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  • 特許-電極一体型セパレータの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】電極一体型セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20220928BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20220928BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20220928BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20220928BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M50/434
H01M50/411
H01M50/46
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019008482
(22)【出願日】2019-01-22
(65)【公開番号】P2020119697
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000179328
【氏名又は名称】リックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
(72)【発明者】
【氏名】中島 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】大安 航生
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-191871(JP,A)
【文献】特開2008-004438(JP,A)
【文献】特開2016-207393(JP,A)
【文献】特開2018-087400(JP,A)
【文献】特開2014-198835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 50/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水よりも沸点が高い溶媒とが混和した混合溶媒に、水溶性高分子が溶解し、かつ耐熱絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程と、
前記塗工液を電極上に塗布する工程と、
前記塗布された塗工液から、前記混合溶媒を気化させて除去して、セパレータ層を形成する工程と、
を包含し、
前記耐熱絶縁粒子の平均粒子径が、1.7μm以下であり、
前記塗工液の全固形分中の前記耐熱絶縁粒子の含有量が、10質量%以上67質量%以下であり、
前記水溶性高分子の前記水よりも沸点が高い溶媒に対する溶解度が、水に対する溶解度よりも低く、
前記混合溶媒を気化させて除去する工程において、前記水よりも沸点が高い溶媒によって空孔を形成し、
前記セパレータ層において、前記水溶性高分子が、前記耐熱絶縁粒子と共に多孔質状の骨格を形成している、
電極一体型セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極一体型セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池等の二次電池は、典型的には、正極、負極、および当該正極と当該負極とを絶縁するセパレータを有する電極体を備える。セパレータには、電解液が透過可能なように、樹脂製の多孔質体が用いられている。セパレータの一形態として、例えば、特許文献1には、電極上に、ポリマー粒子および無機粒子を含む層として設けられた電極一体型セパレータが開示されている。このような電極一体型セパレータは、一般的に、電極上に、ポリマー粒子および無機粒子を含むスラリーを塗布し、乾燥することにより製造される。
【0003】
ポリマー粒子および無機粒子を用いた電極一体型セパレータにおいては、多孔質構造は粒子間の空隙によって形成される。そのため、電極一体型セパレータでは、空孔率が小さくなる傾向にある。特に、粒子同士はバインダにより接合されるため、粒子間にバインダが入り込むことによって、空隙の体積が小さくなって空孔率が小さくなり得る。
【0004】
一方で、樹脂多孔質体の製造方法として、特許文献2には、加熱しながらポリビニルアルコール水溶液に水と混和性の第1の溶媒を加えてポリビニルアルコール溶液を得、前記ポリビニルアルコール溶液を冷却して析出した成形体を得、前記成形体を第2の溶媒に浸漬させて、前記成形体中に含まれる水および/または第1の溶媒を前記第2の溶媒と置換する、主成分としてポリビニルアルコールを含む多孔質体の製造方法が開示されている。この方法を電極一体型セパレータの製造に適用した場合には、バインダを使用することなくセパレータを製造可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2011/040562号
【文献】特開2012-251057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献2に記載の方法を、電極一体型セパレータの製造に適用しても、空孔率を十分に高くすることが困難であることを見出した。また、特許文献1に記載の従来技術では、スラリーを調製し、塗布し、乾燥するという工程によって、電極一体型セパレータが製造されるのに対し、特許文献2に記載の方法では、溶媒を置換する操作が必要であるために、電極一体型セパレータの製造が簡便であるとはいえない。
【0007】
そこで本発明の目的は、簡便に、空孔率が高い電極一体型セパレータを製造可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される電極一体型セパレータの製造方法は、水と、水よりも沸点が高い溶媒とが混和した混合溶媒に、水溶性高分子が溶解し、かつ耐熱絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程と、前記塗工液を電極上に塗布する工程と、前記塗布された塗工液から、前記混合溶媒を気化させて除去する工程と、を包含する。前記耐熱絶縁粒子の平均粒子径は、1.7μm以下である。前記塗工液の全固形分中の前記耐熱絶縁粒子の含有量は、10質量%以上67質量%以下である。前記水溶性高分子の前記水よりも沸点が高い溶媒に対する溶解度は、水に対する溶解度よりも低い。前記混合溶媒を気化させて除去する工程において、前記水よりも沸点が高い溶媒によって空孔を形成する。
このような構成によれば、簡便に、空孔率が高い電極一体型セパレータを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アルミナを塗工液の全固形分中33質量%使用して実験1で得られたセパレータの断面のSEM写真である。
図2】ベーマイトを塗工液の全固形分中33質量%使用して実験2で得られたセパレータの断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電極一体型セパレータの製造方法は、水と、水よりも沸点が高い溶媒とが混和した混合溶媒に、水溶性高分子が溶解し、かつ耐熱絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程(以下、「塗工液調整工程」ともいう)と、当該塗工液を電極上に塗布する工程(以下、「塗工液塗布工程」ともいう)と、当該塗布された塗工液から、当該混合溶媒を気化させて除去する工程(以下、「混合溶媒除去工程」ともいう)と、を包含する。ここで、当該耐熱絶縁粒子の平均粒子径は、1.7μm以下である。当該塗工液の全固形分中の当該耐熱絶縁粒子の含有量は、10質量%以上67質量%以下である。当該水溶性高分子の当該水よりも沸点が高い溶媒に対する溶解度は、水に対する溶解度よりも低い。当該混合溶媒除去工程において、水よりも沸点が高い溶媒によって空孔を形成する。
【0011】
まず、塗工液調整工程について説明する。
用いられる水は、特に制限はないが、不純物の混入を防止する観点から、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水、または超純水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。水は、通常、水溶性高分子を完全に溶解可能な量を用いる。
【0012】
水よりも沸点が高い溶媒は、最終的に細孔形成剤(ポロゲン)としての役割を有する(以下、当該水よりも沸点が高い溶媒を「ポロゲン溶媒」ともいう)。ポロゲン溶媒は、水と混和して混合溶媒を形成する。よって、ポロゲン溶媒としては、少なくとも特定濃度まで水と相溶可能なものを使用する。ポロゲン溶媒の沸点は、水の沸点(100℃)よりも高く、好ましくは、水の沸点よりも100℃以上高い(即ち、ポロゲン溶媒の沸点は、好ましくは200℃以上である)。水溶性高分子のポロゲン溶媒に対する溶解度は、水に対する溶解度よりも低い。25℃における水溶性高分子のポロゲン溶媒に対する溶解度は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0013】
ポロゲン溶媒の溶解度パラメータ(SP値)の値には特に制限がない。多孔化がより均一に進行する傾向にあることから、水のSP値(即ち、23.4(cal/cm1/2)よりも5(cal/cm1/2以上小さいことが好ましい。すなわち、ポロゲン溶媒のSP値は18.4(cal/cm1/2以下が好ましく、5(cal/cm1/2以上16(cal/cm1/2以下がより好ましく、10(cal/cm1/2以上15(cal/cm1/2以下がさらに好ましい。
【0014】
ポロゲン溶媒の種類は、細孔形成剤として機能し、水よりも沸点が高く、水よりも水溶性高分子を溶解せず、少なくとも特定濃度まで水と相溶可能なものである限り特に制限はない。ポロゲン溶媒の好適な例としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン(特に、2-オキソ-4-メチル-1,3-ジオキソラン)、炭酸ブチレン(特に、4-エチル-1,3-ジオキソラン-2-オン)等のカーボネート化合物(特に、環状カーボネート化合物);γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン化合物(特に、γ-ラクトン化合物);ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、エチルメチルスルホン、スルホラン等のスルホン化合物;マロニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物;2,4-ペンタンジオン等のジケトン化合物などが挙げられる。ポロゲン溶媒は、鎖状化合物であってよいが、後述の混合溶媒除去工程において空孔を容易に形成できることから、環状化合物が好ましく、環状カーボネート化合物、ラクトン化合物、およびスルホランがより好ましい。また、均一な空孔が得られやすいことから、ポロゲン溶媒としては、γ-ブチロラクトンおよび炭酸プロピレンがさらに好ましく、γ-ブチロラクトンが最も好ましい。
【0015】
ポロゲン溶媒の使用量に関しては、特に制限はないが、水100質量部に対して、ポロゲン溶媒10質量部以上400質量部以下を使用することが好ましい。水に対するポロゲン溶媒の量を変化させることにより、得られる多孔質体の孔の状態(例、空孔率、空孔径など)を制御することができる。
【0016】
混合溶媒は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、水およびポロゲン溶媒以外の溶媒をさらに含有していてもよい。
【0017】
本明細書において、「水溶性高分子」とは、25℃における水に対する溶解度が1質量%以上である高分子のことをいう。本発明に用いられる水溶性高分子は、25℃における水に対する溶解度が5質量%以上のものが好ましく、10質量%以上のものがより好ましい。本発明に用いられる水溶性高分子の例としては、ポリビニルアルコール系重合体などの水酸基を有する水溶性高分子;ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N-ビニルアセトアミド)、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド、ポリオキサゾリン(例、ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-プロピル-2-オキサゾリン))、水溶性ポリアミド、水溶性ポリアミドイミドなどのアミド基を有する水溶性高分子;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルメチルエーテルなどのエーテル結合を有する水溶性高分子;ポチエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のアミノ基を有する水溶性高分子;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸などのカルボキシル基を有する水溶性高分子等が挙げられる。また、水酸基を有する水溶性高分子として、プルラン、アミロース、デンプン、デンプン誘導体、セルロースエーテル(例、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど)、キサンタンガム、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸等の水溶性多糖類を用いることもできる。なお、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、およびヒアルロン酸は、カルボキシル基を有する水溶性高分子でもある。キトサンは、アミノ基を有する水溶性高分子でもある。水溶性高分子として、好ましくは水酸基を有する水溶性高分子であり、より好ましくは、ポリビニルアルコール系重合体およびセルロースエーテルであり、さらに好ましくはポリビニルアルコール系重合体である。
【0018】
本明細書において「ポリビニルアルコール系重合体」とは、ビニルアルコール単位を全モノマー単位中50モル%以上含有する重合体のことをいう。したがって、本発明に用いられるポリビニルアルコール系重合体は、ビニルアルコール単位以外のモノマー単位(以下、「他のモノマー単位」ともいう)を含有していてもよい。他のモノマー単位の例としては、製造時のビニルエステル等に由来する、酢酸ビニル単位等のビニルエステル単位が挙げられる。したがって、ポリビニルアルコール系重合体は、けん化度が100モル%のポリビニルアルコール以外にも、部分けん化ポリビニルアルコールであってよい。ポリビニルアルコール系重合体のけん化度としては、60モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、80モル%以上がさらに好ましい。なお、ポリビニルアルコール系重合体のけん化度は、例えば、JIS K6726:1944に準拠して測定することができる。他のモノマー単位の別の例としては、エチレン単位、プロピレン単位等のα-オレフィン単位;(メタ)アクリル酸単位;(メタ)アクリル酸エステル単位;マレイン酸単位、イタコン酸単位、フマル酸単位等の不飽和ジカルボン酸単位;メチルビニルエーテル単位、エチルビニルエーテル単位等のビニルエーテル単位;アクリロニトリル単位、メタクリロニトリル単位等のニトリル単位;塩化ビニル単位、フッ化ビニル単位等のハロゲン化ビニル単位などが挙げられる。
【0019】
水溶性高分子の平均重合度は、特に限定はないが、好ましくは80以上30000以下であり、より好ましくは100以上20000以下である。なお、水溶性高分子の平均重合度は、例えば、NMR測定等により求めることができる。
【0020】
水溶性高分子の使用量に関しては、特に制限はないが、水100質量部に対して、水溶性高分子1質量部以上40質量部以下を使用することが好ましい。水に対する水溶性高分子の量(すなわち、水溶性高分子の水中の濃度)を変化させることにより、得られる多孔質体の孔の状態(例、空孔率、空孔径など)を制御することができる。
【0021】
耐熱絶縁粒子は、公知のセパレータの耐熱層(HRL)に含有される粒子を好適に用いることができ、無機粒子、有機粒子、有機無機複合粒子のいずれも用いることができる。耐熱絶縁粒子は、好ましくは無機粒子であり、その素材の例としては、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)等の無機酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、アルミナおよびベーマイトが好ましい。
【0022】
耐熱絶縁粒子の形状には特に制限はなく、球状、板状、不定形等のものを使用することができる。
耐熱絶縁粒子の平均粒子径は、1.7μm以下である。平均粒子径が、1.7μm以下であることにより、耐熱絶縁粒子が十分にかさ高くなって空孔度を十分に高くすることができる。平均粒子径は、好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.3μm以上1.0μm以下である。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布おいて、累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D50;メジアン径、中心粒子径とも呼ばれる)のことをいう。
【0023】
塗工液中の耐熱絶縁粒子の含有量(すなわち、耐熱絶縁粒子の使用量)は、塗工液の全固形分中10質量%以上67質量%以下である。耐熱絶縁粒子の含有量が10質量%未満だと、セパレータの空孔度を十分に高くすることが困難となる。一方、耐熱絶縁粒子の含有量が67質量%を超えると、セパレータの強度が低下して、クラックの発生等による製造不良が生じ得る。耐熱絶縁粒子の含有量は、空孔度が特に高くなることから、好ましくは20質量%以上50質量%以下である。
【0024】
塗工液調製工程で用いられる塗工液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、上記の成分以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0025】
塗工液の調製方法には特に制限はないが、好ましくは、水溶性高分子が、水とポロゲン溶媒の混合溶媒に溶解した溶液を調製した後、耐熱絶縁粒子を添加する。具体的に例えば、水溶性高分子の水溶液をまず調製し、そこにポロゲン溶媒を添加して均一に混合した後、耐熱絶縁粒子を添加して均一に分散させる。あるいは、例えば、水溶性高分子を、水とポロゲン溶媒の混合溶媒に添加し、水溶性高分子を溶解させた後、耐熱絶縁粒子を添加して均一に分散させる。混合および分散操作には、公知の撹拌装置等を用いてよい。
水溶性高分子を水または混合溶媒に溶解させる際には。加熱を行ってもよい。加熱温度としては、例えば、40℃以上100℃以下である。加熱により水溶性高分子の溶液を調製した後、水とポロゲン溶媒が分離しない範囲で冷却してよい。また、この冷却は、水溶性高分子が析出しない範囲で行うことが好ましい。析出した水溶性高分子が不純物となり得るためである。
【0026】
次に、塗工液塗布工程について説明する。
塗工液塗布工程に用いられる電極としては、公知の電池の電極を何ら制限なく用いることができる。
一例として、電極が、リチウム二次電池の電極である場合について説明する。リチウム二次電池の電極は、典型的には、シート状の集電体と、当該集電体上に設けられた活物質層とを備える。
【0027】
電極が正極である場合には、正極は、典型的には、シート状の正極集電体と、当該正極集電体上に設けられた正極活物質層とを備える。正極活物質層は、正極集電体の片面もしくは両面上に設けられ、好ましくは正極集電体の両面上に設けられる。
正極集電体としては、例えばアルミニウム箔等を用いることができる。
正極活物質層は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO等)等が挙げられる。
正極活物質層は、活物質以外の成分、例えば導電材やバインダ等を含み得る。
導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0028】
電極が負極である場合には、負極は、典型的には、シート状の正極集電体と、当該負極集電体上に設けられた負極活物質層とを備える。負極活物質層は、負極集電体の片面もしくは両面上に設けられ、好ましくは負極集電体の両面上に設けられる。
負極集電体としては、例えば銅箔等を用いることができる。
負極活物質層は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。黒鉛は、天然黒鉛であっても人造黒鉛であってもよく、黒鉛が非晶質な炭素材料で被覆された形態の非晶質炭素被覆黒鉛であってもよい。
負極活物質層は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。
バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。
増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0029】
当該塗工液塗布工程においては、上記調整した塗工液を電極上に塗布する。上記説明したリチウム二次電池の電極の例では、当該塗工液を、電極の活物質層上に塗布する。
塗布方法については、特に制限はない。塗布は、例えば、ダイコーター、スリットコーター、コンマコーター、グラビアコーター、バーコーター等の公知の塗工装置を用いて行うことができる。
塗布量は、所望のセパレータ層の厚さおよび塗工液の固形分濃度に応じて適宜決定すればよい。
【0030】
次に、混合溶媒除去工程について説明する。当該混合溶媒除去工程においては、水およびポロゲン溶媒を気化(特に、揮発)させて除去する。この際、ポロゲン溶媒によって空孔を形成する。典型的には、例えば、水溶性高分子と、ポロゲン溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させることによって、空孔を形成する。具体的には、ポロゲン溶媒は、水よりも沸点が高いため、当該工程では、ポロゲン溶媒よりも水が優先的に気化する。水が減少していくと、混合溶媒中のポロゲン溶媒の濃度が増加する。水溶性高分子のポロゲン溶媒に対する溶解度が、水に対する溶解度よりも小さいため、水溶性高分子と、ポロゲン溶媒が高濃度化した混合溶媒とが相分離して、水溶性高分子の多孔質状の骨格が形成される。この相分離は、スピノーダル分解であってよい。最終的には、水が除去されて水溶性高分子が析出し、高沸点のポロゲン溶媒が気化により除去されて空隙が生成する。加えて、耐熱絶縁粒子間にも空隙が存在する。このようにして、水溶性高分子および耐熱絶縁粒子を骨格に有する多孔質構造のセパレータ層が形成される。なお、水溶性高分子と、ポロゲン溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させるには、ポロゲン溶媒の種類と使用量を適切に選択するとよい。
【0031】
水およびポロゲン溶媒を気化させる方法は、特に制限はなく、実施の容易さの観点から、加熱による方法が好ましい。加熱温度は、特に制限はないが、混合溶媒が沸騰せず、かつ水溶性高分子およびポロゲン溶媒が分解しない温度であることが好ましく、より好ましくは50℃以上150℃以下である。
【0032】
以上説明した本発明によれば、塗工液の調製、塗工液の塗布、ならびに水およびポロゲ溶媒の気化という容易な操作により、電極一体型セパレータを作製することができる。したがって、本発明の電極一体型セパレータの製造方法は、簡便性に優れる。加えて、製造コストにおいても優れる。
また、本発明によって得られる電極一体型セパレータにおいては、空孔度が高い。当該セパレータにおいては、耐熱絶縁粒子間の空隙と、混合溶媒の気化過程における相分離を利用して生成する空隙とが存在する。ここで、混合溶媒の気化過程における相分離において、耐熱絶縁粒子間の空隙が存在することによって、相分離により形成される空隙の生成が促進され、空孔度がより高められていると考えられる。さらに、特許文献2に記載の技術を電極一体型セパレータの製造方法に適用した場合には、セパレータ表面においては空孔がない樹脂層が形成されやすい。しかしながら、本発明においては、耐熱絶縁粒子間の空隙があることにより、セパレータ表面においても、十分な数および量の空隙を形成することができる。
またさらに、本発明においては、塗工液に耐熱絶縁粒子を含ませることによって、製造される電極一体型セパレータの耐熱性および強度が向上しているという利点を有する。
【0033】
以上のようにして製造された電極一体型セパレータは、公知方法に従い、各種の電池に用いることができる。
電池として好適には、リチウム二次電池であり、当該リチウム二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いることができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0035】
〔電極一体型セパレータの作製〕
(実験1)
サンプル瓶に、クラレ社製ポリビニルアルコール「PVA205」(重合度500、ケン化度88モル%;以下単に「PVA」と記す)2質量部、水10質量部、およびポロゲン溶媒としてγ-ブチロラクトン10質量部を添加した。サンプル瓶を80℃~90℃に加熱し、PVAが水とポロゲン溶媒との混合溶媒に完全に溶解するまで撹拌してPVA溶液を得た。次いで、PVA溶液を25℃まで冷却した。これに、耐熱絶縁粒子としてアルミナ粒子を表1に示す量添加し、ディスパーで撹拌して分散させることにより、塗工液を調製した。なお、アルミナ粒子には、住友化学社製高純度アルミナ「AKP-3000」(平均粒子径0.53μm、比表面積4.5m/g)を用いた。
厚さ66μmの負極を用意した。なお、この負極は、負極集電体上の両面に負極活物質層を備え、負極活物質層は、負極活物質として日立化成社製黒鉛「SMG-TH5」と、バインダとしてJSR社製スチレンブタジエンラバー「JSR TRD 104B」と、増粘剤として日本製紙社製カルボキシメチルセルロース「MAC800LC」をと含有していた。負極活物質層の目付量は、片面あたり3.30mg/cmであった。
この負極の負極活物質層上に、上記調製した塗工液を、アプリケータを用いて、3mil(約76μm)の厚みで塗布した。
これを100℃に設定した乾燥炉に入れて、水およびポロゲン溶媒を気化させることにより、電極一体型セパレータを得た。
【0036】
(実験2)
耐熱絶縁粒子として、ベーマイト粒子を用いた以外は、実験1と同様の方法により、電極一体型セパレータを得た。なお、ベーマイト粒子には、河合石灰工業社製ベーマイト「BMM-W」(平均粒子径1.7μm、比表面積3.9m/g)を用いた。
【0037】
(実験3)
耐熱絶縁粒子を用いなかった以外は、実験1と同様の方法により、電極一体型セパレータを得た。
【0038】
〔電極一体型セパレータの評価〕
得られた電極一体型セパレータのセパレータ層部分の外観を目視で評価するとともに、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。参考として、アルミナを塗工液の全固形分中33質量%使用して実験1で得られたセパレータの断面のSEM写真を図1に、ベーマイトを塗工液の全固形分中33質量%使用して実験2で得られたセパレータの断面のSEM写真を図2に示す。
また、セパレータ層部分をφ25mmで打ち抜き、その重量および膜厚を測定し、使用したPVAと耐熱絶縁粒子の真密度を用いて空孔度を算出した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
断面SEM観察の結果より、実験1~3で作製した電極一体型セパレータにおいて、多孔質構造が形成されていることが確認できた。また、セパレータが耐熱絶縁粒子を含有しない場合には、セパレータ表面に空孔のない樹脂層が形成されているのが観察された。一方で、セパレータが耐熱絶縁粒子を含有する場合には、セパレータ表面も多孔性になっていることが観察された。
また、表1の結果より、塗工液に、全固形分中10質量%以上耐熱絶縁粒子を加えることにより、電極一体型セパレータの空孔度を高めることができることが判明した。
しかしながら、外観観察においては、耐熱絶縁粒子の使用量が高くなりすぎると、セパレータにクラックが発生することが判明した。
以上の結果を統合すると、本発明によれば、空孔率が高い電極一体型セパレータを簡便に製造することができることがわかる。
図1
図2