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  • 特許-クロマトグラフ用検出器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】クロマトグラフ用検出器
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/05 20060101AFI20220928BHJP
   G01N 30/74 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01N21/05
G01N30/74 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021501217
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006451
(87)【国際公開番号】W WO2020170377
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】長井 悠佑
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-216094(JP,A)
【文献】米国特許第05003174(US,A)
【文献】国際公開第2018/037536(WO,A1)
【文献】特開2016-099311(JP,A)
【文献】米国特許第04822166(US,A)
【文献】米国特許第05054919(US,A)
【文献】米国特許第05078493(US,A)
【文献】特表2011-503562(JP,A)
【文献】特開2011-257146(JP,A)
【文献】特開2002-071551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/83
G01N 30/00-G01N 30/96
B01J 20/00-B01J 20/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に第1平面をもつ突起が設けられている光透過性の一対の光学窓が、互いの前記第1平面が対向するようにセルボディに取り付けられ、互いの前記第1平面の間に試料液が流れるための隙間が形成されているフローセルと、
前記フローセルの前記一対の光学窓を測定光が通過するように前記フローセルに対して測定光を照射する光源と、
前記フローセルの前記一対の光学窓を通過した測定光を検出するための光検出器と、を備え、
前記フローセルの前記セルボディは試料液が流れる流路を内部に有するとともに前記流路を挟んで互いに対向する位置に前記流路へ通じる開口を有し、前記セルボディの前記開口の周囲面が平面となっており、
前記一対の光学窓のそれぞれは、前記セルボディの前記開口の前記周囲面と対向する第2平面を有するフランジ部を有し、前記セルボディの前記開口を介して前記流路内へ前記突起が挿入され、前記周囲面と前記第2平面との間に前記第2平面と接する樹脂製パッキンが挟み込まれた状態で前記第2平面が前記周囲面側へ押し付けられ、
前記光学窓の前記第2平面の算術平均粗さが0.8a以下である、クロマトグラフ用検出器。
【請求項2】
前記一対の光学窓の互いの前記第1平面の間の前記隙間は1.0mm以下である、請求項1に記載のクロマトグラフ用検出器。
【請求項3】
前記光学窓の前記第2平面の面精度は200μm以下である、請求項1に記載のクロマトグラフ用検出器。
【請求項4】
前記光学窓の前記第1平面及び前記第2平面とは反対側に位置する背面が平面となっており、前記第2平面と前記背面との間の平行度は1μm以下である、請求項1に記載のクロマトグラフ用検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフ(以下、LC)又は超臨界流体クロマトグラフ(以下、SFC)において使用されるクロマトグラフ用検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
LCやSFCでは、分離カラムにおいて分離された試料成分を検出するための検出器として吸光度検出器がよく使用される。吸光度検出器は、試料液を内部で流通させるフローセルを有し、フローセルを透過させた光の強度を検出することによりフローセル内を流れる試料液の成分濃度の有無や濃度を光学的に検出・測定する。
【0003】
試料成分の分取を行なう場合は、試料濃度が通常の分析の際の試料濃度の10倍以上にもなることが多い。そのため、分取において分析と同じ光路長(測定光が試料水を通過する距離)をもつフローセルを使用すると、フローセルを透過する光量が不足し、十分な検出感度が得られない。そのため、分取用途では、分析用途よりも大幅に短い光路長をもつフローセルが使用される。
【0004】
ここで、SFCは、液体と気体の中間的物性をもつ超臨界状態の流体を移動相として使用するクロマトグラフである。基本的なシステムはLCと同じであるが、超臨界状態を維持するために、検出器の後段に背圧調整装置(BPR)を追加して分析流路内を10MPa~40MPaの高圧にする必要がある。そのため、検出器で使用するフローセルにも高い圧力がかかる。
【0005】
分析を目的としたLCシステムでは、ノイズ低減のために検出器の後段にBPRが設けられることがあるが、それでもフローセルにかかる圧力は高々3MPa程度である。一方で、分取を目的としたLCシステムでは、検出器の後段にバルブを取り付けるため、バルブの切替えの際に20MPa程度の圧力がフローセルにかかる場合がある。
【0006】
石英などからなる光透過性基板を複数積層し、それらの光透過性基板の内部接合面に溝を設けて短光路長のフローセルを実現することが提案されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-201259号公報
【文献】特開2008-216094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1において提案されているような複数の基板の接合構造では、1mm以下といった短い光路長は実現できるものの、40MPa以上の高耐圧性を有するフローセルの実現は容易ではない。
【0009】
そこで、本発明は、40MPa以上の高耐圧を有しながら短い光路長を実現可能なフローセルを備えた検出器を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るクロマトグラフ用検出器は、先端に第1平面をもつ突起が設けられている光透過性の一対の光学窓が、互いの前記第1平面が対向するようにセルボディに取り付けられ、互いの前記第1平面の間に試料液が流れるための隙間が形成されているフローセルと、前記フローセルの前記一対の光学窓を測定光が通過するように前記フローセルに対して測定光を照射する光源と、前記フローセルの前記一対の光学窓を通過した測定光を検出するための光検出器と、を備え、前記フローセルの前記セルボディは試料液が流れる流路を内部に有するとともに前記流路を挟んで互いに対向する位置に前記流路へ通じる開口を有し、前記セルボディの前記開口の周囲面が平面となっており、前記一対の光学窓のそれぞれは、前記セルボディの前記開口の前記周囲面と対向する第2平面を有するフランジ部を有し、前記セルボディの前記開口を介して前記流路内へ前記突起が挿入され、前記周囲面と前記第2平面との間に第2平面と接する平面を有する樹脂製のパッキンが挟み込まれた状態で前記第2平面が前記周囲面側へ押し付けられ、前記光学窓の前記第2平面の算術平均粗さが0.8a以下である。
【0011】
特許文献2(特開2008-216094号公報)には、フランジ形状の光学窓をセル本体に取り付けて短光路長のフローセルを実現することが開示されている。しかしながら、この特許文献2では、0.4MPa程度の圧力がフローセルにかかることが想定されており、40MPaもの圧力がフローセルにかかることは想定されていない。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるクロマトグラフ用検出器では、前記フローセルの前記セルボディは試料液が流れる流路を内部に有するとともに前記流路を挟んで互いに対向する位置に前記流路へ通じる開口を有し、前記セルボディの前記開口の周囲面が平面となっており、前記一対の光学窓のそれぞれは、前記セルボディの前記開口の前記周囲面と対向する第2平面を有するフランジ部を有し、前記セルボディの前記開口を介して前記流路内へ前記突起が挿入され、前記周囲面と前記第2平面との間に前記第2平面と接する平面を有する樹脂製のパッキンが挟み込まれた状態で前記第2平面が前記周囲面側へ押し付けられ、前記光学窓の前記第2平面の算術平均粗さが0.8a以下であるので、40MPa以上の高耐圧を有しながら短い光路長を実現可能なフローセルを備えた検出器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】クロマトグラフ用検出器の一実施例の概略構成図である。
図2】同実施例のフローセルの分解断面構成図である。
図3】同実施例のフローセルの断面構成図である。
図4】フローセルの光学窓の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るクロマトグラフ用検出器の一実施例について、図面を用いて説明する。
【0015】
クロマトグラフ用検出器の一実施例の構成について、図1の概略構成図を用いて説明する。
【0016】
この実施例のクロマトグラフ用検出器は、光源2、集光レンズ4、フローセル6、ミラー8、入口スリット10、分光器12及び光検出器14を備えている。光検出器14は、例えばフォトダイオードアレイである。
【0017】
光源2により発せられる測定光の光路上に、集光レンズ4及びフローセル6が配置されており、光源2からの測定光が集光レンズ4を介してフローセル6へ照射されるようになっている。フローセル6内を液体クロマトグラフ又は超臨界流体クロマトグラフの分離カラムからの溶出液が試料液として流れる。
【0018】
ミラー8はフローセル6を透過した測定光を反射させて入口スリット10側へ導くように配置されており、入口スリット10を経た測定光が回折格子などの分光器12に導かれるようになっている。分光器12に導かれた光は各波長成分の光に分光されて光検出器14に入射するようになっている。
【0019】
光検出器14は各波長成分の光の強度を検出するものであり、その強度に応じた検出信号を発生させる。図示は省略されているが、光検出器14には、専用のコンピュータや汎用のコンピュータによって実現される演算処理装置が接続されている。その演算処理装置は光検出器14で得られた検出信号強度に基づいて、フローセル6を流れる液の吸光度スペクトルを求め、試料成分の検出や定量を行なうようになっている。
【0020】
フローセル6の構造について、図2及び図3を用いて説明する。
【0021】
図2に示されているように、この実施例のクロマトグラフ用検出器に用いられているフローセル6は、ステンレスなどの金属からなるセルボディ16、一対の光学窓20,20、各光学窓20とセルボディ16との間にそれぞれ挟み込まれる2つのパッキン18,18、各光学窓20をセルボディ16に対して固定するための2つの固定板22,22を備えている。
【0022】
セルボディ16は試料液が流れるための流路24を内部に有する。セルボディ16の互いに反対に位置する2つの面(図において上面と下面)のそれぞれに、光学窓20をはめ込むための窪み26が設けられており、その窪み26の底面に流路24に通じる開口28がそれぞれ設けられている。2つの開口28,28は互いに対向している。窪み26及び開口28の形状は円柱形状である。開口28の縁の周囲面である窪み26の底面30は平面となっている。
【0023】
光学窓20は、先端に第1平面38をもつ円柱状の突起34と、突起34の基端から周方向へ広がるフランジ部36と、を有する。光学窓20のフランジ部36は、窪み26の底面30と対向する第2平面40を有する。光学窓20の第1平面38及び第2平面40とは反対側の背面42は、第1平面38及び第2平面40と平行な平面となっている。光学窓20の突起34はセルボディ16の開口28の内径よりも僅かに小さい外径を有する。光学窓20は、石英など測定光に対して光透過性を有する材質で構成されている。
【0024】
パッキン18は、中央部に光学窓20の突起34を貫通させるための貫通孔32を有する円盤状の部材であり、フッ素樹脂やケトン系樹脂などの弾性材料で構成されている。ケトン系樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などが挙げられる。
【0025】
固定板22は、窪み26に嵌め込まれた光学窓20の背面42をセルボディ16側へ押圧して固定するためにセルボディ16に、例えばネジ止めにより固定されるものである。固定板22はステンレスなどの金属材料により構成されている。固定板22の中央部には、測定光を通過させるための貫通孔44が設けられている。
【0026】
窪み26の底面30と光学窓20の第2平面40との間にパッキン18を挟み込んだ状態で光学窓20をセルボディ16の窪み26に嵌め込んで固定板22により固定すると、図3に示されているように、一対の光学窓20,20のそれぞれの突起部34が流路24内に入り込み、互いの第1平面38,38の間に流路24よりも幅の狭い隙間が形成される。測定光は、第1平面38,38の間の隙間を通過するように、一対の光学窓20,20のうちの一方の光学窓20の背面42から入射し、他方の光学窓20の背面42から出射するように照射される。したがって、第1平面38,38の間の隙間の大きさが、測定光が試料液を通過する光路長となる。
【0027】
このように、光学窓20の第1平面38と背面42との間の高さ寸法によりフローセル6の光路長となる第1平面38,38の間の隙間の大きさが決定される。したがって、窪み26に嵌め込む光学窓20を第1平面38と背面42との間の高さ寸法の異なるものに変更することで、フローセル6の光路長を変更することができる。この実施例の検出器が分取用途で用いられる場合、第1平面38,38の間の隙間の大きさが1.0mm以下となるように光学窓20の寸法が設計される。
【0028】
なお、この実施例では、一対の光学窓20,20が同一形状及び同一寸法となっているが、必ずしも同一形状及び同一寸法である必要はない。
【0029】
ここで、光学窓20の第2平面40は、算術平均粗さが0.8a以下となるように表面処理が施されている。本発明者は、光学窓20の第2平面40の表面粗さと耐圧性能との関係性について、フローセル6に45MPaの圧力をかけたときに液漏れが発生するか否かによって検証した。検証の結果、第2平面40の算術平均粗さを25aとした場合は100%の確率、算術平均粗さを6.3aとした場合は約40%の確率、算術平均粗さを1.6aとした場合は約20%の確率でそれぞれ液漏れが発生したのに対し、算術平均粗さを0.8aとした場合は液漏れが発生しなかった。このことから、パッキン18と直接的に接触する光学窓20の第2平面40の算術平均粗さを0.8a以下とすることにより、40MPa以上の耐圧性能を具備させることができることがわかった。
【0030】
また、光学窓20の第2平面40の面精度を200μm以下とすることで、フローセル6の耐圧性能をさらに向上させることができる。さらには、光学窓20の第2平面40の平面度を測定光の波長の10倍以下とすることによっても、フローセル6の耐圧性能をさらに向上させることができる。また、光学窓20の第2平面40と背面42との間の平行度を1μm以下とすることで、フローセル6の耐圧性能をさらに向上させることができる。
【0031】
なお、光学窓20の突起34は、図4に示されているように、先端の第1平面34側へいくほど外径が小さくなるテーパ形状を有していてもよい。これにより、光学窓20の強度を高めることができる。
【0032】
上記実施例は、本発明に係るクロマトグラフ用検出器の実施形態を例示したに過ぎない。本発明に係るクロマトグラフ用検出器の実施形態は、以下のとおりである。
【0033】
本発明に係るクロマトグラフ用検出器の実施形態では、先端に第1平面(38)をもつ突起(34)が設けられている光透過性の一対の光学窓(20,20)が、互いの前記第1平面(38)が対向するようにセルボディ(16)に取り付けられ、互いの前記第1平面(38)の間に試料液が流れるための隙間が形成されているフローセル(6)と、前記フローセル(6)の前記一対の光学窓(20,20)を測定光が通過するように前記フローセル(6)に対して測定光を照射する光源(2)と、前記フローセル(6)の前記一対の光学窓(20,20)を通過した測定光を検出するための光検出器(14)と、を備え、前記フローセル(6)の前記セルボディ(16)は試料液が流れる流路(24)を内部に有するとともに前記流路(24)を挟んで互いに対向する位置に前記流路(24)へ通じる開口(28)を有し、前記セルボディ(16)の前記開口(28)の周囲面(30)が平面となっており、前記一対の光学窓(20,20)のそれぞれは、前記セルボディ(16)の前記開口(28)の前記周囲面(30)と対向する第2平面(40)を有するフランジ部(34)を有し、前記セルボディ(16)の前記開口(28)を介して前記流路(24)内へ前記突起(34)が挿入され、前記周囲面(30)と前記第2平面(40)との間に前記第2平面と接する平面を有する樹脂製のパッキン(18)が挟み込まれた状態で前記第2平面(40)が前記周囲面(30)側へ押し付けられ、前記光学窓(20)の前記第2平面(40)の算術平均粗さが0.8a以下である。
【0034】
上記実施形態の第1態様では、前記一対の光学窓(20,20)の互いの前記第1平面(38)の間の前記隙間は1.0mm以下である。このような態様により、本発明に係る検出器を、試料成分を高濃度に含む分取用途に使用することができる。
【0035】
また、上記実施形態の第2態様では、前記光学窓(20)の前記第2平面(40)の面精度は200μm以下である。このような態様により、前記フローセル(6)の耐圧性能をさらに向上させることができる。
【0036】
また、上記実施形態の第3態様では、前記光学窓(20)の前記第2平面(40)の平面度は前記測定光の波長の10倍以下である。このような態様により、前記フローセル(6)の耐圧性能をさらに向上させることができる。
【0037】
また、上記実施形態の第4態様では、前記光学窓(20)の前記第1平面(38)及び前記第2平面(40)とは反対側に位置する背面(42)が平面となっており、前記第2平面(40)と前記背面(42)との間の平行度は1μm以下である。このような態様により、前記フローセル(6)の耐圧性能をさらに向上させることができる。
【0038】
上記第1態様から第4態様は互いに自在に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0039】
2 光源
4 集光レンズ
6 フローセル
8 ミラー
10 入口スリット
12 分光器
14 光検出器
16 セルボディ
18 パッキン
20 光学窓
22 固定板
24 流路
26 窪み
28 開口
30 窪みの底面(周囲面)
32,44 貫通孔
34 突起
36 フランジ部
38 第1平面
40 第2平面
42 背面
図1
図2
図3
図4