えていることを特徴とする請求項2に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項4】
前記判別手段によって判別された脆性破壊部または延性破壊部の実長を算出する実長算出手段を備えていることを特徴とする請求項2又は3に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項5】
前記判別手段は、前記3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、前記鋼材のき裂伝播方向に一定の切断間隔で所定範囲にわたって切断した複数の2次元断面の形状データを抽出し、抽出された前記複数の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを2次元断面の形状データ毎に判別することを特徴とする請求項1に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項6】
前記判別手段は、抽出された前記複数の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa
12、a
23、a
34、・・・、a
n-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb
13、b
24、・・・、b
n-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、
(a)点1と点2間の線分12については、a
12>αであれば延性破壊部、a
12≦αであれば脆性破壊部と判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部と判断されている場合に、b
13>βであれば延性破壊部と判断し、b
13≦βであれば脆性破壊部と判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部と判断されている場合に、a
23>αかつb
13≦βであれば延性破壊部と判断し、a
23≦αあるいはb
13>βであれば脆性破壊部と判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部か延性破壊部かを判断することを特徴とする請求項5に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項7】
前記判別手段によって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部または延性破壊部の任意の2次元平面に対する投影長さを算出する投影長さ算出手段を備えていることを特徴とする請求項6に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項8】
前記判別手段によって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部または延性破壊部の実長を算出する実長算出手段を備えていることを特徴とする請求項6又は7に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項9】
前記実長算出手段によって算出された2次元断面の形状データ毎の脆性破壊部または延性破壊部の実長と、前記複数の2次元断面の前記鋼材のき裂伝播方向における切断間隔とに基づいて、前記鋼材のき裂伝播方向の前記所定範囲における脆性破壊部または延性破壊部の表面積を算出する表面積算出手段を備えていることを特徴とする請求項8に記載の鋼材破面の判別装置。
【請求項10】
鋼材の破面の形状を測定する3次元測定ステップと、
該3次元測定ステップで測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、該3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された該2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを判別する判別ステップとを含むことを特徴とする鋼材破面の判別方法。
【請求項11】
前記判別ステップでは、抽出された前記2次元断面の形状データにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa
12、a
23、a
34、・・・、a
n-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb
13、b
24、・・・、b
n-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、
(a)点1と点2間の線分12については、a
12>αであれば延性破壊部、a
12≦αであれば脆性破壊部と判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部と判断されている場合に、b
13>βであれば延性破壊部と判断し、b
13≦βであれば脆性破壊部と判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部と判断されている場合に、a
23>αかつb
13≦βであれば延性破壊部と判断し、a
23≦αあるいはb
13>βであれば脆性破壊部と判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部か延性破壊部かを判断することを特徴とする請求項10に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項12】
前記判別ステップによって判別された脆性破壊部または延性破壊部の任意の2次元平面に対する投影長さを算出する投影長さ算出ステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項13】
前記判別ステップによって判別された脆性破壊部または延性破壊部の実長を算出する実長算出ステップを含むことを特徴とする請求項11又は12に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項14】
前記判別ステップでは、前記3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、前記鋼材のき裂伝播方向に一定の切断間隔で所定範囲にわたって切断した複数の2次元断面の形状データを抽出し、抽出された前記複数の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを2次元断面の形状データ毎に判別することを特徴とする請求項10に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項15】
前記判別ステップでは、抽出された前記複数の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa
12、a
23、a
34、・・・、a
n-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb
13、b
24、・・・、b
n-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、
(a)点1と点2間の線分12については、a
12>αであれば延性破壊部、a
12≦αであれば脆性破壊部と判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部と判断されている場合に、b
13>βであれば延性破壊部と判断し、b
13≦βであれば脆性破壊部と判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部と判断されている場合に、a
23>αかつb
13≦βであれば延性破壊部と判断し、a
23≦αあるいはb
13>βであれば脆性破壊部と判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部か延性破壊部かを判断することを特徴とする請求項14に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項16】
前記判別ステップによって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部または延性破壊部の任意の2次元平面に対する投影長さを算出する投影長さ算出ステップを含むことを特徴とする請求項15に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項17】
前記判別ステップによって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部または延性破壊部の実長を算出する実長算出ステップを含むことを特徴とする請求項15又は16に記載の鋼材破面の判別方法。
【請求項18】
前記実長算出ステップによって算出された2次元断面の形状データ毎の脆性破壊部または延性破壊部の実長と、前記複数の2次元断面の前記鋼材のき裂伝播方向における切断間隔とに基づいて、前記鋼材のき裂伝播方向の前記所定範囲における脆性破壊部または延性破壊部の表面積を算出する表面積算出ステップを含むことを特徴とする請求項17に記載の鋼材破面の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の破壊試験等で得られる破面の、脆性破壊部と延性破壊部とを自動的に判別する鋼材破面の判別装置及び判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材の機械的性能評価を行う際、一般的に鋼材を破壊させて強度や靱性といった特性を得ることが必要とされる。例えば、船舶など、低温環境で用いられる構造物の厚鋼板では脆性き裂が発生しやすいため、被害を最小限に抑えるべく、高い脆性き裂伝播停止性能が鋼材に求められることになる。
この脆性き裂伝播停止性能の評価方法として、ESSO試験がある。このESSO試験では試験片に温度勾配を設けた状態で低温側から高温側へ脆性き裂を伝播させ、停止した位置で脆性き裂長さと温度との関係から脆性き裂アレスト靱性値を求める。ESSO試験では、脆性き裂伝播方向の試験片長さは500mmを要する。
【0003】
このとき停止した脆性き裂長さを確認するため、一般的には試験後に試験片へ荷重を負荷し、脆性き裂の伝播しなかった箇所を延性破壊させ試験片を破断させる。ここで、破断された試験片の破面は、試験時に脆性破壊した脆性破壊部と試験後の荷重負荷によって延性破壊した延性破壊部とが混在した状態となる。
試験時に脆性き裂の伝播しなかった領域は、塑性変形によるエネルギー吸収や、き裂開口抑制といった効果があり、脆性き裂伝播停止性能の向上に寄与する。このため、鋼材の破面において脆性破壊部と延性破壊部とを自動で判別し、延性破壊部あるいは脆性破壊部の大きさを定量的に評価することは鋼材の特性評価を精度高く行うために必要とされる。
【0004】
ここで、従来、例えば特許文献1に示す破面観察方法では、き裂が生じた被検材料の破面を観察するに当たり、未破壊の部分を強制的に破壊し破面観察を行う際に、強制的に破壊する前にあらかじめ既存のき裂破面に加熱により着色を与えたのち被検材料を強制的に破壊して破面を観察するようにしている。
これにより、強制破壊破面は着色されていないので、着色された既存のき裂破面と強制破壊破面との区別が容易となる。
また、従来の特許文献2に示す自動破面観察装置では、試験片の破面を観察する顕微鏡と、顕微鏡に接続され、試験片の破面の像を撮像してアナログ画像を出力する撮像機とを用いて、画像処理により脆性破面と延性破面とを判別するようにしている。
これにより、高速かつ自動的に破面解析を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平4-50749号公報
【文献】特公平5-60058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のこれら特許文献1に示す破面観察方法及び特許文献2に示す自動破面観察装置にあっては、以下の問題点があった。
即ち、特許文献1に示す破面観察方法の場合には、着色された既存のき裂破面と強制破壊破面との区別が容易となるものの、鋼材の破面において脆性破壊部と延性破壊部とを自動で判別することができない。
一方、特許文献2に示す自動破面観察装置の場合には、脆性破面と延性破面とを高速かつ自動的に判別することができるが、破面解析に顕微鏡を要するため、ESSO試験に用いられるような大型試験片の破面を観察する際には不向きとなる。
従って、本発明はこれら従来の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、鋼材の破面において脆性破壊部と延性破壊部とを自動で判別し、小型試験(落重試験、シャルピー衝撃試験等)に加えて大型試験片に対しても適用可能な鋼材破面の判別装置及び判別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る鋼材破面の判別装置は、鋼材の破面の形状を測定する3次元測定装置と、該3次元測定装置で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、該3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された前記2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを判別する判別手段とを備えていることを要旨とする。
また、本発明の別の態様に係る鋼材破面の判別方法は、鋼材の破面の形状を測定する3次元測定ステップと、3次元測定ステップで測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、該3次元の点群データから前記鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された該2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部か延性破壊部かを判別する判別ステップとを含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る鋼材破面の判別装置及び判別方法によれば、鋼材の破面において脆性破壊部と延性破壊部とを自動で判別し、小型試験(落重試験、シャルピー衝撃試験等)に加えて大型試験片に対しても適用可能な鋼材破面の判別装置及び判別方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鋼材破面の判別方法が適用される破面を有する破断された鋼材を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る鋼材破面の判別装置の概略構成図である。
【
図3】
図2に示す鋼材破面の判別装置を用いた鋼材破面の判別方法の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図3に示すフローチャートにおけるステップS2(判別ステップ)の手順を示すフローチャートである。
【
図5】鋼材破面における脆性破壊部は傾きが小さく、延性破壊部は傾きが大きいと仮定したときに考えられる破面のパターンを示す模式図で、(A)は点1と点2との間の線分12が脆性破壊部、点2と点3との間の線分23が脆性破壊部である破面パターンを示し、(B)は点1と点2との間の線分12が脆性破壊部、点2と点3との間の線分23が延性破壊部である破面パターンを示し、(C)は点1と点2との間の線分12が延性破壊部、点2と点3との間の線分23が脆性破壊部である破面パターンを示し、(D)は点1と点2との間の線分12が延性破壊部、点2と点3との間の線分23が延性破壊部である破面パターンを示している。
【
図6】鋼材破面における脆性破壊部と延性破壊部とが混在した混在部において、鋼材のき裂伝播方向に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。また、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0011】
図1には、本発明の一実施形態に係る鋼材破面の判別方法が適用される破面を有する破断された鋼材の一例が示されている。
図1に示す破断された鋼材10は、例えば、ESSO試験において試験片に温度勾配を設けて低温側から高温側へ脆性き裂を伝播させ、その後に試験片へ荷重を負荷して脆性き裂の伝播しなかった未破壊部分を強制的に延性破壊させて破断されたものである。ここで、破断された鋼材10は、矢印Xで示す幅方向に70mm、矢印Zで示す長手方向に500mm、矢印Yで示す高さ方向に所定の厚さを有する。破断された鋼材10の上面が、破面11を構成し、き裂の伝播方向は、鋼材10の一端面10aから他端面10bへ向かう前述の矢印Zで示す長手方向である。そして、鋼材10の破面11は、き裂の始端である鋼材10の一端面10aからき裂の終端近傍にいたるまでに形成された脆性破壊部11aと、鋼材10の他端面10bからき裂の終端近傍にいたるまでに形成された延性破壊部11bと、き裂の終端近傍において矢印Zで示す長手方向に所定の範囲にわたって形成された脆性破壊部11aと延性破壊部11bとが混在する混在部11cとを含んでいる。
【0012】
この鋼材10の破面11、特に破面11の混在部11cにおいて、脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別するために、本実施形態に係る判別装置1(
図2参照)が用いられる。
脆性き裂伝播後に未破壊部分を強制的に破壊させた破面11では、巨視的なき裂伝播方向(
図1におけるZ方向)に対して垂直な2次元断面を見ると、脆性破壊部11aと延性破壊部11bとの境界で破面に傾斜が大きく異なることが特徴である。本実施形態に係る判別装置1では、この特徴を活用して脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別する。
【0013】
図2に示す判別装置1は、3次元測定装置2と、データ処理装置3と、出力装置8とを備えている。
3次元測定装置2は、破断された鋼材10の上方に設置され、鋼材10の破面11の形状を測定する。3次元測定装置2としては、例えば、レーザを用いたレーザ測定器(3Dスキャナ)が使用される。3次元測定装置2は、例えばレーザによる距離計測を行うもので、その距離計測は、三角測距方式であっても位相差測距方式であってもよい。
【0014】
また、データ処理装置3は、3次元測定装置2で測定された破面形状の3次元の点群データを処理し、脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別し、最終的には延性破壊部11bの表面積の算出を行う。
このデータ処理装置3は、後に述べる判別手段4、投影長さ算出手段5、実長算出手段6、及び表面積算出手段7の各機能をコンピュータソフトウェア上でプログラムを実行することで実現するための演算処理機能を有するコンピュータシステムである。そして、このコンピュータシステムは、ROM,RAM,CPU等を備えて構成され、ROM等に予め記憶された各種専用のプログラムを実行することにより、前述した各機能をソフトウェア上で実現する
データ処理装置3は、3次元測定装置2で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データ(
図6参照)を抽出し、抽出された2次元断面の形状データにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分(線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1n)の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別する判別手段4を備えている。
【0015】
判別手段4では、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、
図1に示すように、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで所定範囲にわたって切断した複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出し、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分(線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1n)の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する。
ここで、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する具体的手法について、
図5を参照して説明する。
図5には、破面11における脆性破壊部11aは傾きが小さく、延性破壊部11bは傾きが大きいと仮定したときに考えられる破面のパターンが示されている。
【0016】
ここで、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa12、a23、a34、・・・、an-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb13、b24、・・・、bn-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとする。
ここで、これら点1、点2、点3、・・・、点nの2次元断面上の座標をそれぞれ(x1,y1)、(x2,y2)、(x3,y3)、・・・、(xn,yn)とすると、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値a12、a23、a34、・・・、an-1nは(a12、a23のみ説明する)、次の(1)式、(2)式のように表せる。
【0017】
【0018】
また、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値b13、b24、・・・、bn-2nは(b13のみ説明する)、次の(3)式のように表せる。
【0019】
【0020】
このときに、判別手段4は、先ず、(a)点1と点2間の線分12については、a12>αであれば延性破壊部11b、a12≦αであれば脆性破壊部11aと判断する。この理由は、脆性き裂を伝播させる試験で、き裂の伝播が停止した後に未破壊部分を強制破断させた場合、試験時の脆性破壊部分は一般的に平坦な状態で残るのに対し、未破壊部分は大きな変形を伴って延性破壊するため、延性破壊部11bの傾きが脆性破壊部11aの傾きよりも大きくなるからである。閾値αには、対象とする鋼材破面の特徴を考慮し、判別に最適な値を決定する。
【0021】
次いで、判別手段4は、(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部11aと判断されている場合に、b
13>βであれば延性破壊部11bと判断し(
図5(B)に示す)、b
13≦βであれば脆性破壊部11aと判断する(
図5(A)に示す)。閾値βには、対象とする鋼材破面の特徴を考慮し、判別に最適な値を決定する。
また、判別手段4は、(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部11bと判断されている場合に、a
23>αかつb
13≦βであれば延性破壊部11bと判断し(
図5(D)に示す)、a
23≦αあるいはb
13>βであれば脆性破壊部11aと判断する(
図5(C)に示す)。
【0022】
更に、判別手段4は、(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判断する。
このように、判別手段4による脆性破壊部11aか延性破壊部11bかの判断に際し、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値a12、a23、a34、・・・、an-1nのみでなく、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値b13、b24、・・・、bn-2nを用いているのは、傾斜の大小だけで判断すると誤差が大きいので、傾斜の急変点を脆性破壊部分と延性破壊部分との境界として検出するためである。
【0023】
また、データ処理装置3は、判別手段4によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの任意の2次元平面(ZX平面とYZ平面)に対する投影長さを算出する投影長さ算出手段5を備えている
投影長さ算出手段5による延性破壊部11bの任意の2次元平面(ZX平面とYZ平面)に対する投影長さを算出する具体的な方法について
図6を参照して説明する。
【0024】
判別に用いた2次元平面(XY平面)において、延性破壊部11bと判断された線分がp本(p>0)である場合、それぞれの線分を構成する2点について、x座標の差の絶対値をそれぞれΔx
1、Δx
2、・・・、Δx
p、y座標の差の絶対値をそれぞれΔy
1、Δy
2、・・・、Δy
pとすると、延性破壊部11bのZX平面への投影長さl
x、延性破壊部11bのYZ平面への投影長さl
yはそれぞれ次の(4)式、(5)式のように表される。
図6においては、延性破壊部11bのZX平面への投影長さl
x及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さl
yは一部しか図示されていない。
【0025】
【0026】
投影長さ算出手段5は、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bのZX平面への投影長さl
x及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さl
yを前述の(4)式及び(5)式を用いて算出する。
また、データ処理装置3は、判別手段4によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長を算出する実長算出手段6を備えている。
実長算出手段6による延性破壊部11bの実長を算出する具体的な方法について
図6を参照して説明する。
判別に用いた2次元平面(XY平面)において、延性破壊部11bと判断された線分がp本(p>0)である場合、それぞれの線分を構成する2点(x
a,y
a)、(x
b,y
b)の実長Δxyは、次の(6)式に表される。
【0027】
【0028】
そして、判別に用いた2次元平面(XY平面)において、延性破壊部11bと判断された線分がp本(p>0)である場合、各線分の実長を実長Δxy1、Δxy2、・・・、Δxypとすると、延性破壊部11bの実長lxyは、次の(7)式により表される。
【0029】
【0030】
実長算出手段6は、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyを前述の(7)式を用いて算出する。
更に、データ処理装置3は、実長算出手段6によって算出された2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyと、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)の前記所定範囲における延性破壊部11bの表面積を算出する表面積算出手段7を備えている。
【0031】
表面積算出手段7による延性破壊部11bの表面積を算出する具体的な方法について説明する。
前述したように、判別手段4では、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、
図1に示すように、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで所定範囲にわたって切断した複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出している。
そして、実長算出手段6は、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyを算出している。
ここで、2次元断面における延性破壊部11bの実長lxyは、複数(m個)あることから、各2次元断面における延性破壊部11bの実長をlxy
1、lxy
2、・・・、lxy
mとすると、前述の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sは、次の(8)式により近似することができる。
【0032】
【0033】
なお、この近似値と実表面積との大きな乖離を回避するため、切断間隔Δzは対象となる破面11の大きさを考慮して設定することが好ましい。
表面積算出手段7は、前述の(8)式によりき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出する。
【0034】
出力装置8は、データ処理装置3による算出結果を出力するものであり、例えば、プリンター等で構成され、投影長さ算出手段5による2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さly、実長算出手段6による2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxy、表面積算出手段7によるき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sの算出結果を出力する。
【0035】
このように、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、鋼材10の破面11の形状を測定する3次元測定装置2と、3次元測定装置2で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別する判別手段4とを備えている。
これにより、鋼材10の破面11において脆性破壊部11aと延性破壊部11bとを自動で判別することができる。また、鋼材10の破面11の形状を測定する際に3次元測定装置(例えば、3Dスキャナ)を使用し、顕微鏡を用いないので、小型試験(落重試験、シャルピー衝撃試験等)に加えて大型試験片に対しても適用可能な鋼材破面の判別装置1とすることができる。
【0036】
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、判別手段4は、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで切断した複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出する。そして、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する。
これにより、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における複数(m個)の2次元断面の形状データにおいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別できる。
【0037】
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、判別手段4は、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa12、a23、a34、・・・、an-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb13、b24、・・・、bn-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、次の手法により線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する。
【0038】
(a)点1と点2間の線分12については、a12>αであれば延性破壊部11b、a12≦αであれば脆性破壊部11aと判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部11aと判断されている場合に、b13>βであれば延性破壊部11bと判断し、b13≦βであれば脆性破壊部11aと判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部11bと判断されている場合に、a23>αかつb13≦βであれば延性破壊部11bと判断し、a23≦αあるいはb13>βであれば脆性破壊部11aと判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判断する。
【0039】
これにより、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nのそれぞれについて脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを正確に判別することができる。
このように、判別手段4による脆性破壊部11aか延性破壊部11bかの判断に際し、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値a12、a23、a34、・・・、an-1nのみでなく、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値b13、b24、・・・、bn-2nを用いているのは、傾斜の大小だけで判断すると誤差が大きいので、傾斜の急変点を脆性破壊部分と延性破壊部分との境界として検出するためである。
【0040】
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、判別手段4によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出する投影長さ算出手段5を備えている。
これにより、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出することができ、延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを定量的に評価することができる。
【0041】
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、判別手段4によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長lxyを算出する実長算出手段6を備えている。
これにより、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyを算出することができ、延性破壊部11bの実長lxyを定量的に評価することができる。
【0042】
更に、本実施形態に係る鋼材破面の判別装置1によれば、実長算出手段6によって算出された2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyと、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出する表面積算出手段7を備えている。
これにより、き裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出することができ、延性破壊部11bの表面積Sを定量的に評価することができる。
【0043】
次に、
図2に示す鋼材破面の判別装置1を用いた本実施形態に係る鋼材破面の判別方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
先ず、ステップS1において、3次元測定装置2は、
図1に示す破断された鋼材10の上方から鋼材10の破面11の形状を測定する(3次元測定ステップ)。
次いで、ステップS2において、データ処理装置3の判別手段4は、3次元測定装置2で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データ(
図6参照)を抽出し、抽出された2次元断面の形状データにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分(線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1n)の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別する(判別ステップ)。
【0044】
このステップS2(判別ステップ)について、
図4を参照して具体的に述べると、先ず、ステップS21において、判別手段4は、3次元測定装置2で測定された破面形状の3次元の点群データを取得する(点群データ取得ステップ)。
次いで、ステップS22において、判別手段4は、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで所定範囲にわたって切断した複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出する(2次元断面の形状データ抽出ステップ)。
【0045】
その後、ステップS23において、判別手段4は、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分(線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1n)の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別する(判断ステップ)
このステップS23における判断ステップでは、前述と同様に、判別手段4は、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa12、a23、a34、・・・、an-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb13、b24、・・・、bn-2nとし、鋼材により異なる前述の閾値α、βとする。
【0046】
そして、判別手段4は、先ず、(a)点1と点2間の線分12については、a12>αであれば延性破壊部、a12≦αであれば脆性破壊部11aと判断する。次いで、判別手段4は、(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部11aと判断されている場合に、b13>βであれば延性破壊部11bと判断し、b13≦βであれば脆性破壊部11aと判断する。更に、判別手段4は、(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部11bと判断されている場合に、a23>αかつb13≦βであれば延性破壊部11bと判断し、a23≦αあるいはb13>βであれば脆性破壊部11aと判断する。更に、判別手段4は、(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判断する。
これにより、ステップS2(判別ステップ)は終了し、判別結果が投影長さ算出手段5に送出される。
【0047】
次に、ステップS3に移行し、データ処理装置3の投影長さ算出手段5は、ステップS2(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出する(投影長さ算出ステップ)。
この投影長さ算出手段5による2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyの具体的な算出方法は前述と同様である。
次に、ステップS4に移行し、データ処理装置3の実長算出手段6は、ステップS2(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長lxyを算出する(実長算出ステップ)。
【0048】
この実長算出手段6による2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長lxyの具体的な算出方法は前述と同様である。
次に、ステップS5に移行し、データ処理装置3の表面積算出手段7は、ステップS4(実長算出ステップ)によって算出された2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyと、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出する(表面積算出ステップ)。
【0049】
この表面積算出手段7によるき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における表面積Sの具体的な算出方法は前述と同様である。
最後にステップS6に移行し、出力装置8は、投影長さ算出手段5による2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さly、実長算出手段6による2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxy、表面積算出手段7によるき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sの算出結果を出力する。
【0050】
このように、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、鋼材10の破面11の形状を測定するステップS1(3次元測定ステップ)と、ステップS1(3次元測定ステップ)で測定された破面形状の3次元の点群データを取得し、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出し、抽出された2次元断面の形状データにおける隣接する点間の線分の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別するステップS2(判別ステップ)とを含んでいる。
これにより、鋼材10の破面11において脆性破壊部11aと延性破壊部11bとを自動で判別することができる。また、鋼材10の破面11の形状を測定する際に3次元測定装置(例えば、3Dスキャナ)を使用し、顕微鏡を用いないので、小型試験(落重試験、シャルピー衝撃試験等)に加えて大型試験片に対しても適用可能な鋼材破面の判別装置1とすることができる。
【0051】
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、ステップS2(判別ステップ)では、3次元の点群データから鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面(XY平面)で切断した2次元断面の形状データを抽出するに際し、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで所定範囲にわたって切断した複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出する。そして、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する。
【0052】
これにより、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における複数(m個)の2次元断面の形状データにおいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別できる。
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、ステップS2(判別ステップ)では、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、連続して隣り合う点1と点2、点2と点3、点3と点4、・・・、点n-1と点n間の線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nの傾きの絶対値をそれぞれa12、a23、a34、・・・、an-1nとし、隣り合う線分12と線分23、線分23と線分34、・・・、線分n-2n-1と線分n-1nの傾きの差の絶対値をそれぞれb13、b24、・・・、bn-2nとし、鋼材により異なる閾値α、βとしたときに、次の手法により線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別する。
【0053】
(a)点1と点2間の線分12については、a12>αであれば延性破壊部11b、a12≦αであれば脆性破壊部11aと判断し、
(b)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が脆性破壊部11aと判断されている場合に、b13>βであれば延性破壊部11bと判断し、b13≦βであれば脆性破壊部11aと判断し、
(c)点2と点3間の線分23については、点1と点2間の線分12が延性破壊部11bと判断されている場合に、a23>αかつb13≦βであれば延性破壊部11bと判断し、a23≦αあるいはb13>βであれば脆性破壊部11aと判断し、
(d)点3と点4間の線分34以降の線分34、・・・、線分n-1nについては、(b)及び(c)の判断基準に従って脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判断する。
【0054】
これにより、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおいて、線分12、線分23、線分34、・・・、線分n-1nのそれぞれについて脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを正確に判別することができる。
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、ステップS2(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出するステップS3(投影長さ算出ステップ)を含んでいる。
【0055】
これにより、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出することができ、延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを定量的に評価することができる。
また、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、ステップS2(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長lxyを算出するステップS4(実長算出ステップ)を含んでいる。
【0056】
これにより、2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyを算出することができ、延性破壊部11bの実長lxyを定量的に評価することができる。
更に、本実施形態に係る鋼材破面の判別方法によれば、ステップS4(実長算出ステップ)によって算出された2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyと、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出するステップS5(表面積算出ステップ)を備えている。
【0057】
これにより、き裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出することができ、延性破壊部11bの表面積Sを定量的に評価することができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されず、種々の変更、改良を行うことができる。
例えば、投影長さ算出手段5(投影長さ算出ステップ)は、判別手段4(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bのZX平面への投影長さlx及び延性破壊部11bのYZ平面への投影長さlyを算出しているが、判別手段4(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部11aのZX平面への投影長さ及び脆性破壊部11aのYZ平面への投影長さを算出するようにしてもよい。
【0058】
また、実長算出手段6(実長算出ステップ)は、判別手段4(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された延性破壊部11bの実長lxyを算出しているが、判別手段4(判別ステップ)によって2次元断面の形状データ毎に判別された脆性破壊部11aの実長を算出するようにしてもよい。
更に、表面積算出手段7(表面積算出ステップ)は、実長算出手段6(実長算出ステップ)によって算出された2次元断面の形状データ毎の延性破壊部11bの実長lxyと、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、き裂伝播方向(Z方向)所定範囲における延性破壊部11bの表面積Sを算出するようにしているが、実長算出手段6(実長算出ステップ)によって算出された2次元断面の形状データ毎の脆性破壊部11aの実長と、複数(m個)の2次元断面の鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)における切断間隔Δzとに基づいて、き裂伝播方向(Z方向)所定範囲における脆性破壊部11aの表面積Sを算出するようにしてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、判別手段4(判別ステップ)は、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一定の切断間隔Δzで切断した所定範囲の複数(m個)の2次元断面の形状データを抽出し、抽出された複数(m個)の2次元断面の形状データのそれぞれにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを2次元断面の形状データ毎に判別するようにしている。
【0060】
しかし、判別手段4(判別ステップ)は、鋼材10のき裂伝播方向(Z方向)に一か所で切断した1個の2次元断面の形状データを抽出し、抽出された1個の2次元断面の形状データにおける隣接する点(点1と点2、・・・、点n-1と点n)間の線分(線分12、・・・、線分n-1n)の傾きの絶対値及び隣接する線分の傾きの差の絶対値に基づいて、線分の範囲が脆性破壊部11aか延性破壊部11bかを判別するようにしてもよい。
この場合、投影長さ算出手段5(投影長さ算出ステップ)は、判別手段4(判別ステップ)によって判別された脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bのZX平面への投影長さ及び脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bのYZ平面への投影長さを1個の2次元断面の形状データについて算出すればよい。
【0061】
また、この場合、実長算出手段6(実長算出ステップ)は、判別手段4(判別ステップ)によって判別された脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bの実長を1個の2次元断面の形状データについて算出すればよい。
更に、この場合、表面積算出手段7(表面積算出ステップ)は、き裂伝播方向(Z方向)の所定範囲における脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bの表面積Sを算出しない。
【0062】
また、投影長さ算出手段5(投影長さ算出ステップ)は、判別手段4(判別ステップ)によって判別された脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bのZX平面への投影長さ及び脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bのYZ平面への投影長さを算出しているが、投影長さ算出手段5(投影長さ算出ステップ)は、ZX平面及びYZ平面に限らず、判別手段4(判別ステップ)によって判別された脆性破壊部11aまたは延性破壊部11bの任意の2次元平面に対する投影長さを算出すればよい。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例で用いた破面11は、
図1に示すように、脆性き裂を伝播させた後、未破壊部分を荷重負荷により延性破壊させた鋼材10の破面11である。鋼材10の破面11は、70mm(X方向)×500mm(Z方向)であり、巨視的には500mmの方向(Z方向)へき裂が伝播している。この破面11のうち脆性破壊部11aと延性破壊部11bとが混在した混在部11cにおいて、き裂伝播方向(Z方向)にわたって30mmの範囲で本発明の判別方法を適用した。
【0064】
図6には、鋼材破面11における脆性破壊部11aと延性破壊部11bとが混在した混在部11c(30mmの範囲)において、き裂伝播方向(Z方向)に対し垂直な平面で切断した2次元断面の形状データの一例が示されている。
この
図6に示す特定の2次元断面においては、目視による脆性破壊部11aか延性破壊部11bかの判別と、本発明の判別方法による脆性破壊部11aか延性破壊部11bかの判別との一致率が85.8%となっており、本発明の判別方法が良好な結果であることがわかった。
【0065】
【0066】
なお、表1には、
図6に示す特定の2次元断面における延性破壊部11bのZX平面への投影長さl
x、延性破壊部11bのYZ平面への投影長さl
y、延性破壊部11bの実長lxy、及び対象範囲(30mm)における延性破壊部11bの表面積Sが示されている。
【符号の説明】
【0067】
1 鋼材破面の判別装置
2 3次元測定装置
3 データ処理装置
4 判別手段
5 投影長さ算出手段
6 実長算出手段
7 表面積算出手段
8 出力装置
10 鋼材
10a 一端面
10b 他端面
11 破面
11a 脆性破壊部
11b 延性破壊部
11c 混在部