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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
H01G4/30 201F
H01G4/30 311E
H01G4/30 513
H01G4/30 517
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017235726
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019102766
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】田原 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 智彰
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-022164(JP,A)
【文献】特開2014-116501(JP,A)
【文献】特開2009-184841(JP,A)
【文献】特開2001-210545(JP,A)
【文献】特開2013-149939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部電極層とセラミックを主成分とする誘電体層とが交互に積層された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面および下面に設けられセラミックを主成分とするカバー層とを備え、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層チップと、
前記2端面から少なくともいずれかの前記カバー層にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、
前記外部電極は、前記カバー層の角部において薄く形成され、前記内部電極層に向かって段差を有し、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域では厚く形成され、前記段差が生じる箇所における厚みよりも前記角部における厚みが小さくなっており、
前記内部電極層の1/2の幅の位置での前記2端面を結ぶ方向に沿った断面において、前記カバー層に最近接の前記内部電極層に沿った線を第1直線とし、前記カバー層の厚みの1/2の位置において最近接の前記内部電極層に沿った線を第2直線とし、前記第2直線と前記外部電極の表面とが交差する点を第1点とし、前記第1点を通り前記端面において前記内部電極層が設けられた領域と前記外部電極との界面に平行な線を第3直線とし、前記第1直線と前記外部電極の表面とが交差する点を第2点とし、前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線と、前記第3直線とがなす角度をθaとした場合に、前記θaは、5°以上15°以下であることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記段差は、最外層の前記内部電極層と、当該内部電極層に隣接する前記カバー層の厚みの1/2の位置との間に位置することを特徴とする請求項1記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記カバー層のそれぞれの厚みは、前記積層構造の厚みの1/2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
前記内部電極層および前記外部電極は、同じ金属を主成分とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項5】
前記角部における前記外部電極の最小厚みは、1μm以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記外部電極は、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域において、最大厚みで一定となる部分が前記積層方向に延在するように備わっていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
セラミック含有の誘電体グリーンシート上に内部電極形成用導電ペーストを印刷し、前記内部電極形成用導電ペーストと逆パターンにセラミック含有のマージンペーストを印刷して得られるパターン形成シートを複数積層し、最外層をセラミック含有のカバーシートとし、積層された複数の内部電極形成用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、
前記2端面から前記カバーシートにかけて外部電極形成用導電ペーストを塗布する工程と、
前記セラミック積層体と前記外部電極形成用導電ペーストとを焼成することで、前記誘電体グリーンシートを誘電体層とし、前記内部電極形成用導電ペーストを内部電極層とし、前記カバーシートをカバー層とし、前記外部電極形成用導電ペーストを外部電極とする工程と、を含み、
前記2端面において前記内部電極形成用導電ペーストが配置されている領域の濡れ性と、前記カバーシートの角部における濡れ性との差を調整することで、前記カバー層の角部における外部電極を薄く形成し、前記内部電極層に向かって前記外部電極に段差を持たせ、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域では前記外部電極を厚く形成することを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記カバーシートおよび前記マージンペーストにおけるバインダ量を前記誘電体グリーンシートにおけるバインダ量よりも多くすることで、前記2端面において前記内部電極形成用導電ペーストが配置されている領域の濡れ性と、前記カバーシートの角部における濡れ性との差を調整することを特徴とする請求項7記載のセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどのセラミック電子部品は、セラミックを主成分とする複数の誘電体層と、内部電極層とを交互に積層して構成された積層チップを備えている。積層チップの端面に内部電極層が引き出され、その表面を覆うように外部電極が形成されている。例えば、積層チップ形成用のシートと外部電極形成用ペーストとが同時に焼成される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-44903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この場合、同時焼成後に角部(コバ部)における外部電極下の誘電体部分にクラックが発生する場合がある。外部電極形成用ペーストには、誘電体との密着性向上や焼成収縮挙動を誘電体と近づけるためにセラミック粉末が共材として添加されている。例えば、共材の添加量や種類を変更することでクラックを抑制することができる。しかしながら、共材添加量が多くなると、めっき処理が困難になる等の問題が生じてしまう。
【0005】
そこで、コバ部における外部電極形成用ペーストを薄くして、焼成時の応力を低減させることが考えられる。しかしながら、この場合、積層チップの端面でも外部電極が薄くなり、信頼性が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、信頼性を維持しつつクラックを抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセラミック電子部品は、内部電極層とセラミックを主成分とする誘電体層とが交互に積層された積層構造と、前記積層構造の積層方向の上面および下面に設けられセラミックを主成分とするカバー層とを備え、略直方体形状を有し、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成された積層チップと、前記2端面から少なくともいずれかの前記カバー層にかけて形成された1対の外部電極と、を備え、前記外部電極は、前記カバー層の角部において薄く形成され、前記内部電極層に向かって段差を有し、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域では厚く形成され、前記段差が生じる箇所における厚みよりも前記角部における厚みが小さくなっており、前記内部電極層の1/2の幅の位置での前記2端面を結ぶ方向に沿った断面において、前記カバー層に最近接の前記内部電極層に沿った線を第1直線とし、前記カバー層の厚みの1/2の位置において最近接の前記内部電極層に沿った線を第2直線とし、前記第2直線と前記外部電極の表面とが交差する点を第1点とし、前記第1点を通り前記端面において前記内部電極層が設けられた領域と前記外部電極との界面に平行な線を第3直線とし、前記第1直線と前記外部電極の表面とが交差する点を第2点とし、前記第1点と前記第2点とを結ぶ直線と、前記第3直線とがなす角度をθaとした場合に、前記θaは、5°以上15°以下であることを特徴とする。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記段差は、最外層の前記内部電極層と、当該内部電極層に隣接する前記カバー層の厚みの1/2の位置との間に位置していてもよい。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記カバー層のそれぞれの厚みは、前記積層構造の厚みの1/2以上としてもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記内部電極層および前記外部電極は、同じ金属を主成分としてもよい。記積層チップの角において曲率を有する領域における前記外部電極の最小厚みは、1μm以上であってもよい。前記外部電極は、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域において、最大厚みで一定となる部分が前記積層方向に延在するように備わっていてもよい
【0012】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、セラミック含有の誘電体グリーンシート上に内部電極形成用導電ペーストを印刷し、前記内部電極形成用導電ペーストと逆パターンにセラミック含有のマージンペーストを印刷して得られるパターン形成シートを複数積層し、最外層をセラミック含有のカバーシートとし、積層された複数の内部電極形成用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成する工程と、前記2端面から前記カバーシートにかけて外部電極形成用導電ペーストを塗布する工程と、前記セラミック積層体と前記外部電極形成用導電ペーストとを焼成することで、前記誘電体グリーンシートを誘電体層とし、前記内部電極形成用導電ペーストを内部電極層とし、前記カバーシートをカバー層とし、前記外部電極形成用導電ペーストを外部電極とする工程と、を含み、前記2端面において前記内部電極形成用導電ペーストが配置されている領域の濡れ性と、前記カバーシートの角部における濡れ性との差を調整することで、前記カバー層の角部における外部電極を薄く形成し、前記内部電極層に向かって前記外部電極に段差を持たせ、前記2端面において前記内部電極層が設けられた領域では前記外部電極を厚く形成することを特徴とする。
【0013】
上記セラミック電子部品の製造方法において、前記カバーシートおよび前記マージンペーストにおけるバインダ量を前記誘電体グリーンシートにおけるバインダ量よりも多くすることで、前記2端面において前記内部電極形成用導電ペーストが配置されている領域の濡れ性と、前記カバーシートの角部における濡れ性との差を調整してもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、信頼性を維持しつつクラックを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2】クラックについて説明するための図である。
図3】(a)は図1のA-A線断面図であり、(b)は(a)の破線部の拡大図である。
図4】めっき層を例示する図である。
図5】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図6】(a)および(b)はカバー層の厚みを例示する図である。
図7】クラック発生率の計測結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0017】
(実施形態)
まず、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10において積層方向の上下の面を上面および下面と称する。積層チップ10において、2端面、上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、上面、下面および2側面において互いに離間している。
【0018】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、内部電極層12とが、交互に積層された積層構造を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、積層チップ10において、積層構造において誘電体層11と内部電極層12との積層方向(以下、積層方向と称する。)の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の主成分材料は、誘電体層11の主成分材料と同じである。
【0019】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.2mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0020】
内部電極層12は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム)、CaZrO(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO(チタン酸カルシウム)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0021】
外部電極20a,20bは、例えば、焼成前の積層チップ10の2端面に導電性金属ペーストを塗布し、積層チップ10と同時に焼成することで形成することができる。しかしながら、積層チップ10の部分の熱膨張係数と、外部電極20a,20bの部分の熱膨張係数との間には、差がある。この熱膨張係数差に起因して、積層チップ10の角部(コバ部)に応力が集中する傾向にある。
【0022】
図2で例示するように、外部電極20a,20bは、コバ部Bにおいて、大矢印の方向に収縮する。この場合、カバー層13のコバ部Bには、小矢印の方向に応力が集中する。この応力によって、図2の点線で例示するようなクラックが発生するおそれがある。クラックが発生すると、積層セラミックコンデンサ100の外観不良や信頼性悪化の懸念がある。そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、コバ部Bにかかる応力を緩和する構成を有している。なお、コバ部とは、積層チップ10の角(カバー層13の角)において曲率を有する領域のことである。
【0023】
まず、図3(a)で例示するように、積層チップ10の端面において、最下層の内部電極層12から最上層の内部電極層12までの領域を、以下、内部電極対向領域Cと称する。図3(a)は、図1のA-A線断面図である。コバ部Bは、カバー層13に形成されている。したがって、内部電極対向領域Cは、略平面形状をなしている。本実施形態に外部電極20a,20bは、図3(a)で例示するように、コバ部Bを覆いつつ薄く形成されている。この場合、コバ部Bに係る応力が緩和される。それにより、クラックの発生を抑制することができる。しかしながら、コバ部Bにおいて外部電極20a,20bを薄くするために外部電極形成用の導電性金属ペーストの固形分を少なくしたり粘度を下げたりしてしまうと、積層チップ10の端面における外部電極20a,20bも薄くなってしまう。この場合、内部電極対向領域Cを覆う外部電極量が不足し、めっき液の侵入などによって信頼性悪化の問題が生じる。そこで、外部電極20a,20bは、内部電極対向領域Cでは厚く形成されている。以上のことから、信頼性を維持しつつ、クラックの発生を抑制することができる。
【0024】
図3(b)は、外部電極20aの形状の詳細を例示する図であり、図3(a)の破線部の拡大図である。図3(b)では外部電極20aの形状について説明するが、外部電極20bも同様の形状を有している。図3(b)で例示するように、外部電極20aは、積層方向において、積層チップ10の側面から、カバー層13のコバ部B、カバー層13の略平面部にかけて形成され、変曲点Dから厚くなり、内部電極対向領域Cでは厚く形成されている。すなわち、外部電極20aは、カバー層13のコバ部Bでは薄く形成されており、変曲点Dから段差を有して厚くなる。変曲点Dは、カバー層13のコバ部Bよりも下方の略平面部に位置する。これにより、外部電極20aは、コバ部Bでは薄く、内部電極対向領域Cでは厚く形成されることになる。
【0025】
図3(a)の積層断面は、図1で例示したように、内部電極層12の長さ方向に沿った断面であり、内部電極層12の幅方向の中央を通る断面である。カバー層13の厚みの1/2の位置において最近接の内部電極層12の平坦部に沿った線を直線Nとする。直線Nと外部電極20aの表面とが交差する点を点Pとする。点Pを通り、内部電極対向領域Cと外部電極20aとの界面に平行な線を直線Oとする。カバー層13に最近接の内部電極層12と積層チップ10の端面との交点を点Rとする。点Rから直線Nに沿って平行に引いた直線を直線Mとする。直線Mと外部電極20aの表面とが交差する点を点Qとする。この場合において、点Pと点Qとを結ぶ直線と、直線Oとがなす角度をθaとする。
【0026】
変曲点Dは、直線Mと直線Nとの間に位置していることが好ましい。すなわち、変曲点Dがなす段差は、最外層の内部電極層12と、当該内部電極層12に隣接するカバー層13の厚みの1/2の位置との間に位置することが好ましい。この場合、コバ部Bにおける外部電極20aを十分に薄くすることができる。
【0027】
角度θaが0を上回る値であることは、コバ部Bにおける外部電極20aが薄く、外部電極20aに段差が設けられ、内部電極対向領域Cにおける外部電極20aが厚いことを意味する。角度θaが小さいと、積層チップ10の端面からコバ部Bにかけて、外部電極20aの厚みが緩やかに減少する。角度θaが小さすぎると、コバ部Bにおける外部電極20aが十分に薄くないか、内部電極対向領域Cにおいて外部電極20aが十分に厚くないことになる。したがって、角度θaに下限を設けることが好ましい。一方、角度θaが大きいと、積層チップ10の端面からコバ部Bにかけて、外部電極20aの厚みが急激に減少する。角度θaが大き過ぎると、コバ部Bにおける外部電極20aが薄すぎるか、内部電極対向領域Cにおいて外部電極20aが厚すぎることになる。したがって、角度θaに上限を設けることが好ましい。そこで、本実施形態においては、角度θaは、5°以上15°以下であることが好ましく、10°以上15°以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、コバ部Bにおける外部電極20aが薄すぎると、コバ切れ(外部電極が不連続な状態)が発生し、めっき付き性の悪化や耐湿性の悪化といった問題が生じ得る。そこで、コバ部Bにおける外部電極20aの最小厚みは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0029】
内部電極対向領域Cにおける外部電極20aが厚過ぎると、寸法規格をオーバーしてしまうといった問題が生じ得る。そこで、内部電極対向領域Cにおける外部電極20aは、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。
【0030】
なお、本実施形態に係る構成は、カバー層13が厚く形成される構成において特に効果を発揮する。例えば、カバー層13のそれぞれの厚みが、内部電極対向領域Cの厚みの1/2以上であるような構成において、本実施形態に係る構成は特に効果を発揮する。
【0031】
外部電極20a,20bは、Cu,Ni,Al(アルミニウム),Zn(亜鉛)などの金属、またはこれらの2以上の合金(例えば、CuとNiとの合金)を主成分とし、外部電極20a,20bの緻密化のためのガラス成分、外部電極20a,20bの焼結性を制御するための共材、などのセラミックを含んでいる。ガラス成分は、Ba(バリウム),Sr(ストロンチウム),Ca(カルシウム),Zn(亜鉛),Al,Si(ケイ素),B(ホウ素)等の酸化物である。共材は、例えば、誘電体層11の主成分と同じ材料を主成分とするセラミック成分である。
【0032】
図4で例示するように、外部電極20aの表面には、めっき層21が設けられていてもよい。めっき層21は、Cu,Ni,Al,Zn,Snなどの金属またはこれらの2以上の合金を主成分とする。めっき層21は、単一金属成分のめっき層でもよく、互いに異なる金属成分の複数のめっき層でもよい。例えば、めっき層21は、外部電極20a側から順に、第1めっき層22、第2めっき層23および第3めっき層24が形成された構造を有する。外部電極20aおよびめっき層21は、積層チップ10の両端面を覆うとともに、4つの側面の少なくともいずれかに延在している。本実施形態においては、外部電極20aおよびめっき層21は、積層チップ10の両端面から4つの側面に延在している。第1めっき層22は、例えば、Cuめっき層である。第2めっき層23は、例えば、Niめっき層である。第3めっき層24は、例えば、Snめっき層である。なお、図4では、外部電極20aについて例示しているが、外部電極20bも同様の構造を有する。
【0033】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図5は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0034】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11の主成分であるセラミック材料の粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B,Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。例えば、まず、セラミック材料の粉末に添加化合物を含む化合物を混合して仮焼を行う。続いて、得られたセラミック材料の粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料の粉末を調製する。
【0035】
(積層工程)
次に、得られたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0036】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層12のパターンを配置する。内部電極層形成用導電ペーストは、内部電極層12の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる。バインダおよび溶剤は、上記したセラミックスラリーと異なるものを使用することが好ましい。また、内部電極形成用導電ペーストには、共材として、誘電体層11の主成分であるセラミック材料を分散させてもよい。次に、誘電体グリーンシート上に、原料粉末作製工程で作製されたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーをマージンペーストとして、内部電極形成用導電ペーストと逆パターンに印刷する。それにより、パターン形成シートが形成される。
【0037】
次に、パターン形成シートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれたパターン形成シートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向の両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば200~500層)だけ積層する。積層したパターン形成シートの上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。これにより、略直方体形状のセラミック積層体が得られる。なお、カバーシートも、原料粉末作製工程で作製されたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、フタル酸ジオクチル(DOP)等の可塑剤とを加えて湿式混合し、印刷することで作製することができる。
【0038】
上述した角度θaは、内部電極対向領域Cの濡れ性と、コバ部Bの濡れ性との差に応じて決まる関数である。そこで、積層チップ10の端面におけるバインダ量を調整してもよい。ここでのバインダ量とは、カバーシート、マージンペーストもしくは誘電体グリーンシートに対する体積%または重量%である。例えば、バインダが端面に露出した箇所は、外部電極形成用の導電性金属ペーストに対する濡れ性が高くなる。それにより、バインダが露出した箇所では、導電性金属ペーストが薄くなる。そこで、カバーシートおよびマージンペーストのバインダ量を、誘電体グリーンシートのバインダ量よりも多くしてもよい。または、コバ部Bにバインダを付着させてもよい。あるいは、マスク等を用いてプラズマ処理等によってコバ部Bの濡れ性を高くし、もしくは反対に内部電極対向領域Cの濡れ性を低くすることも可能である。
【0039】
(塗布工程)
次に、セラミック積層体の内部電極層12の両端面に、共材を含む外部電極形成用の導電性金属ペーストを浸漬塗布する。当該導電性金属ペーストの厚みは、導電性金属ペーストを希釈することで調整することができる。
【0040】
(焼成工程)
その後、セラミック積層体を、250~500℃のN雰囲気中で脱バインダした後に、還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成することで、誘電体グリーンシートを構成する各化合物が焼結し、内部電極層パターンを構成する各化合物が焼結し、外部電極形成用の導電性金属ペーストを構成する各化合物が焼結し、カバーシートを構成する各化合物が焼結し、粒成長する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる積層チップ10と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層13とを有する積層セラミックコンデンサ100が得られる。
【0041】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中で600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0042】
(めっき処理工程)
その後、めっきによって、外部電極20a,20b上にめっき層21を形成する。例えば、第1めっき層22、第2めっき層23および第3めっき層24を順に形成する。
【0043】
本実施形態に係る製造方法によれば、外部電極20a,20bは、コバ部Bにおいて薄く形成される。この場合、コバ部Bに係る応力が緩和される。それにより、クラックの発生を抑制することができる。また、外部電極20a,20bは、内部電極対向領域Cでは厚く形成される。それにより、信頼性を維持することができる。以上のことから、本実施形態に係る製造方法によれば、信頼性を維持しつつ、クラックの発生を抑制することができる。
【0044】
なお、上述した角度θaは、内部電極対向領域Cの濡れ性と、コバ部Bの濡れ性との差を調整することで、上述した角度θaを5°以上15°以下に調整することが好ましく、10°以上15°以下に調整することがより好ましい。
【0045】
なお、上記各実施形態においては、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、バリスタやサーミスタなどの、他の電子部品を用いてもよい。
【実施例
【0046】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0047】
(実施例1~10)
チタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。
【0048】
次に、内部電極層12の主成分金属(Ni)の粉末と、共材(チタン酸バリウム)と、バインダ(エチルセルロース)と、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極形成用導電ペーストを作製した。
【0049】
誘電体シートに内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷した。内部電極形成用導電ペーストの逆パターンに上記誘電体材料を含むマージンペーストを印刷し、パターン形成シートを作製した。マージンペーストにおけるバインダ量を、誘電体グリーンシートよりも多くした。基材を剥離した状態でパターン形成シートを重ねていき、その上下に、上記誘電体材料を含むカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。なお、カバーシートにおけるバインダ量を、誘電体グリーンシートよりも多くした。
【0050】
得られたセラミック積層体を250℃~500℃のN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、Niを主成分とする金属フィラー、共材、バインダ、溶剤などを含む金属ペーストを塗布し、乾燥させた。実施例1,2では、外部電極20a,20bの厚みが10μmとなるようにした。実施例3,4では、外部電極20a,20bの厚みが15μmとなるようにした。実施例5,6では、外部電極20a,20bの厚みが20μmとなるようにした。実施例7,8では、外部電極20a,20bの厚みが25μmとなるようにした。実施例9,10では、外部電極20a,20bの厚みが30μmとなるようにした。実施例11,12では、外部電極20a,20bの厚みが35μmとなるようにした。その後、金属ペーストが塗布された成型体を、酸素分圧10-5~10-8atmの還元性雰囲気中において1100℃~1300℃で金属ペーストを成型体と同時に焼成して焼結体を得た。実施例1~12のそれぞれについて、25個のサンプルを作製し、各サンプルについて4か所の計100点のデータを取得した。
【0051】
得られた焼結体の形状寸法は、実施例1,2では、長さ1600μm、幅800μm、高さ800μmであった。実施例3,4では、長さ2000μm、幅1250μm、高さ1250μmであった。実施例5,6では、長さ3200μm、幅1600μm、高さ1600μmであった。実施例7,8では、長さ3200μm、幅2500μm、高さ2500μmであった。実施例9,10では、長さ4500μm、幅3200μm、高さ2500μmであった。また、カバー層13の厚みは、実施例1では80μmであり、実施例2では240μmであり、実施例3では125μmであり、実施例4では375μmであり、実施例5では160μmであり、実施例6では480μmであり、実施例7では250μmであり、実施例8では750μmであり、実施例9では250μmであり、実施例10では750μmであった。
【0052】
また、実施例1,3,5,7,9では、図6(a)で例示するように、上下のカバー層13のそれぞれの厚みが積層チップ10の高さの10%であり、内部電極対向領域Cの厚みが積層チップ10の高さの80%であった。実施例2,4,6,8,10では、図6(b)で例示するように、上下のカバー層13のそれぞれの厚みが積層チップ10の高さの30%であり、内部電極対向領域Cの厚みが積層チップ10の高さの40%であった。
【0053】
実施例1では、角度θaは、15.0°であった。実施例2では、角度θaは、6.0°であった。実施例3では、角度θaは、13.7°であった。実施例4では、角度θaは、5.4°であった。実施例5では、角度θaは、12.7°であった。実施例6では、角度θaは、5.0°であった。実施例7では、角度θaは、14.6°であった。実施例8では、角度θaは、5.7°であった。実施例9では、角度θaは、12.7°であった。実施例10では、角度θaは、5.0°であった。実施例11では、角度θaは、15.0°であった。実施例12では、角度θaは、6.0°であった。
【0054】
(比較例1~4)
比較例1では、角度θaが0°であった他は、実施例2と同様とした。比較例2では、角度θaが0°であった他は、実施例4と同様とした。比較例3では、角度θaが0°であった他は、実施例6と同様とした。比較例4では、角度θaが0°であった他は、実施例8と同様とした。比較例5では、角度θaが0°であった他は、実施例10と同様とした。なお、角度θa=0°とするために、カバーシートにおけるバインダ量と、誘電体グリーンシートにおけるバインダ量とを調整した。
【0055】
(分析)
実施例1~10および比較例1~4の各サンプルについてコバ部Bにおけるカバー層13のクラックの発生を観測することで、クラック発生率を計測した。図7は、計測結果を示す図である。図7に示すように、比較例1~4においては、角クラックが発生した。これに対して、実施例1~10のいずれにおいても、クラック発生率が0%となった。これは、角度θaが0を上回る値となったことで、コバ部Bにおける外部電極20a,20bが薄く、内部電極対向領域Cにおける外部電極20a,20bが厚くなったからであると考えられる。なお、実施例2,4,6,8,10および比較例1~4では、カバー層13の厚みが内部電極対向領域Cの厚みの1/2以上であった。このことから、カバー層13の厚みが内部電極対向領域Cの厚みの1/2以上である場合に、角クラックの発生が抑制されることがわかった。
【0056】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
20a,20b 外部電極
21 めっき層
22 第1めっき層
23 第2めっき層
24 第3めっき層
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7