(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220928BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
H02M7/48 F
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2018217690
(22)【出願日】2018-11-20
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悠二
(72)【発明者】
【氏名】八田 泰嘉
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏治
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-027149(JP,A)
【文献】特開昭55-043911(JP,A)
【文献】特開2011-172329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給された電力をパルス幅変調によってモータの巻線に印加する電圧を生成する駆動回路と、
前記駆動回路の直流電源側の正極と負極とを短絡する第1コンデンサを有する第1共振回路と、
互いに直列に接続されたインダクタと第2コンデンサとを有し、前記直流電源の正極側端子と負極側端子とを短絡する第2共振回路と、
前記第1共振回路及び前記第2共振回路を含む回路のインピーダンスが極小となる共振周波数と異なる周波数で前記パルス幅変調を行うように前記前記駆動回路を制御する制御部と、
を含むモータ駆動装置。
【請求項2】
前記第2共振回路の前記直流電源の正極側端子と負極側端子との接続をオンオフするスイッチを含み、
前記スイッチがオンの場合、前記共振周波数は第1共振周波数と前記第1共振周波数よりも高い第2共振周波数とを含み、前記スイッチがオフの場合、前記共振周波数は前記第1共振周波数よりも高く、かつ前記第2共振周波数よりも低い第3共振周波数を含み、
前記制御部は、前記モータの回転数が所定範囲で、かつ前記モータの出力軸のトルクが所定トルク以上となることにより前記パルス幅変調の周波数が前記第2共振周波数を含む所定周波数の範囲となる場合に前記スイッチをオフにする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記第1コンデンサの容量C
Inv、前記第2コンデンサの容量C
Bat及び前記インダクタのインダクタンスL
Batの各々は、第2共振周波数f2に基づき、下記の式Aにより算出される請求項2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記第2共振周波数f2は、前記モータが最大トルクを維持できる最大の回転数である基底速度、前記モータの極対数及び前記パルス幅変調に係る搬送波のキャリア周波数に基づき、下記の式B、Cを用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも大きい請求項3に記載のモータ駆動装置。
f2-1=基底速度÷60×極対数×6 …B
f2-2=キャリア周波数+基底速度÷60×極対数×3 …C
【請求項5】
前記第2共振周波数f2は、前記モータが回転できる最大の回転数である最大機械回転数、前記モータの極対数及び前記パルス幅変調に係る搬送波のキャリア周波数に基づき、下記の式D、Eを用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも大きい請求項3に記載のモータ駆動装置。
f2-1=最大機械回転数÷60×極対数×6 …D
f2-2=キャリア周波数+最大機械回転数÷60×極対数×3 …E
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle)等の電動輸送機器は、主にブラシレスモータ等の三相同期モータが動力源に用いられる。三相同期モータ(以下、「モータ」と略記)は、三相交流様の電圧が巻線に印加されることにより、当該巻線の磁極が回転方向に切り替わる、いわゆる回転磁界を当該巻線に生じさせ、永久磁石で構成された当該モータの回転子が、発生した回転磁界に追随して回転することにより、動力源として機能する。
【0003】
EV等の電源は、直流電源である二次電池(バッテリ)なので、バッテリの直流電圧からモータの巻線に印加する三相交流様の電圧を生成するには、FET(電界効果トランジスタ)又はIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子で構成されたインバータが用いられる。インバータのスイッチング素子をオンオフ(スイッチング)させるPWM(パルス幅変調)により、バッテリから供給された直流電圧を三相交流様の電圧に変換する。
【0004】
しかしながら、スイッチング素子をスイッチングさせることにより、バッテリの電流が小刻みに変動する電流リプルが生じ得る。インバータを含むモータ駆動回路は、多くの場合、一端がインバータの正極側端子(バッテリの正極に接続される端子)に接続されると共に他端が負極側端子に接続された平滑コンデンサを備えている。一般にコンデンサは、直流は導通させないが、交流は導通させるので、当該平滑コンデンサは、バッテリの正極側に生じた電流リプル等の電流の変動を充放電により吸収して解消することができる。
【0005】
正極側端子と負極側端子とを短絡する平滑コンデンサは、実質的にはコンデンサとコイル(インダクタ)とが直列に接続された直列共振回路と等価である。直列共振回路は、固有の共振周波数で当該回路のインピーダンスが極小となる。従って、電流リプルの周波数が直列共振回路の共振周波数に一致すると、電流リプルは解消されず、逆に増幅される共振が生じる。
【0006】
平滑コンデンサの共振を抑制するには、当該平滑コンデンサの容量を拡大することが効果的だが、大容量のコンデンサは高価であり、モータ駆動装置の製造コストが嵩むという問題があった。
【0007】
特許文献1には、インバータのスイッチングの周波数を上げることにより、電流リプルを平滑コンデンサの共振周波数の域外に形成する回転電機駆動装置の発明が開示されている。
【0008】
特許文献2には、バッテリの正極側に複数のインダクタを直列に接続し、1のインダクタと並列に接続したスイッチをオン又はオフすることにより、当該1のインダクタの通電を制御して共振周波数を変化させる回転電機駆動装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許6004086号公報
【文献】特許6004087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示されている回転電機駆動装置は、インバータのスイッチング周波数を高めるため頻繁にスイッチング素子を動作させるので、バッテリの電力がスイッチング動作によって消費され、結果として電動輸送機器の消費電力量が嵩むという問題があった。
【0011】
また、特許文献2に開示されている回転電機駆動装置は、数百Vに達するバッテリの電圧に加えて電流リプルに耐えるインダクタを実装することを要する。当該インダクタは、一般に高価かつ巨大なので、回転電機駆動装置の製造コストが嵩むのみならず、当該回転電機駆動装置のコンパクト化を阻害するという問題があった。さらには、インダクタによる電力の消費により、電動輸送機器の消費電力量が嵩むという問題があった。
【0012】
本発明は、上記事実を考慮し、簡素かつ低廉な構成で、インバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載のモータ駆動装置は、直流電源から供給された電力をパルス幅変調によってモータの巻線に印加する電圧を生成する駆動回路と、前記駆動回路の直流電源側の正極と負極とを短絡する第1コンデンサを有する第1共振回路と、互いに直列に接続されたインダクタと第2コンデンサとを有し、前記直流電源の正極側端子と負極側端子とを短絡する第2共振回路と、前記第1共振回路及び前記第2共振回路を含む回路のインピーダンスが極小となる共振周波数と異なる周波数で前記パルス幅変調を行うように前記前記駆動回路を制御する制御部と、を含んでいる。
【0014】
請求項1に記載のモータ駆動装置によれば、第1共振回路に加えて第2共振回路を備えることにより、第1共振回路のみを備える場合と異なる周波数に共振周波数を設定し、パルス幅変調の周波数が設定した共振周波数に一致しないように駆動回路を制御できる。
【0015】
請求項2に記載のモータ駆動装置は、請求項1に記載のモータ駆動装置において、前記第2共振回路の前記直流電源の正極側端子と負極側端子との接続をオンオフするスイッチを含み、前記スイッチがオンの場合、前記共振周波数は第1共振周波数と前記第1共振周波数よりも高い第2共振周波数とを含み、前記スイッチがオフの場合、前記共振周波数は前記第1共振周波数よりも高く、かつ前記第2共振周波数よりも低い第3共振周波数を含み、前記制御部は、前記モータの回転数が所定範囲で、かつ前記モータの出力軸のトルクが所定トルク以上となることにより前記パルス幅変調の周波数が前記第2共振周波数を含む所定周波数の範囲となる場合に前記スイッチをオフにする。
【0016】
請求項2に記載のモータ駆動装置によれば、パルス幅変調の周波数が設定した共振周波数に一致する場合は、スイッチをオフにして、パルス幅変調の周波数が共振周波数に一致しないように駆動回路を制御できる。
【0017】
請求項3に記載のモータ駆動装置は、請求項2に記載のモータ駆動装置において、前記第1コンデンサの容量C
Inv、前記第2コンデンサの容量C
Bat及び前記インダクタのインダクタンスL
Batの各々は、第2共振周波数f2に基づき、下記の式Aにより算出される。
【0018】
請求項3に記載のモータ駆動装置によれば、第1共振周波数と異なる第2共振周波数に基づいて第1コンデンサの容量CInv、第2コンデンサの容量CBat及びインダクタのインダクタンスLBatの各々を設定することにより、第1共振周波数と第2共振周波数との間の周波数を、パルス幅変調の周波数として利用できる。
【0019】
請求項4に記載のモータ駆動装置は、請求項3に記載のモータ駆動装置において、前記第2共振周波数f2は、前記モータが最大トルクを維持できる最大の回転数である基底速度、前記モータの極対数及び前記パルス幅変調に係る搬送波のキャリア周波数に基づき、下記の式B、Cを用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも大きい。
f2-1=基底速度÷60×極対数×6 …B
f2-2=キャリア周波数+基底速度÷60×極対数×3 …C
【0020】
請求項4に記載のモータ駆動装置によれば、第2共振周波数f2をモータが最大トルクを維持できる最大の回転数である基底速度に基づいて設定することにより、モータを基底速度以下で回転させる場合に対応して第1コンデンサの容量CInv、第2コンデンサの容量CBat及びインダクタのインダクタンスLBatの各々を設定することができる。
【0021】
請求項5に記載のモータ駆動装置は、請求項3に記載のモータ駆動装置において、前記第2共振周波数f2は、前記モータが回転できる最大の回転数である最大機械回転数、前記モータの極対数及び前記パルス幅変調に係る搬送波のキャリア周波数に基づき、下記の式D、Eを用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも大きい。
f2-1=最大機械回転数÷60×極対数×6 …D
f2-2=キャリア周波数+最大機械回転数÷60×極対数×3 …E
【0022】
請求項5に記載のモータ駆動装置によれば、第2共振周波数f2をモータが回転できる最大の回転数である最大機械回転数に基づいて設定することにより、モータを最大機械回転数以下で回転させる場合に対応して第1コンデンサの容量CInv、第2コンデンサの容量CBat及びインダクタのインダクタンスLBatの各々を設定することができる。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載のモータ駆動装置によればパルス幅変調の周波数が設定した共振周波数に一致しないように駆動回路を制御することにより、インバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるという効果を奏する。
【0024】
請求項2に記載のモータ駆動装置によれば、スイッチをオフにして、パルス幅変調の周波数が共振周波数に一致しないように駆動回路を制御することにより、インバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるという効果を奏する。
【0025】
請求項3に記載のモータ駆動装置によれば、第1共振周波数と第2共振周波数との間の周波数を、パルス幅変調の周波数とすることにより、インバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるという効果を奏する。
【0026】
請求項4に記載のモータ駆動装置によれば、モータを基底速度以下で回転させる場合に対応して第1コンデンサの容量CInv、第2コンデンサの容量CBat及びインダクタのインダクタンスLBatの各々を設定することにより、モータの回転速度が基底速度に達するまでインバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるという効果を奏する。
【0027】
請求項5に記載のモータ駆動装置によれば、モータを最大機械回転数以下で回転させる場合に対応して第1コンデンサの容量CInv、第2コンデンサの容量CBat及びインダクタのインダクタンスLBatの各々を設定することにより、インバータのスイッチングによって生じる電流リプルを抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置の、インバータのトランジスタのスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインの変化を示している。
【
図3】(A)は一般的なモータ駆動装置の構成の一例を示すブロック図であり、(B)は本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】トランジスタのスイッチングの周波数に対する、一般的なモータ駆動装置の直流側電流ゲインの変化と、本発明の第1の実施の形態に係るモータ駆動装置の直流側電流ゲインの変化とを示した説明図である。
【
図5】
図4に示した周波数f3におけるモータトルク、モータ相電流、U相の相間電圧、バッテリ電流の一例を示した説明図である。
【
図6】電気周波数6次成分及びキャリア1次成分の一例を示した概略図である。
【
図7】(A)は回転子の磁極の位置に応じた位相及び振幅を有する正弦波の波形の一例を示した概略図であり、(B)はPWMにおける搬送波の波形の一例を示した概略図であり、(C)は当該正弦波と当該搬送波とから生成されるパルス状のPWM制御信号の一例を示した概略図である。
【
図8】モータ回転数に対するモータトルクの変化の一例を示した概略図である。
【
図9】基底速度を用いて算出した第2共振周波数に基づいて平滑コンデンサ、バッテリ部インダクタ及びバッテリ部コンデンサの各々の仕様を決定した場合と、最大機械回転数を用いて算出した第2共振周波数に基づいて平滑コンデンサ、バッテリ部インダクタ及びバッテリ部コンデンサの各々の仕様を決定した場合と、の直流側電流ゲインの変化を示した説明図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図11】本発明の第2実施の形態に係るモータ駆動装置の、インバータのトランジスタのスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインの変化を示した説明図である。
【
図12】(A)は本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動装置のトランジスタのスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインの変化を示した説明図であり、(B)はモータ回転数に対するモータトルクの変化の一例を示した概略図である。
【
図13】本発明の第2の実施の形態に係るモータ駆動装置の制御の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1の実施の形態]
以下、
図1~
図9を用いて、本実施の形態に係るモータ駆動装置100について説明する。
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示したモータ駆動装置100は、電動輸送機器の動力である三相同期モータのモータ60を駆動するための電力を生成する装置である。
【0030】
モータ駆動装置100は、直流電源であるバッテリ12を含む直流電源部10と、直流電源部10から供給された直流電圧から、インバータ40によるPWMでモータ60の巻線であるコイル62に印加する三相交流様の電圧を生成するインバータ部30と、インバータ40を構成するスイッチング素子であるトランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wのスイッチングの制御に係るPWM信号を出力するモータ制御装置80と、モータ制御装置80が出力したPWM信号を、トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wをオンが可能な程度に増幅してインバータ40に出力するモータドライブ回路90と、を備えている。
【0031】
モータ60は、一例として三相交流様の電圧で駆動される三相同期モータであるが、直流で駆動されるブラシ付きのモータでもよく、かかる場合は、インバータ40に代えて、4つのスイッチング素子で構成されたHブリッジ回路を有する駆動回路を備える。
【0032】
直流電源部10のバッテリ12は、リチウムイオン電池又はニッケル水素電池等の充放電が可能な二次電池であり、複数のセルを直列に配設することにより、電動輸送機器の走行が可能な数百V程度の電圧が出力可能に構成されている。
【0033】
バッテリ12は、等価的にバッテリ内部抵抗14とバッテリ内部インダクタ16とが直列に接続された回路モデルで表現される。
図1に示したように、バッテリ内部抵抗14は、一端がバッテリ12の正極に接続され、他端がバッテリ内部インダクタ16の一端に接続されているモデルで表現される。バッテリ内部インダクタ16は、前述のように一端がバッテリ内部抵抗14の他端に接続されると共に、当該他端がインバータ部30に接続されるモデルで表される。またバッテリ12の端子部には、正極と負極とを短絡するバッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とが接続されている。バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20は、バッテリ12の端子部よりもバッテリ12の本体側に配置されていてもよい。
【0034】
インバータ部30は、三相(U相、V相、W相)インバータ40により構成されている。
図1に示すように、インバータ40は、スイッチング素子であるトランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wを備えている。トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wは、一例として、高電圧に対応でき、かつオン抵抗が比較的小さいIGBTであるが、NチャンネルFETでもよい。
【0035】
インバータ40において、トランジスタ42U、42V、42Wの各々は、上段スイッチング素子として機能し、トランジスタ44U、44V、44Wの各々は、下段スイッチング素子として機能する。なお、トランジスタ42U、42V、42W及びトランジスタ44U、44V、44Wは、各々、個々を区別する必要がない場合は「トランジスタ42」、「トランジスタ44」と総称し、個々を区別する必要がある場合は、「U」、「V」、「W」の符号を付して称する。
【0036】
トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44WがIGBTの場合、トランジスタ42Uのエミッタ及びトランジスタ44Uのコレクタは、コイル62Uの端子に接続されており、トランジスタ42Vのエミッタ及びトランジスタ44Vのコレクタは、コイル62Vの端子に接続されており、トランジスタ42Wのエミッタ及びトランジスタ44Wのコレクタは、コイル62Wの端子に接続されている。
【0037】
トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44WがFETの場合は、トランジスタ42Uのソース及びトランジスタ44Uのドレインは、コイル62Uの端子に接続されており、トランジスタ42Vのソース及びトランジスタ44Vのドレインは、コイル62Vの端子に接続されており、トランジスタ42Wのソース及びトランジスタ44Wのドレインは、コイル62Wの端子に接続されている。
【0038】
また、インバータ40の正極側端子と負極側端子とは、平滑コンデンサ32によって短絡されている。
【0039】
トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wは、(IGBTであれ、FETであれ)ゲートに正電荷の駆動信号が印加されるとオン状態になる。例えば、トランジスタ42Uがオンかつトランジスタ44Uがオフの場合は、コイル62Uにバッテリ12の電力が通電され、トランジスタ42Uがオフかつトランジスタ44Uがオンの場合は、コイル62Uが接地される。以下同様に、トランジスタ42Vがオンかつトランジスタ44Vがオフの場合は、コイル62Vにバッテリ12の電力が通電され、トランジスタ42Vがオフかつトランジスタ44Vがオンの場合は、コイル62Vが接地され、トランジスタ42Wがオンかつトランジスタ44Wがオフの場合は、コイル62Wにバッテリ12の電力が通電され、トランジスタ42Wがオフかつトランジスタ44Wがオンの場合は、コイル62Wが接地される。
【0040】
インバータ40は、上述のように、トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wをオンオフさせることにより、コイル62U、62V、62Wに通電する。また、インバータ40は、トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wを小刻みにオンオフさせるPWMにより、コイル62U、62V、62Wに印加する電圧を変化させることができる。
【0041】
モータ60は、通電されたコイル62U、62V、62Wに生じた磁界に追従して、永久磁石で構成された回転子64が回転する三相同期モータである。コイル62U、62V、62Wの各々の端子(一端)は、前述のようにインバータ40のトランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wに接続され、コイル62U、62V、62Wの各々の他端は、1の中性点62Nに接続される星形結線(Y字結線)を呈する。コイル62U、62V、62Wは、星形結線以外に、例えばデルタ結線でもよい。
【0042】
なお、コイル62U、62V、62Wは、各々、個々を区別する必要がない場合は「コイル62」と総称し、個々を区別する必要がある場合は、「U」、「V」、「W」の符号を付して称する。
【0043】
本実施の形態に係るモータ駆動装置100は、コイル62U、62V、62Wへの通電を、インバータ40によって時系列で切り替えることにより、コイル62U、62V、62Wにいわゆる回転磁界を生じさせる。回転子64は、コイル62U、62V、62Wに生じた回転磁界への吸引または当該回転磁界との反発によって回転する。
【0044】
三相同期モータにおいて、コイル62U、62V、62Wへの通電は、回転子64の磁極の位置に応じて行う必要があるので、本実施の形態では、モータ磁極位置検出器70により、回転子64の磁極の位置を検出している。
【0045】
モータ制御装置80は、モータ磁極位置検出器70によって検出した回転子64の磁極の位置及びインバータ電流センサ50で検出した、インバータ40が出力した電流の値に基づいて、コイル62U、62V、62Wに印加する電圧の波形の位相及び振幅(電圧変化の範囲)を算出し、当該位相及び振幅に応じたパルス信号であるPWM制御信号をモータドライブ回路90に出力する。電圧の波形の位相は、主に回転子64の磁極の位置の変化に対応して決定され、振幅は、インバータ40が出力した電流の値に基づいて上限が定められる。例えば、当該電流値が所定値を超えた場合は、モータ60が過負荷のおそれがあるので、電圧波形の振幅を抑制する。
【0046】
モータドライブ回路90は、モータ制御装置80が出力したPWM制御信号を、トランジスタ42、44をオン状態にできる程度に増幅して生成した駆動信号をトランジスタ42、44の各々のゲートに印加する。駆動信号は、PWM制御信号と同様に、回転子64の磁極の位置に応じた位相及び振幅に従ったパルスで構成されているので、インバータ40は、コイル62に回転子64の磁極の位置に応じた回転磁界を生じさせる電圧を生成することができる。
【0047】
また、本実施の形態に係るモータ駆動装置100は、バッテリ内部インダクタ16の他端とバッテリ部インダクタ18の一端との間に電流センサ24が設けられている。電流センサ24は、一例として、導体中の電流によって生じる誘導電流に基づいて当該導体中の電流値を検出するセンサである。
【0048】
電流センサ24が検出した電流値をIbat、インバータ電流センサ50等が検出した電流値に加え、トランジスタ42U、42V、42W、44U、44V、44Wの信号に基づいて算出したインバータ40の正極側端子の電流値をIdcとすると、モータ駆動装置100における直流側電流ゲインIgは、下記の式(1)によって算出される。
Ig=Ibat/Idc …(1)
【0049】
図2は、本実施の形態に係るモータ駆動装置100の、インバータ40のトランジスタ42、44のスイッチングの周波数、すなわちPWMの周波数に対する直流側電流ゲインIgの変化を示している。平滑コンデンサ32で構成された回路(第1共振回路)、及びバッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とで構成された回路(第2共振回路)は、各々共振回路として作用する。その結果、
図2の直流側電流ゲインIgの変化を示す曲線102は、第1共振周波数f1及び第2共振周波数f2において基準値105(一例として、略「1」)を大きく超えた極大値を示し、第1共振回路及び第2共振回路を含む回路のインピーダンスが極小となる。その結果、第1共振周波数f1及び第2共振周波数f2では、トランジスタ42、44のスイッチングに起因する電流リプルが増幅される共振が生じる。
【0050】
しかしながら、第1共振周波数f1又は第2共振周波数f2と異なる周波数、一例として、第1共振周波数f1と第2共振周波数f2との間のインバータスイッチング周波数範囲では共振は生じない。従って、当該範囲の周波数でトランジスタ42、44をスイッチングさせることが可能となる。
【0051】
図3(A)は一般的なモータ駆動装置の構成の一例を示すブロック図であり、
図3(B)は本実施の形態に係るモータ駆動装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図3(B)に示した本実施の形態に係るモータ駆動装置100は、バッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とで構成された共振回路を有する点で、
図3(A)に示した一般的なモータ駆動装置と相違する。
【0052】
図4は、トランジスタ42、44のスイッチングの周波数に対する、一般的なモータ駆動装置の直流側電流ゲインIgの変化と、本実施の形態に係るモータ駆動装置100の直流側電流ゲインIgの変化とを示している。
【0053】
図4の曲線104は、一般的なモータ駆動装置の直流側電流ゲインIgの変化を示しており、第3共振周波数f1´において、平滑コンデンサ32とバッテリ内部インダクタ15とに由来する共振現象により、直流側電流ゲインIgが極大値を示している。
【0054】
図4の曲線102は、本実施の形態に係るモータ駆動装置100の直流側電流ゲインIgの変化を示しており、第2共振周波数f2(>第3共振周波数f1´)において、直流側電流ゲインIgが極大値を示すが、第1共振周波数f1(<第3共振周波数f1´)での極大値は、一般的なモータ駆動装置の第3共振周波数f1´での極大値よりも緩和されている。その結果、周波数f3において、曲線104は基準値105以上であるが、曲線102は基準値105以下になっている。
【0055】
図5は、
図4に示した周波数f3におけるモータトルク、モータ相電流、U相の相間電圧、バッテリ電流の一例を示した説明図である。
図5では、モータトルクが一定範囲で変動しているが、PWMによって生成されたモータ60のコイル62へ印加する電圧の実効電圧値は、
図5のU相(V相、W相も同様)の相間電圧に示したように変化するので、ある程度の変動は、本実施の形態に係るモータ駆動装置100においても、一般的なモータ駆動装置においても、生じ得る。
【0056】
また、
図5に示したモータ相電流は、U相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwのいずれも、相間電圧の変化に影響されて、略正弦波状に変化している。かかる変化は、本実施の形態に係るモータ駆動装置100においても、一般的なモータ駆動装置においても同様である。
【0057】
しかしながら、本実施の形態に係るモータ駆動装置100のバッテリ電流を示す曲線112と、一般的なモータ駆動装置のバッテリ電流を示す曲線110とでは、バッテリ電流の最大振幅にΔAほどの差異が生じている。ΔAは、モータ駆動装置100の仕様にもよるが、一般的なモータ駆動装置のバッテリ電流に対して略5割減に相当する電流値である。従って、本実施の形態に係るモータ駆動装置100によれば、一般的なモータ駆動装置に対して、バッテリの電流が小刻みに変動する電流リプルを抑制することができる。
【0058】
しかしながら、本実施の形態に係るモータ駆動装置100において、
図2に示したようなインバータスイッチング周波数範囲を確保して、電流リプルを抑制するには、平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の仕様を適切に決定することが重要である。特に、第1共振周波数f1が、電源側(バッテリ12側)の電流変動成分の周波数と一致した場合、電流リプルが増大するので、電流変動成分の周波数が第1共振周波数f1に一致しないように設定した後、設定した電流変動成分の周波数を
図2、4に示した第2共振周波数f2が一致しないよう、平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の仕様を決定する。
【0059】
以下、電源側の電流変動成分の周波数の算出について述べる。電流変動成分には、電気周波数6次成分f2-1(Hz)と、キャリア1次成分f2-2A、f2-2B(Hz)とがあり、電気周波数6次成分f2-1は下記の式(2)により、キャリア1次成分f2-2A、f2-2Bは下記の式(3)によって算出される。
電気周波数6次成分f2-1
=モータ回転数(rpm)÷60×極対数×6 …(2)
キャリア1次成分f2-2A、f2-2B
=キャリア周波数±モータ回転数(rpm)÷60×極対数×3 …(3)
【0060】
図6は、電気周波数6次成分f2-1及びキャリア1次成分f2-2A、f2-2Bの一例を示した概略図である。電気周波数6次成分f2-1と、キャリア1次成分f2-2Aと、キャリア1次成分f2-2Bとの各々が一致することはない。
【0061】
本実施の形態に係るモータ駆動装置100では、電流変動成分の周波数が第1共振周波数f1に一致しないように設定することを要するので、電流変動成分の周波数である電気周波数6次成分f2-1及びキャリア1次成分f2-2A、f2-2Bのうち、最も値が大きいものを採用する。
【0062】
式(3)中のキャリア周波数は、回転子64の磁極の位置に応じた位相及び振幅に従ったパルスを有するPWM制御信号を生成する際に用いられる搬送波の周波数である。
図7(A)は回転子64の磁極の位置に応じた位相及び振幅を有する正弦波の波形の一例であり、
図7(B)はPWMにおける搬送波の波形の一例であり、
図7(C)は当該正弦波と当該搬送波とから生成されるパルス状のPWM制御信号の一例である。
【0063】
本実施の形態に係るモータ駆動装置100のモータ制御装置80は、回転子64の磁極の位置に応じた位相及び振幅から
図7(A)に示したような正弦波の信号を生成する。そして、モータ制御装置80は、コンパレータ等の回路を用いて、当該正弦波の振幅と、
図7(B)に示した搬送波の振幅とを比較し、例えば、当該正弦波の振幅が当該搬送波の振幅未満の場合は、ONを示すパルスを生成し、当該正弦波の振幅が当該搬送波の振幅以上の場合は、パルスを生成しない(OFFを示す)ようにして、
図7(C)に示すPWM制御信号を生成する。
【0064】
図7に示したように、キャリア周波数は、PWM制御信号の周波数に直接影響しており、さらにPWM制御信号は、インバータ40を構成するトランジスタ42、44のスイッチング周波数に直接影響するので、便宜上、キャリア周波数はトランジスタ42、44のスイッチング周波数と略同じとみなしてもよい。
【0065】
式(2)、(3)にはモータ回転数の項があるので、電気周波数6次成分f2-1及びキャリア1次成分f2-2A、f2-2Bは、モータ回転数に応じて増大する。従って、電気周波数6次成分f2-1及びキャリア1次成分f2-2A、f2-2Bの算出に際しては、モータ回転数をどう定義するかが、重要な要素となる。式(2)、(3)に代入するモータ回転数が大きければ、電気周波数6次成分f2-1及びキャリア1次成分f2-2A、f2-2Bは、第1共振周波数f1よりも高くなる可能性があるからである。
【0066】
図8は、モータ回転数に対するモータトルクの変化の一例を示した概略図である。
図8に示したように、モータ回転数が基底速度120に達するまでは、モータ60は最大トルクを維持できるが、モータ回転数が基底速度120を超えると、モータトルクは最大トルクから徐々に下回るようになり、モータ回転数が最大機械回転数122を超えると、モータ60は、回転を継続できなくなる。
【0067】
従って、基底速度120は、最大トルクを維持できる最大のモータ回転数であり、最大機械回転数122は、実用時にモータ60を回転できる最大のモータ回転数である。式(2)、(3)に基底速度120を代入するか、最大機械回転数122を代入するかにより、第2共振周波数f2の値が異なってくる。
【0068】
以上より、基底速度120を用いて第2共振周波数f2を算出するには、下記の式(4)、(5)を用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも高い周波数を第2共振周波数f2として採用する。
f2-1=基底速度÷60×極対数×6 …(4)
f2-2=キャリア周波数+基底速度÷60×極対数×3 …(5)
【0069】
最大機械回転数122を用いて第2共振周波数f2を算出するには、下記の式(6)、(7)を用いて算出したf2-1、f2-2のうち、値が大きい方よりも高い周波数を第2共振周波数f2として採用する。
f2-1=最大機械回転数÷60×極対数×6 …(6)
f2-2=キャリア周波数+最大機械回転数÷60×極対数×3 …(7)
【0070】
そして、採用した第2共振周波数f2を下記の式(8)に適用して、平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の仕様を決定する。下記の式(8)中のL
Batはバッテリ部インダクタ18のインダクタンス(H)であり、C
Invは平滑コンデンサ32の容量(F)であり、C
Batはバッテリ部コンデンサ20の容量(F)である。
【0071】
その結果、トランジスタ42、44のスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインIgは、
図9に示したように変化する。
図9の曲線102Aは、基底速度120を用いて算出した第2共振周波数f2に基づいて平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の各々の仕様を決定した場合の直流側電流ゲインIgの変化を示し、曲線102Bは、最大機械回転数122を用いて算出した第2共振周波数f2に基づいて平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の各々の仕様を決定した場合の直流側電流ゲインIgの変化を示している。
【0072】
曲線102Aは、第2共振周波数f2Aが第1共振周波数f1Aに比較的近い周波数で発生するが、第1共振周波数f1Aと第2共振周波数f2Aとの間で直流側電流ゲインIgを小さくでき、電流リプルを効果的に抑制できる。第1共振周波数f1Aと第2共振周波数f2Aとの間の周波数は、比較的低い周波数なので、トランジスタ42、44のスイッチング動作を少なくでき、当該スイッチング動作による消費電力量を抑制することができる。
【0073】
また、電流リプルを効果的に抑制できるということは、逆説的にいえば、平滑コンデンサ32及びバッテリ部コンデンサ20の各々の容量を小さくしても電流リプルを実用上問題のない程度まで抑制できることになり、モータ駆動装置100のコンパクト化及び低コスト化が可能になる。
【0074】
曲線102Bは、第1共振周波数f1Bと第2共振周波数f2Bとの間で直流側電流ゲインIgはさほど低下しないので、電流リプルの抑制効果では、曲線102Aの場合よりも劣るが、第2共振周波数f2Bが第1共振周波数f1Bよりも大きく異なる周波数で発生している。
【0075】
式(4)~(7)に示したように、第2共振周波数f2はモータ回転数に依存する。従って、第2共振周波数f2Aが第1共振周波数f1Aに比較的近い周波数で発生する曲線102Aの場合は、第2共振周波数f2Aの算出に用いた基底速度120までのモータ回転数で電流リプルを効果的に抑制できる。
【0076】
第2共振周波数f2Bが第1共振周波数f1Bよりも大きく異なる周波数で発生する曲線102Bの場合は、第2共振周波数f2Bの算出に用いた最大機械回転数122までのモータ回転数で電流リプルを抑制できる。
【0077】
以上、説明したように、本実施の形態に係るモータ駆動装置100によれば、バッテリ12の正極と負極とを短絡するバッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とを直列に接続することにより、第1共振周波数f1とは異なる第2共振周波数f2との間で、電流リプルを効果的に抑制することができる。
【0078】
一般的なモータ駆動装置に対して、追加部品はバッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20のみなので、簡素かつ低廉な構成で、本実施の形態に係るモータ駆動装置100は構成される。
【0079】
第2共振周波数f2は、モータ回転数に依存して変化するので、モータ60を使用する回転数に応じて第2共振周波数f2を算出し、算出した第2共振周波数f2に基づいて、平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の各々の仕様を適切に決定することができる。
【0080】
[第2の実施の形態]
続いて、
図10~
図13を用いて、第2の実施の形態に係るモータ駆動装置200について説明する。
図10は、本実施の形態に係るモータ駆動装置200の構成の一例を示すブロック図である。
図10に示したモータ駆動装置200は、直流電源部10にバッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とで構成された共振回路をオンオフするスイッチ26を実装した点で第1の実施の形態に係るモータ駆動装置100と相違する。しかしながら、その他の構成は、第1の実施の形態に係るモータ駆動装置100と同一なので、当該その他の構成には、第1の実施の形態に係るモータ駆動装置100と同一の符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0081】
図11は、本実施の形態に係るモータ駆動装置200の、インバータ40のトランジスタ42、44のスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインIgの変化を示している。
図11の曲線102は、スイッチ26をオンにした場合の本実施の形態に係るモータ駆動装置200の直流側電流ゲインIgの変化を示している。曲線102は、
図2、4に示した第1の実施の形態に係るモータ駆動装置100の直流側電流ゲインIgの変化である曲線102と同様である。
【0082】
また、
図11の曲線104は、スイッチ26をオフにした場合の本実施の形態に係るモータ駆動装置200の直流側電流ゲインIgの変化を示している。曲線104は、
図4に示した一般的なモータ駆動装置の直流側電流ゲインIgの変化である曲線104と同様である。
【0083】
曲線102は、第1共振周波数f1及び第2共振周波数f2において基準値105を大きく超えた極大値を示し、トランジスタ42、44のスイッチングに起因する電流リプルが増幅される共振が生じるが、第1共振周波数f1と第2共振周波数f2との間では共振は生じないので、当該範囲の周波数でトランジスタ42、44をスイッチングさせることが可能となる。しかしながら、トランジスタ42、44を第2共振周波数f2よりも高い周波数で動作させるには適していない。
【0084】
トランジスタ42、44を第2共振周波数f2よりも高い周波数で動作させる場合、本実施の形態に係るモータ駆動装置200では、スイッチ26をオフする。スイッチ26がオフになると、
図11の曲線104に示したように、高周波域で直流側電流ゲインIgが基準値105以下になるので、かかる高周波域でトランジスタ42、44を動作させても、共振が生じにくくなる。
【0085】
従って、スイッチ26をオンオフする制御により、
図11に示した第1共振周波数f1以上の幅広い周波数の範囲を、トランジスタ42、44を動作させることができるインバータスイッチング周波数範囲とすることができる。
【0086】
図12(A)は、本実施の形態に係るモータ駆動装置200の、トランジスタ42、44のスイッチングの周波数に対する直流側電流ゲインIgの変化を示しており、
図12(B)は、モータ回転数に対するモータトルクの変化の一例を示した概略図である。
【0087】
第1の実施の形態で説明したように、第2共振周波数f2は、モータ回転数に依存する。従って、共振は所定範囲のモータ回転数で生じ得る。
【0088】
図12(A)に示したように、スイッチ26をオンにした場合、周波数f4と周波数f5との間で直流側電流ゲインIgが基準値105を超える。かかる場合、モータ60のモータ回転数に対するトルクの変化にも、直流側電流ゲインIgが基準値105を超えたことによる影響が生じる。
【0089】
具体的には、スイッチ26をオンにした状態でモータ回転数を上げていくと、
図12(B)の領域222で示したように、モータ回転数fm4とモータ回転数fm5との間で、トルクを落とし、電流リプルを所定値以内にする必要が生じる。しかしながら、スイッチ26がオフなった場合の曲線104は、周波数f4と周波数f5との間で直流側電流ゲインIgが基準値105を超えていない。
【0090】
本実施の形態に係るモータ駆動装置200は、スイッチ26をオンにした状態で、モータ回転数が所定範囲内になり、かつ所定値以上のトルクが要求される場合は、スイッチ26をオフにする制御を行う。
【0091】
図13は、本実施の形態に係るモータ駆動装置200の制御の一例を示したフローチャートである。
図13に示した処理は、モータ60の回転開始と共に実行され、ステップ130では、スイッチ26がオンになる。
【0092】
ステップ132では、モータ回転数が
図12(B)に回転数fm4、fm5で示したような所定範囲内か否かを判定し、モータ回転数が所定範囲内の場合は手順をステップ134に移行し、モータ回転数が所定範囲内ではない場合は手順を130に移行する。
【0093】
ステップ134では、モータ60の出力軸のトルクが所定値以上か否かを判定する。出力軸のトルクは、インバータ電流センサ50で検出した電流値に基づいて算出する。また、トルクが所定値以上の場合は、一例として、モータ60のモータ回転数と出力軸のトルクとが
図12(B)の領域222内の場合である。ステップ134でモータ60の出力軸のトルクが所定値以上の場合は、手順をステップ136に移行する。ステップ134でモータ60の出力軸のトルクが所定値未満、すなわち、モータ60のモータ回転数と出力軸のトルクとが
図12(B)の領域220内の場合は、手順をステップ130に移行する。
【0094】
ステップ136では、スイッチ136をオフにし、その後、モータ60の回転が停止されると処理を終了する。
【0095】
以上説明したように、本実施の形態に係るモータ駆動装置200によれば、バッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とで構成された共振回路をスイッチ26によりオンオフすることにより、第1共振周波数f1以上の幅広い周波数の範囲を、トランジスタ42、44を動作させることができるインバータスイッチング周波数範囲とすることができる。
【0096】
第1の実施の形態で説明したように、平滑コンデンサ32、バッテリ部インダクタ18及びバッテリ部コンデンサ20の各々の仕様を決定する際に、基底速度120を用いて第2共振周波数f2を算出する式(4)、(5)を用いると、第2共振周波数f2Aが第1共振周波数f1Aに比較的近い周波数で発生し、トランジスタ42、44を動作させることができるインバータスイッチング周波数範囲が狭くなる。しかしながら、本実施の形態では、スイッチ26をオフにして、バッテリ部インダクタ18とバッテリ部コンデンサ20とで構成された共振回路を無効にすることにより、インバータスイッチング周波数範囲を拡大し、モータ60を幅広いモータ回転数の範囲で、高トルクで回転させることが可能となる。
【0097】
なお、特許請求の範囲の構成のうち、直流電源はバッテリ12に、駆動回路はインバータ40に、第1コンデンサは平滑コンデンサ32に、インダクタはバッテリ部インダクタ18に、第2コンデンサはバッテリ部コンデンサ20に、制御部はモータ制御装置80に、スイッチはスイッチ26に各々対応する。
【符号の説明】
【0098】
10 直流電源部
12 バッテリ
14 バッテリ内部抵抗
16 バッテリ内部インダクタ
18 バッテリ部インダクタ
20 バッテリ部コンデンサ
26 スイッチ
30 インバータ部
32 平滑コンデンサ
40 インバータ
42、44 トランジスタ
60 モータ
62 コイル
64 回転子
80 モータ制御装置
100 モータ駆動装置
120 基底速度
122 最大機械回転数
200 モータ駆動装置
220、222 領域
f1、f1A、f1B 第1共振周波数
f2、f2A、f2B 第2共振周波数
f1´ 第3共振周波数