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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】超音波振動生成回路
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/06 20060101AFI20220928BHJP
【FI】
B06B1/06 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019182189
(22)【出願日】2019-10-02
(65)【公開番号】P2021053609
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003584
【氏名又は名称】株式会社タカラトミー
(74)【代理人】
【識別番号】100098899
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 信市
(74)【代理人】
【識別番号】100163865
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 健
(72)【発明者】
【氏名】篠原 比呂志
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-010792(JP,A)
【文献】特開2005-000058(JP,A)
【文献】特開平11-076941(JP,A)
【文献】特開平05-301077(JP,A)
【文献】特開2016-143755(JP,A)
【文献】特開2009-165947(JP,A)
【文献】特開2003-088426(JP,A)
【文献】特開昭61-157385(JP,A)
【文献】実開昭52-129237(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列共振点(fos)にて動作するように設計された超音波振動生成用の圧電振動子(1)と、
インダクタンス(Lx)と、
前記圧電振動子(1)と前記インダクタンス(Lx)との直列接続体に対して印加されるべき駆動用交流電圧を生成するための交流電圧生成回路(2)とを有し、
前記インダクタンス(Lx)の値は、
前記圧電振動子(1)に基準負荷をかけた状態において、前記直列接続体が、電流(Ivs)が極小となる1つの並列共振点(fop)とそれぞれ電流(Ivs)が極大となる2つの直列共振点(fos1,fos2)とを有し、かつ前記1つの並列共振点(fop)が前記2つの直列共振点(fos1,fos2)の中央付近に現れるように定められており、
前記交流電圧生成回路(2)には、
前記駆動用交流電圧の周波数を前記並列共振点(fop)に整合させるための周波数自動調整部が含まれている、超音波振動生成回路。
【請求項2】
前記交流電圧生成回路(2)が、
駆動パルス列入力端子(Vd)と、直流電源端子(VDD)と、前記駆動パルス列入力端子(Vd)に与えられる駆動パルス列を受けて作動するスイッチと、前記直流電源端子(VDD)に与えられた直流電源が前記スイッチを介してその一次側に印加される変圧器(T)とを備え、前記変圧器(T)の二次側に誘起される交流電圧を前記駆動用交流電圧として出力するインバータを含み、
前記周波数自動調整部が、
運転開始条件の成立を待って、前記駆動パルス列入力端子(Vd)へと与えられるべき駆動パレス列の周波数を走査しながら、前記駆動パレス列と前記駆動用交流電圧との位相差(tx)を監視し、前記位相差(tx)が、前記駆動用交流電圧の周波数が前記並列共振点(fop)に整合した状態に相当する既知の位相差に一致したとき、前記周波数走査を停止して、以後、走査停止時の周波数を保持するように仕組まれている、請求項1に記載の超音波振動生成回路。
【請求項3】
前記周波数自動調整部は、
駆動パレス列の周波数が保持されたのちにあっても、前記駆動パレス列と前記駆動用交流電圧との位相差(tx)を監視し、前記位相差(tx)が、所定の共振点非整合状態に相当する既知の位相差と一致するたびに、前記駆動パルス列周波数の走査を再開し、前記位相差(tx)が、前記駆動用交流電圧の周波数が前記並列共振点(fop)に整合したときに相当する既知の位相差に再び一致したとき、前記周波数走査を停止して、以後、走査停止時の周波数を保持する一連の動作を繰り返すように仕組まれている、請求項2に記載の超音波振動生成回路。
【請求項4】
前記交流電圧生成回路(2)が、
駆動パルス列入力端子(Vd)と、直流電源端子(VDD)と、前記駆動パルス列入力端子(Vd)に与えられる駆動パルス列を受けて作動するスイッチと、前記直流電源端子(VDD)に与えられた直流電源が前記スイッチを介してその一次側に印加される変圧器(T)とを備え、前記変圧器(T)の二次側に誘起される交流電圧を前記駆動用交流電圧として出力するインバータを含み、
前記周波数自動調整部が、
運転開始条件の成立を待って、前記駆動パルス列入力端子(Vd)へと与えられるべき駆動パレス列の周波数を走査しながら、前記駆動パレス列の単位周波数変化(Δfd)に対する位相差変化(Δtx)である変化率(Δtx/Δfd)を監視し、前記変化率(Δtx/Δfd)が、前記駆動用交流電圧の周波数が前記並列共振点(fop)に整合した状態に相当する極大値に一致したとき、前記周波数走査を停止して、以後、走査停止時の周波数を保持するように仕組まれている、請求項2に記載の超音波振動生成回路。
【請求項5】
前記周波数自動調整部は、
駆動パレス列の周波数が保持されたのちにあっても、前記変化率(Δtx/Δfd)を監視し、前記変化率(Δtx/Δfd)が、所定の共振点非整合状態に相当する既知の変化率と一致するたびに、前記駆動パルス列周波数の走査を再開し、前記変化率(Δtx/Δfd)が、前記駆動用交流電圧の周波数が前記並列共振点(fop)に整合したときに相当する極大値に再び一致したとき、前記周波数走査を停止して、以後、走査停止時の周波数を保持する一連の動作を繰り返すように仕組まれている、請求項4に記載の超音波振動生成回路。
【請求項6】
電池を電源として動作するハンディータイプの超音波利用機器に組み込まれてなる、請求項1~5のいずれか1つに記載の超音波振動生成回路。
【請求項7】
前記ハンディータイプの超音波利用機器が、ビールの泡立て器、超音波ナイフ、超音波ピーリング、又は超音波振動歯ブラシを含む、請求項6に記載の超音波振動生成回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波振動生成回路に係り、特に、乾電池等の比較的小容量な電池を電源として動作するハンディータイプの超音波振動利用機器等への組込に好適な超音波振動生成回路に関する。
【背景技術】
【0002】
乾電池等の比較的小容量な電池を電源として動作するハンディータイプの超音波振動利用機器としては、例えば、ビール泡立て器、超音波ナイフ、超音波ピーリング、超音波振動歯ブラシ等々が知られている。
【0003】
一般に、超音波振動利用機器には、図11(a)に示されるように、超音波振動生成のための圧電振動子1と、この圧電振動子1の両端電極に印加されるべき交流電圧を生成する交流電圧生成回路2とを含む超音波振動生成回路が組み込まれる。圧電振動子1の電気的特性は、図11(b)に示す等価回路により表すことができる。なお、ここで、Lkは振動子の質量に相当するインダクタンス、Ckは振動子の弾性スティフネスの逆数に相当する静電容量、Rkは機械的損失に相当する抵抗、Cpは電極間容量である。
【0004】
図11(a)に示される交流電圧生成回路2により生成される交流電圧の周波数を、図11(b)に示される等価回路におけるLk, Ckよりなる直列共振回路の共振周波数に合致させると、Rkの電流は極大値となり、最も大きな機械的振動が得られる。そのため、従前の超音波利用機器(例えば、車載の超音波測距装置)においては、このような直列共振点動作方式の超音波振動生成回路が採用される。
【0005】
なお、後述する本発明に関連する従来技術としては、次のものが存在する。すなわち、特許文献1には、超音波振動子に対してコイルを並列に配置し、コイルのインダクタンスを調整する旨の記載が、特許文献2には、電池で駆動される装置に最適な従来の超音波振動生成回路についての記載が、特許文献3には、超音波振動子のインピーダンスを監視し、共振周波数の変動に追従させる旨の記載が、特許文献4には、共振周波数の変動に追従させ、常に、共振周波数で駆動させる旨の記載が、及び特許文献5には、発振開始時にスイープを実行し、検出された共振点にVCOのスイープ周波数をロックしてから追尾制御(PLL回路)を開始する旨の記載が、それぞれ存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-238144号公報
【文献】特開2012-110857号公報
【文献】特開2008-049262号公報
【文献】特開2000-084485号公報
【文献】特開昭56-010194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した直列共振点動作方式の超音波振動生成回路の問題点を以下に説明する。一例として、市販のビール泡立て器に組み込まれた超音波振動生成回路を図12に示す。なお、図において、超音波振動を生成する圧電振動子の等価回路における各回路定数(Lk,Ck,Rk,Cp)の値は実測値である。また、交流電圧生成回路については、交流電源Vsと内部抵抗Rsとを用いて表すことができる。また、電池を電源として交流電圧生成回路を構成する場合、昇圧回路を組み込むことになるが、交流電圧生成回路の出力インピーダンスを低く抑えようとすると、回路全体が大型化してしまう。そこで、現実に即して、ここでは内部抵抗Rsの値は600Ωに設定する。
【0008】
以上の回路構成(図12)において、機械的負荷により抵抗Rkに仕事量としての1Wの電力消費が生ずることを前提とし、基準負荷時(Rk=1600Ω)と軽負荷時(Rk=800Ω)とのそれぞれについて、直列共振時における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係をシミュレーションする。
【0009】
図12の回路を前提として、圧電振動子の直列共振動作時における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係を示すグラフを図13に示す。なお、図において、fosは直列共振周波数、fopは並列共振周波数である。
【0010】
同図(a)に示されるように、基準負荷時(Rk=1600Ω)の場合、振動等価電流IRkの値は、インダクタンスLk及び静電容量Ckよりなる直列共振周波数fosである40kHz付近で最大値である25mAとなり、抵抗Rkには1Wの電力消費が生ずることが判る。これに対して、同図(b)に示されるように、負荷が解放されたことにより、抵抗Rkの値が800Ωまで低下した軽負荷時(Rk=800Ω)の場合、振動等価電流IRkの値は、インダクタンスLk及び静電容量Ckよりなる直列共振周波数fosである40kHz付近で最大値である40mAへと増加(25mA →40mA)することが判る。
【0011】
すなわち、図12に示される直列共振点動作方式による超音波振動生成回路にあっては、仕事量を小さくするべく負荷を解放すると、振動振幅が大きくなると言った負荷特性を有し、またそれに伴い電源からの電流IVsも33mA→43mAと増加するため、低容量の小型電池で駆動するには、省電力の観点から都合の悪い特性となることが判る。
【0012】
更に、このように負荷解放により振動振幅が大きくなる特性は、振動子を破損する要因ともなることから、駆動電圧に対する上限が生じ、それが実負荷時に供給可能な出力への制限ともなることが判る。
【0013】
この発明は、上述の技術的背景に鑑みてなれたものであり、その目的とするところは、低消費電力で動作が可能な超音波振動生成回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の技術的課題は、以下の構成を有する超音波振動生成回路により解決することができると考えられる。
すなわち、本発明に係る超音波振動生成回路は、
超音波振動を生成するための圧電振動子と、
前記圧電振動子に対して交流電圧を印加するための交流電圧生成回路とを有し、
前記交流電圧生成回路の生成する交流電圧の周波数は、前記圧電振動子の実効的な並列共振点周波数に整合されている。
【0015】
好ましい実施の形態にあっては、
所定の起動条件が成立するのを待って、起動されて、前記交流電圧の周波数を圧電振動子の実効的な並列共振周波数に自動的に整合させる周波数自動調整部を有するものであってもよい。このとき、前記周波数自動調整部は、一旦整合された前記交流電圧の周波数が所定の非整合状態へと移行されたときにも、起動されるものであってもよい。
【0016】
好ましい実施の形態にあっては、
制御クロックに基づいて、直流電圧を前記制御クロックに同期した交流電圧に変換するインバータを有し、
前記周波数自動調整部は、
前記制御クロック周波数をスイープ又はホッピングさせながら、前記制御クロックの位相と前記交流電圧の位相とを比較し、それらの位相差が、並列共振点同調時の既知の相関に整合するのを待って、前記スイープ又はホッピング動作を停止させて、制御クロック周波数をロックする機能を有する、ものであってもよい。なお、ここで「スイープ」とは連続的に変化させること、「ホッピング」とは段階的に変化させることを意味している。
【0017】
好ましい実施の形態にあっては、
制御クロックに基づいて、直流電圧を前記制御クロックに同期した交流電圧に変換するインバータを有し、
前記周波数自動調整部は、
前記制御クロック周波数をスイープ又はホッピングさせながら、前記制御クロックの位相と前記交流電圧の位相とを比較し、前記制御クロック周波数の単位変化あたりの前記交流電圧値の変化が既知の相関に整合するのを待って、前記スイープ又はホッピング動作を停止させて、制御クロック周波数をロックする機能を有する、ものであってもよい。このとき、既知の相関とは、所定の極大値に達することであってもよい。なお、ここで「スイープ」とは連続的に変化させること、「ホッピング」とは段階的に変化させることを意味している。
【0018】
好ましい実施の形態にあっては、
電池を電源として動作するハンディータイプの超音波利用機器に組み込まれてなる、ものであってもよい。
【0019】
好ましい実施の形態にあっては、
前記ハンディータイプの超音波利用機器が、ビールの泡立て器、超音波ナイフ、超音波ピーリング、又は超音波振動歯ブラシを含む、ものであってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低消費電力で動作が可能な超音波振動生成回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、圧電振動子の共振点を説明するためのグラフである。
図2図2は、超音波振動生成回路(並列共振点動作方式)の一例を示す図である。
図3図3は、圧電振動子の並列共振動作時における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係を示すグラフである。
図4図4は、高負荷時(Rk=2400Ω)における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係を直列共振点動作時と並列共振点動作時とで比較して示すグラフである。
図5図5は、超音波振動生成回路における各特性値を直列共振点動作の場合と並列共振点動作の場合とで比較して示す図表である。
図6図6は、ビール泡立て器への適用例を示す説明図である。
図7図7は、交流電圧生成回路としてインバータを採用した超音波振動生成回路(並列共振点動作方式)の一例を示す図である。
図8図8は、インバータのクロック端子電圧Vdと圧電振動子の端子間電圧Vzとの関係を示すグラフである。
図9図9は、自動周波数調整機能が組み込まれた超音波振動生成回路(並列共振点動作)の一例を示す図である。
図10図10は、本発明による利点を従来例と比較して説明するための図である。
図11図11は、超音波振動生成原理の説明図である。
図12図12は、超音波振動生成回路(直列共振点動作方式)の一例を示す図である。
図13図13は、圧電振動子の直列共振点動作時における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る超音波振動生成回路の好適な実施の一形態を添付図面(図1図13)を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
<2つの共振点>
圧電振動子の共振点を説明するためのグラフを図1に示す。なお、このグラフは、先に、図12に示した超音波振動生成回路において、共振点を際立させるため、便宜的にRs=0Ω、Rk=100Ωとしたときの電源の駆動電流IVsをシミュレーションした結果を示すものである。また、グラフ上の破線は、電源から素子に流れ込む電流の位相を示す。
【0024】
同グラフから明らかなように、駆動電流IVsの曲線には、位相が0°となる点が2つ存在する。1つは、先に駆動周波数と定めたインダクタンスLkと静電容量Ckによるリアクタンスの直列共振点fos (40kHz), もう1つはインダクタンスLkと静電容量Ckの直列リアクタンスにCpのリアクタンスが並列接続された共振点fop (42kHz)である。以後、共振点fosを「直列共振点」、共振点fopを「並列共振点」と称する。このように、超音波振動生成回路を電源側から見た場合には、駆動電流IVsが極値を示す2つの共振点が存在することが判る。
【0025】
また、図1のグラフの周波数応答で示されるよう、電源Vsの電流IVsは、直列共振点fosで極大となり、並列共振点fopでは極小となる。先に述べたように、圧電振動子は、通常、直列共振点fosで駆動されるが、以下では電流が極小値となる並列共振点fopにて圧電振動子を駆動することが先の問題点の解決になることを説明する。
【0026】
<並列共振点動作方式>
超音波振動生成回路(並列共振点動作方式)の具体的な一例を図2に、圧電振動子の並列共振点動作時における駆動電流IVsと振動等価電流Iとの関係を示すグラフを図3に、それぞれ示す。
【0027】
図2に示されるように、回路中にインダクタンスLxを挿入することにより、図3(a)に示される基準負荷時(Rk=1600Ω)においては、第1の極大点fos1と第2の極大点fos2との2か所に電流の極大点が現れる。このうち第1の極大点fos1はインダクタンスLxと静電容量Cpによるリアクタンスの合成値が誘導性、インダクタンスLkと静電容量Ckによるリアクタンスの合成値が容量性として作用した際の極大点、第2の極大点fos2はインダクタンスLxと静電容量Cpの合成値が容量性、インダクタンスLkと静電容量Ckの合成値が誘導性として作用した際の極大点である。ここで、先に述べた並列共振点fopが第1の極大点fos1と第2の極大電fos2との中央付近に位置するようにインダクタンスLxの値を定めることで、電流極小点の周波数と電流極大点の周波数を離調させることができる。
【0028】
図3(b)に示される軽負荷時(Rk=800Ω)においては、並列共振点fopで動作した場合、図3(a)との比較からも明らかなように、駆動電流IVsの値は、25mA→13mAと減少することとなり、1)電源から負荷に対して、負荷の状態に応じて、それに見合った電流が供給されること、2)負荷が変動した場合でも振動等価電流I Rk (即ち、振動の振幅)はそれほど変化せず良好な負荷特性を示すこと、が判る。
【0029】
高負荷時(Rk=2400Ω)における駆動電流IVsと振動等価電流IRkとの関係を直列共振動作時と並列共振動作時とで比較して示すグラフを図4に示す。同図に示されるように、高負荷時(Rk=2400Ω)にあっては、直列共振点動作による回路よりも並列共振点動作による回路の方が、振動等価電流IRkの減少が小さく、すなわちそれは振動の減衰量が少なく負荷特性が良好であることが判る。
【0030】
超音波振動生成回路における各特性値を直列共振点動作の場合と並列共振点動作の場合とで比較して示す図表を図5に示す。同図表から明らかなように、電源の電流Isは、直列共振点動作の場合には、負荷が軽い程大きくなるのに対して、並列共振点動作の場合には、逆に負荷が軽い程小さくなる。一方、機械振動等価電流Ikは、直列又は並列のいずれの共振点動作にあっても、双方とも負荷が大きくなるにつれて減少傾向にあるものの、その減少量は並列共振点動作時の方が遥かに小さく、良好な負荷特性を示している。さらに、振動子の動作については、直列共振点動作の場合には、負荷が軽くなるに従い著しく振動が大きくなるので軽負荷時に振動子が破損しないよう駆動源の出力を抑える必要が生じ、振動子の定格上実負荷時に取り出せる出力は並列共振点駆動よりも小さくなることが想定される。消費電力PSについては、特に軽負荷時において、両者の差異は顕著となり、並列共振点動作の方が直列共振点動作の場合よりも、省電力に優れる。
【0031】
<振動子の共振周波数に関する考察>
ビール(缶ビール)の泡立て器への適用例を示す説明図を図6に示す。この場合、振動子3としては、同図(a)に示されるように、段付き円筒状の振動子が採用される。段付き円筒状のケースはアルミ合金で作られ、その天板部3aの裏側に圧電セラミックが接着されている。そのため、この振動子3の共振周波数は、振動する天板部3の実効質量と弾性によって規定される。
【0032】
同図(b)に示されるように、ビール缶4に圧電振動子3を密着させると、振動子密着部裏側にビールが届いていない場合には、ビール缶のアルミ薄板は自由に動ける状態にあり、密着部分のアルミ薄板は振動子の天板部と一体となって振動するため、振動部の質量が増加したこと、即ち質量相当インダクタンスLk(図11(b)参照)の値が大きくなったことと同等となり、共振周波数は低下する。他方、振動子密着部分裏側となるアルミ缶内部がビールで満たされている場合はその限りではなく、密着部分のアルミ薄板はビール液によって拘束され振動子と缶の接する部分にすべりが生じ機械的損失Rkは上昇するが、共振周波数の変化は小さい。一方、缶が冷えていて結露により缶表面が濡れていると、振動子が接する面に水膜が形成されてすべりは生じなくなり、その場合、振動部にはアルミ缶とビール液の質量が加わるため、共振周波数は先のビールが届いていない状態よりも更に低下する。即ち、振動子を缶に作用させたときの共振周波数は、容器内のビールの付着状態や振動子を当てる場所によっても変化するものと想定される。
【0033】
ここで、直列共振点動作による超音波振動生成回路(図12参照)にあっては、図4(a)及び図13に示されるように、振動等価電流IRkは共振周波数となる40kHz付近をピークとした山なりの曲線となる。即ち先のビール缶における例の如く、振動を伝える負荷側の状態によっても振動子の共振点は変化し、振動が減衰する要因となることが判る。一方、並列共振点動作による超音波振動生成回路(図2参照)にあっては、図3及び図4(b)に示されるように、振動等価電流IRkは共振点43kHzを中心とした広帯域で平坦な特性を描き、振動子の共振点が変化しても振動が減衰しない良好な特性が得られ、並列共振点駆動おける負荷特性の優位性を示している。
【0034】
<振動子駆動周波数の自動調整>
並列共振点動作方式の超音波振動生成回路(図2参照)にあっては、共振点を外した周波数で駆動しても振動は減衰しないことを先に示したが、その一方で共振点を外すと駆動電流は増加するので、省電力化のためには常に共振周波数近傍の周波数で駆動することが好ましい。
【0035】
しかしながら、圧電振動子は、従来、駆動電流が極大となる周波数、即ち直列共振点で動作する意図を以て調整、製造されている。そのため、その周波数は振動子の製造元によって管理されている一方、駆動電流が極小となる周波数、即ち並列共振点周波数は製造元によって管理されていない。
【0036】
また、並列共振周波数は電極間容量Cp(図11(b)参照)の依存性があり、しかもそれは圧電材料となる高誘電体の性質上環境温度や特に動作中の自己発熱によっても変化する。加えて、並列共振点周波数は、[0032]で示したように、振動を伝える負荷側の状態によっても変化してしまうので、駆動周波数は装置起動毎あるいは起動中常時調整されることが望まれる。
【0037】
交流電圧生成回路としてインバータを採用した超音波振動生成回路(並列共振点動作)の一例を図7に示す。なお、ここでは、簡易かつ変換効率の高いフライバック方式のインバータを一例として採用する。
【0038】
先に説明したように、並列共振点動作方式の超音波振動生成回路(図2図3及び図4参照)は、駆動電流IVsの位相は並列共振点fop近傍では周波数が高くなると進み、低くなると遅れるよう変化する。
【0039】
同様に、図7に示す超音波振動生成回路にあっては、インバータのスイッチング素子端Vdに印加するパルスとそれによって発生するVz端の電圧の位相関係は、並列共振点fopとされる駆動電流Isの極小点近傍でVdの周波数に従い変化する。その変化の様子を図8に示す。
【0040】
ここで、クロック端子Vdのパルスの立ち下がりから振動子の端子電圧Vz上昇期間におけるゼロクロス点までの時間をtxとすると、txの値はクロック端子Vdへのクロック周波数fVdが低くなるにつれて小さくなる。具体的には、クロック周波数fVdが43kHz近傍にて駆動電流ISが極小となり、その時の時間txを基準とし、時間txをモニターしながらクロック周波数fVdを高い方から低い方へホッピングし、時間txが基準値と等しくなるポイントで周波数のホッピングを止めるようにすれば、装置は常に駆動電流が最小となる周波数にて起動させることができる。
【0041】
自動周波数調整機能が組み込まれた超音波振動生成回路(並列共振点動作)の一例を図9に示す。同回路において、スイッチング素子に与える定周期性パルスがMCUに内蔵のPWM発生器より生成されるものとする一方で、保護抵抗Rを介して圧電振動子の端子電圧VzをMCU(マイクロコントローラユニット)の入力ポートPzに取り込むものとすれば、ポートPzの論理値が、Vzのほぼゼロクロス点でL→H 或いはH→Lと変化する。そこで、PWM発生器より出力される駆動パルスの周波数を段階的に変化させながら(すなわち、周波数をホッピングさせながら)、ポートPzの論理値が変化するタイミングにおけるPWM発生器の状態(PWMカウンタの数値)をモニターし、図8(c)に示される時間txに最も近くなる周波数を探り当て駆動周波数とすることで、周波数を最適化すべくキャリブレーションが可能となる。
【0042】
しかしながら、時間txは、機械的損失Rk(図11(b)参照)によっても変化するため、例えば振動子3が缶4に接触した場合(図6(b)参照)においては無負荷時と異なりtx数値だけでは共振点は導き出せなくなる。そうした場合は時間txが共振点近傍で振動子駆動周波数fdに対する変化量が大きくなる特性を利用し、駆動周波数fdをスイープまたはホッピングさせながら時間txの変化量の極大点即ちΔtx/Δfdが最大となるfdを探ることで、駆動周波数のキャリブレーションが可能となる。
【0043】
また、駆動中において時間txをモニターしていれば、負荷の状態が変化したことや、特にビールの泡立て器(図6参照)にあっては、振動子3がビール缶4より離れたことなども判定でき、そのような場合、再キャリブレーションや駆動を停止するような機能が容易に実現でき、省電力化に寄与することが期待される。
【0044】
<本発明回路と従来回路との比較>
本発明による利点を従来例と比較して説明するための図を図10に示す。本発明に係る圧電振動子の電流極小点での駆動は、従来の電流極大点での駆動と比較し、電力消費や負荷特性における優位性のみならず駆動回路の簡略化にも寄与するが、この点を具体的な回路構成を示して説明する。
【0045】
圧電振動子Zの直列共振点近傍で駆動する従来方式では、図10(b)に示されるように、バイファイラ巻線を施したトランスTの一次側を、2個のスイッチング素子を用いてプッシュプル駆動させることで、トランスTの2次側巻線に誘起する高電圧を振動子駆動用の交流電圧とする。また、圧電振動子Zが軽負荷時の低インピーダンス状態において定格を超える大きな振動が生じないよう、インダクタンスLtと静電容量Ctが駆動周波数にて共振状態となるよう定数を定めることで、振動子Zをハイインピーダンスで駆動する。尚、インダクタンスLpは力率改善を意図し、圧電振動子Zの電極容量を補正すべく配置されたものである。
【0046】
一方、圧電振動子Zを並列共振点近傍で駆動する本発明方式では、駆動源となる交流電圧生成回路のインピーダンスが高くても動作に支障がないため、従来用いられてきたプッシュプル方式のインバータではなく、図10(a)に示されるように、単巻線トランスあるいはタップダウンしたインダクタと1個のスイッチング素子によるフライバック方式のインバータで駆動可能となる。並列共振点近傍においては低負荷でも大きな振動が生じる恐れがないため、先のインダクタンスLtと静電容量Ctに相当する部品は必要なく、さらに力率は駆動周波数においてほぼ100%となるので先のインダクタンスLpに相当する部品も不要となる。また、図2の回路におけるインダクタンスLxに相当する部品は、トランスTのリーケージリアクタンスがその役目を果たせるので設計次第で不要とできる。
【0047】
双方の回路共にインバータのスイッチング素子は、コントローラユニットMCUによって駆動されているが、その駆動周波数は従来MCUのクロックを可変抵抗VRによって微調整することで振動子の共振周波数に合わせていた。
【0048】
これに対して、本発明方式では、並列共振点近傍で圧電振動子Zの端子電圧のインバータ駆動パルスに対する位相が急峻に変化する特性を利用すべく、保護抵抗器Rfを介し圧電振動子Zの端子電圧をMCUに取り込みモニターしながら駆動周波数をスイープ又はホッピングすることで共振点周波数を検出している。そのため、製造時における可変抵抗器VRの調整は不要となる。
【0049】
更に、圧電振動子Zの共振周波数およびMCUより発生するインバータ駆動周波数は気温など使用環境によって変化するため、使用の都度、或いは動作中に自動調整が行われることで性能の安定化を図ることも可能となる。
【0050】
駆動周波数のキャリブレーション方法は、他にも圧電振動子Zに流れる電流値の周波数応答を探ることにて実現可能であるが、ここでの位相検出による方法はA/D変換器が不要で且つレスポンスが速いので周波数のスイープ又はホッピングを短時間で行うことができ、高速性に優れると言う利点を有する。
【0051】
<まとめ>
これまでに得られた研究成果の要点を以下に示す。
1.圧電振動子の機械振動を取り出して利用する装置において、通常利用する振動子駆動電流が極大となる周波数で駆動するよりも、振動子駆動電流の値が極小となる周波数にて駆動するほうが消費電力および負荷特性の改善が見込まれ、その結果取り出せる機械振動出力の最大値を大きくすることも可能となる。
2.振動子駆動電流の値が極小となる周波数で駆動する方式において、振動子の駆動電流が極小となる周波数は駆動電流が極大となる周波数の近傍となるが、振動子に直列にインダクタンスを挿入することで駆動電流の極大点となる周波数を極小となる周波数より離調することが可能で、それにより駆動する際の回路動作の安定化と負荷特性の改善が見込まれる。
3.圧電振動子を駆動するインバータ回路において、電流が極小となる周波数は圧電振動子の端子電圧と駆動パルスの位相関係より推定可能であることから、振動子の端子電圧をインバータ駆動用のMPUに取り込むことで、駆動周波数を最適化するべく調整の自動化が可能となり、さらに以下のような機能が実現可能となる。
1)操作中に位相が変化した場合は再キャリブレーションを行い、常に最適の周波数で振動子を駆動する機能
2)無負荷となった場合には自動的に振動子の駆動を停止させ、消費電力を低減する機能
3)振動子に指などが接触した場合には振動子の駆動を停止させ、火傷を防止する機能
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、例えば、電池を電源として動作するハンディータイプの超音波振動利用機器(例えば、ビールの泡立て器、超音波ナイフ、超音波ピーリング、超音波振動歯ブラシ、等々)の製造業において、広く利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 圧電振動子
2 交流電圧生成回路
3 圧電振動子素子
3a 天板
4 ビール缶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13