(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】安定で可溶性の抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220928BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220928BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220928BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20220928BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220928BHJP
C07K 16/24 20060101ALI20220928BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220928BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220928BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220928BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220928BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 M
A61K39/395 N
A61P17/00
A61P27/02
A61P27/06
A61P43/00 111
C07K16/24
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017142892
(22)【出願日】2017-07-24
(62)【分割の表示】P 2015151924の分割
【原出願日】2011-10-24
【審査請求日】2017-07-24
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-06
(32)【優先日】2011-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2010-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502233344
【氏名又は名称】エスバテック - ア ノバルティス カンパニー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】レオナルド ボラス
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ウレヒ
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】伊藤 良子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/155723(WO,A2)
【文献】特表2009-531028(JP,A)
【文献】特表2010-531145(JP,A)
【文献】Current Opinion in Drug Discovery & Development 2008 11(5):675-687
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
MEDLINE/CAPlus/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.AHo50位にアルギニンを有する配列を含む可変軽鎖であって、該可変軽鎖のフレームワークが配列番号2の配列に対して少なくとも98%の同一性を有する配列を含み、該可変軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3がそれぞれ配列番号2の配列のCDR1、CDR2およびCDR3に対して100%の同一性を有する、可変軽鎖、および
b.
可変重鎖であって、該可変重鎖はフレームワークを含み、該可変重鎖のフレームワークが配列番号5の配列に対して少なくとも98%の同一性を有する配列を含
み、該可変重鎖のCDR1、CDR2およびCDR3がそれぞれ配列番号5の配列のCDR1、CDR2およびCDR3に対して100%の同一性を有する、可変重
鎖、
を含む、親抗体のものと比べて凝集傾向が低減された、ヒトTNFαに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
治療有効量の請求項1に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項3】
TNFα媒介性疾患の処置を必要とする被験体において、TNFα媒介性疾患を処置するための、請求項2に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記TNFα媒介性疾患が、ブドウ膜炎、ベーチェット病、網膜炎、眼球乾燥、緑内障、シェーグレン症候群、糖尿病性神経障害、強膜炎、加齢黄斑変性、および角膜炎からなる群から選択される眼障害である、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
眼投与、鼻腔内投与、耳投与、舌下投与、経皮投与、局所投与、経口投与、経鼻投与、直腸投与、または非経口投与によって投与される、請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
0.1から100mgの前記抗体を含む単一用量または分割用量で投与される、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記TNFα媒介性疾患がブドウ膜炎または眼球乾燥であり、前記薬学的組成物が前記被験体の眼に対して局所投与される、請求項4に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の抗体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
Fab、Fab’、F(ab)’
2、単鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、または直鎖抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項12】
請求項1に記載の抗体を含む、二価または二重特異性の分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条の下、2010年10月22日に出願された米国仮特許出願第61/405,798号、および2011年5月11日に出願された米国仮特許出願第61/484,749号への優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、抗体の凝集傾向を低減する方法、および凝集傾向を低減するように改変されている抗体に関する。本発明は、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)に結合する抗体にも関する。特に、本発明は、安定性、可溶性、および低免疫原性が最適化されている特異的な軽鎖および重鎖の配列を含む、scFv抗体およびFabフラグメントを含めた、凝集低減性の改変を含む安定で可溶性の抗体に関する。さらに、本発明は、TNF媒介性障害の診断および/または処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
腫瘍壊死因子アルファ(TNFα、カケクチンとしても公知である)は、内毒素または他の刺激に反応して、単球およびマクロファージを含めた多数の細胞型によって産生される、天然に存在する哺乳動物のサイトカインである。TNFαは、炎症反応、免疫反応、および病態生理学的反応の主要なメディエーターである(非特許文献1)。
【0004】
可溶性TNFαは、前駆の膜貫通型タンパク質の切断によって形成され(非特許文献2)、分泌された17kDaのポリペプチドは可溶性のホモトリマー複合体へと集合する(非特許文献3;TNFAの総説には非特許文献4を参照されたい;非特許文献5)。次いで、これらの複合体は、様々な細胞上に見られる受容体に結合する。結合により、(i)インターロイキン(IL)-6、IL-8、およびIL-1などの他のプロ炎症性(pro-inflammatory)サイトカインの放出、(ii)マトリックスメタロプロテイナーゼの放出、ならびに(iii)内皮接着分子の発現の上方制御を含めた一連のプロ炎症効果がもたらされ、白血球を血管外組織中に引きつけることによって炎症および免疫のカスケードがさらに増幅される。
【0005】
TNFαレベルの上昇には多数の障害が関連しており、その多くは医学的に極めて重要である。TNFαは、慢性関節リウマチ(RA)、クローン病および潰瘍性大腸炎を含めた炎症性腸障害、敗血症、うっ血性心不全、気管支喘息、ならびに多発性硬化症などの慢性疾患を含めた数々のヒト疾患において上方制御されることが示されている。ヒトTNFαについてトランスジェニックであるマウスは、高レベルのTNFαを恒常的に生成し、RAに類似する自発性、破壊性の多発性関節炎を発症する(非特許文献6)。それゆえTNFαはプロ炎症性サイトカインと呼ばれている。
【0006】
TNFαは、今やRAの病因における鍵として十分に確立されており、RAは、多関節性の関節の炎症および破壊を特徴とする、慢性、進行性、消耗性の疾患であり、発熱および倦怠感および疲労の全身症状がある。RAはまた、慢性の滑膜炎をもたらし、関節軟骨および骨の破壊に頻繁に進行する。RAに罹患している患者の滑液および末梢血の両方において、TNFαレベルの上昇が見られる。RAに罹患している患者にTNFα遮断薬を投与すると、これらは炎症を低減し、症状を改善し、関節の損傷を遅らせる(非特許文献7)。
【0007】
生理学的に、TNFαは特定の感染からの保護にも関連する(非特許文献8)。TNFαは、グラム陰性細菌のリポ多糖によって活性化されたマクロファージによって放出される。そのため、TNFαは、細菌性敗血症に付随する内毒素ショックの発症および病原に関与する中心的に重要な内因性メディエーターであると思われる(非特許文献9;非特許文献10;Simpsonら、(1989年)Crit.Care Clin.、5巻、27~47頁;Waageら、(1987年)、Lancet、1巻、355~357頁;Hammerle.ら、(1989年)Second Vienna Shock Forum、715~718頁;Debets.ら、(1989年)、Crit. Care Med.、17巻、489~497頁;Calandra.ら、(1990年)、J.Infect.Dis.、161巻、982~987頁;Revhaugら、(1988)、Arch.Surg.、123巻、162~170頁)。
【0008】
TNFαは、他の器官系同様、中枢神経系において、とりわけ、多発性硬化症、ギランバレー症候群、および重症筋無力症を含めた神経系の炎症性障害および自己免疫障害において、ならびにアルツハイマー病、パーキンソン病、およびハンチントン病を含めた神経系の変性障害において重要な役割を果たすことも示された。TNFαはまた、視神経炎、黄斑変性症、糖尿病性網膜症、皮膚筋炎、筋萎縮性側索硬化症、および筋ジストロフィーを含めた網膜および筋肉の関連系の障害、ならびに外傷性脳損傷、急性脊髄損傷、および脳卒中を含めた神経系に対する損傷に関与する。
【0009】
肝炎は、他の誘因の中でもエプスタインバー、サイトメガロウイルス、およびA~E型肝炎ウイルスを含めたウイルス感染によって引き起こされ得る別のTNFα関連炎症性障害である。肝炎は、門脈および小葉の領域において肝臓の急性炎症を引き起こし、線維症および腫瘍の進行が続く。TNFαはがんにおける悪液質も媒介することがあり、悪液質はほとんどのがんの病的状態および死亡をもたらす(Tisdale M. J.(2004年)、Langenbecks Arch Surg.、389巻、299~305頁)。
【0010】
炎症、細胞免疫反応、および多くの疾患の病理においてTNFαが果たす重要な役割は、TNFαのアンタゴニストの探索を導いている。TNFα媒介性疾患の処置用にデザインされた1クラスのTNFαアンタゴニストは、TNFαに特異的に結合し、それによってその機能を阻止する抗体または抗体フラグメントである。抗TNFα抗体の使用によって、TNFαの遮断はTNFαに起因する作用を取り消し得る(IL-1、GM-CSF、IL-6、IL-8、接着分子、および組織破壊における低減を含む)ことが示された(Feldmannら(1997年)、Adv. Immunol.、1997巻、283~350頁)。最近市販されるようになったTNFαの特異的なインヒビターの中で、TNFαに対する、モノクローナルの、キメラのマウス-ヒト抗体(インフリキシマブ(infliximab)、RemicadeTM;Centocor Corporation/Johnson & Johnson)は、RAおよびクローン病の処置における臨床的効能を実証している。
【0011】
これらの進歩にかかわらず、RAなどのTNFα関連障害に対する処置のための、新しく、有効な形態の抗体または他の抗体が依然として必要とされている。特に、関節炎および他のTNFα媒介性障害を効果的かつ持続的に処置するための、最適な機能上の性質を有する抗体が緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Grell, M.ら、Cell、1995年、83巻、793~802頁
【文献】Krieglerら、Cell、1988年、53巻、45~53頁
【文献】Smithら、J.Biol. Chem.、1987年、262巻、6951~6954頁
【文献】Butlerら、Nature、1986年、320巻、584頁
【文献】Old、Science、1986年、230巻、630頁
【文献】Kefferら、EMBO J、1991年、10巻、4025~4031頁
【文献】McKownら、Arthritis Rheum、1999年、42巻、1204~1208頁
【文献】Ceramiら、Immunol. Today、1988年、9巻、28頁
【文献】Michieら、Br.J.Surg.、1989年、76巻、670~671頁
【文献】Debets.ら、Second Vienna Shock Forum、1989年、463~466頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明は、少なくとも1つの凝集低減性の変異を含む抗体、およびこのような抗体を生成するための方法を提供する。
【0014】
一態様では、本発明は、抗体の凝集の傾向を低減する方法を提供し、この方法は、抗体の可変軽鎖と可変重鎖との間の境界に関与する残基位置に1つまたは複数の凝集低減性の改変を導入するステップを含み、置換は、可変軽鎖と可変重鎖との間の自由エネルギーを少なくとも0.5kcal/mol低減し、それによって改変された抗体の凝集傾向を、凝集低減性の改変(複数可)のない親抗体の凝集傾向に比べて低減する。
【0015】
一態様では、本発明の方法は、1つまたは複数のアミノ酸置換を、抗体の可変軽鎖(VL)と可変重鎖(VH)との境界に導入するステップを含み、1つまたは複数の置換は、VLとVHとの間の自由エネルギーを少なくとも10%低減するように選択される残基位置においてであり、それによって抗体の凝集傾向を親抗体と比べて低減する。特定の一態様では、抗体の可変軽鎖の配列は、配列番号1の配列に対して少なくとも65%の同一性を有する。他の態様では、可変重鎖の配列は、配列番号3の配列または配列番号4の配列に対して少なくとも85%の同一性を有する。
【0016】
ある態様では、本発明の方法は、抗体の可変軽鎖のAHo50位の残基および/またはAHo47位の残基を改変し、それによって抗体の凝集傾向を親抗体と比べて低減するステップを含む。他の態様では、本発明の方法は、可変重鎖のAHo12位、103位、および144位の残基を改変するステップをさらに含む。
【0017】
本発明は、1つまたは複数の凝集低減性の改変を含む、凝集の傾向が低減した抗体も提供する。ある態様では、本発明の抗体は、Fab、Fab’、F(ab)’2、単鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、または直鎖抗体である。他の態様では、本発明は、本発明の抗体を含む二重特異性または二価の分子を提供する。
【0018】
他の態様では、凝集低減性の改変は可変軽鎖のAHo50位においてである。特定の一態様では、凝集低減性の改変は、可変軽鎖のAHo50位のアルギニン(R)を含む。さらに別の一態様では、凝集低減性の改変は、可変軽鎖のAHo50位のアルギニン(R)によるリジン(K)の置換を含む。
【0019】
なお他の態様では、凝集低減性の改変は可変軽鎖のAHo47位においてである。特定の一態様では、凝集低減性の改変は、可変軽鎖のAHo47位のアルギニン(R)を含む。さらに別の一態様では、凝集低減性の改変は、可変軽鎖のAHo47位のアルギニン(R)によるリジン(K)の置換を含む。
【0020】
本発明は、安定性、可溶性、TNFαのインビトロおよびインビボの結合性、ならびに低免疫原性が最適化されている特異的な軽鎖および重鎖の配列を含む、TNFαに特異的な、安定で可溶性の抗体も提供する。前記抗体は、TNFα媒介性障害の診断および/または処置用にデザインされている。組換え抗体を発現するための核酸、ベクター、および宿主細胞、本発明の、可変軽鎖、および可変重鎖、これらを単離するための方法、ならびに医療における前記抗体の使用も開示する。
【0021】
本発明は、本発明の抗TNFα抗体を含む薬学的組成物を、TNFα媒介性障害の処置を必要とする被験体に投与するステップを含む、TNFα媒介性障害を処置する方法も提供する。ある態様では、TNFアルファ媒介性障害は、ブドウ膜炎、ベーチェット病、網膜炎、眼球乾燥、緑内障、シェーグレン症候群(Sjorgen syndrome)、糖尿病性神経障害、強膜炎、加齢黄斑変性、および角膜炎からなる群から選択される眼障害である。
本発明の好ましい実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
a.配列番号2または配列番号14の配列を含む可変軽鎖、および
b.配列番号5の配列を含む可変重鎖
を含む、ヒトTNFαに特異的に結合する抗体。
(項目2)
前記可変軽鎖が配列番号2の配列を含む、項目1に記載の抗体。
(項目3)
前記可変軽鎖が配列番号14の配列を含む、項目1に記載の抗体。
(項目4)
配列番号7の配列を含むリンカーをさらに有する、項目1に記載の抗体。
(項目5)
配列番号10の配列を含む、項目1に記載の抗体。
(項目6)
配列番号17の配列を含む、項目1に記載の抗体。
(項目7)
治療有効量の項目1に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
(項目8)
項目7に記載の薬学的組成物を、TNFα媒介性疾患の処置を必要とする被験体に投与するステップを含む、TNFα媒介性疾患を処置する方法。
(項目9)
前記TNFα媒介性疾患が、ブドウ膜炎、ベーチェット病、網膜炎、眼球乾燥、緑内障、シェーグレン症候群、糖尿病性神経障害、強膜炎、加齢黄斑変性、および角膜炎からなる群から選択される眼障害である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記薬学的組成物が、眼投与、鼻腔内投与、耳投与、舌下投与、経皮投与、局所投与、経口投与、経鼻投与、直腸投与、または非経口投与によって投与される、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記薬学的組成物が、抗体0.1mgから100mgを含む単一用量または分割用量で投与される、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記TNFα媒介性疾患がブドウ膜炎であり、前記薬学的組成物が前記被験体の眼に対して局所投与される、項目8に記載の方法。
(項目13)
項目1に記載の抗体をコードする、単離された核酸分子。
(項目14)
項目13に記載の核酸分子を含むベクター。
(項目15)
項目14に記載のベクターを含む宿主細胞。
(項目16)
Fab、Fab’、F(ab)’2、単鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、または直鎖抗体である、項目1に記載の抗体。
(項目17)
項目1に記載の抗体を含む、二価または二重特異性の分子。
(項目18)
抗体の凝集の傾向を低減するための方法であって、1つまたは複数のアミノ酸置換を、該抗体の可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)の境界に導入するステップを含み、ここで、該1つまたは複数の置換が、該VLと該VHとの間の自由エネルギーを少なくとも0.5kcal/mol低減するように選択される残基位置であり、それによって親抗体に比べて該抗体の凝集傾向を低減する、方法。
(項目19)
前記抗体が、Fab、Fab’、F(ab)’2、単鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデム抗体、または直鎖抗体である、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記抗体の可変軽鎖の配列が、配列番号1の配列に対して少なくとも65%の同一性を有する、項目18に記載の方法。
(項目21)
改変が、前記可変軽鎖のAHo50位および/またはAHo47位の置換を含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記置換が、前記可変軽鎖のAHo50位のアルギニン(R)および/またはAHo47位のアルギニン(R)である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記可変軽鎖のAHo47位および/または50位のリジン(K)が、アルギニン(R)によって置換されている、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記抗体が、配列番号1の配列に対して少なくとも85%の同一性を有する可変重鎖配列を有する、項目18に記載の方法。
(項目25)
前記抗体が、配列番号3の配列または配列番号4の配列に対して少なくとも85%の同一性を有する可変重鎖配列を有する、項目18に記載の方法。
(項目26)
前記可変重鎖のAHo12位、103位、および144位のアミノ酸置換をさらに含む、項目18に記載の方法。
(項目27)
項目18に記載の方法によって生成される抗体。
【0022】
本発明の特に好ましい実施形態は、以下のある種の好ましい実施形態および特許請求の範囲のより詳しい記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、異なる2つのscFv分子である34rFW1.4(黒色)および578rFW1.4(灰色)における、残基位置VL47(実線)およびVL50(破線)の滴定曲線を示す図である。
【
図2A】
図2Aは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50R_DHPの安定性を示す図である。
【
図3A】
図3Aは、40℃で40mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、40℃で40mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50R_DHPの安定性を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50R_DHPの安定性を示す図である。
【
図5A】
図5Aは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図5B】
図5Bは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50Rの安定性を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、40℃で40mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、40℃で40mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50Rの安定性を示す図である。
【
図7A】
図7Aは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_VLK50Rの安定性を示す図である。
【
図8A】
図8Aは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図8B】
図8Bは、40℃で60mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_K47Rの安定性を示す図である。
【
図9A】
図9Aは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4の安定性を示す図である。
【
図9B】
図9Bは、40℃で20mg/ml濃度を用いて2週間のインキュベート後、SE-HPLC分析によって決定した加速条件下の34rFW1.4_K47Rの安定性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明の全体的な一目的は、溶液中で凝集する傾向が低減した、安定で可溶性の抗体を提供することである。好ましい一実施形態では、前記抗体はscFv抗体またはFabフラグメントである。本発明の抗体は、本明細書に開示する軽鎖および重鎖を含むことが好ましい。
【0025】
本明細書に示す詳細は、例示によるものであり、本発明の好ましい実施形態を例示的に論じる目的にすぎず、本発明の様々な実施形態の原理および概念的な側面の最も有用かつ容易に理解される記載と考えられるものを提供するために提示するものである。この点に関して、本発明を根本的に理解するのに必要であるよりも詳しく本発明の構造的詳細を示す企ては実行せず、図面および/または実施例と一緒に採用する記載は、本発明におけるいくつかの形態が実際に具体化され得る方法を当業者に対して明らかにするものである。
【0026】
本発明がより容易に理解され得るために、ある種の用語を以下の通り定義する。さらなる定義は、発明を実施するための形態を通して記載するものである。以下の実施例において明白かつ明確に改変されなければ、または意味の適用によりあらゆる解釈が無意味または本質的に無意味になる場合、以下の定義および説明はあらゆる将来の解釈において制御的であることを意味し、意図するものである。用語の解釈によりあらゆる解釈が無意味または本質的に無意味になる場合、定義は、Webster’s Dictionary、第3版、またはthe Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology(Anthony Smith編集、Oxford University Press、オックスフォード、2004年)などの、当業者には公知の辞書から理解されたい。
【0027】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、抗体全体、およびあらゆる抗原結合性フラグメント(すなわち、「抗原結合性部分」、「抗原結合性ポリペプチド」、もしくは「イムノバインダー」)、またはこれらの単鎖を含む。「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続されている少なくとも2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質、またはその抗原結合性部分を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書においてVHと省略する)および重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインからなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書においてVLと省略する)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は、CLという1ドメインからなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域がその間を占める、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。VHおよびVLは各々、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順番でアミノ末端からカルボキシ末端まで配列される、3個のCDRおよび4個のFRからなる。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的な補体系の第1成分(Clq)を含めた、宿主の組織または因子に対する免疫グロブリンの結合を媒介することができる。
【0028】
抗体の「抗原結合性部分」(または単に「抗体部分」)という用語は、抗原(例えば、TNF)に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つまたは複数のフラグメントを意味する。抗体の抗原結合性の機能は、全長の抗体のフラグメントが行うことができることが示されている。抗体の「抗原結合性部分」という用語の範囲内に包含される結合性フラグメントの例は、(i)VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる1価のフラグメントであるFabフラグメント、(ii)ヒンジ領域でジスルフィドの橋架けによって連結されている2つのFabフラグメントを含む2価のフラグメントである、F(ab)’2フラグメント、(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント、(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなる、単一ドメインまたはdAbフラグメント(Wardら、(1989年)Nature、341巻、544~546頁)、ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、または(vii)合成のリンカーによって必要に応じて連結され得る2つまたはそれを超える単離されたCDRの組合せを含む。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、これら2つのドメインを、組換え方法を用いて、VLおよびVH領域が対となって一価の分子を形成する単一のタンパク質鎖として作られるのを可能にする合成のリンカーによって、連結することができる(単鎖Fv(scFv)として公知である;例えば、Birdら、(1988年)Science、242巻、423~426頁;およびHustonら、(1988年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85巻、5879~5883頁を参照されたい)。このような単一の鎖の抗体はまた、抗体の「抗原結合性部分」という用語の範囲内に包含されるものとされる。これらの抗体フラグメントは、当業者には公知の従来の技術を用いて得られ、フラグメントは、インタクトの抗体として同じ様式で有用性に対してスクリーニングされる。抗原結合性部分は、組換えDNA技術によって、またはインタクトな免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的な切断によって生成することができる。様々なアイソタイプ、例えば、抗体は、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgM抗体であり得る。
【0029】
「フレームワーク」という用語は、より多岐にわたるCDR領域間に存在する抗体可変領域の、当技術分野で認められた部分を意味する。このようなフレームワーク領域は典型的に、フレームワーク1から4(FR1、FR2、FR3、およびFR4)と呼ばれ、CDRが抗原結合性表面を形成することができるように、3次元空間において、重鎖または軽鎖の抗体可変領域において見出される3つのCDRを保持するための骨格を提供する。このようなフレームワークは、より多岐にわたるCDRの提示のための支持体を提供するので骨格とも呼ばれ得る。アンキリン(ankyrin)リピートおよびフィブロネクチンなどの免疫グロブリンスーパーファミリーの他のCDRおよびフレームワークは、抗原結合性分子として用いることができる(例えば、米国特許第6,300,064号、同第6,815,540号、および米国特許公開第20040132028号も参照されたい)。
【0030】
「エピトープ」または「抗原決定基」という用語は、それに対して免疫グロブリンまたは抗体が特異的に結合する抗原の部位を意味する(例えば、TNF)。エピトープは典型的に、独特の空間的コンホーメーションにおけるアミノ酸を少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15個含んでいる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology、66巻、G. E. Morris編集(1996年)を参照されたい。
【0031】
「特異的結合」、「選択的結合」、「選択的に結合する」、および「特異的に結合する」という用語は、所定の抗原上のエピトープに対する抗体の結合を意味する。典型的に、抗体は、BIACORE機器における表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて決定して、およそ10-7M未満、例えば、およそ10-8M未満、10-9M未満、もしくは10-10M未満、またはさらに低い親和性(KD)で結合する。
【0032】
「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を意味する。ある実施形態では、本発明のいくつかの抗体は、例えば、BIACORE機器における表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて決定して、およそ10-7M未満、例えば、およそ10-8M未満、10-9M未満、もしくは10-10M未満、またはさらに低い解離平衡定数(KD)でTNFに結合する。
【0033】
本明細書で用いられる「同一性」は、2つのポリペプチド間、分子間、または2つの核酸間でマッチする配列を意味する。比較された2つの配列の両方における位置が同じ塩基、または同じアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合(例えば、各々の2つのDNA分子におけるある位置がアデニンによって占められている場合、または各々の2つのポリペプチドにおけるある位置がリジンによって占められている場合)、それぞれの分子はその位置で同一である。2つの配列間の「パーセント同一性」は、2つの配列が共有するマッチする位置(matching position)数を、比較する位置数によって除して100をかけた関数である。例えば、2つの配列における10個の位置のうち6個がマッチした場合、この2つの配列は60%の同一性を有する。一例として、DNA配列CTGACTとCAGGTTとは50%の同一性を共有する(全部で6個の位置のうち3個がマッチしている)。一般的に、2つの配列を、最大の同一性をもたらすように整列させた場合に比較が行われる。このようなアラインメントは、例えば、Alignプログラム(DNAstar,Inc.)などのコンピュータプログラムによって便利に実行される、Needlemanら、(1970年)J. Mol. Biol.、48巻、443~453頁の方法を用いて提供され得る。2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、PAM120ウェイト残基表、ギャップレングスペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いて、ALIGNプログラム(バージョン2.0)中に組み入れられたE. MeyersおよびW. Millerのアルゴリズム(Comput. Appl. Biosci.、4巻11~17頁(1988年))を用いてやはり決定することができる。さらに、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、およびギャップウェイト16、14、12、10、8、6、または4、およびレングスウェイト1、2、3、4、5、または6を用いて、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comにて入手可能)においてGAPプログラム中に組み入れられた、NeedlemanおよびWunsch(J. Mol. Biol.、48巻、444~453頁(1970年))のアルゴリズムを用いて決定され得る。
【0034】
「類似の」配列は、整列した場合に、同一および類似のアミノ酸残基を共有する配列であり、この場合、類似の残基は、整列した参照配列における対応するアミノ酸残基に対する保存的置換である。この点において、参照配列における残基の「保存的置換」は、対応する参照の残基に物理的または機能的に類似する残基、例えば、類似のサイズ、形状、電荷、化学的特性(共有結合または水素結合を形成する能力などを含む)を有する残基による置換である。したがって、「保存的置換改変」配列は、1つまたは複数の保存的置換が存在する点で、参照配列または野生型の配列とは異なるものである。2つの配列間の「パーセント類似性」は、2つの配列が共有するマッチする残基または保存的置換を含む位置の数を、比較する位置の数によって除して100をかけた関数である。例えば、2つの配列における10個の位置のうち6個がマッチし、10個の位置のうち2個が保存的置換を含んでいる場合、この2つの配列は80%ポジティブな類似性を有する。
【0035】
本明細書で用いられる「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含む抗体の結合性の特徴にネガティブな影響を及ぼさず、またはそれを変更しないアミノ酸の改変を意味するものとされる。このような保存的配列改変には、ヌクレオチドおよびアミノ酸の置換、付加、および欠失が含まれる。例えば、改変は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介性の変異誘発など、当該分野で公知の標準技術によって導入されてよい。アミノ酸の保存的置換には、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるものが含まれる。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該分野において定義されている。これらのファミリーとしては、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、無極性の側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝した側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が挙げられる。したがって、特定の抗体における予測される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同一の側鎖のファミリーからの別のアミノ酸残基で置換される。抗原結合性を除去しない、ヌクレオチドおよびアミノ酸の保存的置換を同定する方法は当該分野において周知である(例えば、Brummellら、Biochem.、32巻、1180~1187頁(1993年);Kobayashiら、Protein Eng.、12巻(10):879~884頁(1999年);およびBurksら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、94巻、412~417頁(1997年)を参照されたい)。
【0036】
本明細書で用いられる「アミノ酸コンセンサス配列」は、少なくとも2つ、好ましくはそれを超える整列しているアミノ酸配列のマトリックスを用い、各位置の最も高頻度のアミノ酸残基を決定することが可能であるように、アラインメントにおけるギャップを可能にすることで産生することができるアミノ酸配列を意味する。コンセンサス配列は、各位置で最も高頻度に現れるアミノ酸を含む配列である。2つまたはそれを超えるアミノ酸が単一の位置で等しく現れる場合は、コンセンサス配列にはこれらのアミノ酸の両方または全てが含まれる。
【0037】
タンパク質のアミノ酸配列は、様々なレベルで分析することができる。例えば、保存または変動性は、単一残基レベルで、複数残基レベルで、ギャップを有する複数の残基などで表されてよい。残基は、同一の残基の保存を示すことがあり、またはクラスレベルで保存されることがある。アミノ酸のクラスの例としては、極性無電荷R群(セリン、スレオニン、アスパラギン、およびグルタミン)、正電荷R群(リジン、アルギニン、およびヒスチジン)、負電荷R群(グルタミン酸、およびアスパラギン酸)、疎水性R群(アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリン、およびチロシン)、ならびに特別なアミノ酸(システイン、グリシン、およびプロリン)が挙げられる。他のクラスは当業者には公知であり、構造決定または置換可能性を評価するための他のデータを用いて定義し得る。この意味において、置換可能なアミノ酸は、その位置で、置換され得、機能的保存を維持し得る、任意のアミノ酸を意味し得る。
【0038】
しかし、同じクラスのアミノ酸は、その生物物理学的特性によってある程度変動することがあることが理解される。例えば、ある種の疎水性R群(例えば、アラニン、セリン、またはスレオニン)は、他の疎水性R群(例えば、バリンまたはロイシン)よりも親水性である(すなわち、親水性が高いか、または疎水性が低い)ことが理解される。相対的な親水性または疎水性は、当該分野で認められている方法を用いて決定することができる(例えば、Roseら、Science、229巻、834~838頁(1985年)、およびCornetteら、J. Mol. Biol.、195巻、659~685頁(1987年)を参照されたい)。
【0039】
本明細書で用いられる通り、1つのアミノ酸配列(例えば、最初のVHまたはVLの配列)が1つまたは複数のさらなるアミノ酸配列(例えば、データベースにおける1つまたは複数のVHまたはVLの配列)と整列する場合、1つの配列(例えば、最初のVHまたはVLの配列)におけるアミノ酸の位置は、上記の1つまたは複数のさらなるアミノ酸配列における「対応する位置」と比較されてよい。本明細書で用いられる「対応する位置」は、配列を最適に整列した場合の、すなわち、最高のパーセント同一性またはパーセント類似性を達成するように配列を整列した場合の、比較される(1つまたは複数の)配列における等しい位置を意味する。
【0040】
「核酸分子」という用語は、DNA分子およびRNA分子を意味する。核酸分子は一本鎖でも、または二本鎖でもよいが、二本鎖DNAであることが好ましい。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置される場合に「作動可能に連結している」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響を及ぼす場合、プロモーターまたはエンハンサーはコード配列に対して作動可能に連結している。ある実施形態では、本発明は、本発明の抗体、本発明の可変軽鎖、および/または本発明の可変重鎖をコードする単離されている核酸分子を提供する。ある実施形態では、本発明の核酸分子は、配列番号2もしくは配列番号14に対して少なくとも97%の同一性を有する軽鎖可変領域を含むポリペプチド、配列番号5に対して少なくとも95%の同一性を有する重鎖可変領域を含むポリペプチド、または配列番号10もしくは配列番号17に対して少なくとも96%の同一性を有する抗体をコードする。
【0041】
「ベクター」という用語は、連結している別の核酸を運搬することができる核酸分子を意味する。ベクターの1タイプが「プラスミド」であり、これはその中にさらなるDNAセグメントをライゲーション(ligate)することができる環状の二本鎖DNAのループを意味する。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、さらなるDNAセグメントをウイルスゲノム中にライゲーションすることができる。ある種のベクターは、導入される宿主細胞において、自律的に複製することできる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌ベクター、およびエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)を、宿主細胞中への導入に際し宿主細胞のゲノム中に組み込むことができ、それによって、それらのベクターは宿主のゲノムと一緒に複製される。
【0042】
「宿主細胞」という用語は、その中に発現ベクターが導入されている細胞を意味する。宿主細胞としては、細菌細胞、微生物細胞、植物細胞、または動物細胞が挙げられ得る。形質転換を受けやすい細菌としては、Escherichia coliまたはサルモネラ属の菌株などの腸内細菌科のメンバー、Bacillus subtilisなどのバチルス属、肺炎球菌、連鎖球菌およびHaemophilus influenzaeが挙げられる。適切な微生物としては、Saccharomyces cerevisiaeおよびPichia pastorisが挙げられる。適切な動物宿主細胞系としては、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)およびNS0細胞が挙げられる。
【0043】
「処置する(treat)」、「処置する(treating)」、および「処置(treatment)」という用語は、本明細書に記載する治療的手段または予防的手段を意味する。「処置(treatment)」の方法は、障害または再発性の障害の1つまたは複数の症状を予防、治癒、遅延、症状の重症度の低減、または回復させるために、あるいは処置の非存在下で予想されるものを上回って被験体の生存を延長するために、処置を必要とする被験体、例えば、TNFα媒介性障害を有する被験体またはそのような障害を最終的に得る可能性がある被験体に対する本発明の抗体の投与を使用する。
【0044】
「TNF媒介性障害」という用語は、TNFの関与を必要とする、あらゆる障害、発症、進行、またはその症状の持続を含む、TNFに関連する疾患状態および/または症状を一般に意味する。TNF媒介性障害の例は、それだけには限定されないが、加齢黄斑変性、血管新生緑内障、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、水晶体後線維増殖症、乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、直腸結腸癌、肝臓癌、卵巣癌、昏睡、男性化細胞腫、子宮頸癌、子宮内膜癌、子宮内膜増殖症、子宮内膜症、線維肉腫、絨毛癌、頭頸部がん、鼻咽頭癌、喉頭癌、肝芽腫、カポジ肉腫、メラノーマ、皮膚癌、血管腫、海綿状血管腫(cavernous
hemangioma)、血管芽細胞腫、すい臓癌、網膜芽細胞腫、星細胞腫、グリア芽細胞腫、シュワン細胞腫、乏突起神経膠腫、髄芽腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、尿路癌、甲状腺癌、ウイルムス腫瘍、腎細胞癌、前立腺癌、母斑症に関連する血管増殖の異常、浮腫(脳腫瘍に関連するものなど)、メイグス症候群、関節リウマチ、乾癬、およびアテローム性動脈硬化が挙げられる。TNF媒介性障害は、眼球乾燥およびTNFα関連の炎症状態、例えば、眼の炎症、アレルギー性結膜炎、皮膚炎、鼻炎、および喘息も含み、例えば、直接的または間接的にTNFα関連の炎症状態をもたらすTNFαの活性に起因するこれらの細胞の変化を含む。さらに、TNF媒介性障害は、眼の新脈管形成、ベーチェット病、網膜炎、緑内障、シェーグレン症候群、糖尿病性神経障害、強膜炎、角膜炎、およびブドウ膜炎も含む。
【0045】
「有効用量(effective dose)」、または「有効投与量(effective dosage)」という用語は、所望の効果を達成するのに、または少なくとも部分的に達成するのに十分な量を意味する。「治療有効量」という用語は、すでに疾患に罹患している患者における疾患およびその合併症を治すか、または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量と定義される。この使用に効果的な量は、処置する障害の重症度、および患者自身の免疫系の全体的状態による。
【0046】
「被験体」という用語は、任意のヒトまたは非ヒトの動物を意味する。例えば、本発明の方法および組成物を、TNF媒介性障害を有する被験体を処置するのに用いることができる。
【0047】
抗体重鎖および軽鎖の可変領域におけるアミノ酸残基の位置を同定するのに本明細書で用いられる番号付けシステムは、A. Honegger、J.Mol.Biol.、309巻(2001年)657~670頁によって規定されるものに相当する(AHoシステム)。AHoシステムと、最も一般的に用いられているKabat ら、(Kabat, E. A.ら、(1991年)Sequences of Proteins of
Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication、No.91~3242)によって規定されるシステムとの間の変換表は、A. Honegger、J.Mol.Biol.、309巻(2001年)657~670頁において提供されている。
【0048】
本明細書で用いられる「凝集」という用語は、オリゴマー種の形成をもたらす液体溶液中のモノマー分子間の分子間の相互作用/会合の過程を意味する。凝集は、濃縮溶液中で加速安定性試験を用いてストレス条件下で評価され得る。加速安定性試験は、極度の貯蔵条件を用いることによって化合物の分解、凝集、または化学修飾の速度を増大するようにデザインされている。加速安定性試験は、ストレス試験としても公知であり、40℃および室温で行われることが典型的である。これらの安定性試験は、ストレス条件としても公知である、通常の表示の貯蔵条件の範囲外の環境条件への曝露の影響に関する価値ある情報を提供する。高濃度のタンパク質溶液は製薬産業において広く用いられている。高濃度のタンパク質の溶液は熱力学的に非理想性であるため、高濃度のタンパク質の溶液の挙動は、希薄溶液の分析に基づいて予測されたものと顕著に異なり得る。これらの系において観察される非理想性は、タンパク質-タンパク質相互作用(PPI)に関連する。様々なタイプの力が、全体的な性質を決定する上で重要な役割を果たし、これらPPIおよびこれらの相対的な寄与の度合いは、溶質および溶媒の性質によって影響を受ける。PPIの役割は、物理的安定性ならびにタンパク質の自己会合および凝集を含めた、溶液の特徴を支配するこれら分子間力によって駆動される。濃縮溶液は、PPIが、オリゴマー形成速度の増大によって、溶液中のタンパク質に影響を及ぼす溶液である。濃縮溶液は、例えば、少なくとも10mg/mlのタンパク質濃度を有することができる。
【0049】
この過程の可溶性生成物は、SE-HPLCなどの分析方法で検出してもよい。本明細書で用いられる「凝集低減性の改変」という用語は、本明細書に記載する親抗体と比べて液体溶液中で凝集する抗体の傾向を低減する、アミノ酸置換などの改変を意味する。「親」抗体は、凝集低減性の改変を有する対応する抗体と本質的に同じ配列を含む抗体である。例えば、親抗体は改変された抗体と同じCDRを有することができ、可変軽鎖配列におけるAHo47位および/または50位の残基以外の改変された抗体と正確に同じ配列を有することができ、可変重鎖配列におけるAHo12位、103位、および144位がさらに異なっていてよい。親抗体が、本発明の方法にしたがって改変される抗体中に存在する凝集低減性の改変を含まない限り、他の違いも存在することができる。
【0050】
本明細書で用いられる「境界」という用語は、抗体の2つの可変ドメイン(重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメイン)間の相互作用を意味する。境界は、可変ドメイン間の相互作用に直接または間接的に関与するアミノ酸残基を含む。このような相互作用は、それだけには限定されないが、全ての種類の非結合性相互作用、例えば、ファンデルワールス力、水素結合、静電気的関係(term)、および2つのドメイン間の疎水性相互作用を含む。
【0051】
別段の定義がなければ、本明細書で用いる技術用語および科学用語は全て、本発明が属する技術分野における通常の技術者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明を実施または試験する上で、本明細書に記載したものと類似または等価の方法および材料を用いることができるが、適切な方法および材料を下に記載する。矛盾する場合には、定義を含めた本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は例示にすぎず、限定することを意図しない。
【0052】
本発明の様々な態様を、以下のサブセクションにおいてさらに詳しく記載する。様々な実施形態、選択、および範囲を任意に組み合わせることができることが理解される。さらに、特定の実施形態によっては、選択された定義、実施形態、または範囲を適用しなくてもよい。
【0053】
一態様では、本発明は、TNFαに結合し、したがってインビボでTNFαの機能を阻止するのに適する抗体を提供する。
【0054】
ある実施形態では、本発明の抗体は、本発明の抗体が親/非改変の抗体に比べて凝集する傾向が低減するように、親抗体に対する凝集低減性の改変(複数可)によって最適化される。このような改変(複数可)は、可変軽鎖(VL)と可変重鎖(VH)との境界に関与する特定の残基のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、凝集低減性の改変は、本明細書に記載する、インシリコのモデリングの取組みにおいて親抗体のVL-VH境界の自由エネルギーに比べてVL-VH境界の自由エネルギーを低減する少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。このような改変は、VL-VH境界の自由エネルギーに寄与する特定の残基のアミノ酸置換を含む。
【0055】
ある実施形態では、本発明の凝集低減性の改変は、VL鎖におけるAHo50位の置換を含む。一実施形態では、置換はAHo50位のアルギニン(R)である。別の一実施形態では、AHo50位のアルギニン(R)がリジン(K)に置き換わっている。
【0056】
他の実施形態では、本発明の凝集低減性の改変は、VL鎖のAHo47位の置換を含む。一実施形態では、置換はAHo47位のアルギニン(R)である。別の一実施形態では、AHo47位のアルギニン(R)がリジン(K)に置き換わっている。
【0057】
AHo番号付けシステムは、Honegger, A.およびPluckthun, A.(2001年)J MoI. Biol. 309巻、657~670頁)に詳しく記載されている。可変軽鎖におけるAHo50位は、Kabatの42位に対応する。可変軽鎖におけるAHo47位は、Kabatの39位に対応する。Kabatの番号付けシステムは、Kabatら、(Kabat, E. A.ら、(1991年)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication、第91-3242)にさらに記載されている。AHoシステムと、Kabatらによって規定される最も一般的に用いられるシステムとの間の変換表は、A. Honegger、J.Mol.Biol.、309巻(2001年)657~670頁に提供される。
【0058】
以下の変換表を、抗体重鎖および軽鎖の可変領域におけるアミノ酸残基の位置を同定するのに用いられる異なる2つの番号付けシステムに対して提供する。Kabatの番号付けシステムは、Kabat ら、(Kabat, E. A.ら、(1991年) Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、U.S. Department of Health and Human Services、NIH Publication、第91-3242)にさらに記載されている。AHo番号付けシステムは、Honegger, A.およびPluckthun, A.、(2001年)J. Mol. Biol.、309巻、657~670頁)にさらに記載されている。
重鎖可変領域番号付け
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【表2-2】
本発明の抗体は、所望によりさらなる改変を含むことができる。例えば、本発明の抗体は、米国特許出願第12/973,968号などにおいて記載される方法にしたがってインビボでその免疫原性を低減するアミノ酸置換、および/またはWO09/155725号に記載される、抗体の可溶性を増強するための置換を含むことができる。したがって、一実施形態では、本発明の抗体は、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)、および/または重鎖144位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)を含む。さらに、抗体は、重鎖97位、98位、および/または99位(AHo番号付け)にセリン(S)またはスレオニン(T)を含むことができる。抗体が、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にスレオニン(T)、および重鎖144位(AHo番号付け)にスレオニン(T)を含むことが好ましい。
【0063】
一実施形態では、本発明の抗体は可変軽鎖:
【0064】
【0065】
好ましい一実施形態では、本発明の抗体は可変軽鎖:
【0066】
【0067】
別の一実施形態では、本発明の抗体は可変重鎖:
【0068】
【0069】
さらに別の一実施形態では、本発明の抗体は可変重鎖フレームワーク:
【0070】
【0071】
好ましい一実施形態では、本発明の抗体は可変重鎖:
【0072】
【0073】
本明細書で用いられる通り、X残基はCDR挿入部位である。Xはあらゆる天然に存在するアミノ酸であってよく、少なくとも3個、最高50個のアミノ酸が存在することができる。
【0074】
一実施形態では、本発明の抗体の可変軽鎖フレームワークは配列番号1を含み、可変重鎖フレームワークは配列番号3または配列番号4を含む。
【0075】
別の一実施形態では、本発明の抗体の可変軽鎖フレームワークは、配列番号1に対して少なくとも65%の同一性、より好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列を含む。前記配列がAHo50位にアルギニン(R)を有することが最も好ましい。別の一実施形態では、前記配列はAHo47位にアルギニン(R)を有する。
【0076】
別の一実施形態では、本発明の抗体の可変重鎖フレームワークは、配列番号3に対して少なくとも80%の同一性、より好ましくは少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列を含む。前記抗体が、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にスレオニン(T)、および重鎖144位(AHo番号付け)にスレオニン(T)を含むことが好ましい。
【0077】
別の一実施形態では、本発明の抗体の可変軽鎖フレームワークは、配列番号2または配列番号14に対して、少なくとも97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0078】
別の一実施形態では、本発明の抗体の可変重鎖フレームワークは、配列番号5に対して、少なくとも95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0079】
別の一実施形態では、本発明の抗体は、配列番号10または配列番号17に対して、少なくとも96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列を含む。
【0080】
別の一実施形態では、本発明の抗体の可変軽鎖フレームワークは、配列番号2または配列番号14を含み、可変重鎖フレームワークは配列番号5を含む。
【0081】
一実施形態では、本発明の抗体および抗体フラグメントは、単鎖抗体(scFv)またはFabフラグメントである。scFv抗体の場合、VLドメインは、柔軟なリンカーによっていずれかの配置(orientation)においてVHドメインに連結することができる。適切な現在の技術水準のリンカーは、GGGGS(配列番号6)アミノ酸配列のリピートまたはそのバリアントからなる。本発明の好ましい一実施形態では、(GGGGS)4(配列番号7)リンカーまたはその誘導体が用いられるが、1~3リピートのバリアントも可能である(Holligerら、(1993年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、90巻、6444~6448頁)。本発明に用いることができる他のリンカーは、Alfthan ら、(1995年)、Protein Eng.、8巻、725~731頁、Choiら、(2001年)、Eur. J. Immunol.、31巻、94~106頁、Huら、(1996年)、Cancer Res.、56巻、3055~3061頁、Kipriyanovら、(1999年)、J.
Mol. Biol.、293巻、41~56頁、およびRooversら、(2001年)、Cancer Immunol. Immunother.、50巻、51~59頁によって記載されている。配列(arrangement)はVL-リンカー-VHまたはVH-リンカー-VLのいずれかであってよく、前者の配置が好ましい配置である。Fabフラグメントの場合、選択される軽鎖可変ドメインであるVLは、ヒトIgカッパ鎖の定常領域に融合しており、適切な重鎖可変ドメインであるVHは、ヒトIgGの第1の(N末端)定常ドメインCH1に融合している。C末端では、鎖間ジスルフィドの橋架けが2つの定常ドメイン間に形成される。
【0082】
このように、一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0083】
【0084】
別の一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0085】
【0086】
好ましい一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0087】
【0088】
一実施形態では、本発明の抗体は可変軽鎖:
【0089】
【0090】
別の一実施形態では、本発明の抗体は可変軽鎖:
【0091】
【0092】
さらに別の好ましい一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0093】
【0094】
別の一実施形態では、本発明の抗体は可変軽鎖:
【0095】
【0096】
このように、一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0097】
【0098】
別の一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0099】
【0100】
一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0101】
【0102】
さらに別の一実施形態では、本発明の抗体は配列:
【0103】
【0104】
一実施形態では、親抗体のVLは、配列番号11もしくは配列番号12、または配列番号11もしくは配列番号12に対して少なくとも65%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列であり、あるいはそれらの配列を含む。別の好ましい一実施形態では、親抗体のVHは、配列番号3もしくは配列番号4、配列番号3もしくは配列番号4に対して少なくとも80%、より好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列であり、あるいはそれらの配列を含む。
【0105】
凝集低減性の改変を含む本発明の抗体は、ウサギ抗体からのCDRを1つまたは複数含むことが好ましい。当技術分野において公知である通り、ウサギのCDRは、ヒトまたは齧歯動物のCDRと異なり、それらはフレームワークに対してジスルフィド連結し、またはCDR間S-Sの橋架けを形成するシステイン残基を含むことができる。さらに、ウサギのCDRは、以前に知られている規範の構造に属さないことが多い。
【0106】
本発明は、本発明の抗TNFα抗体、またはそのフラグメントを含む、二価および二重特異性の分子も特徴とする。本発明の抗体またはその抗原結合性部分を、誘導体化し、あるいは別の機能的分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質(例えば、別の抗体、もしくは受容体に対するリガンド))に連結して、少なくとも2つの異なる結合部位または標的分子に結合する二重特異性分子を産生することができる。本発明の抗体を誘導体化し、または1つを超える他の機能的分子に連結して、2つを超える異なる結合部位および/または標的分子に結合する多特異性分子を産生してもよく、このような多特異性分子はまた、本明細書で用いられる「二重特異性分子」という用語によって包含されるものとされる。二重特異性分子の非限定的な例は、当業者には公知である、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、およびタンデム抗体を含む。
【0107】
本発明の二重特異性分子を作り出すには、本発明の抗体を、二重特異性分子をもたらすように、別の抗体、抗体フラグメント、腫瘍特異的もしくは病原体特異的な抗原、ペプチドもしくは結合ミメティックなど、1つまたは複数の他の結合分子に対して、機能的に連結する(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合性の会合、またはその他の方法によって)ことができる。したがって、本発明は、TNFαに対して特異性を有する少なくとも1つの第1の結合性分子、および1つもしくは複数のさらなる標的のエピトープに対して特異性を有する第2の結合性分子を含む二重特異性分子を含む。
【0108】
一実施形態では、本発明の二重特異性分子は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、または単鎖Fvを含めた、少なくとも1つの抗体、またはその抗体フラグメントの結合特異性を含む。抗体は、軽鎖または重鎖の二量体、またはこれらのあらゆる最小のフラグメント、例えば、Fv、またはその内容が参照によって特別に組み入れられる、Ladnerら、米国特許第4,946,778号に記載される単鎖構築物であってもよい。
【0109】
ヒトモノクローナル抗体が好ましいが、本発明の二重特異性分子において用いることができる他の抗体は、マウスの、キメラの、およびヒト化のモノクローナル抗体である。
【0110】
本発明の二重特異性分子は、当技術分野において公知の方法を用いて構成成分の結合特異性(constituent binding specificity)をコンジュゲートすることによって調製することができる。例えば、二重特異性分子の各々の結合特異性を、別々に産生し、次いで相互にコンジュゲートすることができる。結合特異性がタンパク質またはペプチドである場合、様々なカップリング試薬または架橋試薬を、共有結合性のコンジュゲートに用いることができる。架橋剤の例は、プロテインA、カルボジイミド、N-スクシンイミジル-S-アセチル-チオアセテート(SATA)、5,5’-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)(DTNB)、o-フェニレンジマレイミド(oPDM)、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、およびスルホスクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(スルホ-SMCC)を含む(例えば、Karpovskyら、(1984年)J. Exp. Med.、160巻、1686頁;Liu, MAら、(1985年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA、82巻、8648頁を参照されたい)。他の方法は、Paulus(1985年)Behring Ins. Mitt.、78巻、118~132頁;Brennanら、(1985年)Science、229巻、81~83頁)、およびGlennieら、(1987年)J. Immunol.、139巻、2367~2375頁)に記載されているものを含む。好ましいコンジュゲート剤は、SATAおよびスルホ-SMCCであり、両方ともPierce Chemical Co.(Rockford、IL)から入手できる。
【0111】
結合特異性が抗体である場合、これらは、天然に存在するものでも、または人工的に導入されるものでも、スルフヒドリル結合によって、例えば、2本の重鎖または他の部位のC末端ヒンジ領域によってコンジュゲートさせることができる。特に好ましい一実施形態では、ヒンジ領域は、コンジュゲート前に、奇数の、好ましくは1個のスルフヒドリル残基を含むように改変される。
【0112】
あるいは、両方の結合特異性は、同じベクター中にコードされ、同じ宿主細胞において発現および構築されてよい。この方法は、二重特異性分子がmAb×mAb、mAb×Fab、Fab×F(ab’)2、またはリガンド×Fab融合タンパク質である場合に特に有用である。本発明の二重特異性分子は、1個の単鎖抗体と結合決定基とを含む単鎖分子、または2個の結合決定基を含む単鎖二重特異性分子とすることができる。二重特異性分子は、少なくとも2つの単鎖分子を含んでよい。さらに、二重特異性分子は、第1の標的に対して特異的に結合するscFvであってもよく、この場合前記scFvのVHおよびVLは、第2の標的に対する特異的な結合を提供するドメインを含む柔軟なリンカーと連結されている。適切なリンカーは、例えば、国際特許出願第WO2010/006454に記載されている。二重特異性分子を調製するための方法は、例えば、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,455,030号、米国特許第4,881,175号、米国特許第5,132,405号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,476,786号、米国特許第5,013,653号、米国特許第5,258,498号、および米国特許第5,482,858号に記載されている。
【0113】
二重特異性分子の、これらの特異的な標的に対する結合は、例えば、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、FACS分析、バイオアッセイ(例えば、増殖阻害)によって、またはイムノブロットアッセイによって確認することができる。これらのアッセイは各々、概ね、対象の複合体に特異的な標識した試薬(例えば、抗体)を用いることによって、特に関心のあるタンパク質-抗体複合体の存在を検出する。例えば、TNF-抗体複合体は、例えば、抗体-TNF複合体を認識し、特異的に結合する、酵素結合抗体または抗体フラグメントを用いて検出され得る。あるいは、複合体は、あらゆる様々な他のイムノアッセイを用いて検出され得る。例えば、抗体は、放射標識され、ラジオイムノアッセイ(RIA)において用いられ得る(例えば、本明細書に参照によって組み入れられる、Weintraub, B.、Principles of Radioimmunoassays、Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques、The Endocrine Society、1986年3月を参照されたい)。放射性同位元素は、γカウンターもしくはシンチレーションカウンターの使用などの手段によって、またはオートラジオグラフィーによって検出され得る。
【0114】
別の一態様では、本発明は、本明細書に記載する抗体を生成するための方法を提供する。本明細書に提供する、溶液中で凝集する傾向が低減した抗体を生成するための方法は、軽鎖と重鎖との間の抗体ドメインの相互作用の調整によって抗体の凝集傾向を低減することができ、凝集低減性の変異は、抗体(例えば、scFv)と個々の可変ドメインとの間のエネルギーの差として規定されるVL/VH境界の自由エネルギーを決定することによって確実に予測することができるという目ざましい知見に基づく。本明細書に示す通り、可変ドメイン間の自由エネルギーを低減することによって抗体ドメインの相互作用を調整する凝集低減性の置換は、抗体の安定性または結合活性に影響を及ぼさずに行われ得る。
【0115】
一実施形態では、本発明の方法は、
(i)可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)を含む抗体を提供するステップと、
(ii)抗体の可変軽鎖(VL)と可変重鎖(VH)との間の境界に関与する1つまたは複数の残基位置を同定するステップと、
(iii)置換(複数可)がVLドメインとVHドメインとの間の自由エネルギーを少なくとも0.5kcal/mol、好ましくは少なくとも1.0kcal/mol、最も好ましくは少なくとも2.0kcal/mol低減するように、同定された残基位置(複数可)に置換を導入することによって抗体を改変し(すなわち、置換を有するVLドメインとVHドメインとの間の自由エネルギーは、アミノ酸置換を含まない対応するVLドメインとVHドメインとの間の自由エネルギーよりも少なくとも0.5kcal/mol少ない)、それによって改変された抗体の凝集傾向を親抗体の凝集傾向に比べて低減するステップと
を含む。
【0116】
上記に概略した通り、抗体は、Fab、Fab’、F(ab)’2、単鎖Fv(scFv)、Fvフラグメント、ダイアボディ、単鎖ダイアボディ、タンデム抗体、または直鎖状抗体であってよく、好ましい一実施形態では、抗体は単鎖Fv(scFv)である。
【0117】
好ましい一実施形態では、抗体の可変軽鎖と可変重鎖との間の境界に関与する1つまたは複数の残基位置の同定(すなわち、ステップ(ii))は、VL-VH境界間の自由エネルギーの決定を伴う。これは、一般に公知のバイオインフォマティクス(bioinfomatic)プログラムを用いることによって行うことができる。適切なバイオインフォマティクスプログラムの一例はCHARMM(Chemistry at HARvard Macromolecular Mechanics)である。
【0118】
VL-VH境界間の自由エネルギーを決定する目的では、タンパク質の完全な原子論的(atomistic)分子の提示を提供することが典型的である。境界の自由エネルギーは、VLおよびVHの両方の可変ドメインを含む完全抗体の間のエネルギーの差であり、暗溶媒方法(implicit solvent method)の状況における個々のドメインのエネルギーの合計である。これは、(1)抗体上G(a)、(2)VL上G(b)、および(3)VH上G(c)の、3つの単一のエネルギーの計算を伴う。したがって、境界の自由エネルギーは
G境界=G(a)-G(b)-G(c)
である。
【0119】
一実施形態では、絶対的溶媒方法は、当技術分野において公知であるGBMVまたはPBSAである。
【0120】
自由エネルギーの決定は、タンパク質の、電荷分布をシミュレートするステップをさらに含むことができる。前記電荷分布は、静電力またはファンデルワールス力に基づいてシミュレートすることができる。
【0121】
適切な改変を決定するには、境界に関与する1つまたは複数のアミノ酸残基を、置換のために選択することができる。例えば、選択した位置に1つまたは複数の置換(例えば、1つまたは複数の残基のアラニンへの変更)を含むタンパク質の分子モデルを生成し、置換された分子提示の境界の自由エネルギーを決定する。置換された分子モデルの境界の自由エネルギーが、初期の分子モデルの境界の自由エネルギーよりも低ければ、このアミノ酸残基が置換に対して選択される。CHARMmの状況の範囲内では、変異は、例えば、Build Mutantsプロトコールで構築することができる。分子モデルにおける1つまたは複数の置換は、VL/VH境界に関与することが公知であり、または疑われる位置であってよい。
【0122】
一実施形態では、変異(複数可)周辺領域における選択された位置(複数可)に1つまたは複数の置換を含む分子モデルのエネルギーを最小にするさらなる一ステップが行われる。前記領域は、10オングストロームに設定することができる。
【0123】
一実施形態では、置換に対して同定される残基位置は、荷電したアミノ酸によって占められる。
【0124】
本発明の方法によって生成される抗体は、当技術分野では公知である、あらゆる適切な可変軽鎖または重鎖を含むことができ、ウサギ抗体からの少なくとも1つのCDRを含むことが好ましい。ある好ましい可変軽鎖および重鎖を本明細書に記載する。例えば、本発明の抗体は、可変軽鎖のAHo47位および/または可変軽鎖のAHo50位にアルギニン(R)をさらに含む配列番号11または配列番号12に対して少なくとも65%、より好ましくは80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有するVL抗体フレームワーク、ならびに配列番号3に対して少なくとも80%、より好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有するVH抗体フレームワークを含むことができる。
【0125】
1つまたは複数の残基位置の改変は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられるPCT/CH2008/000285の教示にしたがって行うことが好ましい。簡潔に述べると、所与の抗体サブタイプに対して、抗体フレームワークの特異的な残基位置に、特定のアミノ酸が存在する。例えば、
a)ヒトVH3ファミリー重鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸1位のグルタミン(Q)、
(ii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸6位のグルタミン(Q)、
(iii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸7位のスレオニン(T)またはアラニン(A)、
(iv)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸89位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸78位)のアラニン(A)、バリン(V)、またはフェニルアラニン(F)、ならびに/あるいは、
(v)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸103位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸89位)のアルギニン(R)、グルタミン(Q)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、またはフェニルアラニン(F)であり、
b)ヒトVH1aファミリー重鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸1位のグルタミン酸(E)、
(ii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸6位のグルタミン酸(E)、
(iii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸12位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸11位)のロイシン(L)、
(iv)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸13位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸12位)のメチオニン(M)、
(v)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸14位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸13位)のグルタミン酸(E)、またはグルタミン(Q)、
(vi)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸19位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸18位)のロイシン(L)、
(vii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸21位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸20位)のイソロイシン(I)、
(viii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸90位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸79位)のフェニルアラニン(F)、セリン(S)、ヒスチジン(H)、またはアスパラギン酸(D)、
(ix)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸92位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸81位)のアスパラギン酸(D)またはグルタミン(Q)、
(x)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸95位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸82b位)のグリシン(G)、アスパラギン(N)、またはスレオニン(T)、ならびに/あるいは、
(xi)AHo番号付けを用いたアミノ酸98位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸84位)のスレオニン(T)、アラニン(A)、プロリン(P)、またはフェニルアラニン(F)であり、
c)ヒトVH1bファミリー重鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸1位のグルタミン酸(E)、
(ii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸10位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸9位)のスレオニン(T)、プロリン(P)、バリン(V)、またはアスパラギン酸(D)、
(iii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸12位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸11位)のロイシン(L)、
(iv)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸13位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸12位)のバリン(V)、アルギニン(R)、グルタミン(Q)、またはメチオニン(M)、
(v)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸14位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸13位)のグルタミン酸(E)、アルギニン(R)、またはメチオニン(M)、
(vi)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸20位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸19位)のアルギニン(R)、スレオニン(T)、またはアスパラギン(N)、
(vii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸21位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸20位)のイソロイシン(I)、フェニルアラニン(F)、またはロイシン(L)、
(viii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸45位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸38位)のリジン(K)、
(ix)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸47位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸40位)のスレオニン(T)、プロリン(P)、バリン(V)、またはアルギニン(R)、
(x)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸50位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸43位)のリジン(K)、ヒスチジン(H)、またはグルタミン酸(E)、
(xi)AHo番号付けを用いたアミノ酸55位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸48位)のイソロイシン(I)、
(xii)AHo番号付けを用いたアミノ酸77位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸66位)のリジン(K)、
(xiii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸78位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸67位)のアラニン(A)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)、
(xiv)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸82位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸71位)のグルタミン酸(E)、スレオニン(T)、またはアラニン(A)、
(xv)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸86位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸75位)のスレオニン(T)、セリン(S)、またはロイシン(L)、
(xvi)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸87位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸76位)のアスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)、またはグリシン(G)、ならびに/あるいは、
(xvii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸107位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸93位)のアスパラギン(N)またはセリン(S)であり、
d)ヒトVカッパ1ファミリー軽鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸1位のグルタミン酸(E)、またはイソロイシン(I)、
(ii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸3位のバリン(V)、またはイソロイシン(I)、
(iii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸4位のバリン(V)、ロイシン(L)、またはイソロイシン(I)、
(iv)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸24位のグルタミン(Q)、
(v)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸47位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸39位)のアルギニン(R)またはイソロイシン(I)、
(vi)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸50位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸42位)のアルギニン(R)、グルタミン酸(E)、スレオニン(T)、メチオニン(M)またはグルタミン(Q)、
(vii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸57位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸49位)のヒスチジン(H)、セリン(S)、またはフェニルアラニン(F)、
(viii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸91位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸73位)のフェニルアラニン(F)、ならびに/あるいは、
(ix)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸103位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸85位)のバリン(V)、セリン(S)、グリシン(G)、またはイソロイシン(I)であり、
e)ヒトVカッパ3ファミリー軽鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸2位のスレオニン(T)、
(ii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸3位のスレオニン(T)、
(iii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸10位のイソロイシン(I)、
(iv)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸12位のチロシン(Y)、
(v)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸18位のセリン(S)、
(vi)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸20位のアラニン(A)、
(vii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸56位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸48位)のメチオニン(M)、
(viii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸74位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸58位)のバリン(V)またはスレオニン(T)、
(ix)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸94位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸76位)のアスパラギン(N)、
(x)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸101位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸83位)のチロシン(Y)またはセリン(S)、ならびに/あるいは、
(xi)AHo番号付けを用いたアミノ酸103位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸85位)のロイシン(L)またはアラニン(A)であり、
f)ヒトVラムダ1ファミリー軽鎖可変領域に対して、好ましいアミノ酸は、
(i)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸1位のロイシン(L)、セリン(S)、またはグルタミン酸(E)、
(ii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸2位のアラニン(A)、プロリン(P)、イソロイシン(I)、またはチロシン(Y)、
(iii)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸4位のバリン(V)またはメチオニン(M)、
(iv)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸7位のグルタミン酸(E)、
(v)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸11位のアラニン(A)、
(vi)AHoまたはKabat番号付けシステムを用いたアミノ酸14位のスレオニン(T)またはセリン(S)、
(vii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸46位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸38位)のヒスチジン(H)、
(viii)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸53位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸45位)のスレオニン(T)、セリン(S)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、またはプロリン(P)、
(ix)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸82位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸66位)のアルギニン(R)またはグルタミン(Q)、
(x)AHo番号付けシステムを用いたアミノ酸92位(Kabat番号付けシステムを用いたアミノ酸74位)のグリシン(G)、スレオニン(T)、またはアスパラギン酸(D)、ならびに/あるいは、
(xi)AHo番号付けを用いたアミノ酸103位(Kabat番号付けを用いたアミノ酸85位)のバリン(V)、スレオニン(T)、ヒスチジン(H)、またはグルタミン酸(E)である。
したがって、本方法において行われる置換は、PCT/CH2008/000285の教示に従うことが好ましい。サブタイプの決定は当業者には公知である。
【0126】
一実施形態では、本発明の方法は、可変軽鎖、特にVカッパ1可変軽鎖のAHo47位および/または50位の抗体の改変を含む。抗体が可変軽鎖のAHo47位および/またはAHo50位にアルギニン(R)を含むように改変することが好ましい。いくつかの実施形態では、可変軽鎖のAHo47位および/またはAHo50位のリジン(K)がアルギニン(R)によって置換されている。本発明の抗体は所望によりさらなる改変を含むことができるので、本発明の方法は、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)、および/または重鎖144位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)を含むように抗体を改変するさらなるステップを含むことができる。さらに、抗体を、重鎖97位、98位、および/または99位(AHo番号付け)にセリン(S)またはスレオニン(T)を含むように改変することができる。方法が、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にスレオニン(T)、および重鎖144位(AHo番号付け)にスレオニン(T)を含むように抗体を改変するステップを含むことが好ましい。
【0127】
本発明は、溶液中で凝集する傾向が低いヒト化抗体を生成する方法をさらに提供し、上記方法は、AHo47位および/またはAHo50位にアルギニン(R)を含む可変軽鎖フレームワークを選択するステップを含む。上記方法は、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)、および/または重鎖144位(AHo番号付け)にセリン(S)もしくはスレオニン(T)を含む可変重鎖フレームワークを選択するステップをさらに含むことができる。一実施形態では、選ばれた選択基準に基づいて同定されるフレームワークを、本発明の凝集低減性の改変でさらに改変することができる。例えば、可変軽鎖フレームワークが、50位にアルギニン(R)を有すると同定される場合、AHo位置の残基は、アルギニン(R)などの異なるアミノ酸で置換され得、または可変重鎖がAHo12位にセリン(S)を有すると同定される場合、AHo103位および144位の残基はスレオニンで置換され得る。
【0128】
本明細書で用いられる「ヒト化」抗体は、非ヒトのCDR、およびヒトもしくはヒト由来の可変重鎖フレームワーク配列、および/またはヒトもしくはヒト由来の可変軽鎖フレームワーク配列を含む抗体である。抗体のヒト化は当技術分野において周知である。一実施形態では、ヒト化抗体は、ウサギにおいて生成され、またはCDRライブラリーから選択される抗体からのCDRを、少なくとも1つ、好ましくは6つ含む。
【0129】
可変抗体フレームワークは、それにCDRが由来する抗体の可変フレームワーク配列との同一性および/または類似性に基づいて、あるいは別の方法で好ましいフレームワーク配列(複数可)に基づいて、例えば、データベース(例えば、Kabatデータベース、Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)、VBASE(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)、VBASE2(http://www.vbase2.org/)、The Kabat Database of Sequences of Proteins of Immunological Interest(http://www.kabatdatabase.com/index.html)、the Universal Protein Resource(UniProt;http://pir.georgetown.edu/)、およびAbysis Database(http://www.bioinf.org.uk/abs/)から選択することができる。
【0130】
選択される必要要件(複数可)を満たす適切なヒトフレームワーク配列を検索するのに、様々なコンピュータプログラムが利用できる。例えば、「KabatMan」は、「Sequences of Immunological Interest」という書籍からのKabatの抗体配列データのコンピュータ検索可能なバージョンである。KabatManプログラムは、Martin(1996年)Accessing the Kabat Antibody Sequence Database by Computer PROTEINS: Structure, Function and Genetics、25巻、130~133頁の論文に記載されており、http://www.bioinf.org.uk/abs/simkab.htmlおよびhttp://www.bioinf.org.uk/abs/kabatman.htmlで利用できる。http://www.bioinf.org.uk/abysis/のAbysisデータベースは、Kabat、IMGT、およびPDBからの配列データをPDBからの構造データと統合するものである。これは、様々な判定基準上で配列データを検索し、様々なフォーマットで結果をディスプレイできるようにする包括的なポイントアンドクリック方式のインターフェースを提供する。PDBからのデータに対して、配列の検索を構造の制約条件と組み合わせることができる。
【0131】
別の一態様では、本発明は、本明細書に開示する方法によって生成される抗体を提供する。好ましい一実施形態では、前記抗体が、配列番号12または配列番号13に対して少なくとも80%、より好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有するVL抗体フレームワーク含み、抗体が、可変軽鎖のAHo47位および/またはAHo50位にアルギニン(R)を含むことが好ましい。
【0132】
それに加えて、またはその代わりに、VH抗体フレームワークは、配列番号3、または配列番号3に対して少なくとも80%、より好ましくは85%、90%、95%、96%、97%、98%、より好ましくは99%の同一性を有する配列であるか、またはそれらの配列を含む。
【0133】
ある実施形態では、本発明はさらに、
(1)重鎖および軽鎖の可変ドメインを含むヘテロ二量体複合体である抗体の凝集傾向を低減するための方法であって、
(a)抗体の完全な原子論的分子の提示を提供するステップと、
(b)両ドメイン間の境界の自由エネルギーを決定するステップと、
(c)選択された位置に1つまたは複数の置換を含む抗体の分子モデルを提供し、置換された分子提示の境界の自由エネルギーを決定することによって、置換のために境界で関与する1つまたは複数のアミノ酸残基を選択するステップと、
(d)置換された分子モデルの境界の自由エネルギーが、最初の分子モデルの境界の自由エネルギーよりも低い場合は、置換のためのアミノ酸残基を選択するステップと
を含む方法、
(2)境界の自由エネルギーが、複合体と、絶対的溶媒方法の状況において個々のドメインのエネルギーの合計との間のエネルギーの差を計算することによって決定される、(1)の方法、
(3)溶媒がGBMVまたはPBSAである、(2)の方法、
(4)(i)前記ステップをステップaおよびステップb内で行う、タンパク質の電荷分布をシミュレートするステップ
をさらに含む、上記(1)~(3)のいずれか一つの方法、
(5)上記電荷分布が、静電力またはファンデルワールス力に基づいてシミュレートされる、(4)の方法、
(6)ステップ(c)が、変異周辺の領域におけるエネルギー最小化のさらなるステップを含む、上記(1)~(5)のいずれか一つの方法、
(7)抗体が単鎖可変フラグメント(scFv)である、上記(1)~(7)のいずれか一つの方法
を提供する。
【0134】
本発明の抗体は、組換え遺伝学の分野における常法を用いて産生することができる。ポリペプチドの配列を知っていれば、これらをコードするcDNAを、当技術分野において周知の方法によって遺伝子合成によって産生することができる。これらのcDNAを適切なベクタープラスミド中にクローニングすることができる。
【0135】
当業者には周知の標準のクローニング技術および変異誘発技術を用いて、Fabフラグメントを生成するために、リンカーを付着し、ドメインをシャッフルし、または融合物を構築してよい。本発明の全般的方法を開示する基本的プロトコールは、Molecular Cloning, A Laboratory Manual(Sambrook & Russell、第3版、2001年)に、およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、1999年)に記載されている。
【0136】
scFvポリペプチドをコードする遺伝子を内部に持つDNA配列、またはFabフラグメントの場合はVL-CκおよびVH-CH1融合物に対する2つの遺伝子を含む2つの別々の遺伝子またはバイシストロン性オペロンのいずれかをコードする遺伝子を内部に持つDNA配列が、適切な発現ベクターに、好ましくは誘導プロモーターを伴なう発現ベクターにクローニングされる。各遺伝子の前には翻訳を確実にする好適なリボゾーム結合部位が存在するよう、注意を払わなければならない。本発明の抗体は、開示した配列からなるのではなく、開示した配列を含むことが理解される。例えば、クローニングの戦略は、N末端の1つまたは少数のさらなる残基を伴なう抗体から構築物が作製されることを必要とし得る。具体的には、開始コドンに由来するメチオニンが翻訳後に切断されなかった場合、最終のタンパク質中に存在することがある。scFv抗体についてのほとんどの構築物は、N末端にさらなるアラニンを生じる。本発明の好ましい一実施形態において、E.coliにおけるペリプラズム発現のための発現ベクターが選択される(Krebber、1997年)。前記ベクターは、切断可能なシグナル配列の前にプロモーターを含む。次いで、抗体ペプチドについてのコード配列を、インフレーム(in frame)で切断可能なシグナル配列に融合する。これにより、細菌のペリプラズム(ここでシグナル配列が切断される)への、発現されたポリペプチドのターゲティングが可能になる。次いで、抗体はフォールディングされる。Fabフラグメントの場合は、VL-Cκ融合物のペプチドおよびVH-CH1融合物のペプチドの両方が移行シグナルに連結していなければならない。ペプチドがペリプラズムに到達した後、C末端のシステインでS-S共有結合が形成される。抗体の細胞質内発現が好ましい場合、前記抗体は通常、封入体から高収率で得ることができ、封入体は他の細胞フラグメントおよびタンパク質から容易に分離され得る。この場合、封入体は、例えば塩酸グアニジン(GndHCl)などの変性剤中に可溶化され、次いで当業者には周知の復元手順によってリフォールディングされる。
【0137】
scFvまたはFabポリペプチドを発現するプラスミドを、適切な宿主、好ましくは細菌、酵母、または哺乳動物の細胞、最も好ましくは適切なE.coli菌株(例えば、ペリプラズムの発現についてJM83、または封入体中の発現についてBL21)の中に導入する。ポリペプチドを、ペリプラズムまたは封入体のいずれかから収集し、当業者には公知の、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、および/またはゲルろ過などの標準技術を用いて精製してよい。
【0138】
本発明の抗体を、収率、可溶性、およびインビトロの安定性に関して特徴付けることができる。例えば、TNFに対する、好ましくはヒトTNFαに対する結合可能性を、WO9729131に記載されている通り、組換えヒトTNFを用いて、インビトロでELISAまたは表面プラズモン共鳴法(BIACore)によって試験することができ、表面プラズモン共鳴法はまた、koff速度定数の決定を可能にし、これは好ましくは10-3s-1未満であるべきである。≦10nMのKd値が好ましい。
【0139】
一実施形態では、本発明は、TNFαに結合し、したがってインビボでTNFαの機能をブロックするのに適する抗体を提供する。特定の一実施形態では、抗TNFα抗体は、配列番号10または配列番号17の配列を含む。
【0140】
治療適用に対して、本発明の抗TNF抗体は、例えば、ボーラスとして、もしくはある期間にわたる持続的な注入によって静脈内に、筋肉内経路、腹腔内経路、脳脊髄内経路、皮下経路、関節内経路、滑液包内経路、髄腔内(intrathecal)経路、経口経路、局所経路、眼内経路、鼻腔内経路、耳経路、舌下経路、経皮経路、または吸入経路によって、ヒトに投与することができるものを含めた、上記で論じたものなどの薬学的に許容される剤形において、哺乳動物、好ましくはヒトに投与される。抗体はまた、局所ならびに全身の治療効果を発揮するように、腫瘍内経路、腫瘍周囲経路、病変内経路、または病変周囲経路によって適切に投与される。
【0141】
疾患を予防または処置するための、抗体の適切な投与量は、上で定義したように、処置する疾患のタイプ、疾患の重症度および経過、抗体を予防または治療のどちらの目的で投与するか、以前の治療、患者の病歴および抗体への応答、ならびに主治医の自由裁量に依存する。抗体は、1回でまたは一連の処置にわたって適切に患者に投与する。
【0142】
本発明の抗TNF抗体は、TNF媒介性疾患の処置において有用である。疾患のタイプおよび重症度に応じて、抗体約1μg/kgから約50mg/kg(例えば、0.1~20mg/kg)が、例えば、1回もしくは複数回の別々の投与によるとしても、または持続的な注入によるとしても、患者に投与するための最初の候補の投与量である。典型的な毎日のまたは毎週の投与量は、上に記載した因子に応じて、約1μg/kgから約20mg/kgの範囲であってよく、またはそれを超えてよい。数日にわたる、またはそれを超える繰返し投与に関して、状態に応じて、疾患症状の望ましい抑制が生じるまで処置を繰り返す。しかし、他の投薬レジメンも有用であり得る。この治療の進行は、例えばX線撮影腫瘍イメージングを含めた、従来の技術およびアッセイによって容易にモニターされる。
【0143】
本発明の別の実施形態により、疾患の予防または処置における抗体の有効性は、抗体を連続的に投与することによって、またはそれらの目的に有効である別の薬剤、例えば、血管内皮増殖因子(VEGF)、酸性もしくは塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF)または肝細胞増殖因子(HGF)の新脈管形成活性を阻害または中和できる抗体、組織因子、プロテインCまたはプロテインSの血液凝固活性を阻害または中和できる抗体(1991年2月21日に公開された、EsmonらのPCT特許出願WO91/01753を参照されたい)、HER2受容体に結合できる抗体(1989年7月27日に公開された、HudziakらのPCT特許出願WO89/06692を参照されたい)、または例えばアルキル化剤、葉酸拮抗剤、核酸代謝の代謝拮抗薬、抗生物質、ピリミジン類似体、5-フルオロウラシル、シスプラチン、プリンヌクレオシド、アミン、アミノ酸、トリアゾールヌクレオシドもしくはコルチコステロイドなどの1つまたは複数の従来の治療剤などと抗体とを組み合わせて投与することによって改善することができる。かかる他の薬剤は、投与する組成物中に存在し得、または別々に投与することができる。また、放射性物質の照射または投与を含んだとしても、抗体は、連続的にまたは放射線学的処置と組み合わせて適切に投与される。
【0144】
本発明の抗体を、アフィニティー精製剤として用いることができる。このプロセスにおいて、抗体は、当技術分野では周知の方法を用いて、Sephadex樹脂またはろ紙などの固相上に固定化される。固定化された抗体は、精製するために抗TNFα抗体の場合はTNFなど、抗体が結合する標的のタンパク質(またはそのフラグメント)を含む試料と接触させ、その後支持体を、固定化した抗体に結合している標的タンパク質以外の試料中の材料を実質的に全て除去する適切な溶媒で洗浄する。最後に、支持体を、抗体から標的のタンパク質を放出させるグリシンバッファー、pH5.0などの別の適切な溶媒で洗浄する。
【0145】
抗体は、標的のタンパク質に対する診断アッセイ(例えば、特異的な細胞、組織、または血清におけるその発現の検出)においても有用であり得る。このような診断方法は、がんの診断において有用であり得る。
【0146】
診断的適用のために、抗体は、一般的に検出可能な部分により標識される。非常に多くの標識が利用でき、それらは概して次のカテゴリーに分類することができる:
(a)111In、99Tc、14C、131I、125I、3H、32Pまたは35Sなどの放射性同位元素。抗体は、例えばCurrent Protocols in Immunology、1および2巻、Coligenら編、Wiley-Interscience、New York、N.Y.、Pubs.(1991年)に記載の技法を用いて、放射性同位元素により標識でき、放射活性は、シンチレーション計数器を用いて測定することができる。
【0147】
(b)希土類キレート(ユーロピウムキレート)またはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、リサミン、フィコエリトリンおよびテキサスレッドなどの蛍光標識を利用することができる。蛍光標識は、例えば上記のCurrent Protocols in Immunologyに開示されている技法を用いて、抗体と結合体化することができる。蛍光は、蛍光計を用いて定量化することができる。
【0148】
(c)様々な酵素-基質標識を利用でき、米国特許第4,275,149号ではこれらのいくつかの概説が提供されている。酵素は、一般的に、様々な技法を用いて測定できる、色素形成基質の化学変化を触媒する。例えば、酵素は、分光光度的に測定できる、基質における色の変化を触媒することができる。あるいは、酵素は、基質の蛍光または化学発光を変えることができる。蛍光における変化を定量化するための技法は、上に記載されている。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起状態になり、次いで(例えば、ケミルミノメーター(chemiluminometer)を用いて)測定できる光を放射し得、または蛍光アクセプターにエネルギーを供与する。酵素標識の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸脱水素酵素、ウレアーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖類酸化酵素(例えば、グルコース酸化酵素、ガラクトース酸化酵素およびグルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ)、複素環酸化酵素(ウリカーゼおよびキサンチン酸化酵素など)、ラクトペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼなどが挙げられる。酵素を抗体に結合体化するための技法は、O’Sullivanら、Methods for the Preparation of Enzyme-Antibody Conjugates for use in Enzyme Immunoassay、Methods in Enzym.(J. Langone & H. Van Vunakis編)、Academic press、New York、73巻:147~166頁(1981年)に記載されている。酵素-基質の組合せの例としては、例えば:
(i)西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)と、基質としての水素ペルオキシダーゼであり、水素ペルオキシダーゼが、色素前駆体(例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)または3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン塩酸塩(TMB))を酸化する、
(ii)アルカリホスファターゼ(AP)と、色素形成基質としてのパラ-ニトロフェニルホスフェート、および
(iii)β-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)と色素形成基質(例えば、P-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシダーゼ)または蛍光発生基質4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシダーゼ、が挙げられる。
【0149】
当業者には、多数の他の酵素-基質の組合せが可能である。これらの全般的総説には、米国特許第4,275,149号および同第4,318,980号を参照されたい。標識が抗体に間接的に結合体化していることがある。当業者であれば、これを実現するための様々な技術を認識する。例えば、抗体はビオチンと結合体化していてよく、上記で言及した標識の3つの広範なカテゴリーのうちの任意のものがアビジンと結合体化していてよく、またはその反対も同様である。ビオチンはアビジンに対して選択的に結合し、したがって標識は、この間接的な様式において抗体と結合体化していてよい。あるいは、標識の、抗体との間接的な結合体化を実現するために、抗体が小型のハプテン(例えば、ジゴキシン)と結合体化し、上記で言及した様々なタイプの標識の1つが抗ハプテン抗体(例えば、抗ジゴキシン抗体)と結合体化する。このように、標識の、抗体との間接的な結合体化を実現することができる。
【0150】
特定の実施形態では、抗体を標識する必要はなく、その存在は、標的抗体に結合する標識抗体を使用して検出することができる。
【0151】
本発明の抗体には、競合的結合アッセイ、直接および間接的サンドイッチアッセイおよび免疫沈降アッセイなどの任意の公知のアッセイ方法も採用することができる。Zola、Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques、147~158頁(CRC Press、Inc. 1987年)。
【0152】
競合的結合アッセイは、制限された量の抗体と結合するために試験試料分析物と競合する、標識した標準物質の能力に依存する。例えば、試験試料中のTNFタンパク質の量は、抗体と結合状態になる標準物質の量に反比例する。結合状態になる標準物質の量の決定を容易にするために、抗体を、一般的に競合の前または後に不溶化し、抗体に結合する標準物質および分析物を、結合しないままの標準物質および分析物から都合良く分離できるようにする。
【0153】
サンドイッチアッセイは、検出されるタンパク質の異なる免疫原性部分またはエピトープにそれぞれが結合できる2つの抗体の使用を含む。サンドイッチアッセイでは、試験試料分析物は、固体担体上に固定化する第1抗体によって結合され、その後、第2抗体が分析物に結合し、したがって不溶性の3部分の複合体が形成される。例えば、米国特許第4,376,110号を参照されたい。第2抗体は、それ自体、検出可能な部分で標識でき(直接的サンドイッチアッセイ)、検出可能な部分で標識される抗免疫グロブリン抗体を使用して測定することもできる(間接的サンドイッチアッセイ)。例えば、サンドイッチアッセイの1種にELISAアッセイがあり、これは検出可能な部分が酵素の場合である。
【0154】
免疫組織化学に関しては、腫瘍試料などの組織試料は新鮮または凍結であってよく、例えば、パラフィン中に包埋し、例えばホルマリンなどの保存剤で固定してもよい。
【0155】
抗体は、インビボの腫瘍診断アッセイに使用することもできる。一般的に、抗体は、放射性核種(111In、99Tc、14C、131I、125I、3H、32Pまたは35Sなど)で標識し、免疫シンチグラフィ(immunoscintiography)を使用して腫瘍の場所を突き止められるようにする。
【0156】
本発明の抗体は、キット、すなわち診断アッセイを行うための説明書と所定量の試薬をパッケージした組合せで提供され得る。抗体が酵素で標識される場合、キットには酵素に必要な基質および補因子が含まれる(例えば、検出可能な発色団またはフルオロフォアをもたらす基質前駆体)。さらに、安定剤、緩衝液(例えば、ブロック緩衝液または溶解緩衝液)などの他の添加剤を含むことができる。様々な試薬の相対量は、幅広く変えることができ、アッセイの感度を実質的に最適にする、溶液中の試薬の濃度を可能にする。特に試薬は、通常、凍結乾燥した乾燥粉末として提供でき、溶解状態で適切な濃度を有する試薬溶液をもたらす賦形剤を含む。
【0157】
本発明は、治療の目的のために、1つ以上の本発明の抗体を含む、薬学的処方物をさらに提供する。1つの態様では、本発明は、TNF媒介性疾患の処置のための抗TNF抗体を提供する。
【0158】
用語「薬学的処方物」とは、明白に有効である抗体の生物活性を可能にするような形態であり、処方物を投与した被験体に毒性のある追加の成分を含まない調製物をいう。「薬学的に許容される」賦形剤(ビヒクル、添加剤)とは、被験体である哺乳動物に合理的に投与し、採用する活性成分の有効用量を実現できるものである。
【0159】
「安定的な」処方物とは、処方物中の抗体が、保存に際しその物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物活性を本質的に保持するものである。タンパク質の安定性を測定するための様々な分析技法は、当該分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery、247~301頁、Vincent Lee編、Marcel Dekker, Inc.、New York、N.Y.、Pubs.(1991年)、およびJones, A. Adv. Drug Delivery Rev.10巻:29~90頁(1993年)に概説されている。安定性は、選択した期間の間、選択した温度で測定することができる。好ましくは、処方物は、少なくとも1カ月間、室温(約30℃)または40℃で安定であり、および/または少なくとも1年間または少なくとも2年間、約2~8℃で安定である。その上、処方物は、好ましくは、処方物の凍結(例えば-70℃まで)および解凍の後も安定である。
【0160】
色および/または透明さの視覚的検査で、あるいはUV光散乱またはサイズ排除クロマトグラフィーによって測定したときに、凝集、沈殿および/または変性の徴候を示さない場合、抗体は、薬学的処方物において「その物理的安定性を保持する」。
【0161】
抗体は、所与の時間での化学的安定性が、タンパク質が以下に定義されるようなその生物活性をなおも保持すると考えられるほどであれば、薬学的処方物において「その化学的安定性を保持する」。化学的安定性は、化学変化したタンパク質の形態を検出および定量化することによって評価することができる。化学変化は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー、SDS-PAGEおよび/またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化/飛行時間型質量分析(MALDI/TOF MS)を用いて評価できる、サイズ修正(例えばクリッピング(clipping))に関わり得る。他のタイプの化学変化には、例えばイオン交換クロマトグラフィーによって評価できる電荷変化(例えば、脱アミドに起因して起こる)が挙げられる。
【0162】
抗体は、所与の時間での抗体の生物活性が、例えば、薬学的処方物を抗原結合アッセイで決定されるように調製したときに示される生物活性の、約10%以内(アッセイのエラー内)であれば、薬学的処方物において「その生物活性を保持する」。抗体に関する他の「生物活性」アッセイは、本明細書で以下に詳しく述べる。
【0163】
「等張」とは、目的の処方物が、本質的にヒト血液と同じ浸透圧を有することを意味する。等張処方物は、一般的に約250から350mOsmの浸透圧を有する。等張性は、例えば、蒸気圧またはアイスフリージング型浸透圧計を用いて測定することができる。
【0164】
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を有する物質であり、糖(還元および非還元糖)、糖アルコールおよび糖酸が挙げられる。本明細書における好ましいポリオールは、約600kD未満(例えば、約120から約400kDの範囲)の分子量を有する。「還元糖」とは、金属イオンを還元できるか、またはタンパク質中のリジンおよび他のアミノ基と共有結合的に反応できるヘミアセタール基を含むものであり、「非還元糖」とは、還元糖のこれらの特性をもたないものである。還元糖の例は、フルクトース、マンノース、マルトース、ラクトース、アラビノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトースおよびグルコースである。非還元糖には、スクロース、トレハロース、ソルボース、メレジトースおよびラフィノースが挙げられる。マンニトール、キシリトール、エリスリトール、トレイトール、ソルビトールおよびグリセロールは、糖アルコールの例である。糖酸について、これには、L-グルコネートおよびその金属塩が挙げられる。処方物が凍結-解凍に対して安定であることが望まれる場合、ポリオールは、好ましくは処方物中の抗体が不安定になるような凍結温度(例えば-20℃)での結晶化をしないものである。非還元糖としては、スクロースおよびトレハロースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0165】
本明細書で使用するとき、「緩衝液」とは、酸-塩基の結合体化成分の作用によるpHの変化に耐える緩衝溶液をいう。本発明の緩衝液は、約4.5から約7.0、好ましくは約4.8から約6.5の範囲のpHを有する。この範囲でpHを制御する緩衝液の例には、酢酸塩(例えば酢酸ナトリウム)、コハク酸塩(コハク酸ナトリウムなど)、グルコン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩および他の有機酸の緩衝液が挙げられる。凍結-解凍に対して安定的な処方物が望まれる場合、緩衝液は、好ましくはホスフェートではない。
【0166】
薬理学的な意味において、本発明に関連して、抗体の「治療有効量」とは、抗体が有効である処置に関して、障害の予防または処置に有効な量をいう。「疾患/障害」とは、抗体を用いた処置により利益を得る任意の状態である。これには、哺乳動物を問題の障害にかからせる病理学的状態を含む、慢性および急性の障害または疾患が含まれる。
【0167】
「保存剤」とは、処方物中に含まれ得、本質的にそこで細菌の作用を減少できる化合物であり、したがって、例えばマルチユーズ(multi-use)の処方物の製造を容易にすることができる。可能性のある保存剤の例には、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ヘキサメトニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド(アルキル基が長鎖の化合物であるアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)、およびベンゼトニウムクロリドが挙げられる。保存剤の他のタイプには、フェノール、ブチルおよびベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノールならびにm-クレゾールが挙げられる。本明細書における最も好ましい保存剤は、ベンジルアルコールである。
【0168】
本発明はまた、生理学的に許容される少なくとも1つの担体または賦形剤と一緒に、1つまたは複数の抗体を含む薬学的組成物も提供する。薬学的組成物は、例えば、1つまたは複数の水、緩衝液(例えば、中性緩衝生理食塩水またはホスフェート緩衝生理食塩水)、エタノール、鉱油、植物油、ジメチルスルホキシド、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、アジュバント、ポリペプチド、またはグリシンなどのアミノ酸、抗酸化剤、EDTAもしくはグルタチオンなどのキレート剤、および/または保存剤を含むことができる。上述のように、他の活性成分を、(必ずしも必要ではないが)本明細書で提供される薬学的組成物中に含めることができる。
【0169】
担体は、しばしば化合物の安定性または生物学的利用能を制御する目的のため、患者に投与する前に、抗体に関連し得る物質である。かかる処方物内部で使用するための担体は、一般的に生体適合性を有し、生分解性も有し得る。担体には、例えば、血清アルブミン(例えばヒトまたはウシ)、卵アルブミン、ペプチド、ポリリジンなどの一価または多価分子、およびアミノデキストランなどの多糖類およびポリアミドアミンが挙げられる。担体はまた、例えば、ポリラクテート、ポリグリコレート、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリアクリレート、ラテックス、デンプン、セルロースまたはデキストランを含む、ビーズおよびミクロ粒子(microparticle)などの固体担体物質も含む。担体は、共有結合(直接的またはリンカー基を介してのいずれか)、非共有結合の相互作用または混合を含む、様々な方法において化合物を有し得る。
【0170】
薬学的組成物は、例えば、眼投与、鼻腔内投与、耳投与、舌下投与、経皮投与、局所投与、経口投与、経鼻投与、直腸投与、または非経口投与を含めた、あらゆる好適な投与様式のために製剤化することができる。ある実施形態では、経口使用に適する形態の組成物が好ましい。このような形態としては、例えば、丸剤、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁剤、分散可能な散剤もしくは顆粒剤、乳剤、硬もしくは軟カプセル剤、またはシロップ剤もしくはエリキシル剤が挙げられる。さらに他の実施形態の範囲内で、本明細書において提供する組成物を、凍結乾燥物として製剤化することができる。本明細書で用いる非経口という用語は、皮下注射、皮内注射、血管内(例えば、静脈内)注射、筋肉内注射、脊髄注射、頭蓋内注射、髄腔内注射、および腹腔内注射、ならびにあらゆる同様の注射または注入の技術を含む。
【0171】
ある実施形態では、本発明の抗体は、眼周囲、結膜、テノン嚢下(subtenon)、前眼房内(intracameral)、硝子体内、眼内、網膜下、結膜下、眼球後部、または小管内注射などの眼組織注射によって;カテーテル、あるいは網膜用ペレット(retinal pellet)、眼内挿入物、坐剤、または多孔性の、非多孔性の、もしくはゼラチン性の材料を含む埋め込み物(implant)などの他の配置デバイスを用いた眼に対する直接適用によって;局所的な眼の点眼薬または軟膏によって;あるいは盲嚢中の、または強膜に隣接して(経強膜)、もしくは強膜中に(強膜内)、もしくは眼の内部に埋め込んだ徐放デバイスによって直接送達することができる。前眼房内注射は、上記薬剤を小柱網に到達させるように、角膜を通って前眼房中に、であってよい。小管内注射は、シュレム管に排出する、またはシュレム管内への静脈集合チャネル(venous collector channel)中に、であってよい。
【0172】
眼の送達に対して、本発明の抗体を、水性の、無菌の眼用懸濁剤または液剤を形成するために、眼科的に許容される保存剤、共溶媒、界面活性剤、粘度増強剤、浸透増強剤、バッファー、塩化ナトリウム、または水と組み合わせることができる。局所的な眼用生成物は、例えば、マルチドーズ形態に包装してもよい。保存剤はしたがって、使用中の微生物汚染を防ぐことが必要とされ得る。適切な保存剤は、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、ポリクオタニウム-1、または当業者には公知である他の剤を含む。このような保存剤は、0.001%w/vから1.0%w/vまでのレベルで用いられることが典型的である。本発明の単位用量組成物は無菌であるが、非保存性(unpreserved)であることが典型的である。したがって、このような組成物は一般に保存剤を含まない。
【0173】
ある実施形態では、眼に対して局所投与することが意図される組成物は、点眼剤または眼軟膏剤として製剤化され、ここで、抗体の合計量は約0.001%(w/w)から1.0%(w/w)である。TNFα抗体の量が約0.01%(w/w)から約1.0%(w/w)であることが好ましい。
【0174】
本発明の組成物は、ある状況において、局所投与用の液剤として投与される。製剤化の容易さ、ならびにこのような組成物を、罹患している目において1滴から2滴の液剤を点眼することによって容易に投与することの患者の能力に基づき、水溶液剤が一般的に好ましい。しかし、組成物は、懸濁剤、粘稠性または半粘稠性のゲル剤、または他のタイプの固体もしくは半固体の組成物であってもよい。
【0175】
経口使用を意図する組成物は、薬学的組成物の製造のための当該分野では公知の任意の方法にしたがって調製することができ、魅力的かつ風味のよい調製物を提供するために、甘味剤、矯味矯臭薬、着色剤、および保存剤などの1つまたは複数の薬剤を含むことができる。錠剤は、錠剤の製造に適する生理学的に許容される賦形剤と混合した有効成分を含む。このような賦形剤としては、例えば、不活性な希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム)、造粒剤および崩壊剤(例えば、コーンスターチ、またはアルギン酸)、結合剤(例えば、デンプン、ゼラチン、またはアカシア)、ならびに潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルク)が挙げられる。錠剤はコーティングされていなくてもよく、または消化管における崩壊および吸収を遅らせ、それによって長期間にわたって作用の持続を提供するために公知の技術によってコーティングされていてもよい。例えば、モノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を使用してもよい。
【0176】
経口の使用のための処方物は、有効成分が不活性な固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリン)と混合されている硬ゼラチンカプセル剤として、あるいは有効成分が水または油の媒体(例えば、ピーナツ油、流動パラフィン、もしくはオリーブ油)と混合されている軟ゼラチンカプセル剤として与えられてもよい。水性懸濁物は、水性懸濁物の製造に適する賦形剤と混合された抗体を含んでいる。このような賦形剤には、懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピルメチルセルロース(hydropropylmethylcellulose)、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴム)、ならびに分散剤または加湿薬(例えば、レシチンなどの天然に存在するホスファチド、ポリオキシエチレンステアレートなどのアルキレンオキシドの脂肪酸との縮合生成物、ヘプタデカエチレンオキシセタノールなどのエチレンオキシドの長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物、もしくはポリエチレンソルビタンモノオレエートなどの脂肪酸およびヘキシトール無水物に由来する部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物)が挙げられる。水性懸濁物は、1つまたは複数の保存剤(例えば、エチルもしくはn-プロピルp-ヒドロキシ安息香酸)、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の矯味矯臭薬、および1つまたは複数の甘味剤(例えば、ショ糖もしくはサッカリン)を含むこともできる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、またはショ糖などの甘味剤と一緒に製剤化されてもよい。このような処方物は、1つもしくは複数の粘滑剤、保存剤、矯味矯臭薬、および/または着色剤も含むことができる。
【0177】
油性懸濁物は、有効成分を植物油(例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはココナツ油)中に、または流動パラフィンなどの鉱油中に懸濁することによって処方することができる。油性懸濁物は、ミツロウ、硬パラフィン、またはセチルアルコールなどの増粘剤を含むことができる。上に記載したものなどの甘味剤、および/または矯味矯臭薬を添加して風味のよい経口調製物を提供してもよい。このような懸濁物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加によって保存することができる。
【0178】
水の添加による水性懸濁物の調製に適する分散性の粉末および顆粒は、分散剤または加湿薬、懸濁化剤、および1つまたは複数の保存剤と混合した有効成分を提供する。適切な分散剤または加湿薬、および懸濁化剤は、すでに上記で言及したものによって例示される。さらなる賦形剤、例えば、甘味剤、矯味矯臭薬、および着色剤も存在してよい。
【0179】
薬学的組成物は水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は植物油(例えば、オリーブ油もしくはラッカセイ油)、鉱油(例えば、流動パラフィン)、またはこれらの組合せであってよい。適切な乳化剤としては、天然に存在するゴム(例えば、アカシアゴムまたはトラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆、レシチン、ならびに脂肪酸およびヘキシトールに由来するエステルまたは部分エステル)、無水物(例えば、ソルビタンモノオレエート)、ならびに脂肪酸およびヘキシトールに由来する部分エステルのエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)が挙げられる。乳剤はまた、1つまたは複数の甘味剤および/または矯味矯臭薬を含むことができる。
【0180】
薬学的組成物は、使用するビヒクルおよび濃度に依存して、モジュレータがビヒクル中に懸濁または溶解されている、無菌注射が可能な水性または油性懸濁物として調製することができる。かかる組成物は、上述のものなどの、適切な分散剤、加湿薬および/または懸濁化剤を使用する公知の技術に従って処方することができる。採用できる許容されるビヒクルおよび溶媒には、水、1,3-ブタンジオール、リンゲル液および等張食塩水がある。さらに、無菌の固定油は、溶媒または懸濁媒体として採用することができる。この目的のために、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む、刺激の少ない任意の固定油を採用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を、注射可能な組成物の調製に使用でき、局所麻酔剤などのアジュバント、保存剤および/または緩衝剤を、ビヒクル中に溶解することができる。
【0181】
薬学的組成物は、持続放出処方物(すなわち、投与後にモジュレータの徐放をもたらすカプセルなどの処方物)として処方することができる。かかる処方物は、一般的に周知の技術を用いて調製でき、例えば、経口、直腸もしくは皮下移植によって、または所望の標的部位に移植することによって投与することができる。かかる処方物内で使用するための担体は、生体適合性を有し、生分解性も有し得て、好ましくは、処方物は比較的一定レベルのモジュレータ放出を可能にする。持続放出処方物内に含まれる抗体の量は、例えば、移植の部位、放出の速度および期待される持続期間、ならびに処置または予防する疾患/障害の特性によって決まる。
【0182】
本明細書で提供されるTNFα抗体は、検出可能な程度にTNFに結合し、TNF媒介性疾患/障害を予防または阻害するのに十分な、体液(例えば、血液、血漿、血清、CSF、滑液、リンパ、細胞間質液、涙または尿)中の濃度に達する量で投与され得る。用量は、本明細書に記載のような認識できる患者の利益をもたらすとき、有効であると考えられる。好ましい全身の用量は、1日につき、体重1キログラムにつき約0.1mgから約140mg(1日につき患者1人につき約0.5mgから約7g)の範囲であり、経口での用量は、一般的に静脈内での用量より約5~20倍多い。担体物質と組み合わせて単一投薬形態を産出できる抗体の量は、処置される受給者(host)および特定の投与様式によって変化する。投薬単位形態には、一般的に約1mgから約500mgの間の活性成分が含まれる。
【0183】
特定の実施形態において、薬学的組成物は、TNFに向けられる抗体に応答する状態を処置するためにパッケージすることができる。パッケージされた薬学的組成物は、本明細書に記載のような少なくとも1つの抗体の有効量を保持する容器、および患者への投与後に、1つの抗体に応答する疾患/障害を処置するために含有組成物を使用することを示す説明書(例えばラベル)を含むことができる。
【0184】
本発明の抗体は、化学的に改変することもできる。好ましい修飾基は、例えば、場合によって置換した直鎖もしくは分岐鎖ポリアルケン、ポリアルケニレンもしくはポリオキシアルキレンポリマー、または分岐したかもしくは分岐していない多糖類などのポリマーである。かかるエフェクター基は、インビボでの抗体の半減期を長くすることができる。合成ポリマーの特定の例には、場合によって置換した直鎖または分岐鎖ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)またはその誘導体が挙げられる。天然に存在する特定のポリマーには、ラクトース、アミロース、デキストラン、グリコゲンまたはその誘導体が挙げられる。ポリマーのサイズは、所望のように変化できるが、一般的に平均分子量は500Daから50000Daの範囲である。局所適用のために、抗体を組織に浸透するようにデザインする場合、ポリマーの好ましい分子量は、約5000Daである。ポリマー分子は、抗体、例えば、WO0194585に記載のように、共有結合的に連結するヒンジペプチドを介して、Fabフラグメントの重鎖のC末端部に付着することができる。PEG部分の付着に関しては、「Poly(ethyleneglycol)Chemistry, Biotechnological and Biomedical Applications」、1992年、J. Milton Harris(編)、Plenum Press、New York、および「Bioconjugation Protein Coupling Techniques for the Biomedical Sciences」、1998年、M. Aslam and A. Dent、Grove Publishers、New Yorkを参照されたい。
【0185】
上記のように目的の抗体を調製した後、それを含む薬学的処方物を調製する。処方される抗体は、事前の凍結乾燥に供さず、本明細書で目的の処方物は、水性処方物である。好ましくは、処方物中の抗体は、scFvなどの抗体フラグメントである。処方物中に存在する抗体の治療有効量は、例えば、所望の用量体積および投与様式(複数可)を考慮に入れて決定する。約0.1mg/mlから約50mg/ml、好ましくは約0.5mg/mlから約25mg/ml、および最も好ましくは約2mg/mlから約10mg/mlが、処方物中の典型的な抗体濃度である。
【0186】
上記に記載した通りpH緩衝溶液中に抗体を含む水性の製剤が調製される。バッファーの濃度は、例えば、バッファー、および製剤の所望の等張性に応じて、約1mMから約50mMまで、好ましくは約5mMから約30mMまでであってよい。
【0187】
トニシファイアー(tonicifier)として働き、抗体を安定化できるポリオールは、処方物中に含まれる。好ましい実施形態では、抗体の沈殿を引き起こし得、および/または低pHで酸化を引き起こし得るため、処方物は塩化ナトリウムなどの塩をトニシファイ量(tonicifying amount)で含まない。好ましい実施形態では、ポリオールは、スクロースまたはトレハロースなどの非還元糖である。ポリオールは、処方物の所望の等張性に対して変化できる量で処方物中に添加する。好ましくは、水性処方物は等張であり、この場合、処方物中の適切なポリオール濃度は、例えば、約1%から約15%w/vの範囲、好ましくは約2%から約10%whvの範囲である。しかし、高張性または低張性処方物も適切であり得る。添加するポリオールの量も、ポリオールの分子量に対して変えることができる。例えば、二糖(トレハロースなど)と比較して、より少量の単糖(例えばマンニトール)を添加することができる。
【0188】
界面活性剤も、抗体処方物に添加され得る。典型的な界面活性剤には、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、80など)またはポロキサマー(例えばポロキサマー188)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。代表的に、添加する界面活性剤の量は、処方した抗体/抗体誘導体の凝集を減少させ、および/または処方物中の粒子の形成を最小化し、および/または吸着を低下させるほどの量である。例えば、界面活性剤は、約0.001%から約0.5%、好ましくは約0.005%から約0.2%、および最も好ましくは約0.01%から約0.1%の量で処方物中に存在し得る。
【0189】
一実施形態では、処方物は、上記で同定した薬剤(すなわち、抗体、緩衝液、ポリオールおよび界面活性剤)を含み、本質的に、ベンジルアルコール、フェノール、m-クレゾール、クロロブタノールおよび塩化ベンゼトニウムなどの1つまたは複数の保存剤を含まない。別の実施形態では、特に処方物が複数用量の処方物である場合、保存剤を処方物中に含むことができる。保存剤の濃度は、約0.1%から約2%、最も好ましくは約0.5%から約1%の範囲であってよい。Remington’s Pharmaceutical Sciences 21st edition、Osol, A.編(2006年)に記載のものなどの、1つまたは複数の他の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を、それらが処方物の所望の特徴に悪影響を及ぼさないという条件で、処方物中に含めることができる。許容される担体、賦形剤または安定剤は、採用する投与量および濃度でレシピエントに毒性がなく、追加の緩衝剤、共溶媒、アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤、EDTAなどのキレート剤、金属錯体(例えばZn-タンパク質複合体)、ポリエステルなどの生分解性ポリマー、ならびに/またはナトリウムなどの塩形成対イオンを含む。
【0190】
インビボの投与に使用する処方物は、無菌でなければならない。これは、処方物を調製する前または後に、無菌ろ過膜を通すろ過によって容易に成し遂げられる。
【0191】
製剤は、抗体での処置を必要とする哺乳動物、好ましくはヒトに、公知の方法に従って、例えば、ボーラスとして、またはある期間にわたる持続的な注入による静脈内投与、筋肉内経路、腹腔内経路、脳脊髄内(intracerobrospinal)経路、皮下経路、関節内経路、滑液包内経路、髄腔内経路、経口経路、局所経路、もしくは吸入経路、または本明細書に記載する他の経路によって投与される。ある実施形態では、製剤は、静脈投与によって哺乳動物に投与される。このような目的で、製剤を、例えば、シリンジを用いて、またはIVラインによって注射してもよい。
【0192】
抗体の好適な投与量(「治療有効量」)は、例えば、処置する状態、状態の重症度および経過、抗体を予防の目的で投与するか、または治療の目的で投与するか、以前の治療法、患者の病歴および抗体に対する反応、用いる抗体のタイプ、ならびに担当医の自由裁量に依存する。抗体を一度に、または一連の処置にわたって、患者に投与することが適切であり、診断後のあらゆる時間に患者に投与することができる。抗体を単一の処置として投与してもよく、または問題の状態を処置する上で有用な他の薬物もしくは治療法と組み合わせて投与してもよい。
【0193】
一般的な提案として、投与する抗体の治療有効量は、1回の投与でもまたは複数回の投与でも、患者の体重あたり約0.1mg/kgから約100mg/kgの範囲であり、用いる抗体の典型的な範囲は、例えば、毎日投与して、約0.3mg/kgから約20mg/kgであり、より好ましくは約0.3mg/kgから約15mg/kgである。しかし、他の投与量レジメンも有用であり得る。この治療法の経過は、従来の技術によって容易にモニタリングされる。
【0194】
ある実施形態では、本発明の抗TNFα抗体を含む薬学的組成物は、TNF媒介性障害に罹患している患者に投与される。
【0195】
本発明の別の一実施形態では、本発明の水性の薬学的製剤を保持する容器を含む製造品を提供し、必要に応じてそれを使用するための指示(instruction)を提供する。適切な容器は、例えば、ビン、バイアル、およびシリンジを含む。容器はガラスまたはプラスチックなど多様な材料から形成されてよい。一例示的な容器は3~20ccの1回使用のガラスバイアルである。あるいは、マルチドーズ製剤に対して、容器は3~100ccのガラスバイアルであってよい。容器は、製剤およびその上またはそれに付随するラベルを保持し、容器は使用のための指示(direction)を示す場合がある。製造品は、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用のための指示を有する包装挿入物を含めた、商業的および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0196】
本明細書全体を通して引用する、あらゆる特許、特許出願、および参考文献の内容は、これらの全体が参照によって本明細書に組み入れられる。
【0197】
状況によって別段に必要とされなければ、本明細書で用いる単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。
【実施例】
【0198】
(例示)
本開示を、さらに限定するものと解釈すべきではない以下の実施例によってさらに説明する。全ての図ならびにこの出願全体にわたって引用される全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、それらの全体が参照により本明細書に明示的に援用される。
【0199】
実施例全体にわたり、特に明記しない限り、以下の材料および方法を使用した。
【0200】
(一般的な材料および方法)
一般的に、本発明の実施では、特に示さない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば抗体技術)の従来技法、およびポリペプチド調製の標準技法を採用する。例えば、Sambrook、FritschおよびManiatis、Molecular Cloning: Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989年);Antibody Engineering Protocols(Methods in Molecular Biology)、510巻、Paul, S.、Humana Pr(1996年);Antibody Engineering: A Practical Approach(Practical Approach Series、169巻)、McCafferty編、Irl Pr(1996年);Antibodies: A Laboratory Manual、Harlowら、C.S.H.L. Press, Pub.(1999年);およびCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubelら編、John Wiley & Sons(1992年)を参照されたい。
【0201】
(熱安定性の測定)
減衰全反射フーリエ変換IR(FTIR-ATR)スペクトルを、Tensor BrukerにおけるFT-IR Bio-ATRセルを使用して、様々な単鎖および追加の分子に関して入手した。分子を、3mg/mlまで濃縮し、PBS(pH6.5)に対して4℃で一晩中透析し、緩衝液のフロースルー(flow through)をブランクとして採取した。変性プロファイルを、5℃ステップ(25から95℃)の広範な温度で分子を熱チャレンジ(challenge)することによって入手した。全てのスペクトルの操作は、OPUSソフトウェアを用いて行った。主な緩衝液および一過性の雰囲気(CO2およびH2O)のバックグラウンドは、タンパク質スペクトルから差し引いた。結果のタンパク質スペクトルを、次いでベースライン補正し、タンパク質アミドIスペクトルを、期待される領域における最大幅の分解可能なピークの幅から決定した。第2の誘導体スペクトルを、平滑関数による3次多項式関数を用いて、アミドIバンドスペクトルに関して入手した。タンパク質構造における変化を、3つの低度測定に関して0%の変性、および3つの高度測定に関して100%変性と仮定する、初期カーブフィット(curve-fit)計算についての直線検定曲線を用いて、アミドIの第2誘導体分析によって、推定した。変性プロファイルを、ボルツマンシグモイドモデル(Boltzmann sigmoidal model)に適用する改変体毎の熱アンフォールディング転移(TM)の中間点を概算するのに使用した。
【0202】
(可溶性の測定)
様々なscFv分子の相対的な可溶性を、硫酸アンモニウムの存在下でタンパク質の凝集および沈殿を増強させた後、測定した。硫酸アンモニウムを水溶液中のタンパク質に添加し、塩-タンパク質の最終混合物における飽和を5%増加させた。動的な範囲における沈殿を実験的に決定し、飽和間隔は、最終混合物において2.5%の飽和間隔までこの範囲で減少した。硫酸アンモニウムの添加後、試料を静かに混合し、6000rpmで30分遠心分離した。上清中に残ったタンパク質を、硫酸アンモニウムの飽和のパーセント毎に回収した。溶解曲線を、NanoDropTM1000 Spectrophotometerを使用して、上清中のタンパク質濃度を測定することによって決定した。上清中に残った可溶性タンパク質の測定を正規化し、ボルツマンシグモイドモデルに適用する改変体毎の相対的な可溶性の中間点を推定するのに使用した。
【0203】
(短期間の安定性試験)
タンパク質を、可溶性凝集物および分解産物に関して、40℃で2週間インキュベーションした後、調べた。10mg/mlの濃度のタンパク質を、広範なpH(3.5、4.5、5.5、6.5、7.0、7.5および8.5)のPBSに対して4℃で一晩中透析した。標準緩衝液PBS(pH6.5)中の同じ濃度の対照タンパク質を、2週間の間-80℃で保管した。SDS-PAGEによる分解のバンドの決定は、t=0およびt=14d時点で行い、可溶性凝集物をSEC-HPLCにおいて評価した。40℃で2週間後、残った活性の決定を、Biacoreを使用して行った。
【0204】
(実施例1)
凝集を低減するための、抗TNFα scFv抗体である34rFW1.4の最適化
34rFW1.4抗体は、溶液中でのpH依存性凝集の傾向を示す。578rFW1.4抗体(国際特許出願第WO2009155724を参照されたい)は、34rFW1.4と同じフレームワーク構造を共有するが、凝集の傾向を示さない。ホモロジーモデルを生成して、以下の通りその凝集傾向を低減するように改変され得る34rFW1.4における潜在的な残基を同定した。
【0205】
可変ドメイン配列を用いて、34rFW1.4抗体および578rFW1.4抗体のホモロジーモデルを構築した。モデルを生成するために、BLASTアルゴリズムベースの検索を用いて、各抗体に対する軽鎖(VL)および重鎖(VH)の可変ドメイン配列に対する鋳型構造を別々に同定した。抗体におけるフレームワーク領域が高度に保存されているため、BLOSUM80(発散の少ない(less divergent)アラインメントに対するマトリックス)を、アラインメントに対するマトリックスとして用いた。クエリー配列に対して70%を超える同一性を示した、各鎖(VL/VH)に対する個々の鋳型を選択した。
【0206】
Discovery Studioバージョン2.5.5(DS 2.5.5)ソフトウェア(Accelrys,Inc.、San Diego、CA)のMODELERプログラムを用いて、同定された可変ドメインの鋳型に基づいて100個のscFvモデルを生成した。鋳型構造でモデル化される基準の抗体配列のアラインメントを入力データとして用いた。水素原子以外を全て含むモデル100個を生成した。最良のモデル構造を、PDF(確率密度関数)物理的エネルギースコアに基づいて選択した。VHおよびVLドメインの相対的な配置を、モデル化された両方の(VLおよびVH)配列に対して最高のホモロジーを有する可変ドメイン鋳型構造からのものと適合するようにセットした。モデルにおける代替のコンホーメーションを除去し、末端を加え、欠けている側鎖原子を加えた。CHARMM力場をscFvモデルに対して適用し、絶対的溶媒モデルとして、0.01のRMS GradientおよびGeneralized Born with Molecular Volume(GBMV)を用いて2000サイクルのエネルギー最小化にかけた。
【0207】
各々の抗体に対してタンパク質のイオン化および残基のpK計算を行った。計算は、Bashford およびKarplus、1991年によって開発された理論に基づき、Discovery Studioバージョン2.5.5(DS 2.5.5)に含まれるプロトコールインプリメンテーションを用いて行った。タンパク質のイオン化および残基のpK計算の結果を、側鎖のpK1/2、ならびにAsp、Glu、Arg、Lys、His、Tyr、Cys、抗体のN末端およびC末端残基を含む、滴定できる各残基の滴定曲線に関して2つの分子に対して比較した。
【0208】
CHARMM力場をscFvモデルに対して適用し、pH7.4でプロトン化し、滴定曲線および個々の残基のpKを、0.2のpHステップを用いてpH2からpH14の範囲まで計算した。578rFW1.4抗体の軽鎖の47位および50位の2つの保存されているLys残基は、34rFW1.4におけるこれらの位置のLysと比べて異なっていた(
図1を参照されたい)。
好ましい置換の導入
Discovery Studioソフトウェアを用いて分子ダイナミクスシミュレーションを行って、VLとVHとの間の相互作用親和性を改善する変異を予測し、それによってドメインが分解し、オリゴマーおよび/またはより高次の凝集物を形成するのを防いだ。34rFW1.4抗体のVL/VH境界の安定性を、自由エネルギーGとしてエネルギー関係として推定した。CHARMMプロトコール適合(DS2.5.5にも含まれる)を用いて、scFvヘテロ二量体複合体全体と、個々の各可変ドメインのエネルギーの合計との間のエネルギーの差を計算した。計算は、Generalized Born with Molecular Volume integration(GBMV)を用いて、絶対的溶媒方法の状況で行った。両方のドメインおよび複合体のエネルギーを計算し、出力を、複合体と以下の計算による個々のドメインの合計との間のエネルギーにおける差として決定した:G境界=G(a)-G(b)-G(c)
[式中、G(a)は抗体のエネルギーであり、G(b)はVLのエネルギーであり、G(c)はVHのエネルギーである]。
【0209】
アルギニン(R)に対する側鎖のpKa値(12.5)はリジン(K)のpKa値(10.5)より高いので、Rを、47位および50位のKに代えての可能な残基の置換として選択した。それぞれの位置で個々にRをKに置き換えることによって、変異体K47RおよびK50Rを産生した。2000サイクルのエネルギー最小化を、変異周辺の領域に対して10オングストロームまたはそれより近い残基に対して行って、新しいモデル分子を変化に適応させた。これらのエネルギー最小化のラウンドに対する絶対的溶媒モデルはGBMVであった。変異体に対して予測される平均のデルタGは-94kcal/molであった。したがって、変異の寄与は、親の抗TNF scFv抗体に比べて4kcal/molであると推定された。
【0210】
(実施例2)
最適化した34rFW1.4抗体の安定性分析
K50R変異体およびK47R変異体を、34rFW1.4抗体(その内容が全体において参照によって本明細書に組み入れられる、2009年6月25日出願の、同時係属中の国際特許出願第PCT/CH2009/000219において開示されている)において産生した。インビボにおけるその免疫原性を低減するためのさらなる置換を有する34rFW1.4の別の変異体を、米国特許出願第12/973,968号に記載されている方法にしたがって調製した。特に、34rFW1.4_VLK50R_DHPと呼ばれる第3の変異体は、重鎖12位(AHo番号付け)にセリン(S)、重鎖103位(AHo番号付け)にスレオニン(T)、および重鎖144位(AHo番号付け)にスレオニン(T)を含んでいた。親および変異体34rFW1.4抗体の安定性試験を、以下の通り加速条件下で行った。
【0211】
34rFW1.4抗体、変異体の34rFW1.4_VL_K50R、および34rFW1.4_VLK50R_DHPを、リン酸緩衝食塩水(50mM Na2HPO4、150mM NaCl、pH6.5)調合物中20mg/mL、40mg/mL、および60mg/mLまで濃縮し、40℃で2週間インキュベートした。34rFW1.4および34rFW1.4_K47R抗体を、リン酸緩衝食塩水(50mM Na2HPO4、150mM NaCl、pH6.5)調合物中20mg/mLおよび60mg/mLまで濃縮し、40℃で2週間インキュベートした。試料を、14日間のインキュベートの前および後に、還元および非還元条件下で12.5%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を用いて、分解に対して分析した。サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)を用いて、インキュベート期間の前および後の試料のモノマー含量および可溶性凝集物を決定した。モノマーを、非モノマー種から、TSKgel Super SW2000カラム(TOSOH Bioscience)上で分離し、モノマータンパク質のパーセント値を、全生成物ピークの合計面積によって除したモノマーピークの面積として計算した。34rFW1.4および34rFW1.4_VLK50R_DHPに対する試験の結果をそれぞれ、
図2A~B、
図3A~B、および
図4A~Bに示す。34rFW1.4_VL_K50Rに対する結果を、
図5B、
図6B、および
図7Bに示す。これらの実験は、34rFW1.4_VLK50R_DHPが、34rFW1.4と比べて凝集の傾向が低減することを実証した。変異体34rFW1.4_K47Rも、
図8Bおよび9Bに示すような低減を実証した。
【0212】
さらに、34rFW1.4および34rFW1.4_VLK50R_DHP抗体の熱安定性および結合親和性を比較した。結果は、34rFW1.4_VLK50R_DHP抗体を産生するように行われた変異は、親の34rFW1.4抗体に比べて安定性または結合活性に影響を及ぼさないことを実証した。
【0213】
(等価物)
前述の記載を考慮すると、本発明の多くの修正および代替の実施形態が、当業者に明らかである。したがって、この記載は、単なる例示として解釈すべきであり、本発明を実施するのに最良の様式を当業者に教示するためのものである。構造の詳細は、本発明の精神から逸脱することなく実質的に変えることができ、添付の特許請求の範囲内となる全ての修正の独占的使用権を保有する。本発明は、添付の特許請求の範囲および適用可能な法律の規則によって要求される程度にのみ制限されるものであると意図する。
【0214】
特許、特許出願、論説、書籍、論文、論述、ウェブページ、図および/または添付書類を含む、本出願に引用された全体献および類似物は、かかる文献および類似物の書式に関わらず、参照によりそれらの全体が明示的に援用される。援用された文献および類似物の1つまたは複数が、定義された用語、用語の使用法、記載された技法または同様のものを含む本明細書と異なるか相反する場合には、本明細書が優先される。
【0215】
本明細書で使用される節の見出しは、単に構成のためのものであり、記載された主題を限定するものと決して解釈すべきではない。
【0216】
本発明は、様々な実施形態および実施例と併せて記載されているが、本教示がかかる実施形態または実施例に限定されるという意図はない。それどころか、当業者に理解されるように、本発明は、様々な代替、修正および等価物を包含する。
【0217】
特許請求の範囲は、その趣旨を述べない限り、記載された順番または要素に限定されると読むべきではない。形態および詳細の様々な変更は、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、行うことができると理解すべきである。したがって、以下の特許請求の範囲およびその等価物の範囲および精神内となる全実施形態が特許請求される。
【配列表】