(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】悪性疾患に対する併用療法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20220928BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220928BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220928BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220928BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20220928BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20220928BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220928BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220928BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220928BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220928BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/395 U
A61K48/00
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
A61P7/00
A61P11/00
A61P13/08
A61P15/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61P37/04
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2018522750
(86)(22)【出願日】2016-11-04
(86)【国際出願番号】 CN2016104763
(87)【国際公開番号】W WO2017076360
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-06-19
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-15
(32)【優先日】2015-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502290266
【氏名又は名称】タイペイ・ベテランズ・ジェネラル・ホスピタル
【氏名又は名称原語表記】Taipei Veterans General Hospital
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ラン・ケン-リィ
(72)【発明者】
【氏名】シー・イー-シェン
(72)【発明者】
【氏名】ラン・ケン-シュー
(72)【発明者】
【氏名】クオ・スン-シン
(72)【発明者】
【氏名】チェン・ウェン-シアン
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】馬場 亮人
【審判官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0328693(US,A1)
【文献】国際公開第2012/177624(WO,A2)
【文献】特表2006-509828(JP,A)
【文献】特表2006-517581(JP,A)
【文献】特表2016-516723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K48/00
MEDLINE,EMBASE,BIOSIS,CAPLUS,JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療
および抗プログラム死-1(PD-1)抗体治療からなる群から選択される抗癌療法と併用する、悪性疾患を治療するための医薬組成物であって、
(1)細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物、およ
びPD-
1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(2)CTLA-4をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物およびプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(3)CTLA-4およびPD-1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(4)CTLA-4およびPD-L1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(5)CTLA-4およびPD-1の融合タンパク質;
(6)CTLA-4およびPD-L1の融合タンパク質;または
(7)(1)-(6)のいずれかの組み合わせ、
を含む医薬組成物。
【請求項2】
放射線治療
および抗PD-1抗体治療からなる群から選択される悪性疾患の治療下の対象における免疫応答を増強するための医薬組成物であって、
(1)CTLA-4をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物、およびPD-1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(2)CTLA-4をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物およびPD-L1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(3)CTLA-4およびPD-1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(4)CTLA-4およびPD-L1をコードするポリヌクレオチド配列のDNA構築物;
(5)CTLA-4およびPD-1の融合タンパク質;
(6)CTLA-4およびPD-L1の融合タンパク質;または
(7)(1)-(6)のいずれかの組み合わせ、
を含む医薬組成物。
【請求項3】
前記抗癌
療法または治療が
放射線治療である場合に、前記医薬組成物が(1)を含み;かつ
前記抗癌療法または治療が抗PD-1抗体治療である場合に、前記医薬組成物が(4)または(6)を含む、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
悪性疾患が、転移性メラノーマ、膵臓癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、リンパ腫、ホルモン不応性前立腺癌、卵巣癌、急性骨髄性白血病、肺癌およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1-3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性疾患の治療のための新しいアプローチに関する。
【背景技術】
【0002】
1987年に、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)が、可変(V)または定常(C)免疫グロブリンドメインのいずれかと主要な構造的特徴を共有するドメインによって特徴付けられる免疫グロブリンスーパーファミリーの新しいメンバーであることが見出された(Brunet et al.、Nature 328、267-270)。CTLA-4が、免疫系の調節に重要な役割を果たしていることが解明された(Keilholz、U.、J Immunother 31、431-439)。CTLA-4が、CD80/CD86の結合部位に対してCD28と競合することによってT細胞活性化を低下させることが報告されている(Rudd et al.、Immunol Rev 229、12-26)。CTLA-4は自己免疫疾患から個体を保護するが、抗癌免疫も抑制することができた。癌治療においてCTLA-4によって引き起こされる望ましくない免疫応答を回避するために、T細胞共刺激経路を操作するいくつかのアプローチが抗癌免疫応答を増強するために探索されている。CTLA-4を標的とする治療法は最も進歩した戦略の1つであり、後期臨床試験で有望な結果を示している(Hodi et al.、N Engl J Med 363、711-723; Hodi、F. S.、Asia Pac J Clin Oncol 6 Suppl 1、S16-23; Weber、J.、Oncologist 13 Suppl 4、16-25; and Ribas、A.、Oncologist 13 Suppl 4、10-15)。CTLA-4に対するモノクローナル抗体の1つであるイピリムマブは、転移性メラノーマの治療について2011年3月にFDAの承認を受けていた。転移性メラノーマに加えて、CTLA-4抗体は、現在、膵臓癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、リンパ腫、ホルモン不応性前立腺癌、卵巣癌および急性骨髄性白血病などの悪性腫瘍の治療のための多数の臨床試験を受けている。
【0003】
プログラム死-1(PD-1)は、そのリガンドであるプログラム死リガンド1および2(PD-L1およびPD-L2)に結合すると負のシグナル伝達経路を誘発するCD28スーパーファミリーのメンバーである(Riley、J. L.、Immunol Rev 229、114-125)。PD-1とそのリガンドとの間の相互作用は、T細胞の増殖、サイトカイン産生、および細胞溶解性機能の阻害をもたらし、それによってT細胞を消耗させ、その免疫応答を抑制する。PD-1/PD-L経路は、耐性および免疫性において重要な役割を果たす。これは、免疫介在性損傷から組織および器官を保護する。しかしながら、この経路は、抗菌および抗癌免疫を抑制するために慢性感染の病原体および腫瘍によって利用されることが明らかにされている。PD-1/PD-L軸の免疫調節活性を考慮して、感染、自己免疫から癌までの疾患の治療のために、この経路を標的とする治療薬が開発されている(Weber、J.、Semin Oncol 37、430-439)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免疫応答の抑制を回避しながら免疫を増強することによる、抗癌治療のための新しいアプローチが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明の概要
したがって、本発明は、DNAまたはタンパク質ワクチンと併用して伝統的な抗癌療法を用いた悪性疾患に対する併用療法であって、腫瘍増殖の抑制において予想外の改善された有効性を示す併用療法を提供する。
【0006】
1つの態様では、本発明は、抗癌療法と併用してワクチンを対象に投与することを含む、該対象における悪性疾患を治療する方法であって、ワクチンが、DNA構築物または細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)、およびプログラム死-1(PD-1)またはプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)またはそれらの組み合わせを含む融合タンパク質を含む医薬組成物である方法を提供する。
【0007】
別の態様では、本発明は、悪性疾患の治療下の対象における免疫応答を増強するための医薬組成物であって、CTLA-4およびPD-1を含むDNAワクチン、またはCTLA-4およびPD-L1を含むDNAワクチンを含む医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明の1つの実施態様では、DNAワクチンは、CTLA-4のDNAワクチンとPD-L1のワクチンの組み合わせ、またはCTLA-4-PD-L1のワクチンである。
【0009】
本発明のもう1つの実施態様では、DNAワクチンは、CTLA-4のDNAワクチンとPD-1のワクチンの組み合わせ、またはCTLA-4-PD-1のワクチンである。
【0010】
本発明のさらなる実施態様では、ワクチンは、PD-1フラグメント(PD1 Frag)、CTLA-4-PD-L1(CTLA4-PDL1 Elec)、またはCTLA-4-PD-L1融合タンパク質を標的とするワクチンである。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、抗癌療法と併用したDNAワクチンの組み合わせにおける抗癌療法を対象に投与することを含む、該対象における悪性疾患を治療する方法であって、DNAワクチンが、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNA構築物、およびプログラム死-1(PD-1)またはプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)、またはその組み合わせを含むDNA構築物、またはそのタンパク質を含む医薬組成物である方法を提供する。
【0012】
本発明の1つまたは複数の例において、抗癌療法は、放射線または抗癌抗体治療である。
【0013】
図面の様々な表示の簡単な説明
本発明を説明するために、図面には実施態様を示す。しかしながら、本発明は、示された好ましい実施態様に限定されないことが理解されるべきである。
図面では:
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】実施例1および2で使用された実験および処置スケジュールの略図を提供する。
【
図1B】実施例1の放射線治療で処置されたB16腫瘍担持マウスの体重変化を示す。
【
図1C】実施例1におけるB16腫瘍担持マウスの体重の変化を示す。
【
図2A】実施例2の実験および処置スケジュールの略図を提供する。
【
図2B】実施例2におけるCT26腫瘍担持マウスの体重の変化を示す。
【
図2C】実施例2のさまざまな治療戦略によるCT26腫瘍抑制を示す。
【
図3A】実施例3におけるCT26腫瘍抑制に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図3B】実施例3におけるさまざまな治療戦略によるCT26腫瘍抑制を示し、該実施例では、CTLA4(pVAC1-mCTLA4)のDNAワクチンとPDL1(pVac1-mPDL1)のDNAワクチンとの組み合わせとともに放射線治療で処置されたマウスは、pVAC1のワクチンとともに放射線療法で治療されたマウスと比較して、腫瘍抑制効果の点で統計学的有意性+RTに達した。
【
図4A】実施例4におけるCT26腫瘍抑制に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図4B】実施例4におけるさまざまな治療戦略によるCT26腫瘍抑制を示し、CTLA4-PLL1(pVAC1-mCTLA4-mPDL1)ワクチンを放射線療法(第16日および第22日に10Gy x2)と併用して処置されたマウスは、RTのみで処置されたコントロールと比較して、腫瘍抑制効果の点で統計学的有意性に達した。
【
図5A】実施例5におけるCT26腫瘍抑制に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図5B】放射線療法との併用での電気穿孔によりデリバリーされたCTLA4-PDL1(pVAC1-mCTLA4-PDL1)のDNAワクチンなどの、さまざまなワクチンと併用した放射線によるCT26腫瘍抑制が、pVAC1+RTおよび他のワクチンと比較して、腫瘍抑制効果の点で統計的有意性に達したことを示す。
【
図5C】実施例5におけるさまざまなワクチンと併用して放射線で処置されたマウスのカプラン-マイヤー生存曲線を示す。
【
図6A】実施例6におけるB16腫瘍抑制に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図6B】照射されていない左側腹の腫瘍の抑制された増殖によって示されるように(右パネル)、右側腹腫瘍が照射を受けた後にアブスコパル効果を誘発することができるCTLA-4-PD-L1のDNAワクチンの効果を示す。
【
図7A】実施例7におけるCT26腫瘍抑制に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図7B】右脚の腫瘍への示された抗CTLA-4(mCTLA)および/または抗PD-1(mPD1)DNAワクチンの注射および照射後の、両脚にCT26結腸腫瘍を接種されたBalb/cマウスの、DNAワクチンで処置された群における体重変化を示す。
【
図7C】実施例7におけるマウスの照射腫瘍に対するアブスコパル効果を示す。
【
図7D】実施例7におけるマウスの未照射腫瘍に対するアブスコパル効果を示す。
【
図8A】実施例8における抗PD1抗体であるJ43と組み合わせたDNAまたはタンパク質ワクチンで処置されたB16腫瘍に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図8B】実施例8におけるJ43およびCTLA-4-PD-L1 DNAワクチンの組み合わせの抗癌効果を示す。
【
図9A】実施例9における抗PD1抗体(J43)と組み合わせたDNAワクチンで処置されたネズミルイス肺癌(LLC)に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図9B】CTLA-4-PD-L1 DNAワクチン単独またはJ43もしくはPD-1 DNAフラグメントワクチンとの組み合わせ、またはJ43単独によるLLC増殖の阻害における効果を示す。
【
図10A】実施例10におけるmCTLA4-mPDL1DNAワクチンで処置されたマウス肝細胞癌(BNL)に関する実験および処置スケジュールの略図を示す。
【
図10B】実施例10におけるBNL肝癌細胞の増殖に対するmCTLA4-PDL1 DNAワクチンの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な記載
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。本明細書中で使用される場合、以下の用語は、他に特定されない限り、それらに属する意味を有する。
【0016】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、その冠詞の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つの)の文法的目的語を示すために使用される。例として、「要素(an element)」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0017】
用語「コードする」は、定義されたヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)配列または定義されたアミノ酸配列およびそれから生じる生物学的特性を有する生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび巨大分子の合成のためのテンプレートとして働くための、ポリヌクレオチド(たとえば、遺伝子、cDNA、またはmRNA)中のヌクレオチドの特定の配列の固有の性質を示す。したがって、その遺伝子によって産生されたmRNAの転写および翻訳が、細胞または他の生物学的系においてタンパク質を産生する場合、遺伝子はタンパク質をコードする。多くの異なるポリヌクレオチドおよび核酸が、遺伝暗号の縮重の結果として同じポリペプチドをコードしうることは、当業者に理解される。当業者であれば、慣用技術を用いて、ポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映するために、そこに記載されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を作製しうることも理解される。したがって、他に特定されない限り、「アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド」は、互いに縮重したバージョンであり、同じアミノ酸配列をコードするすべてのポリヌクレオチドを含む。タンパク質およびRNAをコードするポリヌクレオチドは、イントロンを含みうる。
【0018】
用語「ワクチン」は、特定の病原体または疾患に対して、対象における治療的程度の免疫を誘導するのに効果的な有効成分を含む薬剤または組成物を示す。伝統的に、ワクチンの有効成分は、ワクチンの標的である病原体に由来するポリペプチドである。用語「DNAワクチン」は、有効成分がDNAであるワクチンを示す。用語「タンパク質ワクチン」は、有効成分がポリペプチドであるワクチンを示す。
【0019】
用語「医薬組成物」は、対象における医薬用途に適した組成物を示す。医薬組成物は、有効量の活性剤および薬学的に許容される担体を含む。用語「有効量」は、本発明における免疫応答などの、意図された結果を産生するのに有効な作用物質の量を示す。用語「薬学的に許容される担体」は、リン酸緩衝生理食塩水、5%デキストロース水溶液などの標準的な医薬担体、緩衝液、および賦形剤、油/水または水/油エマルジョン、およびさまざまなタイプの湿潤剤および/またはアジュバントのいずれかを示す。好ましい薬学的担体は、活性薬剤の意図される投与様式に依存する。典型的な投与様式として、腸内(たとえば、経口)または非経口(たとえば、皮下、筋肉内、静脈内または腹腔内注射;または局所、経皮または経粘膜投与)が挙げられる。用語「アジュバント」は、他の薬剤(たとえば、薬物、ワクチン)の効果を改変するが、単独で投与された場合には直接効果がほとんどない薬理学的または免疫学的薬剤を示す。それらは、注射された異物を最小限に保ちながら、供給された抗原に対するレシピエントの免疫応答を増強するために、ワクチンに含まれることが多い。
【0020】
「対象」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物には、霊長類、有蹄動物、イヌおよびネコが含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
「裸のDNA」とは、リポソームに結合していない(対象への投与のための)DNA構築物を指す。
【0022】
本発明の医薬組成物は、医薬として許容される担体を1種以上用い、従来公知の方法により製造されうる。本明細書で使用される用語「薬学的に許容される担体」は、標準的な医薬担体のいずれかを包含する。このような担体として、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノールおよびこれらの組み合わせが挙げられうるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明は、抗癌療法と併用したDNAワクチンを対象に投与することを含む、該対象における悪性疾患を治療する方法であって、DNAワクチンが、細胞傷害性Tリンパ球抗原-4(CTLA-4)をコードするポリヌクレオチド配列含むDNA構築物、およびプログラム死-1(PD-1)またはプログラム細胞死1リガンド1(PD-L1)を含むDNA構築物、またはそれらの組み合わせを含む医薬組成物である方法を提供する。
【0024】
本発明の1つの実施態様では、抗癌療法は、放射線療法または抗体治療でありうる。
【0025】
本発明はまた、悪性疾患の治療下の対象における免疫応答を増強するための薬学的組み合わせであって、CTLA-4をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNA構築物、およびPD-1またはPD-4を含むDNA構築物、またはそれらの組み合わせを含む薬学的組み合わせを提供する。
【0026】
さらに、本発明は、対象における悪性疾患を治療する方法であって、CTLA-4をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNA構築物、およびPD-1またはPD-L1を含むDNA構築物、またはそのタンパク質の組み合わせと併用して、放射線療法または抗体治療を該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0027】
本発明によれば、ワクチンは、CTLA-4のDNAワクチンとPD-L1のワクチンの組み合わせ、またはCTLA-4-PD-L1のワクチンでありうる。あるいは、DNAワクチンは、CTLA-4のDNAワクチンとPD-1のワクチンの組み合わせ、またはCTLA-4-PD-1のワクチンであってもよい。さらに、ワクチンは、PD-1フラグメント(PD1 Frag)、CTLA-4-PD-L1(CTLA4-PDL1 Elec)、またはCTLA-4-PD-L1融合タンパク質を標的とするワクチンであってもよい。
【0028】
以下の実施例では、免疫チェックポイントタンパク質を標的とするDNAベースのワクチンが腫瘍に対する免疫応答を増強しうることが認められる。電離放射線は、いくつかの従来の化学療法と同様に、免疫調節特性を有する。腫瘍関連抗原をT細胞に曝露させうる放射線との組合せである本発明において、これらの免疫調節DNAワクチンは、腫瘍誘発免疫回避を逆転させ、さらに持続可能な抗腫瘍免疫を生成しうる。
【0029】
本発明の実施態様において、対象は、対象における免疫応答の刺激を引き起こす抗体治療などの抗癌剤で処置される。
【0030】
本発明によれば、悪性疾患は、転移性メラノーマ、膵臓癌、結腸直腸癌、肝細胞癌、リンパ腫、ホルモン不応性前立腺癌、卵巣癌、急性骨髄性白血病および肺癌からなる群より選択されうる。
【0031】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これらは限定ではなく例示を目的として提供される。
【0032】
材料
マウスCTLA-4、PD1、またはPD-L1をコードするDNA配列を、鋳型としてマウスおよびヒトの白血球からそれぞれ得られたcDNAライブラリーを用いてPCR増幅した。得られるPCR産物を、胎盤アルカリホスファターゼ(PLAP)の膜貫通ドメイン配列で哺乳動物発現プラスミドpVAC-1に融合させて、CTLA-4およびPD1またはPD-L1を形成させて、DNAワクチンを得た。
【0033】
メラノーマB16F10、マウス結腸直腸癌CT26、肺癌LLC、および肝臓癌BNL細胞を有する4つの動物モデルを用いたインビボ研究を行った。
【実施例1】
【0034】
メラノーマに対するCTLA-4およびPD-1を標的とする放射線プラスDNAワクチンの併用療法
図1Aに示すように、c58B9BL/6マウス(5匹のマウス/群)に、DNAワクチンまたはコントロールプラスミドを、電気穿孔を用いて、毎週3回、筋肉内に注射した。最後のワクチン接種から1週間後、免疫化マウス由来の血清を、それぞれの免疫チェックポイントタンパク質に対する抗体力価の検出のためのELISAアッセイに供した。B16F10マウスメラノーマ腫瘍をc58B9BL/6マウスに樹立した。使用された放射線療法(適用可能な場合)は、腫瘍が確立された後、5Gyの週2回のフラクションであった。マウスを、放射線、放射線+CTLA-4ワクチン、放射線+PD-1ワクチン、放射線+CTLA-4およびPD-1ワクチンのいずれかで処理されるか、または非処置(コントロール群)群に分けた。
【0035】
CTLA-4またはPD-1 DNAワクチンでワクチン接種されたマウスは、コントロール群と比較して、各タンパク質に対する抗体力価が増加していることが示された(p<0.005)。
図1Bに示すように、腫瘍保有マウスの治療は、実験マウス間で体重における有意な差異をもたらさず、認識できる毒性の欠如を示す。放射線単独と比較して、CTLA-4ワクチンと併用した放射線療法は、放射線照射開始から1ヶ月後に腫瘍退縮(腫瘍体積の53.2%の減少;p=0.125)をもたらした。しかしながら、PD-1ワクチンによる免疫は、放射線の腫瘍抑制を有意には増強しなかった(腫瘍体積の14.7%の減少、p=0.55)。また、実験終了時には、放射線+CTLA-4およびPD-1ワクチンで治療した腫瘍を有するマウスでは、他の群と比較して腫瘍が有意に抑制された。
図1Cに示すように、B16F10腫瘍のほぼ完全な退縮が、放射線+CTLA-4ワクチンおよびPD-1ワクチンの両方で処置されたマウスで観察され、放射線単独の群の腫瘍と比較して、腫瘍体積が92.4%の減少(p=0.037)を示した。
【実施例2】
【0036】
結腸直腸癌に対する放射線+CTLA-4およびPD-1を標的とするDNAワクチンの併用療法
1x10
6個の結腸直腸CT26癌細胞の接種のために、Balb/cマウス(1群あたり5匹のマウス)を用いた。ワクチン接種および放射線療法の治療スケジュールは、B16保有マウスの最初の実験のそれと同様であるが、但しマウスはフラクションあたり8Gyの照射であった(
図1A参照)。
【0037】
図2Bに示すように、さまざまな投薬計画で処置された実験マウス間で体重に有意差はなかった。異なる治療戦略の抗癌効果の結果もまた、CTLA-4およびPD-1 DNAワクチンの両方の治療と併用した放射線療法による最も顕著な腫瘍抑制効果を処置群の間で示している、実施例1のものと同様であった(p<0.01)。特に、CTLA-4およびPD-1ワクチンの両方と併用して放射線で処置されたマウスは、CTLA-4ワクチン(p=0.003)またはPD1 DNAワクチン(p=0.001)のいずれかを用いた放射線療法で治療した群よりも、より良好な腫瘍抑制効果を示した。また、実験終了時には、放射線+CTLA-4およびPD-1ワクチンで処置された腫瘍を有するマウスにおいて、他の群と比較して腫瘍が有意に抑制されることも観察された。
【実施例3】
【0038】
結腸直腸癌に対する放射線+CTLA-4およびPD-L1を標的とするDNAワクチンの併用療法
インビボでのCT26腫瘍増殖に対する放射線療法と併用したCTLA-4およびPD-L1 DNAワクチンの効果を調べる。この実験は、PD-1 DNAワクチンをPD-L1 DNAワクチンと置き換え、マウスを
図3Aに示すように12Gyで1回だけ放射線治療したことを除いて、実施例2と同様に行われた。
【0039】
CTLA-4およびPD-L1 DNAワクチンの両方と併用して放射線療法で処置したマウスにおいて、最も有意な腫瘍抑制効果を示す、異なる治療戦略の抗癌効果もまた実施例2のものと同様であった。
図3Bに示すように、放射線療法と併用してCTLA-4またはPD-L1のDNAのいずれかのワクチン単独で処置した群では、放射線療法のみで処置された群と比較して、有意な抗癌効果は観察されなかった;しかしながら、CTLA-4およびPD-L1 DNAワクチンの両方と併用して放射線で処置された群および放射線+CTLA-4-PD-L1融合遺伝子ワクチンで処置された群では、放射線単独で処置された群と比較して、腫瘍は有意に抑制された(p<0.05)
【実施例4】
【0040】
結腸直腸癌に対する放射線+CTLA-4およびPD-L1を標的とするDNAワクチンの併用療法
リポソーム結合CTLA-4+PD-1 DNAワクチンおよびCTLA-4-PD-L1融合DANワクチンをそれぞれ調製した。マウスに1x10
5細胞を接種し、
図4Aに示すように2つのフラクションの10Gyの放射線療法で処置し、リポソームで処置した。
【0041】
図4Bに示すように、放射線単独で処置した群と比較して、放射線療法と併用したリポソーム結合CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンにより、最も顕著な抗腫瘍効果が達成された(p<0.05)。
【実施例5】
【0042】
結腸直腸癌に対する放射線+PD-1断片(PD1 Frag)、CTLA-4-PD-L1(CTLA4-PDL1 Elec)を標的とするDNAワクチン、またはCTLA-4-PD-L1融合タンパク質ワクチンの併用療法
インビボでのCT26腫瘍増殖に対する放射線療法(RT)と併用したPD-1フラグメントDNAワクチン(PD1 Frag)、CTLA-4-PD-L1 DNAワクチン、CTLA-4-PD-L1タンパク質ワクチン(CTLA-4-PDL1 Prot)の抗癌効果を検討した。この実験設計および処置スケジュールは、各マウスに接種するために1x105個のCT26細胞の代わりに5x104個を使用したことを除いて、実施例4と同様であった。
【0043】
皮下接種されたCT26のサイズの変化に関して、CTLA-4-PD-L1 DNAワクチン単独は、放射線治療と比較して統計学的に有意であった(
図5B)。
図5Bに示すように、放射線(RT)と併用したCTLA-4-PD-L1 ProtワクチンおよびPD1 Fragワクチンの両方は、腫瘍増殖の抑制においてより良好な効果をもたらしたが、RT単独と比較して統計的有意性はなかった。しかしながら、
図5Cに示すように、CTLA4-PDL1 ProtワクチンおよびPD1 Fragワクチンの両方は、RTと併用した場合に統計学的有意性を示した。
【実施例6】
【0044】
結腸直腸癌に対するCTLA-4-PD-L1ワクチンのアブスコパル効果
未照射腫瘍に対する放射線の抗癌効果は、いわゆる「アブスコパル効果」である。この実施例では、CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンまたはタンパク質ワクチンを、腫瘍の抑制について試験した。実験マウスの右側腹の照射腫瘍だけでなく、左側腹の未照射腫瘍においても、免疫チェックポイントワクチンは、稀にしか見られないが非常に有益な放射線の「アブスコパル効果」をもたらす可能性がある。実験設計を
図6Aに示した。
【0045】
図6Bに示すように、放射線療法と併用したワクチンは、放射線の抗癌効果のさらなる増強を示さなかったが、CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンは、マウスの左側腹部に接種された未照射腫瘍の増殖を阻害し、これは、CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンが放射線のアブスコパル効果を誘導できることを示している。
【実施例7】
【0046】
結腸直腸癌におけるCTLA-4およびPD-1を標的とするワクチンの併用での放射線療法のアブスコパル効果
アブスコパル効果は、放射線と併用してさまざまなDNAワクチンで処置されたCT26腫瘍モデルにおいて実証された。実験設計を
図7Aに示した。Balb/cマウスの両脚にCT26結腸腫瘍を接種し、続いて示された抗CTLA-4(mCTLA)および/または抗PD-1(mPD1)DNAワクチンを注射した。RT:指示された場合、右脚の腫瘍への照射。
【0047】
図7Bに示すように、見出された平均体重において、処置群間で明らかな差はなかった。1群あたりの照射(指標)腫瘍の平均腫瘍増殖を
図7Cに示し、未照射腫瘍を
図7Dに示した。実施例6で観察された結果と同様に、放射線および両方の免疫チェックポイントDNAワクチンで併用治療を受けているBalb/cマウスの照射(指標)CT26腫瘍は、放射線単独で治療した群と比較して腫瘍退縮の改善を示した。放射線+ワクチンで処置された群で観察されたように、腫瘍に有意な退行があり、これは、増強されたアブスコパル効果を示す。
【実施例8】
【0048】
抗PD-1抗体+CTLA-4-PD-L1 DNAまたはタンパク質ワクチンの抑制効果
抗PD-1抗体であるJ43との併用におけるCTLA-4-PD-L1 DNAまたはタンパク質ワクチンの相乗効果を試験するために、
図8Aに示すように治療スケジュールを設計した。
【0049】
図8Bに示すように、J43およびCTLA-4-PD-L1 DNAワクチンの組み合わせは、コントロール群と比較して優れた抗癌効果を示し(p <0.01)、抗PD-1抗体であるJ43は、インビボでのB16腫瘍増殖の抑制において統計学的有意性を示さなかった。
【実施例9】
【0050】
抗PD-1抗体+CTLA-4-PD-L1 DNAまたはタンパク質ワクチンの肺癌抑制効果
抗PD-1抗体であるJ43の存在下または不在下での、2つの異なるDNAワクチンであるCTLA-4-PD-L1およびPD-1断片、およびそれらの組み合わせの抗癌効果は、ルイス肺癌(LLC)細胞において検出された。実験設計および治療スケジュールを
図9Aに示す。
【0051】
B16メラノーマモデルを用いた実施例8の結果と同様に、抗PD-1抗体であるJ43は、ルイス肺癌(LLC)の増殖を統計学的に有意に抑制することができなかった。一方、単独またはJ43もしくはPD-1 DNA断片ワクチンと組み合わせてのCTLA-4-PD-L1 DNAワクチンは、コントロールDNAまたは抗PD1抗体J43単独と比較して、LLC増殖の有意な阻害を示した(
図9B)。さらに、PD-1断片DNAワクチンもまた、J43よりもLLC増殖に対して優れた抗癌効果を示し、免疫チェックポイントDNAワクチンが、承認された抗体としてヒトの臨床環境で機能することを示唆している。統計的結果を表1に列挙した。
【0052】
【実施例10】
【0053】
肝臓癌の抑制に対する抗PD-1抗体+CTLA-4-PD-L1 DNAまたはタンパク質ワクチンの効果
インビボでの肝細胞癌細胞(BNL)の増殖に対するCTLA-4-PD-L1 DNAワクチンの効果を試験するために、
図10Aに示すように、免疫化したBALB/cマウスに、肝細胞株BNL/Luc(2x10
5細胞/マウス)を皮下接種した。マウスを、腫瘍増殖の程度を表すルシフェラーゼ活性について画像化した。
【0054】
ワクチン接種後第10日に、BALB/cマウスにBNL/Luc肝癌細胞(2*10
5)をチャレンジさせた。pVAC-1(コントロール)およびpVAC-1-mCTLA4-PDL1を受けたマウスの肝細胞癌が観察された。
図10Bに示すように、処置群とコントロール群との間で平均腫瘍増殖に差はない;しかしながら、コントロール群と比較して、pVAC-1-mCTLA4-PDL1免疫化マウスにおいて、抑制された腫瘍増殖が示された(p<0.005)。
【0055】
上記実施例における以下の知見に基づいて、CTLA-4、PD-1またはPD-L1を標的とするDNAワクチンの組み合わせは、インビボでの腫瘍増殖の抑制における放射線または抗PD-1抗体の組み合わせを増強するために強力であると結論される:
(1)CTLA-4またはCTLA-4+PD-1 DNAワクチンは、B16(
図1B)およびCT26モデル(
図2B)において、放射線の抗癌効果を高めることができる;
(2)CTLA-4-PD-L1融合遺伝子DNAおよびCTLA-4+PD-L1 DNAワクチンの両方が、CT26モデルにおいて、放射線療法と併用して優れた抗癌効果を示した(
図3B);
(3)CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンをリポソームを用いて送達し、放射線を併用した場合にも、陽性の抗CT26効果が観察された(
図4B);
(4)CT26腫瘍を有するマウスの放射線照射によって増強された生存は、CTLA-4-PD-1 DNAワクチンだけでなく、タンパク質ワクチンによっても達成された(
図5B);
(5)CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンは、照射されなかったB16腫瘍のマウスにおいてアブスコパル効果を引き起こすことができる(
図6B);同様に、放射線療法と併用した、CTLA-4プラスPD-1 DNAワクチンは、未照射CT26に対して最も顕著なアブスコパル効果を達成した(
図7D);
(6)さらに、抗PD1抗体であるJ43と組み合わせたCTLA-4-PD-L1 DNAワクチンは、J43単独と比較してより良好な抗B16効果を示した(
図8B);
(7)CTLA-4-PD-L1またはPD-1断片DNAワクチンのいずれかは、J43単独と比較してより良い抗LLC効果を示した(
図9B);および
(8)CTLA-4-PD-L1 DNAワクチンはまた、マウスにおける肝臓癌細胞であるBNLの増殖に対する阻害効果を示した(
図10B)。
【0056】
当業者であれば、本発明の広い概念から逸脱することなく、上述した実施形態に変更を加えることができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施態様に限定されず、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の真の趣旨および範囲内の改変を包含することが意図されることが理解される。