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▶ 不二製油株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】チーズ様スナック食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 20/02 20210101AFI20220928BHJP
   A23L 11/45 20210101ALI20220928BHJP
   A23L 11/50 20210101ALI20220928BHJP
   A23L 3/44 20060101ALI20220928BHJP
   A23G 3/48 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A23C20/02
A23L11/45 H
A23L11/50
A23L3/44
A23G3/48
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022538811
(86)(22)【出願日】2022-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2022009104
【審査請求日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021048046
(32)【優先日】2021-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友則
(72)【発明者】
【氏名】米元 博子
(72)【発明者】
【氏名】古谷 憲一
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-262441(JP,A)
【文献】特開2003-189813(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173610(WO,A1)
【文献】特開2005-312424(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108497376(CN,A)
【文献】Cheddar Cheese Pop Protein Crisps,Mintel GNPD, [online], ID#: 7266595,2020年2月,[Retrieved on 12-04-2022], Retrieved from the internet: <URL: https://portal.mintel.com>,2020年
【文献】月刊フードケミカル,2019年6月,Vol.35,No.6,pp.33-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A23L
A23G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳に油脂および澱粉を添加した、豆乳調製品中の水分が20重量%以上50重量%以下であり、油分が15重量%以上45重量%以下であり、澱粉が15重量%以上40重量%以下である、pH6以下の豆乳調製品を凍結乾燥する、チーズ様スナック食品の製造方法。
【請求項2】
豆乳が油分2重量%以下の低油分豆乳である、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
pHを醗酵により調整する、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆乳より製造されたチーズ様スナック食品に関する。
【背景技術】
【0002】
チーズを乾燥させ、スナックとして喫食する検討が行われている。αSカゼイン比率を調整した原料を加熱乾燥したチーズスナックや(特許文献1)、特殊な環境でフリーズドライしたスナックタイプのドライチーズ(特許文献2)が提案されている。
また、大豆は古くから用いられている食材であり、豆腐はその代表的な加工食品である。そして、豆腐の凍結乾燥品も知られており、復元性すなわち湯戻りの良いフリーズドライ豆腐が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-276070号公報
【文献】特開2015-142561号公報
【文献】特開平5-184321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チーズスナックは風味の劣化が速いため、ペットフードとして販売されているものも少なくない。そこで本発明の目的は、凍結乾燥チーズスナックや同等の風味食感を有する加工食品に対して、保存安定性を向上させることにある。具体的には、開封後の環境であっても、数週間は風味を維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、乳を用いたチーズではなく、油脂および澱粉を添加し水分量を調整した豆乳を原料に凍結乾燥を行うことで、チーズスナック様の風味食感を有しつつ、保存安定性に富んだ食品が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は
(1)豆乳に油脂および澱粉を添加したpH6以下の豆乳調製品を凍結乾燥する、チーズ様スナック食品の製造方法。
(2)豆乳調製品中の水分が20重量%以上、50重量%以下である、(1)に記載の製造方法。
(3)豆乳調製品中の油分が15重量%以上、45重量%以下である、(1)に記載の製造方法。
(4)豆乳調製品中の澱粉が15重量%以上、40重量%以下である、(1)に記載の製造方法。
(5)豆乳が油分2重量%以下の低油分豆乳である、(1)に記載の製造方法。
(6)豆乳が油分2重量%以下の低油分豆乳である、(4)に記載の製造方法。
(7)pHを醗酵により調整する、(1)に記載の製造方法。
(8)pHを醗酵により調整する、(4)に記載の製造方法。
に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存安定性に富んだ、チーズスナック様の加工食品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(豆乳)
本発明で用いる豆乳とは、大豆または脱脂大豆を原料に、必要により前処理を行った後に加水して、水溶性成分を抽出したものである。前処理とは水抽出前に大豆に対して行う操作で、乾熱加熱,湿熱加熱,脱皮,脱胚,圧偏,粉砕,分級,脱脂等が例示できる。
豆乳にこれら前処理の1種またはそれ以上を行い、または行わず、水溶性成分を抽出する。抽出条件は任意に設定することができるが、大豆に含まれる大豆グロブリンの半分以上が抽出されることが好ましい。抽出水の量、温度、pH等は任意に設定可能であり、抽出も1度ではなく、同じ条件や異なる条件で複数回行うこともできる。また、加水後に湿式破砕を行うこともできる。得られた抽出液である豆乳は、オカラ等の不溶成分と分離して回収する。分離後の豆乳は減圧濃縮等の種々の方法にて濃縮することも可能である。
尚、本発明で使用する豆乳は、うま味等に富むとされている低脂肪豆乳であることが好ましい。低脂肪豆乳とは油分が2重量%以下の豆乳であり、好ましくは1重量%以下の豆乳である。
【0009】
(油脂)
本発明は、豆乳に油脂を添加することが必須である。ここで用いる油脂の種類や添加量は、大豆の前処理や抽出条件により変化するが、後述する豆乳調製品中に、15~45重量%であることが好ましく、20~40重量%であることが更に好ましい。範囲を外れるとスナック様の食感にならない場合がある。
添加油脂は、食感上は固型脂すなわち、室温で固体としての形状を維持できるものが好ましく、ヤシ油,パーム核油,パーム油、カカオバター、およびこれらの分別油、並びに各種の硬化油等が挙げられる。
【0010】
(澱粉)
本発明は、豆乳に澱粉を添加することも必須である。澱粉は凍結時の変性を抑えることで乾燥後の食感に大きく影響するとともに、ボディ材として機能することから、凍結時に型等に入れて冷却する手間を省くことができる。本用途には豆類の澱粉が好ましい。添加量は適宜決めることができるが、後述する豆乳調製品中に、15~40重量%であることが好ましく、20~30重量%であることが更に好ましい。少ない場合も多い場合も食感に悪影響を及ぼす場合がある。
【0011】
(pH)
本発明は豆乳のpH調整も必須である。pHが高いと風味が好ましくない上に、食感にも影響がある。pHは6以下であり、pH5.5以下が好ましい。またpHが低いと酸味が強いため、pH3以上が好ましく、pH4以上が更に好ましい。pHの調整は、微生物による醗酵や酸の添加により行うことができるが、より風味が付与される醗酵が好ましい。醗酵の場合は乳酸菌の使用が好ましく、例えば乳酸菌スターターを用いて、15~45℃で、pH4.0~5.5程度まで醗酵を行う。
酸添加の場合は、乳酸,クエン酸,リンゴ酸,酢酸等の有機酸や、リン酸,塩酸等の無機酸を挙げることができる。有機酸の使用が好ましく、乳酸の使用が最も好ましい。
【0012】
(他原料)
本発明品は、上記以外の原料を加えることもできる。各種の塩類,少糖類,オリゴ糖,デキストリン,その他の調味料,香料等を挙げることができる。
【0013】
(水分)
本発明で用いる豆乳は、濃縮操作、並びに前述した油脂や澱粉等の添加により、豆乳中の水分濃度を20~50重量%とすることが重要である。水分が少ないと豆乳に対する種々の加工が行い難くなり、水分が多いとスナック様の物性を得難くなる。
【0014】
(豆乳調製品)
油脂、澱粉及び他の原料を添加された豆乳にせん断力を与えて均質化処理を行う。均質化には、ホモミキサー、高圧ホモジナイザーまたは超音波ホモジナイザー等の乳化装置を用いることができる。ホモミキサー等で油脂を分散させた後に、高圧ホモジナイザーで均質化を行うことで、より細かい粒子径のエマルジョンを調製することができる。
安定なエマルジョンを調製するために、乳化剤を添加することができる。乳化剤としては、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が挙げられる。
また、均質化処理後に、加熱殺菌を行うことで、安全性の高い食品とすることができる。加熱は80℃~130℃、30分~5秒程度の条件で行うことができる。
尚、前述した醗酵によるpH調整を行う場合は、均質化および加熱殺菌後に醗酵を行うことが好ましい。醗酵後、必要によって再度加熱殺菌することもできる。
以上の処理を施した豆乳を、豆乳調製品とした。
【0015】
(凍結乾燥)
豆乳調製品について、凍結乾燥を行いスナック食品とする。この際、乾燥後にスナック様食品として喫食に供するため、喫食し易い形状にした上で凍結することが好ましい。立方体や直方体、球状など種々の形状を取ることができるが、いずれも0.1~10ml程度の単位で凍結することが好ましく、0.5~3mlが更に好ましい。また、その際の大きさは、垂直3辺のどの辺を取っても5mm以上であることが好ましい。小さいと喫食し難く、大きいと凍結乾燥に長時間が必要となる。
凍結に際しては、固体あるいは半固体の豆乳調製品を適切な大きさで切断や成形後に凍結しても良いし、半固体あるいは液体の豆乳調製品を適切な容積と形状の容器に分注して凍結しても良い。凍結時の作業性を考えれば、常温で保形性を有したものが好ましい。
【0016】
以上の操作で製造されたチーズスナック様食品は、チーズの凍結乾燥品と同様な風味食感を有している上に、長期間の保存安定性を有するものである。
【実施例
【0017】
以下に実施例を記載することで本発明を説明する。文中の数値は全て重量部を表す。
【0018】
(実施例1)
市販の低脂肪豆乳(不二製油製、美味投入・固形分10%,蛋白質4.4%,脂質0.8%)30部に、ヤシ油25部、食塩1.5部、水10部を混合し50℃に加温した。そこにエンドウ澱粉25部、マルトデキストリン(松谷化学製・パインデックス #2)5部、調味材3.5部を混合し、50℃で加温攪拌した後、乳酸を用いてpHを5.2に調整した。これをホモゲナイザーを用いて均質化し、掻きとり式連続熱交換機に通して80~90℃に加熱殺菌したものを冷却して、豆乳調製品を得た。
この豆乳調製品は常温で保形性を有したので、1辺1cmの立方体に切断した後、凍結乾燥を行ってチーズ様スナック食品である凍結乾燥品を得た。
【0019】
(実施例2)
実施例1で使用した低脂肪豆乳30部に、ヤシ油25部、食塩1.5部、水10部を混合し50℃に加温した。そこにエンドウ澱粉25部、マルトデキストリン5部、調味材3.5部を混合し、50℃で加温攪拌した後、掻きとり式連続熱交換機に通して80~90℃に加熱殺菌したものに、ラクトバチルス・ブルガリカス及びストレプトコッカス・サーモフィラスを混合した乳酸菌スターターを0.01%添加して37~40℃で約5時間,pH5.2まで醗酵させることで、豆乳調製品を得た。その後は実施例1と同様に処理し、凍結乾燥品を得た。
【0020】
(実施例3)
市販の豆乳加工品(不二製油製・マメマージュセミハード)(豆乳、植物油脂、澱粉を含む。水分43%,脂質25%,蛋白質2%,澱粉25%,pH5.3)を1辺1cmの立方体に切断し、凍結乾燥を行った。
【0021】
(実施例)
豆乳の代わりに牛乳を用いて、実施例1と同様に凍結乾燥品を調製した。
【0022】
(評価)
以上の実施例,比較例を、凍結乾燥直後、および常温で7日間,14日間開封のまま放置した後に、風味を確認してみた。評価は5人のパネラーの合議により行い、◎:風味に全く問題がない。○:異臭がごく僅か認められる。△:異臭が僅かに認められる。×:異臭があり喫食が厳しい。とした。
【0023】
(表1)各種のチーズ様スナック食品の風味変化
【0024】
何れもチーズ様な良好な風味を示した。醗酵を伴った実施例1および実施例3は、特に良好な風味を有していた。実施例1~3の豆乳を原料に調製したチーズ様スナックは何れも、1~2週間保存後も風味の大きな変化は認められなかった。対して比較例1の乳で調製したチーズ様スナックは、初期は酸化および低級脂肪酸に由来すると思われる臭いを、その後は由来を特定できない強い異臭を伴っていた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、チーズ様スナック食品に保存安定性を付与した上で、安価に供給することができる。
【要約】
開封後の状態であっても、数週間は風味を維持することができる、保存安定性を向上させたチーズ様スナック食品を得る。
原料に豆乳を用い、油脂と澱粉を添加してpHを6以下とした豆乳調製品を凍結乾燥することで、保存安定性を高めたチーズ様スナック食品を得ることができる。