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特許7148231ポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法
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  • 特許-ポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法 図1
  • 特許-ポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20220928BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220928BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220928BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20220928BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C08L27/06
B32B27/22
B32B27/20 Z
B32B27/30 101
B32B27/00 M
C08L51/04
C08J5/18 CEV
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017180430
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019056045
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀明
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-120655(JP,A)
【文献】特開昭63-245456(JP,A)
【文献】特開平10-219056(JP,A)
【文献】特開2005-028796(JP,A)
【文献】特開2005-023165(JP,A)
【文献】特開2012-211245(JP,A)
【文献】特開平10-139976(JP,A)
【文献】特開2003-160707(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106633485(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102848688(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル樹脂と、ポリエステル系可塑剤と、耐寒衝撃材と、を含み、
前記ポリエステル系可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下であり、
前記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、2000以上、3500以下であり、
前記耐寒衝撃材の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下であり、
前記耐寒衝撃材は、コア部及び前記コア部を覆うシェル部を備え、
前記コア部は、シリコーン-アクリル系ゴムを含むことを特徴とするポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項2】
厚みが、60μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニルフィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリ塩化ビニルフィルムと、粘着剤層とを有することを特徴とするマーキングフィルム。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかに記載のポリ塩化ビニルフィルムと、粘着剤層と、成形品とをこの順に有することを特徴とする加飾成形品。
【請求項5】
樹脂組成物を用いて、カレンダー加工によりポリ塩化ビニルフィルムを製膜する工程を含み、
前記樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、ポリエステル系可塑剤と、耐寒衝撃材と、を含み、
前記ポリエステル系可塑剤の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下であり、
前記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、2000以上、3500以下であり、
前記耐寒衝撃材の含有量は、前記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下であり、
前記耐寒衝撃材は、コア部及び前記コア部を覆うシェル部を備え、
前記コア部は、シリコーン-アクリル系ゴムを含むことを特徴とするポリ塩化ビニルフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルフィルム等の樹脂製品には、要求される性能を発現させるために、1種又は数種の改質剤が添加される。
【0003】
ポリ塩化ビニル等の樹脂に用いられる改質剤として、例えば、特許文献1には、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴムもしくはシリコーン/アクリル系複合ゴムから選択されるゴム状重合体にビニル系単量体がグラフトしたグラフト共重合体であり、特定の平均粒子径を有する樹脂用改質剤が挙げられており、上記樹脂用改質剤を用いることにより、製品の外観が良好で、十分な衝撃強度を付与することができることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリコーン変性アクリルゴム系グラフト共重合体粒子を構成するシリコーン変性アクリルゴム粒子の構成成分であるアクリルゴムの製造の際に、アクリルゴム形成成分の共重合が多段階で行われ、かつ、各段階で多官能単量体の使用割合が異なるシリコーン変性アクリルゴム粒子が挙げられており、上記シリコーン変性アクリルゴム粒子を用いることにより、特に低温下で熱可塑性樹脂の高い耐衝撃性を発現させることができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5069857号公報
【文献】特開2000-212231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ポリ塩化ビニルフィルム、特に、意匠を印刷して使用されるマーキング用途のポリ塩化ビニルフィルムは、自転車、自動二輪、自動車、バス、電車等の車両、又は、これらの部品等の一部に貼り付けて用いられる。樹脂フィルムを製造する観点から、一般的に、樹脂フィルムには優れた加工性(フィルムを製膜する際の加工性)が求められるが、特に、上記車両等に用いられるポリ塩化ビニルフィルムはガソリンに晒されるため、上記加工性に加えて、耐ガソリン性も要求される。更に、近年、寒冷地での使用に耐え得るよう、上記車両等に用いられるポリ塩化ビニルフィルムには耐寒衝撃性も求められている。
【0007】
樹脂フィルムの耐寒衝撃性は、低温時に柔軟なフィルムであるほど良好となる。ポリ塩化ビニルフィルムの場合、一般的に、添加する可塑剤の量を増加することによりフィルムに柔軟性を付与することができる。しかしながら、本発明者の検討によると、柔軟性を付与するために、可塑剤量を増やすと、ポリ塩化ビニルフィルムの耐ガソリン性が低下することを見出した。上記耐ガソリン性の低下は、上記ポリ塩化ビニルフィルム中の可塑剤がガソリンへ溶出したり、粘着剤へ移行したりすることにより、上記ポリ塩化ビニルフィルムの粘着力が低下することが原因と考えられる。
【0008】
本発明者は、更に、耐ガソリン性の低下を抑えつつ、耐寒衝撃性を向上させるため、ポリ塩化ビニルフィルムに、可塑剤に加えて耐寒衝撃材を添加する方法に着目した。その結果、耐寒衝撃材を添加することにより、可塑剤量を抑えても耐寒衝撃性を向上させることができ、耐ガソリン性及び耐寒衝撃性を両立することが可能であるものの、可塑剤の添加量が減少することによりフィルムの加工性が低下することを見出した。そのため、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルムを得るには、更なる検討の余地があった。
【0009】
以上のことから、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルムが求められている。しかしながら、上記特許文献1及び2では、フィルムの耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を向上させる技術については何ら開示されていない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルム、マーキングフィルム、加飾成形品、及び、上記ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルム及びその製造方法について種々の検討を行った。そして、ポリ塩化ビニルフィルムにおける可塑剤及び耐寒衝撃材の含有量をそれぞれ特定の範囲とし、かつ、ゴム状重合体を含むコア部及び上記コア部を覆うシェル部を備える耐寒衝撃材を用いることにより、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルムを得ることができることを見出し、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達した。ここで、本明細書において、耐ガソリン性とは、上記フィルムがガソリンに晒された場合における、上記フィルムの剥離のし難さを言う。上記「フィルムの剥離」は、フィルム中に含まれる可塑剤がガソリンに溶解し、フィルムが膨潤等で変形することにより被着体から剥離することを言う。耐寒衝撃性とは、低温下で衝撃を受けた場合における、上記フィルムの割れの発生のし難さを言う。本明細書において、加工性とは、フィルムを製膜する際の加工性を言う。
【0012】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材と、を含み、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下であり、上記耐寒衝撃材の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下であり、上記耐寒衝撃材は、コア部及び上記コア部を覆うシェル部を備え、上記コア部は、ゴム状重合体を含むことを特徴とする。
【0013】
上記ゴム状重合体は、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム及びシリコーン-アクリル系ゴムから選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0014】
上記ポリ塩化ビニルフィルムは、厚みが、60μm以下であることが好ましい。
【0015】
本発明のマーキングフィルムは、本発明のポリ塩化ビニルフィルムと、粘着剤層とを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の加飾成形品は、本発明のポリ塩化ビニルフィルムと、粘着剤層と、成形品とをこの順に有することを特徴とする。
【0017】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムの製造方法は、樹脂組成物を用いて、カレンダー加工によりポリ塩化ビニルフィルムを製膜する工程を含み、上記樹脂組成物は、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材と、を含み、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下であり、上記耐寒衝撃材の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下であり、上記耐寒衝撃材は、コア部及び上記コア部を覆うシェル部を備え、上記コア部は、ゴム状重合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムによれば、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を実現させることが可能である。本発明のポリ塩化ビニルフィルムの製造方法によれば、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルム(本発明のポリ塩化ビニルフィルム)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備えるマーキングフィルムの一例を模式的に示した断面図である。
図2】本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備える加飾成形品の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ポリ塩化ビニルフィルム>
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材と、を含み、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下であり、上記耐寒衝撃材の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下であり、上記耐寒衝撃材は、コア部及び上記コア部を覆うシェル部を備え、上記コア部は、ゴム状重合体を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材とを含有する。ポリ塩化ビニルフィルムは、伸びがよく、破断し難いことから、三次元曲面への貼り付けが容易である。また、印刷性に優れること、130℃程度の比較的低温で軟化するため加飾成形に優れることから、マーキングフィルムの基材として好適である。本発明では、フィルムの加工及び加飾成形に適した柔軟性を付与するために、塩化ビニル樹脂に対して、可塑剤を添加している。柔軟性を付与することで、耐寒衝撃性も向上させることができる。塩化ビニル樹脂自体は、ガソリンによる影響はほとんど受けないが、可塑剤がガソリンへ溶出したり、粘着剤へ移行したりすることにより、上記ポリ塩化ビニルフィルムの粘着力が低下する、すなわち、耐ガソリン性が低下することがある。本発明では、耐ガソリン性を維持するために、可塑剤の添加量を特定の範囲に調整し、可塑剤の添加量の減少による耐寒衝撃性の低下を、特定量の耐寒衝撃材を添加することで補っている。
【0022】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムの膜厚(厚み)の上限は、60μmであることが好ましい。このような態様とすることにより、マーキングフィルムに適した柔軟性及び成形性を得ることができる。本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、可塑剤の含有量が所定範囲に調整されており、加工性に優れるため、60μm以下の膜厚のフィルムであっても、容易に加工することができる。また、コストを抑えることが可能である他、上記ポリ塩化ビニルフィルムの重量抑制により、軽量化、及び、廃棄物減少による環境負荷低減が可能になる。更に、有機物減少により燃焼時の発熱量を低下させることが可能となる。本発明のポリ塩化ビニルフィルムの膜厚の下限は、加工性及び耐寒衝撃性の観点から20μmであることが好ましい。本発明は、加工性の中でも、特に、カレンダー加工によりフィルムを製膜する際のカレンダー加工性に優れる。
【0023】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、透明であってもよく、着色されていてもよい。上記ポリ塩化ビニルフィルムが透明であると、マーキングフィルムを貼り付ける成形品の表面の装飾等を活かして装飾をすることができる。
【0024】
[塩化ビニル樹脂]
上記塩化ビニル樹脂としては、例えば、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニルと他の単量体との共重合体を挙げることができる。寸法安定性が得られる点から、塩化ビニルの単独重合体が好ましい。
【0025】
上記他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;エチレン、プロピレン、スチレン等のオレフィン;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル等のマレイン酸ジエステル;フマル酸ジブチル、フマル酸ジエチル等のフマル酸ジエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記塩化ビニル樹脂は、平均重合度が800以上、1400以下であることが好ましい。一般的に、塩化ビニル樹脂の平均重合度が高いほど、塩化ビニル樹脂に対して、可塑剤、充填剤、顔料等の他の材料を添加できる量が増加する。そのため、上記範囲内において、塩化ビニル樹脂の平均重合度が高いほど、添加した可塑剤がガソリンに溶出したとしても、ポリ塩化ビニルフィルムのカールや波打ち等の不具合の発生を抑制できるものと推察される。上記塩化ビニル樹脂の平均重合度が800未満であると、加熱して溶解させた場合の溶融張力が低下して、フィルム状に成形することが困難となるおそれがある。また、フィルム表面に他の材料がブリードアウトしやすくなるため、添加できる他の材料の量が少なくなるおそれがある。一方、上記塩化ビニル樹脂の平均重合度が1400を超えると、ポリマー鎖の絡み合いが強くなるため、カレンダー加工等で延伸してフィルム状に製膜する際のせん断力が大きくなり、製膜性が低下するおそれがある。上記塩化ビニル樹脂の平均重合度のより好ましい下限は1000であり、より耐ガソリン性を高めることができる。なお、塩化ビニル樹脂の平均重合度は、JIS K 6721「塩化ビニル系樹脂試験方法」に準拠して測定した平均重合度を意味する。
【0027】
[可塑剤]
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、可塑剤を含み、上記可塑剤の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、13重量部以上、23重量部以下である。上記可塑剤の含有量が13重量部未満であると、充分な加工性が得られない。一方、上記可塑剤の含有量が23重量部を超えると、ガソリンにより溶解又は膨潤する可塑剤の量が増え、上記ポリ塩化ビニルフィルムの耐ガソリン性が低下する。一般的に、可塑剤の含有量が少ないとポリ塩化ビニルフィルムの加工性は低下するが、本発明では更に耐寒衝撃材を含有するため、より加工性が低下する。本発明では、上記可塑剤の含有量を上記範囲内とすることにより、耐寒衝撃材による耐寒衝撃性を得つつ、可塑剤の含有量を調整することで、優れた加工性と耐ガソリン性を得ることができる。上記可塑剤の含有量の好ましい上限は、20重量部である。上記可塑剤の含有量の好ましい下限は、15重量部である。上記可塑剤の含有量が、上記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、15重量部以上であると、上記可塑剤としてポリエステル系可塑剤(例えば、数平均分子量が2000以上のポリエステル系可塑剤)を用いる場合であっても、加工性を向上させることができる。上記可塑剤の含有量のより好ましい下限は、18重量部である。
【0028】
上記可塑剤は、ポリ塩化ビニルフィルムを加工し易くすることができるものであればよく、上記可塑剤としては、ポリ塩化ビニルフィルムの分野において通常使用されるものを用いることができ、例えば、フタル酸オクチル(ジ-2-エチルヘキシルフタレート)、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル(DINP:Diisononyl phthalate)等のフタル酸可塑剤の他、脱フタル酸可塑剤として、ポリエステル系可塑剤;アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジオクチル等の脂肪族二塩基酸ジエステル系可塑剤;トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート等のリン酸トリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油やエポキシ樹脂等エポキシ系可塑剤等が挙げられる。可塑剤としては、脱フタル酸可塑剤を用いることが好ましく、ポリエステル系可塑剤を用いることがより好ましい。
【0029】
上記ポリエステル系可塑剤は、塩化ビニル樹脂との相溶性が良好である。また、上記ポリエステル系可塑剤は、上記塩化ビニル樹脂の可塑剤として一般的に用いられるフタル酸系可塑剤と比べて、高分子であるため、ガソリンに対して溶解、膨潤し難い。そのため、ポリエステル系可塑剤を用いることで、ポリ塩化ビニルフィルムにより柔軟性を付与して耐寒衝撃性をより高めつつ、耐ガソリン性をより向上させることができる。上記ポリエステル系可塑剤としては、例えば、アデカサイザーPN7535(ADEKA社製)、アデカサイザーPN7230(ADEKA社製)等を用いることができる。
【0030】
上記ポリエステル系可塑剤は、例えば、二塩基酸又はその無水物と二価アルコールとを直接重縮合させる方法、又は、二塩基酸のメチルエステル、エチルエステル等の低級アルキルエステルと二価アルコールとのエステル交換反応を行う方法等により製造することができる。
【0031】
上記二塩基酸又はその無水物としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、又は、無水フタル酸等が挙げられる。上記二塩基酸又はその無水物は、単独で用いてもよいし、二種以上混合してもよい。
【0032】
上記二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、又は、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0033】
なかでも、上記ポリエステル系可塑剤は、アジピン酸ポリエステル系可塑剤であることが好ましい。アジピン酸ポリエステル系可塑剤は、塩化ビニル樹脂との相溶性が高いことから、好適に用いることができる。アジピン酸ポリエステル系可塑剤は、アジピン酸と上記1種類又は2種類以上の二価アルコールとの反応生成物である。
【0034】
上記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、2000以上である。上記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量が2000未満であると、ガソリンに対して溶解、膨潤しやすくなり、耐ガソリン性が不充分となる場合がある。上記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量の好ましい下限は2500である。上記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、3500以下であることが好ましい。ポリエステル系可塑剤の数平均分子量が3500を超えると、耐ガソリン性が向上する一方で、ポリマー鎖の絡み合いが強くなるため、カレンダー加工等で延伸してフィルム状に製膜する際のせん断力が大きくなり、製膜性が低下することがある。また、せん断力が大きくなることで、製膜時に発熱し、塩化ビニル樹脂が分解することがあり、ポリ塩化ビニルフィルムの耐熱性が低下するおそれがある。また、溶融粘度が高くなるため、溶融樹脂の流動性が低下し、フローマークが発生する、表面が粗くなる等、ポリ塩化ビニルフィルムの外観不良が発生するおそれがある。上記ポリエステル系可塑剤の数平均分子量の、より好ましい上限は3000である。上記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定によるポリスチレン換算の測定値である。上記GPC測定方法は、定法に従って行われる。測定対象となるポリエステル系可塑剤の希薄テトラヒドロフラン溶液を調製し、流量条件0.6ml/minで東ソー社製GPC測定装置「HLC-8220GPC」を用いて測定する。カラムには、昭和電工社製「KF606M」と「KF603」を使用する。
【0035】
上記ポリエステル系可塑剤としては、アジピン酸ポリエステル系可塑剤であり、かつ、数平均分子量が、2000以上、3500以下であるものが好適である。具体的には、株式会社ADEKA社製 アデカサイザー(PN-7535、PN-350、P-300)等を用いることができる。
【0036】
[耐寒衝撃材]
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、耐寒衝撃材を含有する。上記耐寒衝撃材の含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部以上、30重量部以下である。このような態様とすることにより、上記ポリ塩化ビニルフィルムの耐寒衝撃性を向上させることができる。耐寒衝撃材の含有量が、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5重量部未満であると、耐寒衝撃性が悪化する。また、耐寒衝撃材の含有量が、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、30重量部を超えると、加工性が悪化する。本発明では、耐寒衝撃材にコアシェル構造を有する材料を用いるため、高充填することが可能となり、加工性を高めることができる。
【0037】
上記耐寒衝撃材は、コア部及び上記コア部を覆うシェル部を備える。上記コア部及び上記シェル部を備える構造は、コアシェル構造とも呼ばれる。上記コア部に含まれるゴム状重合体は、ゴム弾性を示す重合体であれば特に限定されない。ここで、ゴム弾性とは、高分子鎖の伸び縮みによって起こる弾性を言う。コア部にゴム状重合体を含むことにより、ポリ塩化ビニルフィルムに加えられた衝撃を吸収することが可能となり、耐寒衝撃性を向上させることができる。
【0038】
上記ゴム状重合体は、ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム及びシリコーン-アクリル系ゴムから選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。耐寒衝撃性に優れることから、上記ゴム状重合体は、シリコーン-アクリル系ゴムを含むことがより好ましい。
【0039】
上記ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエン及び必要に応じてこれと共重合し得る一種以上のビニル系単量体を重合することにより得ることができる。ここでビニル系単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体等がある。
【0040】
更に、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン等の芳香族多官能ビニル化合物、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート等の多価アルコール、トリメタクリル酸エステル、トリアクリル酸エステル、アクリル酸アリル、メタクリル酸アリル等のカルボン酸アリルエステル、ジアリルフタレート、ジアリルセバケート、トリアリルトリアジン等のジ及びトリアリル化合物等の架橋性単量体を併用することもできる。上記ビニル系単量体及び架橋性単量体は、一種または二種以上を使用することができる。連鎖移動剤として、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、α-メチルスチレン等を使用することができる。好ましくはt-ドデシルメルカプタンが使用できる。
【0041】
上記アクリル系ゴムは、1種もしくは2種以上のアルキル(メタ)アクリレート、及びこれと共重合し得る一種以上のビニル系単量体を重合することにより得ることができる。アルキル(メタ)アクリレートとしては、特に制限はなく、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。
【0042】
上記シリコーン系ゴムとしては、特に限定されるものではないが、好ましくはビニル重合性官能基を含有するポリオルガノシロキサンが好ましく用いられる。ポリオルガノシロキサンの製造に用いるジメチルシロキサンとしては、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられ、3~7員環のものが好ましい。具体的にはヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられるが、これらは単独でまたは二種以上混合して用いられる。
【0043】
また、ポリオルガノシロキサンの製造に用いるビニル重合性官能基含有シロキサンとしては、ビニル重合性官能基を含有しかつジメチルシロキサンとシロキサン結合を介して結合しうるものであり、ジメチルシロキサンとの反応性を考慮するとビニル重合性官能基を含有する各種アルコキシシラン化合物が好ましい。具体的には、β-メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシメチルシラン及びδ-メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等のメタクリロイルオキシシラン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン、p-ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン、更にγ-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。なお、これらビニル重合性官能基含有シロキサンは単独でまたは二種以上の混合物として用いることができる。
【0044】
上記シリコーン-アクリル系ゴムは、上記シリコーンゴムにアルキル(メタ)アクリレートゴムを複合化させたゴムである。シリコーン-アクリル系ゴムは、ポリオルガノシロキサン成分のラテックス中へアルキル(メタ)アクリレート成分を添加し、通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合することによって調製することができる。アルキル(メタ)アクリレートを添加する方法としては、ポリオルガノシロキサン成分のラテックスと一括で混合する方法とポリオルガノシロキサン成分のラテックス中に一定速度で滴下する方法がある。
【0045】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート及びヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられ、これらを単独でまたは二種以上併用して用いることができる。またグラフト共重合体を含む樹脂組成物の耐衝撃性および成形光沢を考慮すると、特にn-ブチルアクリレートの使用が好ましい。
【0046】
多官能性アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えばアリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、これらを単独で又は二種以上併用して用いることができる。重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中では、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせた系が好ましい。
【0047】
本発明の耐寒衝撃材におけるシェル部は特に限定されず、重合体を含むことが好ましい。上記シェル部に含まれる重合体は、上記ゴム状重合体に共重合可能なアクリル系単量体を重合させてなるポリマーであることが好ましい。すなわち、上記シェル部は、アクリル系ポリマーを含むことが好ましい。上記シェル部に含まれる重合体としては、例えば、アクリル系単量体、ビニル系単量体及びニトリル系単量体からなる群より選択される少なくとも一種の単量体を重合させてなるポリマーが挙げられる。ここで、アクリル系単量体を重合させてなるポリマーはアクリル系ポリマーともいい、ビニル系単量体を重合させてなるポリマーはビニル系ポリマーともいい、ニトリル系単量体を重合させてなるポリマーはニトリル系ポリマーとも言う。
【0048】
上記アクリル系単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;及び、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;が挙げられる。上記ビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン並びに各種ハロゲン置換及びアルキル置換スチレン等の芳香族ビニル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体;及び、ヒドロキシメタクリレート等のヒドロキシ基を有するビニル系単量体;が挙げられる。上記ニトリル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリルが挙げられる。
【0049】
本発明の耐寒衝撃材は、例えば、上記ジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム及びシリコーン-アクリル系ゴムから選ばれる少なくとも一種を含むゴム重合体の存在下に、一種以上の共重合可能なアクリル系単量体を添加し、グラフト重合させることにより得られる。グラフト重合においては、上記アクリル系単量体と共に、架橋性単量体及び/又は連鎖移動剤を使用することもできる。
【0050】
本発明の耐寒衝撃材におけるコア部及びシェル部の質量比は、コア部の全量及びシェル部の全量の総量を100質量%とした場合、シェル部の全量が5質量%以上、50質量%以下であることが好ましい。
【0051】
コア部がジエン系ゴムである耐寒衝撃材としては、例えば、メタブレン(登録商標)C-223(三菱ケミカル社製)、カネエース(登録商標)B-11A(カネカ社製)等を用いることができる。コア部がアクリル系ゴムである耐寒衝撃材としては、例えば、メタブレン(登録商標)W-300(三菱ケミカル社製)、カネエース(登録商標)FM-40(カネカ社製)等を用いることができる。コア部がシリコーン-アクリル系ゴムである耐寒衝撃材としては、例えば、メタブレン(登録商標)S-2001(三菱ケミカル社製)等を用いることができる。
【0052】
本発明の可塑剤及び耐寒衝撃材の含有量の総量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、30重量部を超え、45重量部未満であることが好ましい。このような態様とすることにより、耐ガソリン性及び耐寒衝撃性をより向上させることができる。
【0053】
また、本発明のポリ塩化ビニルフィルムにおける上記可塑剤の含有量は、上記耐寒衝撃材の含有量よりも多いことが好ましい。
【0054】
[その他の添加剤]
上記ポリ塩化ビニルフィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、安定剤、紫外線吸収材、滑剤、改質剤、無機粒子や無機繊維等の充填剤、希釈剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤としては、塩化ビニル樹脂に対して一般的に配合されるものを使用することができる。
【0055】
上記安定剤としては、例えば、脂肪酸カルシウム、脂肪酸亜鉛、脂肪酸バリウム等の金属石ケン;ハイドロタルサイト等が挙げられる。上記金属石ケンの脂肪酸成分としては、例えば、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸バリウム、リシノール酸バリウム等が挙げられる。また、上記安定剤としては、エポキシ系安定剤;バリウム系安定剤;カルシウム系安定剤;スズ系安定剤;亜鉛系安定剤;カルシウム-亜鉛系(Ca-Zn系)、バリウム-亜鉛系(Ba-Zn系)等の複合安定剤も使用することができる。
【0056】
上記安定剤を含有する場合、その含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.3重量部以上、5.0重量部以下が好ましい。上記含有量が0.3重量部未満では、安定剤を配合することによる効果が充分に発揮されない場合があり、一方、上記含有量が5.0重量部を超えると、安定剤がブルーム(噴き出し)するおそれがある。
【0057】
また、上記紫外線吸収材を含有する場合、その含有量は、上記塩化ビニル樹脂100重量部に対して、0.3重量部以上、2.0重量部以下が好ましい。上記含有量が0.3重量部未満では、あまり効果がなく、一方、上記含有量が2.0重量部を超えると、ポリ塩化ビニルフィルムの表面にブリードするおそれがある。
【0058】
上記ポリ塩化ビニルフィルムの製造方法は、特に限定されないが、例えば、ブレンダー等を用いて、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材とを混合した後、カレンダー加工等により形成することができる。
【0059】
<マーキングフィルム>
本発明のマーキングフィルムは、ポリ塩化ビニルフィルム11と、粘着剤層12を有する。以下に、図1を用いて、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備えるマーキングフィルムについて説明する。図1は、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備えるマーキングフィルムの一例を模式的に示した断面図である。図1に示したマーキングフィルム10は、印刷層14、ポリ塩化ビニルフィルム11と、粘着剤層12と、セパレーター13とをこの順に有する。ポリ塩化ビニルフィルム11としては、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを用いることができる。マーキングフィルム10は、耐ガソリン性及び耐寒衝撃性を有する。
【0060】
[粘着剤層]
粘着剤層12としては、マーキングフィルムの分野において通常使用される粘着剤を含有することができる。マーキングフィルムを、自転車、自動二輪、自動車、バス、電車等の車両、又は、これらの部品に貼り付ける場合は、常温(21℃~25℃)で充分な粘着力を発現する粘着剤が好ましい。上記粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤が挙げられる。上記アクリル系粘着剤は、常温で粘着力を発現できれば、溶剤系であっても、無溶剤系であってもよい。溶剤系としては、溶剤型粘着剤、非水系エマルジョン型粘着剤が挙げられる。無溶剤系としては、例えば、エマルジョン型粘着剤、紫外線硬化型粘着剤が挙げられる。
【0061】
粘着剤層12の厚さは、10μm以上、60μm以下が好ましい。粘着剤層12の厚さのより好ましい下限は、20μm、より好ましい上限は、50μmである。
【0062】
[セパレーター]
セパレーター13としては、フィルムの分野において通常使用されるものを用いることができる。セパレーター13は、離型フィルムであってもよいし、離型紙であってもよい。上記離型フィルムとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の樹脂フィルムに易剥離処理を施したものが挙げられる。上記離型紙としては、例えば、上質紙又はグラシン紙等の紙に、易剥離処理を施したものが挙げられる。上記易剥離処理としては、例えば、上記樹脂フィルム又は紙の上記粘着剤層と接触する面に、シリコーン系、アルキド系、フッ素系剥離剤等でコーティングする方法が挙げられる。セパレーター13は、上記粘着剤層側の表面だけ表面処理が施されてもよい。セパレーター13の厚さは、12μm以上、200μm以下であることが好ましい。セパレーター13の厚さのより好ましい下限は、50μm、より好ましい上限は、150μmである。
【0063】
[印刷層]
印刷層14は、ポリ塩化ビニルフィルム11の粘着剤層12と反対側の表面に印刷が施されたものである。ポリ塩化ビニルフィルム11への印刷は、例えば、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、静電印刷等により行うことができる。また、ポリ塩化ビニルフィルム11は、粘着剤層と反対側の表面に、エンボス加工等により微細な凹凸を有してもよい。
【0064】
[保護フィルム層]
マーキングフィルム10は、更に、印刷層14上に保護フィルム層を有してもよい。上記保護フィルムとしては、フィルムの分野において通常使用されるものを用いることができる。上記保護フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂、ポリプロピレン(PP)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等が挙げられる。
【0065】
マーキングフィルム10の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム11は、ブレンダー等を用いて、塩化ビニル樹脂と、可塑剤と、耐寒衝撃材とを溶融混練した後、カレンダー加工等により形成することができる。粘着剤層12は、各種コーティング装置、バーコート、ドクターブレード等の汎用の製膜装置や製膜方法を用いて、セパレーター13上に上記粘着剤組成物を塗工し、その後乾燥することにより形成することができる。ポリ塩化ビニルフィルム11上に粘着剤層12を積層することで、マーキングフィルム10を得ることができる。マーキングフィルム10が印刷層14を有する場合、印刷層14の形成は、ポリ塩化ビニルフィルム11上に粘着剤層12を積層する前であってもよいし、後であってもよい。
【0066】
マーキングフィルム10の施工方法は、例えば、マーキングフィルム10からセパレーター13を剥がし、粘着剤層12を介して成形品に張り付ける方法が挙げられる。マーキングフィルム10は、常温で貼り付けることができ、ドライヤー等で加熱しながら貼り付けてもよい。また、マーキングフィルム10は、手で成形品に張り付けることができる。
【0067】
上記成形品の材質は、特に限定されず、例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等の樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);鉄、銅、アルミニウム等の金属;合金等が挙げられる。
【0068】
上記成形品としては、特に限定されないが、例えば、自転車、バイク、自動車、バス、電車等の車両;ヘルメット;船;飛行機、ヘリコプター等の航空機;家具、家電製品等の家庭用品;キャビネット、事務机、パソコン等のオフィス用品;建造物の壁面、床面、天井、屋根、柱、看板、ドア、門;若しくは建築現場の建築材料等、又は、これらの部品が挙げられる。なかでも、高度な耐ガソリン性が要求されることから、バイク、自動車、バス、電車等の車両の一部に対して、好適に用いることができる。
【0069】
上記マーキングフィルムは、上記成形品の一部を装飾するためにステッカーとして用いることができる。上記ステッカーとしては、例えば、上記マーキングフィルムに所望の模様、文字等を印刷し、所望の形状に切断したものが挙げられる。具体的には、メーカーロゴ、エンブレム、又は、車種名等を印刷したステッカーを、車両等の一部に貼り付けて用いることができる。
【0070】
上記マーキングフィルムは、上記成形品の一部に貼り付けて用いることができる。具体的には、本発明のマーキングフィルムから上記セパレーターを剥がし、上記粘着剤層を介して成形品に張り付けることができる。
【0071】
<加飾成形品>
以下に、図2を用いて、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備える加飾成形品について説明する。図2は、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを備える加飾成形品の一例を模式的に示した断面図である。
【0072】
図2に示したように、加飾成形品100は、粘着剤層12を介して、ポリ塩化ビニルフィルム11を成形品20に張り付けたものであり、成形品20、粘着剤層12、ポリ塩化ビニルフィルム11の順に積層される。更に、ポリ塩化ビニルフィルム11の粘着剤層12と反対側に印刷層14を有してもよい。ポリ塩化ビニルフィルム11としては、本発明のポリ塩化ビニルフィルムを用いることができる。加飾成形品100は、耐ガソリン性及び耐寒衝撃性を有する。
【0073】
本発明のポリ塩化ビニルフィルムは、図2に示すように、加飾フィルムの基材としても用いることができる。加飾フィルムは、例えば、80℃~130℃に加熱し、フィルムを軟化させた状態で成形品に貼り付けて用いられる。
【0074】
真空・圧空成形による張り付けに好適であることから、粘着剤層12は、ホットメルト型接着剤を含有することが好ましい。上記ホットメルト接着剤としては、例えば、ポリエステル系ホットメルト接着剤、アクリル系ホットメルト接着剤、ゴム系ホットメルト接着剤、シリコーン系ホットメルト接着剤等が挙げられる。例えば、例えば、日立化成ポリマー社製ハイボン7663等が挙げられる。
【0075】
上記加飾フィルムの施工方法は、例えば、マーキングフィルム10からセパレーター13を剥がし、粘着剤層12を介して成形品に張り付ける方法が挙げられ、具体的には、真空成形、圧空成形(TOM成形)、真空・圧空成形、インモールド成形、フィルムインサート成形、ラミネート等の方法を用いることができる。なかでも、真空・圧空成形を用いることが好ましい。
【実施例
【0076】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0077】
(実施例1)
平均重合度が1000の塩化ビニル樹脂100重量部に対して、可塑剤を20重量部、耐寒衝撃材を15重量部、添加し、ブレンダーを用いて10分間溶融混練し、溶融混合物(PVCコンパウンド)を得た。得られたPVCコンパウンドを、逆L型カレンダーロールを用いてカレンダー加工を行い、実施例1のポリ塩化ビニルフィルムを得た。可塑剤としては、数平均分子量が3000のポリエステル系可塑剤(ADEKA社製 アデカサイザーPN7535)を用いた。耐寒衝撃材としては、コア部にシリコーン-アクリル系ゴムを含み、シェル部にアクリル系ポリマーを含む、コアシェル構造の耐寒衝撃材(三菱ケミカル社製、メタブレン(登録商標)S-2001)を用いた。ポリ塩化ビニルフィルムの膜厚(厚み)は、50μmであった。
【0078】
(実施例2~9、及び、比較例1~6)
下記表1に示したように配合を変更したことを除いて実施例1と同様にして、実施例2~9及び比較例1~6に係るポリ塩化ビニルフィルムをそれぞれ作製した。実施例2では、コア部にジエン系ゴム(ブタジエンゴム)を含み、シェル部にアクリル系ポリマーを含むコアシェル構造を有する耐寒衝撃材(三菱ケミカル社製、メタブレン(登録商標)C-223)を用いた。実施例3では、コア部にアクリル系ゴムを含み、シェル部にアクリル系ポリマーを含むコアシェル構造を有する耐寒衝撃材(三菱ケミカル社製、メタブレン(登録商標)W-300)を用いた。
【0079】
(ポリ塩化ビニルフィルムの評価)
実施例及び比較例で作製したポリ塩化ビニルフィルムについて、下記の方法により、(1)耐ガソリン性、(2)耐寒衝撃性、(3)耐候性、及び、(4)加工性の評価を行った。また、(1)~(4)の結果から、総合評価を行った。
【0080】
(1)耐ガソリン性
実施例及び比較例で作製したポリ塩化ビニルフィルムに粘着剤を塗布し、ポリプロピレン板(以下、PP板とも言う。)に貼り付けた後、イソオクタンとトルエンの混合溶剤(混合比1:1)に浸漬した。その後、目視にて、各ポリ塩化ビニルフィルムがPP板から剥離するまでの時間を計測し、耐ガソリン性を評価した。
〇:ポリ塩化ビニルフィルムがPP板から剥離するまでの時間が25分以上。
×:ポリ塩化ビニルフィルムがPP板から剥離するまでの時間が25分未満。
【0081】
(2)耐寒衝撃性
実施例及び比較例で作製したポリ塩化ビニルフィルムを、それぞれ、5℃、0℃、-5℃、-10℃、-15℃及び-20℃となるまでしばらく放置してから、各温度において、デュポン式(打ち型半径6.35mm、錘500g、落下高さ100mm)にて、デュポン式落下衝撃試験機(安田精機製作所製)を使用して、ポリ塩化ビニルフィルムに割れが発生する温度(耐寒衝撃温度)を評価した。
〇:耐寒衝撃温度が0℃以下。
×:耐寒衝撃温度が0℃を超える。
【0082】
(3)耐候性
実施例及び比較例で作製したポリ塩化ビニルフィルムについて、JIS B7753に準拠した耐候性試験機(例えば、サンシャインウェザメーター)を用いて、JIS B7753に準拠した方法で、1000時間の促進耐候性試験を行った。それぞれのポリ塩化ビニルフィルムについて、促進耐候性試験後の変色の程度を目視にて確認した。以下の評価基準で、耐候性を評価した。
○:変色は確認されなかった。
△:使用上影響しない程度の変色が確認された。
×:使用できない程度の変色が確認された。
【0083】
(4)加工性
実施例及び比較例において、ポリ塩化ビニルフィルムを作製する際に調製した、塩化ビニル樹脂と可塑剤と耐寒衝撃材とを含む材料を、2本のロールを備えた製膜装置にて10分間混練し、上記2本のロールにギャップを作り、混錬後の上記材料を圧延し、それぞれ厚さ0.2mmのシート(フィルム)に形成した。加工性の評価で用いた装置は、実施例1の製造に用いた逆L型カレンダーロールを備えた装置とは異なる装置であるが、カレンダー加工性を評価できるものである。上記シートを形成する際に、以下の《1》~《4》の項目を評価し、下記評価基準により評価した。なお、以下《1》のバンク回転にムラがある、すなわち、バンク回転がスムーズでない場合、バンクの脈動でシートの厚みムラが発生する場合がある。また、上記材料のロール密着性が悪く、バンクが滑った状態であると、外観不良として、エアーを巻き込んでピンポールが発生する場合がある。以下《2》及び《4》により、エアーカスレやフローマークを判断することができる。上記エアーカスレは、材料に残ったエアーが延伸時にへこみスジを引くことにより発生する不良であり、極端な場合は穴が空く。また、フローマークは、厚みムラが幅方向に発生し、縦スジや木目調のスジを引くことにより発生する不良である。上記スジは艶や色が変わって外観不良となり、バンクマークとも呼ばれる。
<評価項目>
《1》シートがロールから負荷なく剥離できるか
《2》バンク回転にムラがないか
《3》目視にて、ロールに吹き出した材料が付着していないか
《4》シートの外観(へこみ、スジ、穴等の有無)確認
<評価基準>
〇:上記《1》~《4》の評価項目の全てについて問題がなかった。
△:上記《4》の評価項目については問題がなかったが、上記《1》~《3》の評価項目のいずれかについて問題があった。
×:上記《4》の評価項目について問題があった。
【0084】
(総合評価)
上記評価試験の結果、上記(1)~(4)の評価結果が全て○である場合を◎、上記(1)~(4)の評価結果が○又は△である場合を○、上記(1)~(4)の評価結果のいずれかが×である場合を×とした。
【0085】
実施例及び比較例に係るポリ塩化ビニルフィルムの構成、及び、評価結果を表1に示した。
【0086】
【表1】
【0087】
表1の結果から、実施例1~9は、耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性に優れたものであった。また、実施例1、3及び5は、耐ガソリン性、耐寒衝撃性、耐候性及び加工性の全ての評価において優れたものであった。
【0088】
コア部にシリコーン-アクリル系ゴムを含む耐寒衝撃材を用いた実施例1は、コア部にジエン系ゴムを用いた実施例2及びコア部にアクリル系ゴムを用いた実施例3より耐ガソリン性に優れ、かつ、実施例2及び実施例3と同等かそれ以上の耐寒衝撃性を有していた。耐寒衝撃材のコア部がシリコーン-アクリル系ゴム又はアクリル系ゴムである実施例1及び3は、コア部がジエン系ゴムである実施例2よりも、耐候性に優れていた。
【0089】
耐寒衝撃材は、塩化ビニル樹脂単体と比べてガソリンに溶解し易いため、耐寒衝撃材量のより多い実施例4及び9に比べて、耐寒衝撃材量のより少ない実施例1の方が、耐ガソリン性に優れていたと考えられる。また、実施例1に比べて耐寒衝撃材量の多い実施例4及び9では、粉末の耐寒衝撃材が増えるため、加工時に樹脂の流動性が低下し、樹脂が分解し易い傾向があるため、エアーカスレやフローマークが発生し易くなり、やや加工性が低下したと考えられる。
【0090】
実施例1は、実施例5よりも耐寒衝撃材量が多いため、耐寒衝撃性が向上したと考えられる。
【0091】
実施例6~8よりも多くの可塑剤を添加した実施例1では、ポリ塩化ビニルフィルムにより柔軟性を付与することが可能となり、耐寒衝撃性が向上したと考えられる。また、実施例1に比べて可塑剤量の少ない実施例6~8では、加工時に樹脂の流動性が低下し、樹脂が分解し易い傾向があるため、エアーカスレやフローマークが発生し易くなり、やや加工性が低下したと考えられる。
【0092】
一方、比較例1~6は、耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性のうち少なくとも1つの評価が悪く、優れた耐ガソリン性、耐寒衝撃性及び加工性を有するポリ塩化ビニルフィルムを得ることはできなかった。
【0093】
より具体的には、可塑剤の含有量が本発明の上限値を超え、かつ、耐寒衝撃材の含有量が本発明の下限値を下回る比較例1及び2では、ガソリンに溶解又は膨潤する可塑剤の量が増え、耐ガソリン性が低下したと考えられる。
【0094】
可塑剤の含有量が本発明の下限値を下回り、かつ、耐寒衝撃材の含有量が本発明の範囲内である比較例3では、加工性が低下した。
【0095】
可塑剤の含有量が本発明の範囲内であり、かつ、耐寒衝撃材の含有量が本発明の上限値を超える比較例4では、ガソリンに溶解する耐寒衝撃材量が増えたため、耐ガソリン性が低下したと考えらえる。
【0096】
可塑剤の含有量が本発明の上限値を超え、かつ、耐寒衝撃材の含有量が本発明の範囲内である比較例5では、ガソリンにより溶解又は膨潤する可塑剤の量が増えたため、耐ガソリン性が低下したと考えられる。
【0097】
可塑剤の含有量が本発明の範囲内であり、かつ、耐寒衝撃材の含有量が本発明の下限値を下回る比較例6では、耐寒衝撃材量が少なく、耐寒衝撃性が低下したと考えられる。
【符号の説明】
【0098】
10 マーキングフィルム
11 ポリ塩化ビニルフィルム
12 粘着剤層
13 セパレーター
14 印刷層
20 成形品
100 加飾成形品
図1
図2