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特許7147904形鋼の曲がり予測方法、形鋼の製造方法、学習済の機械学習モデルの生成方法および形鋼の曲率予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】形鋼の曲がり予測方法、形鋼の製造方法、学習済の機械学習モデルの生成方法および形鋼の曲率予測装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 3/00 20060101AFI20220928BHJP
   B21D 3/02 20060101ALI20220928BHJP
   B21D 3/05 20060101ALI20220928BHJP
   B21B 1/088 20060101ALI20220928BHJP
   B21B 1/092 20060101ALI20220928BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20220928BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20220928BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20220928BHJP
   B21B 37/28 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B21D3/00 Z
B21D3/02 D
B21D3/05 D
B21D3/05 M
B21B1/088 B
B21B1/092
B21B38/00 C
B21C51/00 E
G06N20/00 130
B21B37/28 140
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021048714
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2021183354
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020089363
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 由紀雄
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-39107(JP,A)
【文献】特開平9-216010(JP,A)
【文献】特開2021-98213(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0127627(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 3/00 - 3/05
B21B 1/088
B21B 1/092
B21B 38/00
B21B 37/28
B21C 51/00
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり予測方法であって、
前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、を曲がり曲率の予測を行う形鋼の入力データとして取得し、
前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする機械学習モデルに前記入力データを入力して前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を予測する、形鋼の曲がり予測方法。
【請求項2】
前記圧延工程は、仕上圧延工程と冷却工程とを含み、
前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを用いる、請求項1に記載の形鋼の曲がり予測方法。
【請求項3】
前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度および前記仕上圧延工程の出側温度の少なくとも1つと前記冷却工程の出側温度とを用いる、請求項2に記載の形鋼の曲がり予測方法。
【請求項4】
前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度として前記形鋼のフランジの温度とウェブの温度とを用いる、請求項2または請求項3に記載の形鋼の曲がり予測方法。
【請求項5】
前記入力データのうち、曲がり矯正工程の圧延荷重を変更して前記曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率を予測し、予測された曲がり曲率が目標上限曲率以下となる前記圧延荷重を特定する、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の形鋼の曲がり予測方法。
【請求項6】
請求項5に記載の形鋼の曲がり予測方法で特定された圧延荷重で前記曲がり矯正工程を実施して形鋼を製造する、形鋼の製造方法。
【請求項7】
熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力する学習済の機械学習モデルの生成方法であって、
前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率と、を含むデータセットを教師データとして、
前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成する、学習済の機械学習モデルの生成方法。
【請求項8】
前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれか1つである、請求項7に記載の学習済の機械学習モデルの生成方法。
【請求項9】
熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の曲がり曲率を算出する形鋼の曲率予測装置であって、
前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、を曲がり曲率の予測を行う形鋼の入力データとして取得し、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする機械学習モデルに前記入力データを入力して前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を算出する曲率演算部を有する、形鋼の曲率予測装置。
【請求項10】
前記圧延工程は、仕上圧延工程と冷却工程とを含み、
前記曲率演算部は、前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを取得する、請求項9に記載の形鋼の曲率予測装置。
【請求項11】
前記曲率演算部は、前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度および前記仕上圧延工程の出側温度の少なくとも1つと、前記冷却工程の出側温度を取得する、請求項10に記載の形鋼の曲率予測装置。
【請求項12】
前記曲率演算部は、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度として前記形鋼のフランジの温度とウェブの温度とを取得する、請求項10または請求項11に記載の形鋼の曲率予測装置。
【請求項13】
前記曲率演算部は、前記入力データのうち、曲がり矯正工程の圧延荷重を変更して前記曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率を出力し、出力された曲がり曲率が目標上限曲率以下となる前記圧延荷重を特定する、請求項9から請求項12の何れか一項に記載の形鋼の曲率予測装置。
【請求項14】
熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の曲がり曲率を算出するのに用いる学習済の機械学習モデルを生成する形鋼の曲率予測装置であって、
前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率と、を含むデータセットを教師データとして取得し、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成する曲率演算部を有する、形鋼の曲率予測装置。
【請求項15】
前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれか1つである、請求項14に記載の形鋼の曲率予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェブ及びフランジを有する形鋼の曲がり矯正工程後の曲がり曲率を予測する形鋼の曲がり予測方法、形鋼の製造方法、学習済の機械学習モデルの生成方法および形鋼の曲率予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼に代表されるウェブ及びフランジを有する形鋼は、主として熱間圧延により製造される。しかし、熱間圧延において塑性変形が不均一に付与される場合や、冷却が不均一になる場合があり、これが原因で形鋼の長手方向全体又はその一部に曲がりや反りが発生し、まっすぐな形鋼が製造されない場合がある。このような曲がりや反りを除去し、まっすぐな形鋼にするため、形鋼出荷前に冷間での形状矯正が行われる。
【0003】
図1は、形鋼の一例であるH形鋼10及びT形鋼20の断面形状を示す図である。図1(a)は、H形鋼10の断面形状を示し、図1(b)はT形鋼20の断面形状を示す。図1(a)(b)に示したウェブ高さH、フランジ幅B、ウェブ厚tw、及びフランジ厚tfのうち少なくとも1つが異なる様々な断面寸法の形鋼が製造されている。このため、熱間圧延における塑性変形や冷却の不均一が生じやすく、製造される形鋼には、図1の断面からみて長手方向に沿って上下に変位量が異なる「反り」や、長手方向に沿って左右に変位量が異なる「曲がり」が発生する。
【0004】
形鋼の曲がりや反りの矯正方法としては、上下に千鳥状に配置した複数のローラを用いてウェブを圧下するローラ矯正方法などが一般的である。しかし、ウェブに繰り返し曲げを付与して矯正する目的は主として反りの低減であって、曲がりに対しては十分な矯正効果が得られない。一方、形鋼の曲がりを矯正する手段としては、プレス装置を用いて形鋼に曲げモーメントを付与する方法が知られているが、オフラインでの経験に依存した作業となり、矯正作業に長時間を要するので生産能率が低いという課題がある。
【0005】
これに対して、特許文献1には、フランジを冷間で圧延して延伸させることにより、形鋼の曲がりを効率良く矯正する曲がり矯正方法が開示されている。図2は、この曲がり矯正方法が実施できる曲がり矯正機30の構成を示す断面模式図である。曲がり矯正機30は、フランジ12をウェブ11とは反対側の面から押圧する外面ロール32と、ウェブ11の高さ方向端部からウェブ11の両面側にそれぞれ張り出す両フランジ部(以下、「上フランジ部12b」及び「下フランジ部12a」と記載する。)をウェブ11側の面から押圧して、上フランジ部12bと下フランジ部12aとを外面ロールとの間で挟圧する一対の矯正ロール34とを有し、フランジ12内外の対向する矯正ロール34に所定の圧下力(以下、この圧下力を「圧延荷重」と記載する。)を加えてフランジ12を圧延して曲がりを矯正する。この曲がり矯正機30を用いた曲がり矯正方法によって形鋼の局所的な曲がりを矯正できる。また、この曲がり矯正方法は、形鋼を搬送しながら矯正できるので、矯正の処理効率の点で有利である。
【0006】
この曲がり矯正方法を用いて形鋼を矯正するには、形鋼に矯正前の曲がりに応じて適切な圧延荷重を付与することが重要となる。特許文献2には、フランジに付与する圧延荷重と、曲がり矯正による曲がりの変化量との関係式を予め求めておき、曲がりを有する被矯正形鋼に曲がり矯正を施す際には、当該関係式を用いて被矯正形鋼の曲がりを矯正するために必要な圧延荷重を算出し、算出された圧延荷重をフランジに付与して圧延する曲がり矯正方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-282943号公報
【文献】特開2014-208371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
形鋼の製造工程で生じる曲がりを矯正するには、フランジを冷間で圧延して延伸させる特許文献1の曲がり矯正方法を用いることが好ましい。しかしながら、特許文献1に開示された方法では、曲がりを除去するために適切な圧延荷重を設定することが難しいという課題がある。この理由は、曲がり矯正に適した圧延荷重は、曲がり矯正前の形鋼の曲がり曲率によって異なり、また、同じ曲がり曲率であっても形鋼の断面寸法が違う場合には、それぞれに適した圧延荷重が異なるからである。
【0009】
これに対して、特許文献2に開示された曲がり矯正方法によると、ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、及び降伏強さのうち少なくとも1つが異なる複数種の形鋼について、関係式をそれぞれ予め求めておき、被矯正形鋼の曲がりを矯正するために必要な圧延荷重の算出には、被矯正形鋼とウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、及び降伏強度が同一である形鋼を基準形鋼とし、この基準形鋼について得られている関係式を用いることで、形鋼の断面寸法や材質の影響を考慮した圧延荷重を設定できるとされている。
【0010】
しかしながら、ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚および降伏強度が同じ形鋼であっても、例えばウェブ厚が異なる場合には、適切な圧延荷重が異なる。さらに、形鋼の断面寸法だけでなく、曲がり矯正前の形鋼が有する残留応力も曲がり矯正に適した圧延荷重に影響を与える。
【0011】
特許文献2の圧延荷重設定方法は、曲がり矯正前の形鋼が有する残留応力の影響が考慮されていないので、同一の区分に属する形鋼に対して同じ圧延荷重を設定して曲がり矯正を行っても矯正後の形鋼の曲がり曲率が変動するという課題があった。本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、矯正後の形鋼の曲がり曲率を高い精度で予測できる形鋼の曲がり予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり予測方法であって、前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、を曲がり曲率の予測を行う形鋼の入力データとして取得し、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする機械学習モデルに前記入力データを入力して前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を予測する、形鋼の曲がり予測方法。
(2)前記圧延工程は、仕上圧延工程と冷却工程とを含み、前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを用いる、(1)に記載の形鋼の曲がり予測方法。
(3)前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度および前記仕上圧延工程の出側温度の少なくとも1つと前記冷却工程の出側温度とを用いる、(2)に記載の形鋼の曲がり予測方法。
(4)前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度として前記形鋼のフランジの温度とウェブの温度とを用いる、(2)または(3)に記載の形鋼の曲がり予測方法。
(5)前記入力データのうち、曲がり矯正工程の圧延荷重を変更して前記曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率を予測し、予測された曲がり曲率が目標上限曲率以下となる前記圧延荷重を特定する、(1)から(4)の何れか1つに記載の形鋼の曲がり予測方法。
(6)(5)に記載の形鋼の曲がり予測方法で特定された圧延荷重で前記曲がり矯正工程を実施して形鋼を製造する、形鋼の製造方法。
(7)熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力する学習済の機械学習モデルの生成方法であって、過去の前記製造工程で製造された形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率と、を含むデータセットを教師データとして、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成する、学習済の機械学習モデルの生成方法。
(8)前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれか1つである、(7)に記載の学習済の機械学習モデルの生成方法。
(9)熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の曲がり曲率を算出する形鋼の曲率予測装置であって、前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、を曲がり曲率の予測を行う形鋼の入力データとして取得し、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする機械学習モデルに前記入力データを入力して前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を算出する曲率演算部を有する、形鋼の曲率予測装置。
(10)前記圧延工程は、仕上圧延工程と冷却工程とを含み、前記曲率演算部は、前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを取得する、(9)に記載の形鋼の曲率予測装置。
(11)前記曲率演算部は、前記圧延工程の操業パラメータとして、前記仕上圧延工程の入側温度および前記仕上圧延工程の出側温度の少なくとも1つと、前記冷却工程の出側温度を取得する、(10)に記載の形鋼の曲率予測装置。
(12)前記曲率演算部は、前記仕上圧延工程の入側温度、前記仕上圧延工程の出側温度および前記冷却工程の出側温度として前記形鋼のフランジの温度とウェブの温度とを取得する、(10)または(11)に記載の形鋼の曲率予測装置。
(13)前記曲率演算部は、前記入力データのうち、曲がり矯正工程の圧延荷重を変更して前記曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率を出力し、出力された曲がり曲率が目標上限曲率以下となる前記圧延荷重を特定する、(9)から(12)の何れか1つに記載の形鋼の曲率予測装置。
(14)熱間圧延によりフランジを有する形鋼を造形する圧延工程および前記形鋼のフランジに冷間圧延による圧延荷重をかけて曲がりを矯正する曲がり矯正工程後の曲がり曲率を算出するのに用いる学習済の機械学習モデルを生成する形鋼の曲率予測装置であって、前記形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、前記圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、前記曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、前記曲がり矯正工程の圧延荷重と、曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率と、を含むデータセットを教師データとして取得し、前記曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成する曲率演算部を有する、形鋼の曲率予測装置。
(15)前記機械学習モデルは、ニューラルネットワーク、決定木学習、ランダムフォレストおよびサポートベクター回帰のいずれか1つである、(14)に記載の形鋼の曲率予測装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る形鋼の曲がり予測方法では、矯正前の形鋼が有する残留応力を考慮した機械学習モデルを用いて矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を予測するので、残留応力を考慮していない従来の方法よりも高い精度で形鋼の曲がり曲率を予測できる。この曲がり曲率の予測方法を用いて形鋼の曲がり曲率が目標上限値以下となる圧延荷重を特定し、当該圧延荷重で曲がり矯正工程を実施することで、目標上限値以下となる曲がり曲率の形鋼を高い生産能率で製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】形鋼の一例であるH形鋼10及びT形鋼20の断面形状を示す図である。
図2】曲がり矯正機30の構成を示す断面模式図である。
図3】H形鋼10の曲がりを説明する図である。
図4】本実施形態に係る形鋼の製造方法が適用できる形鋼の製造設備100の概要を説明する図である。
図5】熱間圧延設備40の構成を説明する図である。
図6】H形鋼10の温度測定位置を説明する断面模式図である。
図7】曲率予測装置80の機能ブロック図である。
図8】H形鋼10の残留応力を説明する図である
図9】曲率演算部82によって曲がり矯正機30の圧延荷重を特定する処理を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法で曲がり曲率が予測される形鋼は、例えば、図1(a)に示すH形鋼10および図1(b)に示すT形鋼20であって熱間圧延により製造されるものであり、鋼板の溶接組立によって製造される形鋼は対象としない。これらの形鋼の断面寸法は、ウェブ高さH、フランジ幅B、ウェブ厚tw、及びフランジ厚tfで示される。また、本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法で曲がり曲率が予測される形鋼は、H形鋼10やT形鋼20のように、フランジ12とウェブ11とが直角をなす断面形状の形鋼である。ただし、フランジ12を圧延によって延伸できる形状であれば、フランジ12がウェブ11に対して傾斜していても当該形鋼の曲がりを矯正できる。このため、本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法で曲がり曲率が予測される形鋼は、フランジとウェブとが直角をなす形鋼に限らず、フランジとウェブとが一定の角度で傾斜している形鋼であればよい。
【0016】
図3は、H形鋼10の曲がりを説明する図である。H形鋼10は、図2に示した曲がり矯正機30によってフランジ12が冷間圧延され、曲がりが矯正される。図3に示すように、曲率Cの曲がりを有するH形鋼10を矯正するには、適切な圧延荷重を付与して曲がりの曲率半径方向内側のフランジ12を圧延する必要がある。圧延荷重が適正値よりも小さい場合には、圧延によって生じるH形鋼10の曲がりの変化量が少なすぎてまっすぐにならない。また、圧延荷重が適正値よりも大きい場合は、圧延によって生じるH形鋼10の曲がりの変化量が多すぎて当初の曲がり方向とは逆方向の曲がりを発生させる。
【0017】
このように、圧延荷重を変更して曲がり矯正を繰り返すことで最終的には曲がりのないH形鋼10が得られるものの、曲がり矯正のパス数が増えることによって曲がり矯正に要する時間が長くなり、H形鋼10の生産能率が低下する。したがって、曲がり矯正機30で付与される圧延荷重を適切に設定することが形鋼の生産能率を向上させる上で重要になる。
【0018】
本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法では、矯正前の形鋼が有する残留応力を考慮した学習済の機械学習モデルを用いて矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を予測する。このように残留応力を考慮することで、残留応力を考慮していない方法よりも高い精度で形鋼の曲がり曲率を予測できる。そして、当該予測方法を用いることで、形鋼の曲がり曲率が目標上限値以下となる曲がり矯正機30の圧延荷重を特定でき、これにより、曲がり矯正機30の圧延荷重が適切な値に設定され、この結果、生産能率の高い形鋼の製造が実現する。以下、本発明の実施形態を、H形鋼10の製造例を用いて詳細に説明する。
【0019】
図4は、本実施形態に係る形鋼の製造方法が適用できる形鋼の製造設備100の概要を説明する図である。形鋼の製造設備100は、熱間圧延設備40と、切断装置68と、冷却床70と、曲がり矯正機30と、反り矯正機72と、プロセスコンピュータ(プロコン)78と、曲率予測装置80とを有する。熱間圧延設備40と、切断装置68と、冷却床70と、曲がり矯正機30と、反り矯正機72は、形鋼の製造工程を統括するプロセスコンピュータ78と接続される。プロセスコンピュータ78は、各設備の操業条件の設定や、各設備が備える計測機器から得られる実績データを収集する機能を備える。なお、各設備には、個別の制御用計算機や制御用コントローラ(不図示)が設置されてもよく、その場合にはプロセスコンピュータ78は、個別の制御用計算機や制御用コントローラを介して、各設備の操業条件の指示と実績データの収集を行う。さらに、プロセスコンピュータ78は、後述の曲率予測装置80と接続され、曲がり矯正機30における形鋼の曲がり曲率の予測に必要なデータの送受信を行う。
【0020】
加熱炉(不図示)によって加熱された鋼片は、熱間圧延設備40で圧延され、H形鋼の製品形状に造形、延伸されるとともに、水冷により所定の温度まで冷却される。図5は、熱間圧延設備40の構成を説明する図である。熱間圧延設備40は、粗圧延機42、中間圧延機44、仕上圧延機52、水冷装置49、50および加速冷却装置54を有する。熱間圧延設備40では、所定の加熱温度(1100~1300℃)に加熱された鋼片を複数の圧延機により圧延されH形鋼に造形する圧延工程が実施される。具体的には、加熱された鋼片が粗圧延機42にて断面H形状の粗造形材に圧延される。その後、粗造形材は、中間圧延機44により中間圧延された後、仕上圧延機52で仕上圧延され、図1(a)に示した断面形状のH形鋼に造形される。
【0021】
粗圧延機42では、粗圧延工程が実施される。粗圧延工程では、孔型ロールを用いて、5~30パス程度の粗圧延が行われる。中間圧延機44では、中間圧延工程が実施される。中間圧延機44には、粗ユニバーサル圧延機46とエッジャ圧延機48とがそれぞれ1台以上組み合わされて用いられる場合が多い。中間圧延工程では、5~30パス程度のリバース圧延が行われ、概ね製品となる断面形状に近い状態まで中間圧延される。
【0022】
粗ユニバーサル圧延機46は、水平な軸心に対して駆動されて回転する上下水平ロールと、垂直な軸心に対して自由回転する左右竪ロールの合計4つのロールを有する形鋼用の圧延機である。水平ロールの直径は500~1500mm程度であり、幅は圧延するH形鋼10のウェブ高さに応じて適切な値に設定される。竪ロールの直径は400~1000mm程度である。これらのロールはそれぞれ圧下装置で位置調整が可能な構造となっており、上下水平ロール間や水平ロール側面と竪ロールの間隔が任意に設定できるようになっている。粗ユニバーサル圧延機46は、ウェブ厚とフランジ厚を同時に圧下する機能を有し、フランジ12が外側に最大10°程度傾斜した状態で圧延できる装置である。
【0023】
エッジャ圧延機48は、上下2本の水平ロールを有する圧延機である。上下2本の水平ロールにはそれぞれのロールに孔型が設けられ、フランジ12の先端を上下から圧下することでフランジ幅が調整される。上下ロールの直径は800~1500mm程度であり、上下2本のロールのどちらも駆動される。
【0024】
仕上圧延機52では、仕上圧延工程が実施される。仕上圧延工程では、通常、1パスで圧延が行われ、目標とする厚みや断面形状に造形される。仕上圧延機52にはユニバーサル圧延機が用いられる。ユニバーサル圧延機は、中間圧延された圧延材を1パスで製品断面形状に造形できる。ロールの寸法や構成は粗ユニバーサル圧延機46と同様であるが、フランジ12が垂直になるように水平ロール側面と竪ロールの角度がほぼ垂直になるように設けられている。
【0025】
この圧延工程内、もしくは、圧延工程後に、必要に応じてフランジ12を冷却する冷却工程が実施される。冷却工程には、通過型の強制冷却方式の水冷装置が用いられる。H形鋼10は、強度およびじん性等の鋼材特性を満足させるために、水冷装置で所定の冷却条件で冷却される。図5に示した例では、熱間圧延設備40内に粗ユニバーサル圧延機46の入側とエッジャ圧延機48の出側に水冷装置49が設けられ、エッジャ圧延機48と仕上圧延機52との間に水冷装置50が設けられる。これらの水冷装置49、50によりフランジ12の外面が水冷される。さらに、仕上圧延機52の出側に加速冷却装置54を設けて、加速冷却工程を実施してもよい。加速冷却工程によりH形鋼10の鋼材を加速冷却することで鋼材の鋼組織が制御される。この鋼組織の制御により、製造されるH形鋼10の強度が向上し、高強度のH形鋼10が製造できる。
【0026】
圧延の最終パスとなる仕上圧延機52の入側および出側でのH形鋼10の温度は概ね700~1000℃程度である。また、加速冷却装置54の出側におけるH形鋼10の温度は600~400℃程度となり、その後、切断装置68に搬送される。このように、圧延工程では、粗圧延機42、中間圧延機44および仕上圧延機52を用いるフランジ12とウェブ11を圧下により減厚する圧延工程に加えて、各水冷装置49、50および加速冷却装置54を用いる冷却工程を含む。
【0027】
本実施形態における形鋼の製造方法では、圧延工程の所定の位置に温度計が設置され、それぞれの位置においてH形鋼10の温度が測定される。図5に示した例では、水冷装置50の上流側および下流側、加速冷却装置54の上流側および下流側にウェブ11およびフランジ12の表面温度を測定する温度計60、62、64および66が設置されている。ただし、温度計は、必ずしもこれらの全ての位置に設置しなくてよく、これらの位置の内の少なくとも1箇所に温度計を設け、当該位置におけるウェブ11およびフランジ12の表面温度を測定すればよい。温度計60、62、64および66によって測定されたウェブ11およびフランジ12の表面温度は、プロセスコンピュータ78に出力される。
【0028】
本実施形態では、仕上圧延機52の入側に設置された温度計60または温度計62によって測定される温度を「仕上圧延工程の入側温度」とし、仕上圧延機52の出側の温度計64により測定される温度を「仕上圧延工程の出側温度」とし、加速冷却装置54により最終的な冷却が行われる水冷工程の下流側に設置した温度計66により測定される温度を「冷却工程の出側温度」とする。
【0029】
図6は、H形鋼10の温度測定位置を説明する断面模式図である。H形鋼10の温度測定には、当該H形鋼10が圧延工程で搬送される際に一定距離離れた位置から表面温度を測定できる放射温度計を用いることが好ましい。温度測定を行う部位は、フランジ12とウェブ11の両方の温度を測定することが好ましい。その際、測定の容易さを考慮して、フランジ12については外面の表面温度、ウェブ11については上面の表面温度を測定することが好ましい。フランジ12の外面の高さ方向については任意の高さの表面温度を測定してよいが、フランジ12の幅の中央となる位置(図6のFc)の表面温度を測定することが好ましい。ウェブ11の上面については、ウェブ11の厚方向の任意の位置の表面温度を測定すればよいが、ウェブ11の厚方向の中央となる位置(図6のWc)の表面温度を測定することが好ましい。
【0030】
なお、温度測定個所は必ずしもフランジ12の外面やウェブ11の上面の各1点としなくてもよく、例えば、赤外線サーモグラフィを用いてフランジ12の外面やウェブ11の上面の所定の範囲の温度分布を測定し、当該範囲内において算出された平均温度を用いてもよい。
【0031】
再び、図4を参照する。熱間圧延設備40で造形されたH形鋼10は、その後、切断装置68により、長手方向に20~200m程度に延伸されたH形鋼10の最先端部と最尾端部が切断されるとともに、製品として求められ長さである5~25m程度に切断される。切断装置68によって所定の長さによって切断されたH形鋼10は、冷却床70で約100℃以下まで空冷される。また、冷却床70では、冷却されたH形鋼10の曲がり曲率が測定される。この曲がり曲率が、曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率である。測定された曲がり曲率は、プロセスコンピュータ78に出力されるとともに、当該曲がり曲率が製品の目標上限曲率を超えているか否かが判定される。H形鋼10の曲がり曲率が製品の目標上限曲率を超えている場合に、当該H形鋼10は、曲がり矯正機30に搬送される。一方、H形鋼10の曲がり曲率が製品の目標上限曲率以下である場合には曲がり矯正を行わない場合がある。なお、曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率の測定は、冷却床70から曲がり矯正機30の入側までの間であれば、いずれの位置で測定してもよい。
【0032】
曲がり矯正機30では、フランジ12に冷間圧延による圧延荷重をかけてH形鋼10の曲がりを矯正する曲がり矯正工程が実施される。図2に示すように、曲がり矯正機30は、フランジ12のウェブ11とは反対側の面(フランジ外面)に対向して設けられる外面ロール32と、フランジ12のウェブ11側の面(フランジ内面)に対向して設けられる一対の矯正ロール34とを有する。
【0033】
曲がり矯正工程では、曲がりの曲率半径方向内側のフランジ12を外面ロール32と矯正ロール34とで挟圧し、所定の圧延条件でフランジ12を圧延する。これにより、曲がりの曲率半径方向内側のフランジ12が延伸され、H形鋼10の曲がりが矯正される。
【0034】
曲がり矯正工程が実施された後に、曲がり矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率が測定される。測定された曲がり曲率は、プロセスコンピュータ78に出力される。曲がり矯正工程後の曲がり曲率の測定には、曲がり矯正前の曲がり曲率測定装置と同程度の測定精度を有するものを用いるのが好ましい。
【0035】
曲がり矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率は、曲がり矯正機30の出側あるいは反り矯正機72の出側のいずれで測定されてもよい。また、製品の出荷前の検査工程でH形鋼10の曲がり曲率を測定してもよい。曲がり矯正工程後のH形鋼10は、必要に応じて反り矯正機72によって長手方向の反り矯正が行われ、所定の品質を満足するか否かを検査する検査工程を経た後に製品となる。
【0036】
プロセスコンピュータ78は、形鋼の製造設備100を構成する設備の動作を制御するための指令を出す。また、プロセスコンピュータ78には、過去に形鋼の製造設備100で製造されたH形鋼10の材料属性パラメータ(ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、降伏強度等)、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側におけるH形鋼10の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重および曲がり矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率が格納されている。さらに、プロセスコンピュータ78には、現在、形鋼の製造設備100で製造されるH形鋼10の材料属性パラメータ、熱間圧延設備40の操業パラメータも格納され、曲がり矯正工程の入側におけるH形鋼10の曲がり曲率および曲がり矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率もこれらが測定され次第格納される。
【0037】
図7は、曲率予測装置80の機能ブロック図である。曲率予測装置80は、H形鋼10の材料属性パラメータと、熱間圧延設備40の操業パラメータと、曲がり矯正工程の入側のH形鋼10の曲がり曲率と、曲がり矯正機30の圧延荷重を含む入力データを用いて、曲がり矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率を予測する。さらに、曲率予測装置80は、予測された曲がり曲率が目標上限曲率以下となる曲がり矯正機30の圧延荷重を特定する。
【0038】
曲率予測装置80は、例えば、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータである。曲率予測装置80は、曲率演算部82と、格納部84と、入力部90とを有する。曲率演算部82は、例えば、CPU等であって、格納部84に保存されたプログラムやデータを用いて、曲率予測装置80の有する機能を実現させるために所定の演算を実行する。具体的に曲率演算部82は、格納部84に格納されている学習済の機械学習モデルを用いて、H形鋼10の曲がり矯正工程後の曲がり曲率を予測する。さらに曲率演算部82は、予測された曲がり矯正工程後の曲がり曲率が目標上限曲率以下となる圧延荷重を特定し、当該荷重をプロセスコンピュータ78に出力する。
【0039】
格納部84は、例えば、更新記録可能なフラッシュメモリ、内臓あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、メモリーカード用の情報記録媒体およびその読み書き装置である。格納部84には、曲率予測装置の有する機能を実現させるためのプログラムや、当該プログラム実行中に使用するデータ等が予め格納されている。具体的に格納部84には、H形鋼10の材料属性パラメータ、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重および当該条件で製造されたH形鋼10の曲がり矯正工程後の曲がり曲率を1セットとするデータセットが複数格納されるデータベース88と、H形鋼10の材料属性パラメータ、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率および曲がり矯正機30の圧延荷重を入力データとし、曲がり矯正工程後の曲がり曲率を出力データとする学習済みの機械学習モデル86とが格納されている。データベース88に格納されるデータセットは、プロセスコンピュータ78を含む複数の装置から取得される情報で構成されるものであるが、これらは製造番号や製品番号など、対象とする形鋼を特定するために必要な情報を用いて1セットのデータセットとして対応付けられる。
【0040】
入力部90は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置や、メモリーカード用の情報記録媒体の読み取り装置である。データベース88に格納されるH形鋼10の材料属性パラメータ、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側におけるH形鋼10の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重および曲がり矯正工程後の曲がり曲率等はプロセスコンピュータ78から曲率演算部82に出力されるが、作業者94が入力部90からこれらの値を曲率演算部82に入力してもよい。
【0041】
次に、曲がり矯正工程後の曲がり曲率の予測に用いる学習済の機械学習モデルの生成方法について説明する。曲率演算部82は、H形鋼10の材料属性パラメータ(ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、降伏強度等)、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側のH形鋼10の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重および当該条件で製造された矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率をプロセスコンピュータ78から取得し、これらを1セットとするデータセットを、H形鋼10を特定する製造番号や製品番号等に対応つけて格納部84のデータベース88に格納する。データベース88に格納されるデータセットの数は、少なくとも100個以上であり、好ましくは500個以上であり、より好ましくは700個以上である。
【0042】
なお、H形鋼10が、熱間圧延後に切断装置によって切断される場合には、曲がり矯正工程後の複数のH形鋼10について、同一の圧延工程の操業実績データが割り当てられて、これらのデータを1セットとしてデータベース88に蓄積されてよい。ただし、圧延工程の温度や荷重実績など、製造するH形鋼10の長手方向に複数点の実績データを採取する場合には、切断前のH形鋼10の長手方向位置に対応する実績データを圧延工程の操業実績データとして割り当ててもよい。また、曲がり矯正工程後の長手方向の位置ごとの曲率の測定結果と、圧延工程において測定された実績データとの位置関係を対応付け、これらを1セットとしてデータベース88に格納されてもよい。
【0043】
曲率演算部82は、予め格納されている機械学習モデルを格納部84から読み出し、データベース88に格納されているデータセットを教師データとして機械学習モデルを機械学習させて、学習済の機械学習モデルを生成する。なお、本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法で用いる機械学習モデルは、例えば、ニューラルネットワークである。しかしながら、機械学習モデルとしてはニューラルネットワークに限らず、決定木学習、ランダムフォレスト、サポートベクター回帰、ガウス過程、k近傍法のいずれか1つを用いてよい。
【0044】
本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法では、機械学習モデルを機械学習する教師データに、材料属性パラメータや曲がり矯正機30の圧延荷重といった曲がり矯正機30の矯正効果に直接影響する因子だけでなく、H形鋼10を造形する圧延工程の操業パラメータである仕上圧延工程の入側温度、仕上圧延機の出側温度および冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを用いて、圧延工程の後に形鋼内部に発生する残留応力が間接的に与える影響を取り入れている。これにより、当該教師データで機械学習された学習済の機械学習モデルは、曲がり矯正機に直接影響する因子だけでなく、圧延工程後に形鋼内部に発生する残留応力の影響が考慮された学習済の機械学習モデルになる。
【0045】
例えば、形鋼の断面寸法や鋼種が同じであって残留応力が異なる例として、仕上圧延後に加速冷却装置54を用いた水冷を行う場合と、当該水冷を行わない場合とがある。H形鋼10は、フランジ12がウェブ11よりも厚い製品が多く、圧延中に薄いウェブ11の温度は、厚いフランジ12の温度よりも低くなる。フランジ12の温度よりもウェブ11の温度が低くなるほど、フランジ12の長手方向に引張、ウェブ11の長手方向に圧縮の大きな残留応力が生じる。また、圧延材の長さが長いほど圧延時間が長くなるので、ウェブ11とフランジ12の温度差が大きくなり、これにより、残留応力も大きくなる。
【0046】
図8は、H形鋼10の残留応力を説明する図である。図8を用いて、圧延工程の後にH形鋼10の内部に発生する残留応力についてさらに説明する。圧延工程を終了して室温近傍まで冷却された形鋼には、主として圧延工程において生じる断面内の温度分布に起因し、室温まで冷却される際の熱収縮差によって残留応力が発生する。この場合の熱収縮差は、主として形鋼の長手方向の熱収縮差が問題になることが多い。
【0047】
一般にH形鋼10は、ウェブ厚twがフランジ厚tfよりも薄く、ウェブの温度がフランジの温度よりも低い状態で圧延工程が行われる。また、その過程ではフランジに近いウェブ端部よりもウェブ中央部の方が放熱されやすいので、ウェブ中央部の温度がウェブ端部よりも低くなることが多い。一方、フランジは、フランジ中央部に比べてフランジ端部の温度が低くなる傾向にある。圧延工程においてH形鋼10の内部にこのような温度分布が形成された状態から室温まで冷却されると、ウェブの熱収縮に比べてフランジの熱収縮の方が大きくなる。このため、ウェブには全体として長手方向に圧縮の残留応力が発生し、フランジには長手方向に引張の残留応力が発生する。
【0048】
また、ウェブ中央部の熱収縮よりもウェブ端部の熱収縮の方が大きくなるので、ウェブ中央部には長手方向に圧縮の残留応力が発生し、ウェブ端部には長手方向に引張の残留応力が発生するといった残留応力の分布がウェブ内部に生じる。さらに、フランジ中央部の熱収縮に比べてフランジ端部の熱収縮の方が小さくなるので、フランジ中央部の長手方向に引張の残留応力が発生し、フランジ端部の長手方向に圧縮の残留応力が発生するといった残留応力の分布がフランジ内部にも生じる。そして、室温近傍まで冷却されたH形鋼10の内部には、このような複数の要因により図9に例示するような残留応力が生じることになる。
【0049】
実際の圧延工程では、圧延途中に塑性ひずみが付与されると共に、冷却工程においても複雑な熱履歴を経て製造されるので、圧延工程におけるH形鋼10の内部の温度分布は、より複雑になる。さらに、冷却工程においてH形鋼10の相変態が生じる場合には、相変態に伴う体積変化が、H形鋼10の内部に形成される残留応力に影響することになる。なお、相変態は、冷却工程開始温度、冷却停止温度の他、冷却速度などの影響を受けるので、これらも形鋼の残留応力に影響を与える場合がある。
【0050】
曲がり矯正工程において、フランジ12の長手方向における引張残留応力が大きいと、曲がり矯正のためにフランジ12を圧延する際の張力が大きくなるので延伸が促進される。すなわち、同じ圧延荷重で矯正しても、フランジ12の長手方向における引張残留応力が大きいほど、矯正工程後の曲がり曲率の変化は大きくなる。
【0051】
このように、残留応力は曲がり矯正工程の矯正効果に影響を与える。このため、当該残留応力の影響が考慮された学習済の機械学習モデルを用いることで、残留応力が考慮されていない学習済の機械学習モデルを用いた場合よりも高い精度で曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率を予測できる。
【0052】
次に、教師データに用いるデータを説明する。本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法では、教師データに形鋼の材料属性パラメータの少なくとも1つと、圧延工程の操業パラメータの少なくとも1つと、曲がり矯正工程の入側における形鋼の曲がり曲率と、曲がり矯正工程の圧延荷重と、曲がり矯正後の形鋼の曲がり曲率とを用いる。
【0053】
<形鋼の材料属性パラメータ>
形鋼の材料属性パラメータとは、形鋼の製品寸法に関するデータおよび製品の機械的特性に関するパラメータであり、例えば、ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、降伏強度等である。これらは、室温での寸法や機械的性質を示す値であり、熱間圧延中のような高温での物性等は含まない。曲がり矯正工程は、冷間でフランジ部を圧延する工程であり、室温での寸法や機械的性質が矯正効果に直接影響するからである。
【0054】
形鋼の断面寸法は圧延される形鋼の残留応力の大きさや分布に影響を及ぼし、形鋼の鋼種は降伏応力の大小を通して残留応力の大きさに影響を及ぼす。また、形鋼の降伏応力は曲がり矯正工程におけるフランジの延伸量に直接影響する因子である。さらに形鋼の断面寸法もフランジ12の延伸や曲がり変化に影響を与える。したがって、これらを形鋼の材料属性パラメータとして教師データに用いている。
【0055】
具体的な寸法としては、ウェブ高さ、フランジ幅、ウェブ厚、フランジ厚が必要とされ、これらの寸法は製品規格の公称値を用いてもよく、実績の寸法を測定した値を用いてもよい。なお、形鋼の材料属性パラメータは、設定値としてプロセスコンピュータ78に格納されている。従って、曲率演算部82は形鋼の材料属性データをプロセスコンピュータ78から取得できる。ただし、寸法や機械的性質などの実績値を用いる場合には、形鋼の製品の検査工程で得られた実績データを作業者94が入力部90から直接入力してもよい。
【0056】
<圧延工程の操業パラメータ>
上述したように、圧延される形鋼の温度やその断面内の温度分布状況は、冷却後の形鋼の残留応力に影響を及ぼす。特に、フランジ12及びウェブ11を有する形鋼の場合には、フランジの厚みと幅、ウェブ11の厚みと高さといった寸法が異なるので、熱間圧延設備40で付与されるひずみは各部位で不均一となる。また、冷却工程においても位置によって冷却速度が異なるので温度偏差が生じやすく、室温まで冷却された後に大きな残留応力が生じやすい。したがって、矯正前の残留応力に応じて、適切に曲がり矯正工程の圧延荷重を設定できるように、教師データに、圧延工程における形鋼の温度を用いることが好ましい。圧延工程における形鋼の温度として、例えば、圧延材の加熱温度や、粗圧延、中間圧延、仕上圧延の圧延中の温度、加速冷却工程における冷却開始前後の温度などを1または2以上を用いてよい。
【0057】
これらの温度のうち、仕上圧延工程の入側温度、仕上圧延工程の出側温度および冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つを用いることが好ましい。具体的には、図5に示した温度計60または62で測定される仕上圧延工程の入側温度、温度計64で測定される仕上圧延工程の出側温度および温度計66で測定される冷却工程の出側温度のうちの少なくとも1つである。さらに、仕上圧延工程の入側温度、仕上圧延工程の出側温度、冷却工程の出側温度から選択される2以上の温度を組み合わせて用いることがより好ましく、仕上圧延工程の入側温度および出側温度のいずれか1つと、冷却工程の出側温度とを組み合わせて用いるのがさらに好ましい。これら温度の組み合わせは、加速冷却工程で発生する残留応力の大きさと比較的よく対応するからである。すなわち、冷却速度が速い条件で温度の不均一が発生すると残留応力が大きくなることに対応する。なお、加速冷却を行わない場合であっても、加速冷却装置54の下流側の温度計66で測定される温度を冷却工程の出側温度としてもよい。加速冷却を行った場合と行わなかった場合との温度に差異が生じることで、残留応力の相違を明確にする効果が得られるからである。
【0058】
また、H形鋼10の温度としては、任意の部位の表面温度を用いてよい。ただし、フランジ12の外面の温度とウェブ11の温度として、概ね同一のタイミングで測定された温度情報を用いることが好ましい。圧延工程として少なくとも中間圧延工程以降では、フランジ12とウェブ11とで温度差が発生し、当該温度差が室温まで冷却された形鋼の残留応力に影響を与えるからである。この場合、温度測定の容易さから、フランジ12の外面の表面温度とウェブ11の上面の表面温度を組み合わせて用いることが好ましい。
【0059】
なお、H形鋼10のように左右対称にフランジを有する形鋼では、フランジ外面の両側から表面温度を測定してもよい。その場合には、フランジ外面の両側の表面温度をそれぞれ用いてもよく、両側の表面温度の平均値を用いてもよい。
【0060】
また、これらの温度に加え、中間圧延工程における各パスの断面寸法またはパスごとの断面寸法の変化量や、各パスのフランジとウェブの圧下率、粗ユニバーサル圧延機46の水平ロールと竪ロールに作用する圧延荷重、エッジャ圧延機48の圧延荷重、圧延パス数、1パスあたりに要する圧延時間などから選択される1または2以上の操業パラメータを用いてよく、これらと上記温度を組み合わせて用いてもよい。これらの操業パラメータは、加工ひずみや温度偏差を通じて、冷却後の形鋼の残留応力に影響を与えるからである。
【0061】
上記以外の圧延工程における操業パラメータとして、加熱炉や各圧延機の操業パラメータや圧延中または圧延後のH形鋼10の冷却状態を表すデータ、各工程に要する時間や工程間の搬送に要する時間などの圧延工程の操業状態を示すパラメータを併せて用いてもよい。
【0062】
<曲がり矯正工程の圧延荷重>
曲がり矯正工程の操業パラメータとして、曲がり矯正工程の圧延荷重を用いる。図2に示す曲がり矯正機30において、例えば、フランジ12をフランジ12の外面側から支持する外面ロール32を支持する軸受けとフレーム部の間にロードセルを設置し、当該ロードセルを用いて曲がり矯正工程の圧延荷重が測定される。また、フランジ12の内面を圧下する矯正ロール34に油圧圧下機構を適用している装置の場合には、油圧の実績値から曲がり矯正工程の圧延荷重を求めてよい。
【0063】
曲がり矯正工程の操業パラメータとして圧延荷重を用いるのは、当該圧延荷重がフランジ12の延伸量に直接影響を与え、曲がりの変化量に大きな影響を与えるからである。なお、H形鋼10のフランジ幅によって矯正ロールとフランジ内面が接触する幅が異なるので、曲がり矯正工程の圧延荷重に加えてH形鋼10のフランジ幅や矯正ロール34とフランジ内面との接触幅を曲がり矯正工程の操業パラメータに含めてもよい。
【0064】
<曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率と曲がり矯正工程後の曲がり曲率>
曲がり矯正工程の入側における曲がり曲率と曲がり矯正工程後の曲がり曲率は、例えば、下記(1)、(2)の方法で実施される。
【0065】
(1)形鋼を静止させた状態で、片方のフランジ外面の高さ方向中央付近にレーザー距離計を設置し、これを形鋼の長さ方向に直線上で走査してレーザー距離計からフランジ外面までの距離を連続的に測定したデータを収集する。
(2)測定した長手方向の位置とレーザー距離計によって測定された距離データとの関係を、最小二乗法などの近似化手法により円形状に近似して、近似した結果として得られる円の曲率半径の逆数として曲率を得る。
【0066】
ただし、曲がり曲率の測定には、上記のように自動化された測定装置を、必ずしも用いなくてもよく、例えば、人手によりタコ糸などをH形鋼10の先尾端に渡して、定規などにより読み取った曲がり量から曲がり曲率を算出してもよい。
【0067】
また、H形鋼10の長手方向について、所定長さ(例えば、1mなど)で区分して、区分された各区間での曲がり曲率を算出してもよい。また、区分された各区間での曲がり曲率を算出する場合には、曲がり曲率としてこれらの値の平均値を用いてよい。また、H形鋼10の先端部または尾端部の所定長さの範囲の曲率を代表曲率としてもよい。さらに、長手方向に所定の長さに区切った区間ごとに曲率を求め、各区間の長さ方向位置と曲率とを2次元データとして用いてもよい。その場合には、形鋼の長さ方向の位置に対応した複数の曲率値が曲がり曲率の予測を行う機械学習モデルの入力データまたは出力データとなる。ただし、機械学習モデルとして深層学習を用いる場合には、このような2次元データをグラフにプロットした図を画像とし、当該画像データを入力データまたは出力データに用いてもよい。なお、H形鋼10の曲がり曲率は、必ずしも形鋼を静止した状態で測定しなくてもよく、レーザー距離計を固定して、形鋼を長手方向に走行させた状態で測定してもよい。
【0068】
次に、曲率予測装置80による曲がり曲率の予測方法および曲がり矯正機30の圧延荷重の特定方法について説明する。曲率予測装置80の曲率演算部82は、H形鋼10の圧延工程が終了した後であって、H形鋼10が曲がり矯正機30に搬送される前に、矯正後の曲がり曲率の予測を行う。プロセスコンピュータ78は、H形鋼10の圧延工程が終了した後であって、曲がり矯正機30に搬送される前に矯正工程後の曲がり曲率の予測に用いられる入力データ(材料属性パラメータ、圧延工程の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重の設定値)と製造されるH形鋼10の目標上限曲率とを曲率演算部82に送信する。なお、目標上限曲率は、製造される形鋼の断面寸法、長さ、鋼種、加速冷却の有無等の条件により個別に設定される。目標上限曲率は、例えば、JIS規格の曲がり曲率公差の1/2またはそれ以下に設定される。
【0069】
曲率演算部82は、プロセスコンピュータ78から入力データを取得すると、格納部から学習済の機械学習モデルを読み出し、当該機械学習モデルに入力データを入力することで曲がり矯正工程後の曲がり曲率の予測値を求める。曲率演算部82は、算出された曲がり曲率の予測値と、目標上限曲率とを比較し、予測値が目標上限曲率以下であれば、入力データに用いた圧延荷重を曲がり矯正機30の圧延荷重に特定して、特定された圧延荷重をプロセスコンピュータ78に出力する。一方、曲がり曲率の予測値が目標上限曲率を超える場合には、曲がり矯正機の圧延荷重を変更して、再度、曲がり曲率の予測値を求める。曲率演算部82は、この処理を、算出される曲がり曲率の予測値が目標上限曲率以下になるまで繰り返し実行する。
【0070】
なお、圧延荷重を変更する単位および範囲は、予め格納部84に格納されていてもよく、プロセスコンピュータ78から曲率演算部82に送信されてよい。また、圧延荷重の変更範囲内で目標上限曲率以下となる圧延荷重がない場合に、曲率演算部82は、プロセスコンピュータ78に圧延荷重が特定できないことを示す信号を出力してもよい。
【0071】
このようにして、曲がり曲率の予測値が目標上限曲率以下となる圧延荷重を特定し、当該圧延荷重を曲がり矯正機30の圧延荷重に設定することで、曲がり矯正工程後の曲がり曲率が過大となって、再度曲がり矯正を行うことが抑制される。これにより、曲がり矯正機30での処理時間が短くなるので、H形鋼10の製造装置における生産能率の向上が実現する。
【0072】
曲率演算部82は、H形鋼10の製造後に、製造されたH形鋼10の材料属性パラメータ(ウェブ高さ、フランジ幅、フランジ厚、降伏強度等)、熱間圧延設備40の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入側のH形鋼10の曲がり曲率、曲がり矯正機30の圧延荷重および当該条件で製造された矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率をプロセスコンピュータ78から取得し、これらを1セットとするデータセットを、H形鋼10を特定する製造番号や製品番号等に対応つけてデータベース88に格納する。曲率演算部82は、データベース88に格納した新たなデータセットを含む教師データを用いて、学習済の機械学習モデルを更新してもよい。
【0073】
次に、曲率演算部82による曲がり矯正機30の圧延荷重を特定する処理を説明する。図9は、曲率演算部82によって曲がり矯正機30の圧延荷重を特定する処理を説明するフロー図である。図9に示したフローは、例えば、H形鋼10の圧延工程が終了した後であって、曲がり矯正機30に搬送される前の所定位置に到達したことを条件として開始する。
【0074】
まず、曲率演算部82は、プロセスコンピュータ78から曲がり曲率を予測するのに用いる入力データおよび目標上限曲率を取得する(ステップS101)。曲率演算部82は、格納部84から学習済の機械学習モデルを読み出し(ステップS102)、当該学習済の機械学習モデルに入力データを入力して曲がり矯正工程後の曲がり曲率を算出する(ステップS103)。
【0075】
曲率演算部82は、算出した曲がり曲率の予測値が目標上限曲率以下か否かを判断する(ステップS104)。曲率演算部82は、算出した曲がり曲率の予測値が目標上限曲率以下であると判断した場合に(ステップS104:Yes)、入力データに含まれる圧延荷重を曲がり矯正機30の圧延荷重に特定し、当該圧延荷重をプロセスコンピュータ78に出力し(ステップS105)、曲がり矯正機30の圧延荷重を特定する処理は終了する。一方、曲率演算部82は、算出した曲がり曲率の予測値が目標上限曲率を超えると判断した場合に(ステップS104:No)、入力データの圧延荷重を変更して(ステップS106)、再度、ステップS102~ステップS104までの処理を繰り返し実行する。
【0076】
なお、ステップS106における圧延荷重を変更する単位および圧延荷重を変更できる圧延荷重の範囲は、ステップS101の処理時にプロセスコンピュータ78から取得してよく、圧延荷重を変更できる圧延荷重の範囲内において目標上限曲率以下となる曲がり曲率の予測値が算出されなかった場合には、プロセスコンピュータ78に圧延荷重が特定できないことを示す信号を出力して当該処理を終了する。
【0077】
以上説明したように、本実施形態に係る形鋼の曲がり予測方法では、矯正前のH形鋼10が有する残留応力を考慮した学習済の機械学習モデルを用いて矯正工程後のH形鋼10の曲がり曲率を予測するので、残留応力を考慮していない従来の方法よりも高い精度でH形鋼10の曲がり曲率を予測できる。この曲がり曲率の予測方法を用いて形鋼の曲がり曲率が目標上限値以下に矯正できる圧延荷重を特定し、当該圧延荷重で曲がり矯正工程を実施することで、目標上限値以下となる曲がり曲率のH形鋼10を高い生産能率で製造できる。
【0078】
なお、図7に示した例においては、曲率予測装置80がプロセスコンピュータ78に接続されている例で説明した。しかしながら、これに限らず、曲率予測装置80の機能をプロセスコンピュータ78が有する構成であってもよい。また、曲率演算部82は学習済の機械学習モデルを格納部84から読み出し、当該学習済の機械学習モデルに入力データを入力して矯正工程後の曲がり曲率を予測する例で説明した。しかしながら、これに限らず、曲率演算部82は、機械学習モデルを格納部84から読み出し、データベース88に格納されているデータセットを用いて学習済の機械学習モデルを生成し、その後に当該学習済の機械学習モデルに入力データを入力して矯正工程後の曲がり曲率を予測してもよい。
【実施例
【0079】
以下、図4に示す形鋼の製造設備100を用いてウェブ高さHが400~900mm、フランジ幅Bが200~400mmのH形鋼を製造した実施例を説明する。機械学習モデルとして、中間層を3層とし、ノード数を5個ずつとしたニューラルネットワークを用いて、材料属性パラメータ、圧延工程の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入り側の曲がり曲率、曲がり矯正工程の圧延荷重を入力データとし、曲がり矯正工程後の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成した。学習済の機械学習モデルを生成するのに用いた教師データは、材料属性パラメータ、圧延工程の操業パラメータ、曲がり矯正工程の入り側の曲がり曲率、曲がり矯正工程の圧延荷重および曲がり矯正工程後の曲がり曲率を1セットとするデータセット(900セット)である。材料属性パラメータは、製品となるH形鋼のウェブ高さH、フランジ幅B、ウェブ厚tw、フランジ厚tf、鋼種符号、降伏応力の規格値である。圧延工程の操業パラメータは、仕上圧延工程の入側における長さ方向中央付近の断面におけるウェブ上面中央の表面温度とフランジ外面中央の表面温度である。また、活性化関数としてシグモイド関数を用いた。
【0080】
この学習済の機械学習モデルを用いて、矯正後のH形鋼の曲がり曲率を予測した。予測された曲がり曲率と矯正後のH形鋼の曲がり曲率との差が、目標上限曲率の値の5%の範囲内となった場合に予測が的中したとし、予測された曲がり曲率と矯正後のH形鋼の曲がり曲率との差が上記範囲を超えた場合に予測が的中しないとして、実施例における予測された曲がり曲率の的中率((的中数/予測数)×100)を算出した。なお、目標上限曲率は0.001/mである。
【0081】
比較例として、材料属性パラメータ、曲がり矯正工程の入り側の曲がり曲率、曲がり矯正工程の圧延荷重および曲がり矯正工程後の曲がり曲率を1組とするデータセット(900セット)を教師データとして、材料属性パラメータ、曲がり矯正工程の入り側の曲がり曲率、曲がり矯正工程の圧延荷重を入力データとし、曲がり矯正工程後の曲がり曲率を出力データとする学習済の機械学習モデルを生成した。比較例では、圧延工程の操業パラメータを用いていない点以外は、実施例と同じ条件で学習済の機械学習モデルの生成と、当該学習済の機械学習モデルを用いた矯正後のH形鋼の曲がり曲率の予測を行った。実施例と同様に、比較例で予測された曲がり曲率の的中率((的中数/予測数)×100)を算出した。
【0082】
この結果、実施例の的中率は96%であったのに対し、比較例の的中率は84%であった。これにより、教師データに圧延工程の操業パラメータを含み、矯正前の形鋼が有する残留応力を考慮した学習済の機械学習モデルを用いて曲がり矯正工程後の形鋼の曲がり曲率を予測することで、高い精度で曲がり矯正工程後の曲がり曲率を予測できることが確認された。
【0083】
また、実施例の曲がり曲率の予測方法を用いて、矯正後のH形鋼の曲がり曲率が0.001/m(目標上限曲率)以下となる曲がり矯正機の圧延荷重を、図9に示したフローに従って特定した。そして、曲がり矯正機の圧延荷重を特定された圧延荷重に設定して100本のH形鋼を製造した。当該方法で製造されたH形鋼のすべての曲がり曲率は目標上限値の半分以下になり、曲がり矯正工程で繰り返し曲がり矯正をすることなく、目標上限曲率よりも十分に小さな曲がり曲率のH形鋼に矯正できることが確認された。
【0084】
一方、比較例として特許文献2に開示された関係式を用いて曲がり矯正工程の圧延荷重を設定し、実施例と同様に100本のH形鋼を製造した。その結果、5本のH形鋼が矯正後においても目標上限曲率である0.001/mを超えており、プレス機による追加の曲がり矯正が必要になった。この結果から、本実施形態に係る曲がり予測方法を用いて曲がり矯正工程の圧延荷重を特定することで目標上限値以下となる曲がり曲率のH形鋼を高い生産能率で製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0085】
10 H形鋼
11 ウェブ
12 フランジ
12a 下フランジ部
12b 上フランジ部
20 T形鋼
30 曲がり矯正機
32 外面ロール
34 矯正ロール
40 熱間圧延設備
42 粗圧延機
44 中間圧延機
46 粗ユニバーサル圧延機
48 エッジャ圧延機
49 水冷装置
50 水冷装置
52 仕上圧延機
54 加速冷却装置
60 温度計
62 温度計
64 温度計
66 温度計
68 切断装置
70 冷却床
72 反り矯正機
78 プロセスコンピュータ
80 曲率予測装置
82 曲率演算部
84 格納部
86 機械学習モデル
88 データベース
90 入力部
94 作業者
100 形鋼の製造設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9