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特許7148103Nb3Sn超伝導線材用前駆体、その製造方法、および、それを用いたNb3Sn超伝導線材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】Nb3Sn超伝導線材用前駆体、その製造方法、および、それを用いたNb3Sn超伝導線材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20220928BHJP
   H01B 12/10 20060101ALI20220928BHJP
   C22F 1/00 20060101ALI20220928BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20220928BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20220928BHJP
   C22F 1/16 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20220928BHJP
   C22C 27/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01B13/00 565A
H01B12/10
C22F1/00 691B
C22F1/00 691Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 691C
C22F1/00 D
C22F1/00 621
C22F1/00 623
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 627
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 685Z
C22F1/08 C
C22F1/08 F
C22F1/18 F
C22F1/16 A
C22C9/00
C22C13/00
C22C27/02 102A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021537569
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008686
(87)【国際公開番号】W WO2021024529
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019145017
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年4月11日公開 公益社団法人 低温工学・超電導学会主催 2019年度春季第98回低温工学・超電導学会研究発表会アブストラクト https://www.csj.or.jp/conference/2019s/index.html https://www.csj.or.jp/conference/2019s/19s_program.html#D28A-3 https://www.csj.or.jp/conference/2019s/abs/1A-p08.html 令和1年5月23日公開 公益社団法人 低温工学・超電導学会主催 2019年度春季第98回低温工学・超電導学会研究発表会アブストラクト https://www.csj.or.jp/conference/2019s/index.html https://www.csj.or.jp/conference/2019s/1A.pdf 令和1年5月28日~5月30日開催 公益社団法人 低温工学・超電導学会主催 2019年度春季第98回低温工学・超電導学会研究発表会 ノバホール、つくばイノベーションプラザ(茨城県つくば市吾妻1-10-1) 令和1年6月18日公開 MT26 International Conference on Magnet Technology アブストラクト https://indico.cern.ch/event/763185/ https://indico.cern.ch/event/763185/contributions/3416222/
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】伴野 信哉
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-216212(JP,A)
【文献】特開2007-165152(JP,A)
【文献】特開2015-185211(JP,A)
【文献】特開2007-080616(JP,A)
【文献】特開2010-262759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 12/10
C22F 1/00
C22F 1/08
C22F 1/18
C22F 1/16
C22C 9/00
C22C 13/00
C22C 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbSn超伝導線材用前駆体であって、
少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基からなるNb芯と、
ズ(Sn)および亜鉛(Zn)と、必要に応じて、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなるSn基からなるSn芯と、
銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する第1のCu母材と、
Cuを主成分とする第2のCu母材と
を備え、
前記第1のCu母材は前記Nb芯を埋設し、前記第2のCu母材は前記Sn芯を埋設し
前記Sn基中のZnの含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲であり、
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0.5wt%以上5wt%以下の範囲である、前駆体。
【請求項2】
前記Sn基中のZnの含有量は、10wt%以上25wt%以下の範囲である、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
前記Sn基中の前記少なくとも1種選択される元素の含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲である、請求項1または2に記載の前駆体。
【請求項4】
前記Nb基は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含有する、請求項1~3のいずれかに記載の前駆体。
【請求項5】
前記Nb基中の前記少なくとも1種の元素の含有量は、0at%より大きく5at%以下の範囲である、請求項4に記載の前駆体。
【請求項6】
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0.5wt%以上3wt%以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の前駆体。
【請求項7】
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲である、請求項6に記載の前駆体。
【請求項8】
前記第2のCu母材は、さらにチタン(Ti)を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の前駆体。
【請求項9】
前記第2のCu母材中のTiの含有量は、0wt%より多く5wt%以下の範囲である、請求項8に記載の前駆体。
【請求項10】
前記Sn芯に対する前記Nb芯の体積比は、1以上3以下の範囲である、請求項1~9のいずれかに記載の前駆体。
【請求項11】
伸線加工品である、請求項1~10のいずれかに記載の前駆体。
【請求項12】
前記Sn基中の前記Znは均一に分散されている、請求項11に記載の前駆体。
【請求項13】
前記Nb基は、粉末状、チップ状およびフィラメント状からなる群から選択される1種の形状を有し、
前記Sn基は、粉末状、チップ状およびフィラメント状からなる群から選択される1種の形状を有し、
前記第1のCu母材および前記第2のCu母材は、管状の形状を有する、請求項1~12のいずれかに記載の前駆体。
【請求項14】
前記Nb基、前記Sn基、前記第1のCu母材および前記第2のCu母材は、シート状の形状を有し、積層され、ジェリーロールをなしている、請求項1~13のいずれかに記載の前駆体。
【請求項15】
少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基と、スズ(Sn)および亜鉛(Zn)と、必要に応じて、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも1種の元素とからなるSn基と、銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する第1のCu母材と、Cuを主成分とする第2のCu母材とに、ロッド・イン・チューブ法、ジェリーロール法およびパウダー・イン・チューブ法からなる群から選択される手法を適用することを包含し、
前記Sn基中のZnの含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲であり、
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0.5wt%以上5wt%以下の範囲である、請求項1~14のいずれかに記載のNbSn超伝導線材用前駆体の製造方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の前駆体を熱処理することを包含する、NbSn超伝導線材の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理することは、前記前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱することである、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記熱処理することに先立って、前記前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、200℃以上600℃未満の温度範囲で予備加熱することをさらに包含する、請求項16または17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NbSn超伝導線材用前駆体、その製造方法、および、それを用いたNbSn超伝導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブスズ(NbSn)は、ニオブ(Nb)とスズ(Sn)の金属間化合物で、線材に加工されて、核融合や核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置用の超伝導磁石等に用いられている。NbSnは、ニオブチタン(NbTi)よりも高価であるが、臨界磁場Hcの観点からは、NbTiが約15Tであるのに対し、NbSnでは磁場強度が約30Tと高い。そして、NbSnの臨界温度は18.3ケルビン(K)であり、通常、4.2K、即ち液体ヘリウムの沸点温度で使用される。
【0003】
このようなNbSn超伝導線材の製造方法の1つに内部スズ法(内部スズ拡散法)が知られている。内部スズ法とは、純CuもしくはSn以外の元素が固溶したCu合金母材とその中に埋め込まれた多数本のNb芯とSn芯とで構成された前駆体線材において、熱処理によりCu合金とSnとを反応させ、Cu-Sn相を生成し、次いで生成されたCu-Sn相とNbとが拡散反応することによりNbSn相が生成される方法をいう。
【0004】
近年、内部スズ法に用いられる前駆体線材としてCuZn合金母材にSnTi芯およびNb芯が埋め込まれた前駆体線材が開発された(例えば、特許文献1および2を参照)。特許文献1によれば、CuZn合金母材を用いることにより、中央のSnTi芯がCu母材に拡散した後に空孔の生成が抑制され、線材の機械的強度を向上させることができる。また、特許文献2によれば、CuZn合金母材に代えて、CuZnM(M=Ge、Ga、Mg、Al)合金母材を用いることを開示しており、線材の機械的強度がさらに向上し得る。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2においても、前駆体を熱処理すると、Cu合金母材内、特にNb芯が集まったサブバンドル界面にTiリッチ層が形成され、SnおよびTiのCu合金母材内の拡散が阻害され、母材内でSnおよびTi分布が不均一になることが分かった。
【0006】
また、別の前駆体線材としてCu合金母材にNbフィラメントおよびSn-Zn合金棒が配置された前駆体線材がある(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、Sn-Zn合金棒を用いることにより、SnのNbへの拡散反応を促進させ、高い臨界電流密度(Jc)を有するNbSn超電導線が得られる。また、特許文献3では、Ti、Ta等を添加したNbフィラメントを用いることを開示しており、臨界電流密度(Jc)を向上させる効果を有する。
【0007】
また、別の前駆体線材としてCu-Sn母材にTiを添加したNbフィラメントが配置された前駆体線材がある(例えば、非特許文献1を参照)。
【0008】
しかしながら、特許文献3や非特許文献1のように、Ti添加したNbフィラメントを用いた場合には、前駆体を熱処理すると、NbSn結晶粒が粗大化することが報告されており、磁束量子の主要なピン止め点が結晶粒界であるNbSn線材では、臨界電流密度の低下の要因となり得る。したがって、特許文献3や非特許文献1とは異なり、TiはNb芯以外に添加することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-185211号公報
【文献】国際公開第2018/198515号
【文献】特開2007-165152号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】I.Deryaginaら,J.Appl.Phys.121,233901(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
内部スズ法において、以上の問題を解決し、NbSnの生成を促進し、高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材用の前駆体が開発されれば望ましい。
【0012】
以上から、本発明の課題は、内部スズ法に用いられ、NbSnの生成を促進し、高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材用の前駆体、その製造方法、および、それを用いたNbSn超伝導線材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のNbSn超伝導線材用前駆体は、少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基からなるNb芯と、少なくともスズ(Sn)および亜鉛(Zn)を含有するSn基からなるSn芯と、銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する第1のCu母材と、Cuを主成分とする第2のCu母材とを備え、前記第1のCu母材は前記Nb芯を埋設し、前記第2のCu母材は前記Sn芯を埋設する前駆体であって、これにより上記課題を解決する。
前記Sn基中のZnの含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲であってもよい。
前記Sn基中のZnの含有量は、10wt%以上25wt%以下の範囲であってもよい。
前記Sn基は、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。
前記Sn基中の前記少なくとも1種の元素の含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲であってもよい。
前記Nb基は、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。
前記Nb基中の前記少なくとも1種の元素の含有量は、0at%より大きく5at%以下の範囲であってもよい。
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0wt%より多く5wt%以下の範囲であってもよい。
前記第1のCu母材中のTiの含有量は、0.5wt%以上3wt%以下の範囲であってもよい。
前記第2のCu母材は、さらにチタン(Ti)を含有してもよい。
前記第2のCu母材中のTiの含有量は、0wt%より多く5wt%以下の範囲であってもよい。
前記Sn芯に対する前記Nb芯の体積比は、1以上3以下の範囲であってもよい。
前記前駆体は、伸線加工品であってもよい。
前記Sn基中の前記Znは均一に分散されていてもよい。
前記Nb基は、粉末状、チップ状およびフィラメント状からなる群から選択される1種の形状を有し、前記Sn基は、粉末状、チップ状およびフィラメント状からなる群から選択される1種の形状を有し、前記第1のCu母材および前記第2のCu母材は、管状の形状を有してもよい。
前記Nb基、前記Sn基、前記第1のCu母材および前記第2のCu母材は、シート状の形状を有し、積層され、ジェリーロールをなしていてもよい。
本発明の上記NbSn超伝導線材用前駆体の製造方法は、少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基と、少なくともスズ(Sn)および亜鉛(Zn)を含有するSn基と、銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する第1のCu母材と、Cuを主成分とする第2のCu母材とに、ロッド・イン・チューブ法、ジェリーロール法およびパウダー・イン・チューブ法からなる群から選択される手法を適用することを包含する製造方法であって、これにより上記課題を解決する。
本発明のNbSn超伝導線材の製造方法は、上記前駆体を熱処理することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記熱処理することは、前記前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱することであってもよい。
前記熱処理することに先立って、前記前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、200℃以上600℃未満の温度範囲で予備加熱することをさらに包含してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のNbSn超伝導線材用前駆体は、少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基からなるNb芯と、少なくともスズ(Sn)および亜鉛(Zn)を含有するSn基からなるSn芯と、Nb芯が埋設される銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する第1のCu母材と、Sn-Zn芯(すなわち、少なくともスズ(Sn)および亜鉛(Zn)を含有するSn基からなる前記Sn芯)が埋設されるCuを主成分とする第2のCu母材とを備える。Nb芯が埋設される第1のCu母材がTiを含有し、かつ、Sn芯がZnを含有することにより、Tiリッチ層が形成されず、SnおよびTiが第1および第2のCu母材中を容易に拡散する。その結果、NbSn相の生成が促進され得る。
【0015】
また、このような前駆体を熱処理することで、線材断面内において均質なNbSn相を有し、高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材が得られる。
【0016】
このような前駆体は、上述のNb基、Sn基、第1のCu母材および第2のCu母材に、ロッド・イン・チューブ法、ジェリーロール法およびパウダー・イン・チューブ法からなる群から選択される手法を適用することによって製造される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図
図2】別の本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図
図3】さらに別の本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図
図4図1に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャート
図5図2に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャート
図6図3に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャート
図7】本発明の前駆体を用いたNbSn超伝導線材を製造する製造工程を示すフローチャート
図8】例1の前駆体の断面の光学顕微鏡像を示す図
図9】例1の前駆体の伸線加工前後の結晶組織を示す光学顕微鏡像を示す図
図10】予備加熱後の例1の前駆体の断面のEDXマッピングを示す図
図11】予備加熱後の例9の前駆体の断面のEDXマッピングを示す図
図12】例1および例9のNbSn超伝導線材の臨界電流密度の磁場依存性(Jc-B)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0019】
(実施の形態1)
実施の形態1は、NbSn超伝導線材用前駆体およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図である。
【0020】
本発明の前駆体100は、少なくともニオブ(Nb)を含有するNb基からなる1以上のNb芯110と、少なくともスズ(Sn)および亜鉛(Zn)を含有するSn基からなる1以上のSn芯120と、銅(Cu)を主成分とし、チタン(Ti)をさらに含有する1以上の第1のCu母材130と、銅(Cu)を主成分とする1以上の第2のCu母材140とを備える。第1のCu母材130はNb芯110を埋設し、第2のCu母材140はSn芯120を埋設する。
【0021】
本発明の前駆体100は、Tiが、Nb芯ではなく、少なくとも第1のCu母材に添加されており、Znが、Cu母材ではなく、Sn芯に添加されている点が、特許文献1~3および非特許文献1と異なる。本願発明者は、Tiを第1のCu母材130に、ZnをSn芯120にそれぞれ添加することにより、熱処理時にTiリッチ層の形成が抑制されることを見出した。その結果、SnおよびTiが第1のCu母材130および第2のCu母材140中を容易に拡散し、NbSn相の生成を促進できる。
【0022】
各構成要素について詳細に説明する。
Nb芯110を構成するNb基は、Nb金属単体であってもよいが、Nb以外にチタン(Ti)、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)およびジルコニウム(Zr)からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。これらの元素は、NbSnの臨界磁場を向上させることができる。また、NbSn結晶粒を微細化できるので、臨界電流密度の改善も期待できる。
【0023】
これらの元素の添加量は、好ましくは、0at%より多く5at%以下の範囲である。5at%を超えると臨界磁場の向上の効果が小さくなり得る。これらの元素の添加量は、より好ましくは、0.5at%以上2at%以下の範囲である。この範囲であれば、臨界磁場が向上し、NbSn結晶粒を微細化し得る。
【0024】
Sn芯120を構成するSn基は、少なくともSnとZnを含有していればよく、SnとZnとの合金であれば特に制限はないが、好ましくは、Sn基中のZnの含有量は、1wt%以上40wt%以下の範囲である。1wt%未満になると、Sn芯120硬度の改善が小さくなり得、40wt%を超えると、Sn基の組織が粗大化するため、前駆体100の加工性が低下し得る。より好ましくは、Sn基中のZnの含有量は、10wt%以上25wt%以下の範囲である。この範囲であれば、前駆体全体の硬度が向上し、加工性に優れる。なおさらに好ましくは、Sn基中のZnの含有量は、15wt%以上25wt%以下の範囲である。なお、本願明細書では、「wt%」を使用するが、「mass%」を用いてもよい。つまり、本願明細書では、そこに記載の「wt%」を「mass%」で置き換えてもよい。
【0025】
Sn基は、少なくともSnとZnを含有していればよく、SnとZnとの合金であれば特に制限はないが、好ましくは、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)およびインジウム(In)からなる群から選択される少なくとも1種の元素をさらに含有する。これらの元素の含有は、Sn基の組織を微細化し、硬度を改善できる。
【0026】
特に、Mgは、NbSn結晶粒の微細化に有利であり、Geは、NbSnの臨界磁場の向上およびNbSn結晶粒の微細化に有利であり、Gaは、NbSnの臨界温度および臨界磁場の向上に有利であり、Alは、NbSnの臨界温度の向上に有利であり、Inは、NbSn相の生成促進、NbSnの臨界磁場の向上およびNbSn結晶粒の微細化に有利である。これらの元素を1つまたは複数適宜選択して用いてよい。
【0027】
これらの元素の含有量は、好ましくは、1wt%以上40wt%以下の範囲である。この範囲であれば、Sn基の組織を微細化し得る。さらに好ましくは、これらの元素の含有量は、1wt%以上10wt%以下の範囲であり、なお好ましくは、1wt%以上5wt%以下の範囲である。複数の元素を含有する場合には、これらの合計が上記範囲であればよい。
【0028】
第1のCu母材130は、Cuを主成分としてTiを含有していれば特に制限はない。ここでCuの主成分とする量(すなわち、本願明細書において、第1のCu母材における「Cuを主成分」と称する場合のCu含有量)は、CuとTiとの合金となる量であるが、本願明細書ではCuを80wt%以上とする。
【0029】
第1のCu母材130中のTiの含有量は、好ましくは、0wt%より多く5wt%以下の範囲である。5wt%を超えると、第1のCu母材130の加工硬化が大きくなり得、前駆体100の加工性が低下する虞がある。より好ましくは、Tiの含有量は、0.5wt%以上3wt%以下の範囲である。この範囲であれば、第1のCu母材130の加工性に優れ、熱処理時にTiリッチ層の形成を抑制できる。より好ましくは、Tiの含有量は、0.5wt%以上2wt%以下の範囲である。なおさらに好ましくは、Tiの含有量は、0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲である。
【0030】
第2のCu母材140は、Cuを主成分としており、Cu単体であってもよいし、さらにTiを含有してもよい。この場合も、Tiを含有する場合のTiの含有量は、第1のCu母材130と同様に、0wt%より多く5wt%以下の範囲、好ましくは、0.5wt%以上3wt%以下の範囲、より好ましくは、0.5wt%以上2wt%以下の範囲、なおさらに好ましくは0.5wt%以上1.5wt%以下の範囲である。ここで、Cuの主成分とする量(すなわち、本願明細書において、第2のCu母材における「Cuを主成分」と称する場合のCu含有量)も、第1のCu母材の場合と同様、80wt%以上とする。
【0031】
第2のCu母材140がTiを含有する場合、第1のCu母材130と同一であってもよい。これにより、前駆体の製造方法によっては、製造効率が向上し得る。
【0032】
なお、Nb基、Sn基、第1のCu母材および第2のCu母材は、上述した金属元素以外に不可避不純物を含有し得る。
【0033】
Sn芯120に対するNb芯110の体積比は、好ましくは、1以上3以下の範囲である。1未満の場合、熱処理後の超伝導線材断面積内のNbSnの生成量が少なくなり得、高い特性が得られにくい可能性がある。一方、3を超えると、未反応のNb芯110が多くなり、超伝導線材の臨界電流密度(Jc)を低下させる虞がある。
【0034】
なお、Sn芯120に対するNb芯110の体積比は、例えば、図1または後述する図2に示す前駆体100、200の場合には、次のようにして算出される。Sn芯120(図2に示す前駆体200では、Sn芯220を指す)がa本、Nb芯110(図2に示す前駆体200では、Nb芯210を指す)がb本、Sn芯120の1本に対するNb芯110の面積比率をxとし、体積比vは、v=a×x/bで算出される。
【0035】
前駆体100は、伸線加工された伸線加工品であってもよい。伸線加工品とは、伸線加工により、前駆体100を半径方向に縮径した状態の成形品を意図する。なお、伸線加工前後において前駆体100は、縮径以外の配置構造の変化は実質ない。
【0036】
前駆体100が伸線加工品である場合、Sn芯120を構成するSn基中のZnが微細化され、均一に分散されている。これにより、Sn芯120の硬度が高まり、前駆体全体の硬さのバランスが改善され、伸線加工性を向上できる。Sn芯120を構成するSn基の組織中のZnは、伸線加工前は、デンドライト状であるが、伸線加工後は、デンドライト状がなくなり、全体に均一な組織となる。このような状態をZnが均一に分散されているという。Sn基の組織は、光学顕微鏡観察によって確認できる。
【0037】
図1では、第1のCu母材130および第2のCu母材140は、複数の穴(それぞれ30個および7個)を有する管状の形状を有しており、第1のCu母材130に埋設されたフィラメント状のNb基からなる30本のNb芯110、および、第2のCu母材140に埋設されたフィラメント状のSn基からなる7本のSn芯120を備える前駆体100を示すが、穴の数、Nb芯110およびSn芯120の数はこれに限らない。第1のCu母材130および第2のCu母材140の穴の数は、それぞれ、複数であってもよいし、1つであってもよい。
【0038】
また、Nb芯110は、フィラメント状以外にも粉末状あるいはチップ状のNb基からなってもよく、Sn芯は、フィラメント状以外にも粉末状あるいはチップ状のSn基からなってもよい。本願明細書において、フィラメント状は線状の形態を有するものを意図し、粉末状とは粉や粒などの形態を有するものを意図し、チップ状とは、粉末状よりも大きな小片であり、例えば、金属板などを裁断して得られるものを意図する。
【0039】
図1では、Nb芯110は、Sn芯120の周りに配置されるように示すが、これに限らない。Nb芯110およびSn芯120の配置はあくまでも例示であって、当業者であれば、適宜変更できることに留意されたい。
【0040】
図2は、別の本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図である。
【0041】
図2の前駆体200は、少なくともNbを含有するNb基からなる1以上のNb芯210と、少なくともSnおよびZnを含有するSn基からなる1以上のSn芯220と、Nb芯210が埋設されるCuを主成分とし、Tiをさらに含有する1以上の第1のCu母材230と、Sn芯220が埋設されるCuを主成分とする1以上の第2のCu母材240とを備える。Nb芯210、Sn芯220、第1のCu母材230および第2のCu母材240は、それぞれ、図1を参照して説明した、Nb芯110、Sn芯120、第1のCu母材130および第2のCu母材140と同様であるため、説明を省略する。
【0042】
図2では、第1のCu母材230および第2のCu母材240のそれぞれが複数の管である点が、図1とは異なるが、それ以外は同様である。
【0043】
図2では、それぞれが第1のCu母材230に埋設されたフィラメント状のNb基からなる30本のNb芯210、および、それぞれが第2のCu母材240に埋設されたフィラメント状のSn基からなる7本Sn芯220を備える前駆体200を示すが、Nb芯210およびSn芯220の数はこれに限らない。また、フィラメント状のNb基およびSn基に代えて、チップ状あるいは粉末状のNb基およびSn基を用いてもよいことはいうまでもない。
【0044】
図2では、Nb芯210を単芯で示すが、Nb芯210は、Nb芯と第1のCu母材とが複合化した多芯であってもよい。このような改変は当業者であれば、容易に想到する。同様に、Sn芯220も、Sn芯と第2のCu母材とが複合化した多芯であってもよい。
【0045】
図2の前駆体200も、前駆体100と同様に、伸線加工された伸線加工品であってもよい。
【0046】
前駆体200は、Nb、Ta等のバリア層を有するCu製の管(図示せず)を外側に有していてもよい。
【0047】
図3は、さらに別の本発明のNbSn超伝導線材用前駆体の断面を模式的に示す図である。
【0048】
図3(A)の前駆体300は、少なくともNbを含有するNb基からなる1以上のNb芯310と、少なくともSnおよびZnを含有するSn基からなる1以上のSn芯320と、Nb芯310が埋設されるCuを主成分とし、Tiをさらに含有する1以上の第1のCu母材330と、Sn芯320が埋設されるCuを主成分とする1以上の第2のCu母材340とを備える。Nb芯310、Sn芯320、第1のCu母材330および第2のCu母材340は、それぞれ、図1を参照して説明した、Nb芯110、Sn芯120、第1のCu母材130および第2のCu母材140と同様であるため、説明を省略する。
【0049】
図3(A)では、Nb基(Nb芯310に相当)、Sn基(Sn芯320に相当)、第1のCu母材330および第2のCu母材340は、シート状の形状を有し、積層され、ジェリーロールをなしている点が、図1とは異なる。なお、積層に際して、Nb芯310とSn芯320とは、第1のCu母材330または第2のCu母材340を介さず直接積層することはない。
【0050】
図3のジェリーロールにおいては、Nb芯310、Sn芯320、第1のCu母材330および第2のCu母材340の数をシート数とみなしてよい。
【0051】
図3(A)では、外側から、第1のCu母材330、Nb芯310、第1のCu母材330、第2のCu母材340、Sn芯320、第2のCu母材340、第1のCu母材330、Nb芯310、・・・を繰り返すように積層されているが、積層の順番は、Nb芯310にSn芯320中のSnが拡散する限り、これに限らない。
【0052】
好ましくは、図3(B)の前駆体301に示されるように、第2のCu母材340は、Tiを含有しており、第1のCu母材330と同一である。これにより、Nb芯310およびSn芯320は、第1のCu母材330を介して積層されることになる。この場合、第1のCu母材330、Nb芯310、第1のCu母材330、Sn芯320、第1のCu母材330、Nb芯310、・・・を繰り返すように積層すればよい。このような構造とすることにより、製造工程が煩雑となるのを避け、歩留まりよく製造できる。
【0053】
図3の前駆体300、301の場合、組み込むSn芯320に対するNb芯310の体積比は、使用するそれぞれのシートの厚み、幅、長さから算出できる。
【0054】
図3の前駆体300、301も、前駆体100と同様に、伸線加工された伸線加工品であってもよい。
【0055】
図3では、前駆体300、301の最外層が第1のCu母材330となっているが、例えば、前駆体300、301が、Nb、Ta等のバリア層を有するCu製の管(図示せず)を外側に有する場合には、最外層はNb芯310やSn芯320であってもよい。
【0056】
次に、本発明のNbSn超伝導線材用前駆体は、概略以下のようにして製造される。少なくともNbを含有するNb基と、少なくともSnおよびZnを含有するSn基と、Cuを主成分とし、Tiをさらに含有する第1のCu母材と、Cuを主成分とする第2のCu母材とに、ロッド・イン・チューブ(RIT)法、ジェリーロール法およびパウダー・イン・ロール(PIT)法からなる群から選択される手法を適用することによって、本発明の前駆体は製造される。ここで、Nb基、Sn基、第1のCu母材および第2のCu母材は、図1を参照して説明したとおりであるため、説明を省略する。
【0057】
このようにして得られた前駆体に伸線加工を施してもよい。これにより、Sn基中のZnが均一に分散されるので、Sn芯の硬度が高まり、前駆体の加工性を向上できる。伸線加工は、例えば、ダイスを用いた公知の加工手法によって行われる。
【0058】
図1図3の前駆体の製造方法について詳細に説明する。
図4は、図1に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャートである。
【0059】
ステップS410:棒状の第1のCu母材に1以上の穴を形成、それぞれの穴にフィラメント状のNb基を挿入し、Nb芯を形成する。すなわち、Cuを主成分とし、Tiをさらに含有する第1のCu母材に穴を形成し、少なくともNbを含有するNb基を挿入し、Nb芯を形成する。
ステップS420:棒状の第2のCu母材に1以上の穴を形成し、それぞれのフィラメント状のSn基を挿入し、Sn芯を形成する。すなわち、Cuを主成分とする第2のCu母材に穴を形成し、少なくともSnおよびZnを含有するSn基を挿入し、Sn芯を形成する。ステップS410およびステップS420を用いた手法は、ロッド・イン・チューブ(RIT)法と呼ばれる。
ステップS430:ステップS410によって得られたNb芯が形成(挿入)された第1のCu母材、および、ステップS420によって得られたSn芯が形成(挿入)された第2のCu母材を束ねる。
ステップS440:伸線加工する。
【0060】
ステップS430により本発明の前駆体100(図1)が得られるが、必要に応じて、伸線加工(ステップS440)を行ってもよい。
【0061】
ステップS410において、得られたNb芯が形成された第1のCu母材を中間焼鈍してもよい。これにより、Nbおよび第1のCu母材の加工歪みを除去できる。中間焼鈍は、好ましくは、真空中または不活性ガス雰囲気中、400℃以上600℃以下の温度範囲で行われる。真空は、例えば、1×10-3Pa以上の真空度であり、不活性ガス雰囲気は、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の希ガスであり得る。真空であればよいので、上限は、大気圧以下(例えば、1×10Pa以下)であればよい。
【0062】
また、ステップS410およびステップS420は、ステップS410、ついで、ステップS420の順に行ってもよいし、ステップS420、次いで、ステップS410の順に行ってもよい。
【0063】
また、第2のCu母材が、第1のCu母材と同じ場合には、ステップS410において、Nb芯用の穴に加えて、Sn芯用の穴を形成してもよい。
【0064】
例えば、第2のCu母材が第1のCu母材と同じ場合、外形30mmを有する第1のCu母材に、内径2mmを有する穴を放射状に42個形成し、そのうちの、外側の30個の穴にNb芯を形成し、内側の12個の穴にSn芯を形成すれば前駆体100が得られる。これを外形1mmまで伸線加工してもよい。なお、外形、内径、穴の数等はあくまでも例示であって、Nb芯/Sn芯の体積比によって適宜変更されてよい。
【0065】
図5は、図2に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャートである。
【0066】
ステップS510:1以上の管状の第1のCu母材のそれぞれにNb基を挿入し、Nb芯を形成する。Nb基は、フィラメント状であってもよいし、粉末状であってもよいし、チップ状であってもよい。すなわち、Cuを主成分とし、Tiをさらに含有する管状の第1のCu母材に、少なくともNbを含有するNb基を挿入し、Nb芯を形成する。
ステップS520:1以上の管状の第2のCu母材のそれぞれにSn基を挿入し、Sn芯を形成する。Sn基は、フィラメント状であってもよいし、粉末状であってもよいし、チップ状であってもよい。すなわち、Cuを主成分とする管状の第2のCu母材に、少なくともSnおよびZnを含有するSn基を挿入し、Sn芯を形成する。ステップS510およびステップS520を用いたこのような手法は、管に挿入される材料の様態によって、ロッド・イン・チューブ(RIT)法またはパウダー・イン・チューブ(PIT)法と呼ばれる。
ステップS530:ステップS510で得られた管状部材とステップS520で得られた管状部材とを束ねる。
ステップS530:伸線加工する。
【0067】
ここでも、ステップS510によって得られた管状部材(Nb芯が挿入された管状の第1のCu母材)、および、ステップS520によって得られた管状部材(Sn芯が挿入された管状の第2のCu母材)を束ねて本発明の前駆体200(図2)が得られるが、必要に応じて、伸線加工(ステップS530)を行ってもよい。
【0068】
ステップS510において、得られた管状部材を中間焼鈍してもよい。中間焼鈍の条件は、ステップS410と同様である。
【0069】
ステップS510において、得られた管状部材を伸線加工し、六角形状に加工し、複数の六角形状の管状部材を別の管状の第1のCu母材に挿入し、さらに伸線加工、六角形状に加工してもよい。これにより、多芯のNb芯となる。
【0070】
ステップS520において、得られた管状部材を伸線加工し、六角形状に加工してもよい。これにより、ステップS510およびステップS520でえられた管状部材を隙間なく束ねることができる。
【0071】
ステップS530において、管状の内側にNb、Ta等のバリア層を有するCu製の管に上記管状部材を挿入し、束ねてもよい。
【0072】
図6は、図3に示す前駆体を製造する製造工程を示すフローチャートである。
【0073】
ステップS610:シート状のNb基からなるNb芯と、シート状のSn基からなるSn芯と、シート状の第1のCu母材と、シート状の第2のCu母材とを積層し、ジェリーロール状に巻く。すなわち、少なくともNbを含有するNb基からなるシート状のNb芯と、少なくともSnおよびZnを含有するSn基からなるシート状のSn芯と、Cuを主成分とし、Tiをさらに含有するシート状の第1のCu母材と、Cuを主成分とするシート状の第2のCu母材とを積層し、ジェリーロール状に巻く。このような手法は、ジェリーロール法と呼ばれる。
ステップS620:伸線加工する。
【0074】
ここでも、ステップS610によってジェリーロール状の前駆体300(図3(A))が得られるが、必要に応じて、伸線加工(ステップS620)を行ってもよい。
【0075】
ステップS610において、Nb芯が第1のCu母材に埋設され、Sn芯が第2のCu母材に埋設されるよう、シート状のNb基は、一対のシート状の第1のCu母材間に位置し、シート状のSn基は、一対のシート状の第2のCu母材間に位置するよう、各シートを積層することが好ましい。
【0076】
ステップS610において、さらに好ましくは、第2のCu母材は、第1のCu母材と同一であり、シート状のNb基からなるNb芯と、シート状のSn基からなるSn芯と、シート状の第1のCu母材とを積層し、ジェリーロール状に巻けばよい。このようにしてジェリーロール状の前駆体301(図3(B))が得られる。この場合、例えば、シート状の第1のCu母材、シート状のNb基、シート状の第1のCu母材、シート状のSn基の順に積層できるので、製造工程が簡略化され、歩留まりよく前駆体を製造できる。
【0077】
例えば、第2のCu母材が第1のCu母材と同じ場合、厚さ100μmのシート状のNb芯と、厚さ50μmのシート状のSn基と、厚さ30μmのシート状の第1のCu母材とを用い、第1のCu母材、Nb基、第1のCu母材およびSn基の順に30回繰り返し積層し、ジェリーロール状に巻けば前駆体が得られる。これを外形1mmまで伸線加工してもよい。なお、シートの厚さ、積層数等はあくまでも例示であって、Nb芯/Sn芯の体積比によって適宜変更されてよい。
【0078】
(実施の形態2)
実施の形態2は、実施の形態1で説明した前駆体を用いて、内部スズ法によってNbSn超伝導線材の製造方法について説明する。
【0079】
実施の形態1で説明したNbSn超伝導線材用の前駆体を熱処理することによって、前駆体内でSnおよびTiが第1および第2のCu母材中に拡散し、Nb基がNbSn相となり、NbSn超伝導線材が得られる。以下、詳細に説明する。
【0080】
図7は、本発明の前駆体を用いたNbSn超伝導線材を製造する製造工程を示すフローチャートである。
【0081】
ステップS710:NbSn超伝導線材用の前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、200℃以上600℃未満の温度範囲で予備加熱する。
ステップS720:NbSn超伝導線材用の前駆体を、真空または不活性ガス雰囲気中、600℃以上800℃以下の温度範囲で加熱する。
【0082】
ステップS710の予備加熱は、必須ではないが、上記温度範囲で加熱することにより、Tiリッチ層が形成されることなく、第1のCu母材および第2のCu母材中のCuと、Znと、Snとの相互拡散を促進できるため、線材断面内において、均質にNbSn相を生成できる。予備加熱は、好ましくは、400℃以上600℃未満の温度範囲である。
【0083】
ステップS710において、予備加熱する雰囲気は、真空または不活性ガス雰囲気であればよく、真空は、例えば、1×10-3Pa以上真空度であり、不活性ガス雰囲気は、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の希ガスであり得る。真空であればよいので、上限は、大気圧以下(例えば、1×10Pa以下)であればよい。
【0084】
ステップS710において、予備加熱する時間は、特に制限はないが、例示的には、400℃以上600℃未満の温度範囲で10時間以上200時間以下の範囲である。
【0085】
ステップS720において、熱処理を上記温度範囲で行えば、ステップS710の予備加熱をしない場合であっても、Tiリッチ層が形成されず、第1のCu母材および第2のCu母材中のCuと、Znと、Snとの相互拡散を促進し、NbSn相の生成を促進できる。また、結晶粒の粗大化を抑制した、高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材を提供できる。なお、NbSn相の生成は、前駆体の端部を電子顕微鏡等によって観察することによって簡易的に判断できる。例えば、端部の断面において、Nb芯についてエネルギー分散型X線分析(EDX)等によってNbとSnの組成分析を行い、Nb/Sn比率が概ね3程度であれば、NbSn相が生成したと判断してよい。
【0086】
ステップS720においても、熱処理する雰囲気は、ステップS710と同様に、真空または不活性ガス雰囲気であればよく、真空は、例えば、10-3Pa以上の真空度であり、不活性ガス雰囲気は、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の希ガスであり得る。
【0087】
ステップS720において、熱処理する時間は、特に制限はないが、例示的には、上記温度範囲で50時間以上300時間以下の範囲である。
【0088】
ステップS720の熱処理を2段階で行ってもよい。詳細には、まず、上記温度範囲の中の第1の温度で加熱し、次いで、第1の温度よりも高い第2の温度で加熱する。このような2段階の熱処理によって、線材断面内において均質なNbSn相を有し、高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材が得られる。
【0089】
2段階の熱処理において、好ましくは、第1の温度は、600℃以上700℃未満の範囲であり、第2の温度は、700℃以上800℃以下の範囲である。これにより、2段階の熱処理の効果が高まる。また、2段階の熱処理をする場合、2段階の熱処理時間の合計が上述の時間範囲となるようにすればよいが、好ましくは、第1の温度において、50時間以上150時間以下の時間、第2の温度において50時間以上150時間以下の時間加熱する。これにより、2段階の熱処理の効果が高まる。
【0090】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例
【0091】
[例1~例11]
例1~例11では、ロッド・イン・チューブ法を採用し、表1に示す構成要素を用いてNbSn超伝導線材用前駆体を製造し、前駆体からNbSn超伝導線材を製造した。
【0092】
表1において、「Nb-1wt%Ti」とは、Tiを含有するNb基であり、Tiの含有量が1wt%であり、残部がNbであることを示す。同様に、「Sn-xwt%Zn」とは、Znを含有するSn基であり、Znの含有量がxwt%であり、残部がSnであることを示す。「Sn-20wt%Zn-1wt%Mg」とは、ZnおよびMgを含有するSn基であり、Znの含有量が20wt%であり、Mgの含有量が1wt%であり、残部がSnであることを示す。「Sn-1.6wt%Ti」とは、Tiを含有するSn基であり、Tiの含有量が1.6wt%であり、残部がSnであることを示す。「Cu-ywt%Ti」とは、Tiを含有するCu合金であり、Tiの含有量がywt%であり、残部がCuであることを示す。「Cu-15wt%Zn」とは、Znを含有するCu合金であり、Znの含有量が15wt%であり、残部がCuであることを示す。不可避不純物は、いずれも0.05wt%以下であった。
【0093】
【表1】
【0094】
外形/内径が15.0mm/13.5mmの管状の第1のCu母材に直径13.4mmのフィラメント状のNb基を挿入し、Nb芯を形成した(図5のステップS510)。これを直径2.15mmの丸線に伸線加工し、次いで、対辺が1.85mmの六角形状に加工した。これをNb/Cu単芯線と呼ぶ。このNb/Cu単芯線19本を、外形/内径が11.5mm/10.0mmの管状の第1のCu母材に挿入した。次いで、これを直径1.2mmの丸線に伸線加工し、対辺が1.0mmの六角形状に順次加工した。これをNb/Cu多芯線と呼ぶ。
【0095】
外形/内径が13.0mm/10.0mmの管状の第2のCu母材に直径9.5mmのフィラメント状のSn基を挿入し、Sn芯を形成した(図5のステップS510)。これを直径1.2mmの丸線に伸線加工し、次いで対辺が1.0mmの六角形状に加工した。これをSn/Cu単芯線と呼ぶ。
【0096】
Nb/Cu多芯線とSn/Cu単芯線とを束ねた(図5のステップS530)。詳細には、表2に示す数のNb/Cu多芯線とSn/Cu単芯線とを、内側にNbバリア層が設けられた外形/内径が15.0/8.9mmのCu/Nb管に、真ん中がSn/Cu単芯線、その周りがNb/Cu多芯線となるように挿入し、NbSn超伝導線材用の前駆体を得た。さらに、前駆体を線径0.6mm伸線加工した。表2には、例1~例11の前駆体におけるNb芯/Sn芯の体積比も併せて示す。なお、表2において、「多芯の数」はNb/Cu多芯線の数に、「Nb芯の総数」はNb/Cu単芯線の総数に、「Sn芯の総数」は、Sn/Cu単芯線の総数に相当し、また、「Nb芯/Sn芯の体積比」は、上述のとおりに算出される。伸線加工後の前駆体(伸線加工品)を例1~例11の前駆体と称する。
【0097】
【表2】
【0098】
例1~例11の前駆体の断面を光学顕微鏡(オリンパス製、BX60M)で観察した。結果を図8に示す。また、例1~例11の前駆体の結晶組織を光学顕微鏡で観察し、ビッカース硬度を測定した。結果を図9に示す。
【0099】
さらに、例1~例11の前駆体を、アルゴン(Ar)ガス雰囲気中、550℃で100時間、予備加熱した(図7のステップS710)。予備加熱後の例1~例11の前駆体の断面を、エネルギー分散型X線分光法(EDX、AMTEK製、APOLLO XP)によって組成マッピングを測定した。結果を図10図11および表3に示す。
【0100】
予備加熱後、前駆体をArガス雰囲気中、NbSn相生成のための熱処理を行った(図7のステップS720)。詳細には、前駆体を650℃で100時間、次いで、715℃で100時間の2段階熱処理をした。熱処理によってNb芯がNbSn相になったことを、端部をEDXにより組成分析することによって確認した(Nb/Sn比率は概ね3であった)。熱処理後の前駆体を、例1~例11のNbSn超伝導線材と称する。例1~例11のNbSn超伝導線材の非銅部臨界電流密度(Jc)を測定した。詳細には、例1~例11のNbSn超伝導線材を液体ヘリウムに浸漬し、外部磁場中で通電試験した。結果を図12に示す。
【0101】
以上の結果をまとめて説明する。
図8は、例1の前駆体の断面の光学顕微鏡像を示す図である。
【0102】
図8に示すように、例1の前駆体の断面は、19本のSn/Cu単芯線が中心に位置し、その周囲に、36本のNb/Cu多芯線が配置されていた。例1の前駆体におけるNbバリア内側でのNb芯の占積率は36%であった。例2~例11の前駆体の断面も同様の様態を示し、伸線加工後も設計した配置構造の変化はないことを確認した。
【0103】
図9は、例1の前駆体の伸線加工前後の結晶組織を示す光学顕微鏡像を示す図である。
【0104】
図9(A)は、例1の前駆体の伸線加工前のSn-20wt%Zn芯の結晶組織の様子を示す。図9(B)は、例1の前駆体の伸線加工後のSn-20wt%Zn芯の結晶組織の様子を示す。図9(A)によれば、Znを含有するSn基は溶解鋳造したままであるため、Znがデンドライト状に存在していたが、伸線加工をすることにより、図9(B)に示すように、デンドライト状組織がなくなり、Znが均一分散された。例2~例8、例10および例11の前駆体も同様にデンドライト状組織を有さず、Znが均一に分散していた。
【0105】
さらに、例1の前駆体のビッカース硬度は、22Hvであり、例9の前駆体のそれは、12Hvであった。例2~例8、例10および例11の前駆体も20Hvを超えるビッカース硬度を有した。このことから、Sn芯にZnを含有するSn基を用いることにより、前駆体の硬度が向上し、加工性に優れることが示された。
【0106】
図10は、予備加熱後の例1の前駆体の断面のEDXマッピングを示す図である。
図11は、予備加熱後の例9の前駆体の断面のEDXマッピングを示す図である。
【0107】
図10および図11ではグレースケールで示すが、各図面において明るく示される領域がそれぞれの元素が存在していることを示す。ここで、TiのEDXマッピングに着目すると、図10では全体にTiが分散しているが、図11では、Nb芯の周囲、詳細には、19本のNb芯が集まった周囲であるサブマルチ界面にTiリッチ層が形成されている。表3に示すように、予備加熱後の例2~例8、例10および例11の前駆体も同様に、Tiのリッチ層は確認されず、Tiは一様に分散していた。
【0108】
また、ZnのEDXマッピングに着目すると、図10および図11のいずれにおいても、添加場所(Znは、図10ではSn芯に、図11ではCu母材に添加されている)による差異は見られなかった。
【0109】
このことから、第1のCu母材がTiを含有することにより、内部スズ法を実施した際にTiリッチ層の形成が抑制され、SnおよびTiがCu母材に容易に拡散し、NbSn相の生成に有利であることが示された。
【0110】
【表3】
【0111】
図12は、例1および例9のNbSn超伝導線材の臨界電流密度の磁場依存性(Jc-B)を示す図である。
【0112】
図12によれば、測定した磁場の範囲において、例1のNbSn超伝導線材(図12では、「new wire」とも称する。)の臨界電流密度は、例9のNbSn超伝導線材のそれよりも大きかった。例えば、表4に示すように、4.2K、16Tでは、例1および例9のNbSn超伝導線材の臨界電流密度は、それぞれ、797A/mmおよび646A/mmであった。図示しないが、例2~例8、例10および例11のNbSn超伝導線材も、同様に例9のNbSn超伝導線材よりも大きな臨界電流密度を有した。
【0113】
【表4】
【0114】
このことから、本発明の前駆体を用いれば、内部スズ法の実施に際して、Tiリッチ層の形成が抑制されるので、SnおよびTiがCu母材へ容易に拡散し、NbSn相の生成が促進される。その結果、線材断面におけるNbSn相の均質性が向上し、高い臨界電流密度が得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明によれば、均質かつ高い臨界電流密度を有するNbSn超伝導線材を提供できるので、(1GHz超)強磁場核磁気共鳴(NMR)装置、核融合炉、高エネルギー粒子加速器、核磁気共鳴画像法(MRI)、超伝導電力貯蔵装置(SMES)等のマグネットに利用され得る。
【符号の説明】
【0116】
100、200、300、301 前駆体
110、210、310 Nb芯
120、220、320 Sn芯
130、230、330 第1のCu母材
140、240、340 第2のCu母材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12