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特許7148037PD-L1とVEGFを標的化する組換えタンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】PD-L1とVEGFを標的化する組換えタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220928BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220928BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220928BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220928BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220928BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220928BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220928BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K16/28
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C12N15/13
C12N15/12
A61P43/00 111
A61P35/02
A61P35/00
A61P43/00 105
A61P1/16
A61P9/10
A61P27/02
A61K38/17
A61K48/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 U
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021531099
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 CN2019122446
(87)【国際公開番号】W WO2020114355
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】62/774,849
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517342693
【氏名又は名称】イミューンオンコ バイオファーマシューティカルズ (シャンハイ) インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティアン、ウェンジ
(72)【発明者】
【氏名】リ、ソン
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/075270(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/168947(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/136562(WO,A2)
【文献】特表2017-526635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15
C07K 19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖および軽鎖を有する抗PD-L1抗体と、
血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメインと、
を備える、組換えタンパク質であって、
前記重鎖は配列識別番号2のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖は配列識別番号6のアミノ酸配列を含み、
前記VEGFRの細胞外Ig様ドメインはVEGFR1の第2の細胞外Ig様ドメイン(VEGFR1D2)であり、
前記VEGFR1D2は前記重鎖のN末端またはC末端、または前記軽鎖のN末端にリンカを介して連結され、
前記組換えタンパク質は、PD-L1、VEGFおよびFc受容体を同時に結合することができる
組換えタンパク質。
【請求項2】
VEGFR1D2が配列識別番号8のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えタンパク質。
【請求項3】
VEGFR1D2が、前記重鎖のN末端にリンカを介して連結されている、請求項1に記載の組換えタンパク質。
【請求項4】
VEGFR1D2を有する前記重鎖が配列識別番号14のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖が配列識別番号6のアミノ酸配列を含む、請求項3に記載の組換えタンパク質。
【請求項5】
VEGFR1D2が、前記重鎖のC末端にリンカを介して連結されている、請求項1に記載の組換えタンパク質。
【請求項6】
VEGFR1D2を有する前記重鎖が配列識別番号16のアミノ酸配列を含み、前記軽鎖が配列識別番号6のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えタンパク質。
【請求項7】
VEGFR1D2が、リンカを介して前記軽鎖のN末端に連結されている、請求項1に記載の組換えタンパク質。
【請求項8】
前記重鎖が配列識別番号2のアミノ酸配列を含み、VEGFR1D2を有する前記軽鎖が配列識別番号18のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えタンパク質。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の組換えタンパク質をコードする、核酸分子
【請求項10】
請求項9に記載の核酸分子を備える、発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを備える、宿主細胞。
【請求項12】
請求項1からのいずれか一項に記載の組換えタンパク質、または請求項に記載の核酸分子、または請求項10に記載の発現ベクター、または請求項11に記載の宿主細胞と、
薬学的に許容される担体とを備える、医薬組成物。
【請求項13】
VEGFまたはPD-L1、またはその両方の過剰発現によって引き起こされる疾患を治療するための医薬品の調製における、請求項12に記載の医薬組成物の使用。
【請求項14】
前記疾患が、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、乳癌、膵癌、肝癌、腎細胞癌、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、肝線維症、血管肉腫らなる群から選択される請求項13に記載の医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、組換えタンパク質/抗体、ならびに、その調製および使用に関し、特に、腫瘍治療における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌細胞は、宿主の免疫監視を回避するためのいくつかのメカニズムを発達させている。例えば、多くの腫瘍細胞や癌細胞は、その表面に高レベルのPD-LlやPD-L2を発現しており、これらのPD-LlやPD-L2は、T細胞の表面にあるPD-1と結合して、T細胞のアポトーシスを誘導する。
【0003】
また、癌細胞の増殖には、十分な栄養の供給が必要である。癌細胞自身が、血管上皮増殖因子(VEGF)などの血管の増殖を促進する因子を分泌することができる。VEGFやその受容体の活性を阻害することで、固形腫瘍への血液供給を止め、腫瘍の増殖を阻害する。
【0004】
PD-L1およびPD-1
【0005】
programmed death-ligand 1またはCD274としても知られているPD-L1は、組織同種移植、自己免疫性疾患および癌の発生など、一部の特定のイベントにおいて免疫系を抑制する上で主な役割を担う膜貫通タンパク質である。
【0006】
ある種の癌では、STAT3のような転写因子とNF-κBとの間のフィードバック制限が失われると、局所的なPD-L1の発現が増加し、PD-L1を標的化する薬剤による全身治療の効果が制限される可能性がある (Vlahopoulos, SA. Aberrant control of NF-κB in cancer permits transcriptional and phenotypic plasticity to curtail dependence on host tissue: molecular mode. Cancer Biology & Bedicine. 2017, 14: 254-270)。腎細胞癌の患者からの196の腫瘍標本の解析から、PD-L1の高い腫瘍発現は、腫瘍の進行性の増加、および、死亡リスクの4.5倍の増加に関連することが分かった(Thompson RH, et al. Costimulatory B7-H1 in renal cell carcinoma patients: Indicator of tumor aggressiveness and potential therapeutic target. PNAS. 2004, 101 (49): 17174-9)。
【0007】
PD-1は約268アミノ酸の細胞表面受容体である。PD-L1またはPD-L2に結合したとき、免疫系を下方制御し、T細胞炎症活性を抑制することにより自己寛容を促進する。免疫系に対するPD-1の阻害作用は、自己免疫性疾患を防止するが、免疫系が癌細胞を破壊することも防止する。抗PD-1抗体BMS-936558は、非小細胞性肺癌、悪性黒色腫、または腎細胞癌の患者うち、約5人中1人から4人中1人において、客観的応答を生じさせた (Suzanne L. Topalian, et al., Safety, Activity, and Immune Correlates of Anti-PD-1 Antibody in Cancer, N Engl J Med 2012, 366:2443-2454)。
【0008】
VEGFおよびVEGFR
【0009】
VEGFは、組織/傷の修復プログラムの制御に中心的な役割を果たす多面的な増殖因子で、VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、およびPIGFに分類されている。組織の治癒過程において、VEGFは、新しい血管の形成(血管新生)を駆動すると同時に、免疫をダウンレギュレートする (Canic M, et al. The role of vascular endothelial growth factor in wound healing. J Surg Res. 2009, 153:347-358; Leung DW, et al. Vascular endothelial growth factor is a secreted angiogenic mitogen. Science. 1989, 246:1306-1309; Voron T, et al. Control of the immune response by pro-angiogenic factors. Front Oncol. 2014, 4:70)。VEGFのこれらの特性は両方とも、腫瘍血管の発達を可能にし、抗癌免疫を抑制するため、発癌プロセスに不可欠である (Hanahan D, Weinberg RA. Hallmarks of cancer: the next generation. Cell. 2011, 144:646-674)。特にVEGFは、DCの成熟阻害、T細胞の腫瘍浸潤の軽減、腫瘍微小環境における阻止細胞の増加という3つの主要なメカニズムによって、免疫抑制効果を発揮すると考えられている。また、VEGFの発現異常は、関節リウマチ、糖尿病性網膜症、湿潤型加齢黄斑変性症、糸球体肥大などの他の疾患にも寄与している。FDA承認の抗VEGFモノクローナル抗体薬である「アバスチン」は、VEGFの生物学的活性を阻害することで、癌(大腸癌、肺癌)を治療する機能を持っている。VEGFを標的化するもう一つのタンパク質薬剤であるアフリベルセプトは、欧米では「Eylea」という商品名で湿性黄斑変性症の治療薬として、また、「Zaltrap」という商品名で転移性大腸癌の治療薬として承認されている。
【0010】
VEGF受容体(VEGFR)には、VEGFR-1、VEGFR-2およびVEGFR-3の3つのサブタイプがあり、いずれも7つの免疫グロブリン様ドメインからなる細胞外部分、1つの膜貫通領域、細胞内部分を有している。VEGFR-2は、VEGFに対する既知の細胞応答のほぼすべてを媒介すると思われるが、VEGFR-1はVEGFR-2の結合からVEGFを隔離し、VEGFR-2のシグナル伝達を調節する。人間の健康にとって最も危険なタイプであるVEGF-Aは、VEGFR-1とVEGFR-2の両方に結合する。VEGFRアンタゴニストは、主に癌の治療に使用されているか、または研究されている。VEGFR-1、VEGFR-2およびVEGFR-3のキナーゼに対するマルチキナーゼ阻害剤として作用するレンビマは、2015年に分化型甲状腺癌の治療薬として、2016年にはエベロリムスとの併用で進行性腎細胞癌の治療薬として承認された。
【0011】
FcおよびFcR
【0012】
断片結晶化可能領域(Fc領域)は抗体の尾部領域であり、抗体のエフェクタ機能、すなわち、特定の細胞受容体または他の防御タンパク質とどのように係合するかを決定するドメインである。
【0013】
Fc受容体(FcR)は、Bリンパ球、濾胞樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞を含む特定の免疫エフェクタ細胞の表面上に見られるタンパク質である。これらの細胞は、免疫系の保護機能に寄与している。
【0014】
Fc領域は、Fc受容体、および/または、免疫系を活性化する相補系のタンパク質と相互作用し得る。例えば、Fc受容体は、感染細胞や侵入病原体に付着した抗体と結合し、食細胞や細胞傷害性細胞を刺激して、抗体介在性の食作用や抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)によって微生物や感染細胞を破壊する。
【0015】
治療用二重特異性または多特異性融合タンパク質/抗体
【0016】
タンパク質・抗体療法は、癌を含む疾患の治療を著しく前進させたが、臨床研究では、多くの患者が単剤療法では十分な効果が得られないことを示している。例えば、PD-L1/PD-1を標的化する抗体で治療を受けた患者のうち、持続的な奏効および/または生存が得られるのは一部の患者に限られている。前述の2つのタンパク質を標的化するVEGFであるアバスチンとアフリベルセプトは、癌細胞の増殖をある程度阻害するが、癌細胞を排除することはできない。
【0017】
上記の制限に対処するために、2つ以上の別々の異なる抗原、または同じ抗原の異なるエピトープに対する二重特異性または多特異性組換えタンパク質が発達される。例えば、二重特異性タンパク質の中には、細胞傷害性細胞と破壊すべき腫瘍細胞が同時に結合するように設計されたものがある。このようなタンパク質は、複数の腫瘍細胞の増殖および生存経路を遮断することができ、および/または、腫瘍細胞の破壊経路を活性化することができるため、癌の増殖をより良く阻害できる可能性がある。
【0018】
しかし、二重特異性タンパク質や多特異性タンパク質、特に二重特異性抗体や多特異性抗体は、分子の互換性、物理的に連結できるかどうか、物理的に連結できたとしても得られるタンパク質の親和性、安定性、医薬品としての特性など、多くの変数を考慮しなければならないため、設計上の大きな課題をとなっている。2つ以上の抗体やタンパク質を単に連結するだけでは、相乗効果やさらに有利な効果が得られないことが多いことはよく意識されている。下記の比較例に開示されている、SIRPαD1がリンカで連結された抗EGFR抗体からなる組換え抗体は、HT-29またはNCL-H1975腫瘍モデルにおいて、抗EGFR抗体またはSIRPαD1-Fc単独と比較して、抗腫瘍活性が劣ることが証明されている。
【発明の概要】
【0019】
本発明者らは、鋭意努力の結果、PD-L1とVEGFの両方を標的とし、同時にFcRに結合する組換えタンパク質と組換え抗体の設計に成功した。本開示の組換えタンパク質/抗体は、組み合わせて使用したとしても、単一特異性対応物よりも優れた抗腫瘍活性を示す。
【0020】
従って、第1の態様において、本開示は、PD-L1と結合するためにジスルフィド結合で連結された抗PD-L1抗体重鎖および抗PD-L1抗体軽鎖と、前記重鎖または前記軽鎖のN末端またはC末端にリンカを介して連結された血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメインとを備える組換えタンパク質を提供し、前記組換えタンパク質は、PD-L1、VEGFおよびFc受容体を同時に結合することができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、重鎖のN末端にリンカを介して連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、重鎖のC末端にリンカを介して連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、リンカを介して軽鎖のN末端に連結されている。
【0022】
また、本明細書に記載の組換えタンパク質を含む二量体も提供される。二量体は、上述の2つの組換えタンパク質などからなるホモ二量体であってもよく、例えば、2つの同一のものであってもよい。
【0023】
第2の態様において、本開示は、2本の重鎖および2本の軽鎖を有する抗PD-L1抗体を備える組換え抗体を提供し、血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメインが、各重鎖のN末端もしくはC末端、または各軽鎖のN末端もしくはC末端にリンカを介して連結されており、組換え抗体がPD-L1、VEGFおよびFcRを同時に結合することができる。組換え抗体は、第1の態様に記載の組換えタンパク質のホモ二量体である。
【0024】
いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、リンカを介して各重鎖のN末端に連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、各重鎖のC末端にリンカを介して連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインが、リンカを介して各軽鎖のN末端に連結されている。
【0025】
癌細胞などの標的細胞上のPD-L1に結合することで、PD-1媒介阻害シグナルによるT細胞への牽制を解除し、VEGFに結合することで血管の新生を禁止し、免疫抑制を解除することで、標的細胞増殖を制限する。さらに、NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞上のFcRに結合することで、NK細胞やマクロファージによる標的細胞の破壊を刺激する。
【0026】
第1の態様と第2の態様に記載された抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブなどの単離モノクローナル抗体、および、アテゾリズマブ、アベルマブ、またはデュルバルマブと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%のアミノ酸同一性を有する抗体であり得る。
【0027】
抗PD-L1抗体は、配列識別番号1、3および5の核酸配列によってそれぞれコードされ得る、配列識別番号2または4のアミノ酸配列を各々有する2つの重鎖と、配列識別番号6のアミノ酸配列を各々有する2つの軽鎖とを備える単離モノクローナル抗体であり得る。抗PD-L1抗体の抗原結合(Fab)部分(またはパラトープ)は、癌/腫瘍細胞などの標的細胞の細胞表面上のPD-L1に結合して、PD-L1とT細胞の細胞表面上のPD-1との相互作用を遮断し、PD-1媒介阻害シグナルによるT細胞への牽制を解除することができる。抗PD-L1抗体のFc部分は、NK細胞やマクロファージなどの免疫細胞の細胞表面にあるFcRに結合し、NK細胞やマクロファージによる標的細胞の破壊を刺激することができる。
【0028】
いくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体の重鎖は、配列識別番号2に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、抗PD-L1抗体は、PD-L1に結合して、T細胞の細胞表面上のPD-1とPD-L1の相互作用を遮断することができ、また、免疫細胞の細胞表面上のFcRに結合して、これらの細胞を活性化して、癌細胞などの標的細胞を破壊することができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、軽鎖は、配列識別番号6に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、抗PD-L1抗体は、PD-L1に結合して、T細胞の細胞表面上のPD-1とPD-L1の相互作用を遮断することができ、また、免疫細胞の細胞表面上のFcRに結合して、癌細胞などの標的細胞を破壊するためにこれらの細胞を活性化することができる。
【0030】
第1の態様および第2の態様に記載のVEGFRは、VEGFR1および/またはVEGFR2であってもよく、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、VEGFRの第2の細胞外Ig様ドメインであってもよい。一実施形態において、VEGFRはVEGFR1であり、VEGFR1の細胞外Ig様ドメインは、VEGFR1の第2の細胞外Ig様ドメイン(VEGFR1D2)である。別の実施形態において、VEGFRはVEGFR2であり、VEGFR2の細胞外Ig様ドメインは、VEGFR2の第2の細胞外Ig様ドメイン(VEGFR2D2)である。VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、標的細胞または標的細胞の周囲の細胞、例えば癌/腫瘍細胞、が発現するVEGF結合し、標的細胞の増殖を制限することができる。
【0031】
一実施形態において、VEGFR1D2は、配列識別番号7および8にそれぞれ記載されている核酸配列およびアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態において、VEGFR1D2は、配列識別番号8に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、VEGFR1D2は、標的細胞、例えば、癌/腫瘍細胞によって発現されるVEGFまたはその周辺に結合することができ、その結果、標的細胞の増殖を制限することができる。
【0032】
第1の態様および第2の態様に記載のリンカは、約5~30アミノ酸残基のペプチドであってもよい。実施形態において、リンカは10~30アミノ酸残基のペプチドである。別の実施形態において、リンカは10~15アミノ酸残基のペプチドである。いくつかの実施形態において、リンカは、-(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)-(配列識別番号10)または-(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)-(配列識別番号12)であり、それぞれ配列識別番号9および11によってコードされていてもよい。
【0033】
抗PD-L1重鎖のN末端にVEGFR1D2が連結されたVEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1重鎖は、配列識別番号14のアミノ酸配列からなり、配列識別番号13のヌクレオチドによってコードされていてもよい。いくつかの実施形態において、VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1重鎖は、配列識別番号14に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ここで、VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1重鎖は、抗PD-L1抗体の軽鎖とともに、VEGF、PD-L1およびFcRに結合することができ、i)標的細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1との相互作用を遮断し、ii)標的細胞の表面上のVEGFとVEGFRとの相互作用を遮断し、iii)免疫細胞による標的細胞の破壊を刺激する。
【0034】
抗PD-L1重鎖のC末端にVEGFR1D2が連結された抗PD-L1重鎖-リンカ-VEGFR1D2は、配列識別番号16のアミノ酸配列からなり、配列識別番号15のヌクレオチドによってコードされていてもよい。いくつかの実施形態において、抗PD-L1重鎖-リンカ-VEGFR1D2は、配列識別番号16に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。ここで、VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1重鎖は、抗PD-L1抗体の軽鎖とともに、VEGF、PD-L1およびFcRに結合することができ、i)標的細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1との相互作用を遮断し、ii)標的細胞の表面上のVEGFとVEGFRとの相互作用を遮断し、iii)免疫細胞による標的細胞の破壊を刺激する。
【0035】
抗PD-L1軽鎖コード配列のN末端にVEGFR1D2が連結されたVEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1軽鎖は、配列識別番号18のアミノ酸配列からなり、配列識別番号17のヌクレオチドによってコードされていてもよい。いくつかの実施形態において、VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1軽鎖は、配列識別番号18に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列からなり、VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1軽鎖は、抗PD-L1抗体の重鎖とともに、VEGF、PD-L1、およびFcRに結合することができ、i)標的細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1との相互作用を遮断し、ii)標的細胞の表面上のVEGFRとVEGFとの相互作用を遮断し、iii)免疫細胞による標的細胞の破壊を刺激する。
【0036】
第3の態様においては、本開示の組換えタンパク質/抗体をコードする核酸分子、ならびに当該核酸を含む発現ベクターおよび当該発現ベクターを含む宿主細胞も提供される。
【0037】
第4の態様においては、発現ベクターを含む宿主細胞を用いて組換えタンパク質/抗体を調製する方法も提供され、この方法は、(i)宿主細胞で組換えタンパク質/抗体を発現させる段階と、(ii)宿主細胞から組換えタンパク質/抗体を単離する段階とを含む。
【0038】
第5の態様においては、本開示は、本開示の組換えタンパク質または組換え抗体と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0039】
第6の態様においては、本開示は、VEGFおよび/またはPD-L1の過剰発現によって引き起こされる疾患を治療するための方法であって、患者またはそれを必要とする対象に、治療有効量の本開示の医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0040】
一実施形態において、本開示は、VEGFおよび/またはPD-L1の過剰発現によって引き起こされる疾患の治療のための医薬組成物の製造における、組換えタンパク質または組換え抗体の使用を提供する。
【0041】
一実施形態において、本開示の方法は、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、乳癌、膵癌、肝癌および腎細胞癌から成る群から選択される疾患を治療するためのものである。一実施形態において、本開示は、加齢性黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、肝線維症または血管肉腫を治療する方法を提供する。
【0042】
本開示の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および例から明らかであるが、これは限定として解釈されるべきでない。本出願全体において引用されるすべての参照内容、GenBankエントリ、特許および特許出願公開は、参照によって本明細書に明示的に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本開示の組換え抗体の構造を示す模式図である。
【0044】
図2】本開示の組換え抗体のSEC-HPLC図である。
【0045】
図3】本開示の組換え抗体のVEGF-165に対する結合活性を示す図である。
【0046】
図4】本開示の組換え抗体のPD-L1に対する結合活性を示す図である。
【0047】
図5】VEGF-165およびPD-L1に対する本開示の組換え抗体の同時結合活性を示す図である。
【0048】
図6】IMM2510のRaji-PD-L1に対するADCC活性を示す図である。
【0049】
図7】VEGF-165存在下でのRaji-PD-L1に対するIMM2510のADCC活性を示す図である。
【0050】
図8】MC38-hPD-L1異種移植モデルにおけるIMM2505のin vivo治療効率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
抗体療法は、癌を含む広範な疾患を治療するために様々な管轄領域で承認されており、患者の転帰を著しく改善している(Komeev KV et al., (2017) TLR-signaling and proinflammatory cytokines as drivers of tumorigenesis. Cytokine 89: 127-135)。疾患抗原と結合した抗体は、抗体依存性細胞媒介細胞傷害を誘発したり、相補系を活性化したり、および/または、受容体がそのリガンドと相互作用するのを防止したりして、すべてが細胞死を引き起こす可能性がある。米国食品医薬品局で承認された抗体医薬品には、アレムツズマブ、ニボルマブ、リツキシマブおよびデュルバルマブがある。
【0052】
しかし、臨床研究では、多くの患者が単剤療法では十分な効果が得られないことが示されている。例えば、承認されている抗PD-L1抗体、アベルマブ(BAVENCIO)の全奏効率はわずか33%である。さらに、数サイクルの治療後には、後天的な抗体耐性が生じることが多い。
【0053】
そのため、2つ以上の独立した固有の抗原、または同じ抗原の異なるエピトープに対する二重特異性または多特異性抗体が必要となる。
【0054】
本発明者は、鋭意実験の結果、PD-1媒介阻害シグナルによるT細胞への牽制または阻害を解除すること、血管の新生を禁止して免疫抑制を解除することで標的細胞増殖を制限すること、NK細胞およびマクロファージなどの免疫細胞による標的細胞の破壊を刺激することの3つの作用機序により、疾患を攻撃することができる新規の組換えタンパク質/抗体を発明した。
【0055】
本開示の組換えタンパク質は、1)抗PD-L1抗体重鎖および抗PD-L1抗体軽鎖を含み、これら2つはPD-L1と結合するためにジスルフィド結合で連結されており、および2)重鎖または軽鎖のN末端またはC末端にリンカを介して連結された血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメインを含み、この組換えタンパク質は、PD-L1、VEGFおよびFc受容体を同時に結合することができる。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、リンカを介して重鎖のN末端に連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、リンカを介して重鎖のC末端に連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、リンカを介して軽鎖のN末端に連結されている。重鎖のFc断片は、ジスルフィド結合によって別のFc断片と連結する。例えば、本開示の2つの組換えタンパク質は、ジスルフィド結合によって連結されて、本開示の組換え抗体を形成することになる。
【0056】
本開示の組換え抗体は、2本の重鎖と2本の軽鎖を有する抗PD-L1抗体を含み、血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメインがリンカを介して各重鎖のN末端もしくはC末端に、または各軽鎖のN末端もしくはC末端に連結しており、組換え抗体はPD-L1、VEGFおよびFcRを同時に結合することができる。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、各重鎖のN末端にリンカを介して連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、各重鎖のC末端にリンカを介して連結されている。いくつかの実施形態において、VEGFRの細胞外Ig様ドメインは、リンカを介して各軽鎖のN末端に連結されている。
【0057】
本願の発明者らは、驚くべきことに、抗体のFc断片のC末端にポリペプチドが連結していても、FcR結合能が抗体のFc部分に残っていることを発見した。特に、本発明者らは、未発表の研究において、通常のIg様抗体と2つのVEGFR1D2断片からなる組換え抗体を設計して調製し、2つのVEGFR1D2断片が、それぞれ抗体の2つのFc断片に連結している。ADCCアッセイにおいて、組換え抗体は正常抗体よりもやや低い活性で標的細胞を積極的に溶解し、組換え抗体の最大溶解率は約45.0%、溶解EC50は約68.71ng/ml、正常抗体の最大溶解率は約58.0%、溶解EC50は約49.55ng/mlであった。その後のin vivo抗腫瘍試験においては、正常抗体とVEGFR1D2-Fcを併用した場合よりも、組換え抗体の方がより良い抗腫瘍効果を示した。
【0058】
本開示の組換えタンパク質/抗体に含まれる3つの主成分は、血管上皮増殖因子受容体(VEGFR)の細胞外Ig様ドメイン、リンカ、および抗PD-L1抗体である。当業者であれば、上記3成分を選択するための設計の選択肢が多くあることを認識するであろう。非ヒト動物のタンパク質またはペプチドの強力な免疫原性はアレルギーおよびその他の副作用を引き起こし得るので、好ましくは、ヒト由来配列がヒトの疾患療法において使用される。しかしながら、異なる応用の目的に基づき、他の動物タンパク質またはペプチドも、必要に応じてヒト化されて本開示においても使用され得る。
【0059】
任意の抗PD-L1抗体は、本開示の組換えタンパク質または抗体の形成において使用され得る。抗PD-L1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブおよびデュルバルマブから成る群から選択される単離モノクローナル抗体であり得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体は、配列識別番号1、3および5の核酸配列によってそれぞれコードされ得る、配列識別番号2または4のアミノ酸配列を各々有する2つの重鎖と、配列識別番号6のアミノ酸配列を各々有する2つの軽鎖とを備える単離モノクローナル抗体である。抗PD-L1抗体のFab部分(またはパラトープ)は、癌/腫瘍細胞などの標的細胞の細胞表面上のPD-L1に結合して、PD-L1と、T細胞の細胞表面上のPD-1との相互作用を遮断でき、これにより、PD-1媒介阻害シグナルによるT細胞に対する牽制を解除する。抗PD-L1抗体のFc部分はNK細胞またはマクロファージなどの免疫細胞の細胞表面上のFcRに結合して、NK細胞およびマクロファージによる標的細胞破壊を促進できる。いくつかの実施形態において、抗PD-L1抗体の重鎖は配列識別番号2と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み得、抗PD-L1抗体はPD-L1に結合して、PD-L1とT細胞の細胞表面上のPD-1との相互作用を遮断でき、また、免疫細胞の細胞表面上のFcRに結合でき、これにより、癌細胞などの標的細胞を破壊するようにこれらの細胞を活性化する。いくつかの実施形態において、軽鎖は配列識別番号6と少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み得、抗PD-L1抗体はPD-L1に結合して、PD-L1とT細胞の細胞表面上のPD-1との相互作用を遮断でき、また、免疫細胞の細胞表面上のFcRに結合でき、これにより、癌細胞などの標的細胞を破壊するようにこれらの細胞を活性化する。
【0061】
VEGF、特にVEGF-Aと結合することができる任意のVEGFR(VEGFR1、VEGFR2、およびVEGFR3)の細胞外Ig様ドメインを、組換えタンパク質の構築のために選択してよい。一実施形態において、組換えタンパク質に含まれるVEGFRはVEGFR1であり、VEGFRの細胞外Ig様ドメインはVEGFR1の第2の細胞外Ig様ドメイン(VEGFR1D2)である。
【0062】
一実施形態において、VEGFR1D2は、配列識別番号7および8においてそれぞれ記載される核酸配列およびアミノ酸配列を有する。別の実施形態において、VEGFR1D2は、配列識別番号8に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよく、VEGFR1D2は、標的細胞、例えば、癌/腫瘍細胞によってまたはその周辺に発現されるVEGFに結合することができ、その結果、標的細胞の増殖を制限することができる。
【0063】
リンカは主に、VEGFRの細胞外Ig様ドメインと、抗PD-L1抗体の重鎖または軽鎖のN末端またはC末端との間のスペーサとして機能する。リンカは、ペプチド結合によって連結された、好ましくは5~30アミノ酸のペプチド結合によって共に連結されるアミノ酸から作られ得る。ここで、アミノ酸は、天然に発生する20アミノ酸から選択される。当業者であれば理解できるように、これらのアミノ酸のうち1または複数は、グリコシル化され得る。一実施形態において、5~30アミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、セリン、リシンから選択され得る。一実施形態において、リンカの大部分は、グリシンおよびアラニンなど、立体障害のないアミノ酸から作られる。例示的なリンカは、ポリグリシン(特に(Glys、(Gly)、poly(Gly-Ala))およびポリアラニンである。下の例に示される好適なリンカの一例は、(Gly-Ser)、例えば-(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)-および-(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)-などである。
【0064】
リンカは非ペプチドリンカでもよい。例えば、‐NH‐、‐(CH)s‐C(O)‐などのアルキルリンカ(s=2~20)を使用できる。これらのアルキルリンカは更に、低級アルキル(例えばC1‐4)、低級アシル、ハロゲン(例えばCI、Br)、CN、NH、フェニルなど、任意の非立体障害基によって置換され得る。
【0065】
また、本開示は、組換えタンパク質または抗体をコードするポリヌクレオチド分子、および、組換えタンパク質または抗体を発現する発現ベクターを提供する。ベクターの例には、これらに限定されないが、プラスミド、ウイルスベクター、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、形質転換可能人工染色体(TAC)、哺乳類人工染色体(MAC)、およびヒト人工エピソーム染色体(HAEC)が含まれる。
【0066】
本開示は、上の発現ベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、発現ベクターを用いて形質転換またはトランスフェクトされ得る。好適な宿主細胞として、大腸菌、酵母および他の真核生物が挙げられる。好ましくは、大腸菌、酵母または哺乳類の細胞株(COSまたはCHOなど)が使用される。
【0067】
別の態様において、本開示は、薬学的に許容される担体と共に製剤化された本開示の組換えタンパク質または抗体を含む医薬組成物を提供する。組成物は任意で、別の抗体または薬剤など、1または複数の追加の薬学的有効成分を含み得る。本開示の医薬組成物はまた、例えば、別の免疫刺激剤、抗癌剤、抗ウイルス剤、またはワクチンなどとの併用療法において投与できる。
【0068】
医薬組成物は任意の数の賦形剤を含むことができる。使用できる賦形剤として、担体、表面活性剤、増粘剤または乳化剤、固体結合剤、分散助剤または懸濁助剤、可溶化剤、着色剤、着香剤、コーティング、崩壊剤、潤滑剤、甘味料、保存料、等張剤、およびそれらの組み合わせが挙げられる。適切な賦形剤の選択と使用については、Gennaro, ed., Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Ed. (Lippincott Williams & Wilkins 2003)に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれている。
【0069】
医薬組成物における主要なビヒクルまたは担体は、本質的に水性でも非水性でもよい。例えば、好適なビヒクルまたは担体は、場合によっては注射において一般的な他の物質が添加されて得る、注射、生理食塩水、または人工脳脊髄液のための水であり得る。例えば、ビヒクルまたは担体は、中性緩衝生理食塩水、または、血清アルブミンと混合された生理食塩水であり得る。他の例示的な医薬組成物は、Tris緩衝液、または、酢酸塩緩衝液を含み、またはソルビトール、またはこれらの好適な置換物を更に含み得る。本開示の一実施形態において、組成物は、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態で、所望の純度を有する選択された組成物を任意の製剤化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences, supra)と混合することによって、保管のために調製され得る。更に、治療用組成物は、スクロースなど適切な賦形剤を使用して、凍結乾燥物として製剤化され得る。
【0070】
医薬組成物は、好ましくは(例えば注射または注入による)静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与に好適である。投与の経路に応じて、活性分子は、それを不活性化し得る酸または酵素および他の天然条件の作用から保護するための物質にコーティングされ得る。本明細書において使用される「非経口投与」という語句は、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与方法を意味し、これらに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内注射および注入を含む。代替的に、本開示の抗体は、例えば、鼻腔内、口腔内、経膣、直腸、舌下または局所など、局所、表皮、または粘膜の投与経路などの非経口経路を介して投与できる。
【0071】
医薬組成物は、無菌水溶液または分散系の形態であり得る。また、それらはマイクロエマルション、リポソーム、または、高い薬剤濃度に好適な他の規則構造で製剤化され得る。
【0072】
単回投与形態を生成するために担体物質と組み合わせることができる有効成分の量は、治療される対象、および、特定の投与方法に応じて変動し、一般的に、治療効果を生じさせる組成物の量である。一般的に、100%中、この量は有効成分の約0.01%~約99%、好ましくは、約0.1%~約70%、もっとも好ましくは、薬学的に許容される担体と組み合わされる有効成分の約1%~約30%の範囲である。
【0073】
最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供するように投与計画が調整される。例えば、いくつかの分割された用量を経時的に投与できる、または、治療状況の緊急事態による指示に応じて用量を比例的に減少または増加させることができる。投与を容易にするために、および、投与量を統一するために、単位用量形態で非経口組成物を製剤化することは特に有利である。本明細書において使用される単位用量形態とは、治療される対象のための単位用量として好適な物理的に別個の単位を指す。各単位は、必要な医薬担体と組み合わせて所望の治療効果を生じさせるために算出された活性分子の予め定められた量を含む。組換えタンパク質は代替的に、徐放性製剤として投与できる。この場合、必要な投与頻度が少ない。
【0074】
組換えタンパク質の投与については、投与量は、宿主の体重の約0.0001~100mg/kg、より一般的には、0.01~10mg/kgの範囲であってよい。例えば、投与量は、体重あたり0.3mg/kg、体重あたり1mg/kg、体重あたり3mg/kg、体重あたり5mg/kg、または体重あたり10mg/kg、または、1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な治療法は、1週間あたり2回、1週間あたり1回、2週間あたり1回、3週間あたり1回、4週間あたり1回、1か月あたり1回、3か月あたり1回、または、3~6か月あたり1回の投与を伴う。本開示の組換えタンパク質の好ましい投与計画は、腹腔内投与を介して体重あたり3mg/kg、または、体重あたり6mg/kgを含み、タンパク質は、以下の投与スケジュール、すなわち、(i)6回の投与は4週間ごと、その後3か月ごと、(ii)3週間ごと、(iii)体重あたり3mg/kgを1回、その後、体重あたり1mg/kgを3週間ごと、(vi)体重あたり6mg/kgを1週間あたり1回投与のうち1つを使用して提供される。いくつかの方法において、約1~1000μg/ml(いくつかの方法において、約25~300μg/ml)の血漿抗体濃度を達成するように、投与量が調整される。
【0075】
本開示の組換えタンパク質の「治療有効投与量」は、好ましくは、疾患症状の重症度の減少、無疾患症状期間の頻度および期間の増加、または、疾患の苦痛に起因する機能障害または能力障害の予防を引き起こす。例えば、担癌の対象を治療する場合、「治療有効投与量」は好ましくは、未治療の対象と比較して、少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約60%、さらに好ましくは少なくとも約80%、なおさらに好ましくは少なくとも約99%だけ腫瘍増殖を阻害する。本開示の融合タンパク質の治療有効量は、腫瘍サイズを低減でき、または、そうでなければ、典型的にはヒトである、または別の哺乳類であり得る対象における症状を改善する。
【0076】
医薬組成物、インプラント、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化送達システムを含む、放出制御製剤であり得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸など、生分解性、生体適合性ポリマーを使用できる。例えば、「Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems, J. R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978.」に参照。
【0077】
治療用組成物は、(1)無針皮下注射装置(例えば、米国特許第5,399,163; 5,383,851; 5,312,335; 5,064,413; 4,941,880; 4,790,824;および4,596,556号)、(2)マイクロ注入ポンプ(米国特許第4,487,603号)、(3)経皮装置(米国特許第4,486,194号)、(4)注入機器(米国特許第4,447,233および4,447,224号)、(5)浸透圧装置(米国特許第4,439,196および4,475,196号)などの医療装置を介して投与され得る。これらの開示は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0078】
特定の実施形態において、本開示の組換えタンパク質は、in vivoで適切に分布することを確実にするために製剤化され得る。例えば、本開示の治療用タンパク質が血液脳関門を超えることを確実にするために、それらは、特定の細胞または臓器への選択的輸送を強化する標的化部分を追加的に含み得るリポソームにおいて製剤化され得る。例えば、米国特許第4,522,811;5,374,548;5,416,016および5,399,331号に参照。
【0079】
本開示の組換えタンパク質またはその誘導体をコードする核酸分子が対象に直接導入されるin vivo遺伝子療法も考えられる。例えば、本開示の組換えタンパク質をコードする核酸配列が、アデノ随伴ウイルスベクターなどの適切な送達ベクターを用いて、または用いず、核酸コンストラクトの局所注射を介して標的細胞に導入される。代替的なウイルスベクターは、限定されないが、レトロウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルスおよび乳頭腫ウイルスベクターを含む。ウイルスベクターの物理的移入は、所望の核酸コンストラクト、または、所望の核酸配列を含む他の適切な送達ベクターの局所注射、リポソーム媒介移入、直接注射(ネイキッドDNA)、または微粒子ボンバードメント(遺伝子ガン)によってin vivoで達成され得る。
【0080】
本開示の組成物は、単独で、または、治療効果を強化するために、もしくは、潜在的な副作用を低減するために、他の治療剤と組み合わせて使用され得る。
【0081】
本開示の別の目的は、上記組換えタンパク質または組換え抗体、および、それを含む医薬組成物を調製するための方法を提供することである。一実施形態において、方法は、(1)ポリヌクレオチド分子をコードする組換えタンパク質を提供すること、(2)(1)のポリヌクレオチド分子を含む発現ベクターを構築すること、(3)(2)の発現ベクターで好適な宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換して、タンパク質を発現させるために宿主細胞を培養すること、(4)タンパク質または抗体を精製することを含む。調製は、当業者によって、既知の技術を用いて実行され得る。
【0082】
本開示の別の目的は、上記医薬組成物の有効量を、それを必要とする患者または対象に投与することを含む、本開示の医薬組成物を使用して疾患を治療する方法を提供することである。
【0083】
一実施形態において、医薬組成物は、これらに限定されないが、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫(MM)、膀胱癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、乳癌、膵癌、肝癌および腎癌を含む、VEGFおよび/またはPD-L1過剰発現腫瘍または癌を治療するために使用される。
【0084】
一実施形態において、本開示は、VEGFの過剰発現に関連する疾患を治療する方法を提供し、これには、加齢黄斑変性症(AMD)、糖尿病性網膜症、肝線維症および血管肉腫が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
以下では非限定的な例を用いて、本開示を更に説明する。
【0086】
実施例
【0087】
下の説明において、IMM25は、PD-L1を標的化するモノクローナル抗PD-L1抗体を指す。この抗体は、配列識別番号2のアミノ酸配列をそれぞれ持つ2本の重鎖と、配列識別番号6のアミノ酸配列をそれぞれ持つ2本の軽鎖を有している。
【0088】
IMM2510は、2つのVEGFR1D2がそれぞれGS-リンカを介して抗PD-L1抗体の各重鎖のN末端に連結したものを含む組換え抗体を指す。VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1重鎖はそれぞれ、配列識別番号13の核酸配列によってコードされ、配列識別番号14のアミノ酸配列を有している。抗PD-L1抗体の軽鎖は、配列識別番号6のアミノ酸配列を有している。
【0089】
IMM25011は、抗PD-L1抗体の各重鎖のC末端に、それぞれGS-リンカを介して連結した2つのVEGFR1D2を含む組換え抗体を指す。抗PD-L1重鎖-リンカ-VEGFR1D2は、配列識別番号15の核酸配列によってコードされ、アミノ酸配列と配列識別番号16を有している。抗PD-L1抗体の軽鎖は、配列識別番号6のアミノ酸配列を有している。
【0090】
IMM25031は、2つのVEGFR1D2がそれぞれGS-リンカを介して抗PD-L1抗体の各軽鎖のN末端に連結した組換え抗体を指す。VEGFR1D2-リンカ-抗PD-L1軽鎖は、配列識別番号17の核酸配列によってコードされ、配列識別番号18のアミノ酸配列を有する。抗PD-L1抗体の重鎖は、配列識別番号2のアミノ酸配列を有していた。
【0091】
VEGFR1-Fcは、2つのVEGFR1D2を抗体Fc部分に連結させた組換えタンパク質である。各VEGFR1D2-Fc断片は、配列識別番号22のアミノ酸配列を有しており、配列識別番号21の核酸配列によってコードされていてもよい。
【0092】
これら4つの組換え抗体の基本構造を図1に示す。
【0093】
[例1:IMM25、IMM25011、IMM25031およびIMM2510を発現するベクターの構築]
【0094】
[1.1 IMM25]
【0095】
IMM25の全長コード配列を人工的に設計した。具体的には、マウスIgG1重鎖のシグナルペプチドをコードする57ヌクレオチド(配列識別番号19)を抗PD-L1重鎖コード配列(配列識別番号1)の5'末端に加え、コザック配列(配列識別番号20)をシグナルペプチド配列の5'末端に追加された。最後に、HindIIIおよびNheI制限酵素認識部位がそれぞれ、結果として生じる配列の5'末端および3'末端に追加された。軽鎖については、同一のシグナル配列、および、コザック配列が使用されたが、HindIIIおよびXbaI制限酵素認識部位がそれぞれ、結果として生じる配列に追加された。2つの結果として生じる配列は、Genscript(ID#:C0015BJ110-1(重鎖);C0015BJ110-2(軽鎖))によって合成され、それぞれpMac-HおよびpMac-Lベクターにサブクローニングされた。
【0096】
[1.2 IMM2510]
【0097】
IMM2510の全長コード配列を人工的に設計した。具体的には、重鎖については、VEGFR1(VEGFR1D2)の第2細胞外ドメインのコード配列(配列識別番号7)は、GS-リンカ(配列識別番号11)を通じて、抗PD-L1重鎖コード配列(配列識別番号3)の5'末端に連結された。マウスIgG1重鎖のシグナルペプチドをコードする57ヌクレオチド(配列識別番号19)は、VEGFR1D2コード配列の5'末端に追加され、コザック配列(配列識別番号20)は、シグナルペプチド配列の5'末端に追加された。最後に、HindIIIおよびNheI制限酵素認識部位がそれぞれ、結果として生じる配列の5'末端および3'末端に追加された。結果として生じる配列は、Genscript(ID#:C9143DA150-1)によって合成され、pMac-Hベクターにサブクローニングされた。IMM2510の軽鎖の発現ベクターは、IMM25のものと同一である。
【0098】
[1.3 IMM25011]
【0099】
IMM25011の全長コード配列を人工的に設計した。具体的には、重鎖については、VEGFR1の第2細胞外ドメイン(VEGFR1D2)のコード配列(配列識別番号7)の3'末端に、GS-リンカ(配列識別番号9)を介して抗PD-L1重鎖コード配列(配列識別番号3)のコード配列を連結し、生じる配列の5'末端および3'末端に、それぞれNheIおよびSalI制限部位を追加した。生じる配列をGenscript社で合成し(ID#:C8379CJ170-1)、IMM25重鎖発現ベクターにサブクローニングした。IMM2510の軽鎖の発現ベクターは、IMM25のものと同一である。
【0100】
[1.4 IMM25031]
【0101】
IMM25011の全長コード配列を人工的に設計した。具体的には、軽鎖については、VEGFR1の第2細胞外ドメイン(VEGFR1D2)のコード配列(配列識別番号7)を、GS-リンカ(配列識別番号11)を介して、抗PD-L1軽鎖コード配列(配列識別番号5)の5'末端に連結した。マウスIgG1重鎖のシグナルペプチドをコードする57ヌクレオチド(配列識別番号19)は、VEGFR1D2コード配列の5'末端に追加され、コザック配列(配列識別番号20)は、シグナルペプチド配列の5'末端に追加された。最後に、HindIIIおよびXbaI制限酵素認識部位がそれぞれ、結果として生じる配列の5'末端および3'末端に追加された。結果として生じる配列は、Genscript(ID#:C4608CE150-1)によって合成され、pMac-Lベクターにサブクローニングされた。IMM25031の重鎖の発現ベクターは、IMM25のものと同一である。
【0102】
[例2:組換え融合抗体の製造と品質解析]
【0103】
組換えタンパク質を製造するために、ポリエーテルイミド(PEI)(polysciences,Cat#24765-1)をトランフェクタントとして用いて、発現ベクターをFree Style(登録商標)CHO-S細胞(Thermo Fisher Scientific,Cat#R80007)にトランスフェクトされた。細胞を約7-10日間培養した後、細胞培養上清を採取し、親和性クロマトグラフィでタンパク質を精製した。組換えタンパク質の純度をSEC-HPLCで解析した。
【0104】
図2のSEC-HPLC図では、本開示の3つの組換え抗体に大きな違いが示される。IMM2510の純度が最も高く(90.67%)、次いでIMM25011(85.58%)、IMM25031(71.97%)であった。IMM25011は凝集体の割合が高く(15.42%)、IMM25031は分解が多かった(27.11%)。
【0105】
[例3:VEGF-165に結合したリ組換え抗体]
【0106】
VEGFの結合には、組換えヒトVEGF-165(Cat#11066-HNAH,Sino Biologicals)をコーティングバッファ(製品コード:1001329288 C3041-100CAP,Sigma-Aldrich Co.Ltd.)で調製し、ELISAプレート(Cat#442404,Nunc(登録商標))に50ng/wellで移し、プレートを4℃の冷蔵庫に一晩置いておいた。その後、プレートを0.05%のTween-20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄してから、連続希釈した組換え抗体と対照抗体(アバスチン)を加え、プレートを室温で1時間インキュベートした後、再びPBS-Tで5回洗浄した。HRP-Rabbit抗ヒトIgG Fc(Cat#:309-036-008,Jackson ImmunoResearch Lab)をプレートに加え、プレートを室温で1時間インキュベートした。プレートをPBS-Tで5回洗浄した後、プレートに基質を加え、1N HS0で色の変化を止めた後、プレートリーダで読み取った。
【0107】
図3に示すように、本開示の3つの組換え抗体は、VAGF-165に対して同様の結合活性を有していたが、アバスチンの結合活性よりも相対的に2~4倍低い値を示していた。
【0108】
[例4:PD-L1に結合した組換え抗体]
【0109】
PD-L1結合解析では、1×10/mlのCHO-PD-L1細胞(ImmuneOnco社、Cat#YMAK-C006)100μlを、連続的に滴定した組換え抗体および対照抗体(アテゾリズマブおよびハーセプチン)100μlと一緒に、4oCで40分間インキュベートした。冷たいPBSで洗浄した後、細胞をFITC共役抗ヒトIgG-Fc抗体(Sigma,Cat#F9512)とインキュベートした。その後、細胞を2回洗浄し、FACS解析を行った。
【0110】
その結果、図4に示すように、IMM25011は、その構造から予想されるように、アテゾリズマブと同一の結合活性(アテゾリズマブのEC50=0.22nM、IMM25011のEC50=0.23nM)を示し、IMM25031(EC50=0.96nM)およびIMM2510(0.85nM)は、アテゾリズマブと同等の結合活性を示したが、アテゾリズマブと比較して相対的に4倍低い値を示した。
【0111】
[例5:VEGF-165とPD-L1に同時に結合した組換え抗体]
【0112】
2つのターゲットに対する組換え抗体の同時結合活性を解析するために、100μlの1×10/mlのCHO-PD-L1細胞(ImmuneOnco,Cat#YMAK-C006)を、100μlの順次に希釈したIMM2510と4℃で45分間インキュベートした。細胞を冷たいPBSで2回洗浄した後、100μlの40nMビオチン共役VEGF-165(Cat#11066-HNAH,Sino Biologicals)と4℃で45分間インキュベートした。2回洗浄した後、細胞をFITC共役Streptavidin(BD Pharmingen,Cat#554060,Lot#6169673)により4℃でさらに45分間染色した。洗浄後、細胞をFACS解析の対象とした。
【0113】
図5に示すように、IMM2510の濃度を上げると、用量依存的に蛍光シグナルの増加が見られ、2つのターゲットが同時に結合していることが示唆された。IMM2510の結合親和性(EC50=0.63 nM)は、PD-L1を用いたシングルターゲット結合アッセイで見られたものと同様であった(EC50=0.85 nM)。
【0114】
[例6:抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を誘発した組換え抗体]
【0115】
標的細胞としてCFSE標識Raji-PD-L1細胞(ImmuneOnco,Cat#YMAK-C007)6×10/ml,50μlを、FcγRIIIaを安定的に発現しているエフェクタ細胞としてNK92MI細胞(ATCC,Cat#CRL-2408)6×10/ml,100μlと1:2の割合で混合し、混合した細胞を50μlの順次に希釈したIMM2510またはIMM25の存在下、5%CO下、37℃で4時間培養した。その後、ヨウ化プロピジウム(PI)(Sigma,Cat#P4170)を5μg/mlの濃度で細胞培養液に加え、PIシグナルのFACS解析を行った。
【0116】
ADCC活性がVEGFの結合に影響されないことを確認するために、低濃度(25ng/ml)または高濃度(250ng/ml)のVEGF-165タンパク質(Cat#11066-HNAH,Sino Biologicals)を、IMM2510または対照抗体とともに細胞培養にそれぞれ加え、上記の手順でADCCを解析した。
【0117】
ADCCによる細胞溶解の割合を以下の式に基づいて算出した:溶解率(または%ADCC)=(IMM2510またはIMM25を用いた%PI陽性細胞-陰性対照タンパク質を用いた%PI陽性細胞)/(100-陰性対照タンパク質を用いた%PI陽性細胞)*100。
【0118】
図6に示すように、IMM2510のADCC活性は、IMM25のそれと比較して6倍に減少した。これは、PD-L1結合親和性が相対的に低い(EC50=0.85nM対IMM25のEC50=0.22nM)ためと考えられる。図7に示すように、アッセイにVEGF-165を加えてもIMM2510のADCC活性は影響を受けず、さらに2つのターゲットが同時に、且つそれぞれに結合していることが示唆された。
【0119】
[例7:IMM2510は良好な抗腫瘍効果を示した]
【0120】
B-hPD-1ヒト化マウス(BIOCYTOGEN社)を用いて、in vivoでの有効性を評価した。ヒトPD-L1を安定的に発現させたマウス大腸癌細胞(MC-38)(MC38-PD-L1、BIOCYTOGEN社)を無血清培地で調製し、6-8週齢のB-hPD-1ヒト化マウスの右脇腹に皮下注射した。腫瘍体積が100-200mmに達した時点で、マウスを無作為に5つのグループに分け、各グループに6匹ずつ配置した。マウスはそれぞれ、PBS、IMM25(5.0mg/kg)、VEGFR1-Fc(2.0mg/kg)、IMM2510(6.0mg/kg)、およびIMM25(5.0mg/kg)とVEGFR1-Fc(2.0mg/kg)の組み合わせで治療された。治療は週2回、4週間にわたって腹腔内で行われた。週2回、腫瘍体積と体重を測定した。
【0121】
腫瘍体積(V)が(長さ×幅)/2として算出された。腫瘍増殖阻害率(TGI)は、腫瘍増殖阻害率=(投与群における1つの腫瘍体積の変化/対照群における腫瘍体積の変化)×100%の式によって算出された。
【0122】
結果は平均値±S.E.M.で表した。2群間の比較はDunnettの多重比較法で行い、P<0.05を有意とした。
【表1】
【0123】
腫瘍体積とTGIは、表1と図8で確認できる。データによると、単剤を投与したマウスの腫瘍体積は、PBS(平均値=2934.0mm)に比べて比較的ゆっくりと成長したが(28日目の平均腫瘍体積:IMM25=2168.0mm、VEGFR1-Fc=2088.0mm)、2つの単剤を組み合わせて投与したマウスの腫瘍体積は、単剤で投与したマウスに比べて有意にゆっくりと成長した(平均値=1552.0mm)。組換え抗体IMM2510は、より強い効果で腫瘍増殖を阻害し(平均値=706.0mm)、併用療法よりもさらに有意に優れていた。
【0124】
[比較例1:HT-29またはNCL-H1975の異種移植モデルにおけるIMM0404の抗腫瘍活性]
【0125】
本実施例のIMM0404は、それぞれGS-リンカを介して各重鎖のN末端に抗EGFR抗体、エリビツクス、に連結した2つのSIRPαD1を含む組換え抗体である。SIRPαD1-GS-リンカ-抗EGFR重鎖は、配列識別番号23のアミノ酸配列を有する。抗EGFR抗体の軽鎖は、配列識別番号24のアミノ酸配列を有する。
【0126】
SIRPαD1-Fcは、WO2016169261に記載されている、Fc断片に連結されたSIRPαD1からなる融合タンパク質である。この融合タンパク質のアミノ酸配列は、配列識別番号25に記載されている。
【0127】
HT-29異種移植モデル
【0128】
HT-29ヒト大腸癌細胞は、10%FBSを含むMcCoy's 5A培地を用いて、37度、5%COで培養した。対数増殖期の細胞を収集し、1×PBSに再懸濁した。この懸濁液にMatrigeを1:1の体積比で加えて混合し、1mlあたり3×10の細胞が含まれる混合液を得た。
【0129】
40匹のマウスの右脇腹にHT-29細胞(1匹あたり3×10の細胞)を皮下注射した。腫瘍体積が100-200mmに達した時点で、これらの動物を5つのグループに無作為に割り振り、各グループに8匹のマウスを配置した。マウスにはそれぞれ週1回、PBS、SIRPαD1-Fc(1.2mg/kg)、Erbitux(2.0mg/kg)、IMM0404(2.7mg/kg)、SIRPαD1-Fc+Erbitux(1.2mg/kg+2.0mg/kg)を腹腔内注射し、4週間投与した。全部で4回の治療を行った。最初の投与日をDay0と定義した。週に2回、腫瘍体積と体重を測定した。
【0130】
腫瘍体積(V)が(長さ×幅)/2として算出された。腫瘍増殖阻害率(TGI)は、腫瘍増殖阻害率=(投与群における1つの腫瘍体積の変化/対照群における腫瘍体積の変化)×100%の式によって算出された。グループ間の差の算出には、スチューデントテストを用いた。
【表2】
【0131】
表2から見えるように、この異種移植モデルでは、IMM0404は他のタンパク質よりも優れた抗腫瘍活性を示さなかった。
【0132】
NCI-H1975異種移植モデル
【0133】
NCI-H1975非小細胞肺癌細胞は、10%FBSを含むRPMI-1640培地(GIBCO, US)を用いて、37度、5%COで培養した。対数増殖期の細胞を収集し、1×1PBS,1mlあたり1×10の細胞でで再懸濁した。
【0134】
40匹のSCIDマウスの右脇腹に、NCI-H1975細胞(1×10個/匹)を皮下注射した。腫瘍体積が100-200mmに達した時点で、これらの動物を5つのグループに無作為に割り振り、各グループに8匹のマウスを配置した。マウスにはそれぞれ週1回、PBS、SIRPαD1-Fc(2.7mg/kg)、Erbitux(5.0mg/kg)、IMM0404(6.0mg/kg)、SIRPαD1-Fc+Erbitux(2.7mg/kg+5.0mg/kg)を腹腔内注射し、3週間投与した。全部で3回の治療を行った。最初の投与日をDay0とした。週に2回、腫瘍体積と体重を測定した。
【0135】
腫瘍体積(V)が(長さ×幅)/2として算出された。腫瘍増殖阻害率(TGI)は、腫瘍増殖阻害率=(投与群における1つの腫瘍体積の変化/対照群における腫瘍体積の変化)×100%の式によって算出された。グループ間の差の算出には、スチューデントテストを用いた。
【表3】
【0136】
表3から見えるように、IMM0404の抗腫瘍活性はSIRPαD1-Fcよりも優れていたが、エリビツクスやSIRPαD1-Fc+エリビツクスには及ばなかった。
【0137】
本開示は、1または複数の実施形態と関連して上で説明されたが、本開示はこれらの実施形態に限定されず、本説明は、すべての代替形態、変更形態、等価形態を包含することが意図され、添付の請求項の思想および範囲内に含まれ得ることが理解されるべきである。本明細書において参照される引用はすべて、参照によって全体的に更に組み込まれる。
【0138】
本開示のいくつかの重要なアミノ酸配列を以下に列挙する。
【表4】
【0139】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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