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特許7148488顔料分散剤、顔料分散剤の製造方法、及び顔料分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】顔料分散剤、顔料分散剤の製造方法、及び顔料分散液
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20220928BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20220928BHJP
   C08F 220/30 20060101ALI20220928BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220928BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C09B67/20 L
C09B67/20 A
C09B67/20 F
C09B67/46 B
C09B67/46 Z
C08F220/30
C08F290/06
G02B5/20 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019233980
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102688
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-167426(JP,A)
【文献】特開2012-169556(JP,A)
【文献】特開2007-231268(JP,A)
【文献】特開2007-204718(JP,A)
【文献】特開2010-163480(JP,A)
【文献】国際公開第2014/091923(WO,A1)
【文献】特開2011-070156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00 ー 69/10
C08F 220/30
C08F 290/06
G02B 5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[1]~[3]の要件を満たすポリマーである顔料分散剤。
[1]下記一般式(1)で表されるモノマー1に由来する構成単位(1)、下記一般式(2)で表されるモノマー2に由来する構成単位(2)、及び下記一般式(3-1)又は(3-2)で表されるモノマー3に由来する構成単位(3)を有する。
(前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは5~20の数(平均値)を示す。前記一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示す)
[2]前記構成単位(1)~(3)の合計の含有量が80質量%以上であるとともに、前記構成単位(1)の含有量が50~70質量%である。
[3]ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が5,000~20,000であり、酸価が30~130mgKOH/gである。
【請求項2】
前記構成単位(1)~(3)のみで構成されるポリマーである請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Rがメチル基、Rがエチレン基であり、
前記一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中、Rがメチル基、Rがエチレン基である請求項1又は2に記載の顔料分散剤。
【請求項4】
室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤中に顔料を分散させるために用いる請求項1~3のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の顔料分散剤の製造方法であって、
芳香族トリカルボン酸無水物と、前記芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して2~8モルの前記モノマー2を反応させて、前記モノマー2及び前記モノマー3を含有するモノマー混合物を得る工程と、
前記モノマー混合物と前記モノマー1を反応させる工程と、を有し、
前記芳香族トリカルボン酸無水物が、無水トリメリト酸又はナフタレントリカルボン酸無水物である顔料分散剤の製造方法。
【請求項6】
前記芳香族トリカルボン酸無水物と、前記モノマー2を、室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤中で反応させる請求項5に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項7】
前記芳香族トリカルボン酸無水物と、前記モノマー2を、前記芳香族トリカルボン酸無水物に対して0.01~10モル%の4-ジメチルアミノピリジンを触媒として使用し、30℃以下で反応させる請求項5又は6に記載の顔料分散剤の製造方法。
【請求項8】
有機溶剤、顔料、及び前記顔料を前記有機溶剤中に分散させる顔料分散剤を含有する顔料分散液であって、
前記顔料分散剤が、請求項1~4のいずれか一項に記載の顔料分散剤であり、
前記顔料100質量部に対する、前記顔料分散剤の含有量が、5~50質量部である顔料分散液。
【請求項9】
前記有機溶剤が、室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤である請求項8に記載の顔料分散液。
【請求項10】
前記顔料100質量部に対して、塩基性基を有する色素誘導体5~20質量部をさらに含有する請求項8又は9に記載の顔料分散液。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか一項に記載の顔料分散液の、画像表示装置用部材を製造するための着色剤としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤、顔料分散剤の製造方法、顔料分散液、及び顔料分散液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
情報機器として、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、量子ドットディスプレイなどの次世代のディスプレイが近年開発されている。また、技術の急速な発展に伴い、より高画質であるとともにコストパフォーマンスに優れた液晶ディスプレイパネルを構成する部材であるカラーフィルター、及びそのようなカラーフィルターを製造するための着色剤が要求されている。さらに、有機ELディスプレイや量子ドットディスプレイに対しては、発光層の画素を分割するバンク材を構成しうる、顔料の分散性に優れた着色剤が要求されている。
【0003】
カラーフィルター等を製造する材料となる着色剤として用いられる顔料分散液は、極めて微細な顔料(顔料微粒子)が微分散した状態で含まれている。そして、このような顔料分散液は、顔料が微細化されているために表面張力が高く、顔料が凝集しやすい傾向にある。したがって、顔料分散液に対しては、微粒子の状態で分散させた顔料の分散安定性を保持するための工夫が必要とされている。例えば、耐熱性の良好な顔料分散剤を用いた、アルカリ現像しやすいカラーフィルター用の着色剤が種々提案されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-298967号公報
【文献】特開2011-068865号公報
【文献】特開2013-32441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
次世代ディスプレイ用の着色剤については、顔料の微粒子化がさらに進行している。そのような微粒子化された顔料を含みながらも高い着色性能を安定して発揮するには、高温下で長期保存した場合であっても、顔料が凝集することなく、微分散状態が維持されていることが必要とされる。しかし、従来の着色剤は、これらの要求を必ずしも満足できるものであるとは言えなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、低粘度であるとともに、良好な着色性能を示し、顔料の分散安定性及び長期保存性に優れた、カラーフィルター用着色剤の材料等として有用な顔料分散液を調製することが可能な顔料分散剤を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の顔料分散剤の製造方法、上記の顔料分散剤を用いて得られる顔料分散液、及びこの顔料分散液の、画像表示装置用部材を製造するための着色剤としての使用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤が提供される。
[1]下記[1]~[3]の要件を満たすポリマーである顔料分散剤。
[1]下記一般式(1)で表されるモノマー1に由来する構成単位(1)、下記一般式(2)で表されるモノマー2に由来する構成単位(2)、及び下記一般式(3-1)又は(3-2)で表されるモノマー3に由来する構成単位(3)を有する。
【0008】
(前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは5~20の数(平均値)を示す。前記一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示す)
【0009】
[2]前記構成単位(1)~(3)の合計の含有量が80質量%以上であるとともに、前記構成単位(1)の含有量が50~70質量%である。
[3]ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が5,000~20,000であり、酸価が30~130mgKOH/gである。
[2]前記構成単位(1)~(3)のみで構成されるポリマーである前記[1]に記載の顔料分散剤。
[3]前記一般式(1)中、Rがメチル基、Rがエチレン基であり、前記一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中、Rがメチル基、Rがエチレン基である前記[1]又は[2]に記載の顔料分散剤。
[4]室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤中に顔料を分散させるために用いる前記[1]~[3]のいずれかに記載の顔料分散剤。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤の製造方法が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の顔料分散剤の製造方法であって、芳香族トリカルボン酸無水物と、前記芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して2~8モルの前記モノマー2を反応させて、前記モノマー2及び前記モノマー3を含有するモノマー混合物を得る工程と、前記モノマー混合物と前記モノマー1を反応させる工程と、を有し、前記芳香族トリカルボン酸無水物が、無水トリメリト酸又はナフタレントリカルボン酸無水物である顔料分散剤の製造方法。
[6]前記芳香族トリカルボン酸無水物と、前記モノマー2を、室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤中で反応させる前記[5]に記載の顔料分散剤の製造方法。
[7]前記芳香族トリカルボン酸無水物と、前記モノマー2を、前記芳香族トリカルボン酸無水物に対して0.01~10モル%の4-ジメチルアミノピリジンを触媒として使用し、30℃以下で反応させる前記[5]又は[6]に記載の顔料分散剤の製造方法。
【0011】
さらに、本発明によれば、以下に示す顔料分散液が提供される。
[8]有機溶剤、顔料、及び前記顔料を前記有機溶剤中に分散させる顔料分散剤を含有する顔料分散液であって、前記顔料分散剤が、前記[1]~[4]のいずれかに記載の顔料分散剤であり、前記顔料100質量部に対する、前記顔料分散剤の含有量が、5~50質量部である顔料分散液。
[9]前記有機溶剤が、室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤である前記[8]に記載の顔料分散液。
[10]前記顔料100質量部に対して、塩基性基を有する色素誘導体5~20質量部をさらに含有する前記[8]又は[9]に記載の顔料分散液。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す顔料分散液の使用が提供される。
[11]前記[8]~[10]のいずれかに記載の顔料分散液の、画像表示装置用部材を製造するための着色剤としての使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低粘度であるとともに、良好な着色性能を示し、顔料の分散安定性及び長期保存性に優れた、カラーフィルター用着色剤の材料等として有用な顔料分散液を調製することが可能な顔料分散剤を提供することができる。また、本発明によれば、上記の顔料分散剤の製造方法、上記の顔料分散剤を用いて得られる顔料分散液、及びこの顔料分散液の、画像表示装置用部材を製造するための着色剤としての使用が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。なお、本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。
【0015】
<顔料分散剤>
本発明の顔料分散剤は、下記[1]~[3]の要件を満たすポリマーである。以下、本発明の顔料分散剤の詳細について説明する。
[1]下記一般式(1)で表されるモノマー1に由来する構成単位(1)、下記一般式(2)で表されるモノマー2に由来する構成単位(2)、及び下記一般式(3-1)又は(3-2)で表されるモノマー3に由来する構成単位(3)を有する。
【0016】
(前記一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは5~20の数(平均値)を示す。前記一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示す)
【0017】
[2]前記構成単位(1)~(3)の合計の含有量が80質量%以上であるとともに、構成単位(1)の含有量が50~70質量%である。
[3]ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の数平均分子量が5,000~20,000であり、酸価が30~130mgKOH/gである。
【0018】
(要件[1])
顔料分散剤であるポリマーは、一般式(1)で表されるモノマー1に由来する構成単位(1)、一般式(2)で表されるモノマー2に由来する構成単位(2)、及び一般式(3-1)又は(3-2)で表されるモノマー3に由来する構成単位(3)を有する。
【0019】
[構成単位(1)]
構成単位(1)は、下記一般式(1)で表されるモノマー1に由来するユニットである。
【0020】
(一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示し、nは5~20の数(平均値)を示す)
【0021】
モノマー1は、ポリカプロラクトン鎖をその分子構造中に有する、いわゆるマクロモノマーである。すなわち、本発明の顔料分散剤は、その分子構造中にポリカプロラクトン鎖が導入されたポリマーであるため、有機溶剤に溶解して粒子同士の立体反発を生じさせ、顔料を微分散させるとともに、分散安定性を保持することができる。
【0022】
ポリカプロラクトン鎖の繰り返し数(n)は、(メタ)アクリロイル基を1モルとしてNMRから算出される値である。例えば、n=5である場合のポリカプロラクトン鎖の平均分子量は570であり、n=20である場合のポリカプロラクトン鎖の平均分子量は2,280である。nの値が5未満であると、立体反発が不足し、分散安定性が不十分になる。一方、nの値が20超であると、ポリカプロラクトン鎖が結晶化して蝋状になりやすい。このため、顔料分散液が固化しやすくなるとともに、顔料分散液の温度が低下した際にポリマーが結晶化して析出しやすくなる場合がある。一般式(1)のnの値は6~15であることが好ましい。すなわち、ポリカプロラクトン鎖の平均分子量は、約700~1,800であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)中、Rで表される基としては、エチレン、プロピン、(メチル)エチレン、ブチレン、(メチル)プロピレン、ジメチルエチレン等を挙げることができる。なかでも、エチレン、メチルエチレン、ブチレンが好ましい。
【0024】
モノマー1は、例えば、触媒であるテトラブチルチタネート、ジラウリン酸スズ等の金属系化合物の存在下、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを開始化合物として使用し、ε-カプロラクトンを開環重合することによって製造することができる。開環重合後、そのまま取り出してもよいが、ワックス状に固まってしまう場合があるので、特に精製することなく、有機溶剤で希釈してマクロモノマー溶液とすることが好ましい。
【0025】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0026】
[構成単位(2)]
構成単位(2)は、下記一般式(2)で表されるモノマー2に由来するユニットである。
【0027】
(一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示す)
【0028】
モノマー2に由来する構成単位(2)を導入することで、顔料分散剤(ポリマー)の主鎖に水酸基を高濃度で導入することができる。これにより、ポリマーが顔料に水素結合によって吸着しやすくなると考えられる。モノマー2としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0029】
[構成単位(3)]
構成単位(3)は、下記一般式(3-1)又は(3-2)で表されるモノマー3に由来するユニットである。
【0030】
(一般式(3-1)及び(3-2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数2~4のアルキレン基を示す)
【0031】
モノマー3に由来する構成単位(3)を導入することで、顔料分散剤(ポリマー)の分子構造中に酸性基(カルボキシ基)を導入することができる。すなわち、本発明の顔料分散剤は、その分子構造中に酸性基を有するポリマーであるため、顔料(特に、塩基性基を有する顔料)と水素結合やイオン結合して吸着しやすい。また、1分子中に2つのカルボキシ基を有するモノマー3に由来する構成単位であるとともに、エステル結合のメタ位及びパラ位に位置するカルボキシ基の酸性度が高いので、顔料分散剤(ポリマー)の酸価を所定の値とするのに要するモノマーの量を少なくすることができる。さらに、構成単位(3)を多めに含ませることで、顔料に対する吸着性により優れた高酸価の顔料分散剤とすることもできる。したがって、本発明の顔料分散剤は、顔料を媒体中に分散させるための分散剤として好適である。
【0032】
モノマー3は、無水トリメリト酸やナフタレントリカルボン酸無水物等の芳香族トリカルボン酸無水物と、モノマー2とを低極性溶媒中で反応させることで得ることができる。モノマー3が、芳香族トリカルボン酸無水物と、モノマー2とを反応させて得た化合物である場合、一般式(3-1)及び(3-2)中のR及びRで表される基は、いずれも、一般式(2)中のR及びRで表される基と同じになる。
【0033】
なお、モノマー3は、トリメリト酸又はトリメリト酸ハロゲン化物と、モノマー2とを反応させても得ることができるが、トリメリト酸やトリメリト酸ハロゲン化物を溶解させる溶媒を用いる必要があるとともに、脱離したハロゲン化物を除去して精製する必要もある。さらに、モノマー2を溶媒として用いてトリメリト酸を脱水縮合させる場合、熱でモノマー2が重合したり、予期せぬ着色が生じたりすることがあるので、精製工程が必要となることがある。したがって、芳香族トリカルボン酸無水物と、芳香族トリカルボン酸無水物に対して大過剰のモノマー2とを反応させて、モノマー3を得ることが好ましい。これにより、モノマー2及びモノマー3を含有する反応液を精製することなく、以降の重合反応にそのまま用いることができる。
【0034】
無水トリメリト酸は、1位と2位のカルボキシ基で無水物を形成している。このため、無水トリメリト酸とモノマー2とを反応させると、下記一般式(3-1-1)で表される化合物が得られる場合もあるし、下記一般式(3-1-2)で表される化合物が得られる場合もある。但し、立体障害がより少ない1位のカルボキシ基がエステル化されやすいと考えられるので、下記一般式(3-1-1)で表される化合物が主成分になると考えられる。モノマー3としては、カルボキシ基の位置異性体の混合物を用いてもよい。
【0035】
【0036】
モノマー3としては、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル、2-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル、2-[2-(メタ)アクリロイルオキシプロピル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル、1-[2-(メタ)アクリロイルオキシブチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル、2-[2-(メタ)アクリロイルオキシブチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル等が好ましい。
【0037】
一般式(1)中のR、並びに一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中のRは、いずれもメチル基であることが好ましい。さらに、一般式(1)中のR、並びに一般式(2)、(3-1)、及び(3-2)中のRは、いずれもエチレン基であることが好ましい。すなわち、モノマー1~3は、いずれもメタクリレート系モノマーであることが好ましい。メタクリレート系モノマーは皮膚刺激が比較的少なく、取り扱いやすいために好ましい。また、メタクリレート系モノマーは、アクリレート系モノマーに比して重合性が若干劣るので、光や熱による予期せぬ重合が生じにくいために好ましい。さらに、モノマー2としてヒドロキシエチルメタクリレートを用いる場合、市販品で入手しやすいとともに、一級の水酸基が芳香族トリカルボン酸無水物と反応しやすいために好ましい。
【0038】
(要件[2])
顔料分散剤であるポリマーは、構成単位(1)~(3)の合計の含有量が80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%である。すなわち、顔料分散剤(ポリマー)は、構成単位(1)~(3)のみで実質的に構成されるポリマーであることが特に好ましい。また、顔料分散剤(ポリマー)は、構成単位(1)の含有量が50~70質量%であり、好ましくは55~65質量%である。構成単位(1)を最も多く含有させることで、ポリマーに多数のグラフト鎖を導入することができる。これにより、主鎖の酸性基がイオン結合等によって顔料に吸着するとともに、多数のグラフト鎖が立体障害によって顔料粒子の反発を促し、顔料を良好な状態で分散させることができる。構成単位(1)の含有量が50質量%未満であると、顔料の分散安定性が不十分になる。一方、構成単位(1)の含有量が70質量%超であると、構成単位(2)及び構成単位(3)の含有量が相対的に少なくなるので、ポリマーが顔料に吸着しにくくなり、顔料の分散安定性が不十分になる。
【0039】
[その他の構成単位]
顔料分散剤(ポリマー)は、上記構成単位(1)~(3)以外の構成単位(その他の構成単位)を有していてもよい。その他の構成単位を構成するモノマー(その他のモノマー)は、ラジカル重合しうるモノマーであればよい。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン等の芳香族、複素環ビニルモノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル等の脂肪族、脂環族、芳香族カルボン酸ビニルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート等の(メタ)クアリル酸系モノマー;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー;(メタ)アクリロニトリル;N-ビニルピロリドン;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノ低級アルコールエステル、マレイン酸のジ低級アルコールエステル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイン酸類;等を挙げることができる。さらに、必要に応じて、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸含有モノマーを共重合させてもよい。顔料分散剤(ポリマー)中のその他の構成単位の含有量は、通常、20質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましい。
【0040】
(要件[3])
顔料分散剤であるポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が5,000~20,000であり、好ましくは6,000~18,000、さらに好ましくは8,000~15,000である。ポリマーのMnが5,000未満であると、顔料の分散安定性が不十分になる。一方、ポリマーのMnが20,000超であると、顔料分散剤の添加量を多くする必要があり、顔料分散液の粘度が過度に上昇することがある。ポリマーの分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、1.5~2.5であることが好ましい。
【0041】
顔料分散剤であるポリマーの酸価は、30~130mgKOH/gであり、好ましくは50~100mgKOH/gである。ポリマーの酸価が30mgKOH/g未満であると、顔料に対する吸着力が不足し、顔料の分散性がを向上させることができない。一方、ポリマーの酸価が130mgKOH/g超であると、親水性基の量が過剰となるので、耐水性が低下したり、黄変したりする場合がある。ポリマー等の樹脂の酸価は、樹脂1gを中和するのに要する水酸化カリウムの量(mg)で表される。樹脂の酸価は、有機溶媒(例えば、トルエン/エタノール=1/1質量比)に溶解させた樹脂を、0.1N水酸化カリウム/エタノールを滴定液、フェノールフタレイン液を指示薬として滴定して得られる値(単位:mgKOH/g)である。
【0042】
ポリマーの酸価は、理論上、モノマー3の酸性基(カルボキシ基)に由来する酸価と、必要に応じて用いられるその他のモノマーの酸性基に由来する酸価との合計である。但し、顔料分散剤として用いるポリマーの酸価は、モノマー3に由来する酸価であることが好ましい。モノマー3の酸性基(芳香族環に結合したカルボキシ基)が顔料に有効に作用すると考えられる。このため、モノマー3に由来する酸価の値が小さいと、顔料への吸着性が低下しやすくなる場合がある。
【0043】
<顔料分散剤の製造方法>
次に、上述の顔料分散剤の製造方法について説明する。本発明の顔料分散剤の製造方法は、芳香族トリカルボン酸無水物と、芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して2~8モルのモノマー2を反応させて、モノマー2及びモノマー3を含有するモノマー混合物を得る工程(工程(1))と、モノマー混合物とモノマー1を反応させる工程(工程(2))と、を有する。そして、芳香族トリカルボン酸無水物が、無水トリメリト酸又はナフタレントリカルボン酸無水物である。
【0044】
高性能な顔料分散剤として用いられるポリマーは、通常、性能を明確に分けたブロックコポリマーやグラフトコポリマー等の構造で設計されている。そして、このようなブロックコポリマーやグラフトコポリマーは、リビングラジカル重合によって製造される場合が多い。しかし、リビングラジカル重合の場合、モノマー等の各種成分(化合物)の精製、触媒や開始化合物等に由来する不純物の除去等の操作が必要となるので、製造コストの面で課題があった。これに対して、本発明の顔料分散剤の製造方法では、精製等の工程が不要であり、高度な機能を有する顔料分散剤(ポリマー)を1ポットで安価に製造することができる点で有利である。
【0045】
(工程(1))
工程(1)では、無水トリメリト酸等の芳香族トリカルボン酸無水物と、芳香族トリカルボン酸無水物に対して大過剰のモノマー2とを反応させる。すなわち、モノマー2は、モノマーとしてだけでなく、溶剤としても使用する。このため、過剰に用いたモノマー2が残存するとともに、反応によってモノマー3が生成するので、モノマー2及びモノマー3を含有するモノマー混合物を得ることができる。芳香族トリカルボン酸無水物は、大過剰のモノマー2と反応させているため、得られるモノマー混合物中に実質的に残存しない。このため、得られるモノマー混合物を精製等して芳香族トリカルボン酸無水物を除去する必要がなく、工程短縮やコスト低減に寄与する。
【0046】
工程(1)では、芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して2~8モル、好ましくは3~6モルのモノマー2を反応させる。モノマー2の量が、芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して2モル未満であると、芳香族トリカルボン酸無水物が残存する場合がある。一方、モノマー2の量が、芳香族トリカルボン酸無水物1モルに対して8モル超であると、得られるモノマー混合物中のモノマー3の濃度が低下するので、最終的に製造しようとするポリマーに導入される構成単位(3)の量が少なくなってしまう。
【0047】
モノマー2として2-ヒドロシキエチルメタクリレート(HEMA、分子量130)を使用し、芳香族トリカルボン酸無水物として無水トリメリト酸(分子量192)を使用する場合を例に挙げて説明する。HEMAと無水トリメリト酸を4:1のモル比で反応させる場合、HEMAの量は520質量部、無水トリメリト酸の量は192質量部となる。反応により、モノマー3である1-[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル(分子量322)322質量部が生成し、HEMA390質量部が残存する。すなわち、モノマー3を45.2質量%含有するモノマー2溶液を得ることができる。
【0048】
芳香族トリカルボン酸無水物とモノマー2を反応させる際に、モノマー2以外の有機溶剤を併用してもよい。有機溶剤としては、室温における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤を用いることが好ましい。なお、プロトン性の有機溶剤を用いると芳香族トリカルボン酸無水物と反応してしまう場合がある。有機溶剤の量は、モノマー2と同量以下とすることが好ましい。有機溶剤の量が多すぎると、芳香族トリカルボン酸無水物が系中に溶解しにくくなり、反応せずに残存することがある。
【0049】
芳香族トリカルボン酸無水物とモノマー2は、必要に応じて、100℃以上に加熱して反応させてもよい。また、ジアザビシクロウンデカン等の塩基性触媒の存在下で芳香族トリカルボン酸無水物とモノマー2を反応させることもできるが、着色したり、生成したモノマーが加熱によって重合したりする場合がある。このため、芳香族トリカルボン酸無水物と、モノマー2を、芳香族トリカルボン酸無水物に対して0.01~10モル%の4-ジメチルアミノピリジンを触媒として使用し、30℃以下で反応させることが好ましい。これにより、着色やモノマーの重合が生じにくく、モノマー2及びモノマー3を含有するモノマー混合物を容易に得ることができる。
【0050】
赤外分光光度計(IR)を使用して分析することで反応の進行状況をモニタリングし、酸無水物のピーク(1,780~1,800cm-1)が消失するまで芳香族トリカルボン酸無水物とモノマー2反応させることが好ましい。また、得られたモノマー混合物中のモノマーの酸価を測定することでも、反応が量論的に進行したか否かを確認することができる。
【0051】
(工程(2))
工程(2)では、工程(1)で得たモノマー混合物とモノマー1を反応させる。これにより、目的とする顔料分散剤(ポリマー)を得ることができる。モノマー混合物とモノマー1は、有機溶剤中でラジカル重合させることが好ましい。有機溶剤としては、非プロトン性有機溶剤を用いることが好ましい。非プロトン性有機溶剤としては、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等のエステル系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルモノエーテルエステル系溶媒等を挙げることができる。
【0052】
非プロトン性有機溶剤のなかでも、より極性の低い非プロトン性有機溶剤を用いることが好ましい。非プロトン性有機溶剤の極性は、室温(25℃)における比誘電率で定義することができる。非プロトン性有機溶剤の比誘電率(25℃)は、20以下であることが好ましく、10以下であることがさらに好ましい。比誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤としては、酢酸エチル(6.0)、酢酸ブチル(5.0)、シクロヘキサノン(18.3)、メチルエチルケトン(18.5)、テトラヒドロフラン(7.5)、トルエン(2.4)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(8.0)等を挙げることができる(括弧内の数値は25℃における比誘電率を示す)。非プロトン性有機溶剤の比誘電率は、実測値であってもよいし、メーカーのカタログやインフォメーション、溶剤ポケットブック等の文献、化学便覧、化学大辞典等に記載されている値であってもよい。
【0053】
工程(1)で得たモノマー混合物とモノマー1を上記の有機溶剤の存在下、加熱して溶液重合することで、顔料分散剤(ポリマー)を得ることができる。なお、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤等の重合開始剤や、連鎖移動剤等を用いてもよい。重合時間は、例えば、3~12時間、好ましくは5~8時間とすればよい。溶液重合は、有機溶剤、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤等の各成分を一括に仕込んで重合してもよいし、モノマーを滴下して重合反応を進行させてもよい。連鎖移動剤を用いると発熱しにくくなるので、各成分を一括で仕込んでも十分に温度制御することができる。重合して得られるポリマー溶液の固形分濃度が20~80質量%になるような反応系で溶液重合することが好ましい。
【0054】
<顔料分散液>
本発明の顔料分散液は、有機溶剤、顔料、及び顔料を有機溶剤中に分散させる顔料分散剤を含有する。そして、顔料分散剤が、前述の顔料分散剤(ポリマー)である。
【0055】
(有機溶剤)
本発明の顔料分散液は、有機溶剤を分散媒体として含有する油性の顔料分散液である。有機溶剤としては、ヘキサン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ドデカノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸ジメチル等のエステル系溶媒;ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;テトラメチルウレア、ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のグリコールジエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のグリコールエーテルモノエーテルエステル系溶媒等を挙げることができる。なかでも、有機溶剤としては、室温(25℃)における誘電率が20以下の非プロトン性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0056】
(顔料)
顔料としては、従来公知の無機顔料や有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックの他、酸化チタン、酸化亜鉛、弁柄、オーカー、複合酸化物顔料等を挙げることができる。酸化チタンは、シリカやシランカップリング剤で処理し、表面を塩基性にしておくことが好ましい。無機酸化物系の顔料は、顔料分散剤(ポリマー)のカルボキシ基と水素結合して吸着しやすいので、分散性を向上させることができる。
【0057】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニンブルー系顔料、フタロシアニングリーン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ・チオインジゴ顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン顔料、ニッケルアゾ顔料、不溶性アゾ系顔料、溶性アゾ系顔料、高分子量アゾ系顔料、有機黒色顔料等を挙げることができる。
【0058】
顔料分散液を、カラーフィルターを製造するための着色剤(カラーフィルター用着色剤(CF用着色剤))として用いる場合、顔料として有機顔料を用いることが好ましく、塩基性機を有する色素誘導体(いわゆるシナジスト)をさらに含有することが好ましい。有機顔料としては、カラーフィルターを構成する従来の各色の顔料を用いることができる。赤色顔料としては、カラーインデックス(C.I.)ピグメントレッド(PR)56、58、122、166、168、176、177、178、224、242、254、255等を挙げることができる。緑色顔料としては、ピグメントグリーン(PG)7、36、58、59、ポリ(14~16個)ブロム銅フタロシアニン、ポリ(12~15個)ブロム-ポリ(4~12個)クロル銅フタロシアニン等を挙げることができる。青色顔料としては、ピグメントブルー(PB)15:1、15:3、15:6、60、80等を挙げることができる。これらの各色の顔料に対する補色顔料や、多色型の画素用顔料を用いることもできる。具体的には、ピグメントイエロー(PY)12、13、14、17、24、55、60、74、83、90、93、126、128、138、139、150、154、155、180、185、216、219;ピグメントバイオレット(PV)19、23;等を用いることができる。
【0059】
顔料分散液を、有機ELを構成する隔壁を形成するための材料として用いる場合、白色顔料や黒色顔料が用いられる。白色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛等を挙げることができる。黒色顔料としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色無機系複合酸化物、有機黒色顔料等を挙げることができる。なかでも、導電性を有しない有機黒色顔料を用いることが好ましい。有機黒色顔料としては、アニリンブラック、ペリレンブラック、ラクタム系ブラック、リグニンブラック、アゾメチンアゾ系ブラック、シアニンブラック、インジゴイド系ブラック等を挙げることができる。
【0060】
顔料は、カラーフィルターの透明性、輝度、及びコントラスト等の色特性を出すために、微細化された顔料であることが好ましい。顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、10~100nmであることが好ましく、20~80nmであることがさらに好ましく、20~50nmであることが特に好ましい。顔料の数平均粒子径が10nm未満であると、顔料の結晶性が壊れやすく、高温で分解又は溶解しやすくなり、耐熱性が低下する場合がある。一方、顔料の数平均粒子径が100nm超であると、粒子径が大きすぎるために、透明性や輝度が低下しやすくなる場合がある。顔料の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して観察し、測定及び算出することができる。なお、CF用着色剤中の顔料の含有量は、5~30質量%であることが好ましく、8~25質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
顔料を微細化する方法としては、例えば、顔料、無機塩、及び必要に応じて用いられるジエチレングリコール等の有機溶媒を、ニーダー等で混練して微細化する方法;顔料を濃硫酸などに溶解させた後、水に析出させて微細な結晶粒子とする方法;等を挙げることができる。微細化された顔料の結晶の形状が球状に近いと、乱反射による光散乱が生じにくくなり、コントラストが良好となりやすいために好ましい。微細化された顔料の粒度分布は狭い方が、乱反射による光散乱が生じにくくなり、発色性及びコントラストが良好になりやすいために好ましい。微粒子化された顔料を特定の顔料分散剤(ポリマー)で分散させて得られる顔料分散液を用いて調製されるCF用着色剤を用いれば、高発色性、高画質、高透明性、及び高コントラストなカラーフィルターを製造することができる。
【0062】
(色素誘導体)
一般的に、有機溶剤を分散媒体として含有する顔料分散液は、顔料及び有機溶剤が油性であるとともに、有機溶剤に溶解する顔料分散剤も油性である。このため、顔料に吸着した顔料分散剤は有機溶剤に溶解しうるので、顔料から脱離しやすく、顔料の分散状態を安定に維持することが困難な場合がある。そこで、油性の顔料分散液の場合、顔料の表面に酸性基(又は塩基性基)を導入するとともに、塩基性基(又は酸性基)を持った顔料分散剤を使用し、酸性基と塩基性基をイオン結合させることで、顔料分散剤を顔料に吸着させている。低極性の有機溶剤中ではイオン結合は解離しにくいので、顔料分散剤が顔料から脱離しにくい。これにより、顔料の分散状態を安定に維持することができる。
【0063】
但し、微粒子化された顔料の表面に酸性基や塩基性基(官能性基)を導入することは困難である。そこで、特定の官能性を持った、顔料と同一の構造、類似の構造、又は相互作用しやすい構造を有する化合物(色素誘導体)をさらに含有させ、この色素誘導体を顔料の表面に吸着させることが従来行われている。このような特定の官能基を持った色素誘導体は、顔料処理剤やシナジストとも呼ばれている。
【0064】
前述の顔料分散剤は酸性基を有するポリマーであることから、顔料の分散状態を安定に維持するには、顔料の表面に塩基性基を導入することが好ましい。しかし、上述の通り、微粒子化した顔料に塩基性基を導入するのは困難である。このため、塩基性基を有する色素誘導体(シナジスト)を用いる。塩基性基としては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、アルキル型のアミノ基、複素環型のアミノ基等を挙げることができる。なかでも、第3級アミノ基が好ましい。第3級アミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ピリジニル基、イミダゾリニル基等を挙げることができる。
【0065】
色素誘導体本体(塩基性基以外の部分)としては、顔料の原料となる化合物、顔料と同一の構造を有する化合物等を挙げることができる。また、一般的な顔料は芳香環骨格を有することから、芳香族化合物、多環式化合物、複素環式化合物等を用いることもできる。酸性基は、色素誘導体本体に直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。連結基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルエステル基、アルキルエーテル基、アルキルアミド基、アルキルウレタン基、アルキル尿素基、及びスルホアミド基等を挙げることができる。色素誘導体本体としては、アゾ系の色素誘導体、フタロシアニン系の色素誘導体、アントラキノン系の色素誘導体、トリアジン系の色素誘導体、アクリジン系の色素誘導体、ペリレン系の色素誘導体、ジケトピロロピロール系の色素誘導体、ジオキサジンバイオレット系の色素誘導体等を挙げることができる。
【0066】
顔料分散液中、顔料100質量部に対する、塩基性基を有する色素誘導体の含有量は、5~20質量部であることが好ましく、7~15質量部であることがさらに好ましい。色素誘導体の含有量が、顔料100質量部に対して5質量部未満であると、顔料の表面に導入される塩基性基の量が少ないため、顔料に吸着する顔料分散剤の量が不足する場合があり、分散安定性が不十分になることがある。一方、色素誘導体の含有量が、顔料100質量部に対して20質量部超であると、色素誘導体自体の色が表出しやすくなり、所望とする顔料の色相が発揮されにくくなることがある。さらに、耐熱性や耐候性が低下する場合がある。色素誘導体は、顔料に吸着して顔料の表面に塩基性基等の官能性基を導入するだけでなく、顔料に吸着することで、熱による顔料の結晶成長を抑制する。さらには、熱で顔料の結晶が壊れたり、溶解して溶け出したりすることを防止することもできる。
【0067】
顔料分散液を製造する際に、顔料とともに色素誘導体を配合して分散させることができる。但し、顔料を予め色素誘導体で処理して処理顔料を調製することが好ましい。さらに、顔料を微粒子化した後、微粒子化した顔料を色素誘導体で処理して処理顔料を調製することが好ましい。顔料を色素誘導体で処理する方法としては、例えば、色素誘導体の存在下で顔料を合成する方法;微粒子化した顔料を水で解膠した後、色素誘導体を添加して処理する方法;顔料を微粒子化する際に色素誘導体を添加しておき、顔料の微粒子化と色素誘導体による処理を同時に行う方法;等を挙げることができる。さらには、顔料を水で解膠するとともに、色素誘導体の塩基性基を酢酸などの酸性物質で中和して水に親和、分散、又は溶解させてから顔料と混合した後、水酸化ナトリウム等の塩基性物質を添加してpHを調整し、色素誘導体を水に不溶にして顔料の表面に色素誘導体を吸着させる方法もある。
【0068】
(その他の成分)
顔料分散液には、上述の各成分の他に、従来公知の添加剤や樹脂をさらに含有させることができる。添加剤としては、前述の顔料以外の着色剤、光安定剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、光重合開始剤等を挙げることができる。顔料以外の着色剤としては、酸性染料、塩基性染料、分散染料、反応性染料、直接染料、蛍光染料等の各種染料を挙げることができる。
【0069】
樹脂としては、感光性の樹脂ワニス、非感光性の樹脂ワニスを用いることができる。
感光性の樹脂ワニスとしては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂等のワニスを挙げることができる。さらに、これらのワニスに反応性希釈剤としてのモノマーが添加されたワニスを用いることもできる。
【0070】
非感光性の樹脂ワニスとしては、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、スチレン系(共)重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂変性ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルポリオールウレタン系樹脂、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、スチレン-マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の水溶性塩、水溶性アミノアルキッド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂、水溶性ポリアミド系樹脂等のワニスを挙げることができる。
【0071】
(顔料分散液)
顔料分散液は、例えば、上述の各成分を配合し、有機溶剤中に顔料を分散させることで調製することができる。なお、顔料原体を顔料化する際に顔料分散剤を添加して、又は顔料を微細化(微粒子化)する際に顔料分散剤を添加して、樹脂処理顔料を調製してもよい。顔料分散液中の顔料分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、5~50質量部であり、好ましくは10~30質量部である。顔料分散剤の含有量が、顔料100質量部に対して5質量部未満であると、顔料の分散安定性が不十分になる。一方、顔料分散剤の含有量が、顔料100質量部に対して50質量部超であると、顔料分散液の粘度が上昇しすぎるとともに、顔料の濃度が相対的に下がるので、着色濃度が低下する。なお、顔料分散液中の顔料の含有量は、5~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがさらに好ましい。
【0072】
顔料分散剤、顔料、及び液媒体である有機溶剤を混合し、必要に応じて各種の添加剤等をさらに混合した後、分散機等を使用して、顔料が所望とする粒子径の微粒子となるまで分散処理することで、顔料分散液を得ることができる。また、顔料、顔料分散剤、及び有機溶剤を混合し、必要に応じて予備混合した後、さらに分散機等で分散処理することでも、顔料分散液を得ることができる。分散機としては、従来公知の各種分散機を使用することができる。分散機としては、ニーダー、アトライター、ボールミル、ガラスやジルコンなどを使用したサンドミル、横型メディア分散機、コロイドミル等を挙げることができる。顔料分散液の信頼性を高めるために、分散処理後に、遠心分離機、超遠心分離機、又はろ過機を使用してさらに処理して、僅かに存在する粗大粒子を除去することが好ましい。
【0073】
顔料分散液中の無機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、100~300nmであることが好ましい。また、顔料分散液をCF用着色剤として用いる場合に、顔料分散液中の有機顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、10~100nmであることが好ましく、20~80nmであることがさらに好ましい。
【0074】
顔料分散液は、顔料を微粒子分散でき、保存安定性、塗膜としての透明性、高色再現性に優れているので、画像表示装置用部材の着色剤として、使用することができる。昨今の画像表示装置は高性能、高画質、高機能が求められ、それらの着色剤への要求事項も非常に大きい。この画像表示装置としては、液晶ディスプレイを始め、有機ELディスプレイ、量子ドットディスプレイ、マイクロLEDディスプイなどであり、液晶ディスプレイや量子ドットディスプレイのカラーフィルター用の着色剤、有機ELの画素の隔壁材、液晶パネルのブラックマトリックス、CCDなどの固体撮像素子の着色剤として非常に有用である。その印刷方法は、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット印刷法に適用することができ、特に限定されない。
【0075】
本発明の顔料分散液は、有機溶媒中に顔料を分散させた、いわゆる「油性」の分散液であることから、従来のインクや塗料等に配合される着色剤として用いることができる。さらに、油性インクジェットインク用の着色剤、紫外線硬化型インク用の着色剤、紫外線硬化型インクジェットインク用の着色剤、カラーフィルター用ディスプレイ向け部材用の着色剤、懸濁又は乳化重合法トナー用の着色剤等に用いることもできる。また、本発明の顔料分散液は、顔料が微粒子状態で高度に分散されているとともに、保存安定性に優れている。さらには、透明性及び色再現性に優れた塗膜を形成しうることから、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、量子ドットディスプレイ、マイクロLEDディスプレイ等のカラーフィルターや隔壁材等の画像表示装置用部材を製造するための着色剤として有用である。
【実施例
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0077】
<モノマー3の合成>
(合成例1)
冷却管、撹拌装置、及び温度計を装着したセパラブルフラスコに、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)520部、及び無水トリメリト酸(TA)192部を入れ、25℃(室温)で撹拌した。4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)0.1部(TAに対し0.08モル%)を添加して反応を開始したところ、TAが徐々に溶解して1時間でほぼ透明になった。さらに3時間反応させた後、反応液の一部をサンプリングして赤外分光光度計で測定したところ、酸無水物のピーク(1,780cm-1)が消失していた。また、滴定により測定及び算出した酸価は、157.1mgKOH/gであった。すなわち、ほぼすべての酸無水物(TA)が反応して、1-[2-メタクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル(TRIHEMA)が生成したと考えられる。反応液にHEMA92部を添加して、TRIHEMAがHEMAに溶解したTRIHEMA溶液を得た。得られたTRIHEMA溶液中のTRIHEMAの含有量は、40.0%であった。
【0078】
(合成例2~5)
表1に示す処方としたこと以外は、前述の合成例1と同様にして、モノマー3溶液を得た。表1中のモノマー等の詳細を以下に示す。いずれの合成例においても酸無水物が残存せず、モノマー3溶液(モノマー2とモノマー3の混合液)を得ることができた。これらの結果から、任意の濃度のモノマー3溶液を調製可能であることがわかる。
・HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
・HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
・HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート
・HPA:2-ヒドロキシプロピルアクリレート
・HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
・TA:無水トリメリト酸
・PGMAc:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(誘電率8)
・TRIHEMA:1-[2-メタクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル
・TRIHEA:1-[2-アクリロイルオキシエチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル
・TRIHPMA:1-[2-メタクリロイルオキシプロピル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル
・TRIHPA:1-[2-アクリロイルオキシプロピル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル
・TRIHBA:1-[4-アクリロイルオキシブチル]-1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル
【0079】
【0080】
<モノマー1の合成>
(合成例6)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けたセパラブルフラスコに、HEMA130部、ε-カプロラクトン(CPL)1,141部、及びテトラブチルチタネート(TBT)0.5部を入れた。窒素ガスをブローしながら1時間かけて170℃まで昇温した後、5時間保持した。窒素ガスのブローを止めて減圧装置を取り付け、徐々に減圧して10mmHgで30分間保持し、未反応のHEMAを留去してモノマー1(FM10)を得た。得られたFM10の数平均分子量(Mn)は1,300であり、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は1.11であった。モノマー1のMn及びMwは、テトラヒドロフラン(THF)を展開溶媒とし、示差屈折率検出器を取り付けたゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定したポリスチレン換算の値である。得られたFM10は、HEMA1モルに対し、CPL10モルが付加したモノマーである。
【0081】
(合成例7)
HEMAに代えてHEA116部を用いるとともに、CPLの量を2,282部に変更したこと以外は、前述の合成例6と同様にして、モノマー1(F20)を得た。得られたF20のMnは2,500であり、PDIは1.15であった。得られたF20は、HEA1モルに対し、CPL20モルが付加したモノマーである。
【0082】
また、HEMA1モルに対し、CPL5モルが付加したモノマーとして、商品名「プラクセルFM5」(ダイセル社製)を用意した。このモノマーを「FM5」とする。FM5のMnは800であり、PDIは1.04であった。
【0083】
モノマー1の物性等を纏めて表2に示す。
【0084】
【0085】
<グラフトコポリマーの製造>
(実施例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けたセパラブルフラスコに、TRIHEMA溶液80.5部(TRIHEMA/HEMA=32.2部/48.3部)、PGMAc334部、FM5 200部、メタクリル酸メチル(MMA)53部、連鎖移動剤(チオグリセロール(TGL))4.5部、及び重合開始剤(ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(商品名「V-601」、富士フィルム和光純薬社製)(V-601)0.3部を入れ、窒素ガスをバブリングしながら80℃で8時間重合し、グラフトコポリマーTMG-1の溶液を得た。
【0086】
一部をサンプリングして測定した溶液の固形分は50.3%であり、重合率は約100%であった。グラフトコポリマーTMG-1のMnは5,500であり、PDIは1.72であった。サンプリングした溶液の一部をトルエン及び2-プロパノールで希釈した後、0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液を用いた滴定により実測したグラフトコポリマーTMG-1の酸価は、33.2mgKOH/gであった。
【0087】
(実施例2~5)
表3に示す処方としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、グラフトコポリマーTMG-2~5の溶液を得た。
【0088】
【0089】
(比較例1)
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けたセパラブルフラスコに、TRIHEMA溶液80.5部(TRIHEMA/HEMA=32.2部/48.3部)、PGMAc334部、FM3 200部、MMA53部、TGL4.5部、及びV-601 0.3部を入れ、窒素ガスをバブリングしながら80℃で8時間重合し、グラフトコポリマーHG-1の溶液を得た。なお、上記の「FM3」は、HEMA1モルに対し、CPL3モルが付加したモノマー(商品名「プラクセルFM3」、ダイセル社製)である。FM3のMnは500であり、PDIは1.03であった。
【0090】
一部をサンプリングして測定した溶液の固形分は50.1%であり、重合率は約100%であった。グラフトコポリマーHG-1のMnは5,100であり、PDIは1.69であった。また、グラフトコポリマーTMG-1の酸価は、32.9mgKOH/gであった。
【0091】
(比較例2~4)
表4に示す処方としたこと以外は、前述の比較例1と同様にして、グラフトコポリマーHG-2~4の溶液を得た。表4中のモノマーの詳細を以下に示す。
・PAMA:2-メタクリロイルオキシエチルフタル酸
【0092】
【0093】
<顔料分散液の調製>
(実施例6~7、比較例5~7)
(a)顔料の微細化処理
カラーフィルター用の顔料として、PR254、PR177、及び黒色顔料(商品名「クロモファインブラックA1103」、大日精化工業社製)(A1103)を用意した。
加圧蓋を装着したニーダー(モリヤマ社製加圧ニーダー)に、顔料100部、塩化ナトリウム400部、及びジエチレングリコール130部を入れた。ニーダー内に均一に湿潤された塊ができるまで予備混合した後、加圧蓋を閉じて、圧力6kg/cmで内容物を押さえ込みながら7時間混練及び摩砕処理して摩砕物を得た。得られた摩砕物を2%硫酸3,000部に投入し、1時間撹拌した。ろ過して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除去した後、十分水洗し、次いで、乾燥及び粉砕して各顔料粉末を得た。透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して得られた顔料粉末の数平均粒子径を測定及び算出したところ、PR254及びPR177は約30nmであり、A1103は約90nmであった。
【0094】
(b)顔料分散液の調製
表5に示す種類及び量(単位:部)の各成分を混合し、ディゾルバーを用いて2時間撹拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理し、顔料分散液を調製した。表5中、「シナジスト1」は下記式(I)で表される化合物(色素誘導体)であり、「シナジスト2」は下記式(II)で表される化合物であり、「シナジスト3」は下記式(III)で表される化合物である。表5中の「アクリル樹脂」としては、モノマー組成がBzMA/MAA=80/20(質量比)、Mn5,500、PDI2.02のポリマーを用いた。なお、ポリマーのMnは、固形分30%のPGMAc溶液を用いて測定した。
【0095】
【0096】
【0097】
(c)顔料分散液の評価
顔料分散液中の顔料の数平均粒子径(nm)、顔料分散液の初期の粘度(mPa・s)、及び45℃で3日間保存した後の顔料分散液の粘度(保存後の粘度;mPa・s)の測定結果を表6に示す。顔料の数平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置を使用して測定した。顔料分散液の粘度は、E型粘度計を使用し、60rpm、25℃の条件で測定した。
【0098】
【0099】
<カラーフィルター用レジストへの応用>
(応用例1及び2)
(a)カラーフィルター用レジストインクの調製
表7に示す種類及び量(単位:部)の各成分を配合し、混合機を使用して十分に混合して、各色のカラーフィルター(CF)用レジストインクを得た。表7中の「感光性アクリル樹脂ワニス」は、BzMA/MAA共重合物にメタクリル酸グリシジルを反応させて得られたアクリル樹脂(Mn6,100、PT14,400、PDI2.39、酸価111mgKOH/g)を含有するワニスである。表7中の略号の意味は以下に示す通りである。
・TMPTA:トリメチロールプロパントリアクリレート
・HEMPA:2-ヒドロキシエチル2-メチルプロピオン酸
・DEAP:2,2-ジエトキシアセトフェノン
【0100】
【0101】
(b)カラーフィルター用レジストインクの評価
シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。各色のレジストインクを300rpm、5秒間の条件でガラス基板上にスピンコートした。80℃で10分間プリベークした後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cmの光量で露光し、各色のガラス基板(赤色ガラス基板-1及び黒色ガラス基板-1)を製造した。
【0102】
得られた赤色ガラス基板-1は、優れた分光カーブ特性を有するとともに、耐光性や耐熱性等の堅牢性に優れていた。また、光透過性やコントラスト比等の光学特性に優れていた。
【0103】
得られた黒色ガラス基板-1は、可視光領域の長波長から670nm付近までの光透過率が20%であり、780nmの光透過率は80%以上あり、それ以上の波長域の光透過率はなだらかに上昇して平衡状態となった。特に、580~625nm付近の光透過率は極めて低く、5%以下であった。また、形成した黒色塗膜の体積抵抗率は1014Ω・cm以上であり、高絶縁性の塗膜であることがわかった。
【0104】
<カラーフィルター用ブラックマトリックス(BM)パターンへの応用>
(応用例3)
シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。応用例2で得た黒色顔料インク-1を300rpm、5秒間の条件でガラス基板上にスピンコートした。80℃で10分間プリベークした後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cmの光量で露光した。アルカリ現像液で現像した後、水洗及び乾燥してBMパターンを形成した。形成したBMパターンを構成する膜(BM膜)は高絶縁性の塗膜であることから、例えば、液晶層の厚さを保持するBM膜としても用いることができ、IPS方式やCOA方式等の液晶を構築することができる。また、長波長領域までの可視光を十分に吸収するため、LEDバックライトを採用したLCDパネルのBMとしても用いることができる。
【0105】
<紫外線硬化型インクジェットインク用着色剤の製造>
(実施例9及び10、比較例8及び9)
(a)顔料分散液の調製
表8に示す種類及び量(単位:部)の各成分を配合し、ディゾルバーを使用して2時間撹拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理し、白色顔料分散液-1~4を得た。白色顔料としては、酸化チタン(商品名「JR-405」、テイカ社製)(JR-405)を用いた。
【0106】
【0107】
(b)顔料分散液の評価
得られた顔料分散液について、初期の顔料の数平均粒子径、保存後の顔料の数平均粒子径(70℃で1週間放置した後の顔料の数平均粒子径)、初期の粘度、及び保存後の粘度(70℃で1週間放置した後の粘度)を測定した。結果を表9に示す。顔料の数平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径分布測定装置を使用して測定した。粘度は、E型粘度計を使用し、60rpm、25℃の条件で測定した。
【0108】
【0109】
白色顔料分散液-1及び2を、それぞれ、遮光したガラス瓶に入れ、60℃の恒温槽中に1ヶ月間保存し、粘度の変化、顔料の粒子径の変化、上澄みの発生、沈降物の発生、振とうして沈降物がなくなるか否かについて確認した。その結果、保存前後の顔料の数平均粒子径は、それぞれ238nm及び237nmであり、保存による顔料の凝集は認められず、高度な分散安定性を保持していることが確認できた。また、保存により上澄みは生じなかった。スパチュラで掻いてみたところ、若干粘稠な沈降物が観察されたが、振とうしたところ沈降物はなくなり、元の分散状態に戻った。元の分散状態に戻った分散液中の顔料の数平均粒子径は、それぞれ245nm及び247nmであった。すなわち、沈降物の発生により顔料の粒子径が若干大きくなったが、再分散により良好な分散状態に戻ることが確認できた。
【0110】
これに対して、白色顔料分散液-3及び4をそれぞれ遮光したガラス瓶に入れて60℃の恒温槽中に1ヶ月間保存したところ、ほぼ透明な上澄みが生成するとともに、ほぼすべての顔料が沈降した。沈降物をスパチュラで掻いても非常に固く、元の分散液に復帰させることができなかった。
【0111】
白色顔料分散液-1及び2は、いずれも顔料が高度に分散されているとともに、分散安定性も高いことから、紫外線硬化型のインクとして好適である。なかでも、顔料が凝集しにくく、微粒子の状態で分散しており、沈降しても再分散が容易であることから、吐出安定性及び高速印字性が要求される紫外線硬化型のインクジェットインクとして好適であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の顔料分散剤を用いれば、低粘度で長期保存安定性に優れた顔料分散液や顔料着色剤を調製することができる。また、得られる顔料分散液等は、塗布特性や現像性に優れているので、精細性、色濃度、光透過性、及びコントラスト性等の光学的特性に優れたカラーフィルターや隔壁材等の画像表示装置用部材を製造するための材料として有用である。