(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】耐水モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/10 20060101AFI20220928BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20220928BHJP
F04D 29/00 20060101ALI20220928BHJP
F04D 13/00 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
H02K5/10 A
F04D29/08 C
F04D29/00 B
F04D13/00 A
(21)【出願番号】P 2019022442
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000152170
【氏名又は名称】株式会社酉島製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 祐治
(72)【発明者】
【氏名】薬師神 博一
(72)【発明者】
【氏名】手塚 啓
(72)【発明者】
【氏名】矢尾 渡
(72)【発明者】
【氏名】犬山 快彰
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘靖
(72)【発明者】
【氏名】井上 正隆
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-131944(JP,A)
【文献】特開昭63-075394(JP,A)
【文献】実開昭56-009853(JP,U)
【文献】特開昭61-043295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/10
F04D 29/08
F04D 29/00
F04D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータケーシングの内部に配置された基端と、前記モータケーシングの外部に突出する連結端とを有する出力軸と、
前記出力軸の外周に接する摺接部を有し、前記モータケーシングに取り付けられた摺動型の第1シール部材と、
前記第1シール部材の前記基端側に位置するように前記モータケーシングに形成されたバッファ空間と
を備
え、
前記バッファ空間は、前記出力軸に対して交差する向きに延びる隔壁と、前記隔壁から前記連結端側へ突出する外周壁と、前記外周壁から前記出力軸に向けて突出する底壁と、前記出力軸とによって画定され、
前記底壁には、前記底壁の前記連結端側に位置して前記出力軸を取り囲む筒状部と、前記筒状部の前記底壁側の端部に連なり、前記筒状部から前記底壁に向かうに従って拡開した拡開部とを有するカバー部材が取り付けられ、
前記第1シール部材は、前記筒状部に取り付けられ、
前記出力軸における前記第1シール部材の前記バッファ空間側には、前記筒状部の内径よりも大きい外径を有し、前記拡開部によって取り囲まれ、前記底壁に隣接したフランジ部が設けられ、
前記底壁と前記フランジ部の間にラビリンスシール部が形成されている、耐水モータ。
【請求項2】
前記第1シール部材が前記出力軸に沿って間隔をあけて一対取り付けられており、これらの間に潤滑剤が充填されている、請求項1に記載の耐水モータ。
【請求項3】
前記第1シール部材の前記連結端側に位置するように前記筒状部に設けられ、前記出力軸に向けて突出する壁部と、
前記壁部に接する摺接部を有し、前記出力軸に取り付けられた摺動型の第2シール部材と
を更に備える、請求項
1又は
2に記載の耐水モータ。
【請求項4】
前記底壁に接する摺接部を有し、前記出力軸に取り付けられた摺動型の第3シール部材を更に備える、請求項
1から
3のいずれか1項に記載の耐水モータ。
【請求項5】
前記外周壁に透光性を有する覗き窓が設けられている、請求項
1から
4のいずれか1項に記載の耐水モータ。
【請求項6】
前記バッファ空間の水位を検出するセンサと、
前記バッファ空間に空気を供給するためのコンプレッサと、
前記センサの検出結果に基づいて前記コンプレッサを制御する制御部と
を更に備える、請求項1から
5のいずれか1項に記載の耐水モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水モータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポンプケーシングの内部に耐水モータを配置した斜流ポンプが開示されている。耐水モータは、モータケーシングと、このモータケーシングから連結端が突出された出力軸とを備え、連結端にインペラが連結されている。モータケーシング内は、インペラ側に位置する軸封室と、軸封室に対してインペラとは反対側に位置する機械室とに区画されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された耐水モータでは、軸封室においてモータケーシングと出力軸との間をメカニカルシールによってシールすることで、機械室への浸水を防いでいる。しかし、メカニカルシールを用いた耐水モータは、構造が複雑であり、コストが高い。
【0005】
本発明は、メカニカルシールを用いることなく、簡素な構成でシール性を確保でき、低コスト化が可能な耐水モータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、モータケーシングの内部に配置された基端と、前記モータケーシングの外部に突出する連結端とを有する出力軸と、前記出力軸の外周に接する摺接部を有し、前記モータケーシングに取り付けられた摺動型の第1シール部材と、前記第1シール部材の前記基端側に位置するように前記モータケーシングに形成されたバッファ空間とを備え、前記バッファ空間は、前記出力軸に対して交差する向きに延びる隔壁と、前記隔壁から前記連結端側へ突出する外周壁と、前記外周壁から前記出力軸に向けて突出する底壁と、前記出力軸とによって画定され、前記底壁には、前記底壁の前記連結端側に位置して前記出力軸を取り囲む筒状部と、前記筒状部の前記底壁側の端部に連なり、前記筒状部から前記底壁に向かうに従って拡開した拡開部とを有するカバー部材が取り付けられ、前記第1シール部材は、前記筒状部に取り付けられ、前記出力軸における前記第1シール部材の前記バッファ空間側には、前記筒状部の内径よりも大きい外径を有し、前記拡開部によって取り囲まれ、前記底壁に隣接したフランジ部が設けられ、前記底壁と前記フランジ部の間にラビリンスシール部が形成されている、耐水モータを提供する。
【0007】
この耐水モータによれば、出力軸に接する摺動型の第1シール部材が用いられているため、メカニカルシールを用いる場合と比較して、構造の簡素化が可能であり、製造コストも低減できる。また、劣化(摩耗)等によって第1シール部材のシール性能を確保できなくなった場合、第1シール部材の基端側(つまり機械室側)に形成されたバッファ空間によって、このバッファ空間よりも基端側への浸水を防止できる。この耐水モータを排水ポンプに用いた場合、意図しない水没時の運転を確保できるため、排水ポンプの信頼性を向上できる。しかも、出力軸における第1シール部材のバッファ空間側に底壁に隣接したフランジ部が設けられ、底壁とフランジ部の間にラビリンスシール部が形成されているため、バッファ空間への浸水を効果的に抑制できるため、シール性能の向上できる。
【0008】
前記第1シール部材が前記出力軸に沿って間隔をあけて一対取り付けられており、これらの間に潤滑剤が充填されている。この態様によれば、定常時、第1シール部材の摩耗を抑制しつつ、無注水によるドライシールを実現できる。
【0011】
前記第1シール部材の前記連結端側に位置するように前記筒状部に設けられ、前記出力軸に向けて突出する壁部と、前記壁部に接する摺接部を有し、前記出力軸に取り付けられた摺動型の第2シール部材とを更に備える。この態様によれば、モータケーシング内への浸水を効果的に抑制できるため、シール性能の向上できる。また、耐水モータを排水モータに用いた場合、第2シール部材によって粗ゴミの侵入を防止できるため、第1シール部材の劣化(摩耗)を抑制できる。
【0012】
前記底壁に接する摺接部を有し、前記出力軸に取り付けられた摺動型の第3シール部材を更に備える。この態様によれば、バッファ空間への浸水を効果的に抑制できるため、シール性能の向上できる。
【0013】
前記外周壁に透光性を有する覗き窓が設けられている。この態様によれば、バッファ空間に浸入した水量を確認することで、第1シール部材の劣化状況を判断できる。また、必要に応じて第1シール部材を交換することで、耐水モータの軸封部分の健全性を確保できる。
【0014】
前記バッファ空間の水位を検出するセンサと、前記バッファ空間に空気を供給するためのコンプレッサと、前記センサの検出結果に基づいて前記コンプレッサを制御する制御部とを更に備える。この態様によれば、コンプレッサを駆動することで、空気圧によってバッファ空間内の水を逆流させて、連結端側へ自動排出できる。よって、バッファ空間から基端側への浸水を確実に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐水モータは摺動型の第1シール部材とバッファ空間とを備えるため、メカニカルシールを用いる場合と比較して、簡素な構成でシール性を確保でき、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る耐水モータを用いた立軸ポンプの概略図。
【
図2】第1実施形態の耐水モータの軸封構造を示す断面図。
【
図4】第2実施形態の耐水モータの軸封構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0018】
図1は、立軸ポンプ(排水ポンプ)10に用いた本発明の第1実施形態に係る耐水モータ30を示す。耐水モータ30は、浸水しても運転を継続可能な電動式の駆動手段であり、ポンプケーシング12の上端に配置され、回転軸18に連結されている。
【0019】
図1に示すように、立軸ポンプ10は、ポンプケーシング12、回転軸18、及びインペラ20を備え、耐水モータ30の駆動によって吸水槽1に流入した雨水等を下流側へ排水する。
【0020】
ポンプケーシング12は、吸水槽1の上部を覆う据付床2に取り付けられている。ポンプケーシング12は、上下方向に延びるように吸水槽1内に配置された揚水管13と、据付床2上に配置されたベンド管15とを備える。揚水管13は、全体として直管状であり、下端の吸込口13a側に軸受ケーシング14を備える。ベンド管15は、概ねL字形状であり、垂直方向に延びる垂直管部(第1管部)15aと、水平方向に延びる水平管部(第2管部)15bとを備える。
【0021】
垂直管部15aの下端は揚水管13の上端に水密に接続されている。垂直管部15aの上端は、耐水モータ30を取り付けるための開口部15cである。本実施形態の開口部15cは、水平管部15bの上側頂部と概ね同じ高さで円形状に開口しており、その内径は揚水管13の内径と概ね同じである。
図1において右側に位置する水平管部15bの開口(出口)には、下流側へ排水するための送水管(図示せず)が接続されている。なお、開口部15cを含むベンド管15の構成は、必要に応じて変更が可能である。
【0022】
回転軸18は、揚水管13の軸線に沿って上下方向に延びるように配置されている。回転軸18の上端側は、揚水管13の上端に配置された水中軸受19Aに回転可能に支持されている。回転軸18の下端側は、軸受ケーシング14を貫通し、軸受ケーシング14に配置された水中軸受19Bに回転可能に支持されている。インペラ20は、軸受ケーシング14から下方に突出した回転軸18の下端に取り付けられている。
【0023】
耐水モータ30は、ベンド管15の開口部15cに水密に取り付けられている。耐水モータ30が備える出力軸33は、ケーシング12内へ突出し、カップリング22によって回転軸18の上端に連結されている。耐水モータ30の駆動によって出力軸33と一体に回転軸18を回転させることで、回転軸18と一体にインペラ20を回転させ、吸水槽1内の水をポンプケーシング12内を通して下流側へ排水する。
【0024】
(第1実施形態)
引き続いて
図1を参照すると、耐水モータ30は、ベンド管15の開口部15cに水密に取り付けられるモータケーシング32と、モータケーシング32から突出する出力軸33とを備える。
【0025】
モータケーシング32は、ポンプケーシング12に直接取り付けられてもよいし、仕切板(図示せず)を介してポンプケーシング12に取り付けられてもよい。出力軸33は、
図1において上側に位置する基端(図示せず)と、
図1において下側に位置する連結端33aとを備え、基端側がモータケーシング32内に配置され、連結端33aがポンプケーシング12内(モータケーシング32外)に配置されている。
【0026】
図2を併せて参照すると、モータケーシング32は、上端が閉塞された筒状のケーシング本体35を備える。ケーシング本体35は、ポンプケーシング12(開口部15c)に固定される環状のフランジ35aを備える。ケーシング本体35内には、フランジ35a側に位置するように、出力軸33に対して交差する向き(モータケーシング32の径方向)に延びる隔壁36が設けられている。
【0027】
径方向における隔壁36の内端は出力軸33と間隔をあけて位置しており、この内端に出力軸33に沿って延びる円筒状の筒部36aが形成されている。筒部36aと出力軸33との間には、出力軸33を回転可能に支持するボール軸受37が配置されている。筒部36aの上部と出力軸33との間は上カバー38によって塞がれ、筒部36aの下部と出力軸33との間は下カバー39によって塞がれている。また、ボール軸受37と下カバー39の間に位置するように、出力軸33にはシール部材40が取り付けられている。
【0028】
隔壁36によってモータケーシング32内は、出力軸33の基端側に位置する機械室42と、出力軸33の連結端33a側に位置する軸封室43とに区画されている。軸封室43に配置された軸封装置45によって機械室42は、空気が充填された状態で、液密にシールされている(乾式)。
【0029】
機械室42内には、図示しない周知の回転子と固定子が配置されている。回転子は出力軸33に取り付けられ、固定子は回転子の外周に位置するようにケーシング本体35に取り付けられている。通電により固定子に対して回転子が回転することで、出力軸33が一体に回転する。
【0030】
軸封装置45は、一対のシール部材58、バッファ空間62、ラビリンスシール部65、及び2個のシール部材70A,70Bを備える。これらは、ポンプケーシング12側から機械室42に向けて、シール部材70A、一対のシール部材58、ラビリンスシール部65、シール部材70B、及びバッファ空間62の順で設けられている。以下の説明では、ポンプケーシング12側を上流側と言い、機械室42側を下流側と言うことがある。
【0031】
具体的には、軸封装置45は、バッファ空間62を形成するための受皿部材(固定部材)47、ラビリンスシール部65を形成するためのフランジ部材(回転部材)50、シール部材(第1シール部材)58を配置するための筒状部材(カバー部材)52、及びシール部材58が摺接するスリーブ55を備える。
【0032】
受皿部材47は、隔壁36に対して出力軸33の連結端33a側に隣接するように、モータケーシング32に取り付けられている。受皿部材47は、隔壁36から上流側(連結端33a側)へ突出する外周壁47aと、外周壁47aから出力軸33に向けて突出する底壁47bとを備える。外周壁47aは、出力軸33を中心とする円筒状であり、隔壁36に固定されている。外周壁47aと隔壁36との間はパッキン48によってシールされている。底壁47bは外周壁47aの上流側の端から径方向内向きに突出しており、その内端は出力軸33の近傍に位置している。底壁47bと出力軸33との間には、出力軸33の回転によって互いに干渉しない程度のクリアランスを有する。
【0033】
フランジ部材50は、底壁47bに対して出力軸33の連結端33a側に隣接するように、出力軸33に取り付けられている。フランジ部材50は、セットボルト(図示せず)によって出力軸33に対して移動不可能に取り付けられる円筒状の取付部50aと、出力軸33を中心として取付部50aから径方向外向きに突出する円板状のフランジ部50bとを備える。フランジ部50bは、底壁47bに対して連結端33a側に配置され、底壁47bに隣接して平行に延び、出力軸33の回転によって一体に回転する。
【0034】
筒状部材52は、底壁47bに対して出力軸33の連結端33a側に隣接するように、底壁47bに取り付けられている。つまり、筒状部材52は、出力軸33と一体に回転しない。筒状部材52は、出力軸33を中心とする円筒状であり、径方向におけるフランジ部50bの外側を覆う拡開部52aと、拡開部52aから上流側へ突出する筒状部52bとを備える。拡開部52aは、底壁47bから上流側に向けて次第に縮径した円錐筒状であり、底壁47bに固定されている。拡開部52aと底壁47bとの間はパッキン53によってシールされている。筒状部52bは、出力軸33を中心とする円筒状であり、その内径は、フランジ部50bの外径よりも小さく、出力軸33(スリーブ55)との間にシール部材58を配置するための空間を確保できる寸法で形成されている。
【0035】
スリーブ55は、筒状部52bの内側に位置するように、セットボルト(図示せず)によって出力軸33に対して相対的に移動不可能に取り付けられている。下流側に位置するスリーブ55の上端は、筒状部52bから拡開部52a内へ突出し、取付部50aに隣接している。上流側に位置するスリーブ55の下端は、筒状部52bから下流側へ突出している。
【0036】
図2を併せて
図3を参照すると、一対のシール部材58は、筒状部52b内(モータケーシング32)にそれぞれ取り付けられ、出力軸33に沿って間隔をあけて配置されている。シール部材58は、テフロン(登録商標)系の材料からなる摺動型のリップシールであり、取付部58aと摺接部58bを備える。取付部58aは筒状部52bの内周面に取り付けられている。取付部58aと筒状部52bの間はパッキン59によってシールされている。摺接部58bは、弾性的に変形可能であり、スリーブ55(出力軸33)の外周に接し、出力軸33の回転によりスリーブ55に摺接する。
【0037】
スリーブ55におけるシール部材58が摺接する部分には、シール部材58よりも高硬度の硬質部56が設けられている。スリーブ55は金属製であり、硬質部56は、スリーブ55よりも硬質な超硬合金を溶射することで形成されている。より具体的には、硬質部56のビッカース硬さHvは1000以上とすることが好ましい(Hv>1000)。
【0038】
摺接部58bの摩耗を抑制するために、一対のシール部材58、筒状部52bの内周面、及びスリーブ55の外周面で画定された空間には、生分解性の潤滑剤(グリス)60が充填されている。潤滑剤60の充填空間に連通するように、筒状部材52には潤滑剤60を補充するための通路52cが設けられている。充填ノズルを接続した際の強度を確保するために、筒状部52bには周方向の一部に径方向外向きに突出する突出部52dが設けられ、この突出部52dを貫通するように通路52cが設けられている。潤滑剤60は、メンテナンス時に定期的に補充される。定常時、通路52cの出口はボルト(図示せず)によって封止されている。
【0039】
バッファ空間62は、シール部材58の機械室42側(基端側)に位置するように、モータケーシング32に形成されている。バッファ空間62は、ケーシング本体35の隔壁36と、受皿部材47の外周壁47aと、受皿部材47の底壁47bと、出力軸33の外周面とによって画定されている。一対のシール部材58、及び2個のシール部材70A,70Bによって、バッファ空間62とモータケーシング32外(ポンプケーシング12内)とは液密にシールされているため、基本的にバッファ空間62内には浸水は生じない。一対のシール部材58及び2個のシール部材70A,70Bの劣化時を含む意図しない浸水が生じた場合、バッファ空間62は水を貯留して機械室42への浸水を阻止する。
【0040】
バッファ空間62の容積は、出力軸33の直径(つまり出力軸33の周囲に形成される隙間面積)によって異なるが、出力軸33の直径をD(mm)とすると、0.01D(リットル)以上0.1D(リットル)以下に設定することが好ましく、本実施形態では0.04D(リットル)としている。容量を過度に小さくした場合、直ぐにバッファ空間62内が水で満たされるため、機械室42への浸水を阻止できない。容積は可能な限り大きい方が好ましいが、過度に大きくした場合、耐水モータ30自体が大型化する。よって、バッファ空間62の容積は、上記定められた範囲内で設けることが好ましい。
【0041】
バッファ空間62内の貯水量を確認するために、外周壁47aには透光性を有する覗き窓63が設けられている。ここで、透光性を有するとは、バッファ空間62内に水が溜まっているか否かを、外部から目で確認できる程度の光透過率を有することを意味する。外周壁47aを含む筒状部材52は不透明な材料(例えば金属)によって形成され、覗き窓63は無色透明又は有色透明の材料(例えば樹脂)によって形成されている。
【0042】
ラビリンスシール部65は、受皿部材47の底壁47bとフランジ部材50のフランジ部50bとの間に形成されている。ラビリンスシール部65は、底壁47bに設けられた環状の凹溝66と、フランジ部50bに設けられた環状の凸部67とを備え、凹溝66内に凸部67が配置されている。凹溝66と凸部67とは、出力軸33を中心として径方向に間隔をあけて複数(本実施形態では3個)設けられている。複数の凹溝66と凸部67は、出力軸33を中心する同心円状である。出力軸33の回転によって凸部67は回転し、凹溝66は回転しない。凹溝66と凸部67との間には、回転により互いに干渉しない程度のクリアランスを有する。なお、凹溝66をフランジ部50bに形成し、凸部67を底壁47bに形成してもよい。
【0043】
シール部材70A,70Bはそれぞれ、出力軸33に取り付けられ、出力軸33と一体に回転する。シール部材70A,70Bはそれぞれ、ゴム製で摺動型のVリングであり、出力軸33に取り付けられる取付部70aと、シール用の摺接部70bとを備える。
【0044】
シール部材70Aはシール部材58の上流側に配置され、上流側(ポンプケーシング12内)から下流側(バッファ空間62側)への水とゴミの侵入を防止する。筒状部52bにおけるシール部材58の上流側には、出力軸33に向けて突出する壁部52eが形成されている。この壁部52eに摺接部70bが接するように、シール部材70Aの取付部70aがスリーブ55に取り付けられている。
【0045】
シール部材70Bは、バッファ空間62内に位置するように、ラビリンスシール部65の下流側に配置されている。受皿部材47の底壁47bの上面に摺接部70bが接するように、シール部材70Bの取付部70aが出力軸33に取り付けられている。
【0046】
このように構成した耐水モータ30の駆動により立軸ポンプ10の運転が開始されると、揚水管13から吸い上げられた水が開口部15cまで満たされる。開口部15cとモータケーシング32の間に仕切板が介在し、液漏れが無い場合、モータケーシング32(軸封室43)内に水が侵入することはないが、何らかの要因で液漏れが発生すると、モータケーシング32(軸封室43)内に水が侵入することがある。また、開口部15cとモータケーシング32の間に仕切板が無い場合、水はモータケーシング32(軸封室43)内に侵入する。
【0047】
図2に示すように、軸封室43内に侵入した水は、まず、ケーシング本体35の外周壁、隔壁36の上流側、受皿部材47の径方向外側、筒状部材52の径方向外側、及び筒状部材52の壁部52eの上流側の空間に充満する。そして、筒状部材52の壁部52eから下流側への浸水は、シール部材70Aによって遮断される。この際、水に含まれた粗ゴミもシール部材70Aによって遮断される。
【0048】
これにより、バッファ空間62を含む筒状部材52内の壁部52eから下流側は、水が無いドライシール状態になる。無注水によるドライシールでは、摺動部分(シール部材)の劣化が進行し易い。しかし、シール部材58は一対備え、これらの間に潤滑剤60が充填されているため、シール部材58の摩耗が効果的に抑制される。
【0049】
壁部52eとの摺接によってシール部材70Aが摩耗し、シール性を確保できなくなると、壁部52eの上流側の水が、壁部52eとシール部材70Aの間を通ってシール部材58の方へ侵入する。この水は、一対のシール部材58によって遮断される。
【0050】
スリーブ55との摺接によって一対のシール部材58が摩耗し、シール性を確保できなくなると、スリーブ55とシール部材58の間を通って拡開部52aの方へ浸水する。この水は、ラビリンスシール部65によって概ね遮断される。
【0051】
ラビリンスシール部65では、複数の凹溝66と凸部67によって下流側への流動を徐々に低減できるが、完全に遮断することは困難であり、凹溝66と凸部67の隙間を通って更に少しずつ下流側へ浸入する。この水は、シール部材70Bによって遮断される。
【0052】
底壁47bとの摺接によってシール部材70Bが摩耗し、シール性を確保できなくなると、シール部材70Bと底壁47bの間を通ってバッファ空間62内に浸入し、溜められる。
【0053】
このように、シール部材70A、一対のシール部材58、ラビリンスシール部65、シール部材70B、及びバッファ空間62の順で、下流側への浸水を防ぐことができるため、機械室42への浸水を効果的に抑制できる。よって、耐水モータ30を立軸ポンプ10に用いた場合、意図しない水没時の運転を確保できるため、立軸ポンプ10の信頼性を向上できる。
【0054】
メンテナンス時、作業者は覗き窓63を通してバッファ空間62内の貯水量を確認する。作業者は、バッファ空間62内に水が溜まってない場合、シール部材58,70A,70Bの劣化は少ないと判断でき、バッファ空間62内に多くの水が溜まっている場合、シール部材58,70A,70Bの劣化が多いと判断できる。そして、劣化が多い場合、シール部材58,70A,70Bを交換する。
【0055】
このように構成した耐水モータ30は、以下の特徴を有する。
【0056】
出力軸33に接する摺動型のシール部材58が用いられているため、メカニカルシールを用いる場合と比較して、構造の簡素化が可能であり、製造コストも低減できる。また、劣化(摩耗)等によってシール部材58のシール性能を確保できなくなった場合、シール部材58の下流側のバッファ空間62によって、このバッファ空間62よりも下流側への浸水を防止できる。
【0057】
シール部材58が出力軸33に沿って間隔をあけて一対取り付けられ、これらの間に潤滑剤60が充填されているため、定常時、シール部材58の摩耗を抑制しつつ、無注水によるドライシールを実現できる。
【0058】
バッファ空間62を画定する底壁47bとフランジ部50bとの間にラビリンスシール部65が形成されているため、バッファ空間62への浸水を更に抑制できる。シール部材58の上流側にシール部材70Aが配置され、シール部材58の下流側にシール部材70Bが配置されているため、バッファ空間62への浸水を更に効果的に抑制できる。よって、軸封装置45としてのシール性能の効果的に向上できる。また、シール部材70Aによって粗ゴミの侵入を防止できるため、シール部材58の劣化(摩耗)を抑制できる。
【0059】
バッファ空間62を画定する外周壁47aに覗き窓63が設けられているため、バッファ空間62に浸入した水量を確認できる。また、バッファ空間62内の水量によってシール部材58、及びシール部材70A,70Bの劣化状況を判断できる。よって、必要に応じてシール部材58及びシール部材70A,70Bを交換することで、耐水モータ30の軸封部分の健全性を確保できる。
【0060】
(第2実施形態)
図4は第2実施形態の耐水モータ30を示す。この第2実施形態では、バッファ空間62に溜まった水を排出する排水機構75を設けた点で、第1実施形態と相違する。具体的には、排水機構75は、バッファ空間62の水位を検出するセンサ76、バッファ空間62に空気を供給するためのコンプレッサ77、及びセンサ76の検出結果に基づいてコンプレッサ77を制御する制御部84を備える。なお、第2実施形態の耐水モータ30は、第1実施形態と同様に覗き窓63を備えているが、この覗き窓63は設けなくてもよい。
【0061】
センサ76は、バッファ空間62内に位置するように隔壁36に配置され、制御部84に電気的に接続されている。センサ76は、バッファ空間62内の水位を検出し、検出結果に応じた信号を制御部84に出力する。このようなセンサ76としては周知のレベルセンサを用いることが可能であり、その種類はフロート式、電極式、光式、及び超音波式等のいずれであってもよい。つまり、センサ76は、限界水位(容量)に達したことを検出する構成であってもよいし、随時実際の貯水位を検出する構成であってもよい。
【0062】
コンプレッサ77は、モータケーシング32の外部(据付床2上)に配置され、制御部84に電気的に接続されている。コンプレッサ77の吐出口に接続された給気管78の先端は、受皿部材47を貫通してバッファ空間62内に配置されている。給気管78には、圧力タンク79、逆止弁80、及び開閉弁81が介設されている。圧力タンク79は、コンプレッサ77から吐出された圧搾空気を定められた圧力まで貯留する。逆止弁80は、コンプレッサ77から圧力タンク79に向けた空気の流動を許容し、逆向きの空気の流動を阻止する。開閉弁81は、制御部84に電気的に接続されており、制御部84からの開閉信号によって、圧力タンク79とバッファ空間62とを連通状態及び遮断状態に切り換える。
【0063】
本実施形態では、圧力タンク79の下流側(つまりコンプレッサ77とは反対側)に位置するように、給気管78に分岐管82が分岐接続されている。分岐管82の先端は、耐水モータ30と同一構造の異なる耐水モータの受皿部材を貫通して、バッファ空間内に配置されている。分岐管82には開閉弁81と同様の開閉弁83が介設され、この開閉弁83が制御部84に電気的に接続されている。開閉弁を含む分岐管は1本に限られず、2本以上であってもよい。
【0064】
制御部84は、排水機構75を制御するプログラム、並びにプログラムに用いる閾値及び判断値等が記憶された記憶部(メモリ)を備え、2以上の耐水モータ30を個別に制御できるように構成されている。制御部84としては、例えばパーソナルコンピュータを用いることができる。制御部84は、耐水モータ30を制御する機能を兼ね備えてもよい。
【0065】
制御部84には、センサ76が検出したバッファ空間62内の水位に応じた検出データが随時又は定期的に入力される。制御部84は、センサ76から入力された検出結果に基づいて、バッファ空間62内が設定水位未満であると判断すると、コンプレッサ77を停止状態に維持するとともに開閉弁81を閉弁状態に維持する。一方、制御部84は、バッファ空間62内に設定水位以上の水が溜まっていると判断すると、コンプレッサ77を駆動させるとともに開閉弁81を開弁させ、バッファ空間62内に空気を供給する(排水処理)。
【0066】
この排水処理では、供給された空気がバッファ空間62の上部に溜まり、この空気によってバッファ空間62に溜まった水が下向きに押圧される。これにより、バッファ空間62内の水は、シール部材70Bと底壁47bの間、ラビリンスシール部65、シール部材58とスリーブ55の間、及びシール部材70Aと壁部52eの間を通って、外部(ポンプケーシング12)へ排出される。
【0067】
このように、第2実施形態の耐水モータ30では、コンプレッサ77を駆動することで、空気圧によってバッファ空間62内の水を上流側へ逆流させて、外部(連結端33a側)へ自動排出できる。よって、バッファ空間62から機械室42(基端側)への浸水を確実に防止できる。
【0068】
なお、本発明の耐水モータ30は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、筒状部材52を含むラビリンスシール部65は形成しなくてもよい。また、2個のシール部材70A,70Bのうちの少なくとも一方は配置しなくてもよい。覗き窓63及び排水機構75の両方を設けなくてもよい。
【0070】
シール部材58は、壁部52eの上流側(連結端33a側)に位置するように、出力軸33に取り付けてもよい。シール部材70Aは、底壁47bの機械室42側(基端側)に隣接して配置してもよい。ラビリンスシール部65を形成するためのフランジ部50bは、底壁47bの機械室42側(基端側)に隣接させて設けてもよい。バッファ空間62を画定するための壁(つまり隔壁36、外周壁47a、及び底壁47b)を設ける部材、及びバッファ空間62を形成する位置は、必要に応じて変更が可能である。
【0071】
耐水モータ30は、立軸ポンプ10以外の機構(例えば水中ミキサ)に用いてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 吸水槽
2 据付床
10 立軸ポンプ
12 ポンプケーシング
13 揚水管
13a 吸込口
14 軸受ケーシング
15 ベンド管
15a 垂直管部
15b 水平管部
15c 開口部
18 回転軸
19A,19B 水中軸受
20 インペラ
22 カップリング
30 耐水モータ
32 モータケーシング
33 出力軸
33a 連結端
35 ケーシング本体
35a フランジ
36 隔壁
36a 筒部
37 ボール軸受
38 上カバー
39 下カバー
40 シール部材
42 機械室(出力軸の基端側)
43 軸封室
45 軸封装置
47 受皿部材
47a 外周壁
47b 底壁
48 パッキン
50 フランジ部材
50a 取付部
50b フランジ部
52 筒状部材
52a 拡開部
52b 筒状部
52c 通路
52d 突出部
52e 壁部
53 パッキン
55 スリーブ
56 硬質部
58 シール部材
58a 取付部
58b 摺接部
59 パッキン
60 潤滑剤
62 バッファ空間
63 覗き窓
65 ラビリンスシール部
66 凹溝
67 凸部
70A,70B シール部材
70a 取付部
70b 摺接部
75 排水機構
76 センサ
77 コンプレッサ
78 給気管
79 圧力タンク
80 逆止弁
81 開閉弁
82 分岐管
83 開閉弁
84 制御部