(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】導電性バンプ、及び無電解Ptめっき浴
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20220928BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220928BHJP
C23C 18/44 20060101ALI20220928BHJP
C23C 18/52 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H01L21/92 602D
H01L21/92 604A
H05K1/09 C
C23C18/44
C23C18/52 B
(21)【出願番号】P 2018132514
(22)【出願日】2018-07-12
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】前川 拓摩
(72)【発明者】
【氏名】小田 幸典
(72)【発明者】
【氏名】柴田 利明
(72)【発明者】
【氏名】伊井 義人
(72)【発明者】
【氏名】神崎 翔
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-547205(JP,A)
【文献】特開2001-127102(JP,A)
【文献】特開2003-297868(JP,A)
【文献】特開2006-291242(JP,A)
【文献】国際公開第2009/122867(WO,A1)
【文献】特開平11-160275(JP,A)
【文献】特開2016-089190(JP,A)
【文献】特開2014-209508(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
H05K 1/09
C23C 18/44
C23C 18/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に形成された導電性バンプであって、
前記バンプは基体側から順に、少なくとも下地導電層、Pd層、前記Pd層と直接接触しているPt層、及び
前記Pt層と直接接触しているAu層またはAg層を有し、
前記Au層または前記Ag層は前記導電性バンプの最表面であり、
前記バンプの直径は、20μm以下である導電性バンプ。
【請求項2】
前記下地導電層は、Ni、Cu、Co、Al及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはその合金である請求項1に記載の導電性バンプ。
【請求項3】
前記Au層は、Auおよび不可避不純物からなり、前記Ag層はAgおよび不可避不純物からなるものである請求項1または2に記載の導電性バンプ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の前記導電性バンプの前記Au層またはAg層と、他の基体とが電気的に接合された電子部品。
【請求項5】
請求項1
または2に記載のPt層の形成に用いる無電解Ptめっき浴であって、水溶性白金化合物、還元剤、緩衝剤、及び塩化アンモニウムを含む
と共に、
前記無電解Ptめっき浴中の白金濃度は3.0g/L以下、
前記塩化アンモニウム濃度は、0.001g/L以上、20g/L未満
である無電解Ptめっき浴。
【請求項6】
前記還元剤はギ酸またはその塩、及びヒドラジン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項
5に記載の無電解Ptめっき浴。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性バンプ、及び無電解Ptめっき浴に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(集積回路:Integrated Circuit)チップを集積したLSI(大規模集積回路:Large Scale Integration)などの半導体集積回路では、ICチップ同士、或いはICチップと回路基板などとの電気的接合方法としてワイヤーボンディングが汎用されていたが、近年の電子機器の小型化や集積回路の高密度化に伴って、ICチップ同士を立体的に接続する3次元集積回路が注目されている。3次元集積回路などの積層型の半導体集積回路に対応する実装技術としてフリップチップボンディングが行われている。フリップチップボンディングは、ICチップに形成したバンプと呼ばれる突起状端子を介して他の基体の接続部と電気的に接続するため、ワイヤーボンディングと比べて配線が短く、実装面積を小さくできるため、小型化、薄型化が要求される携帯機器などに適用されている。
【0003】
半導体集積回路ではICチップとの電気的接続における低比抵抗、低接触抵抗(以下、「電気的特性」という)と、良好な接合性(以下、「接合特性」という)が要求されており(以下、これらの特性をまとめて「接続信頼性」という)、各種研究が行われている。ICチップのバンプ材料についても様々な検討がされており、低コスト、且つ接続信頼性に優れたバンプとして例えば特許文献1、特許文献2にはNiなどの下地導電層にAu層を直接形成したバンプ(以下、「Ni-Auバンプ」という)が開示されている。
【0004】
また基体として例えばベークライト板などの紙フェノール樹脂に代えてシリコンウエハーなど耐熱性に優れた材料が用いられており、半導体製造過程で加えられる熱履歴の温度も益々高くなり、300℃以上となることがある。そのためNi-Auバンプの問題点として300℃以上の高温の熱履歴(以下、「高温熱履歴」ということがある)によって下地導電層のNiがAu層表面に拡散し、接続信頼性が低下することが指摘されている。その対策として例えば特許文献3にはNiとAu層の間にPt層を設ける技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-79297号公報
【文献】特開2016-032171号公報
【文献】特開2016-54179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、3次元集積回路を高密度化する手段として、ICチップを直径20μm以下の微細なバンプ(以下、「マイクロバンプ」ということがある)で接続することが検討されている。しかしながらマイクロバンプの場合、下地導電層にPt層を直接形成できず、マイクロバンプの接続信頼性が課題となっていた。
【0007】
また従来から無電解Ptめっき浴は不安定でPt粒子が析出しやすいことが指摘されており、工業化には無電解Ptめっき浴の安定性を高める必要があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされた発明であって、その目的は下地導電層に使用した金属(以下、「下地金属」ということがある)がAu層表面、またはAg層表面に拡散することを防止できるマイクロバンプ;及び該拡散防止に有効なPt層の形成に適していると共に、Ptめっき浴の安定性に優れた無電解Ptめっき浴を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成し得た本発明の導電性バンプは、下記構成を有する。
[1]基体上に形成された導電性バンプであって、前記バンプは基体側から順に、少なくとも下地導電層、Pd層、前記Pd層と直接接触しているPt層、及びAu層、またはAg層を有し、前記バンプの直径は、20μm以下である。
【0010】
また本発明の導電性バンプは好ましくは以下の構成を有する。
[2]前記下地導電層は、Ni、Cu、Co、Al及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはその合金である[1]に記載の導電性バンプである。
【0011】
[3]前記導電性バンプの前記Au層またはAg層と、他の基体とが電気的に接合された電子部品。
【0012】
[4]上記[1]~[3]に記載のPt層の形成に用いる無電解Ptめっき浴であって、水溶性白金化合物、還元剤、緩衝剤、及び塩化アンモニウムを含むものである無電解Ptめっき浴。
【0013】
[5]前記還元剤はギ酸またはその塩、及びヒドラジン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である[4]に記載の無電解Ptめっき浴。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバンプは下地金属がAu層またはAg層の表面に拡散することを防止でき、優れた接続信頼性が得られる。また本発明の無電解Ptめっき浴はめっき浴の安定性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明のバンプの構成を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本発明のバンプを形成した基体と、他の基体とを接合した電子部品の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らはマイクロバンプにおける下地金属の拡散防止手段について検討を重ねた。マイクロバンプの下地導電層にPt層を無電解めっき処理で形成する場合、パッシベーション膜に設けられた直径数十μm以下の開口部内にPtめっき液を侵入させて下地導電層の表面(以下、微小面積ということがある)にPtめっき皮膜を形成しなければならないが、従来の無電解Ptめっき浴ではこのような微小面積に良好な被覆性、すなわち、Ptめっき皮膜中のピンホールやPtめっき皮膜で下地導電層が完全に覆われておらず下地導電層の一部が露出しているなど、下地金属の拡散原因となる欠陥がないPtめっき皮膜を形成することが困難であった。また蒸着法でPt層を形成することも検討したが、蒸着法では微小面積にPtを十分に析出させることが困難であった。そのため、これら方法で作製したマイクロバンプは接続信頼性が低かった。
【0017】
Pt層の被覆性が不十分でもAu層を厚膜化することで接続信頼性を向上できると考えられるが、Au層を厚膜化するとコストが高くなること、また積層型の半導体集積回路においてはAu層もできるだけ薄くすることが求められており採用し得ない。
【0018】
そこで本発明者らは様々な導電性を有する金属(以下、「導電性金属」という)を用いて下地金属の拡散防止効果について実験を重ねた。まず、Ni以外の導電性金属としてCoやCuなどを下地導電層に用いて検討した。ところが該下地導電層とAu層の2層構造のマイクロバンプは高温熱履歴によってAu層の表面に下地金属が拡散した。次に下地導電層とAu層の間に下地導電層とは異なる導電性金属、例えばP、B、Wなどを合金元素としてPd基合金層、Ni基合金層、Co基合金層を介在させたが、高温熱履歴が負荷されるといずれも拡散防止効果が得られなかった。
【0019】
更に検討を重ねた結果、本発明者らは従来とは全く異なる導電性金属を用いた構成、すなわち、Pt層と下地導電層の間にPd層を介在させ、Pd層上に直接Pt層を形成することでPtめっき液の反応性が改善されてPd層上でのPt析出性が向上し、その結果、良好な被覆性を有するPt層を形成できることを見出した。そして基体側から順にPd層、Pt層、Au層が形成されたマイクロバンプは高温熱履歴を加えても下地金属がAu層の表面に拡散することを防止できる。
【0020】
また本発明では従来のPtめっき浴は不安定で浴中でPt粒子が析出してしまって上記Pt層を無電解めっき処理によって形成することが難しいという問題が生じたため、この点についても検討した。
【0021】
無電解Ptめっき浴におけるめっき浴安定性や微小面積での良好な被覆性などの上記問題に対して本発明者らが検討を重ねた結果、塩化アンモニウムリッチな無電解Ptめっき浴を用いれば、めっき浴安定性に優れると共に、被覆性に優れたPtめっき皮膜をPd層を形成した微小面積にも形成できることを見出した。なお、従来の無電解Ptめっき浴にも水溶性白金化合物として使用されているテトラアミン白金塩などのアミンに由来してアンモニウム塩が含まれていたが上記問題が生じた。また塩化ナトリウムなどの塩化物を添加して塩化物リッチなめっき浴でも上記問題は解消できなかった。同様にアンモニウムのみを添加してアンモニウムリッチなめっき浴とした場合、めっき浴安定性は向上したが被覆性が低下して上記問題は解決できなかった。ところが意外なことに無電解Ptめっき浴は塩化アンモニウムを添加して従来よりも塩化アンモニウムリッチにすると共に、めっき浴の他の組成も最適化すると、めっき浴安定性と被覆性の両方に優れた効果を発揮することが判明した。このような知見に基づいて本発明の無電解Ptめっき浴を開発するに至った。
【0022】
以下、本発明の導電性バンプの構成について
図1に基づいて説明するが、本発明の導電性バンプは下記構成に限定されず、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能である。
【0023】
本発明に係る導電性バンプ7は基体10側から順に、少なくとも下地導電層3、Pd層4、Pt層5、及びAu層6またはAg層6を有することに要旨を有する。
【0024】
基体10は、本発明の導電性バンプ7が形成される電極などの接続部2を有する基板1である。基体10としてはICチップ、ICチップの集積回路、回路基板などの各種電子部品が例示される。また基板1の材質も特に限定されず、樹脂、金属、セラミック、シリコン、ガラス、及びこれらの混合材料など各種公知の基板を使用できる。これらの中でも本発明では300℃以上の高温耐熱性に優れたシリコンが好適であり、各種シリコンウエハーを使用できる。
【0025】
導電性バンプ
本発明において導電性バンプ7とは、基体10と他の基体(
図2中、8)とを電気的に接続するために、少なくとも基体10の一方の面に形成された突起状端子であって、後記する各層で構成された積層体である。導電性バンプ7の形状は各種公知の任意の形状を採用し得る。
【0026】
また導電性バンプ7は用途に応じたサイズを採用できる。したがって導電性バンプ7の厚みは用途に応じて適宜調整すればよく限定されない。好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下であってもよい。下限は特に限定されず、好ましくは数μm以上、より好ましくは10μm以上である。また本発明の対象となる導電性バンプ7は直径20μm以下のマイクロバンプであり、より好ましい直径は15μm以下、更に好ましくは10μm以下である。バンプの直径とは最表面の最大直径を意味するが、導電性バンプ7の形状が円錐状などのようにバンプの高さ位置によって直径が異なる場合は、Pt層を形成する面の最大直径である。なお、バンプの直径はデジタルマイクロスコープで測定した値であり、詳細は実施例に記載した条件に従う。
【0027】
次に本発明の導電性バンプ7を構成する各層について説明する。
【0028】
下地導電層
下地導電層3とは、耐熱性向上などを目的として基体10の接続部2上に形成される導電性バンプ7の下地となる導電層である。下地導電層3は導電性を有する金属で構成することができ、好ましくはAg、Sn、Pd、Ni、Cu、Co、Al及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはその合金であり、より好ましくはNi、Cu、Co、Al及びWよりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、またはその合金であり、更に好ましくはNi、Co、またはその合金である。合金元素としては各種公知の合金元素と組み合わせることが可能であり、好ましくはP、B、及びWよりなる群からなる少なくとも1種である。具体的にはP-Ni基合金、B-Ni基合金、W-Ni基合金、W-P-Ni基合金などのNi基合金;P-Co基合金、B-Co基合金、W-P-Co基合金などのCo基合金が挙げられる。下地導電層3を構成する基材金属と合金元素の比率は限定されないが、好ましくは合金元素の比率は50質量%未満、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。また下地導電層3は1種の金属(またはその合金)で構成されていてもよいし、2種以上の金属(またはその合金)を組み合わせてもよい。
【0029】
下地導電層3の厚みを制御することで接続部2の耐熱性などを向上できる。このような効果を高める観点から下地導電層3の厚さは好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.3μm以上である。一方、下地導電層3を厚くすると上記効果をより一層高めることができる。下地導電層3の厚みはマイクロバンプの厚みに応じて適宜調整すればよく、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下である。
【0030】
Pd層
本発明では下地導電層3とPt層5の間に、Pd層4を設ける。下地導電層3とPt層5の間にPd層4を設けて該Pd層4にPt層5を直接形成すると、Pt析出性が向上して良好な被覆性を有するPt層5を形成でき、優れた拡散抑制効果が得られる。
図1ではPd層4の一方の面が下地導電層3と接触し、他方の面がPt層5と接触するように設けられている。Pd層4は、PdまたはPd合金で構成された層である(以下、まとめて「Pd層」ということがある)。Pd層はPd及び残部不可避不純物で構成されていてもよい。Pd合金層はPd-P合金であることが好ましい。またPd-P合金皮膜中のP含有率は好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0031】
Pd層4の厚さは所望の効果が得られるように適宜調整すればよいが、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。一方、Pd層4はマイクロバンプの厚みに応じて適宜調整すればよく、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.5μm以下である。
【0032】
なお、図示しないが、下地導電層3とPd層4との間に、必要に応じて他の導電性金属で構成された中間導電層を1層以上設けてもよい。中間導電層を設ける場合の金属組成は用途、特性に応じた導電性金属を適宜選択できる。任意の導電性金属としては例えば下地導電層3で例示した金属、及びその合金が挙げられる。また中間導電層の厚さは所望の効果が得られるように適宜設定すればよく、Pd層4と同等の厚さでもよい。
【0033】
Pt層
Pt層5は上記したように拡散防止効果を有する。Pt層5とAu層6またはAg層6は直接接触していることが好ましい。Pt層5とAu層6(またはAg層6)の間に他の金属層が介在していると、該金属がAu層5の表面に拡散することがある。一方、Pt層5が拡散防止効果を発揮するためにはPt層5にピンホールなど下地金属の拡散原因となる欠陥がないことが必要であり、良好な被覆性が得られる構成としてPt層5の基体10側の面はPd層4と直接接触している。被覆性を考慮するとPt層5はできるだけ高純度のPtで構成されていることが好ましく、被覆性に影響を与えない限度で不可避不純物が含まれていてもよい。
【0034】
Pt層5の厚さを制御することでより優れた拡散防止効果を発揮する。拡散防止効果を高める観点からPt層5の厚さは好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。一方、Pt層を厚くすると拡散防止効果をより一層高めることができるが、導電性バンプ7が高くなって薄型化を阻害することになるため、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下である。
【0035】
Au層またはAg層
Au層6、またはAg層6を導電性バンプ7の最表面とすることで他の基体(
図2中、8)との良好な接続信頼性を発揮する。導電性バンプ7の最表面とは、他の基体、または他の基体の構成物と接触する面をいう。なお、他の基体と接触していない導電性バンプ7の側面はAu層6、またはAg層6が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
【0036】
Au層
Au層6は優れた接続信頼性を発揮するためバンプの表層に形成する。本発明では上記Pt層5によって拡散防止効果が得られるため、Au層6を薄く形成できる。Au層6の厚みは好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下であってもよい。Au層6の厚みの下限は特に限定されないが、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。接続信頼性を考慮するとAu層6はできるだけ高純度Auで構成されていることが好ましいが、接続信頼性に影響を与えない限度で不可避不純物を含んでいてもよい。
【0037】
Ag層
Ag層6は優れた接続信頼性を発揮するためバンプの表層に形成する。本発明では上記Pt層6によって拡散防止効果が得られるため、Ag層6を薄く形成できる。Ag層6の厚みは好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは1μm以下であってもよい。Ag層6の厚みの下限は特に限定されないが、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.1μm以上である。接続信頼性を考慮するとAg層6はできるだけ高純度Agで構成されていることが好ましいが、接続信頼性に影響を与えない限度で不可避不純物を含んでいてもよい。
【0038】
電子部品
本発明の導電性バンプ7を有する基体10は、導電性バンプを介して他の基体と電気的に接続して電子部品を構成してもよい。他の基体としては基体10と同一、又は異なった構成でもよく、例えばICチップ、ICチップの集積回路、回路基板など基体10と接続可能な接続部を有する基体であれば限定されない。また例えば本発明の導電性バンプ7をICチップに形成した場合、該ICチップと回路基板とを電気的に接続してもよいし、或いは該ICチップと他のICチップを電気的に接続して3次元集積回路を形成してもよく、また該ICチップは複数積層させてもよい。
【0039】
図2は本発明の導電性バンプ7を形成した基体10を他の基体8にフリップチップボンディングで接続した状態を示すものである。導電性バンプ7と電気的に接続する他の基体8の接続部(図示せず)の構成は特に限定されず、信号線などの半導体パターンに接続されたパッド電極など任意の接続部が例示される。接続方法は超音波接続法、熱圧着法など各種公知の接続方法を採用できる。
【0040】
製造方法
以下、本発明の導電性バンプ7の好ましい製造方法について説明する。本発明の導電性バンプ7の製造方法は下記製造方法に限定されず、適宜改変できる。
【0041】
導電性バンプ7が形成される基体10は従来公知の方法で製造された各種基体を用いることができ、基体10の接続部に導電性バンプ7を形成する。例えば導電性バンプ7は基体10上の集積回路の信号線や電源線などの各種配線と接続されたパッド電極など接続部2に形成してもよい。導電性バンプ7を形成する基体10の接続部2は例えば、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン等の金属箔、あるいはこれらの合金箔、例えば、アルミニウム青銅、リン青銅、黄青銅等の銅合金や、ステンレス、アンバー、ニッケル合金、スズ合金等により構成されていてもよい。更に接続部2と導電性バンプ7の下地導電層3の間には密着性を向上させるためにTi、Cr、Wなどの密着性向上効果を有する各種金属膜が形成されていてもよい。なお、導電性バンプ7を形成する前に、必要に応じて基体10に洗浄処理、酸洗浄処理などの各種前処理を施してから下地導電層3を形成してもよい。
【0042】
下地導電層の形成
接続部2に下地導電層3を形成するが、下地導電層3は電解めっき法、無電解めっき法、置換めっき法、スタッドバンプ法、転写法など各種公知の方法で形成できる。好ましくは無電解めっき法であり、例えば基体上にレジスト膜を形成するなどして基体上の半導体素子を保護するパッシベーション膜を形成し、次いでフォトレジストやエッチングなどでパッシベーション膜にバンプ開口部を形成する。必要により洗浄処理やジンケート処理等の前処理を行った後、無電解めっき浴を用いて無電解めっき処理を行うことでバンプ開口部を設けた基体接続部にめっき皮膜、すなわち、下地導電層3が形成される。下地導電層3を無電解めっき法で形成する場合は各種公知の処理条件を採用でき、無電解めっき浴の組成、pH、処理温度、処理時間などは特に限定されない。下地導電層3に中間導電層を形成した後、後記Pd層を形成してもよい。下地導電層3に中間導電層を設ける場合には、無電解めっき処理など各種公知の方法で所望の中間導電層を形成すればよい。
【0043】
Pd層の形成
下地導電層3を形成した後、Pd層4を設ける。Pd層4の形成方法は特に限定されず、下地導電層3と同様、各種公知の方法により形成できる。パッシベーション膜を形成して下地導電層3を形成した場合は、引き続き無電解めっき処理をおこなって、Pd層4を形成することが好ましい。Pd層4を無電解めっき法で形成する場合は各種公知の処理条件を採用でき、無電解めっき浴の組成、pH、処理温度、処理時間などは特に限定されない。なお、必要に応じて下地導電層3に中間導電層を形成してからPd層4を設けてもよい。
【0044】
Pt層の形成
上記Pd層4を形成した後、Pt層5を形成する。Pt層5は無電解めっき法で形成することが好ましい。また無電解めっき法でPt層5を形成する場合、めっき浴の安定性や被覆性を考慮すると本発明の下記無電解Ptめっき浴を使用することが好ましい。
【0045】
無電解Ptめっき浴
本発明の無電解Ptめっき浴は、水溶性白金化合物、還元剤、緩衝剤、及び塩化アンモニウムを含むものである。無電解Ptめっき浴には水溶性白金化合物に由来する塩化アンモニウムも含まれるが、本発明では化学当量比を超える塩化アンモニウムを含んでいる点に特徴がある。無電解Ptめっき浴中の塩化アンモニウム濃度は、好ましくは10g/L以下、より好ましくは5g/L以下、更に好ましくは1g/L以下である。塩化アンモニウム濃度が低いとめっき浴安定性が低下すると共に、マイクロバンプにおける良好な被覆性が得られないことがあるため好ましくは1ppm以上、より好ましくは10ppm以上、更に好ましくは100ppm以上である。特に本発明の無電解Ptめっき液は上記したような開口部直径が数十μm以下、例えば20μm以下のパッシベーション膜内のPd層4に良好な被覆性を有するPt層5を形成できるため好ましい。
【0046】
水溶性白金化合物
水溶性白金化合物は、一般的な白金塩を用いることができ、例えばジニトロジアンミン白金、塩化白金酸塩、テトラアンミン白金塩、及びヘキサアンミン白金塩等を用いることができる。これらの白金化合物は、単独で用いることも2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0047】
水溶性白金化合物の添加量は、無電解Ptめっき浴中における白金の濃度として、生産性の観点から好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.5g/L以上である。また、めっき浴の安定性の観点から好ましくは3.0g/L以下、より好ましくは2.0g/L以下である。
【0048】
還元剤
還元剤は、Ptイオンを還元析出できる還元剤を用いることができるが、Ptめっき析出性向上に優れた効果を有するギ酸またはその塩(以下、ギ酸類ということがある)、およびヒドラジン類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。より好ましい還元剤はギ酸類であり、めっき浴安定性、Ptめっき析出性、下地金属の腐食抑制などに優れている。ヒドラジン類を含むPtめっき浴はめっき浴安定性が低く長期保存性に劣るが、マイクロバンプへのPtめっき析出性を有しているため望ましい。
【0049】
ギ酸類
ギ酸類としては、ギ酸またはその塩であり、ギ酸の塩としては、例えばギ酸カリウム、ギ酸ナトリウム等のギ酸のアルカリ金属塩;ギ酸マグネシウム、ギ酸カルシウム等のギ酸のアルカリ土類金属塩;ギ酸のアンモニウム塩、第4級アンモニウム塩、第1級~第3級アミンを含むアミン塩;などのギ酸類が挙げられる。本発明では、ギ酸またはその塩を、単独または2種以上を併用できる。
【0050】
上記効果を十分に発揮させるには、無電解Ptめっき浴中におけるギ酸類の合計濃度は好ましくは1g/L以上、より好ましくは5g/L以上、更に好ましくは10g/L以上である。一方、過剰に含まれるとめっき浴が不安定になりやすいため、ギ酸類の合計濃度は好ましくは100g/L以下、より好ましくは80g/L以下、更に好ましくは50g/L以下である。
【0051】
ヒドラジン類
ヒドラジン類としては、ヒドラジン;ヒドラジン・1水和物等の抱水ヒドラジン;炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、中性硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等のヒドラジン塩;ピラゾール類、トリアゾール類、ヒドラジド類等のヒドラジンの有機誘導体;等を用いることができる。前記ピラゾール類としては、ピラゾールの他に、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチル-5-ピラゾロン等のピラゾール誘導体を用いることができる。前記トリアゾール類としては、4-アミノ-1,2,4-トリアゾール、1,2,3-トリアゾール等を用いることができる。ヒドラジド類としては、アジピン酸ジヒドラジド、マレイン酸ヒドラジド、カルボヒドラジド等を用いることができる。好ましくは、ヒドラジン・1水和物等の抱水ヒドラジン、硫酸ヒドラジンである。これらを単独または2種以上併用できる。
【0052】
無電解Ptめっき浴中におけるヒドラジン類の合計濃度は、好ましくは0.1g/L以上、より好ましくは0.3g/L以上、更に好ましくは1.0g/L以上であって、好ましくは5g/L以下、より好ましくは3g/L以下である。
【0053】
緩衝剤
緩衝剤はめっき浴のpHを調整する作用を有する。めっき浴の安定性を考慮すると好ましくはpH3以上である。また、Ptめっき皮膜形成時の析出速度を考慮すると好ましくはpH11以下である。特に還元剤にギ酸を用いた場合、めっき浴安定性と環境負荷を考慮しつつ本発明の上記効果を奏するPt層を形成するにはpH10~pH9程度の弱アルカリ付近の条件がより好ましい。具体的にはpH10以下、またはpH10未満でもよく、pH9超、またはpH9以上でもよい。緩衝剤は調整するpHに応じて適宜選択することができ、例えば酸として塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、カルボン酸等、アルカリとして水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。また、上記pH緩衝剤としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フタル酸等のカルボン酸;正リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸等のリン酸、またはそれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等のリン酸塩;ホウ酸、四ホウ酸;等が挙げられる。緩衝剤の濃度は特に限定されず、上記所望のpHとなるように適宜添加して調整すればよい。
【0054】
塩化アンモニウム(NH4Cl)
無電解Ptめっき浴中の塩化アンモニウム濃度を高めることで、めっき浴安定性、具体的にはめっき時の例えば50~90℃の温度域で少なくとも数日、好ましくは30~60日保持してもPt粒子の析出を防止できる。また無電解Ptめっき浴中の塩化アンモニウム濃度を高めることで被覆性に優れたPtめっき皮膜を形成できるため拡散防止効果を発揮する。このような効果をより一層高める観点から無電解Ptめっき浴中の塩化アンモニウム濃度は好ましくは0.001g/L以上、より好ましくは0.01g/L以上、更に好ましくは0.1g/L以上である。塩化アンモニウム濃度の上限は高い程、上記効果を高めることができるが、高くなりすぎるとめっき浴のpHを維持するために緩衝剤を追加する必要があり、それに伴ってめっき浴の他の成分の調整も必要になることがあるため、好ましくは20g/L未満、より好ましくは15g/L以下、更に好ましくは10g/L以下、より更に好ましくは5g/L以下、特に好ましくは1g/L以下である。
【0055】
本発明の無電解Ptめっき浴は水溶性白金化合物、還元剤、緩衝剤、及び塩化アンモニウムで構成されていてもよいし、その他の添加剤を含んでいてもよい。その他の添加剤としては各種公知の添加剤が挙げられる。本発明の無電解Ptめっき浴には発明の効果を阻害しない範囲で不可避不純物が含まれていてもよい。
【0056】
本発明の無電解Ptめっき浴を用いた無電解めっき処理条件は従来の無電解Ptめっき浴に採用される処理条件を適宜調整して実施できるが、めっき時の温度は好ましくは50℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上であって、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。処理時間は所望の膜厚を形成するために適宜調整すればよく、好ましくは1分以上、より好ましくは5分以上であって、好ましくは60分以下、より好ましくは10分以下である。
【0057】
Au層の形成
Pt層5を形成した後、Au層6を形成する。Au層6の形成方法は特に限定されず、各種公知の方法により形成できる。パッシベーション膜を形成して無電解めっき法によりPt層5を形成した後、引き続き無電解めっき処理をしてAu層6を形成することが好ましい。Au層6を無電解めっき法で形成する場合は各種公知の処理条件を採用でき、無電解めっき浴の組成、pH、処理温度、処理時間などは特に限定されない。
【0058】
Ag層の形成
Pt層5を形成した後、Au層6に代えてAg層6を形成してもよい。Ag層6の形成方法は特に限定されず、各種公知の方法により形成できる。パッシベーション膜を形成して無電解めっき法によりPt層5を形成している場合は、引き続き無電解めっき処理をしてAg層6を形成することが好ましい。Ag層6を無電解めっき法で形成する場合は各種公知の処理条件を採用でき、無電解めっき浴の組成、pH、処理温度、処理時間などは特に限定されない。
【0059】
Au層6、またはAg層6を形成した後、パッシベーション膜を除去する。その後、必要に応じて洗浄処理など各種公知の後処理を施してもよい。上記製造方法によって基体10側から順に、少なくとも[下地導電層3]、[Pd層4]、[Pt層5]、及び[Au層6、またはAg層6]が形成された本発明の導電性バンプ7を製造できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0061】
実施例1
本発明の導電性バンプに相当する試料を300℃で1時間加熱した後、Au層表面に拡散している金属について調べた。
【0062】
導電性バンプに相当する導電性金属層の積層体を無電解めっき処理によって形成した。まず、無電解めっき処理を行う前に表1に示す条件で工程1~5を順次行って基体に前処理を施した。表1中、MCL-16、MCT-51はそれぞれ上村工業社製エピタス(登録商標)MCL-16、上村工業社製エピタスMCT-51である。
【0063】
【0064】
前処理として下記工程1~5を順次おこなった。
工程1:MCL-16を用いて基体(Al TEGウエハー)の洗浄処理(50℃、300秒)を行った。
工程2:30質量%の硝酸液を用いて酸洗処理(常温、60秒)を行って基体Al表面に酸化膜を形成した。
工程3:MCT-51を用いて1次ジンケート処理(常温、30秒)を行った。
工程4:30質量%の硝酸液を用いて酸線上処理(常温、60秒)を行ってZn置換膜を剥離させ、基体Al表面に酸化膜を形成した。
工程5:MCT-51を用いて2次ジンケート処理(常温、30秒)を行った。
【0065】
基体に前処理を施した後、表2に示すめっき浴No.A~Cのいずれかを用いてめっき皮膜の膜厚が0.3μmとなるように無電解めっき処理を行い、基体表面に下地導電層となるめっき皮膜(第1層)を形成した。なお、処理液として用いたNPR-18、HBS-10、PMA-30はそれぞれ上村工業社製ニムデン(登録商標)NPR-18、エピタスHBS-10、エピタスPMA-30である。
【0066】
下地導電層形成後、表2に示すめっき浴を用いてめっき皮膜の膜厚が0.3μmとなるように無電解めっき処理を行い、下地導電層表面に第2層となるめっき皮膜を形成した。また一部の実施例では同様にして更に第3層、第4層となるめっき皮膜を順次形成して、各実施例の試料を作製した。なお、処理液として用いたTFP-23、TFP-30、NWP、HWP-1、TMX-16、RSL-34はそれぞれ上村工業社製エピタスTFP-23、エピタスTFP-30、トリアロイ(登録商標)NWP、エピタスHWP-1、ゴブライト(登録商標)TMX-16、エピタスRSL-34である。
【0067】
なお、Pt層を形成したNo.9~13、16~19は基体に前処理を施した後、レジスト膜に直径100μmの円柱状の開口部を形成した後、表2に示すめっき浴を用いて各層を形成した以外は上記と同様にして各試料を作製した。また更に開口部を直径20μmに変更した以外は同様して各試料を作製した。なお、No.9~13、16~19はPtめっき層を形成した後、外観観察を行ってからAu層またはAg層を形成した。
【0068】
Au層またはAg層の最表面の拡散評価
試料に実際のICチップ製造過程で負荷される熱履歴を想定した300℃で1時間加熱する熱処理を施した後、下記条件のオージェ電子分光法により試料に形成しためっき皮膜(Au層またはAg層)の最表面の元素分析を行って、最表面を形成するAu、またはAg以外の金属元素濃度を調べた。結果を表2の「最表面の金属元素濃度」欄に示す。なお、当該濃度欄における「%」は「原子%」(表中「at.%」と記載)の意味である。AuまたはAg以外の金属元素が検出された場合、最表面に該金属元素が拡散していることを示す。
<オージェ電子分光法>
装置:フィールドエミッションオージェマイクロプローブ(日本電子株式会社製JAMP-9500F)
EHT(Electron High Tension):30kV
Probe Current:1nA
Probe Dia.:最小
【0069】
Ptめっき皮膜の外観観察
No.9~13、16~19はPtめっき皮膜を形成した後、Ptめっき皮膜表面を光学顕微鏡(キーエンス社製VHX-5000)で観察し、下記基準で評価して表2の析出性欄に記載した。
析出:Ptめっき皮膜がPdめっき層を完全に被覆していた。
未析出:Ptめっき皮膜が少なくとも一部形成されていない箇所が存在した。
【0070】
【0071】
Pt層を形成しなかった場合、すなわち、下地導電層とAu層またはAg層の間にPd(No.3~5、15)、Pd-P合金層(No.6)、Ni-W-P合金層(No.7)、Co-W-P合金層(No.8)などの中間導電層のみを設けた実施例、あるいは中間導電層を設けなかった実施例(No.1、2、14)は、いずれもAu層の最表面、またはAg層の最表面に下地金属が拡散していた。
【0072】
またPt層を設けたNo.9~13、16~19は、直径100μmのバンプの場合、Pt皮膜析出性はPd層の有無にかかわらず良好であり、最表面で下地金属は検出されなかった。一方、直径20μmのバンプの場合、Pd層、またはPd-P層(以下、「Pd層」という)を設けなかったNo.9、10、17はPt析出性が劣っており、最表面に下地金属が検出された。またPd層を設けたNo.11~13、16、18~19は直径20μmのマイクロバンプに対してもPt析出性が良好であり、最表面で下地金属は検出されなかった。
【0073】
表2の結果から、Pt層は下地金属の拡散抑制効果を有するが、直径20μm以下のマイクロバンプではPd層を設けない場合は良好な被覆性を有するPt層を形成できず、拡散抑制効果が十分に得られないことがわかる。一方、マイクロバンプではPd層を設けると被覆性に優れたPt層を形成できるため、良好な拡散抑制効果が得られる。
【0074】
実施例2
表4に示す組成のPtめっき浴を下記条件で30日間保持した後、Ptめっき浴の安定性を評価した。下記基準に基づいて「良好」と評価したPtめっき浴について、Ptめっき皮膜の析出性を評価した。一方、「不良」「不可」と評価したPtめっき浴はめっき浴安定性が低く工業的規模の生産に不向きであるため一部を除きPtめっき皮膜を形成しなかった。
【0075】
基体に無電解めっき処理を順次施してPtめっき皮膜を形成した後、Ptめっき皮膜の外観観察を行った。
【0076】
まず、無電解めっき処理を行う前に表3に示す条件で工程1~5を順次行って基体(Al TEGウエハー)に前処理を施した。
【0077】
【0078】
基体に前処理を施した後、レジスト膜の形成、及び該レジスト膜に直径100μmの円柱状の開口部を形成した。その後、表3に示す条件で無電解Niめっき処理を施した後、無電解Pdめっき処理を施し、基体側から順にNiめっき皮膜、Pdめっき皮膜を形成した。
【0079】
Pdめっき皮膜を形成した後、表4に示す各無電解Ptめっき液を用いて、表3に示す条件でPtめっき皮膜を形成し、各試料を製造した。
【0080】
またレジスト膜に形成する開口部の直径を20μmに変更した以外は上記と同様にして各試料を製造した。
【0081】
Ptめっき皮膜の外観観察は実施例1と同様にして行った。
【0082】
Ptめっき浴安定性
表4の各無電解Ptめっき浴を所定の温度、すなわち、還元剤がヒドラジンの場合は50℃、還元剤がギ酸の場合は80℃で30日間保持し、Ptめっき浴中にPt粒子の析出が生じていないか目視観察し、下記基準で評価して表4に記載した。
良好:試験期間中、Pt粒子の析出を確認できなかった。
不良:試験開始後24時間~240時間以内にPt粒子の析出を確認した。
不可:試験開始後24時間未満でPt粒子の析出を確認した。
【0083】
【0084】
表4中、No.2~4、15~17は白金濃度1.0gの水溶性白金化合物溶液(Pt(NH3)4Cl2溶液(II)、還元剤(ギ酸ナトリウム10g/L)、緩衝剤(ホウ酸)、及び所定量の塩化アンモニウムを含み、pH10に調整された無電解Ptめっき浴を用いた例である。No.2~4、15~17は塩化アンモニウム含有量を変化させたが、いずれも浴安定性に優れると共に直径20μmPadにおけるPt析出性にも優れており、良好なPtめっき皮膜が形成されていた。またNo.2~5、No.15~17の浴安定性を詳細に調べた結果、塩化アンモニウム濃度が高くなるほど浴安定性が向上する傾向がわかった。
【0085】
No.1は塩化アンモニウムを添加しなかった例である。No.1は浴安定性が低く、処理開始後数時間でめっき浴中にPt粒子が析出した。
【0086】
またNo.5は塩化アンモニウム濃度が高すぎる例である。No.5は浴安定性、及び直径100μmPadでのPt析出性には優れていたが、直径20μmPadでのPt析出性が劣っていた。この結果から塩化アンモニウム濃度を高くし過ぎるとマイクロバンプでのPt析出性が低下することがわかる。
【0087】
No.6~11は塩化アンモニウムに代えて塩化物である塩化ナトリウム(No.6、7)、アンモニウム(No.8、9)、塩化ナトリウムとアンモニウム(No.10、11)を含有する無電解Ptめっき浴を用いた例である。塩化ナトリウムを使用したNo.6、7や、アンモニウムを使用したNo.8,9も浴安定性が低かった。塩化ナトリウムとアンモニウムの両方を使用したNo.10、11は、浴安定性は良好であったが、直径20μmPadでのPt析出性が悪く、浴安定性とPt析出性を両立することはできなかった。なお、めっき浴安定性が不良評価のNo.9のPtめっき浴を使用してPt析出性を調べたところ、直径20μmPadでの析出性が悪く、所望のPtめっき皮膜を形成できなかった。
【0088】
またNo.12~14は還元剤をギ酸からヒドラジンに変更した例である。No.13は塩化アンモニウムを用いた例であり、浴安定性が悪かった。この結果から塩化アンモニウム添加による浴安定性向上効果はヒドラジンよりもギ酸の方が得られやすいことがわかる。一方、No.12は塩化アンモニウムを含んでおらず、浴安定性が低く、処理開始後数時間でめっき浴中にPt粒子が析出した。またNo.14は塩化アンモニウムに代えて塩化ナトリウムとアンモニウムを用いた例であるが、浴安定性が悪かった。なお、めっき浴安定性が不可評価のNo.13とNo.14のPtめっき浴を使用してPt析出性を調べたところ、直径20μmPadでのPt析出性はNo.13では確認できたが、No.14では確認できなかった。この結果から、塩化アンモニウムを含む場合はめっき浴安定性が低くてもPt析出性を有するが、塩化アンモニウムを含まない場合はPt析出性が得られないことがわかる。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 接続部
3 下地導電層
4 Pd層
5 Pt層
6 Au層またはAg層
7 導電性バンプ
8 他の基体
10 基体