IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱商事ライフサイエンス株式会社の特許一覧

特許7148241植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物
<>
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図1
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図2
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図3
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図4
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図5
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図6
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図7
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図8
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図9
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図10
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図11
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図12
  • 特許-植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】植物の生長促進や根伸長促進効果且つ付加価値向上効果を有する酵母抽出物
(51)【国際特許分類】
   A01N 63/32 20200101AFI20220928BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A01N63/32
A01P21/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017506586
(86)(22)【出願日】2016-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2016058325
(87)【国際公開番号】W WO2016148193
(87)【国際公開日】2016-09-22
【審査請求日】2019-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-04
(31)【優先権主張番号】P 2015056668
(32)【優先日】2015-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中川 智寛
(72)【発明者】
【氏名】安松 良恵
(72)【発明者】
【氏名】梶 直人
(72)【発明者】
【氏名】阿孫 健一
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/031571(WO,A1)
【文献】特開2002-305998(JP,A)
【文献】特開昭63-45211(JP,A)
【文献】特開2013-21989(JP,A)
【文献】特開2009-269852(JP,A)
【文献】日本植物病理学会報、平成19年5月、第73巻、第2号、p.94~101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N63/00-63/02,A01G7/06,31/00,C05F11/08,C05G1/00
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド含量が15重量%以上、かつRNA含量が25重量%以上、かつ遊離アミノ酸含量が4重量%以下である酵母抽出物を含有する植物栽培用組成物。
【請求項2】
前記酵母抽出物が、Candida utilis菌体から抽出されたものである、請求項1に記載の植物栽培用組成物。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか一項に記載の植物栽培用組成物を植物の葉面に散布する、または植物栽培用の土壌もしくは水耕溶液に添加する、植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生長促進効果、根伸長効果、食味改善効果、栄養成分等含量向上効果を有する酵母抽出物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
野菜、果実等の農作物の収量増加や品質向上を目的として、野菜や果樹の葉面や土壌に散布する様々な生長促進剤や植物生長調整剤、生理活性促進剤、食味改良剤等が提案されている。
また近年、リコピンやカリウム等の機能性成分を規格化した野菜も注目されている。
【0003】
例えば、ギ酸カルシウムとホウ素化合物とを含有するぶどう用葉面散布剤(特許文献1)や、ヌクレオチド類等の核酸系成分を有効成分の一つとした土壌や葉面に散布する生長促進剤や生理活性促進剤(特許文献2、3)が知られている。
特許文献4には、葉面からの窒素成分の補給は、尿素態のみでなくアミノ酸態窒素も使用されること、卵白や脱脂粉乳のタンパク質を酵母で発酵させたものを用いることが記載されている。また、ビール酵母由来の細胞壁分解物が植物可食部の食味を改善することが知られている。(特許文献5)。
このような農作物の成長促進や品質向上の効果を広く併せ持ち、高い効果を有し、かつより安全で、取扱いがしやすい植物用組成物が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-134007号公報
【文献】特開2004-196679号公報
【文献】特開平4-77381号公報
【文献】特開2006-265199号公報
【文献】特開2007-131562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全性が高く、かつ農作物の早期収穫や収量増加、付加価値向上に寄与する植物用組成物を提供することを課題とする。具体的には、葉面散布または土壌や水への添加により、植物の生長促進効果、根伸長効果、食味改善効果、アミノ酸含量向上効果を奏する、酵母抽出物を提供することである。また、安全性の観点から、酵母抽出物としては、食経験があり安全性が認められた酵母から得られる物が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、食経験があり安全性が認められているトルラ酵母(Candida utilis)から得られた、RNA及びペプチドを含有する酵母抽出物に、RNA単独よりも高い植物生長促進効果、根伸長効果がある事を見出した。更に、当該酵母抽出物が、アミノ酸含量向上、食味改善等の様々な付加価値向上効果を有することを見出した。本発明の酵母抽出物は、野菜を始めとする植物全般の生長促進や根伸長促進、さらに食味改善、アミノ酸含量向上等の付加価値向上を目的として用いるが出来る。
【0007】
すなわち本発明は、
(1)ペプチド含量が5重量%以上、かつRNA含量が5重量%以上である酵母抽出物を含有する植物用組成物、
(2)前記酵母抽出物が、ペプチド含量が15重量%以上、RNA含量が25重量%以上、かつ遊離アミノ酸含量が4重量%以下のものである、(1)記載の植物用組成物、
(3)前記酵母抽出物が、Candida utilis菌体から抽出されたものである、(1)または(2)に記載の植物用組成物、
(4)(1)~(3)のいずれかの植物用組成物を植物の葉面に散布する、または植物栽培用の土壌もしくは水耕溶液に添加する、植物の栽培方法
に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酵母エキスは、植物の葉面散布や土壌等への添加により、
トマトなどの果菜、小松菜、葉大根などの葉菜、その他に根菜類、果実類において、優れた生長促進効果、根伸長促進効果を奏するのみならず、アミノ酸などの栄養成分含量の向上、さらに、食味改善などの付加価値向上効果を示す。
また、食経験があり、安全性が認められているトルラ酵母を酵母エキスの原料として用いることで、取扱い上も安全であり、かつ得られた農作物も食品として安全なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】トマトへの生長促進効果
図2】小松菜の生長促進効果
図3】小松菜の収量増加効果
図4】小松菜の生長促進効果のRNAとの比較試験
図5】小松菜の収量増加効果のRNAとの比較試験
図6】小松菜の根部比較
図7】小松菜の遊離アミノ酸含量への効果
図8】小松菜のクロロフィル、β-カロテン含量への効果
図9】小松菜のネオキサンチン、ルテイン含量への効果
図10】葉大根の生長促進効果のRNAとの比較試験
図11】葉大根の収量増加効果のRNAとの比較試験
図12】葉大根の根部比較
図13】葉大根の遊離アミノ酸含量への効果
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる酵母抽出物の製造に用いられる酵母としては、特に制限は無いが、例として、パン酵母、ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae)、トルラ酵母(Candida utilis)などを挙げることができ、中でもRNA含量が一般的に高いとされるトルラ酵母を用いることが望ましい。
【0011】
本発明に用いる酵母エキスは、望ましくはRNA含量が6.5重量%以上、さらに望ましくは10重量%以上である酵母菌体から抽出する。酵母菌体中のRNA含量を高める方法は公知であり、たとえば特公昭54-46824号公報、特開平11-196859号公報、特開2009-207464号公報などに、記載されている。特公昭54-46824号公報には具体的に、酵母に紫外線、エックス線、突然変異剤などを用いた後、合成培地で常温では増殖が変わらず低温で親株より増殖速度の著しく遅い株を選択すること、これを酵母の増殖細胞のみに選択的に作用する抗生物質を加えた培地で低温培養すると低温感受性の変異株が濃縮されること、これらの菌株の中からより低温度感受性のものを選び、さらにその中でRNA高含有変異株で、かつ常温で増殖速度がほとんど変わらず収率も良い菌株を選別することにより、目的とする変異株が得られることが記載されている。
【0012】
このような酵母菌体を培養、集菌、洗浄して菌体を取得する。次いで、この菌体につき、自己消化が起こらないように、熱水で酵母菌体内の酵素を失活させる。この菌体に細胞壁溶解酵素を作用させた後、固形分を分離し、得られる抽出物を濃縮、殺菌、乾燥することにより、本発明の酵母抽出物を製造することができる。前記工程において、核酸分解酵素や蛋白分解酵素を作用させると、RNA含量やペプチド含量が規定の含量になりにくいため、望ましくない。
酵母エキス中のRNA含量やペプチド含量が規定の含量に満たない場合は、公知の方法で濃縮を行なえばよい。
【0013】
本発明でいうペプチドとは、アミノ酸が2個以上ペプチド結合したものをいい、ペプチド含量は、全アミノ酸量より遊離アミノ酸含量を引くことにより算出する。
【0014】
本発明の酵母抽出物は、ペプチドを5重量%以上、望ましくは10重量%以上、さらに望ましくは15重量%以上含有し、かつRNAを5重量%以上、望ましくは10重量%以上、さらに望ましくは25重量%以上含有する。ペプチド含量は高い方が望ましく、そのためには遊離アミノ酸含量を低く抑え、4重量%以下にすることが望ましい。
【0015】
酵母抽出物は食品であり、特に環境や人体への悪影響は殆ど無いため、植物の有機栽培に向いている。また、一切の合成化学物質を使用しない農業にも、適用可能なものである。
【0016】
本発明の酵母抽出物は、そのままで、あるいは他の成分と合わせて、植物用組成物となり、植物の栽培、育成に用いることができる。本発明の植物栽培用組成物を用いる植物の種類や目的は特に限定されるものではないが、例えば野菜(トマト、小松菜、葉大根、ほうれん草、玉ねぎ等)又は果樹(ぶどう、りんご、梨、メロン、イチゴ等)の生長促進、根伸長促進、味質改善、アミノ酸含量向上等を目的として用いることが出来る。根の伸長が促進されることで、栄養分の吸収率も良くなり、野菜や果樹の生長が促進される結果、収量増又は早期収穫が可能となる。また、収穫物の味質や栄養価も高くなり、付加価値も向上する。
【0017】
本発明の植物用組成物の剤型は限定されないが、例えば錠剤、顆粒、粉末又は液状とすることが出来る。流通、保管時は、錠剤、顆粒、粉末または濃縮液とし、使用する時に水を添加して溶解し、適切な濃度にして使用することが出来る。葉面散布剤または土壌散布剤として用いる場合、本発明の植物用組成物の使用時における濃度は、酵母抽出物の乾燥重量で、好ましくは1.0~100000ppm、更に好ましくは10~1000ppmである。葉面散布液等における酵母抽出物の濃度がこの範囲内であることで、農作物の収量や栄養価が向上する。
【0018】
葉面散布する場合のより最適な濃度は、植物の種類や目的によって異なる。たとえば、小松菜の成長促進を目的とする場合、またはアミノ酸含量、ネオキサンチン含量、ルテイン含量の向上を目的とする場合は、本発明の酵母抽出物濃度は200mg/L以上であることが望ましい。一方、小松菜の葉中のクロロフィル含量、β-カロテン含量の向上を目的とする場合は、同濃度は100mg/Lあれば十分である。葉大根の、成長促進を目的とする場合は、本発明の酵母抽出物濃度は200mg/L以下であることが望ましい。一方、葉大根の葉中の遊離アミノ酸、特にスレオニン含量、プロリン含量の向上を目的とする場合は、同濃度は200mg/L以上であることが望ましい。本発明の酵母抽出物の実際の使用においては、目的に応じ、また複数の目的のバランスを考慮して、最適だと思われる濃度を決定すればよい。
【0019】
本発明の植物用組成物を散布する頻度は特に限定されないが、好ましくは1~100日毎に1回、更に好ましくは7~10日毎に1回散布する。
更に、本植物用組成物は単独で用いてもよく、また肥料、園芸用培養土と組み合わせて用いてもよい。肥料として窒素、リン酸、カリウムを含有する化成肥料やまた植物油かす、魚粉、海藻粉末などの有機肥料等がある。植物用組成物の施用方法は一般的な方法で良い。たとえば、植物葉面への散布や展着、土壌や水耕栽培溶液への添加等が挙げられる。
【0020】
なお、本発明において、各成分の測定法は以下の通りである。
(RNAの測定法)
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、試料中のRNA含量を測定した。
HPLCの条件
・分離カラム: Asahipak HPLCcolumn GS-320(30℃、7.5 mm×300mm、昭和電工製)
・移動相: 0.1M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
・流速: 1.0mL/min
・検出: 紫外線検出器(260nm)
【0021】
(ペプチドの測定法)
試料中のペプチド含量は、全アミノ酸と遊離アミノ酸をアミノ酸分析計(日立高速アミノ酸分析計L-8900)を用いて測定し、全アミノ酸-遊離アミノ酸をペプチド含量とした。
【0022】
(遊離アミノ酸の測定法)
試料中の遊離アミノ酸含量は、アミノ酸分析計(日立高速アミノ酸分析計L-8900)を用いて測定した。
【0023】
(食物繊維の測定法)
試料中の食物繊維の含量は、プロテアーゼやアミログルコシダーゼを用いた酵素-重量法を用いた。
【0024】
(クロロフィル、β‐カロテンの測定法)
試料の葉1 gをアセトン-ヘキサン(体積比4:6)溶液20 mLでホモジナイズした後、上清の吸光度(663 nm、645 nm、505 nm、453 nm)を測定し、下記の計算式を用いることにより各成分の濃度算出を行った。
・クロロフィルaの濃度(mg/100mL) = 0.999A665 - 0.0989A645
・クロロフィルbの濃度(mg/100mL) = -0.328A665 + 1.77A645
・β‐カロテンの濃度(mg/100mL) = 0.216A665 - 1.22A645 - 0.304A505 + 0.452A453
(但し、A663、A645、A505、A453はそれぞれ663 nm、645 nm、505 nm、453 nmの吸光度)
【0025】
(ネオキサンチン、ルテインの測定法)
試料の凍結乾燥物をアセトンで一晩抽出した後、固形分を除去し、得られた抽出液をエバポレーターにて乾固した。これをメタノール:アセトニトリル=7:3溶媒に溶解、フィルター濾過後、HPLCにてネオキサンチン、ルテインを測定した。
HPLC条件
・機種名:HITACHI LaChrom
・カラム: TSK gel ODS-80TM
・移動層:Acetnitril:水(9:1)(A)、酢酸エチル(B)
・流速:1.5ml/min
・検出吸光度:450nm
・グラジエント条件: 0~20分 A:B=100:0→50:50、20分~30分 A:B=50:50、30分~35分 A:B=50:50→100:0
【実施例
【0026】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
<製造例1> 酵母抽出物の取得
キャンディダ・ユティリスCs7529株(FERM BP-1656株)の10%菌体懸濁液1000mlを10N-硫酸でpH3.5に調整し、60℃、30分間加熱処理した後、遠心分離で菌体を回収し、菌体を水で洗浄し硫酸や余分な抽出物を除去した。本菌体を水で菌体濃度10%に調整、懸濁した後、90℃、30分間加熱し、菌体内酵素を完全に失活させ、40℃、pH7.0に調整し、細胞壁溶解酵素(「ツニカーゼ」大和化成製)0.5gを加え4時間反応し、抽出を行った。遠心分離により菌体残渣を除去し、得られた上澄液を濃縮、スプレードライし、酵母抽出物粉末30gを得た。得られた酵母抽出物は、ペプチド含量18.7重量%、RNA含量30.4重量%、遊離アミノ酸含量0.5重量%、食物繊維含量22.7重量%であった。
【0028】
<実施例1> トマトへの生長促進効果
土壌として市販の「花と野菜の土」を用いてポットにトマト(桃太郎)の種を播種し、播種から15日後、土壌として「花と野菜の土」を用いてプランター(80×30cm)に3株ずつ定植した。製造例1で得られた酵母抽出物を300mg/Lとなるように水に溶解して葉面散布液とし、定植1週間後より、10日毎に葉面散布を行った。葉の裏が完全に濡れるまで散布した。2か月後、植物の成長具合を確認した。温度コントロールは特に行わなかった。
コントロールとして、酵母抽出物水溶液の代わりに、水を散布したものも作った。
【0029】
実施例1の結果を図1に示す。1がコントロールで、2が本発明の酵母抽出物溶液を葉面散布した試験区である。図1に示されるように、酵母抽出物300mg/L水溶液を葉面散布したものは、コントロールと比較して明確な生長促進作用を示した。
【0030】
<実施例2> 小松菜への生長促進効果
小松菜(Brassica rapa var. perviridis)はアブラナ科の植物で、主に葉と茎の部分が食される、栄養価の高い野菜である。
土壌として市販の「花と野菜の土」を用いて、植木鉢(16cm×16cm×17cm)に小松菜の種を播種。製造例1で得られた酵母抽出物の300mg/L水溶液を、本葉が出てから10日毎に葉面散布し、種を植えてから90日後に小松菜を収穫した。葉面散布は、葉の裏が完全に濡れるまで噴霧した。温度コントロールは特に行わなかった。
コントロールとして、酵母抽出物水溶液の代わりに、水を散布したものも作った。
コントロールは、実施例3以降も同様に行った。
【0031】
実施例2の結果を図2図3に示す。1がコントロールで、2が本発明の酵母抽出物溶液を葉面散布した試験区である。図2に示されるように、酵母抽出物300mg/L水溶液を葉面散布したものは、コントロールと比較して明確な生長促進効果を示した。また、図3に示されるように、実施例2の一株当たりの重量は、コントロールに対して有意に増加している。
この様に、本発明の酵母抽出物は、植物への散布により、明確な植物生長促進効果を示し、農作物の収量増や早期収穫が期待出来る。
【0032】
なお、一般的に、RNAには生長促進効果が有ると言われており、実施例1、2で示されたような生長促進効果が、酵母抽出物中のRNAのみに起因していることも想定された。
そこで、本発明の酵母抽出物の示す生長促進効果が、酵母抽出物中のRNAのみによる効果なのかを検証するため、本発明の酵母抽出物とそれに相当する量のRNA単独との比較試験を実施することとした。
【0033】
<実施例3> 小松菜への酵母抽出物とRNAの効果の比較
土壌として市販の「花と野菜の土」を用いて、プランター(80cm×30cm)に小松菜の種を播種。発芽後、畑に定植し、本葉が出てから10日に1回の間隔で、葉面散布液を葉の裏が濡れるまで噴霧した。温度コントロールは行わずに栽培し、定植後90日で収穫した。
前記葉面散布液は、次の通り。
1:製造例1で得られた酵母抽出物の100mg/L水溶液。
2:RNA(OMTEK社製)の30mg/L水溶液。上記1の酵母抽出物100mg/L水溶液のRNA濃度に相当する。
3:製造例1で得られた酵母抽出物の300mg/L水溶液。
4:RNA(OMTEK社製)の90mg/L水溶液。上記3の酵母抽出物300mg/L水溶液のRNA濃度に相当する。
5:水(コントロール)
【0034】
評価は、収穫した可食部や根の見た目の大きさ、可食部の平均重量、アミノ酸含量、クロロフィルa+b含量、β-カロテン含量、ネオキサンチン含量、ルテイン含量、および食味について行った。尚、食味評価は、熟練したパネル6名に試験区を知らせずに可食部を食してもらい、味の違いについてコメントを得た。
【0035】
実施例3の結果を図4~8に示す。
図4は、収穫した小松菜の可食部の写真である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
図5は、収穫した小松菜の可食部の重量である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
【0036】
図4図5において、3と4を比較すると大きさ、収量ともに顕著な違いがあり、本発明の酵母抽出物は、等量のRNA単独と比べると、明らかに生長促進効果が高いという結果が示された。
この結果は、酵母抽出物中のRNA以外の成分であるペプチド等も生長促進に寄与していることを示している。
【0037】
なお、1と3、すなわち酵母抽出物100mg/L水溶液と300mg/L水溶液とを比較すると、3の方がコントロールに対し有意に大きく、収量も上がっていることから、収量を上げる目的であれば、葉面散布液中の本発明の酵母抽出物の濃度は、100mg/Lより300mg/Lの方が望ましいことが示された。
【0038】
図6は、収穫した小松菜の根部の写真で、1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。可食部の生長促進効果以外に、根部分(側根及び根毛)にも根伸長促進効果が見られ、本発明の酵母抽出物水溶液を散布した1、3の方が、RNA単独の2、4より効果は高かった。
【0039】
図7は、収穫した小松菜の葉の遊離アミノ酸含量を測定した結果である。
RNAを散布したものは、遊離アミノ酸含量がコントロールよりも寧ろ低くなった。それに対して、本発明の酵母抽出物300mg/L水溶液を散布したものは総じてアミノ酸含量が高く、その中でも特徴的だったのがスレオニン(Thr)とプロリン(Pro)で、コントロールと比較してそれぞれ2、3倍という高い値を示した。このことから、酵母抽出物中のRNA以外の成分がアミノ酸含量向上に寄与していると思われる。
【0040】
図8は、収穫した小松菜の葉のクロロフィルa+b含量、β-カロテン含量を測定した結果である。
酵母抽出物水溶液を葉面散布した1、3は、コントロールやRNA単独散布した2、4と比べて明らかにクロロフィルa+b含量、β-カロテン含量が増加していた。1の酵母抽出物100mg/L水溶液においてもコントロールと比べて顕著に増加していることから、植物体中のこれらの色素や栄養分を上げる目的であれば、葉面散布液中の酵母抽出物の濃度は、100mg/L程度でも十分であることが示唆された。
【0041】
図9は、収穫した小松菜の葉のネオキサンチン含量、ルテイン含量を測定した結果である。
酵母抽出物水溶液を葉面散布した1、3は、コントロールやRNA単独散布した2、4と比べて、ネオキサンチン含量とルテイン含量が増加していた。なお、1と3を比較すると、3の方が明らかに含量が高いことから、植物体中のネオキサンチンやルテインの含量を上げる目的であれば、葉面散布液中の本発明の酵母抽出物の濃度は、100mg/Lより300mg/Lの方が望ましいことが示された。
【0042】
食味評価で、3の酵母抽出物300mg/L葉面散布と4のRNA90mg/L葉面散布とを比較した結果、3の酵母抽出物試験区にて甘味がある、後味が良い、美味しいとのコメントが多く、本発明の酵母抽出物は食味改善効果も高いという結果が得られた。
【0043】
小松菜の食味評価の主なコメント(Controlとの比較)
3:酵母抽出物水溶液: 甘味がある、後味が良い、美味しい
4:RNA水溶液: 風味が良い
【0044】
以上の結果より、本発明の酵母抽出物には生長促進効果は勿論のこと、それ以外にも根伸長促進や、アミノ酸含量の向上、色素や栄養成分の含量増加、味質改善などの効果が見られ、付加価値向上にも寄与することを確認した。また、その効果はRNA単独よりも高いという結果となった。
そこで次に、他の植物でも同様の効果が得られるか確認試験を実施した。
【0045】
<実施例4> 葉大根への酵母抽出物とRNAの比較試験
葉大根(Raphanus sativus var. longipinnatus)は、アブラナ科ダイコン属の一年草で、主に葉と茎の部分が食される野菜である。
土壌として市販の「花と野菜の土」を用いて、プランター(80cm×30cm)に葉大根の種を播種。発芽後、畑に定植し、本葉が出てから10日に1回の間隔で、葉面散布液を葉の裏が濡れるまで噴霧した。温度コントロールは行わずに栽培し、定植後90日で収穫した。
前記葉面散布液は、次の通り。
1:製造例1で得られた酵母抽出物の100mg/L水溶液。
2:RNA(OMTEK社製)の30mg/L水溶液。上記1の酵母抽出物100mg/L水溶液のRNA濃度に相当する。
3:製造例1で得られた酵母抽出物の300mg/L水溶液。
4:RNA(OMTEK社製)の90mg/L水溶液。上記3の酵母抽出物300mg/L水溶液のRNA濃度に相当する。
5:水(コントロール)
【0046】
評価は、収穫した葉大根の葉部や根部の見た目の大きさ、葉の平均重量、葉の遊離アミノ酸含量、および食味について行った。尚、食味評価は、熟練したパネル6名に試験区を知らせずに可食部を食してもらい、味の違いについてコメントを得た。
【0047】
実施例4の結果を図10~13に示す。
図10は、収穫した葉大根の全体の写真である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
図11は、収穫した葉大根の可食部の重量である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
【0048】
図10図11に示される通り、葉大根でも小松菜と同様に本発明の酵母抽出物は生長促進効果を示し、RNAと比較しても高い結果となった。しかし、1と3、すなわち酵母抽出物100mg/L水溶液と300mg/L水溶液とを比較すると、1の方がコントロールに対し顕著に収量が上がっているのに対し、3はむしろコントロールとの差が小さくなっていることから、葉大根の収量を上げる目的であれば、葉面散布液中の本発明の酵母抽出物の濃度は、300mg/Lより100mg/Lの方が望ましいことが示された。
【0049】
図12は、収穫した葉大根の根部の写真である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
葉大根においても、本発明の酵母抽出物は根伸長促進効果を示したが、その効果は100mg/L水溶液において顕著であり、300mg/L水溶液よりも高かった。
【0050】
図13は、収穫した葉大根の葉の遊離アミノ酸含量を測定した結果である。1~4は、それぞれ上記の葉面散布剤の種類を示す。
その結果、2、4のRNA試験区はコントロールとほぼ変わらないが、1、3の本発明の酵母抽出物試験区においてはスレオニンとプロリン含量がコントロールと比較して高く、特に3の300mg/L水溶液では、それぞれ1.3倍、5.0倍という高い結果となった。
【0051】
食味評価で、1の酵母抽出物100mg/L葉面散布と、2のRNA30mg/L葉面散布について、それぞれコントロールと比較した結果、1の酵母抽出物試験区にて甘味がある、渋みが少ないというコメントが多く、食味改善効果も高いという結果が得られた。
【0052】
葉大根の食味評価の主なコメント(Controlとの比較)
1:酵母抽出物水溶液: 甘味がある、渋みが少ない
2:RNA水溶液: コントロールと変わらない
【0053】
以上の結果から明らかなように、本発明で得られた酵母抽出物を栽培植物へ施用することで、あらゆる植物でRNA単独以上の優れた生長促進効果を得ることが出来、早期収穫や収量増が見込めるようになった。また、根伸長促進効果や収穫物のスレオニン、プロリン含量の向上、更には食味改善など様々な付加価値向上が可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13