(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】時計の機械式ムーブメントの為に菱形断面を備えたバランスバネとバランスバネの製造方法
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G04B17/06 A
(21)【出願番号】P 2019569370
(86)(22)【出願日】2018-06-19
(86)【国際出願番号】 EP2018066214
(87)【国際公開番号】W WO2018234290
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-04-22
(32)【優先日】2017-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520300482
【氏名又は名称】マクソン インターナショナル アーゲー
【氏名又は名称原語表記】MAXON INTERNATIONAL AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフル, ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】シンドラー, ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】シュトライヒャー, ミヒャエル
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】スイス国特許出願公開第00704686(CH,A3)
【文献】欧州特許出願公開第02685325(EP,A1)
【文献】スイス国特許発明第00327796(CH,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0135974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計の機械式ムーブメントの為のバランスバネにおいて、前記バランスバネは、螺旋状バネとして具現化され、巻線横断面を有する、バランスバネであって、
前記螺旋状バネの前記巻線横断面は菱形の形状を有し、前記菱形は、少なくとも、4辺(3)と、第1内角αを有する2つの第1角部(4)と、第2内角βを有する2つの第2角部(5)と、前記2つの第1角部を一緒に接続する第1対角線(6)と、前記2つの第2角部を一緒に接続する第2対角線(7)とを有し、前記第1対角線は前記第2対角線より短く、前記第1内角は前記第2内角より大きいことを特徴とする、バランスバネ。
【請求項2】
前記第2対角線(7)によって互いに接続される前記2つの角部(5)は、前記菱形が2つの追加の辺(8)を有するように前記第1対角線(6)に対して平行に切断されることを特徴とする、請求項1に記載のバランスバネ。
【請求項3】
前記2つの追加の辺(8)の間の距離(9)は、0.05mm~0.2mmであることを特徴とする、請求項2に記載のバランスバネ。
【請求項4】
前記2つの追加の辺(8)は、0.01mm~0.05mmの長さを有することを特徴とする、請求項2または3に記載のバランスバネ。
【請求項5】
前記第1対角線(6)の任意の一つは、0.03mm~0.07mmであることを特徴とする、請求項2~4のいずれか一項に記載のバランスバネ。
【請求項6】
前記第2内角βは、3°~30°であることを特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載のバランスバネ。
【請求項7】
前記第2内角βは、10°~30°であることを特徴とする、請求項6に記載のバランスバネ。
【請求項8】
前記2つの追加の辺(8)および前記菱形の隣接した、それぞれの辺(3)の間の移行部は湾曲し、前記湾曲の半径(R)は、0.005mm~0.05mmであることを特徴とする、請求項2~7のいずれか一項に記載のバランスバネ。
【請求項9】
前記巻線横断面は、前記菱形の前記第1対角線(6)および前記菱形の前記第2対角線(7)に対して対称になるように設計されることを特徴とする、請求項2~7のいずれか一項に記載のバランスバネ。
【請求項10】
前記バランスバネ(1)は、セラミック材料で形成されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のバランスバネ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のバランスバネによって特徴付けられるバランスバネ(1)を有する、時計の為のムーブメント。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載のバランスバネ(1)を製造する為の方法において、
前記バランスバネは、螺旋状バネとして具現化され、巻線横断面を有する方法であって、
前記バランスバネは、未加工部品(10)から製造され、前記未加工部品は、セラミック材料から形成され、選択的レーザアブレーション法によって構築され、前記螺旋状バネの前記巻線横断面は、菱形の形を有し、前記菱形は、少なくとも、4辺(3)と、第1内角αを有する2つの第1角部(4)と、第2内角βを有する2つの第2角部(5)と、前記2つの第1角部を一緒に接続する第1対角線(6)と、前記2つの第2角部を一緒に接続する第2対角線(7)とを有し、前記第1対角線は前記第2対角線より短く、前記第1内角は前記第2内角より大きいことを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記加工されていない部品(10)は、ディスクであることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記加工されていない部品(10)は、0.1mm~0.25mmの厚さを有することを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
第1V字状溝(13)が、未加工部品(10)の第1面(16)にレーザによって作成され、第2V字状溝(14)が、未加工部品(10)の反対側の第2面(17)にレーザによって作成され、前記第1溝及び第2溝(13,14)は、上下に一致して位置し、一緒に開口部を形成し、前記螺旋状バネの個々の巻線を互いに分離させることを特徴とする、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
超短パルスレーザ(11)が使用されて前記選択的レーザアブレーション法を実行することを特徴とする、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立形式請求項1の序文による時計の機械式ムーブメントの為のバランスバネに関する。特に、本発明は、腕時計または懐中時計の機械式ムーブメントの為のバランスバネに関する。一般的なタイプのバランスバネは、螺旋状バネとして具体化され、巻線横断面を有する。巻線横断面は、バランスバネの単一巻線の横断面であると理解されており、完全なバランスバネの横断面ではない。バランスバネは、いわゆるエスケープメントと共に機械式ムーブメントの調整要素を形成するので、機械式ムーブメントの均一な計時と精度に直接影響する。
【0002】
DE 10 2008 029429 A1は、独立形式請求項の序文によるバランスバネを開示する。
【0003】
このバネの巻線横断面は長方形として具現化されている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、一般的なタイプのバランスバネを都合よく更に改善することである。
【0005】
この目的は、独立形式の請求項1の特徴部によって達成される。そのため、独立形式の請求項の序文によるバランスバネは、螺旋状バネの巻線横断面が菱形の形状であり、その菱形が少なくとも四辺、第1内角を有する2つの角部、第2内角を有する2つの第2角部、2つの第1角部を互いに接続する第1対角線、2つの第2角部を互いに接続する第2対角線、第1対角線が第2対角線より短く、第1内角が第2内角より大きい場合、本発明の目的を達成する。
【0006】
本発明は、バランスバネの単一方向の振動と応力分布とが菱形ジオメトリの為に最適化されるという利点を提供する。また、菱形横断面は、バランスバネのムーブメントシーケンスの自己センタリング効果を有し、振動面において、バランスバネを安定化させる。菱形プロファイル設計のため、螺旋状バネの幾何学的な慣性モーメントを変えることができ、したがって、バネ定数(spring rate)を変えることができる。そのため、菱形横断面のジオメトリを画定することによってムーブメントの計時を正確に確立できる。菱形の短い第1対角線は、バランスバネの拡張平面に対して平行に続くのが好ましい。そのため、より長い第2対角線は、バランスバネの拡張平面に対して直交するのが好ましい。そのため、より長い第2対角線は、螺旋の一つの軸に対して平行に続くのが好ましい。
【0007】
発明の有利な実施形態は、従属形式の請求項の主題である。
【0008】
特に好ましい本発明の実施形態において、第2対角線によって互いに接続される、菱形の2つの第2角部は、第1対角線に対して平行に切断されるので、菱形は2つの追加の辺を有する。第一に、横断面のジオメトリ設計において、バネ定数を極めて簡単かつ正確に設定することができる。第二に、バランスバネの製造は、この実施形態では簡単化される。
【0009】
他の好ましい本発明の実施形態によると、2つの前述した追加の辺の間の距離は、0.05mm~0.2mmである。そのため、本発明によるダイバランスバネは、時計のムーブメントにとって特に適している。
【0010】
他の好ましい本発明の実施形態によると、2つの追加の辺は、0.01mm~0.05mmの長さである。さらに、第1対角線の長さは、0.03mm~0.07mmであることが好ましい。さらに、3°~30°の値は、むしろ、プロファイルの横断面の第2内角として特に有利であることが判明している。さらに、第2内角は、10°~30°であることが好ましい。
【0011】
他の好ましい本発明の実施形態において、2つの追加の辺の間と、菱形の隣接した各辺間との移行部が湾曲している場合、本発明のバランスバネの生産は、大幅に簡単化される。湾曲の半径は、0.005mm~0.05mmの範囲であるのが更に好ましい。
【0012】
本発明の他の好ましい実施形態において、巻線横断面は、菱形の第1対角線に対して、更に、菱形の第2対角線に対して、対称になるように設計される。そのため、特に簡単かつ正確にバネ定数を決定することができる。この実施形態は、本発明によるバランスバネの生産において有利な効果を有する。
【0013】
他の特に有利な本発明の実施形態によると、バランスバネはセラミック材料で形成される。まず第一に、これは、特に正確なバネ特性をもたらす。第二に、この材料の選択により、巻線横断面を変える特に簡単な方法が可能になり、したがって、生産を変える特に簡単な方法が可能になる。ガラスセラミックは、本発明によるバランスバネを生産する為に特に適している。適したガラスセラミックの例は、Schott AGがZerodurという商品名で広めているガラスセラミック材料である。あるいは、バランスバネは、酸化ジルコニウムのような酸化物セラミックから製造可能である。
【0014】
また、本発明は、本発明によるバランスバネを製造する為の方法も利用可能にする。本発明による方法において、バランスバネは、未加工部品から製造されるが、未加工部品は、セラミック材料で形成され、選択的レーザアブレーション法によって構築されるので、望ましい巻線横断面が達成される。本発明による方法は、一つの同一のベース本体から、様々な巻線横断面、したがって、様々なバネ特性を有するバランスバネを製造できるという利点を提供する。これにより、様々な重三形状の複雑かつ費用のかかる製造が不要になる。
【0015】
この未加工部品は、好ましくはディスクである。より好ましくは、ディスクは、円形に設計される。未加工部品の厚さは、好ましくは0.1mm~0.25mmである。
【0016】
未加工部品は、セラミック、好ましくはガラスセラミックで形成されている。特に、未加工部品は、Schott AGにより、Zerodurという商品名で広められた材料から形成されてもよい。あるいは、未加工部品は、酸化物セラミックで形成されてもよい。酸化ジルコニウムは、この為に特に適している。未加工部品は、射出成形法によって生産可能である。
【0017】
本発明による方法の特に好ましい実施形態によると、第1V字状溝が未加工部品の第1面にレーザを使用して作成され、第2V字状溝が未加工部品の反対側の第2面にレーザによって作成され、第1溝および第2溝は、対向して互いに一致し、共に開口部を形成し、この開口部が螺旋状バネの個々の巻線を互いに分離する。第1溝および第2溝は、未加工部品の対向する面に次々と作成されるのが好ましく、未加工部品は、第1溝が作成された後、簡単にひっくり返せるので、一つの同一レーザ装置を使用して第2溝を作成することができる。第1溝の深さは、好ましくは、使用される未加工部品の材料の厚さの半分を僅かに超えるので、未加工部品の材料の少なくとも半分の厚さまで未加工部品の第2溝を切断することによって、容易に開口部を生産することができる。
【0018】
他の好ましい、本発明による方法の実施形態において、超短パルスレーザを使用して、選択的レーザアブレーション法を実施する。そのため、残留物を残すことなく、材料を正確に除去することが可能であり、厄介な熱の移動もない。
【0019】
また、本発明は、本発明によるバランスバネを使用して時計の為のムーブメントを利用可能にする。
【0020】
以下、図面を参照して、より詳細に本発明の一実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、上から見た本発明によるバランスバネの実施形態を示す。
【
図2】
図2は、
図1に示された断面線IIによる
図1から本発明によるバランスバネの巻線横断面を示す。
【
図3】
図3は、
図2からの横断面プロファイルの角部の詳細図を示す。
【
図4】
図4は、本発明によるバランスバネが生産される、ディスク形態の未加工部品を斜視で示す。
【
図5】
図5は、ディスクの最上部側にV字状溝を生じさせた後の
図4からのディスクを示す。
【
図6】
図6は、
図5からの断面線VIに沿った、
図5からのディスクを通る断面を示す。
【
図7】
図7は、ディスク底面上の点線を用いて第2溝を示す、
図6からの断面を示す。
【発明の詳細な説明】
【0022】
以下、同一部品には同一の参照符合を付けて説明する。それぞれの図の説明で詳細に説明されていない参照番号が図に含まれる場合、前の図の説明または次の説明を参照する。
【0023】
図1は、本発明によるバランスバネ1の一実施形態の上面図を示す。この図には、バランスバネの螺旋形状が明らかに見られる。
【0024】
バランスバネ1の巻線横断面は、バネ本体の全長にわたって同一である。
図1には、断面の平面IIが、単なる一例として引かれている。各巻線横断面が
図2に示されている。この図によって表示されているように、巻線横断面2は、本質的に菱形の形になっている。菱形の基本形状は、4辺3と、第1内角αを有する2つの第1角部4と、内角βを有する2つの第2角部5と,2つの第1角部を互いに接続する第1対角線6と、2つの第2角部を互いに接続する第2対角線とを有する。基本形状の第1対角線6は、第2対角線7より短い。
【0025】
実際の巻線横断面は、第1対角線6に対して平行に2つの第2角部5を切り離すことによってのみ得られる。そのため、実際の巻線横断面は、全部で(4辺ではなく)6辺を有する。基本の菱形本体の切断から生じる2つの追加の辺には、図面で参照番号8が付けられている。
【0026】
本発明によると、2つの追加の辺8の間の距離9は、0.05mm~0.2mmの値を有するのが有利である。また、2つの追加の辺8は、0.01mm~0.05mmの長さを有するのが好ましい。また、第1対角線の長さは、0.03mm~0.07mmであるのが好ましい。また、第2内角βは、3°~30°であるのが好ましい。ここで示された実施形態において、第2内角は、およそ30°である。
【0027】
本発明によるバランスバネの簡単な生産のため、2つの追加の辺8および菱形の隣接した各辺3の間の移行部は湾曲している。湾曲の半径Rは、
図3に明らかに見られるように、0.005mm~0.05mmである。
【0028】
ここに示された実施形態において、対向する2つの角部5は、それぞれ、同一の高さで切断され、第1対角線6および第2対角線に対して対称になるように設計された巻線横断面が生じる。
【0029】
以下、本発明によるバランスバネを生産する方法を説明する。バランスバネは、セラミック材料から形成された、未加工部品から製造される。ガラスセラミックから形成された未加工部品が使用されるのが好ましい。
【0030】
未加工部品は、円形ディスク10であるが、これは、
図4の斜視図に示されている。ディスク10は、所望の巻線横断面が生じるように選択的レーザアブレーション法によって構築される。そのようにするため、最初にV字状溝13が超短パルスレーザ11のレーザ光線12によってディスク10の最上面に作成される。
図5及び
図6の断面図で、溝13を見ることができる。V字状溝13は、バランスバネの次の巻線の間に隙間が示すので、それ自体が螺旋として設計されている。
図6に示されるように、溝の深さは、ディスク10の材料の厚さの半分を僅かに超える。そのため、
図6において、溝の基底は、セラミックディスク10の中心を示すライン15より低い。
【0031】
第1溝13がディスク10の最上面16に作成された後、ディスク10はひっくり返されるので、ディスクの底面17をレーザ11で構築できる。その後、V字状溝は、同様に、レーザによって底面17に作成される。
図7において、この第2V字状溝は、点線で示され、参照番号14が付けられている。2つのV字状溝13,14が構成され、共に開口部を形成し、この開口部が螺旋状バランスバネの個々の巻線を分離する。