(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】フランジ付ナットおよび材料試験機
(51)【国際特許分類】
F16B 37/00 20060101AFI20220928BHJP
G01N 3/08 20060101ALI20220928BHJP
G01N 3/04 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16B37/00 E
G01N3/08
G01N3/04 Z
(21)【出願番号】P 2021117591
(22)【出願日】2021-07-16
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 大輔
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06095481(US,A)
【文献】特開2003-042125(JP,A)
【文献】実開昭47-021064(JP,U)
【文献】特開2005-195414(JP,A)
【文献】特開2011-080918(JP,A)
【文献】米国特許第04762451(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104964887(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 37/00
G01N 3/00- 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷用アクチュエータを収容する基台と、試験体を上下の試験治具により保持させた状態で収容する筒状部材と、前記筒状部材の下端側を前記基台に接続するために固定する下側リング部材と、前記筒状部材の上端側に試験治具を固定するための上側リング部材と、を備え、X線検査装置のステージに設置される材料試験機において、前記上側リング部材および/または前記下側リング部材として用いられるフランジ付ナットであって、
中央部の貫通孔の内周面に雌ネジを形成したナット部と、前記ナット部の下方に一体的に形成されたフランジ部と
、から成
り、
前記材料試験機に追加の部材を取り付けるために、前記フランジ部
に同一円周上に並ぶ複数の孔部が設けられていることを特徴とするフランジ付ナット。
【請求項2】
請求項1に記載のフランジ付ナットにおいて、
前記孔部は、前記同一円周上に等間隔に配置された円弧状の長孔であるフランジ付ナット。
【請求項3】
請求項2に記載のフランジ付ナットにおいて、
前記円弧状の長孔は、円弧を含む前記ナット部の軸心を中心とする扇形の中心角が60度以上となるフランジ付ナット。
【請求項4】
X線検査装置のステージに設置される材料試験機であって、
負荷用アクチュエータを収容する基台と、
試験体を上下の試験治具により保持させた状態で収容する筒状部材と、
前記筒状部材の下端側を前記基台に接続するために固定する下側リング部材と、
前記筒状部材の上端側に試験治具を固定するための上側リング部材と、
を備え、
前記上側リング部材および/または前記下側リング部材は、
中央部の貫通孔の内周面に雌ネジを形成したナット部と、前記ナット部の下方に一体的に形成されたフランジ部とから成り、当該材料試験機に追加の部材を取り付けるために、前記フランジ部に同一円周上に並ぶ複数の孔部が設けられているフランジ付ナットである材料試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フランジ付ナットおよび材料試験機に関し、特に、試験体の内部破壊を観察するためのX線検査装置に設置される材料試験機に使用するフランジ付ナットおよび材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
試験体に試験力を与えて、材料の強度などの特性を明らかにする材料試験では、試験体の内部破壊の状態を観察するために、X線透視・CT撮像を行う場合がある。工業用のX線検査装置は、X線源とそれに対向して配置されたX線検出器と、X線源とX線検出器との間に材料試験機を載置した状態で回転するステージを備え、ステージを回転させながらX線透視を実行することにより、被験体の内部の3次元構造が観察できる構成となっている。そして、このようなX線検査装置のステージ上に設置して材料試験中にX線透視・CT撮像を行うことが可能な材料試験機として、引張試験用の材料試験機が提案されている
(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
引張試験では、試験片の両端を上下に配設されたつかみ具により把持させるため、特許文献2に記載の引張試験用の材料試験機においては、下つかみ具を配設した基台と上つかみ具に接続された空圧シリンダとの間にX線透過性材料から構成される円筒部材を配置している。これにより、円筒部材内に配置され、上つかみ具と下つかみ具との間で引張負荷が与えられた試験片の内部は、360度全方向からX線透視により観察することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-251750号公報
【文献】特開2005-195414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引張試験用の材料試験機は、X線検査装置内のX線源とX線検出器との間のステージ上に設置されるものであり、上つかみ具と下つかみ具の間の試験片の配置領域がX線の照射領域となるようにステージの高さが調整される。このX線照射領域にはX線の透過を妨げる構造物を配置することはできない。このため、新たな機能を追加するために、センサ類などの部材を材料試験機に取り付ける必要が生じた場合には、上つかみ具よりも上に位置する部材、もしくは下つかみ具より下に位置する部材に接続板をねじやボルトを使って取り付ける対応がとられる。
【0006】
センサ類などの部材を取り付けるにあたっては、例えば、負荷軸を中心に対称な位置に対で取り付けたい、あるいは、負荷軸と平行な鉛直線上に対で取り付けたいという要望が
ある。一方で、材料試験機においては、追加部材を取り付けられる場所や位置が限られており、ねじやボルトでの固定が難しく、対で取り付けたい場合でも、対をなす2つの部材の位相を合わせることができない場合もある。
【0007】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、他の部材を容易に接続でき、かつ、部材を接続するときに対をなす部材との位相合わせを容易に行うことができるフランジ付ナットおよびこのフランジ付ナットを使用した材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様の発明は、中央部の貫通孔の内周面に雌ネジを形成したナット部と、前記ナット部の下方に一体的に形成されたフランジ部とから成るフランジ付ナットにおいて、
前記フランジ部に、同一円周上に並ぶ複数の孔部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
第2の態様の発明は、第1の態様の発明に係るフランジ付ナットにおいて、前記孔部は、前記ナット部の軸心を中心として等間隔に配置された円弧状の長孔である。
【0010】
第3の態様の発明は、第2の態様の発明に係るフランジ付ナットにおいて、前記円弧状の長孔は、円弧を含む前記ナット部の軸心を中心とする扇形の中心角が60度以上となる。
【0011】
第4の態様の発明は、X線検査装置のステージに設置される材料試験機であって、負荷用アクチュエータを収容する基台と、試験体を上下の試験治具により保持させた状態で収容する筒状部材と、前記筒状部材の下端側を前記基台に接続するために固定する下側リング部材と、前記筒状部材の上端側に試験治具を固定するための上側リング部材と、
を備え、前記上側リング部材および/または前記下側リング部材は、第1から第3のいずれか1つの態様の発明に係るフランジ付ナットである。
【発明の効果】
【0012】
第1から第4の態様の発明によれば、フランジ付ナットのフランジ部に同一円周上に並ぶ複数の孔部が設けたことから、フランジ部にねじやボルトにより、他の部材を接続することが可能となり、同一円周上の適切な位置を選んで他の部材を接続することにより、対をなす部材との位相合わせを容易に行うことができる。
【0013】
第2の態様の発明によれば、孔部は、ナット部の軸心を中心として等間隔に配置された円弧状の長孔であることから、フランジ部にねじやボルトにより、他の部材を接続するときに、接続位置の自由度を高めることができ、部材を接続するときに対をなす部材との位相合わせをより容易に行うことができる。
【0014】
第3の態様の発明によれば、円弧状の長孔は、円弧を含むナット部の軸心を中心とする扇形の中心角が60度以上となるように形成されていることから、円弧のピッチ円を中心に対称な位置に対で取り付けたい部材があるときは、1つの長孔の端部に締結部材を通して一方の部材を位置決めすると、ピッチ円の中心を通る対称な位置に、締結部材を通すことができる別の長孔が配置されることになり、対称な位置への部材の取り付けが容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明に係るフランジ付ナット10の概要図である。
【
図2】この発明に係るフランジ付ナット10を使用して組み立てた材料試験機20をX線検査装置に設置した状態を説明する概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係るフランジ付ナット10の概要図である。図中、紙面の上段に平面図を示し、下段に正面図を示す。
【0017】
このフランジ付ナット10は、中央部の貫通孔12の内周面に雌ネジを形成したナット部11と、ナット部11の下方に一体的に形成されたフランジ部15とから成る。フランジ部15には、同一円周上に並ぶ複数の孔部が設けられている。この孔部は、円弧を含むナット部11の軸心を中心とする扇形の中心角が60度以上となる円弧状の長孔が好ましく、この実施形態では、円弧の開き角が90度の3つの長孔16が、ナット部11の軸心を中心とするピッチ円周上に、120度間隔に等配列されている。長孔16は、ボルトなどの締結部材の通し孔として機能する。円弧状の長孔の中心角が60度以上であれば、例
えば、負荷軸を中心に対称な位置に対で別部材を取り付けたいときに、1つの長孔16の端部にボルトを通して一方の部材を位置決めすると、ピッチ円の中心を通る対称な位置に、ボルトを通すことができる別の長孔16が配置されることになり、対称な位置への部材の取り付けが容易である。
【0018】
図2は、この発明に係るフランジ付ナット10を使用して組み立てた材料試験機20をX線検査装置に設置した状態を説明する概要図である。
図3は、材料試験機20の縦断面概要図である。
【0019】
材料試験機20は、試験体として板状の試験片TPに圧縮または引張試験力を加えるものであり、X線CT撮影を行うX線検査装置のX線源41とFPDなどのX線検出器42との間のステージ43上に固定される。ステージ43は、X線源41からX線検出器42に至るX線照射軸上に試験片TPの中央が位置するように、高さが調整可能であるとともに、回転軸Aを中心に回転することで、360度方向からのX線撮影を可能とするものである。なお、材料試験機20は、試験片TPの中央を通る負荷軸とステージ43の回転軸Aとが一致するように、ステージ43に取り付けられる。
【0020】
この材料試験機20は、ステージ43に接続される基台21と、基台21上に取り付けられた筒状部材22と、上側リング23と、蓋体24とを備える。基台21内には、負荷用のアクチュエータ25が配設され、アクチュエータ25の可動ロッド26に下つかみ具32が取り付けられている。
【0021】
筒状部材22は、例えば、ポリカーボネート等の透光性と剛性を備えた樹脂から構成されている。さらに、筒状部材22はX線も十分に透過する必要があるので、ポリカーボネートはその点でも適当である。筒状部材22の上下はリング状部材により支持される。この実施形態では、筒状部材22は、上側リング23に嵌合し、下側がフランジ付ナット10に螺合している。上側リング23の上部には治具接続軸27が貫通する蓋体24が連結され、蓋体24の上部から治具接続軸27にナットを締結させることにより、治具接続軸27に接続された上つかみ具31を固定する。
【0022】
なお、円柱状や立方体などの試験体に圧縮試験力を加えるときには、治具接続軸27と可動ロッド26には、上つかみ具31および下つかみ具32に換えて、圧縮試験用の治具が装着される。この材料試験機20では、試験力を測定するロードセルの図示を省略しているが、ロードセルは、治具接続軸27または可動ロッド26に介挿することができる。また、試験片TPの変位は、アクチュエータ25のストロークを検出することにより測定できる。
【0023】
フランジ付ナット10は、筒状部材22の下端側を基台21に接続するために固定する下側リング部材として機能する。また、このフランジ付ナット10のフランジ部15には、締結部材の通し孔として機能する長孔16が設けられていることから、
図2および
図3においては、長孔16にボルト39を通して板部材37、38を取り付けた状態を示している。すなわち、上つかみ具31と下つかみ具32との間のX線照射領域にはX線の透過を妨げる構造物を配置することはできないため、他の部材を材料試験機20に取り付ける必要が生じた場合には、
図2および
図3に示すように、フランジ付ナット10のフランジ部15に設けた長孔16に、取り付け部材の一部をボルト39により連結する。
【0024】
図1を参照して説明したように、フランジ部15には、円弧の開き角が90度の3つの長孔16が等間隔に設けられていることから、板部材37および板部材38を、負荷軸を中心に対称な位置に固定することができる。また、
図2に仮想線で示すように、治具接続軸27に締結するボルトと蓋体24との間に板を介在させ、その板と対をなすように、板部材37および板部材38を取り付ける場合には、長孔16のボルト39の挿入位置を変えることで、上側の板の向きに合わせて、板部材37および板部材38を取り付けることができる。
図2には、フランジ部15に板部材37および板部材38を取り付けた例を示
しているが、他の例として、蓋体24等に延設された板を受光面としてフランジ部15にレーザー式変位センサを取り付ける場合に、蓋体24側の固定された板に対して、フランジ部15の長孔16によりセンサの取り付け位置に自由度があることから、受光面とセンサとの位相を合わせやすくなる。このように、材料試験機20のX線の透過を妨げない位置に、いくつかの部材を負荷軸(回転軸A)と平行な鉛直線上に対で取り付けたいときにも、対をなす部材との位相合わせを容易に行うことができる。
【0025】
材料試験機20では、筒状部材22の下端側を基台21に接続するために固定する下側リング部材にフランジ付ナット10を採用しているが、上側リング部材にフランジ付ナット10を採用してもよい。上側リング部材と下側リング部材の両方がフランジ付ナットでもよい。また、上述した例では、X線検査装置に設置する材料試験機の組み立てにフランジ付ナット10を使用した例を示したが、締結により部材間を接続するに際し、離隔した位置にある他部材と位相を合わせて組み立てることが要求される部品等の取り付け位置を確保するために、この発明のフランジ付ナットを採用することができる。
【符号の説明】
【0026】
10 フランジ付ナット
11 ナット部
12 貫通孔
15 フランジ部
16 長孔
20 材料試験機
21 基台
22 筒状部材
23 上側リング
24 蓋体
25 アクチュエータ
26 可動ロッド
27 治具接続軸
31 上つかみ具
32 下つかみ具
37 板部材
38 板部材
39 ボルト
41 X線源
42 X線検出器
43 ステージ
TP 試験片
A 回転軸
C 軸心