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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
   G08B 21/02 20060101AFI20220928BHJP
   E02F 9/26 20060101ALI20220928BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20220928BHJP
【FI】
G08B21/02
E02F9/26 B
G05D1/02 H
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019149083
(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公開番号】P2021033373
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅嗣
(72)【発明者】
【氏名】田中 正道
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-58314(JP,A)
【文献】特開2011-152842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/12
G08B 21/02
E02F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業現場において走行するための走行装置を含む本体と、
コントローラと、を備えた作業機械であって、
前記本体は、
前記本体の向いている方向を検出する方位検出装置と、
前記本体の位置を検出する位置検出装置と、
前記本体の周囲の任意方向に放音する全方位スピーカとを備え、
前記コントローラは、
前記本体の周囲状況として少なくとも前記本体の周囲の音声または画像を取得する周囲状況取得部と、
前記周囲状況取得部が取得した周囲状況を作業現場の管理者に報知する周囲状況出力部と、
前記管理者の発信音声を取得する発信音声取得部と、
前記発信音声取得部が取得した前記発信音声の発信目標位置を設定する発信目標位置設定部と、
前記発信目標位置、前記方位検出装置により検出された前記本体の方向及び前記位置検出装置により検出された前記本体の位置に基づいて前記本体の位置を始点とし前記発信目標位置を終点とする発信方向音量ベクトルを求め、該発信方向音量ベクトルに基づき、前記本体が移動及び旋回しても前記発信目標位置に届く音声の音量を保つよう、前記発信音声の発信方向及び音量を演算する発信方向音量演算部と、
前記発信方向音量演算部の演算結果に基づいて、前記発信音声を加工して音声信号を生成し、前記音声信号を前記全方位スピーカに出力する音声出力部と、
を有することを特徴とする作業機械。
【請求項2】
前記全方位スピーカは、前記本体の前方に向け放音する前方スピーカと、前記本体の左方に向け放音する左方スピーカと、前記本体の後方に向け放音する後方スピーカと、前記本体の右方に向け放音する右方スピーカとで構成され、
前記音声出力部は、前記発信方向音量演算部の演算結果に基づいて、前記前方スピーカ、前記左方スピーカ、前記後方スピーカ及び前記右方スピーカの少なくともいずれか1つ以上に前記音声信号を出力することを特徴とする、請求項1に記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業機械に係り、特に周囲作業者に対する指示音声を発信する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土木現場において舗装作業に従事するタイヤローラなどの作業機械は、本体を形成するフレーム、走行及び路面の転圧を行うための車輪を有し、オペレータによる操作指示により走行して所望の作業を行う。
【0003】
このような作業機械では近年、無人で所定の領域を自動的に施工する自律施工システムの導入が進められている。しかしながら、作業機械だけでは工程の全作業を行うことができないため、一般に手元作業とよばれる準備、検測、片付けなどの補助作業を行う作業者が作業機械の周囲で協働している。
【0004】
このような実情から、無人で稼働する作業機械であっても、周囲作業者の安全を確保しながら周囲作業者から手元作業の協力を受けられる運用の実現が求められている。例えば、移動体が検出した周囲情報に基づいて、接近警告音の生成及び複数のスピーカからの放音を行う接近警告音発生装置と呼ばれる装置を用いる技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5549306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された技術を用いる場合、周囲作業者は接近警告音の放音を受けて安全を確保することができるが、単純に警告音による警告を受けるのみでは手元作業の段取りが分からず、自分の作業を遂行できない場合がある。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、無人で稼働する作業機械であっても、周囲作業者の安全を確保しながら周囲作業者から手元作業の協力を受けられる作業機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の作業機械は、作業現場において走行するための走行装置を含む本体と、コントローラと、を備えた作業機械であって、前記本体は、前記本体の向いている方向を検出する方位検出装置と、前記本体の位置を検出する位置検出装置と、前記本体の周囲の任意方向に放音する全方位スピーカとを備え、前記コントローラは、前記本体の周囲状況として少なくとも前記本体の周囲の音声または画像を取得する周囲状況取得部と、前記周囲状況取得部が取得した周囲状況を作業現場の管理者に報知する周囲状況出力部と、前記管理者の発信音声を取得する発信音声取得部と、前記発信音声取得部が取得した前記発信音声の発信目標位置を設定する発信目標位置設定部と、前記発信目標位置、前記方位検出装置により検出された前記本体の方向及び前記位置検出装置により検出された前記本体の位置に基づいて前記本体の位置を始点とし前記発信目標位置を終点とする発信方向音量ベクトルを求め、該発信方向音量ベクトルに基づき、前記本体が移動及び旋回しても前記発信目標位置に届く音声の音量を保つよう、前記発信音声の発信方向及び音量を演算する発信方向音量演算部と、前記発信方向音量演算部の演算結果に基づいて、前記発信音声を加工して音声信号を生成し、前記音声信号を前記全方位スピーカに出力する音声出力部とを有する。
【0009】
その他の態様として、前記全方位スピーカは、前記本体の前方に向け放音する前方スピーカと、前記本体の左方に向け放音する左方スピーカと、前記本体の後方に向け放音する後方スピーカと、前記本体の右方に向け放音する右方スピーカとで構成され、前記音声出力部は、前記発信方向音量演算部の演算結果に基づいて、前記前方スピーカ、前記左方スピーカ、前記後方スピーカ及び前記右方スピーカの少なくともいずれか1つ以上に前記音声信号を出力する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作業機械によれば、管理者が音声を伝達したい周囲作業者等の位置と作業機械の位置及び方向に基づいて、管理者からの音声の発信方向及び発信音量を適切に演算し、管理者が音声を伝達したい周囲作業者等に向けて全方位スピーカで音声を発することができる。これにより、作業機械の管理者と周囲作業者の間で、安全や手元作業の段取りに関わる意思疎通を図ることが可能となる。その結果、無人で稼働する作業機械であっても、周囲作業者の安全を確保しながら周囲作業者から手元作業の協力を受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る作業機械を左側から視た側面図である。
図2】本発明に係る作業機械の上視図である。
図3】管理者用コンピュータを示す図である。
図4】遠隔地の管理事務所の管理者と作業機械の通信形態のイメージを示す図である。
図5】コントローラ及び管理者用コンピュータの制御系を示すブロック図である。
図6】コントローラと管理者用コンピュータの各制御のシーケンスを示す図である。
図7】管理者用コンピュータが管理者用ディスプレイを介して管理者に表示する表示インタフェースの一例を示す図である。
図8】発信方向及び発信音量の演算手順を示すフローチャートである。
図9】指向性スピーカ単体の減衰特性を示す図である。
図10】4つの指向性スピーカによる発信音声のカバー範囲を示すイメージ図である。
図11】作業機械が発信目標位置の前を旋回しながら横切るように移動する状況を示す図である。
図12】作業機械が図11に示すように移動した場合の発信方向音量ベクトルの変化を示す図である。
図13】発信方向音量ベクトル及び発信音声の広がり方を示すイメージ図であって、作業機械の移動及び旋回を考慮しなかった補正なしの場合(a)と考慮した補正ありの場合(b)を示す図である。
図14】発信方向音量ベクトルを作業機械の速度で速度補正する場合を示す図である。
図15】発信方向の角度情報に基づいて出力するスピーカを選択する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
図1を参照すると、本発明に係る作業機械の左側から視た側面図が示されており、図2を参照すると、作業機械の上側から視た上視図が模式的に示されている。作業機械は、例えば転圧車両であって、本体フレーム2に前輪及び後輪としての転圧ローラ(走行装置)3、4が配設されて本体1が構成されてなるタイヤローラである。そして、このタイヤローラは、オペレータによって運転操作も可能である一方、主としてオペレータが搭乗せずに遠方の管理者により遠隔操作されることで自動運転可能に構成されている。
【0013】
本体1は、エンジン5、エンジン5で油圧ポンプを作動させて発生する圧油により油圧モータを作動させて転圧ローラ4を駆動するHST(Hydro Static Transmission)7及び前輪である転圧ローラ3を操舵する操舵装置8を備えている。これにより、本体1は、自動運転時には、後述するコントローラ30によってエンジン5、HST7及び操舵装置8を作動制御することで、転圧ローラ3、4を回転させ、適宜転圧ローラ3を操舵させて、施工領域における路面等の地盤を転圧することが可能である。
【0014】
本体1には、例えば転圧ローラ3の回転速度を検出することで自車両の走行速度を計測する速度センサ12、本体1の進行方位を計測する方位センサ(方位検出装置)14、及び、自車両の位置をGNSS(Global Navigation Satellite System)、例えばGPS(Global Positioning System)で計測する位置センサ(位置検出装置)16が設けられている。また、本体1には、本体1の前後左右の各位置に伝達ユニット20a、20b、20c、20dが配設されている。
【0015】
これら伝達ユニット20a~20dは、それぞれ本体1の前後左右の各方向に向けて音声を出力する前方スピーカ22a、左方スピーカ22b、後方スピーカ22c及び右方スピーカ22d(以下、まとめてスピーカ22a~22dとも言う)と、本体1の前後左右の音声を取得するマイク24a~24dと、本体1の前後左右の光景を画像として取得するカメラ26a~26dとを有して構成されている。なお、前方スピーカ22a、左方スピーカ22b、後方スピーカ22c及び右方スピーカ22dにより任意方向に放音可能な全方位スピーカが構成されている。
【0016】
そして、本体1には、本体1の各種作動制御を行うとともに、伝達ユニット20a~20dのマイク24a~24d及びカメラ26a~26dから得られた音声や映像等の情報を処理して無線通信アンテナ32を介して遠隔地の管理事務所の管理者に送信する一方、無線通信アンテナ32を介して管理者から受信した音声情報に基づき出力すべき音量及び方向を演算してスピーカ22a~22dに出力する音声信号を生成するコントローラ30を備えている。
【0017】
コントローラ30は、上述のように各種作動制御をはじめとして本体1の総合的な制御を行う制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0018】
図3は、管理者用コンピュータ40を示す図である。管理者用コンピュータ40はノートパソコン等の民生用コンピュータであり、図3に示すように、無線通信によって音声や映像などを遠隔地の作業機械と送受する無線通信アンテナ41と、管理者が発信する音声の発信目標位置を指定する管理者用キーボード42と、管理者が発信する発信音声を取得する管理者用マイク44と、本体1の前後左右の音声を管理者に発信する管理者用スピーカ46と、本体1の前後左右の光景を管理者に画像で表示する管理者用ディスプレイ48とを備えている。
【0019】
図4は、遠隔地の管理事務所の管理者と作業機械の通信形態のイメージを示す図である。通常、管理者が管理する作業機械は作業機械A、B、Cのように複数台存在し、それぞれが担当する工区を与えられて、別々の場所で施工を行う。管理者は、管理事務所から管理者用コンピュータ40を用いて、図中の各作業機械を遠隔管理する。管理者用コンピュータ40は、各作業機械の本体1のコントローラ30が有する無線通信アンテナ32と同様に無線通信アンテナ41を有しているので、例えば無線電話回線を利用してインターネットに接続して相互に情報の送受信を行うことが可能である。以下、作業機械Aを例に説明する。作業機械B及び作業機械Cについては、作業機械Aと同様であり、説明を省略する。
【0020】
図5は、コントローラ30及び管理者用コンピュータ40の制御系を示すブロック図である。コントローラ30と管理者用コンピュータ40は、上述したように無線通信アンテナ32、41を介して無線による接続が確立されており、相互に通信可能な状態であるものとして説明する。
【0021】
コントローラ30は、方位センサ14から車両方位信号を取り込んで現在車両方位RCとして記憶する現在車両方位記憶部301と、位置センサ16から車両位置信号を取り込んで現在車両位置PCとして記憶する現在車両位置記憶部302と、後述する発信目標位置取得部401から無線通信を通じて発信目標位置DTを取り込んで記憶する発信目標位置記憶部(発信目標位置設定部)303と、後述する発信音声取得部402から無線通信を通じて発信音声DVを取り込んで記憶する発信音声記憶部(発信音声取得部)304と、マイク24a~24dから周囲音声信号を取り込んで周囲音声SSとして記憶する周囲音声記憶部(周囲状況取得部)305と、カメラ26a~26dから周囲画像信号を取り込んで周囲画像SPとして記憶する周囲画像記憶部(周囲状況取得部)306と、現在車両方位記憶部301、現在車両位置記憶部302及び発信目標位置記憶部303からの入力に応じて発信方向CD、発信音量CPを演算する発信方向音量演算部310と、発信方向音量演算部310、発信音声記憶部304からの入力に応じて音声信号を生成し、スピーカ22a~22dに発信する音声発信部(音声出力部)320と、周囲音声記憶部305から周囲音声SSを取り込んで無線通信により後述する周囲音声提示部403に送信する周囲音声送信部(周囲状況出力部)330と、周囲画像記憶部306から周囲画像SPを取り込んで無線通信により後述する周囲画像提示部404に送信する周囲画像送信部(周囲状況出力部)340とを備えている。
【0022】
管理者用コンピュータ40は、管理者用キーボード42から管理者操作信号を取り込んで、管理者の入力操作に応じた発信目標位置DTを演算して無線通信により発信目標位置記憶部303に送信する発信目標位置取得部401と、管理者用マイク44から管理者音声信号を取り込んで、発信音声DVとして無線通信により発信音声記憶部304に送信する発信音声取得部402と、周囲音声送信部330から周囲音声SSを取り込んで、提示用周囲音声信号を生成し、管理者用スピーカ46に出力する周囲音声提示部403と、周囲画像送信部340から周囲画像SPを取り込んで、提示用周囲画像信号を生成し、管理者用ディスプレイ48に出力する周囲画像提示部404とを備えている。
【0023】
図6は、管理者の管理者用コンピュータ40と作業機械のコントローラ30に対する操作及び管理者用コンピュータ40とコントローラ30間の送受信を含む管理者用コンピュータ40とコントローラ30の各制御のシーケンスを示す図である。
【0024】
同図に示すように、管理者が作業機械の電源をONにするとともに管理者用コンピュータ40の電源をONにすると、作業機械のコントローラ30とともに管理者用コンピュータ40が立ち上がり、作業機械のコントローラ30による本体1の各種作動制御が可能になるとともに管理者用コンピュータ40と作業機械のコントローラ30間の通信が開始される。
【0025】
以下、図6に沿い、管理者の操作、管理者用コンピュータ40及び作業機械のコントローラ30の本発明に係る制御内容について説明する。管理者用コンピュータ40及び作業機械のコントローラ30の当該制御は、管理者が管理者用コンピュータ40の電源をOFFにするとともに作業機械の電源をOFFにするまで周期的に実施され続ける(電源ON中ループ処理)。
【0026】
作業機械のコントローラ30は、周囲音声記憶部305において、マイク24a~24dから周囲音声信号を周囲音声SSとして取り込み(ステップS201)、周囲画像記憶部306において、カメラ26a~26dから周囲画像信号を周囲画像SPとして取り込む(ステップS202)。
【0027】
そして、コントローラ30は、周囲音声送信部330において、周囲音声記憶部305から周囲音声SSを読み出し、管理者用コンピュータ40の周囲音声提示部403に送信し(ステップS203)、周囲画像送信部340において、周囲画像記憶部306から周囲画像SPを読み出し、管理者用コンピュータ40の周囲画像提示部404に送信する(ステップS204)。
【0028】
また、コントローラ30は、現在車両方位記憶部301において、方位センサ14から車両方位信号を取り込み(ステップS205)、現在車両位置記憶部302において、位置センサ16から車両位置信号を取り込む(ステップS206)。
【0029】
管理者用コンピュータ40は、周囲音声提示部403において、周囲音声送信部330から周囲音声SSを取り込み(ステップS101)、周囲音声SSを基に提示用周囲音声信号を生成し、これを管理者用スピーカ46に出力する(ステップS103)。また、管理者用コンピュータ40は、周囲画像提示部404において、周囲画像送信部340から周囲画像SPを取り込み(ステップS102)、周囲画像SPを基に提示用周囲画像信号を生成し、これを管理者用ディスプレイ48に出力する(ステップS104)。
【0030】
図7は、管理者用コンピュータ40が管理者用ディスプレイ48を介して管理者に表示する表示インタフェースの一例を示す図である。このように、管理者用コンピュータ40は、本体1に搭載したカメラ26a~26dから取得した画像を用いて、管理者に本体1の周囲状況を管理者用ディスプレイ48に視覚的に提示する。
【0031】
管理者用ディスプレイ48の画面左側には、管理者の発信音声を発信する作業機械の選択状況が表示される。管理対象の作業機械A、作業機械B、作業機械Cが選択可能項目として並んでおり、ここでは上述したように作業機械Aが選択されている様子が白抜矢印で示されている。
【0032】
選択項目の変更は、管理者用キーボード42の操作によって可能であり、選択された作業機械、ここでは作業機械Aについて周囲情報の提示及び発信音声の発信が実施される。
管理者用ディスプレイ48の画面右側には、作業機械Aの本体1における前方のカメラ26aの光景Ca、左方のカメラ26bの光景Cb、後方のカメラ26cの光景Cc、右方のカメラ26dの光景Cdが並べて表示され、各画像内には周囲作業者の位置及び遠近状況が模式的に表現される。
【0033】
管理者用ディスプレイ48の画面中央には、各光景Ca、Cb、Cc、Cdを変形して合成した全周囲画像が表示される。この全周囲画像は、本体1を上空から俯瞰した様子を模擬するものであり、周囲の作業者の位置が模式的に表現されている。
【0034】
管理者用ディスプレイ48に表示される周囲作業者の位置及び遠近状況を視た管理者は、発信が必要な周囲作業者がいる場合には、表示された周囲作業者の中から発信する作業者を選択すべく管理者用キーボード42を操作して発信目標位置を指定する。これにより、発信目標位置取得部401に管理者操作信号が取り込まれる(ステップS105)。
【0035】
発信目標位置取得部401では、取り込んだ管理者操作信号に基づいて管理者が指示する発信目標位置DTを演算し、発信目標位置記憶部303に出力する(ステップS106)。
具体的には、管理者は、図7に示すように、管理者用ディスプレイ48に表示される全周囲画像及び前後左右のカメラ26a~26dの各画像を見ながら意思疎通を図りたい作業者の位置を確認し、管理者用キーボード42の操作によって矢印カーソル及び十字線を動かすことで発信目標位置を指定する。図中に記載の(CTx、CTy)は、ディスプレイ表示用の座標系(ピクセル単位)での発信目標位置の座標である。発信目標位置取得部401では、この座標を、本体1の中央位置及び前方を基準としたローカル座標系(メートル単位)になるように座標変換し、発信目標位置DT(DTx、DTy)を得る。このようにして求められた発信目標位置DTがコントローラ30の発信目標位置記憶部303に出力される。
【0036】
コントローラ30では、発信目標位置記憶部303において、発信目標位置取得部401から発信目標位置DTを取り込む(ステップS207)。
管理者は、発信する作業者を選択した後、管理者用マイク44に音声を発信し、管理者用コンピュータ40は、発信音声取得部402において、管理者音声信号を発信音声DVとして取り込み(ステップS107)、発信目標位置記憶部303に向けて発信音声DVの送信処理を行う(ステップS108)。
【0037】
コントローラ30では、発信音声記憶部304において、発信音声取得部402から発信音声DVを取り込む(ステップS208)。そして、発信方向音量演算部310において、発信方向CD及び発信音量CPを演算する(ステップS210)。
【0038】
発信方向CD及び発信音量CPの演算は、図8のフローチャートに沿い実行される。
先ず、現在車両方位記憶部301から現在車両方位RCを読み出すとともに現在車両位置記憶部302から現在車両位置PCを読み込み(ステップS211)、発信目標位置記憶部303から発信目標位置DTを発信目標位置PTとして読み込む(ステップS212)。そして、これら現在車両方位RC、現在車両位置PC及び発信目標位置PTに基づいて発信方向音量ベクトルVTを演算する(ステップS213)。
【0039】
発信方向音量ベクトルVTは、スピーカ22a~22dから出力する音声の方向及び音量を定めるもので、本体1の現在車両位置PCを始点、発信目標位置PTを終点とする二次元ベクトルである。
【0040】
ところで、本実施形態におけるスピーカ22a~22dは、それぞれ指向性を有した指向性スピーカで構成されている。図9に示すように、指向性スピーカ単体の減衰特性は、前方に減衰小、後方に減衰大に設定されている。この指向性により、音声を発する方向の限定が可能であり、図10にはスピーカ22a~22dの4つの指向性スピーカによる発信音声のカバー範囲がイメージ図で示されているが、スピーカ22a~22dは、それぞれ本体1の前後左右の各外方に向けてのみ音声を発するよう構成されている。
【0041】
このような指向性スピーカを移動体である作業機械で使う場合、発信目標位置PTに届く音声の音量を保つ為、即ち移動しても届く発信音声の音量の変化が少なくなるようにするには、本体1の移動及び旋回を考慮して、発信方向及び発信音量を定める必要がある。
【0042】
例えば、図11に示すように、本体1が発信目標位置PTの前を旋回しながら横切るように移動する状況を想定する。この場合、本体1は、図中の位置PC1、PC2、PC3の順に移動する。図12は、本体1が図11に示すように移動した場合の発信方向音量ベクトルVTの変化を示している。
【0043】
先ず、発信目標位置PTは、本体1が位置PC1にいるときに設定され固定される。ここでは、本体1が位置PC1にいるとき、カメラ26aから取得した画像に基づき本体1の前方に位置する作業者を発信目標位置PTとして取り込んだ場合を示している。
【0044】
これにより、発信目標位置PTの位置が特定され、現在車両方位RC、現在車両位置PCと当該発信目標位置PTとに基づき発信方向音量ベクトルVTが演算される。即ち、本体1が位置PC1にいるときの発信目標位置PTに向けた発信方向音量ベクトルVTがベクトルVT1として求められる。この場合には、ベクトルVT1の向きは本体1の前方(図の上方向)となる。なお、音量と音声が届く距離との関係が予め設定されており、ベクトルVT1の大きさは、本体1から発信目標位置PTまで音声が届く音量に対応した大きさとして演算される。
【0045】
本体1が位置PC2にいるときには、発信目標位置PTはカメラ26dから取得した画像に基づき本体1の左方に位置することになり、発信目標位置PTに向けた発信方向音量ベクトルVTがベクトルVT2として求められる。この場合には、ベクトルVT2の向きは本体1の左方(図の左上方向)となり、本体1から発信目標位置PTへの距離は、本体1が位置PC1にいたときよりも小さく、故にベクトルVT2の大きさはベクトルVT1よりも小さくなる。
【0046】
本体1がPC3にいるときには、発信目標位置PTはカメラ26cから取得した画像に基づき本体1の後方に位置することになり、発信目標位置PTに向けた発信方向音量ベクトルVTが図中のVT3として求められる。この場合には、VT3の向きは本体1の後方(図の左方向)となり、本体1から発信目標位置PTへの距離は、本体1が位置PC1にいたときとほぼ同じであり、故にベクトルVT3の大きさはベクトルVT1とほぼ同じになる。
【0047】
図13を参照すると、本体1の移動及び旋回を考慮しなかった補正なしの場合(a)と考慮した補正ありの場合(b)における、発信方向音量ベクトルVT及び図10に基づくスピーカ22a~22dによる発信音声の広がり方がイメージ図で示されている。
【0048】
同図(a)に示すように、本体1の移動及び旋回を考慮しなかった場合には、本体1が位置PC1にいるときに発信目標位置PTを設定し、発信方向音量ベクトルVTをベクトルVT1として求めて以降、ベクトルVT1が保持され、本体1と発信目標位置PTの相対的な位置変化が反映されず、本体1が位置PC3まで移動したときには、発信する音声が発信目標位置PTに全く届かない状況となる。
【0049】
これに対し、同図(b)に示すように、上述したように本体1の移動及び旋回を考慮した場合には、本体1が位置PC1、PC2、PC3の順に移動すると、発信目標位置PTに向けた発信方向音量ベクトルVTは、本体1の前方に向けたベクトルVT1、本体1の左方に向けたVT2、本体1の後方に向けたVT3のように変化し、発信する音声が発信目標位置PTに良好に届く状況となる。
【0050】
なお、好ましくは、発信方向音量ベクトルVTにおいて、速度センサ12により検出される走行速度情報に基づき、本体1の走行速度ベクトルVCを相殺する速度補正を行うのがよい。図14には、本体1が位置PC2にいるときにベクトルVT2をこの位置での走行速度ベクトルであるベクトルVC2で相殺してベクトルVT2’とした場合が例示されているが、このように本体1の走行速度で発信方向音量ベクトルVTを速度補正することで、より適切な発信方向CD、発信音量CPを求めることができる。
【0051】
図8に戻り、発信方向音量演算部310において、発信方向音量ベクトルVTに基づいて発信方向CD、発信音量CPを演算する(ステップS214)。
ここでは、発信方向音量ベクトルVTの方向を発信方向CDとして演算し、発信方向音量ベクトルVTの大きさを発信音量CPとして演算する。発信方向CDについては角度(deg)で定義し、発信音量CPについては音圧レベル(dB)で定義する。具体的には、発信方向CDについては、本体1の右方を0°として上方、左方、後方の順に左回り(反時計回り)に360°まで角度を定義した場合に、本体1における発信方向音量ベクトルVTの方向がいずれの角度となるかを演算する。発信音量CPについては、発信方向音量ベクトルVTの大きさに適切な定数を乗算して演算する。
【0052】
そして、音声発信部320において、発信方向音量演算部310から読み出す発信方向CD、発信音量CPに基づいて、発信音声記憶部304から読み出す発信音声DVを加工した音声信号を生成し、スピーカ22a~22dのいずれかに出力する(ステップS220)。
【0053】
具体的には、音声信号は、スピーカ22a~22dを構成する前後左右の4つのスピーカに対応した4つのチャネルを持っており、図15には発信方向CDの角度情報に基づいて出力するスピーカ22a~22dのいずれかを選択する図が示されているが、同図に示すように、演算により求められた発信方向CDの角度(0°~360°)に応じてスピーカ22a~22dから出力するスピーカ(出力するチャネル)を1つ選択するとともに発信音量CPが示す音圧レベルとなるように発信音声DVを加工することで得られる。
【0054】
以上、説明したように、本発明に係る作業機械によれば、本体1の現在車両方位RCを検出する方位センサ14と、本体1の現在車両位置PCを検出する位置センサ16と、本体1の周囲の任意方向に放音する前方スピーカ22a、左方スピーカ22b、後方スピーカ22c及び右方スピーカ22dからなる全方位スピーカとを備え、コントローラ30は、本体1の周囲状況として周囲音声SS及び周囲画像SPを取得する周囲音声記憶部305及び周囲画像記憶部306と、周囲状況を作業現場の管理者に報知する周囲音声送信部330及び周囲画像送信部340と、管理者の発信音声DVを取得する発信音声記憶部304と、管理者が音声を伝達したい周囲作業者等の位置である発信音声DVの発信目標位置PTを設定する発信目標位置記憶部303と、発信目標位置PT、現在車両方位RC及び現在車両位置PCに基づいて発信方向音量ベクトルVTを求め、発信方向音量ベクトルVTに基づき、発信目標位置PTに届く発信音声DVの音量の変化が少なくなるよう、発信音声DVの発信方向CD及び発信音量CPを演算する発信方向音量演算部310と、発信方向音量演算部310の演算結果に基づいて、発信音声DVを加工して音声信号を生成し、音声信号を全方位スピーカに出力する音声発信部320とを有している。
【0055】
従って、管理者が音声を伝達したい周囲作業者等の位置と作業機械の位置及び方向に基づいて、管理者からの発信音声DVの発信方向CD及び発信音量CPを適切に演算し、管理者が音声を伝達したい周囲作業者等に向けて全方位スピーカで音声を発することができる。これにより、作業機械の管理者と周囲作業者の間で、安全や手元作業の段取りに関わる意思疎通を図ることが可能となる。その結果、無人で稼働する作業機械であっても、周囲作業者の安全を確保しながら周囲作業者から手元作業の協力を受けることができる。
【0056】
また、管理者と周囲作業者とは、本体1に搭載したスピーカ22a~22d及びマイク24a~24dを通じて音声を双方向で通信可能である。これにより、周囲作業者は、有人の作業機械と同様に、作業機械の管理者と対話することができる。また、工事現場に迷い込んだ一般人などに対しても、施工予定場所で危ないため近寄らないように等、状況に応じた指示や警告を伝えることが可能である。
【0057】
また、全方位スピーカとしてのスピーカ22a~22dをそれぞれ指向性スピーカとし、音声の放音範囲を限定することにより、無駄な方向に放音して騒音を生じさせることを抑制できる。周囲作業者にとっては、自分に向けて発せられた音声であるか否かを認識しやすくなり、自分以外に向けて発せられた音声によって作業を妨げられることを減らすことができる。
【0058】
以上で本発明に係る作業機械の説明を終えるが、本発明の実施形態は上記実施形態に限定するものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、前方スピーカ22a、左方スピーカ22b、後方スピーカ22c及び右方スピーカ22dからなる4つの指向性スピーカで全方位スピーカを構成し、これら4つの指向性スピーカのいずれか1つを選択して音声を発するようにしたが、音声を発するスピーカは少なくともいずれか1つ以上であればよく、複数のスピーカから音声を分配して発するようにしてもよい。例えば、発信方向CDの角度が135°(左前方)であるときに、図15では左方スピーカ22bからのみ発するとした音声を前方スピーカ22aと左方スピーカ22bとに分配するようにしてもよい。
【0059】
また、全方位スピーカは、上記前方スピーカ22a、左方スピーカ22b、後方スピーカ22c及び右方スピーカ22dからなる4つの指向性スピーカに限定するものではなく、個数と設置場所は任意に変更可能であり、全方位のいずれかの方向に任意に放音可能であれば、回転可能な雲台に取り付けた指向性スピーカ、アレイスピーカのような配列状スピーカ、無指向性スピーカ等を利用するようにしてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、作業機械として転圧車両であるタイヤローラを例に説明したが、作業機械は、タイヤローラに限定するものではなく、油圧ショベル、ホイールローダ等であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 本体
2 本体フレーム
3、4 転圧ローラ(走行装置)
10 位置センサ(車両位置情報取得装置)
14 方位センサ(方位検出装置)
16 位置センサ(位置検出装置)
22a 前方スピーカ(全方位スピーカ)
22b 左方スピーカ(全方位スピーカ)
22c 後方スピーカ(全方位スピーカ)
22d 右方スピーカ(全方位スピーカ)
24a~24d マイク
26a~26d カメラ
30 コントローラ
40 管理者用コンピュータ
301 現在車両方位記憶部
302 現在車両位置記憶部
303 発信目標位置記憶部(発信目標位置設定部)
304 発信音声記憶部(発信音声取得部)
305 周囲音声記憶部(周囲状況取得部)
306 周囲画像記憶部(周囲状況取得部)
310 発信方向音量演算部
320 音声発信部(音声出力部)
330 周囲音声送信部(周囲状況出力部)
340 周囲画像送信部(周囲状況出力部)
401 発信目標位置取得部
402 発信音声取得部
403 周囲音声提示部
404 周囲画像提示部
図1
図2
図3
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