(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】加工装置及び加工方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/09 20060101AFI20220928BHJP
B23Q 17/12 20060101ALI20220928BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20220928BHJP
B24B 47/18 20060101ALI20220928BHJP
G05B 19/4065 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
B23Q17/09 B
B23Q17/12
B23Q17/09 A
B24B49/10
B24B47/18
G05B19/4065
(21)【出願番号】P 2018205499
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】本田 敏文
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大介
(72)【発明者】
【氏名】刀根 恵一
(72)【発明者】
【氏名】松井 孝幸
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-205545(JP,A)
【文献】特開平10-034496(JP,A)
【文献】特開2001-353643(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088849(WO,A1)
【文献】特開2005-111588(JP,A)
【文献】特開平02-256461(JP,A)
【文献】特開2017-205821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/09
B23Q 17/12
B24B 41/00 - 51/00
G05B 19/4065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに接触した状態で前記ワークを加工するように構成された工具と、
所定の加工条件で前記工具を前記ワークに対して動作させるように構成された駆動部と、
前記駆動部により動作している前記工具が前記ワークに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得するように構成された情報取得部と、
前記振動情報から前記工具の状態を示す指標値を算出するように構成された指標値算出部と、
現在の加工条件での前記工具の寿命を示す加工可能時間を前記指標値の時間変化から算出するように構成された加工可能時間算出部と、
前記現在の加工条件にて加工完了まで前記ワークの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出するように構成された残加工時間算出部と、
前記加工可能時間と前記残加工時間とを比較するように構成された比較部と、
前記比較部によって比較された結果、前記加工可能時間が前記残加工時間よりも短い場合に、前記現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定するように構成された判定部とを備える、加工装置。
【請求項2】
前記判定部が加工継続可能と判定した場合、前記加工可能時間算出部及び前記残加工時間算出部はそれぞれ、新たな加工条件での前記加工可能時間及び前記残加工時間を算出するように構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記現在の加工条件で前記ワークの加工を継続した場合の前記指標値の変化を予測することによって予測値を算出するように構成された予測値算出部をさらに備え、
前記加工可能時間算出部は、前記工具が悪化した状態を示す第1の閾値に前記予測値が達するまでの時間を前記加工可能時間として算出するように構成されている、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記比較部は、前記工具が悪化する直前の状態を示す第2の閾値に前記指標値が達したときに、前記加工可能時間と前記残加工時間とを比較するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記判定部が加工継続不可と判定した場合に前記工具のメンテナンス時期であることを示す信号を出力するように構成された出力部をさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記工具は、回転しながら前記ワークに接触して前記ワークを研削するように構成された研削工具であり、
前記駆動部は、所定の回転数で前記工具を回転させるように構成されており、
前記判定部は、前記比較部によって比較された結果、前記加工可能時間が前記残加工時間よりも短い場合に、現在の回転数よりも小さい新たな回転数での加工継続の可否を判定するように構成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記工具は、回転しながら前記ワークに接触して前記ワークを研削するように構成された研削工具であり、
前記駆動部は、前記工具の回転軸に直交し、且つ前記ワークの加工面に平行な方向に沿って、所定の単位時間当たりの往復回数で前記工具を前記ワークに対して相対移動させるように構成されており、
前記判定部は、前記比較部によって比較された結果、前記加工可能時間が前記残加工時間よりも短い場合に、現在の単位時間当たりの往復回数よりも少ない新たな単位時間当たりの往復回数での加工継続の可否を判定するように構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記工具は、回転しながら前記ワークに接触して前記ワークを研削するように構成された研削工具であり、
前記駆動部は、所定の切込み量で前記工具を前記ワークに接触させるように構成されており、
前記判定部は、前記比較部によって比較された結果、前記加工可能時間が前記残加工時間よりも短い場合に、現在の切込み量よりも小さい新たな切込み量での加工継続の可否を判定するように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
工具をワークに接触した状態で前記工具により前記ワークを加工することと、
駆動部により所定の加工条件で前記工具を前記ワークに対して動作させることと、
前記駆動部により動作している前記工具が前記ワークに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得することと、
前記振動情報から前記工具の状態を示す指標値を算出することと、
現在の加工条件での前記工具の寿命を示す加工可能時間を前記指標値の時間変化から算出することと、
前記現在の加工条件にて加工完了まで前記ワークの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出することと、
前記加工可能時間と前記残加工時間とを比較することと、
前記加工可能時間と前記残加工時間とが比較された結果、前記加工可能時間が前記残加工時間よりも短い場合に、前記現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定することとを含む、加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、加工装置及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、穿孔機に設けられ、コアドリル部材で板状材を穿孔している時の穿孔機に発生する振動及び周波数を検出する検出手段と、コアドリルの切味の悪化信号を出力する制御手段とを備える検知装置を開示している。この検知装置の制御手段は、検出手段で検出された穿孔機の振動から所定の周波数域の振動レベルを抽出して、該抽出された振動レベルが予め設定された値より大きい場合、上記の悪化信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ワークに対して接触して加工する工具のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能な加工装置及び加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一つの観点に係る加工装置は、ワークに接触した状態でワークを加工するように構成された工具と、所定の加工条件で工具をワークに対して動作させるように構成された駆動部と、駆動部により動作している工具がワークに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得するように構成された情報取得部と、振動情報から工具の状態を示す指標値を算出するように構成された指標値算出部と、現在の加工条件での工具の寿命を示す加工可能時間を指標値の時間変化から算出するように構成された加工可能時間算出部と、現在の加工条件にて加工完了までワークの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出するように構成された残加工時間算出部と、加工可能時間と残加工時間とを比較するように構成された比較部と、比較部によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定するように構成された判定部とを備える。
【0006】
本開示の別の観点に係る加工方法は、工具をワークに接触した状態で工具によりワークを加工することと、駆動部により所定の加工条件で工具をワークに対して動作させることと、駆動部により動作している工具がワークに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得することと、振動情報から工具の状態を示す指標値を算出することと、現在の加工条件での工具の寿命を示す加工可能時間を指標値の時間変化から算出することと、現在の加工条件にて加工完了までワークの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出することと、加工可能時間と残加工時間とを比較することと、加工可能時間と残加工時間とが比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定することとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る加工装置及び加工方法によれば、ワークに対して接触して加工する工具のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、加工装置の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、加工装置による加工中の様子の一例を説明するための模式図である。
【
図3】
図3は、コントローラの機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、コントローラのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、工具のメンテナンス時期を判定する判定手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、判定部による判定方法の一例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、加工条件を変更した場合の指標値の変化予測の修正例を説明するための図である。
【
図8】
図8は、表示器による表示例を示す図である。
【
図9】
図9は、他の加工条件を変更した場合の指標値の変化予測の修正例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、音センサによって取得される振動情報の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態の一例について、図面を参照しつつより詳細に説明する。以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。一部の図には、X軸、Y軸及びZ軸により規定される直交座標系が示されている。当該直交座標系において、Y軸は鉛直方向に延びており、X軸はY軸に直交するように水平方向に延びており、Z軸はX軸及びY軸の双方に直交するように水平方向に延びている。以下では、上方向を「Y軸正方向」とし、下方向を「Y軸負方向」として説明する。
【0010】
[加工装置の構成]
図1~
図4を参照して、加工装置について説明する。
図1に示される加工装置1は、加工対象であるワークWに対して加工を施すように構成された装置である。以下では、加工装置1として、ワークWに対して研削加工を行う研削装置を例に説明する。研削加工の対象であるワークWとしては、例えばシート状の母材を打ち抜く打抜装置を構成する金型部品が挙げられる。ワークWは、直方体状を呈していてもよい。加工装置1は、ワークWとしての金型部品の一つの表面(加工面)を少量ずつ削り取ることにより、研削加工を行ってもよい。例えば加工装置1は、加工機構10と、保持機構20と、液供給機構30と、振動センサ41と、音センサ43と、コントローラ50と、表示器80とを備える。加工装置1において、加工機構10、保持機構20、液供給機構30、振動センサ41、及び音センサ43は、加工処理を行う空間を形成する1つの筐体(不図示)内に収容されていてもよい。コントローラ50及び表示器80は、上記筐体の外に設けられていてもよい。
【0011】
加工機構10は、ワークWを加工するように構成された機構である。加工機構10は、ワークWの加工中においてワークWの上方に位置するように配置されている。例えば加工機構10は、工具11と、シャフト13と、駆動機構15,17,19(駆動部)とを備える。
【0012】
工具11は、ワークWに接触した状態でワークWを加工するように構成されている。工具11は、ワークWに接触した状態でワークWを研削加工するように構成された研削工具であってもよい。工具11は、円板状を呈していてもよい。この例では、円板状の工具11の中心軸がX軸に沿うように工具11が配置されている。工具11によるワークWの加工時において工具11の円周に沿った周面がワークWに接触するように、工具11が配置されていてもよい。つまり、工具11の周面がワークWの加工面を削り取ることにより、研削加工が行われてもよい。工具11は、砥石によって構成されていてもよい。工具11を構成する砥石として、砥石車又は超砥粒ホイールが用いられてもよい。工具11を構成する砥石は、微細な砥粒、砥粒同士を結合するための結合剤、及び気孔により構成されてもよい。
【0013】
シャフト13は、円柱状を呈している。シャフト13は、X軸に沿って延びていてもよい。シャフト13の一端は、工具11の一方の側面の略中央に接続されていてもよい。シャフト13の他端には、駆動機構15が設けられていてもよい。以降の説明では、工具11から駆動機構15に向かう方向を「X軸正方向」とし、駆動機構15から工具11に向かう方向を「X軸負方向」とする。また、X軸正方向を向いて加工機構10を見た場合に、左方向を「Z軸正方向」とし、右方向を「Z軸負方向」とする。
【0014】
駆動機構15は、シャフト13を支持して回転させるように構成された回転駆動機構である。駆動機構15は、コントローラ50からの指示に応じてシャフト13を回転させる。シャフト13が回転することに伴って、工具11が回転する。すなわち、駆動機構15は工具11を回転させる。駆動機構15は、X軸正方向を向いて工具11を見て時計回りに工具11を回転させてもよい。例えば駆動機構15は、回転アクチュエータを含んでいてもよい。このように、工具11の回転軸は、X軸に沿って延びていてもよい。
【0015】
駆動機構17は、駆動機構15をX軸に沿って移動させるように構成された水平方向駆動機構である。駆動機構17は、コントローラ50からの指示に応じてX軸に沿って駆動機構15を移動させる。駆動機構17により駆動機構15がX軸に沿って移動することによって、工具11がX軸に沿って移動する。すなわち、駆動機構17は工具11をX軸に沿って移動させる。例えば駆動機構17は、リニアアクチュエータを含んでいてもよい。
【0016】
駆動機構19は、駆動機構15,17をY軸に沿って移動させるように構成された昇降機構である。駆動機構19は、コントローラ50からの指示に応じてY軸に沿って駆動機構15,17を移動させる。駆動機構19により駆動機構15,17がY軸に沿って移動することによって、工具11がY軸に沿って移動する。すなわち、駆動機構19は工具11をY軸に沿って移動させる。例えば駆動機構19は、昇降アクチュエータを含んでいてもよい。なお、駆動機構17,19が備えられずに、駆動機構15が、工具11の回転及びX軸、Y軸での移動を駆動してもよい。
【0017】
保持機構20は、ワークWを支持するように構成された機構である。保持機構20は、水平方向にワークWを移動させつつ、ワークWを支持してもよい。例えば保持機構20は、テーブル21と、駆動機構23(駆動部)とを備える。テーブル21は、例えば直方体状を呈しており、ワークWが載置される載置面21aを含んでいる。テーブル21は、磁力又は負圧によりワークWを吸着することによって、ワークWを支持してもよい。駆動機構23は、テーブル21をZ軸に沿って往復移動させるように構成された水平方向駆動機構である。駆動機構23は、コントローラ50からの指示に応じてテーブル21を移動させる。テーブル21のZ軸での移動に伴って、ワークWがZ軸に沿って移動する。すなわち、駆動機構23は、ワークWをZ軸に沿って移動させる。例えば駆動機構23は、リニアアクチュエータを含んでいてもよい。駆動機構23は、テーブル21に載置されているワークWの幅(Z軸に沿った長さ)よりも大きい範囲で、ワークWをZ軸に沿って往復移動させてもよい。
【0018】
駆動機構17,19により工具11がX軸及びY軸に移動し、駆動機構23によりワークWがZ軸に移動することにより、工具11とワークWとの相対位置が変動する。例えば加工装置1による加工では、
図2に示されるように、工具11がワークWに接触する位置まで駆動機構17,19により工具11が移動した後に、駆動機構15により工具11が回転すると共に駆動機構23によりワークWがZ軸に沿って往復移動することで、ワークWが研削加工される。このように、駆動機構15,17,19,23により動作している工具11は、ワークWに接触した状態でワークWを加工するので、加工(接触)に伴って振動及び音が発生する。
【0019】
液供給機構30は、研削加工中のワークWと工具11との接触面に向けて冷却用の研削液を供給するように構成された機構である。液供給機構30は、コントローラ50の指示に応じて研削液の供給を行う。なお、加工装置1は、液供給機構30を備えることなく、ワークWの研削加工を行ってもよい。つまり、加工装置1は、乾式での研削加工を行うように構成されていてもよい。例えば液供給機構30は、ノズル31と、電磁弁33と、液源35とを備える。
【0020】
ノズル31は、研削液を所定方向に向けて吐出するように構成されている。ノズル31は、工具11に対してZ軸負方向に位置するように配置されていてもよい。電磁弁33は、コントローラ50の指示に応じて開閉状態が切り替わるように構成されている。電磁弁33が開状態に切り替わることにより、液源35からノズル31を経て研削液が吐出されてもよく、電磁弁33が閉状態に切り替わることにより、ノズル31からの研削液の吐出が停止してもよい。
【0021】
振動センサ41は、振動を検知するセンサである。振動センサ41は、テーブル21の振動を検知してもよい。テーブル21は、駆動機構23による往復移動動作に加えて、工具11がワークWに接触して行われる研削加工に伴って振動する。つまり、振動センサ41は、研削加工中の工具11がワークWに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を検知する。振動センサ41としては、測定対象の部材(テーブル21)に対して接触して振動情報を検知する接触式のセンサ(例えば圧電素子を用いた振動センサ)、又は測定対象の部材に対して非接触の状態で振動情報を検知する非接触式のセンサ(例えば静電容量式の振動センサ)が用いられてもよい。振動センサ41は、測定対象の物理量として、変位、速度、及び加速度のいずれの物理量を検知してもよい。振動センサ41は、上記物理量に応じた電圧値を取得してもよい。振動センサ41は、検知した振動情報(例えば電圧信号)をコントローラ50に出力する。
【0022】
音センサ43は、音を検知するセンサであり、例えばマイクロフォンと増幅器とによって構成される。工具11がワークWに接触して行われる研削加工では、加工に伴う音が発生する。加工に伴う音は空気を振動させることで伝搬するので、音センサ43は、加工に伴う音を振動情報として検知する。音センサ43は、伝搬してきた音(例えば音圧)に応じた電圧信号を取得してもよい。音センサ43は、検知した振動情報(例えば電圧信号)をコントローラ50に出力する。
【0023】
コントローラ50は、加工装置1に含まれる各要素を制御するように構成されている。コントローラ50は、駆動機構15により動作している工具11がワークWに接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得する。コントローラ50は、取得した振動情報から工具11の状態を示す指標値を算出する。コントローラ50は、現在の加工条件での工具11の寿命を示す加工可能時間を、算出した指標値の時間変化から算出する。コントローラ50は、現在の加工条件にて加工完了までワークWの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出する。コントローラ50は、算出した加工可能時間と残加工時間とを比較し、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定する。
【0024】
コントローラ50は、
図3に示されるように、機能モジュールとして、読取部51と、記憶部53と、加工条件設定部55と、駆動指示部57と、情報取得部59と、指標値算出部61と、予測値算出部62と、加工可能時間算出部63と、残加工時間算出部65と、比較部67と、判定部69と、出力部71とを備える。これらの機能モジュールは、コントローラ50の機能を便宜上複数のモジュールに区切ったものに過ぎず、コントローラ50を構成するハードウェアがこのようなモジュールに分かれていることを必ずしも意味するものではない。各機能モジュールは、プログラムの実行により実現されるものに限られず、専用の電気回路(例えば論理回路)、又は、これを集積した集積回路(ASIC:application specific integrated circuit)により実現されるものであってもよい。
【0025】
読取部51は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体RMからプログラムを読み取るように構成されている。記録媒体RMは、加工装置1の各部を動作させるためのプログラムを記録している。記録媒体RMとしては、例えば、半導体メモリ、光記録ディスク、磁気記録ディスク、光磁気記録ディスクであってもよい。
【0026】
記憶部53は、種々のデータを記憶する機能を有する。記憶部53は、例えば、読取部51において記録媒体RMから読み出したプラグラム、外部入力装置(図示せず)を介してオペレータから入力された加工処理に関する初期データ、及び工具11の加工に伴う振動情報と工具11(砥石)の悪化状態を関連付けた機械学習モデルに関するデータ等を記憶していてもよい。初期データには、例えばワークWの寸法、並びに初期の加工条件として、工具11の回転数、加工完了までの削り量、切込み量、及びテーブル21の移動速度(単位時間当たりの往復数)が含まれていてもよい。
【0027】
加工条件設定部55は、記憶部53に設定された初期データ、又は判定部69による判定結果に基づいて工具11によるワークWの研削加工における加工条件を設定するように構成されている。例えば加工条件設定部55は、加工条件として、工具11の回転における単位時間当たりの回転数(周速度)、テーブル21の単位時間当たりの往復数、テーブル21の往復距離、切込み回数、1回の切込み当たりの切込み量、並びにX軸に沿った工具11の移動速度及び移動距離(例えば、ワークWのX軸に沿う幅に応じた工具11の移動距離)を設定してもよい。切込み量とは、例えば
図2に示されるように、加工中のワークWの表面(加工面)と工具11の下端との間の距離dpにより規定される。
【0028】
駆動指示部57は、加工条件設定部55により設定された加工条件(現在の加工条件)に基づいて、当該加工条件にて駆動機構15,17,19,23を駆動させるように構成されている。例えば駆動指示部57は、加工条件として設定された回転数(現在の回転数)にて工具11が回転するように、駆動機構15を制御する。駆動指示部57は、加工条件として設定された単位時間当たりの往復数(現在の単位時間当たりの往復数)及び往復距離にて、テーブル21が往復移動するように駆動機構23を制御する。駆動指示部57は、加工条件として設定された切込み量に応じた高さ位置に工具11が維持されるように駆動機構19を制御する。駆動指示部57は、加工条件として設定されたX軸に沿った移動速度及び移動距離に応じて駆動機構17を制御する。
【0029】
情報取得部59は、振動センサ41からテーブル21の振動に関する振動情報、及び音センサ43から工具11による研削加工に伴う音に関する振動情報を取得するように構成されている。情報取得部59は、取得した振動情報を指標値算出部61に出力する。
【0030】
指標値算出部61は、情報取得部59から取得した振動情報により工具11の状態を示す指標値を算出するように構成されている。指標値によって示される工具11の状態とは、工具11がどのくらい悪化しているかの程度であってもよい。つまり、指標値によって、工具11に対するメンテナンスが必要となるまでの目安が示されてもよいし、工具11の寿命までの目安が示されてもよい。以降では、振動センサ41による振動情報に基づいて指標値を算出する場合を例に説明を行う。指標値算出部61は、算出した指標値を予測値算出部62に出力する。
【0031】
予測値算出部62は、現在の加工条件でワークWの加工を継続した場合の指標値算出部61により算出された指標値の変化を予測することによって予測値を算出するように構成されている。予測値算出部62は、算出した指標値の予測値を加工可能時間算出部63に出力する。
【0032】
加工可能時間算出部63は、指標値算出部61により算出された指標値の時間変化に基づいて加工可能時間を算出するように構成されている。例えば加工可能時間算出部63は、予測値算出部62から取得した予測値に基づいて加工可能時間を算出してもよい。加工可能時間とは、現在の加工条件での工具11の寿命を示す。工具11の寿命とは、工具11が悪化してメンテナンスが必要な状態となるまでの期間である。メンテナンスは、例えば工具11をワークWに対して加工できる状態に戻す行為である。メンテナンスとしては、例えば工具11の交換、補修、修理が挙げられる。研削工具(砥石)のメンテナンスとして、砥粒により構成される切れ刃を再び鋭くするためのドレッシング(目直し)が挙げられる。加工可能時間算出部63は、算出した加工可能時間を比較部67に出力する。
【0033】
残加工時間算出部65は、現在の加工条件にて加工完了までワークWの加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出するように構成されている。残加工時間は、現在時刻からワークWの加工終了の予定時刻までの残りの加工時間である。残加工時間算出部65は、加工開始の前に、加工条件設定部55から取得した現在の加工条件にてワークWを加工した際の総加工時間を算出してもよい。そして、残加工時間算出部65は、ワークWの加工開始に伴って、総加工時間から加工終了の予定時刻を算出してもよい。その後、残加工時間算出部65は、時間の経過に伴って、総加工時間から経過した時間を減算することにより残加工時間を算出してもよい。残加工時間算出部65は、算出した残加工時間を比較部67に出力する。
【0034】
比較部67は、加工可能時間算出部63により算出された加工可能時間と、残加工時間算出部65により算出された残加工時間とを比較するように構成されている。比較部67は、加工可能時間と残加工時間との大小関係を比較してもよい。比較部67は、比較結果に関する情報を判定部69に出力する。
【0035】
判定部69は、比較部67によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定するように構成されている。加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、例えば、判定部69は、加工条件を変更することができないと判定することで、現在の状態での工具11による当該ワークWに対する加工継続が不可であると判定してもよい。この場合に、判定部69は、加工継続が不可であることを示す信号を出力部71に出力してもよい。また、判定部69は、加工条件を変更することができると判定することで、当該ワークWに対する現在の工具11による加工継続が可能であると判定してもよい。
【0036】
判定部69は、加工継続が可能であると判定した場合に、加工継続が可能であることを示す信号を加工条件設定部55に出力してもよい。この場合に、当該信号を受けた加工条件設定部55は、現在の加工条件とは異なる加工条件(新たな加工条件)を設定してもよい。加工条件設定部55は、異なる加工条件の設定として、工具11の回転数、テーブル21の単位時間当たりの往復数、工具11のX軸での移動速度、又は切込み量の変更を行ってもよい。加工条件設定部55において新たな加工条件が設定された場合に、駆動指示部57は当該新たな加工条件にて各駆動機構を制御してもよい。新たな加工条件にてワークWの加工が開始された後、残加工時間算出部65は、新たな加工条件での残加工時間を算出してもよい。新たな加工条件にてワークWの加工が開始された後、加工可能時間算出部63は、新たな加工条件において得られた指標値に基づいて、新たな加工条件での加工可能時間を算出してもよい。
【0037】
出力部71は、工具11による加工継続が不可であると判定部69により判定された場合に、工具11のメンテナンス時期であることを示す信号を出力するように構成されている。この例では、出力部71は、工具11としての砥石のドレッシングが必要であること(ドレッシング時期)を示す信号を出力してもよい。出力部71は、メンテナンス時期であることを示す信号を表示器80に出力してもよい。出力部71は、加工可能時間算出部63が算出した加工可能時間及び残加工時間算出部65が算出した残加工時間の少なくとも一方に関する情報を表示器80に出力してもよい。
【0038】
コントローラ50のハードウェアは、例えば一つ又は複数の制御用のコンピュータにより構成される。コントローラ50は、ハードウェア上の構成として、例えば
図4に示される回路50Aを有する。回路50Aは、電気回路要素(circuitry)で構成されていてもよい。回路50Aは、具体的には、プロセッサ50Bと、メモリ50C(記憶部)と、ストレージ50D(記憶部)と、タイマー50Eと、入出力ポート50Fとを有する。プロセッサ50Bは、メモリ50C及びストレージ50Dの少なくとも一方と協働してプログラムを実行し、入出力ポート50Fを介した信号の入出力を実行することで、上述した各機能モジュールを構成する。タイマー50Eは、例えば一定周期の基準パルスをカウントすることで経過時間(例えば加工開始からの経過時間)を計測する。入出力ポート50Fは、プロセッサ50B、メモリ50C、ストレージ50D及びタイマー50E、加工装置1の各種装置との間で、信号の入出力を行う。
【0039】
この例では、加工装置1は、一つのコントローラ50を備えているが、複数のコントローラ50で構成されるコントローラ群(制御部)を備えていてもよい。加工装置1がコントローラ群を備えている場合には、上記の機能モジュールがそれぞれ、一つのコントローラ50によって実現されていてもよいし、2個以上のコントローラ50の組み合わせによって実現されていてもよい。コントローラ50が複数のコンピュータ(回路50A)で構成されている場合には、上記の機能モジュールがそれぞれ、一つのコンピュータ(回路50A)によって実現されていてもよいし、2つ以上のコンピュータ(回路50A)の組み合わせによって実現されていてもよい。コントローラ50は、複数のプロセッサ50Bを有していてもよい。この場合、上記の機能モジュールがそれぞれ、一つ又は複数のプロセッサ50Bによって実現されていてもよい。
【0040】
表示器80は、表示画面を含んでおり、加工装置1からの信号の内容をオペレータに伝える機能を有する。表示器80は、例えば、工具11のメンテナンスが必要であることを示すメッセージ又は警告灯を表示してもよいし、加工可能時間及び残加工時間を表示してもよい。
【0041】
[加工方法]
続いて、
図5~
図7を参照して、加工装置1におけるワークWを加工する方法(加工方法)について説明する。なお、以下の各工程が開始される前に、オペレータ(作業員)により、加工対象となるワークWがテーブル21に設置され、ワークWの初期の加工条件がコントローラ50に入力されてもよい。また、この例では、加工開始前に、オペレータにより、加工条件の変更幅及び最大の変更幅(限界値)がコントローラ50に入力されてもよい。
【0042】
まず、コントローラ50は、総加工時間を算出する(ステップS01)。ステップS01では、例えば残加工時間算出部65が、オペレータにより入力された加工条件(現在の加工条件)にてワークWに対する加工を完了させるまでに必要な時間を、総加工時間として算出する。なお、ステップS01の算出に合わせて、駆動指示部57が駆動機構17,19,23を制御することにより、ワークWに対する工具11の位置を加工開始位置に配置してもよい。その後、駆動指示部57による各駆動機構の制御により、ワークWに対する研削加工が開始されてもよい。
【0043】
次に、コントローラ50は、振動情報を取得する(ステップS02)。ステップS02では、例えば情報取得部59が、工具11がワークWに接触して加工することに伴うテーブル21の振動に関する振動情報を、振動センサ41を介して取得する。情報取得部59は、テーブル21がZ軸に沿って1往復する度に振動情報を取得してもよい。
【0044】
次に、コントローラ50は、ステップS02において得られた振動情報から指標値を算出する。ステップS02では、例えば、指標値算出部61が記憶部53に記憶された機械学習モデルを参照してスコア値を取得してもよい。スコア値は、振動情報から算出される工具11の悪化状態の程度を示す値である。スコア値は、公知の機械学習を用いた振動解析アルゴリズムにより算出されてもよい。例えば、機械学習を用いた振動解析アルゴリズムは、特開2017-151872号公報、非特許文献「機器の振動データの非負値行列因子分解による特徴抽出と異常検知」(2018年、第32回人工知能学会全国大会)等に開示されている。この公知の振動解析アルゴリズムでは、非負値行列因子分解及びOne-Class SVM等が用いられて、振動情報から機器(工具等)の状態の解析が行われている。
【0045】
スコア値は、例えば学習済みの機械学習モデルにおいて、得られた振動情報の解析結果と工具11(砥石)が悪化状態であるかどうかの判定境界との距離に応じて値が定まる。スコア値は、工具11の悪化状態が進行しているほど小さくなってもよい。スコア値は、
図6に示されるように、0~100の範囲にて算出されてもよい。例えば、スコア値が100である場合、工具11が最も良い状態を示していてもよく、スコア値が0である場合、工具11が最も悪化している状態を示していてもよい。この場合、ワークWに対する加工が進むにつれて、工具11(砥石)の状態は悪化していくので、加工が進むにつれてスコア値は減少していく。
【0046】
ステップS02において、指標値算出部61は、スコア値を算出した後に、スコア値の時間変化に基づいて指標値を算出する。指標値は、スコア値の時間変化を公知の算出方法によって近似することで算出される。例えば指標値算出部61は、
図6に示されるように、スコア値の時間変化(グラフCs1)から最小二乗法を用いて近似直線L1を算出することで、指標値を算出してもよい。この例では、指標値が50よりも大きく100以下の範囲である場合、工具11が良い状態C1として設定されている。指標値が20よりも大きく50以下の範囲である場合、工具11が悪くなる直前の状態C2として設定され、指標値が0~20の範囲である場合、工具11が悪化した状態C3として設定されている。状態C3では、工具11としての砥石のドレッシングが必要である状態を示している。すなわち、状態C1と状態C2との境界としての閾値Th1(第1の閾値)が20に設定され、状態C2と状態C3との境界としての閾値Th2(第2の閾値)が50に設定されてもよい。この例では、閾値Th2は閾値Th1よりも大きい値に設定されている。
【0047】
次に、コントローラ50は、切込み回数分の加工が完了していないかどうかを判断する(ステップS04)。例えば、コントローラ50(加工条件設定部55)は、切込み回数として、オペレータにより設定された加工条件である総切込み量(ワークWの表面を削り取る量)及び1回当たりの切込み量に基づいて、加工完了までテーブル21を往復させる回数を切込み回数として算出してもよい。例えば、1往復当たりの切込み量が0.01mmに設定されて、総切込み量が1mmに設定されている場合において、X軸に沿ってワークWを移動させつつテーブル21が10往復することでワークWの加工面全体にわたり1回当たりの切込み量分だけ研削されるとすると、加工条件設定部55は、1000回を切込み回数として算出する。
【0048】
ステップS04において、切込み回数分の加工が完了したと判断された場合(ステップS04:NO)、コントローラ50はワークWに対する加工が完了したと判断して、加工処理を終了する。一方、ステップS04において、切込み回数分の加工が完了していないと判断された場合(ステップS04:YES)、コントローラ50は、指標値と閾値Th2とを比較する(ステップS05)。ステップS05では、コントローラ50が、指標値が閾値Th2よりも小さいかどうかを判断する。
【0049】
ステップS05において、指標値が閾値Th2以上であると判断された場合(ステップS05:NO)、コントローラ50は、ステップS02~S04の処理を繰り返す。この例では、切込み回数分の加工が未完了であり、且つ指標値が50よりも大きい場合に、コントローラ50は、振動情報の取得及び指標値の算出を繰り返す。
【0050】
ステップS05において、指標値が閾値Th2よりも小さいと判断された場合(ステップS05:YES)、コントローラ50は加工可能時間Tppを算出する。ステップS05では、予測値算出部62が、指標値の時間変化に基づいて、現在時刻tn以降における指標値の時間変化を予測する。
図6に示されるように、予測値算出部62は、例えば指標値の時間変化を示す近似直線L1と同じように時間変化する(単位時間当たり指標値の減少幅が同じである)と予測することにより、予測した指標値(予測値)の変化を示す予測直線L2を算出してもよい。そして、加工可能時間算出部63は、予測直線L2により定まる予測値が閾値Th1に達する時刻を算出してもよい。
図6に示される例では、加工可能時間算出部63は、予測直線L2により定まる予測値が、閾値Th1である20に達する予測時刻を算出する。このとき、加工可能時間算出部63は、予測時刻と現在時刻tnとの差を加工可能時間Tppとして算出する。
【0051】
指標値が閾値Th2よりも小さいと判断された場合に、ステップS06における加工可能時間Tppの算出と並行して、又は加工可能時間Tppの算出の前後において、コントローラ50(残加工時間算出部65)は、残加工時間を算出してもよい。残加工時間算出部65は、ステップS01において算出された総加工時間に基づいた加工完了時刻te(加工完了の終了予定時刻)と現在時刻tnとの差を残加工時間Tprとして算出してもよい。
【0052】
次に、コントローラ50は、加工可能時間Tppと残加工時間Tprを比較する(ステップS07)。ステップS07では、比較部67が、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短いかどうかを判断する。ステップS07において、加工可能時間Tppが残加工時間Tpr以上である場合(ステップS07:NO)、コントローラ50は、現在の加工条件によりワークWの加工が完了し得ると判断する。加工可能時間Tppが残加工時間Tpr以上である場合、コントローラ50は、予測直線(不図示)による予測値が加工完了時刻te以後に閾値Th1に達すると判断する。すなわち、コントローラ50は、現在の加工条件にて、ワークWの加工完了まで工具11(砥石)が寿命に達しない(状態C3にはならない)と判定する。コントローラ50は、現在の加工条件によりワークWの加工が完了し得ると判断した場合、ステップS02~S07の処理を繰り返す。
【0053】
加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合、
図6に示されるように、コントローラ50は、加工完了時刻teよりも前に、予測直線L2に基づく予測値が閾値Th1に達すると判断する。換言すると、コントローラ50は、現在の加工条件にてワークWの加工を継続すると、ワークWの加工完了よりも前に工具11(砥石)が寿命に達する(状態C3になる)と判定する。ステップS07において、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短いと判断された場合(ステップS07:YES)、コントローラ50(判定部69)は、加工条件の変更が不可かどうかを判断する(ステップS08)。
【0054】
ステップS08では、例えば、判定部69は、現在の加工条件から予め設定された変更幅で加工条件の変更が可能かどうかを判定してもよい。この例では、判定部69は、工具11の現在の回転数から、予め設定された減少幅で回転数の変更が可能かどうかを判定する。例えば、初期設定により加工条件の回転数が3000rpmに設定され、回転数の減少幅が100rpmに設定され、限界値が2500rpmに予め設定されているとする。この場合において、工具11の現在の回転数が初期設定の加工条件である3000rpmであるとき、判定部69は回転数の変更が可能であると判定する。このように、判定部69は、加工条件の変更が可能と判定した場合、加工中のワークWに対する加工が継続可能であると判定してもよい。
【0055】
ステップS08において加工条件の変更が可能であると判断された場合(ステップS08:NO)、コントローラ50は、加工条件を変更する(ステップS09)。ステップS09では、加工条件設定部55が新たな加工条件(例えば、新たな回転数)を設定する。そして、駆動指示部57は、新たに設定された加工条件(例えば、新たな回転数)に応じて、各駆動機構を制御する。加工可能時間算出部63は、新たな加工条件での加工可能時間Tppを算出してもよく、残加工時間算出部65は、新たな加工条件での残加工時間Tprを算出してもよい。そして、コントローラ50は、ステップS02~S08の処理を繰り返す。
【0056】
図7に示されるように、工具11の回転数を減少させると、例えば工具11(砥石)の自生作用によりスコア値及び指標値が回復(上昇)し得る。これにより指標値が閾値Th2である50を超えた状態が継続し得るので、コントローラ50はステップS02~S05の処理を繰り返す。加工条件を変更した後のステップS02では、指標値算出部61が、加工条件(回転数)が変更された後に取得されたスコア値(グラフCs2)に基づいて近似直線L3を算出する。そして、指標値算出部61は、近似直線L3により定まる指標値を取得する。近似直線L3により定まる指標値が閾値Th2である50に達した場合、ステップS06において、予測値算出部62が、近似直線L3に基づいた予測直線L4を算出する。
図7に示される例では、コントローラ50が、予測直線L4に基づいた予測値が、加工完了時刻teまでに閾値Th1である20に達しないと判断するので、現在の加工条件(近似直線L3及び予測直線L4が得られた加工条件)にてワークWの加工を継続させる。
【0057】
コントローラ50は、回転数を一度変更させた後の加工条件により得られる予測直線(不図示)の予測値が、加工完了時刻teよりも前に閾値Th1に達すると判定した場合、再度、ステップS08にて加工条件の変更が可能であるかどうかを判断する。
【0058】
一方、ステップS08において、加工条件の変更が不可であると判定される場合がある。上述した例において、複数回の加工条件(回転数)の変更が行われ、現在の加工条件の回転数が変更可能な下限値の2500rpmに既に設定されている場合、判定部69は、加工条件の変更が不可であると判定する。このように、判定部69は、加工条件の変更が不可であると判定した場合、加工中のワークWに対する加工が、現在の状態の工具11をメンテナンスしない限り継続不可であると判定してもよい。
【0059】
ステップS08において加工条件の変更が不可であると判断された場合(ステップS08:YES)、コントローラ50は工具11のメンテナンスが必要であることを示す信号(以下、「メンテナンス信号」という。)を出力する(ステップS10)。ステップS10では、例えば出力部71が、工具11である砥石のドレッシングが必要であることを示すメンテナンス信号を表示器80に出力してもよい。例えば、表示器80は、メンテナンス信号を受信した際に、砥石のドレッシングが必要であることを示す表示内容を画面に表示してもよい。あるいは、加工装置1は、出力部71からメンテナンス信号が出力されることにより、工具11のメンテナンス(例えばドレッシング)を自動で行い、当該メンテナンス後にワークWの加工を継続するように構成されていてもよい。
【0060】
図8には、表示器80による表示例が示されている。表示器80は、表示画面83を含んでいる。表示画面83上には、一例として、スコア値(指標値)の時間変化を示すグラフ表示部85、及び残りの加工時間(残加工時間)及び砥石のドレッシングが必要となるまでの時間(加工可能時間)を表示するメッセージ表示部87が含まれてもよい。例えば、表示器80は、出力部71から砥石がドレッシング時期であることを示す信号を受信した場合に、砥石のドレッシングが必要であることを示すメッセージを、メッセージ表示部87に表示させてもよい。
【0061】
[作用]
続いて上述した実施形態の効果について説明する。ワークの加工中に砥石がワークに接触することに伴って発生する振動情報を取得し、当該振動情報における特定周波数のレベルが所定値に達した場合に、工具のメンテナンスが必要であると判定することも考えられる(例えば上述の特許文献1)。しかしながら、加工対象のワークに対する加工の途中にて、加工に使用している工具(例えば砥石)のメンテナンス(ドレッシング)を行うと、メンテナンス前後において加工環境(例えば、ワーク周囲の雰囲気温度、湿度、研削加工位置)が変わり得る。この場合に、加工環境の変化に起因してワークの加工精度に影響が出て、当該ワークが不適合品となる可能性がある。そのため、工具が悪化状態に近づいていても、加工条件を多少変更することで、工具のメンテナンスを行うことなく、加工環境を変化させずに加工完了まで加工を継続させる場合がある。今までは熟練技術者が、加工に伴う音などを聞いて、加工条件を変更させて加工継続が可能かどうかを判断していた。ただし、加工継続が可能かどうかの判断は、経験又は勘(スキル)に依るところが大きい。また、加工環境の変化による影響を抑えようとすると加工条件を細かく調整する必要があり、作業者に大きな負担を強いるおそれがある。さらに、作業者によってドレッシングが必要であると判断するタイミングが異なるので加工時間にばらつきが生じてしまう。
【0062】
これに対して、以上の実施形態では、判定部69は、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定する。このため、工具11の寿命が近づいても、加工環境を変化させずに加工完了まで加工を継続できる加工条件がある場合に、作業員による判断を経ずに工具11のメンテナンスを行うことなく加工が継続される。すなわち、ワークWに対して接触して加工する工具11のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0063】
以上の実施形態では、判定部69が加工継続可能と判定した場合、加工可能時間算出部63及び残加工時間算出部65はそれぞれ、新たな加工条件での加工可能時間Tpp及び残加工時間Tprを算出する。このため、新たな加工条件による実測値(振動情報)に基づいて、再度、加工継続の可否を判定することが可能となる。
【0064】
以上の実施形態では、加工可能時間算出部63は、工具11が悪化した状態を示す閾値Th1に予測値が達するまでの時間を加工可能時間Tppとして算出する。予測値を算出する際には、指標値の時間変化に基づいて予測が行われる。このため、加工可能時間Tppを適切に算出することが可能となる。
【0065】
以上の実施形態では、比較部67は、工具が悪化する直前の状態を示す閾値Th2に指標値が達したときに、加工可能時間Tppと残加工時間Tprとを比較する。このため、閾値Th2に指標値が達したときに、現在の加工条件での加工継続の可否が判定される。その結果、工具が悪くなる直前において、加工継続の可否を判定することが可能となる。
【0066】
以上の実施形態では、加工装置1は、判定部69が加工継続不可と判定した場合に工具11のメンテナンス時期(ドレッシング時期)であることを示すメンテナンス信号を出力するように構成された出力部71を備える。この場合、出力部71から出力されるメンテナンス信号により、オペレータ、他の機器、又はコントローラ50内の他の要素に工具11のメンテナンスが必要であることを伝えることが可能となる。
【0067】
以上の実施形態では、工具11は、回転しながらワークWに接触してワークWを研削するように構成された研削工具である。駆動機構15は、所定の回転数で工具11を回転させるように構成されている。判定部69は、比較部67によって比較された結果、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、現在の回転数よりも小さい新たな回転数での加工継続の可否を判定するように構成されている。現在の回転数よりも小さい新たな回転数で工具11(砥石)を回転させてワークWの加工を継続した場合、砥石の自生作用(自生発刃)により砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。このため、新たな回転数での加工継続の可否が判定されることで、工具11のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0068】
[変形例]
以上、本開示に係る実施形態について詳細に説明したが、本発明の要旨の範囲内で種々の変形を上記の実施形態に加えてもよい。
【0069】
(1)判定部69は、比較部67によって比較された結果、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、変更対象の加工条件としてテーブル21の単位時間当たりの往復回数を変更させた場合での加工継続の可否を判定してもよい。例えば、判定部69は、現在の単位時間当たりの往復回数よりも少ない新たな単位時間当たりの往復回数での加工継続の可否を判定してもよい。テーブル21の単位時間当たりの往復回数が変更されることで、加工中における工具11に対するワークWの相対的な移動速度(例えば平均速度、あるいは工具11及びワークWの接触している間の移動速度)が変更される。現在の単位時間当たりの往復回数よりも少ない新たな単位時間当たりの往復回数でワークWを工具11(砥石)に対して相対移動させてワークWの加工を継続した場合、砥石の自生作用により砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。このため、単位時間当たりの往復回数での加工継続の可否が判定されることで、工具11のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0070】
(2)判定部69は、比較部67によって比較された結果、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、変更対象の加工条件として駆動機構17によるX軸に沿った移動速度を変更させた場合での加工継続の可否を判定してもよい。例えば、X軸に沿った移動速度を変更させることで、工具11(砥石)の寿命が延び得る場合、新たなX軸に沿った移動速度での加工継続の可否が判定されることで、工具11のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0071】
(3)判定部69は、比較部67によって比較された結果、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、変更対象の加工条件として1往復当たりの切込み量を変更させた場合での加工継続の可否を判定してもよい。例えば、判定部69は、現在の切込み量よりも小さい新たな切込み量での加工継続の可否を判定してもよい。
図9には、変更対象の加工条件が切込み量である場合の指標値の変化予測の修正例が示されている。
図9に示される例では、コントローラ50は、時刻t1において予測直線L2に基づいた予測値が、加工完了時刻teよりも前に閾値Th1に達すると判断し、時刻t1から時刻tnまでの期間において新たな切込み量で加工を継続させている。コントローラ50は、新たな切込み量での実測値の振動情報に基づいて、上記期間においてグラフCs3及び近似直線L5を算出し、予測直線L6を算出している。
【0072】
コントローラ50は、切込み量の変更に伴い総加工時間を算出し直して、加工完了予定時刻を時刻te1に修正してもよい。
図9に示される例では、コントローラ50は、切込み量の変更に伴って、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも大きいと判断して、ワークWの加工が継続可能であると判断する。例えば、コントローラ50は、切込み量を段階的に変更していき、切込み量が限界値に達している場合に、当該限界値において算出された加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短いときに、加工継続が不可であると判定してもよい。現在の切込み量よりも小さい新たな切込み量で工具11(砥石)によるワークWの加工を継続した場合、砥石への負荷が軽減することにより砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。このため、新たな切込み量での加工継続の可否が判定されることで、工具11のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0073】
(4)判定部69は、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、変更対象の加工条件として、上述した回転数、単位時間当たりの往復回数、X軸に沿った移動速度、及び切込み量のうちの2つ以上の加工条件を変更させて加工継続の可否を判定してもよい。例えば、判定部69は、工具11の回転数を限界値まで変更させ、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い状態が継続しているときに、切込み量を変更させていき加工継続の可否を判定してもよい。
【0074】
(4)上記実施形態では、判定部69は、加工条件を実際に変更していくことで、加工継続の可否を判定しているが、加工継続の可否の判定方法はこれに限られない。判定部69は、加工可能時間Tppが残加工時間Tprよりも短い場合に、実際に加工条件を変更することなく、加工条件を変更した場合の指標値の変化を予測(シミュレーション)することで、加工継続の可否を判定してもよい。例えば、判定部69は、変更した加工条件それぞれにおける加工可能時間Tppを算出し、残加工時間Tprよりも加工可能時間Tppが大きくなる加工条件を探すことで、加工継続の可否を判定してもよい。
【0075】
(5)上記実施形態では、判定部69は、指標値が閾値Th2に達した場合に、加工可能時間Tppと残加工時間Tprとの比較結果により加工継続の可否を判定しているが、判定部69は、指標値が閾値Th2に達する前に加工継続の可否を判定してもよい。
【0076】
(6)上記実施形態では、指標値算出部61は、スコア値の時間変化を公知の算出方法(例えば最小二乗法)により近似することで指標値を算出するが、指標値算出部61は、スコア値に対していずれの演算を行うことなく、スコア値を指標値として取得(算出)してもよい。
【0077】
(7)コントローラ50は、音センサ43により取得された音情報(振動情報)に基づいて上記実施形態と同様に、指標値の算出、加工可能時間Tpp及び残加工時間Tprの算出、並びに加工継続の可否の判定等を行ってもよい。コントローラ50は、振動センサ41からの振動情報に基づく指標値と、音センサ43からの音情報に基づく指標値との両方に基づいて(例えば平均値を算出して)、加工可能時間Tpp及び残加工時間Tprの算出並びに加工継続の可否の判定等を行ってもよい。
【0078】
(8)コントローラ50は、機械学習モデルを参照して算出された指標値ではなく、振動情報から得られる周波数データのレベル(例えば振動の振幅、大きさ、強さに応じた電圧値)を指標値として用いることで、加工可能時間Tppと残加工時間Tprとの算出及び加工継続の可否の判定等を行ってもよい。例えば、
図10には、砥石の悪化の程度(悪化状態)が既知である場合に取得された音情報を周波数変換したグラフが示されている。
図10では、砥石の悪化状態が互いに異なる場合の4つの音情報(振動情報)から得られた周波数データとしてデータD1~D4が示されており、横軸は周波数、縦軸はレベル(音の強さに応じた電圧値)を示している。データD4~D1により示される周波数データは、この順で砥石がより悪化している。つまり、データD4が4つのデータの中で最も砥石が悪化している状態でのデータであり、データD1が4つのデータの中で砥石が最も良い状態でのデータを示している。
図10に示されるように、周波数が400Hz程度において、砥石の悪化状態に応じてレベルが大きく変動していることがわかる。このため、コントローラ50は、特定周波数帯におけるレベルを指標値として用いることができる。この場合、コントローラ50の記憶部53には、砥石が悪化した状態を示すレベル(第1の閾値)及び砥石が悪化する直前の状態を示すレベル(第2の閾値)が記憶されていてもよい。
【0079】
(9)上記実施形態では、工具11(砥石)の周面をワークWに接触して研削加工が行われるが、シャフト13に直交(交差)する工具11の主面をワークWに接触して研削加工が行われてもよい。このとき、シャフト13がY軸に沿って延びていてもよい。砥石のワークWに対する接触面が周面及び側面のいずれであるかにかかわらず、ワークWは回転保持部に支持されていてもよい。この場合、加工装置1はワークWを回転させながら研削加工を行ってもよく、コントローラ50は、加工条件として回転保持部による回転速度が変更した場合での加工継続の可否を判定してもよい。上記実施形態では、テーブル21が往復移動する間に、ワークWが工具11に接触して研削加工が行われるが、加工装置1は、テーブル21が往復移動するうちの片道分のみワークWを工具11に接触させて、研削加工を行ってもよい。
【0080】
(10)上記実施形態では、加工対象のワークWの形状が直方体状であり、加工装置1は研削方法の一つである平面研削を行っているが、加工対象のワークWの形状、及び研削方法はこれに限られない。例えば、加工対象のワークWは、円柱状、円環状(中空円柱状)、円板状、又は歯車状、あるいは異形状を呈していてもよい。例えば、加工装置1は、ワークWの形状及び加工目的に応じて、工具11(砥石)により、円筒研削、内面研削、心なし研削、ねじ研削、歯車研削、ならい研削、又は切断を行ってもよい。
【0081】
(11)加工装置1は、工具11をワークWに接触してワークWを加工する加工装置であれば、どのような加工を行う装置であってもよい。例えば、加工装置1は、ワークWの不要な部分を除去して所望の寸法及び形状に加工する切削加工を行う装置であってもよい。この場合、工具11は切削工具であってもよく、例えばバイト又はフライス工具であってもよい。加工装置1は、ワークWの表面を滑らかにする研磨加工を行う装置であってもよい。この場合、工具11はワークWに対して定圧で押し付けられる遊離砥粒又は固定砥粒であってもよい。
【0082】
[他の例]
例1.本開示の一つの例に係る加工装置(1)は、ワーク(W)に接触した状態でワーク(W)を加工するように構成された工具(11)と、所定の加工条件で工具(11)をワーク(W)に対して動作させるように構成された駆動部(15,17,19,23)と、駆動部(15,17,19,23)により動作している工具(11)がワーク(W)に接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得するように構成された情報取得部(59)と、振動情報から工具(11)の状態を示す指標値を算出するように構成された指標値算出部(61)と、現在の加工条件での工具(11)の寿命を示す加工可能時間を指標値の時間変化から算出するように構成された加工可能時間算出部(63)と、現在の加工条件にて加工完了までワーク(W)の加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出するように構成された残加工時間算出部(65)と、加工可能時間と残加工時間とを比較するように構成された比較部(67)と、比較部(67)によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定するように構成された判定部(69)とを備える。この構成では、工具の寿命が近づいても、加工環境を変化させずに加工完了まで加工を継続できる加工条件がある場合に、加工装置の判定に基づき工具のメンテナンスを行うことなく加工が継続される。すなわち、ワークに対して接触して加工する工具のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0083】
例2.例1の装置(1)において、判定部(69)が加工継続可能と判定した場合、加工可能時間算出部(63)及び残加工時間算出部(65)はそれぞれ、新たな加工条件での加工可能時間及び残加工時間を算出するように構成されている。この場合、新たな加工条件による実測値に基づいて、再度、加工継続の可否を判定することが可能となる。
【0084】
例3.例1又は例2の装置(1)は、現在の加工条件でワーク(W)の加工を継続した場合の指標値の変化を予測することによって予測値を算出するように構成された予測値算出部(62)をさらに備える。例1又は例2の加工装置(1)において、加工可能時間算出部(63)は、工具(11)が悪化した状態を示す第1の閾値(閾値Th1)に予測値が達するまでの時間を加工可能時間として算出するように構成されている。この場合、加工可能時間を適切に算出することが可能となる。
【0085】
例4.例1~例3のいずれかの装置(1)において、比較部(67)は、工具(11)が悪化する直前の状態を示す第2の閾値(閾値Th2)に指標値が達したときに、加工可能時間と残加工時間とを比較するように構成されている。この場合、第2の閾値に指標値が達したときに、現在の加工条件での加工継続の可否が判定される。その結果、工具が悪くなる直前において、加工継続の可否を判定することが可能となる。
【0086】
例5.例1~例4のいずれかの装置(1)は、判定部(69)が加工継続不可と判定した場合に工具(11)のメンテナンス時期であることを示す信号を出力するように構成された出力部(71)をさらに備える。この場合、出力部から出力される上記信号により、オペレータ又は他の機器に工具のメンテナンスが必要であることを伝えることが可能となる。
【0087】
例6.例1~例5のいずれかの装置(1)において、工具(11)は、回転しながらワーク(W)に接触してワーク(W)を研削するように構成された研削工具(11)である。駆動部(15,17,19,23)は、所定の回転数で工具(11)を回転させるように構成されている。判定部(69)は、比較部(67)によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の回転数よりも小さい新たな回転数での加工継続の可否を判定するように構成されている。現在の回転数よりも小さい新たな回転数で工具(砥石)を回転させてワークWの加工を継続した場合、砥石の自生作用(自生発刃)により砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。上記構成では、新たな回転数での加工継続の可否が判定されることで、砥石のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0088】
例7.例1~例6のいずれかの装置(1)において、工具(11)は、回転しながらワーク(W)に接触してワーク(W)を研削するように構成された研削工具(11)である。駆動部(15,17,19,23)は、工具(11)の回転軸に直交し、且つワーク(W)の加工面に平行な方向に沿って、所定の単位時間当たりの往復回数で工具(11)をワーク(W)に対して相対移動させるように構成されている。判定部(69)は、比較部(67)によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の単位時間当たりの往復回数よりも少ない新たな単位時間当たりの往復回数での加工継続の可否を判定するように構成されている。現在の単位時間当たりの往復回数よりも少ない新たな単位時間当たりの往復回数でワークWを工具(砥石)に対して相対移動させてワークWの加工を継続した場合、砥石の自生作用により砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。上記構成では、単位時間当たりの往復回数での加工継続の可否が判定されることで、砥石のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0089】
例8.例1~例7のいずれかの装置(1)において、工具(11)は、回転しながらワーク(W)に接触してワーク(W)を研削するように構成された研削工具(11)である。駆動部(15,17,19,23)は、所定の切込み量で工具(11)をワーク(W)に接触させるように構成されている。判定部(69)は、比較部(67)によって比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の切込み量よりも小さい新たな切込み量での加工継続の可否を判定するように構成されている。現在の切込み量よりも小さい新たな切込み量で工具(砥石)によるワークWの加工を継続した場合、砥石への負荷が軽減することにより砥石の寿命(加工可能時間)が延び得る。上記構成では、新たな切込み量での加工継続の可否が判定されることで、砥石のドレッシング時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【0090】
例9.本開示の別の例に係る加工方法は、工具(11)をワーク(W)に接触した状態で工具(11)によりワーク(W)を加工することと、駆動部(15,17,19,23)により所定の加工条件で工具(11)をワーク(W)に対して動作させることと、駆動部(15,17,19,23)により動作している工具(11)がワーク(W)に接触することに伴って発生する振動に関する振動情報を取得することと、振動情報から工具(11)の状態を示す指標値を算出することと、現在の加工条件での工具(11)の寿命を示す加工可能時間を指標値の時間変化から算出することと、現在の加工条件にて加工完了までワーク(W)の加工を継続した場合の時間を示す残加工時間を算出することと、加工可能時間と残加工時間とを比較することと、加工可能時間と残加工時間とが比較された結果、加工可能時間が残加工時間よりも短い場合に、現在の加工条件とは異なる新たな加工条件での加工継続の可否を判定することとを含む。この加工方法では、工具の寿命が近づいても、加工環境を変化させずに加工完了まで加工を継続できる加工条件がある場合に、工具のメンテナンスを行うことなく加工が継続される。すなわち、ワークWに対して接触して加工する工具のメンテナンス時期を考慮して、加工継続可能な加工条件を自動で設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
1…加工装置、11…工具、15,17,19,23…駆動機構(駆動部)、50…コントローラ、59…情報取得部、61…指標値算出部、62…予測値算出部、63…加工可能時間算出部、65…残加工時間算出部、67…比較部、69…判定部、71…出力部、W…ワーク。