(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】環境殺菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/16 20060101AFI20220928BHJP
A61L 2/10 20060101ALI20220928BHJP
A61L 2/24 20060101ALI20220928BHJP
A61L 9/18 20060101ALI20220928BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61L2/16
A61L2/10
A61L2/24
A61L9/18
A61L9/20
(21)【出願番号】P 2020057582
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】521146861
【氏名又は名称】日本未来科学研究所合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】野田 英孝
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-081604(JP,A)
【文献】特開2011-188950(JP,A)
【文献】国際公開第2019/106980(WO,A1)
【文献】特開2019-154983(JP,A)
【文献】特開2017-169613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0340760(US,A1)
【文献】特開2003-052795(JP,A)
【文献】特開2013-233230(JP,A)
【文献】特開2007-117146(JP,A)
【文献】特表2017-533810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/00-12/14
A47L 7/04
9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋内の環境殺菌を行う環境殺菌装置であって、
前記環境殺菌装置の移動経路を制御する経路制御部と、
前記経路制御部が決定した経路に沿って、前記環境殺菌装置を移動させる駆動部と、
超音波振動子によって空気中の水を含む分子にエネルギを与え熱分解することによりラジカルを生成させる超音波発生部と、気中プラズマ放電によりラジカルを発生させるプラズマ発生部とを有し、高反応性のラジカルを生成し、所定の条件で前記屋内に放出する殺菌処理部と、を備え、
前記殺菌処理部は、前記環境殺菌装置が前記経路に沿って移動しているときに前記ラジカルを放出する、
環境殺菌装置。
【請求項2】
前記殺菌処理部は、床面に向けて前記ラジカルを放出可能な第1の放出口を含む、請求項1に記載の環境殺菌装置。
【請求項3】
前記殺菌処理部は、周囲空間に向けて前記ラジカルを放出可能な、前記床面から所定の高さに配置された第2の放出口を含む、請求項1または2に記載の環境殺菌装置。
【請求項4】
前記屋内に存在する微生物を検出する微生物検出部をさらに備え、
前記駆動部は、前記微生物検出部が前記微生物を検出したときに前記環境殺菌装置を所定時間の間停止させ、
前記殺菌処理部は、前記環境殺菌装置の停止中に前記ラジカルを放出する、請求項1から3のいずれかに記載の環境殺菌装置。
【請求項5】
前記微生物検出部は、光学的手段により前記微生物を検出する、請求項4に記載の環境殺菌装置。
【請求項6】
前記経路制御部は、経路上において前記微生物検出部が微生物を検出した地点を記録しており、前回微生物が検出された経路上の地点すべてを次回の経路に含めるとともに、当該地点それぞれにおいて停止するように前記駆動部を制御する、請求項4又は5に記載の環境殺菌装置。
【請求項7】
周囲の空間に向けて紫外線を照射する紫外線照射部をさらに備えている、請求項1から
6のいずれかに記載の環境殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境殺菌装置に関する。具体的には、学習機能を備えて自律的に移動することができる環境殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
学校や職場、商業施設、駅、空港等といった不特定多数の人が通過ないし滞在する共用施設内の環境殺菌は、例えば薬剤を用いて環境表面を拭き取る清拭法によって行われる。その際に一般的に用いられる殺菌用薬剤としては、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩(Alkylpolyaminoethylglycine hydrochloride)等の両性界面活性剤や、ベンザルコニウム塩化物(Benzalkonium chloride)等の第四級アンモニウム塩系カチオン界面活性剤、ヒドロキシルラジカル(Hydroxyl radical)等が挙げられる。
【0003】
また、清掃殺菌対象領域が広範な場合や作業従事者が十分に確保できない場合等に採用される殺菌方法に、殺菌液を霧化して噴霧する噴霧法がある。噴霧法のうち、ヒドロキシルラジカルを用いる方法も知られており、その一例として、特許文献1には、オゾン発生器(1)と、発生したオゾンを吹出し口(12)から吹出すオゾン吹出し機構と、過酸化水素水を霧化する装置(2)と、霧化された過酸化水素水を吹出し口(32)から吹出す過酸化水素水吹出し機構とを備えてなり、オゾンを発生させるとともに、過酸化水素水を霧滴状態で発生させ、両者を、接触させた後、対象物に接触させる脱臭・消臭・殺菌装置に係る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した清拭法による殺菌作業では、空中に浮遊している細菌等を減少させることはできないという問題がある。また、特許文献1に記載の脱臭・消臭・殺菌装置は据え置き型であり、ヒドロキシルラジカルの反応性が非常に高いために吹出し口の近傍にしか高濃度のヒドロキシルラジカルが噴霧されず、広い空間の全体にわたって殺菌を行う場合に対応することが難しい。また、過酸化水素水、オゾンともに生物に対して毒性を有するため、殺菌効果を高めるために濃度を高め、噴霧量を増やすことにはおのずと限界がある。
【0006】
そこで、本発明は、屋内の環境殺菌をより広範囲且つ確実に行うことができる環境殺菌装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、屋内の環境殺菌を行う環境殺菌装置であって、前記環境殺菌装置の移動経路を制御する経路制御部と、前記経路制御部が決定した経路に沿って、前記環境殺菌装置を移動させる駆動部と、高反応性のラジカルを生成し、所定の条件で前記屋内に放出する殺菌処理部とを備え、前記殺菌処理部は、前記環境殺菌装置が前記経路に沿って移動しているときに前記ラジカルを放出する環境殺菌装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、屋内の環境殺菌をより広範囲且つ確実に行うことができる環境殺菌装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】本実施形態に係る環境殺菌装置の一例についてその外観を表す斜視図である。
【
図1B】本実施形態に係る環境殺菌装置の外観を表す下面図である。
【
図3】本実施形態に係る環境殺菌装置のハードウェア構成図である。
【
図4】微生物検出センサ501の構成例を示す模式図である。
【
図5】ラジカル生成・放出部601の構成例を示す模式図である。
【
図6】本実施形態に係る環境殺菌装置の機能ブロック図である。
【
図7】環境殺菌装置が環境殺菌を実施しているときの処理過程を示すフローチャートである。
【
図8】他の実施形態に係る環境殺菌装置の一例についてその外観を表す斜視図である。
【
図9】他の実施形態に係る環境殺菌装置のハードウェア構成図である。
【
図10】他の実施形態に係る環境殺菌装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略することがある。
【0011】
<環境殺菌装置について>
図1は、本実施形態に係る環境殺菌装置1の外観を表す図である。
図1Aは斜視図であり、
図1Bは下面図である。
【0012】
図1A、
図1Bに例示するように、本実施形態における環境殺菌装置1は、上部に円錐状部を備えた円筒形の本体を有し、その円錐状部の頂部には、外部監視カメラ・センサ90が設けられている。円錐状部の側面には、環境殺菌装置1内で生成されるヒドロキシルラジカル(OHラジカル)、一重項酸素(
1O
2)等の活性酸素種(Reactive Oxygen Species,ROS)等の高反応性ラジカル(以下、本明細書中で「ラジカル」という。)を放出するための上部放出口12と、各種情報を表示するディスプレイ16が設置されている。なお、環境殺菌装置1の外形は上記に制約されることなく用途、目的、使用場所等の要請に応じて適宜変更することができる。なお、「ラジカル」には、上記に例示した以外の高反応性成分が含有され得ることを排除するものではない。
【0013】
円筒状の胴部の下部には、ラジカルを主に床面に向けて放出するための下部放出口11と、複数の駆動用車輪13が設けられている。胴部底面には、床面を清掃するためのブラシ等の清掃ユニット17が設けられている。駆動用車輪13に代えて、無限軌道、多肢歩行等の他の方式の移動手段を採用することができる。
【0014】
円筒状胴部側面の適宜の位置には、吸気口14が設けられている。図示を省略するが、吸気口14内には吸気に含まれる塵埃、異物等を捕捉するためのフィルタが設けられる。吸気口14から吸入された空気は後述する殺菌機構60を経て前記放出口11,12から排出される。
【0015】
この環境殺菌装置1は、外部監視カメラ・センサ90によって周囲の状況に関する情報を取得しながら、駆動用車輪13によって、所定経路に沿って移動することができる。移動中は、回転ブラシを備えた清掃ユニット17により床面を清掃し、また上部放出口12,下部放出口11からラジカルを放出して周囲空間、周囲壁面、床面を含む周囲環境の殺菌処理を実行する。
【0016】
図2には、複数の環境殺菌装置1を含む環境殺菌システムSSの構成例を示す。複数の環境殺菌装置1(1a,1b,1c)は、互いに通信を行うとともに、管理サーバ2ともそれぞれ通信を行う。
【0017】
管理サーバ2は通信機能を備えた一般的なコンピュータであり、例えば各殺菌装置1の稼働スケジュール情報、稼働履歴情報、稼働領域マップ情報、微生物データベース等の、環境殺菌装置1が利用するデータを格納する記憶領域を備えている。稼働スケジュール情報は、各環境殺菌装置1の稼働開始・終了時刻、稼働場所等のデータである。稼働履歴情報は、各環境殺菌装置1の過去の稼働時間、稼働場所等の履歴を示すデータである。稼働領域マップ情報は、各環境殺菌装置1が稼働する領域(空港ロビー、病院待合室等)について作成されたマップデータである。微生物データベースは、後述する微生物検出部144から受信する微生物画像についてその微生物を特定するために利用されるデータベースである。微生物画像は、動画データでも静止画データでもよい。
【0018】
各環境殺菌装置1から送信される通信内容には、例えば自身の位置情報、殺菌対象とすべき微生物検出の有無、バッテリ状態、清掃ユニット17による塵埃収集状況などが含まれる。管理サーバ2から送信される通信内容としては、例えば各環境殺菌装置1の稼働スケジュール情報、稼働領域マップ情報等がある。これらの通信により授受される情報は、システムSSの仕様に応じて定めればよい。
【0019】
環境殺菌システムSSは、管理サーバ2の管理下で、複数の環境殺菌装置1により、所定の区域の巡回清掃、殺菌作業を計画し、実施することができる。なお、各環境殺菌装置1は、管理サーバ2との情報交換を行うことなく、自律的に動作することも可能である。
【0020】
次に、環境殺菌装置1の構成について説明する。
【0021】
<環境殺菌装置1の構成例>
図3に環境殺菌装置1のハードウェア構成例を示している。ハードウェアとしての環境殺菌装置1は、
図3に例示するように、CPU等の演算デバイスであるプロセッサ10、ROM,RAM,フラッシュメモリ、半導体メモリ(SSD)等の記憶デバイスで構成される記憶装置20、駆動機構30、通信機40、微生物検出センサ501を含む内部センサ50、ラジカル生成・放出部601を含む殺菌機構60、清掃機構70、バッテリ80、外部監視カメラ・センサ90、及びI/Oデバイス95を備えている。
【0022】
プロセッサ10は、記憶装置20に格納されている制御プログラム及び制御用データを読み出して同プログラムを実行することにより、実装されている環境殺菌装置1の機能を実現する。制御プログラムによるデータ処理に関しては後述する。
【0023】
駆動機構30は、駆動用車輪13の駆動源としてのモータと、各駆動用車輪13のステアリング機構と、モータ、ステアリング機構を駆動するためにバッテリ80からの電力制御を行うインバータ回路等の電力制御回路を含む。モータとステアリング機構は、プロセッサ10からの制御指令によって前記電力制御回路等により制御される。なお前記のように、駆動機構30は、無限軌道、多肢歩行機構等の他の方式としてもよい。ステアリング機構は、駆動用車輪の13の向きを変えられるように構成された回転支軸、リンク機構等により実現される。駆動源は電気モータ以外の動力源を採用してもよい。
【0024】
通信機40は、Wifiネットワークとの通信インタフェースとなるネットワークインタフェースカード、4G,5Gネットワーク等の高速通信回線と通信するための通信モジュール等で構成される。
【0025】
内部センサ50は、微生物検出センサ501を備えている。
図4に本実施形態における微生物検出センサ501の構成例を示している。微生物検出センサ501は、デジタルマイクロスコープ510、試料捕捉テープ520を備える。デジタルマイクロスコープ510は通常のマイクロスコープの接眼レンズに代えてデジタルカメラを設けてなるデバイスである。病原性大腸菌等の細菌を検出する用途では、1000~2000倍程度の倍率とすれば好適であり、種々の市販製品から選択することもできる。ウイルスの検出が必要であればより高倍率のマイクロスコープを使用する。
【0026】
試料捕捉テープ520は、吸気口14から微生物検出センサ501に取り入れた空気中の細菌等を捕捉するための長尺テープ状の部材であり、例えばセロハンテープ等が好適に用いられる。試料捕捉テープ520は一対のリール530の間で、図示を省略する巻き取り機構により、一方のリールから他方のリールへと巻き取っていくことができる。試料捕捉テープ520は、容易に交換することができるように、所定のカートリッジに収容しておくようにするとよい。
【0027】
微生物検出センサ501では、前記のように周囲環境から環境殺菌装置1内に吸入された空気を試料捕捉テープ520に接触させて細菌等をその表面に付着させ、それをデジタルマイクロスコープ510により撮像して画像解析処理する方式を採用することができる。ただし、その方式に限定されるものではない。デジタルマイクロスコープ510により取得されたデジタル画像データは、通信機40を介して管理サーバ2へ送信することができる。なお、微生物の動画像を取得して当該動画像を解析することによって微生物を特定する手法は、例えば特許6329680号等に開示されている。
【0028】
殺菌機構60は、ラジカル生成・放出部601を備える。
図5に本実施形態のラジカル生成・放出部601の構成例を示している。ラジカル生成・放出部601は、超音波発生部610、プラズマ発生部620、吸気ファン630、排気ファン640を備えており、これらは密閉性のあるチェンバーに収容されている。
【0029】
超音波発生部610は、空気中に存在する水蒸気等に超音波振動子によりエネルギを与えることにより、キャビテーションによる高温高圧状態を生じさせ、熱分解によりラジカルを生成させるデバイスである。超音波振動子としては圧電セラミック素子等を利用することができ、駆動電圧、駆動周波数は適宜に設定すればよい。
【0030】
プラズマ発生部620は、互いに対向するように設けられたアノード電極とカソード電極との間で気中プラズマ放電を発生させ、これによりラジカルを生成させるデバイスである。プラズマ放電部分は種々の構成を採用することができるが、その一例は、米国特許第10111977号明細書に記載されている。また、マルチガスの低温プラズマを水中に直接導入して種々の活性種を生成する技術も知られている。
【0031】
吸気ファン630は、吸気口14から外気を吸引してチェンバー内に取り入れる。取り入れられた外気に含まれる細菌等は、一部が微生物検出センサ501に送られ、その後チャンバー内で殺菌される。
【0032】
超音波発生部610、プラズマ発生部620にて生成されたラジカルは、排気ファン640により放出口11,12から周囲空間に放出される。ラジカルはその活性により非常に寿命が短いが、本実施形態では超音波発生部610からの超音波による伝搬効果により、放出口11,12から数メートルの範囲まで到達して殺菌効果を発揮する。
【0033】
清掃機構70は、種々の形態の回転ブラシ、その駆動用モータ等を備え、床面に存在する塵埃を集めて本体内に回収する。
【0034】
バッテリ80は環境殺菌装置1の動作各部に必要な電力を供給する電力源であり、リチウム二次電池等の各種二次電池が好適に用いられる。
【0035】
外部監視カメラ・センサ90は、撮像素子としてCCDを備えた動画像取得用ビデオカメラ、自律走行制御に用いる位置計測用センサ(例えばレーザ距離測定器等のデバイスを含む。環境殺菌装置1は、ビデオカメラによって周囲の状況を動画像として取得し、種々の画像解析技術を用いて人や他の物体の接近を検知することができる。検知結果はプロセッサ10が実行する制御プログラムに取り込まれて環境殺菌装置1の制御に反映される。また環境殺菌装置1は、位置計測用センサによる計測結果と取得済みの稼働領域のマップデータとから自身の位置を算出し、移動経路を決定することができる。
【0036】
I/Oデバイス95はタッチパネルを備えたディスプレイ16(
図1A)である。I/Oデバイス95は、プロセッサ10に対するデータ入力部、及びプロセッサ10からの出力データ表示部として機能する。
【0037】
以上のハードウェア要素は、電源・内部通信線91,92によって接続されている。
【0038】
次に、環境殺菌装置1の機能ブロック構成について説明する。
【0039】
環境殺菌装置1の機能
図6に環境殺菌装置1の機能ブロック構成例を示している。
図6に例示するように、環境殺菌装置1はデータ処理部104を有する。データ処理部104はプロセッサ10によって実行されるコンピュータプログラムとして実装されており、記憶装置20に格納されている。データ処理部104は、経路制御部145を有する駆動機構制御部141、ラジカル生成・放出制御部142、清掃機構制御部143、微生物検出部144の各機能モジュールを有する。
【0040】
駆動機構制御部141は、後述するデータ処理に基づいて決定された環境殺菌装置1の移動の際にとるべき経路に関するデータを経路制御部145から受領して、その経路データに沿って環境殺菌装置1が移動していくように駆動機構30のモータ、ステアリング機構を制御する。
【0041】
ラジカル生成・放出制御部142は、ラジカル生成・放出部601によるラジカルの生成量を制御する機能を有する。具体的には、ラジカルの生成方式によって、例えば超音波発生部610の出力、周波数、プラズマ発生部620での気中プラズマ放電の電圧、発生頻度等の調整等を行う。
【0042】
清掃機構制御部143は、清掃ユニット17に備えられているブラシの回転数、ブラシに可動機構がある場合のブラシの本体外方への突出量等を制御する。この制御は、経路制御部145から受領する経路データ、塵埃の吸い込み抵抗、回収した塵埃の量等に応じて実行される。
【0043】
微生物検出部144は、微生物検出センサ501によって取得された微生物画像に基づいて、画像解析により微生物の検出、同定を実行する。
【0044】
データ格納部106には、データ処理部104によるデータ処理に利用される各種データが格納されている。データ格納部106は、マップデータ格納部161、経路データ格納部162、稼働履歴データ格納部163、微生物検出データ格納部164、ラジカル生成・放出制御データ格納部165、清掃機構制御データ166を備える。
【0045】
マップデータ格納部161は、環境殺菌装置1が使用される区域、例えば空港のターミナルフロア等についてあらかじめ環境殺菌装置1が移動しうる範囲について二次元マップデータの形態で記録している。
【0046】
経路データ格納部162は、経路制御部145が生成した環境殺菌装置1が移動すべき経路に関するデータを格納している。経路データは、マップデータ格納部161に格納されている複数の対象領域に関するマップデータに基づいて動作開始時に生成してもよいし、あらかじめ複数の経路パターンとして記憶させておくこともできる。なお、マップデータから経路データを生成することなく、例えば稼働区域の床面等に環境殺菌装置1を誘導するための、QRコード(登録商標)、反射材等の標識を設置しておくこともできる。
【0047】
稼働履歴データ格納部163は、環境殺菌装置1が過去に実行した個々のタスクについて、実行日時、利用した経路データ、微生物検出記録、ラジカル生成履歴等の動作履歴データとして格納している。
【0048】
微生物検出データ格納部164は、微生物検出部144による検出記録を、日時、場所(マップデータ上の位置)、微生物の種類等について記録している。
【0049】
ラジカル生成・放出制御データ格納部165は、過去のタスクにおいて生成したラジカルの量を経時的に記録している。
【0050】
清掃機構制御データ166は、過去のタスクにおける清掃機構70の稼働状態等を記録する。
【0051】
なお、環境殺菌装置1の制御に利用するデータは上記に限られるものではなく、装置・システムの要求仕様等に応じて適宜追加、変更してよい。
【0052】
通信部102は、
図3の通信機3に実装されてその通信機能を実現するためのプログラム等で構成される。
【0053】
次に、上記データ処理部104により実行されるデータ処理について説明する。
【0054】
<データ処理部104によるデータ処理>
図7にデータ処理部104が実行するデータ処理フローを例示している。
【0055】
データ処理部104は、電源投入、管理サーバ2あるいはI/Oデバイス95からの起動命令を受けて処理を開始すると、経路制御部145がマップデータ格納部161から読み込んだマップデータに基づいて移動すべき経路に関するデータを生成する(S501)。マップデータは、環境殺菌装置1を稼働させながら、外部監視カメラ・センサ90の位置測定用センサにより「自己位置推定・環境地図作成同時実行」(Simultaneous Localization And Mapping,SLAM)プロセスを通じて作成させてもよい。
【0056】
次いでデータ処理部104は、微生物検出データ格納部164にアクセスして、微生物検出記録があるかを判定する(S502)。微生物検出記録があると判定した場合(S502,YES)、データ処理部104は、記録されている検出地点が移動すべき経路に含まれるように経路データに必要に応じて検出地点を組み込む(S503)。次いでデータ処理部104は、生成した経路データを駆動機構制御部141に送信する(S504)。S502で微生物検出記録がないと判定した場合(S502,NO)、データ処理部104はそのままS504の処理を実行する。
【0057】
次いでデータ処理部104は、駆動機構制御部141によって、決定された経路に沿って環境殺菌装置1が移動するように駆動機構30を制御する。またデータ処理部104は、環境殺菌装置1の移動中、ラジカル生成・放出制御部142により、ラジカル生成・放出部601にラジカルを生成させて上部放出口12、下部放出口11から放出させる(S505)。これにより、環境殺菌装置1の移動経路に沿った周囲空間、壁面、床面等の周囲環境を殺菌することができる。また移動中は清掃機構70も動作するので、床面の清掃も同時に行うことができる。なお、殺菌には、ウイルスの不活化も含まれる。
【0058】
次いで、データ処理部104は、微生物検出部144により微生物が検出されたかを判定し(S506)、微生物が検出されたと判定した場合(S506,YES)、その地点において環境殺菌装置1を停止させ、ラジカルを所定時間放出する(S507)。所定時間経過後、データ処理部104は環境殺菌装置1の移動を再開させる。S506において微生物が検出されない場合(S506,NO)、データ処理部104は駆動機構制御部141を通じて引き続き環境殺菌装置1を経路に沿って移動させるとともにラジカルを生成、放出させる。
【0059】
ここでは、微生物の検出は、微生物検出部144が管理サーバ2に格納されている微生物データベースにアクセスすることにより、微生物検出センサ501が取得した動画像を微生物データベースの画像データと対照することにより実現しているが、対照すべき微生物画像データをあらかじめデータ格納部106に格納しておいてもよい。この場合、微生物検出の際に管理サーバ2と通信する必要がなく、検出速度が向上する。
【0060】
データ処理部104は、S508において、環境殺菌装置1が経路の終点に到達したかを判定する(S508)。経路の終点に到達したと判定した場合(S508,YES)、データ処理部104は、本処理フローを終了する。経路の終点に到達していないと判定した場合(S508,NO)、データ処理部104は、S505の処理を実行することによって環境殺菌装置1の移動とラジカルの放出を継続する。
【0061】
以上の環境殺菌装置1の動作により、病院の通路、フロア、空港、駅のターミナルフロア等の公共空間について、健康に有害な微生物等を減少させ、衛生状態を良好に保つことができる。また環境殺菌装置1は所定の経路に沿って移動しながらラジカルを放出するので、据え置き型の殺菌装置と異なり、対象空間全体にわたって効率的に殺菌を行うことができる。
【0062】
<実施形態の変形例>
前記した本発明の実施形態には様々な変更を加えることができる。ここでは本実施形態に係る環境殺菌装置1の一変形例を説明する。
図8は本変形例に係る環境殺菌装置1の外観を示す図、
図9はそのハードウェア構成例を示す図、
図10はその機能ブロックの構成例を示す図である。
図8,
図9,
図10は、前記実施形態を例示する
図1,
図3,
図6にそれぞれ対応する。
図8に示すように、本変形例の環境殺菌装置21は、円錐状部の頂部から上方へ延伸する柱状構造を備える。柱状構造の先端には、紫外線照射装置18が設けられている。環境殺菌装置21が動作している間、紫外線照射装置18から周囲空間に紫外線が照射されることにより、空間に浮遊する微生物、壁面に付着している微生物等を殺菌することができる。なお、紫外線照射装置18は、直接人に向けて紫外線が照射されないように、床面から2000~2300mm程度の高さに設けることが好ましい。
【0063】
図9の環境殺菌装置21のハードウェア構成例では、殺菌機構60に紫外線(UV)照射機構602が設けられている。UV照射機構602としては、既存のUVランプを用いることができる。またUV照射機構602には、UVランプの回転機構を設け、環境殺菌装置21の動作中、周囲空間に向けてむらなく紫外線を照射可能とすることが望ましい。UVランプの出力、波長は、殺菌効果と周囲環境に対する影響とを考量して定めればよい。
【0064】
UV照射機構602は、
図10に示すUV照射機構制御部146によって制御される。UV照射機構制御部146は、例えば外部監視カメラ・センサ90の撮像により装置21の周囲に動体を検知した場合、UVランプの出力を低下させ、あるいは停止する等の安全制御を実行することができる。
【0065】
この変形例に係る環境殺菌装置21は、先の実施形態の環境殺菌装置1と同様に、
図7に例示するデータ処理フローによって制御される。例えば
図7のS505に、UV照射機構制御部146によるUV照射機構602のUV照射を追加することができる。
【0066】
以上の変形例に係る環境殺菌装置21によれば、前記実施形態の環境殺菌装置1が奏する効果に加えてUVランプによる殺菌効果をも得ることができる。
【0067】
なお、本実施形態の環境殺菌装置1,21には、さらに超音波発生装置を設けてもよい。ねずみ、ハエ、蚊などの害獣、害虫が忌避する周波数の超音波を発生することにより、これらの害獣、害虫を公共空間から排除することが可能となる。
【0068】
また、本実施形態の環境殺菌装置1,21には、温度センサ、湿度センサを設け、移動経路の周囲環境を管理サーバ2に通知するようにしてもよい。さらにまた、本実施形態の環境殺菌装置1,21に熱感知器を設け、火災等の異変を検出可能としてもよい。同様の機能は、外部監視カメラ・センサ90にサーモグラフィ機能を設けることでも実現可能である。その場合、動画像で検出した顔画像について体温を測定し、該当人が発熱しているかどうかの情報を取得することも可能である。
【0069】
以上、本発明についてその実施形態に即して図面を参照して説明したが、本発明の技術的範囲はそれらの実施形態によって限定されると解釈してはならない。むしろ本発明は特許請求の範囲に記載された発明に加えその変形例等をも含むものである。
【符号の説明】
【0070】
1,21 環境殺菌装置
2 管理サーバ
10 プロセッサ10
20 記憶装置
30 駆動機構
40 通信機
50 内部センサ50
60 殺菌機構
70 清掃機構
80 バッテリ
90 外部監視カメラ・センサ
95 I/Oデバイス
104 データ処理部
106 データ格納部
501 微生物検出センサ
601 ラジカル生成・放出部