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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
G01N27/416 331
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019176038
(22)【出願日】2019-09-26
(62)【分割の表示】P 2019524093の分割
【原出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2019215380
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】P 2017249914
(32)【優先日】2017-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】中垣 邦彦
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-173014(JP,A)
【文献】特開2001-133447(JP,A)
【文献】特開2013-221931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0242426(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0161242(US,A1)
【文献】国際公開第2017/222002(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/407
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1目的成分と第2目的成分の濃度を測定するガスセンサであって、
少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成された第1センサセル及び第2センサセルと、加熱手段とを有するセンサ素子と、
前記センサ素子の温度を制御する温度制御手段と、
酸素濃度制御手段と、
目的成分濃度取得手段と、を有し、
前記第1センサセル及び第2センサセルは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部、第2室、第3拡散律速部及び測定室を具備し、
前記第1センサセルの前記測定室は、第1目的成分測定ポンプセルを具備し、
前記第2センサセルの前記測定室は、第2目的成分測定ポンプセルを具備し、
前記酸素濃度制御手段は、前記第1センサセルの前記第1室及び前記第2室の酸素濃度並びに前記第2センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御し、
前記目的成分濃度取得手段は、
前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差に基づいて、前記第2目的成分の濃度を取得し、
前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値により、前記第1目的成分と前記第2目的成分の合計濃度を取得し、
前記合計濃度から前記第2目的成分の濃度を差し引いて前記第1目的成分の濃度を取得し、
前記第1センサセルと前記第2センサセルは、前記加熱手段を挟んで前記センサ素子の厚み方向に略対称に配置されている、ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記加熱手段は、ヒータと該ヒータの上下面に形成されたヒータ絶縁層とを有する、ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガスセンサにおいて、
前記第1センサセルの前記第1室内に配された予備調整ポンプセルと、前記第1センサセルの前記第2室内に配された第1酸素濃度調整ポンプセルと、前記第2センサセルの前記第2室内に配された第2酸素濃度調整ポンプセルと、を具備し、
前記酸素濃度制御手段は、
前記予備調整ポンプセルを制御して前記第1センサセルの前記第1室の酸素濃度を制御する予備酸素濃度制御手段と、
前記第1酸素濃度調整ポンプセルを制御して前記第1センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御する第1酸素濃度制御手段と、
前記第2酸素濃度調整ポンプセルを制御して前記第2センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御する第2酸素濃度制御手段と、を有する、ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記第1センサセルの前記第2室は、前記第1センサセルの前記第1室に連通する第1主調整室と、前記第1主調整室に連通する第1副調整室とを有し、
前記第2センサセルの前記第2室は、前記第2センサセルの前記第1室に連通する第2主調整室と、前記第2主調整室に連通する第2副調整室とを有し、
前記第1センサセルの前記測定室は、前記第1副調整室に連通し、
前記第2センサセルの前記測定室は、前記第2副調整室に連通している、ガスセンサ。
【請求項5】
請求項4記載のガスセンサにおいて、
前記第1主調整室と前記第1副調整室との間、並びに前記第2主調整室と前記第2副調整室との間に、それぞれ第4拡散律速部を有する、ガスセンサ。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記第1センサセルの前記第1室及び前記第2室、並びに前記第2センサセルの前記第2室にそれぞれポンプ電極を有し、
前記第1センサセルの前記測定室及び前記第2センサセルの前記測定室にそれぞれ測定電極を有し、
各前記ポンプ電極は、各前記測定電極よりも触媒活性が低い材料で構成されている、ガスセンサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記第1目的成分がNO、前記第2目的成分がNH3である、ガスセンサ。
【請求項8】
請求項7記載のガスセンサにおいて、
前記酸素濃度制御手段は、
前記第1センサセルの前記第1室内のNOを分解させることなく、NH3を酸化する条件で前記第1室内の酸素濃度を制御し、
前記第2センサセルの前記第2室内のNOを分解させることなく、NH3を酸化する条件で前記第2室内の酸素濃度を制御する、ガスセンサ。
【請求項9】
請求項7又は8記載のガスセンサにおいて、
前記目的成分濃度取得手段は、
予め実験的に測定した、前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差とでそれぞれNO濃度及びNH3濃度の関係が特定された第1マップを使用し、
実使用中の前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差を、前記第1マップと比較して、NO及びNH3の各濃度を求める、ガスセンサ。
【請求項10】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガスセンサにおいて、
前記第1目的成分がNO、前記第2目的成分がNO2である、ガスセンサ。
【請求項11】
請求項10記載のガスセンサにおいて、
前記酸素濃度制御手段は、
前記第1センサセルの前記第1室内のNOを分解させることなく、NO2を分解する条件で前記第1室内の酸素濃度を制御し、
前記第2センサセルの前記第2室内のNOを分解させることなく、NO2を分解する条件で前記第2室内の酸素濃度を制御する、ガスセンサ。
【請求項12】
請求項10又は11記載のガスセンサにおいて、
前記目的成分濃度取得手段は、
予め実験的に測定した、前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差とでそれぞれNO濃度及びNO2濃度の関係が特定された第2マップを使用し、
実使用中の前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差を、前記第2マップと比較して、NO及びNO2の各濃度を求める、ガスセンサ。
【請求項13】
請求項記載のガスセンサにおいて、
前記第2酸素濃度調整ポンプセルに流れるポンプ電流値に基づいて酸素濃度を測定する前記酸素濃度制御手段を有する、ガスセンサ。
【請求項14】
請求項1記載のガスセンサにおいて、
前記第2センサセルは、前記ガス導入口と前記第2室とが前記第1拡散律速部を介して直接連通した素子構造を有し、前記第2センサセルの前記第1拡散律速部の拡散抵抗値が、前記第1センサセルのガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部の拡散抵抗値の合計値と略同等である、ガスセンサ。
【請求項15】
請求項4記載のガスセンサにおいて、
前記第1センサセルの前記第1副調整室並びに前記第2センサセルの前記第2副調整室を省略した、ガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の複数目的成分の各濃度を測定することが可能なガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直列2室構造を持ったNOxセンサ(直列2室型NOxセンサ)、及びそれを用いたNOx測定方法(例えば特許文献1参照)や、酸化物半導体電極を用いた混成電位型、あるいは抵抗変化型のNOセンサ、あるいはNHセンサが知られている(例えば特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
また、酸化物半導体電極の混成電位を用いてNH濃度を測定する方法が知られている。この方法は、NOx濃度を別のセンサで測定し、NO、NOが存在しない場合は酸化物半導体電極の混成電位をそのまま使用し、NO、NOが存在する場合は酸化物半導体電極の混成電位に補正を加える方法である(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-200643号公報
【文献】特開2013-068632号公報
【文献】特開2009-243942号公報
【文献】特表2009-511859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、各国のCO排出量規制が強化される傾向にあり、ディーゼル車の普及率が増えつつある。希薄燃焼を用いるディーゼルエンジンは、CO排出量が少ない代わりに過剰な酸素を含む排気ガス中のNOx浄化が困難であるという欠点を持つ。そのため、CO排出量規制の強化と同様に、NOx排出量の規制も強化されつつある。現在は、CO排出量、すなわち、燃料消費量を損なわずにNOx浄化が行える選択還元型触媒システム(以下、SCRシステムと記す)がNOx浄化の主流を占めている。SCRシステムは、注入した尿素を排気ガスと反応させてアンモニアを生成し、アンモニアとNOxを反応させてNとOに分解する。このSCRシステムにおいて、NOx浄化効率を100%に近づけるためには、尿素の注入量を増やす必要があるが、尿素注入量を増やすと未反応のアンモニアが大気に排出されるおそれがある。このため、NOxとアンモニアを区別できるセンサが求められている。
【0006】
さらには、米国において、酸化触媒(以下、DOC触媒と記す)、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、DPFと記す)、選択還元型触媒(以下、SCR触媒と記す)の個別故障診断の義務付けに対する準備が進められている。DPF、SCR触媒の故障診断は、既存のPMセンサ、NOxセンサで可能であるが、DOC触媒に対しては有効な故障診断手段が見つかっていない。現在は、200℃以下の低温時のDOC触媒下流に漏れ出す炭化水素(以下、HCと記す)量を測定する方法や、DOC触媒下流に排出されるNOとNOの比率から故障を判断する方法等が推奨されている。特に、NOとNOの比率におけるNOの減少は、HC流出量の増大よりも早期に起こるため、より安全な故障診断方法として期待されている。このため、NOとNOを区別できるセンサが求められている。
【0007】
上述した特許文献1記載のNOxセンサ及びNOx測定方法は、NO、NO、NHをNOに変換し、変換後のNOを分解して発生したOの量、もしくは濃度を測定する。そのため、NO、NO、NHの総量は測定できても各々を区別することができなかった。
【0008】
特許文献2及び特許文献3記載の酸化物半導体電極は、NO、NOの選択性に優れている反面、NOとNOに対する感度の出力特性が正負逆であるため、NOとNOが共存する雰囲気下では、正しくNO、もしくはNO濃度を測定することができなかった。
【0009】
特許文献4記載のセンサは、酸化物半導体電極の排気ガス中における不安定さ、及び基板との密着強度の弱さから、長期間にわたり精度良くNH濃度を測定することが困難であった。
【0010】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数成分(例えばNO、NO、NH)の濃度を長期間にわたり精度よく測定することができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1] 本発明の一態様は、第1目的成分と第2目的成分の濃度を測定するガスセンサであって、少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体と、前記構造体に形成された第1センサセル及び第2センサセルとを有するセンサ素子と、前記センサ素子の温度を制御する温度制御手段と、酸素濃度制御手段と、目的成分濃度取得手段と、を有し、前記第1センサセル及び第2センサセルは、それぞれガスの導入方向に向かって、ガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部、第2室、第3拡散律速部及び測定室を具備し、前記第1センサセルの前記測定室は、第1目的成分測定ポンプセルを具備し、前記第2センサセルの前記測定室は、第2目的成分測定ポンプセルを具備し、前記酸素濃度制御手段は、前記第1センサセルの前記第1室及び前記第2室の酸素濃度並びに前記第2センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御し、前記目的成分濃度取得手段は、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差に基づいて、前記第2目的成分の濃度を取得し、前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値により、前記第1目的成分と前記第2目的成分の合計濃度を取得し、前記合計濃度から前記第2目的成分の濃度を差し引いて前記第1目的成分の濃度を取得する。
【0012】
[2] 本発明の一態様において、前記第1センサセルの前記第1室内に配された予備調整ポンプセルと、前記第1センサセルの前記第2室内に配された第1酸素濃度調整ポンプセルと、前記第2センサセルの前記第2室内に配された第2酸素濃度調整ポンプセルと、を具備し、前記酸素濃度制御手段は、前記予備調整ポンプセルを制御して前記第1センサセルの前記第1室の酸素濃度を制御する予備酸素濃度制御手段と、前記第1酸素濃度調整ポンプセルを制御して前記第1センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御する第1酸素濃度制御手段と、前記第2酸素濃度調整ポンプセルを制御して前記第2センサセルの前記第2室の酸素濃度を制御する第2酸素濃度制御手段と、を備えてもよい。
【0013】
[3] 本発明の一態様において、前記第1センサセルの前記第2室は、前記第1センサセルの前記第1室に連通する第1主調整室と、前記第1主調整室に連通する第1副調整室とを有し、前記第2センサセルの前記第2室は、前記第2センサセルの前記第1室に連通する第2主調整室と、前記第2主調整室に連通する第2副調整室とを有し、前記第1センサセルの前記測定室は、前記第1副調整室に連通し、前記第2センサセルの前記測定室は、前記第2副調整室に連通してもよい。
【0014】
[4] 本発明の一態様において、前記第1主調整室と前記第1副調整室との間、並びに前記第2主調整室と前記第2副調整室との間に、それぞれ第4拡散律速部を備えてもよい。
【0015】
[5] 本発明の一態様において、前記第1センサセルの前記第1室及び前記第2室、並びに前記第2センサセルの前記第2室にそれぞれポンプ電極を有し、前記第1センサセルの前記測定室及び前記第2センサセルの前記測定室にそれぞれ測定電極を有し、各前記ポンプ電極は、各前記測定電極よりも触媒活性が低い材料で構成されてもよい。
【0016】
[6] 本発明の一態様において、前記第1目的成分がNO、前記第2目的成分がNHであってもよい。
【0017】
[7] 本発明の一態様において、前記酸素濃度制御手段は、前記第1センサセルの前記第1室内のNOを分解させることなく、NHを酸化する条件で前記第1室内の酸素濃度を制御し、前記第2センサセルの前記第2室内のNOを分解させることなく、NHを酸化する条件で前記第2室内の酸素濃度を制御してもよい。
【0018】
[8] 本発明の一態様において、前記目的成分濃度取得手段は、予め実験的に測定した、前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差とでそれぞれNO濃度及びNH濃度の関係が特定された第1マップを使用し、実使用中の前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差を、前記第1マップと比較して、NO及びNHの各濃度を求めてもよい。
【0019】
[9] 本発明の一態様において、前記第1目的成分がNO、前記第2目的成分がNOであってもよい。
【0020】
[10] 本発明の一態様において、前記酸素濃度制御手段は、前記第1センサセルの前記第1室内のNOを分解させることなく、NOを分解する条件で前記第1室内の酸素濃度を制御し、前記第2センサセルの前記第2室内のNOを分解させることなく、NOを分解する条件で前記第2室内の酸素濃度を制御してもよい。
【0021】
[11] 本発明の一態様において、前記目的成分濃度取得手段は、予め実験的に測定した、前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差とでそれぞれNO濃度及びNO濃度の関係が特定された第2マップを使用し、実使用中の前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と、前記第1目的成分測定ポンプセルに流れる電流値と前記第2目的成分測定ポンプセルに流れる電流値との差を、前記第2マップと比較して、NO及びNOの各濃度を求めてもよい。
【0022】
[12] 本発明の一態様において、前記第2酸素濃度調整ポンプセルに流れるポンプ電流値に基づいて酸素濃度を測定する酸素濃度制御手段を具備してもよい。
【0023】
[13] 本発明の一態様において、前記第1センサセルの少なくとも前記第2室の外側に配された第1外側ポンプ電極と、前記第2センサセルの少なくとも前記第2室の外側に配された第2外側ポンプ電極とが共通化されてもよい。
【0024】
[14] 本発明の一態様において、前記第1目的成分測定ポンプセルは、前記第1センサセルの前記測定室内に配された第1測定電極と、前記センサ素子の基準ガス導入空間に配された第1基準電極とを有し、前記第2目的成分測定ポンプセルは、前記第2センサセルの前記測定室内に配された第2測定電極と、前記センサ素子の前記基準ガス導入空間に配された第2基準電極とを有し、前記第1基準電極と前記第2基準電極とが共通化されていてもよい。
【0025】
[15] 本発明の一態様において、前記第2センサセルは、前記ガス導入口と前記第2室とが前記第1拡散律速部を介して直接連通した素子構造を有し、前記第2センサセルの前記第1拡散律速部の拡散抵抗値が、前記第1センサセルのガス導入口、第1拡散律速部、第1室、第2拡散律速部の拡散抵抗値の合計値と略同等としてもよい。
【0026】
[16] 本発明の一態様において、前記第1センサセルの前記第1副調整室並びに前記第2センサセルの前記第2副調整室を省略してもよい。これにより、本発明が使用される環境の酸素濃度変化による第1センサセル及び第2センサセルの出力補正手段を追加することができる。
【0027】
[17] 本発明の一態様において、前記第1センサセルと前記第2センサセルは、前記センサ素子の厚み方向に略対称に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るガスセンサによれば、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数成分(例えばNO、NO、NH)の濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】第1の実施の形態に係るガスセンサ(第1ガスセンサ)及び第2の実施の形態に係るガスセンサ(第2ガスセンサ)の一構造例を示す断面図(図2におけるI-I線上の断面図:破断線を省略)である。
図2】第1ガスセンサ及び第2ガスセンサの第1センサセルの一構造例を示す断面図(図1におけるII-II線上の断面図)である。
図3】第1ガスセンサ及び第2ガスセンサの第2センサセルの一構造例を示す断面図(図1におけるIII-III線上の断面図)である。
図4】第1ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図5】第1ガスセンサにおける第1センサセルの予備調整室内、第1酸素濃度調整室内及び第1測定室内、並びに第2センサセルの拡散抵抗調整室内、第2酸素濃度調整室内及び第2測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
図6】第1ガスセンサで使用される第1マップをグラフ化して示す図である。
図7】第1ガスセンサで使用される第1マップを表形式で示す説明図である。
図8】第1マップの確からしさを確認するための測定結果を表形式で示す説明図である。
図9】第2ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図10】第2ガスセンサにおける第1センサセルの予備調整室内、第1酸素濃度調整室内及び第1測定室内、並びに第2センサセルの拡散抵抗調整室内、第2酸素濃度調整室内及び第2測定室内の反応を模式的に示す説明図である。
図11】第3の実施の形態に係るガスセンサ(第3ガスセンサ)の一構造例を示す断面図(破断線を省略)である。
図12】第3ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図13】第4の実施の形態に係るガスセンサ(第4ガスセンサ)の一構造例を示す断面図(破断線を省略)である。
図14】第4ガスセンサを模式的に示す構成図である。
図15】第5の実施の形態に係るガスセンサ(第5ガスセンサ)の一構造例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るガスセンサの実施の形態例を図1図15を参照しながら説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味として使用される。
【0031】
先ず、第1の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第1ガスセンサ10Aと記す)は、図1図3に示すように、センサ素子12を有する。センサ素子12は、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、構造体14に形成された第1センサセル15A及び第2センサセル15Bとを有する。
【0032】
ここで、構造体14の厚み方向を縦方向、構造体14の幅方向を横方向と定義すると、第1センサセル15Aと第2センサセル15Bは、構造体14中に、横方向に並んだ状態で設けられている。
【0033】
第1センサセル15Aは、図1に示すように、構造体14に形成され、被測定ガスが導入される第1ガス導入口16Aと、構造体14内に形成され、第1ガス導入口16Aに連通する第1酸素濃度調整室18Aと、構造体14内に形成され、第1酸素濃度調整室18Aに連通する第1測定室20Aとを有する。
【0034】
第1酸素濃度調整室18Aは、第1ガス導入口16Aに連通する第1主調整室18Aaと、第1主調整室18Aaに連通する第1副調整室18Abとを有する。第1測定室20Aは第1副調整室18Abに連通している。
【0035】
さらに、この第1センサセル15Aは、構造体14のうち、第1ガス導入口16Aと第1主調整室18Aaとの間に設けられ、第1ガス導入口16Aに連通する予備調整室22を有する。
【0036】
一方、第2センサセル15Bは、図3に示すように、構造体14に形成され、被測定ガスが導入される第2ガス導入口16Bと、構造体14内に形成され、第2ガス導入口16Bに連通する第2酸素濃度調整室18Bと、構造体14内に形成され、第2酸素濃度調整室18Bに連通する第2測定室20Bとを有する。
【0037】
第2酸素濃度調整室18Bは、第2ガス導入口16Bに連通する第2主調整室18Baと、第2主調整室18Baに連通する第2副調整室18Bbとを有する。第2測定室20Bは第2副調整室18Bbに連通している。
【0038】
さらに、この第2センサセル15Bは、構造体14のうち、第2ガス導入口16Bと第2主調整室18Baとの間に設けられ、第2ガス導入口16Bに連通する拡散抵抗調整室24(第2センサセル15Bの第1室)を有する。
【0039】
具体的には、図2及び図3に示すように、構造体14は、第1基板層26aと、第2基板層26bと、第3基板層26cと、第1固体電解質層28と、スペーサ層30と、第2固体電解質層32との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層されて構成されている。各層は、それぞれジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質層にて構成されている。
【0040】
図2に示すように、第1センサセル15Aは、センサ素子12の先端部側であって、第2固体電解質層32の下面と第1固体電解質層28の上面との間には、第1ガス導入口16Aと、第1拡散律速部34Aと、予備調整室22と、第2拡散律速部36Aと、第1酸素濃度調整室18Aと、第3拡散律速部38Aと、第1測定室20Aとが備わっている。また、第1酸素濃度調整室18Aを構成する第1主調整室18Aaと、第1副調整室18Abとの間に第4拡散律速部40Aが備わっている。
【0041】
これら第1ガス導入口16Aと、第1拡散律速部34Aと、予備調整室22と、第2拡散律速部36Aと、第1主調整室18Aaと、第4拡散律速部40Aと、第1副調整室18Ab、第3拡散律速部38Aと、第1測定室20Aとは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。第1ガス導入口16Aから第1測定室20Aに至る部位を、第1ガス流通部とも称する。
【0042】
第1ガス導入口16Aと、予備調整室22と、第1主調整室18Aaと、第1副調整室18Abと、第1測定室20Aは、スペーサ層30をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。予備調整室22と、第1主調整室18Aaと、第1副調整室18Abと、第1測定室20Aはいずれも、各上部が第2固体電解質層32の下面で、各下部が第1固体電解質層28の上面で、各側部がスペーサ層30の側面で区画されている。
【0043】
第2センサセル15Bについても同様に、図3に示すように、センサ素子12の先端部側であって、第2固体電解質層32の下面と第1固体電解質層28の上面との間には、第2ガス導入口16Bと、第1拡散律速部34Bと、拡散抵抗調整室24と、第2拡散律速部36Bと、第2酸素濃度調整室18Bと、第3拡散律速部38Bと、第2測定室20Bとが備わっている。また、第2酸素濃度調整室18Bを構成する第2主調整室18Baと、第2副調整室18Bbとの間に第4拡散律速部40Bが備わっている。
【0044】
これら第2ガス導入口16Bと、第1拡散律速部34Bと、拡散抵抗調整室24と、第2拡散律速部36Bと、第2主調整室18Baと、第4拡散律速部40Bと、第2副調整室18Bb、第3拡散律速部38Bと、第2測定室20Bとは、この順に連通する態様にて隣接形成されている。第2ガス導入口16Bから第2測定室20Bに至る部位を、第2ガス流通部とも称する。
【0045】
第2ガス導入口16Bと、拡散抵抗調整室24と、第2主調整室18Baと、第2副調整室18Bbと、第2測定室20Bは、スペーサ層30をくり抜いた態様にて設けられた内部空間である。拡散抵抗調整室24と、第2主調整室18Baと、第2副調整室18Bbと、第2測定室20Bはいずれも、各上部が第2固体電解質層32の下面で、各下部が第1固体電解質層28の上面で、各側部がスペーサ層30の側面で区画されている。
【0046】
第1センサセル15A及び第2センサセル15B共に、第1拡散律速部(34A、34B)、第3拡散律速部(38A、38B)及び第4拡散律速部(40A、40B)は、いずれも2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。第2拡散律速部(36A、36B)は、1本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられている。
【0047】
また、第3基板層26cの上面と、スペーサ層30の下面との間であって、それぞれ第1ガス流通部及び第2ガス流通部よりも先端側から遠い位置には、第1センサセル15A及び第2センサセル15Bに共通した基準ガス導入空間41が設けられている。基準ガス導入空間41は、上部がスペーサ層30の下面で、下部が第3基板層26cの上面で、側部が第1固体電解質層28の側面で区画された内部空間である。基準ガス導入空間41には、基準ガスとして、例えば酸素や大気が導入される。
【0048】
第1ガス導入口16A及び第2ガス導入口16Bは、外部空間に対して開口している部位であり、該第1ガス導入口16A及び第2ガス導入口16Bを通じて外部空間から第1センサセル15A内及び第2センサセル15B内に被測定ガスが取り込まれる。
【0049】
第1センサセル15Aの第1拡散律速部34Aは、第1ガス導入口16Aから予備調整室22に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。予備調整室22については後述する。第2センサセル15Bの第1拡散律速部34Bは、第2ガス導入口16Bから拡散抵抗調整室24に導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0050】
第1センサセル15Aの第2拡散律速部36Aは、予備調整室22から第1主調整室18Aaに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。第2センサセル15Bの第2拡散律速部36Bは、拡散抵抗調整室24から第2主調整室18Baに導入される被測定ガスに、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0051】
第1主調整室18Aaは、第1ガス導入口16Aから導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。酸素分圧は、後述する第1主ポンプセル42Aが作動することによって調整される。同様に、第2主調整室18Baは、第2ガス導入口16Bから導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられる。酸素分圧は、後述する第2主ポンプセル42Bが作動することによって調整される。
【0052】
第1主ポンプセル42Aは、第1主内側ポンプ電極44Aと、第1センサセル15A及び第2センサセル15Bで共通の外側ポンプ電極46と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される第1電気化学的ポンプセル(主電気化学的ポンピングセル)である。第1主内側ポンプ電極44Aは、第1主調整室18Aaを区画する第1固体電解質層28の上面、第2固体電解質層32の下面、及び、スペーサ層30の側面のそれぞれの略全面に設けられている。共通の外側ポンプ電極46は、第2固体電解質層32の上面のうち、第1主内側ポンプ電極44Aと対応する領域から第2主内側ポンプ電極44B(第2センサセル15B)と対応する領域にかけて外部空間に露出する態様で設けられている。
【0053】
第1主ポンプセル42Aは、センサ素子12の外部に備わる第1センサセル用の第1可変電源48Aにより第1ポンプ電圧Vp1を印加して、共通の外側ポンプ電極46と第1主内側ポンプ電極44Aとの間に第1ポンプ電流Ip1を流すことにより、第1主調整室18Aa内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1主調整室18Aa内に汲み入れることが可能となっている。
【0054】
また、第1センサセル15Aは、電気化学的センサセルである第1酸素分圧検出センサセル50Aを有する。この第1酸素分圧検出センサセル50Aは、第1主内側ポンプ電極44Aと、第3基板層26cの上面と第1固体電解質層28とに挟まれる共通の基準電極52と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成されている。共通の基準電極52は、共通の外側ポンプ電極46等と同様の多孔質サーメットからなり、平面視で略矩形状の電極である。また、共通の基準電極52の周囲には、多孔質アルミナからなり、且つ、共通の基準ガス導入空間41につながる共通の基準ガス導入層54が設けられている。すなわち、基準電極52の表面に、基準ガス導入空間41の基準ガスが基準ガス導入層54を介して導入されるようになっている。第1酸素分圧検出センサセル50Aは、第1主調整室18Aa内の雰囲気と基準ガス導入空間41の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して第1主内側ポンプ電極44Aと基準電極52との間に第1起電力V1が発生する。
【0055】
第1酸素分圧検出センサセル50Aにおいて生じる第1起電力V1は、第1主調整室18Aaに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。第1センサセル15Aは、上記第1起電力V1によって、第1主ポンプセル42Aの第1可変電源48Aをフィードバック制御する。これにより、第1可変電源48Aが第1主ポンプセル42Aに印加する第1ポンプ電圧Vp1を、第1主調整室18Aaの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0056】
第4拡散律速部40Aは、第1主調整室18Aaでの第1主ポンプセル42Aの動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第1副調整室18Abに導く部位である。
【0057】
第1副調整室18Abは、予め第1主調整室18Aaにおいて酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部40Aを通じて導入された被測定ガスに対して、さらに後述する第1補助ポンプセル56Aによる酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第1副調整室18Ab内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、この第1センサセル15Aは、精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0058】
第1補助ポンプセル56Aは、電気化学的ポンプセルであり、第1副調整室18Abに面する第2固体電解質層32の下面の略全体に設けられた第1補助ポンプ電極58Aと、共通の外側ポンプ電極46と、第2固体電解質層32とによって構成される。
【0059】
なお、第1補助ポンプ電極58Aについても、第1主内側ポンプ電極44Aと同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0060】
第1補助ポンプセル56Aは、第1補助ポンプ電極58Aと外側ポンプ電極46との間に所望の第2電圧Vp2を印加することにより、第1副調整室18Ab内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第1副調整室18Ab内に汲み入れることが可能となっている。
【0061】
また、第1副調整室18Ab内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、第1補助ポンプ電極58Aと、基準電極52と、第2固体電解質層32と、スペーサ層30と、第1固体電解質層28とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、第1補助ポンプ制御用の第2酸素分圧検出センサセル50Bが構成されている。
【0062】
なお、この第2酸素分圧検出センサセル50Bにて検出される第2起電力V2に基づいて電圧制御される第2可変電源48Bにて、第1補助ポンプセル56Aがポンピングを行う。これにより、第1副調整室18Ab内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0063】
また、これと共に、第1補助ポンプセル56Aの第2ポンプ電流値Ip2が、第2酸素分圧検出センサセル50Bの第2起電力V2の制御に用いられるようになっている。具体的には、第2ポンプ電流Ip2は、制御信号として第2酸素分圧検出センサセル50Bに入力され、その第2起電力V2が制御されることにより、第4拡散律速部40Aを通じて第1副調整室18Ab内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。また、第2ポンプ電流値Ip2が一定になるように、第1主ポンプセル42Aの第1可変電源48Aをフィードバック制御すると、さらに、第1副調整室18Ab内の酸素分圧制御の精度が向上する。第1センサセル15AをNOxセンサとして使用する際は、第1主ポンプセル42Aと第1補助ポンプセル56Aとの働きによって、第1副調整室18Ab内での酸素濃度は各条件の所定の値に精度良く保たれる。
【0064】
第3拡散律速部38Aは、第1副調整室18Abで第1補助ポンプセル56Aの動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第1測定室20Aに導く部位である。
【0065】
第1センサセル15Aにおいて、NOx濃度の測定は、主として、第1測定室20A内に設けられた第1測定用ポンプセル60Aの動作により行われる。第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定電極62Aと、共通の外側ポンプ電極46と、第2固体電解質層32と、スペーサ層30と、第1固体電解質層28とによって構成された電気化学的ポンプセルである。第1測定電極62Aは、第1測定室20A内の例えば第1固体電解質層28の上面に直に設けられ、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を、第1主内側ポンプ電極44Aよりも高めた材料にて構成された多孔質サーメット電極である。第1測定電極62Aは、第1測定電極62A上の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0066】
第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定電極62Aの周囲(第1測定室20A内)の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量を第3ポンプ電流値Ip3、すなわち、第1センサセル15Aのセンサ出力(第1測定ポンプ電流値Ip3)として検出することができる。
【0067】
また、第1測定電極62Aの周囲(第1測定室20A内)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層28と、第1測定電極62Aと、基準電極52とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第3酸素分圧検出センサセル50Cが構成されている。第3酸素分圧検出センサセル50Cにて検出された第3起電力V3に基づいて第3可変電源48Cが制御される。
【0068】
第1副調整室18Ab内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部38Aを通じて第1測定室20A内の第1測定電極62Aに到達する。第1測定電極62Aの周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は第1測定用ポンプセル60Aによってポンピングされる。その際、第3酸素分圧検出センサセル50Cにて検出された第3起電力V3が一定となるように第3可変電源48Cの第3電圧Vp3が制御される。第1測定電極62Aの周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、第1測定用ポンプセル60Aの第1測定ポンプ電流値Ip3を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、第1測定用ポンプセル60Aは、第1測定室20A内の特定成分(NO)の濃度を測定する。
【0069】
さらに、第1センサセル15Aは、第2基板層26bと第3基板層26cとに上下から挟まれた態様にて、第1ヒータ72Aが形成されている。第1ヒータ72Aは、第1基板層26aの下面に設けられた図示しないヒータ電極を通して外部から給電されることにより発熱する。第1ヒータ72Aが発熱することによって、第1センサセル15Aを構成する固体電解質の酸素イオン伝導性が高められる。第1ヒータ72Aは、予備調整室22と酸素濃度調整室18、及び第1測定室20Aの全域に渡って埋設されており、第1センサセル15Aの所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、第1ヒータ72Aの上下面には、第2基板層26b及び第3基板層26cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなる第1ヒータ絶縁層74Aが形成されている。
【0070】
そして、予備調整室22は、第1ガス導入口16Aから導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として機能する。酸素分圧は、後述する予備ポンプセル80が作動することによって調整される。
【0071】
予備ポンプセル80は、予備調整室22に面する第2固体電解質層32の下面の略全体に設けられた予備ポンプ電極82と、外側ポンプ電極46と、第2固体電解質層32とによって構成される、予備的な電気化学的ポンプセルである。
【0072】
なお、予備ポンプ電極82についても、第1主内側ポンプ電極44Aと同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0073】
予備ポンプセル80は、予備ポンプ電極82と外側ポンプ電極46との間に所望の予備電圧Vp0を印加することにより、予備調整室22内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から予備調整室22内に汲み入れることが可能となっている。
【0074】
また、この第1センサセル15Aは、予備調整室22内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、予備ポンプ制御用の予備酸素分圧検出センサセル84を有する。この予備酸素分圧検出センサセル84は、予備ポンプ電極82と、基準電極52と、第2固体電解質層32と、スペーサ層30と、第1固体電解質層28とを有する。
【0075】
なお、この予備酸素分圧検出センサセル84にて検出される予備起電力V0に基づいて電圧制御される予備可変電源86にて、予備ポンプセル80がポンピングを行う。これにより、予備調整室22内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0076】
また、これと共に、その予備ポンプ電流値Ip0が、予備酸素分圧検出センサセル84の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、予備ポンプ電流Ip0は、制御信号として予備酸素分圧検出センサセル84に入力され、その予備起電力V0が制御されることにより、第1拡散律速部34Aから予備調整室22内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。
【0077】
なお、予備調整室22は、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことが可能である。
【0078】
一方、第2センサセル15Bは、図3に示すように、第2主ポンプセル42B、第2補助ポンプセル56B、第4酸素分圧検出センサセル50D、第5酸素分圧検出センサセル50E、第6酸素分圧検出センサセル50Fを有する。
【0079】
第2主ポンプセル42Bは、第1主ポンプセル42Aと同様に、第2主内側ポンプ電極44Bと、共通の外側ポンプ電極46と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性の固体電解質とを含んで構成される第2電気化学的ポンプセル(主電気化学的ポンピングセル)である。
【0080】
第2センサセル用の第4可変電源48Dにより第4ポンプ電圧Vp4を印加して、共通の外側ポンプ電極46と第2主内側ポンプ電極44Bとの間に第4ポンプ電流Ip4を流すことにより、第2主調整室18Ba内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第2主調整室18Ba内に汲み入れることが可能となっている。
【0081】
第2補助ポンプセル56Bは、上述した第1補助ポンプセル56Aと同様に、電気化学的ポンプセルであり、第2副調整室18Bbに面する第2固体電解質層32の下面の略全体に設けられた第2補助ポンプ電極58Bと、共通の外側ポンプ電極46と、第2固体電解質層32とによって構成される。
【0082】
第2補助ポンプセル56Bは、第2補助ポンプ電極58Bと外側ポンプ電極46との間に所望の第5電圧Vp5を印加することにより、第2副調整室18Bb内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2副調整室18Bb内に汲み入れることが可能となっている。
【0083】
第4酸素分圧検出センサセル50Dは、第1酸素分圧検出センサセル50Aと同様に、第2主内側ポンプ電極44Bと、第3基板層26cの上面と第1固体電解質層28とに挟まれる共通の基準電極52と、これらの電極に挟まれた酸素イオン伝導性固体電解質とによって構成されている。
【0084】
この第4酸素分圧検出センサセル50Dは、第2主調整室18Ba内の雰囲気と基準ガス導入空間41の基準ガスとの間の酸素濃度差に起因して第2主内側ポンプ電極44Bと基準電極52との間に第4起電力V4が発生する。
【0085】
第4酸素分圧検出センサセル50Dにおいて生じる第4起電力V4は、第2主調整室18Baに存在する雰囲気の酸素分圧に応じて変化する。第2センサセル15Bは、上記第4起電力V4によって、第2主ポンプセル42Bの第4可変電源48Dをフィードバック制御する。これにより、第4可変電源48Dが第2主ポンプセル42Bに印加する第4ポンプ電圧Vp4を、第2主調整室18Baの雰囲気の酸素分圧に応じて制御することができる。
【0086】
また、第2副調整室18Bb内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、第2補助ポンプ電極58Bと、基準電極52と、第2固体電解質層32と、スペーサ層30と、第1固体電解質層28とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、第2補助ポンプ制御用の第5酸素分圧検出センサセル50Eが構成されている。
【0087】
この第5酸素分圧検出センサセル50Eにて検出される第5起電力V5に基づいて電圧制御される第5可変電源48Eにて、第2補助ポンプセル56Bがポンピングを行う。これにより、第2副調整室18Bb内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0088】
これと共に、第2補助ポンプセル56Bの第5ポンプ電流値Ip5が、第5酸素分圧検出センサセル50Eの第5起電力V5の制御に用いられるようになっている。つまり、第2副調整室18Bb内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御される。
【0089】
また、第2測定電極62Bの周囲(第2測定室20B内)の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層28と、第2測定電極62Bと、基準電極52とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用の第6酸素分圧検出センサセル50Fが構成されている。第6酸素分圧検出センサセル50Fにて検出された第6起電力V6に基づいて第6可変電源48Fが制御される。
【0090】
第2副調整室18Bb内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第3拡散律速部38Bを通じて第2測定室20B内の第2測定電極62Bに到達する。第2測定電極62Bの周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて酸素を発生する。そして、この発生した酸素は第2測定用ポンプセル60Bによってポンピングされる。その際、第6酸素分圧検出センサセル50Fにて検出された第6起電力V6が一定となるように第6可変電源48Fの第6電圧Vp6が制御される。第2測定電極62Bの周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例する。従って、第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度を算出することができる。すなわち、第2測定用ポンプセル60Bは、第2測定室20B内の特定成分(NO)の濃度を測定する。
【0091】
また、この第2センサセル15Bは、電気化学的な酸素検出セル70を有する。この酸素検出セル70は、第2固体電解質層32と、スペーサ層30と、第1固体電解質層28と、第3基板層26cと、外側ポンプ電極46と、基準電極52とを有する。この酸素検出セル70によって得られる起電力Vrによりセンサ素子12の外部における被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0092】
また、第2センサセル15Bは、第2基板層26bと第3基板層26cとに上下から挟まれた態様にて、上述した第1ヒータ72Aと同様の第2ヒータ72Bが形成されている。第2ヒータ72Bは、拡散抵抗調整室24と第2酸素濃度調整室18B及び第測定室20の全域に渡って埋設されており、第2センサセル15Bの所定の場所を所定の温度に加熱、保温することができるようになっている。なお、第2ヒータ72Bの上下面にも、第2基板層26b及び第3基板層26cとの電気的絶縁性を得る目的で、アルミナ等からなる第2ヒータ絶縁層74Bが形成されている。なお、第1ヒータ72Aと第2ヒータ72Bは、共通の1つのヒータで構成されてもよく、その際は、第1ヒータ絶縁層74Aと第2ヒータ絶縁層74Bも共通となる。
【0093】
拡散抵抗調整室24は、緩衝空間としても機能する。すなわち、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によって生じる被測定ガスの濃度変動を、打ち消すことが可能である。
【0094】
さらに、第1ガスセンサ10Aは、図4に模式的に示すように、温度制御手段100、酸素濃度制御手段102及び目的成分濃度取得手段104を有する。
【0095】
温度制御手段100は、センサ素子12の第1ヒータ72A及び第2ヒータ72Bへの通電を制御して第1センサセル15A及び第2センサセル15Bの温度を制御する。
【0096】
酸素濃度制御手段102は、第1センサセル15Aの第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度を制御する第1酸素濃度制御部106Aと、第2センサセル15Bの第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度を制御する第2酸素濃度制御部106Bと、第1センサセル15Aの予備調整室22内の酸素濃度を制御する予備酸素濃度制御部108とを有する。
【0097】
目的成分濃度取得手段104は、第1センサセル15Aの第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1測定ポンプ電流値Ip3と第2センサセル15Bの第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2測定ポンプ電流値Ip6との差(変化量ΔIp)と、第2測定ポンプ電流値Ip6(合計濃度)と、後述する第1マップ110Aに基づいて、第1目的成分(NO)の濃度と第2目的成分(NH)の濃度とを取得する。
【0098】
なお、温度制御手段100、酸素濃度制御手段102及び目的成分濃度取得手段104は、例えば1つ又は複数のCPU(中央処理ユニット)と記憶装置等を有する1以上の電子回路にて構成される。電子回路は、例えば記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、所定の機能が実現されるソフトウェア機能部でもある。もちろん、複数の電子回路を機能に合わせて接続したFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路で構成してもよい。
【0099】
従来型直列2室構造を持つNOxセンサは、NO、NHの目的成分に対して、酸素濃度調整室内で全てをNOに変換した後、測定室に導入し、これら2成分の総量を測定していた。つまり、2つの目的成分毎の濃度、すなわち、NO及びNHの各濃度を測定することができなかった。
【0100】
これに対して、第1ガスセンサ10Aは、上述した第1センサセル15A、第2センサセル15B、温度制御手段100、酸素濃度制御手段102及び目的成分濃度取得手段104を具備することで、NO及びNHの各濃度を取得することができる。
【0101】
温度制御手段100は、予め設定されたセンサ温度の条件と、センサ素子12の温度を計測する温度センサ(図示せず)からの計測値とに基づいて、第1ヒータ72A及び第2ヒータ72Bをフィードバック制御することにより、センサ素子12の温度を、上記条件に従った温度に調整する。
【0102】
酸素濃度制御手段102の第1酸素濃度制御部106Aは、予め設定された第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度の条件と、第1酸素分圧検出センサセル50A(図2参照)において生じる第1起電力V1とに基づいて、第1可変電源48Aをフィードバック制御することにより、第1酸素濃度調整室18A内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0103】
酸素濃度制御手段102の第2酸素濃度制御部106Bは、予め設定された第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度の条件と、第4酸素分圧検出センサセル50D(図3参照)において生じる第4起電力V4とに基づいて、第4可変電源48Dをフィードバック制御することにより、第2酸素濃度調整室18B内の酸素濃度を、上記条件に従った濃度に調整する。
【0104】
第1ガスセンサ10Aは、これら酸素濃度制御手段102又は温度制御手段100、あるいは酸素濃度制御手段102及び温度制御手段100によって、第1酸素濃度調整室18A内及び第2酸素濃度調整室18B内のNOを分解させることなく、NHをNH測定に使用できる比率でNOに変換するように制御する。
【0105】
酸素濃度制御手段102の予備酸素濃度制御部108は、予め設定された酸素濃度の条件と、予備酸素分圧検出センサセル84(図2参照)において生じる予備起電力V0とに基づいて、予備可変電源86をフィードバック制御することにより、予備調整室22内の酸素濃度を、条件に従った濃度に調整する。この予備酸素濃度制御部108によって、第1センサセル15Aにおける予備調整室22内のNOを分解させることなく、NHがNH測定に使用できる比率でNOに変換される。
【0106】
ここで、第1ガスセンサ10Aの処理動作について、図5も参照しながら説明する。
【0107】
先ず、第1センサセル15Aでは、図5に示すように、第1ガス導入口16Aを通じて予備調整室22に導入したNHは、予備調整室22内でNH→NOの酸化反応が起こり、第1ガス導入口16Aを通じて導入された全てのNHがNOに変換される。従って、NHは第1拡散律速部34AをNHの拡散係数2.2cm/secで通過するが、予備調整室22より奥にある第2拡散律速部36A以降はNOの拡散係数1.8cm/secで第1測定室20Aに移動する。
【0108】
一方、第2センサセル15Bでは、第2ガス導入口16Bを通じて導入したNHは、第2酸素濃度調整室18Bまで到達する。第2酸素濃度調整室18Bでは、酸素濃度制御手段102(図4参照)によって、NHを全てNOに変換するように制御されていることから、第2酸素濃度調整室18Bに流入したNHは第2酸素濃度調整室18B内でNH→NOの酸化反応が起こり、第2酸素濃度調整室18B内の全てのNHがNOに変換される。従って、第2ガス導入口16Bを通じて導入されたNHは、第1拡散律速部34B及び第2拡散律速部36BをNHの拡散係数2.2cm/secで通過し、第2酸素濃度調整室18B内でNOに変換された後は、第3拡散律速部38BをNOの拡散係数1.8cm/secで通過して、隣接する第2測定室20B内に移動する。
【0109】
すなわち、第1センサセル15Aでは、NHの酸化反応が起こる場所が予備調整室22であり、第2センサセル15Bでは、NHの酸化反応が起こる場所が第2酸素濃度調整室18Bである。NO、NHは各々異なる拡散係数を持つため、第2拡散律速部(36A、36B)をNOで通過するか、NHで通過するかの違いは、第1測定室20A及び第2測定室20Bに流れ込むNO量の違いに相当する。これは、第1測定用ポンプセル60Aの第1測定ポンプ電流値Ip3と、第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6に差異をもたらす。もっとも、第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6は、被測定ガス中のNH濃度とNO濃度の合計値に相当する。
【0110】
そして、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6の変化量ΔIpは、被測定ガス中のNHの濃度に応じて変化する。そのため、第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2測定ポンプ電流値Ip6(NOとNHの合計濃度)と、上述した変化量ΔIp(NHの濃度)とからNOとNHの各濃度を取得することができる。
【0111】
従って、目的成分濃度取得手段104(図4参照)では、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との変化量ΔIpと、第2測定ポンプ電流値Ip6と、例えば第1マップ110A(図6参照)とに基づいてNO及びNHの各濃度を取得する。
【0112】
第1マップ110Aは、グラフ化して示すと、図6に示すように、横軸に、第2測定ポンプ電流値Ip6(μA)が設定され、縦軸に、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との変化量ΔIp(μA)が設定されたグラフとなる。図6では、代表的に、第1特性線L1及び第2特性線L2と、NO濃度換算値が100ppm系、50ppm系及び25ppm系における変化量ΔIpの第1プロット群P1、第2プロット群P2及び第3プロット群P3を示す。
【0113】
第1特性線L1は、NOの濃度換算値が0ppmの場合、すなわち、被測定ガスにNOが含まれていない場合において、NHの濃度換算値を0ppm、25ppm、50ppm、75ppm及び100ppmに変化させた場合の特性を示す。
【0114】
第2特性線L2は、NHの濃度換算値が0ppmの場合、すなわち、被測定ガスにNHが含まれていない場合において、NOの濃度換算値を0ppm、25ppm、50ppm、75ppm及び100ppmに変化させた場合の特性を示す。
【0115】
図6のグラフを分かり易く表形式で示すと、図7に示すような内容となる。これらの内容は、例えば後述する実験1~5を実施することで求めることができる。
【0116】
図7の表中、第1欄[1]の内容は、図6の第1特性線L1に対応し、第2欄[2]の内容は、図6の第2特性線L2に対応する。[1]及び[2]の比較によりNHはNOの1.14倍の感度を持っていることがわかる。これは、NHとNOの拡散係数の違いに基づいて発現するものであり、センサ素子12の温度や内部空所内の酸素濃度により決まるものである。また、図7の表中、第3欄[3]の内容は、図6の第1プロット群P1に対応し、第4欄[4]の内容は、図6の第2プロット群P2に対応し、第5欄[5]の内容は、図6の第3プロット群P3に対応する。
【0117】
そして、図7のうち、第3欄[3]、第4欄[4]及び第5欄[5]の内容を参照して、第2測定ポンプ電流値Ip6に基づいて合計濃度(NO換算値)、すなわち、100ppm系、50ppm系、25ppm系のいずれかを割り出し、変化量ΔIpに基づいてNH濃度を取得し、合計濃度からNH濃度を差し引いて、NO濃度を取得する。
【0118】
例えば第2測定ポンプ電流値Ip6が0.537(μA)であった場合、図7の第5欄[5]から合計濃度が25ppm系であることが割り出される。そして、変化量ΔIpが0.041(μA)であった場合、図7の第5欄[5]からNH濃度は4.4ppmである。従って、NHとNOの感度差を考慮してNO濃度は25-4.4×1.14=約20.0ppmとなる。
【0119】
なお、第1マップ110A上に該当する変化量ΔIpが存在しない場合は、マップ上で最も近い変化量ΔIpを特定して合計濃度を割り出すと共に、例えば既知の近似計算にてNH濃度を求めればよい。そして、割り出した合計濃度から近似計算にて求めたNH濃度を差し引いて、NO濃度を求めればよい。あるいは、NH、NO各々の濃度とΔIp、及びIp6との相関式に基づき第2目的成分であるNHの濃度を算出し、合計濃度より第2目的成分の濃度を差し引くことにより、第1目的成分であるNOの濃度を算出してもよい。
【0120】
ここで、第1マップ110Aを得るための実験例について説明する。
【0121】
(1) 上述したセンサ素子12を作製し、金属部品を組み付けてセンサ形状にし、デルガス測定装置に取り付けて、センサ素子12に内蔵された第1ヒータ72A及び第2ヒータ72Bにより、センサ素子12を略800℃に加熱する。
【0122】
(2) 第1センサセル15Aの第1主内側ポンプ電極44Aと基準電極52間の起電力、並びに第2センサセル15Bの第2主内側ポンプ電極44Bと基準電極52間の起電力が230mVとなるように、第1主内側ポンプ電極44Aと外側ポンプ電極46間への印加電圧、並びに第2主内側ポンプ電極44Bと外側ポンプ電極46間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0123】
(3) 次に、第1センサセル15Aの第1補助ポンプ電極58Aと基準電極52間の起電力、並びに第2センサセル15Bの第2補助ポンプ電極58Bと基準電極52間の起電力が380mVとなるように、第1補助ポンプ電極58Aと外側ポンプ電極46間への印加電圧、並びに第2補助ポンプ電極58Bと外側ポンプ電極46間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0124】
(4) さらに、第1センサセル15Aにおける第1測定用ポンプセル60Aの第1測定電極62Aと基準電極52間の起電力、並びに第2センサセル15Bにおける第2測定用ポンプセル60Bの第2測定電極62Bと基準電極52間の起電力が400mVとなるように、第1測定電極62Aと外側ポンプ電極46間への印加電圧、並びに第2測定電極62Bと外側ポンプ電極46間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0125】
(5) 第1センサセル15Aにおける予備ポンプセル80の予備ポンプ電極82と基準電極52間の起電力が230mVとなるように、予備ポンプ電極82と外側ポンプ電極46間への印加電圧をフィードバック制御する。
【0126】
(6) 次に、モデルガス測定装置にNと3%のHOをベースガスとして120L/min流し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる電流を測定したところ、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れるオフセット電流は0.003μAであった。
【0127】
(7) 次に、モデルガス測定装置にNと3%のHOをベースガスとして120L/min流し、総ガス流量の120L/minを維持しながら、NHを25、50、75、100ppm添加し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる第1測定ポンプ電流Ip3及び第2測定ポンプ電流Ip6を測定した(実験1:図6の第1特性線L1、図7の第1欄[1]参照)。
【0128】
(8) 次に、モデルガス測定装置にNと3%のHOをベースガスとして120L/min流し、総ガス流量の120L/minを維持しながら、NOを25、50、75、100ppmと段階的に添加し、第1測定用ポンプセル60A及び第2測定用ポンプセル60Bに流れる第1測定ポンプ電流Ip3及び第2測定ポンプ電流Ip6を測定した(実験2:図6の第2特性線L2、図7の第2欄[2]参照)。
【0129】
(9) 次に、モデルガス測定装置にN と3%のHOをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=100、80、60、40、20、0ppmと段階的に減らして行き、NO=80、60、40、20、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=100ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6が2.137μAを維持するように、NHをガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1測定ポンプ電流Ip3を測定した(実験3)。各NOとNHの濃度、第1測定ポンプ電流値Ip3及び第2測定ポンプ電流値Ip6、並びに第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を図6の第1プロット群P1、図7の第3欄[3]に示す。
【0130】
(10) 次に、モデルガス測定装置にNと3%のHOをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=50、40、30、20、10、0ppmと段階的に減らして行き、NO=40、30、20、10、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=50ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6が1.070μAを維持するように、NHをガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1測定ポンプ電流Ip3を測定した(実験4)。各NOとNHの濃度、第1測定ポンプ電流値Ip3及び第2測定ポンプ電流Ip6、並びに第1測定ポンプ電流Ip3と第2測定ポンプ電流Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を図6の第2プロット群P2、図7の第4欄[4]に示す。
【0131】
(11) 次に、モデルガス測定装置にNと3%のHOをベースガスとして120L/min流し、NO濃度をNO=25、20、15、10、5、0ppmと段階的に減らして行き、NO=20、15、10、5、0ppmの各々のNO濃度に対して、NO=25ppm時における第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6が0.537μAを維持するように、NHをガス中に添加する。このとき、総ガス流量が120L/minに維持されるようベースガスの流量を調整する。各ガス雰囲気において、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1測定ポンプ電流Ip3を測定した(実験5)。各NOとNHの濃度、第1測定ポンプ電流値Ip3及び第2測定ポンプ電流値Ip6、並びに第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との差(変化量ΔIp)の関係を図6の第3プロット群P3、図7の第5欄[5]に示す。
【0132】
(12) 実験1~実験5で得られたデータを用いて、図6に示す第1マップ110Aを作成した。得られた第1マップ110Aの確からしさを確認するために、実験1~実験5とは異なる濃度のNOとNHの混合ガスにおける第1測定ポンプ電流Ip3及び第2測定ポンプ電流Ip6、並びに第1測定ポンプ電流Ip3と第2測定ポンプ電流Ip6との差(変化量ΔIp)を測定したところ、図8に示す結果を得た。図8の結果を図6のグラフにプロット(△で示す)したところ、第1マップ110Aから推定される濃度と良好な一致を見た。
【0133】
このように、第1ガスセンサ10Aにおいては、少なくとも酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体14と、構造体14に形成された第1センサセル15A及び第2センサセル15Bとを有するセンサ素子12と、センサ素子12の温度を制御する温度制御手段100と、酸素濃度制御手段102と、目的成分濃度取得手段104と、を有する。
【0134】
第1センサセル15Aは、ガスの導入方向に向かって、第1ガス導入口16A、第1拡散律速部34A、予備調整室22、第2拡散律速部36A、第1酸素濃度調整室18A、第3拡散律速部38A及び第1測定室20Aを具備する。
【0135】
第2センサセル15Bは、ガスの導入方向に向かって、第2ガス導入口16B、第1拡散律速部34B、拡散抵抗調整室24、第2拡散律速部36B、第2酸素濃度調整室18B、第3拡散律速部38B及び第2測定室20Bを具備する。
【0136】
第1センサセル15Aの第1測定室20Aは、第1測定用ポンプセル60Aを具備し、第2センサセル15Bの第2測定室20Bは、第2測定用ポンプセル60Bを具備する。酸素濃度制御手段102は、第1センサセル15Aの予備調整室22及び第1酸素濃度調整室18Aの酸素濃度並びに第2センサセル15Bの第2酸素濃度調整室18Bの酸素濃度を制御する。
【0137】
そして、目的成分濃度取得手段104は、第1測定用ポンプセル60Aに流れる第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2測定ポンプ電流値Ip6との差(変化量ΔIp)に基づいて、第2目的成分(例えばNH)の濃度を取得し、第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2測定ポンプ電流値Ip6により、第1目的成分(例えばNO)と第2目的成分(例えばNH)の合計濃度を取得し、合計濃度から第2目的成分の濃度を差し引いて第1目的成分の濃度を取得する。
【0138】
第1ガスセンサ10Aは、このような構成を有することから、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NH)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0139】
しかも、第1ガスセンサ10Aは、従来では実現できなかったNOとNHの各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第1ガスセンサ10Aの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、SCRシステム下流の排気ガス中のNO及びNHとを区別することが可能となり、SCRシステムの尿素注入量の精密制御、及び劣化検知に寄与する。
【0140】
また、第1センサセル15Aの少なくとも第1酸素濃度調整室18Aの外側に配された外側ポンプ電極46と、第2センサセル15Bの第2酸素濃度調整室18Bの外側に配された外側ポンプ電極46とを共通化したので、リード線の本数を低減することが可能となり、例えば各種車両等への実装が容易になる。
【0141】
第1センサセル15Aの基準ガス導入空間41に配された基準電極52と第2センサセル15Bの基準ガス導入空間41に配された基準電極52とを共通化したので、リード線の本数を低減することが可能となり、自動車等への実装が容易になる。
【0142】
次に、第2の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第2ガスセンサ10Bと記す)について図9及び図10を参照しながら説明する。
【0143】
この第2ガスセンサ10Bは、図1図3に示すように、上述した第1ガスセンサ10Aの第1センサセル15A及び第2センサセル15Bと同様の構成を有する第1センサセル15A及び第2センサセル15Bを具備するが、図9及び図10に示すように、第2目的成分がNOであることと、第2マップ110Bに基づいて、第1目的成分(NO)の濃度と第2目的成分(NO)の濃度とを取得する点で異なる。
【0144】
すなわち、第2ガスセンサ10Bは、これら酸素濃度制御手段102又は温度制御手段100、あるいは酸素濃度制御手段102及び温度制御手段100によって、第1酸素濃度調整室18A内及び第2酸素濃度調整室18B内のNOを分解させることなく、NOを全てNOに変換するように制御する。
【0145】
酸素濃度制御手段102の予備酸素濃度制御部108は、予め設定された酸素濃度の条件と、予備酸素分圧検出センサセル84(図2参照)において生じる予備起電力V0とに基づいて、予備可変電源86をフィードバック制御することにより、予備調整室22内の酸素濃度を、条件に従った濃度に調整する。この予備酸素濃度制御部108によって、第1センサセル15Aにおける予備調整室22内のNOを分解させることなく、NOが全てNOに変換される。
【0146】
ここで、第2ガスセンサ10Bの処理動作について、図10も参照しながら説明する。
【0147】
先ず、第1センサセル15Aでは、図10に示すように、第1ガス導入口16Aを通じて予備調整室22に導入したNOは、予備調整室22内でNO→NOの分解反応が起こり、第1ガス導入口16Aを通じて導入された全てのNOがNOに変換される。
【0148】
従って、NOは第1拡散律速部34AをNOの拡散係数で通過するが、予備調整室22より奥にある第2拡散律速部36A以降はNOの拡散係数で第1測定室20Aに移動する。
【0149】
一方、第2センサセル15Bでは、第2ガス導入口16Bを通じて導入したNOは、第2酸素濃度調整室18Bまで到達する。第2酸素濃度調整室18Bでは、酸素濃度制御手段102の第2酸素濃度制御部106Bによって、NOを全てNOに変換するように制御されていることから、第2酸素濃度調整室18Bに流入したNOは第2酸素濃度調整室18B内でNO→NOの分解反応が起こり、第2酸素濃度調整室18B内の全てのNOがNOに変換される。従って、第2ガス導入口16Bを通じて導入されたNOは、第1拡散律速部34B及び第2拡散律速部36BをNOの拡散係数で通過し、第2酸素濃度調整室18B内でNOに変換された後は、第3拡散律速部38BをNOの拡散係数で通過して、隣接する第2測定室20B内に移動する。
【0150】
すなわち、第1センサセル15Aでは、NOの分解反応が起こる場所が予備調整室22であり、第2センサセル15Bでは、NOの分解反応が起こる場所が第2酸素濃度調整室18Bである。NO、NOは各々異なる拡散係数を持つため、第2拡散律速部(36A、36B)をNOで通過するか、NOで通過するかの違いは、第1測定室20A及び第2測定室20Bに流れ込むNO量の違いに相当する。これは、第1測定用ポンプセル60Aの第1測定ポンプ電流値Ip3と、第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6に差異をもたらす。もっとも、第2測定用ポンプセル60Bの第2測定ポンプ電流値Ip6は、被測定ガス中のNO濃度とNO濃度の合計値に相当する。
【0151】
そして、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6の変化量ΔIpは、被測定ガス中のNOの濃度によって一義的に決まる。そのため、第2測定用ポンプセル60Bに流れる第2測定ポンプ電流値Ip6(NOとNOの合計濃度)と、上述した変化量ΔIp(NOの濃度)とからNOとNOの各濃度を取得することができる。
【0152】
従って、目的成分濃度取得手段104では、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との変化量ΔIpと、第2測定ポンプ電流値Ip6と、例えば第2マップ110B(図9参照)とに基づいてNO及びNOの各濃度を取得する。
【0153】
第2マップ110Bは、図示しないが、上述した第1マップ110A(図6及び図7参照)を作成するための実験1~実験5と同様の実験を行うことで、横軸に、第2測定ポンプ電流値Ip6(μA)が設定され、縦軸に、第1測定ポンプ電流値Ip3と第2測定ポンプ電流値Ip6との変化量ΔIp(μA)が設定されたグラフ、すなわち、第2ガスセンサ10Bに対応したグラフ及び表を作成することができる。
【0154】
第2ガスセンサ10Bは、このような構成を有することから、排気ガスのような未燃成分、酸素の存在下に共存する複数目的成分(例えばNO、NO)の雰囲気下においても、複数目的成分の各濃度を長期間にわたり精度よく測定することができる。
【0155】
しかも、第2ガスセンサ10Bは、従来では実現できなかったNOとNOの各濃度を測定する処理を、ハードウェアとしての各種測定装置等を別途付加することなく、第2ガスセンサ10Bの制御系のソフトウェアを変更するだけで、容易に実現することができる。その結果、NOx浄化システムの制御並びに故障検知に対する精度を高めることができる。特に、DOC(Diesel Oxdation Catalyst)触媒下流の排気ガス中のNOとNOとを区別することが可能となり、DOC触媒の劣化検知に寄与する。
【0156】
次に、第3の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第3ガスセンサ10Cと記す)について図11及び図12を参照しながら説明する。
【0157】
この第3ガスセンサ10Cは、図11及び図12に示すように、第2ガス導入口16Bと第2主調整室18Baとが第1拡散律速部34Bを介して直接連通した素子構造を有する。第1拡散律速部34Bの拡散抵抗値、第1センサセル15Aの第1ガス導入口16A、第1拡散律速部34A、予備調整室22、第2拡散律速部36Aの拡散抵抗値の合計値と略同等に調整されている。これにより、第2センサセル15Bの拡散抵抗調整室24及び第2拡散律速部36B(図1及び図4参照)を省略し、より単純な構造で、例えば車両に取り付けた場合の熱衝撃に強い素子構造を提供することできる。
【0158】
次に、第4の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第4ガスセンサ10Dと記す)について図13及び図14を参照しながら説明する。
【0159】
この第4ガスセンサ10Dは、図13に示すように、前述した第1ガスセンサ10A(図1及び図4参照)の第1センサセル15Aから第4拡散律速部40A及び第1副調整室18Abを省略する。代わりに、第1酸素濃度調整室18Aと第1測定室20Aとを直接第3拡散律速部38Aを介して連通する。
【0160】
同様に、第1ガスセンサ10A(図1及び図4参照)の第2センサセル15Bから拡散抵抗調整室24、第2拡散律速部36B、第4拡散律速部40B及び第2副調整室18Bbを省略する。代わりに、第2ガス導入口16Bと第2酸素濃度調整室18Bとを直接第1拡散律速部34Bを介して連通し、第2酸素濃度調整室18Bと第2測定室20Bとを直接第3拡散律速部38Bを介して連通する。
【0161】
この場合、例えば第2センサセル15Bの第2酸素濃度調整室18B内に配設された第2主ポンプセル42Bに流れる第4ポンプ電流値Ip4に基づいて、第1センサセル15Aの第1測定ポンプ電流Ip3と第2センサセル15Bの第2測定ポンプ電流Ip6が補正される。すなわち、第1測定ポンプ電流Ip3と第2測定ポンプ電流Ip6を補正するのに有効な酸素濃度補正手段が、酸素濃度制御手段102、もしくは、目的成分濃度取得手段104に追加された形態となる。この酸素濃度補正手段の追加により、リード線本数が少ない安価で単純な構造で車両に取り付けた場合の熱衝撃に強い素子構造を提供することができる。
【0162】
次に、第5の実施の形態に係るガスセンサ(以下、第5ガスセンサ10Eと記す)について図15を参照しながら説明する。
【0163】
第1センサセル15Aと第2センサセル15Bは必ずしも同一平面上に構成する必要はなく、加熱手段(ヒータ72及びヒータ絶縁層74)を挟んで固体電解質基板の積層方向、すなわち、センサ素子12の厚み方向に対称に配置されてもよい。この場合、センサ素子12の幅方向の寸法を小さくすることができ、センサ素子12の小型化に有効である。
【0164】
本発明の要旨は、下記(a)~(c)であり、NHやNOがNOに変化する反応はセンサ出力の変動が得られる範囲から任意に選ぶことができる。
【0165】
(a) NHやNOがNOに変化する反応を、所定の拡散抵抗を持った拡散律速部の前後で意図的に発生させる。
(b) (a)によって、NOとNH又はNOとNOの拡散係数の違いによって生ずるセンサ出力の変動からNHもしくはNOの濃度を求める。
(c) さらに、センサ出力自身によって得られるNOとNHの合計濃度、もしくはNOとNOの合計濃度と前記変動によって得られるNHもしくはNOの濃度を比較してNO濃度を得る。
【0166】
なお、本発明に係るガスセンサは、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【0167】
上述の例では、第1センサセル15Aでは、第1副調整室18Abに隣接して第1測定室20Aを設け、第1測定室20A内に第1測定電極62Aを配置するようにしたが、その他、図示しないが、第1副調整室18Ab内に第1測定電極62Aを配置し、第1測定電極62Aを被覆するように、第3拡散律速部38Aとなるアルミナ(Al23)等のセラミックス多孔体にて構成される膜を形成してもよい。この場合、第1測定電極62Aの周囲が第1測定室20Aとして機能することになる。
【0168】
これは、第2センサセル15Bにおいても同様であり、第2副調整室18Bb内に第2測定電極62Bを配置し、第2測定電極62Bを被覆するように、第3拡散律速部38Bとなるアルミナ(Al23)等のセラミックス多孔体にて構成される膜を形成してもよい。この場合、第2測定電極62Bの周囲が第2測定室20Bとして機能することになる。
【0169】
また、上述の例では予備調整室22内にて第2目的成分であるNH、もしくはNOが変換率100%でNOに変換される例を示したが、NHもしくはNOの変換率は100%である必要はなく、被測定ガス中のNH濃度もしくはNO濃度と再現性の良い相関が得られる範囲で変換率を任意に設定することができる。
【0170】
また、予備酸素濃度制御部108の駆動は、予備調整室22内から酸素を汲み出す方向でも、汲み入れる方向でもよく、第2目的成分であるNHもしくはNOの存在によって、測定用ポンプセルの出力である測定ポンプ電流Ip3、Ip6が再現性良く変化すればよい。
【0171】
なお、本発明の実施に当たっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0172】
10A…第1ガスセンサ 10B…第2ガスセンサ
12…センサ素子 14…構造体
15A…第1センサセル 15B…第2センサセル
16A…第1ガス導入口 16B…第2ガス導入口
18A…第1酸素濃度調整室 18B…第2酸素濃度調整室
20A…第1測定室 20B…第2測定室
22…予備調整室 34A、34B…第1拡散律速部
36A、36B…第2拡散律速部 38A、38B…第3拡散律速部
40A、40B…第4拡散律速部 42A…第1主ポンプセル
42B…第2主ポンプセル 44A…第1主内側ポンプ電極
44B…第2主内側ポンプ電極 46…共通の外側ポンプ電極
52…基準電極 60A…第1測定用ポンプセル
60B…第2測定用ポンプセル 72A…第1ヒータ
72B…第2ヒータ 80…予備ポンプセル
100…温度制御手段 102…酸素濃度制御手段
104…目的成分濃度取得手段 108…予備酸素濃度制御部
110A…第1マップ 110B…第2マップ
Ip3…第3ポンプ電流(第1測定ポンプ電流)
Ip6…第6ポンプ電流(第2測定ポンプ電流)
図1
図2
図3
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図15