IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-エレベータシステム 図1
  • 特許-エレベータシステム 図2
  • 特許-エレベータシステム 図3
  • 特許-エレベータシステム 図4
  • 特許-エレベータシステム 図5
  • 特許-エレベータシステム 図6
  • 特許-エレベータシステム 図7
  • 特許-エレベータシステム 図8
  • 特許-エレベータシステム 図9
  • 特許-エレベータシステム 図10
  • 特許-エレベータシステム 図11
  • 特許-エレベータシステム 図12
  • 特許-エレベータシステム 図13
  • 特許-エレベータシステム 図14
  • 特許-エレベータシステム 図15
  • 特許-エレベータシステム 図16
  • 特許-エレベータシステム 図17
  • 特許-エレベータシステム 図18
  • 特許-エレベータシステム 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/02 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
B66B5/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021145729
(22)【出願日】2021-09-07
【審査請求日】2021-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176016
【弁理士】
【氏名又は名称】森 優
(74)【代理人】
【識別番号】100191189
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100199761
【弁理士】
【氏名又は名称】福屋 好泰
(74)【代理人】
【識別番号】100182121
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 紘子
(72)【発明者】
【氏名】諸岡 悠児
(72)【発明者】
【氏名】中川 淳一
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 佑輔
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078043(JP,A)
【文献】特開2011-037545(JP,A)
【文献】特開2009-107808(JP,A)
【文献】特開2007-230731(JP,A)
【文献】特開平11-079589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごと釣合おもりとが綱車に巻き掛けられた主ロープ群でつるべ式に吊り下げられると共に、前記かごと前記釣合おもりとの間に最下端に釣合車が掛けられた釣合ロープ群が垂下され、前記かごと前記釣合おもりとが昇降路内を反対向きに昇降する構成とされたエレベータと、
前記主ロープ群または前記釣合ロープ群を構成する複数本のロープの内の少なくとも一部のロープが、前記綱車と前記かご又は前記釣合おもりの間、若しくは、前記釣合車と前記かご又は釣合おもりの間で、前記昇降路内において上下方向に複数設置された昇降路内設備のいずれかに引掛った場合、当該引掛りロープ部分の引掛り位置を検出する引掛り検出装置と、
を有するエレベータシステムであって、
前記引掛り検出装置は、
前記昇降路内で、第1の高さ位置に設定された座標平面における前記引掛りロープ部分の、正常時における前記主ロープ群または前記釣合ロープ群の中心からの第1の距離を検出する第1の検出手段と、
前記昇降路内で、前記第1の高さよりも高い第2の高さ位置に設定され、平面視で前記座標平面と重なる座標平面における前記引掛りロープ部分の、正常時における前記主ロープ群または前記釣合ロープ群の中心からの第2の距離を検出する第2の検出手段と、
前記昇降路の上下方向における前記かごの停止位置に応じて、前記第1および第2の検出手段の一方または両方の検出結果を参照し、参照した検出結果と当該かごの停止位置とから、前記引掛りロープ部分が前記第1の高さ以下の第1区間、前記第1の高さと前記第2の高さとの間の第2区間、前記第2の高さ以上の第3区間のいずれの区間で引っ掛っているのかを判定する引掛り区間判定手段と、
前記引掛りロープ部分の上端位置、下端位置、および、前記引掛り区間判定手段の判定結果で定まる引掛り区間に存すると想定される想定引掛り点を結ぶ三角形についての幾何学的演算により、前記第1の高さ位置と前記第2の高さ位置のいずれか一方又は両方、前記第1の距離と前記第2の距離のいずれか一方又は両方、および前記かごの停止位置に基いて、前記引掛り点の昇降路上下方向における位置を推定する引掛り位置推定手段と、
を有することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
前記引掛り位置推定手段は、前記第1および第2の高さに設定された前記座標平面と平面視で重なる基準座標平面における前記昇降路内設備の設置位置を記憶した昇降路内設備位置記憶部を有しており、
平面視において、前記想定引掛り点が昇降路内設備位置記憶部に記憶された設置位置にあるとして、当該引掛り点の昇降路上下方向における位置を推定することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記複数の昇降路内設備は、平面視で異なる位置に設けられた第1の設備群と第2の設備群の少なくとも二つの設備群を含み、
前記第1の設備群を構成する第1の設備の各々は、平面視で同じ位置にあり、
前記第2の設備群を構成する第2の設備の各々は、平面視で同じ位置にあって、
前記昇降路内設備位置記憶部は、前記第1の設備群の前記基準座標平面における設置位置と前記第2の設備群の前記基準座標平面における設置位置をそれぞれ記憶しており、
前記第1の検出手段と前記第2の検出手段は、各々の前記座標平面における前記引掛りロープ部分の位置座標を検出し、
前記引掛り位置推定手段は、前記第1および第2の検出手段の一方または両方が検出する前記位置座標に基き、前記昇降路内設備位置記憶部に記憶された前記設備位置を参照して、前記引掛りロープ部分が、前記第1の設備と前記第2の設備のいずれに引掛っているのかを推定することを特徴とする請求項2に記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記第1および第2の検出手段の各々は、前記第1および第2の高さ位置にそれぞれ設置された、第1の測域センサと第2の測域センサの少なくとも二つの測域センサを含み、
前記第2の検出センサは、前記複数本のロープの内、前記第1の測域センサで検出されるロープの背後に在って、当該第1の測域センサでは検出しにくいロープを検出できる位置に設置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータシステムに関し、特に、エレベータの昇降路内に吊り下げられた主ロープや釣合ロープの昇降路内設備への引掛り位置を検出する装置を含むエレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
長周期地震動や強風による建物の揺れが原因で、エレベータの主ロープや釣合ロープなどの長尺物に、振幅の大きな水平方向の振れが生じることがある(以下、この振れを「横振れ」と称する。)。この場合、横振れの大きさのレベルを建物に設置した長周期振動感知器によって感知される建物の揺れの大きさから推定し、前記レベルに応じた管制運転を実施して、かごを所定の階に停止させることが行われる。
【0003】
また、建物の揺れが大きいと、前記長尺物が大きく横振れして昇降路内設備に引っ掛ることがある。この場合、現場に派遣された保守員により、引っ掛った長尺物を取り外す等の復旧作業がなされる。この際、昇降路の上下方向における引掛り位置を推定し、早期の復旧に資する長尺物引掛り検出装置が特許文献1に開示されている。
【0004】
特許文献1に記載された長尺物検出装置(以下、「従来の検出装置」と言う)では、昇降路内に設置された測域センサで、その設置位置を含む水平面内における、引っ掛った長尺物の位置座標と、測域センサの昇降路上下方向における設置位置、およびかごの停止位置から、長尺物の引掛り位置を推定している(特許文献1の請求項1、3、4)。
【0005】
具体的には、検出対象を主ロープとする場合、引っ掛った主ロープは、通常、かごとの連結位置から引っ掛った昇降路内設備までの間は略直線状を成す前提の下、前記連結位置と引っ掛った長尺物の前記位置座標とを結ぶ線分を昇降路側壁近傍まで延長し、当該近傍において、当該延長した直線に最も近い昇降路設備に主ロープが引っ掛っていると推定している(引用文献1の段落[0082]~[0094])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6784285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の検出装置では、引っ掛った際の横振れの態様によっては、引っ掛り位置を正しく推定できないことが判明した。
【0008】
本発明は、上記した課題に鑑み、本発明は、可能な限り、従来の検出装置よりも引掛り位置を正しく推定することができる引掛り位置検出装置を含むエレベータシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るエレベータシステムは、かごと釣合おもりとが綱車に巻き掛けられた主ロープ群でつるべ式に吊り下げられると共に、前記かごと前記釣合おもりとの間に最下端に釣合車が掛けられた釣合ロープ群が垂下され、前記かごと前記釣合おもりとが昇降路内を反対向きに昇降する構成とされたエレベータと、前記主ロープ群または前記釣合ロープ群を構成する複数本のロープの内の少なくとも一部のロープが、前記綱車と前記かご又は前記釣合おもりの間、若しくは、前記釣合車と前記かご又は釣合おもりの間で、前記昇降路内において上下方向に複数設置された昇降路内設備のいずれかに引掛った場合、当該引掛りロープ部分の引掛り位置を検出する引掛り検出装置と、を有するエレベータシステムであって、前記引掛り検出装置は、前記昇降路内で、第1の高さ位置に設定された座標平面における前記引掛りロープ部分の、正常時における前記主ロープ群または前記釣合ロープ群の中心からの第1の距離を検出する第1の検出手段と、前記昇降路内で、前記第1の高さよりも高い第2の高さ位置に設定され、平面視で前記座標平面と重なる座標平面における前記引掛りロープ部分の、正常時における前記主ロープ群または前記釣合ロープ群の中心からの第2の距離を検出する第2の検出手段と、前記昇降路の上下方向における前記かごの停止位置に応じて、前記第1および第2の検出手段の一方または両方の検出結果を参照し、参照した検出結果と当該かごの停止位置とから、前記引掛りロープ部分が前記第1の高さ以下の第1区間、前記第1の高さと前記第2の高さとの間の第2区間、前記第2の高さ以上の第3区間のいずれの区間で引っ掛っているのかを判定する引掛り区間判定手段と、前記引掛りロープ部分の上端位置、下端位置、および、前記引掛り区間判定手段の判定結果で定まる引掛り区間に存すると想定される想定引掛り点を結ぶ三角形についての幾何学的演算により、前記第1の高さ位置と前記第2の高さ位置のいずれか一方又は両方、前記第1の距離と前記第2の距離のいずれか一方又は両方、および前記かごの停止位置に基いて、前記引掛り点の昇降路上下方向における位置を推定する引掛り位置推定手段と、を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記引掛り位置推定手段は、前記第1および第2の高さに設定された前記座標平面と平面視で重なる基準座標平面における前記昇降路内設備の設置位置を記憶した昇降路内設備位置記憶部を有しており、平面視において、前記想定引掛り点が昇降路内設備位置記憶部に記憶された設置位置にあるとして、当該引掛り点の昇降路上下方向における位置を推定することを特徴とする。
【0011】
さらに、前記複数の昇降路内設備は、平面視で異なる位置に設けられた第1の設備群と第2の設備群の少なくとも二つの設備群を含み、前記第1の設備群を構成する第1の設備の各々は、平面視で同じ位置にあり、前記第2の設備群を構成する第2の設備の各々は、平面視で同じ位置にあって、前記昇降路内設備位置記憶部は、前記第1の設備群の前記基準座標平面における設置位置と前記第2の設備群の前記基準座標平面における設置位置をそれぞれ記憶しており、前記第1の検出手段と前記第2の検出手段は、各々の前記座標平面における前記引掛りロープ部分の位置座標を検出し、前記引掛り位置推定手段は、前記第1および第2の検出手段の一方または両方が検出する前記位置座標に基き、前記昇降路内設備位置記憶部に記憶された前記設備位置を参照して、前記引掛りロープ部分が、前記第1の設備と前記第2の設備のいずれに引掛っているのかを推定することを特徴とする。
【0012】
また、前記第1および第2の検出手段の各々は、前記第1および第2の高さ位置にそれぞれ設置された、第1の測域センサと第2の測域センサの少なくとも二つの測域センサを含み、前記第2の検出センサは、前記複数本のロープの内、前記第1の測域センサで検出されるロープの背後に在って、当該第1の測域センサでは検出しにくいロープを検出できる位置に設置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記の構成を有する本発明に係るエレベータシステムによれば、上記第1区間、上記第2区間、および上記第3区間のいずれで、上記引掛りロープ部分が引っ掛っているかを判定した上で、当該引掛りロープ部分の上端位置、下端位置、および前記判定の結果定まる区間に存すると想定される想定引掛り点を結ぶ三角形についての幾何学的演算により、引掛り点の前記昇降路上下方向における位置を推定するため、後述するように、可能な限り、上記従来の検出装置よりも引掛り位置を正しく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係るエレベータシステムの有するエレベータの概略構成を示す正面図である。
図2】上記エレベータの右側面図である。
図3】主ロープ群を構成する複数本の主ロープの配列の一例を説明するための概念図である。
図4】上記エレベータシステムの有する引掛り検出装置の構成要素の一つである測域センサの上部近傍で切断した昇降路内を示す平面図であり、前記測域センサの下方にかごが停止している状態を示す図である。
図5】上記測域センサの上部近傍で切断した昇降路内を示す平面図であり、前記測域センサの上方にかごが停止している状態を示す図である。
図6】(a)は制御回路ユニットの機能ブロック図であり、(b)は長尺物検出部の詳細な機能ブロック図である。
図7】測域センサ設置位置を含む座標平面(xy直交座標)を示す図であり、主ロープ群および釣合ロープ群のみを表した図である。
図8】上記xy直交座標を含むxyz直交座標におけるxz直交座標を示す図である。
図9】(a)は、上記測域センサの1回の走査で検出された物体の座標をプロットした図であり、(b)は、上記制御回路ユニットの不要座標排除部によって、(a)に示す座標から不要な座標を排除した結果を示す図である。
図10】上記長尺物検出部における設備位置情報記憶部の記憶内容を示す図である。
図11】(a)は、主ロープ群の内の1本の主ロープが昇降路内設備に引っ掛った場合の測域センサによる検出結果の一例を示す図であり、(b)は、上記主ロープ群の中心からの上記引っ掛った主ロープの距離の定義を示す図である。
図12】引掛りパターンを示す図である。
図13】引掛りパターンを示す図である。
図14】上記長尺物検出部における引掛り位置推定部で実行されるプログラムの内容の一部を示すフローチャートである。
図15】上記長尺物検出部における引掛り位置推定部で実行されるプログラムの内容の一部を示すフローチャートである。
図16】上記引掛りパターンの判定手法を説明するための図である。
図17】上記引掛りパターンの判定手法を説明するための図である。
図18】釣合いロープ群の引掛り位置を検出する際の測域センサの設置位置とxyz直交座標におけるz軸の原点の採り方の一例を示す図である。
図19】変形例に係るエレベータシステムの有する引掛り検出装置の構成要素である測域センサの上部近傍で切断した昇降路内を示す平面図であり、前記測域センサの下方にかごが停止している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るエレベータシステムの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において、構成要素間の尺度は、必ずしも統一していない。
【0016】
図1は、実施形態に係るエレベータシステムの有するエレベータ10が収納された昇降路12内を乗り場(不図示)側から見た正面図であり、図2は、エレベータ10の右側面図である。
【0017】
図1図2に示すように、エレベータ10は駆動方式としてトラクション方式を採用したロープ式エレベータである。昇降路12最上部よりも上の建物14部分に機械室16が設けられている。機械室16には、巻上機18とそらせ車20が設置されている。巻上機18を構成する綱車22とそらせ車20には、複数本の主ロープが巻き掛けられている。この複数本の主ロープを「主ロープ群24」と称することとする(なお、図1において、主ロープ群24は正確な本数で記載していない。)。
【0018】
主ロープ群24の一端部にはかご26が連結されており、他端部には釣合おもり28が連結されていて、かご26と釣合おもり28とが主ロープ群24でつるべ式に吊り下げられている。
【0019】
かご26と釣合おもり28との間には、最下端に釣合車30がかけられた複数本の釣合ロープが垂下されている。この複数本の釣合ロープを「釣合ロープ群32」と称することとする。本例では、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と釣合ロープ群32を構成する釣合ロープの本数は同数(本例では、8本)である。主ロープと釣合ロープの径は、一般的に、10mm~20mmである。なお、主ロープ群24を構成する主ロープの本数と、釣合ロープ群32を構成する本数は、上記の本数に限らず、エレベータの仕様に応じて任意に選択される。
【0020】
昇降路12内には、一対のかご用ガイドレール36,38と一対の釣合おもり用ガイドレール40,42とが、上下方向に敷設されている(いずれも、図1図2において不図示、図4図5を参照)。
【0021】
上記の構成を有するエレベータ10において、不図示の巻上機モータにより綱車22が正転または逆転されると、綱車22に巻き掛けられた主ロープ群24が走行し、主ロープ群24で吊り下げられたかご26と釣合おもり28が互いに反対向きに昇降する。また、これに伴って、かご26と釣合おもり28との間に垂下された釣合ロープ群32は、釣合車30において折り返し走行する。
【0022】
かご26には、図4に示すように、かご26が目的階に正確に着床したか否かを検出するための公知の着床センサ44が取り付けられている(図4以外は不図示)。着床センサ44には、例えば、投光器と受光器(いずれも、不図示)が対向して設けられてなる透過型の光電センサが用いられる。
【0023】
また、各階に対応させて、遮光板46が設けられている(図4図5以外は不図示)。遮光板46は、例えば、図4に示すように、L字形をした細長い金属板からなる。遮光板46は、かご26が目的階に正確に着床したときに、先端部が着床センサ44で検出されるよう位置決めされて、基端部がかご用ガイドレール36に固定されている。
【0024】
図1図2に戻り、機械室16には、地震や強風に伴って生じる建物14の長周期揺れを検知する長周期振動感知器48が設置されている。
【0025】
機械室16には、また、かご26に設置された各種装置(不図示)や巻上機18に電力を供給する電源ユニット(不図示)、および、これらの装置を制御する制御回路ユニット52(図6)を有する制御盤50が設置されている。
【0026】
制御回路ユニット52は、CPUにROM、RAMが接続された構成を有している(いずれも、不図示)。前記CPUは、前記ROMに格納された各種制御プログラムを実行することにより、巻上機18などを統括的に制御して、円滑なかごの昇降動作等による通常運転を実現する一方、地震などが発生した場合には、乗客の安全を図るため管制運転を実現する。
【0027】
ここで、図2に示すように、主ロープ群24において、かご26を吊り下げる部分(綱車22とかご26の間の主ロープ群24部分)をかご側主ロープ部分24Aと称し、釣合おもり28を吊り下げる部分(綱車22と釣合おもり28の間の主ロープ群24部分)を釣合おもり側主ロープ部分24Bと称することとする。また、釣合ロープ群32において、かご26から垂下された部分(かご26と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)をかご側釣合ロープ部分32Aと称し、釣合おもり28から垂下された部分(釣合おもり28と釣合車30との間の釣合ロープ群32部分)を釣合おもり側釣合ロープ部分32Bと称することとする。上記の定義に従えば、主ロープ群24に占めるかご側主ロープ部分24Aと釣合おもり側主ロープ部分24Bの長さ(範囲)、および、釣合ロープ群32に占めるかご側釣合ロープ部分32Aと釣合おもり側釣合ロープ部分32B長さ(範囲)は、かご26および釣合おもり28の昇降位置によって伸縮(変動)する。
【0028】
主ロープ群24を構成する複数本(本例では8本)の主ロープM1~M8の配列について、図3を参照しながら説明する。図3は、綱車22とかご26との間の主ロープ群24部分、すなわち、かご側主ロープ部分24Aを表した概念図である。
【0029】
図3(a)の上図は、綱車22およびかご側主ロープ部分24Aの一部を正面から見た図であり、図3(a)の下図は、かご26を上面から見た図である。図3(a)の下図は、主ロープ群24を構成する主ロープM1~M8のかご26に対する平面視における連結位置と主ロープM1~M8との対応関係を示す図である。図3(b)は、綱車22、かご側主ロープ部分24A、およびかご26の一部を右側方から見た図である。
【0030】
8本の主ロープM1~M8は、図3(a)の上図に示すように、この順で、綱車22に水平方向(綱車22の軸心方向)に等間隔で巻き掛けられている。主ロープM1~M8の下端部は、図3(a)の下図に示すように、奇数番目の主ロープM1,M3,M5,M7と偶数番目の主ロープM2,M4,M6,M8とで2列に振り分けて、かご26に連結されている。
【0031】
このように、2列に振り分けるのは、1列で連結すると、主ロープM1~M8端部をかご26へ連結する止め金具(シャックルロッド)の大きさ(外径)の影響により、綱車22における主ロープM1~M8の間隔よりも大きくなり、かご26上部の限られたスペースを有効に用いるのに支障があるからである。
【0032】
かご26への連結位置における主ロープM1,M3,M5,M7の間隔も、主ロープM2,M4,M6,M8の間隔も等間隔であり、主ロープM1~M8の水平方向の間隔も等間隔である。よって、綱車22からかご26に至る主ロープ群24部分(かご側主ロープ部分24A)の主ロープM1,M3,M5,M7、主ロープM2,M4,M6,M8、および主ロープM1~M8の水平方向の間隔は、上下いずれの位置においても等間隔である。
【0033】
なお、釣合おもり側主ロープ部分24Bにおける主ロープM1~M8の配列の態様も、上記したかご側主ロープ部分24Aと基本的に同様である(図5)。また、釣合ロープ群32を構成する複数本(本例では8本)の釣合ロープC1~C8に関しても、その折り返し位置が綱車22になるか釣合車30になるかが異なるだけで(すなわち、上下方向が反対になるだけで)、かご側釣合ロープ部分32A、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bにおける複数本のロープの配列は、図5図4に各々示すように、基本的に、それぞれ、かご側主ロープ部分24A、釣合おもり側主ロープ部分24Bと同様である。
【0034】
上記の構成を有するエレベータ10が設置された建物14が長周期地震や強風によって揺れると、昇降路12内に吊り下げられた主ロープ群24、釣合ロープ群32などの長尺物が横振れする。なお、昇降路12内に吊り下げられた長尺物は、これら以外に、ガバナロープ(不図示)がある。ガバナロープは、言うまでもなく、機械室16に設置された調速機のシーブと昇降路12底部に設けられた張り車との間にエンドレスに張られたロープである(いずれも不図示)。
【0035】
長尺物、例えば、主ロープ群24や釣合ロープ群32の横振れの程度に応じた管制運転を実現するため、横振れの振幅の程度が検出される。
【0036】
当該横振れの振幅等を検出するための測域センサ54、56が、図2に示すように、昇降路12の側壁に設置されている。かご26が最下階に着床しているときのかご側主ロープ部分24Aの全長をLwとすると、測域センサ54は、かご26と主ロープ群24との連結位置からLwの半分(Lw/2)の距離の位置に設置されており、測域センサ56は、前記連結位置からLw/4の距離の位置に設置されている(図8)。測域センサ54と測域センサ56は、上下方向における設置位置が異なるだけで同じセンサである。よって、機能に関しては、測域センサ54を代表に説明し、測域センサ56については省略する。実施形態のエレベータ10は、例えば、Lwが120mや300mであり、昇降路全高が比較的高いエレベータである。
【0037】
ここで、昇降路12は、図4に示すように、本例では、四つの側壁58で囲まれた空間であり、この四つの側壁58を区別する必要がある場合は、符号「58」にアルファベットA,B,C,Dを付すこととする。測域センサ54は、乗り場(不図示)側の側壁58Aに設置されている。また、測域センサ54は、図2図4に示すように、かご26および釣合おもり28の昇降経路外に設置されている。
【0038】
測域センサ54は、その設置位置を含む水平面に存する昇降路12内の物体(通常、複数)の当該設置位置からの方向と距離を計測し、当該方向と距離を2次元位置情報として出力する。前記2次元位置情報は、極座標形式である。
【0039】
測域センサ54は、例えば、所定角度間隔(例えば、0.125度)でレーザ光を出射して前記水平面を扇状に走査し、出射したレーザ光毎に物体まで往復してくる時間を計測し、距離に換算する光飛行時間測距法(Time of Flight)により、測域センサ54の設置位置から物体までの距離を計測する公知の2次元測域センサ(Laser Range Scanner)である。走査1回当たりの時間(走査時間)は、例えば、25msecである。測域センサ54の走査角度αは、図4に示すように180度に近い大きさであり、測域センサ54の設置位置を含む水平面における昇降路12のほぼ全域が走査範囲になっている。
【0040】
長周期地震や強風に起因して横振れしているかご側主ロープ部分24Aおよびかご側釣合ロープ部分32Aの前記水平面における変位を検出する方法について、図4図9を適宜参照しながら説明する。
【0041】
測域センサ54からの前記2次元位置情報は、制御回路ユニット52の図6(a)に示す長尺物検出部60に入力される。制御回路ユニット52は、長尺物検出部60の他、運転制御部62を含む。運転制御部62は、上述したように、各種装置を制御して前記通常運転や前記管制運転を実現する。
【0042】
極座標形式の2次元位置情報は、長尺物検出部60の図6(b)に示す座標変換部6002によって、前記水平面に採った座標平面における直交座標(xy直交座標)に変換される。
【0043】
当該直交座標は、例えば、測域センサ54(図7では不図示)の設置位置を原点とする図7に示すようなxy直交座標である。なお、図7では、前記座標平面に存する物体の内、主ロープ群24と釣合ロープ群32のみを表している。
【0044】
ここで、図7図8を用いて、前記xy直交座標を含むxyz直交座標を定義する。xyz直交座標のx軸、y軸における原点は、上記したように、測域センサ54の設置位置(測域センサ56の設置位置も同様)である。z軸における原点は、主ロープ群24の綱車22への巻き掛け位置(すなわち、かご側主ロープ部分24Aの上端、釣合おもり側主ロープ部分24Bの上端)である。xyz直交座標の定義から明らかなように、測域センサ54の設置位置を含む座標平面と測域センサ56の設置位置を含む座標平面とは、いずれも、上記xyz直交座標のz=0における座標平面(基準座標平面)と平面視で重なる。以下、当該xyz直交座標に基いて説明を続ける。
【0045】
図9(a)には、かご側主ロープ部分24Aおよび釣合おもり側釣合ロープ部分32Bが測域センサ54の走査範囲に入っている状態(図4に示す状態)において一走査で検出された物体の座標(以下、「位置座標」と言う。)がプロットされている。
【0046】
図9(a)において、プロットされた座標に対応する物体の符号を括弧付きで記すこととする(図9(b)、図11(a)についても同様)。
【0047】
上述した測域センサ54の検出原理から理解されるように、第1の物体が検出された場合、測域センサ54から見て、第1の物体の背後に隠れた第2の物体(または、その部分)は検出されない。例えば、側壁58Bの一部が検出されていないのは、当該一部が測域センサ54から見てガイドレール36の背後に隠れているからであり、釣合ロープC1~C8が検出されないのは、釣合ロープC1~C8が主ロープM1~M8の背後に隠れているからである。
【0048】
本例において、図9(a)に記した位置座標の内、必要な位置座標は、かご側主ロープ部分24Aに係る主ロープM1~M8の位置座標であり、その他の物体の位置座標は、当該主ロープM1~M8の特定のためには支障となる。なお、かご26が測域センサ54よりも上方に位置する場合には、測域センサ54の検出対象として必要となるのは、かご側釣合ロープ部分32Aに係る釣合ロープC1~C8である。
【0049】
そこで、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aに生じ得る横振れの想定範囲を考慮し、測域センサ54の走査面(水平面)において、かご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aのみが存在すると想定される想定座標領域R1(図9において、一点鎖線で囲まれた領域)を予め設定しておく。本例では、想定座標領域R1は、図9(a)に示すように、4点P1~P4の座標(X1,Y1)、(X2,Y2)、(X3,Y3)、(X4,Y4)によって画定される。このP1~P4の前記座標の一組は、「R1画定情報として」、長尺物検出部60の想定座標領域記憶部6006(図6(b))に記憶されている。
【0050】
上述したように、測域センサ54から出力される2次元位置情報は、座標変換部6002に入力され、座標変換部6002において極座標から直交座標に変換される。変換後の座標(位置座標)は、座標変換部6002から出力され、不要座標排除部6004に入力される。
【0051】
不要座標排除部6004は、想定座標領域記憶部6006に記憶されている前記R1画定情報を参照し、座標変換部6002からの物体の位置座標の内、想定座標領域R1内に属する位置座標のみを出力する。換言すると、不要座標排除部6004は、座標変換部6002からの物体の位置座標の内、想定座標領域R1外に属する位置座標を排除して出力する。
【0052】
図9(b)は、不要座標排除部6004から出力された前記位置座標を前記直交座標にプロットした図である。図9(b)に示すように、不要座標排除部6004から出力された位置座標は想定座標領域R1内に存する物体、すなわち、主ロープM1~M8に対するもののみになっている。
【0053】
ここで、長周期地震や強風に伴う建物14の揺れに起因してかご側主ロープ部分24Aが横振れする場合、かご側主ロープ部分24Aを構成する主ロープM1~M8の各々は、独立して横振れするものの、障害物が無い場合には、基本的には同じ挙動で横振れする。すなわち、図4に示す配列を維持したまま横振れする。
【0054】
そこで、主ロープM1~M8の内の一の主ロープの変位(例えば、主ロープM1の変位)から、特許文献1に記載されているようにして、かご側主ロープ部分24A全体の走査面(水平面)における振幅を割り出すことができるのであるが、横振れ中の振幅を割り出すこと自体は本願発明の主眼ではないので、その説明については省略する。
【0055】
長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されると、長尺物が昇降路12内設備に引っ掛っていないかどうかの点検を行う。長尺物の横振れの収束の判断は、長尺物(例えば、かご側主ロープ部分24A)の横振れ中の振幅の大きさを参照しても構わないし、あるいは、長周期振動感知器48によって検知される建物14の揺れの大きさが、地震等の発生前の通常の範囲内の大きさになった時点から長尺物の横振れが同じく通常の範囲まで収束すると見做される時間が経過したことをもってしても構わない。
【0056】
昇降路12内設備の内、主ロープや釣合ロープが引っ掛る可能性が最も高いのは、遮光板46(図4図5)である。この他、長尺物が引っ掛る可能性がある昇降路12内設備としては、かごの戸と乗り場の戸を連動して開閉させるための係合装置を構成する乗り場側の係合機構(不図示)、乗場の敷居(乗場シル)などがある。当該係合機構、当該乗場シルは、各階の乗り場毎に設けられている。遮光板46、係合機構、および乗場シルの各々は、それぞれ、平面視で重なっている。すなわち、遮光板46、係合機構、および乗場シルの各々は、それぞれ、座標平面(xy直交座標)上、同じ位置(座標)に位置している。
【0057】
以下、主ロープまたは釣合ロープの引掛りを検出する方法について説明する。建物14の揺れがない正常時におけるかご側主ロープ部分24A、およびかご側釣合ロープ部分32Aのみが存在する基準座標領域R2を予め設定しておく。本例では、基準座標領域R2は、図9(a)に示すように、4点P5~P8の座標(X5,Y5)、(X6,Y6)、(X7,Y7)、(X8,Y8)によって画定される。
【0058】
基準座標領域R2は、長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されたときに、主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数本のロープの全てが基準座標領域R2内で検出されると異常がないと判断される領域である。換言すると、基準座標領域R2は、前記複数本のロープの一部でも基準座標領域R2外で検出された場合には、検出された当該一部のロープが昇降路12内設備に引っ掛っていると判断される領域である。
【0059】
基準座標領域R2は、例えば、図9(a)に示すように方形をしており、その中心(対角線の交点)が正常な状態の(正常時における)主ロープ群24全体および釣合ロープ群32全体の位置座標の中心(以下、「かご側ロープ群中心」と言う。)と一致するような方形領域である。前記かご側ロープ群中心とは、主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数本のロープのかご26との連結位置における、平面視でのロープ各々の中心のX座標とY座標の算術平均で求められる座標である。かご側ロープ群中心をPk(Xk,Yk)とする(図4)。また、Pkを通り、Z軸に平行な直線をかご側ロープ群中心線(以下、単に「ロープ群中心線」と言う。)とする。
【0060】
基準座標領域R2を画定する上記P5~P8の座標の一組は、「R2画定情報として」、長尺物検出部60の基準座標領域記憶部6008(図6(b))に記憶されている。基準座標領域記憶部6008には、また、かご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)も記憶されている。
【0061】
図6(b)に示すように、長尺物検出部60は、引掛り判断部6010を有している。引掛り判断部6010は、R2画定情報を参照して、主ロープまたは釣合ロープが引っ掛っていないかどうかを判断する。
【0062】
長周期地震動や強風による建物14の揺れが収まり、長尺物の横振れが収束したと判断されると、引掛り判断部6010は、R2画定情報を参照し、不要座標排除部6004から出力される座標の中に、基準座標領域R2外のものがあるかどうかの判定を行う。基準座標領域R2外のものがあると判定した場合、主ロープまたは釣合ロープの引掛りが発生していると判断する。主ロープ群24または釣合ロープ群32を構成する複数のロープ全てが同時に引掛る可能性はほとんどなく、通常、引っ掛ったとしても1~2本である。
【0063】
よって、複数のロープの内の一部(1~2本)が、基準座標領域R2外で検出され、残余のロープ(複数のロープの大半)が基準座標領域R2内で検出されることとなる。
【0064】
以上の引掛り判断は、測域センサ56の検出結果に基いてもなされる。その結果、測域センサ54と測域センサ56のいずれか一方、または両方の検出の結果、主ロープまたは釣合ロープが引っ掛かっていると判断されると、当該引掛りロープ部分における引掛り位置を推定する。
【0065】
そのため、長尺物検出部60は、引掛り位置推定部6012を有している。また、長尺物検出部60は、設備位置情報記憶部6014を有している。
【0066】
設備位置情報記憶部6014には、長尺物が引っ掛かる可能性のある設備の昇降路12内における、平面視での位置を特定する位置情報が記憶されている。設備位置情報記憶部6014の詳細を図10に示す。
【0067】
設備位置情報記憶部6014は、遮光板46(図4)、前記係合機構(不図示)、および乗場シル(不図示)毎に、前記xyz直交座標におけるxy直交座標(前記基準座標平面)上の位置座標Pa、Pb、Pcを記憶している。設備位置情報記憶部6014は、また、位置座標Pa、Pb,Pc各々のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの水平方向の距離(すなわち、xy直交座標上の隔たり)、Da、Db、Ccを記憶している。なお、Pa、Pb,Pcの座標の各々は、長尺物が引っ掛かった場合、各昇降路内設備に対し当該長尺物が引っ掛かる可能性の高いポイントである。
【0068】
続いて、引掛り位置推定部6012による引掛り位置の推定処理について説明する。引掛り判断部6010により、かご側主ロープ部分24Aまたはかご側釣合ロープ部分32Aが引っ掛かっていると判断されと、すなわち、昇降路内設備のいずれかにかご側主ロープ部分24Aまたはかご側釣合ロープ部分32Aが引掛かった場合、引掛り位置推定部6012は、先ず、昇降路12の上下方向におけるかご16の停止位置、および当該停止位置に応じて参照される測域センサ54、56の検出結果に基いて、引掛りパターンを判定する。
【0069】
引掛りパターンとは、図8に示す、昇降路12の上下方向において長尺物が(i)測域センサ56の設置高さ以下の第1区間、(ii)測域センサ56の設置高さよりも高く測域センサ54の設置高さよりも低い第2区間、(iii)測域センサ56の設置高さ以上の第3区間のいずれの区間で引掛っているかを示すものである。
【0070】
ここで、図8示すように、xyz直交座標のz軸における測域センサ54の高さ位置をZ1とし、測域センサ56の高さ位置をZ2とする。また、かご26の停止位置に対応するかご26と主ロープ群24Aの連結位置のz軸における高さ位置(換言すると、かご側主ロープ部分24Aの全長)をZxとする。
【0071】
引掛りパターンは、昇降路12の上下方向におけるかご26の停止位置に応じて、図12図13に示すような6パターンのいずれかになる。ここで、かご26の停止位置は、かご側主ロープ部分24Aの下端の位置(すなわち、主ロープ群24Aのかご26との連結位置)を基準とする。
【0072】
上記6パターンの各々について説明する。かご16の停止位置は、単に「停止位置」と、かご側主ロープ部分24Aの引掛り位置は、単に「引掛り位置」とする。
(1)パターン[1-1](図12(a))
停止位置:第1区間、引掛り位置:第1区間
(2)パターン[1-2](図12(b))
停止位置:第1区間、引掛り位置:第2区間
(3)パターン[1-3](図12(c))
停止位置:第1区間、引掛り位置:第3区間
(4)パターン[2-1](図13(a))
停止位置:第2区間、引掛り位置:第2区間
(5)パターン[2-2](図13(b))
停止位置:第2区間、引掛り位置:第3区間
(6)パターン[3-1](図13(c))
停止位置:第3区間
【0073】
引掛り位置推定部6012は、上記いずれのパターンの引掛りが発生しているかを、かご26の停止位置、および、測域センサ54、測域センサ56の検出結果に基いて判定する。引掛り位置推定部6012が実行する引掛りパターン判定プログラムを図14図15に示すフローチャートに基いて説明する。なお、以降は、かご側主ロープ部分24Aの引掛り位置の推定を目的とする処理を例に説明する。なお、「Zx」は、運転制御部62から取得する、その時のかご26の停止位置情報から特定される。
【0074】
引掛り位置推定部6012は、運転制御部62から、その時のかご26の停止位置情報を取得し、先ず、Zx>Z1か否かを判定する(ステップS12)。Zx>Z1でない場合(ステップS12でNO)、かご16は、測域センサ54よりも高い位置にあり、パターン[3-1]の状態である。この場合、かご側釣合ロープ部分32Aが引っ掛かっていることになるので、パターン[3-1]の判定をし(ステップS14)、その結果を運転制御部62に通知して(ステップS16)、プログラムを終了する。
【0075】
なお、この場合でも、かご側釣合ロープ部分32Aの引掛り位置を推定することとしても構わない。かご側釣合ロープ部分32Aの引掛り位置の推定については、後で言及する。
【0076】
また、パターン[3-1]の場合、かご側主ロープ部分24は比較的短く、建物14の長周期振動に起因して(長周期振動に共振して)大きく横振れする可能性は高くはないため、引っ掛る可能性は低いので、引掛り位置の推定処理の必要性も高くないと考えられる。もっとも、さらに測域センサを例えば3/4Lwの位置に設置し、後述するステップS18、S38、S40、S42、S44、S46、S48、S50、S52と同様の処理によって引掛り位置の推定を行っても構わない。
【0077】
ステップS12で、Zx>Z1と判定されると(ステップS12でYES)、引掛り設備特定処理(ステップS18を行う)。引掛り設備特定処理は、設備位置情報記憶部6014に記憶されている昇降路内設備のいずれに、かご側主ロープ部分24Aが引っ掛かっているかを特定する処理である。
【0078】
引掛り設備特定処理について、図11(a)等を参照しながら説明する。不要座標排除部6004から出力された位置座標が、例えば、図11(a)に示すような結果であったとする。図11(a)は、基準座標領域R2外に主ロープM1が検出された例である。
【0079】
ここで、基準座標領域R2外で検出された位置座標を「基準外座標」と言うこととする。引掛り位置推定部6012は、基準外座標の算術平均から引っ掛かったロープ(本例では、主ロープM1)のxy直交座標上の座標Ph(Xh,Yh)を求める。
【0080】
そして、座標Ph(Xh,Yh)のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの方向と、設備位置座標Pa、Pb、Pc(図10)各々のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの方向とを比較し、座標Ph(Xh,Yh)に最も近い設備位置座標の昇降路内設備を求め、これをロープが引っ掛かった昇降路内設備と特定する。
【0081】
また、座標Ph(Xh,Yh)のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの距離D1xを算出する。なお、必要に応じ測域センサ56の検出により求められる引っ掛かったロープ(本例では、主ロープM1)のxy直交座標上の座標のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの距離D2xも算出する。
【0082】
距離D1x、距離D2xは、測域センサ54、56の設置位置を含む座標平面における主ロープM1の正常時の位置からの変位量を示している。もっとも、かご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)と正常時の主ロープM1の中心位置とは一致していないため、極めて厳密的には、距離D1x、距離D2xは、主ロープM1の正常時からの変位量とは言えず若干の誤差はある。しかし、当該誤差は、後述する式(18)~(22)、(26)~(29)によって、引掛り点Hの位置の高さ位置Zhを推定する処理においては、無視できる程度の大きさである。
【0083】
ここで、図12図13に示す引掛りパターンの各々は、かご側主ロープ部分24Aの上端A、座標Ph(Xh,Yh)、かご側主ロープ部分24Aの下端Dを含む平面を示している(上端A、下端Dは、いずれもかご側ロープ群中心である。以下、同じ)。また、一例として、遮光板46にかご側主ロープ部分24Aが引っ掛かった場合を想定している。したがって、図12図13において、位置座標Pa、Pb,Pc各々のかご側ロープ群中心Pk(Xk,Yk)からの水平方向の距離Da、Db、Ccの内、Daを記載しているが、係合機構に引っ掛った場合はDbが、乗場シルに引っ掛った場合はDcがそれぞれ用いられる。
【0084】
引っ掛った昇降路内設備が特定されると(ステップS18)、引掛り位置推定部6012は、かご26の停止位置を指標する「Zx」等に基き、かご側主ロープ部分24Aが、上記特定された昇降内設備に、いずれの引掛りパターンで引っ掛っているのかを判定する。
【0085】
先ず、Zx>Z2が成立するかどうかを判定する(ステップS20)。Zx>Z2であれば(ステップS20でYES)、かご26は第1区間で停止していることになるため、引掛りパターンは、図12に示す[1-1]、[1-2]、[1-3]のいずれかになる。
【0086】
次に、
(Z1/Z2)<(D1x/D2x)<{(Zx-Z1)/(Zx-Z2)} …(1)
が成立しているか否かを判定する(ステップS22)。成立していれば(ステップS22でYES)、引掛りパターンは、[1-2](図12(b))であると判定する(ステップS24)。
【0087】
このように判定できる理由について、図16を参照しながら説明する。図16は、図12(b)に補助線を引いた図である。図16における下端Dと想定される想定引掛り点H(以下、単に「引掛り点H」と言う)を結ぶ線分を、引掛り点H側に延長し、測域センサ54の設置位置を含む座標平面と交差する点をFとする。また、図16における上端Aと引掛り点Hを結ぶ線分を引掛り点H側に延長し、測域センサ56の設置位置を含む座標平面と交差する点をCとする。
【0088】
また、ロープ群中心線からの点Fまでの水平方向の距離をD1aとし、ロープ群中心線からの点Cまでの水平方向の距離をD2aとする。
【0089】
ここで、点A、点B、点Cを結んでできる三角形「△ABC」と、点D、点E、点Fを結んでできる三角形「△DEF」について考察する。
【0090】
先ず、△ABCにおいて、
(D1x/D2a)=(Z1/Z2) …(2)
が成立する。
【0091】
図16から明らかなように、D2x<D2aであるため、
(D1x/D2a)<(D1x/D2x) …(3)
が成立する。
【0092】
式(2)と式(3)から、下記式(4)が得られる。
(D1x/D2x)>(Z1/Z2) …(4)
【0093】
次に、△DEFにおいて、
(D1a/D2x)=(Zx-Z1)/(Zx-Z2) …(5)
が成立する。
【0094】
図16から明らかように、D1x<D1aであるため、
(D1a/D2x)>(D1x/D2x) …(6)
が成立する。
【0095】
式(5)と式(6)から、下記式(7)が得られる。
(D1x/D2x)<{(Zx-Z1)/(Zx-Z2)} …(7)
【0096】
式(4)と式(7)より、パターン[1-2]の場合は、上記不等式(1)が成立するのである。
【0097】
D1x、D2x、Zx、Z1、Z2の値が、不等式(1)を満足すると判断すると(ステップ22でYES)、引掛りパターンは[1-2](図12(b))であると判定し(ステップS24)、パターン[1-2]に基き、昇降路12の上下方向における引掛り点の位置を推定する(ステップS26)。ステップS26の引掛り高さ推定処理については後述する。
【0098】
一方、D1x、D2x、Zx、Z1、Z2の値が不等式(1)を満足しないと判断すると(ステップS22でNO)、引掛りパターンは、[1-1](図12(a))か[1-3](図12(c))のいずれかになる。
【0099】
図12(a)と図12(c)から明らかなように、パターン[1-1]の場合は、D1x<D2xであり、パターン[1―3]の場合は、D1x>D2xである。そこで、D1xとD2xの大きさを比較し(ステップS28)、D1x<D2xであれば(ステップS28でYES)、引掛りパターンは[1-1]であると判定し(ステップS30)、そうでなければ(ステップS28でNO)、引掛りパターンは[1-3]であると判定する(ステップS34)。
【0100】
そして、パターン[1-1]、[1-3]に基き、昇降路12の上下方向における引掛り点の位置をそれぞれ推定する(ステップS32、S36)。ステップS32、36の引掛り高さ推定処理については後述する。
【0101】
ステップS20で、Zx>Z2が成立しないと判定されると(ステップS20でNO)、かご26は第2区間で停止していることになるため、引掛りパターンは、[2-1](図13(a))と[2-2](図13(b))のいずれかになる。
【0102】
そこで、
(D1x/Da)>(Z1/Zx)、かつ、(D1x/Da)<{(Zx-Z1)/Zx} …(8)
が成立するか否かを判定する(ステップS38)。成立していれば(ステップS38でYES)、引掛りパターンは、[2-1](図13(a))であると判定する(ステップS40)。
【0103】
このように判定できる理由について、図17を参照しながら説明する。図17は、かご26が第2区間で停止し、主ロープM1が遮光板46に引掛り点Hで引っ掛っている状態を示す図である。図17は、引掛り点Hが第3区間にある例を示しているが、以下の説明は、これに限らず、引掛り点Hが第2区間にある場合を含めて行う。
【0104】
図17における下端Dと測域センサ54の設置位置を含む座標平面上の主ロープM1の位置座標Pk(図11)を結ぶ線分を、位置座標Pk側に延長する補助線を引き、当該補助線がxy直交座標平面と交差する点をGとする。また、図17における上端Aと位置座標Pkを結ぶ線分を位置座標Pk側に延長する補助線を引き、当該補助線が、下端Dを含む座標平面と交差する点をMとする。
【0105】
また、ロープ群中心線からの点Gまでの水平方向の距離をD1bとし、ロープ群中心線からの点Mまでの水平方向の距離をD2bとする。
【0106】
ここで、点A、点D、点Gを結んでできる三角形「△ADG」と、点A、点D、点Mを結んでできる三角形「△ADM」について考察する。
【0107】
引掛りパターンが[2-1]の場合、必ず、
D2b>Da …(9)
となる。
【0108】
また、式(9)が満たされる場合に、
D1b<Da …(10)
であれば、主ロープM1は、確実にパターン[2-1]の態様で引っ掛っていると言える。
【0109】
一方、引掛りパターンが[2-2]の場合、必ず、
D1b>Da …(11)
となる。
【0110】
また、式(11)が満たされる場合に、
D2b<Da …(12)
であれば、主ロープM1は、確実にパターン[2―2]の態様で引っ掛っていると言える。
【0111】
もっとも、かご26の第2区間における停止位置や主ロープM1の上下方向における引掛り位置によっては、D2b>DaかつD1b>Daとなる場合がある。この場合は、測域センサ54の検出結果である「D1x」とかご26の停止位置の指標である「Zx」等のみでは、引掛りパターンが[2-1]か[2-2]かの判別がつかない。この場合の処理については後述する。
【0112】
ここで、△ADMより、
D2b=(Zx/Z1)×D1x …(13)
である。
【0113】
また、△ADGより、
D1b={Zx/(Zx-Z1)}×D1x …(14)
である。
【0114】
ここで、(9)式に(13)式のD2bを代入して、整理すると、
(D1x/Da)>(Z1/Zx) …(15)
となる。
【0115】
また、(10)式に(14)式のD1bを代入して、整理すると、
(D1x/Da)<(Zx-Z1)/Zx …(16)
となる。
【0116】
よって、(15)式と(16)式が同時に満たされる、すなわち、(8)式が満たされれば(ステップS38でYES)、引掛りパターンは、[2-1](図13(a))であると判定できるのである(ステップS40)。当該判定がなされると、パターン[2-1]に基き、昇降路12の上下方向における引掛り点の位置を推定する(ステップS42)。ステップS42の引掛り高さ推定処理については後述する。
【0117】
(8)式が満たされないと判定されると(ステップS38でNO)、次に、
(D1x/Da)<(Z1/Zx)、かつ、(D1x/Da)>(Zx-Z1)/Zx …(17)
が満たされるか否かを判定する(ステップS44)。
【0118】
ここで、(8)式の内、「(D1x/Da)<(Z1/Zx)」は、(12)式に、(13)式のD2bを代入して整理すると得られる。また、(8)式の内、「(D1x/Da)>(Zx-Z1)/Zx」は、(11)式に(14)式のD1bを代入して整理すると得られる。
【0119】
上述した通り、(17)式が満たされると判断すると(ステップS44でYES)、引掛りパターンは、[2-2](図13(b))であると判定する(ステップS46)。当該判定がなされると、パターン[2-2]に基き、昇降路12の上下方向における引掛り点の位置を推定する(ステップS48)。ステップS48の引掛り高さ推定処理については後述する。
【0120】
一方、(17)式が満たされないと判断すると、上述した通り、引掛りパターンは、[2-1]か[2-2]のいずれかであると判定する(ステップS50)。この場合の昇降路12の上下方向における引掛り点の位置を推定する処理(ステップS52)については後述する。
【0121】
次に、上述した引掛りパターンの判定後になされる、昇降路12の上下方向における引掛り点Hの位置の高さ位置Zhを推定する処理について、当該パターン毎に説明する。
【0122】
(A)パターン[1-1](ステップS32)
図12(a)における△ADHに関して、幾何学的に定められる次式(18)により、Zhを演算する。
Zh=(Da/D2x)×Z2 …(18)
または、次式(19)でも構わない。
Zh=(Da/D1x)×Z1 …(19)
ただ、D1xとD2xの測定に生じる計測誤差の影響を少なく抑えることができるため、(18)式を用いる方が好ましい。
【0123】
あるいは、(18)式で得られるZhと(19)式で得られるZhの平均をとり、当該平均値を昇降路12の上下方向における引掛り点Hの位置の高さ位置Zhとしても構わない。
【0124】
(B)パターン[1-2](ステップS26)
図12(b)における△ADHに関して、幾何学的に定められる次式(20)により、Zhを演算する。
Zh=(Da/D1x)×Z1 …(20)
または、次式(21)でも構わない。
Zh=Zx-{(Zx-Z2)/D2x}×Da …(21)
この場合に、D1xとD2xの測定に生じる計測誤差の影響を少なく抑えることができるため、D1xとD2xの大きさを比較し、D1xの方が大きい場合は、(20)式を用い、D2xの方が大きい場合は、(21)式を用いることとしても構わない。
【0125】
あるいは、(20)式で得られるZhと(21)式で得られるZhの平均をとり、当該平均値を昇降路12の上下方向における引掛り点Hの位置の高さ位置Zhとしても構わない。
【0126】
若しくは、次式(22)でも良い。
Zh=Zx/[1+(D1x/Z1)×{(Zx-Z2)/D2x}] …(22)
【0127】
式(22)の導出について説明する。
図12(b)における△ASHについて、次式(23)が成り立つ。
Da=(Zh/Z1)×D1x …(23)
図12(b)における△DSHについて、次式(24)が成り立つ。
Da={(Zx-Zh)/(Zx-Z2)}×D2x …(24)
式(23)、式(24)の右辺同士は等しいので、次式(25)が成り立つ。
(Zh/Z1)×D1x={(Zx-Zh)/(Zx-Z2)}×D2x …(25)
そして、式(25)をZhについて整理すると式(22)が得られる。
【0128】
式(22)によれば、式(20)、式(21)と異なり、Zhを求めるのに、Daは不要である。すなわち、式(25)では、昇降路内設備の設置位置を予め想定していないため、式(20)、式(21)と比較して、求められるZhの精度が高くなる。
【0129】
(C)パターン[1-3](ステップS36)
図12(c)における△ADHに関して、幾何学的に定められる次式(26)により、Zhを演算する。
Zh=Zx-(Da/D1x)×(Zx-Z1) …(26)
または、次式(27)でも構わない。
Zh=Zx-(Da/D2x)×(Zx-Z2) …(27)
ただ、D1xとD2xの測定に生じる計測誤差の影響を少なく抑えることができるため、(26)式を用いる方が好ましい。
【0130】
あるいは、(26)式で得られるZhと(27)式で得られるZhの平均をとり、当該平均値を昇降路12の上下方向における引掛り点Hの位置の高さ位置Zhとしても構わない。
【0131】
(D)パターン[2-1](ステップS42)
図13(a)における△ADHに関して、幾何学的に定められる次式(28)により、Zhを演算する。
Zh=(Da/D1x)×Z1 …(28)
【0132】
(E)パターン[2-2](ステップS48)
図13(b)における△ADHに関して、幾何学的に定められる次式(29)により、Zhを演算する。
Zh=Zx-(Da/D1x)×(Zx-Z1) …(29)
【0133】
(F)パターン[2-1]又は[2-2](ステップS52)
上述した通り、ステップS44で(17)式が満たされないと判断すると、引掛りパターンは、[2-1]か[2-2]のいずれかであると判定する(ステップS50)。
この場合、式(28)と式(29)で算出されるZhの内、Zxの半分(Zx/2)の大きさに近い方のDhを採用する。主ロープM1は、1次振動して引っ掛った可能性が高く、この場合、振動の腹(Zxの半分またはその近傍)で、引っ掛る確率が高いからである。
【0134】
以上、ステップS26、S32、S36(図15)、S42、S48、S52(図14)の何れかの処理が終了すると、引掛り位置推定部6012(図6(b))は、幾何学的演算により得られた「Zh」すなわち、引掛り点Hの昇降路上下方向における推定位置と当該引っ掛っている昇降路内設備とを運転制御部62に通知する(ステップS16)。
【0135】
通知を受けた運転制御部62は、中央管理室(不図示)に設置された中央監視盤64(図6)に長尺物(本例では、主ロープ)の引掛り点Hの位置「Zh」と引っ掛っていると推定される昇降路設備を通知する。通知を受けた中央監視盤64は、同室内のモニター(不図示)に当該通知内容を表示する。
【0136】
なお、以上では、複数本の主ロープの内の1本のみが引っ掛った例を示したが、引っ掛っている主ロープが複数の場合であっても、個々の主ロープの引掛り位置は、以下のようにして、推定することができる。
【0137】
引っ掛っている主ロープは、基準座標領域R2外で複数の座標として検出される。その複数の座標を、その連続性から座標のかたまり毎にグループ分けし、個々のグループを1本のロープとして処理することにより、上述した手法で、個々のロープの引掛り位置を推定することができる。
【0138】
ここまで説明してきたように、測域センサ54、測域センサ56、および長尺物検出部60で引掛りロープ部分の引掛り位置を検出する引掛り位置検出装置が構成された本実施形態によれば、引掛りパターンを判定した上で、当該判定パターンに合致した幾何学的演算により、昇降路上下方向における主ロープの引掛り位置を推定するため、可能な限り、上記従来の検出装置よりも引掛り位置を正しく推定することができる。
【0139】
例えば、パターン[1-1](図12(a))の場合、上記従来の検出装置であれば、下端Dと点Q1または点Q2を結ぶ線分を延長した先に引掛り点があると推定してしまうところ、本実施形態では、上述の通り、正確に引掛り点を推定することができる。
【0140】
また、パターン[1-2](図12(b))の場合、上記従来の検出装置であれば、下端Dと点Q3を結ぶ線分を延長した先に引掛り点があると推定してしまうことがあり得るが、本実施形態では、上述の通り、正確に引掛り点を推定することができる。
【0141】
もっとも、パターン[1-3](図12(c))の場合は、上記従来の検出装置でも、正確に引掛り点を推定することができる。すなわち、上記従来の検出装置では、引っ掛った際の横振れの態様(パターン)によっては、引っ掛り位置を正しく推定できないところ、本実施形態によれば、上記従来の検出装置よりも引掛り位置を正しく推定することができるのである。
【0142】
以上、かご側主ロープ部分24Aを例に、引掛り点Hの昇降路上下方向における位置を推定する方法について説明したが、かご側主ロープ部分24Aに限らず、(イ)釣合おもり側主ロープ部分24B、(ロ)かご側釣合ロープ部分32A、および、(ハ)釣合おもり側釣合ロープ部分32Bについても下記のように設定すれば、上記と同様の方法により、引掛り点Hの昇降路上下方向における位置を推定することができる。
【0143】
先ず、釣合おもり側主ロープ部分24Bおよび釣合おもり側釣合ロープ部分32Bについても、上述したかご側主ロープ部分24Aおよびかご側釣合ロープ部分32Aと同様の観点から、予め、想定座標領域と基準座標領域を定める。
【0144】
(イ)釣合おもり側主ロープ部分24B
釣合おもり側主ロープ部分24Bおよび釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを構成する複数本のロープのかご26との連結位置における、平面視でのロープ各々の中心のX座標とY座標の算術平均で求められる座標を「釣合いおもり側ロープ群中心」と定める。当該座標を通り、Z軸に平行な直線を釣合おもり側かご側ロープ群中心線とする。
なお、釣合おもり側主ロープ部分24B、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを検出し易くするため、測域センサは、側壁58C(図4)に設置しても構わない。
【0145】
(ロ)かご側釣合ロープ部分32A
図18に示すように、xyz直交座標のz軸の原点を、釣合ロープ群32の釣合車30(図1図2)への巻き掛け位置(すなわち、かご側釣合ロープ部分32Aの下端、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bの下端)とし、上向きにz軸の座標軸を採る。なお、図18は、図8に倣って描いた図である。
【0146】
また、図18に示すように、かご26が最上階に着床しているときのかご側釣合ロープ部分32Aの上端位置と測域センサ54の設置位置の中間位置に測域センサ70を設置する。図18に示す状態におけるかご側釣合ロープ部分32Aの全長もLwである。
【0147】
そして、本例においては、測域センサ54と測域センサ70を用い、図18に示す直交座標において、原点からの測域センサ54の設置位置までの上下方向の距離をZ1、測域センサ70の設置位置までの距離をZ2、かご26の停止位置によって定まる釣合いおもり28と釣合ロープ群32との連結位置までの距離をZxとする。
【0148】
(ハ)釣合おもり側釣合ロープ部分32B
上記「(ロ)かご側釣合ロープ部分32A」でした設定に、上記「(イ)釣合おもり側主ロープ部分24B」でした設定を加える。
【0149】
なお、図18に示すZ1、Z2の大きさと、図8に示すZ1、Z2の大きさとは、それぞれ、厳密には等しくはないが、上述したように、Lwが120m以上といった昇降行程(最下階床面と最上階床面の垂直距離)が比較的長いエレベータでは、実質的に等しいと見做せる。要は、最下階床面から昇降行程の略半分の位置(図8図18のZ1)に測域センサ54(図8図18)を設け、かご側主ロープ部分24A、釣合おもり側主ロープ部分24Bを引掛り検出対象とするための測域センサ56(図8)を最下階床面から昇降行程の略1/4の位置(図8のZ2)に設け、かご側釣合ロープ部分32A、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを引掛り検出対象とするための測域センサ70(図18)を、最上階床面から昇降行程の略1/4の位置(図18のZ2)に設ければ良いのである。
【0150】
そして、上述したように、かご側主ロープ部分24A、釣合おもり側主ロープ部分24Bを検出対象とするときは、測域センサ54と測域センサ56を用い(図8)、かご側釣合ロープ部分32A、釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを検出対象とするときは、測域センサ54と測域センサ70(図18)を用いるのである。
【0151】
なお、測域センサの上下方向における設置位置は、図8図18を用いて説明した上記位置に限定されるものではない。引掛り点Hの上下方向における位置を推定する上述の原理に特に支障をきたす位置(例えば、2台の測域センサの一方が昇降路の天井の近傍に設置される場合や、2台の測域センサが極端に近接する場合)でない限り、測域センサは任意の高さ位置に設置可能である。要は、少なくとも2台の測域センサで、上記原理に適した、上下方向に少なくとも3つの区間(第1区間、第2区間、第3区間)に区切れるような高さ位置であれば構わないのである。
【0152】
したがって、(ロ)かご側釣合ロープ部分32A、(ハ)釣合おもり側釣合ロープ部分32Bを引掛り点Hの検出対象とする場合、必ずしも上述したような測域センサ70を追加する必要は無く、測域センサ54と測域センサ56の2台を用いて、引掛り点Hの昇降路上下方向における位置を推定することとしても構わない。
【0153】
(変形例)
上記実施形態では、昇降路12の上下方向における一の高さ位置には、一つの測域センサ(測域センサ54、56、70)を設置し、当該高さ位置における座標平面上の主ロープ群24または釣合ロープ群32を検出するようにしたが、これに限らず、一の高さ位置に、少なくとも二台の測域センサを設置しても構わない。
【0154】
図19は、例えば、二台の測域センサを設置した例を示す図であり、図4に倣って描いた図である。本例は、測域センサ54に加え、測域センサ72を設置した例である。測域センサ72は、測域センサ54が設置されている側壁58Aと90度を成す側壁58Dに設置されている。
【0155】
例えば、主ロープM2、M4、M6、M8のいずれかの主ロープが昇降路内設備に引っ掛り、その列から離脱した場合、当該引っ掛った主ロープは、測域センサ54から見て、主ロープM1、M3、M5、M7のいずれかの背後になり、測域センサ54では検出することが困難になる場合がある。
【0156】
そこで、そのような場合でも、当該引っ掛った主ロープを検出し易い位置に測域センサ72を設置したのである。なお、測域センサ72は、側壁58Dに限らず、測壁58Bに設置しても構わない。あるいは、側壁58Dと側壁58Bの両方に設置しても構わない。
【0157】
要は、測域センサ54に追加する測域センサ72は、主ロープ群24(釣合ロープ群32)を構成する複数のロープの内、測域センサ54で検出されるロープの背後に在って、測域センサ54では検出しにくいロープを検出できる位置に設置すれば良いのである。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係るエレベータシステムは、例えば、長周期地震等による建物揺れに主ロープや釣合ロープが共振等して横振れするエレベータを含むエレベータシステムに好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0159】
10 エレベータ
12 昇降路
22 綱車
24 主ロープ群
26 かご
28 釣合おもり
30 釣合車
32 釣合ロープ群
54、56、70 測域センサ
52 制御回路ユニット
60 長尺物検出部
6010 引掛り判断部
6012 引掛り位置推定部
【要約】
【課題】かごの停止位置如何に関わらず、可能な限り、従来の検出装置よりも引掛りロープ部分の引掛り位置を正しく推定することができる引掛り検出装置を含むエレベータシステムを提供する。
【解決手段】点Bの高さ以下の第1区間、点Bと点Eとの間の第2区間、点Eの高さ以上の第3区間のいずれで、上記引掛りロープ部分が引っ掛っているかを判定した上で、当該引掛りロープ部分の上端位置A、下端位置D、および前記判定の結果定まる区間に存すると想定される想定引掛り点Hを結ぶ三角形についての幾何学的演算により、引掛り点Hの昇降路上下方向における位置を推定する。
【選択図】図16
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19