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特許7147991無線通信システムのノイズキャンセル装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】無線通信システムのノイズキャンセル装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/525 20150101AFI20220928BHJP
   H04B 1/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H04B1/525
H04B1/10 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021538629
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031191
(87)【国際公開番号】W WO2021024426
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】杉本 義喜
(72)【発明者】
【氏名】村井 彬人
(72)【発明者】
【氏名】濱名 建太郎
(72)【発明者】
【氏名】マイン・タイ・グエン
【審査官】佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/151745(WO,A1)
【文献】特表2010-507337(JP,A)
【文献】特開2008-28450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/525
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半二重通信を行うデジタル位相変調による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムにおいて、無線受信信号のベースバンド信号に基づいて、送信搬送波信号の位相と振幅の少なくとも1つを制御してなるキャンセル信号を前記無線受信信号と合成することにより、別の無線通信装置からの回り込み信号を抑えるノイズキャンセル装置であって、
送信すべきベースバンド信号のフレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、偶数であるとき、前記キャンセル信号を反転させる制御部を備える、
無線通信システムのノイズキャンセル装置。
【請求項2】
前記デジタル位相変調はPSK変調である、
請求項1記載の無線通信システムのノイズキャンセル装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の無線通信システムのノイズキャンセル装置を備える、
無線通信システム。
【請求項4】
前記無線通信システムは、RFID無線通信システムである、
請求項3記載の無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システムのノイズキャンセル装置、及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半二重通信を行う位相振幅変調による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムにおいては、他チャンネルからの回り込み信号を低減するためのキャンセル回路への参照信号に変調後信号を用いると、キャンセル用信号の振幅が極端に小さくなる場合があり、回り込み信号のキャンセル性能が低下する。
【0003】
この課題を解決するために、従来例に係る特許文献1では、キャンセル回路への参照入力信号として変調後信号ではなく搬送波信号を用いることで参照信号の振幅が極端に小さくなることを防ぎ、回り込み信号のキャンセル効果の低減を防ぐ手段が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-005448号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来例においては、ベースバンド信号ビット数の偶奇によって送信信号の位相反転が生じるため、送信命令の種類によってはキャンセル回路に入力される参照信号と回り込み信号が重畳されてしまい、キャンセル性能が劣化するという課題があった。具体的には、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が偶数であるときに、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅してしまうという課題があった。
【0006】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、半二重通信を行うデジタル位相変調器による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムにおいて、キャンセル性能の劣化を防止できる無線通信システムのノイズキャンセル装置及び無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る無線通信システムのノイズキャンセル装置は、
半二重通信を行うデジタル位相変調による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムにおいて、受信信号のベースバンド信号に基づいて、送信搬送波信号の位相と振幅の少なくとも1つを制御してなるキャンセル信号を無線受信信号と合成することにより、別の無線通信装置からの回り込み信号を抑えるノイズキャンセル装置であって、
送信すべきベースバンド信号のフレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、偶数であるとき、前記キャンセル信号を反転させる制御部を備える。
【発明の効果】
【0008】
従って、無線通信システムのノイズキャンセル装置によれば、半二重通信を行う位相振幅変調器による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムにおいて、前記送信すべきベースバンド信号のフレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、偶数であるとき、前記キャンセル信号を反転させることで、キャンセル性能の劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。
図2A図1の無線通信システムにおいて、ベースバンド信号発生器41により発生されるベースバンド信号Sbbが1フレーム当たり奇数のビット数のとき(以下、第1のケースという。)のベースバンド信号Sbbの一例を示す信号波形図である。
図2B図1の無線通信システムにおいて、第1のケースのときの混合器11から出力される送信信号Strの一例を示す信号波形図である。
図2C図1の無線通信システムにおいて、第1のケースのときの信号合成器13から出力される受信信号Sreの一例を示す信号波形図である。
図3A図1の無線通信システムにおいて、ベースバンド信号発生器41により発生されるベースバンド信号Sbbが1フレーム当たり偶数のビット数のとき(以下、第2のケースという。)のベースバンド信号Sbbの一例を示す信号波形図である。
図3B図1の無線通信システムにおいて、第のケースのときの混合器11から出力される送信信号Strの一例を示す信号波形図である。
図3C図1の無線通信システムにおいて、第のケースのときの信号合成器13から出力される受信信号Sreの一例を示す信号波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる実施形態について図面を参照して説明する。なお、同一又は同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0011】
図1は実施形態に係る無線通信システムの構成例を示すブロック図である。なお、図1において、図示の簡略化のために、無線送信信号及び無線受信信号に対する増幅手段については、その図示を省略する。
【0012】
図1において、無線通信システムは、半二重通信を行うPSK(Phase Shift Keying)変調による複数の無線通信装置をアレーとして構成する無線通信システムのノイズキャンセル装置を備えたことを特徴とする。上述のように、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が偶数であるときに、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅してしまうという従来例の課題を解決するために、従来例に比較して、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、偶数であるときに位相器31に入力される搬送波信号を反転するように制御する位相調整器21をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
図1において、無線通信システムはアレー構成を有し、複数N個のアナログ送受信回路部10-1~10-N(以下、総称して符号10を付す。)と、搬送波信号発生器40と、ベースバンド信号発生器41と、システム制御部20とを備えて構成される。システム制御部20は、位相調整器21と、キャンセル回路制御部22と、PSK変調器23とを備える。また、各アナログ送受信回路部10は互いに同様の構成を有し、混合器11と、帯域通過フィルタ(以下、BPFという。)19と、サーキュレータ12と、アンテナ18と、信号合成器13と、混合器14と、低域通過フィルタ(以下、LPFという。)15と、可変増幅器16と、A/D変換器17と、キャンセル回路30とを備える。さらに、キャンセル回路30は、位相器31と、減衰器32とを備える。
【0014】
搬送波信号発生器40は所定の無線周波数の搬送波信号を発生して混合器11及び位相器31に出力する。一方、ベースバンド信号発生器41は送信すべき情報を含むベースバンド信号を発生して位相調整器21及びPSK変調器23に出力する。PSK変調器23は、ベースバンド信号に従って所定の中間周波信号をPSK変調することにより、PSK変調信号を発生して混合器11に出力する。混合器11は入力されるPSK変調信号を搬送波信号と混合することにより高域周波数変換(アップコンバージョン)を行って、送信信号Strを発生し、所定の送信帯域を有するBPF19及びサーキュレータ12を介してアンテナ18に出力することでアンテナ18から無線送信信号を放射する。
【0015】
搬送波信号発生器40からの搬送波信号は、キャンセル回路30の位相器31及び減衰器32を介して信号合成器13に入力される。位相器31は位相調整器21及びキャンセル回路制御部22からの各制御信号に基づいて、入力される搬送波信号の位相を移相するように制御する。減衰器32は、キャンセル回路制御部22からの制御信号に基づいて、入力される搬送波信号の振幅を制御して、制御後のキャンセル信号Scaを信号合成器13に出力する。
【0016】
アンテナ18で受信される無線受信信号はサーキュレータ12を介して信号合成器13に入力される。信号合成器13は入力される無線受信信号を減衰器32からの搬送波信号と合成し、合成された合成信号である受信信号Sreを混合器14に出力する。混合器14は入力される受信信号Sreを搬送波信号と混合することにより低域周波数変換(ダウンコンバージョン)を行った後、ベースバンド信号のみを取り出すLPF15及び可変増幅器16を介してA/D変換器17に出力する。A/D変換器17は、入力されるアナログベースバンド信号をデジタルベースバンド信号であるセンシングデータにA/D変換してシステム制御部20内のキャンセル回路制御部22に出力する。
【0017】
キャンセル回路制御部22は、好ましくは、特許文献1のキャンセル信号制御部(50)同様に、センシングデータの信号強度がゼロを含まない、信号合成器13及び増幅器等が飽和しない範囲内となり、前記キャンセル信号Scaの信号強度を可及的に小さくするように前記キャンセル信号Scaの位相及び/又は振幅を制御する。これにより、従来例と同様に、所定の上限及び下限の範囲内において、無線受信信号に含まれる他のアナログ送受信回路部10からの周り込み信号Sraを必要十分に打ち消すことができるとともに、SN比の低下を可及的に抑えることができる。
【0018】
位相調整器21は、入力されるベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、
(A)ベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が奇数であるとき、位相器31における前記のキャンセル回路制御部22に係る移相量のみで、キャンセル信号Scaを位相器31により移相させ、
(B)ベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が偶数であるとき、位相器31における前記のキャンセル回路制御部22に係る移相量+180度(反転)で、キャンセル信号Scaを位相器31により移相させる。
【0019】
上述のように、従来例では、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が偶数であるときに、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅してしまうという課題があった。これに対して、以上のように構成された実施形態では、位相調整器21は、入力されるベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、ベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が偶数であるとき、キャンセル信号Scaを反転させることで、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅することを防止できる。
【0020】
図2A図1の無線通信システムにおいて、ベースバンド信号発生器41により発生されるベースバンド信号Sbbが1フレーム当たり奇数のビット数のとき(第1のケース)のベースバンド信号Sbbの一例を示す信号波形図である。また、図2B図1の無線通信システムにおいて、第1のケースのときの混合器11から出力される送信信号Strの一例を示す信号波形図である。さらに、図2C図1の無線通信システムにおいて、第1のケースのときの信号合成器13から出力される受信信号Sreの一例を示す信号波形図である。なお、図2A図2Cは、ベースバンド信号Sbbが1フレーム当たりのビット数が5ビットの場合である。
【0021】
図2A図2Cから明らかなように、この第1のケースにおいては、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が奇数であるときに、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅してしまうという課題は発生しない。
【0022】
図3A図1の無線通信システムにおいて、ベースバンド信号発生器41により発生されるベースバンド信号Sbbが1フレーム当たり偶数のビット数のとき(第2のケース)のベースバンド信号Sbbの一例を示す信号波形図である。また、図3B図1の無線通信システムにおいて、第のケースのときの混合器11から出力される送信信号Strの一例を示す信号波形図である。さらに、図3C図1の無線通信システムにおいて、第のケースのときの信号合成器13から出力される受信信号Sreの一例を示す信号波形図である。なお、図3A図3Cにおいては、ベースバンド信号Sbbが1フレーム当たりのビット数が6ビットの場合である。
【0023】
図3A図3Cから明らかなように、この第2のケースにおいては、ベースバンド信号の1フレーム当たりのビット数が偶数であるときに、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅することを防止できる。
【0024】
以上のように構成された実施形態によれば、位相調整器21は、入力されるベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が奇数であるか、偶数であるかを判別し、ベースバンド信号Sbbの1フレーム当たりのビット数が偶数であるとき、キャンセル信号Scaを反転させることで、フレーム内の読取部においてノイズ成分を増幅することを防止できる。
【0025】
以上の実施形態では、PSK変調の場合について説明しているが、本発明はこれに限らず、PSK変調以外のデジタル位相変調の場合に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、例えばRFID(Radio Frequency Identification)システム等の無線通信システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
10-1~10-N アナログ送受信回路部
11 混合器
12 サーキュレータ
13 信号合成器
14 混合器
15 低域通過フィルタ(LPF)
16 可変増幅器
17 A/D変換器
18 アンテナ
19 帯域通過フィルタ(BPF)
20 システム制御部
21 位相調整器
22 キャンセル回路制御部
23 PSK変調器
30 キャンセル回路
31 位相器
32 減衰器
40 搬送波信号発生器
41 ベースバンド信号発生器
Sbb ベースバンド信号
Sca キャンセル信号
Sra 回り込み信号
Sre 受信信号
Str 送信信号
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C