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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】摩擦ローラ減速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
F16H13/08 H
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022527952
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044543
【審査請求日】2022-05-13
(31)【優先権主張番号】P 2020202497
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021144488
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021146763
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021156570
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021162050
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021177185
(32)【優先日】2021-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河原 弘志
(72)【発明者】
【氏名】橋口 大輝
(72)【発明者】
【氏名】板垣 浩文
(72)【発明者】
【氏名】日高 梓
(72)【発明者】
【氏名】西田 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直史
(72)【発明者】
【氏名】吉見 光
(72)【発明者】
【氏名】人見 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】喜多 昌大
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/188967(WO,A1)
【文献】特開2012-193793(JP,A)
【文献】特開2010-121711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンローラと、
前記サンローラの周囲に該サンローラと同軸に配置されたリングローラと、
外周面に、前記サンローラと前記リングローラとに転がり接触する転動面を有する複数個の中間ローラと、
を備え、
前記サンローラと前記リングローラとのうちの一方のローラが、前記転動面と転がり接触する周面に、軸方向に関して互いに離れるほど径方向に関して前記中間ローラに近づく方向に傾斜する傾斜面部を含み、軸方向の相対変位を可能に支持された一対のローラ素子を有しており、
前記一対のローラ素子を互いに近づく方向に向けて押圧する押圧装置と、
前記一対のローラ素子の間に配置され、かつ、該一対のローラ素子を前記中間ローラの前記転動面から離れる方向に弾性的に付勢する弾性部材と、
を備え
前記押圧装置は、前記一対のローラ素子のうちの一方のローラ素子と、該一方のローラ素子に対する相対回転および軸方向の相対変位を可能に支持されたカムディスクとを有し、前記サンローラと前記リングローラとの間でのトルク伝達に伴い、前記一方のローラ素子が回転することに基づいて、前記一方のローラ素子と前記カムディスクとの間隔を拡げ、前記一対のローラ素子を互いに近づく方向に向けて押圧するローディングカム装置により構成されており、
前記押圧装置が押圧力を発揮する以前の初期状態において、前記弾性部材と、前記一対のローラ素子のうちの少なくとも一方のローラ素子との間に隙間が備えられている、
摩擦ローラ減速機。
【請求項2】
前記転動面は、軸方向両側部分に配置されて、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜し、かつ、前記傾斜面部と転がり接触する一対の中間ローラ側傾斜面部と、軸方向中間部に配置されて、軸方向に関して外径が変化しないか、または、その母線の曲率半径が前記中間ローラ側傾斜面部の母線の曲率半径よりも大きく、かつ、前記サンローラと前記リングローラとのうちの他方のローラと転がり接触する接続面部とを有する、
請求項1に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項3】
前記一対の中間ローラ側傾斜面部は、円弧形または直線の母線形状を有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項4】
前記リングローラは、内周面に、軸方向に関して互いに離れるほど内径が小さくなる方向に傾斜する前記傾斜面部を有する前記一対のローラ素子を有する、
請求項1~のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項5】
前記弾性部材は、内径側が開口するように、断面略V字形に組み合わされた2枚の皿ばねを有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項6】
前記弾性部材は、外径側が開口するように、断面略V字形に組み合わされた2枚の皿ばねを有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項7】
前記リングローラは、前記一対のローラ素子を、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持する連結筒を有する、
請求項4~6のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項8】
前記連結筒は、内周面と外周面とに開口する開口部を有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項9】
前記開口部は、前記一対のローラ素子の互いに対向する端面を、前記連結筒の径方向外側から目視できるだけの大きさを有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項10】
前記開口部は、前記弾性部材と前記一対のローラ素子との当接状態を、前記連結筒の径方向外側から目視できるだけの大きさを有する、
請求項に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項11】
前記開口部は、排油穴を構成する、
請求項8~10のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項12】
前記連結筒は、前記開口部を周方向等間隔複数箇所に有する、
請求項8~11のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項13】
前記弾性部材を含み、前記一対のローラ素子同士の間に存在する空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路を備える、
請求項4~12のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項14】
前記弾性部材が、1枚または複数枚の皿ばねにより構成されている、
請求項13に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項15】
前記弾性部材は、外周縁および/若しくは内周縁に開口する切り欠きを有するか、または、径方向中間部を貫通する通孔を有する、
請求項14に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項16】
前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子と前記弾性部材との間に挟持されたシム板を備え、
前記シム板は、軸方向側面に、径方向にわたり凹溝または凸条を有する、
請求項15に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項17】
前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子と前記弾性部材との間に挟持された菊座金を備える、
請求項14に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項18】
前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子は、先端面に、径方向にわたり凹溝を有する、
請求項14に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項19】
前記弾性部材は、ウェーブワッシャにより構成されている、
請求項13のいずれかに記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項20】
前記弾性部材は、ねじりコイルばねにより構成されている、
請求項13に記載の摩擦ローラ減速機。
【請求項21】
周方向複数箇所に軸方向に貫通する保持孔を有し、前記一対のローラ素子同士の間に配置された保持器を備え、
前記保持孔のそれぞれに、前記ねじコイルばねが保持されている、
請求項14に記載の摩擦ローラ減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば電気自動車の駆動系に組み込んで、電動モータの回転を減速(トルクを増大)させてから、駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車では、駆動源となる電動モータの効率を向上させて充電1回当りの走行可能距離を長くすべく、高速回転する小型の電動モータの出力軸の回転を、減速機により減速してから駆動輪に伝達する。このような減速機としては、摩擦ローラ式の減速機を使用することができる。
【0003】
図54は、特開2017-120121号公報に記載の摩擦ローラ減速機を示している。摩擦ローラ減速機100は、入力軸101と、出力軸102と、サンローラ103と、リングローラ104と、複数個の中間ローラ105と、ローディングカム装置106とを備える。
【0004】
出力軸102は、入力軸101と同軸に、かつ、入力軸101に対する相対回転を可能に支持されている。出力軸102は、軸方向一方側(図54の左側)の部分に、径方向外側に向けて突出したフランジ部107を有する。
【0005】
サンローラ103は、外周面に、円弧形の断面形状(母線形状)を有する内径側転がり接触面108を有する。サンローラ103は、入力軸101の軸方向他方側(図54の右側)の端部に、入力軸101と一体に備えられている。
【0006】
リングローラ104は、内周面に、外径側転がり接触面109を有し、サンローラ103の周囲に該サンローラ103と同軸に配置されている。リングローラ104は、一対のローラ素子110a、110bと、連結筒111とを備える。
【0007】
一対のローラ素子110a、110bのそれぞれは、内周面に、軸方向に関して互いに離れるほど内径が小さくなる方向に傾斜する傾斜面部112a、112bを有し、かつ、互いに対向する先端部に、係合凹凸部113を有する。すなわち、外径側転がり接触面109は、一対のローラ素子110a、110bの傾斜面部112a、112bにより構成されている。
【0008】
一対のローラ素子110a、110bは、それぞれの係合凹凸部113同士を係合させることにより、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わされている。また、一対のローラ素子110a、110bのうち、軸方向一方側のローラ素子110aは、連結筒111の軸方向一方側部分に内嵌され、かつ、連結筒111の軸方向一方側の端部内周面に係止された止め輪114により、軸方向一方側への変位および連結筒111に対する回転を阻止されている。これに対し、軸方向他方側のローラ素子110bは、連結筒111の軸方向中間部に、該連結筒111に対する軸方向の変位を可能に内嵌されている。すなわち、一対のローラ素子110a、110bと連結筒111とは、一体的に回転する。
【0009】
複数個の中間ローラ105のそれぞれは、外周面に、円弧形の断面形状(母線形状)を有し、かつ、内径側転がり接触面108と外径側転がり接触面109とに転がり接触する転動面115を備える。中間ローラ105のそれぞれは、ハウジングなどの使用時にも回転しない部分に支持されたキャリア116に対し、自身の中心軸を中心とする回転(自転)および、入力軸101の中心軸Oを中心とする径方向に関する変位を可能に支持されている。すなわち、中間ローラ105のそれぞれは、自転はできるが、入力軸101の中心軸を中心とする回転(公転)は阻止されている。
【0010】
ローディングカム装置106は、一対のローラ素子110a、110bを互いに近づく方向に押圧する。ローディングカム装置106は、軸方向他方側のローラ素子110bと、カムディスク117と、複数個の転動体118とを備える。
【0011】
軸方向他方側のローラ素子110bは、軸方向他方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、周方向に交互に配置してなる駆動側カム面119を有する。
【0012】
カムディスク117は、円筒部120と、円筒部120の軸方向一方側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった側板部121と、円筒部120の軸方向他方側の端部の周方向1箇所位置から軸方向他方側に向けて突出する凸部122とを備える。側板部121は、軸方向一方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、周方向に交互に配置してなる被駆動側カム面123を有する。
【0013】
カムディスク117は、連結筒111の軸方向他方側の端部に、アンギュラ玉軸受124により、連結筒111に対する相対回転を可能に、かつ、連結筒111に対する軸方向他方側への変位を不能に内嵌支持されている。また、カムディスク117は、円筒部120を、出力軸102のフランジ部107にがたつきなく外嵌し、かつ、凸部122を、出力軸102のフランジ部107の外周面に備えられた軸方向凹溝に対し軸方向に変位可能に係合させている。すなわち、出力軸102とカムディスク117とは、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わされている。要するに、出力軸102とカムディスク117とは一体的に回転する。
【0014】
複数個の転動体118のそれぞれは、駆動側カム面119と被駆動側カム面123との間に挟持されている。
【0015】
摩擦ローラ減速機100では、入力軸101が回転駆動され、サンローラ103が回転駆動されると、サンローラ103の内径側転がり接触面108と中間ローラ105の転動面115との転がり接触に基づいて、中間ローラ105が自転する。中間ローラ105が自転すると、中間ローラ105の転動面115とリングローラ104の外径側転がり接触面109との転がり接触に基づいて、リングローラ104が、入力軸101の中心軸Oを中心に回転する。リングローラ104の回転は、ローディングカム装置106を介して、出力軸102に伝達される。
【0016】
ここで、リングローラ104を構成する軸方向他方側のローラ素子110bが回転すると、ローディングカム装置106の転動体118の、駆動側カム面119の凹部の底部からの乗り上げ量および被駆動側カム面123の凹部の底部からの乗り上げ量が増大する。これにより、ローディングカム装置106の軸方向寸法が増大し、一対のローラ素子110a、110bが互いに近づく方向に押圧されると、外径側転がり接触面109を構成する傾斜面部112a、112bのうちで転動面115と転がり接触する部分の内径が小さくなる。この結果、外径側転がり接触面109と転動面115とのトラクション部(転がり接触部)の面圧が上昇する。さらに、この面圧上昇に伴い、中間ローラ105が、入力軸101の中心軸Oを中心とする径方向に関して内側に押圧されると、転動面115と内径側転がり接触面108とのトラクション部の面圧も上昇する。この結果、それぞれのトラクション部において過大な滑りを発生させることなく、入力軸101からサンローラ103に入力されたトルクを、中間ローラ105を介してリングローラ104に伝達し、さらに、ローディングカム装置106を介して出力軸102から取り出すことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特開2017-120121号公報
【文献】特開2016-223468号公報
【文献】特開2008-196657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特開2017-120121号公報に記載の摩擦ローラ減速機100は、伝達効率を良好に確保する面からは、さらなる改良の余地がある。
【0019】
すなわち、摩擦ローラ減速機100において、転動面115と、内径側転がり接触面108および外径側転がり接触面109とのトラクション部での面圧が不足すると、摩擦ローラ減速機100の伝達効率が低下したり、著しい場合には、グロススリップと呼ばれる有害な滑り(過大な滑り)が発生する可能性がある。グロススリップが発生すると、転動面115と、内径側転がり接触面108および/または外径側転がり接触面109とが、トラクションオイルの薄膜を介することなく金属同士で直接転がり接触し、転動面115と、内径側転がり接触面108および/または外径側転がり接触面109とに著しい摩耗を生じさせて、摩擦ローラ減速機100の耐久性が著しく低下してしまう。このようなグロススリップの発生を防止するためには、実際の運転状態を表す運転トラクション係数(=接線力/法線力)を、グロススリップを発生させることなくトク伝達を行える値の限界値を表す限界トラクション係数μ max 下に保持することが重要である。ところで、限界トラクション係数μmaxは、入力軸101と出力軸102との間で伝達すべきトルク以外のパラメータの影響も受ける。
【0020】
たとえば、トラクション係数は、トラクション部に供給されるトラクションオイルの温度(油温)に応じて変化することが知られている。より具体的には、常温環境下(たとえば0℃以上の環境下)においては、油温が上昇するほど、トラクションオイルの粘度が低下するため、限界トラクション係数も低下する。一方、極低温環境下(たとえば0℃未満の環境下)においては、特開2016-223468号公報(特許文献2)に記載されているように、油温が低下するほど、トラクションオイルの粘度が上昇する一方で、限界トラクション係数が低下することが知られている。
【0021】
また、特開2008-196657号公報(特許文献3)には、トラクション係数は、駆動側回転体の周速Uに対する従動側回転体の周速Uの遅れを表す滑り率S(=(U-U)/U)の影響を受けて変化することが記載されている。
【0022】
さらに、図55に示すように、限界トラクション係数μmaxは、トラクション部の面圧Pが大きくなるほどが大きくなることが知られている。
【0023】
トラクションオイルの油温、トラクション部の周速や面圧など、入力軸101と出力軸102との間で伝達すべきトルク以外のパラメータの影響にかかわらず、それぞれのトラクション部でグロススリップを発生させることなく、サンローラ103からリングローラ104にトルクを伝達するには、限界トラクション係数μmaxと運転トラクション係数μとの差または比(安全率)を大きく確保することが有効である。しかしながら、トラクション係数に関する安全率を過度に高くすると、運転トラクション係数μを小さく抑えるために、それぞれのトラクション部の面圧が過大になって、転がり抵抗が徒に増大する可能性がある。この結果、伝達ロスが大きくなり、摩擦ローラ減速機100の伝達効率が低下してしまう可能性がある。
【0024】
油圧ポンプや電動モータなどのアクチュエータを備え、押圧力を任意の大きさに調整可能な押圧装置により、一対のローラ素子を互いに近づく方向に押圧する構造とすれば、トラクションオイルの油温、トラクション部の周速や面圧など、入力軸101と出力軸102との間で伝達すべきトルク以外のパラメータの影響も考慮しつつ、トラクション部の面圧を適切な大きさに調整することができる。この結果、グロススリップの発生を防止でき、かつ、伝達ロスを少なく抑えることができる。しかしながら、このような構造では、入力軸の駆動源とは別に、押圧装置を駆動するためのアクチュエータを備えているため、摩擦ローラ減速機全体が大型化したり複雑化したりする可能性がある。および/または、アクチュエータにおいてもエネルギロスが発生するため、摩擦ローラ減速機全体としての効率が低下する可能性がある。
【0025】
別の方法として、ローディングカム装置の駆動側カム面および/または被駆動側カム面のリード角、あるいは、リングローラを構成する一対のローラ素子の傾斜面部の傾斜角度を工夫する方法も考えられる。すなわち、図55に示すように、トラクション部の面圧Pが大きくなるほど限界トラクション係数μmaxが大きくなるため、摩擦ローラ減速機で伝達するトルクが大きくなると、トラクション部の面圧が過大になる。そこで、摩擦ローラ減速機で伝達するトルクが大きい場合に、ローディングカム装置による押付力の上昇量を抑えるか、あるいは、押し付け力を低下させるように、駆動側カム面および/または被駆動側カム面のリード角、あるいは、ローラ素子の傾斜面部の傾斜角度を規制して、トラクション部の面圧を適正値とすれば、グロススリップの発生を防止し、かつ、伝達ロスを少なく抑えることができる。ただし、このような構造を採用する場合、トルク伝達に伴うローラ素子やカムディスクなどの弾性変形や、これらの部材の製造誤差を考慮したうえで、リード角あるいは傾斜角度を決定する必要があり、高い形状精度が要求され、量産性が低いといった問題がある。
【0026】
また、摩擦ローラ減速機100の運転時に、中間ローラ105の中心軸が、リングローラ104の中心軸に対して傾いた状態のまま、中間ローラ105が自転するスキューが発生すると、外径側転がり接触面109および転動面115に、外径側転がり接触面109および転動面115の接線方向(トルクの伝達方向、転がり方向)に直角な方向の力(スキュー力)が加わる。なお、このスキュー力は、外径側転がり接触面109と転動面115とのトラクション部で伝達する力(接線力、トルク)の大きさに比例する。前記スキュー力は、ローディングカム装置106が一対のローラ素子110a、110bを押圧する方向と同じ方向である軸方向成分を有する。したがって、中間ローラ105にスキューが発生すると、転動面115に対する外径側転がり接触面109の押し付け力が変化する。
【0027】
ここで、トラクション部におけるトルクの伝達方向に直角な方向に関するトラクション係数が一定である場合、転動面115に対する外径側転がり接触面109の押し付け力が増大すると、外径側転がり接触面109と転動面115とのトラクション部における前記スキュー力も大きくなる。要するに、中間ローラ105にスキューが発生すると、転動面115に対する外径側転がり接触面109の押し付け力が加速度的に増大してしまう可能性がある。転動面115に対する外径側転がり接触面109の押し付け力が過大になると、摩擦ローラ減速機100の伝達効率が低下したり、焼き付きなどの損傷が発生したりする可能性がある。また、転動面115に対する外径側転がり接触面109の押し付け力が増大することに伴い、軸方向他方側のローラ素子110bの軸方向一方側への変位量が増大すると、転動体118が、駆動側カム面119および/または被駆動側カム面123から外れてしまう(乗り上げてしまう)可能性がある。
【0028】
なお、中間ローラ105のスキューの発生に基づく、前記押し付け力の増加率は、入力軸101の中心軸Oに対する傾斜面部112a、112bの傾斜角度によって決定される。したがって、傾斜面部112a、112bの傾斜角度を大きくする(傾斜を急にする)ことにより、前記押し付け力の増加率を低く抑えることができる。
【0029】
ただし、傾斜面部112a、112bの傾斜角度を大きくすると、外径側転がり接触面109と転動面115とのトラクション部に存在する接触楕円の長軸方向両端部における周速差が大きくなり、該トラクション部での差動滑りが大きくなって、摩擦ローラ減速機100の伝達効率が低下するといった問題を生じる。また、傾斜面部112a、112bの傾斜角度を大きくすると、ローディングカム装置106により、一対のローラ素子110a、110bを互いに近づく方向に押圧することに基づいて、外径側転がり接触面109と転動面115とのトラクション部に作用する法線力が小さくなる。したがって、所望の法線力を得るために、ローディングカム装置106が発生すべき押圧力が大きくなって、該ローディングカム装置106が大型化するといった問題を生じる。
【0030】
ローラ素子の小径側の端部に、径方向内側に突出したフランジ部を設け、該フランジ部の軸方向側面を、中間ローラの軸方向側面に対向させることで、前記ローラ素子の軸方向への過度な変位を防止する方法も考えられる。ただし、このような構造では、前記フランジ部の軸方向側面と前記中間ローラの軸方向側面とが当接するまでの間は、転動面に対する外径側転がり接触面の押し付け力が過大になって、摩擦ローラ減速機の伝達効率の低下を防止することができない。また、前記フランジ部の軸方向側面と前記中間ローラの軸方向側面とが摺動することに基づいて、摩擦損失が発生したり、焼き付きなどの損傷が発生したりする可能性がある。
【0031】
本発明は、上述のような事情に鑑みて、伝達効率を良好に確保することができ、かつ、押し付け力の加速度的な増大を防止することができる、摩擦ローラ減速機の構造を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、サンローラと、リングローラと、複数個の中間ローラと、押圧装置と、弾性部材とを備える。
【0033】
前記リングローラは、前記サンローラの周囲に該サンローラと同軸に配置されている。
【0034】
前記複数個の中間ローラは、外周面に、前記サンローラと前記リングローラとに転がり接触する転動面を有する。
【0035】
前記サンローラまたは前記リングローラは、前記転動面と転がり接触する周面、すなわち前記サンローラの場合には外周面、前記リングローラの場合には内周面に、軸方向に関して互いに離れるほど径方向に関して前記中間ローラに近づく方向に傾斜する傾斜面部を有し、軸方向の相対変位を可能に支持された一対のローラ素子を有する。
【0036】
前記押圧装置は、前記一対のローラ素子を互いに近づく方向に向けて押圧する。
【0037】
前記弾性部材は、前記一対のローラ素子の間に配置され、かつ、該一対のローラ素子を前記中間ローラの前記転動面から離れる方向に弾性的に付勢する。
【0038】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記押圧装置を、ローディングカム装置により構成することができる。
【0039】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記転動面は、軸方向両側部分に配置されて、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜し、かつ、前記傾斜面部と転がり接触する一対の中間ローラ側傾斜面部と、軸方向中間部に配置されて、軸方向に関して外径が変化しないか、または、その母線の曲率半径が前記中間ローラ側傾斜面部の母線の曲率半径よりも大きく、かつ、前記サンローラと前記リングローラとのうちの他方のローラと転がり接触する接続面部とを有することができる。
【0040】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記一対の中間ローラ側傾斜面部は、円弧形または直線の母線形状を有することができる。
【0041】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、前記押圧装置が押圧力を発揮する以前の初期状態において、前記弾性部材と、前記一対のローラ素子のうちの少なくとも一方のローラ素子との間に隙間を備えることができる。
【0042】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材を、1枚または複数枚の皿ばねにより構成することができ、かつ、前記皿ばねの厚さをtとし、かつ、全たわみ量をhとした場合に、h/tを1.0以下とすることができる。
【0043】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記リングローラは、内周面に、軸方向に関して互いに離れるほど内径が小さくなる方向に傾斜する前記傾斜面部を有する前記一対のローラ素子を有することができる。
【0044】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材は、内径側が開口するように、断面略V字形に組み合わされた2枚の皿ばねを有することができる。
【0045】
あるいは、本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材は、外径側が開口するように、断面略V字形に組み合わされた2枚の皿ばねを有することができる。
【0046】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記リングローラは、前記一対のローラ素子を、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持する連結筒を有することができる。
【0047】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記連結筒は、内周面と外周面とに開口する開口部を有することができる。
【0048】
前記開口部は、前記一対のローラ素子の互いに対向する端面を、前記連結筒の径方向外側から目視できるだけの大きさを有することができる。
【0049】
前記開口部は、前記弾性部材と前記一対のローラ素子との当接状態を、前記連結筒の径方向外側から目視できるだけの大きさを有することができる。
【0050】
前記開口部は、排油穴を構成することができる。
【0051】
前記連結筒は、前記開口部を周方向等間隔複数箇所に有することができる。
【0052】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材を含み、前記一対のローラ素子同士の間に存在する空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路を備えることができる。
【0053】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材を、1枚または複数枚の皿ばねにより構成することができる。
【0054】
前記弾性部材は、外周縁および/若しくは内周縁に開口する切り欠きを有するか、または、径方向中間部を貫通する通孔を有することができる。
【0055】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子と前記弾性部材との間に挟持されたシム板を備えることができ、かつ、前記シム板は、軸方向側面に、径方向にわたり凹溝または凸条を有することができる。
【0056】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子と前記弾性部材との間に挟持された菊座金を備えることができる。
【0057】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記一対のローラ素子のうち、少なくとも一方のローラ素子は、先端面に、径方向にわたり凹溝を有することができる。
【0058】
本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材を、ウェーブワッシャにより構成することができる。
【0059】
あるいは、本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機では、前記弾性部材を、ねじりコイルばねにより構成することができる。
この場合に、本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、周方向複数箇所に軸方向に貫通する保持孔を有し、前記一対のローラ素子同士の間に配置された保持器を備えることができ、かつ、前記保持孔のそれぞれに、前記ねじコイルばねを保持することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明の摩擦ローラ減速機によれば、伝達効率を良好に確保することができ、かつ、押し付け力の加速度的な増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1は、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図2図2は、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機から、サンローラ、リングローラを構成する一対のローラ素子、中間ローラおよび弾性部材を取り出して示す、部分切断斜視図である。
図3図3は、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機から、サンローラ、リングローラを構成する一対のローラ素子、中間ローラおよび弾性部材を取り出して、模式的に示す断面図である。
図4図4は、スキューが発生した場合のトルクの伝達方向および該トルクの伝達方向に直角な方向に関する滑り率とトラクション係数との関係を示す線図である。
図5図5は、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機の効果を説明するための要部拡大断面図である。
図6図6(A)~図6(C)は、転動面の形状の3例を示す図である。
図7図7(A)~図7(C)は、第1実施形態の第2例~第4例を示す、要部拡大断面図である。
図8図8は、第1実施形態の第5例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図9図9は、第1実施形態の第6例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図10図10(A)および図10(B)は、第1実施形態の第7例および第8例を示す、要部拡大断面図である。
図11図11は、第1実施形態の第9例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図12図12は、第2実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図13図13は、第2実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機の要部を模式的に示す断面図である。
図14図14は、第2実施形態の第2例に係る摩擦ローラ減速機の要部を模式的に示す断面図である。
図15図15は、第3実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図16図16は、第3実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機から、サンローラ、リングローラを構成する一対のローラ素子、中間ローラおよび弾性部材を取り出して示す、部分切断斜視図である。
図17図17は、図15のX部拡大図である。
図18図18は、第4実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図19図19は、弾性部材を取り出して、自由状態で示す断面図である。
図20図20は、皿ばねのたわみ量δとばね荷重Pとの関係を示す線図である。
図21図21は、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクと、ばね荷重P、運転トラクション係数μ、限界トラクション係数μmaxおよびローディングカム装置による押圧力Fとの関係を示す線図である。
図22図22は、第5実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を示す断面図である。
図23図23は、第5実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機から、サンローラ、リングローラを構成する一対のローラ素子、中間ローラおよび弾性部材を取り出して示す、部分切断斜視図である。
図24図24は、第5実施形態の第1例について、弾性部材を構成する一対の皿ばねのうちの一方を取り出して示す斜視図である。
図25図25は、第5実施形態の第2例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図26図26は、第5実施形態の第2例について、弾性部材を構成する一対の皿ばねのうちの一方を取り出して示す斜視図である。
図27図27は、第5実施形態の第3例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図28図28は、第5実施形態の第3例について、弾性部材を構成する皿ばねを取り出して示す斜視図である。
図29図29は、第5実施形態の第4例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図30図30は、第5実施形態の第4例について、シム板を取り出して示す斜視図である。
図31図31は、第5実施形態の第5例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図32図32は、第5実施形態の第5例について、菊座金を取り出して示す斜視図である。
図33図33は、第5実施形態の第6例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図34図34は、第5実施形態の第7例に係る摩擦ローラ減速機を示す、要部拡大断面図である。
図35図35は、第5実施形態の第7例について、一方のローラ素子を取り出して示す斜視図である。
図36図36は、第5実施形態の第8例について、弾性部材を構成する一対の皿ばねのうちの一方を取り出して示す斜視図である。
図37図37は、第6実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図38図38は、第6実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機から、サンローラ、リングローラを構成する一対のローラ素子、中間ローラおよび弾性部材を取り出して示す、部分切断斜視図である。
図39図39は、図38のY部拡大図である。
図40図40は、第6実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を径方向外側から見た側面図である。
図41図41は、図40のZ部拡大図である。
図42図42は、第6実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を示す斜視図である。
図43図43は、ローラ素子と弾性部材との間に隙間を設けた構造の1例を示す、要部拡大断面図である。
図44図44は、摩擦ローラ減速機における伝達トルクと、ローディングカム装置の推力および弾性部材の反力(弾性復元力)との関係を示す線図である。
図45図45は、第6実施形態の第2例を示す、要部拡大断面図である。
図46図46は、第6実施形態の第3例を示す、要部拡大断面図である。
図47図47は、第6実施形態の第4例を示す、要部拡大断面図である。
図48図48は、第6実施形態の第5例を示す、要部拡大断面図である。
図49図49は、第6実施形態の第6例を示す、要部拡大断面図である。
図50図50は、第6実施形態の第7例を示す、要部拡大断面図である。
図51図51は、第6実施形態の第8例を示す、要部拡大断面図である。
図52図52は、第6実施形態の第9例を示す、図41に相当する図である。
図53図53は、第7実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機を模式的に示す断面図である。
図54図54は、摩擦ローラ減速機の従来構造の1例を示す断面斜視図である。
図55図55は、トラクション部の面圧と限界トラクション係数との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
[第1実施形態の第1例]
図1図6(C)は、本発明の第1実施形態の第1例を示している。本例の摩擦ローラ減速機1は、入力軸2のトルクを増大してから出力軸3に出力する。摩擦ローラ減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、サンローラ4と、リングローラ5と、複数個の中間ローラ6と、ローディングカム装置7と、弾性部材8とを備える。
【0063】
なお、以下の説明において、軸方向、径方向および周方向とは、特に断らない限り、入力軸2の軸方向、周方向および径方向をいう。入力軸2の軸方向、径方向および周方向は、出力軸3、サンローラ4およびリングローラ5の軸方向、径方向および周方向と一致する。
【0064】
入力軸2は、軸方向一方側の端部(基端部、図2の左側の端部)に雄スプライン部9を有する。雄スプライン部9には、電動モータやエンジンなどの駆動源の出力軸に備えられた雌スプライン部がスプライン係合される。すなわち、入力軸2は、前記駆動源により回転駆動される。
【0065】
出力軸3は、入力軸2と同軸に、かつ、入力軸2に対する相対回転を可能に支持されている。出力軸3は、軸方向一方側の端部(先端部、図1の左側の端部)に、径方向外側に向けて突出したフランジ部10を有する。
【0066】
サンローラ4は、外周面に内径側転がり接触面11を有する。本例では、内径側転がり接触面11は、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。サンローラ4は、入力軸2の軸方向他方側の端部(先端部、図1および図2の右側の端部)に、入力軸2と一体に備えられている。ただし、サンローラと入力軸とを別体に構成し、かつ、該サンローラと該入力軸とを互いに同軸に結合固定することもできる。
【0067】
リングローラ5は、内周面に、外径側転がり接触面12を有し、サンローラ4の周囲に該サンローラ4と同軸に配置されている。リングローラ5は、一対のローラ素子13a、13bと、連結筒14とを備える。
【0068】
一対のローラ素子13a、13bは、内周面に、軸方向に関して互いに離れるほど径方向に関して中間ローラ6に近づく方向、換言すれば内径が小さくなる方向に傾斜する傾斜面部15a、15bを有する。すなわち、本例では、外径側転がり接触面12は、一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bにより構成されている。本例では、傾斜面部15a、15bは、直線状の母線形状(断面形状)を有する円すい凹面により構成されている。
【0069】
また、一対のローラ素子13a、13bは、互いに対向する先端面、すなわち軸方向一方側のローラ素子13aの軸方向他方側の端面、および、軸方向他方側のローラ素子13bの軸方向一方側の端面に、それぞれの中心軸Oに直交する平坦面部16を有する。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面全体が、平坦面部16により構成されている。さらに、一対のローラ素子13a、13bは、軸方向に関して互いに近い側部分の外周面に、凹部と凸部とを全周にわたって交互に配置してなる素子側係合凹凸部17を有する。
【0070】
連結筒14は、円筒部18と、円筒部18の軸方向一方側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった側板部19とを有する。円筒部18は、軸方向一方側の端部から中間部にかけての範囲の内周面に、凹部と凸部とを全周にわたって交互に配置してなる筒側係合凹凸部20を有する。
【0071】
本例のリングローラ5は、一対のローラ素子13a、13bを、連結筒14により、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせてなる。具体的には、一対のローラ素子13a、13bのうち、軸方向一方側のローラ素子13aは、素子側係合凹凸部17を、連結筒14の筒側係合凹凸部20の軸方向一方側部分に係合させ、かつ、軸方向一方側の端面を、連結筒14の側板部19の軸方向他方側の側面に突き当てることにより、軸方向一方側への変位を阻止されている。これに対し、軸方向他方側のローラ素子13bは、素子側係合凹凸部17を、連結筒14の筒側係合凹凸部20の軸方向中間部に、軸方向の変位を可能に係合させている。したがって、一対のローラ素子13a、13bと連結筒14とは、一体的に回転する。
【0072】
複数個の中間ローラ6は、外周面に、サンローラ4の内径側転がり接触面11とリングローラ5の外径側転がり接触面12とに転がり接触する転動面21を有する。転動面21は、軸方向両側部分に配置されて、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜した一対の中間ローラ側傾斜面部22と、軸方向中間部に配置されて、一対の中間ローラ側傾斜面部22同士を接続する接続面部23とを有する。本例では、一対の中間ローラ側傾斜面部22は、円弧形の母線形状(断面形状)を有する凸曲面により構成されている。また、接続面部23は、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。サンローラ4の内径側転がり接触面11は、転動面21のうちの接続面部23に転がり接触し、かつ、リングローラ5の外径側転がり接触面12を構成する傾斜面部15a、15bのそれぞれは、転動面21のうちの中間ローラ側傾斜面部22のそれぞれに転がり接触している。
【0073】
中間ローラ6のそれぞれは、中心部に備えられた自転軸24を中心とする回転(自転)、および、径方向に関する変位を可能に、ハウジングなどの使用時にも回転しない支持部材に対し支持されている。すなわち、中間ローラ6のそれぞれは、自転はできるが、入力軸2の中心軸Oを中心とする回転(公転)は阻止されている。
【0074】
中間ローラ6を、自転および径方向に関する変位を可能に前記支持部材に対し支持する構造については、特に限定されず、従来から知られている各種構造を採用することができる。具体的には、たとえば、中間ローラ6の自転軸24を、ホルダ25に、ラジアル転がり軸受26を介して回転自在に支持し、かつ、ホルダ25を、周方向に関してラジアル転がり軸受26の中心軸から外れた部分に位置する揺動軸を中心とする揺動を可能に、前記支持部材に支持することができる。
【0075】
ローディングカム装置7は、一対のローラ素子13a、13bを互いに近づく方向に押圧する。すなわち、本例の摩擦ローラ減速機1では、ローディングカム装置7が、押圧装置を構成する。ローディングカム装置7は、軸方向他方側のローラ素子13bと、カムディスク27と、複数個の転動体28とを備える。
【0076】
軸方向他方側のローラ素子13bは、軸方向他方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、かつ、周方向に交互に配置してなる駆動側カム面29を有する。
【0077】
カムディスク27は、円筒部30と、円筒部30の軸方向一方側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がった側板部31とを備える。側板部31は、軸方向一方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、かつ、周方向に交互に配置してなる被駆動側カム面32を有する。
【0078】
カムディスク27は、連結筒14の円筒部18の軸方向他方側部分の内側に、連結筒14に対する相対回転を可能に、かつ、連結筒14に対する軸方向他方側への変位を不能に支持されている。このために、カムディスク27と連結筒14の円筒部18との間に、スラストニードル軸受33とスラストレース34と止め輪35とを配置している。スラストレース34は、円筒部18の軸方向他方側の端部に係止された止め輪35により、軸方向他方側への変位が阻止されている。スラストニードル軸受33は、カムディスク27の軸方向他方側の側面とスラストレース34の軸方向一方側の側面との間に配置されている。
【0079】
また、カムディスク27は、円筒部30を、出力軸3のフランジ部10に対し、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に結合している。したがって、出力軸3とカムディスク27とは、一体的に回転する。具体的には、たとえば、円筒部30の内周面に備えられた雌スプライン部を、フランジ部10の外周面に備えられた雄スプライン部にスプライン係合させることで、カムディスク27と出力軸3とを、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせることができる。
【0080】
複数個の転動体28のそれぞれは、軸方向他方側のローラ素子13bの駆動側カム面29とカムディスク27の被駆動側カム面32との間に、転動自在に配置されている。
【0081】
弾性部材8は、円環状に構成されて、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間に配置されている。本例では、弾性部材8は、円すい台形状を有する一対の皿ばね36を、内径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることにより構成されている。具体的には、本例では、一対の皿ばね36が、それぞれの大径側端部同士を突き合せるように、軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わされている。すなわち、弾性部材8は、一対の皿ばね36を、2段直列組み合わせとすることで構成されている。
【0082】
弾性部材8は、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間で弾性的に圧縮されると、弾性的に復元しようとして、一対のローラ素子13a、13bを、軸方向に関して互いに離れる方向に弾性的に付勢する(一対のローラ素子13a、13bに互いに離れる方向の力を付与する)。換言すれば、弾性部材8は、一対のローラ素子13a、13bを、中間ローラ6の転動面21から離れる方向に軸方向に押圧する。
【0083】
なお、本例では、ローディングカム装置7が押圧力を発揮する以前の初期状態において、弾性部材8は弾性的に圧縮された状態で、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間に挟持されている。したがって、弾性部材8は、前記初期状態においても、一対のローラ素子13a、13bに互いに離れる方向の力を付与している。
【0084】
本例の摩擦ローラ減速機1の運転時には、電動モータやエンジンなどの駆動源により、入力軸2を回転駆動することで、サンローラ4を回転駆動する。サンローラ4が回転すると、サンローラ4の内径側転がり接触面11と中間ローラ6の転動面21のうちの接続面部23との転がり接触に基づいて、中間ローラ6が自転する。中間ローラ6が自転すると、中間ローラ6の転動面21のうちの一対の中間ローラ側傾斜面部22とリングローラ5の外径側転がり接触面12を構成する一対の傾斜面部15a、15bとの転がり接触に基づいて、リングローラ5が、入力軸2の中心軸Oを中心に回転する。リングローラ5の回転は、ローディングカム装置7を介して、出力軸3に伝達される。
【0085】
リングローラ5の回転に伴い、軸方向他方側のローラ素子13bが回転すると、ローディングカム装置7の転動体28の、駆動側カム面29の凹部の底部からの乗り上げ量および被駆動側カム面32の凹部の底部からの乗り上げ量が増大する。これにより、ローディングカム装置7の軸方向寸法が増大し、一対のローラ素子13a、13bが互いに近づく方向に押圧されつつ、カムディスク27が回転駆動される。すなわち、軸方向他方側のローラ素子13bが軸方向一方側に押圧されると同時に、カムディスク27が軸方向他方側に押圧されることにより、軸方向一方側のローラ素子13aが、連結筒14を介して軸方向他方側に向けて引っ張られる。
【0086】
一対のローラ素子13a、13bが互いに近づく方向に押圧されると、外径側転がり接触面12を構成する傾斜面部15a、15bのうち、転動面21を構成する一対の中間ローラ側傾斜面部22と転がり接触する部分の内径が小さくなって、外径側転がり接触面12と転動面21とのトラクション部(転がり接触部)の面圧が上昇する。さらに、この面圧上昇に伴い、中間ローラ6のそれぞれが、径方向に関して内側に押圧されると、転動面21の接続面部23と内径側転がり接触面11とのトラクション部の面圧も上昇する。この結果、それぞれのトラクション部において過大な滑りを発生させることなく、入力軸2からサンローラ4に入力されたトルクは、中間ローラ6を介してリングローラ5に伝達される。
【0087】
カムディスク27の回転は、円筒部30とフランジ部10との嵌合部から出力軸3に伝達されて、ドライブシャフトなどを介して、車輪などの被駆動部に伝達される。
【0088】
本例の摩擦ローラ減速機1は、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間に弾性部材8を挟持しており、弾性部材8は、一対のローラ素子13a、13bに互いに離れる方向の力を付与している。したがって、ローディングカム装置7が一対のローラ素子13a、13bを互いに近づく方向に押圧することに基づく、転動面21と内径側転がり接触面11および外径側転がり接触面12とのトラクション部の面圧の上昇量は、弾性部材8から一対のローラ素子13a、13bに付与される互いに離れる方向の力の分だけ小さくなる。換言すれば、それぞれのトラクション部に作用する法線力の大きさは、弾性部材8から一対のローラ素子13a、13bに付与される力の分だけ小さくなり、実際の運転状態を表す運転トラクション係数(サンローラ4、リングローラ5および中間ローラ6が伝達するトルクに応じた接線力/法線力)は大きくなる。
【0089】
ここで、摩擦ローラ減速機1が伝達するトルクが大きくなって、リングローラ5に加わるトルクが大きくなるほど、一対のローラ素子13a、13bの互いに近づく方向への相対変位量が大きくなり、弾性部材8の圧縮量が大きくなる。したがって、リングローラ5に加わるトルクが大きくなるほど、弾性部材8から一対のローラ素子13a、13bに付与される互いに離れる方向の力も大きくなる。
【0090】
したがって、摩擦ローラ減速機1の伝達するトルク、すなわちトラクション部に作用する接線力および面圧が小さく、限界トラクション係数μmaxが小さい領域では、弾性部材8から一対のローラ素子13a、13bに付与される互いに離れる方向の力は小さく抑えられるため、運転トラクション係数を比較的小さく抑えることができる。一方、摩擦ローラ減速機1の伝達するトルク、すなわちトラクション部に作用する接線力および面圧が大きく、限界トラクション係数μmaxが大きい領域では、弾性部材8から一対のローラ素子13a、13bに付与される互いに離れる方向の力が大きくなり、これに応じて、トラクション部に作用する法線力の大きさが小さくなるため、運転トラクション係数を比較的大きくすることができる。要するに、本例の摩擦ローラ減速機1によれば、伝達するトルクの大きさにかかわらず、運転トラクション係数を適切な大きさに調整することができて、摩擦ローラ減速機1の伝達効率を良好に確保することができる。
【0091】
本例の摩擦ローラ減速機1では、一対のローラ素子13a、13bを中間ローラ6の転動面21から離れる方向に押圧する押圧装置を、ローディングカム装置7により構成している。すなわち、上述のように、運転トラクション係数を適切な大きさに調整することができる構造を、油圧ポンプや電動モータなどのアクチュエータを備えることなく実現している。したがって、摩擦ローラ減速機1の大型化や複雑化を防止することができる。
【0092】
また、中間ローラ6の自転軸24が、入力軸2の中心軸Oに対して傾いたまま、中間ローラ6が自転するスキューが発生した場合、図4に示すように、トルクの伝達方向に関するトラクション係数(=接線力/法線力)が大きくなるほど、トルクの伝達方向に直角な方向に関するトラクション係数(=スキュー力/法線力)が小さくなる。
【0093】
本例の摩擦ローラ減速機1では、弾性部材8が弾性的に復元しようとすることに基づいて、トラクション部に作用する法線力を小さく抑えることができて、トルクの伝達方向に関するトラクション係数を大きくすることができるため、相対的にトルクの伝達方向に直角な方向に関するトラクション係数を小さく抑えることができる。特に本例の摩擦ローラ減速機1では、各部品の弾性変形量および中間ローラ6の姿勢変化が大きくなりやすい高トルク伝達時に、運転トラクション係数を大きくすることができて、中間ローラ6のスキュー発生に基づく、ローディングカム装置7による押し付け力の加速度的な増加を効果的に防止することができる。
【0094】
さらに、本例の摩擦ローラ減速機1では、スキューの発生に伴い、一対のローラ素子13a、13bのいずれか一方のローラ素子13a(13b)が他方のローラ素子13b(13a)の側に向けて変位し、かつ、一方のローラ素子13a(13b)の傾斜面部15a(15b)の中間ローラ側傾斜面部22に対する押し付け力が増大すると、弾性部材8を介して一方のローラ素子13a(13b)により他方のローラ素子13b(13a)が、一方のローラ素子13a(13b)から離れる方向に押圧される。この結果、他方のローラ素子13b(13a)の傾斜面部15b(15a)の中間ローラ側傾斜面部22に対する押し付け力が低下する。この結果、一方のローラ素子13a(13b)の傾斜面部15a(15b)と中間ローラ側傾斜面部22とのトラクション部で伝達されるトルクが、他方のローラ素子13b(13a)の傾斜面部15b(15a)と中間ローラ側傾斜面部22とのトラクション部で伝達されるトルクと比較して大きくなる。したがって、一方のローラ素子13a(13b)の傾斜面部15a(15b)と中間ローラ側傾斜面部22とのトラクション部でのトルクの伝達方向に関するトラクション係数を大きくでき、相対的にトルクの伝達方向に直角な方向に関するトラクション係数を小さく抑えることができる。この面からも、中間ローラ6のスキュー発生に基づく、押し付け力の加速度的な増加を効果的に防止することができる。
【0095】
また、本例の摩擦ローラ減速機1では、転動面21を、軸方向両側部分に配置され、外径側転がり接触面12を構成する傾斜面部15a、15bと転がり接触する一対の中間ローラ側傾斜面部22と、軸方向中間部に配置され、内径側転がり接触面11と転がり接触する接続面部23とから構成している。このため、摩擦ローラ減速機1によるトルクの伝達効率を良好に維持しつつ、弾性部材8により一対のローラ素子13a、13bに付与する力の大きさの調整をしやすくすることができる。この理由について、図5を用いて説明する。
【0096】
弾性部材8により一対のローラ素子13a、13bに付与する力、すなわち弾性部材8の弾力の大きさの調整は、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間隔dを調整することにより行うことができる。ここで、前記間隔dを大きくしたい場合、一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bと、中間ローラ6の転動面21との接触点P同士の軸方向距離dも大きくする必要がある。
【0097】
図5(B)に示す比較例のように、中間ローラ6zの転動面21zを、単一円弧形の母線形状を有する凸曲面により構成する構造において、傾斜面部15a、15bと転動面21zとの接触点P同士の軸方向距離dを大きくしたい場合には、図5(B)(a)→図5(B)(b)に示すように、転動面21zの母線の曲率半径を大きくする必要がある。しかしながら、転動面21zの母線の曲率半径を大きくすると、傾斜面部15a、15bと転動面21zとの転がり接触部に存在する接触楕円の面積が大きくなって、前記転がり接触部での滑りによる損失が増大して、トルクの伝達効率が低下する可能性がある。
【0098】
これに対し、本例の摩擦ローラ減速機1では、図5(A)(a)→図5(A)(b)に示すように、転動面21の接続面部23の軸方向寸法Lを大きくすることで、傾斜面部15a、15bと転がり接触する中間ローラ側傾斜面部22の母線の曲率半径はそのままで、傾斜面部15a、15bと転動面21(中間ローラ側傾斜面部22)との接触点P同士の軸方向距離dを大きくすることができる。すなわち、弾性部材8により一対のローラ素子13a、13bに付与する力を調整すべく、前記軸方向距離dを大きくした場合でも、傾斜面部15a、15bと転動面21との転がり接触部に存在する接触楕円の面積が大きくなることを防止できて、摩擦ローラ減速機1によるトルク伝達効率の低下を防止することができる。
【0099】
なお、本例では、図6(A)に示すように、転動面21は、円弧形の母線形状を有する一対の中間ローラ側傾斜面部22と、軸方向に関して外径が変化しない円筒面である接続面部23とを備える。ただし、図6(B)に示すように、転動面21aを、円弧形の母線形状を有する一対の中間ローラ側傾斜面部22と、円弧形の母線形状を有する接続面部23aとから構成することもできる。この場合、接続面部23aの母線の曲率半径は、中間ローラ側傾斜面部22の母線の曲率半径よりも大きくなる。または、図6(C)に示すように、転動面21bを、軸方向に関して互いに離れるほど外径が小さくなる方向に傾斜した直線の母線形状を有する一対の中間ローラ側傾斜面部22aと、軸方向に関して外径が変化しない円筒面である接続面部23とから構成することもできる。
【0100】
ただし、本発明を実施する場合、中間ローラの転動面を、円弧形の母線形状を有する凸曲面により構成することもできる。この場合、サンローラの外周面に備えられた内径側転がり接触面を、円弧形の母線形状を有する凹曲面に構成することができる。
【0101】
また、本例では、一対のローラ素子13a、13b同士の間に配置された弾性部材8を、一対の皿ばね36により構成しているが、本発明を実施する場合、弾性部材は、圧縮に伴い、一対のローラ素子に互いに離れる方向の力を付与することができれば、皿ばねに限らず、各種弾性部材により構成することができる。なお、圧縮に伴い弾性部材が発揮する力は、圧縮量に比例しても比例しなくても良い。弾性部材は、運転トラクション係数が限界トラクション係数を超えず、かつ、限界トラクション係数にできる限り近い値となるような力を発生することが好ましい。
【0102】
[第1実施形態の第2例~第4例]
本発明を実施する場合であって、弾性部材を皿ばねにより構成する場合、前記皿ばねの個数および/または組み合わせ方法などは、前記弾性部材に要求される弾力の大きさに応じて、適宜決定される。ただし、前記弾性部材を皿ばねにより構成する場合、皿ばねの個数はできる限り少なく抑えることが、ばね特性のヒステリシスの影響を小さく抑える面から好ましい。
【0103】
図7(A)に示す第1実施形態の第2例では、弾性部材8aを、1枚の皿ばね36により構成している。
【0104】
図7(B)に示す第1実施形態の第3例では、弾性部材8bを、3枚の皿ばね36のうち、2枚の皿ばね36を同じ向きに重ね合わせ、かつ、残り1枚の皿ばね36を反対向きに重ね合わせることで構成している。
【0105】
図7(C)に示す第1実施形態の第4例では、弾性部材8cを、4枚の皿ばね36のうち、2枚ずつの皿ばね36を同じ向きに組み合わせ、かつ、これらを反対向きに重ね合わせる、すなわち2枚並列、2段直列組み合わせとすることで構成している。
【0106】
[第1実施形態の第5例]
図8は、本発明の第1実施形態の第5例を示している。本例では、リングローラ5を構成する一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の配置する弾性部材8dが、ウェーブワッシャにより構成されている。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0107】
[第1実施形態の第6例]
図9は、本発明の第1実施形態の第6例を示している。本例では、リングローラ5を構成する一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の間に配置される弾性部材8eが、ねじりコイルばね37により構成されている。ねじりコイルばね37は、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に1個配置することもできるし、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に複数個備えることもできる。ねじりコイルばね37を複数個備える場合、たとえば、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間の周方向複数箇所に配置する、すなわち並列に配置することができる。および/または、複数個のねじりコイルばね37を軸方向に重ね合わせて配置する、すなわち直列に配置することができる。
【0108】
いずれにしても、ねじりコイルばね37は、中心軸が、リングローラ5の中心軸と平行になるように、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置される。これにより、ねじりコイルばね37の弾性的な復元力が、ローラ素子13a、13bに軸方向に作用するようにしている。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0109】
[第1実施形態の第7例および第8例]
図10(A)は、本発明の第1実施形態の第7例を示している。本例の弾性部材8fは、複数個のねじりコイルばね37を備える。本例では、リングローラ5aを構成する一対のローラ素子13c、13dの互いに対向する先端面の周方向等間隔複数箇所に、軸方向に凹んだ保持凹部38を備えている。ねじりコイルばね37のそれぞれは、軸方向両側の端部を、保持凹部38の内側に挿入している。
【0110】
本例によれば、ねじりコイルばね37の軸方向端面と、ローラ素子13c、13dの先端面との間に作用する摩擦が小さくなった場合でも、ねじりコイルばね37の設置位置がずれてしまうことを防止できる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第3例と同様である。
【0111】
図10(B)は、本発明の第1実施形態の第8例を示している。本例の弾性部材8gは、複数個のねじりコイルばね37を備える。本例の摩擦ローラ減速機1は、複数個のねじりコイルばね37を保持するための保持器39を有する。保持器39は、中空円形板形状を有し、かつ、周方向等間隔複数箇所に軸方向に貫通する保持孔40を有する。それぞれのねじりコイルばね37は、軸方向中間部を、保持孔40の内側に挿通している。
【0112】
本例の場合も、ねじりコイルばね37の軸方向端面と、ローラ素子13a、13bの先端面との間に作用する摩擦が小さくなった場合に、ねじりコイルばね37の設置位置がずれてしまうことを防止できる。また、保持器39を交換するだけで、弾性部材8gの径方向に関する位置調節を容易に行うことができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第3例と同様である。
【0113】
[第1実施形態の第9例]
図11は、本発明の第1実施形態の第9例を示している。本例では、ローディングカム装置7(図1参照)が押圧力を発揮する以前の初期状態において、弾性部材8hと、リングローラ5を構成する一対のローラ素子13a、13bのうち、軸方向他方側のローラ素子13bとの間に隙間41を備える。
【0114】
本例では、前記初期状態において、弾性部材8hと、軸方向他方側のローラ素子13bとの間に隙間41が存在しているため、摩擦ローラ減速機1が伝達するトルクが小さい領域においては、一対のローラ素子13a、13bに、弾性部材8hが弾性的に復元することに基づく互いに離れる方向の力が作用しない。したがって、摩擦ローラ減速機1が伝達するトルクが小さく、トラクション部の面圧が小さい低トルク領域において、トラクション係数が徒に小さくなることを防止でき、グロススリップの発生をより確実に防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0115】
[第2実施形態の第1例]
図12および図13は、本発明の第2実施形態の第1例を示している。本例の摩擦ローラ減速機1aでは、リングローラ5bは、一対のローラ素子13a、13bを、連結筒14aにより、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせることにより構成されている。連結筒14aは、円筒部18aと、円筒部18aの軸方向一方側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった側板部19とを有する。本例では、円筒部18aは、弾性部材8の径方向外側に位置する部分の周方向1乃至複数箇所に、径方向に貫通する開口部42を有する。本例では、開口部42は、軸方向に関して一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間部分に位置している。開口部42は、円筒部18aの径方向内側の空間に存在する潤滑油を、円筒部18aの径方向外側の空間に排出するための排油穴を構成する。
【0116】
本例の摩擦ローラ減速機1aでは、それぞれの中間ローラ6を、自転軸24を中心とする回転、および、径方向に関する変位を可能に支持する支持部材(キャリア)43が、一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bに対向する部分の周方向複数箇所に給油孔44を有する。摩擦ローラ減速機1aの運転時には、それぞれの給油孔44から潤滑油(トラクションオイル)が吐出される。それぞれの給油孔44から吐出された潤滑油は、中間ローラ6の転動面21と、サンローラ4の内径側転がり接触面11および/またはリングローラ5の外径側転がり接触面12とのトラクション部に供給される。これにより、トラクション部を潤滑すると同時に冷却している。
【0117】
弾性部材8は、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機1の弾性部材8と同様に、円すい台形状を有する一対の皿ばね36を、内径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることにより構成されている。具体的には、一対の皿ばね36が、それぞれの大径側端部同士を突き合せるように、軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わされている。すなわち、弾性部材8は、一対の皿ばね36を、2段直列組み合わせとすることで構成されている。
【0118】
本例の摩擦ローラ減速機1では、弾性部材8を、一対の皿ばね36を内径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることにより構成している。このため、弾性部材8が発揮する弾力が0または小さい場合でも、弾性部材8の姿勢を安定させることができ、かつ、弾性部材8と一対のローラ素子13a、13bとの間での摩耗や異音の発生を防止することができる。
【0119】
すなわち、支持部材43に備えられた給油孔44から吐出された潤滑油は、リングローラ5を構成する一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bと、中間ローラ6の転動面21とのトラクション部に供給される。一対のローラ素子13a、13bが回転すると、潤滑油は遠心力の作用により、一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bの大径側端部に向かって積極的に流れ、一対の皿ばね36同士の間に送り込まれる。すると、一対の皿ばね36同士が軸方向寸法を拡張するように押し広げられ、一対の皿ばね36の小径側の端部が一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)に押し付けられる。
【0120】
したがって、摩擦ローラ減速機1aにより伝達するトルクが小さく、ローディングカム装置7の軸方向寸法の変化が小さいために、弾性部材8が弾性変形していないか、弾性部材8の弾性変形量が小さく、弾性部材8の弾力に基づいて、一対の皿ばね36の小径側端部を一対のローラ素子13a、13bの先端面に押し付ける力が小さい場合でも、一対の皿ばね36の小径側端部を一対のローラ素子13a、13bの先端面に押し付けることができる。これにより、弾性部材8の姿勢を安定させることができて、一対の皿ばね36と一対のローラ素子13a、13bとの間での摩耗や異音の発生を防止することができる。
【0121】
なお、一対の皿ばね36同士の間に送り込まれた潤滑油は、一対の皿ばね36の大径側端部同士の突き当て部から径方向外側に漏出または滲出し、連結筒14aに備えられた開口部42を通じて排出される。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0122】
[第2実施形態の第2例]
図14は、本発明の第2実施形態の第2例を示している。本例は、第2実施形態の第1例の変形例である。本例では、支持部材43に備えられた、潤滑油を吐出するための給油孔44を、リングローラ5を構成する一対のローラ素子13a、13bの傾斜面部15a、15bに対向する部分に加え、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の間で、弾性部材8が配置された空間に対向する部分にも設けている。
【0123】
本例によれば、支持部材43に備えられた給油孔44のうち、弾性部材8が配置された空間に対向する部分に設けた給油孔44により、潤滑油を、一対の皿ばね36同士の間に直接送り込むことができる。このため、摩擦ローラ減速機1の運転開始直後から、一対の皿ばね36の小径側端部を一対のローラ素子13a、13bの先端面に速やかに押し付けることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5例と同様である。
【0124】
[第3実施形態の第1例]
図15図17は、本発明の第3実施形態の第1例を示している。本例の摩擦ローラ減速機1bでは、リングローラ5cは、一対のローラ素子13a、13bを、連結筒14bにより、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせることにより構成されている。
【0125】
連結筒14bは、円筒部18bと、円筒部18bの軸方向他方側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった側板部19aとを有する。円筒部18bは、軸方向一方側の端部から中間部にかけての範囲の内周面に、凹部と凸部とを全周にわたって交互に配置してなる筒側係合凹凸部20を有する。
【0126】
本例では、一対のローラ素子13a、13bのうち、軸方向一方側のローラ素子13aは、素子側係合凹凸部17を、連結筒14bの筒側係合凹凸部20の軸方向一方側部分に、軸方向の変位を可能に係合させ、かつ、連結筒14bの軸方向一方側の端部内周面に係止された止め輪35aにより、軸方向一方側への変位を阻止されている。これに対し、軸方向他方側のローラ素子13bは、素子側係合凹凸部17を、連結筒14bの筒側係合凹凸部20の軸方向中間部に、軸方向の変位を可能に係合させている。したがって、一対のローラ素子13a、13bと連結筒14bとは、一体的に回転する。
【0127】
なお、本例では、ローディングカム装置7のカムディスク27は、連結筒14bの円筒部18bの軸方向他方側部分に、アンギュラ玉軸受45により、連結筒14bに対する相対回転を可能に、かつ、連結筒14bに対する軸方向他方側への変位を不能に内嵌支持されている。すなわち、アンギュラ玉軸受45の外輪は、外周面を、連結筒14bの円筒部18bの軸方向他方側の端部内周面に内嵌し、かつ、軸方向他方側の側面を、側板部19aの軸方向一方側の側面に突き当てている。また、アンギュラ玉軸受45の内輪は、内周面を、カムディスク27の円筒部30の軸方向一方側の端部外周面に外嵌し、かつ、軸方向一方側の側面を、側板部31の軸方向他方側の側面に突き当てている。
【0128】
本例の摩擦ローラ減速機1bでは、弾性部材8iは、円すい台形状を有する一対の皿ばね36を、外径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることにより構成されている。このため、一対の皿ばね36のうち、大径側の端部が、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)と接触する。具体的には、本例では、一対の皿ばね36が、それぞれの小径側端部同士を突き合せるように、軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わされている。すなわち、弾性部材8iは、一対の皿ばね36を、2段直列組み合わせとすることで構成されている。
【0129】
本例の摩擦ローラ減速機1bによれば、弾性部材8iと一対のローラ素子13a、13bとの接触部での摩耗の発生を抑えることができる。
【0130】
すなわち、摩擦ローラ減速機1bの運転時には、一対のローラ素子13a、13bのうち、中間ローラ6と転がり接触している部分が径方向外側に向けて押圧されて弾性変形する。一対のローラ素子13a、13bのうちで弾性変形する部分は、中間ローラ6の公転運動に伴って周方向に移動する。このように、一対のローラ素子13a、13bが周期的に弾性変形すると、一対のローラ素子13a、13bの先端面と、弾性部材8iとが互いに擦れ合って、フレッチング摩耗が生じる可能性がある。
【0131】
本例では、弾性部材8iを、一対の皿ばね36を外径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることより、一対の皿ばね36のうち、大径側の端部を、一対のローラ素子13a、13bの先端面に接触させている。このため、本例の摩擦ローラ減速機1bによれば、一対の皿ばねのうちの小径側の端部を、一対のローラ素子の先端面に接触させる場合に比べ、一対のローラ素子13a、13bの先端面と弾性部材8iとの接触部の接触面積を大きくできて、接触面圧を小さくすることができる。したがって、本例の摩擦ローラ減速機1bによれば、弾性部材8iと一対のローラ素子13a、13bとの接触部でフレッチング摩耗を生じにくくすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0132】
[第4実施形態の第1例]
図18図21は、本発明の第4実施形態の第1例を示している。本例の摩擦ローラ減速機1cでは、弾性部材8jが、1枚の皿ばね36により構成されている。皿ばね36は、厚さをt(mm)とし、かつ、全たわみ量をh(mm)とした場合に、次の式(1)で表される関係を満たす。
/t≦1.0・・・(1)
【0133】
なお、皿ばね36を1対のローラ素子13a、13b同士の間に配置する以前の自由状態での高さ(自由高さ)をH(mm)とした場合、全たわみ量hは、次の式(2)で表すことができる。
=H-t・・・(2)
【0134】
皿ばね36の厚さtに対する全たわみ量hの比h/tの下限値は、0よりも大きく、かつ、ローディングカム装置7が押圧力を発揮することに伴い皿ばね36が弾性変形する(ばねとして機能する)ことができる限り、特に限定されない。ただし、全たわみ量hを、ローディングカム装置7が押圧力を発揮する以前の初期状態における一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間の間隔Lと、ローディングカム装置7が発揮する押圧力が最大のときの間隔Lとの差(カムストローク)以上とする必要がある。このような事情を考慮すると、h/tの下限値は、0.5程度になる。
【0135】
本例の摩擦ローラ減速機1cでは、弾性部材8jを構成する皿ばね36の厚さtに対する全たわみ量hの比h/tを1.0以下としている。このため、摩擦ローラ減速機1cの伝達トルクが中程度の領域でのグロススリップの発生や、伝達トルクが大きい領域でのスキューの発生を確実に防止しつつ、摩擦ローラ減速機1cの伝達効率を良好に確保することができる。この理由について、図20および図21を用いて説明する。
【0136】
自由状態での弾性部材8jを構成する皿ばね36の外径をD(mm)とし、内径をd(mm)とし、角部の面取り半径をR(mm)とし、皿ばね36を構成する材料の縦弾性係数をE(N/mm)とし、同じくポアソン比をνとし、かつ、たわみ量をδとした場合、皿ばね36のばね荷重Pは、次の(3)式で表される。
【数1】
なお、(3)式中のCは、α=D/dとした場合、次の(4)式で表される。
【数2】
【0137】
皿ばね36の外径Dおよび内径dは、摩擦ローラ減速機1cの大きさにより制限されるため、調整の自由度が制限される。たとえば、電気自動車の駆動系で使用される摩擦ローラ減速機1cの場合、リングローラ5(を構成するローラ素子13a、13b)の外径は、150mm~200mm程度である。皿ばね36の外径Dは、リングローラ5の外径と同程度か、これ以下とする必要があり、かつ、皿ばね36の内径dは、ローラ素子13a、13bの大径側端部の内径よりも大きくする必要がある。また、縦弾性係数Eおよびポアソン比νは、皿ばね36を構成する材料により決定されるため、調整の自由度が低い。そこで、本例の摩擦ローラ減速機1cでは、皿ばね36の厚さtおよび全たわみ量hを調整することで、皿ばね36のたわみ量δと、弾性部材8jにより一対のローラ素子13a、13bに付与する力(皿ばね36のばね荷重)Pとの関係を調整している。
【0138】
図20は、皿ばね36のたわみ量δとばね荷重Pとの関係を、厚さtに対する全たわみ量hの比h/tごとに表したグラフである。
【0139】
図20から明らかなように、h/tが1.0よりも大きいと、たわみ量δが大きくなるにつれて、ばね荷重Pの上昇量が小さくなる。すなわち、h/tが1.0よりも大きい場合、皿ばね36のばね特性の非線形性が強くなり、摩擦ローラ減速機1の伝達トルクが大きい領域で、皿ばね36のばね荷重Pの上昇率が低下する。弾性部材8jとして、ばね特性の非線形性が強い皿ばね36を使用した場合に、摩擦ローラ減速機1の伝達トルクが大きい領域においても、伝達効率を良好に確保しようとすると、図21(B)に示すように、摩擦ローラ減速機1の伝達トルクが中程度の領域で、転動面21と内径側転がり接触面11および外径側転がり接触面12とのトラクション部の面圧が不足して、運転トラクション係数μが限界トラクション係数μmaxよりも大きくなる可能性がある。この結果、グロススリップが発生してしまう可能性がある。あるいは、弾性部材8jとして、ばね特性の非線形性が強い皿ばね36を使用した場合に、摩擦ローラ減速機1cの伝達トルクにかかわらず、限界トラクション係数の最大値μmaxを運転トラクション係数μが超えないようにすると、図21(C)に示すように、摩擦ローラ減速機1cの伝達トルクが大きい領域で、限界トラクション係数と運転トラクション係数との差(マージン)が大きくな、伝達効率が低下したり、中間ローラ6のスキュー発生に基づく、押し付け力の加速度的な増加の防止効果が低下したりする可能性がある。
【0140】
なお、仮に、リングローラを構成する一対のローラ素子同士の間に弾性部材を設けなかった場合、図21(D)に示すように、ローディングカム装置は、摩擦ローラ減速機の伝達トルクに比例する押圧力Fを発揮するため、運転トラクション係数μは一定となる。一方、前述の図55に示すとおり、限界トラクション係数μmaxは、トラクション部の面圧が大きくなるほどが大きくなる。したがって、摩擦ローラ減速機の伝達トルクが大きくなるほど、限界トラクション係数μmaxと運転トラクション係数μとの差(マージン)が大きくなって、伝達効率が低下したり、中間ローラの発生に基づく、押し付け力の加速度的な増加の防止効果が低下したりしやすくなる。
【0141】
これに対し、本例では、h/tを1.0以下としているため、図20に示すように、皿ばね36のばね特性を略線形とすることができる。弾性部材8jとして、ばね特性が略線形の皿ばね36を使用した場合、図21(A)に示すように、摩擦ローラ減速機1cの伝達トルクが中程度の領域において、トラクション部の面圧が不足し、運転トラクション係数が限界トラクション係数よりも大きくなって、グロススリップが発生することを防止しつつ、摩擦ローラ減速機1cの伝達トルクが大きい領域において、トラクション部の面圧が過大になることを防止でき、伝達効率を良好に確保することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0142】
[第5実施形態の第1例]
図22図24は、本発明の第5実施形態の第1例を示している。本例の摩擦ローラ減速機1dは、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の間に、該一対のローラ素子13a、13bを互いに離れる方向に弾性的に付勢する弾性部材8kを備える。
【0143】
本例の摩擦ローラ減速機1dは、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46を備える。このために、本例では、それぞれの皿ばね36aは、外周縁の周方向等間隔複数箇所に切り欠き47を有する。換言すれば、それぞれの皿ばね36aは、外周縁に、歯車状の凹凸部を有する。
【0144】
弾性部材8kは、2枚の皿ばね36aを、小径側の端部同士を突き合せるように軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わせる、すなわち2段直列組み合わせとすることで構成されている。弾性部材8kを一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態で、弾性部材8kを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とは、それぞれの皿ばね36aに備えられた切り欠き47により連通される。すなわち、本例では、切り欠き47により、弾性部材8kを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46が構成されている。つまり、排油路46は、軸方向一方側の皿ばね36aと軸方向一方側のローラ素子13aとの間部分、および、軸方向他方側の皿ばね36aと軸方向他方側のローラ素子13bとの間部分に、それぞれ形成される。
【0145】
上述のように、本例の摩擦ローラ減速機1dでは、弾性部材8kを構成する2枚の皿ばね36aの外周縁の周方向等間隔複数箇所に切り欠き47を設け、切り欠き47により、弾性部材8kを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46を構成している。このため、弾性部材8kの径方向内側に存在し、かつ、弾性部材8の内周面と一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する軸方向側面と中間ローラ6の転動面21とにより囲まれた空間内に潤滑油が留まることを防止できる。
【0146】
すなわち、摩擦ローラ減速機が、弾性部材を含み、前記一対のローラ素子同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路を備えていない場合、弾性部材の径方向内側に存在する空間内に、潤滑油が留まる。そして、前記空間内に潤滑油が留まると、撹拌抵抗が増大し、中間ローラの回転抵抗が増大して、摩擦ローラ減速機の効率が低下する可能性がある。
【0147】
これに対し、本例の摩擦ローラ減速機1dは、弾性部材8kを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46を備えるため、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。このため、前記対向空間の径方向内側に潤滑油が留まることを防止でき、潤滑油の撹拌抵抗増大に伴う中間ローラ6の回転抵抗の増大を防止することができる。この結果、摩擦ローラ減速機1dの効率の低下を防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0148】
[第5実施形態の第2例]
図25および図26は、本発明の第5実施形態の第2例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置された弾性部材8lは、円すい台形状を有する2枚の皿ばね36bを備える。それぞれの皿ばね36bは、内周縁の周方向等間隔複数箇所に切り欠き47aを有する。換言すれば、それぞれの皿ばね36bは、内周縁に、歯車状の凹凸部を有する。
【0149】
弾性部材8lは、2枚の皿ばね36bを、大径側の端部同士を突き合せるように軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わせる、すなわち2段直列組み合わせとすることで構成されている。弾性部材8lを一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態で、弾性部材8lを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とは、それぞれの皿ばね36bに備えられた切り欠き47aにより連通される。すなわち、本例では、切り欠き47aにより、弾性部材8lを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46aが構成されている。つまり、排油路46aは、軸方向一方側の皿ばね36bと軸方向一方側のローラ素子13aとの間部分、および、軸方向他方側の皿ばね36bと軸方向他方側のローラ素子13bとの間部分に、それぞれ形成される。
【0150】
本例においても、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、排油路46aを通じて、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。このため、前記対向空間の径方向内側に潤滑油が留まることを防止でき、潤滑油の撹拌抵抗増大に伴う中間ローラ6の回転抵抗の増大を防止することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0151】
[第5実施形態の第3例]
図27および図28は、本発明の第5実施形態の第3例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置された弾性部材8mは、円すい台形状を有する1枚の皿ばね36cにより構成されている。皿ばね36cは、外周縁の周方向等間隔複数箇所に切り欠き47を有し、かつ、内周縁の周方向等間隔複数箇所に切り欠き47aを有する。換言すれば、皿ばね36cは、外周縁に歯車状の凹凸部を有し、かつ、内周縁に歯車状の凹凸部を有する。
【0152】
弾性部材8mを一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態で、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とは、皿ばね36cに備えられた切り欠き47、47aにより連通される。すなわち、本例では、切り欠き47、47aにより、弾性部材8mを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46bが構成されている。
【0153】
本例では、切り欠き47、47aにより構成される排油路46bを通じて、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。このため、第5実施形態の第1例の構造に比べて、潤滑油の排出効果を良好にすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0154】
[第5実施形態の第4例]
図29および図30は、本発明の第5実施形態の第4例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置された弾性部材8iは、円すい台形状を有する2枚の皿ばね36を備える。弾性部材8iは、2枚の皿ばね36を、小径側の端部同士を突き合せるように互い違いに重ね合わせる、すなわち2段直列組み合わせとすることで構成されている。なお、それぞれの皿ばね36は、外周縁と内周縁とのいずれにも切り欠きを有していない。
【0155】
本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面と、それぞれの皿ばね36の大径側の端部との間に、中空円形板状のシム板48をそれぞれ挟持している。それぞれのシム板48は、皿ばね36に対向する軸方向両側の側面のそれぞれの周方向等間隔複数箇所に、径方向にわたり凹溝49を有する。すなわち、凹溝49は、シム板48の軸方向側面と外周縁および内周縁に開口している。
【0156】
本例では、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とは、それぞれのシム板48に備えられた凹溝49により連通される。すなわち、本例では、凹溝49により、弾性部材8iを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46cが構成されている。つまり、排油路46cは、軸方向一方側のシム板48と軸方向一方側のローラ素子13aとの間部分、および、軸方向一方側のシム板48と軸方向一方側の皿ばね36との間部分、並びに、軸方向他方側のシム板48と軸方向他方側のローラ素子13bとの間部分、および、軸方向他方側のシム板48と軸方向他方側の皿ばね36との間部分に、それぞれ形成される。本例では、凹溝49により構成される排油路46cを通じて、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。
【0157】
なお、シム板の軸方向側面の周方向複数箇所に、凹溝に代えて、径方向に伸長する凸条を形成することもできる。この場合、周方向に隣り合う凸条の間部分により、排油路が構成される。このため、排油路の断面積を大きくすることができて、潤滑油の排出効果をより良好にすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0158】
[第5実施形態の第5例]
図31および図32は、本発明の第5実施形態の第5例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に、2枚の皿ばね36を小径側の端部同士を突き合せるように互い違いに重ね合わせることにより構成された弾性部材8iを配置している。
【0159】
本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面と、それぞれの皿ばね36の大径側の端部との間に、略中空円形板状の菊座金50をそれぞれ挟持している。それぞれの菊座金50は、外周縁の周方向複数箇所に切り欠き51を有する。換言すれば、菊座金50は、外周縁に、歯車状の凹凸部を有する。
【0160】
本例では、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とは、それぞれの菊座金50に備えられた切り欠き51により連通される。すなわち、本例では、切り欠き51により、弾性部材8iを含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路46dが構成されている。つまり、排油路46dは、軸方向一方側の菊座金50と軸方向一方側の皿ばね36との間部分、および、軸方向他方側の菊座金50と軸方向他方側の皿ばね36との間部分に、それぞれ形成される。本例では、切り欠き51により構成される排油路34dを通じて、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0161】
[第5実施形態の第6例]
図33は、本発明の第5実施形態の第6例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置された弾性部材8nは、円筒形状を有し、かつ、ゴムのごときエラストマーなどの弾性を有する材料により構成されている。弾性部材8nは、軸方向他方側の側面の周方向複数箇所に、径方向にわたり凹溝52を有する。すなわち、凹溝52は、弾性部材8nの軸方向他方側の側面と外周面および内周面とに開口している。
【0162】
本例では、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在し、かつ、弾性部材8nが配置された対向空間の径方向内側と径方向外側とは、弾性部材8nの軸方向他方側の側面に備えられた凹溝52により連通される。すなわち、本例では、凹溝52により、排油路46eが構成される。そして、排油路46eを通じて、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0163】
[第5実施形態の第7例]
図34および図35は、本発明の第5実施形態の第7例を示している。本例では、一対のローラ素子13e、13fは、互いに対向する先端面(平坦面部16)の周方向等間隔複数箇所に、径方向にわたり凹溝53を有する。すなわち、凹溝53、ローラ素子13e、13fの先端面と外周面および内周面とに開口している。本例では、凹溝53は、円弧形の断面形状を有する。
【0164】
一対のローラ素子13e、13fの先端面同士の間には、円すい台形状を有する2枚の皿ばね36からなる弾性部材8iが挟持されている。弾性部材8iは、2枚の皿ばね36を、小径側の端部同士を突き合せるように互い違いに重ね合わせる、すなわち2段直列組み合わせとすることで構成されている。なお、それぞれの皿ばね36は、外周縁と内周縁とのいずれにも切り欠きを有していない。
【0165】
本例では、一対のローラ素子13e、13f同士の間に存在し、かつ、弾性部材8iが配置された対向空間の径方向内側と径方向外側とは、一対のローラ素子13e、13fの先端面に備えられた凹溝53により連通される。すなわち、本例では、凹溝53により、排油路46fが構成される。そして、排油路46fを通じて、前記対向空間の径方向内側に存在する潤滑油を、前記対向空間の径方向外側へと円滑に排出することができる。
【0166】
また、本例では、凹溝53の断面形状を円弧形としている。このため、摩擦ローラ減速機1によりトルクを伝達する際に、ローラ素子13e、13fのうち、凹溝53を形成した部分に応力が集中することを防止できる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0167】
[第5実施形態の第8例]
図36は、本発明の第5実施形態の第8例を示している。本例では、一対のローラ素子13a、13b(図22および図23参照)の先端面同士の間に配置された弾性部材は、円すい台形状を有し、かつ、軸方向に関する向きを逆向きに重ね合わされた2枚の皿ばね36dにより構成される。それぞれの皿ばね36dは、径方向中間部の周方向複数箇所(図示の例では4箇所)を貫通する通孔54を有する。すなわち、前記弾性部材を一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態で、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在し、かつ、前記弾性部材が配置された対向空間の径方向内側と径方向外側とは、それぞれの皿ばね36dに備えられた通孔54により連通される。すなわち、本例では、通孔54により、前記弾性部材を含み、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路が構成されている。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第5実施形態の第1例と同様である。
【0168】
なお、本実施形態に係る摩擦ローラ減速機を実施する場合、一対のローラ素子同士の間に存在し、かつ、弾性部材が配置された対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路を確保することができる限り、種々の構成を採用することができる。
【0169】
たとえば、第1実施形態の第5例を示す図8のように、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の間に、ウェーブワッシャである弾性部材8dを挟持することができる。前記ウェーブワッシャは、周方向に関して波形形状を有する。すなわち、前記ウェーブワッシャを一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態では、弾性部材8dの軸方向側面と、一対のローラ素子13a、13bの先端面との間の周方向複数箇所に、該一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路が構成される。
【0170】
あるいは、第1実施形態の第6例を示す図9のように、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)同士の間に、ねじりコイルばね37により構成される弾性部材8eを挟持することができる。ねじりコイルばね37は、金属線を螺旋状に巻き回すことにより構成されている。したがって、ねじりコイルばね37を一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に配置した状態では、ねじりコイルばね37を構成する金属線のうち、軸方向に隣り合う部分同士の間の隙間により、一対のローラ素子13a、13b同士の間に存在する対向空間の径方向内側と径方向外側とを連通する排油路が構成される。
【0171】
[第6実施形態の第1例]
本発明の第6実施形態の第1例について、図37図44を用いて説明する。本発明の一態様に係る摩擦ローラ減速機は、一対のローラ素子を中間ローラの転動面から離れる方向に弾性的に付勢する弾性部材を有する。また、ローディングカム装置では、ローラ素子とカムディスクとの間に、予圧ばねを圧縮された状態で組み込む場合がある。予圧ばねは、ローラ素子とカムディスクとを互いに離れる方向に弾性的に押圧する。したがって、予圧ばねを備えるローディングカム装置では、入力軸にトルクが入力される以前の状態から、駆動側カム面の凹部の底部および被駆動側カム面の凹部の底部からの転動体の乗り上げ量がある程度増大するまでの予圧領域において、予圧ばねの弾力に基づく押圧力が発揮されるため、摩擦ローラ減速機の運転開始直後(入力軸へのトルク入力開始直後)からトラクション部に必要最低限の面圧を付与することができる。
【0172】
ここで、前述の図55に示すように、摩擦ローラ減速機で伝達するトルクが大きく、トラクション部の面圧Pが大きくなるほど、限界トラクション係数μmaxは大きくなる。逆に言えば、摩擦ローラ減速機で伝達するトルクが小さく、トラクション部の面圧Pが小さいほど、限界トラクション係数μmaxは小さくなる。したがって、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが小さい領域において、弾性部材によって一対のローラ素子に付与される、該一対のローラ素子を中間ローラの転動面から離れる方向に弾性的に付勢する力が過大になると、トラクション部の面圧Pが不足して、グロススリップが発生してしまう可能性がある。
【0173】
摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが小さい領域において、グロススリップの発生を確実に防止するためには、たとえば、図43に示すように、弾性部材8zと、一対のローラ素子13a、13bのうちの一方のローラ素子13aとの間に隙間55を設けることが考えられる。隙間55を設けると、図44に示すように、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが小さい領域では、一対のローラ素子13a、13bに、弾性部材8zが弾性的に復元することに基づく互いに離れる方向の力は作用しない。このため、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが小さく、トラクション部の面圧が小さい領域において、限界トラクション係数μmaxが徒に小さくなることを防止でき、グロススリップの発生を確実に防止することができる。
【0174】
摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなるにつれ、隙間55が小さくなる。そして、隙間55が消滅し、一方のローラ素子13aと弾性部材8zとが当接して、弾性部材8zが弾性変形し始めると、該弾性部材8zにより、一対のローラ素子13a、13bに互いに離れる方向の力が付与され始める。図44に示すように、弾性部材8zにより、一対のローラ素子13a、13bに付与される力は、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなるほど大きくなる。
【0175】
しかしながら、隙間55を大きくし過ぎると、弾性部材8zが一対のローラ素子13a、13b同士の間で大きくずれ動いて、異音や摩耗を発生してしまう可能性がある。および/または、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材8zが一対のローラ素子13a、13bに付与する力を所望の大きさにすることができなくなって、摩擦ローラ減速機の効率が低下したり、焼き付きなどの損傷が発生したりする可能性がある。このため、入力軸にトルクが入力されるよりも前の初期状態における、隙間55の大きさを精度よく規制することが必要になる。
【0176】
なお、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが小さい領域において、グロススリップの発生を防止することができれば、必ずしも隙間55を設ける必要はない。すなわち、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で一対のローラ素子の先端面同士の間で挟持することもできる。換言すれば、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で、弾性部材の端部を、一対のローラ素子の先端面に接触させることもできる。この場合でも、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材が一対のローラ素子に付与する力を所望の大きさにするためには、初期状態における、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することが必要になる。
【0177】
図54に示す従来の摩擦ローラ減速機100では、その組立状態において、一対のローラ素子110a、110bの周囲が連結筒111により覆われている。このため、サンローラ103、一対のローラ素子110a、110bおよび複数個の中間ローラ105を連結筒111の径方向内側に配置した後で、一対のローラ素子110a、110bの先端面を外部から目視で確認することができない。このため、従来の摩擦ローラ減速機100では、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することが難しくなる。
【0178】
本実施形態は、連結筒の径方向内側に、サンローラ、一対のローラ素子および複数個の中間ローラを配置した後でも、一対のローラ素子の先端面を外部から目視により確認することができる摩擦ローラ減速機を提供することを目的としている。
【0179】
本例の摩擦ローラ減速機1eでは、リングローラ5cは、一対のローラ素子13a、13bを、連結筒14cにより、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせることにより構成されている。連結筒14cは、円筒部18cと、円筒部18aの軸方向他方側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった側板部19aとを有する。
【0180】
弾性部材8oは、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間、すなわち図39に示すように、互いに対向する平坦面部16同士の間に配置されている。本例では、弾性部材8oは、一対の皿ばね36を、外径側が開口するように、断面略V字形に組み合わせることにより構成されている。
【0181】
本例では、駆動側カム面29の凹部の底部および被駆動側カム面32の凹部の底部からの転動体28の乗り上げ量が増大することに基づきローディングカム装置7が押圧力を発揮する以前の初期状態において、弾性部材8oは弾性的に圧縮されていない。具体的には、図39に示すように、弾性部材8oの軸方向一方側の端部と、軸方向一方側のローラ素子13aの平坦面部16との間に隙間55が設けられ、かつ、弾性部材8oの軸方向他方側の端部が軸方向他方側のローラ素子13bの平坦面部16に当接している。
【0182】
なお、弾性部材8oの軸方向一方側の端部を軸方向一方側のローラ素子13aの平坦面部16に当接させ、かつ、弾性部材8oの軸方向他方側の端部と軸方向他方側のローラ素子13bの平坦面部16との間に隙間を設けることもできる。あるいは、弾性部材8oの軸方向両側の端部とそれぞれのローラ素子13a、13bの平坦面部16との間に隙間を設けることもできる。いずれにしても、弾性部材8oとローラ素子13a、13bとの間に隙間55を設けることにより、前記初期状態で弾性部材8oから一対のローラ素子13a、13bに互いに離れる方向の力が作用しないようにしている。
【0183】
また、本例では、連結筒14cは、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能な開口部42aを有する。すなわち、図39図42に示すように、連結筒14cの円筒部18cは、軸方向に伸長する凹部56と凸部57とを周方向に交互に配置してなり、それぞれの凸部57に複数の排油穴58a、58bが、円筒部18cを径方向に貫通するように設けられている。
【0184】
それぞれの排油穴58a、58bは、軸方向に伸長する長円形の開口形状を有する。排油穴58bの軸方向長さは、排油穴58aの軸方向長さよりも長い。また、複数の排油穴58aの形状および大きさは、すべての排油穴58aの間で等しくなっている。
【0185】
排油穴58a、58bは、摩擦ローラ減速機1のトラクション部などの部品同士が接触する部分に供給されるトラクションオイルなどの潤滑油を循環させるべく、該潤滑油を連結筒14cの内部から排出するための穴である。なお、排油穴58a、58bから排出された潤滑油は図示しないオイルパンに一時貯留されたうえで、再び連結筒14cの内部に供給されるようになっている。
【0186】
排油穴58bは、円筒部18cの周方向等間隔複数箇所(本例では4~5箇所)に備えられている。排油穴58bの軸方向長さは、前記初期状態での一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間の距離Lより長くなっている。
【0187】
本例では、排油穴58bが、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能な開口部42aを構成している。すなわち、開口部42a(排油穴58b)は、弾性部材8oとローラ素子13a、13bとの当接状態を確認できる大きさ(軸方向長さおよび周方向幅)を有する。本例では、開口部42a(排油穴58b)は、一対のローラ素子13a、13bの平坦面部16同士の間の距離Lより長い軸方向長さを有する。また、開口部42aは、一対のローラ素子13a、13b同士の間を含むような大きさを有する。換言すれば、軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)は、開口部42aの軸方向一方側の端部よりも軸方向他方側に位置し、かつ、軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)は、開口部42aの軸方向他方側の端部よりも軸方向一方側に位置している。本例では、開口部42aの軸方向他方側の端部を、カムディスク27の軸方向中間部の径方向外側に位置させている。すなわち、開口部42aを通じて、カムディスク27の軸方向一方側部分を目視可能としている。
【0188】
なお、本実施形態において、「当接状態」とは、弾性部材8oとローラ素子13a、13bとが当接している状態だけでなく、弾性部材8oが、一対のローラ素子13a、13bのうちの少なくとも一方のローラ素子に対して隙間55をもって配置されている状態、換言すれば、少なくとも一方のローラ素子と弾性部材8oとが隙間55を介して対向している状態を含むものとする。また、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能とは、ローラ素子13a、13bの先端面全体を目視可能とすることではなく、ローラ素子13a、13bの先端面のうちで開口部42aに対向する部分、換言すれば開口部42aの内側に位置する範囲を目視可能とすることを意味する。
【0189】
排油穴58aは、円筒部18cの凸部57のうち、排油穴58bが備えられていない凸部57の軸方向等間隔複数箇所(本例では4箇所)に備えられている。
【0190】
本例の摩擦ローラ減速機1eでは、一対のローラ素子13a、13bを軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持する連結筒14cが、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能な開口部42a(排油穴58b)を有する。これにより、連結筒14cの径方向内側に、サンローラ4、一対のローラ素子13a、13bおよび複数個の中間ローラ6を配置した後でも、一対のローラ素子13a、13bの先端面、および、該先端面同士の間に配置された弾性部材8oを外部から目視により確認することができる。
【0191】
したがって、摩擦ローラ減速機1eの組立後に、開口部42aからノギスなどの計測器を一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間に挿入し、当該先端面同士の間の軸方向距離を測定するとともに、弾性部材8oの位置を確認することができる。このため、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間の軸方向距離および隙間55の大きさを精度よく規制することができ、かつ、前記初期状態において、弾性部材8oを、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間に適切に配置することができる。
【0192】
また、開口部42aは、弾性部材8oとローラ素子13a、13bとの当接状態を確認できる大きさを有する。したがって、本例では、摩擦ローラ減速機1eの組立後に、開口部42aを通じて弾性部材8とローラ素子13a、13bとの当接状態を確認することができ、かつ、弾性部材8oの組み付け忘れや間違いの有無がないか、適切に組み付けられているかなどを確認することができる。
【0193】
本例では、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面を目視可能とするための開口部42aを排油穴58bにより構成している。したがって、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面を目視可能とするためだけに、連結筒14cの円筒部18cに開口部を設ける必要がない。
【0194】
ただし、連結筒内の潤滑油を排出するための排油穴が、該連結筒の円筒部に設けられていない場合には、該円筒部に、一対のローラ素子の互いに対向する先端面を目視可能とするための開口部を設けることもできる。
【0195】
本例では、開口部42a(排油穴58b)が、円筒部18cの周方向等間隔複数箇所に備えられているため、連結筒14cの径方向内側に、サンローラ4、一対のローラ素子13a、13bおよび複数個の中間ローラ6を配置した後、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間の距離を周方向複数箇所で測定することができる。このため、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の平行度を確認することができる。
【0196】
また、本例では、弾性部材8oと軸方向一方側のローラ素子13aとの間に隙間55を設けているため、摩擦ローラ減速機1eが伝達するトルクが小さい領域において、一対のローラ素子13a、13bに、弾性部材8oが弾性的に復元することに基づく互いに離れる方向の力が作用しない。したがって、摩擦ローラ減速機1eが伝達するトルクが小さく、トラクション部の面圧が小さい低トルク領域において、トラクション係数が徒に小さくなることを防止でき、グロススリップの発生をより確実に防止することができる。
【0197】
なお、本例では、弾性部材8oと軸方向一方側のローラ素子13aとの間に隙間55を設けた構造について説明したが、本実施形態に係る摩擦ローラ減速機は、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で一対のローラ素子の先端面同士の間で挟持した構造に適用することもできる。この場合でも、初期状態における、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することができて、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材が一対のローラ素子に付与する力を所望の大きさにすることができる。
【0198】
[第6実施形態の第2例~第4例]
本実施形態において、弾性部材を皿ばねにより構成する場合、たとえば、図45図47に示すように、前記皿ばねの個数および/または組み合わせ方法などは、前記弾性部材に要求される弾力の大きさに応じて、適宜決定することができる。ただし、前記弾性部材を皿ばねにより構成する場合、皿ばねの個数はできる限り少なく抑えることが、ばね特性のヒステリシスの影響を小さく抑える面から好ましい。
【0199】
図45に示す第6実施形態の第2例では、弾性部材8pを、1枚の皿ばね36により構成している。また、弾性部材8pの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8pの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0200】
図46に示す第6実施形態の第3例では、弾性部材8qを、3枚の皿ばね36のうち、2枚の皿ばね36を同じ向きに重ね合わせ、かつ、残り1枚の皿ばね36を反対向きに重ね合わせることで構成している。また、弾性部材8qの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8qの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0201】
図47に示す第6実施形態の第4例では、弾性部材8rを、4枚の皿ばね36のうち、2枚ずつの皿ばね36を同じ向きに組み合わせ、かつ、これらを反対向きに重ね合わせる、すなわち2枚並列、2段直列組み合わせとすることで構成している。また、弾性部材8rの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8rの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0202】
なお、第6実施形態の第2例~第4例においても、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で一対のローラ素子の先端面同士の間で挟持することができる。この場合でも、初期状態における、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することができて、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材が一対のローラ素子に付与する力を所望の大きさにすることができる。
【0203】
[第6実施形態の第5例~第8例]
図48図51は、弾性部材を皿ばね以外により構成した例を示している。
【0204】
図48に示す第6実施形態の第5例では、弾性部材8sを、ウェーブワッシャにより構成している。また、弾性部材8sの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8sの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0205】
図49に示す第6実施形態の第6例では、弾性部材8tが、ねじりコイルばね37により構成されている。ねじりコイルばね37は、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間に1個配置することもできるし、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間の周方向等間隔複数箇所に複数個備えることもできる。また、弾性部材8tの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8tの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0206】
図50に示す第6実施形態の第7例では、弾性部材8uは、複数個のねじりコイルばね37を備える。本例では、リングローラ5aを構成する一対のローラ素子13a、13dのうち、軸方向他方側のローラ素子13dの先端面の周方向等間隔複数箇所に、軸方向に凹んだ保持凹部38を備えている。ねじりコイルばね37のそれぞれは、軸方向他方側の端部を、保持凹部38の内側に挿入している。また、弾性部材8uの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設けている。
【0207】
図51に示す第6実施形態の第8例では、弾性部材8vは、複数個のねじりコイルばね37を備える。本例の摩擦ローラ減速機は、複数個のねじりコイルばね37を保持するための保持器39を有する。保持器39は、中空円形板形状を有し、かつ、周方向等間隔複数箇所に軸方向に貫通する保持孔40を有する。それぞれのねじりコイルばね37は、軸方向中間部を、保持孔40の内側に挿通している。また、弾性部材8vの軸方向一方側の端部と軸方向一方側のローラ素子13aの先端面(平坦面部16)との間に隙間55を設け、かつ、弾性部材8vの軸方向他方側の端部を軸方向他方側のローラ素子13bの先端面(平坦面部16)に当接させている。
【0208】
なお、第6実施形態の第5例~第8例においても、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で一対のローラ素子の先端面同士の間で挟持することができる。この場合でも、初期状態における、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することができて、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材が一対のローラ素子に付与する力を所望の大きさにすることができる。
【0209】
[第6実施形態の第9例]
図52は、第6実施形態の第9例を示している。本例の摩擦ローラ減速機は、組立状態において、一対のローラ素子13a、13bの先端面(平坦面部16)を目視可能とするために、連結筒14dの円筒部19dに備えられた開口部42b、42cの形状および個数が、第6実施形態の第1例と異なる。
【0210】
本例では、連結筒14dは、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能な一対の開口部42b、42cを有する。一対の開口部42b、42cは円形の開口形状を有する。一対の開口部42b、42cは、連結筒14dの円筒部19dの周方向複数箇所の軸方向2箇所位置に備えられている。なお、開口部42b、42cは、排油穴としても機能する。
【0211】
開口部42bは、軸方向一方側のローラ素子13aのうち、先端面(平坦面部16)を含む軸方向一方側の端部を目視可能な位置に配置され、かつ、開口部42bは、軸方向他方側のローラ素子13bのうち、先端面(平坦面部16)を含む軸方向他方側の端部を目視可能な位置に配置されている。また、開口部42b、42cから弾性部材8oの軸方向両側の端部がそれぞれ目視可能となっている。したがって、開口部42b、42cは、弾性部材8oとローラ素子13a、13bとの当接状態を確認できる大きさを有する。
【0212】
本例の摩擦ローラ減速機では、一対のローラ素子13a、13bを軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に支持する連結筒14dが、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面(平坦面部16)を目視可能な開口部42b、42cを有する。これにより、連結筒14cの径方向内側に、サンローラ4、一対のローラ素子13a、13bおよび複数個の中間ローラ6を配置した後でも、一対のローラ素子13a、13bの先端面、および、該先端面同士の間に配置された弾性部材8oを外部から目視により確認することができる。
【0213】
したがって、本例の摩擦ローラ減速機によれば、第6実施形態の第1例と同様に、摩擦ローラ減速機の組立後に、開口部42b、42cからノギスなどの計測器を一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間に挿入し、当該先端面同士の間の軸方向距離を測定するとともに、弾性部材8vの位置を確認することができる。このため、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間の軸方向距離および隙間55の大きさを精度よく規制することができ、かつ、前記初期状態において、弾性部材8vを、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面同士の間に適切に配置することができる。
【0214】
また、開口部42b、42cは、弾性部材8vとローラ素子13a、13bとの当接状態を確認できる大きさを有する。したがって、本例では、摩擦ローラ減速機の組立後に、開口部42b、42cを通じて弾性部材8vとローラ素子13a、13bとの当接状態を確認することができ、かつ、弾性部材8vの組み付け忘れや間違いの有無がないか、適切に組み付けられているかなどを確認することができる。
【0215】
本例では、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面を目視可能とするための開口部42b、42cが排油穴としても機能する。したがって、一対のローラ素子13a、13bの互いに対向する先端面を目視可能とするためだけに、連結筒14dの円筒部18dに開口部を設ける必要がない。
【0216】
本例では、開口部42b、42cが、円筒部18dの周方向等間隔複数箇所に備えられているため、連結筒14dの径方向内側に、サンローラ4、一対のローラ素子13a、13bおよび複数個の中間ローラ6を配置した後、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の間の距離を周方向複数箇所で測定することができる。このため、一対のローラ素子13a、13bの先端面同士の平行度を確認することができる。
【0217】
なお、本例では、弾性部材8vと軸方向一方側のローラ素子13aとの間に隙間55を設けた構造について説明したが、本実施形態に係る摩擦ローラ減速機は、初期状態において、弾性部材を圧縮させないか、または、若干圧縮させた状態で一対のローラ素子の先端面同士の間で挟持した構造に適用することもできる。この場合でも、初期状態における、一対のローラ素子の先端面同士の間の間隔、および、該一対のローラ素子の先端面と弾性部材との当接状態を精度よく規制することができて、摩擦ローラ減速機が伝達するトルクが大きくなったときに、弾性部材が一対のローラ素子に付与する力を所望の大きさにすることができる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例および第6実施形態の第1例と同様である。
【0218】
なお、本実施形態では、押圧装置としてローディングカム装置7を使用した例について説明したが、本実施形態を実施する場合、一対のローラ素子を互いに近付く方向に押圧する押圧装置として、油や空気などの流体圧によるポンプ式の押圧装置や、電動モータなどのアクチュエータを備える押圧装置を使用することもできる。
【0219】
[第7実施形態の第1例]
図53は、本発明の第7実施形態の第1例を示している。第1実施形態の第1例~第
実施形態の第9例では、リングローラを、一対のローラ素子を備えるものとし、かつ、該一対のローラ素子同士の間に、弾性部材を挟持していたが、本例の摩擦ローラ減速機1fでは、サンローラ4aを、一対のローラ素子59a、59bを備えるものとし、かつ、該一対のローラ素子59a、59bの先端面同士に、弾性部材8wを挟持している。本例の摩擦ローラ減速機1hは、入力軸2aと、出力軸3aと、サンローラ4aと、リングローラ5dと、複数個の中間ローラ6と、ローディングカム装置7aと、弾性部材8wとを備える。
【0220】
サンローラ4aは、一対のローラ素子59a、59bを備える。一対のローラ素子59a、59bのそれぞれは、外周面に、軸方向に関して互いに離れるほど径方向に関して中間ローラ6に近づく方向、換言すれば外径が大きくなる方向に傾斜する傾斜面部60a、60bを有する。すなわち、本例では、内径側転がり接触面11aは、一対のローラ素子59a、59bの傾斜面部60a、60bにより構成されている。本例では、傾斜面部60a、60bは、直線状の母線形状を有する円すい凸面により構成されている。
【0221】
また、一対のローラ素子59a、59bは、互いに対向する先端面に、それぞれの中心軸Oに直交する平坦面部61を有する。本例では、一対のローラ素子59a、59bの先端面全体が、平坦面部61により構成されている。
【0222】
本例のサンローラ4aは、一対のローラ素子59a、59bを、入力軸2aおよび後述するローディングカム装置7aを介して、軸方向の相対変位を可能に組み合わせてなる。一対のローラ素子59a、59bのうち、軸方向一方側(図53の左側)のローラ素子59aは、入力軸2aの軸方向中間部に、該入力軸2aに対する軸方向の相対変位および相対回転を可能に外嵌されている。これに対し、軸方向他方側のローラ素子59bは、入力軸2aの先端部(軸方向他方側の端部、図53の右側の端部)に、該入力軸2aに対する軸方向の相対変位および相対回転を不能に外嵌固定されている。
【0223】
リングローラ5dは、内周面に、外径側転がり接触面12aを有し、サンローラ4aの周囲に該サンローラ4aと同軸に配置されている。本例では、外径側転がり接触面12aは、軸方向に関して内径が変化しない円筒面により構成されている。また、リングローラ5dは、出力軸3aに対し該出力軸3aと一体的に回転するように接続されている。
【0224】
複数個の中間ローラ6のそれぞれは、外周面に、内径側転がり接触面11aと外径側転がり接触面12aとに転がり接触する転動面21を有する。転動面21は、軸方向両側部分に配置されて、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜した一対の中間ローラ側傾斜面部22と、軸方向中間部に配置されて、一対の中間ローラ側傾斜面部22同士を接続する接続面部23とを有する。本例では、内径側転がり接触面11aを構成する傾斜面部60a、60bのそれぞれは、転動面21のうちの中間ローラ側傾斜面部22のそれぞれに転がり接触し、かつ、外径側転がり接触面12aは、転動面21のうちの接続面部23に転がり接触している。
【0225】
中間ローラ6のそれぞれは、中心部に備えられた自転軸24を中心とする回転(自転)、および、径方向に関する変位を可能に、ハウジングなどの使用時にも回転しない固定部分に対し支持されている。すなわち、中間ローラ6のそれぞれは、自転はできるが、入力軸2aの中心軸Oを中心とする回転(公転)は阻止されている。
【0226】
ローディングカム装置7aは、サンローラ4aを構成する一対のローラ素子59a、59bを互いに近づく方向に押圧する。ローディングカム装置7aは、軸方向一方側のローラ素子59aと、カムディスク27aと、複数個の転動体28aとを備える。
【0227】
軸方向一方側のローラ素子59aは、軸方向一方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、かつ、周方向に交互に配置してなる被駆動側カム面32aを有する。
【0228】
カムディスク27aは、軸方向他方側の側面に、凹部と凸部とを同数ずつ、かつ、周方向に交互に配置してなる駆動側カム面29aを有し、入力軸2aの軸方向一方側部分に、該入力軸2aに対する軸方向の相対変位および相対回転を不能に外嵌固定されている。
【0229】
複数個の転動体28aのそれぞれは、軸方向一方側のローラ素子59aの被駆動側カム面32aとカムディスク27aの駆動側カム面29aとの間に、転動自在に配置されている。
【0230】
弾性部材8wは、一対のローラ素子59a、59bの平坦面部61同士の間に配置されている。本例では、弾性部材8wは、1枚の皿ばね36により構成されている。また、ローディングカム装置7aが押圧力を発揮する以前の初期状態において、弾性部材8bは弾性的に圧縮された状態で、一対のローラ素子59a、59bの平坦面部61同士の間に挟持されている。したがって、弾性部材8wは、前記初期状態においても、一対のローラ素子59a、59bに互いに離れる方向の力を付与している。
【0231】
本例の摩擦ローラ減速機1fの運転時には、駆動源により、入力軸2aを回転駆動することで、サンローラ4aを回転駆動する。サンローラ4aが回転すると、サンローラ4aの内径側転がり接触面11a(の一対の傾斜面部60a、60b)と中間ローラ6の転動面21(の一対の中間ローラ側傾斜面部22)との転がり接触に基づいて、中間ローラ6が自転する。中間ローラ6が自転すると、中間ローラ6の転動面21(の接続面部23)とリングローラ5aの外径側転がり接触面12aとの転がり接触に基づいて、リングローラ5aが、入力軸2aの中心軸Oを中心に回転し、リングローラ5dの回転が出力軸3aから取り出される。
【0232】
本例の摩擦ローラ減速機1fにおいては、入力軸2aの回転に伴い、カムディスク27aが回転すると、ローディングカム装置7aの転動体28aの、駆動側カム面29aの凹部の底部からの乗り上げ量および被駆動側カム面32aの凹部の底部からの乗り上げ量が増大する。これにより、ローディングカム装置7aの軸方向寸法が増大し、一対のローラ素子59a、59bが互いに近づく方向に押圧されつつ、軸方向一方側のローラ素子59aが回転駆動される。すなわち、軸方向一方側のローラ素子59aが軸方向他方側に押圧されると同時に、カムディスク27aが軸方向一方側に押圧されることにより、軸方向他方側のローラ素子59bが、入力軸2aを介して軸方向一方側に引っ張られる。
【0233】
一対のローラ素子59a、59bが互いに近づく方向に押圧されると、内径側転がり接触面11aを構成する傾斜面部60a、60bのうち、転動面21を構成する一対の中間ローラ側傾斜面部22と転がり接触する部分の外径が大きくなって、内径側転がり接触面11aと転動面21とのトラクション部(転がり接触部)の面圧が上昇する。さらに、この面圧上昇に伴い、中間ローラ6のそれぞれが、径方向に関して外側に押圧されると、転動面21の接続面部23と外径側転がり接触面12aとのトラクション部の面圧も上昇する。この結果、それぞれのトラクション部において過大な滑りを発生させることなく、入力軸2aからサンローラ4aに入力されたトルクは、中間ローラ6を介してリングローラ5dに伝達される。
【0234】
本例の摩擦ローラ減速機1fは、一対のローラ素子59a、59bの平坦面部61同士の間に弾性部材8wを挟持しており、弾性部材8wは、一対のローラ素子59a、59bに互いに離れる方向の力を付与している。したがって、ローディングカム装置7aが一対のローラ素子59a、59bを互いに近づく方向に押圧することに基づく、転動面21と内径側転がり接触面11aおよび外径側転がり接触面12aとのトラクション部のそれぞれの面圧の上昇量は、弾性部材8wから一対のローラ素子59a、59bに付与される互いに離れる方向の力の分だけ小さくなる。換言すれば、それぞれのトラクション部に作用する法線力の大きさは、弾性部材8wから一対のローラ素子59a、59bに付与される力の分だけ小さくなり、実際の運転状態を表す運転トラクション係数(サンローラ4a、リングローラ5dおよび中間ローラ6が伝達するトルクに応じた接線力/法線力)は大きくなる。
【0235】
上述のような本例の摩擦ローラ減速機1fにおいても、第1実施形態の第1例に係る摩擦ローラ減速機1と同様に、伝達するトルクの大きさにかかわらず、運転トラクション係数を適切な大きさに調整することができて、摩擦ローラ減速機1fの伝達効率を良好に確保することができる。また、高トルク伝達時に、運転トラクション係数を大きくすることができて、中間ローラ6のスキュー発生に基づく、押し付け力の加速度的な増加を効果的に防止することができる。
【0236】
なお、本例では、リングローラ5dを、出力軸3aに対し該出力軸3aと一体的に回転するように接続し、かつ、複数個の中間ローラ6を、入力軸2aの中心軸Oを中心とする回転(公転)を不能に支持している。ただし、本発明を実施する場合であって、サンローラを一対のローラ素子により構成する場合、リングローラを回転不能に支持し、かつ、中間ローラの公転運動を、出力軸から取り出すように構成することもできる。その他の部分の構成および作用効果は、第1実施形態の第1例と同様である。
【0237】
上述した第1実施形態の第1例~第7実施形態の第1例は、矛盾を生じない限り、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0238】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f 摩擦ローラ減速機
2、2a 入力軸
3、3a 出力軸
4、4a サンローラ
5、5a、5b、5c、5d リングローラ
6、6z 中間ローラ
7 ローディングカム装置
8、8a、8b、8c、8d、8e、8g、8h、8i、8j、8k、8l、8m、8n、8o、8p、8q、8r、8s、8t、8u、8v、8w、8z 弾性部材
9 雄スプライン部
10 フランジ部
11 内径側転がり接触面
12 外径側転がり接触面
13a、13b ローラ素子
14、14a、14b、14c、14d 連結筒
15a、15b 傾斜面部
16 平坦面部
17 素子側係合凹凸部
18、18a、18b、18c、18d 円筒部
19、19a 側板部
20 筒側係合凹凸部
21、21a、21b、21z 転動面
22、22a 中間ローラ側傾斜面部
23、23a 接続面部
24 自転軸
25 ホルダ
26 ラジアル転がり軸受
27、27a カムディスク
28、28a 転動体
29、29a 駆動側カム面
30 円筒部
31 側板部
32、32a 被駆動側カム面
33 スラストニードル軸受
34 スラストレース
35、35a 止め輪
36、36a、36b、36c、36d 皿ばね
37 ねじりコイルばね
38 保持凹部
39 保持器
40 保持孔
41 隙間
42、42a、42b、42c 開口部
43 支持部材
44 給油孔
45 アンギュラ玉軸受
46、46a、46b、46c、46d、46e 排油路
47、47a 切り欠き
48 シム板
49 凹溝
50 菊座金
51 切り欠き
52 凹溝
53 凹溝
54 通孔
55 隙間
56 凹部
57 凸部
58a、58b 排油穴
59a、59b ローラ素子
60a、60b 傾斜面部
61 平坦面部
100 摩擦ローラ減速機
101 入力軸
102 出力軸
103 サンローラ
104 リングローラ
105 中間ローラ
106 ローディングカム装置
107 フランジ部
108 内径側転がり接触面
109 外径側転がり接触面
110a、110b ローラ素子
111 連結筒
112a、112b 傾斜面部
113 係合凹凸部
114 止め輪
115 転動面
116 キャリア
117 カムディスク
118 転動体
119 駆動側カム面
120 円筒部
121 側板部
122 凸部
123 被駆動側カム面
124 アンギュラ玉軸受
【要約】
【課題】伝達効率を良好に確保することができ、かつ、押し付け力の加速度的な増大を防止することができる構造を実現する。【解決手段】リングローラ(5)を、一対のローラ素子(13a、13b)を、連結筒(14)により、軸方向の相対変位を可能に、かつ、相対回転を不能に組み合わせることにより構成する。一対のローラ素子(13a、13b)の先端面同士の間に弾性部材(8)を配置する。
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