(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】誘電体磁器組成物およびセラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
C04B 35/495 20060101AFI20220928BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C04B35/495
H01B3/12 319
H01B3/12 322
H01B3/12 311
H01B3/12 308
H01B3/12 315
H01B3/12 310
H01B3/12 309
H01B3/12 331
(21)【出願番号】P 2021522646
(86)(22)【出願日】2020-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2020010606
(87)【国際公開番号】W WO2020240986
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019098428
(32)【優先日】2019-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】村田 智城
(72)【発明者】
【氏名】赤松 寛文
(72)【発明者】
【氏名】大場 史康
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-2497(JP,A)
【文献】特開2013-180906(JP,A)
【文献】特開2013-180907(JP,A)
【文献】特開2013-180908(JP,A)
【文献】特開2017-178744(JP,A)
【文献】特開2018-20931(JP,A)
【文献】特開2018-135254(JP,A)
【文献】特開2018-104209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
H01B 3/12
H01G 4/12
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む誘電体磁器組成物であって、
前記Aが、KおよびNaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記Rが、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、YおよびScからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記Bが、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記A:R:B:Mnのモル比が、2-x:1+x/3:5+y:zであり、
前記x、yおよびzが、-0.3≦x≦0.6、-0.5≦y≦0.5、および0.001≦z≦0.5を満たす、誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記A、RおよびBの酸化物が、一般式A
2-xR
1+x/3B
5+yO
15+δ(式中、A、R、B、xおよびyは前記の通りである)で表される、請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記Rが、Laと、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、YおよびScからなる群より選択される少なくとも1つの他の元素とを含む、請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記RにおけるLaのモル割合が0.1以上0.9以下である、請求項3に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記Rが、LaとPrとを含む、請求項3または4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
2つの電極と、該2つの電極の間に位置する誘電体部分とを含み、該誘電体部分が、請求項1~5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から形成されている、セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物およびセラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックコンデンサの誘電体部分の材料として、チタン酸バリウム(BaTiO3)をはじめとする強誘電体セラミックが一般的に使用されている。
【0003】
近年、セラミックコンデンサの用途の拡大に伴い、さまざまな特性が要求されている。かかる要求に応えるべく、セラミックコンデンサの誘電体部分の材料として、種々の組成を有する誘電体磁器組成物が提案されている。例えば、新たな誘電体磁器組成物として、ペロブスカイト型と結晶構造がよく似ているが、分極構造が異なる正方晶タングステンブロンズ型構造を有するものが提案されている(特許文献1~2等参照)。
【0004】
特許文献1には、一般式{A1-x(RE)2x/3}y-D2O5+yで表され、タングステンブロンズ構造を有する化合物と、Mの酸化物と、を有し、
前記Aは、Ba、Ca、SrおよびMgからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記Dは、NbおよびTaからなる群から選ばれる少なくとも1つ、前記REは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記xおよびyが、0<x<1、y>0の関係を満足し、
前記Mは、Al、Si、BおよびLiからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする誘電体磁器組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、一般式A3(B1)(B2)4O15で表される正方晶タングステンブロンズ構造を有する主成分、および副成分を含有する誘電体磁器組成物であって、
Aは、Ba、Sr、Caおよび希土類元素から選択される少なくとも1つであり、
B1およびB2は、ZrおよびNbを含み、
前記副成分は、Mn、Cu、V、Fe、CoおよびSiから選択される少なくとも1つであり、
B1およびB2の合計を100mol%とした場合、Mn、Cu、V、FeおよびCoの合計含有量が0.5mol%以上4mol%未満であり、Siの含有量が7mol%未満であり、Baの含有量が9.8mol%以上61.8mol%以下であり、Caの含有量が51.5mol%未満であり、Srの含有量が41.2mol%未満であり、希土類元素の含有量が30.9mol%未満であり、
B1およびB2に対するAの比率は0.588以上0.618以下であり、
全体を100mol%とした場合、Zrの含有量が8mol%より大きく50mol%未満であり、Nbの含有量が50mol%以上80mol%以下である、
誘電体磁器組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-180908号公報
【文献】特開2018-104209号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】R. R. Neurgaonkar, et al., "FEROELECTRIC AND STRUCTURAL PROPERTIES OF THE TUNGUSTEN BRONZE SYSTEM K2Ln3+Nb5O15, Ln = La to Lu", Materials Research Bulletin, 1990, Vol. 25, pp. 959-970
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ペロブスカイト型構造を有するチタン酸バリウムは、強誘電性に起因して、直流電圧を印加すると比誘電率が低下するという難点がある。これに対して、正方晶タングステンブロンズ型構造を有する特許文献1~2に記載の誘電体磁器組成物は、強誘電性を抑えることにより、直流電圧下での比誘電率の低下を低減することができる。しかしながら、特許文献1~2に記載の誘電体磁器組成物では、直流電圧下にて比誘電率を向上させることは実現できていない。直流電圧下にて比誘電率が向上する誘電体磁器組成物を実現できれば、セラミックコンデンサの用途の拡大や電気特性の向上に資すると考えられる。
【0009】
加えて、セラミックコンデンサに関するものではないが、正方晶タングステンブロンズ型構造を有する別の組成を有する物質として、K2Ln3+Nb5O15(Ln=La~Lu)が報告されている(非特許文献1)。非特許文献1には、かかる組成を有する物質が、低い比誘電率と低い抵抗率とを示すことが開示されている。非特許文献1に記載の物質は、抵抗率が低いため、直流電圧下において誘電体としての利用が困難であると考えられ、更に、比誘電率が低いため、セラミックコンデンサの誘電体部分の材料としての利用に適さない。
【0010】
本発明の目的は、高い比誘電率と高い抵抗率とを有し、直流電圧下にて比誘電率が向上する新規な誘電体磁器組成物を提供することにある。本発明の更なる目的は、かかる誘電体磁器組成物を含んで成るセラミックコンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む誘電体磁器組成物であって、
前記Aが、KおよびNaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記Rが、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、YおよびScからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記Bが、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
前記A:R:B:Mnのモル比が、2-x:1+x/3:5+y:zであり、
前記x、yおよびzが、-0.3≦x≦0.6、-0.5≦y≦0.5、および0.001≦z≦0.5を満たす、誘電体磁器組成物が提供される。
【0012】
本発明のもう1つの要旨によれば、2つの電極と、該2つの電極の間に位置する誘電体部分とを含み、該誘電体部分が、本発明の上記誘電体磁器組成物から形成されている、セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い比誘電率と高い抵抗率とを有し、直流電圧下にて比誘電率が向上する新規な誘電体磁器組成物が提供される。更に、本発明によれば、かかる誘電体磁器組成物を含んで成るセラミックコンデンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の1つの実施形態におけるセラミックコンデンサの概略模式断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳述するが、本発明はこれら実施形態に限定されず、種々の改変が可能である。
【0016】
(誘電体磁器組成物)
本実施形態の誘電体磁器組成物(単に「(強)誘電体セラミック」とも称され得る)は、A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む。
ここで、Aは、KおよびNaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
Rは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、YおよびScからなる群より選択される少なくとも1つであり、
Bは、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも1つであり、
A:R:B:Mnのモル比(または原子比)は、2-x:1+x/3:5+y:zであり、
x、yおよびzが、-0.3≦x≦0.6、-0.5≦y≦0.5、および0.001≦z≦0.5を満たす。
【0017】
このように、A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む組成物において、A、R、Bを限定し、更に、A:R:B:Mnのモル比を上記の通り限定することによって、高い比誘電率と高い抵抗率とを有し、直流電圧下にて比誘電率が向上することが、本発明らの研究により明らかになった。
【0018】
本発明を限定するものではないが、より詳細には、A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む誘電体磁気組成物は、A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造を有し、かつ、Mnの酸化物を含む誘電体磁気組成物である。正方晶タングステンブロンズ型構造を有する組成物において、当該構造を構成するA、R、Bを限定し、Mnを添加し、更に、A:R:B:Mnのモル比を上記の通り限定することによって、高い比誘電率と高い抵抗率とを有し、直流電圧下にて比誘電率が向上することが、本発明らの研究により明らかになった。
【0019】
ここで、本明細書に記載の「正方晶タングステンブロンズ型構造」とは、一般式A6B10O30で表される(よって、A3B5O15とも表される)結晶構造(例えば非特許文献1を参照)を基本とし、ある温度帯においては正方晶の結晶構造を有することを特徴とするが、その他の温度帯においては正方晶に限定されず、各原子位置の変位を伴って直方晶、斜方晶、単斜晶を含むその他の結晶系の構造をとり得る。また、正方晶タングステンブロンズ型構造に対しては、AサイトおよびBサイトを初めとする各種のサイト欠陥、格子間サイト、およびサイト置換固溶体等の導入が可能であり、これらが導入された構造を含めて正方晶タングステンブロンズ型と呼称する。特に、基本の一般式A6B10O30を参照してこのAサイト6に対して、Aサイトに欠損がないものはフィルド型、Aサイトが1だけ欠損したものはアンフィルド型、Aサイトが1.33だけ欠損したものはエンプティ型と呼称され、これらも正方晶タングステンブロンズ型構造に含まれる。
【0020】
誘電体磁器組成物が、A、RおよびBの酸化物ならびにMnの酸化物を含むこと、およびA:R:B:Mnのモル比は、任意の適切な元素分析により確認および決定可能である。誘電体磁器組成物が、A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造を有することは、X線回折(XRD)分析等により確認可能である。
【0021】
A、RおよびBの酸化物(または正方晶タングステンブロンズ型構造)は、代表的には、一般式A2-xR1+x/3B5+yO15+δ(式中、A、R、B、xおよびyは前記の通りである)で表され得る。本実施形態を限定するものではないが、この場合、Bは、正方晶タングステンブロンズ型構造のBサイトに位置し得、Aは、正方晶タングステンブロンズ型構造のAサイトに位置し得、Rは、正方晶タングステンブロンズ型構造のAサイトに(AがRで置換され、Rが固溶した状態で)位置し得る。誘電体磁器組成物におけるモル比は、Bの量(「5+y」に相当)を基準にして決定され得る。ここで、酸素Oの量(モル化)「15+δ」は分析による同定が困難であり、δは物質の酸化状態や欠損状態に応じて任意の値をとり得るが、δの値は本発明の効果に影響を及ぼすものではない。本発明を限定するものではないが、例示的には、δは、-7.5≦δ≦15を満たすものであり得る。
【0022】
Rは希土類元素である。好ましくは、Rは、Laと、La以外の他の元素(即ち、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、YおよびScからなる群より選択される少なくとも1つの他の元素)とを含む。これにより、直流電圧下にて比誘電率を、より大きく向上させることができる。本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、大きいイオン半径を有するLaと、La以外の他の元素とを組み合わせることによって、分極構造が適切に調整され(分極ネットワークが変調され)、大きい効果が得られるものと考えられる。
【0023】
この場合、RにおけるLaのモル割合(または原子割合)は、適宜選択され得るが、0.1以上0.9以下であることが好ましい。
【0024】
より詳細には、Rは、LaとPrとを含むことが更に好ましい。Rは、LaとPrのみであっても、LaとPrに加えて更に他の少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。
【0025】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、A、RおよびBの酸化物ならびにMnの酸化物を含み、代表的には、実質的にこれら酸化物からなり得る。しかしながら、本実施形態の誘電体磁器組成物は、他の微量物質、例えば不可避的に混入し得る微量元素等を含んでいてもよい。また、本実施形態の誘電体組成物は、第1必須成分としてA、RおよびBの酸化物を、第2必須成分としてMnの酸化物を、A:R:B:Mnのモル比が所定の範囲を満たすようにして含む限り、場合により、誘電体磁気組成物に対して所望される用途等に応じて、任意の適切な他の第3成分を(第1必須成分および第2必須成分の合計に対して比較的少量で)含んでいてよい。
【0026】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、任意の適切な方法により製造可能であるが、例えば以下のようにして製造され得る。
【0027】
まず、A、RおよびBの酸化物からなる主成分組成物を得、これに副成分としてMnの酸化物を導入することによって、本実施形態の誘電体磁器組成物を得てよい。かかる主成分組成物は、固相法、湿式法または気相法などであってよい任意の適切な方法により調製できる。固相法は、A、RおよびBの元素源として、各元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩およびその他の化合物からなる群より選択される少なくとも1種を使用し、かかる元素源の粉末の混合物を仮焼し、固相反応によりA、RおよびBの酸化物を得る方法であり、主成分組成物は仮焼原料粉末の形態であり得る。湿式法としては、共沈法、水熱法、蓚酸法等が挙げられる。気相法は、例えば高周波プラズマを利用した方法が挙げられる。主成分組成物は、A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造を有し得るが、このことは、最終的に得られる誘電体磁器組成物においてA、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造が得られる限り、本実施形態に必須でない。主成分組成物へのMnの酸化物の導入は、任意の適切な方法により実施され得る。例えば、Mnの元素源として、Mnの酸化物、水酸化物、炭酸塩およびその他の化合物からなる群より選択される少なくとも1種を使用し、かかるMnの元素源の粉末を主成分組成物に添加し、これにより得られるMn混合原料組成物を熱処理に付すことにより、Mnの酸化物が導入された誘電体磁器組成物を得てよい。使用するA、R、BおよびMnの元素源は、最終的に得られる誘電体磁器組成物に対して所望されるモル比に応じて秤量され得る。誘電体磁器組成物に含まれるMn(副成分)の量は、A、RおよびB(主成分)の量に比して少ないため、A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造に対して実質的に影響しないものと考えられる。
【0028】
本実施形態の誘電体磁器組成物は、高い比誘電率と高い抵抗率とを有する。本実施形態を限定するものではないが、室温(10~30℃、代表的には25℃)において、比誘電率ε(-)は、例えば400以上(直流電圧の印加なし)であり得、抵抗率ρ(Ωcm)は、例えば1010Ωcm以上(即ち、logで10以上)であり得る。かかる本実施形態の誘電体磁器組成物は、セラミックコンデンサの誘電体部分の材料として好適に利用され得る。
【0029】
更に、本実施形態の誘電体磁器組成物は、直流電圧下にて比誘電率が向上する。より詳細には、直流電圧を印加しない場合の比誘電率に比べて、直流電圧を印加した場合に、より高い比誘電率が得られる。本実施形態を限定するものではないが、室温における直流電圧を印加しない場合の比誘電率ε(-)と、室温にて330Vの直流電圧を印加した場合の比誘電率εDC(-)を測定し、これらから計算される比誘電率の変化率ΔεDC(%)(=(εDC-ε)/ε×100)が0%より大きく、好ましくは10%以上であり得る。かかる本実施形態の誘電体磁器組成物は、高い直流電圧が印加される用途に向けたセラミックコンデンサの誘電体部分の材料として好適に利用され得、例えば、セラミックコンデンサの充放電時における電力損失を効果的に低減することができる。
【0030】
(セラミックコンデンサ)
本実施形態のセラミックコンデンサは、2つの電極と、これら2つの電極の間に位置する誘電体部分とを含み、この誘電体部分が、上述した誘電体磁器組成物から形成されている。
【0031】
セラミックコンデンサにおいて、電極は少なくとも2つあればよく、2つまたは3つ以上の電極が、これらの間に誘電体部分が位置するようにして設けられる。また、電極は、誘電体部分の内部に存在する内部電極と、誘電体部分の外部に存在し、所定の内部電極と(少なくとも電気的に)接続された外部電極とを含んでいてよい。電極の材料は特に限定されず、任意の適切な導電性材料が使用され得る。
【0032】
代表的には、本実施形態のセラミックコンデンサは、例えば
図1に示す積層セラミックコンデンサ10であり得る。積層セラミックコンデンサ10は、誘電体磁器組成物から形成された誘電体部分1と、誘電体部分1に埋設されて交互配置された内部電極3および5と、内部電極3および5とそれぞれ接続された外部電極7および9とを含む。なお、図示する例では、内部電極3および5を、模式的にそれぞれ3つずつ示しているが、内部電極の数はコンデンサの仕様等に応じて適宜選択され得る。
【0033】
本実施形態のセラミックコンデンサは、任意の適切な方法により製造可能である。例えば、既知のセラミックコンデンサの製造方法において、セラミック原料として、誘電体磁器組成物の製造方法に関して上述したMn混合原料組成物を使用することによって、本実施形態のセラミックコンデンサを製造してよいが、これに限定されない。
【0034】
本実施形態のセラミックコンデンサは、上述した本実施形態の誘電体磁器組成物と同様の効果を奏し得、高い比誘電率と高い抵抗率とを有し、直流電圧下にて比誘電率が向上する。
【実施例】
【0035】
(試料番号1~47)
以下の手順により、A、RおよびBの酸化物と、Mnの酸化物とを含む誘電体磁気組成物(A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造を有し、かつ、Mnの酸化物を含む誘電体磁器組成物)であって、A、R、BおよびMnのモル比が表1~2の試料番号1~47に示すように種々異なる誘電体磁器組成物を得た。より詳細には、2つの電極と、該2つの電極の間に位置する誘電体部分とを含み、該誘電体部分が、A、R、BおよびMnのモル比が上記のように種々異なる誘電体磁器組成物から形成されているセラミックコンデンサを作製した。なお、表1~2の試料番号1~47のうち、本発明の比較例に該当するものに記号「*」を付して示し、それ以外は本発明の実施例に該当する。
【0036】
まず、上記A、RおよびBの元素源として、K2CO3、Na2CO3、La2O3、Pr6O11、Nd(OH)3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Nb2O5、Ta2O5を用いて、表1~2に示したA、RおよびBの各元素のモル比に対応するように、これら元素源を秤量した。これら元素源を、公称直径2mmのPSZ(部分安定化ジルコニア)ボール、純水、分散材、消泡剤とともにボールミルにより湿式混合した。これにより得られたスラリーを乾燥させ、整粒した後、大気中で1000~1200℃にて仮焼を行うことで、主成分組成物として、A、RおよびBの酸化物からなる正方晶タングステンブロンズ型構造を有する仮焼原料粉末を合成した。
【0037】
この仮焼原料粉末に、Mnの元素源としてMnCO3を用いて、表1~2に示したA、R、Bの各元素に対するMnのモル比に対応するように、MnCO3を秤量して添加し、Mn混合原料組成物を得た。
【0038】
このMn混合原料組成物に、ポリビニルブチラール系バインダー、可塑剤、エタノールおよびトルエンを加えて、PSZボールとともにボールミルにより湿式混合し、シート成型用セラミックスラリーを調製した。このシート成型用セラミックスラリーをドクターブレード法により、シート厚さが20μmになるようにシート状に成形し、矩形のセラミックグリーンシートを得た。更に、このセラミックグリーンシート上に、Pt粉末を導電性成分として含む導電性ペーストを所定のパターンでスクリーン印刷して、内部電極の前駆体層を形成した。
【0039】
Pt粉末を導電性成分として含む導電性ペースト(内部電極の前駆体層)が印刷されたセラミックグリーンシートを、導電性ペーストがシート端部まで達している(外部に引き出される)側が互い違いになるように所定枚数積層し、導電性ペーストが露出しているセラミックグリーンシートを、導電性ペーストが印刷されていないセラミックグリーンシートで覆って、積層体を得た。この積層体の上記導電性ペースト(内部電極の前駆体層)が露出している両端面に、Pt粉末を導電性成分として含む導電性ペーストを塗布して、外部電極の前駆体を形成し、大気中で500℃にて加熱することで脱脂処理した。この脱脂後積層体を、大気中で1250~1350℃で120分間保持することで、Mnの酸化物を含むセラミックを緻密化させると共に、導電性ペーストから内部電極および外部電極を形成した。
【0040】
これにより、
図1に模式的に示すような、誘電体磁器組成物から形成された誘電体部分1と、誘電体部分1に埋設されて交互配置された内部電極3および5と、内部電極3および5とそれぞれ接続された外部電極7および9とを含む積層セラミックコンデンサ10が作製された。得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、幅2.7mm、長さ3.6mmおよび厚さ0.56mmであり、内部電極の総数は2層であり、隣接する内部電極間に介在する誘電体層の厚みは48μm、各内部電極の厚さは1μm、隣接する内部電極の対向電極面積は3.2mm
2であった。
【0041】
作製した試料番号1~47の積層セラミックコンデンサを溶解し、ICP分析をしたところ、内部電極および外部電極の主成分であるPtを除いて、表1~2に示すようなモル比であった。また、試料番号1~47の積層セラミックコンデンサのXRD分析(構造解析)を行ったところ、いずれも、異相のない正方晶タングステンブロンズ型構造を有することが明らかになった。
【0042】
作製した試料番号1~47の積層セラミックコンデンサに対して、室温にて480Vの直流電圧を印加し、微小電流計を用いて漏れ電流を測定して、抵抗率ρ(Ωcm)を求めた。この抵抗率ρ(Ωcm)がlogで10以上のものを合格と判定し、logで10未満のものを不合格と判定した。また、これら積層セラミックコンデンサに対して、LCRメーターを用いて、室温にて測定周波数1kHzおよび測定電圧1Vrmsの条件で、かつ直流電圧を印加しないで静電容量を測定して、比誘電率ε(-)を求めた。この比誘電率εが400以上のものを合格と判定し、400未満のものを不合格と判定した。更に、LCRメーターと外部電源を組み合わせて、室温にて測定周波数1kHzおよび測定電圧1Vrmsの条件で、かつ330Vの直流電圧を印加した場合の静電容量を測定して、比誘電率εDC(-)を求め、上記比誘電率ε(-)を基準として、比誘電率の変化率ΔεDC(%)(=(εDC-ε)/ε×100)を計算した。この比誘電率の変化率ΔεDC(%)が正であるものを合格と判定し、負であるものを不合格と判定した。なお、比誘電率εDCを測定できなかった場合、比誘電率の変化率ΔεDCは「測定不可能」とした。総合判定として、これら判定のいずれか1つでも不合格のものを「NG」判定とし、これら判定の全てが合格のものを「G」判定とし、「G」判定のなかでも、比誘電率の変化率ΔεDC(%)が10%以上であったものを特に優れた「G+」判定とした。結果を表1~2に併せて示す。
【0043】
(参考例:BaTiO3)
Mn混合原料組成物に代えてBaTiO3を用いたこと以外は、上記と同様にして、積層セラミックコンデンサを作製した。作製した積層セラミックコンデンサに対して、上記と同様にして、比誘電率εおよび比誘電率の変化率ΔεDC(%)を求めた。試料番号「BaTiO3」として、結果を表1に併せて示す。
【0044】
【0045】
【0046】
表1~2を参照して、試料番号1~47のうち本発明の実施例に該当するもの(記号「*」が付されていないもの)は、いずれも総合判定が「G」であり、高い抵抗率ρと高い比誘電率εとを有し、直流電圧下にて比誘電率の変化率ΔεDCが正であった(即ち、直流電圧下にて比誘電率が向上した)。なかでも、試料番号26~32および45~47に示すように、Rの元素として、Laと、La以外の他の元素とを組み合わせて用いることによって、直流電圧下にて、より大きい比誘電率の変化率ΔεDCが得られた。これは、本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、この結晶系の分極ネットワークが変調されたことによるものと考えられる。
【0047】
これに対して、試料番号1~47のうち本発明の比較例に該当するもの(記号「*」が付されていないもの)は、いずれも総合判定が「NG」であった。試料番号1のように、Mnの量(前記zに対応する)がB(試料番号1ではNb)の量5に対して0.001より少ない場合、抵抗率ρが低いことに加え、比誘電率εも低く、直流電圧下の比誘電率の変化率ΔεDCが負であった。他方、試料番号8のように、Mnの量(前記zに対応する)がB(試料番号8ではNb)の量5に対して1とした場合、格子欠陥によって抵抗率ρおよび比誘電率εが大きく低下し、直流電圧印加時の比誘電率εDCを測定できず、比誘電率の変化率ΔεDCは「測定不可能」であった。試料番号13および16に示すように、前記xが-0.3≦x≦0.6の範囲から外れる場合は、分極構造が変化することで比誘電率の変化率ΔεDCが負であった。試料番号17および20に示すように、前記yが-0.5≦y≦0.5の範囲から外れる場合は、格子欠陥によって抵抗率ρが大きく低下した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の誘電体磁器組成物は、セラミックコンデンサの誘電体部分の材料として好適に利用可能であるが、これに限定されない。本発明のセラミックコンデンサは、直流電圧が印加される幅広く様々であり得る用途において利用可能であるが、これに限定されない。
【0049】
本願は、2019年5月27日付けで日本国にて出願された特願2019-098428に基づく優先権を主張し、その記載内容の全てが、参照することにより本明細書に援用される。
【符号の説明】
【0050】
1 誘電体部分(誘電体層)
3、5 内部電極
7、9 外部電極
10 セラミックコンデンサ(積層セラミックコンデンサ)