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特許7148133複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220928BHJP
   C08L 85/00 20060101ALI20220928BHJP
   C08J 9/36 20060101ALI20220928BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220928BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L85/00
C08J9/36 CFH
B01J20/30
B01J20/26 A
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018542945
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(86)【国際出願番号】 JP2017035539
(87)【国際公開番号】W WO2018062504
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2016193391
(32)【優先日】2016-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 高郁
(72)【発明者】
【氏名】松岡 雅也
(72)【発明者】
【氏名】堀内 悠
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-96960(JP,A)
【文献】国際公開第2015/012373(WO,A1)
【文献】特表2009-519116(JP,A)
【文献】Takashi Uemura et ali.,Incarceration of Nanosized Silica into Porous Coordination Polymers:Preparation, Characterization, and Adsorption Property,CHEMISTRY OF MATERIALS,米国,2011年,27, 3,1736-1741
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/00
C08J 9/00 - 9/42
B01J 20/00 - 20/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とを有する複合材料であって、
前記多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有し、
前記多孔性配位高分子化合物は、金属イオンに有機配位子が配位した構造を有しており、
前記金属イオンは、2価~4価の金属イオンであり、
前記有機配位子は、分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物、分子内に2以上のピリジル基を有する化合物、ビフェニル化合物、及びイミダゾール基を有する化合物から選択され、
前記多孔性配位高分子化合物は、前記多孔質体の前記細孔内に担持されることを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記多孔質体は、空隙率が50体積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記多孔質体は、平均細孔径が5μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項4】
前記複合材料の体積の前記多孔質体の体積に対する比率が、1.0以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記複合材料の総質量に対する前記多孔性配位高分子化合物の質量で示される錯体導入率が、40質量%以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項6】
前記多孔質体は、下記式(M1)及び式(M2)
【化1】
(式中、Aはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であり、A及びAはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
で示される部分構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項7】
前記式(M1)は、下記式(M1-1)、式(M1-2)及び式(M1-3)からなる群より選択される1種類以上であり、
【化2】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
前記式(M2)は、下記式(M2-1)、式(M2-2)及び式(M2-3)からなる群より選択される1種類以上である、
【化3】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項8】
前記多孔性配位高分子化合物を構成する前記有機配位子が、ベンゼンジカルボン酸、ベンゼントリカルボン酸、脂肪族カルボン酸、4,4’-ビピリジン、イミダゾール、フェナントロリンからなる群より選択される化合物であって、これらの化合物は、一部に不飽和結合を含んでいてもよく、置換基又はハロゲン原子によって部分的に置換されていてもよいことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項9】
前記多孔性配位高分子化合物が、2~4価の金属イオンと2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族カルボン酸を含む多孔性配位高分子化合物であることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の複合材料。
【請求項10】
前記多孔性配位高分子化合物は、下記式(P1)
【化4】
(式中、MはCu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Mo2+、Fe3+、Al3+、Ti4+及びCo3+からなる群より選択される2価、3価又は4価の金属イオンであり、Yは隣接する2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族基を示す。)で示される構造を有することを特徴とする請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の複合材料を含むことを特徴とするガス吸着材。
【請求項12】
内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とを有する複合材料の製造方法であって、
前記多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有し、
前記多孔性配位高分子化合物は、金属イオンに有機配位子が配位した構造を有しており、
前記金属イオンは、2価~4価の金属イオンであり、
前記有機配位子は、分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物、分子内に2以上のピリジル基を有する化合物、ビフェニル化合物、及びイミダゾール基を有する化合物から選択され、
前記多孔質体の前記細孔内に溶媒を介して前記多孔性配位高分子化合物を担持させることを特徴とする複合材料の製造方法。
【請求項13】
前記多孔性配位高分子化合物と前記多孔質体とを接触した後、担持されてない前記多孔性配位高分子化合物を除去する洗浄工程と、前記溶媒を乾燥する乾燥工程とを有することを特徴とする請求項12に記載の複合材料の製造方法。
【請求項14】
前記溶媒が、前記多孔質体を膨潤させる性質を有することを特徴とする請求項13に記載の複合材料の製造方法。
【請求項15】
前記溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ベンゼン、ヘキサン、アセトアルデヒド、アセトン、シクロヘキサン及びN,N-ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項14に記載の複合材料の製造方法。
【請求項16】
前記多孔質体は、下記式(M1)及び式(M2)
【化5】
(式中、Aはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であり、A及びAはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
で示される部分構造を有しており、
下記式(M3)で示される化合物と下記式(M4)で示される化合物とを共重合させることで製造される、
【化6】
(式中、R~Rは炭素数1~5のアルキル基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、A~Aは上記と同じである。)
ことを特徴とする請求項12に記載の複合材料の製造方法。
【請求項17】
前記溶媒に多孔性配位高分子化合物を分散させて前記多孔性配位高分子化合物の分散液を調整する分散液調整工程と、
前記分散液を前記多孔質体と接触させて前記細孔内に前記多孔性配位高分子化合物を導入する接触工程と、を含むことを特徴とする請求項13に記載の複合材料の製造方法。
【請求項18】
前記接触工程において、前記多孔質体を膨潤させつつ接触させることを特徴とする請求項17に記載の複合材料の製造方法。
【請求項19】
前記接触工程の後、前記多孔質体から溶媒を除去する乾燥工程を含むことを特徴とする請求項17又は18に記載の複合材料の製造方法。
【請求項20】
前記接触工程において、前記多孔質体の接触前の体積をV0、接触後の体積をV1としたときに、前記多孔質体の体積膨張率(V1/V0)が1.2~2.0の範囲となることを特徴とする請求項17~19のいずれか1項に記載の複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法に関し、特に、多孔性配位高分子化合物を担持した複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性配位高分子化合物(Porous Coordination Polymer:PCP)は、金属イオンと有機配位子とが三次元配位ネットワークを形成したナノ細孔を持つ多孔体であり、規則的な細孔構造と高い比表面積、柔軟な構造といった種々の特性を備えている。このため、PCPは、高度に設計された機能性材料としての役割が期待されており、例えば、ガス吸着材やガス貯蔵材といった用途への開発が進んでいる。
【0003】
PCPの実用化にあたっては、PCPを賦形化する技術が不可欠である。従来、PCPの賦形化技術として、いくつかの方法が知られている。例えば、非特許文献1には、マクロ細孔を有するシリカモノリスの細孔内でPCPを合成して得られる複合体が開示されている。本文献のPCPは、「Cu-BTC」(すなわち、[Cu(BTC)](ここで、BTCは1,3,5-ベンゼントリカルボン酸))が用いられており、複合体はCu-BTC―SiOモノリスであることが記載されている。
【0004】
また、非特許文献2には、シリカエアロゲルの前駆体溶液にあらかじめ調整したPCP(Cu-BTC)を混合させ、ゲル化することで得られる複合体が開示されている。本文献のPCPは、非特許文献1と同様に「Cu-BTC」が用いられており、シリカエアロゲルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)から合成されることが記載されている。
【0005】
さらに、非特許文献3には、ベントナイト粘土とPCPとのペーストを固めて成形することで得られる複合体が開示されている。本文献のPCPは、「MIL-101(Cr)」(すなわち、[CrO(OH)(-HO)(BDC)]・xHO(ここで、BDCは1,4-ベンゼンジカルボン酸))が用いられている。
【0006】
また、非特許文献4には、バインダーとして3wt%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含むPCP懸濁液をニッケル金属の発泡体にスプレーすることで、ニッケル金属骨格にPCPがコーティングされた複合材料が開示されている。本文献のPCPは、非特許文献3と同様に「MIL-101(Cr)」が用いられている。
【0007】
一方で、従来、2官能基以上のアルコキシシランの共重合体であり、マシュマロゲルと呼ばれる柔軟性のある素材が知られている。例えば、特許文献1には、特定の部分構造を有するアルコキシシランの共重合体が開示されており、実施例にはキレートシリカキセロゲルを金属イオン除去材料として使用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-37594号公報(請求項1、実施例2など)
【非特許文献】
【0009】
【文献】Song et al.,“Porous Cu-BTC silica monoliths as efficient heterogeneous catalysts for the selective oxidation of alkylbenzenes”、RSC adv., 2014, 4, 30221-30224.
【文献】Ulker et al.,“Novel nanostructured composites of silica aerogels with a metal organic framework”、Micropor. Mesopor. Mater., 2013, 170, 352-358.
【文献】Hong et al.,“Manufacturing of metal-organic framework monoliths and their application in CO2 adsorption”、Micropor. Mesopor. Mater., 2015, 214, 149-155.
【文献】Ren et al.,“Ni foam-immobilized MIL-101(Cr) nanocrystals toward system integration for hydrogen strage”、J. Alloys Comp., 2015, 645, S170-S173
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1~4は、PCPを担体に導入する賦形化技術が開示されているが、いずれも担体に対してPCPの特性を維持したまま高い充填率で担持させることは困難であった。
【0011】
すなわち、非特許文献3,4では、PCPを比較的高い導入率で導入したことが記載されているが、これらの文献では、バインダーを使用してPCPを担体に担持させている。一般に、バインダーは、PCPの特性を低下させる傾向があるため、これらの文献の方法でPCPの特性を維持したまま担体に担持させることは困難である。また、非特許文献1,2では、バインダーを使用せずにシラン系の担体であるシリカモノリスに担持させている。しかしながら、これらの文献のシリカモノリスは、4官能基のアルコキシシランを重合したものであり、担体の構造的あるいは物理的特性の制約により、担体の内部にPCPを高充填させることが困難であった。
【0012】
一方、特許文献1には、2官能基以上のアルコキシシランの共重合体である、いわゆるマシュマロゲルに金属イオンを吸着させることが記載されているが、マシュマロゲルにPCPを担持させることについては記載されていない。
【0013】
本発明は、多孔性配位高分子化合物の特性を維持又は向上させた状態で高い充填率で担持させた複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、PCPの担体としてマシュマロゲルを用いることで、PCPの特性を維持又は向上させた状態で、高い充填率で担持させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とを有する複合材料であって、前記多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有し、前記多孔性配位高分子化合物は、前記多孔質体の前記細孔内に担持されることを特徴とする複合材料である。
【0016】
前記多孔質体は、空隙率が50体積%以上であることが好ましい。
【0017】
また、前記多孔質体は、平均細孔径が5μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0018】
また、前記複合材料の体積の前記多孔質体の体積に対する比率が、1.0以下であることが好ましい。
【0019】
また、複合材料の総質量に対する前記多孔性配位高分子化合物の質量で示される錯体導入率が、40質量%以上であることが好ましい。
【0020】
また、前記多孔質体は、下記式(M1)及び式(M2)
【化1】
(式中、Aはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であり、A及びAはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
で示される部分構造を有することが好ましい。
【0021】
さらに、前記式(M1)は、下記式(M1-1)、式(M1-2)及び式(M1-3)からなる群より選択される1種類以上であり、
【化2】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
さらに、前記式(M2)は、下記式(M2-1)、式(M2-2)及び式(M2-3)からなる群より選択される1種類以上である、
【化3】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)ことが好ましい。
【0022】
また、前記多孔性配位高分子化合物は、金属イオンに有機配位子が配位した構造を有しており、前記金属イオンは、2価~4価の金属イオンであり、前記有機配位子は、カルボキシル基、ピリジル基又はイミダゾール基を有する化合物であることが好適である。
【0023】
また、前記多孔性配位高分子化合物は、2~4価の金属イオンと2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族カルボン酸を含む多孔性配位高分子化合物であることが好ましい。
【0024】
さらに、前記多孔性配位高分子化合物は、下記式(P1)
【化4】
(式中、MはCu2+、Zn2+、Ru2+、Rh2+、Mo2+、Fe3+、Al3+、Ti4+
及びCo3+からなる群より選択される2価、3価又は4価の金属イオンであり、Yは隣接する2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価の芳香族基を示す。)で示される構造を有することが好ましい。
【0025】
本発明は、上記のいずれかに記載の複合材料を含むことを特徴とするガス吸着材である。
【0026】
さらに、本発明は、内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とを有する複合材料の製造方法であって、前記多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有し、前記多孔質体の前記細孔内に溶媒を介して前記多孔性配位高分子化合物を担持させることを特徴とする複合材料の製造方法である。
【0027】
また、前記多孔性配位高分子化合物と前記多孔質体とを接触した後、担持されてない前記多孔性配位高分子化合物を除去する洗浄工程と、前記溶媒を乾燥する乾燥工程とを有することが好ましい。
【0028】
さらに、前記溶媒が、前記多孔質体を膨潤させる性質を有することが好適である。
【0029】
この場合において、前記溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ベンゼン、ヘキサン、アセトアルデヒド、アセトン、シクロヘキサン及びN,N-ジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0030】
また、前記多孔質体は、下記式(M1)及び式(M2)
【化5】
(式中、Aはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であり、A及びAはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
で示される部分構造を有しており、
下記式(M3)で示される化合物と下記式(M4)で示される化合物とを共重合させることで製造される、
【化6】
(式中、R~Rは炭素数1~5のアルキル基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、A~Aは上記と同じである。)
ことが好ましい。
【0031】
また、前記溶媒に多孔性配位高分子化合物を分散させて前記多孔性配位高分子化合物の分散液を調整する分散液調整工程と、前記分散液を前記多孔質体と接触させて前記細孔内に前記多孔性配位高分子化合物を導入する接触工程と、を含むことが好適である。
【0032】
また、前記接触工程において、前記多孔質体を膨潤させつつ接触させることが好ましい。
【0033】
さらに、前記接触工程の後、前記多孔質体から溶媒を除去する乾燥工程を含むことが好ましい。
【0034】
さらに、これらの場合において、前記接触工程において、前記多孔質体の接触前の体積をV0、接触後の体積をV1としたときに、前記多孔質体の体積膨張率(V1/V0)が1.2~2.0の範囲となることが好ましい。
【0035】
また、本発明は、内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とを有する複合材料の製造方法であって、前記多孔質体の前記細孔内に溶媒を介して前記多孔性配位高分子化合物を担持させることを特徴とする複合材料の製造方法である。
【0036】
この場合において、前記溶媒に多孔性配位高分子化合物を分散させて前記多孔性配位高分子化合物の分散液を調整する分散液調整工程と、前記分散液を前記多孔質体と接触させて前記細孔内に前記多孔性配位高分子化合物を導入する接触工程と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、多孔性配位高分子化合物の特性を維持又は向上させた状態で高い充填率で担持させた複合材料及びガス吸着材並びに複合材料の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】実施例の多孔質体と複合材料のSEM画像である。
図2】多孔質体の表面の拡大写真である。
図3】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図4】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図5】実施例の複合材料をX線回折した結果を示すグラフである。
図6】実施例の複合材料を用いて荷重特性評価を行った結果を示すグラフである。
図7】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図8】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図9】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図10】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
図11】実施例の複合材料を用いてCO吸脱着等温線測定を行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
1.複合材料
以下、本発明の複合材料について説明する。本発明の複合材料は、内部に細孔を有する多孔質体と多孔性配位高分子化合物とが複合化した材料である。この多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有しており、多孔性配位高分子化合物は、多孔質体の細孔内に担持されている。以下、各部材について詳細に説明する。
【0040】
(1)多孔性配位高分子化合物
多孔性配位高分子化合物は、金属イオンと有機配位子とが三次元配位ネットワークを形成したナノ細孔を持つ多孔体化合物である。より詳細には、多孔性配位高分子化合物は、様々な金属イオンとそれらを連結する架橋性の有機配位子(リガンド)とを組み合わせることで、内部に空間(ナノ細孔)を持つ結晶性の高分子構造を形成させた多孔体であり、結晶が三次元に成長しつつ組み上がることで形成された内部空間を有している。なお、本明細書において、多孔性配位高分子化合物を単に「PCP」ということがある。
【0041】
(金属イオン)
多孔性配位高分子化合物を構成する金属イオンとしては、有機配位子と組み合わせることで多孔体を形成できるものであればどのようなものであってもよい。このような金属イオンとして遷移金属を用いることができる。具体的には、ニッケル、銅、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、モリブデン、クロム、鉄、チタニウム、ジルコニウムなどの各種イオンを挙げることができる。モリブデンやクロムは6価でも良い。本発明に好適に用いられる金属の具体例としては、2価以上の金属イオン、好ましくは2価~4価の金属イオンを挙げることができる。このような金属イオンとしては、具体的には、ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ルテニウムイオン(Ru2+)、ロジウムイオン(Rh2+)、モリブデンイオン(Mo2+)、コバルトイオン(Co2+,Co3+)、クロムイオン(Cr3+)、鉄イオン(Fe2+,Fe3+)、チタニウムイオン(Ti4+)ジルコニウムイオン(Zr4+)、アルミニウムイオン(Al3+)などを例示することができる。
【0042】
金属イオンの選択にあたっては、多孔性配位高分子化合物の製造の容易さ、及び安定性、用途などを考慮するとともに、本発明においては、本発明の多孔性物質への取り込まれやすさや吸着特性の安定性などを考慮して選択される。かかる考慮をした場合には、銅、ジルコニウム、クロム、などが挙げられるが、多孔性物質との関係では、複合化の容易さなどの点から、銅やジルコニウムなどを用いることがさらに好ましい。
【0043】
(有機配位子)
多孔性配位高分子化合物を構成する有機配位子としては、金属イオンと組み合わせることで多孔体を形成できるものであればどのようなものであってもよいが、酸素ドナー性配位子や窒素ドナー性配位子などを挙げることができる。また、有機配位子の種類としては、単座、複座(二座又は三座以上)のいずれであってもよい。
【0044】
酸素ドナー性配位子としては、芳香族カルボン酸や脂肪族カルボン酸などのカルボキシル基を有する化合物を挙げることができる。カルボキシル基を有する化合物としては、分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物が好ましく、特に、2つのカルボキシル基の間に少なくとも1つの炭素-炭素の不飽和結合(二重結合又は三重結合であって、単結合であってもベンゼン環や複素環などの環構造であってもよい)を有するものが好ましい。
【0045】
芳香族カルボン酸の具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のベンゼンジカルボン酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸等のベンゼントリカルボン酸を例示することができる。また、脂肪族カルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸などを挙げることができる。
【0046】
特に、ベンゼンジカルボン酸としては、以下の式(L1)~(L6)で示される化合物が好ましい。
【化7】
(式中、R11~R52は水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基(NH)、アミド基(CONH)、アジド基(N),アセチルアミノ基、ニトロ基及びハロゲン原子からなる群より選択され、これらは置換基及び/又はハロゲン原子によって置換されていてもよく、R11~R52はそれぞれ同一又は異なってもよい。)
【0047】
ここで、アルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどの直鎖又は分枝を有する炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。また、アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシなどの直鎖又は分枝を有する炭素数1~4のアルコキシ基が挙げられる。また、ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0048】
これらは、一部に不飽和結合(二重結合、三重結合)を含んでいてもよい。また、これらは、置換基やハロゲン原子によって部分的に置換されていてもよい。置換基としては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アミノ基などを挙げることができ、ハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。さらに、式L1~L6において、1分子中の置換基(R)の数は、1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1個又は2個、特に1個である。
【0049】
ベンゼンジカルボン酸が式L1のイソフタル酸の場合、5位に置換基を有しているものが好ましく、例えば、5-アジドイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-ヘプタフルオロプロピルイソフタル酸などを挙げることができる。
【0050】
窒素ドナー性配位子としては、分子内に2以上のピリジル基を有する化合物や、イミダゾール基を有する化合物を挙げることができる。このような化合物としては、4,4’-ビピリジン、イミダゾール、フェナントロリンなどを例示することができる。
【0051】
(金属イオンと有機配位子との配位構造)
多孔性配位高分子化合物は、金属イオンに有機配位子が配位した構造を有しており、金属イオンは、2価~4価の金属イオンであり、有機配位子は、カルボキシル基、ピリジル基又はイミダゾール基を有する化合物であることが好ましい。多孔性配位高分子化合物は、上述した金属イオンを中心に、有機配位子が1又は2以上配位した構造を有する。配位構造としては、直線形、平面正方形、正四面体形、正八面体形などのいずれであってもよい。
【0052】
特に、多孔性配位高分子化合物としては、2価の金属イオンに芳香族カルボン酸が配位した2核金属クラスター構造を有するものが好ましい。この場合において、下記式(P1)で示される構造を有することが特に好ましい。
【化8】
(ニッケルイオン(Ni2+)、銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、ルテニウムイオン(Ru2+)、ロジウムイオン(Rh2+)、モリブデンイオン(Mo2+)、コバルトイオン(Co2+,Co3+)、クロムイオン(Cr3+)、鉄イオン(Fe2+,Fe3+)、チタニウムイオン(Ti4+)ジルコニウムイオン(Zr4+)、アルミニウムイオン(Al3+)、Yは隣接する2個のCOOH基がメタ位の位置関係にある2価又は3価の芳香族基を示す。)
【0053】
本発明の配位子を選択するにあたり、特に制限はないが、本発明の多孔質体に取り込まれやすく吸着されやすいものであることが好ましい。選択した配位子により、多孔性配位高分子化合物の粒子サイズが過大であったり、多孔質体に取り込ませるにあたり分散性が悪い場合は、良好な結果が得られない場合がある。上記に記載の配位子を用いることが本発明の効果を得るには重要である。
【0054】
(多孔性配位高分子化合物の形状)
多孔性配位高分子化合物の形状は、特に制限はないが、粒子状のものが好ましい。この場合において、多孔性配位高分子化合物の平均粒子径としては、一般には0.01~100μmであり、好ましくは0.1~50μmである。多孔性配位高分子化合物の平均粒子径が、前記範囲内である場合、粒子径が適切なものとなり取り扱いが容易になりやすく、多孔質体の細孔内に導入しやすい、また粒子どうしの凝集などが起こりにくいため、溶媒等に対する分散性が向上する。(0.01μmを下回る場合は、粒子が小さすぎて取扱い性が困難となりやすくなり、また、粒子どうしの凝集などにより溶媒等に分散しにくくなる。多孔性配位高分子化合物の平均粒子径が100μmを超える場合は、粒子が大きすぎて多孔質体の細孔内に導入しにくい。)平均粒子系は、多孔性配位高分子化合物を製造する原料である配位子と金属の組み合わせを適切に変えることにより制御することが出来る。
【0055】
(多孔性配位高分子化合物の製造方法)
本発明の多孔性配位高分子化合物は、上述の金属元素の金属イオン、有機配位子、溶媒、必要に応じて塩基を混合して攪拌させるだけで得られることもあるが、オートクレーブなどの耐圧容器に入れ高温・加圧下で反応させてもよい。
【0056】
金属イオンは、溶媒に溶解可能な金属化合物を反応溶媒に加えることで反応液中に供給できる。このような金属化合物としては金属の硫酸塩、酢酸塩、硝酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、過塩素酸塩、水酸化物、具体的には硝酸銅、酢酸銅、過塩素酸銅などを挙げることができる。
【0057】
また、有機配位子がカルボキシル基を有する化合物の場合、カルボキシル基は酸のまま(COOH)で反応させてもよく、あるいはアルカリ金属塩化(COONa、COOK、COOLiなど)して反応させてもよい。
【0058】
金属イオンと有機配位子の反応における金属イオンの濃度としては、1~1000mM(mmol/l)程度であり、有機配位子の濃度としては、1~2000mM程度である。
【0059】
金属イオンと有機配位子の混合比は、有機配位子の配位結合基に対し金属カチオンがモル比として1:1程度が好ましく、その比率をどちらかを過剰ないし大過剰に用いてもよい。
【0060】
金属イオンと有機配位子の反応系には、必要に応じて塩基を添加してもよい。塩基は、配位子の脱プロトン化を促進する機能を有するため、反応性向上の観点から好ましい。塩基としては、無期塩基、有機塩基を挙げることができる。無機塩基としては、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが例示できる。有機塩基としては、トリエチルアミン、ジエチルイソプロピルアミン、ピリジン、2,6-ルチジンなどを例示することができる。これらのうち反応加速性の観点から、ピリジン、水酸化リチウム、炭酸ナトリウムが好ましい。塩基の添加量としては、有機配位子の1モルに対して、塩基が0.01~10モルであり、好ましくは0.05~5モルである。
【0061】
金属イオンと有機配位子の反応温度は、通常、常温(25℃)~300℃であり、250℃以下がより好ましい。反応温度が前記範囲内である場合、十分に反応が進行し、また生成物の分解も起こりにくいためである( 反応温度が300℃を超える場合は生成物が分解するおそれがあり、25℃を下回る場合は反応が進行しにくい。)
【0062】
金属イオンと有機配位子の反応時間、反応温度は、合成のスケールに応じて適宜設定することができるが、低温であるほど長時間を要するため、一般に30分~3週間である。反応を均一溶媒で実施する際は、数時間程度で問題ないが、耐圧容器下、不均一条件で反応を実施する場合は長時間、具体的には1週間程度必要とする場合もある。反応圧力は常圧から1~10MPa、好ましくは3~5MPa程度である。
【0063】
多孔性配位高分子化合物の合成反応をより促進させるため沸酸、塩酸、蟻酸、酢酸、硝酸など少量の酸や水酸化ナトリウムなどのアルカリを反応溶媒に加えてもよい。酸やアルカリは多量に用いると多孔性配位高分子化合物の合成を妨げる為、配位子に対して0.1~10倍モル、好ましくは1~5倍モル程度である。
【0064】
金属イオンと有機配位子との反応に使用する溶媒としては、水、アセトン、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン等の有機溶剤のいずれを使用してもよく、これらは単独で使用しても混合して使用してもよい。溶媒の使用量に関しては特に限定はないが、金属イオンと有機配位子の合計
質量 に対して、質量基準で10~2000倍程度が反応制御の容易さの点で好ましい。
【0065】
金属イオンと有機配位子の反応終了後、沈殿物をろ過、遠心分離することによって、生成物を簡単に単離することができる。生成物単離後は、必要に応じ水や有機溶媒による洗浄を行う。単離された生成物を吸着材として使用するためには、これを速やかに減圧下で加熱することによって、脱溶媒することが特に好ましい。脱溶媒することにより多孔性配位高分子化合物が安定化して多孔質構造が維持される傾向にある。その加熱温度は、50~200℃程度が好適である。なお、脱溶媒せずに長時間、例えば数日間放置すると、多孔性配位高分子化合物の結晶構造が変わって比表面積が減少するため、吸着材、触媒としての性能を損ねる場合があり得る。
【0066】
(多孔性配位高分子化合物の用途)
多孔性配位高分子化合物は、金属イオンと有機配位子の組合せによって種々の特性を有するものとなる。特にガス分離素子として用途として好適に用いることができる。このようなガスとしては、二酸化炭素、水素、一酸化炭素、酸素、窒素、炭素数1~4の炭化水素(メタン、エタン、エチレン、アセチレンなど)、希ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなど)、硫化水素、アンモニア、硫黄酸化物(SO2など)、窒素酸化物(NO,NO,N,NOなど)、シロキサン(ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンなど)、水蒸気又は有機蒸気などを挙げることができ、これらのうち特に一酸化炭素(CO)を効率よく分離することができる。
【0067】
(2)多孔質体
本発明の多孔質体は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造は、三次元にランダムに繋がった構造を少なくとも一部に有している。ネットワーク構造は、ネットワーク構造の内部には細孔を有する。
ジアルコキシシランは、ケイ素に2つのアルコキシ基(-OR)が結合し、2つの官能基が結合したシラン化合物である。また、トリアルコキシシランは、ケイ素に3つのアルコキシ基が結合し、1つの官能基が結合したシラン化合物である。本発明の多孔質体は、ジアルコキシシランどうしの間、トリアルコキシシランどうしの間、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとの間で、Si-O結合のネットワークによる立体構造を有している。
【0068】
多孔質体の表面を光学顕微鏡で観察すると、図2のように穴のあいたように開口した構造が観察される場合がある。多孔質の表面の開口した構造の径は、細孔内に多孔性配位高分子化合物を導入できるのであれば特に制限はないが、一般には、1~1000μm、場合により、1~100μmであり、5~20μmである場合も観察される。その場合、平均して700~1000μm(本願実施例3)、あるいは300~400μmでも用いることができる。空間充填率や多孔性配位高分子化合物導入率の点を考えると後者の方が有利である(本願実施例4,5)。特に、多孔質体への多孔性配位高分子化合物の導入のされ易さや複合体形成後の安定性などを考慮すると大きすぎたり、小さすぎたりしない方がよい。
【0069】
多孔質体の表面には細孔が観察される。その平均細孔径は、内部に多孔性配位高分子化合物を導入できるのであれば特に制限はないが、多孔質体の表面における細孔の開口径は多孔性配位高分子化合物の粒径と同等か、それよりも大きいことが好ましい。一般に1μm以上であり、好ましくは5μm以上であり、通常100μm以下であり、好ましくは20μm以下である。また平均細孔径の範囲は、特に制限されないが1~100μmであり、5~20μmであることが好ましい。
多孔質体の平均細孔径が前記範囲内である場合、細孔内に多孔性配位高分子化合物を導入しやすくなり、また、細孔内に導入した多孔性配位高分子化合物が外部に漏出しにくい。特に、多孔質体の平均細孔径は、多孔性配位高分子化合物の粒径と同等か、それよりも大きいことが好ましい。多孔質体の平均細孔径が多孔性配位高分子化合物の粒径よりも小さければ小さいほど、多孔性配位高分子化合物を細孔内に導入しやすくなる。逆に、多孔質体の平均細孔径が多孔性配位高分子化合物の粒径に近ければ近いほど、いったん細孔内に導入した多孔性配位高分子化合物が外部へ流出しにくくなる。
【0070】
図1の電子顕微鏡写真は、本発明の多孔質体の様子である。球状に見えるものが本発明の多孔質体を構成する多孔質有機シリカ構造体であり、本発明の多孔質体は、多孔質有機シリカ構造体が集合して形成されたものである。多孔質有機シリカ構造体が集合していないところが細孔である。本発明者らは、多孔性配位高分子化合物が多孔質に吸着されている状態について特定の理論に立つものではないが、多孔性配位高分子化合物(図1の上段の写真)の中央部の多孔質有機シリカ構造体が集合していないところが細孔であり、この細孔に多孔性配位高分子化合物が取り込まれている状態のときを、多孔性配位高分子化合物が多孔質体に物理的、化学的に取り込まれ吸着されている状態である、と説明することができる。
【0071】
なお、本明細書における開口径や平均細孔径の値は、後述する実施例に記載した方法で測定した結果であり、具体的には、多孔質体の電子顕微鏡(SEM)画像から細孔部を特定し、これを楕円形と仮定したときのその長軸方向の長さ分布を取ることで決定した値である。
【0072】
多孔質体へのPCPの理論最大導入率は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。また、多孔質体へのPCPの理論最大導入率の上限は、特に制限はないが、通常は99質量%以下であり、95質量%以下である。なお、この理論最大導入率とは、多孔質体の細孔に導入できるPCPの最大値の理論値であり、この値が大きいほど多孔質体に導入できるPCPの量が大きくなると見込まれる。本明細書における理論最大導入率の値は、後述する実施例に記載した方法で測定した結果であり、具体的には、以下の式を用いて算出した値である。
pore×ρPCP=MPCPMAX
理論最大導入率=(MPCPMAX/(Mporous+MPCPMAX))×100 ・・式
(ここで、∨pore:多孔質体の空隙体積、ρPCP:PCPのかさ密度、MPCPMAX:空隙を占めるPCPの理論最大質量、Mporous:多孔質体の質量、またこの際、ρPCPは1gのPCPをメスシリンダー内に入れ、100gの重しを載せた状態でタップすることでPCPを充填し、体積を測定することにより求める。)
【0073】
多孔質体はネットワークによる立体構造により空隙を有しており、多孔質体の内部に多孔性配位高分子化合物を導入することができる。多孔質体の空隙率は、50体積%以上であり、70体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましい。多孔質体の空隙率が高いほど、細孔内に多孔性配位高分子化合物をより多く導入しやすくなる。また、多孔質体の空隙率の上限は、特に制限はないが、通常は99体積%以下であり、95体積%以下である。ここで、空隙率とは、多孔質体の全体積に占める細孔の体積の割合を意味する。また、本明細書における空隙率の値は、後述する実施例に記載した方法で測定した結果であり、具体的には、多孔質体をメタノール(99%)に浸漬した際の溶液体積の上昇分を多孔質体の骨格体積、多孔質体の体積からのその差分を空隙体積とし、その比率から算出した値である。
【0074】
本発明の多孔質体のネットワーク構造は、下記式(M1)及び式(M2)で示される部分構造を有することが好ましい。
【化9】
(式中、Aはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であり、A及びAはビニル基、シアノ基、炭素数1~5のアルキル基、アミノ基、メルカプト基、フルオロ基、アリール基及びエポキシ基からなる群より選択される官能基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
【0075】
前記式(M1)と前記式(M2)の組み合わせは、本発明の効果が得られる範囲において、適宜任意に組み合わせて用いることができる。本発明の多孔質体のネットワーク構造は、格子状ではなくランダムで、かつフレキシブルな構造を有していることが特徴であるが、そのランダム性を調節するのには、A1,A2,A3の化学的な性質、置換基の長さ、かさ高さなどを考慮して選択することにより行うことができる。それにより、多孔質体の表面に存在する開口や細孔の大きさや性質を制御しすることができる。その結果、空間充填率や多孔性配位高分子化合物導入率に影響を与えることができる。
【0076】
特に、式(M1)は、下記式(M1-1)、式(M1-2)及び式(M1-3)からなる群より選択される1種類以上であることが好ましい。
【化10】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
また、式(M2)は、下記式(M2-1)、式(M2-2)及び式(M2-3)からなる群より選択される1種類以上であることが好ましい。
【化11】
(式中、*は結合手を示し、隣接するSiと結合することを意味する。)
【0077】
本発明の多孔質体は、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとが共重合したネットワーク構造を有していれば、他の構造を一部に有していてもよい。このような構造としては、例えば4つのアルコキシ基を有するテトラアルコシキシシランを基本骨格とする構造などを挙げることができる。テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどを挙げることができる。
【0078】
ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとが共重合したネットワーク構造は、多孔質体の全体に対して、80mol%以上含まれることが好ましく、90mol%以上含まれることがより好ましく、99mol%以上含まれることが特に好ましい。
【0079】
(多孔質体の製造方法)
多孔質体は、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとを共重合させることで製造することができる。なお、上記の共重合においては、ジアルコキシシランとトリアルコキシシラン以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0080】
ジアルコキシシランとトリアルコキシシランの共重合は、公知の方法で行うことができるが、例えば、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランを、界面活性剤と加水分解性化合物とを含む酸性溶液に添加してゾル化し、次いで高温で長時間エイジングしてゲル化させることで行うことができる。以下、この製造方法について詳細に説明する。
【0081】
原料となるジアルコキシシランとしては、アルコキシ基が2つのものであれば、多孔質体に求める物性等に応じて適宜選択することができる。同様に、原料となるトリアルコキシシランとしては、アルコキシ基が3つのものであれば、多孔質体に求める物性等に応じて適宜選択することができる。
【0082】
特に、上記の式(M1)及び式(M2)で示される部分構造を有する多孔質体は、下記式(M3)で示されるトリアルコキシシランと、下記式(M4)で示されるジアルコキシシランとを共重合させることで製造することができる。
【化12】
(式中、R~Rは炭素数1~5のアルキル基であって、それぞれ同一又は異なっていてもよく、A~Aは上記と同じである。)
【0083】
特に、得られる多孔質体の空隙率が高く柔軟性に優れることから、ジアルコキシシランとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランからなる群より選択される1以上の化合物が好ましい。また、これらに共重合させるトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルからなる群より選択される1以上の化合物が好ましい。
【0084】
ジアルコキシシランとトリアルコキシシランは、1種類ずつ用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。例えば、1種類のジアルコキシシランと2種類のトリアルコキシシランを使用してもよく、2種類のジアルコキシシランと1種類のトリアルコキシシランを使用してもよい。
【0085】
ジアルコキシシランとトリアルコキシシランの配合量は、多孔質体に求める特性等に応じて適宜設定することができるが、一般にモル比で1:10~10:1であり、1:5~5:1が好ましい。また、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランのいずれか一方又は両方を2種類以上使用する場合は、ジアルコキシシランの合計量とトリアルコキシシランの合計量に対して、一般にモル比で1:10~10:1であり、1:5~5:1が好ましい。
【0086】
なお、上述したように、多孔質体は、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランとが共重合したネットワーク構造以外の他の構造を一部に有していてもよい。多孔質体がこのような他の構造を有する場合は、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランを添加してもよい。テトラアルコキシシランの含有量は、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランを含む全モノマーの総重量に対して1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。テトラアルコキシシランの含有量が1質量%を超えると、多孔質体の合成が困難になる傾向がある。
【0087】
次に、酸性溶液を用いて、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランを加水分解してシリコン化合物をゾル化する。この過程で、ジアルコキシシランとトリアルコキシシランのそれぞれのアルコキシ基が加水分解と縮重合反応によりシロキサン網目を形成し、アルコキシ基以外の非加水分解性の官能基は加水分解されず維持される。
【0088】
酸性溶液の酸としては、カルボン酸類を挙げることができ、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。酸性溶液の濃度としては、加水分解反応が進行する濃度であれば特に制限はないが、一般に0.1~200mM(mmol/l)であり、2~50mMが好ましい。
【0089】
界面活性剤は、反応系中の溶媒と共重合体との化学的親和性の差異を小さくする機能を有しており、この差異を小さくすることにより、多孔質体の細孔はより細かいものとなる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤が挙げられ、イオン性界面活性剤が好ましく、カチオン性界面活性剤がより好ましい。カチオン性界面活性剤としては、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドが挙げられ、これらのうち、上記親和性が高いことから、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましい。界面活性剤は、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、界面活性剤、加水分解性化合物を含む酸性溶液の全質量に対して、一般に0.001~1質量%であり、0.01~0.1質量%が好ましい。
【0090】
加水分解性化合物は、生成されたゾルのゲル化を促進させる機能を有する。加水分解性化合物としては、尿素、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンテトラミンなどを挙げることができ、これらのうちゲル化促進効果の高い尿素が好ましい。加水分解性化合物は、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、界面活性剤、加水分解性化合物を含む酸性溶液の全質量に対して、一般に0.01~10質量%であり、0.1~1.0質量%が好ましい。
【0091】
ゾル化温度としては、加水分解反応が進行する温度であれば特に制限はないが、一般に10~50℃であり、20~40℃であることが好ましい。また、ゾル化時間としては、反応条件にもよるが、一般に10分~5時間であり、30分~2時間であることが好ましい。
【0092】
得られたゾルは、エイジングによりゲル化を行う。エイジングは、反応物であるゾルを静置することで行うことができる。ゲル化温度(エイジング温度)としては、ゾルがゲル化する温度であれば特に制限はないが、一般に50~200℃であり、60~100℃であることが好ましい。また、ゲル化時間(エイジング時間)としては、反応条件にもよるが、一般に1~50時間であり、15~20時間であることが好ましい。
【0093】
次いで、ゾル-ゲル反応により得られたゲル中に残存する水分、酸性溶液、界面活性剤、加水分解性化合物、未反応のシリコン化合物材料等を除去するため、有機系の極性溶媒を用いて溶媒交換を行うことが好ましい。以上の工程により、Si-O結合のネットワーク化により柔軟なゲルのネットワークを構築することができる。
【0094】
多孔質体は、特定の形状の型に入れてゾル-ゲル反応させて成型させたり、未成型のままゾル-ゲル反応させたのちに特定の形状に切断加工したりすることなどにより、所望の形状にすることができる。多孔質体の形状としては、球状、円筒状、円錐状、正方形状、角柱状、角錐状などとすることができる。
【0095】
2.複合材料の製造方法(複合化方法)
次に、本発明の複合材料の製造方法について説明する。複合材料は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合したSi-O結合のネットワーク構造を有する多孔質体を用意し、この多孔質体の細孔内に溶媒を介して多孔性配位高分子化合物を担持させることで製造することができる。
【0096】
複合材料の製造方法には大きく2つの方法がある。1つは、多孔質体と別にPCPを予め合成しておき、合成後のPCPを多孔質体に接触させて担持させる方法(以下、「外部合成法」ということがある)である。もう1つは、多孔質体の細孔内部でPCPの合成反応を行い、合成後のPCPが多孔質体に接触することでPCPを多孔質体に担持させる方法(以下、「内部合成法」ということがある)である。本発明の製造方法は、外部合成法、内部合成法の両方を含んでいる。
【0097】
(外部合成法)
以下、外部合成法について説明する。外部合成法では、まず、多孔質体と多孔性配位高分子化合物をそれぞれ別に調整する。これらは「(多孔質体の製造方法)」、「(多孔性配位高分子化合物の製造方法)」に記載した方法で製造することができる。なお、外部合成法による複合材料の製造方法は、本発明の複合材料を製造するのに好ましい方法である。すなわち、汎用性、製造コストを考慮すると、後述する内部合成法より、外部合成法が優れている。外部合成法は、内部合成法に比べ、合成時、試薬の使用量を低減することができ、その損失が多く、また、内部合成法に比べ均一にPCPを導入することはが容易であり、さらには、賦形材料の内部にPCPを付着させる上では有利である。これらの観点から、複合材料の製造方法としては、内部合成法よりも外部合成法のほうが好ましい。
【0098】
次に、多孔性配位高分子化合物を溶媒に分散させて分散液を調整する(分散液調整工程)。溶媒は、多孔質体と多孔性配位高分子化合物の両方を溶解しないものを選択する。なお、両者を溶解しないとは、多孔質体も多孔性配位高分子化合物のいずれも溶媒に有意な量が溶けだすことがないということである。上述のように、多孔性配位高分子化合物も多孔質体も構造的には、分子が3次元的に結合して形成されたものであり、それらの結合に溶媒が作用して結合を切断しない溶媒であるともいえる。多孔性配位高分子化合物については、溶媒としては多孔性配位高分子化合物中の金属イオンが溶け出さないとの意味合いもある。
【0099】
また、溶媒としては、多孔質体を膨潤させる性質を有するものが好ましい。ここで多孔質体を膨潤させるとは、多孔質体に作用して多孔質体中に溶媒が取り込まれ基本構造を変化させることなく一部又は大部分の分子間距離を変化させることにより体積が大きくなることを意味する。
【0100】
これらの特性を有するものとしては、多孔性配位高分子化合物や多孔質体の特性によって適宜選択することができる。選択できる溶媒は、非極性であっても極性溶媒であってもよく、プロトン性であっても非プロトン性であってもよい。また、溶媒の種類としては、水系溶媒、有機溶媒のいずれであってもよい。
【0101】
このような溶媒の具体例は、水系溶媒としては水、有機溶媒としては炭素数1~10のアルコール、炭素数1~5のアルデヒド、炭素数3~5のケトン、炭素数5~10の環状炭化水素などを挙げることができる。有機溶媒としては、より具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ベンゼン、ヘキサン、アセトアルデヒド、アセトン、シクロヘキサン、N,N-ジメチルホルムアミドなどを挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。これらのうち、多孔質体の細孔内への浸透性の高さから、メタノール、エタノール、アセトン、シクロヘキサン、N,N-ジメチルホルムアミドが好ましく、特に、メタノール、エタノール、アセトンが好ましい。
【0102】
続いて、上記で調整した分散液を多孔質体と接触させて細孔内に多孔性配位高分子化合物を導入する(接触工程)。接触工程は、分散液に多孔質体を接触することで行うことができる。接触工程では、多孔質体を分散液に接触した状態で撹拌機などを用いて軽く撹拌することが好ましい。撹拌機としては、回転子を有するスターラーなどを挙げることができる。なお、撹拌は、格別強く行う必要はなく、むしろ、撹拌により多孔性配位高分子化合物の粒子が破壊されたり、多孔質体の細孔内に取り込まれた多孔性配位高分子化合物が細孔外に排出されたりしないように注意することが肝要である。すなわち、多孔性配位高分子化合物の粒子が溶媒中で舞い上がる程度に撹拌すれば十分であり、多孔質体が溶媒中で舞い上がらない程度とすることが好ましい。
【0103】
なお、上述した実施形態では、多孔性配位高分子化合物を溶媒に分散させた分散液に多孔質体を浸漬して接触工程を行っていたが、接触工程としてはこれに限定されない。接触工程としては、例えば、多孔質体を予め溶媒に浸漬した状態で粉末状の多孔性配位高分子化合物を添加する方法、多孔質体と粉末状の多孔性配位高分子化合物とを混合したのちに溶媒を添加する方法などであってもよい。
【0104】
また、溶媒として多孔質体を膨潤させる性質を有するものを使用する場合は、接触工程において、多孔質体が膨潤する。このときの膨潤率は、多孔質体の浸漬前の体積をV0、浸漬後の体積をV1としたときに、多孔質体の体積膨張率(V1/V0)が1.2~2.0の範囲となることが好ましく、1.3~1.7となることがより好ましい。このように、溶媒によって多孔質体が膨潤することで、多孔性配位高分子化合物が多孔質体の細孔内に浸入しやすくなり、多孔質体への多孔性配位高分子化合物の充填率を高くすることができる。
【0105】
(洗浄・乾燥工程)
多孔性配位高分子化合物と多孔質体とを接触した後、担持されてない多孔性配位高分子化合物を除去する洗浄工程と、溶媒を乾燥する乾燥工程とを行うことが好ましい。
【0106】
洗浄工程は、未反応の多孔性配位高分子化合物やその他の成分を除去するために行う工程である。洗浄工程は、洗浄用溶媒で複合材料を洗浄する方法で行う。洗浄用溶媒としては、水や、エタノール、メタノールなどの有機溶媒を挙げることができる。洗浄は、1回のみ行ってもよく、複数回行ってもよい。
【0107】
乾燥工程は、洗浄後の複合材料を乾燥させる工程である。乾燥工程は、大気中、不活性ガス雰囲気中、真空中などで行うことができる。乾燥温度は、複合材料中の溶媒を必要な程度まで除去できれば特に制限はないが、一般に50~100℃であり、60~90℃が好ましい。乾燥は、ドライヤーなどで風を送って行ってもよく、無風下で行ってもよい。
【0108】
なお、溶媒として多孔質体を膨潤させる性質を有するものを使用する場合は、乾燥工程において、多孔質体が復元する。接触後に乾燥したときの体積をV2としたときの体積復元率(V2/V0)が0.3~0.9となることが好ましく、0.5~0.8となることがより好ましい。このように、乾燥によって多孔質体が元の大きさよりも収縮することで、複合材料がコンパクトにパッキングされ、多孔質体の細孔内に浸入した多孔性配位高分子化合物が外部に漏出しにくくなる。
【0109】
以上の、接触(浸透)工程、洗浄工程、乾燥工程は1回のみ行ってもよく、複数回繰り返し行ってもよい。これらの工程を複数回行うことで、その都度多孔性配位高分子化合物が多孔質体の細孔内に取り込まれて充填率が高くなる。上記の工程を複数回繰り返す場合、その回数は特に制限はないが、通常は2~5回程度であり、3回又は4回程度が好ましい。
【0110】
(内部合成法)
次に、内部合成法について説明する。内部合成法では、まず、多孔質体を用意し、多孔質体の細孔内で多孔性配位高分子化合物を合成する。多孔質体は、「(多孔質体の製造方法)」に記載した方法で製造することができる。
【0111】
次に、用意した多孔質体で多孔性配位高分子化合物を合成する。多孔性配位高分子化合物の合成は、「(多孔性配位高分子化合物の製造方法)」と同じ方法で行うことができる。具体的には、金属イオン、有機配位子、溶媒を多孔質体と混合して攪拌させることで行うことができる。金属イオン、有機配位子、溶媒の詳細については、上述したとおりであり、反応温度も常温~300℃程度、反応時間は30分~3週間程度、反応圧力は常圧から1~10MPa程度である。反応後は、上記「(洗浄・乾燥工程)」と同様に、複合材料を洗浄・乾燥することで、複合材料を完成する。
【0112】
(空間充填率)
このようにして製造される複合材料は、多孔質体の細孔への多孔性配位高分子化合物の空間充填率が50体積%以上と高い充填率で充填することができる。空間充填率は、60体積%とすることも可能である。空間充填率の上限は、特に制限はないが、例えば99体積%以下であり、95体積%以下である。ここで、本明細書における空間充填率とは、後述する実施例に記載した方法で測定した結果であり、具体的には、多孔性配位高分子化合物の多孔質体への導入前後の質量変化を測定し、その質量変化分と多孔性配位高分子化合物のかさ密度から求まるPCP体積と多孔質体の空隙体積との比率から算出した値である。
【0113】
(錯体導入率:PCP導入率)
また、複合材料は、複合材料の総質量に対する多孔性配位高分子化合物の質量で示される錯体導入率(すなわち、PCP導入率)が、40質量%以上と高い導入率で導入することができる。PCP導入率は、50質量%とすることも可能である。錯体導入率の上限は、特に制限はないが、例えば99質量%以下であり、95質量%以下である。ここで、本明細書におけるPCP導入率とは、後述する実施例に記載した方法で測定した結果であり、具体的には、多孔性配位高分子化合物の多孔質体への導入前後の質量変化を測定し、質量変化分と導入後の全質量の比率から算出した値である。
【0114】
このように、本発明のジアルコキシシランとトリアルコキシシランが共重合した多孔質体は、従来のテトラアルコキシシランのシリカモノリスよりも高い充填率で多孔性配位高分子化合物を担持することができる。このメカニズムについては、以下のように推測される。
【0115】
従来のテトラアルコキシシランのシリカモノリスは、モノマーのケイ素が4つの加水分解性官能基を有しているため、その重合体はケイ素の4つの結合がすべてSi-O結合しており、結合が密であり、担体として硬いものとなる。このため、アスペクト比の高い板状粒子である多孔性配位高分子化合物を充填させる際に細孔内で目詰まりが生じやすく、また、シリカモノリスを膨潤させて細孔を一時的に広げて内部に多孔性配位高分子化合物を導入しやすくすることが困難である。
【0116】
一方、本発明の多孔質体は、アルコキシシランモノマーのSi-O結合を形成する官能基(加水分解性官能基)が2又は3つであり、その共重合体はSi-O結合に関与していない官能基(非加水分解性官能基)を有している。このため、多孔質体は、結合が粗く、このため柔軟性に富む性質を有している。そのため、後述のように、多孔質体の細孔としては、球状粒子が連結した構造を有し、粒子間の小さな空隙と、連結した鎖状構造からなる大きな空隙を有する。これにより、従来のテトラアルコキシシランのシリカモノリスと比較して、本発明の多孔質体は細孔内で多孔性配位高分子化合物が細孔に充填し易く、かつ目詰まりしにくく、また溶媒などを使用して多孔質体を膨潤させて細孔内に多孔性配位高分子化合物を取り込みやすくなる。特に、本発明ではジアルコキシシランとトリアルコキシシランという性質の異なる2種類のモノマーを共重合させているため、いずれか1種類のみを重合させたホモポリマーと比較して、Si-O結合のネットワーク構造がより柔軟である。
【0117】
さらに、本発明の多孔質体は、Si-O結合に関与していない官能基を有しているため、その官能基を適宜選択することで、従来のシリカモノリスと比べて多様な特性の多孔質体を得ることができるという利点も有する。
【0118】
(複合化前後の体積比)
複合材料の体積の複合化前の多孔質体の体積に対する比率が、1.0以下であることが好ましい。このように、複合化の前よりも後で体積が小さくなることで、複合材料がコンパクトにパッキングされ、多孔質体の細孔内に浸入した多孔性配位高分子化合物が外部に漏出しにくくなる。上記の体積の比率は、0.3~0.9であることが好ましく、0.5~0.8であることがより好ましい。
【0119】
(複合化後の多孔性配位高分子化合物の性能)
本発明の複合材料は、ジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合した多孔質体と、多孔性配位高分子化合物とを組み合わせることにより、多孔性配位高分子化合物の特性を維持又は向上させた状態で、多孔性配位高分子化合物を担持させることが可能である。すなわち、本発明の複合材料は、複合化前の多孔性配位高分子化合物と比べて、その特性を低下させることなく担持することが可能である。
【0120】
ここで、多孔性配位高分子化合物の特性とは、例えばガス吸着性能などを挙げることができ、具体的には一酸化炭素の吸着性能などである。この場合において、複合化後の複合材料のガス吸着性能は、複合化前の多孔性配位高分子化合物単独のガス吸着性能と同等のガス吸着性能を有するか、あるいはより高いガス吸着性能を有する。ガス吸着性能としては、ガスの吸着量、吸着圧力、圧力変化率で評価することができる。ガスの吸着量が多いほど、吸着圧力が低いほど、圧力変化率が大きいほど、ガス吸着特性に優れていると言える。本発明の複合材料は、これらのガス吸着特性のすべてにおいて、多孔性配位高分子化合物単独のガス吸着特性と同等であるか、いずれか少なくとも1つが優れている。なお、ガス吸着特性は、ガス吸脱着等温線測定により評価することができる。
【0121】
3.ガス吸着材
本発明の複合材料は、PCPの特性に応じて種々の用途に使用することができるが、上述したように特にガス吸着材の一部又は全部として好適に使用することができる。ガス吸着材の吸着するガスとしては、例えば、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、水素ガスなどを挙げることができるが、特に一酸化炭素ガスが好ましい。このような一酸化炭素ガスは、例えば、製鉄所や石油化学での副生ガス及び石油天然ガス等の改質ガス、部分酸化ガス、石炭タールサンド等の改質ガス、メタノール分解ガス等に、水素、メタン、窒素、一酸化炭素ガスの混合ガスとして含まれており、本発明のガス吸着材は、これらの混合ガスから例えば圧力スイング吸着法などによって一酸化炭素ガスのみを選択的に吸着する用途として適している。
【実施例
【0122】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。また、以下の実施例において「%」表示は特に規定しない限り質量基準(質量パーセント)である。
【0123】
1.物性評価方法
(1)多孔質体について
(a)平均細孔径
多孔質体の平均細孔径は、SEM観察により決定した。得られたSEM像の細孔部について楕円形を仮定し、その長軸方向の長さ分布を取ることで決定した。
(b)空隙率
多孔質体の空隙率は、アルキメデス法により算出した。多孔質体をメタノール(99%)に浸漬した際の溶液体積の上昇分を多孔質体の骨格体積、多孔質体の体積からのその差分を空隙体積とし、その比率から空隙率を算出した。
(c)理論最大導入率
多孔質体の理論最大導入率は、以下の式を用いて算出した。
pore×ρPCP=MPCPMAX
理論最大導入率=(MPCPMAX/(Mporous+MPCPMAX))×100 ・・式
(ここで、∨pore:多孔質体の空隙体積、ρPCP:PCPのかさ密度、MPCPMAX:空隙を占めるPCPの理論最大質量、Mporous:多孔質体の質量、またこの際、ρPCPは1gのPCPをメスシリンダー内に入れ、100gの重しを載せた状態でタップすることでPCPを充填し、体積を測定することにより求めた。)
【0124】
(2)複合材料について
(a)空間充填率
複合材料の空間充填率は、PCP導入前後の質量変化を測定し、その質量変化分とPCPのかさ密度から求まるPCP体積と多孔質体の空隙体積との比率から算出した。
(b)PCP導入率
複合材料のPCP導入率は、PCP導入前後の質量変化を測定し、質量変化分と導入後の全質量の比率から算出した。なお、嵩密度の測定方法により、多孔質体内でのPCPのパッキング程度、一部は外表面に固定されるPCPも存在するので、100%を超えることもあり得る。
【0125】
2.実施例1
(1)多孔質体の合成
以下の化学式のスキームで多孔質体を合成した。具体的には、まず尿素5.0g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)1.0gを5mMの酢酸水溶液15mlに溶解し、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)を25mmol、ビニルメチルジメトキシシラン(VMDMS)を10mmolとなるように添加し、室温で60分間撹拌してゾル反応させた。反応終了後に溶液を353K、9時間静置してエイジングし、ゲル反応させた。得られたゲルをメタノールで洗浄し、353K、大気中で1時間乾燥し、多孔質体を得た。得られた多孔質体に対して上記の物性測定方法で物性を測定したところ、平均細孔径は13.8μm、空隙率は84.5体積%、下記PCP-1の理論最大導入率が74.8質量%であった。
【0126】
【化13】
【0127】
(2)多孔性配位高分子化合物(PCP-1)の合成
PCP-1は、溶液法で合成した。硝酸銅三水和物1mmolと5-ヘプタフルオロプロピルイソフタル酸1mmolをメタノール15mlとイオン交換水5mlの混合溶媒に溶解させ、撹拌しながらピリジン81μlを添加した後、353Kで12時間撹拌した。反応後の溶液をろ過し、メタノールで洗浄した後、大気中353Kで3時間乾燥し、PCP-1を得た。収率は26.6%、平均粒径は直径3.7μm、厚さ0.8μmであった。
【0128】
(3)複合材料の作製
上記で得られたPCP-1の120mgをメタノール1mLに混合して懸濁液を調整した。得られた懸濁液に、円柱状の多孔質体(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-1が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は112.8体積%、PCP導入率は77質量%であった。
【0129】
(4)多孔質体と複合材料の電子顕微鏡写真
得られた多孔質体と複合材料を使用し、カーボンペーストに複合体サンプルを少量乗せた後、白金蒸着を行ったものを測定用サンプルとし、走査型電子顕微鏡(日立製FE-SEM SU8010)を使用してSEM写真を撮影した。その結果を図1に示す。図の上段が複合化前の多孔質体の写真、下段が複合化後の複合材料の写真を示している。これらの写真からわかるように、本発明の多孔質体は、球状粒子が葡萄の房状に、かつ鎖状に連結した構造を有し、鎖間には多孔質体表面から、内部へと大きな空隙を有する構造を有している。また、多孔質体内の空隙内表面(すなわち、粒子状凹凸部)に板状粒子であるPCP-1が担持されるとともに、多孔質体内の空隙にもPCP-1が高充填されているがわかる。
【0130】
(5)複合材料のガス吸着性能の評価
得られた複合材料を使用し、一酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、265KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図3(実線:PCP-1 composite)に示す。
【0131】
3.比較例1
(1)シリカモノリスの合成
相分離を伴うゾルゲル法によりシリカモノリスを得た。具体的には、まずイオン交換水46.3mlと69質量%硝酸3.24mlを273Kで15分間撹拌した。撹拌しながら、ポリエチレングリコール(分子量:35000)4.79gを添加し、273Kで1時間撹拌した。さらに、撹拌しながらテトラエトキシシシラン37.7gを添加し、273Kで1時間撹拌した。得られた溶液を313Kで3日間静置熟成し、ゲル化させた。生成したゲルをイオン交換水とメタノールで洗浄後、353Kで12時間乾燥し、シリカモノリスを得た。得られたシリカモノリスに対して上記の物性測定方法で物を測定したところ、平均細孔径は5μm、空隙率は43.0体積%、下記PCP-2の理論最大導入率が36.4質量%であった。
【0132】
(2)複合材料の作製
上記で得られたシリカモノリスを用い、内部合成法で複合材料を得た。シリカモノリス90mgに硝酸銅三水和物500mgをエタノール2mlに溶解した溶液を添加し、373Kで1時間静置した後、溶液を取り除き、373Kで1時間真空乾燥することで硝酸銅含有シリカモノリスを得た。その後、5-ヘプタフルオロプロピルイソフタル酸150mgをメタノール2ml、イオン交換水0.8ml、ピリジン8μlに溶解した溶液を添加し、348Kで12時間静置し、細孔内部でPCPを合成した。反応後のモノリスをメタノールで洗浄後、3時間常温で真空乾燥し、複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は43.7体積%、PCP導入量は20.0質量%であった。
【0133】
(3)複合材料のガス吸着性能の評価
得られた複合材料を使用し、実施例1と同じ方法で一酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図3(点線:monolith composite)に示す。
【0134】
4.参考例1
(1)PCP-1単独でのガス吸着性能の評価
実施例1で得られたPCP-1を使用し、実施例1と同様の方法で一酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図3(破線:PCP-1)に示す。
【0135】
実施例1と比較例1の物性測定の結果から、実施例1の多孔質体を使用した複合材料では、比較例1のシリカモノリスを使用した場合と比較して、PCP-1の空間充填率とPCP導入率の両者において優れていることがわかった。このことから、多孔質体を賦形材として使用することにより、PCP-1を高密度に充填できることがわかった。
【0136】
また、図3のヒステリシス曲線の結果から、多孔質体(実施例1)とシリカモノリス(比較例1)を比べると、多孔質体を賦形材とすることで、シリカモノリスと比較して、導入されたPCP質量当たりの一酸化炭素の吸着量の絶対値が大きく、吸脱着時の圧力が低圧側にあり、かつ吸脱着時の圧力変化(曲線の傾き)が急激であることがわかった。すなわち、多孔質体のほうがシリカモノリスよりも吸脱着特性において優れていることがわかった。
【0137】
さらに、多孔質体(実施例1)とPCP-1単独(参考例1)を比べると、多孔質体とPCP-1とを複合化することで、PCP-1単独よりも低圧側で一酸化炭素を吸脱着することがわかった。このことから、多孔質体とPCP-1を複合化したことによる両者の相乗効果によって、PCP-1単独よりも低圧側で一酸化炭素を吸脱着が可能となり、吸脱着特性が向上したと考えられる。
【0138】
この相乗効果については、多孔質体細孔内にPCP-1が固定化されることで、CO吸着時のPCPの構造変化が適度に制限され、COの吸着に適したゲートの状態となったために優れた吸着特性を発現したものと考えられる。あるいは、多孔質体の細孔内にPCP-1を導入する際に、COの吸着に優れた粒子サイズのPCPが選択的に取り込まれたために優れた吸着特性を発現したものと考えられる。
【0139】
5.実施例2
(1)多孔性配位高分子化合物(PCP-2)の合成
PCP-2は、溶液法で合成した。具体的には、硝酸銅三水和物6gと1,3,5-ベンゼントリカルボン酸3gをエタノール100mlに溶解させ、353Kで12時間撹拌した。析出した沈殿物を遠心分離により回収し、エタノール洗浄を3回行った。その後、大気中353Kで4時間乾燥することでPCP-2を得た。
【0140】
(2)複合材料の作製
上記で得られたPCP-2の120mgをメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-2が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は109体積%、PCP導入率は83.4質量%であった。
【0141】
(3)懸濁液を使用した体積膨張率、体積復元率の評価
上記「(2)複合材料の作製」の過程で、PCP-2を含む懸濁液と多孔質体の体積膨張率と、乾燥後の体積復元率を測定した。円柱状の多孔質体は、端面の円の直径(d=2R)が1.40cm、高さ(h)が1.0cmであり、半径Rと高さhから算出した初期の体積(V0)は1.54cmであった。次に、懸濁液を浸漬した後の複合材料の体積を測定した。円の直径(d=2R)が1.55cm、高さ(h)が1.1cmであり、膨張後の体積(V1)は2.08cm、体積膨張率(V1/V0)は1.35倍であった。最後に、乾燥後の複合材料の体積を測定した。円の直径(d=2R)が1.20cm、高さ(h)が0.8cmであり、乾燥後の体積(V2)は0.91cm、体積復元率(V2/V0)は0.59倍であった。
【0142】
(4)有機溶媒を使用した体積膨張率、体積復元率の評価(参考例2)
PCP-2を添加していない99%メタノールのみの溶媒を使用し、上記「(3)懸濁液を使用した体積膨張率、体積復元率の評価」と同様の手順で、体積膨張率、体積復元率を評価した。その結果、初期の体積(V0)が1.33cm、溶媒に浸漬したあとの膨張後の体積(V1)が1.82cm、体積膨張率(V1/V0)が1.37倍、乾燥後の体積(V2)が1.33cm、体積復元率(V2/V0)が1.00倍であった。
【0143】
実施例2と参考例2の体積膨張率、体積復元率を比較すると、体積膨張率はいずれも約1.3倍とほぼ同等であったが、体積復元率は実施例2では約0.6であったのに対して参考例2では1倍であった。すなわち、有機溶媒にPCPを添加することで、PCPと多孔質体と相互作用により体積が縮小したと考えられる。このように、有機溶媒を含む懸濁液に多孔質体を浸漬したときには多孔質体が膨潤して内部にPCPが侵入しやすくなり、侵入後の複合材料を乾燥したときにはPCPと多孔質体との相互作用により体積が初期の多孔質体よりも減少して、内部のPCPが外部に流出しにくくなると考えられる。
【0144】
(5)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例2で得られた複合材料を使用し、実施例1と同様の方法で一酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図4(実線:PCP-2 composite)に示す。
【0145】
(6)PCP-2単独でのガス吸着性能の評価(参考例3)
実施例2で得られたPCP-2を使用し、実施例1と同様の方法で一酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図4(破線:PCP-2)に示す。
【0146】
実施例2と参考例3の吸着活性測定の結果から、実施例2の複合材料は、参考例3と同等の一酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0147】
6.実施例3
(1)多孔質体の合成
ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)と4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルを使用し、相分離を伴うゾルゲル法で多孔質体を得た。具体的には、尿素5.0g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)1.0gを5mMの酢酸水溶液15mlに溶解し、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルを0.21mol、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を0.14 molとなるように添加し、室温で60分間撹拌してゾル反応させた。反応終了後に溶液を353K、9時間静置してエイジングし、ゲル反応させた。得られたゲルをメタノールで洗浄し、353K、大気中で1時間乾燥し、多孔質体を得た。得られた多孔質体に対して上記の物性測定方法で物性を測定したところ、空隙率は71.7体積%であった。
【0148】
(2)複合材料の作製
上記で得られた多孔質体とPCPを使用し、外部合成法で複合材料を得た。具体的には、まず、PCP-3(新日鉄金属株式会社製:K15037)を入手した。PCP-3は、PCP-1と同等の構造を有している多孔性配位高分子化合物であり、平均粒径が直径26μm、厚さ5.9μmのものである。次に、PCP-3(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例3の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸漬させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-3が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は65.3体積%、PCP導入率は69.2質量%であった。
【0149】
7.実施例4
(1)多孔質体の合成
ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルを使用し、相分離を伴うゾルゲル法で多孔質体を得た。具体的には、尿素5.0g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)1.0gを5mMの酢酸水溶液15mlに溶解し、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリル0.126mol、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)を0.084mol、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を0.14molとなるように添加し、室温で60分間撹拌してゾル反応させた。反応終了後に溶液を353K、9時間静置してエイジングし、ゲル反応させた。得られたゲルをメタノールで洗浄し、353K、大気中で1時間乾燥し、多孔質体を得た。得られた多孔質体に対して上記の物性測定方法で物性を測定したところ、空隙率は86.5体積%であった。
【0150】
(2)複合材料の作製
上記で得られた多孔質体と実施例3のPCP-3を使用し、外部合成法で複合材料を得た。具体的には、PCP-3(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例4の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸漬させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させることで、PCP-3が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は85.5体積%、PCP導入率は80.1質量%であった。
【0151】
8.実施例5
(1)多孔質体の合成
ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、メチルトリメトキシシラン、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルを使用し、相分離を伴うゾルゲル法で多孔質体を得た。具体的には、尿素5.0g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)1.0gを5mMの酢酸水溶液15mlに溶解し、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリル0.126mol、メチルトリメトキシシラン(MTMS)を0.084mol、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)を0.14 molとなるように添加し、室温で60分間撹拌してゾル反応させた。反応終了後に溶液を353K、9時間静置してエイジングし、ゲル反応させた。得られたゲルをメタノールで洗浄し、353K、大気中で1時間乾燥し、多孔質体を得た。得られた多孔質体に対して上記の物性測定方法で物性を測定したところ、空隙率は84.5体積%であった。
【0152】
(2)複合材料の作製
上記で得られた多孔質体と実施例3のPCP-3を使用し、浸漬法で複合材料を得た。具体的には、PCP-3(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例5の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸漬させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-3が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は74.8体積%、PCP導入率は75.8質量%であった。
【0153】
9.実施例3~5の複合材料の評価
実施例3~5の複合材料を比較したところ、実施例3の複合材料は細孔径が大きく容易にPCPが排出してしまうのに対し、実施例4,5の複合材料は細孔径が比較的小さいため良好にPCPを担持していた。
実施例3の多孔質体の表面には、700~1000μmの開口部が、実施例4,5には、300~400μmの開口部が観察された。
【0154】
10.PCPの濃度変化
実施例2で得られたPCP-2(200mg)をメタノール3mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を直径1.4cm、高さ1.2cmの円柱状に切断したサンプル(210mg)を用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプルを浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸漬させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させることで、PCP-2が12質量%多孔質体に担持された複合材料を得た。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに2回繰り返すことで、32質量%、さらに2回(計5回)繰り返すことで50質量%の複合材料を得た。
【0155】
また、上記で得られた濃度が異なる3種類の複合材料について、それぞれX線回折を行ってXRDパターンを得た。その結果を図5に示す。この図から、いずれの濃度においても同じ位置(2θ=12.5)にPCP由来のピークを示すことから、PCPが多孔質体に導入されたことが確認できた。
【0156】
11.荷重特性評価
上記で得られた複合材料を使用し、重り97.4gを円柱の上に乗せて複合材料を圧縮したのち、重りを取り除いて復元させた。これを5サイクル繰り返した。そのときの圧縮比をグラフにした。その結果を図6に示す。なおこの図では、実施例1の多孔質体のみの圧縮比の結果についても掲載した(図の「Original」)。この図の結果から、荷重をかけて5サイクル繰り返しても、圧縮特性に変化はほとんどないことがわかった。また、柔軟な多孔質体へのPCPの導入量が増加すると、圧縮弾性が低下し、複合材料を硬質化することができる。本発明の複合材料は、柔軟性が必要な用途に利用できることはもちろんであるが、PCP導入量を変えて硬軟を調整することで、種々の用途に利用できる。
【0157】
12.実施例6(内部合成法)
実施例1で合成した多孔質体を使用し、内部合成法によりPCP-1を合成した。具体的には、多孔質体274.3mgに硝酸銅三水和物500mgをエタノール2mlに溶解した溶液を添加し、373Kで1時間静置した後、溶液を取り除き、ドライヤーを用いて1時間乾燥することで硝酸銅含有多孔質体を得た。その後、5-ヘプタフルオロプロピルイソフタル酸150mgをメタノール2mlに溶解した溶液を添加し、348Kで6時間静置し、細孔内部でPCP-1を合成した。反応後のモノリスをメタノールで洗浄後、常温で乾燥し、複合材料を得た。PCP-1の収率を測定したところ、7.9%であった。また、得られた複合材料に対して上記の物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は41.4体積%、PCP導入率は60質量%であった。
【0158】
13.実施例7
(1)PCP-4((Co(MeIM)(ここで、MeIMは2-メチルイミダゾールである))の合成
PCP-4は、溶液法で合成した。硝酸コバルト六水和物0.45gと2-メチルイミダゾール5.5gをイオン交換水20mlに溶解させ、室温で6時間撹拌した。析出した沈殿物を遠心分離により回収し、エタノール洗浄を3回行った。その後、大気中353Kで12時間乾燥することでPCP-4を得た。
【0159】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-4を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-4(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-4が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は114.6体積%、PCP導入率は64.6質量%であった。
【0160】
(3)複合材料の作製(超音波照射をした場合:実施例7-2)
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-4を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-4(50mg)をメタノール2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(52mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-4(20mg)とメタノール1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-4が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は60.0体積%、PCP導入率は60.0質量%、体積復元率は0.759であった。
【0161】
(4)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例7-2で得られた複合材料を使用し、二酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、298KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図7(実線:PCP-4 composite)に示す。
【0162】
(5)PCP-4単独でのガス吸着性能の評価(参考例4)
実施例7で得られたPCP-4を使用し、実施例7と同様の方法で二酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図7(破線:PCP-4)に示す。
【0163】
実施例7と参考例4の吸着活性測定の結果から、実施例7の複合材料は、参考例4とほぼ同等の二酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0164】
14.実施例8
(1)PCP-5((Zr(OH)(BDC)(ここで、BDCは1,4-ベンゼンジカルボン酸である))の合成
PCP-5は、ソルボサーマル法で合成した。塩化ジルコニウム1.60mmolとテレフタル酸1.60mmolをジメチルホルムアミド40mlに溶解させ、オートクレーブ中393Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、ジメチルホルムアミド洗浄を行った。メタノール交換した後、12時間真空乾燥することでPCP-5を得た。
【0165】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-5を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-5(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-5が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は67.0体積%、PCP導入率は56.1質量%であった。
【0166】
(3)複合材料の作製(超音波照射をした場合:実施例8-2)
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-5を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-5(70mg)をメタノール2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(62mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-5(20mg)とメタノール1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-4が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は48.1体積%、PCP導入率は61.7質量%、体積復元率は0.570であった。
【0167】
(4)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例8-2で得られた複合材料を使用し、二酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、298KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図8(実線:PCP-5 composite)に示す。
【0168】
(5)PCP-5単独でのガス吸着性能の評価(参考例5)
実施例8で得られたPCP-5を使用し、実施例8と同様の方法で二酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図8(破線:PCP-5)に示す。
【0169】
実施例8と参考例5の吸着活性測定の結果から、実施例8の複合材料は、参考例5とほぼ同等の二酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0170】
15.実施例9
(1)PCP-6((Zr(OH)(BDC-NH(ここで、BDC-NHは2-アミノテレフタル酸である))の合成
PCP-6)は、ソルボサーマル法で合成した。塩化ジルコニウム3.50gと2-アミノテレフタル酸2.72gを塩化水素1.5ml、ジメチルホルムアミド155.2mlの混合液中に溶解させ、オートクレーブ中393Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、ジメチルホルムアミド洗浄を行った。メタノール交換した後、12時間真空乾燥することでPCP-6を得た。
【0171】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-6を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-6(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-6が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は105.9体積%、PCP導入率は73.0質量%であった。
【0172】
16.実施例10
(1)PCP-7((FeF(HO)O(BDC)(ここで、BDCは1,4-ベンゼンジカルボン酸である))の合成
PCP-7は、ソルボサーマル法で合成した。塩化鉄(III)六水和物1mmolとテレフタル酸2mmolを5Mフッ化水素酸50μl、ジメチルホルムアミド40mlの混合液中に溶解させ、オートクレーブ中383Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、ジメチルホルムアミド洗浄を行った。メタノール交換した後、12時間真空乾燥することでPCP-7を得た。
【0173】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-7を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-7(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-7が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は39.1体積%、PCP導入率は46.4質量%、体積復元率は0.735であった。
【0174】
(3)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例10で得られた複合材料を使用し、二酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、298KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図9(実線:PCP-7 composite)に示す。
【0175】
(4)PCP-7単独でのガス吸着性能の評価(参考例6)
実施例10で得られたPCP-7を使用し、実施例10と同様の方法で二酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図9(破線:PCP-7)に示す。
【0176】
実施例10と参考例6の吸着活性測定の結果から、実施例10の複合材料は、参考例6と同等の二酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0177】
17.実施例11
(1)多孔質体の合成
ビニルトリメトキシシラン(VTMS)、4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリル、ビニルメチルジメトキシシラン(VMDMS)を使用し、相分離を伴うゾルゲル法で多孔質体を得た。尿素5.0g、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC)1.0gを5mMの酢酸水溶液15mlに溶解し、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)を0.126mol、l,4-(トリメトキシシリル)ブタンニトリルを0.084mol、ビニルメチルジメトキシシラン(VMDMS)を0.14molとなるように添加し、室温で60分間撹拌してゾル反応させた。反応終了後に溶液を353K、9時間静置してエイジングし、ゲル反応させた。得られたゲルをメタノールと水を用いて洗浄し、353K、大気中で1時間乾燥し、多孔質体を得た。得られた多孔質体の空隙率は91.9体積%であった。
【0178】
(2)複合材料の作製
上記で得られた多孔質体と実施例3のPCP-3を使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-3(120mg)をメタノール1mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、上記で得られた多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(90mg)を浸漬し、室温で5分間放置して懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、メタノールで洗浄し、大気中で80℃、1時間乾燥させた。この浸透、洗浄、乾燥操作をさらに4回繰り返し行うことで、PCP-3が多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合体の空間充填率は79.8体積%、PCP導入率は79.4質量%であった。
【0179】
18.実施例12
(1)PCP-E(Al(OH)(BDC-NH)(ここでBDC-NHは2-アミノテレフタル酸である))の合成
PCP-Eは、ソルボサーマル法で合成した。塩化アルミニウム(III)六水和物0.76gと2-アミノテレフタル酸0.56gをジメチルホルムアミド29ml、水1mlの混合液中に溶解させ、超音波を15分間照射した後、オートクレーブ中423Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、メタノール洗浄を行った。その後、353Kで一晩乾燥することでPCP-Eを得た。
【0180】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-Eを使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-E(60mg)をメタノール2mlに混合して懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(53mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-E(20mg)とメタノール1mlを追加し、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-Eが多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は38.0体積%、PCP導入率は50.7質量%、体積復元率は0.862であった。
【0181】
(3)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例12で得られた複合材料を使用し、二酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、298KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図10(実線:PCP-E composite)に示す。
【0182】
(4)PCP-E単独でのガス吸着性能の評価(参考例7)
実施例12で得られたPCP-Eを使用し、実施例12と同様の方法で二酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図10(破線:PCP-E)に示す。
【0183】
実施例12と参考例7の吸着活性測定の結果から、実施例12の複合材料は、参考例7よりも僅かに高い二酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0184】
19.実施例13
(1)PCP-F(AlOCl(HO)(BDC-NH(ここでBDC-NHは2-アミノテレフタル酸である))の合成
PCP-Fは、ソルボサーマル法で合成した。塩化アルミニウム(III)六水和物0.97gと2-アミノテレフタル酸1.09gをジメチルホルムアミド80ml中に溶解させ、超音波を15分間照射した後、1時間室温で撹拌した。その後、オートクレーブ中393Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、メタノール洗浄を行った。12時間353Kで乾燥することでPCP-Cを得た。
【0185】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-Fを使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-F(70mg)をメタノール2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(63mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-F(20mg)とメタノール1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-Fが多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は33.8体積%、PCP導入率は47.5質量%、体積復元率は0.735であった。
【0186】
20.実施例14
(1)PCP-G(FeO(BPDC)Cl・nHO(ここで、BPDCは4,4’-ビフェニルジカルボン酸である))の合成
PCP-Gは、ソルボサーマル法で合成した。塩化鉄(III)六水和物0.270gと4,4’-ビフェニルジカルボン酸0.242gをジメチルホルムアミド5ml中に溶解させ、超音波を15分間照射した後、オートクレーブ中423Kで12時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、メタノール洗浄を行った。得られた粉末を40mlのメタノールに分散させて、一晩攪拌した。粉末をろ過、メタノールで洗浄し、12時間353Kで乾燥することでPCP-Gを得た。
【0187】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-Gを使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-G(70mg)をメタノール2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(62mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-G(20mg)とメタノール1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-Gが多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は29.1体積%、PCP導入率は53.7質量%、体積復元率は0.862であった。
【0188】
(3)複合材料のガス吸着性能の評価
実施例14で得られた複合材料を使用し、二酸化炭素の吸着活性を測定した。具体的には、298KにおけるCO吸脱着等温線測定により測定した。その結果を図11(実線:PCP-G composite)に示す。
【0189】
(4)PCP-G単独でのガス吸着性能の評価(参考例8)
実施例14で得られたPCP-Gを使用し、実施例14と同様の方法で二酸化炭素の吸着活性を測定した。その結果を図11(破線:PCP-G)に示す。
【0190】
実施例14と参考例8の吸着活性測定の結果から、実施例14の複合材料は、参考例8と同等の二酸化炭素の吸着活性を示すことがわかった。この結果は、PCPの特性を維持又は向上させた状態で担持することを可能にする本発明を支持している。
【0191】
21.実施例15
(1)PCP-H(Ti(OH)(BDC-NH)6(ここでBDC-NHは2-アミノテレフタル酸である))の合成
PCP-Hは、ソルボサーマル法で合成した。オルトチタン酸テトラブチル600μlと2-アミノテレフタル酸0.500gをジメチルホルムアミド18ml、メタノール2mlの混合液中に溶解させ、超音波を15分間照射した後、オートクレーブ中423Kで24時間加熱することで反応させた。析出した沈殿物をろ過し、メタノール洗浄を行った。その後12時間353Kで乾燥することでPCP-Hを得た。
【0192】
(2)複合材料の作製
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-Hを使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-H(70mg)をメタノール2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(60mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、1時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-H(20mg)とメタノール1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中で353K、4時間乾燥させることでPCP-Hが多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は25.3体積%、PCP導入率は50.8質量%、体積復元率は0.862であった。
【0193】
22.実施例16
(1)複合材料作製のための溶媒の影響の評価
実施例1の多孔質体と上記で得られたPCP-Fを使用し、外部合成法で複合材料を得た。PCP-F(60mg)をジメチルホルムアミド2mlに混合した後、30秒間超音波照射を行うことで懸濁液を調製した。一方で、実施例1の多孔質体を円柱状に切断したサンプルを用意した。得られた懸濁液に多孔質体のサンプル(61mg)を浸漬し、1分間懸濁液をゲル内に浸透させた。その後、懸濁液からゲルを取り出し、大気中で353K、3時間乾燥させた。上記浸透、乾燥操作を再度繰り返した。懸濁液にPCP-F(20mg)とジメチルホルムアミド1mlを追加し、30秒間超音波照射を行った後、再度上記浸透操作を行い、大気中、353Kで一晩乾燥させ、PCP-Fが多孔質体に担持された複合材料を得た。得られた複合材料に対して物性測定方法で物性を測定したところ、空間充填率は36.4体積%、PCP導入率は45.8質量%、体積復元率は0.735であった。
【0194】
実施例13と実施例16の複合材料の物性評価の結果から、PCP懸濁溶媒を変えても高充填量かつ体積が収縮した複合材料を得られることがわかった。
【0195】
上記実施例、比較例で使用したPCP(金属イオン+有機配位子の種類)、多孔質体(モノマーの種類)、多孔質体の空隙率、PCPの合成法、複合材料の空間充填率、PCP導入率を下記の表にまとめた。
【0196】
【表1】
【0197】
本発明の実施例1~16のジアルコキシシラン及びトリアルコキシシランが共重合した多孔質体は、テトラエトキシシランかならなる比較例1と比較すると、多孔質体の空隙率が良好であり、少なくとも実施例3で、28.7体積%もの空隙率が増加し、実施例11に至っては、比較例1の48.9体積%も空隙率が増加し、2倍以上もの空隙を有する。実施例1~16から明らかなように、本発明の多孔質体は、PCPの種類にかかわらず、担持することが可能である。
また、合成したPCPを多孔質体に担持させた実施例1と、多孔質体内でPCPを合成させた実施例6を比較すると、多孔質体内でPCPを合成するよりも、合成したPCPを多孔質内に担持する方が空間充填率、PCP導入率が高くなり、優れていることがわかる。
さらに、本発明の多孔質体に担持されるPCP量、すなわち、PCP導入率は、一番少ない実施例10でさえ、比較例1よりも26.4質量%増で2倍以上多孔質体内にPCPを担持でき、実施例2に至っては、63.4質量%増で、多孔質体内に4倍以上ものPCPを担持すること可能となった。
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