(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】線虫抵抗性
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220928BHJP
C12N 15/10 20060101ALI20220928BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220928BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20220928BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20220928BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220928BHJP
A01H 5/04 20180101ALI20220928BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C12N15/10 200Z
C12N5/10
C07K14/415
A01H5/10
A01H5/00 A
A01H5/04
A01H1/00 A
(21)【出願番号】P 2018562363
(86)(22)【出願日】2017-06-16
(86)【国際出願番号】 NL2017050400
(87)【国際公開番号】W WO2017217852
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-11
(32)【優先日】2016-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100200540
【氏名又は名称】安藤 祐子
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ディレオ, マシュー ヴィータビル
(72)【発明者】
【氏名】ムンクボルド, ジェシー デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】デ フォス, マルティン
(72)【発明者】
【氏名】トムクザック, アンナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】ゴリッチュニヒ, サンドラ
【審査官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】BMC Genomics, 2013, Vol.14, 227(pp.1-16)
【文献】Science, 2003, Vol.301, pp.653-657 Supplementary Material
【文献】PLOS ONE, 2014, Vol.9, No.7, e102360
【文献】Putative WRKY transcription factor 32-like,UniProt,2016年03月16日,[検索日2021.05.19], インターネット <URL: https://www.uniprot.org/uniprot/A0A0V0I9Y1>
【文献】Grunewald W. et al.,A Role for AtWRKY23 in Feeding Site Establishment of Plant-Parasitic Nematodes,Plant Physiol.,2008年,Vol. 148, No.1,p.358-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/29
C12N 15/10
C12N 5/10
C07K 14/415
A01H 5/10
A01H 5/04
A01H 5/00
A01H 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、前記植物において、
i)WRKY32ポリペプチドの発現及び/又は活性、並びに
ii)前記WRKY32ポリペプチドをコードするWRKY32ポリヌクレオチドの発現
の少なくとも一方を低減するステップを含み、
前記発現及び/又は活性は、
WRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドの改変、並びに
RNA干渉(RNAi)又はウイルス誘導性遺伝子発現抑制(VIGS)を用いたWRKY32遺伝子発現抑制
の少なくとも一方によって低減され、
前記WRKY32ポリペプチドは、2つのWRKYドメインを含み、少なくとも1つのW-boxポリヌクレオチドコンセンサス配列に結合しうる、WRKY32ファミリーに属する転写因子タンパク質であり、
前記生産された植物が、シロイヌナズナ植物でない、方法。
【請求項2】
前記WRKY32ポリペプチドが内因性ポリペプチドである、及び/又は前記WRKY32ポリヌクレオチドが内因性ポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記WRKY32ポリペプチドが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、及び15のいずれか1つのアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドである、及び/又は前記WRKY32ポリヌクレオチドが、配列番号9、10、11、13、及び14のいずれか1つのヌクレオチド配列と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物を再生させるステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの発現が、少なくとも、前記植物の根において低減される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
i)WRKY32ポリペプチドの発現及び/又は活性、並びにii)WRKY32ポリヌクレオチドの発現の少なくとも一方が、WRKY32ポリヌクレオチドを改変することにより低減され、前記改変は、前記ポリヌクレオチドにおける少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失、又は置換を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
WRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性、並びに/又はWRKY32ポリヌクレオチドの発現が、WRKY32遺伝子ノックアウトを使用して低減される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のWRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性、並びに/又は請求項1~3のいずれか一項に記載のWRKY32ポリヌクレオチドの発現が低減されている、植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞であって、
前記発現及び/又は活性は、
WRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドの改変、並びに
RNAi又はVIGSを用いたWRKY32遺伝子発現抑制
の少なくとも一方によって低減され、
シロイヌナズナ植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞でない、植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞。
【請求項9】
改変されたWRKY32ポリヌクレオチドを含む、請求項
8に記載の植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞。
【請求項10】
前記改変は、前記ポリヌクレオチドにおける少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失、又は置換を含む、請求項8
又は9に記載の、植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞。
【請求項11】
WRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性、並びに/又はWRKY32ポリヌクレオチドの発現が、WRKY32遺伝子ノックアウトによって低減されている、請求項
8に記載の植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか一項に記載の植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞の子孫である、植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞であって、前記子孫は、請求項1~3のいずれか一項に記載のWRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性、並びに/又は請求項1~3のいずれか一項に記載のWRKY32ポリヌクレオチドの発現が低減されて
おり、
前記発現及び/又は活性は、
WRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドの改変、並びに
RNAi又はVIGSを用いたWRKY32遺伝子発現抑制
の少なくとも一方によって低減される、植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法によって取得された植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農学の分野、特に、作物保護の分野、より詳細には、植物に線虫抵抗性を付与する分野にある。
【背景技術】
【0002】
植物寄生性線虫は、世界中の多数の農作物に感染している(Baumら、2007、Genetic Engineering、第28巻、J.K.Setlow編、17頁;Jonesら、2013、Molecular Plant Pathology、第14巻(9)、946頁)。ネコブ線虫(ネコブセンチュウ属(Meloidogyne)の種)及びシスト線虫(ヘテロデラ属(Heterodera)及びグロボデラ属(Globodera)の種)は、毎年非常に大きな損失を引き起こす、経済に最も関係のある植物寄生性線虫である(Rahmanら、2013、Journal of Environmental Science and Health Part B、第48巻、16頁;Hewezi及びBaum、2013、MPMI、第26巻(1)、9頁)。ネコブ線虫は、根に侵入し、移行した後、宿主細胞を特殊化された給餌構造(こぶに埋め込まれた巨大細胞)に変化させ、それから餌を得、生活環全体を通して発育する。こうした巨大細胞によって、植物から栄養素が奪われる(Grunder及びHofmann、2011、Genomics and Molecular Genetics of Plant-Nematode Interactions、J.Jones編、423頁)。根の機能障害は、作物生産において線虫が引き起こす主要な問題であり、根付き体積の減少並びに水及び栄養素利用の非効率化につながる。
【0003】
作物生産においては、作物保護、殺線虫剤の多用、及び遺伝的作物抵抗性を始めとするいくつかの手法を使用して、線虫感染との苦闘がなされている。殺線虫剤の使用は、i.ヒトの健康、ii.食用作物中の残留化学物質による食品安全性、並びにiii.標的でない生物への影響及び生態系へのマイナスの影響への懸念により、世界中で劇的に減少している(Haydockら、2013、Plant Nematology、R.Perry及びM.Moens編、第2版、459頁)。したがって、作物を線虫による損害から守る別の解決策の必要性が高まっている。多くの作物において、線虫に対する抵抗性は、野生登録種(wild accessions)において見出され、そのような抵抗性は、交雑及び選抜によって、選り抜きの材料に組み込むことができる。それにもかかわらず、トマトを始めとする大部分の作物において、線虫に対する遺伝的抵抗性の基盤は小規模でしかない。このような遺伝的宿主抵抗性が汎用されると、線虫集団に選択圧が働く結果として、抵抗性を破る分離株が生じる(Davies及びElling、2015、Nematology、第17巻、249頁)。
【0004】
トマトでは、S.ペルビアヌム(S.peruvianum)由来のMi1.2と呼ばれる抵抗性遺伝子を使用してネコブ線虫に長らく対処してきたが、近年、サツマイモネコブセンチュウ(M.incognita)を始めとするいくつかのネコブセンチュウ属の種は、トマトにおいてMi1.2がもたらす抵抗性の影響を受けないことが確認されている。したがって、植物病原性線虫に対する耐久性のある抵抗性を確保するために、いくつかの作物種における新たな遺伝学的解決策が差し迫って求められている。
【0005】
ネコブ線虫は、絶対生体栄養性寄生生物として、生活環を全うするのに、栄養素供給源としての給餌構造の細胞に依拠する(Kyndtら、2012、New Phytologist、第196巻、887頁)。したがって、ネコブ線虫は、細胞内に(細胞の中に)移行するシスト線虫とは対照的に、細胞間に(細胞の間に)移行するため、根細胞に壊死をほとんど又はまったく引き起こさない。ネコブ線虫において、摂食細胞の生成は、単独の2期幼若(J2)線虫によって誘発され、この2期幼若(J2)線虫は、細胞核の分裂及び細胞の増殖を刺激することによって、前維管束細胞のプログラムを作り直して巨大細胞とする能力を有する(Jones及びGoto、2011、Genomics and Molecular Genetics of Plant-Nematode Interactions、J.Jones編、83頁)。線虫は、通常は4個~6個の巨大細胞の生成を誘発することにより、その宿主給餌構造になる細胞を明確に選択する。巨大細胞生成の最初の徴候の1つは、細胞分裂の刺激、及び2つの娘核の間に細胞板を形成しそこなう結果として生じる二核細胞の出現である。給餌構造が形成された後、線虫は、定着性になり、こぶ(細胞過形成によって形成された、容積の大きい根構造)に取り囲まれる。このこぶは、感染から24時間後に目で見えるようになる。給餌構造の生成を誘発するには、細胞のプログラムを作り直すことが必要である。これは、宿主における遺伝子発現状態の変更が線虫によって誘発される結果として起こる(Bellafiore及びBiggs、2010、Current Opinion in Plant Biology、第13巻、442頁)。線虫の定着を促進又は加速し、その発育を支持する、一部の宿主遺伝子産物が、宿主罹病性因子として働く。
【0006】
感染すると、宿主におけるトランスクリプトーム変化の結果として、最終的に、侵入線虫の侵入、定着、発育は、成功裏に終わる。親和性相互作用の間、遺伝子発現のこうした変化は、線虫が定着し生殖するのに適する環境として宿主を整えるための鍵である(Gheysen及びMitchum、2011、Current Opinion in Plant Biology、第14巻、415~421頁)。しかし、遺伝子発現の何という遺伝子(複数可)又は修飾(複数可)がどのように植物における侵入線虫(たとえば、ネコブ及び/又はシスト線虫)の侵入、定着、及び発育の成功につながるのかは捉えがたいままである。また、植物において遺伝子発現の何という遺伝子(複数可)又は修飾(複数可)をどのように標的とし、又は変更し、又は逆転させると、前記植物における侵入線虫の侵入、定着、及び発育が成功裏に終わるのを妨げ、又は減らすことができるのかも不明である。
【0007】
したがって、当業界では、植物において操作又は変更すると、前記植物における侵入線虫(たとえば、ネコブ及び/又はシスト線虫)の侵入、定着、及び発育が成功裏に終わるのを妨げ、又は減らすことができる、新たな分子標的(複数可)(たとえば、遺伝子)及びその関連タンパク質(複数可)を発見することが依然として求められている。また、そうした分子標的(複数可)の使用に依拠して、植物に線虫抵抗性を付与し、それによって、線虫に対する植物の抵抗性の効率的な生成を可能にし、又は対照植物、たとえば、野生型植物に比べて向上した線虫抵抗性を手にする、代替又は改良された方法も求められている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、前記植物におけるWRKY32ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現及び/又は活性を低減させるステップを含む方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドの発現及び/又は活性を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法に関する。
【0010】
本発明はさらに、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法を提供する。
【0011】
一実施形態では、ポリヌクレオチドは、配列番号9、10、11、又は13のいずれかの核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有する。
【0012】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号7又は配列番号8のいずれか、好ましくは、配列番号8のアミノ酸配列を含む。
【0013】
ポリペプチドは、WRKY32ファミリーに属する転写因子タンパク質であることが好ましく、2つのWRKYドメインを含む場合もあり、1つ又は複数のポリヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのW-boxに結合しうる場合もある。ポリペプチドは、トマトWRKY32ポリペプチドとすることができ、Solyc07g005650ポリヌクレオチドによってコードされるものでもよい。
【0014】
一実施形態では、前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの発現は、少なくとも、前記植物の根において低減される。
【0015】
一実施形態では、植物の表現型は、線虫抵抗性の向上を除いては、対照植物に比べて変更されない。
【0016】
方法は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、又は15のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを改変するステップを含む場合もある。方法は、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを改変するステップを含むことが好ましい。前記ポリヌクレオチドの改変は、前記ポリヌクレオチドにおける少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失、又は置換を含む場合がある。改変は、たとえば、放射線又はメタンスルホン酸エチルによる処理を使用して導入することができる。
【0017】
一実施形態では、前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの発現及び/又は活性は、遺伝子発現抑制を使用して低減又は変更される。
【0018】
一実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、配列番号10又は11の核酸配列を含む。前記ポリヌクレオチドは、Solyc07g005650遺伝子の核酸配列を含む場合もある。
【0019】
適切な実施形態では、植物は、トマト植物、好ましくは、ソラヌム・リコペルシクム(Solanum lycopersicum)植物である。
【0020】
線虫は、ネコブ線虫及び/又はシスト線虫である場合があり、たとえば、ネコブセンチュウ属、ヘテロデラ属、又はグロボデラ属、好ましくは、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)、ジャワネコブセンチュウ(Meloidogyne javanica)、ジャガイモシストセンチュウ(Globodera rostochiensis)、テンサイシストセンチュウ(Heterodera schachtii)、及びダイズシストセンチュウ(Heterodera glycines)から選択される場合がある。
【0021】
本開示は、配列番号8と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が低減されている、トマト植物、種子、又は細胞も教示する。前記ポリヌクレオチドは、配列番号10又は11の核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む場合もある。前記ポリヌクレオチドは、たとえば、Solyc07g005650遺伝子の核酸配列を含む場合もある。
【0022】
一実施形態では、前記ポリヌクレオチドにおいて、少なくとも1つのヌクレオチドが挿入され、欠失し、又は置換されており、1つ又は複数の点突然変異が前記ポリヌクレオチドに導入されていることが好ましい。
【0023】
本開示はさらに、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現及び/又は活性が低減されている、トマト植物、種子、又は細胞を教示する。
【0024】
一実施形態では、ポリペプチドは、2つのWRKYドメインを含み、1つ又は複数のポリヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのW-boxに結合する、WRKY32ファミリーの転写因子タンパク質である。
【0025】
トマト植物、種子、又は細胞は、ソラヌム・リコペルシクム植物、種子、又は細胞であることが好ましい。
【0026】
一実施形態では、前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの発現及び/又は活性は、根において低減されるが、シュートでは低減されない。別の実施形態では、発現及び/又は活性が低減されても、植物、種子、又は細胞の表現型は、線虫抵抗性の向上を除いて、対照植物に比べて変更されない。一実施形態では、本明細書で教示するとおりのトマト植物、種子、又は細胞は、対照植物に比べて、線虫抵抗性の向上、好ましくは、ネコブ線虫及び/又はシスト線虫抵抗性の向上を示す。線虫は、ネコブセンチュウ属、ヘテロデラ属、又はグロボデラ属から、好ましくは、サツマイモネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウ、及びジャガイモシストセンチュウといった種から選択される場合がある。
【0027】
本明細書で教示するとおりのトマト植物の根茎(rootstock)も提供し、接木の成長及び発育を改善するためのそうした根茎の使用も提供する。
【0028】
本発明はさらに、植物細胞、植物部分、又は植物において線虫抵抗性を向上させるための、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用を提供する。ポリペプチドは、WRKY32ファミリーの転写因子タンパク質であることが好ましく、2つのWRKYドメインを含み、1つ又は複数のポリヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのW-boxに結合する場合もある。前記ポリヌクレオチドは、配列番号10又は11の核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む場合もある。前記ポリヌクレオチドは、Solyc07g005650遺伝子の核酸配列を含む場合もある。
【0029】
本発明はさらに、植物又は根茎において、線虫抵抗性を対照植物又は根茎に比べて向上させる方法であって、植物又は根茎を、前記植物又は根茎におけるWRKY32タンパク質の活性を阻害する1種又は複数の化合物で処理することを含む方法に関する。
【0030】
本開示はまた、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法、並びに、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のいずれかのアミノ酸配列対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドの発現及び/又は活性を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法を教示する。
【0031】
一実施形態では、植物又は根茎は、それ自体、又は本明細書で教示する方法のいずれかにおいて使用するとき、トランスジェニック植物又は根茎ではなく、方法又は使用は、トランスジェニック手段を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】Solyc07g005650遺伝子の発現が対照植物に比べて発現抑制された植物における、サツマイモネコブセンチュウ感染によってもたらされた、根における根瘤の数を示すグラフである。
【
図2】wrky32遺伝子が対照植物に比べて破壊されたシロイヌナズナ属植物における、サツマイモネコブセンチュウ感染によってもたらされた、根における根瘤の数を示すグラフである。
【
図3】wrky32遺伝子が対照植物に比べて破壊されたシロイヌナズナ属植物における、テンサイシストセンチュウ感染によってもたらされた、植物1株あたりの発育した雌虫の数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
以下の説明及び実施例では、いくつかの用語が使用される。そうした用語に与えられる範囲を含め、本明細書及び特許請求の範囲について明確で一貫した理解を得るために、以下の定義を提供する。本明細書において別段定義しない限り、使用するすべての科学技術用語は、本発明が属する分野の技術者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。すべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献の開示は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0034】
本発明の方法において使用される従来技術を実施する方法は、当業者に明白となる。分子生物学、生化学、計算機化学、細胞培養、組換えDNA、生命情報科学、ゲノミクス、配列決定、及び関連分野における従来技術の実施は、当業者によく知られており、たとえば、次の文献典拠において考察されている: Sambrookら、Molecular Cloning.A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、1989;Ausubeら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley&Sons、ニューヨーク、1987及び定期的更新;並びにMethods in Enzymologyシリーズ、Academic Press、サンディエゴ。
【0035】
本文書及びその請求項において、動詞「含む(comprise)」及びその活用は、その非限定的な意味で使用されて、この単語に続く細目を含むが、詳細に言及されない細目を除外しないことを意味する。この動詞は、動詞「から本質的になる」並びに「からなる」を包含する。
【0036】
本明細書で使用するとき、単数形「ある1つの(a)」、「ある1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈からそうでないと明らかに規定されない限り、複数の指示対象を包含する。たとえば、上で使用したような「ある1つの」DNA分子を単離する方法は、複数の分子(たとえば、何十個、何百個、何千個、何万個、何十万個、何百万個、又はより多数の分子)を単離することを含む。
【0037】
本明細書で使用する用語「WRKY」(「ワーキー(worky)」と発音される)とは、生物及び非生物ストレスに対する反応、免疫、植物防御、老化、種子休眠及び種子発芽、いくつかの発育過程その他を含む、植物における多くの過程の鍵調節因子である、植物転写因子スーパーファミリーを指す。WRKY転写因子ファミリーは、高等植物における転写因子の10大ファミリーに数えられ、緑色系統(緑藻類及び陸上植物)全般に見出される。WRKY転写因子ファミリーは、いくつかのメンバー(すなわち、種々のWRKY遺伝子及び関連タンパク質)を含む。たとえば、異なる100種ものWRKYメンバー(すなわち、WRKY遺伝子及びその対応するタンパク質)が、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)において確認されている(Eulgemら(2000)、Trends in Plant Science、第5巻、199~206頁)。
【0038】
WRKY転写因子は、「WRKYドメイン」(又はWRKYタンパク質ドメイン)と呼ばれる少なくとも1つのDNA結合ドメインの存在を特徴とする。WRKYドメインは、すべてのWRKYタンパク質に共通する最も顕著な特色であり、したがって、「WRKYファミリー」の名がある。WRKYドメインは、N末端にあるほとんど不変の(すなわち、ファミリーメンバー間で高度に保存された)WRKYアミノ酸配列を含むことを特徴とし、長さ約60残基である。加えて、WRKYドメインは、Cx4-5Cx22-23HxH(「C2H2」とも呼ばれる)又はCx7Cx23HxC(「C2HC」とも呼ばれる)のいずれかからなる、C末端にある非定型亜鉛フィンガー構造も含む。大部分のWRKY転写因子は、「W-boxプロモーターエレメント」と呼ばれる、遺伝子上のプロモーターエレメントに特異的に結合する能力を有する。W-boxは、特異的なDNA結合に必要となる最小限のコンセンサス配列である、コンセンサス配列TTGACC/Tを有する(Rushtonら(2010)、Trends in Plant Science.第15巻、247~258頁)。
【0039】
様々なWRKYファミリーメンバーは、そのアミノ酸配列、並びにWRKYドメインの数及びその亜鉛フィンガー様モチーフの特色に基づいて分類される。これらの判断基準に基づき、WRKY転写因子は、3つの主要なカテゴリー、すなわち、グループI、グループII、及びグループIIIに分類されている。グループI WRKYタンパク質(たとえば、WRKT32)は、2つのWRKYタンパク質ドメインの存在を特徴とするのに対し、グループII及びIIIはどちらも、それぞれ1つしかWRKYタンパク質ドメインをもたない。グループI及びIIは、C2H2亜鉛フィンガーを有するが、グループIII WRKYタンパク質は、グループI及びII因子のC2H2モチーフの代わりにC2HC亜鉛フィンガーを有する。3つのグループはすべて、様々な遺伝子上の様々なW-boxエレメントに特異的に結合することが示されている(Eulgemら(2000)、Trends in Plant Science、第5巻、199~206頁)。
【0040】
本明細書で使用する用語「WRKYタンパク質又はポリペプチド」又は「WRKY転写因子タンパク質又はポリペプチド」とは、WRKY転写因子遺伝子又はポリヌクレオチドによってコードされ、また遺伝子又はポリヌクレオチド上に存在するW-boxに特異的に結合することのできる少なくとも1つのWRKYドメインを含むタンパク質を指す。
【0041】
本明細書で使用する用語「コンセンサス配列」とは、配列アラインメントにおいて各部分に見出される、算出された、最も頻出するヌクレオチド又はアミノ酸いずれかの残基の順序を指す。この用語は、関連配列(たとえば、同じ科に属する異なる植物種から得られたWRKY32配列)を互いに比較し、(たとえば、モチーフ探索プログラム(たとえばMEME)を使用して)同様の配列モチーフを算出する、多重配列アラインメントの結果(たとえば、WRKY32配列)を表す。当業者は、「コンセンサス配列」の概念、並びに異なる植物(たとえば作物植物)間においてタンパク質中のコンセンサス配列を特定するのに適する方法に十分に通じている。
【0042】
本明細書で使用する用語「Solyc07g005650遺伝子又はポリヌクレオチド」とは、配列番号10又は11の核酸配列を有し、本明細書で教示するとおりのソラヌム・リコペルシクムWRKY32タンパク質(配列番号8)をコードするソラヌム・リコペルシクムWRKY32ポリヌクレオチドを指す。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)及び他の作物種において、オルソロガス遺伝子が確認されている。
【0043】
「遺伝子の発現」とは、適切な調節領域、特にプロモーターに動作可能に連結されたDNA領域が、生物活性のある、すなわち、生物活性タンパク質又はペプチド(若しくは活性ペプチド断片)に翻訳されうるRNAに転写される過程を指す。「タンパク質の発現」は、本明細書では、遺伝子の発現という用語と区別なく使用される。この用語は、適切な調節領域、特にプロモーターに動作可能に連結されたDNA領域が、mRNAに転写され、引き続いて、タンパク質又はペプチド(若しくは活性ペプチド断片)に翻訳される過程を指す。本明細書で使用するとき、遺伝子又はタンパク質の発現は、産生される機能タンパク質がより少ないとき、低減されている。これは、RNAへの転写が減少するとき、及び/又は転写されたRNAが生物学的に不活性であるとき、及び/又は転写されたRNAが低下したレベルでタンパク質に翻訳されるときに起こりうる。
【0044】
用語「遺伝子」とは、適切な調節領域(たとえばプロモーター)に動作可能に連結された、細胞においてRNA分子(たとえばmRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA配列を意味する。したがって、遺伝子は、プロモーターなどの動作可能に連結されたいくつかの配列と、たとえば翻訳開始に関与する配列を含む5’リーダー配列と、(タンパク質)コード領域(cDNA又はゲノムDNA)と、たとえば転写終結配列部位を含む3’非翻訳配列とを含む場合がある。
【0045】
「キメラ遺伝子」(又は組換え遺伝子)とは、自然界では種において通常見出されないいずれかの遺伝子、特に、自然界では互いに関連のない1つ又は複数の核酸配列部分が存在する遺伝子を指す。たとえば、プロモーターは、自然界では、転写領域の一部若しくは全部、又は別の調節領域と関連していない。用語「キメラ遺伝子」は、プロモーター又は転写調節配列が、1つ又は複数のコード配列、又はアンチセンス(センス鎖の逆相補鎖)若しくは逆反復配列(センス及びアンチセンス、転写後にRNA転写物が二本鎖RNAをなす)に動作可能に連結されている、発現構築物を含むと理解される。
【0046】
本明細書で使用するとき、用語「動作可能に連結」されたとは、機能上の関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連結を指す。核酸は、別の核酸配列との機能上の関係性をもつように配置された場合、「動作可能に連結」されている。たとえば、プロモーター、又はむしろ転写調節配列は、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に動作可能に連結されている。「動作可能に連結された」は、連結されているDNA配列が隣接することを意味する場合もある。
【0047】
「転写調節配列」とは、本明細書では、転写調節配列に動作可能に連結された(コード)配列の転写速度を調節しうる核酸配列であると定義される。したがって、本明細書で定義するとおりの転写調節配列は、たとえば、アテニュエーター又はエンハンサーを始めとして、転写の開始(プロモーターエレメント)、転写の維持及び調節に必要な配列エレメントをすべて含む。主として、コード配列の上流(5’)の転写調節配列を指すが、コード配列の下流(3’)に見出される調節配列も、この定義によって含められる。
【0048】
本明細書で使用するとき、用語「プロモーター」とは、1つ又は複数の遺伝子の転写を制御するように機能する、その遺伝子の転写開始部位の転写の方向を基準として上流に位置する核酸断片を指し、DNA依存的RNAポリメラーゼのための結合部位、転写開始部位、並びに、限定はしないが、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベータータンパク質結合部位、及びプロモーターからの転写の量を直接又は間接的に調節する働きをすることが当業者に知られている他のいずれかのヌクレオチド配列を始めとする他のいずれかのDNA配列の存在によって構造的に鑑別される。任意選択で、用語「プロモーター」は、本明細書では、5’UTR領域(5’非翻訳領域)も包含する(たとえば、遺伝子の翻訳開始コドンの上流(5’)の1つ又は複数の部分は、転写及び/又は翻訳の調節において役割を担う場合があるため、本明細書ではプロモーターに含めてもよい。「構成的」プロモーターは、ほとんどの生理及び発育条件下で大部分の組織において活性のあるプロモーターである。「誘導性」プロモーターは、生理的に(たとえば、ある特定の化合物の外部からの適用によって)又は発育によって調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定の種類の組織又は細胞においてのみ活性がある。「植物又は植物細胞においてプロモーター活性のある」とは、植物又は植物細胞内で転写の原動力となりうるプロモーターの一般能力を指す。この表現は、プロモーターの空間時間的活性の意味を含まない。
【0049】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域又は3’末端と呼ばれることも多い)とは、たとえば、転写終結部位及び(すべてではないがほとんどの真核細胞mRNAにおいて)ポリアデニル化シグナル(たとえば、AAUAAA又はその変形など)を含む、遺伝子のコード配列の下流に見出される核酸配列を指す。転写終結後、mRNA転写物は、ポリアデニル化シグナルの下流で切断される場合があり、mRNAの細胞質(ここで翻訳が行われる)への輸送に関与するポリ(A)尾部が付加される場合もある。
【0050】
用語「cDNA」とは、相補DNAを意味する。相補DNAは、RNAを逆転写して相補DNA配列とすることにより作られる。したがって、cDNA配列は、遺伝子から発現されるRNA配列に対応する。mRNA配列は、ゲノムから発現されると、細胞質においてタンパク質に翻訳される前に、スプライシングを受ける場合がある、すなわち、イントロンがmRNAから切り出され、エクソンが接合されるため、cDNAの発現は、cDNAをコードするmRNAの発現を意味すると理解される。したがって、cDNAは、接合されたエクソンからなる、タンパク質の完全なオープンリーディングフレームだけをコードするのに対し、ゲノムDNAは、イントロン配列が所々に割り込んでいるエクソンをコードするため、cDNA配列は、これと対応付けられるゲノムDNA配列と同一でない場合もある。したがって、一般に、cDNAをコードする遺伝子を改変することは、これによって遺伝子発現の低減がもたらされる限り、cDNAに対応する配列の改変に関連しうるだけでなく、ゲノムDNAのイントロン配列及び/又はその遺伝子の他の遺伝子調節配列を突然変異させることも含みうる。
【0051】
本発明による核酸分子又はポリヌクレオチドは、ピリミジン及びプリン塩基、好ましくは、それぞれ、シトシン、チミン、ウラシル、及びアデニン、グアニンのいずれかのポリマー又はオリゴマーを含む場合がある(その全体がすべての目的で参照により本明細書に援用される、Albert L.Lehninger、Principles of Biochemistry、793~800(Worth Pub.1982)を参照されたい)。本発明は、いずれかのデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、又はペプチド核酸成分、及びそのいずれかの化学的変異体、たとえば、これらの塩基がメチル化、ヒドロキシメチル化、又はグリコシル化された形態などを企図する。ポリマー又はオリゴマーは、組成が不均質でも、同質でもよく、自然発生供給源から単離されたものでも、又は人工的に若しくは合成して産生されたものでもよい。加えて、核酸は、DNA若しくはRNA又はその混合物である場合があり、ホモ二本鎖、ヘテロ二本鎖、及びハイブリッド状態を含めて、一本鎖又は二本鎖の形態で永久的又は過渡的に存在する場合がある。
【0052】
標的ヌクレオチド交換(targeted nucleotide exchange、TNE)は、染色体遺伝子又はエピソーム遺伝子中の部位に部分的に相補的な合成オリゴヌクレオチドによって、特定の部位における単一ヌクレオチドの反転が指示される過程である。多種多様なオリゴヌクレオチドと標的を使用するTNEが記載されている。報告されているオリゴヌクレオチドの一部は、ヌクレアーゼ耐性が低減されるように末端改変を含んでいるRNA/DNAキメラである。
【0053】
用語「整列させる」及び「アラインメント」とは、長い又は短い範囲の同一又は同様のヌクレオチドの存在に基づく、2つ以上のヌクレオチド配列の比較を意味する。ヌクレオチド配列を整列させるいくつかの方法は、以下でさらに説明するとおり、当業界で知られている。
【0054】
「配列同一性」は、ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の同一性の尺度である。一般に、配列は、最高の順序一致が得られるように整列させられる。「同一性」それ自体は、業界で受け入れられている意味を有し、公開されている技術を使用して算出することができる。たとえば、(COMPUTATIONAL MOLECULAR BIOLOGY、Lesk,A.M.編、Oxford University Press、ニューヨーク、1988;BIOCOMPUTING:INFORMATICS AND GENOME PROJECTS、Smith,D.W.編、Academic Press、ニューヨーク、1993;COMPUTER ANALYSIS OF SEQUENCE DATA,PART I、Griffin,A.M.及びGriffin,H.G.共編、Humana Press、ニュージャージー州、1994;SEQUENCE ANALYSIS IN MOLECULAR BIOLOGY、von Heinje,G.、Academic Press、1987;並びにSEQUENCE ANALYSIS PRIMER、Gribskov,M.及びDevereux,J.共編、M Stockton Press、ニューヨーク、1991)を参照されたい。2種のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列間の同一性を測定する方法はいくつか存在し、用語「同一性」は、当業者によく知られている(Carillo,H.及びLipton,D.、SIAM J.Applied Math(1988)48:1073)。2種の配列間の同一性又は類似性を明らかにするのに一般に用いられる方法としては、限定はしないが、GUIDE TO HUGE COMPUTERS、Martin J.Bishop編、Academic Press、サンディエゴ、1994、並びにCarillo,H.及びLipton,D.、SIAM J.Applied Math(1988)48:1073で開示されているものが挙げられる。同一性又は類似性を明らかにする方法は、コンピュータープログラムの中に体系化されている。2種の配列間の同一性又は類似性を明らかにするための好ましいコンピュータープログラム法としては、限定はしないが、GCSプログラムパッケージ(Devereux,J.ら、Nucleic Acids Research(1984)12(1):387)、BLASTP、BLASTN、FASTA(Atschul,S.F.ら、J.Molec.Biol.(1990)215:403)が挙げられる。
【0055】
実例として、ある特定の配列のポリペプチドをコードする基準ヌクレオチド配列に対する「同一性」が、少なくとも、たとえば95%であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドによれば、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチド配列が基準ポリペプチド配列の各100ヌクレオチドあたり5つまでの点突然変異を含みうることを除いては、基準配列と同一であることになる。したがって、基準核酸配列に対するヌクレオチド配列の同一性の百分率は、基準核酸配列の長さ全体に対して算出される。 言い換えれば、基準ヌクレオチド配列に対して少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを得るために、基準配列中の5%までのヌクレオチドは、欠失及び/若しくは別のヌクレオチドによる置換を有していてもよい、及び/又は基準配列中の全ヌクレオチドの5%までのいくつかのヌクレオチドが、基準配列に挿入されていてもよい。基準配列のこうした突然変異は、基準ヌクレオチド配列の5’若しくは3’末端の位置、又は、基準配列中のヌクレオチド間に個々に、若しくは基準配列内に1つ若しくは複数の隣接する集団として点在する、こうした末端位置間のいずれかの場所において生じる場合がある。
【0056】
同様に、基準アミノ酸配列に対する「同一性」が、少なくとも、たとえば95%であるアミノ酸配列を有するポリペプチドによれば、ポリペプチドのアミノ酸配列は、ポリペプチド配列が、基準アミノ酸配列の各100アミノ酸あたり5つまでのアミノ酸変更を含みうることを除いては、基準配列と同一であることになる。したがって、基準アミノ酸配列に対するアミノ酸配列の同一性の百分率は、基準アミノ酸配列の長さ全体に対して算出される。言い換えれば、基準アミノ酸配列に対して少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを得るために、基準配列中の5%までのアミノ酸残基は、欠失し、若しくは別のアミノ酸で置換されていても、又は基準配列中の全アミノ酸残基の5%までのいくつかのアミノ酸が、基準配列に挿入されていてもよい。基準配列のこうした変更は、基準アミノ酸配列のアミノ若しくはカルボキシ末端の位置、又は、基準配列中の残基間に個々に、若しくは基準配列内に1つ若しくは複数の隣接する集団として点在する、こうした末端位置間のいずれかの場所において生じる場合がある。
【0057】
用語「タンパク質」又は「ポリペプチド」は、区別なく使用され、詳細な作用方式、大きさ、3次元構造、又は起源には触れずに、アミノ酸鎖からなる分子を指す。したがって、タンパク質の「断片」又は「部分」は、なお「タンパク質」と呼ばれる場合がある。「単離タンパク質」は、もはやその自然な環境に置かれていない、たとえば、in vitroの、又は組換え細菌若しくは植物宿主細胞中にあるタンパク質を指すのに使用される。
【0058】
本明細書で使用する用語「トランスジェニック植物」とは、その遺伝子材料が、遺伝子改変(たとえば、植物に新たな遺伝子又はポリヌクレオチドを導入するための、遺伝子ベクター構築物を用いた形質移入又は形質転換)を使用して変更されている、植物、植物細胞、カルス、植物組織、又は植物部分を指す。遺伝子改変とは、外部の細胞又は生物からの外因性DNA断片を生細胞のゲノムに組み込む過程である。この組込みは、安定しうる。外因性DNA断片は、たとえば、20、50、100、500、1000、5000、又は10000塩基対より大きい場合がある。遺伝子改変には、組換え核酸(DNA又はRNA)技術が含まれる。遺伝子改変は、種の境界をまたいでの遺伝子又は遺伝子部分の移動、並びにトランスジェニック細胞及び生物の創出を包含する。遺伝子改変の結果として、植物は、遺伝子材料の目新しい組合せを保持し、たとえば、無関係の生物からの外来遺伝子若しくはポリヌクレオチドが植物ゲノムに加えられており、又は組換えポリヌクレオチドが、染色体若しくは安定な染色体外エレメントに、次の世代に受け継がれるように安定的に組み込まれている。
【0059】
本明細書で使用する用語「非トランスジェニック植物」とは、その遺伝子構成が変更されていない、又は無関係の生物からの遺伝子材料を加えずに変更されている植物を指す。用語「非トランスジェニック植物」は、たとえば標的化ヌクレオチド交換(TNE)技術を使用するゲノム編集を受けている植物も包含する。
【0060】
「ゲノム編集」とは、突然変異誘発性分子を使用して、1つ又は複数の塩基を挿入する、置き換える、又は取り除くことにより、生細胞のゲノムDNAを変化させる過程である。挿入される、置き換えられる、又は取り除かれる塩基の数は、たとえば、1、2、5、10、15、20、25、30、50、又はより多数となる場合がある。使用する突然変異誘発性分子は、たとえば、ゲノムにおける所定の位置に特異的二重鎖切断(DSB)又は単鎖ニックを創出するように人工的に操作されている、遺伝子修復オリゴヌクレオチド又はエンドヌクレアーゼでよい。切断又はニックは、細胞自身の修復機序によって、ミスマッチ修復、塩基除去修復、相同組換え、又は非相同末端結合(NHEJ)の自然の過程を使用して修復される。使用される操作されたヌクレアーゼには、現在、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Cas9系、及び操作されたホーミングエンドヌクレアーゼ又はメガヌクレアーゼという4つのファミリーが存在する。ゲノム編集は、標的化ヌクレオチド交換(TNE)とも呼ばれる、オリゴヌクレオチドを使用するオリゴヌクレオチド指定突然変異誘発(ODM)によって実現することもできる。ゲノム編集には、部位特異的突然変異誘発、部位特異的遺伝子付加、及び遺伝子ターゲティングが含まれる。ゲノム編集は、外因性DNAの安定的な導入を包含しない。
【0061】
本発明の状況において、タンパク質又は遺伝子(たとえばWRKY32)と組み合わせて使用される用語「内因性」とは、前記タンパク質又は遺伝子(WRKY32)が、やはりそれが含まれる植物を起源とすることを意味する。多くの場合、内因性遺伝子は、植物中にその正常な遺伝的状況で存在する。本発明では、内因性タンパク質又は遺伝子(たとえばWRKY32)は、標準の分子生物学的方法、たとえば、遺伝子発現抑制、TNEその他を使用して、in situで(植物又は植物細胞中で)改変される場合がある。
【0062】
「植物」とは、植物全体、又は植物から取得可能な植物の部分、たとえば、細胞、組織、器官(たとえば、花粉、種子、配偶子、根、葉、花、花芽、葯、果実など)、並びにこれらのいずれかの派生物、及び自殖又は交雑によってこうした植物から派生した子孫を指す。「植物細胞(複数可)」は、単離状態、又は組織、器官、若しくは生物内のいずれかにある原形質体、配偶子、懸濁培養物、小胞子、花粉粒などを包含する。
【0063】
本明細書で使用する用語「根茎」とは、地上への新たな成長を生み出すことのできる、往々にして地中の部分である植物の部分を指す。たとえば、この用語は、根茎(rhizome)又は地下茎を指す場合もある。接木においては、この用語は、別の植物からの挿木又は芽が接木される、定着した健康な根系をすでに有する植物、時として、単に切株を指す。
【0064】
本明細書で言及する「対照植物」とは、本明細書で教示する方法が施されており、結果として線虫抵抗性が向上又は増大している植物と同じ種、好ましくは同じ遺伝的背景の植物である。対照植物は、内因性機能WRKY32遺伝子を含み、前記遺伝子及び対応するWRKY32タンパク質を発現することが好ましく、野生型植物であることが好ましい。対照植物は、線虫感染を被りやすい、又は線虫感染の症状が出ている、又は線虫感染に対する抵抗性が弱い、たとえば、線虫(ネコブ又はシスト線虫)は、対照植物に首尾よく侵入し、自身を定着させ、そこで発育することができる。
【0065】
「線虫抵抗性」とは、本明細書では、1種又は複数の線虫(たとえば、ネコブ又はシスト線虫)に対する中程度の抵抗性及び高い抵抗性又は完全な抵抗性を含めて、植物の様々なレベルの線虫抵抗性又は耐性を指す。線虫抵抗性は、疾病が引き起こす症状(過敏性反応(HR)病変の頻度及び/又は大きさなど)を、罹病性対照植物において、同一の疾病圧力下で成長させたときに認められるものと比較することにより、測定し、任意選択で定量化することができる。このような疾病生物検定は、既知の方法を使用して実施することができる。線虫抵抗性は、同一疾病圧力下で成長させたとき、抵抗性植物の、罹病性植物に比べて高い収穫量として、間接的に測定することもできる。
【0066】
「線虫が引き起こす症状」には、給餌部位、こぶ、成長の遅れ、他の病原体の二次感染に有利な機会、栄養分の引き抜きなど、疾病のいずれかの症状が含まれる。
【0067】
「線虫抵抗性の向上」とは、植物又は植物組織の線虫抵抗性の、適切な対照植物と比べた増大を指す。本明細書では、(たとえば罹病性から抵抗性への)質的増大と量的増大の両方が含まれる。また、疾病発生率(感染を受ける植物の百分率)及び/又は疾病重症度の低減も含まれる。少なくとも1種の線虫(たとえば、ネコブ及び/又はシスト線虫)に対する線虫抵抗性が向上している植物は、疾病抵抗性の評価に適する生物検定及び/又は圃場検定を使用して、対照植物より少なくとも1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、又はさらに100%高いレベルで前記線虫に対する抵抗性を備える植物であることが好ましい。たとえば、線虫感染に応じて生じた根瘤の数を、本明細書で教示するとおりの植物と対照植物の両方において明らかにすることができ、実施例の部において示すとおりに比較することができる。
【0068】
線虫抵抗性が向上している植物を生産する方法
本発明者らは、ネコブセンチュウ属の線虫種(たとえば、ネコブ又はシスト線虫)による感染後に、巨大細胞において有意に抑制又は下向き調節されるが、巨大細胞より大きい感染根組織(たとえば、こぶ又は感染した根セグメント)では変化しない、WRKYスーパーファミリーに属する植物遺伝子、より詳細にはWRKY32遺伝子を特定した。驚いたことに、この遺伝子(WRKY32遺伝子)の発現を遺伝子発現抑制によってin casuで変更又は低減させた結果として、機能WRKY32タンパク質の発現が低減されると、前記植物において、ネコブ又はシスト線虫によって引き起こされる疾病症状の軽減が観察されたことがわかった。たとえば、驚いたことに、作物植物(トマト植物)におけるWRKY32遺伝子(たとえば、トマト相同配列(Solyc07g005650)の発現を、RNAiを主体とする形質転換を使用してノックダウンさせると、前記作物植物において、感染の数が減少した、及び/又はネコブ若しくはシスト線虫によって通常引き起こされる感染の重症度が軽減されたことがわかった。
【0069】
第1の態様では、本発明は、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、前記植物において、内因性WRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性を低減させる、又はWRKY32ポリヌクレオチドの発現を低減させるステップを含む方法に関する。
【0070】
一実施形態では、いずれかのWRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性又はWRKY32ポリヌクレオチドの発現は、前記WRKY32ポリペプチド及び/又はWRKY32ポリヌクレオチドを含むいずれかの植物において、前記植物に、向上又は増大した線虫抵抗性が付与されるように低減させることができる。
【0071】
本明細書で使用する用語「WRKY32ポリペプチド又はタンパク質」とは、WRKYポリペプチドスーパーファミリーのファミリーメンバーであるポリペプチドを指す。WRKY32タンパク質は、WRKYポリヌクレオチドスーパーファミリーのファミリーメンバーであるWRKY32遺伝子又はポリヌクレオチドによってコードされる。WRKY32ポリペプチドは、グループI WRKYポリペプチド又はタンパク質に属する。WRKY32ポリペプチドは、1つ又は複数の遺伝子上に含まれる1つ又は複数のW-box(複数可)に特異的に結合しうる2つのWRKYドメインを含み、C2H2モチーフを有する亜鉛フィンガーをさらに含む。WRKY32タンパク質又はポリペプチドの非限定的な例としては、ナス科コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号1のアミノ酸配列を含む)、アブラナ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号2)、ウリ科コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号3のアミノ酸配列を含む)、マメ科コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号4のアミノ酸配列を含む)、バラ科コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号5のアミノ酸配列を含む)、イネ科コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号6のアミノ酸配列を含む)、ナス属コンセンサスWRKY32タンパク質(配列番号7のアミノ酸配列を含む)、ソラヌム・リコペルシクムWRKY32タンパク質(配列番号8のアミノ酸配列を含む)、及びシロイヌナズナWRKY32タンパク質(配列番号15のアミノ酸配列を含む)が挙げられる。
【0072】
本明細書で使用する用語「ナス科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのナス科の種間で高度に保存されており、配列番号1のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、ナス科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号1)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、ナス科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0073】
本明細書で使用する用語「アブラナ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのアブラナ科の種間で高度に保存されており、配列番号2のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、アブラナ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号2)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、アブラナ科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0074】
本明細書で使用する用語「ウリ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのウリ科の種間で高度に保存されており、配列番号3のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、ウリ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号3)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、ウリ科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0075】
本明細書で使用する用語「マメ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのマメ科の種間で高度に保存されており、配列番号4のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、マメ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号4)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、マメ科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0076】
本明細書で使用する用語「バラ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのバラ科の種間で高度に保存されており、配列番号5のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、バラ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号5)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、バラ科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0077】
本明細書で使用する用語「イネ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのイネ科の種間で高度に保存されており、配列番号6のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、イネ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号6)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、イネ科に属する植物種において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0078】
本明細書で使用する用語「ナス属コンセンサスWRKY32タンパク質配列」とは、すべてのナス属の種間で高度に保存されており、配列番号7のアミノ酸配列を有する、特定のWRKY32タンパク質配列を指す。一実施形態では、ナス属コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号7)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現及び/又は活性を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、ナス属に属する植物種(たとえば、ソラヌム・リコペルシクム)において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0079】
本明細書で使用する用語「ナス属コンセンサスコード(cDNA)WRKY32核酸配列」とは、すべてのナス属の種間で高度に保存されており、配列番号9の核酸配列を有し、本明細書で教示するとおりのナス属コンセンサスWRKY32タンパク質配列(配列番号7)をコードする、特定のWRKY32核酸配列を指す。一実施形態では、ナス属コンセンサスコード(cDNA)WRKY32核酸配列(配列番号9)及びその変異体を、(たとえば、植物におけるその発現を変更することにより)使用して、植物、好ましくは、ナス属に属する植物種(たとえば、ソラヌム・リコペルシクム)において、線虫抵抗性を向上させることができる。
【0080】
別の態様では、本発明は、対照植物に比べて向上又は増大した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドの発現及び/又は活性を変更させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法に関する。
【0081】
さらに別の態様では、本発明は、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法に関する。
【0082】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリヌクレオチドは、配列番号9、10、11、13、又は14のいずれかの核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を備えうる。
【0083】
本明細書で使用する用語「ポリヌクレオチド(遺伝子)又はポリペプチド(タンパク質)の発現を低減させる」とは、改変された植物又は植物細胞において産生されるタンパク質(たとえばWRKY32)又はRNA(たとえばWRKY32 mRNA)のレベルが、適切な対照植物又は植物細胞(たとえば、野生型植物又は植物細胞)において産生されるタンパク質又は遺伝子のレベルに比べて下げられる状況を指す。遺伝子又はタンパク質(たとえばWRKY32)の発現は、植物又は植物細胞において産生される遺伝子又はタンパク質(たとえばWRKY32)のレベルが、対照植物において産生される遺伝子又はタンパク質(たとえば、WRKY32タンパク質)のレベルより少なくとも1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、又はさらに100%低いとき、低減されているとするのが好ましい。或いは、植物又は植物細胞において産生される遺伝子又はタンパク質のレベルが、対照植物において産生される遺伝子又はタンパク質のレベルより統計的に有意に低いとき、遺伝子又はタンパク質の発現は、低減されている。本発明に従って「ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現を低減させる」とは、機能WRKY32遺伝子(すなわちmRNA)若しくはタンパク質又はその変異体が存在しないこと、又は存在の減少を意味する。この結果として、たとえば、WRKY32タンパク質の制御下にある、又はWRKY32タンパク質によって調節される1つ又は複数の下流遺伝子及び/又はタンパク質の発現が阻止又は妨害されて、植物生理の変化が引き起こされる(たとえば、線虫に対する抵抗性が増す)。当業者なら、遺伝子又はタンパク質(たとえばWRKY32)の発現が低減されているかどうかを容易に確かめることができる。
【0084】
本明細書で使用する用語「タンパク質(たとえば、WRKY32タンパク質)の活性を低減させる」とは、タンパク質の本来の活性、たとえば、プロモーターエレメントに結合する、受容体に結合する、酵素反応を触媒する、遺伝子発現を調節するその能力などが、対照植物における同じタンパク質の活性に比べて、変更、低減、遮断、又は阻害される状況を指す。タンパク質(たとえばWRKY32)の活性は、植物又は植物細胞において産生されるタンパク質(たとえば、WRKY32タンパク質)の活性が、対照植物において産生される同じタンパク質(たとえば、WRKY32タンパク質)の活性より少なくとも1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、又はさらに100%低いとき、低減されていると考えてよいとするのが好ましい。本発明に従って「タンパク質又はポリペプチドの活性を低減させる」とは、機能WRKY32タンパク質及びその変異体の活性が存在しない又は低下していることを意味し、その場合ではたとえば、WRKY32タンパク質又はその変異体は、遺伝子上のW-boxに結合することができない、又はより低い親和性若しくは効力でしか結合することができず、又はその制御又は影響下にある遺伝子(複数可)の発現を調節することができない、若しくはより低い程度にしか調節することができない。これによって、たとえば、WRKY32タンパク質の制御下にある、又はWRKY32タンパク質によって調節される1つ又は複数の下流遺伝子及び/又はタンパク質の発現が阻止又は妨害されて、植物生理の変化が引き起こされる(たとえば、線虫に対する抵抗性の増大又は向上)。当業者なら、タンパク質(たとえばWRKY32)の活性が低減されているかどうかは、たとえば、WRKY32タンパク質若しくはその変異体のW-boxへの結合能を評価する、又はWRKY32タンパク質活性の低減が、WRKY32タンパク質若しくはその変異体によって調節される遺伝子の発現パターンに与える下流効果を評価することにより、容易に確かめることができる。本発明では、低減又は改変されたWRKY32タンパク質は、その活性が、その派生元である内因性WRKY32タンパク質より有意に低いとき、内因性WRKY32タンパク質に比べて低減された活性を示す。たとえば、前記の低減又は改変されたWRKY32タンパク質は、その比活性が、その派生元である内因性WRKY32タンパク質の比活性より少なくとも1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%、50%、70%、80%、90%、又はさらに100%低いとき、内因性WRKY32タンパク質、好ましくは、その派生元である内因性WRKY32タンパク質に比べて低減された活性を示す。
【0085】
WRKY32タンパク質、又は相同分子種や突然変異体などのその変異体、及び断片に関して、本明細書で使用する用語「機能不全の」又は「機能低下した」とは、たとえば、線虫(たとえば、ネコブ又はシスト線虫)感染を受けやすい植物における遺伝子(複数可)の発現レベルを(たとえば発現抑制によって)低減させることにより、(量的及び/又は質的な)線虫抵抗性を増大又は向上させうる能力を指す。植物種Xから得られるWRKY32タンパク質及びその変異体の機能性は、様々な方法によって試験することができる。植物種Xにおいて、WRKY32タンパク質をコードする遺伝子を、たとえば遺伝子発現抑制ベクターを使用して発現抑制又はノックアウトすることで、本明細書において詳細に説明するとおりに試験することのできる、線虫抵抗性の向上がもたらされることが好ましい。また、植物において、機能WRKY32タンパク質を用いて遺伝子のノックアウトを補完することで、線虫感染に対する感受性が復元又は付与される、すなわち、線虫感染に対する感受性は、前記植物において復元される。当業者なら、WRKY32及びその変異体の機能性を試験することにおいて困難を伴わない。いずれの機能又は非低減WRKY32タンパク質も存在しない植物において、「機能不全の」又は「低減された」WRKY32タンパク質を発現させると、前記植物に、向上した線虫抵抗性が付与される、すなわち、植物は、線虫感染の症状を現さない、又は内因性WRKY32タンパク質を含む対照植物に比べて低い程度にしか冒されない(たとえば、線虫感染のごくわずかな症状発現)。
【0086】
本発明はさらに、対照植物に比べて向上又は増大した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、たとえば、WRKY32遺伝子を改変して、改変されたポリペプチドをコードする改変されたポリヌクレオチドを得るステップを含み、改変されたポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、若しくは15のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドに比べて、低減された活性を示す、方法に関する。
【0087】
一実施形態では、ポリペプチドは、配列番号7若しくは8のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号7若しくは8のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含む場合がある。
【0088】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリペプチドは、配列番号8のいずれかのアミノ酸配列、又は配列番号8のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含む場合がある。
【0089】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリペプチドは、WRKY32ファミリーに属する転写因子タンパク質である。すなわち、前記ポリペプチドは、本明細書で教示するとおりのグループI WRKY32タンパク質の特徴、すなわち、1つ又は複数の遺伝子(複数可)又はポリヌクレオチド上に含まれる1つ又は複数のW-box(複数可)に特異的に結合しうる2つのWRKYドメインを有し、C2H2モチーフを有する亜鉛フィンガーをさらに含む。
【0090】
したがって、好ましい一実施形態では、本明細書で教示するとおりのWRKY32ポリペプチドは、2つのWRKYドメインを含み、ポリヌクレオチドに含まれる少なくとも1つのW-boxに結合しうる。
【0091】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリペプチドは、トマトWRKY32ポリペプチドであり、前記ポリペプチドは、配列番号10又は11の核酸配列を有するSolyc07g005650ポリヌクレオチド又は遺伝子によってコードされていることが好ましい。
【0092】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリペプチドの発現及び/若しくは活性及び/又はポリヌクレオチドの発現は、少なくとも、線虫(たとえば、ネコブ又はシスト線虫)が一般に感染し、線虫感染の症状(たとえば、こぶ又は根瘤)が一般に目に見え、又は顕著となる主な範囲に相当する、前記植物の根において低減される。
【0093】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりの植物の表現型は、対照植物に比べて、前記植物が前記対照植物より向上した線虫抵抗性を有することを除いては、変更されない。たとえば、対照植物又は野生型植物、好ましくは同じ種と比較しても、本発明による方法を施した植物において、収穫量、生殖、開花、成長、発育などは、影響を受けない。
【0094】
したがって、一実施形態では、本明細書で教示する方法は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、又は15のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする内因性ポリヌクレオチドを改変するステップを含む場合がある。
【0095】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示する方法は、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを改変するステップを含む場合がある。
【0096】
たとえば、一実施形態では、配列番号10若しくは11の核酸配列又はSolyc07g005650遺伝子の核酸配列を含むポリヌクレオチドを低減又は改変することにより、これを実現することができる。
【0097】
本明細書で教示する方法では、植物における、本明細書で教示するとおりの、内因性WRKY32ポリペプチドの発現及び/若しくは活性の低減、又はWRKY32ポリヌクレオチドの発現の低減は、適切ないずれの手段によって実現してもよいと理解される。たとえば、前記植物において、内因性WRKY32ポリペプチドに比べて機能が弱い、又はWRKY32機能若しくは活性が十分でない、改変されたWRKY32ポリペプチドをコードするように、内因性WRKY32ポリヌクレオチドを改変することにより、これを実現することができる。たとえば、機能又は活性が十分でないWRKY32ポリペプチドは、遺伝子若しくはポリヌクレオチド上に存在するW-boxに結合することができない若しくはより低い親和性若しくは効率でしか結合することができない、又は遺伝子上に含まれるW-boxに結合するにもかかわらず、前記の機能が低減されたWRKY32ポリペプチドの下流若しくはその制御下にある遺伝子(複数可)の発現を調節しない、若しくはそれに影響を及ぼさず、したがって、包括的に線虫による侵入を妨げる(すなわち、線虫抵抗性を向上又は増大させる)、WRKY32ポリペプチドとすることができる。
【0098】
たとえば、一実施形態では、教示するとおりのポリペプチド又はポリヌクレオチドの低減又は改変は、放射線又はメタンスルホン酸エチルによる処理を使用して実施される場合がある。別の一実施形態では、教示するとおりのポリペプチド又はポリヌクレオチドの低減又は改変は、植物種子の突然変異誘発(たとえば、EMS突然変異誘発)、植物個体若しくはDNAの貯蔵、目的の領域のPCR増幅、ヘテロ二本鎖生成及び高処理検出、突然変異体植物の特定、突然変異体PCR産物の配列決定によって実施される場合がある。このような改変植物を生成するのに、他の突然変異誘発及び選別方法を同様に使用してもよいことは理解される。種子は、たとえば、照射又は化学処理することができ、植物は、向上した線虫抵抗性及び/又はHR病変などの、改変された表現型についてスクリーニングすることができる。
【0099】
さらに別の一実施形態では、前記ポリペプチド及び/又はポリヌクレオチドの発現は、RNAi及びVIGSを始めとする遺伝子発現抑制法を使用して低減させることができる。
【0100】
一実施形態では、教示するとおりのポリペプチド又はポリヌクレオチドの低減又は改変は、限定はせず、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、Cas9様、Cas9/crRNA/tracrRNA、若しくはCas9/gRNA CRISPR系を用いるもの、又はWRKY32遺伝子との配列相補性を用いて突然変異誘発が増強されるように化学修飾されたヌクレオチドを含有する可能性もある、突然変異誘発性オリゴヌクレオチド(たとえば、KeyBase(登録商標)又はTALEN)を植物原形質体の中に用いる標的化突然変異誘発法を始めとする、標的化突然変異誘発法を使用して行うことができる。
【0101】
別法として、TILLING(Targeting Induced Local Lesions IN Genomics;McCallumら、2000、Nat Biotech 18:455、及びMcCallumら、2000、Plant Physiol.123、439~442、どちらも参照により本明細書に援用される)などの突然変異誘発系を使用して、上記突然変異の1つ又は複数を有する、及び/又は1種又は複数の線虫に対する疾病抵抗性が増強されているWRKY32タンパク質をコードするWRKY32遺伝子をもたらす植物系統を生成してもよい。TILLINGでは、伝統的な化学的突然変異誘発(たとえば、EMS突然変異誘発)に続いて、突然変異についての高処理スクリーニングが使用される。こうして、所望の突然変異の1つ又は複数を有するWRKY32遺伝子を含む植物、種子、及び組織を得ることができる。
【0102】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの低減又は改変は、前記ポリヌクレオチドにおける少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失、又は置換を含む場合がある。
【0103】
本明細書で教示するとおりに内因性WRKY32ポリペプチド若しくはその変異体の発現及び/若しくは活性を低減させる、又は内因性WRKY32ポリヌクレオチド若しくはその変異体の発現を低減させるのに使用する手段はいずれも、機能突然変異(たとえば、タンパク質又は遺伝子の機能を、たとえばナンセンス突然変異を導入して、早まった終止コドンを作り出すことにより混乱又は変化させる、ヌクレオチド若しくはアミノ酸の欠失、挿入、若しくは置換、又は点突然変異)を引き起こしうるか、又は機能の喪失(たとえば遺伝子発現抑制による本来の機能のノックアウト)を引き起こしうると理解される。当業者は、核酸配列又はアミノ酸配列に機能突然変異を導入して、結果として生じるポリヌクレオチド又はポリペプチドの機能を変更、遮断、又は阻害する方法を熟知している。
【0104】
一実施形態では、本明細書で教示する植物は、いかなる植物でもよい。適切な植物の非限定的な例としては、ナス科、アブラナ科、ウリ科、マメ科、バラ科、イネ科、又はナス属に属するいずれかの植物種が挙げられる。
【0105】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示する植物は、ナス属からのいずれの植物種でもよい。別の好ましい一実施形態では、本明細書で教示する植物は、トマト植物、より好ましくは、ソラヌム・リコペルシクム植物である場合がある。驚いたことに、内因性ソラヌム・リコペルシクムWRKY32タンパク質(すなわち、配列番号8)の発現及び/若しくは活性、又は内因性ソラヌム・リコペルシクムWRKY32遺伝子(配列番号10若しくは11又はSolyc07g005650遺伝子)の発現を、前記ソラヌム・リコペルシクムトマト植物において(たとえば、RNAi遺伝子発現抑制技術を使用して)低減させることは、前記植物に、線虫(たとえば、ネコブ線虫)感染に対する、対照植物に比べて有意に高い抵抗性(より少ない線虫感染の症状)を生じさせる又は付与するのに十分であったことが判明した。
【0106】
一実施形態では、本発明の方法は、再生させた植物、又は自殖若しくは交雑によってそれから派生した植物を、1種又は複数の線虫に対する抵抗性の向上についてスクリーニングし、前記線虫の1種又は複数に対する抵抗性の向上又は増大を含む植物を特定するステップをさらに含む。
【0107】
別の態様では、本発明は、植物又は根茎において、線虫抵抗性を対照植物又は根茎に比べて向上させる方法であって、植物又は根茎を、前記植物又は根茎におけるWRKY32タンパク質の活性を阻害する1種又は複数の化合物で処理することを含む方法に関する。
【0108】
本開示はまた、対照植物に比べて向上した線虫抵抗性を有する植物を生産する方法であって、植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む、又は植物細胞、植物部分、又は植物において、配列番号6のアミノ酸配列、又は配列番号6のいずれかのアミノ酸配列対して、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%若しくは99%の配列同一性を有するその変異体を含むポリペプチドの発現を低減させるステップと、任意選択で、前記植物を再生させるステップとを含む方法に関する。
【0109】
植物
別の態様では、本発明はまた、上記方法のいずれか1つによって取得可能な植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎に関する。
【0110】
一実施形態では、本発明は、本明細書で教示するとおりの低減又は改変されたWRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドを含む植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎に関する。
【0111】
一実施形態では、本発明はさらに、内因性WRKY32ポリヌクレオチド及び/又は内因性WRKY32ポリペプチドの発現が、本明細書で教示するとおりに改変されている、植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎に関する。
【0112】
前記植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/若しくは根茎は、内因性WRKY32ポリヌクレオチドの発現が、たとえばT-DNA挿入によってノックアウトされている、いずれかの植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/若しくは根茎である場合もあり、又は植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/若しくは根茎は、内因性WRKY32遺伝子の発現が、たとえばRNAiを使用して発現抑制されている、いずれかの植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/若しくは根茎である場合もある。
【0113】
一実施形態では、前記植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、ナス科、アブラナ科、ウリ科、マメ科、バラ科、イネ科、又はナス属に属するいずれの植物種からのものでもよい。
【0114】
本明細書で教示する植物は、作物植物又は栽培植物、すなわち、ヒトによって栽培され、育てられる植物種であることが好ましい。作物植物は、食料若しくは飼料目的(たとえば、農作物)で、又は観賞装飾目的(たとえば、切り花の生産、芝生の芝など)で栽培される場合がある。本明細書で定義するとおりの作物植物には、食料でない産物、たとえば、燃料用の油、可塑性ポリマー、医薬製品、コルク、(綿などの)繊維などが収穫される植物も含まれる。本明細書で教示する植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、作物植物であることが好ましい。
【0115】
一実施形態では、植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、単子葉植物又は双子葉植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/若しくは根茎である場合がある。たとえば、植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、ナス属(リコペルシクムを含む)、タバコ属、トウガラシ属、ペチュニア属、及び他の属に属する場合がある。以下の植物種を適切に使用することができる。タバコ(タバコ属の種、たとえば、ベンサミアナタバコ(N.benthamiana)、N.プルムバギニフォリア(N.plumbaginifolia)、タバコ(N.tabacum)など)、野菜種、たとえば、トマト(ソラヌム・リコペルシクム)、たとえば、チェリートマト、すなわち変種のセラシホルム(var.cerasiforme)、又はカラントトマト、すなわち変種のピンピネリホリウム(var.pimpinellifolium)、又はキダチトマト(S.ベタセウム(S.betaceum)、異名シホマンドラ・ベタセア(Cyphomandra betaceae))、ジャガイモ(Solanum tuberosum)、ナス(Solanum melongena)、ペピーノ(Solanum muricatum)、ココナ(Solanum sessiliflorum)、及びナランジラ(Solanum quitoense)、コショウ類(トウガラシ(Capsicum annuum)、キダチトウガラシ(Capsicum frutescens)、カプシクム・バッカツム(Capsicum baccatum))、観賞用の種(たとえば、ペチュニア(Petunia hybrida)、ペチュニア・アキシラリエス(Petunia axillaries)、P.インテグリフォリア(P.integrifolia))、コーヒー(コーヒー属(Coffea))。
【0116】
一実施形態では、本明細書で教示する植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、他のいずれかの科、たとえば、ウリ科やイネ科(Gramineae)に属する場合がある。適切な宿主植物には、たとえば、トウモロコシ(トウモロコシ属(Zea)の種)、コムギ(コムギ属(Triticum)の種)、オオムギ(たとえば、オオムギ(Hordeum vulgare))、カラスムギ(たとえば、マカラスムギ(Avena sativa))、モロコシ(モロコシ(Sorghum bicolor))、ライムギ(ライムギ(Secale cereale))、ダイズ(グリシン属(Glycine)の種、たとえば、ダイズ(G.max))、ワタ(ワタ属(Gossypium)の種、たとえば、ワタ(G.hirsutum)、G.バルバデンス(G.barbadense))、アブラナ属(Brassica)の種(たとえば、セイヨウアブラナ(B.napus)、カラシナ(B.juncea)、B.オレラセア(B.oleracea)、B.ラパ(B.rapa)など)、ヒマワリ(ヘリアンツス・アンヌス(Helianthus annus))、ベニバナ、ヤムイモ、キャッサバ、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa))、イネ(イネ属の種、たとえば、アジアイネ(O.sativa)インディカ栽培品種群又はジャポニカ栽培品種群)、飼料草、トウジンビエ(チカラシバ属(Pennisetum)の種、たとえば、トウジンビエ(P.glaucum))、樹木種(マツ属(Pinus)、ポプラ、モミ、オオバコなど)、チャ、コーヒー属、アブラヤシ、ココヤシ、野菜種、たとえば、エンドウ、ズッキーニ、豆類(たとえば、インゲンマメ属(Phaseolus)の種)、キュウリ、アーティチョーク、アスパラガス、ブロッコリー、ニンニク、ニラネギ、レタス、タマネギ、ハツカダイコン、カブ、芽キャベツ、ニンジン、カリフラワー、チコリー、セロリ、ホウレンソウ、エンダイブ、フェンネル、ビート、肉果をつける植物(ブドウ、モモ、スモモ、イチゴ、マンゴー、リンゴ、スモモ、サクランボ、アンズ、バナナ、ブラックベリー、ブルーベリー、柑橘、キーウィ、イチジク、レモン、ライム、ネクタリン、ラズベリー、スイカ、オレンジ、グレープフルーツなど)、観賞用の種(たとえば、バラ、ペチュニア、キク属(Chrysanthemum)、ユリ、ガーベラの種)、ハーブ(ミント、パセリ、バジル、タイムなど)、木本の樹木(たとえば、ポプラ属(Populus)、ヤナギ属(Salix)、カシ属(Quercus)、ユーカリ属(Eucalyptus)の種)、繊維種、たとえば、アマ(アマ(Linum usitatissimum))及びアサ(アサ(Cannabis sativa))が含まれる。
【0117】
一実施形態では、前記の植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、AT5G24910にT-DNA挿入を含むシロイヌナズナ植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎でない。別の実施形態では、前記の植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、シロイヌナズナ植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎でない。植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、改変された内因性WRKY32遺伝子又はタンパク質に対して同型接合又は異型接合である場合がある。
【0118】
好ましい一実施形態では、植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、ナス属のいずれかの植物種であるか、又はそれ由来である場合がある。別の好ましい一実施形態では、本明細書で教示する植物、植物部分、植物細胞、種子、及び/又は根茎は、トマト植物、より好ましくは、ソラヌム・リコペルシクム植物であるか、又はそれ由来である場合がある。
【0119】
一実施形態では、植物は、本明細書で教示するとおりの低減又は改変されたWRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドを含む根茎を含むキメラ植物である。前記キメラは、他のいずれかの植物の接穂、好ましくは、本明細書で定義するとおりの線虫抵抗性の増大を示していない植物の接穂、さらにより好ましくは、本明細書で定義するとおりの対照植物の接穂をさらに含むことが好ましい。
【0120】
改変されたポリヌクレオチドを含むトマト植物
別の態様では、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、又は8と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする内因性ポリヌクレオチドの発現が低減されているトマト植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞に関する。好ましい一実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、配列番号1、8と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードする。
【0121】
一実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、配列番号10若しくは11の核酸配列又はSolyc07g005650遺伝子の核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む。
【0122】
一実施形態では、前記ポリヌクレオチドにおいて、少なくとも1つのヌクレオチドが挿入され、欠失し、又は置換されており、1つ又は複数の点突然変異が前記ポリヌクレオチドに導入されていることが好ましい。前記ポリヌクレオチドにおける、前記の少なくとも1つのヌクレオチドの挿入、欠失、若しくは置換、又は前記点突然変異(複数可)は、機能効果をもたらすものであり、又は前記ポリヌクレオチド若しくは関連ポリペプチド(すなわちWRKY32)の機能若しくは産生を変更、遮断、阻害しうる、若しくはその喪失を引き起こしうる機能突然変異であると理解される。
【0123】
本明細書で教示するトマト植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞に関する一実施形態では、配列番号1、2、3、4、5、6、7、又は8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドの発現及び/又は活性が低減されている。好ましい一実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0124】
一実施形態では、前記ポリペプチドの発現及び/若しくは活性及び/又は前記ポリヌクレオチドの発現は、根において低減されるが、シュートでは低減されずに、シュートへの影響が回避される。
【0125】
本明細書で教示するトマト植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞に関する一実施形態では、ポリペプチドは、WRKY32ファミリーに属する転写因子タンパク質であり、2つのWRKYドメインを含み、1つ又は複数の遺伝子又はポリヌクレオチド上に含まれる少なくとも1つのW-boxに特異的に結合しうる。
【0126】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示するトマト植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞は、ソラヌム・リコペルシクム植物、植物部分、根茎、種子、又は細胞である。
【0127】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりのポリペプチドの発現及び/若しくは活性の低減又はポリヌクレオチドの発現の低減によって、植物、種子、又は細胞の表現型は、線虫抵抗性の向上を除いて、対照植物に比べて変更されない。たとえば、成長、発芽能、収穫量、発育、物性などは、変更されない、又は変化しない。
【0128】
一実施形態では、本明細書で教示するとおりのトマト植物、又はその種子若しくは細胞から得られる植物は、対照植物に比べて、線虫抵抗性の向上、好ましくは、ネコブ線虫及び/又はシスト線虫抵抗性の向上を示す。
【0129】
一実施形態では、線虫は、ネコブセンチュウ属、ヘテロデラ属、又はグロボデラ属、好ましくは、サツマイモネコブセンチュウ、ジャワネコブセンチュウ、及びジャガイモシストセンチュウから選択される。
【0130】
別の態様では、本発明は、接木の成長及び発育を向上させるための、本明細書で教示するトマト植物の根茎及びその使用に関する。
【0131】
好ましい一実施形態では、本明細書で教示する植物、植物部分、植物細胞、種子、又は根茎は、トランスジェニック植物、植物部分、植物細胞、種子、又は根茎でない、すなわち、いかなるトランスジェニック手段も含んでおらず、又は植物、植物部分、植物細胞、種子、若しくは根茎のゲノムに、外来遺伝子若しくはポリヌクレオチドは加えられていない。
【0132】
一実施形態では、ソラヌム・リコペルシクム植物は、本明細書で教示するとおりの低減又は改変されたWRKY32ポリヌクレオチド及び/又はWRKY32ポリペプチドを含むソラヌム・リコペルシクム根茎を含むキメラ植物である。前記キメラは、他のいずれかの植物の接穂、好ましくは、ソラヌム・リコペルシクム植物の接穂、より好ましくは、本明細書で定義するとおりの線虫抵抗性の増大を示していないソラヌム・リコペルシクム植物の接穂、さらにより好ましくは、本明細書で定義するとおりの対照植物の接穂をさらに含むことが好ましい。
【0133】
本発明の使用
別の態様では、本発明は、植物細胞、植物部分、又は植物において線虫抵抗性を向上又は増大させるための、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、又は15のアミノ酸配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの使用に関する。
【0134】
好ましい一実施形態では、前記ポリペプチドは、配列番号8のアミノ酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む場合がある。
【0135】
一実施形態では、前記ポリペプチドは、WRKY32ファミリーの転写因子タンパク質であり、2つのWRKYドメインを含み、遺伝子又はポリヌクレオチド上に含まれる少なくとも1つのW-boxに特異的に結合しうる。
【0136】
一実施形態では、前記ポリヌクレオチドは、配列番号10若しくは11の核酸配列又はSolyc07g005650遺伝子の核酸配列と、少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を有する核酸配列を含む場合がある。
【実施例】
【0137】
実施例1
ソラヌム・リコペルシクムにおける線虫病検定
トマト(S.リコペルシクム)植物における線虫抵抗性を試験するために、本発明者らは、Solyc07g005650遺伝子によってコードされるWRKY32タンパク質の発現の低減又は変更の結果として、ネコブ線虫感染による疾病症状が軽減するかどうかを調査した。
【0138】
試験群
線虫であるサツマイモネコブセンチュウのトマト(S.リコペルシクム)植物への外寄生能に対する、Solyc07g005650遺伝子の発現低下の効果を試験するために、S.リコペルシクム根に、Solyc07g005650遺伝子を発現抑制するように設計された、配列CTGACATGCCAGTACCCAAAAAACGTCATGGTCCACCGAGTGCACCTCTTATTGCTGCTACTGCCCCTGCTTCCGTAACCACTATGCATGCTAACAAACCCGAACCCCTACAACATCAAAAATCGACCACACAATGGTCCGTGGACAAAGAAGGTGAGTTGACTGGTGAGAAATTGGATGTTGGAGGAGAAAAAGCAATGGを有するRNAiベクター構築物を形質移入した実験を行った。リゾビウム・リゾゲネスを媒介としたトマト根への形質移入には、同じプラスミドにおける(蛍光マーカーとして使用した)DSレッドの存在を視覚的に役立てた。
【0139】
対照群
対照群は、ベクター構築物で形質転換されているが、Solyc07g005650遺伝子を発現抑制するように設計されたRNAiを含んでいないトマト(S.リコペルシクム)植物からなるものとした。
【0140】
上で定義したとおりのベクター構築物をうまく形質移入した後、両方の実験群からの植物(すなわち、砂地で育てた3週齢のトマト植物)を、植物1株あたり500匹のJ2サツマイモネコブセンチュウで感染させた。サツマイモネコブセンチュウによるトマト根の感染を、感染から5週間後に確認した。
【0141】
両方の実験群(すなわち、試験及び対照群)において、サツマイモネコブセンチュウによってもたらされた根瘤の数を求めた。試験群では、双眼顕微鏡を使用して根におけるDSレッド蛍光の存在を明らかにすることにより、形質移入が成功した根が確認された(
図1における斜線のバーを参照されたい)。試験群植物における、形質移入が成功しなかった根は、DSレッド蛍光シグナルを示さなかった(
図1における黒色のバーを参照されたい)。このような根は、試験群植物内の「内部対照」とした。
【0142】
対照群植物、すなわち、対照ベクター(すなわち、Solyc07g005650遺伝子を発現抑制するように設計されたRNAiを含まない)を、上と同じ手順を使用して形質移入した植物においても、形成された根瘤の数を求めた。各実験群について得られた結果を比較した。結果を
図1に示す。
【0143】
図1は、(WRKY32発現抑制)試験群において、形質移入が成功した(すなわち、DSレッド蛍光シグナルを示した)根が、形質移入されなかった(すなわち、DSレッド蛍光シグナルを示さなかった)根に比べて、約90%少ない疾病症状(根瘤)しか示さなかったことを示している。さらに、試験群における、形質移入されていない根において形成された根瘤の数は、対照群植物(すなわち、形質移入されている根と形質移入されていない根)の数と似通っていたことが観察された。その上、試験群の植物は、対照群の植物より向上した、又はより高い線虫抵抗性を示したことも観察された(
図1における斜線のバーを参照されたい)。
【0144】
対照群では、形質移入されている根と形質移入されていない根における根瘤の数に有意差はなかった。
【0145】
全体として、これらの結果から、トマト(S.リコペルシクム)植物において内因性WRKY32遺伝子(Solyc07g005650遺伝子)の発現を(すなわち、発現抑制によって)低減させると、線虫に対する抵抗性が、対照植物に比べて増大又は向上することが示唆される。
【0146】
実施例2
シロイヌナズナにおけるネコブ線虫病検定
シロイヌナズナ属(シロイヌナズナ)植物における線虫抵抗性を試験するために、本発明者らは、At4g30935遺伝子によってコードされるWRKY32タンパク質の発現の低減又は変更の結果として、ネコブ線虫(サツマイモネコブセンチュウ)感染による疾病症状が軽減するかどうかを調査した。
【0147】
試験群
線虫であるサツマイモネコブセンチュウのシロイヌナズナ植物への外寄生能に対する、At4g30935遺伝子(配列番号13がゲノム配列に相当し、配列番号14がコード配列に相当し、配列番号15がタンパク質に相当する)の発現低減の効果を評価するために、6ウェル細胞培養プレートにおいて滅菌MS20/Gelrite培地で成長させた、At4g30935遺伝子にT-DNA挿入を含んでいるシロイヌナズナ突然変異体系統(SALK_091352;Alonsoら、2003、Science)の10日齢植物に、植物1株あたり200匹の無菌サツマイモネコブセンチュウ感染性幼若体(J2)を負荷した実験を行った。
【0148】
対照群
対照群は、公的に入手可能な、挿入突然変異体のゲノム規模コレクションを創出するのにバックグラウンドとして使用された生態型であるシロイヌナズナCol-0野生型植物からなるものとした(Alonsoら、2003、Science)。6ウェル細胞培養プレートにおいて滅菌MS20/Gelrite培地で成長させた10日齢植物に、植物1株あたり200匹の無菌サツマイモネコブセンチュウ感染性幼若体(J2)を負荷した。
【0149】
線虫を接種してから5週間後、両方の実験群(すなわち、試験及び対照群)において、サツマイモネコブセンチュウによってもたらされた根瘤の、植物1株あたりの合計数を求めた。
【0150】
図2は、試験群(WRKY32遺伝子破壊)では、根が、対照群(対照)の根に比べて、平均して約15%少ない根瘤しか示さなかったことを示している。さらに、試験群における根系の大きさは、対照群における根系サイズと似通っていたことが観察された。
【0151】
全体として、これらの結果から、シロイヌナズナにおいてAt4g30935遺伝子の発現をノックアウトすることで、ネコブ線虫に対する抵抗性が、対照植物に比べて向上したことが示唆される。
【0152】
実施例3
シロイヌナズナにおけるテンサイシスト線虫病検定
シロイヌナズナ属(シロイヌナズナ)植物における線虫抵抗性を試験するために、本発明者らは、At4g30935遺伝子によってコードされるWRKY32タンパク質の発現の低減又は変更の結果として、テンサイシスト線虫(テンサイシストセンチュウ)感染による疾病症状が軽減するかどうかを調査した。
【0153】
試験群
線虫であるテンサイシストセンチュウのシロイヌナズナ植物への外寄生能に対する、At4g30935遺伝子の発現低減の効果を評価するために、6ウェル細胞培養プレートにおいて滅菌KNOP/Daichin寒天培地で成長させた、At4g30935遺伝子にT-DNA挿入を含んでいるシロイヌナズナ突然変異体系統(SALK_091352;Alonsoら、2003、Science)の10日齢植物に、植物1株あたり150匹の無菌テンサイシストセンチュウ感染性幼若体(J2)を負荷した実験を行った。
【0154】
対照群
対照群は、公的に入手可能な、挿入突然変異体のゲノム規模コレクションを創出するのにバックグラウンドとして使用された生態型であるシロイヌナズナCol-0野生型植物からなるものとした(Alonsoら、2003、Science)。6ウェル細胞培養プレートにおいて滅菌KNOP/Daichin寒天培地で成長させた10日齢植物に、植物1株あたり150匹の無菌テンサイシストセンチュウ(IRS)感染性幼若体(J2)を負荷した。
【0155】
線虫を接種してから2週間後、両方の実験群(すなわち、試験及び対照群)において、発育しているテンサイシストセンチュウ雌虫の、植物1株あたりの合計数を求めた。
【0156】
図3は、試験群(WRKY32遺伝子破壊)では、根によって支えられる雌虫の発育が、対照群(対照)の根に比べて平均して約51%少ないことを示している。さらに、試験群における根系の大きさは、対照群における根系サイズと似通っていたことが観察された。
【0157】
全体として、これらの結果から、シロイヌナズナにおいてAt4g30935遺伝子の発現をノックアウトすることで、テンサイシスト線虫に対する抵抗性が、対照植物に比べて向上したことが示唆される。
【0158】
[配列表]
配列番号1 ナス科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号2 アブラナ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号3 ウリ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号4 マメ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号5 バラ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号6 イネ科コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号7 ナス属コンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号8 ソラヌム・リコペルシクムコンセンサスWRKY32タンパク質配列
配列番号9 ナス属コンセンサスWRKY32コード核酸配列
配列番号10 ソラヌム・リコペルシクムWRKY32ゲノム核酸配列
配列番号11 ソラヌム・リコペルシクムWRKY32コード核酸配列
配列番号12 ソラヌム・リコペルシクムWRKY32 RNAi配列
配列番号13 シロイヌナズナWRKY32ゲノム核酸配列
配列番号14 シロイヌナズナコード核酸配列
配列番号15 シロイヌナズナタンパク質配列
【配列表】