(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】炭素材料、蓄電デバイス用電極材料、並びに蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 32/225 20170101AFI20220928BHJP
C01B 32/15 20170101ALI20220928BHJP
C01B 32/342 20170101ALI20220928BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20220928BHJP
H01G 11/34 20130101ALI20220928BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20220928BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220928BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20220928BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220928BHJP
【FI】
C01B32/225
C01B32/15
C01B32/342
H01G11/24
H01G11/34
H01G11/86
H01M4/36 B
H01M4/583
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2018519786
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2018011781
(87)【国際公開番号】W WO2018230080
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017117711
(32)【優先日】2017-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017137025
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018001260
(32)【優先日】2018-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 峻士
(72)【発明者】
【氏名】和田 拓也
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/039268(WO,A1)
【文献】特開2015-202965(JP,A)
【文献】特開2015-218085(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101717081(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0061312(US,A1)
【文献】特開平10-297912(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098758(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/123606(WO,A1)
【文献】特開平07-161588(JP,A)
【文献】TIAN,W. et al.,Unusual interconnected graphitized carbon nanosheets as the electrode of high-rate ionic liquid-base,Carbon,NL,Elsevier,2017年04月23日,Vol.119,pp.287-295
【文献】MARECHE, J. F. et al.,Carbon,2001年,Vol.39,pp.771-785,<DOI:10.1016/S0008-6223(00)00292-X>
【文献】BERTIER, P. et al.,The Clay Minerals Society Workshop Lectures Series,2016年,Vol.21, Chapter 12,pp.151-161,doi:10.1346/CMS-WLS-21.12
【文献】BARZEGAR, F. et al.,Journal of Power Sources,2016年02月06日,Vol.309,pp.245-253,<DOI:10.1016/j.jpowsour.2016.01.097>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01G 9/00 - 9/28
H01G 11/00 - 11/86
H01M 4/00 - 4/62
H01M 4/86 - 4/98
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂及び/又は樹脂炭化物とを含む炭素材料であって、
前記炭素材料がメソ孔を有し、BJH法に準拠して測定された前記メソ孔の容積が、0.04mL/g以上であり、前記炭素材料のBET比表面積が、240m
2/g以上であり、
前記グラフェン積層構造を有する炭素材料は、中央部分がグラファイト構造を有し、エッジ部分においてグラファイトの一部が部分的に剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛であり、
前記炭素材料全体における前記樹脂及び/又は樹脂炭化物の含有量が、1重量%以上、99重量%以下である、炭素材料。
【請求項2】
前記炭素材料のBET比表面積が、450m
2/g以上である、請求項1に記載の炭素材料。
【請求項3】
前記炭素材料のBET比表面積が、1100m
2/g以上である、請求項1又は2に記載の炭素材料。
【請求項4】
前記炭素材料がメソ孔を有し、BJH法に準拠して測定された前記メソ孔の容積をA(mL/g)とし、前記炭素材料のBET比表面積をB(m
2/g)としたときに、
A×B≧10を満たしている、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素材料を含有する、蓄電デバイス用電極材料。
【請求項6】
請求項
5に記載の蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む炭素材料及びその製造方法、並びに該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キャパシタやリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの電極材料として、黒鉛、活性炭、カーボンナノファイバーあるいはカーボンナノチューブなどの炭素材料が、環境的側面から広く用いられている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、三次元網目構造の細孔を有する多孔質炭素を電極材として用いた非水電解液蓄電素子が開示されている。特許文献1において、上記多孔質炭素は、アニオンを挿入及び脱離可能な正極活物質として用いられている。そのため、特許文献1では、上記多孔質炭素の細孔容積が0.2mL/g以上であることが好ましい旨が記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有し、かつ樹脂が一部残存している樹脂残存部分剥離型薄片化黒鉛と、バインダー樹脂とを含む、キャパシタ用電極材が開示されている。特許文献2では、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフト又は吸着により固定されている組成物中の樹脂を熱分解させることにより、樹脂残存部分剥離型薄片化黒鉛が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/143423号パンフレット
【文献】国際公開第2015/098758号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、キャパシタやリチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスの分野においては、さらに一層の高容量化が求められている。従って、特許文献1や特許文献2のような電極材を用いた蓄電デバイスでも、容量がなお十分ではなかった。また、特許文献1や特許文献2のような電極材を用いた蓄電デバイスでは、レート特性も十分でなかった。
【0007】
本発明の目的は、蓄電デバイスの容量及びレート特性を高め得る、炭素材料、該炭素材料の製造方法、及び該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る炭素材料の広い局面では、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む炭素材料であって、前記炭素材料がメソ孔を有し、BJH法に準拠して測定された前記メソ孔の容積が、0.04mL/g以上であり、前記炭素材料のBET比表面積が、240m2/g以上である。
【0009】
本発明に係る炭素材料のある特定の局面では、前記炭素材料のBET比表面積が、450m2/g以上である。
【0010】
本発明に係る炭素材料の別の特定の局面では、前記炭素材料のBET比表面積が、1100m2/g以上である。
【0011】
本発明に係る炭素材料の他の特定の局面では、前記グラフェン積層構造を有する炭素材料が、黒鉛又は薄片化黒鉛である。
【0012】
本発明に係る炭素材料のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛又は薄片化黒鉛が、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛である。
【0013】
本発明に係る炭素材料の他の広い局面では、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む炭素材料であって、前記炭素材料がメソ孔を有し、BJH法に準拠して測定された前記メソ孔の容積をA(mL/g)とし、前記炭素材料のBET比表面積をB(m2/g)としたときに、A×B≧10を満たしている。
【0014】
本発明に係る炭素材料のさらに他の特定の局面では、さらに樹脂及び/又は樹脂炭化物を含む。好ましくは、前記樹脂及び/又は樹脂炭化物の含有量が、1重量%以上、99.9重量%以下である。
【0015】
本発明に係る炭素材料の製造方法は、本発明に従って構成される炭素材料の製造方法であって、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂とを混合する混合工程と、前記混合工程において又は前記混合工程の後に、さらに賦活剤を混合し、混合物を得る工程と、前記混合物に賦活処理を施す工程と、を備える。
【0016】
本発明に係る炭素材料の製造方法のある特定の局面では、前記混合工程において、前記黒鉛又は前記一次薄片化黒鉛と前記樹脂とを含む組成物を200℃~500℃の温度で加熱する。
【0017】
本発明に係る炭素材料の製造方法の他の特定の局面では、前記混合工程において、前記黒鉛又は前記一次薄片化黒鉛と前記樹脂と前記賦活剤との混合物を200℃~500℃の温度で加熱する。
【0018】
本発明に係る蓄電デバイス用電極材料は、本発明に従って構成される炭素材料を含有する。
【0019】
本発明に係る蓄電デバイスは、本発明に従って構成される蓄電デバイス用電極材料により構成されている電極を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蓄電デバイスの容量及びレート特性を高め得る、炭素材料、該炭素材料の製造方法、及び該炭素材料を用いた蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例1における炭素材料の示差熱分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0023】
(炭素材料)
本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む。本発明の炭素材料は、メソ孔を有する。上記メソ孔の容積は、0.04mL/g以上である。また、本発明の炭素材料のBET比表面積は、240m2/g以上である。
【0024】
なお、本明細書において、メソ孔とは、孔径が、2nm以上、50nm以下の細孔のことをいう。メソ孔の容積とは、炭素材料内における全てのメソ孔の容積の和(全メソ孔容積)のことをいう。メソ孔の容積は、例えば、ガス吸着法であるBJH(Barret、Joyner、Hallender)法により測定することができる。
【0025】
上記のように、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む本発明の炭素材料は、メソ孔の容積が0.04mL/g以上であり、BET比表面積が240m2/g以上と高められている。比表面積が高められているので、本発明の炭素材料は、蓄電デバイスの電極材料に用いたときに、蓄電デバイスの容量及びレート特性を効果的に高めることができる。
【0026】
なお、レート特性とは、異なる電流印加速度により蓄電デバイスを充放電した際に得られる静電容量の差異を数値化したものであり、速い充放電速度の際の静電容量を遅い充放電速度の際の静電容量で割ったものである。レート特性が高い値を示すものほど、速い充放電速度時でも遅い充放電速度時と変わらない静電容量を示せることを表し、すなわち高速充放電が可能な電極であることを示唆している。
【0027】
本発明において、炭素材料のBET比表面積は、好ましくは450m2/g以上、より好ましくは1100m2/g以上、好ましくは4000m2/g以下、より好ましくは3500m2/g以下である。
【0028】
本発明において、メソ孔の容積は、0.04mL/g以上、好ましくは0.05mL/g以上、さらに好ましくは0.1mL/g以上である。メソ孔の容積の上限は、特に限定されないが、20mL/g以下が好ましく、より好ましくは1mL/g以下である。メソ孔の容積が、上記下限以上である場合、炭素材料の表面に、電解液がより一層浸透しやすく、広い比表面積をより一層有効に活用できるため、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。
【0029】
本発明の炭素材料においては、メソ孔以外にも例えばミクロ孔のような細孔が設けられていてもよい。ミクロ孔の容積は、好ましくは1.0mL/g以下、より好ましくは0.8mL/g以下である。ミクロ孔の容積の下限は、特に限定されないが、0.01mL/g以上が好ましい。ミクロ孔は、比表面積の向上には寄与するが、孔径が小さいため、電解液が浸透しにくく、電池としては活用されにくい表面積である。ミクロ孔の容積が上記上限以下である場合、炭素材料の表面に、電解液がより一層浸透しやすく、広い比表面積をより有効に活用できるため、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。
【0030】
なお、本明細書において、ミクロ孔とは、孔径が2nm未満のものをいう。ミクロ孔の容積は、例えば、ガス吸着法であるBJH(Barret、Joyner、Hallender)法により測定することができる。また、ミクロ孔の容積とは、炭素材料内における全てのミクロ孔の容積の和のことをいう。
【0031】
なお、本発明に係る炭素材料の他の広い局面においても、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含む炭素材料であり、該炭素材料がメソ孔を有している。また、BJH法に準拠して測定された上記のメソ孔の容積をA(mL/g)とし、炭素材料のBET比表面積をB(m2/g)としたときに、A×B≧10を満たしている。好ましくは、A×B≧15であり、より好ましくは、A×B≧20である。A×Bが上記下限以上である場合、炭素材料の表面に、電解液がより一層浸透しやすく、広い比表面積をより一層有効に活用できる。そのため、蓄電デバイスの容量をより一層大きくすることができる。なお、A×Bの上限値については、特に制限されないが、例えば、A×B≦10000とすることができる。
【0032】
また、本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料のみによって構成されていてもよく、グラフェン積層構造を有する炭素材料と他の炭素材料により構成されていてもよい。また、さらに樹脂及び/又は樹脂炭化物を含んでいてもよい。グラフェン積層構造を有する炭素材料に加えて、他の炭素材料や樹脂及び/又は樹脂炭化物を含む場合は、これら全てのメソ孔やミクロ孔の容積及びBET比表面積を求めるものとする。
【0033】
本発明において、グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、例えば、黒鉛又は薄片化黒鉛などが挙げられる。なお、グラフェン積層構造を有するか否かについては、炭素材料のX線回折スペクトルをCuKα線(波長1.541Å)を用いて測定したときに、2θ=26度付近のピーク(グラフェン積層構造に由来するピーク)が観察されるか否かにより確認することができる。X線回折スペクトルは、広角X線回折法によって測定することができる。X線回折装置としては、例えば、SmartLab(リガク社製)を用いることができる。
【0034】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間距離が大きくなっている割合が高い。従って、黒鉛としては、膨張黒鉛を用いることが好ましい。
【0035】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。なお、薄片化黒鉛は、酸化薄片化黒鉛であってもよい。
【0036】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、特に限定されないが、好ましくは2層以上、より好ましくは5層以上、好ましくは1000層以下、より好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記下限以上である場合、液中で薄片化黒鉛がスクロールしたり、薄片化黒鉛同士がスタックしたりすることが抑制されるため、薄片化黒鉛の導電性をより一層高めることができる。グラフェンシートの積層数が上記上限以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0037】
また、薄片化黒鉛は、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0038】
より具体的に、「部分的にグラファイトが剥離されている」とは、グラフェンの積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁(エッジ部分)にてグラファイトの一部が剥離していることをいう。また、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層していることをいうものとする。従って、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、上記部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0039】
このように、部分剥離型薄片化黒鉛は、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層している。そのため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。従って、蓄電デバイスの電極に用いた場合、電極内での電子伝導性をより一層大きくすることができ、より一層大きな電流での充放電が可能となる。
【0040】
このような部分剥離型薄片化黒鉛は、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含み、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛にグラフトまたは吸着により固定されている組成物を用意し、該組成物中に含まれている樹脂を、熱分解することにより得ることができる。なお、樹脂を熱分解させる際には、樹脂の一部を残存させながら熱分解してもよいし、樹脂を完全に熱分解してもよい。
【0041】
より具体的に、部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の薄片化黒鉛・樹脂複合材料の製造方法と同様の方法で製造することができる。なお、上述したように、樹脂を熱分解させる際には、樹脂の一部を残存させながら熱分解してもよいし、樹脂を完全に熱分解してもよい。また、上記黒鉛としては、より一層容易にグラファイトを剥離することが可能であるため膨張黒鉛を使用することが好ましい。
【0042】
また、一次薄片化黒鉛とは、各種方法により黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0043】
部分剥離型薄片化黒鉛内に残存する樹脂としては、特に限定されないが、ラジカル重合性モノマーの重合体であることが好ましい。この場合、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよく、複数種のラジカル重合性モノマーの共重合体であってもよい。ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の官能基を有するモノマーである限り、特に限定されない。
【0044】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-エチルアクリル酸メチル、α-ベンジルアクリル酸メチル、α-[2,2-ビス(カルボメトキシ)エチル]アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジシクロヘキシル、α-メチレン-δ-バレロラクトン、α-メチルスチレン、α-アセトキシスチレンからなるα-置換アクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートなどのグリシジル基や水酸基を持つビニルモノマー;アリルアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を有するビニルモノマー、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ユニケミカル社製、ホスマーM、ホスマーCL、ホスマーPE、ホスマーMH、ホスマーPPなどのリン酸基を有するモノマー;ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマー;アルキル基やベンジル基などを有する(メタ)アクリレート系モノマーなどが挙げられる。
【0045】
用いられる樹脂としては、好ましくは、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー(ポリスチレン)、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリグリシジルメタクリレート、ブチラール樹脂などが挙げられる。なお、上記樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。好ましくは、ポリエチレングリコール又はポリ酢酸ビニルが挙げられる。ポリエチレングリコール又はポリ酢酸ビニルを用いた場合、部分剥離型薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0046】
部分剥離型薄片化黒鉛内に残存する樹脂の量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下、特に好ましくは30重量%以下である。樹脂の量を上記下限以上及び上記上限以下とすることで、蓄電デバイスの電池特性をより一層高めることができる。
【0047】
なお、部分剥離型薄片化黒鉛中に残存している樹脂の一部を除去することで、適正な樹脂量に調整することもできる。このとき、加熱や化学処理などによる除去方法が可能であり、一部構造を改質することもできる。
【0048】
本発明の炭素材料は、上記のグラフェン積層構造を有する炭素材料に加えて、さらに樹脂由来の炭化物、すなわち樹脂炭化物を含んでいてもよい。樹脂炭化物は、グラフェン積層構造を有する炭素材料と複合化されていてもよい。従って、本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂炭化物との複合体であってもよい。また、樹脂の一部は、炭化されずに残存していてもよい。その場合、本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂炭化物と、炭化されずに残存している樹脂との複合材料であってもよい。
【0049】
なお、炭素材料がさらに樹脂炭化物を含む場合、メソ孔の容積、ミクロ孔の容積、及びBET比表面積は、グラフェン積層構造を有する炭素材料及び樹脂炭化物の双方を含む炭素材料について測定するものとする。炭素材料が、グラフェン積層構造を有する炭素材料と樹脂炭化物との複合体である場合は、複合体のメソ孔の容積、ミクロ孔の容積、及びBET比表面積をそれぞれ求めるものとする。また、炭素材料が、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂炭化物と、炭化されずに残存している樹脂との複合材料である場合は、複合材料のメソ孔の容積、ミクロ孔の容積、及びBET比表面積をそれぞれ求めるものとする。
【0050】
樹脂炭化物に用いられる樹脂としては、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー(ポリスチレン)、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリグリシジルメタクリレート、ポリブチラール(ブチラール樹脂)、ポリアクリル酸、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。なお、上記樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。好ましくは、ポリエチレングリコール又はポリ酢酸ビニルが挙げられる。
【0051】
本発明において、炭素材料100重量%中に含まれる樹脂及び/又は樹脂炭化物の量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは3重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは95重量%以下である。樹脂の量を上記下限以上及び上記上限以下とすることで、蓄電デバイスの電池特性をより一層高めることができる。
【0052】
なお、本発明の炭素材料は、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、樹脂(及び樹脂炭化物)の複合体に、例えば、賦活処理を施すことにより得ることができる。
【0053】
より具体的に、上記本発明の炭素材料の製造方法では、まず、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂とを混合する(混合工程)。また、上記混合工程の前又は混合の後に、さらに賦活剤を混合し、混合物を得る。次に、混合物に賦活処理を施すことにより、炭素材料を得ることができる。なお、混合工程において、黒鉛又は一次薄片化黒鉛及び樹脂に、さらにカルボキシメチルセルロース(CMC)のような界面活性剤を混合してもよい。
【0054】
また、上記混合工程においては、黒鉛又は一次薄片化黒鉛と樹脂とを混合した後に、加熱する、加熱工程を含んでいてもよい。この加熱工程における加熱は、グラフェン積層構造を有する炭素材料が上記部分剥離型薄片化黒鉛の場合には、部分剥離型薄片化黒鉛の製造時における熱分解の際の加熱であってもよい。また、グラフェン積層構造を有する炭素材料が部分剥離型薄片化黒鉛の場合は、上記混合工程で混合される樹脂が、部分剥離型薄片化黒鉛の製造時に用いられる樹脂であってもよい。すなわち、上記混合工程が、部分剥離型薄片化黒鉛の製造工程であってもよい。
【0055】
上記加熱工程における加熱の温度としては、例えば、200℃~500℃とすることができる。上記加熱は、大気中で行ってもよく、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。賦活剤は、上記加熱工程の前に黒鉛又は一次薄片化黒鉛及び樹脂に混合して加熱してもよいし、上記加熱工程の後、すなわち黒鉛又は一次薄片化黒鉛及び樹脂を加熱した後に混合してもよい。なお、この加熱工程や賦活工程(賦活処理)の加熱において、樹脂の一部が炭化していてもよいし、樹脂が完全に炭化していてもよい。また、上記混合工程における加熱を行わず賦活工程においてのみ加熱してもよい。
【0056】
賦活処理の方法としては、特に限定されず、薬品賦活法やガス賦活法が挙げられる。なかでも、得られる炭素材料の比表面積をより一層効果的に高め得る観点から、アルカリ賦活法であることが好ましい。
【0057】
アルカリ賦活法で用いる賦活剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又は炭酸カリウムなどが挙げられる。なかでも、樹脂と複合化する場合、複合化させる樹脂に常温では影響を与えず、賦活処理時の高温においてのみ炭素材料の比表面積をより一層効果的に高め得る観点から、炭酸カリウムであることが好ましい。
【0058】
アルカリ賦活法においては、このような賦活剤と上記グラフェン積層構造を有する炭素材料とを混合し、賦活処理が行われる。この際、賦活剤と上記グラフェン積層構造を有する炭素材料とは、物理的に混合させた状態で賦活処理をしてもよいし、上記グラフェン積層構造を有する炭素材料に賦活剤を含浸させた状態で賦活処理してもよい。得られる炭素材料の比表面積をより一層効果的に高め得る観点からは、上記グラフェン積層構造を有する炭素材料に賦活剤を含浸させた状態で賦活処理することが好ましい。
【0059】
また、アルカリ賦活法における賦活処理の温度としては、例えば、600℃~900℃とすることができる。また、その温度における保持時間は、例えば、30分~300分とすることができる。なお、賦活処理は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【0060】
ガス賦活法に用いる賦活剤としては、特に限定されず、例えば、二酸化炭素、水蒸気、燃焼ガスなどが挙げられる。
【0061】
また、ガス賦活法における賦活処理の温度としては、例えば、600℃~900℃とすることができる。また、その温度における保持時間は、例えば、30分~300分とすることができる。
【0062】
上記製造工程において黒鉛又は一次薄片化黒鉛に混合される樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリグリシジルメタクリレート、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリブチラール(ブチラール樹脂)、ポリアクリル酸、スチレンポリマー(ポリスチレン)、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーなどが挙げられる。
【0063】
上記製造工程において黒鉛又は一次薄片化黒鉛に混合される樹脂は、炭化・賦活工程において完全に炭化されていてもよいし、一部が樹脂として残存してもよい。
【0064】
本発明の炭素材料は、蓄電デバイスの電極に用いたときに、蓄電デバイスの容量及びレート特性をより一層高めることができる。そのため、蓄電デバイス用電極材料として好適に用いることができる。
【0065】
(蓄電デバイス用電極材料及び蓄電デバイス)
本発明の蓄電デバイスとしては、特に限定されないが、非水電解質一次電池、水系電解質一次電池、非水電解質二次電池、水系電解質二次電池、コンデンサ、電気二重層キャパシタ、又はリチウムイオンキャパシタなどが例示される。本発明の蓄電デバイス用電極材料は、上記のような蓄電デバイスの電極に用いられる電極材料である。
【0066】
本発明の蓄電デバイスは、上記本発明の炭素材料を含む蓄電デバイス用電極材料により構成される電極を備えているので、容量及びレート特性が高められている。
【0067】
特に、蓄電デバイス用電極材料に含まれる炭素材料は、上記のように比表面積が大きいことから、キャパシタやリチウムイオン二次電池の容量を効果的に高めることができる。なお、キャパシタとしては、例えば、電気二重層キャパシタが挙げられる。
【0068】
なお、上記蓄電デバイス用電極材料は、本発明の炭素材料に必要に応じてバインダー樹脂や溶媒を含めて賦形することにより、蓄電デバイスの電極として用いることができる。
【0069】
上記蓄電デバイス用電極材料の賦形は、例えば、圧延ローラーでシート化した後、乾燥することにより行うことができる。また、本発明の炭素材料とバインダー樹脂と溶媒とからなる塗液を集電体に塗工し、その後乾燥することにより行ってもよい。
【0070】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリブチラール、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、ポリイミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマーや、水溶性のカルボキシメチルセルロースなどを用いることができる。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンを用いた場合、分散性や耐熱性をより一層向上させることができる。
【0071】
バインダー樹脂の配合割合については、炭素材料100重量部に対し、0.3重量部~40重量部の範囲とすることが好ましく、0.3重量部~15重量部の範囲とすることがより好ましい。バインダー樹脂の配合割合を上記範囲内とすることにより、蓄電デバイスの容量をより一層高めることができる。
【0072】
なお、上記溶媒としては、エタノール、N-メチルピロリドン(NMP)又は水等を使用することができる。
【0073】
また、蓄電デバイスをキャパシタに用いる場合、キャパシタの電解液としては、水系を用いてもよいし、非水系(有機系)を用いてもよい。
【0074】
水系の電解液としては、例えば、溶媒に水を用い、電解質に硫酸や水酸化カリウムなどを用いた電解液が挙げられる。
【0075】
他方、非水系の電解液としては、例えば、以下の溶媒や電解質、イオン性液体を用いた電解液を用いることができる。具体的に、溶媒としては、アセトニトリル、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、又はアクリロニトリル(AN)などが挙げられる。
【0076】
また、電解質としては、6フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、4フッ化ホウ酸テトラエチルアンモニウム(TEABF4)又は4フッ化ホウ酸トリエチルメチルアンモニウム(TEMABF4)などが挙げられる。
【0077】
さらに、イオン性液体としては、例えば、以下のカチオンとアニオンを有するイオン性液体を用いることができる。カチオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンなどが挙げられる。アニオンとしては、4フッ化ホウ素イオン(BF4
-)、6フッ化ホウ素イオン(BF6
-)、4塩化アルミニウムイオン(AlCl4
-)、6フッ化タンタルイオン(TaF6
-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンイオン(C(CF3SO2)3
-)などが挙げられる。イオン性液体を用いた場合には、蓄電デバイスにおいて、駆動電圧をより一層向上させ得る。つまりエネルギー密度をより一層向上させることができる。
【0078】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)4gと、ポリエチレングリコール(PEG、和光純薬工業社製)80gと、溶媒としての水80gとを混合し、原料組成物を用意した。用意した原料組成物に、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発振周波数:28kHzで6時間、超音波を照射した。超音波照射により、ポリエチレングリコールを膨張黒鉛に吸着させた。このようにして、ポリエチレングリコールが膨張黒鉛吸着されている組成物を用意した。
【0080】
上記超音波照射後に、温度150℃で3時間維持した。それによって、上記ポリエチレングリコールが膨張黒鉛に吸着されている組成物中において、水を乾燥させた。次に、乾燥させた組成物を窒素雰囲気下において370℃の温度で、2時間維持する加熱工程を実施した。それによって、上記ポリエチレングリコールを熱分解させて、部分剥離型薄片化黒鉛を得た。この部分剥離型薄片化黒鉛には、ポリエチレングリコール(樹脂)の一部が残存している。
【0081】
次に、得られた部分剥離型薄片化黒鉛0.5gに、賦活剤としての炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製)0.5gを水5.0gに溶解させた炭酸カリウム水溶液に浸漬させた。その際、炭酸カリウムの、部分剥離型薄片化黒鉛に対する重量比を等量とした(=含浸率1)。
【0082】
次に、炭酸カリウムを浸漬させた部分剥離型薄片化黒鉛を、窒素雰囲気下において、温度(炭化・賦活温度)800℃で、60分間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0083】
得られた炭素材料中における樹脂の含有量の確認は、示差熱熱重量同時測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、商品名「STA7300」)を用いて以下の要領で行った。なお、上記樹脂の含有量は、樹脂及び/又は樹脂炭化物の含有量であるものとし、以下の実施例においても同様であるものとする。
【0084】
炭素材料約2mgを、白金パン中において秤量した。そのサンプルを窒素雰囲気下において昇温速度10℃/分で、30℃から1000℃までの測定を実施した。測定により得られた示差熱分析結果から、樹脂(ポリエチレングリコール)と部分剥離型薄片化黒鉛の燃焼温度を分離し、それに伴う熱重量変化から、
図1に示すように炭素材料全体に対する樹脂量(重量%)を算出した。実施例1において、樹脂量は、27.0重量%であった。なお、
図1においては、実線でDTA曲線を示し、破線でTG曲線を示している。
【0085】
(実施例2)
賦活処理の温度(炭化・賦活温度)を900℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0086】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた部分剥離型薄片化黒鉛0.5gに、賦活剤としての炭酸カリウム1.0gを水5.0gに溶解させた炭酸カリウム水溶液に浸漬させた。それによって、炭酸カリウムの部分剥離型薄片化黒鉛に対する重量比を2倍とした(=含浸率2)こと以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。なお、実施例1と同様にして測定した樹脂量は、25.7重量%であった。
【0087】
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた部分剥離型薄片化黒鉛に、賦活剤としての炭酸カリウムを水に溶解させずに粉状のまま用いた。部分剥離型薄片化黒鉛0.5gと、賦活剤としての炭酸カリウム0.5gとを容器内で振とうさせて物理的に混合して、賦活処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0088】
(実施例5)
賦活剤として炭酸カリウムの代わりに、水酸化カリウム(KOH、和光純薬工業社製)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして炭素材料を得た。なお、実施例1と同様にして測定した樹脂量は、16.7重量%であった。
【0089】
(実施例6)
賦活剤として炭酸カリウムの代わりに、水酸化ナトリウム(NaOH、和光純薬工業社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。
【0090】
(実施例7)
賦活剤として炭酸カリウムの代わりに、二酸化炭素ガス(CO2)を用いガス賦活を行ったこと以外は、実施例1と同様にして炭素材料を得た。具体的には、実施例1と同様にして得られた部分剥離型薄片化黒鉛0.5gを、二酸化炭素ガス雰囲気下において、温度(炭化・賦活温度)800℃で、120分間保持した。それによって、部分剥離型薄片化黒鉛に賦活処理を施し、炭素材料を得た。
【0091】
(実施例8)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)1gと、ポリエチレングリコール(PEG、和光純薬工業社製)250gと、溶媒としての水80gとを混合し、原料組成物を用意した。用意した原料組成物に、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発振周波数:28kHzで6時間、超音波を照射した。超音波照射により、ポリエチレングリコールを膨張黒鉛に吸着させた後、130℃で3時間乾燥させ、ポリエチレングリコールが膨張黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0092】
次に、乾燥させた組成物に賦活剤として炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製)を502g添加し、ミルを用いて均一に混合した。さらに、得られた混合物を窒素雰囲気下において370℃の温度で1時間維持した後に800℃まで昇温させ、温度(炭化・賦活温度)800℃で1時間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0093】
(実施例9)
実施例8において、ポリエチレングリコールの代わりに酢酸ビニル系樹脂エマルジョンであるニカゾール(日本カーバイド工業社製、固形分濃度55%)を127g添加したこと以外は、実施例8と同様にしてアクリル系樹脂が膨張黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0094】
次に乾燥させた組成物に賦活剤として炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製)を140g添加し、ミルを用いて均一に混合した。さらに、得られた混合物を窒素雰囲気下において温度(炭化・賦活温度)800℃で1時間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0095】
(実施例10)
実施例8において、ポリエチレングリコールが膨張黒鉛に吸着されている組成物を得た後、窒素雰囲気下において370℃の温度1時間し、室温まで冷却した組成物に炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製)を502g添加し、ミルを用いて均一に混合した。得られた混合物を窒素雰囲気下で800℃まで昇温させ、温度(炭化・賦活温度)800℃で1時間保持することで賦活処理を施した。最後に熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0096】
(実施例11)
炭化・賦活温度を825℃としたこと以外は、実施例10と同様にして炭素材料を得た。
【0097】
(実施例12)
炭化・賦活温度を850℃としたこと以外は、実施例10と同様にして炭素材料を得た。
【0098】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた部分剥離型薄片化黒鉛に賦活処理を施さずにそのまま炭素材料として用いた。なお、実施例1と同様にして測定した樹脂量は、47.9重量%であった。
【0099】
(比較例2)
炭素材料として、グラフェン積層構造を有さない活性炭(クラレケミカル社製、商品名「YP50F」)をそのまま用いた。
【0100】
(比較例3)
膨張黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8」、BET比表面積=22m2/g)1gを、賦活剤としての炭酸カリウム(K2CO3、和光純薬工業社製)1gを水5.0gに溶解させた炭酸カリウム水溶液に浸漬させ乾燥させた組成物を用意した。用意した組成物を窒素雰囲気下において、温度800℃で、60分間保持することにより、賦活処理を施した。最後に、熱水で中性に洗浄することにより、炭素材料を得た。
【0101】
(評価)
BET比表面積;
実施例1~12及び比較例1~3で得られた炭素材料のBET比表面積は、比表面積測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」、窒素ガス)を用いて測定した。
【0102】
メソ孔及びミクロ孔の評価;
炭素材料のメソ孔及びミクロ孔の容積は、細孔分布測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」、窒素ガス)を用い、BJH法に準拠して測定した。
【0103】
なお、得られたメソ孔の容積をA(mL/g)とし、BET比表面積をB(m2/g)として、A×Bを求めた。
【0104】
結果を下記の表1に示す。
【0105】
【0106】
静電容量の評価;
実施例3,5,7~12及び比較例1~3で得られた炭素材料を用いた電気二重層キャパシタの静電容量を測定した。
【0107】
具体的には、実施例3,5,7~12及び比較例1~3の炭素材料とバインダーとしてのPTFE(三井デュポンフロロケミカル社製)を重量比9:1で混錬し、圧延ローラーを用いて製膜することでキャパシタ用電極を得た。なお、得られた電極膜厚はそれぞれ70μm~90μmに調整した。
【0108】
得られたキャパシタ用電極を110℃で11時間、真空乾燥させた後、直径1cmの円形に二枚打ち抜き、それらの重量を測定した。二枚のキャパシタ用電極の重量差は0.3mg以内に収めた。次に、二枚のキャパシタ用電極を負極・正極としてセパレータを介して挟み込んでセルを組立てた後、電解液を1.2ml注入することによって電気二重層キャパシタを作製した。これらの作業は、露点-70℃以下の環境で実施した。
【0109】
電気二重層キャパシタの静電容量を測定するに際しては、制御電流値を10mA/g(電極重量1gあたり10mAの電流を流す)、500mA/gに設定し0V~3V間の繰り返し充放電特性測定を各3サイクル実施した。それによって、得られた測定結果を、算出範囲を1V~2Vに設定した上で、下記式(1)を用いて算出した。なお、表2に記載の静電容量は制御電流値10mA/gの条件下で算出した値である。
【0110】
C=I/(ΔV/Δt)…式(1)
【0111】
(式(1)中、Cは静電容量であり単位はF、Iは放電電流値で単位はAである。ΔVは、計算範囲における開始電圧値と終了電圧値との差であって単位はVであり、ここでは範囲が2Vから1Vまでであることから1である。Δtは開始電圧値から終了電圧値になるまで放電するのに要する時間であり単位は秒である。)
【0112】
また、重量当たりの静電容量としては、上記式(1)により算出した静電容量を負極と正極の合計重量で割った値とした。
【0113】
レート特性の評価;
また、上記により得られた重量当たり静電容量からレート特性を評価した。レート特性の評価においては、制御電流値を10mA/gと設定したときの静電容量をCA、500mA/gに設定した時の静電容量をCBとし、CA/CBの値を算出した。なお、レート特性は下記の基準で判定した。
【0114】
[レート特性の判定基準]
〇:レート特性(CA/CB)が0.7以上
△:レート特性(CA/CB)が0.5以上、0.7未満
×:レート特性(CA/CB)が0.5未満
【0115】
結果を下記の表2に示す。
【0116】
【0117】
表1から明らかなように、実施例1~12の炭素材料では、比較例1,3の炭素材料よりBET比表面積が大きくなっており、蓄電デバイスの容量を高め得ることが確認できた。また、表2から明らかなように、実施例3,5,7~12の炭素材料では、比較例1の炭素材料より、静電容量及びレート特性が向上していることが確認できた。実施例3,5,7~12の炭素材料では、比較例2の炭素材料より、レート特性が向上していることが確認できた。また、実施例3,5,7~12の炭素材料では、比較例3の炭素材料より、静電容量が向上していることが確認できた。