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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】樹脂集電体、及び、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018104891
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019212384
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】草野 亮介
(72)【発明者】
【氏名】池田 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】都藤 靖泰
(72)【発明者】
【氏名】大澤 康彦
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-207404(JP,A)
【文献】特開2008-251179(JP,A)
【文献】特開2007-335570(JP,A)
【文献】特開2010-170832(JP,A)
【文献】特開2010-073421(JP,A)
【文献】特開2015-128067(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64- 4/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含む樹脂組成物からなる導電性樹脂層を3層以上含む積層体で構成される樹脂集電体であって、
前記導電性樹脂層の積層体には、
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が1~8mである第1の導電性樹脂層(AX1)と、
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が10~100mである第2の導電性樹脂層(AX2)と、が含まれ、
前記導電性樹脂層の積層体の中に、
第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)の順で積層された構造、又は、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)の順で積層された構造を含み、
リチウムイオン電池用電極であって、集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極用であることを特徴とする樹脂集電体。
【請求項2】
前記第1の導電性樹脂層(AX1)が、導電性炭素フィラーとして、比表面積が10m/g以下である第1の導電性炭素フィラー(A1)を含み、
前記第2の導電性樹脂層(AX2)が、導電性炭素フィラーとして、比表面積が30~70m/gである第2の導電性炭素フィラー(A2)を含む請求項1に記載の樹脂集電体。
【請求項3】
前記第1の導電性樹脂層(AX1)を構成する前記樹脂組成物及び前記第2の導電性樹脂層(AX2)を構成する前記樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレートがそれぞれ0.2~7.5である請求項1又は2に記載の樹脂集電体。
【請求項4】
前記第1の導電性樹脂層(AX1)における導電性炭素フィラーの含有量が30~60重量%であり、前記第2の導電性樹脂層(AX2)における導電性炭素フィラーの含有量が20~40重量%である請求項1~3のいずれかに記載の樹脂集電体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の樹脂集電体を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂集電体、及び、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般に、バインダを用いて正極または負極活物質等を正極用または負極用集電体にそれぞれ塗布して電極を構成している。また、双極型の電池の場合には、集電体の一方の面にバインダを用いて正極活物質等を塗布して正極層を、反対側の面にバインダを用いて負極活物質等を塗布して負極層を有する双極型電極を構成している。
【0004】
このようなリチウムイオン電池においては、従来、集電体として金属箔(金属集電箔)が用いられてきた。近年、金属箔に代わって導電性材料が添加された樹脂から構成される、いわゆる樹脂集電体が提案されている。このような樹脂集電体は、金属集電箔と比較して軽量であり、電池の単位重量あたりの出力向上が期待される。
【0005】
特許文献1には、樹脂集電体用分散剤、樹脂及び導電性フィラーを含有する樹脂集電体用材料、並びに、該樹脂集電体用材料を有する樹脂集電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/005116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂集電体に含まれる導電性フィラーとして、比表面積が大きい導電性炭素フィラーを多く配合することによって、樹脂集電体の抵抗を低くすることができ、好ましい特性が得られると考えられる。しかし、比表面積が大きい導電性炭素フィラーを多く配合すると、電解液が樹脂集電体に浸みこみやすくなり、樹脂集電体の表面に滲み出る「液滲み」という現象が生じることがある。
【0008】
以上の状況を踏まえて、本発明は、樹脂集電体の抵抗を低くすることができ、かつ、液滲みの発生を防止することのできる樹脂集電体を提供することを目的とする。本発明はまた、上記樹脂集電体を用いたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、ポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含む樹脂組成物からなる導電性樹脂層を3層以上含む積層体で構成される樹脂集電体であって、上記導電性樹脂層の積層体には、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が1~8mである第1の導電性樹脂層(AX1)と、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が10~100mである第2の導電性樹脂層(AX2)と、が含まれ、上記導電性樹脂層の積層体の中に、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)の順で積層された構造、又は、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)の順で積層された構造を含むことを特徴とする樹脂集電体;本発明の樹脂集電体を備えることを特徴とするリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂集電体は、樹脂集電体の抵抗を低くすることができ、かつ、液滲みの発生を防止することのできる樹脂集電体である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂集電体は、ポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含む樹脂組成物からなる導電性樹脂層を3層以上含む積層体で構成される樹脂集電体であって、
上記導電性樹脂層の積層体には、
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が1~8mである第1の導電性樹脂層(AX1)と、
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が10~100mである第2の導電性樹脂層(AX2)と、が含まれ、
上記導電性樹脂層の積層体の中に、
第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)の順で積層された構造、又は、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)の順で積層された構造を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の樹脂集電体は、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が小さい第1の導電性樹脂層(AX1)と、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が大きい第2の導電性樹脂層(AX2)とを含む、導電性樹脂層の積層体で構成される。
第2の導電性樹脂層(AX2)は液滲みを生じやすい導電性樹脂層であるが、液滲みを生じにくい第1の導電性樹脂層(AX1)と積層させることで、第2の導電性樹脂層(AX2)に浸透した電解液が樹脂集電体の厚さ方向にさらに浸透することが第1の導電性樹脂層(AX1)により防止されると考えられる。そのため、樹脂集電体全体としては液滲みが生じることを防止することができる。
また、第2の導電性樹脂層(AX2)は抵抗の低い樹脂層であるので、この導電性樹脂層を含むことにより抵抗の低い樹脂集電体とすることができると考えられる。
【0013】
本発明の樹脂集電体は、3層以上の導電性樹脂層を含む。
各導電性樹脂層は、ポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含む樹脂組成物からなる。
3層以上の導電性樹脂層には、第1の導電性樹脂層(AX1)と第2の導電性樹脂層(AX2)とが含まれている。
そして、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)の順で積層された構造(以下、(AX1)/(AX2)/(AX1)構造、ともいう)、又は、第2の導電性樹脂層(AX2)、第1の導電性樹脂層(AX1)、第2の導電性樹脂層(AX2)の順で積層された構造(以下、(AX2)/(AX1)/(AX2)構造、ともいう)を含んでいる。
3層以上の導電性樹脂層には、(AX1)/(AX2)/(AX1)構造又は(AX2)/(AX1)/(AX2)構造が含まれている限り、他の導電性樹脂層を含んでいてもよい。
本明細書では、第1の導電性樹脂層(AX1)と第2の導電性樹脂層(AX2)を含む樹脂集電体について以下に説明する。
【0014】
第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)は、いずれもポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含んでいるが、それぞれの導電性樹脂層に含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が異なっている。
具体的には、第1の導電性樹脂層(AX1)1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が1~8mであり、第2の導電性樹脂層(AX2)1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が10~100mである。
本明細書において、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積は、以下の式で算出される。
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積(m
=導電性樹脂層1g中の導電性炭素フィラーの重量(g)×導電性炭素フィラーの比表面積(m/g)
【0015】
なお、本明細書における導電性炭素フィラーの比表面積は、「JIS Z8830 ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じて、BET比表面積として測定した値である。
【0016】
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積の値は、液滲みの生じやすさと関連している。導電性樹脂層が比表面積が大きい導電性炭素フィラーを多く含むほど、電解液は導電性樹脂層に浸みこみやすくなり、樹脂集電体の表面に滲み出て液滲みが生じやすくなる。そのため、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が大きいほど、液滲みが生じやすくなるといえる。
【0017】
導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が大きい第2の導電性樹脂層(AX2)は、液滲みを生じやすい導電性樹脂層である。一方、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積が小さい第1の導電性樹脂層(AX1)は液滲みを生じにくい導電性樹脂層である。
そこで、(AX1)/(AX2)/(AX1)構造又は(AX2)/(AX1)/(AX2)構造を含むように導電性樹脂層を3層以上含む積層体とすると、第2の導電性樹脂層(AX2)に浸透した電解液が樹脂集電体の厚さ方向にさらに浸透することが第1の導電性樹脂層(AX1)により防止される。そのため、樹脂集電体全体としては液滲みが生じることを防止することができる。
【0018】
液滲みの防止の観点からは導電性樹脂層として第1の導電性樹脂層(AX1)を使用することが好ましいが、その一方で第1の導電性樹脂層(AX1)は抵抗が高い導電性樹脂層であるという問題点がある。そこで、抵抗の低い第2の導電性樹脂層(AX2)を使用した積層体とすることによって全体としては抵抗の低い樹脂集電体とすることができる。
【0019】
(AX1)/(AX2)/(AX1)構造又は(AX2)/(AX1)/(AX2)構造を含むように導電性樹脂層を3層以上含む積層体である樹脂集電体としては、例えば以下の構成が挙げられる。
3層の積層体
[例3-1](AX1)/(AX2)/(AX1)構造
[例3-2](AX2)/(AX1)/(AX2)構造
4層の積層体
[例4-1](AX1)/(AX2)/(AX1)/(AX2)構造
5層の積層体
[例5-1](AX1)/(AX2)/(AX1)/(AX2)/(AX1)構造
[例5-2](AX2)/(AX1)/(AX2)/(AX1)/(AX2)構造
【0020】
これらのうち、第1の導電性樹脂層(AX1)を最外層に有する[例3-1]、[例4-1]、[例5-1]の樹脂集電体は、第1の導電性樹脂層(AX1)を正極活物質層に接するように配置すると導電性炭素フィラーの表面で副反応(分解反応)が生じにくくなり、分解反応に伴う分解電流が小さくなる。そのため、第1の導電性樹脂層(AX1)を正極活物質層と接する側に配置することによって、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0021】
また、第2の導電性樹脂層(AX2)の層数が多い[例3-2]、[例5-2]の樹脂集電体は、抵抗の低い第2の導電性樹脂層(AX2)の割合が相対的に大きいので抵抗の低い樹脂集電体とすることができる。第1の導電性樹脂層(AX1)が第2の導電性樹脂層(AX2)の間に挟まっているので、第1の導電性樹脂層(AX1)を液滲みに対するバリヤ層として機能させることができるため好ましい。
【0022】
第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)は、いずれもポリオレフィン樹脂を含む。
ポリオレフィン樹脂は、第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)において同じ樹脂であっても異なる樹脂であってもよい。
【0023】
ポリオレフィン樹脂として好ましくは、ポリオレフィン[ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、及びポリシクロオレフィン(PCO)等]が挙げられる。より好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
また、これらのポリオレフィン樹脂の変性物(以下、変性ポリオレフィンという)又は混合物であってもよい。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、以下のものが市場から入手できる。
PE:「ノバテックLL UE320」「ノバテックLL UJ960」いずれも日本ポリエチレン(株)製
PP:「サンアロマーPM854X」「サンアロマーPC684S」「サンアロマーPL500A」「サンアロマーPC630S」「サンアロマーPC630A」「サンアロマーPB522M」「クオリアCM688A」いずれもサンアロマー(株)製、「プライムポリマーJ-2000GP」(株)プライムポリマー製、「ウィンテックWFX4T」日本ポリプロ(株)製
PMP:「TPX」三井化学(株)製
【0024】
変性ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入したものが挙げられ、極性官能基としては、カルボキシル基、1,3-ジオキソ-2-オキサプロピレン基、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基及びイミド基等が挙げられる。
【0025】
ポリエチレン、ポリプロピレン又はこれらの共重合体に極性官能基を導入した変性ポリオレフィンの例としては、三井化学株式会社製アドマーシリーズ等が市販されている。
【0026】
本発明の樹脂集電体では、第1の導電性樹脂層(AX1)が、導電性炭素フィラーとして、比表面積が10m/g以下である第1の導電性炭素フィラー(A1)を含み、第2の導電性樹脂層(AX2)が、導電性炭素フィラーとして、比表面積が30~70m/gである第2の導電性炭素フィラー(A2)を含むことが好ましい。
すなわち、第1の導電性樹脂層(AX1)は比表面積が10m/g以下である第1の導電性炭素フィラー(A1)を含むことにより、導電性炭素フィラーの総表面積が小さい導電性樹脂層となる。また、第2の導電性樹脂層(AX2)は比表面積が30~70m/gである第2の導電性炭素フィラー(A2)を含むことにより、導電性炭素フィラーの総表面積が大きい導電性樹脂層となる。
【0027】
第1の導電性樹脂層(AX1)に含まれる第1の導電性炭素フィラー(A1)は、その比表面積が2m/g以下であることがより好ましい。
また、第1の導電性炭素フィラー(A1)はその比表面積が0.1m/g以上であることがより好ましい。
第1の導電性炭素フィラー(A1)の比表面積が10m/g以下であるためには、導電性炭素フィラーの体積平均粒子径が5.0μm以上であることが好ましい。
【0028】
第1の導電性炭素フィラー(A1)としては、天然又は人造の黒鉛(グラファイト)及びハードカーボン(難黒鉛化炭素)及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの中では黒鉛が好ましい。また、形状は球状、鱗片状及び塊状のいずれであっても良いが、球状が好ましい。
【0029】
第1の導電性炭素フィラー(A1)として市場から入手できるものとしては、商品名「UP20N(3.33m/g)」「CGB20(4.72m/g)」「CPB(6.95m/g)」[日本黒鉛工業(株)製]「SG-BH(4.84m/g)」「SG-BL30(4.28m/g)」「SG-BL40(3.19m/g)」「RP99-150(5.13m/g)」「PC99-300M(3.87m/g)」「SRP-150(5.61m/g)」「PC-30(6.04m/g)」[いずれも伊藤黒鉛工業(株)製]、商品名「SNG-WXA1(1.8m/g)」「SNG-P1A1(0.6m/g)」[いずれもJFEケミカル(株)製]等が挙げられる。
なお、品名の後の括弧内に記載した値は、そのフィラーの比表面積である。
【0030】
また、第1の導電性炭素フィラー(A1)はその体積平均粒子径が5.0~11.5μmであることが好ましい。
本明細書において、導電性炭素フィラーの体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法である。なお、体積平均粒子径の測定には、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0031】
第1の導電性炭素フィラー(A1)としては、比表面積が10m/g以下である限り、その種類、比表面積又は体積平均粒子径が異なる2種類以上の導電性炭素フィラーを含んでいてもよい。
【0032】
第1の導電性樹脂層(AX1)中の導電性炭素フィラーの含有量は、30~60重量%であることが好ましい。
また、第1の導電性樹脂層(AX1)中のポリオレフィン樹脂の重量割合は、40~70重量%であることが好ましい。
【0033】
また、第1の導電性樹脂層(AX1)には、第1の導電性炭素フィラー(A1)以外の導電性炭素フィラーを含んでいてもよく、第1の導電性樹脂層(AX1)の総表面積が1~8mとなっていればよい。
【0034】
なお、導電性樹脂層が、導電性炭素フィラーとして2種以上の導電性炭素フィラーを含む場合は、導電性炭素フィラーの比表面積はそれぞれ分離して測定される。
導電性炭素フィラーを2種類以上含む場合は導電性樹脂層1g中に含まれるそれぞれの導電性炭素フィラーの重量にそれぞれの導電性炭素フィラーの比表面積を掛けることにより、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積を計算することとする。
【0035】
本発明の樹脂集電体が第1の導電性樹脂層(AX1)を2層以上含む場合、2層以上の第1の導電性樹脂層(AX1)は同じ組成の導電性樹脂層であってもよく、異なる組成の導電性樹脂層であってもよい。また、2層以上の第1の導電性樹脂層(AX1)の厚さは同じであってもよく異なっていてもよい。
【0036】
第2の導電性樹脂層(AX2)に含まれる第2の導電性炭素フィラー(A2)としては、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの中ではアセチレンブラックが好ましい。
【0037】
第2の導電性炭素フィラー(A2)として市場から入手できるものとしては、商品名「#3030(32m/g)」[三菱ケミカル株式会社製]、商品名「デンカブラック(69m/g)」「デンカブラックLi-400(39m/g)」[デンカ(株)製]、商品名「エンサコ250G粒状(68m/g)」[Imerys製]等が挙げられる。
なお、品名の後の括弧内に記載した値は、そのフィラーの比表面積である。
【0038】
また、第2の導電性炭素フィラー(A2)はその体積平均粒子径が3~500nmであることが好ましい。
【0039】
第2の導電性炭素フィラー(A2)としては、その種類、比表面積又は体積平均粒子径が異なる2種類以上の導電性炭素フィラーを含んでいてもよい。
【0040】
第2の導電性樹脂層(AX2)中の導電性炭素フィラーの含有量は、20~40重量%であることが好ましい。
また、第2の導電性樹脂層(AX2)中のポリオレフィン樹脂の重量割合は、60~80重量%であることが好ましい。
【0041】
また、第2の導電性樹脂層(AX2)には、第2の導電性炭素フィラー(A2)以外の導電性炭素フィラーを含んでいてもよく、第2の導電性樹脂層(AX2)の総表面積が10~100mとなっていればよい。
【0042】
本発明の樹脂集電体が第2の導電性樹脂層(AX2)を2層以上含む場合、2層以上の第2の導電性樹脂層(AX2)は同じ組成の導電性樹脂層であってもよく、異なる組成の導電性樹脂層であってもよい。また、2層以上の第2の導電性樹脂層(AX2)の厚さは同じであってもよく異なっていてもよい。
【0043】
本発明の樹脂集電体では、樹脂集電体に含まれる第1の導電性炭素フィラー(A1)と第2の導電性炭素フィラー(A2)の重量割合が、[第1の導電性炭素フィラー(A1)/第2の導電性炭素フィラー(A2)]=1.0~3.0であることが好ましい。
上記割合が1.0以上であると、樹脂集電体の全体における、比表面積が大きい第2の導電性炭素フィラー(A2)の割合が相対的に少ないため、液滲みがより防止される。
また、上記割合が1.2以下であると、樹脂集電体の全体における、比表面積が小さく、比較的導電性が低い第1の導電性炭素フィラー(A1)の割合が多過ぎないため、樹脂集電体の電気抵抗値を低くするために必要なフィラーの量を減らすことができ、樹脂集電体の薄膜化がより容易になる。
【0044】
本発明の樹脂集電体では、樹脂集電体に含まれる第1の導電性炭素フィラー(A1)と第2の導電性炭素フィラー(A2)の合計重量割合が樹脂集電体の重量に対して28~48重量%であることが好ましい。
上記重量割合が28重量%以上であると、樹脂集電体の全体に含まれる導電性炭素フィラーの量が充分であるため電気抵抗値をより低くすることができる。また、上記重量割合が48重量%以下であると、樹脂集電体の全体に含まれるポリオレフィン樹脂の割合が低くなりすぎないため、樹脂集電体の成形性への影響が少なく、樹脂集電体の薄膜化により適している。
【0045】
本発明の樹脂集電体では、樹脂集電体に含まれるポリオレフィン樹脂の割合が52~72重量%であることが好ましい。樹脂集電体に含まれるポリオレフィン樹脂の割合は、樹脂集電体全体の重量に対するポリオレフィン樹脂の割合である。
ポリオレフィン樹脂の割合が上記範囲であると、成形性が良好であり、樹脂集電体全体の薄膜化に適している。
【0046】
導電性樹脂層は、導電性炭素フィラーとは異なる導電材料を含有していてもよい。
導電材料の材質としては、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]及びこれらの合金、並びにこれらの混合物が挙げられる。電気的安定性の観点から、好ましくはニッケルである。
また、導電材料として、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電材料(上記した導電材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0047】
導電性樹脂層は、ポリオレフィン樹脂と、導電性炭素フィラーとの他に、さらに必要に応じ、その他の成分[導電材料用分散剤、着色剤、紫外線吸収剤、汎用の可塑剤(フタル酸骨格含有化合物、トリメリット酸骨格含有化合物、リン酸基含有化合物及びエポキシ骨格含有化合物等)]等を適宜含んでいてもよい。その他の成分の合計添加量は、電気的安定性の観点から、各導電性樹脂層100重量部中0.001~5重量部であることが好ましく、さらに好ましくは0.001~3重量部である。
【0048】
導電材料用分散剤としては、三洋化成工業株式会社製ユーメックスシリーズ、東洋紡株式会社製ハードレンシリーズ、トーヨータックシリーズ等が使用可能である。
【0049】
本発明の樹脂集電体では、樹脂集電体の厚さは、120μm以下であることが好ましく、80~100μmがより好ましい。
樹脂集電体の厚さが100μm以下であると、樹脂集電体としての厚さが薄く、薄膜化された樹脂集電体であるといえる。このような樹脂集電体は電池内における体積が小さいため、電池の電池容量を高くするために適している。
また、樹脂集電体の厚さが80μm以上であると、樹脂集電体の強度が充分となるため好ましい。
樹脂集電体の厚さは、3層以上の導電性樹脂層の厚さの合計値として求められる。
【0050】
また、本発明の樹脂集電体において、第1の導電性樹脂層(AX1)の好ましい厚さは1層あたり10~40μmであり、第2の導電性樹脂層(AX2)の好ましい厚さは1層あたり25~80μmである。
また、本発明の樹脂集電体における第1の導電性樹脂層(AX1)部分の厚さの合計の好ましい範囲は10~33μmであり、第2の導電性樹脂層(AX2)部分の厚さの合計の好ましい範囲は25~65μmである。
また、第1の導電性樹脂層(AX1)の合計厚さと第2の導電性樹脂層(AX2)の合計厚さの好ましい割合は、[第1の導電性樹脂層(AX1)/第2の導電性樹脂層(AX2)]=0.25~1.0である。
【0051】
本発明の樹脂集電体では、第1の導電性樹脂層(AX1)を構成する樹脂組成物及び第2の導電性樹脂層(AX2)を構成する樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレート(以下、MFRともいう)がそれぞれ0.2~7.5であることが好ましい。
これは、第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)をそれぞれ構成する樹脂組成物のメルトマスフローレートが多層フィルムの押出成形に適した範囲にあり、2種の樹脂組成物のメルトマスフローレートがある程度近い値であることを意味している。
複数種類の樹脂組成物を使用して層数が3層以上である多層フィルムの押出成形を行う際に、メルトマスフローレートを所定の範囲で近い値に定めておくことにより、多層フィルムの押出成形を好適に行うことができる。
【0052】
また、本発明の樹脂集電体では、樹脂集電体の厚さ方向における電気抵抗値(貫通抵抗値)は、10~50Ω・cmであることが好ましい。樹脂集電体の厚さ方向における電気抵抗値は以下の方法で測定することができる。
【0053】
<樹脂集電体の厚さ方向における電気抵抗値の測定>
3cm×10cmの短冊状に裁断した樹脂集電体を測定用試験片とし、抵抗計[RM3548、HIOKI製]を接続した電気抵抗測定器[IMC-0240型、井元製作所(株)製]の電極間に試験片を挟み、電極に2.16kgの荷重をかけながら抵抗値を測定する。加重をかけてから60秒後の値に電極と試験片との接触面積(3.14cm)をかけた値を厚さ方向における電気抵抗値とすることができる。なお、電気抵抗測定器[IMC-0240型、井元製作所(株)製]は、JISK6378-5において厚さ方向における体積電気抵抗の測定に用いる装置に準拠した試験片を正負電極間に挟んで抵抗値の測定を行うための装置である。
【0054】
本発明の樹脂集電体は、リチウムイオン電池の集電体として使用することが好ましい。
正極用樹脂集電体として用いることもでき、負極用樹脂集電体として用いることもできるが、リチウムイオン電池の正極用樹脂集電体として用いることが好ましい。
また、リチウムイオン電池の正極用樹脂集電体として用いる場合には、第1の導電性樹脂層(AX1)が正極活物質層と接する面に配置されていることが好ましい。このようにすることによって導電性炭素フィラーの表面で副反応(分解反応)が生じにくくなり、分解反応に伴う分解電流が小さくなる。そのため、第1の導電性樹脂層(AX1)を正極活物質層と接する側に配置することによって、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0055】
本発明の樹脂集電体は、リチウムイオン電池のバイポーラ電極用の樹脂集電体として好ましく用いることもできる。
バイポーラ電極とは、リチウムイオン電池用電極であって、一つの集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成された電極を意味する。
集電体の一方の面に正極が形成され他方の面に負極が形成されたバイポーラ電極を構成する樹脂集電体において、第1の導電性樹脂層(AX1)が正極活物質層と接する面に配置されていることが好ましい。このようにすることによって導電性炭素フィラーの表面で副反応(分解反応)が生じにくくなり、分解反応に伴う分解電流が小さくなる。そのため、第1の導電性樹脂層(AX1)を正極活物質層と接する側に配置することによって、リチウムイオン電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0056】
本発明の樹脂集電体は、好ましくは、以下の方法で製造することができる。
まず、ポリオレフィン樹脂、導電性炭素フィラー、及び、必要に応じてその他の成分を混合することにより、樹脂集電体用材料を得る。
樹脂集電体用材料としては、第1の導電性樹脂層(AX1)用である第1の樹脂集電体用材料と、第2の導電性樹脂層(AX2)用である第2の樹脂集電体用材料を得る。
第1の樹脂集電体用材料を得るためには、導電性樹脂層における導電性炭素フィラーの総表面積を小さくするために、比表面積の小さい導電性炭素フィラー(例えば第1の導電性炭素フィラー(A1))を使用するか、導電性炭素フィラーの含有量を少なくする。
第2の樹脂集電体用材料を得るためには、導電性樹脂層における導電性炭素フィラーの総表面積を大きくするために、比表面積の大きい導電性炭素フィラー(例えば第2の導電性炭素フィラー(A2))を使用するか、導電性炭素フィラーの含有量を多くする。
【0057】
混合の方法としては、導電性炭素フィラーのマスターバッチを得てからさらにポリオレフィン樹脂と混合する方法、ポリオレフィン樹脂、導電性炭素フィラー、及び、必要に応じてその他の成分のマスターバッチを用いる方法、及び、全ての原料を一括して混合する方法等があり、その混合にはペレット状又は粉体状の成分を適切な公知の混合機、例えばニーダー、インターナルミキサー、バンバリーミキサー及びロール等を用いることができる。
【0058】
混合時の各成分の添加順序には特に限定はない。得られた混合物は、さらにペレタイザーなどによりペレット化又は粉末化してもよい。
【0059】
このようにして得られた第1の樹脂集電体用材料及び第2の樹脂集電体用材料は、いずれもポリオレフィン樹脂及び導電性炭素フィラーを含む樹脂組成物であるが、これらの樹脂組成物の温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレートがいずれも0.2~7.5となるようにすることが好ましい。メルトマスフローレートをこの範囲に調整することにより後述するフィルム成形を容易にすることができる。
【0060】
第1の樹脂集電体用材料及び第2の樹脂集電体用材料を使用して、例えばフィルム状に成形することにより、本発明の樹脂集電体が得られる。フィルム状に成形する方法として、層数が3層以上である多層フィルムの製造に使用することのできる公知の方法を使用することができる。具体的には、Tダイ法、インフレーション法、押出ラミネート法等が挙げられる。また、第1の樹脂集電体用材料を使用して作製したフィルムと第2の樹脂集電体用材料を使用して作製したフィルムをヒートシール(加熱プレス)等の方法により貼り合わせてもよい。
フィルム上に成形するときに、(AX1)/(AX2)/(AX1)構造又は(AX2)/(AX1)/(AX2)構造が得られるように成形を行う。
【0061】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の樹脂集電体を備えることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン電池が本発明の樹脂集電体を正極用樹脂集電体として備える場合、本発明のリチウムイオン電池は、上述した本発明の樹脂集電体と、樹脂集電体の表面に形成された正極活物質層とを備える。
【0062】
リチウムイオン電池用正極の正極活物質層に使用する正極活物質としては、公知の材料を使用することができる。正極活物質は、アクリル系樹脂等の樹脂で被覆された被覆正極活物質であってもよい。正極活物質層は、正極活物質とともに、必要に応じてバインダ、導電助剤等の添加剤を含む。
【0063】
本発明の樹脂集電体をリチウムイオン電池の正極用樹脂集電体として使用する場合、本発明の樹脂集電体の第1の導電性樹脂層(AX1)の側の面に対して、正極活物質を含み必要に応じてバインダや添加剤を配合したスラリーを塗布し、乾燥することが好ましい。
【0064】
本発明のリチウムイオン電池が本発明の樹脂集電体を負極用樹脂集電体として備える場合、本発明のリチウムイオン電池は、上述した本発明の樹脂集電体と、樹脂集電体の表面に形成された負極活物質層とを備える。
【0065】
リチウムイオン電池用負極の負極活物質層に使用する負極活物質としては、公知の材料を使用することができる。負極活物質は、アクリル系樹脂等の樹脂で被覆された被覆負極活物質であってもよい。負極活物質層は、負極活物質とともに、必要に応じてバインダ、導電助剤等の添加剤を含む。
【0066】
本発明の樹脂集電体をリチウムイオン電池の負極用樹脂集電体として使用する場合、本発明の樹脂集電体の第1の導電性樹脂層(AX1)の側の面に対して、負極活物質を含み必要に応じてバインダや添加剤を配合したスラリーを塗布し、乾燥することが好ましい。
【0067】
本発明のリチウムイオン電池は、さらに、電解液と、セパレータとを備える。本発明のリチウムイオン電池において、正極活物質、負極活物質、電解液、セパレータ等の材料としては、公知の材料を使用することができる。正極活物質及び負極活物質は、アクリル系樹脂等の樹脂で被覆された被覆活物質であってもよい。正極用集電体又は負極用集電体が本発明の樹脂集電体でない場合、これらの集電体は、金属集電箔であってもよいし、樹脂集電体であってもよい。
【実施例
【0068】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0069】
以下の実施例で使用した材料は下記の通りである。
導電性炭素フィラー
A1-1:黒鉛粒子[比表面積1.8m/g、商品名「SNG-WXA1」、JFEケミカル(株)製]
A2-1:アセチレンブラック[比表面積69m/g、商品名「デンカブラック」、デンカ(株)製]
A2-2:アセチレンブラック[比表面積68m/g、商品名「エンサコ250G(粒状)」、Imerys製]
A2-3:ファーネスブラック[比表面積32m/g、商品名「#3030」、三菱ケミカル株式会社製]
A2-4:アセチレンブラック[比表面積39m/g、商品名「デンカブラックLi-400」、デンカ(株)製]
A3-1:カーボンナノチューブ[比表面積213m/g、商品名「Durobeads」、三菱商事株式会社製]
A3-2:ケッチェンブラック[比表面積800m/g、商品名「ケッチェンブラックEC300J」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]
樹脂(ポリオレフィン樹脂)
PP-1:ポリプロピレン樹脂[商品名PC684S、サンアロマー製:樹脂のMFR=7.5]
PP-2:ポリプロピレン樹脂[商品名CM688A、サンアロマー製:樹脂のMFR=9.5]
PP-3:ポリプロピレン樹脂[商品名PM854X、サンアロマー製:樹脂のMFR=20]
PP+PE: 上記PP-3とポリエチレン樹脂「商品名B680、旭化成製」の重量比2:1での溶融混練品
なお、樹脂のMFRは、ポリオレフィン樹脂につき温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレートの値である。
分散剤
[商品名「ユーメックス1001(酸変性ポリプロピレン)」、三洋化成工業(株)製]
【0070】
<第1の樹脂集電体用材料の調製>
(AX1-1)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)45部、導電性炭素フィラー(A1-1)40部、導電性炭素フィラー(A2-1)10部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)を得た。
(AX1-2)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-2)45部、導電性炭素フィラー(A1-1)40部、導電性炭素フィラー(A2-1)10部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-2)を得た。
(AX1-3)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP+PE)45部、導電性炭素フィラー(A1-1)40部、導電性炭素フィラー(A2-1)10部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-3)を得た。
(AX1-4)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)40部、導電性炭素フィラー(A1-1)40部、導電性炭素フィラー(A2-3)15部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-4)を得た。
(AX1-5)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-2)30部、導電性炭素フィラー(A1-1)60部、導電性炭素フィラー(A2-4)5部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-5)を得た。
(AX1-6)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-2)25部、導電性炭素フィラー(A1-1)70部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第1の樹脂集電体用材料(AX1-6)を得た。
【0071】
<第2の樹脂集電体用材料の調製>
(AX2-1)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)70部、導電性炭素フィラー(A2-1)25部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)を得た。
(AX2-2)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-2)70部、導電性炭素フィラー(A2-1)25部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-2)を得た。
(AX2-3)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-3)70部、導電性炭素フィラー(A2-1)25部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-3)を得た。
(AX2-4)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)72部、導電性炭素フィラー(A2-2)23部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-4)を得た。
(AX2-5)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)60部、導電性炭素フィラー(A2-3)35部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-5)を得た。
(AX2-6)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-1)83部、導電性炭素フィラー(A3-1)12部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-6)を得た。
(AX2-7)の調製
ポリオレフィン樹脂(PP-2)85部、導電性炭素フィラー(A3-2)10部、分散剤5部を180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して、第2の樹脂集電体用材料(AX2-7)を得た。
【0072】
表1には、第1の樹脂集電体用材料(AX1)と第2の樹脂集電体用材料(AX2)において使用した導電性炭素フィラーの種類、比表面積及び含有量を示している。また、第1の樹脂集電体用材料(AX1)1g又は第2の樹脂集電体用材料(AX2)1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積を示している。
また、各樹脂集電体用材料(樹脂組成物)につき、温度230℃、荷重2.16kgの条件下でJIS K7210:1990に記載の方法で測定されるメルトマスフローレート(MFR)は表1に示した通りであった。
【0073】
なお、各樹脂集電体用材料から得られる導電性樹脂層につき、導電性樹脂層1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積は樹脂集電体用材料1gに含まれる導電性炭素フィラーの総表面積と同じである。
また、導電性樹脂層を構成する樹脂組成物のMFRと樹脂集電体用材料のMFRも同じである。
【0074】
【表1】
【0075】
<実施例1>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0076】
<実施例2>
第2の樹脂集電体用材料(AX2-2)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-2)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-2)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0077】
<実施例3>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-3)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-3)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-3)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-3)をTダイから4層共押出して、4層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0078】
<実施例4>
第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)をTダイから5層共押出して、5層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0079】
<実施例5>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-4)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-6)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-4)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0080】
<実施例6>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-3)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-5)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-3)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0081】
<実施例7>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-6)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-7)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-6)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0082】
<実施例8>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-5)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-5)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0083】
<比較例1>
第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-2)/第1の樹脂集電体用材料(AX1-1)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0084】
<比較例2>
第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-3)/第2の樹脂集電体用材料(AX2-1)をTダイから3層共押出して、3層の導電性樹脂層を備える樹脂集電体を得た。
【0085】
<液滲みの判定>
液滲み用セルを充放電試験し、試験後のセルの樹脂集電体の外側に、液滴等のセル内部から浸透した液滲みがないか目視で確認した。
【0086】
[セパレータ本体の製造]
商品名「セルガード2500」(PP製、厚さ25μm[セルガード製])を30mm×30mmの正方形に切り出して、セパレータ本体とした。
【0087】
[枠状部材の作製]
ポリエチレンナフタレート(商品名「PEN」[帝人社製])からなる厚さ250μmのフィルムを接着性ポリオレフィン系樹脂フィルム(商品名「アドマーVE300」[三井化学社製]厚さ50μm)で挟んで、加熱ロールまたはラミネート機で接着し、積層体を得た。その後、得られた積層体を66mm×50mmの長方形に切断し、さらに、中央のφ23mmの領域を打ち抜いて枠状部材を得た。
【0088】
[セパレータ本体と枠状部材との接合]
枠状部材の外形寸法に基づく重心とセパレータ本体の外形寸法に基づく重心が重なるように、かつ、枠状部材のPEN層がセパレータ本体と接触するように、セパレータ本体に枠状部材を貼り合わせ、インパルスシーラー「OPL-300-5」[富士インパルス製]で接着して、セパレータ本体の外周に沿って枠状部材が環状に配置されたセパレータを得た。
【0089】
[液滲み試験用セル作製]
負極集電箔(商品名「NC-WSリチウムイオン電池負極用電解銅箔」[古河電工製])と前記枠材付セパレータのセパレータがシールされている側とを4辺固定し、次に正極樹脂集電体(実施例1~8、比較例1、2)を前記負極集電箔が固定されている側と反対側の長辺1辺で固定した。固定後、正極樹脂集電体をめくり、セパレータ上にLi箔(商品名「圧延リチウムフォイル」[本城金属製])を静置し、電解液(LiFSI/EC:PC=1:1[日本触媒製])を100μL注入した。その後、残り3辺を固定し、加熱シーラーにて長辺、短辺、長辺の順でシールした。最後の1辺は、トスパック[TOSEI製]を用いてセル内を真空にし、短辺をシールし、液滲み試験用セルを得た。得られたセルをアルミラミセル(両極とも銅箔)に入れて、以下の充電試験を行った。
【0090】
[充電試験]
充電試験は、充放電装置「SM8」[北斗電工製]を用いて、1時間の休止状態から、続いて4.2V一定電圧を200時間かけ続けた。
【0091】
[液滲み試験]
充電試験後のセルの正極樹脂集電体の外側を目視で確認し、電解液由来による液滴が滲み出ていたら、液滲みありと判断した。
【0092】
<貫通抵抗値の測定>
樹脂集電体を3cm×10cm程度の短冊に裁断し、電気抵抗測定器[IMC-0240型、井元製作所(株)製]及び抵抗計[RM3548、HIOKI製]を用いて各樹脂集電体の貫通抵抗値を測定した。
電気抵抗測定器に2.16kgの荷重をかけた状態での樹脂集電体の抵抗値を測定し、2.16kgの荷重をかけてから60秒後の値をその樹脂集電体の抵抗値とした。下記の式に示すように、抵抗測定時の冶具の接触表面の面積(3.14cm)をかけた値を貫通抵抗値(Ω・cm)とした。
貫通抵抗値(Ω・cm)=抵抗値(Ω)×3.14(cm
貫通抵抗値が50Ω・cm以下である場合良好と判断して抵抗判定の欄に○と表示し、貫通抵抗値が50Ω・cmを超える場合を×と表示した。
【0093】
表2には、各樹脂集電体の構成及び評価結果をまとめて示した。
【0094】
【表2】
【0095】
第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)からなる(AX1)/(AX2)/(AX1)構造又は(AX2)/(AX1)/(AX2)構造を含む実施例1~8では、液滲み、抵抗判定のいずれでも良好な結果が得られた。
一方、第1の導電性樹脂層(AX1)及び第2の導電性樹脂層(AX2)のうち一方のみを備える3層の樹脂集電体に係る比較例1及び2では、液滲み、抵抗判定のいずれかの評価結果が悪くなっていた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の樹脂集電体は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池用の集電体として有用である。