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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】細胞立体形状評価方法及び細胞観察装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20220928BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12M1/34 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021527328
(86)(22)【出願日】2019-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2019049553
(87)【国際公開番号】W WO2020261607
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2019119042
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 周平
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隆二
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/158901(WO,A1)
【文献】特開2014-018184(JP,A)
【文献】特開2010-276585(JP,A)
【文献】特開2019-058073(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143406(WO,A1)
【文献】特開2013-066702(JP,A)
【文献】国際公開第2019/043953(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/158947(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の立体的な形状を評価する方法であって、
評価対象である1又は複数の目的細胞にレーザ光を照射し、該目的細胞を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する測定ステップと、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成ステップと、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め、微分画像を作成する微分画像作成ステップと、
前記微分画像における各画素の微分値に対する演算処理結果に基づいて、前記目的細胞の形状を評価する評価ステップと、
を有し、前記評価ステップは、
前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成ステップと、
前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出する指標値算出ステップと、
を含む細胞立体形状評価方法。
【請求項2】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の信号値にそれぞれ対応する出現数の比である、請求項に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項3】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の出現数にそれぞれ対応する信号値の差である、請求項に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項4】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープを指数関数で近似したときの、該指数関数の指数部の値である、請求項に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項5】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における所定の信号値に対応する出現数を、前記位相像において観測される細胞の数又はコンフルエンシで除した値である、請求項に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項6】
前記評価ステップは、前記微分画像作成ステップにより作成される微分画像と該微分画像作成前の位相像とを表示部に同時に表示する画像表示ステップ、を含み、
前記微分画像及び位相像に基づくユーザによる評価を可能とした、請求項1に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項7】
前記評価ステップは、前記ヒストグラムを表示部に表示するヒストグラム表示ステップを含み、前記ヒストグラムに基づくユーザによる評価を可能とした、請求項1に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項8】
前記位相像作成ステップは、位相像に対しガウシアンフィルタを用いたノイズ除去処理を実施するノイズ除去ステップを含む、請求項1に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項9】
前記位相像作成ステップは、位相像において目的細胞以外の部分の情報を除去する細胞抽出ステップを含む、請求項1に記載の細胞立体形状評価方法。
【請求項10】
ホログラフィック顕微鏡を利用した細胞観察装置であって、
光源部と、
前記光源部からの出射光を1又は複数の目的細胞を含む容器に照射したときの該目的細胞中を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する検出部と、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成部と、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め微分画像を作成する微分画像作成部と、
前記微分画像において前記目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の微分値に基づいて、該目的細胞の立体的な形状を評価するための指標値を算出する指標値算出部と、
を備え、前記指標値算出部は、前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成部を含み、前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出する細胞観察装置。
【請求項11】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の信号値にそれぞれ対応する出現数の比である、請求項10に記載の細胞観察装置。
【請求項12】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の出現数にそれぞれ対応する信号値の差である、請求項10に記載の細胞観察装置。
【請求項13】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープを指数関数で近似したときの、該指数関数の指数部の値である、請求項10に記載の細胞観察装置。
【請求項14】
前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における所定の信号値に対応する出現数を、前記位相像において観測される細胞の数又はコンフルエンシで除した値である、請求項10に記載の細胞観察装置。
【請求項15】
前記位相像作成部は、位相像に対しガウシアンフィルタを用いたノイズ除去処理を実施する、請求項10に記載の細胞観察装置。
【請求項16】
前記位相像作成部は、位相像において目的細胞以外の部分の情報を除去する、請求項10に記載の細胞観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の立体形状つまりは3次元的形状を評価する方法、及び、そのための細胞観察装置に関する。本発明に係る細胞立体形状評価方法及び細胞観察装置は、例えば、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞など)を培養する過程等において細胞の状態を非侵襲で評価するのに好適である。
【背景技術】
【0002】
再生医療分野では、近年、iPS細胞やES細胞、或いは間葉系幹細胞等の多能性幹細胞を用いた研究が盛んに行われている。こうした多能性幹細胞を利用した再生医療の研究・開発においては、多能性を維持した状態の未分化の細胞を大量に培養する必要がある。そのため、適切な培養環境の選択と環境の安定的な制御が必要であるとともに、培養中の細胞の状態を高い頻度で確認する必要がある。再生医療分野における細胞状態の確認は、細胞を非破壊的、非侵襲的に行うことが重要である。こうした非破壊的・非侵襲的な細胞状態の評価は、細胞観察装置で得られる細胞画像を利用した形態学的な評価が一般的である。
【0003】
一般に細胞などの薄く透明な観察対象物は光の吸収が少ないため、光学的な強度像では対象物の形態を認識することは難しい。そのため、従来一般に、細胞の観察には位相差顕微鏡が広く利用されている。位相差顕微鏡では光が対象物を通過する際に変化する位相の変化量を画像化するため、透明である細胞の形態も可視化した位相差画像を得ることができる。特許文献1には、こうした位相差顕微鏡で得られる位相差画像に基づいて、多能性幹細胞について、未分化細胞のみからなる良好な細胞コロニーと未分化逸脱細胞を含む不良の細胞コロニーとを識別する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、位相差顕微鏡による位相差画像の画素値(信号値)では、対象物の厚さ方向の情報を定量的に評価することができない。そのため、特許文献1に記載の手法では、細胞の立体形状についての形態的な評価は行えず、対象物が多能性幹細胞のコロニーであり、且つそのコロニーが未分化細胞のみを含むか或いは未分化逸脱細胞を含むという単純な評価に限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-18184号公報
【文献】国際公開第2016/084420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、細胞について得られた位相変化を反映した画像に基づいて、該細胞の局所的な立体形状の評価を簡便に行うことができる細胞立体形状評価方法及び細胞観察装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明の一態様による細胞立体形状評価方法は、細胞の立体的な形状を評価する方法であって、
評価対象である1又は複数の目的細胞にレーザ光を照射し、該目的細胞を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する測定ステップと、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成ステップと、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め、微分画像を作成する微分画像作成ステップと、
前記微分画像における各画素の微分値に対する演算処理結果に基づいて、前記目的細胞の形状を評価する評価ステップと、
を有し、前記評価ステップは、
前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成ステップと、
前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出する指標値算出ステップと、
を含むものである。
【0008】
また上記課題を解決するために成された本発明の一態様による細胞観察装置は、ホログラフィック顕微鏡を利用した細胞観察装置であって、
光源部と、
前記光源部からの出射光を1又は複数の目的細胞を含む容器に照射したときの該目的細胞中を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する検出部と、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成部と、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め微分画像を作成する微分画像作成部と、
前記微分画像において前記目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の微分値に基づいて、該目的細胞の立体的な形状を評価するための指標値を算出する指標値算出部と、
を備え、前記指標値算出部は、前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成部を含み、前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出するものである。
【0009】
本発明における観察対象の細胞の種類は特に限定されないが、典型的にはiPS細胞、ES細胞、間葉系幹細胞などを含む多能性幹細胞である。
【発明の効果】
【0010】
ホログラムデータに対する画像再構成処理を行うことで得られた位相像は、観察対象物、つまりは細胞の厚さ方向の情報も含む。そのため、位相像の各画素における空間的な微分値を求めると、その微分値は細胞と背景との境界部分である細胞の周縁(輪郭)部で大きな値を示し、しかも、その周縁部において厚さ方向の傾斜が急であるほど微分値は大きくなる。即ち、各画素の微分値、及びその微分値の集まりから構成される微分画像は、細胞の周縁部という局所的な部位の情報を含む。そこで、本発明の一態様に係る細胞立体形状評価方法では、微分画像を構成する各画素の微分値から所定の手順に従って算出した指標値に基づいて、目的細胞の立体的な形状、具体的には細胞の周縁部における厚さ方向の傾斜の度合いなどを評価する。
【0011】
本発明の一態様に係る細胞立体形状評価方法及び細胞観察装置によれば、例えば培養中の多能性幹細胞の、局所的な部位の立体形状を、非破壊及び非侵襲で以て評価することができる。特に、微分画像を構成する各画素の微分値から所定の手順に従って算出した指標値に基づいて評価を行うことで、そうした評価の経験や技量に乏しいオペレータであっても、的確で信頼性の高い評価を簡便に行うことができる。また、細胞状態の評価における作業効率を向上させることができ、ひいては細胞培養における生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である細胞観察装置の概略構成図。
図2】本実施形態の細胞観察装置を利用した細胞状態の評価作業における作業手順及び処理の流れを示すフローチャート。
図3】本実施形態の細胞観察装置における撮影動作及び画像再構成処理を説明するための概念図。
図4】本実施形態の細胞観察装置における微分演算で使用される微分フィルタの一例を示す図。
図5】本実施形態の細胞観察装置における微分演算で使用される微分フィルタの他の例を示す図。
図6】本実施形態の細胞観察装置において作成される微分値ヒストグラムの一例を示す図。
図7】本実施形態の細胞観察装置におけるIHM位相像とそれから得られる微分画像の一例を示す図。
図8】本実施形態の細胞観察装置における微分値ヒストグラムを用いた細胞立体形状評価の一例を示す図。
図9】本実施形態の細胞観察装置における微分値ヒストグラムを用いた細胞立体形状評価の一例を示す図。
図10】本実施形態の細胞観察装置における微分値ヒストグラムを用いた細胞立体形状評価の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る細胞観察装置及びこれを用いた細胞立体形状評価方法の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0014】
[本実施形態の細胞観察装置の構成]
図1は本実施形態による細胞観察装置の概略構成図である。
【0015】
本実施形態の細胞観察装置は、顕微観察部1と、制御・処理部2と、ユーザインターフェイスである入力部3及び表示部4と、を備える。
本実施形態において、顕微観察部1はインライン型ホログラフィック顕微鏡であり、レーザダイオードなどを含む光源部10とイメージセンサ11とを備え、光源部10とイメージセンサ11との間に、細胞13を含む培養プレート12が配置される。
【0016】
制御・処理部2は、顕微観察部1の動作を制御するとともに顕微観察部1で取得されたデータを処理するものであって、撮影制御部20と、ホログラムデータ記憶部21と、位相情報算出部22と、画像再構成部23と、再構成画像データ記憶部24と、微分画像作成部25と、微分値ヒストグラム作成部26と、細胞立体形状評価指標算出部27と、表示処理部28と、を機能ブロックとして備える。
【0017】
通常、制御・処理部2の実体は、所定のソフトウェア(コンピュータプログラム)がインストールされたパーソナルコンピュータやより性能の高いワークステーション、或いは、そうしたコンピュータと通信回線を介して接続された高性能なコンピュータを含むコンピュータシステムである。即ち、制御・処理部2に含まれる各ブロックの機能は、コンピュータ単体又は複数のコンピュータを含むコンピュータシステムに搭載されているソフトウェアを実行することで実施される、該コンピュータ又はコンピュータシステムに記憶されている各種データを用いた処理、によって具現化されるものとすることができる。
【0018】
[本実施形態の細胞観察装置における細胞状態評価の概略説明]
本実施形態の細胞観察装置では、様々な細胞についての観察を行うことができるが、ここでは一例として、観察対象が多能性幹細胞の一つである間葉系幹細胞であるものとする。間葉系幹細胞を培養する際に必要な細胞観察を目的として、細胞の観察画像を取得し該観察画像から培養中の細胞の状態を評価する際の処理について説明する。
【0019】
図2は、本実施形態の細胞観察装置を用いた細胞状態の評価作業における作業手順及び処理の流れを示すフローチャートである。また図3は、撮影動作及び画像再構成処理を説明するための概念図である。
【0020】
図3(a)は、本実施形態の細胞観察装置において使用される培養プレート12の略上面図である。この培養プレート12には上面視円形状である6個のウェル12aが形成されており、その各ウェル12a内で細胞が培養される。ここでは、1枚の培養プレート12全体、つまりは6個のウェル12aを含む矩形状の範囲全体が観察対象領域である。顕微観察部1は、光源部10及びイメージセンサ11の組を4組備える。各組の光源部10及びイメージセンサ11はそれぞれ、図3(a)に示すように、培養プレート12全体を4等分した四つの4分割範囲81のホログラムデータの収集を担う。つまり、4組の光源部10及びイメージセンサ11が、培養プレート12全体に亘るホログラムデータの収集を分担する。
【0021】
一組の光源部10及びイメージセンサ11が1回に撮影可能である範囲は、図3(b)及び(c)に示すように、4分割範囲81の中の1個のウェル12aを含む略正方形状の範囲82をX軸方向に10等分、Y軸方向に12等分して得られる一つの撮像単位83に相当する範囲である。一つの4分割範囲81は15×12=180個の撮像単位83を含む。四つの光源部10と四つのイメージセンサ11はそれぞれ、光源部10及びイメージセンサ11を含むX-Y面内で、4分割範囲81と同じ大きさである矩形の四つの頂点付近にそれぞれ配置されており、培養プレート12上の異なる四つの撮像単位83についてのホログラムの取得を同時に行う。
【0022】
ホログラムデータの収集に際し、オペレータはまず、観察対象である細胞13が培養されている培養プレート12を顕微観察部1の所定位置にセットし、該培養プレート12を特定する識別番号や測定日時などの情報を入力部3から入力したうえで測定実行を指示する。この測定指示を受けて撮影制御部20は、顕微観察部1の各部を制御して撮影を実行する(ステップS1)。
【0023】
即ち、一つの光源部10は、微小角度(例えば10°程度)の広がりを持つコヒーレント光を培養プレート12の所定の領域(一つの撮像単位83)に照射する。培養プレート12上の細胞13を透過したコヒーレント光(物体光15)は、培養プレート12上で細胞13の周囲の領域(通常は培地)を透過した光(参照光14)と干渉しつつイメージセンサ11に到達する。物体光15は細胞13を透過する際に位相が変化した光であり、他方、参照光14は細胞13を透過しないので該細胞13に起因する位相変化を受けない光である。したがって、イメージセンサ11の検出面(像面)上には、細胞13により位相が変化した物体光15と位相が変化していない参照光14との干渉像、つまりホログラムがそれぞれ形成され、このホログラムに対応する2次元的な光強度分布データ(ホログラムデータ)がイメージセンサ11から出力される。
【0024】
上述したように、四つの光源部10からは略同時に培養プレート12に向けてコヒーレント光が出射され、四つのイメージセンサ11では培養プレート12上の異なる撮像単位83に対応する領域のホログラムデータが取得される。一つの測定位置での測定が終了する毎に、光源部10及びイメージセンサ11は図示しない移動部により、X-Y面内で一つの撮像単位83に相当する距離だけX軸方向及びY軸方向にステップ状に順次移動される。これによって、4分割範囲81に含まれる180個の撮像単位83での測定が実施され、四組の光源部10及びイメージセンサ11全体で培養プレート12全体の測定が実行されることになる。このようにして顕微観察部1の四つのイメージセンサ11で得られたホログラムデータは、測定日時等の属性情報とともに、ホログラムデータ記憶部21に格納される。
【0025】
上述したような一連の測定(撮影)が終了すると、位相情報算出部22はホログラムデータ記憶部21からホログラムデータを順次読み出し、光波の伝播計算処理(位相回復処理)を行うことで2次元的な各位置における位相情報及び振幅情報を復元する。これら情報の空間分布は撮像単位83毎に求まる。全ての撮像単位83の位相情報及び振幅情報が得られたならば、画像再構成部23は、その位相情報や振幅情報に基づいて、観察対象領域全体の位相像つまりはIHM位相像を形成する(ステップS2)。
【0026】
即ち、画像再構成部23は撮像単位83毎に算出された位相情報の空間分布に基づいて、各撮像単位83のIHM位相像を再構成する。そして、その狭い範囲のIHM位相像を繋ぎ合わせるタイリング処理(図3(d)参照)を行うことで、観察対象領域つまりは培養プレート12全体についてのIHM位相像を形成する。そのIHM位相像を構成するデータは再構成画像データ記憶部24に保存される。なお、タイリング処理の際には撮像単位83の境界でのIHM位相像が滑らかに繋がるように適宜の補正処理を行うとよい。
【0027】
上記のような位相情報の算出や画像再構成の際には、特許文献2等に開示されている周知のアルゴリズムを用いればよい。一般にIHM位相像では、透明であって光学顕微鏡では見えにくい細胞の輪郭(境界)やその内部の模様が見え易くなる。
【0028】
なお、ホログラムデータに基づいて、位相情報のほかに、強度情報や、位相情報と強度情報とをマージした擬似位相情報なども併せて算出し、画像再構成部23はこれらに基づく再生像(IHM強度像、IHM擬似位相像)を作成することもできる。また、ホログラムデータに基づいてIHM位相像等を作成する際には、複数の焦点位置におけるIHM位相像等をそれぞれ作成することができる。
【0029】
次に、画像再構成部23は、作成されたIHM位相像について細胞が存在しないことが明確である背景領域を除去する処理を実行する(ステップS3)。
背景除去の手法としては様々な方法を採ることができるが、一例としては、テクスチャ解析を用いることができる。テクスチャ解析には大別して構造的テクスチャ解析と統計的テクスチャ解析とがあるが、画像内の局所的な部位の模様やパターンの特徴を抽出するには後者が適当である。統計的テクスチャ解析には、濃度ヒストグラムを用いる濃度ヒストグラム法、差分統計量を用いる濃度レベル差分法、同時生起行列を用いる空間濃度レベル依存法、濃度共起行列を用いる方法など、様々な方法があり、適宜の方法を選択すればよい。なお、背景領域として除去された部分は画素値を0等の固定値にすればよい。
【0030】
具体的には、IHM位相像全体を複数の細かい小領域に区分し、その小領域毎に所定のテクスチャ解析を実行してテクスチャ特徴量を算出する。その小領域が背景領域のみである場合とその小領域に少なくとも細胞領域の一部が含まれる場合とではテクスチャ特徴量に明確な差異が生じるため、テクスチャ特徴量から背景領域に相当する小領域を見つけて除外すればよい。もちろん、こうした背景除去処理は必須ではなく省略することもできる。
【0031】
さらに画像再構成部23は、背景除去処理後のIHM位相像に対しガウシアンフィルタ等を用いてノイズ成分を除去する処理を実行する(ステップS4)。このノイズ除去処理も上記背景除去処理と同様に、省略することができる。
【0032】
続いて微分画像作成部25は、ノイズ除去後のIHM位相像の各画素の信号値(画素値)に対し微分フィルタを適用し、画素毎の微分値を算出する(ステップS5)。微分フィルタとしては、例えば画像のエッジ検出によく利用されるラプラシアンフィルタを用いることができる。
【0033】
図4は、上下左右の4近傍の画素を用いた、一般的な3×3画素のラプラシアンフィルタの一例である。また、図5に示した、垂直方向のフィルタと水平方向のフィルタとを組み合わせたソーベルフィルタを微分フィルタとして用いてもよい。画素毎に微分値が得られたならば、それを用いてIHM位相像に対応する微分画像を作成する。
【0034】
ここで、表示処理部28は、元のIHM位相像と微分画像とを同じ画面上に並べ、表示部4に表示するようにしてもよい(ステップS6)。IHM位相像における各画素の信号値は、細胞を通過した光の位相遅れ量を示しており、それは細胞の光学厚さを反映している。したがって、細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜が急峻であるほど、該周縁部における微分値は大きくなる。
【0035】
微分値ヒストグラム作成部26は、微分画像を構成する全ての画素の微分値に基づいて、横軸が微分値、縦軸が出現数(画素数)であるヒストグラムを作成する(ステップS7)。微分値の増加に対する出現数の変化の状況を視覚的に把握し易くするには、ヒストグラムの横軸をリニア軸、縦軸を対数軸とするとよい。
【0036】
図6は微分値ヒストグラムの一例である。図6に示すように、微分値ヒストグラムには、低微分値側のスロープが急峻で、高微分値側のスロープがなだらかである左右非対称のピークが現れる。このピークのピークトップを含む低微分値側の範囲に含まれる画素は、主として細胞ではない背景領域や細胞内で厚さが比較的平坦な部位に存在する画素であると考えられる。一方、高微分値側のなだらかなスロープの範囲に含まれる画素は、主として細胞の周縁(輪郭)部に存在する画素であると考えられる。したがって、微分値ヒストグラムにおける高微分値側のスロープの勾配の程度は、細胞の周縁部の厚さ方向における傾斜の程度を反映している。
【0037】
即ち、元のIHM位相像に現れている多数の細胞の中で、細胞の周縁部の厚さ方向における傾斜が急峻である細胞の割合が多いほど、相対的に微分値が高い画素の割合が増えるということができる。そして、微分値が相対的に高い画素の割合が多いと、微分値ヒストグラムにおけるピークの右側のスロープの勾配が緩やかになる。図6では、Aで示したピークのほうがBで示したピークに比べてスロープが緩やかであり、細胞の周縁部の厚さ方向における傾斜が急峻である細胞の割合が多い、ということができる。そこで、本実施形態の細胞観察装置では、異なる微分値ヒストグラムにおいて上記スロープの勾配の程度を互いに比較できるような指標値を算出し、この指標値を用いて細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜が急峻であるか否かの比較、つまりは3次元的な形状の評価を行う。
【0038】
具体的には、細胞立体形状評価指標算出部27は、まず微分値ヒストグラムに対してばらつきや誤差を軽減するために微分値の変化方向に移動平均をとることでスムージング処理を実行する。そのあと、微分値ヒストグラムのピークの半値幅を評価指標値として算出する(ステップS8)。ここでの半値幅とは、ピークのピークトップの出現数の1/2の出現数における微分値の幅であり、例えば図6においてAで示したピークに対し半値幅Wa、Bで示したピークに対して半値幅Wbが求まる。但し、上述したように、ここで意味があるのは微分値が高い側のスロープのみであるから、ピークトップにおける微分値と、(ピークトップの出現数)×(1/2)を示す水平な線と微分値が高い側のスロープとが交差する点に対応する微分値との差分を半値幅の代わりに用いてもよい。ピークのスロープがなだらかになるほど半値幅は大きくなるから、この半値幅を評価指標値として用いることができる。
【0039】
表示処理部28は、作成された微分値ヒストグラムと上記のように算出された評価指標値とを併せて表示部4に表示する(ステップS9)。これにより、オペレータに対し視覚的に細胞の立体形状の評価結果を提示することができる。例えば細胞を活性化する賦活剤の付与の有無などの培養条件が相違する複数の試料(培養容器)についての細胞の立体形状の状態の比較を行う場合には、その複数の試料に対する微分値ヒストグラムを重ねて描出するとともに、それら複数の試料に対する評価指標値を並べて表示すればよい。
【0040】
[細胞の立体形状評価の他の例]
上述した微分値ヒストグラムにおけるピークの半値幅は評価指標値の一例であり、次に述べるような別の指標値を用いることもできる。
【0041】
図8は、評価指標値の他の例である出現数比の算出方法の説明図である。
ここでは、細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜の差異が顕著に現れる高微分値範囲において、任意のk個(但し、kは2以上の整数)の微分値を選択し、そのk個の微分値に対応する出現数の比を指標値として算出する。一般的には図8に示すようにkは2でよく、二つの微分値D1、D2について、Aで示したピークに対し出現数比Xa[%]、Bで示したピークに対して出現数比Xb[%]が求まる。
【0042】
図9は、評価指標値の他の例である微分値差の算出方法の説明図である。
ここでは、細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜の差異が顕著に現れる高微分値範囲のスロープに対応する出現数範囲において、任意のL個(但し、Lは2以上の整数)の出現数を選択し、そのL個の出現数に対応する微分値の差分(微分値の幅)を指標値として算出する。一般的には図9に示すようにLは2でよく、二つの出現数P1、P2について、Aで示したピークに対し微分値差La、Bで示したピークに対して微分値差Lbが求まる。
なお、出現数の絶対値は細胞密度に依存するため、細胞密度の相違の影響を無くすには、例えば出現数を規格化するような処理を行うとよい。
【0043】
図10は、評価指標値の他の例である指数近似式の指数部の算出方法の説明図である。細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜の差異が顕著に現れる高微分値範囲では、スロープの減少は指数関数で近似することができる。そこで、その高微分値範囲の中で任意の微分値を2個選択し、その2個の微分値の間におけるスロープを、y=a・e-bx(但し、a、bは任意の定数)の指数関数で近似する。最も近似誤差が小さくなる定数a、bを探索すればよい。このときの指数部の定数bはスロープの勾配の程度を反映しており、細胞の密度の影響を受けない。この指数部の定数bを指標値とすればよい。
【0044】
微分値ヒストグラムにおいて、細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜の差異が顕著に現れる高微分値範囲の中でもその微分値が特に高い範囲では、出現数は細胞の細胞数又はコンフルエンシ(画像面積全体に占める細胞の面積の割合)に比例する。したがって、そうした高微分値範囲における出現数は細胞数又はコンフルエンシにより正規化することで、それらに依存しない評価指標値となる。
【0045】
この場合には、本装置による測定方法とは別の、つまりは独立した計測方法により、観観察対象である細胞画像におけるコンフルエンシ又は細胞数を求める。計測方法としては例えば、血球計算盤によるセルカウント等を利用することができる。そして、微分値ヒストグラムにおいて高微分値範囲の中の任意の微分値における出現数を求め、この出現数を上記のように求めたコンフルエンシ又は細胞数で除することにより、正規化した出現数を評価指標値として計算する。
【0046】
上記実施形態及び他の例では、微分画像から求めた微分値ヒストグラムに基づいて導出した評価指標値を用いて、例えば培養条件が相違する、複数の細胞を含む試料同士の立体形状の比較を行うことが可能であるが、オペレータが画像から感覚的に評価できるようにしてもよい。こうした感覚的な評価を行うために最も簡便であるのは、上記ステップS6で表示部4の画面上にIHM位相像と微分画像とを並べて表示し、その画像によりオペレータが評価を行うものである。
【0047】
図7は、賦活剤あり、賦活剤なしの二つの異なる培養条件の下で培養された同一株の幹細胞のIHM位相像及び微分画像の表示例である。画像の比較が可能であるように、表示の際の画像の輝度範囲は固定している。IHM位相像に比べて微分画像では細胞の輪郭が鮮明に現れており、オペレータは微分画像において輪郭の鮮明さを画像の明るさとして定性的に評価することができる。なお、こうした微分画像に基づく感覚的な評価は、特に複数の試料における細胞の立体形状の比較を行う際に有益である。
【0048】
また、評価指標値を用いずに、微分値ヒストグラムそのものを表示部4の画面上に表示した結果から、つまりは微分値ヒストグラムにおけるピークの高微分値側のスロープの傾きをオペレータが確認することで、細胞の周縁部における厚さ方向の傾斜の度合いを感覚的に評価するようにしてもよい。この場合には、図6に示したように、評価対象である複数の試料に対する微分値ヒストグラムを例えば異なる表示色で重ねて表示すると視覚的に比較が容易である。
【0049】
もちろん、上述した評価指標値は一つだけでなく複数を併用して評価に利用することもできる。
【0050】
なお、図1に示した細胞観察装置では、制御・処理部2において全ての処理を実施しているが、一般に、ホログラムデータに基づく位相情報の計算や画像の再構成処理には膨大な量の計算が必要である。また、細胞状態の判定処理の負荷も大きい。そこで、顕微観察部1に接続されたパーソナルコンピュータを端末装置とし、この端末装置と高性能なコンピュータであるサーバとがインターネットやイントラネット等の通信ネットワークを介して接続されたコンピュータシステムを利用し、上記のような煩雑な計算や処理は高性能なコンピュータで行い、顕微観察部1の制御や処理後のデータを用いた表示処理などを比較的低性能のパーソナルコンピュータで実行するように役割を分けてもよい。
【0051】
また上記実施形態の細胞観察装置では、顕微観察部1としてインライン型ホログラフィック顕微鏡を用いていたが、ホログラムが得られる顕微鏡であれば、オフアクシス(軸外し)型、位相シフト型などの他の方式のホログラフィック顕微鏡に置換え可能であることは当然である。
【0052】
また上記実施形態や各種の変形例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲でさらに適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【0053】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0054】
(第1項)本発明の一態様の細胞立体形状評価方法は、細胞の立体的な形状を評価する方法であって、
評価対象である1又は複数の目的細胞にレーザ光を照射し、該目的細胞を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する測定ステップと、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成ステップと、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め、微分画像を作成する微分画像作成ステップと、
前記微分画像における各画素の微分値に対する演算処理結果に基づいて、前記目的細胞の形状を評価する評価ステップと、
を有するものである。
【0055】
(第11項)また本発明の一態様の細胞観察装置は、ホログラフィック顕微鏡を利用した細胞観察装置であって、
光源部と、
前記光源部からの出射光を1又は複数の目的細胞を含む容器に照射したときの該目的細胞中を通過した光と該目的細胞の周囲を通過した光との干渉光を検出してホログラムデータを取得する検出部と、
前記ホログラムデータに基づく画像再構成処理を行い、前記目的細胞についての位相像を作成する位相像作成部と、
前記位相像から画素毎の空間的な微分値を求め微分画像を作成する微分画像作成部と、
前記微分画像において前記目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の微分値に基づいて、該目的細胞の立体的な形状を評価するための指標値を算出する指標値算出部と、
を備えるものである。
【0056】
第1項に記載の細胞立体形状評価方法、及び第11項に記載の細胞観察装置において、検出部により得られるホログラムデータに基づいて位相像作成部により作成される位相像は、細胞の厚さ方向の情報つまりは細胞の3次元的な情報を含む。そのため、微分画像作成部によって位相像から作成される微分画像において、細胞が存在する部位にある画素の信号値(微分値)はその細胞の厚さの変化の度合いを反映している。したがって、細胞の周縁部に相当する画素の信号値は、その細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜の度合いを表しており、細胞の周縁部の厚さ方向の傾斜が急峻であれば信号値は相対的に大きく、その傾斜がなだらかであれば信号値は相対的に小さくなる。
【0057】
指標値算出部は例えば、微分画像における各画素の信号値に基づく所定の演算処理を行って目的細胞の立体的な形状を評価するための指標値を算出し、これをユーザに提示する。また、こうした指標値を提示する代わりに、信号値に対応する輝度が適宜に調整された微分画像を表示する等により、ユーザは感覚的に目的細胞の立体的な形状を評価することができる。
【0058】
第1項に記載の細胞立体形状評価方法、及び第11項に記載の細胞観察装置よれば、例えば培養中の多能性幹細胞の、局所的な部位の立体形状を、非破壊及び非侵襲で以て評価することができる。特に、微分画像から算出された指標値をユーザに提示することで、経験や技量に乏しいオペレータであっても、的確で信頼性の高い評価を簡便に行うことができる。また、細胞状態の評価における作業効率を向上させることができ、ひいては細胞培養における生産性の向上を図ることができる。
【0059】
(第2項)第1項に記載の細胞立体形状評価方法において、前記評価ステップは、前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成ステップと、前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出する指標値算出ステップと、を含むものとすることができる。
【0060】
(第12項)第11項に記載の細胞観察装置において、前記指標値算出部は、前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成部を含み、前記ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化した指標値を算出するものとすることができる。
【0061】
ここで、ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープを用いるのは、低信号値側のスロープやピークトップ付近の領域は主として位相像の中の背景部分に相当する画素の情報を反映しており、高信号値側のスロープが細胞の周縁部に相当する画素の情報を専ら反映しているからである。
【0062】
項に記載の細胞立体形状評価方法、及び第1項に記載の細胞観察装置よれば、指標値を算出するために微分値のヒストグラムを用いることで、評価対象である目的細胞についての観察画像全体の傾向を的確に捉え、目的細胞の周縁部の厚さ方向における傾斜の度合いを良好に反映した指標値を得ることができる。それにより、細胞の立体形状の評価の信頼性を向上させることができる。
【0063】
ヒストグラムから指標値を求める手法は、ヒストグラムに現れるピークの高信号値側のスロープの勾配の程度を数値化できるものであれば、特に限定されないが、例えば以下のような方法を採用することができる。
【0064】
(第3項及び第13項)第2項に記載の細胞立体形状評価方法及び第12項に記載の細胞観察装置において、前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の信号値にそれぞれ対応する出現数の比であるものとすることができる。
【0065】
(第4項及び第14項)第2項に記載の細胞立体形状評価方法及び第12項に記載の細胞観察装置において、前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における、複数の所定の出現数にそれぞれ対応する信号値の差であるものとすることもできる。
【0066】
(第5項及び第15項)第2項に記載の細胞立体形状評価方法及び第12項に記載の細胞観察装置において、前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープを指数関数で近似したときの、該指数関数の指数部の値であるものとすることもできる。
【0067】
(第6項及び第16項)第2項に記載の細胞立体形状評価方法及び第12項に記載の細胞観察装置において、前記指標値は、前記ピークの高信号値側のスロープ上における所定の信号値に対応する出現数を、前記位相像において観測される細胞の数又はコンフルエンシで除した値であるものとすることもできる。
なお、細胞の数やコンフルエンシは少なくとも微分画像を利用しない、他の計測方法で得られるものを利用するとよい。
【0068】
第3項~第6項に記載の細胞立体形状評価方法、及び第13項~第16項に記載の細胞観察装置によれば、簡単な演算処理によって信頼性の高い指標値を算出することができる。
【0069】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の細胞立体形状評価方法において、前記評価ステップは、前記微分画像作成ステップにより作成される微分画像と該微分画像作成前の位相像とを表示部に同時に表示する画像表示ステップ、を含み、前記微分画像及び位相像に基づくユーザによる評価を可能としたものとすることができる。
【0070】
(第8項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の細胞立体形状評価方法において、前記評価ステップは、前記微分画像における目的細胞に対応する範囲に含まれる各画素の信号値の出現頻度分布を示すヒストグラムを生成するヒストグラム作成ステップと、前記ヒストグラムを表示部に表示するヒストグラム表示ステップと、を含み、前記ヒストグラムに基づくユーザによる評価を可能としたものとすることができる。
【0071】
第7項及び第8項に記載の細胞立体形状評価方法によれば、上述した指標値に基づく定量的な評価ではなく、ユーザ(オペレータ)による感覚的及び定性的な評価により、例えば細胞の立体形状の相違に基づく細胞の良否判定等を行うことができる。オペレータが微分画像やヒストグラムを見て判断することで、例えば指標値には現れない又は現れにくい、異物混入等の異常状態を見つけ、誤った評価を回避することができる。
【0072】
(第9項)第1項~第8項のいずれか1項に記載の細胞立体形状評価方法において、前記位相像作成ステップは、位相像に対しガウシアンフィルタを用いたノイズ除去処理を実施するノイズ除去ステップを含むものとすることができる。
【0073】
(第17項)同様に、第11項~第16項のいずれか1項に記載の細胞観察装置において、前記位相像作成部は、位相像に対しガウシアンフィルタを用いたノイズ除去処理を実施するものとすることができる。
【0074】
(第10項)第1項~第9項のいずれか1項に記載の細胞立体形状評価方法であって、前記位相像作成ステップは、位相像において目的細胞以外の部分の情報を除去する細胞抽出ステップを含むものとすることができる。
【0075】
(第18項)同様に、第11項~第17項のいずれか1項に記載の細胞観察装置において、前記位相像作成部は、位相像において目的細胞以外の部分の情報を除去するものとすることができる。
【0076】
第9項及び第10項に記載の細胞立体形状評価方法、並びに第17項及び第18項に記載の細胞観察装置によれば、画像再構成によって得られる位相像に現れているノイズ等を除去し、細胞の厚さ方向の情報をより正確に反映した微分画像を得ることができる。それにより、細胞の立体形状の評価の正確性が向上する。
【符号の説明】
【0077】
1…顕微観察部
10…光源部
11…イメージセンサ
12…培養プレート
12a…ウェル
13…細胞
14…参照光
15…物体光
2…制御・処理部
20…撮影制御部
21…ホログラムデータ記憶部
22…位相情報算出部
23…画像再構成部
24…再構成画像データ記憶部
25…微分画像作成部
26…微分値ヒストグラム作成部
27…細胞立体形状評価指標算出部
28…表示処理部
3…入力部
4…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10