(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】イオン化装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/16 20060101AFI20220928BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20220928BHJP
H01J 27/24 20060101ALI20220928BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220928BHJP
【FI】
H01J49/16 400
H01J37/08
H01J27/24
G01N27/62 G
(21)【出願番号】P 2021536496
(86)(22)【出願日】2019-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2019029713
(87)【国際公開番号】W WO2021019659
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 高宏
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-153579(JP,A)
【文献】特開2007-257851(JP,A)
【文献】特表2008-525956(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0120924(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/16
H01J 37/08
H01J 27/24
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を試料に照射することによりイオンを生成するイオン化装置であって、
レーザ光を発する光源と、
前記光源から発せられるレーザ光を集光して試料に照射する集光光学系と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を連続的に変更するアッテネータを有する第1強度変更部と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を段階的に変更する減光フィルタを有する第2強度変更部と、
前記試料へのレーザ光の照射径の入力を受け付ける照射径入力受付部と、
前記試料へのレーザ光の照射強度の入力を受け付ける照射強度入力受付部と
、
前記照射径設定受付部に設定された照射径に応じて前記集光光学系により前記レーザ光の照射径を変更するとともに前記第2強度変更部
を制御し、前記照射強度設定受付部に設定された照射強度に応じて前記第1強度変更部
を制御して、前記試料に照射するレーザ光の強度を
設定する
レーザ光強度制御部と
を備えるイオン化装置。
【請求項2】
さらに、
前記照射径の複数の候補値の情報が保存された記憶部を備え、
前記照射径入力受付部は、
前記記憶部に保存された前記複数の候補値のうちのいずれかを選択する入力を受け付けるものである、
請求項1のイオン化装置。
【請求項3】
前記第2強度変更部が、前記減光フィル
タの使用/不使用を切り替える切替部を備える、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項4】
前記第2強度変更部によりレーザ光の強度を1つの段階に変更した状態で前記第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度範囲と、前記第2強度変更部によりレーザ光の強度を別の1つの段階に変更した状態で前記第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度範囲の一部が重複している、請求項1に記載のイオン化装置。
【請求項5】
前記試料をLDI法又はMALDI法によりイオン化する、請求項1に記載のイオン化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置等において用いられるイオン化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置において用いられる試料のイオン化法の一つにレーザイオン化(LDI: Laser Desorption/Ionization)法がある。レーザイオン化法は、試料の表面にレーザ光を照射し、該レーザ光のエネルギーによって試料分子を励起してイオン化する方法である。LDI法により試料分子をイオン化するイオン化装置はLDI装置と呼ばれる(例えば特許文献1)。
【0003】
また、レーザイオン化法の1つにマトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI: Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法がある。マトリックス支援レーザ脱離イオン化法では、レーザ光を吸収しやすく、またイオン化しやすい物質(マトリックス物質)を試料と混合する。そして、マトリックス物質に試料分子を取り込ませて微結晶化させた後、試料分子を取り込んだマトリックス物質の微結晶にレーザ光を照射することによって試料分子をイオン化する。MALDI法により試料分子をイオン化するイオン化装置はMALDI装置と呼ばれる。
【0004】
LDI装置やMALDI装置では、試料表面に二次元的に分布する複数の測定点のそれぞれにおいて試料分子からイオンを生成して測定する、イメージング測定を行うことができる。例えば、各測定点において生成したイオンを質量分析することにより、試料表面における特定の物質の分布を示すデータを取得することができる。
【0005】
多くのLDI装置やMALDI装置では、試料表面に照射するレーザ光の照射径の候補値が複数、用意されており、使用者は分析の目的に応じたものを選択することができるようになっている。例えば、空間分解能よりも測定のスループットや感度を優先する場合には大きな照射径が選択され、分析対象領域について高い空間分解能で測定を行う場合には小さな照射径が選択される。また、レーザ光のフルエンス(fluence。単位面積当たりのエネルギー密度)を連続的に変更しつつ試測定を行うことにより、目的試料分子のイオン化に最適なフルエンスを決定することができるようになっている。このため、LDI装置やMALDI装置は、レーザ光の照射径を変更するための集光光学系(例えば集光レンズ)と、レーザ光の照射径毎にレーザ光のフルエンスを調整するための、レーザ光源から発せられるレーザ光の強度を連続的に変更可能なアッテネータ(例えばデンシティホイール)を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のLDI装置やMALDI装置では、使用者が1つの照射径のみを選択して用いることが一般的であったが、近年では複数の照射径を用いる測定のニーズが高まっている。
【0008】
例えば、レーザ光の照射径をφ2μm~φ200μmの範囲でレーザ光の照射径を選択しようとする場合、該レーザ光の照射面積の差は最大10,000倍になる。つまり、φ2μmのレーザ光とφ200μmのレーザ光の両方を同程度のフルエンスで試料表面に照射するには、レーザ光源から発せられるレーザ光の強度を4桁のレンジで変更する必要がある。また、レーザ光の照射強度を最適化する作業を考慮するとさらに広いレンジが要求される。しかし、一般的なアッテネータの設定可能レンジは3桁以下であるため、従来のLDI装置やMALDI装置では上記ニーズに応えることができなかった。アッテネータを複数備えれば設定レンジを広げることが可能であるが、アッテネータを複数備えると装置が高価になってしまう。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、レーザ光を試料に照射することによりイオンを生成するイオン化装置において、コストを抑制しつつ、アッテネータの設定レンジを超えた範囲で試料に対するレーザ光の照射強度を調整し、従来よりも広い範囲でレーザ光の照射径の設定を可能にするとともに、それらの作業の利便性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、レーザ光を試料に照射することによりイオンを生成するイオン化装置であって、
レーザ光を発する光源と、
前記光源から発せられるレーザ光を集光して試料に照射する集光光学系と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を連続的に変更するアッテネータを有する第1強度変更部と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を段階的に変更する減光フィルタを有する第2強度変更部と、
前記試料へのレーザ光の照射径の設定を受け付ける照射径設定受付部と、
前記試料へのレーザ光の照射強度の設定を受け付ける照射強度設定受付部と、
前記照射径設定受付部に設定された照射径に応じて前記集光光学系により前記レーザ光の照射径を変更するとともに前記第2強度変更部を制御し、前記照射強度設定受付部に設定された照射強度に応じて前記第1強度変更部を制御して、前記試料に照射するレーザ光の強度を設定するレーザ光強度制御部と
を備える。
【0011】
前記レーザ光を試料に照射することによりイオンを生成する、とは、レーザ光の照射によって試料から直接イオンを生成するものに限らず、レーザ光の照射によって試料から分子を脱離させ、脱離した分子を別の方法(放電プローブとの接触や反応イオンとの電荷交換など)によってイオン化するものを含む。
前記第1強度変更部は、例えばデンシティホイールである。また、前記第2強度変更部は、例えば減光フィルタと、その使用/不使用を切り替える切替部である。第1強度変更部及び第2強度変更部は、光源と集光光学系の間の光路上に配置してもよく、あるいは集光光学系と試料の間の光路上に配置してもよい。
前記照射強度設定受付部を通じた照射強度の設定は、所定のソフトウェア上で数値を入力したり、あるいは第1強度変更部そのものを操作(例えばデンシティホイールを回転)したりするなど、種々の方法で行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るイオン化装置は、レーザ光を集光する集光光学系、レーザ光の強度を連続的に変更する第1強度変更部、及びレーザ光の強度を段階的に変更する第2強度変更部を備える。これらを組み合わせると、第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度の範囲よりも広い範囲でレーザ光の強度を変更することが可能となる。ただし、第2強度変更部はレーザ光の強度を段階的に変更するものであることから、ある照射径についてレーザ光の照射強度の調整中に第2強度変更部を動作させるとレーザ光の照射強度が不連続に変化する。そこで、本発明に係るイオン化装置では、照射径設定受付部に設定された照射径に応じて第2強度変更部により前記試料に照射するレーザ光の強度を変更し、照射強度設定受付部に設定された照射強度に応じて前記試料に照射するレーザ光の強度を変更する。これにより、第1強度変更部の設定レンジを超えた範囲でレーザ光の強度を連続的に変更することができる。また、第2強度変更部はレーザ光の強度を段階的に変更するものであればよく、簡素な構成の減光フィルタ等を使用すればよいため、レーザ光の強度を連続的に変更するアッテネータを複数備えるよりも安価に構成することができる。さらに、照射径設定受付部に設定された照射径に応じて第2強度変更部により試料に照射するレーザ光の強度が自動的に変更されるため、作業の利便性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るイオン化装置の一実施例の要部構成図。
【
図2】本実施例のイオン化装置における、照射径の候補値、集光レンズの位置、減光フィルタの使用/不使用、及びレーザ光照射強度の設定可能範囲の関係を説明する図。
【
図3】本実施例のイオン化装置における、減光フィルタの使用/不使用時のレーザ光の照射強度の設定可能範囲、及び各照射径の候補値において実際に使用されるレーザ光の照射強度範囲を説明する図。
【
図4】変形例のイオン化装置における、減光フィルタの使用/不使用時のレーザ光の照射強度の設定可能範囲、及び各照射径の候補値において実際に使用されるレーザ光の照射強度範囲を説明する図。
【
図5】別の変形例のイオン化装置における、減光フィルタの使用/不使用時のレーザ光の照射強度の設定可能範囲、及び照射径の境界値を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るイオン化装置の一実施例について、以下、図面を参照して説明する。
本実施例のイオン化装置1は、予めマトリクス物質を混合した試料11にレーザ光を照射することによりイオンを生成する装置(MALDI装置)であり、例えばイメージング質量分析装置のイオン化部として用いられる。なお、本発明に係るイオン化装置は、質量分析装置のほか、イオン移動度分析装置等のイオン分析装置のイオン化部として使用することもできる。また、未処理の(マトリクス物質を混合していない)試料にレーザ光を照射することによりイオンを生成する装置(LDI装置)とすることもできる。あるいは、試料にレーザ光を照射することにより試料分子を脱離させ、脱離した試料分子を別の方法(放電プローブとの接触や反応イオンとの電荷交換など)によってイオン化するイオン化装置とすることもできる。
【0015】
図1は本実施例のイオン化装置1の要部構成図である。イオン化装置1は、大別して本体部10と制御・処理部40から構成される。本体部10は、試料11が載置される試料ステージ12、レーザ光源13、第1強度変更部14、第2強度変更部15、及び集光部16を備えている。
【0016】
試料ステージ12は、駆動機構121によって該試料ステージ12の試料載置面に平行な面内において移動可能に構成されている。駆動機構121によって試料ステージ12を移動させることにより、該試料ステージ12に載置された試料11に対するレーザ光の照射位置を変更することができる。
【0017】
第1強度変更部14は、連続的に透過率が変化する領域が周方向に形成された円盤状の部材であるデンシティホイール141と、該デンシティホイール141を回転させる回転機構142を有している。第1強度変更部14では、回転機構142によってデンシティホイール141を回転させ、光路上に位置する領域の透過率を変更することによりレーザ光の強度を連続的に変更する。
【0018】
第2強度変更部15は、レーザ光源13から発せられるレーザ光の波長について所定の透過率を有する減光フィルタ151と、該減光フィルタ151をレーザ光の光路上に配置した状態(実線)と光路外に配置した状態(破線)で切り替える切替部152を備えている。
【0019】
集光部16は集光レンズ161と、該集光レンズ161をレーザ光の光軸Cに沿って移動する駆動機構162を備えている。駆動機構162によって集光レンズ161をレーザ光の光軸Cに沿って移動させることにより、試料11の表面に照射するレーザ光の径(照射径)を変更することができる。
【0020】
本実施例のイオン化装置1では、レーザ光の強度を連続的に変更するデンシティホイール141と、使用/不使用を切り替えることによってレーザ光の強度を2段階で変更する、所定の透過率(例えば10%以下)の減光フィルタ151とを組み合わせて使用する。これにより単一のデンシティホイール141によるレーザ光の変更可能レンジ(例えば1,000倍、3桁)よりも広い範囲(例えば10,000倍以上、4桁以上)でレーザ光の強度を変更する。本実施例のイオン化装置1では、例えばφ2μm~φ200μmの範囲の照射径(照射面積の比では10,000倍、4桁)においてレーザ光の強度を調整することができる。
【0021】
制御・処理部40は、本体部10内の各部の動作を制御するとともに、入力部50を通じた使用者による入力指示を処理する。制御・処理部40は、記憶部41に加え、機能ブロックとして照射径設定受付部42、照射強度設定受付部43、及び測定制御部44を備えている。制御・処理部40の実体は一般的なコンピュータであり、上述の入力部50と、表示部60が接続されており、予めインストールされたプログラムをプロセッサで実行することにより上記の機能ブロックが具現化される。
【0022】
記憶部41に保存されている前記情報について
図2及び
図3を参照して説明する。記憶部41には、試料11表面へのレーザ光の照射径に関する複数の候補値A~E(Aが最小値、Eが最大値)が保存されている。また、該複数の候補値A~Eのそれぞれに対応する集光レンズ161の位置Pa~Peの情報、及び各候補値A~Eにおける、減光フィルタ151使用の有無(ON/OFF)の情報が保存されている。さらに、減光フィルタ151の使用時、不使用時のそれぞれにおける、試料11へのレーザ光の照射強度(照射強度の設定値)とデンシティホイール141の回転角度の関係についての情報が保存されている。これらの情報は、例えば製品出荷時に記憶部41に保存される。また、予備測定やシミュレーションなどにより上記情報をそれぞれ取得し、記憶部41に追加で保存することにより照射径の候補値を適宜に追加あるいは変更することができる。
【0023】
図2に示すように、本実施例のイオン化装置1では、照射径の候補値A~Cのいずれかが選択された場合、減光フィルタ151を使用したうえで、デンシティホイール141によって試料11に照射するレーザ光の強度を変更する。また、照射径D又はEが選択された場合、減光フィルタ151を使用することなくデンシティホイール141のみで試料11に照射するレーザ光の強度を変更する。
【0024】
図2に示す情報では、例えば照射径A, B, Cのいずれにおいても照射光強度の設定可能範囲を同じにしているが、MALDI装置では、試料を混合したマトリクス物質に極端に強いレーザ光を照射するとマトリクス物質や試料に過剰なエネルギーが与えられ試料が損傷することがある。そのため、例えば、不慣れな使用者がレーザ光の照射強度を調整する場合には、
図2に示した照射光強度の設定可能範囲のうち、試料を取り込んだマトリクス物質に照射するのに適した強度範囲(レーザ光の照射強度範囲を絞り込んだもの)を、照射径ごとに予め設定しておくとよい。
図3に、そのような強度範囲を設定した場合の、照射径の各候補値A~Eと、実際に使用されるレーザ光の強度範囲の関係を模式的に示す。なお、このように照射径毎に強度範囲を設定することは本発明に必須の要素ではなく、例えばLDI装置のように小さな照射径で高強度の光を照射する可能性がある場合、こうした強度範囲の絞りこみを行う必要はない。なお、
図3から分かるように、照射径の候補値Cについては、減光フィルタ151を使用せずデンシティホイール141のみによりレーザ光の照射強度を上記絞り込んだ範囲内で変更することもできる。
【0025】
次に、本実施例のイオン化装置1を用いて、試料11(試料を混合したマトリクス物質)へのレーザ光の照射径及び照射強度を調整する手順を説明する。
【0026】
使用者は、まず試料ステージ12上に試料11をセットする。その後、使用者が入力部50を通じた操作によって測定開始を指示すると、照射径設定受付部42は、記憶部41に保存されているレーザ光の照射径の候補値(照射径A~E)を読み出して表示部60の画面に表示する。
【0027】
使用者により候補値の1つが選択されると、測定制御部44は、
図2により説明した情報に基づいて減光フィルタ151の使用の有無を決定する。即ち、使用者が照射径A~Cのいずれかを選択した場合には減光フィルタ151の使用を、照射径D又はEを選択した場合には減光フィルタ151の不使用を決定する。例えば、空間分解能よりも測定のスループットや感度を優先する場合には、大きな照射径の候補値(例えば照射径DやE)が選択され、分析対象領域について高い空間分解能で測定を行う場合には小さな照射径の候補値(例えば照射径AやB)が選択される。以下、具体的な一例として、使用者が照射径Bを選択した場合について説明する。
【0028】
次に、照射強度設定受付部43は、設定された照射径の候補値Bに対応する、照射光強度の設定可能範囲(1~1000)を読み出して表示部60の画面に表示してその範囲内の値を使用者に設定させる。
【0029】
照射径及び照射強度が設定されると、測定制御部44は、切替部152を動作させ、減光フィルタ151を光路上(ON)に配置する(照射径D又はEが選択された場合には減光フィルタ151を光路外(OFF)に配置する)。また、駆動機構162を動作させ、試料11に入力された照射径Bのレーザ光が照射される位置Pbに集光レンズ161を移動する。さらに、測定制御部44は、試料11へのレーザ光の照射強度とデンシティホイール141の回転角度の関係についての情報を記憶部41から読み出し、使用者により設定された照射強度となる位置にデンシティホイール141を回転させる。なお、減光フィルタ151、集光レンズ161、及びデンシティホイール141は適宜の順番に動作させればよく、あるいは各部を並行して動作させてもよい。
【0030】
また、この例では、1つの照射強度の値のみを設定する場合を説明したが、1つの強度値を設定し、その強度値を初期値としてレーザ光の照射強度を所定の範囲で連続的に変化させつつ複数の測定を自動的に行うようにしてもよい。
【0031】
減光フィルタ151はレーザ光の強度を段階的に変更するものであることから、あるレーザ光の照射径について照射光の強度を調整する際に減光フィルタ151の使用/不使用を切り替えると、レーザ光の強度が不連続に変更され、試料11に対するレーザ光の照射強度に不連続が生じる。
【0032】
本実施例のイオン化装置1では、照射径の候補値毎に減光フィルタ151の使用/不使用が予め決められている。つまり、各照射径においてレーザ光の照射強度を調整する際に、減光フィルタ151の使用/不使用の切り替えを行わない。そのため、複数のレーザ光の照射径の候補値(A~E)のいずれにおいても試料11に照射するレーザ光の照射強度に不連続を生じさせることなく、レーザ光の照射強度の調整可能範囲を拡大することができる。複数のデンシティホイールを使用することによっても不連続を生じさせることなくレーザ光の照射強度を調整することが可能になるが、一般にデンシティホイールは高価である。これに対し、本実施例ではデンシティホイールよりも安価な減光フィルタ151を使用するため、複数のデンシティホイールを使用するよりも安価に、かつ不連続を生じさせることなく試料11に対するレーザ光の照射強度を調整することができる。また、照射径設定受付部42に設定された照射径に応じて減光フィルタ151の使用/不使用が自動的に決定されるため、照射径の設定及び照射強度の調整における利便性が向上する。
【0033】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
上記実施例では
図2に示すように、減光フィルタ151を使用しつつデンシティホイール141によって減光率を変更することによりカバーされるレーザ光の強度範囲と、減光フィルタ151を使用せずデンシティホイール141で減光率を変更することによってカバー可能なレーザ光の強度範囲を重複させたが、必ずしもこれらの強度範囲を重複させる必要はない。
【0034】
また、上記実施例では減光フィルタ151の使用/不使用によりレーザ光の強度を段階的に変更する構成、即ちレーザ光の強度を2段階で変更する構成としたが、透過率が異なる複数の減光フィルタを組み合わせることによって3以上の段階にレーザ光の強度を変更可能なものを第2強度変更部として用いることもできる。
【0035】
上記実施例からこれらの2点を変更した変形例を
図4により説明する。この例では、透過率が異なる2種類の領域(高透過率の第1フィルタと低透過率の第2フィルタ)を有する減光フィルタを備えた第2強度変更部15を用いることにより、該第2強度変更部15でレーザ光の強度を3段階に変更する。また、この例では、それら3段階の減光率のそれぞれにおいてデンシティホイール141による減光率の変更でカバー可能なレーザ光の強度範囲を重複させていない。この例では、各照射径の候補値において照射光強度を調整する際に必要となるレーザ光の強度範囲内に、第2強度変更部15におけるフィルタの切替点(第1フィルタと第2フィルタへの切り替え、及び第2フィルタの使用/不使用への切り替え)が含まれないように、レーザ光の照射径の候補値を予め決めておく。この例には、第1フィルタを使用した状態でデンシティホイール141により変更可能な範囲内でレーザ光の照射強度が調整可能となるように照射径A, Bの値を定め、第2フィルタを使用した状態でデンシティホイール141により変更可能なレーザ光の強度範囲内で照射光強度が調整可能となるように照射径C, Dの値を定め、減光フィルタを使用せずデンシティホイール141により変更可能なレーザ光の強度範囲内で照射光強度が調整可能となるように照射径Eの値を定めている。
【0036】
また、上記実施例や変形例のように照射径の候補値を離散的に定めるのではなく、照射径の設定可能範囲のみを記憶部41に保存しておき、その範囲内で使用者が任意の照射径を設定可能にすることもできる。その場合には、当該範囲内のどのような値が設定された場合でも減光フィルタ151の使用/不使用を切り替えることなくレーザ光の照射強度が調整可能となるように、減光フィルタ151を使用しつつデンシティホイール141によって減光率を変更することによりカバーされるレーザ光の強度範囲と、減光フィルタ151を使用せずデンシティホイール141で減光率を変更することのみによってカバー可能なレーザ光の強度範囲を重複させておく。また、減光フィルタ151の使用/不使用の切り替えの基準となる、照射径の境界値Xを予め定めておく。
【0037】
具体的には、
図5に示すように、境界値Xにおいて照射光強度の調整を行う際のレーザ光の強度範囲が、減光フィルタ151を使用しつつデンシティホイール141を回転することによりカバーされるレーザ光の強度範囲と、減光フィルタ151を使用せずデンシティホイール141を回転することによりカバーされるレーザ光の強度範囲の両方に包含されるように、境界値Xを定めておく。そして、その境界値以下の照射径の値が入力された場合には、減光フィルタ151を使用してデンシティホイール141によりレーザ光の強度を連続的に変更し、境界値よりも大きい照射径の値が入力された場合には減光フィルタ151を使用せずデンシティホイール141によりレーザ光の強度を連続的に変更する。
【0038】
その他、上記実施例ではレーザ光の強度を連続的に切り替える手段(本発明における第1強度変更部に相当)としてデンシティホイール141を用い、レーザ光の強度を段階的に切り替える手段(本発明における第2強度変更部に相当)として減光フィルタ151を使用したが、同様の効果を奏する他の種類の光学素子を用いることもできる。
【0039】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0040】
(第1態様)
本発明の第1態様は、レーザ光を試料に照射することによりイオンを生成するイオン化装置であって、
レーザ光を発する光源と、
前記光源から発せられるレーザ光を集光して試料に照射する集光光学系と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を連続的に変更する第1強度変更部と、
前記試料に照射するレーザ光の強度を段階的に変更する第2強度変更部と、
前記試料へのレーザ光の照射径の設定を受け付ける照射径設定受付部と、
前記試料へのレーザ光の照射強度の設定を受け付ける照射強度設定受付部と、
前記照射径設定受付部に設定された照射径に応じて前記集光光学系により前記レーザ光の照射径を変更するとともに前記第2強度変更部を制御し、前記照射強度設定受付部に設定された照射強度に応じて前記第1強度変更部を制御して、前記試料に照射するレーザ光の強度を設定するレーザ光強度制御部と
を備える。
【0041】
前記第1強度変更部は、例えばデンシティホイールを備える。また、前記第2強度変更部は、例えば減光フィルタと、その使用/不使用を切り替える切替部を備える。第1強度変更部及び第2強度変更部は、光源と集光光学系の間の光路上に配置してもよく、あるいは集光光学系と試料の間の光路上に配置してもよい。
【0042】
上記第1態様のイオン化装置は、レーザ光を集光する集光光学系、レーザ光の強度を連続的に変更する第1強度変更部、及びレーザ光の強度を段階的に変更する第2強度変更部を備える。これらを組み合わせると、第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度の範囲よりも広い範囲でレーザ光の強度を変更することが可能となる。ただし、第2強度変更部はレーザ光の強度を段階的に変更するものであることから、ある照射径についてレーザ光の照射強度を調整中に第2強度変更部を動作させるとレーザ光の照射強度が不連続に変化する。そこで、本発明に係るイオン化装置では、照射径設定受付部に設定された照射径に応じて第2強度変更部により前記試料に照射するレーザ光の強度を変更し、照射強度設定受付部に設定された照射強度に応じて前記試料に照射するレーザ光の強度を変更する。これにより、第1強度変更部の設定レンジを超えた範囲でレーザ光の強度を連続的に変更することができる。また、第2強度変更部はレーザ光の強度を段階的に変更するものであればよく、簡素な構成の減光フィルタ等を使用すればよいため、レーザ光の強度を連続的に変更するアッテネータを複数備えるよりも安価に構成することができる。さらに、照射径設定受付部に設定された照射径に応じて第2強度変更部により試料に照射するレーザ光の強度が自動的に変更されるため、作業の利便性が向上する。
【0043】
(第2態様)
本発明の第2態様に係るイオン化装置は、上記第1態様のイオン化装置において、
さらに、
前記照射径の複数の候補値の情報が保存された記憶部を備え、
前記照射径入力受付部は、前記記憶部に保存された前記複数の候補値のうちのいずれかを選択する入力を受け付けるものである
【0044】
第2態様のイオン化装置では、予め用意された候補値の中から使用者が所望のものを選択することによって簡便に照射径を設定することができる
【0045】
(第3態様)
本発明の第2態様に係るイオン化装置は、上記第1態様又は第2態様のイオン化装置において、
前記第2強度変更部が、減光フィルタと、該減光フィルタの使用/不使用を切り替える切替部
を備える。
【0046】
第3態様のイオン化装置では減光フィルタを用いるため、装置を安価に構成することができる。
【0047】
(第4態様)
本発明の第4態様に係るイオン化装置は、上記第1態様から第3態様のいずれかのイオン化装置において、
前記第2強度変更部によりレーザ光の強度を1つの段階に変更した状態で前記第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度範囲と、前記第2強度変更部によりレーザ光の強度を別の1つの段階に変更した状態で前記第1強度変更部により変更可能なレーザ光の強度範囲の一部が重複している。
【0048】
第4態様のイオン化装置では、上記のようにレーザ光の強度範囲を重複させておくことにより、レーザ光のフルエンスの調整時にレーザ光の強度に不連続が生じることをより確実に防ぐことができる。また、このイオン化装置では、使用者が予め決められた範囲内で任意の照射径の値を設定可能な形態とすることもできる。
【0049】
(第5態様)
本発明の第5態様に係るイオン化装置は、上記第1態様から第4態様のいずれかのイオン化装置において、
前記試料をLDI法又はMALDI法によりイオン化する。
【0050】
上記第5態様のイオン化装置は、例えば生体組織内の表面における特定の物質の分布に関するデータを取得する際のイオン化装置として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0051】
1…イオン化装置
10…本体部
11…試料
12…試料ステージ
121…駆動機構
13…レーザ光源
14…第1強度変更部
141…デンシティホイール
142…回転機構
15…第2強度変更部
151…減光フィルタ
152…切替部
16…集光部
161…集光レンズ
162…駆動機構
40…制御・処理部
41…記憶部
42…照射径設定受付部
43…照射強度設定受付部
44…測定制御部
50…入力部
60…表示部