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特許7148365農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20220928BHJP
   E03B 9/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A01G25/00 601C
E03B9/02 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018212641
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020078259
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100090181
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 義人
(72)【発明者】
【氏名】原田 潤
(72)【発明者】
【氏名】山川 賢二
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-149674(JP,U)
【文献】実開昭53-151231(JP,U)
【文献】特開2017-194142(JP,A)
【文献】実開昭54-170037(JP,U)
【文献】特開平08-261353(JP,A)
【文献】特開2010-078071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 25/00 - 25/16
E03B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場に用水を供給するための農業用給水栓であって、
弁箱、
前記弁箱内の通水路を開閉可能な弁体、
前記弁箱に形成され、前記用水を当該弁箱の外部に吐出する吐水口、および
前記弁箱に取り付けられ、当該弁箱から取り外すことなく変形されることで、前記吐水口を外側から覆って前記用水の飛散を防止する飛散防止状態と前記吐水口を露出させる露出状態とを取り得る飛散防止カバーを備える、農業用給水栓。
【請求項2】
前記飛散防止カバーは、軸方向に折り畳み可能な筒状の側壁を有し、前記側壁が折り畳まれることで前記露出状態となる、請求項1記載の農業用給水栓。
【請求項3】
前記飛散防止カバーは、柔軟性を有する弾性材によって筒状に形成され、反転されることで前記露出状態となる、請求項1記載の農業用給水栓。
【請求項4】
前記飛散防止カバーは、シート状に形成されて前記弁箱に巻き付けるように取り付けられ、捲られることで前記露出状態となる、請求項1記載の農業用給水栓。
【請求項5】
圃場に用水を供給するための農業用給水装置であって、
請求項1から4のいずれかに記載の農業用給水栓、および
前記農業用給水栓の上に取り付けられ、当該農業用給水栓の弁体を駆動する電動アクチュエータを備える、農業用給水装置。
【請求項6】
圃場に用水を供給するための農業用給水システムであって、
前記圃場内において、用水パイプラインの立上り管部の上端部に請求項記載の農業用給水装置を取り付けた、農業用給水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システムに関し、特にたとえば、用水パイプラインからの用水を圃場に供給するための農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の農業用給水装置の一例が特許文献1に開示される。特許文献1の技術では、給水栓(給水バルブ)の上にこれを駆動する電動アクチュエータを取り付けることで、圃場の用水管理を遠隔操作または自動制御で行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-193914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
農業に用いられる用水には、草、藁、およびザリガニ等の水生小動物などの異物が混入していることが多い。このため、放水時に、異物が給水栓の吐水口間の支柱部または弁体などに引っ掛かったり絡み付いたりして、給水栓が止水不良などの動作不良を起こしてしまうことがある。
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、給水栓の吐水口の周囲が飛散防止カバーで覆われている。したがって、異物を取り除くためには、飛散防止カバーをその都度取り外して付け直すという作業(脱着作業)が必要であり、メンテナンスに手間が掛かる。特に、給水栓の上に電動アクチュエータが取り付けられる給水装置の場合には、飛散防止カバーの脱着作業だけでなく、電動アクチュエータの脱着作業も必要となり、大きな労力を要する。
【0006】
それゆえに、この発明の主たる目的は、新規な、農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システムを提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、仮に異物が詰まっても、容易にメンテナンスを行うことができる、農業用給水栓、農業用給水装置および農業用給水システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、圃場に用水を供給するための農業用給水栓であって、弁箱、弁箱内の通水路を開閉可能な弁体、弁箱に形成され、用水を当該弁箱の外部に吐出する吐水口、および弁箱に取り付けられ、当該弁箱から取り外すことなく変形されることで、吐水口を外側から覆って用水の飛散を防止する飛散防止状態と吐水口を露出させる露出状態とを取り得る飛散防止カバーを備える、農業用給水栓である。
【0009】
第1の発明では、農業用給水栓は、用水パイプラインから圃場への給水を制御するものであって、弁箱と、弁箱内の通水路を開閉可能な弁体とを備える。弁箱には、内部に流入した用水を外部に吐出する吐水口が形成される。また、弁箱には、吐水口から吐出される用水の飛散を防止する飛散防止カバーが取り付けられる。この飛散防止カバーは、吐水口を外側から覆って用水の飛散を防止する飛散防止状態に加えて、吐水口を露出させる露出状態を取り得るように形成される。
【0010】
第1の発明によれば、飛散防止カバーが吐水口を露出させる露出状態を取ることができる、つまり飛散防止カバーを取り外すことなく吐水口を露出させることができるので、仮に農業用給水栓に異物が詰まっても、容易にメンテナンスを行うことができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明に従属し、飛散防止カバーは、軸方向に折り畳み可能な筒状の側壁を有し、側壁が折り畳まれることで露出状態となる。
第3の発明は、第1の発明に従属し、飛散防止カバーは、柔軟性を有する弾性材によって筒状に形成され、反転されることで露出状態となる。
第4の発明は、第1の発明に従属し、飛散防止カバーは、シート状に形成されて弁箱に巻き付けるように取り付けられ、捲られることで露出状態となる。
【0012】
第2から第4の発明によれば、簡単な構成および操作で飛散防止カバーを露出状態にすることができる。
【0013】
の発明は、圃場に用水を供給するための農業用給水装置であって、第1から第4のいずれかに係る農業用給水栓、および農業用給水栓の上に取り付けられ、当該農業用給水栓の弁体を駆動する電動アクチュエータを備える、農業用給水装置である。
【0014】
の発明によれば、飛散防止カバーが吐水口を露出させる露出状態を取ることができる。したがって、飛散防止カバーおよび電動アクチュエータを取り外すことなく吐水口を露出させることができるので、仮に農業用給水栓に異物が詰まっても、容易にメンテナンスを行うことができる。
【0015】
の発明は、圃場に用水を供給するための農業用給水システムであって、圃場内において、用水パイプラインの立上り管部の上端部に第の発明に係る農業用給水装置を取り付けた、農業用給水システムである。
【0016】
の発明によれば、第の発明と同様の作用効果を奏し、飛散防止カバーおよび電動アクチュエータを取り外すことなく吐水口を露出させることができるので、仮に農業用給水栓に異物が詰まっても、容易にメンテナンスを行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、飛散防止カバーが吐水口を露出させる露出状態を取ることができる、つまり飛散防止カバーを取り外すことなく吐水口を露出させることができるので、仮に農業用給水栓に異物が詰まっても、容易にメンテナンスを行うことができる。
【0018】
この発明の上述の目的、その他の目的、特徴および利点は、図面を参照して行う後述の実施例の詳細な説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明の一実施例である農業用給水システムを示す図解図である。
図2】農業用給水システムが備える農業用給水装置を示す図解図である。
図3】農業用給水装置が備える農業用給水栓を示す図解図であって、(A)は、飛散防止カバーが飛散防止状態のときの農業用給水栓の外観を示し、(B)は、そのときの農業用給水栓の断面を示す。
図4】農業用給水装置が備える電動アクチュエータの内部構造を示す図解図である。
図5】飛散防止カバーが露出状態のときの農業用給水栓を示す図解図であって、(A)は、農業用給水栓の外観を示し、(B)は、農業用給水栓の断面を示す。
図6】この発明の他の実施例である農業用給水栓を示す図解図であって、(A)は、飛散防止カバーが飛散防止状態のときの農業用給水栓の断面を示し、(B)は、飛散防止カバーが露出状態のときの農業用給水栓の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1を参照して、この発明の一実施例である農業用給水システム100(以下、単に「システム100」と言う。)は、用水パイプライン104から水田などの圃場102への用水の供給(用水管理)を遠隔操作または自動制御などによって制御するシステムである。
【0021】
図1および図2に示すように、システム100は、用水パイプライン104の立上り管部104cの上端部に取り付けられる農業用給水装置10(以下、単に「給水装置10」と言う。)を備える。この給水装置10は、農業用給水栓12(以下、単に「給水栓12」と言う。)と、給水栓12の上に取り付けられる電動アクチュエータ14とを備える。
【0022】
用水パイプライン104は、圧力管路によって用水を送配水する水路組織であって、圃場102に形成される複数の耕作区に亘って延びるように埋設される本管104aと、本管104aから分岐して各耕作区まで延びる分岐管104bとを含む。分岐管104bの下流側端部には、立上り管部104cが設けられており、この立上り管部104cの上端部(下流側端部)に農業用給水装置10が設置される。すなわち、立上り管部104cの上端部に給水栓12の弁箱20が接続され、給水栓12の上には、電動アクチュエータ14の本体ケース40が設置される。また、給水装置10の下方には、立上り管部104cの上端部を囲繞するように有底筒状の水受け106が設けられる。水受け106は、給水栓12の吐水口26から排出される用水を受け止めて圃場102の削れを防止する。この実施例では、水受け106は、樹脂製キャップを用いて形成され、モルタル108等によって圃場102に固定される。
【0023】
以下、給水装置10が備える給水栓12および電動アクチュエータ14の構成について説明する。ただし、給水栓12および電動アクチュエータ14の具体的構成については、以下に例示するものに限定されず、適宜変更可能である。
【0024】
図3に示すように、給水栓12は、用水パイプライン104から圃場102への給水を制御するためのバルブ装置である。この実施例では、一般的に広く普及している、弁軸の軸回転に伴い弁軸及び弁体が上下動する方式の給水栓を用いている。
【0025】
給水栓12は、有頂円筒状の弁箱20を備える。弁箱20は、円筒状の弁箱本体22と、弁箱本体22の上端開口を封止するように設けられる円環板状の軸受24とを含む。弁箱本体22は、硬質ポリ塩化ビニル等の合成樹脂によって形成され、その呼び径は、たとえば100mmであり、その高さ(軸方向長さ)は、たとえば200mmである。
【0026】
弁箱本体22の下端部には、受口形状の接続部22aが下向きに開口するように設けられる。この接続部22aは、用水パイプライン104の立上り管部104cの上端部との接続に用いられ、用水パイプライン104からの用水は、弁箱本体22の下部開口から弁箱20内に流入する。一方、弁箱本体22の側壁上部には、矩形状の複数(この実施例では4つ)の吐水口26が周方向に所定間隔で並ぶように形成される。吐水口26間の側壁は、軸受24および弁体32などを支持するための支柱部28として用いられる。
【0027】
弁箱本体22の側壁内面には、弁箱本体22内の上部空間と下部空間とを連通する通水口30aを有する円環突起状の弁座30が形成される。弁座30の上面(弁体32と当接する止水面)は、吐水口26の下端縁と同じ高さ位置に配置される。
【0028】
弁箱本体22内の上部空間には、弁座30と離接することで通水口30aを開閉する弁体32が上下動可能に設けられる。具体的には、軸受24の内周面には、雌ねじが形成されており、この軸受24に対して、外周面に雄ねじが形成された弁軸34が螺合される。この弁軸34の上端部には、後述する電動アクチュエータ14が備える回転軸58のカップリング部58aと回転不可に連結されるカップリング部34aが形成される。一方、弁軸34の下端部には、下面に止水ゴム32aを有する円板状の弁体32が設けられる。弁軸34に対して軸線回りの回転力が加えられると、送りねじ機構によって弁軸34が上下動し、これに伴い弁体32も上下動する。この弁体32の上下動により、弁座30の通水口30aが開閉され、弁閉時には、止水ゴム32aの下面周縁部が弁座30の上面と当接することで止水される。
【0029】
また、弁箱20の上半部は、有頂筒状の飛散防止カバー36(以下、単に「カバー36」と言う。)によって覆われている。カバー36は、吐水口26から弁箱20外に放出される用水の流れ方向を下向きに案内することで、用水の周囲への飛散を防止する。カバー36の具体的構成については、後述する。
【0030】
なお、図示は省略するが、弁箱本体22の下部(具体的には接続部22aと弁座30との間の高さ位置)には、フロート弁などに繋がる取水管または散水栓などを接続可能な取付口を形成しておいてもよい。このような取付口を弁箱本体22に形成する場合には、取付口への異物の侵入を防止するためのフィルタを弁箱本体22内の下部空間に設けておくとよい。
【0031】
続いて、電動アクチュエータ14の構成について説明する。図1および図2と共に図4を参照して、電動アクチュエータ14は、給水栓12の弁体32を駆動する、つまり給水栓12の開閉機構を作動させるものであって、円筒状の本体ケース40を備える。本体ケース40の大きさ、形状および材質などは、後述する内部機構を収容可能なものであれば特に限定されないが、この実施例では、呼び径が150mmの硬質ポリ塩化ビニル製の短管および管継手を組み合わせることによって本体ケース40を形成している。
【0032】
本体ケース40の上には、太陽電池パネル42が着脱可能に取り付けられる。太陽電池パネル42は、屈曲板状の保持体44によって所定角度となるように支持される。
【0033】
また、本体ケース40の内部には、電子基板46、アンテナ48、蓄電池50、モータ52およびメインギア54等が収容される。
【0034】
電子基板46には、図示は省略するが、CPUおよびメモリ等を含む制御部、無線通信部、および主電源などのスイッチ等が配設される。制御部は、電動アクチュエータ14の全体制御を司り、モータ52等の駆動を制御する。無線通信部は、アンテナ48を介して他の機器と無線通信を行う。
【0035】
蓄電池50は、太陽電池パネル42によって発電された電力を蓄電する。モータ52は、蓄電池50に蓄えられた電力によって駆動される。このモータ52の出力軸52aの先端部には、小ギア56が設けられており、メインギア54は、この小ギア56と連結されることで、モータ52からの駆動力を受けて軸線回りに回転する。
【0036】
メインギア54は、両ボス型のギアであり、メインギア54の軸部には、略円柱状の回転軸58が挿通される。この回転軸58の下端部には、給水栓12の弁軸34のカップリング部34aと連結されるカップリング部58aが形成される。また、メインギア54の軸部の内周面には、軸方向に沿って延びるキー溝54aが形成され、回転軸58の外周面には、キー溝54aと嵌合される滑りキー58bが軸方向に沿って延びるように形成される。これによって、回転軸58は、メインギア54が回転すると共に回転し、かつメインギア54の軸部に対して軸方向に摺動可能となる。
【0037】
また、本体ケース40の外側面には、手動(電動手動)でモータ52を駆動させるための操作パネル60が設けられる。操作パネル60には、上昇ボタン、下降ボタン、および電動アクチュエータ14の動作モード(遠隔モード、自動モードまたは手動モード等)を切り替えるための選択ボタン等が適宜設けられる。この操作パネル60には、後述する各センサから延びる配線を接続するための接続端子なども設けられる。また、本体ケース40の下端部には、回転軸58などの動作確認および清掃などの維持管理作業を行うための点検口62が形成される。
【0038】
また、図示は省略するが、圃場102には、圃場水位を検出する超音波センサ等の水位センサ、気温を検出する温度センサ、気圧を検出する圧力センサ、土壌水分を検出する土壌水分センサ等のセンサが適宜設けられる。各センサは、配線などを介して電動アクチュエータ14と接続され、各センサで検出された圃場水位や気温などのセンサ情報は、電動アクチュエータ14の制御部に入力される。
【0039】
給水栓12の上に電動アクチュエータ14を取り付ける際には、給水栓12のカバー36上に電動アクチュエータ14の本体ケース40を載置した状態で、カバー36および軸受24と本体ケース40の底壁とがボルト止めされる。また、給水栓12の弁軸34のカップリング部34aと電動アクチュエータ14の回転軸58のカップリング部58aとが回転不可に連結される。
【0040】
このような給水装置10を備えるシステム100では、たとえば、ユーザが遠隔操作端末を用いて電動アクチュエータ14に対して全閉、全開または任意の開度などを示す操作指示(制御信号)を送信すると、電動アクチュエータ14の制御部は、操作指示に応じてモータ52を駆動させる。このモータ52の駆動力は、メインギア54に伝達されて、メインギア54と共に回転軸58が回転する。これにより、回転軸58に固定的に連結された給水栓12の弁軸34に対して、回転力が付与される。回転力が加えられた弁軸34は、自身と軸受24との送りねじ機構によって上下動され、弁体32が全開位置および全閉位置などに移動される。また、電動アクチュエータ14の回転軸58は、給水栓12の弁軸34の上下動に伴い、メインギア54の軸部を貫通するように上下動する。
【0041】
このようなシステム100を圃場102に導入することにより、圃場102の用水管理にかかる労力を大幅に低減できるが、用水には異物が混入していることが多いため、給水栓12に異物が詰まって動作不良を起こしてしまうことがある。しかしながら、従来技術では、給水栓から異物を取り除くためには、飛散防止カバーおよび電動アクチュエータを取り外す必要があり、メンテナンスに手間が掛かるという問題があった。
【0042】
そこで、この実施例では、給水栓12のカバー36が、吐水口26を外側から覆って用水の飛散を防止する飛散防止状態に加えて、吐水口26を露出させる露出状態を取り得るようにすることで、カバー36および電動アクチュエータ14の取外し作業を要することなく、異物除去作業を行えるようにした。以下、カバー36の構成について具体的に説明する。
【0043】
図3に示すように、カバー36は、シリコーンゴムおよびフッ素ゴム等の可撓性を有する材料によって有頂筒状に形成される。具体的には、カバー36は、円板状の天板部36aと、天板部36aの周縁部から下方に延びる円筒状の側壁36bとを備える。また、側壁36bの下端部には、外方に突出する鍔部が形成され、この鍔部には、互いに反対方向に突出する半円状の2つの把持部36cが形成される。
【0044】
また、側壁36bは、周方向に延びる折り目を有しており、下方に向かって階段状に拡径するように形成される。このような側壁36bは、図5に示すように、この折り目部分を境として山折りまたは谷折りされることで、天板部36a側に集まるように軸方向に折り畳むことが可能である。この際、側壁36bは、山と谷が径方向に並ぶように折り畳まれる。これにより、側壁36bの屈曲部が伸張しようとする力が径方向に作用するので、側壁36bは、この折り畳み形状を安定して保持できる。
【0045】
なお、カバー36としては、必ずしも専用の部材を製造する必要はなく、キッチン用品である市販の折り畳みボウル等を代用することもできる。
【0046】
このようなカバー36は、天板部36aを給水栓12の弁箱20の天頂部(この実施例では軸受24)にビス止めすることで、弁箱20に対して着脱可能(交換可能)に固定される。通常時には、図1図3に示すように、カバー36は、側壁36bが伸張した状態(飛散防止状態)で使用され、吐水口26の周囲を覆うことで用水の飛散を防止する。一方、給水栓12のメンテナンス時または点検時には、図5に示すように、カバー36は、側壁36bが折り畳まれた状態(露出状態)に変形される。これにより、吐水口26が剥き出しの状態となる。
【0047】
カバー36の飛散防止状態と露出状態との切り替え(変形)は、把持部36cまたは側壁36bの下端部を把持して持ち上げたり引き下げたりする簡単な操作で実行できる。すなわち、給水栓12に異物が詰まってメンテナンスを行うときには、吐水口26を容易に露出させることができ、詰まった異物を容易に除去することができる。
【0048】
以上のように、この実施例によれば、カバー36が吐水口26を露出させる露出状態を取ることができる、つまりカバー36を取り外すことなく吐水口26を露出させることができるので、仮に給水栓12に異物が詰まっても、給水栓12のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0049】
上記のような効果は、給水栓12の上に電動アクチュエータ14が取り付けられる給水装置10、および給水装置10を備えるシステム100において、特に顕著である。給水栓12のメンテナンス時に、電動アクチュエータ14を取り外して付け直すという手間の掛かる作業(電動アクチュエータ14の脱着作業)を省略できるからである。
【0050】
なお、上述の実施例では、給水栓12のカバー36の側壁36bを円筒状に形成したが、これに限定されず、側壁36bは角筒状などに形成されてもよい。
【0051】
また、上述の実施例では、カバー36が自身で露出状態(折り畳み形状)を保持できるようにしたが、これに限定されない。たとえば、カバー36の側壁36bを提灯またはアコーディオンのような蛇腹状に形成して、山と谷が軸方向に並んで折り畳まれるようにしてもよい。この場合、カバー36を露出状態にしても垂れてしまうので、カバー36を露出状態で保持するための留め具を別途設けるようにするとよい。また、留め具を設けることなく、作業者が片手でカバー36を持ち上げて露出状態にし、他方の手で異物を除去する態様としてもよい。
【0052】
さらに、上述の実施例では、カバー36は、側壁36bが軸方向に折り畳まれることで露出状態となるが、カバー36が飛散防止状態および露出状態の双方を取り得る態様としては、これに限定されない。
【0053】
たとえば、図6に示す実施例のように、カバー36をゴム等の柔軟性を有する弾性材によって有頂筒状(ドーム状)に形成し、カバー36をひっくり返す(反転させる)ことで、飛散防止状態(図6(A)の状態)から露出状態(図6(B)の状態)に変形可能としてもよい。
【0054】
また、たとえば、図示は省略するが、カバー36をシート状(カーテン状)に形成し、吐水口26を覆うように弁箱20に巻き付けるようにしてもよい。この場合には、カバー36を捲ることでカバー36が露出状態に変形される。
【0055】
また、上述の実施例では、給水栓12の弁箱20として、弁箱本体22に支柱部28が一体成形されたものを例示したが、別部材である弁箱本体と支柱部とを組み合せることで弁箱が形成されても構わない。また、支柱部と軸受とが一体成形されていても構わない。
【0056】
さらに、上述の実施例では、弁軸34の軸回転に伴い弁軸34および弁体32が上下動する開閉機構を有する給水栓12を例示したが、給水栓12の開閉機構は、ボール状の弁体(フロート弁)が浮力によって上昇し、水圧によって弁座と密着することで止水する機構のものを採用することもできる。
【0057】
また、給水栓12は、必ずしも電動アクチュエータ14とセットで使用される必要はなく、たとえばカップリング部34aにハンドルを装着する等して、手動で開閉される態様で使用されてもよい。
【0058】
なお、上で挙げた寸法などの具体的数値および具体的形状などは、いずれも単なる一例であり、製品の仕様などの必要に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 …農業用給水装置
12 …農業用給水栓
14 …電動アクチュエータ
20 …弁箱
26 …吐水口
30 …弁座
32 …弁体
34 …弁軸
36 …飛散防止カバー
100 …農業用給水システム
104 …用水パイプライン
図1
図2
図3
図4
図5
図6