(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】タイヤ内面用離型剤、タイヤ内面用離型剤水分散液、タイヤ内面用離型剤の製造方法、タイヤの製造方法およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
B29C 33/60 20060101AFI20220928BHJP
B29C 33/64 20060101ALI20220928BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
B29C33/60
B29C33/64
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2018080845
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】向田 芳純
(72)【発明者】
【氏名】下原 宗一
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 智行
(72)【発明者】
【氏名】的場 啓介
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-042243(JP,A)
【文献】特表2009-500464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型剤および界面活性剤を含むタイヤ内面用離型剤であって、
前記離型剤が、表面親水性非膨潤性無機粉末であるマイカと、
前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性であるシリコーンとを含み、
前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面が、表面疎水化剤
である変性シリコーンにより疎水化されており、かつ、前記変性シリコーンが
、アミノ変性シリコーンおよびエポキシ変性シリコーンの少なくとも一方であり、
前記アミノ変性シリコーンは、25℃における動粘度が50mm
2/s以上50000mm
2/s以下であり、かつ、アミノ官能基当量が300g/mol以上30000g/mol以下であり、
前記エポキシ変性シリコーンは、25℃における動粘度が20mm
2/s以上50000mm
2/s以下であり、かつ、エポキシ官能基当量が200g/mol以上、4000g/mol以下であり、
前記マイカの使用量が、前記タイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して10質量%以上60質量%以下であり、
前記変性シリコーンの使用量が、前記タイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して0.1質量%以上10質量%以下である、
ことを特徴とするタイヤ内面用離型剤。
【請求項2】
さらに、滑剤を含む請求項1記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項3】
前記変性シリコーンがアミノ変性シリコーンである請求項1または2記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項4】
さらに、表面疎水性無機粉末を含み、
前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性
のシリコーンが、前記表面疎水性無機粉末表面に付着している請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ内面用離型剤。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ内面用離型剤と、水と、を含むことを特徴とするタイヤ内面用離型剤水分散液。
【請求項6】
前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面を前記表面疎水化剤により疎水化する疎水化工程と、
前記離型剤、前記界面活性剤および前記表面疎水性無機粉末を混合する混合工程と、
を含む、請求項4記載のタイヤ内面用離型剤の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記混合工程に先立ち、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性
のシリコーンと、前記界面活性剤の少なくとも一部とを混合する予備混合工程を含む、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
未加硫ゴム製生タイヤの内面に請求項5記載のタイヤ内面用離型剤水分散液を付着させ、
さらに水を揮発させる離型用前処理工程と、
前記離型用前処理工程後、成形型内で前記生タイヤに収容されたブラダーを膨張させることにより、前記成形型内面に前記生タイヤ外面を押し当て、その状態で前記生タイヤを加熱して加硫する加硫工程と、
を含むことを特徴とするタイヤの製造方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれか一項に記載のタイヤ内面用離型剤がタイヤ内面に付着していることを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内面用離型剤、タイヤ内面用離型剤水分散液、タイヤ内面用離型剤の製造方法、タイヤの製造方法およびタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム用離型剤の一種として、タイヤ内面用離型剤がある。例えば、特許文献1には、粉体からなる無機成分(無機粉末)と、シリコーン成分と、界面活性剤と、多価アルコールと、水とを含むタイヤ内面用離型剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤ内面用離型剤は、例えば、タイヤの製造工程の一部である未加硫生タイヤの加硫成形工程において、つぎのように用いられる。すなわち、まず、前記加硫成形工程では、例えば、ブラダーと呼ばれるゴム製袋を未加硫生タイヤの内側に配置し、前記ブラダーを温風、熱水または蒸気で膨張させる。これにより、金型内部に前記未加硫生タイヤを押し当てる。その状態で、圧入成形とともに前記未加硫生タイヤを加硫する。この加硫成形工程を円滑に行うため、前記未加硫生タイヤのインナーライナー面(内面)に、タイヤ内面用離型剤が予めスプレー塗布される。前記タイヤ内面用離型剤は、専用タンク内で事前に水に分散され、水分散液として、例えば数日間保管される。保管後の前記タイヤ内面用離型剤は、水に再分散され使用される。
【0005】
タイヤ内面用離型剤を、使用直前にその都度調製(製造)することは、きわめて非効率である。このため、タイヤ内面用離型剤は、前述のとおり、予め調製され、例えば数日間保管される。したがって、タイヤ内面用離型剤には、長時間保管後の性能維持が重要である。具体的には、例えば、タイヤ内面用離型剤の分散液において、離型成分(離型剤)であるマイカ(雲母)等の表面親水性非膨潤性無機粉末の沈降抑制が重要である。
【0006】
タイヤ内面用離型剤において、マイカの沈降抑制のためには、例えば、シリコーンオイルをマイカ表面にコーティングすることが行われている。しかしながら、マイカ等の表面親水性非膨潤性無機粉末は、表面へのシリコーンオイルの担持性が低いために、タイヤ内面用離型剤の分散液を長時間保管すると、前記シリコーンオイルが分離する場合がある。そうすると、前記分散液をスプレー塗布後に、外観不良の原因となるオイルスポットが発生するおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、長時間保管後であってもオイルスポットの発生を抑制または防止できるタイヤ内面用離型剤、タイヤ内面用離型剤水分散液、タイヤ内面用離型剤の製造方法、タイヤの製造方法およびタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のタイヤ内面用離型剤は、離型剤および界面活性剤を含むタイヤ内面用離型剤であって、前記離型剤が、表面親水性非膨潤性無機粉末と、シリコーンとを含み、前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面が、表面疎水化剤により疎水化されており、かつ、前記シリコーンが、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性であることを特徴とする。
【0009】
本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液は、前記本発明のタイヤ内面用離型剤と、水と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法は、前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面を前記表面疎水化剤により疎水化する疎水化工程と、前記離型剤、前記界面活性剤および前記滑剤を混合する混合工程と、を含む、前記本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法である。
【0011】
本発明のタイヤの製造方法は、未加硫ゴム製生タイヤの内面に前記本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液を付着させ、さらに水を揮発させる離型用前処理工程と、前記離型用前処理工程後、成形型内で前記生タイヤに収容されたブラダーを膨張させることにより、前記成形型内面に前記生タイヤ外面を押し当て、その状態で前記生タイヤを加熱して加硫する加硫工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明のタイヤは、前記本発明のタイヤ内面用離型剤がタイヤ内面に付着していることを特徴とする。または、本発明のタイヤは、前記本発明のタイヤ内面用離型剤を生タイヤの内面に付着させ、加硫してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のタイヤ内面用離型剤、タイヤ内面用離型剤水分散液、タイヤ内面用離型剤の製造方法、タイヤの製造方法およびタイヤによれば、長時間保管後であってもオイルスポットの発生を抑制または防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0015】
本発明のタイヤ内面用離型剤は、例えば、さらに、滑剤を含んでいてもよい。
【0016】
本発明のタイヤ内面用離型剤は、例えば、前記表面親水性非膨潤性無機粉末が、マイカを含んでいてもよい。前記マイカは、前記表面親水性非膨潤性無機粉末の一部であってもよいし、全部(全量)であってもよい。
【0017】
前記表面疎水化剤は、例えば、変性シリコーン、反応活性基を有するシラン、およびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0018】
前記表面疎水化剤は、例えば、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン、反応活性基を有するシラン、およびシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0019】
本発明のタイヤ内面用離型剤は、例えば、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンが、前記表面疎水化剤によって疎水化された前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面に付着していてもよい。
【0020】
本発明のタイヤ内面用離型剤は、例えば、さらに、表面疎水性無機粉末を含んでいてもよい。また、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンが、前記表面疎水性無機粉末表面に付着していてもよい。
【0021】
前記本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法は、さらに、前記混合工程に先立ち、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンと、前記界面活性剤の少なくとも一部とを混合する予備混合工程を含んでいてもよい。
【0022】
[1.タイヤ内面用離型剤]
本発明のタイヤ内面用離型剤における各成分は、特に限定されず、例えば、つぎのとおりである。
【0023】
[1-1.離型剤(離型成分)]
本発明のタイヤ内面用離型剤は、前述のとおり、離型剤(離型成分)を含む。なお、以下において、前記離型剤(離型成分)を、便宜上、離型剤(R)または成分(R)という場合がある。前記離型剤(R)は、前述のとおり、表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末と、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンとを含む。以下、前記離型剤(R)において、前記表面親水性非膨潤性無機粉末を、表面親水性非膨潤性無機粉末(A)または成分(A)といい、前記表面疎水化剤を、表面疎水化剤(B)または成分(B)といい、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンを、成分(C)または前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーン(C)という。また、前記表面疎水化剤(B)によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(A)を、成分(AB)または表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)という。前記離型剤(R)における前記各成分は、特に限定されないが、例えば以下のとおりである。
【0024】
[1-1-1.表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)]
前記成分(AB)は、前述のとおり、表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)である。すなわち、本発明のタイヤ内面用離型剤では、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面が前記表面疎水化剤(B)により疎水化されている。これにより、タイヤ内面用離型剤の分散液を長時間保管後であっても、オイル(疎水成分)が分離しにくい。このため、本発明によれば、前述のとおり、オイルスポットの発生を抑制または防止できる。
【0025】
前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)および前記表面疎水化剤(B)、ならびにそれらを用いて前記成分(AB)を製造する方法は、特に限定されないが、例えば以下のとおりである。
【0026】
[1-1-1-1.表面親水性非膨潤性無機粉末(A)]
前記成分(AB)において、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)(成分(A))は、特に限定されず、例えば、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、ゼオライト、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、無水ケイ酸等が挙げられる。成分(A)は、前述のとおり、マイカを含んでもよい。また、前記マイカは、成分(A)の一部でもよいし、全部(全量)でもよい。なお、以下において、成分(A)がマイカを含む場合、そのマイカを、マイカ(A)という場合がある。本発明において、マイカ(A)は、特に限定されず、例えば、一般的なタイヤ内面用離型剤に用いられるマイカと同様またはそれに準じてもよい。マイカ(A)としては、例えば、マスコバイト、セリサイト、白雲母、黒雲母、金雲母、イライト、カラーマイカ等が挙げられる。前記マイカ(A)は、マイカを1種類のみ含んでもよいし、2種類以上のマイカを併用してもよい。
【0027】
本発明のタイヤ内面用離型剤の製造における前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)または前記マイカ(A)の使用量は、特に限定されないが、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、または30質量%以上であってもよく、60質量%以下、55質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、または40質量%以下であってもよい。
【0028】
前記マイカ(A)は、前述のとおり、特に限定されないが、タイヤ内面の白色化を抑制し、タイヤ内面の外観を向上する観点からは、L*値が90未満であるマイカが好ましい。本発明において、前記L*値は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化されたL*a*b*表色系(CIE1976(L*a*b*)表色系に基づくものである(JIS Z 8729参照)。このL*値は、例えば、下記の方法で測定できる。
【0029】
(マイカ(A)のL*値の測定方法)
マイカ(A)をガラスセルに入れ、Color meter ZE6000(日本電色工業(株)の製品名)にて反射モードでL*値を3回測定し、平均値を算出する。
【0030】
L*値が90未満であるマイカとしては、特に限定されないが、例えば、黒雲母、金雲母、イライト、カラーマイカ等が挙げられる。なお、黒雲母、金雲母およびイライトの化学構造式の一例および前記方法で測定したL*値を、下記表1に示す。
【0031】
【0032】
前記マイカ(A)は、L*値が90未満であるマイカを含んでいてもよいし、含まなくてもよいし、L*値が90未満であるマイカのみからなっていてもよい。また、前記マイカ(A)は、2種類以上のマイカの併用により、前記マイカ(A)全体としてL*値が90未満であってもよいし、L*値が90以上であってもよい。前述のとおり、タイヤ内面の白色化を抑制し、タイヤ内面の外観を向上する観点からは、前記マイカ(A)全体としてL*値が90未満であることが好ましい。前記マイカ(A)全体としてのL*値は、例えば、86未満、83以下、または75以下であってもよい。前記L*値の下限は、特に限定されず、例えば、5以上、10以上、または15以上であってもよい。
【0033】
また、前記マイカ(A)は、例えば、マグネシウムを含有するマイカであってもよい。例えば、前記表1に示した黒雲母および金雲母がこれに該当する。また、前記表1に示した化学構造式の一例には表れていないが、前述のイライトも、マグネシウムを含有することがある。マイカ(A)がマグネシウムを含有するマイカであれば、例えば、外観をより向上可能である。
【0034】
なお、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)において、「非膨潤性」とは、水または有機溶媒中においてほとんど膨潤しないことをいう。具体的には、本発明において、無機粉末が「非膨潤性」であるとは、例えば、水または有機溶媒中において膨潤力が5mL/2g未満であることをいい、特に、水中において膨潤力が5mL/2g未満であることをいう。
本発明における「膨潤力」は、日本ベントナイト工業会標準試験方法:ベントナイト(粒状)の膨潤試験方法(JBAS-104‐77)により測定することが出来る。
【0035】
[1-1-1-2.表面疎水化剤(B)]
前記表面疎水化剤(B)(成分(B))は、特に限定されないが、前述のとおり、例えば、変性シリコーン、反応活性基を有するシラン、およびシランカップリング剤等が挙げられる。前記変性シリコーンとしては、例えば、前述のとおり、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ハイドロジェン変性シリコーン等が挙げられる。なお、ハイドロジェン変性シリコーンは「ハイドロジェンシリコーン」ともいう。また、前記表面疎水化剤(B)は、表面疎水化剤を1種類のみ含んでもよいし、2種類以上の表面疎水化剤を併用してもよい。
【0036】
前記変性シリコーン、前記反応活性基を有するシラン、および前記シランカップリング剤は、特に限定されず、例えば、一般的な変性シリコーン、反応活性基を有するシラン、およびシランカップリング剤と同様またはそれに準じてもよい。以下に、例を挙げて説明する。
【0037】
前記変性シリコーンは、例えば、シリコーンに官能基を導入した化合物であってもよい。前記シリコーンは、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサンであってもよい。なお、一般に、比較的低分子量のものを「ポリシロキサン」といい、比較的高分子量のものを「シリコーン」といって区別する場合があるが、本発明では、特に区別しない。前記シリコーンは、例えば、下記化学式(1)で表されてもよい。
【0038】
【0039】
前記化学式(1)中、Rは、置換基であり、例えば、炭化水素基である。また、各Rは同一でも異なっていてもよい。前記化学式(1)中のRは、例えば、全て炭化水素基であってもよく、この場合、各Rは同一でも異なっていてもよい。前記炭化水素基は、例えば、直鎖状でも分枝状でもよく、飽和でも不飽和でもよく、環状構造を含んでいても含んでいなくてもよい。前記環状構造は、例えば、非芳香環でもよいし、芳香環でもよい。前記炭化水素基の炭素数は、例えば、1以上、2以上、または3以上でもよいし、22以下、18以下、10以下、または8以下でもよい。Rは、例えば、直鎖または分枝アルキル基でもよいし、芳香族置換基でもよい。前記直鎖または分枝アルキル基の炭素数は、例えば、1以上、2以上、または3以上でもよいし、18以下、10以下、または8以下でもよい。前記直鎖または分枝アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ブチル基等が挙げられる。前記芳香族置換基の炭素数は、例えば、6以上でもよいし、18以下でもよい。前記芳香族置換基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、トリスチレン化フェニル基等が挙げられる。
【0040】
前記化学式(1)中、lは、重合度であり、任意の正の整数である。lは、例えば、1以上、2以上、3以上でもよいし、2000以下、1000以下、500以下、または400以下でもよい。
【0041】
前記シリコーンは、例えば、ジメチルシリコーン(ジメチルポリシロキサン)であってもよい。前記ジメチルシリコーンは、例えば、前記化学式(1)中において、末端以外の全てのRがメチル基である化合物、または、末端も含めて全てのRがメチル基である化合物である。
【0042】
前記変性シリコーンは、例えば、前記化学式(1)中におけるRの少なくとも一部を有機基または水素原子で置き換えた化合物であってもよい。前記水素原子は、ケイ素原子に直接結合した水素原子であることから、例えば、反応性の官能基として機能する。前記変性シリコーンは、例えば、側鎖型、両末端型、片末端型、および側鎖両末端型の変性シリコーンが挙げられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0043】
前記側鎖型の変性シリコーンは、例えば、下記化学式(2)で表される。
【0044】
【0045】
前記化学式(2)中、Rは、前記化学式(1)中のRと同様である。Qは、有機基または水素原子である。Qは、複数の場合は、同一でも異なっていてもよい。mは、重合度であり、任意の正の整数である。mは、例えば、1以上、5以上、10以上、15以上、または20以上でもよいし、5000以下、3000以下、1000以下、または800以下でもよい。nは、重合度であり、任意の正の整数である。nは、例えば、1以上、5以上、10以上、または20以上でもよいし、5000以下、3000以下、1000以下、または800以下でもよい。
また、前記化学式(2)の変性シリコーンの構造は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。すなわち、Qは、前記化学式(2)の変性シリコーン中において、末端以外の任意の位置に存在していてよい。また、Qが複数の場合、Qどうしは隣接していても離れていてもよい。
【0046】
前記両末端型の変性シリコーンは、例えば、下記化学式(3)で表される。
【0047】
【0048】
前記化学式(3)中、Rおよびlは、前記化学式(1)と同様である。また、Qは有機基または水素原子であり、各Qは同一でも異なっていてもよい。
【0049】
前記片末端型の変性シリコーンは、例えば、下記化学式(4)で表される。
【0050】
【0051】
前記化学式(4)中、Rおよびlは、前記化学式(1)と同様である。また、Qは有機基または水素原子である。
【0052】
前記側鎖両末端型の変性シリコーンは、例えば、下記化学式(5)で表される。
【0053】
【0054】
前記化学式(5)中、Rは、前記化学式(1)中のRと同様である。Qは、有機基または水素原子であり、各Qは、同一でも異なっていてもよい。mおよびnは、前記化学式(2)と同様である。また、前記化学式(5)の変性シリコーンの構造は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。すなわち、前記化学式(5)の変性シリコーン中において、末端以外のQは、任意の位置に存在していてよく、複数の場合、互いに隣接していても離れていてもよい。
【0055】
前記アミノ変性シリコーンとしては、特に限定されないが、例えば、モノアミン型でもジアミン型でもよい。前記モノアミン型は、例えば、前記化学式(1)~(5)において、前記有機基(例えば、前記化学式(2)~(5)中のQ)が、下記化学式(6)で表される基であってもよい。前記ジアミン型は、例えば、前記化学式(1)~(5)において、前記有機基が、下記化学式(7)で表される基であってもよい。また、下記化学式(6)および(7)で表される基は、例えば、変性シリコーンの同一分子中に、一方のみ存在していてもよいし、両方存在していてもよい。
【0056】
【0057】
前記化学式(6)および(7)中、R1およびR2は、それぞれ、例えば、直鎖もしくは分枝アルキレン基、アラルキレン基、アリーレン基、またはフェニレン基であってもよい。R1およびR2は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、R1が1分子中に複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく、R2が1分子中に複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよい。前記直鎖または分枝アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、2以上、または3以上でもよいし、18以下、10以下、または8以下でもよい。前記直鎖または分枝アルキレン基としては、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0058】
前記アミノ変性シリコーンの粘度は、特に限定されないが、例えば、25℃における動粘度が、50000mm2/s以下、40000mm2/s以下、30000mm2/s以下、10000mm2/s以下、または5000mm2/s以下であってもよく、50mm2/s以上、100mm2/s以上、150mm2/s以上、または200mm2/s以上であってもよい。なお、動粘度は、粘度を密度で割った数値である。また、1mm2/sは、1cSt(センチストークス)に等しい。表面親水性非膨潤性無機粉末へのコーティングの均一性の観点からは、粘度が高すぎないことが好ましい。表面親水性非膨潤性無機粉末への担持性の観点からは、粘度が低すぎないことが好ましい。
【0059】
前記アミノ変性シリコーンのアミノ官能基当量は、特に限定されないが、例えば、300g/mol以上、500g/mol以上、または600g/mol以上であってもよく、30000g/mol以下、20000g/mol以下、または10000g/mol以下であってもよい。表面親水性非膨潤性無機粉末へのコーティングの均一性の観点からは、アミノ官能基当量がなるべく高いことが好ましい。一方、表面親水性非膨潤性無機粉末への担持性の観点からは、アミノ官能基当量が高すぎないことが好ましい。なお、アミノ官能基当量は、例えば、下記の方法により測定および算出することができる。
【0060】
(アミノ官能基当量の測定方法)
清浄なビーカー(容量100ml)に、試料約1.0gを精秤し、次にイソプロピルアルコールを約60ml加え、充分撹拌し、前記試料を溶解させる。その後、N/5イソプロピルアルコール性塩酸溶液(試薬1級)で自動滴定装置を用いて滴定し、下記数式〔1〕により前記試料のアミン価を算出する。なお、「アミン価」は、アミノ官能基当量と同義である。また、「N/5」は、1/5規定(塩酸濃度)を意味し、HCl濃度0.2mol/Lに等しい。
アミン価=(N/5HClのmL数)×F×11.22/(試料g数) 〔1〕
前記数式〔1〕において、「N/5HCl」は、前記N/5イソプロピルアルコール性塩酸溶液(試薬1級)を意味する。Fは、N/5HClの力価である。
【0061】
前記アミノ変性シリコーンとしては、具体的には、例えば、信越シリコーン(信越化学工業株式会社の登録商標)のKF-8004、KF-869、KF-8005、KF-393(いずれも商品名)、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社のTSF4704(商品名)、または旭化成ワッカーシリコーン社のWACKER L655(商品名)等が挙げられる。
【0062】
前記エポキシ変性シリコーンとしては、特に限定されないが、例えば、前記化学式(1)~(5)において、前記有機基が、下記化学式(8)で表される基であってもよい。
【0063】
【0064】
前記化学式(8)中、R3は、例えば、直鎖もしくは分枝アルキレン基、アラルキレン基、アリーレン基、またはフェニレン基であってもよい。また、R3が1分子中に複数存在する場合は、互いに同一でも異なっていてもよく、前記直鎖または分枝アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上、2以上、または3以上でもよいし、18以下、10以下、または8以下でもよい。前記直鎖または分枝アルキレン基としては、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0065】
前記エポキシ変性シリコーンの粘度は、特に限定されないが、例えば、25℃における動粘度が、50000mm2/s以下、40000mm2/s以下、30000mm2/s以下、1000mm2/s以下、または5000mm2/s以下であってもよく、20mm2/s以上、25mm2/s以上、50mm2/s以上、100mm2/s以上、または200mm2/s以上であってもよい。表面親水性非膨潤性無機粉末へのコーティングの均一性の観点からは、粘度が高すぎないことが好ましい。表面親水性非膨潤性無機粉末への担持性の観点からは、粘度が低すぎないことが好ましい。
【0066】
前記エポキシ変性シリコーンのエポキシ官能基当量は、特に限定されないが、例えば、200g/mol以上、300g/mol以上、または500g/mol以上であってもよく、4000g/mol以下、または3500g/mol以下であってもよい。表面親水性非膨潤性無機粉末へのコーティングの均一性の観点からは、エポキシ官能基当量がなるべく高いことが好ましい。一方、コストの観点からは、エポキシ官能基当量が高すぎないことが好ましい。なお、エポキシ官能基当量は、例えば、下記の方法により測定および算出することができる。
【0067】
(エポキシ官能基当量の測定方法)
試料1.0gを100mlビーカーにとり、ホールピペットで塩酸-ジオキサン溶液を15ml加え、溶解させる。5分放置後、さらに、エタノール20mlおよびフェノールフタレイン5~6滴を加える。これに対し、0.1N(0.1mol/L)NaOHで滴定を行う。この滴定は、無色からピンク色になった所を終点と判断する。また、別に同様の方法でブランクの滴定を行なっておく。そして、下記数式〔2〕に基づいて前記試料のエポキシ価を算出する。なお、「エポキシ価」は、エポキシ官能基当量と同義である。
エポキシ価(g/mol)=0.1(B-T)/ 1000W 〔2〕
前記数式中の符号の意味は、それぞれ、下記のとおりである。
B:ブランクに要したNaOHの滴定量(ml)
T:サンプルに要したNaOHの滴定量(ml)
W:サンプル採取量(g)
【0068】
前記エポキシ変性シリコーンとしては、具体的には、例えば、信越シリコーン(信越化学工業株式会社の登録商標)のX-22-343、KF-1001(いずれも商品名)、またはモメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社のYF3965(商品名)等が挙げられる。
【0069】
前記ハイドロジェン変性シリコーン(ハイドロジェンシリコーン)としては、例えば、前記化学式(1)中のRの少なくとも一つが水素原子で置き換えられた化合物でもよく、例えば、前記化学式(2)~(5)中において、Qの少なくとも一つが水素原子である化合物でもよい。
【0070】
前記ハイドロジェン変性シリコーンの粘度は、特に限定されないが、例えば、25℃における動粘度が、10000mm2/s以下、5000mm2/s以下、または2000mm2/s以下であってもよく、5mm2/s以上、10mm2/s以上、または20mm2/s以上であってもよい。表面親水性非膨潤性無機粉末へのコーティングの均一性の観点からは、粘度が高すぎないことが好ましい。表面親水性非膨潤性無機粉末への担持性の観点からは、粘度が低すぎないことが好ましい。
【0071】
前記ハイドロジェン変性シリコーンのハイドロジェン官能基当量は、特に限定されないが、例えば、20g/mol以上、30g/mol以上、または50g/mol以上であってもよく、200g/mol以下、180g/mol以下、または160g/mol以下であってもよい。表面親水性非膨潤性無機粉末への担持性の観点からは、ハイドロジェン官能基当量がなるべく高いことが好ましい。一方、コストの観点からは、ハイドロジェン官能基当量が高すぎないことが好ましい。なお、ハイドロジェン官能基当量は、例えば、前記アミノ官能基当量および前記エポキシ官能基当量の方法により測定および算出することができる。
【0072】
前記ハイドロジェン変性シリコーンとしては、具体的には、例えば、信越シリコーン(信越化学工業株式会社の登録商標)のKF-99、KF-9901(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0073】
前記反応活性基を有するシランは、例えば、シランの水素原子の少なくとも一つが反応活性基で置換された化合物でもよい。シランとは、狭義にはSiH4のみをいう場合があるが、本発明では、例えば水素化ケイ素全般であり、例えば組成式SinH2n+2で表される。前記反応活性基を有するシランにおいて、「反応活性基」は、他の何らかの物質と反応し得る官能基をいい、例えば、表面親水性非膨潤性無機粉末と反応し得る官能基であってもよい。前記反応活性基は、特に限定されないが、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メトキシ基、ビニル基、アミノ基、イミノ基、等が挙げられる。
【0074】
前記反応活性基を有するシランとしては、具体的には、例えば、アルコキシシラン、シラザン、クロロシラン等が挙げられ、より具体的には、例えば、信越シリコーン(信越化学工業株式会社の登録商標)のLS-10、LS-190、LS-530(いずれも商品名)、または社の等が挙げられる。
【0075】
前記シランカップリング剤は、特に限定されず、例えば、一般的なシランカップリング剤と同様またはそれに準じてもよい。シランカップリング剤は、例えば、分子中に、有機物質に対する反応活性基(有機物質と反応し得る官能基)と、無機物質に対する反応活性基(無機物質と反応し得る官能基)とを含むため、有機物質と無機物質とを結合させることができる。
【0076】
前記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、信越シリコーン(信越化学工業株式会社の登録商標)のKBM-303、KBM-602(いずれも商品名)、またはモメンティブ・パフォーマンスマテリアルズ社のA-137、A-171(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0077】
本発明のタイヤ内面用離型剤の製造における表面疎水化剤(B)の使用量は、特に限定されないが、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、1.5質量%以上、または2.0質量%以上であってもよく、10質量%以下、9質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、または6質量%以下であってもよい。
【0078】
[1-1-1-3.表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)の製造方法]
つぎに、表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)(成分(AB))の製造方法について例を挙げて説明する。前記成分(AB)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下のとおりである。
【0079】
前記成分(AB)は、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)(成分(A))の表面を前記表面疎水化剤(B)(成分(B))により疎水化して製造することができる。前記成分(AB)の製造において、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)(成分(A))と前記表面疎水化剤(B)(成分(B))との質量比は、特に限定されないが、前記成分(B)/前記成分(A)(質量比)が、例えば、0.01以上、0.02以上、または0.03以上であってもよく、20以下、18以下、16以下、14以下、または12以下であってもよい。前記成分(B)/前記成分(A)(質量比)の範囲は、例えば、0.01~20であってもよい。
【0080】
前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)表面の前記表面疎水化剤(B)による疎水化の方法は、特に限定されないが、例えば、単に前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)と前記表面疎水化剤(B)とを攪拌し混合するのみでもよい。前記攪拌用の機器は、例えば、ヘンシェルミキサー(商品名)を使用できるが、これに限定されず、任意である。前記攪拌用の機器は、前記ヘンシェルミキサーに代えて、例えば、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー、ナウターミキサー、ニューグラマシン、シュギミキサー、プロシェアミキサー、スパルタンミキサー、パグミキサー、タービュライザー(いずれも商品名)、水平円筒型混合機、混練押出機、横型連続式のニーダー、密閉式の圧密化処理装置等も用い得る。攪拌速度は、特に限定されないが、例えば、100rpm以上、350rpm以上、500rpm以上、750rpm以上、または1000rpm以上であってもよく、4000rpm以下、3500rpm以下、3000rpm以下、2500rpm以下、または2000rpm以下であってもよい。また、攪拌時間は、特に限定されないが、例えば、5分間以上、10分間以上、15分間以上、20分間以上、または25分間以上であってもよく、60分間以下、55分間以下、50分間以下、45分間以下、または40分間以下であってもよい。また、前記攪拌時は、加熱等を行なわず室温で攪拌するのみでもよいが、必要に応じ加熱等をしてもよい。前記攪拌時の温度は、特に限定されないが、例えば、20℃以上、25℃以上、30℃以上、35℃以上、または40℃以上であってもよく、70℃以下、65℃以下、60℃以下、55℃以下、または50℃以下であってもよい。このようにして、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面を前記表面疎水化剤(B)により疎水化し、表面疎水化剤によって疎水化された前記表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)(成分(AB))を製造することができる。
【0081】
なお、前記攪拌および混合は、前述のとおり、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)および前記表面疎水化剤(B)のみを攪拌し混合してもよい。また、他の液体等を用いて、前記液体中に、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)を分散させるとともに、前記表面疎水化剤(B)を分散または溶解させ、攪拌および混合してもよい。前記液体は、例えば、水および有機溶媒が挙げられ、1種類のみ用いてもよいし2種類以上併用してもよい。前記有機溶媒は、特に限定されないが、前記表面疎水化剤(B)の溶解度が高い有機溶媒が好ましい。前記有機溶媒は、例えば、アルコールであってもよい。前記アルコールは、1価のアルコールでもよいし、多価アルコールでもよい。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0082】
また、前記成分(AB)は、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面が、前記表面疎水化剤(B)により疎水化されていればよく、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)と前記表面疎水化剤(B)とが反応していても反応していなくてもよい。具体的には、例えば、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)と前記表面疎水化剤(B)との反応により、両者間に共有結合が形成されていてもよい。また、例えば、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)と前記表面疎水化剤(B)とが反応せず、両者間の静電気的引力、分子間力等により、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面が前記表面疎水化剤(B)により被覆されていてもよい。
【0083】
前記成分(AB)において、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面が前記表面疎水化剤(B)により疎水化されていることは、例えば、前記成分(AB)を水に分散させて目視することで確認できる。具体的には、表面親水性非膨潤性無機粉末表面が疎水化されていない場合は、表面親水性非膨潤性無機粉末が水中で分散しやすい(表面親水性非膨潤性無機粉末の分散度が高い)ため、水の透明度が低くなる。これに対し、表面親水性非膨潤性無機粉末表面が疎水化されている場合は、表面親水性非膨潤性無機粉末が水中で分散しにくい(表面親水性非膨潤性無機粉末の分散度が低い)ため、水の透明度が低下しにくい。例えば、容器中の水に表面親水性非膨潤性無機粉末を分散させ、容器の向こう側の見えやすさにより、水の透明度を判断し、前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面の疎水化の有無を確認できる。より具体的には、例えば、後述の実施例に記載する「マイカの表面疎水化評価方法」により、マイカの表面が疎水化されているか否かを確認できる。前記表面親水性非膨潤性無機粉末が、マイカ以外を含む場合、またはマイカ以外のみからなる(すなわち、マイカを含まない)場合も、前記「マイカの表面疎水化評価方法」と同様の方法により、前記表面親水性非膨潤性無機粉末の表面が疎水化されているか否かを確認できる。
【0084】
さらに、例えば、後述の実施例に記載するように、本発明のタイヤ内面用離型剤またはタイヤ内面用離型剤水分散液において、オイルスポットの発生が抑制または防止されていることからも、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面が前記表面疎水化剤(B)により疎水化されていることが確認できる。
【0085】
[1-1-2.表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーン(C)]
前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーン(C)(成分(C))は、前述のとおり、前記離型剤(離型成分)(R)の一部である。前記成分(C)は、特に限定されず、例えば、オルガノポリシロキサン類が挙げられる。前記オルガノポリシロキサン類は、シリコーンオイル、シリコーンゴム、およびシリコーン樹脂を含む概念である。前記オルガノポリシロキサン類としては、より具体的には、例えば、[1]ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、メチルイソプロピルポリシロキサン、メチルドデシルポリシロキサン等のアルキルポリシロキサン、[2]メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルシロキサン・メチルフェニルポリシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体等のアルキルフェニルポリシロキサン、[3]メチル(フェニルエチル)ポリシロキサン、メチル(フェニルプロピル)ポリシロキサン等のアルキルアラルキルポリシロキサン、[4]3,3,3-トリフルオロプロピルメチルポリシロキサン等が挙げられる。前記シリコーン成分は、1種類のみ用いてもよいし、複数種類併用してもよい。
【0086】
なお、前記表面疎水化剤(B)の一部または全部が、表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンである場合、その表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンの含有率は、前記成分(C)の含有率には含ませず、前記成分(B)の含有率に含ませるものとする。すなわち、本発明のタイヤ内面用離型剤は、前記表面疎水化剤(B)の一部または全部が、マイカ表面に対し非反応性のシリコーンである場合でも、前記表面疎水化剤(B)とは別に(前記表面疎水化剤(B)以外に)、前記成分(C)を含む。この場合、前記表面疎水化剤(B)において、表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーンは、前記成分(C)と同じ物質でもよいし、別の物質でもよい。
【0087】
前記成分(C)は、例えば、前記成分(AB)および(E)に担持させることで、オイルスポットの発生をさらに抑制させることができる。また、前記成分(C)は、例えば、シリコーン成分と界面活性剤とを含むシリコーン乳化物であってもよい。前記成分(C)が前記シリコーン乳化物である場合、それに含まれる界面活性剤の含有率は、後述する界面活性剤(D)(成分(D))の含有率には含ませず、前記成分(C)の含有率に含ませるものとする。前記シリコーン乳化物において、前記シリコーン成分は、剥離性(離型性)の観点から、分子構造が直鎖状で、重合度が低く常温で流動性を有するシリコーンオイル等が好ましい。前記シリコーン成分の粘度は、特に限定されず、例えば、離型性と製品安定性のバランスの観点から、25℃において、1000~10万mPa・s、5000~5万mPa・sである。
【0088】
前記シリコーン乳化物に含まれる前記界面活性剤は、特に限定されず、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤のいずれでもよいが、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。前記アニオン界面活性剤は、特に限定されず、例えば、[1]高級脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテルカルボン酸塩、アルキル(またはアルケニル)アミドエーテルカルボン酸塩、アシルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸型、[2]高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノ硫酸エステル塩等の硫酸エステル型、[3]アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸型、[4]アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル塩等のリン酸エステル型、等が挙げられる。前記ノニオン界面活性剤も、特に限定されず、例えば、[5]ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、[6]ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、等が挙げられる。前記界面活性剤は、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0089】
前記シリコーン乳化物(シリコーンエマルジョン)は、例えば、前記シリコーン成分を、前記界面活性剤を用いて水中に分散させ、乳化させて製造してもよい。分散および乳化方法は、特に限定されず、一般的な分散および乳化方法を用いてよい。例えば、まず、シリコーン成分に、ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤の少なくとも一方を混合する。一方、予め乳化機を設置した容器に規定量の水を入れる。つぎに、前記水を前記乳化機により撹拌しながら、前記シリコーン成分と前記界面活性剤との混合液を、少しずつ(例えば、1時間かけて)投入し、分散させる。さらに、乳化するまで撹拌することにより、前記シリコーン乳化物(シリコーンエマルジョン)を製造する。前記乳化機は、特に限定されず、一般的な乳化機でもよく、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー(いずれも商品名)等が挙げられる。また、前記シリコーン乳化物は、例えば、市販のシリコーン乳化物(シリコーンエマルジョン)をそのまま用いてもよい。前記市販のシリコーン乳化物(シリコーンエマルジョン)としては、例えば、信越化学工業株式会社製の商品名KM-862T、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名FZ-4157等が挙げられる。前記シリコーン乳化物は、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0090】
なお、特に限定するものではないが、前記シリコーン乳化物を120℃で1時間乾燥した後の残渣質量は、前記乾燥前の前記シリコーン乳化物の質量全体に対して、例えば、20~80質量%、30~70質量%、または30~65質量%であってもよい。
【0091】
本発明のタイヤ内面用離型剤における前記成分(C)の含有率は、特に限定されないが、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、3質量%以上、4質量%以上、または5質量%以上、6質量%以上、または7質量%以上であってもよく、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、または11質量%以下であってもよい。
【0092】
[1-1-3.その他の離型成分]
前記離型剤(離型成分)(R)は、前記成分(AB)および前記成分(C)に加え、さらにその他の離型剤(離型成分)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記その他の離型剤(離型成分)としては、特に限定されないが、例えば、後述する表面疎水性無機粉末(E)(例えばタルク等)のうち、離型剤(離型成分)として機能し得る成分であってもよい。また、前記離型剤(離型成分)(R)が前記その他の離型剤(離型成分)を含む場合、前記その他の離型剤(離型成分)は、1種類でも複数種類でもよい。
【0093】
[1-2.界面活性剤]
本発明のタイヤ内面用離型剤において、前記界面活性剤は、例えば、乳化安定性付与を担う成分として機能する。なお、以下において、前記界面活性剤を、便宜上、界面活性剤(D)または成分(D)という。また、前記「乳化安定性」は、本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液が乳化物である場合における、前記乳化物の安定性をいう。前記乳化物は、本発明のタイヤ内面用離型剤の各成分が、水の中に分散された乳化物であることが好ましい。このような乳化物は、すなわち、水中油滴型の乳化物(エマルジョン)である。
【0094】
前記成分(D)において、前記界面活性剤は、特に限定されず、カチオン界面活性剤でも、ノニオン界面活性剤でも、アニオン界面活性剤でもよいが、ノニオン界面活性剤およびアニオン界面活性剤の少なくとも一方が好ましい。前記ノニオン界面活性剤としては、例えば、[1]ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル、[2]ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、[3]ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノオレエート等のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、[4]ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、[5]ポリオキシアルキレン硬化ひまし油、[6]ポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、[7]ポリグリセリン脂肪酸エステル、[8]アルキルグリセリンエーテル、[9]ポリオキシアルキレンコレステリルエーテル、[10]アルキルポリグルコシド、[11]ショ糖脂肪酸エステル、[12]ポリオキシアルキレンアルキルアミン、[13]オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマー、等が挙げられる。前記アニオン界面活性剤としては、例えば、[1]オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、オレイン酸トリエタノールアミン等の脂肪酸塩、[2]ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ステアリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩、[3]ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸塩、[4]ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、[5]ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、[6]ステアロイルメチルタウリンNa、ラウロイルメチルタウリンNa、ミリストイルメチルタウリンNa、パルミトイルメチルタウリンNa等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、[7]ラウロイルサルコシンナトリウム等のN-アシルサルコシン塩、[8]モノステアリルリン酸ナトリウム等のアルキルリン酸塩、[9]ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、[10]ジ-2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩、[11]N-ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム、N-ステアロイル-L-グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N-アシルグルタミン酸塩、等が挙げられる。成分(D)は、界面活性剤を1種類のみ含んでもよいし、2種類以上の界面活性剤を併用してもよい。
【0095】
本発明のタイヤ内面用離型剤における前記成分(D)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、タイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、1~17質量%、1~15質量%、または2~13質量%であってもよい。タイヤ内面用離型剤の乳化安定性の観点、および、生タイヤ若しくはブラダーへの濡れ性が低下しハジキが発生する現象を防止する観点から、前記成分(D)の含有率は、1質量%以上が好ましい。また、タイヤ内面用離型剤の付着性および離型性の観点、並びに、タイヤの貼り合せ部に離型剤が入り込んで接着阻害を起こす現象を防止する観点から、前記成分(D)の含有率は、17質量%以下が好ましい。
【0096】
なお、前記成分(D)の一部または全部を、前記予備混合工程により、前記成分(C)(前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーン)と混合してもよい。前記予備混合工程は、行なってもよいし、行なわなくてもよい。前記予備混合工程を行なうと、その後の前記混合工程において、前記成分(C)が他の成分と混合されやすくなるため好ましい。なお、以下において、前記成分(D)のうち、前記予備混合工程において用いる分を、「成分(D1)」という場合がある。
【0097】
前述のとおり、前記予備混合工程を行なうと、その後の前記混合工程において、前記成分(C)が、タイヤ内面用離型剤の他の成分である無機粉末(無機紛体)と均一に混合されやすくなるため好ましい。その理由は必ずしも明らかではないが、前記成分(C)と前記成分(D1)とを混合することで、前記成分(C)と前記成分(D1)との混合物によるシリコーンエマルジョンが形成され、前記成分(C)が前記無機粉末の表面に均一に付着しやすくなるためと考えられる。前記成分(D1)は、前記成分(D)の全部でもよいが、前記成分(D)の一部であることが好ましい。前記成分(C)と前記成分(D1)との混合物によるシリコーンエマルジョンは、前記成分(D1)の量が多いと安定性(乳化安定性)が高くなる傾向にあるが、前記シリコーンエマルジョンの安定性が高すぎると、かえって前記成分(C)が前記無機粉末表面に付着しにくくなるためである。前記成分(D1)の量が少ないことにより、前記シリコーンエマルジョンの安定性(乳化安定性)が適度に低いと、乳化が破壊されやすく、前記成分(C)が前記無機粉末表面に付着しやすくなると考えられる。それにより、前記成分(C)(シリコーン)が前記無機粉末表面に担持されやすくなり、再分散しにくくなると考えられる。そして、前記成分(D1)以外の前記成分(D)により、前記成分(C)が付着した前記無機粉末がタイヤ内面用離型剤またはタイヤ内面用離型剤水分散液中に分散しやすくなると考えられる。なお、前記無機粉末としては、例えば、前記成分(AB)および後述する表面疎水性無機粉末(E)が挙げられる。
【0098】
前記成分(D1)の量は、特に限定されないが、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、0.1質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、または1.5質量%以上であってもよく、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、または1.0質量%以下であってもよい。また、前記界面活性剤(D1)は、特に限定されないが、アニオン界面活性剤が好ましい。前記アニオン界面活性剤は、例えば、[1]高級脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシアルキレンエーテルカルボン酸塩、アルキル(またはアルケニル)アミドエーテルカルボン酸塩、アシルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸型、[2]高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノ硫酸エステル塩等の硫酸エステル型、[3]アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のスルホン酸型、[4]アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルリン酸エステル塩、グリセリン脂肪酸エステルモノリン酸エステル塩等のリン酸エステル型、等が挙げられるが、中でも高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル塩が好ましい。
【0099】
[1-3.表面疎水性無機粉末]
本発明のタイヤ内面用離型剤は、前述のとおり、さらに、表面疎水性無機粉末を含んでいてもよい。本発明のタイヤ内面用離型剤において、前記表面疎水性無機粉末は、任意成分であり、含んでいても含んでいなくてもよいが、例えば、後述する滑剤、離型剤(離型成分)等として機能する観点から、含むことが好ましい。なお、以下において、前記表面疎水性無機粉末を、便宜上、表面疎水性無機粉末(E)または成分(E)という。前記表面疎水性無機粉末(E)(成分(E))は、特に限定されず、例えば、一般的なタイヤ内面用離型剤用いられている表面疎水性無機粉末であってもよい。前記成分(E)としては、例えば、タルク等が挙げられ、これらは天然物でもよいし合成物でもよい。なお、タルク等は、タイヤ内面用離型剤において、例えば、滑剤として働くと考えられる。また、タルク等は、例えば、滑剤として働くとともに、タイヤ内面用離型剤の離型性を高める働きをすると考えられる。このような働きをする滑剤は、前記離型剤(離型成分)の一部でもあるということができる。
【0100】
本発明のタイヤ内面用離型剤における前記成分(E)の含有率は、目的に応じて選択可能であり、例えば、タイヤ内面用離型剤における水以外の全成分の質量全体に対して、20~70質量、または25~65質量%であってもよい。
【0101】
本発明のタイヤ内面用離型剤において、前記成分(A)の質量(含有率Aw)と、前記成分(E)の質量(含有率Ew)との比(Aw/Ew)は、特に限定されず、例えば、0.1~5、0.1~3、または0.2~1.1であってもよい。
【0102】
なお、本発明において、無機粉末の表面が親水性であるか疎水性であるかは、例えば、後述の実施例に記載する「マイカの表面疎水化評価方法」と同様の方法により、確認できる。
【0103】
[1-4.その他の任意成分等]
本発明のタイヤ内面用離型剤は、前述のとおり、前記離型剤(R)および前記界面活性剤(D)以外に、任意成分として、前記表面疎水性無機粉末(E)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。また、本発明のタイヤ内面用離型剤は、前記表面疎水性無機粉末(E)以外のその他の任意成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記その他の任意成分としては、例えば、増粘剤、保水剤、透明性向上に寄与し得る多価アルコール、水、シリコーン系消泡剤、鉱物油系消泡剤等の各種消泡剤、各種防腐剤等が挙げられる。
【0104】
前記増粘剤としては、例えば、水膨潤性無機粉末が挙げられる。前記水膨潤性無機粉末としては、特に限定されないが、例えば、水膨潤性粘土鉱物、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチブンサイト、モンモリロナイトを含有するベントナイト等が挙げられる。
【0105】
前記保水剤としては、特に限定されず、例えば、一般的なタイヤ内面用離型剤に用いられている保水剤と同様でもよい。より具体的には、例えば、後述する多価アルコール、またはアルギン酸、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。
【0106】
前記多価アルコールとしては、特に限定されず、例えば、[1]ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール等のポリエチレングリコール類、[2]ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ヘキサプロピレングリコール等のポリプロピレングリコール類、[3]ジブチレングリコール、トリブチレングリコール、テトラブチレングリコール、ペンタブチレングリコール、ヘキサブチレングリコール等のポリブチレングリコール類、[4]エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,2-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ジメチルペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1、5-ペンタンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロへプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン、およびこれらの2種類以上の共重合体等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種類のみ用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0107】
なお、本発明のタイヤ内面用離型剤の嵩密度は、特に限定されないが、例えば、0.70~1.5g/cm3であってもよい。本発明のタイヤ内面用離型剤の嵩密度が前記範囲であることで、例えば、経時沈降抑制と、スプレーによる均一塗布とが、いっそう良好になる。前記嵩密度は、例えば、0.75~1.45g/cm3、または0.80~1.40g/cm3であってもよい。前記嵩密度は、例えば、下記の方法で測定できる。
【0108】
(嵩密度の測定方法)
タイヤ内面用離型剤を、容量が40体積%以下となるように袋に入れる。つぎに、空気を前記袋内に取り込み20回程振り混ぜる。その後、予め質量を測定しておいた120mLカップに、前記袋の内容物を、スパーテルを用いて前記袋を振りながら入れる。その後、前記カップの上部を擦りきった後、前記カップ内容物の質量を測定する。このときの前記カップ内容物100mLあたりの質量を算出し、嵩密度とする。
【0109】
[2.タイヤ内面用離型剤の製造方法]
本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前述の本発明のタイヤ内面用離型剤の製造方法により製造できる。具体的には、本発明のタイヤ内面用離型剤は、例えば、以下のようにして製造(調製)できる。
【0110】
まず、前記表面親水性非膨潤性無機粉末(A)の表面を前記表面疎水化剤(B)により疎水化する前記疎水化工程を行なう。この疎水化工程については、例えば、前記[1-1-1-3.表面疎水化剤によって疎水化された表面親水性非膨潤性無機粉末(AB)の製造方法]で説明したとおりである。
【0111】
つぎに、前記成分(R)、(D)および(E)を混合する前記混合工程に先立ち、前記成分(C)(前記表面親水性非膨潤性無機粉末表面に対し非反応性のシリコーン)と、前記成分(D)(界面活性剤)の少なくとも一部とを混合する前記予備混合工程を、行なってもよいし、行なわなくてもよい。前述のとおり、前記予備混合工程を行なうと、その後の前記混合工程において、前記成分(C)が他の成分と混合されやすくなるため好ましい。また、前述のとおり、前記成分(D1)は、前記成分(D)の一部であってもよいし、全部であってもよいが、前記成分(D)の一部であることが好ましい。
【0112】
前記予備混合工程は、特に限定されず、例えば、前記成分(C)および(D1)を単に混合するのみでもよい。前記成分(C)と前記成分(D1)との質量比は、特に限定されないが、例えば、5以上、7以上、または10以上であってもよい。また、前記成分(C)/前記成分(D1)(質量比)は、例えば、100以下、90以下、80以下、70以下、60以下、50以下、40以下、30以下または20以下であってもよい。前記成分(C)および(D1)を混合する方法も特に限定されないが、例えば、攪拌用の機器により攪拌して混合してもよい。前記攪拌用の機器は、特に限定されないが、例えば、一般的な乳化機でもよく、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー(いずれも商品名)等が挙げられる。攪拌速度は、特に限定されないが、例えば、500rpm以上、1000rpm以上、1500rpm以上、2000rpm以上、または2500rpm以上であってもよく、10000rpm以下、9000rpm以下、8000rpm以下、7000rpm以下、または6000rpm以下であってもよい。また、攪拌時間は、特に限定されないが、例えば、0.5分間以上、1分間以上、2分間以上、3分間以上、または4分間以上であってもよく、20分間以下、18分間以下、16分間以下、または15分間以下であってもよい。また、前記攪拌時は、加熱等を行なわず室温で攪拌するのみでもよいが、必要に応じ加熱等をしてもよい。前記攪拌時の温度は、特に限定されないが、例えば、5℃以上、10℃以上、15℃以上、20℃以上、または25℃以上であってもよく、60℃以下、55℃以下、50℃以下、45℃以下、または40℃以下であってもよい。このようにして、前記成分(C)および(D1)を混合する前記予備混合工程を行なうことができる。
【0113】
つぎに、前記成分(R)、(D)および(E)を混合する前記混合工程を行なう。前記成分(R)は、前述のとおり、離型剤(離型成分)であり、前記成分(AB)および(C)を含む。前記成分(AB)および(C)は、前記混合工程に先立ち、予め混合しておいてもよいし、前記混合工程において前記成分(AB)および(C)を混合してもよい。また、前記成分(C)は、前述のとおり、前記予備混合工程において、予め前記成分(D1)と混合しておいてもよい。
【0114】
前記混合工程は、特に限定されず、例えば、前記成分(R)、(D)および(E)を単に混合するのみでもよい。また、例えば、さらに任意成分を混合してもよい。前記任意成分については、例えば、前記[1-4.任意成分等]に記載したとおりである。
【0115】
前記混合工程において、各成分を混合する方法は、前述のとおり、特に限定されないが、例えば、以下のようにして行なってもよい。すなわち、まず、粉末成分である前記成分(AB)および前記成分(E)と、必要に応じて他の任意の粉末成分とを、攪拌用の機器に入れ、100~4000rpm(例えば、1000rpm)で3~50分間(例えば、5分間)撹拌する。前記攪拌用の機器は、例えば、ヘンシェルミキサー(商品名)を使用できるが、これに限定されず、任意である。前記攪拌用の機器は、前記ヘンシェルミキサーに代えて、例えば、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー、ナウターミキサー、ニューグラマシン、シュギミキサー、プロシェアミキサー、スパルタンミキサー、パグミキサー、タービュライザー(いずれも商品名)、水平円筒型混合機、混練押出機、横型連続式のニーダー、密閉式の圧密化処理装置等も用い得る。つぎに、前記攪拌用の機器に、液体成分である前記成分(C)および前記成分(D)と、必要に応じて他の任意の液体成分とを順次撹拌しながら添加した後、さらに、100~4000rpm(例えば、1000rpm)で10~30分間撹拌する。このようにして、前記混合工程を行ない、本発明のタイヤ内面用離型剤を製造(調製)できる。全成分添加後の撹拌における撹拌フルード数は、例えば、0.5~25、または0.9~20であってもよい。前記撹拌フルード数を0.5以上とすると、水分散液安定性およびスプレー性の悪化を抑制できる。また、前記撹拌フルード数を25以下とすると、設備のコスト高を抑制できる。前記撹拌フルード数(Fr)は、例えば、下記式(I)で定義されるものである。前記撹拌フルード数と撹拌時間(単位:分)との積P(すなわち、P=撹拌フルード数×撹拌時間(分))は、例えば、5~200、または10~150であってもよい。
Fr=V/[(R×g)0.5] (I)
V:撹拌翼の先端の周速(m/s)
R:撹拌翼の回転半径(m)
g:重力加速度(m/s2)
【0116】
製造された本発明のタイヤ内面用離型剤の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1~10mm、または0.2~8mmであってもよい。前記平均粒子径を0.1mm以上とすると、水分散液安定性およびスプレー性の悪化を抑制できる。また、前記平均粒子径を10mm以下とすると、溶解性の悪化を抑制できる。前記平均粒子径は、例えば、ふるい(篩)法を用いて測定される質量基準の積算分率における50%径である。具体的には、前記平均粒子径は、例えば、目開き16000μm(16mm)、9500μm(9.5mm)、5000μm(5.0mm)、1000μm、500μmおよび100μm(0.10mm)の6段の篩と、受け皿を用いた分級操作により測定する。前記分級操作では、前記受け皿に、目開きの小さい篩から目開きの大きな篩の順に積み重ね、最上部の篩の上から100g/回の試料(タイヤ内面用離型剤)を入れ、蓋をしてロータップ型篩振盪機(株式会社飯田製作所製、タッピング:156回/分、ローリング:290回/分)に取り付け、10分間振動させた後、それぞれの篩上および受け皿上に残留した試料(分級サンプル)を篩目ごとに回収する。各粒子径の分級サンプルの質量を測定し、質量頻度(%)を算出する。前記平均粒子径を求める際には、積算の質量頻度が50%以上となる最初の篩の目開きを「a(μm)」、a(μm)よりも一段大きい篩の目開きを「b(μm)」とし、また、受け皿から目開きa(μm)の篩までの質量頻度の積算値を「c(%)」、目開きa(μm)の篩上の質量頻度を「d(%)」とし、下記式(II)により求められる平均粒子径(50質量%粒径)を、前記平均粒子径とする。
平均粒子径(50質量%粒径)
=10[50-{c-d/(logb-loga)×logb}]/{d/(logb-loga)} (II)
【0117】
製造された本発明のタイヤ内面用離型剤は、目開き9.5mmの篩を通過しない粒子の割合が50質量%未満であることが好ましく、30質量%未満であることがより好ましい。また、製造されたタイヤ内面用離型剤は、目開き0.10mmの篩を通過する粒子の割合が50質量%未満であることが好ましく、30質量%未満であることがより好ましい。
【0118】
なお、前記成分(C)、前記成分(D)および前記他の任意の液体成分の添加順序に、特に制限はない。例えば、前記撹拌に、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー、ハイスピードミキサー、ナウターミキサー、ニューグラマシン、シュギミキサー、プロシェアミキサー、スパルタンミキサー、パグミキサー、タービュライザー(いずれも商品名)、水平円筒型混合機、混練押出機、横型連続式のニーダー、密閉式の圧密化処理装置等の高速回転可能な撹拌装置を用いることで、嵩密度の高いタイヤ内面用離型剤を得ることができる。
【0119】
本発明のタイヤ内面用離型剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉末状等でもよいし、前記成分(R)、(D)および(E)が、水の中に分散された乳化物(水分散液)であってもよい。また、本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液の形態も特に限定されないが、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤が、水の中に分散された乳化物(水分散液)であることが好ましい。
【0120】
本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液の製造(調製)方法も、特に限定されず、例えば、水に前記本発明のタイヤ内面用離型剤を混合して分散させるのみでよい。本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液において、前記本発明のタイヤ内面用離型剤の濃度は、特に限定されず、例えば、20~75質量%、30~70質量%、または30~65質量%であってもよい。
【0121】
本発明のタイヤ内面用離型剤の使用方法も、特に限定されず、例えば、一般的なタイヤ内面用離型剤と同様でよい。具体的には、例えば、本発明のタイヤ内面用離型剤を、原液の状態で、または水に希釈した状態で、スプレーを用いて、未加硫ゴム製生タイヤの内面およびブラダー外面の少なくとも一方に塗布して用いればよい。
【0122】
本発明のタイヤ内面用離型剤は、前述のとおり、乳化物(エマルジョン、水分散液)であってもよい。前記乳化物の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、50~2000nm、100~1500nm、または150~1300nmであってもよい。界面活性剤の必要配合量が増大することによる付着性低下および離型性低下防止の観点、並びに、貼り合せ部に離型剤が入り込んだ際の接着阻害防止の観点から、前記乳化物の平均粒子径は、50nm以上が好ましい。また、乳化粒子のクリーミングおよび合一防止の観点、並びに、水溶成分と油溶成分が分離し製品安定性が不良となることを防止し得る観点から、前記乳化物の平均粒子径は、2000nm以下が好ましい。なお、本発明において、前記乳化物の平均粒子径は、例えば、BECKMAN社製のサブミクロン粒子アナライザー(レーザー回折/散乱法)を用いて乳化粒子の体積分布を測定し、測定した前記乳化粒子の体積分布に基づいて、前記平均粒子径を算出することができる。ただし、この測定方法は、例示であり、本発明は、この測定方法により限定されない。
【0123】
[3.タイヤの製造方法およびタイヤ]
本発明のタイヤの製造方法およびタイヤについては、前述のとおりである。これらについても、特に限定はなく、例えば、一般的なタイヤ内面用離型剤(水分散液の形態であるタイヤ内面用離型剤)に代えて、前記本発明のタイヤ内面用離型剤水分散液またはタイヤ内面用離型剤を用いること以外は、一般的なタイヤの製造方法およびタイヤと同様でよい。本発明のタイヤの製造方法において、前記成形型としては、例えば、金型等が挙げられる。本発明のタイヤの製造方法は、前述の離型用前処理工程および加硫工程に加えて、加硫タイヤと前記ブラダーとの間、および、加硫タイヤと前記成形型との間を離型処理する離型処理工程を有してもよい。
【実施例】
【0124】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0125】
下記表2に示す原料を用いて、後述する実施例1~16および比較例1~2のタイヤ内面用離型剤を製造し、その性能を評価した。なお、下記表2において、B-3-1およびB-3-2の「ハイドロジェンシリコーン」は、ハイドロジェン活性シリコーンである。B-4-1、B-4-2およびB-4-3の「シラン」は、反応活性基を有するシランである。「製品名」は、その原料の製品名(商品名)である。「メーカー」は、その原料の販売元の会社名である。ただし、「モメンティブ」は、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社であり、「信越シリコーン」は、販売元である信越化学工業株式会社の登録商標である。また、「嵩比重」は「嵩密度」と同義である。
【0126】
【0127】
[実施例1~17]
以下のようにして、実施例1~17のタイヤ内面用離型剤を製造した。
【0128】
まず、下記表3に記載の(A)成分(成分(A)、マイカ、表面親水性非膨潤性無機粉末)の表面を、下記表3に記載の(B)成分(成分(B)、表面疎水化剤)で疎水化した(疎水化工程)。具体的には、まず、粉末成分である前記成分(A)をヘンシェルミキサー(商品名)に入れ、1000rpmで攪拌した。つぎに、1000rpmで攪拌しながら前記成分(B)を加え、さらに5分間撹拌することで、前記成分(A)(マイカ)の表面を疎水化した。このようにして、成分(AB)すなわち表面疎水化剤によって疎水化されたマイカを製造した。
【0129】
前記疎水化工程により表面を疎水化したマイカ(成分(AB))は、下記のマイカの表面疎水化評価方法によって、表面が疎水化されていることを確認した。
【0130】
(マイカの表面疎水化評価方法)
前記疎水化工程により表面を疎水化したマイカ(成分(AB))5gを、200mLガラス瓶(内径:4cm)内で水100gに分散させた。つぎに、幅1mm×長さ2cmの十字線のマークを前記ガラス瓶の一側面から1cm離して置いた。そして、前記ガラス瓶の反対側の側面から目視にて十字線が明瞭に見えたものを〇とし、見えないものを×とした。〇となったものを、マイカの表面が疎水化されていると評価した。
【0131】
つぎに、下記表3に記載の(C)成分(成分(C)、前記マイカ表面に対し非反応性のシリコーン)と、下記表3に記載の(D1)成分(成分(D)の一部、界面活性剤)とをホモミキサー(商品名)にて5000rpmで10分間攪拌し混合した(予備混合工程)。このようにして、前記(C)成分と前記(D1)成分との混合物であるシリコーンエマルジョン(シリコーン乳化物)を得た。なお、このシリコーンエマルジョンの寿命(安定性)を、下記の方法で評価した。
【0132】
(シリコーンエマルジョン寿命評価方法)
前記予備混合工程で製造したシリコーンエマルジョン(シリコーン乳化物)の5分静置後の状態を観察した。5分後に2層分離したものを〇とし、均一なものを×とした。〇となったものを、所望の性能が得られたシリコーン乳化物と評価した。
【0133】
さらに、以下のようにして、離型剤(R)(前記成分(AB)および前記成分(C))、成分(D)および成分(E)を混合する混合工程を行ない、実施例1~16のタイヤ内面用離型剤を製造した。すなわち、まず、タイヤ内面用離型剤の原料のうち、粉末成分を、ヘンシェルミキサー(商品名)に入れ、1000rpmで5分間撹拌し混合した。前記粉末成分は、本実施例では、前記疎水化工程により表面を疎水化したマイカ(成分(AB))と、下記表3に記載の(E)成分(成分(E)、表面疎水性無機粉末)との2つである。さらにその後、前記ヘンシェルミキサーによる1000rpmでの攪拌を続けながら、前記粉末に、前記予備混合工程により混合した液体成分と、他の液体成分とを加えた。前記「他の液体成分」は、本実施例では、下記表3に記載の(D)成分(成分(D)の残部、界面活性剤)およびその他の成分(保水剤および増粘剤)である。その後、さらに、前記ヘンシェルミキサーにより1000rpmで10分間撹拌し混合した。以上のようにして、前記混合工程を行ない、実施例1~16のタイヤ内面用離型剤を製造した。
【0134】
[比較例1]
(B)成分(成分(B)、表面疎水化剤)を用いず、前記疎水化工程を行なわないこと以外は、実施例1~16と同様にして比較例1のタイヤ内面用離型剤を製造した。すなわち、比較例1は、表面疎水化剤によって疎水化されたマイカ(成分(AB))に代えて、表面を疎水化していないマイカ(成分(A))を用いたこと以外は、実施例1~16と同様にして製造した。なお、比較例1に用いた、表面を疎水化していないマイカ(成分(A))を、前述のマイカの表面疎水化評価方法により評価したところ、評価結果は×(表面が疎水化されていない)であった。
【0135】
下記表3中の各成分の原料記号は、前記表2中の原料記号と同じである。数字は、各成分の質量比(質量部数)である。合計(質量%)は、成分(A)~(E)およびその他の成分(保水剤および増粘剤)の合計であり、100質量%となる。(B)/(A)比(質量比)は、(B)成分(成分(B)、表面疎水化剤)の質量を(A)成分(成分(A)、マイカ)の質量で割った数値を、百分率(%)で示した数値である。オイルスポットおよび離型性の評価方法および評価基準については、後述する。
【0136】
【0137】
[タイヤ内面用離型剤の性能評価]
実施例1~17および比較例1のタイヤ内面用離型剤をそれぞれ用いて、以下のようにしてタイヤ内面用離型剤水分散液を製造し、性能を評価した。なお、オイルスポットおよび離型性の評価結果については、前記表3に示した。
【0138】
(タイヤ内面用離型剤水分散液の製造方法)
2Lガラスビーカーに水道水450gを仕込んだ後、直径5cmの3枚のプロペラ羽を備えた攪拌機で20rpmの速度で撹拌した。前記水中に、撹拌しながら、実施例1~16および比較例1のいずれかで製造した粉末状のタイヤ内面用離型剤550gを投入し、30分間撹拌して分散させることで、タイヤ内面用離型剤水分散液を製造した。
【0139】
(オイルスポット評価方法)
前記各タイヤ内面用離型剤水分散液を、ノズル口径φ1.0mmのスプレーガンを用い、エアー圧0.5MPaにて未加硫インナーライナーゴムシート表面に10秒間連続スプレーした。乾燥後、前記スプレー塗布面4cm×7cmの範囲を目視にて確認し、判定した。具体的には、オイルスポット(オイル滴)の有無を下記判定基準で評価した。そして、3級以上(3級から5級まで)の評価結果を、合格と判定した。
オイルスポット判定基準:
5級: 1mm未満のオイルスポットが5個以下(1mm以上のオイルスポット無し)。
4級: 1mm未満のオイルスポットが6個以上10個以下(1mm以上のオイルスポット無し)。
3級: 1mm以上のオイルスポットが5個以下、または1mm以上のオイルスポットが11個以上20個以下。
2級: 1mm以上のオイルスポットが20個以下、または1mm以上のオイルスポットが21個以上。
1級: 1mm以上のオイルスポットが21個以上。
【0140】
(オイルスポット評価方法(7日後))
前記各タイヤ内面用離型剤水分散液を、25℃で7日静置して保管した。その後、前記各タイヤ内面用離型剤水分散液を、直径5cmの3枚のプロペラ羽を備えた攪拌機で20rpmの速度で2分撹拌した。攪拌直後に、前記「オイルスポット評価方法」と同様の方法および同様の判定基準で、オイルスポットの有無を評価した。そして、3級以上(3級から5級まで)の評価結果を、合格と判定した。
【0141】
(離型性評価方法)
前記各タイヤ内面用離型剤水分散液を、4cm×7cm×0.2cmの未加硫インナーライナーゴムシートに、乾燥後塗布量が10g/m2となるようにスプレー塗布した。つぎに、この未加硫ゴムシートに同じ大きさのブラダーゴムシートを重ね合わせ、卓上型テストプレス機にセットし、金型温度180℃、圧力20kg/cm2で20分間加圧し、加硫した。その後、加硫済みの前記ゴムシートを引き剥がした。引き剥がした際の剥離性(離型性)を下記判定基準で評価した。そして、3級以上(3級から5級まで)の評価結果を、合格と判定した。
離型性判定基準:
5級: 密着無く容易に剥離(離型)できたもの
4級: 剥離(離型)できたもの
3級: 剥離抗力が大きいが離型できたもの
2級: 一部密着し剥離(離型)し難かったもの
1級: 全面密着し剥離(離型)不可能であったもの
【0142】
前記表3に記載したとおり、実施例1~17のタイヤ内面用離型剤は、オイルスポット評価結果が3級から5級と、いずれも合格であり、かつ、離型性評価結果も全て良好であった。これに対し、マイカ表面が疎水化されていない比較例1のタイヤ内面用離型剤は、離型性評価結果は良好であったものの、オイルスポット評価結果がいずれも1級と不良であった。
【0143】
また、実施例1~17および比較例1のタイヤ内面用離型剤から製造したタイヤ内面用離型剤水分散液について、それぞれ、製造(調整)直後と7日間保管後とで、前記オイルスポット評価および前記離型性評価を行なった。しかし、製造(調整)直後および7日間保管後のいずれも、評価結果は、表3のとおりで、変わらなかった。このことは、実施例1~16のタイヤ内面用離型剤によれば、タイヤ内面用離型剤水分散液を長時間保管後であってもオイルスポットの発生を抑制または防止できたことを表す。