(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】橋梁ジョイントの劣化状態推定方法とその装置
(51)【国際特許分類】
E01D 22/00 20060101AFI20220928BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220928BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20220928BHJP
E01D 19/06 20060101ALI20220928BHJP
E01C 11/02 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
E01D22/00 A
B60C19/00 Z
E01C23/00 Z
E01D19/06
E01C11/02 A
(21)【出願番号】P 2019076537
(22)【出願日】2019-04-12
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 光吉
【審査官】大塚 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190264(JP,A)
【文献】特開2011-242294(JP,A)
【文献】特開2011-242303(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133155(WO,A1)
【文献】特開2017-89102(JP,A)
【文献】特開2018-71318(JP,A)
【文献】特開2005-315675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
B60C 19/00
E01C 11/02
E01C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム部材の内部に補強板が配置された橋梁ジョイントの劣化状態を推定する方法であって、
タイヤに装着された加速度センサーであるタイヤ加速度センサーにより、前記橋梁ジョイントが設置された路面から入力する加速度波形であるタイヤ加速度波形を検出するステップと、
前記検出されたタイヤ加速度波形から、当該タイヤ加速度波形の特徴量としてのタイヤ加速度情報を取得するステップと、
前記取得されたタイヤ加速度情報と予め求めておいた劣化した橋梁ジョイントを前記タイヤ加速度センサーが通過したときのタイヤ加速度情報とを比較し、前記比較の結果から、前記橋梁ジョイントの劣化状態を推定するステップと、を備えることを特徴とする橋梁ジョイントの劣化状態推定方法。
【請求項2】
前記タイヤ加速度センサーは、加速度の検出方向がタイヤ周方向になるように前記タイヤに配置されていることを特徴とする請求項1に橋梁ジョイントの劣化状態推定方法。
【請求項3】
前記タイヤ加速度情報が、前記タイヤ加速度波形をローパスフィルタを通過させて得られた波形であることを特徴とする請求項1または請求項2に橋梁ジョイントの劣化状態推定方法。
【請求項4】
車両バネ下部の非回転部材に設置された加速度センサーであるバネ下加速度センサーにより、前記橋梁ジョイントが設置された路面から入力する加速度の時系列波形であるバネ下加速度波形を検出するステップと、
前記検出されたバネ下加速度波形と前記タイヤ加速度波形とから、前記タイヤ加速度センサーが前記橋梁ジョイントを通過したか否かを判定する通過判定ステップとを設けるとともに、
前記橋梁ジョイントの劣化状態を推定するステップでは、
前記通過判定ステップにて、前記タイヤ加速度センサーが前記橋梁ジョイントを通過したと判定されたときのみ、前記取得されたタイヤ加速度情報と、予め求めておいた劣化した橋梁ジョイントを前記タイヤ加速度センサーが通過したときのタイヤ加速度情報とを比較して、前記橋梁ジョイントの劣化状態を推定することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の橋梁ジョイントの劣化状態推定方法。
【請求項5】
前記通過判定ステップでは、
前記バネ下加速度波形のピークが検出された時刻と、前記タイヤ加速度波形のピークが検出された時刻との時間差から、前記タイヤ加速度センサーが前記橋梁ジョイントを通過したか否かを判定することを特徴とする請求項4に記載の橋梁ジョイントの劣化状態推定方法。
【請求項6】
ゴム部材の内部に補強板が配置された橋梁ジョイントの劣化状態を推定する装置であって、
タイヤに装着されて、前記橋梁ジョイントが設置された路面から入力する加速度波形であるタイヤ加速度波形を検出するタイヤ加速度センサーと、
前記検出されたタイヤ加速度波形から、当該タイヤ加速度波形の特徴量としてのタイヤ加速度情報を取得するタイヤ加速度情報取得手段と、
前記タイヤ加速度情報と、予め求めておいた劣化した橋梁ジョイントを前記タイヤ加速度センサーが通過したときの加速度情報である劣化時加速度情報とを比較して、前記橋梁ジョイントの劣化状態を推定する劣化状態推定手段と、
を備えることを特徴とする橋梁ジョイントの劣化状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁ジョイントの劣化状態を推定する方法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁の途中や橋梁の道路側の端部の継ぎ目には、気温の変化による伸縮や自動車の走行に伴う変形を吸収するための道路用伸縮装置(以下、橋梁ジョイントという)が設置されている。
橋梁ジョイントしては、鋼製のものやゴム製のものが用いられるが、鋼製のジョイントでは自動車の通過時における騒音が大きく、ゴム製のジョイントでは、耐久性に課題があるため、近年では、ゴムの内部に鋼板から成る補強板が挿入された鋼板補強型ゴムジョイントが採用されている。
以下、「橋梁ジョイント」は、この鋼板補強型ゴムジョイントを指すものとする。
図8(a),(b)は橋梁ジョイント50の一例を示す図で、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のA-A断面図である。また、(a)白抜きの矢印は、道路の延長方向を示している。
橋梁ジョイント50は、ジョイント本体であるゴム51と、ゴム51の表面側(道路側)に配置された第1の補強板(天板52)と、裏面側に配置された第2の補強板(底板53)と、ゴム51の側面側に配置された第3の補強板(側板54)とを備えている。
また、ゴム51の表面側と裏面側には、橋梁ジョイント50の長さ方向である、路面の延長方向に伸びる伸縮溝55,56が形成されている。
同図に示す橋梁ジョイント50の劣化状態としては、主に、ゴム51と補強板である天板52との剥離が挙げられる。
【0003】
現在、橋梁ジョイントの劣化状態は、作業員がジョイントを目視、もしくは、ハンマーでたたくなどして、劣化しているか否かを推定していた。
しかし、この方法では、交通規制を敷いたうえでの作業が必要なので、時間と費用がかかるだけでなく、劣化は、内部のゴムと補強板とが剥離して進行するため、予測が難しいことから、豊富な作業経験を有する作業員が必要であった。
一方、橋梁ジョイントの劣化状態を推定する方法として、橋梁ジョイントが設置された道路の周辺に複数のマイクロフォンと解析装置とを設置して、車両が橋梁ジョイントを通過するときの音である通過音を採取し、この通過音の周波数特性から、補強板とゴムとが剥離しているか否かを推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1では、橋梁ジョイント毎に、橋梁ジョイントの近傍に複数のマイクロフォンや解析装置などを設置する必要があるだけでなく、大型車両が多く通過する箇所などでは騒音が大きいため、推定精度が十分ではなかった。
また、データの収集やマイクロフォンのメンテナンスなどが大変なため、効率のよい方法とはいえなかった。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、簡単な方法で、橋梁ジョイントの劣化状態を精度よく推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム部材の内部に補強板が配置された橋梁ジョイントの劣化状態を推定する方法であって、タイヤに装着された加速度センサーであるタイヤ加速度センサーにより、前記橋梁ジョイントが設置された路面から入力する加速度波形であるタイヤ加速度波形を検出するステップと、前記検出されたタイヤ加速度波形から、当該タイヤ加速度波形の特徴量としてのタイヤ加速度情報を取得するステップと、前記取得されたタイヤ加速度情報と予め求めておいた劣化した橋梁ジョイントを前記タイヤ加速度センサーが通過したときのタイヤ加速度情報とを比較し、前記比較の結果から、前記橋梁ジョイントの劣化状態を推定するステップと、を備えることを特徴とする。
これにより、道路周辺にマイクロフォンや解析装置などの設備を設置することなく橋梁ジョイント劣化状態を推定できるだけでなく、周囲に騒音があっても橋梁ジョイントの劣化状態を精度よく推定することができる。
【0008】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係る橋梁ジョイントの劣化状態推定装置を示す図である。
【
図2】検出したタイヤ加速度波形の一例を示す図である。
【
図3】ローパスフィルタを通過したタイヤ加速度波形の一例を示す図である。
【
図4】タイヤ加速度波形とバネ下加速度波形の一例を示す図である。
【
図5】橋梁ジョイントの劣化状態推定を示すフローチャートである。
【
図6】カットオフ周波数の設定方法を示す図である。
【
図7】抽出周波数領域と加速度のRMS値との関係を示す図である。
【
図8】鋼板補強型ゴムジョイントの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施の形態に係る橋梁ジョイントの劣化状態推定装置(以下、ジョイント劣化推定装置10という)の機能ブロック図と加速度センサーの配置を示す図である。
ジョイント劣化推定装置10は、タイヤ加速度センサーとしての第1の加速度センサー11と、車輪速センサー12と、バネ下加速度センサーとしての第2の加速度センサー13と、判定波形抽出手段14と、第1の加速度情報取得手段15と、閾値設定手段16と、第2の加速度情報取得手段17と、通過判定手段18と、ジョイント劣化状態推定手段19とを備え、ジョイント劣化監視用車両(以下、単に車両ともいう)に搭載されて、前記車両が橋梁ジョイントを通過したか否かを判定するとともに、通過した橋梁ジョイントの劣化状態を推定する。
判定波形抽出手段14~ジョイント劣化状態推定手段19までの各手段は、例えば、コンピュータのソフトウェアと、RAM、ROMなどの記憶装置から構成される。
第1の加速度センサー11は、検出方向がタイヤ周方向になるように、タイヤ20のインナーライナー部20aのタイヤ気室20b側のほぼ中央部に一体に配置されて、路面からタイヤトレッド20cに入力する加速度の時系列波形(以下、タイヤ加速度波形という)を検出する。
車輪速センサー12は、ナックル21に搭載されて、車輪の回転速度(以下、車輪速という)を検出するもので、例えば、外周部に歯車が形成され車輪とともに回転するローターと、このローターと磁気回路を構成するヨークと、磁気回路の磁束変化を検出するコイルとを備えた、周知の電磁誘導型の車輪速センサーなどを用いることができる。
第2加速度センサー13は、検出方向が車両上下方向になるように、ナックル21に搭載されて、路面からタイヤ20に入力して、ナックル21に伝播される加速度の時系列波形(以下、バネ下加速度波形という)を検出する。なお、第2加速度センサー13の検出方向を車両前後方向としてもよい。
ナックル21は、タイヤ20のホイール22に連結される車軸23に、ハブ24を介して回転自在に連結される車両バネ下部の非回転部材で、上部側でアッパーアーム25に連結され、下部側でローアアーム26に連結されている。また、符号27はローアアーム26連結されたショックアブゾーバである。
第1の加速度センサー11の出力は判定波形抽出手段14に送られ、車輪速センサー12の出力は判定波形抽出手段14と閾値設定手段16とに送られ、第2の加速度センサー13の出力は第2の加速度情報取得手段17に送られる。
【0011】
判定波形抽出手段14は、カットオフ周波数設定部14aとローパスフィルタ14bとを備え、第1の加速度センサー11で検出されたタイヤ加速度波形を、ローパスフィルタ14bを通過させることで、劣化判定を行うための波形である判定波形を抽出する。
カットオフ周波数設定部14aでは、車両が等速走行しているとして、車輪速センサー12で検出された車輪速を当該車両の速度(以下、車速Vという)に変換するとともに、ローパスフィルタ14bのカットオフ周波数fcを、車速Vに応じた周波数(ここでは、50Hz~150Hz)に設定する。なお、サンプリング周波数fsについても車速V毎に設定してもよいが、本例では、サンプリング周波数fsを1kHz程度にするなど、本例で使用されるカットオフ周波数fcよりも高めに設定しておけば、車速Vに応じてサンプリング周波数fsを変更する必要はない。
カットオフ周波数fcの設定方法については後述する。
ローパスフィルタ14bは、第1の加速度センサー11で検出されたタイヤ加速度波形からカットオフ周波数設定部14aで設定されたカットオフ周波数fc以下の周波数を有する加速度成分のみを通過させる。
【0012】
図2(a),(b)は、第1の加速度センサー11で検出されたタイヤ周方向の加速度波形(タイヤ加速度波形)で、(a)図はゴムと天板とが剥離していない橋梁ジョイントAを通過した時に検出した加速度波形(以下、検出波形という)である。また、(b)図はゴムと天板とが剥離した橋梁ジョイントBを通過した時の検出波形である。なお、
図2(a),(b)において、縦軸は加速度の値で、単位は任意[a.u.]である。また、橋梁ジョイントA、Bは、いずれも、設置から20年経過したものである。
これらの波形を比較すると、
図2(a)に示した橋梁ジョイントAを通過したときの波形は、最大振幅が、
図2(b)に示した橋梁ジョイントBを通過したときの波形の最大振幅よりも大きいものの、全体的に見れば、橋梁ジョイントBを通過したときの波形の方が、橋梁ジョイントAを通過したときの波形よりも、ピーク数も多くかつ振幅が大きい。
また、
図2(a),(b)を比較して明らかなように、ゴムと天板とが剥離していない橋梁ジョイントAを通過したときの波形とゴムと天板とが剥離している橋梁ジョイントBを通過したときの波形とは、波形形状そのものが異なっていることがわかる。
一方、
図3(a),(b)は、カットオフ周波数がf
c=100Hzであるローパスフィルタ14bを通過したタイヤ加速度波形(以下、ローパス波形という)で、(a)図は橋梁ジョイントAを通過した時に検出した加速度波形のローパス波形で、(b)図は橋梁ジョイントBを通過した時に検出した加速度波形のローパス波形である。
これらの波形を比較すると、
図3(a)に示した橋梁ジョイントAを通過したときの波形よりも、
図3(b)に示した橋梁ジョイントBを通過したときの波形の方が振幅もの大きなピークが多いことが分かる。
このように、ゴムと天板とが剥離していない橋梁ジョイントAを通過した場合と、ゴムと天板とが剥離している橋梁ジョイントBを通過したときととでは、検出波形もローパス波形も、ともに、波形形状そのものが異なっていることがわかる。
【0013】
第1の加速度情報取得手段15は、判定波形であるフィルタ後波形から、橋梁ジョイントの劣化状態を推定するための特徴量となる加速度情報(タイヤ加速度情報)を取得する。
本例では、タイヤ加速度情報として、ローパス波形の振幅のRMS値S
aを用いた。
閾値設定手段16は、橋梁ジョイントの劣化状態を推定するための閾値を設定するもので、本例では、閾値を、車輪速センサー12で検出された車速Vに応じて設定する。
前記車速Vに応じた閾値を以下、K
Vと記す。この閾値K
Vが、本発明の、予め求めておいた劣化した橋梁ジョイントを車両が通過したときの加速度情報(劣化時加速度情報)に相当する。
第2の加速度情報取得手段17は、第2の加速度センサー13で検出したバネ下加速度波形から、車両が橋梁ジョイントを通過したか否かを判定するための特徴量となるバネ下加速度情報を取得する。
本例では、バネ下加速度情報として、バネ下加速度波形の振幅のRMS値S
bを用いた。
図4(a),(b)は、タイヤ加速度波形とバネ下加速度波形の一例を示す図で、タイヤ20が橋梁ジョイント50上を通過したとき、(a)図に示すように、第1の加速度センサー11が橋梁ジョイント50とタイヤ20との接触部にあれば、同図の太線で示すタイヤ加速度波形にも、同図の細線で示すバネ下加速度波形にも、橋梁ジョイント50の振動によるピークが現れる。しかしながら、(b)図に示すように、第1の加速度センサー11が接触部にない場合には、バネ下加速度波形には、橋梁ジョイント50の振動によるピークが現れるが、タイヤ加速度波形には現れない。
したがって、車両が橋梁ジョイント50を通過したか否かを判定するためには、バネ下加速度情報が必要となる。
【0014】
通過判定手段18は、まず、第2の加速度情報取得手段17で取得したバネ下加速度波形の振幅のRMS値Sbが、所定の値であるバネ下閾値Kb以上であるか否かを判定することで、車両が橋梁ジョイント50を通過したか否かを判定し、次に、バネ下加速度波形のピークが検出された時刻tbと、タイヤ加速度波形のピークが検出された時刻taとの時間差(|ta-tb|)が、所定の時間間隔KT以内か否かを判定することで、タイヤ20に装着されている第1の加速度センサー11が橋梁ジョイント50からの入力を受けたか否か、すなわち、第1の加速度センサー11が橋梁ジョイント50を通過したか否かを判定する。
バネ下加速度波形の振幅のRMS値Sbと通過判定手段18の判定結果は、ジョイント劣化状態推定手段19に送られる。
ジョイント劣化状態推定手段19は、通過判定手段18により、車両が橋梁ジョイント50を通過したと判定されたときのみ、橋梁ジョイント50の劣化状態を推定する。
具体的には、第1の加速度情報取得手段15で取得したローパス波形の振幅のRMS値Saと、閾値設定手段16で設定された閾値KVとを比較することで、橋梁ジョイント50の劣化状態を推定する。
【0015】
次に、ジョイント劣化推定装置10の動作について、
図5のフローチャートを参照して説明する。
はじめに、第1の加速度センサー11にてタイヤ加速度波形を検出し、第2の加速度センサー13にてバネ下加速度波形を検出するとともに、車輪速センサー12にて、車輪速を検出する(ステップS10)。
次に、バネ下加速度波形から、第2の加速度情報取得手段17を用いて、バネ下加速度波形の振幅のRMS値S
bを算出する(ステップS11)。
ステップS12では、バネ下加速度波形の振幅のRMS値S
bとバネ下閾値K
bとを比較する。S
b<K
bである場合には、車両が橋梁ジョイント50を通過していないので、ステップS13に進んで、橋梁ジョイント50の劣化状態の推定を中止する。
一方、S
b≧K
bであれば、車両が橋梁ジョイント50を通過したと判定し、ステップS14に進んで、バネ下加速度波形のピークが検出された時刻t
bと、タイヤ加速度波形のピークが検出された時刻t
aとの時間差(|t
a-t
b|)が、所定の時間間隔K
T以内か否かを判定する。
|t
a-t
b|≦K
Tであれば、第1の加速度センサー11が橋梁ジョイント50を通過したと判定し、後述するステップS15~ステップS19の処理を行うことで、橋梁ジョイント50の劣化状態を推定する。
一方、|t
a-t
b|>K
Tである場合には、第1の加速度センサー11がタイヤ20と橋梁ジョイント50との接触部にないので、ステップS13に進んで、橋梁ジョイント50の劣化状態の推定を中止する。
【0016】
次に、ステップS15~ステップS19の処理について説明する。
ステップS15では、ステップS10で検出された車輪速を車速に変換し、ステップS16では、ローパスフィルタ14bのカットオフ周波数f
cと閾値K
Vとを、前記求められた車速Vに基づいて設定する。
本例では、車速が60km/hrのときのカットオフ周波数f
cを100Hzとし、車速がVkm/hrのときのカットオフ周波数f
cを、f
c=100×(V/60)[Hz]とした。すなわち、カットオフ周波数f
cを、車速Vに比例する値に設定した。
車速が60km/hrのときのカットオフ周波数f
cを100Hzとした理由を以下に述べる。
車速が60km/hrのとき、車両が(1/100)秒間に進む距離を基準空間スケールL
0とすると、L
0=16.7cmであるので、
図6(a)に示すように、基準空間スケールL
0を波長とする周波数(基準空間スケール周波数)は100Hzとなる。
本例では、加速度波形から100Hzよりも低い周波数成分のみを抽出たものを判定波形として用いている。すなわち、周波数がf
kのときの波長を空間スケールL
kとすると、基準空間スケールL
0よりも長い空間スケールL
k波長を有する成分のみを抽出たものを判定波形として用いる。
また、車速が30km/hrのときには、
図6(b)に示すように、車両が基準空間スケールL
0だけ進む時間は、車速が60km/hrのときの2倍(0.02秒)となるので、基準空間スケール周波数は50Hzとなる。したがって、車速が30km/hrのときには、カットオフ周波数f
cを50Hzに設定すればよい。
すなわち、車速がVkm/hrのときのカットオフ周波数f
cは、f
c=100×(V/60)[Hz]とすればよい。
一方、閾値K
Vは、車速Vが早いほど大きな値に設定される。
ステップS17では、ステップS16で設定されたカットオフ周波数f
cを有するローパスフィルタ14bを用いて、検出波形であるタイヤ加速度波形から、判定波形であるローパス波形を抽出する。
そして、このローパス波形から、第1の加速度情報取得手段15を用いて、橋梁ジョイントの劣化状態を推定するための特徴量である振幅のRMS値S
aを算出する(ステップS18)。
最後に、ステップS18で取得したローパス波形のRMS値S
aと、ステップS16で設定された閾値K
Vとから、橋梁ジョイントの劣化状態を推定する(ステップS19)。
具体的には、S
a≧K
Vである場合には、通過した橋梁ジョイント50の補強板とゴムとが剥離していると推定し、S
a<K
Vの場合には、補強板とゴムとの剥離はないと推定する。
【0017】
[実験例]
ゴムと天板とが剥離していない橋梁ジョイントAと、ゴムと天板とが剥離した橋梁ジョイントBを、ランダムに多数配置したテストコースを、本発明のジョイント劣化推定装置10を搭載した車両を60km/hrで走行させて、ローパス波形のRMS値S
a[a.u.]を比較した結果を
図7に示す。
同図の四角の中心がRMS値の中央値mで、四角の上端及び下端は四分位点である。
図7の表から明らかなように、ローパス波形のRMS値S
aを比較すれば、ゴムと天板とが剥離していない橋梁ジョイントAとゴムと天板とが剥離した橋梁ジョイントBとを判別することができることが確認された。
【0018】
以上、本発明を実施の形態及び実験例を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0019】
例えば、前記実施の形態では、カットオフ周波数f
cと閾値K
Vとを、車速に応じて設定したが、ジョイント劣化推定装置10を搭載した車両は、一般車両ではなく、ジョイント劣化監視用車両なので、計測対象である橋梁ジョイントを通過する際には、一定速度(例えば、60km/hr)で走行させてもよい。これにより、車輪速センサー12やカットオフ周波数設定部14aを省略することができる。
また、前記実施の形態では、橋梁ジョイント50の通過を判定するためのバネ下加速度情報として、バネ下加速度波形の振幅のRMS値S
bを用いたが、計測されたバネ下加速度波形の振幅のピーク値と予め設定しておいたピーク値とを比較してもよい。
また、バネ下加速度波形の振幅を使う代わりに、計測されたバネ下加速度波形の波形形状と予め設定した波形形状との類似度を比較してもよい。なお、類似度の比較は、相互関数を用いてもよいし、もしくは、周知の機械学習を用いてもよい。
また、前記実施の形態では、橋梁ジョイント50の通過を判定するためのタイヤ加速度情報として、ローパス波形の振幅のRMS値S
aを用いたが、タイヤ加速度情報としては、
図2及び
図3に示した検出波形もしくはローパス波形の複数ピークのうちの特定のピーク値、もしくは、複数のピーク値の演算値を用いるなど、他の加速度情報を用いてもよい。
また、前記実施の形態では、バネ下加速度波形のピークが検出された時刻t
bと、タイヤ加速度波形のピークが検出された時刻t
aとの時間差から、タイヤ20に装着された加速度センサー(第1の加速度センサー11)が橋梁ジョイント50を通過したか否かを判定したが、バネ下加速度波形のピークが検出された時刻t
bにおける、タイヤ加速度波形の振幅が、予め設定された閾値以上である場合に、第1の加速度センサー11が橋梁ジョイント50を通過したと判定してもよい。
【符号の説明】
【0020】
10 橋梁ジョイントの劣化状態推定装置、11 第1の加速度センサー、
12 車輪速センサー、13 第2の加速度センサー、14 判定波形抽出手段、
14a カットオフ周波数設定部、14b ローパスフィルタ、
15 第1の加速度情報取得手段、16 閾値設定手段、
17 第2の加速度情報取得手段、18 通過判定手段、
19 ジョイント劣化状態推定手段、
20 タイヤ、21 ナックル、22 ホイール、23 車軸、24 ハブ、
25 アッパーアーム、26 ローアアーム、27 ショックアブゾーバ。