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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】アレル編集およびその応用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/17 20150101AFI20220928BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220928BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220928BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220928BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220928BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220928BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20220928BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
A61K35/17 Z
A61K35/28
A61P7/00
A61P35/02
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C07K14/705
C12N15/09 100
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019506545
(86)(22)【出願日】2017-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 EP2017059799
(87)【国際公開番号】W WO2017186718
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】16166857.9
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16166854.6
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16166856.1
(32)【優先日】2016-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16196858.1
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16196860.7
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16196856.5
(32)【優先日】2016-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518375937
【氏名又は名称】ウニベルシテート バーゼル
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】コルネット,マーラ
(72)【発明者】
【氏名】イェーケル,ルカス
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-082497(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161408(WO,A1)
【文献】特表2011-519345(JP,A)
【文献】国際公開第2015/164740(WO,A1)
【文献】Diabetes, 1992, Vol.41, p.956-961
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61P 35/02
A61K 35/17
A61K 35/28
A61P 7/00
C12N 5/10
C12N 15/12
C07K 14/705
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患の治療または予防に用いる医薬組成物であって、当該医薬組成物は編集済み細胞を含み、当該編集済み細胞は、
ゲノム位置を編集することにより、表面タンパク質の第1アイソフォームをコードする核酸配列が、当該第1アイソフォームとは異なる当該表面タンパク質の第2アイソフォームへと、アミノ酸マーカーに関して改変されており、
上記第1アイソフォームは天然アイソフォームであり、
上記第2アイソフォームは改変アイソフォームであり、
上記天然アイソフォームおよび上記改変アイソフォームは、当該天然アイソフォームおよび当該改変アイソフォームに特異的かつ選択的にそれぞれ結合する2種類の異なるリガンドによって区別可能であり、
上記改変アミノ酸マーカーは、2種類の異なるリガンドと、表面タンパク質の2種類のアイソフォームとの結合特性に関与しており、
上記編集済み細胞は、上記医薬組成物を投与することによりそれを必要とする宿主に移植され、
移植された上記編集済み細胞または上記宿主の非編集細胞は、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、選択的に枯渇さ
上記表面タンパク質は、CD90またはCD45である、医薬組成物
【請求項2】
選択的な細胞枯渇が、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体薬物複合体(ADC)、またはキメラ抗原受容体(CAR)を有する細胞、によって達成される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
上記第2アイソフォームは、人工変異、または、稀だが天然に生じる変異を含み、
上記人工変異、または、上記稀だが天然に生じる変異は、内因性表面タンパク質の抗原性を変えて、改変エピトープを提供するよう設計されており、
上記改変エピトープは、(i)上記改変エピトープを特異的かつ選択的に認識するリガンドによって、上記編集済み細胞を枯渇させること、または(ii)天然エピトープを選択的に認識するが上記改変エピトープを認識しないリガンドによる枯渇に対する抵抗性を、上記編集済み細胞に与えること、に用いられる、
請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
下記(i)または(ii)を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の医薬組成物
(i)上記第2アイソフォームに特異的なリガンドは、上記第2アイソフォームに選択的に結合する抗体である;
(ii)上記第1アイソフォームに特異的なリガンドは、上記第1アイソフォームに選択的に結合する抗体である。
【請求項5】
験体における、移植片対宿主病を治療するために、
上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記被験体内において排除される、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項6】
キメラ抗原受容体(CAR)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項7】
上記第2アイソフォームは、CD90の天然アイソフォームから改変されたCD90の改変アイソフォームであり、
上記CD90の改変アイソフォームは、CD90の天然エピトープから改変されたエピトープを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項8】
上記第2アイソフォームは、CD45の天然アイソフォームから改変されたCD45の改変アイソフォームであり、
上記CD45の改変アイソフォームは、CD45の天然エピトープから改変されたエピトープを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項9】
上記編集済み細胞は、CD90の天然エピトープまたはCD45の天然エピトープを認識するキメラ抗原受容体をさらに有し、
上記医薬組成物は、それを必要とする被験体において、
CD90+造血細胞またはCD45+造血細胞を枯渇させるために用いられ、
CD90の改変エピトープまたはCD45の改変エピトープを有する編集済み細胞は枯渇させないために用いられる、
請求項7または8に記載の医薬組成物
【請求項10】
CD90の改変エピトープまたはCD45の改変エピトープを有する編集済み細胞が、枯渇段階より前または枯渇段階中に、被験体に移植される、請求項9に記載の医薬組成物
【請求項11】
上記編集済み細胞は、造血細胞である、請求項1から10に記載の医薬組成物
【請求項12】
CD45の天然エピトープを認識するキメラ抗原受容体を有する細胞(CAR45細胞)を含む医薬組成物であって、
それを必要とする被験体における造血悪性腫瘍および他の非悪性造血疾患の治療に用いられ、
上記被験体は、CD45の改変エピトープを発現するように編集された編集済み造血細胞を移植され、
上記編集済み造血細胞は、上記CAR45細胞によって枯渇され得ない、医薬組成物
【請求項13】
上記編集済み造血細胞は、自系の造血幹細胞、または異質遺伝子型の造血幹細胞である、請求項12に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子編集(特にCRISPR/Cas遺伝子編集)に際した、DNA二本鎖切断の相同組み換え修復の効率を監視し最適化する方法に関する。本発明はまた、HDR多重化に基づいて、細胞試料中のHDRを経た細胞を濃縮する方法にも関する。本発明はさらに、in vitroまたはin vivoにおいて編集された細胞を選択的に減らす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
〔序論〕
CRISPRベースの遺伝子操作は、細胞にゲノム変異を導入する、柔軟性に富んだ方法である。「プログラム可能」で、ヌクレアーゼと複合している、ユーザーの定めた短鎖ガイドRNAを用いることで、二本鎖DNA(dsDNA)切断を所望のゲノム上の位置で起こすことができる。しばしば用いられるヌクレアーゼとしては、Casタンパク質、(とりわけCas9)が挙げられるが、それらの変異体でもよい。変異体としては、改変したDNA結合特異性を有する改変ヌクレアーゼ、または、明確な特徴(例えば、転写活性もしくは転写抑制、または酵素活性)を加えてヌクレオチドを直接編集する融合タンパク質が挙げられる。Casヌクレアーゼを改変して、ゲノムDNAに一本鎖の「ニック」を誘導することもできる。これらの誘導されたDNA切断に対する細胞の反応は、非相同末端結合(NHEJ)経路と相同組み換え修復(HDR)経路とから主に成る、DNA修復機構の活性化である。NHEJは通常、ランダムな挿入および欠失(indel)を引き起こし、それを用いて遺伝子を取り除くことができる。これは実験用途では有効だが、臨床用途では、本質的に確率論的なNHEJ修復経路は大きな危険性を有する。標的を定めた正確な遺伝子編集の方がより安全であり、したがってより望ましい。HDR経路は、DNA鋳型に基づいて(ds)DNA切断を修復することで、正確な変異をもたらす機会を提供する。しかし、バイオテクノロジーの目的でのHDR経路の使用は、NHEJの使用に比べずっと効率が低い。NHEJとHDRは、およそ9:1の比で生じる。HDRの効率が低いことを克服する際の障害は、一つの細胞におけるNHEJとHDRのイベントを定量化する、簡単なシステムがないことである。遺伝子編集イベントを評価するアッセイの多くは、半定量的である。全細胞集団をシーケンシングしても、細胞ごとのイベントの頻度についての情報は提供されないし、ホモ接合性とヘテロ接合性との区別もできない。細胞株をクローニングして一つの細胞の情報を得ることはできるが、このアプローチは冗漫であり、初代細胞には使えない。あるいは、フローサイトメトリーベースのレポーターシステムを開発して、一つの細胞ベースでの遺伝子編集を定量化してきた。しかし、そのようなシステムは、評価した細胞または組織の遺伝子操作に依存し(大部分は、細胞または組織の使用に先立つ)、そのため、システムの用途が制限される。
【0003】
本発明の課題は、導入遺伝子も細胞の事前の操作も必要とせずに、一細胞ベースで高速に遺伝子編集イベントを定量化する、簡単で費用効果の高いシステムを提供することである。本発明の他の課題は、細胞を恒久的にマーキングし追跡するよう機能し、マーキングされた細胞またはマーキングされなかった細胞を、in vitroまたはin vivoで選択的に減らすことができるシステムを提供することである。これらの課題は独立請求項の構成によって達成される。
【発明の概要】
【0004】
〔説明〕
本発明の第一の態様によれば、第1相同組み換え修復(HDR)イベントを判定する方法が提供される。該HDRイベントは、真核細胞内の第1ゲノム位置において生じる。該細胞は、第1表面タンパク質の第1アイソフォーム(アレル)を発現する。該第1アイソフォームは、該第1表面タンパク質の第2アイソフォーム(アレル)とは、アミノ酸マーカーに関して異なっている。該第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含む。該第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含む。上記第1ゲノム位置は、核酸配列Aを含む。上記方法は、
(a)上記第1ゲノム位置において、第1DNA二本鎖切断を誘導する工程と、
(b)上記核酸配列Bおよび相同性アームの第1のペア(上記第1ゲノム位置のDNA配列5’およびDNA配列3’に対して相同である)を含む、第1DNA修復コンストラクトを提供する工程(とりわけ、上記第1DNA修復コンストラクトを上記細胞にトランスフェクションする工程)と、
(c)上記細胞上の上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現を判定し、任意で、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を精製する工程と、
(d)上記第1HDRイベントの発生を判定する工程であって、上記細胞上の上記第1表面タンパク質の上記第2アイソフォームの発現は、上記第1HDRイベントの発生に対応している、工程と、
を含む。
【0005】
本明細書の文脈において、「細胞表面タンパク質の第1アイソフォームおよび/または第2アイソフォーム」という表現は、細胞表面タンパク質の第1アレルおよび第2アレルを指す。該アレルは、各アレル/アイソフォームに特異的に結合するリガンドによって区別できる。ある実施形態では、該アレルは機能的に同一である。
【0006】
本明細書の文脈において、「DNA修復コンストラクト」という表現は、ゲノムDNA内のDNA鎖損傷(とりわけ二本鎖切断(DSB))をHDRによって修復するための鋳型として用いられる、DNAコンストラクトを指す。DNA修復コンストラクトは、相同性アームおよび所定の遺伝子組み換え配列を含む。該相同性アームは、DSBのゲノムDNA配列5’およびゲノムDNA配列3’に対して相同である。上記所定の遺伝子組み換え配列は、上記相同性アーム同士の間に位置している。HDRによるゲノムDNA修復に際して、上記所定の遺伝子組み換え配列はゲノムDNA内に挿入される。当業者ならば、上記DNA修復コンストラクトは線状(一本鎖または二本鎖)でも環状(例えば、プラスミド、ミニサークルプラスミド)でもよいとわかる。
【0007】
理想的には、上記第1ゲノム位置(DSBが生じる位置)は、核酸配列Aに対応する。ガイドRNA設計上の要求によりこれが実現可能でない例では、第1ゲノム位置は、核酸配列Aから5’方向または3’方向に最大20bpまでの範囲内にあってもよい。あるいは、ガイドRNA設計上の要求によりこれが実現可能でない例では、第1ゲノム位置は、核酸配列Aから5’方向または3’方向に最大50bpまでの範囲内にあってもよい。距離が20bpを超えると、HDR効率が大幅に低下する。
【0008】
ある実施形態では、上記第1HDRイベントの発生は、少なくとも2つの異なる実験条件において判定される。そして、上記第2アイソフォームの発現の上記第1アイソフォームに対する比が、第2実験条件におけるものよりも第1実験条件におけるものの方が高い場合は、上記第1実験条件のHDR効率の方が高いことを示す。
【0009】
このシステムは、遺伝子編集イベントを、導入遺伝子も事前の操作も必要とせずに、一つの細胞ベースで迅速に定量化することを可能にする。したがって、このシステムは初代細胞で用いることができる。これは、マーカーシステムをまず導入するための複数の操作が必要な場合には、その操作が必要となる細胞株または細胞クローンとは対照的である。
【0010】
ある実施形態では、(a)工程および(b)工程は、バニリンおよび/またはルカパリブを含む細胞培地で行われる。とりわけ、濃度50μMから500μMのバニリンおよび/または濃度0.5μMから2.5μMのルカパリブを含む細胞培地で行われる。さらにとりわけ、濃度約300μMのバニリンおよび/または濃度約1μMのルカパリブを含む細胞培地で行われる。
【0011】
本明細書の文脈において、バニリンは、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(CAS番号:121-33-5)を指す。
【0012】
本明細書の文脈において、ルカパリブは、8-フルオロ-2-{4-[(メチルアミノ)メチル]フェニル}-1,3,4,5-テトラヒドロ-6H-アゼピノ[5,4,3-cd]インドール-6-オン(CAS番号:283173-50-2)を指す。
【0013】
ある実施形態において、上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび上記第2アイソフォームは、それぞれ第1リガンドおよび第2リガンドによって互いに区別できる。該第1リガンドおよび該第2リガンドは、上記アミノ酸マーカーAおよび上記アミノ酸マーカーBとそれぞれ特異的に結合する。
【0014】
本明細書の文脈において、「特異的に結合するリガンド」という表現は、抗体または抗体様分子を指す。
【0015】
本明細書の文脈において、「抗体」という用語は、細胞生物学および免疫学の分野で知られている意味で用いられる。この用語は、あらゆる抗体を指す。これには、免疫グロブリンG型(IgG)、A型(IgA)、D型(IgD)、E型(IgE)、またはM型(IgM)、それらの任意の抗原結合フラグメントまたは一本鎖、および、関連するまたは由来するコンストラクトを含むが、それらに限定されない。すべての抗体は、ジスルフィド結合によって相互に連結した少なくとも2つの重鎖(H鎖)と2つの軽鎖(L鎖)を含む、糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)から成る。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)から成る。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略称する)と軽鎖定常領域(CL)から成る。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL)から成る。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。抗体の定常領域は、免疫グロブリンと、宿主組織または因子(免疫システムのさまざまな細胞(例えば、エフェクター細胞)や、古典的補体系の第1因子など)との結合を媒介できる。
【0016】
本明細書の文脈において、「抗体様分子」という用語は、高い親和性(Kd≦10-8mol/L)で他の分子または標的に特異的に結合できる分子を指す。抗体様分子は、抗体の特異的結合と同様に、標的に結合する。抗体様分子という用語には、リピートタンパク質が含まれる。リピートタンパク質とは、例えば、設計されたアンキリンリピートタンパク質(Molecular Partners, Zuerich)、アルマジロリピートタンパク質由来のポリペプチド、ロイシンリッチリピートタンパク質由来のポリペプチド、抗体由来の分子(例えば、キメラ抗原受容体(CAR))、テトラトリコペプチドリピートタンパク質由来のポリペプチドなどである。
【0017】
抗体様分子という用語は、さらに、タンパク質Aドメイン由来のポリペプチド、フィブロネクチンドメインFN3由来のポリペプチド、コンセンサスフィブロネクチンドメイン由来のポリペプチド、リポカリン由来のポリペプチド、ジンクフィンガー由来のポリペプチド、Src相同ドメイン2(SH2)由来のポリペプチド、Src相同ドメイン3(SH3)由来のポリペプチド、PDZドメイン由来のポリペプチド、ガンマクリスタリン由来のポリペプチド、ユビキチン由来のポリペプチド、システインノットポリペプチド由来のポリペプチド、およびノッティン由来のポリペプチドを含む。
【0018】
リガンドは、抗体、Fab(フラグメント抗原結合)フラグメント、キメラ抗原受容体(CAR)、または、表面タンパク質の特定のアイソフォームを認識できる任意の他のリガンドであってよい。理想的には、2つのリガンドが用いられる。一方のリガンドは第1アイソフォームを特異的に認識でき、他方のリガンドは第2アイソフォームを特異的に認識できる。言い換えれば、各リガンドは一方のアイソフォームに特異的に結合できるが、他方のアイソフォームには特異的に結合できない。本明細書の文脈では、「特異的に結合」という表現は、解離定数K≦10-7での結合を指す。言い換えれば、リガンド(抗体)は、アイソフォーム同士を区別でき、一方のアイソフォームには結合できるが、他方のアイソフォームには結合できない。
【0019】
ある実施形態では、第1表面タンパク質は天然タンパク質である。この天然タンパク質は、さまざまな異形(すなわち、異なるアイソフォーム/アレルのバリアント)があってもよく、なくてもよい。本明細書の文脈では、「天然タンパク質」という表現は、細胞のゲノム中にあり、遺伝子操作によって挿入されたものではない核酸配列によってコードされるタンパク質を指す。言い換えれば、天然タンパク質は、遺伝子組み換えタンパク質ではないタンパク質である。特定の核酸配列の、1または数個のヌクレオチドのバリエーションによって、生物の集団にアレルのバリアントが生じ得る。ある実施形態では、人工のエピトープを天然タンパク質に導入した。そのような人工のエピトープは、短いヌクレオチド配列(とりわけ1から10個のヌクレオチド)を遺伝子操作することによって導入することができる。人工のエピトープが天然タンパク質に導入される例では、タンパク質全体をコードする核酸配列は遺伝子操作によって挿入されず、人工のエピトープをコードする短い核酸配列のみが挿入された。
【0020】
ある実施形態では、第1表面タンパク質は遺伝子組み換えタンパク質である。本明細書の文脈では、「遺伝子組み換えタンパク質」という表現は、細胞のゲノム中にあり、遺伝子操作によって挿入された核酸配列によってコードされるタンパク質を指す。
【0021】
ある実施形態では、精製はフローサイトメトリーによって行われる。ある実施形態では、精製は蛍光活性化細胞選別(FACS)によって行われる。
【0022】
ある実施形態では、精製は、上記第1表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは第2アイソフォームを発現する細胞を、磁気ビーズで濃縮することを含む。この濃縮は、HDRを経た(そしてそれにより表面タンパク質の第2アイソフォームを発現する)細胞を単離することにより直接的に行ってもよい。あるいは、HDRを経なかった(そしてそれにより表面タンパク質の第1アイソフォームをまだ発現している)細胞を除去することにより間接的に行ってもよい。抗体を表面タンパク質に結合させることは、細胞内に望ましくない生物学的影響をもたらす可能性がある。したがって、編集済み細胞を「触らない」でおく間接的な濃縮が好ましい。
【0023】
ある実施形態では、第1表面タンパク質はThy1またはCD45である。
【0024】
本明細書の文脈では、「Thy1」は、"mus musculusthymus cell antigen 1"(theta; alternative name:CD90; NCBI Gene ID 21838; NCBI protein ID NP_033408.1)を指す。
【0025】
本明細書の文脈では、「CD45」は、"mus musculusprotein tyrosine phosphatase(receptor type, C(Ptprc)"; NCBI Gene ID 19264; NCBI protein ID NP_001104786)を指す。
【0026】
ある実施形態では、第1表面タンパク質はCD4である。ある実施形態では、第1表面タンパク質はCD2である。ある実施形態では、第1表面タンパク質はCD8である。ある実施形態では、第1表面タンパク質はCD19である。ある実施形態では、第1表面タンパク質はHLAである。
【0027】
ある実施形態では、二本鎖切断は、上記第1ゲノム位置において、上記細胞に、CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cas9)およびガイドRNAをコードするDNA発現コンストラクトをトランスフェクションすることによって誘導される。該ガイドRNAは上記第1ゲノム位置に対してアニールできる。
【0028】
当業者ならば、「ガイドRNAは所定のゲノム位置に対してアニールできる」という表現は、該ガイドRNAの一部分(ユーザーが定めた「標的配列」)が、高度にストリンジェントな条件下で所定のゲノム位置に対してアニールできることを指すとわかる。ガイドRNAは、所定のゲノム位置にアニールできない他の部分を含む。所定のゲノム位置に対して(部分的に)アニールすることにより、ガイドRNAはCRISPR関連エンドヌクレアーゼを所定のゲノム位置へ誘導する。それにより、所定のゲノム位置でDSBをもたらす。
【0029】
本明細書の文脈では、「CRISPR関連エンドヌクレアーゼ」は、本技術分野で知られている、CRISPR様配列誘導DNA二本鎖切断を促進するCas9エンドヌクレアーゼを指す。CRISPR関連エンドヌクレアーゼの非限定的な例としては、Streptococcus pyogenesのCas9エンドヌクレアーゼ(SpyCas9)、FrancisellaのCpf1エンドヌクレアーゼ(FnCpf1)、AcidaminococcusのCpf1エンドヌクレアーゼ(AsCpf1)、Lachnospiraceae bacteriumのCpf1エンドヌクレアーゼ(LbCpf1)、SpyCas9、FnCpf1、AsCpf1もしくはLbCpf1の任意のオルソログ、またはSpyCas9、FnCpf1、AsCpf1もしくはLbCpf1の任意の改変タンパク質バリアント、またはそれらのオルソログが挙げられる。当業者ならば、本発明は、新たに発見または改変されたCRISPR/Casバリアントをも含むとわかる。
【0030】
本明細書の文脈では、「オルソログ」という用語は、一つの祖先遺伝子から垂直に下って進化した遺伝子、およびそれに対応するポリペプチドを指す。言い換えれば、オルソログ遺伝子/ポリペプチドは、共通の祖先を有し、1つの種が2つの別々の種に分岐したとき分かれた。その結果生じた2つの種における一つの遺伝子のコピーを、オルソログと称する。2つの遺伝子がオルソログであることを確かめるために、当業者は、遺伝子またはポリペプチドのヌクレオチドまたはアミノ酸配列を整列させて比較することにより、遺伝子系統の系統発生解析を行うことができる。
【0031】
本明細書の文脈では、「ガイドRNA」という用語は、CRISPR関連エンドヌクレアーゼを所定のゲノム位置へ誘導できる、合成RNAを指す(このゲノム位置は、該エンドヌクレアーゼがゲノムDNA内のリン酸ジエステル結合を切断する位置である)。当業者ならば、Cas9エンドヌクレアーゼが用いられる場合、「ガイドRNA」という表現は、(i)Cas9結合に必要な配列とユーザーの定めた「標的配列」の両方を含む、1つのガイドRNA(sgRNA)を指してもよいし、(ii)2つのRNA分子の組み合わせであって、一方がCas9結合に必要な配列を含み(tracrRNA)、他方がユーザーの定めた「標的配列」を含む(crRNA)、2つのRNA分子の組み合わせを指してもよい、とわかる。Cpf1エンドヌクレアーゼが用いられる場合、「ガイドRNA」という表現は、(i)Cpf1結合に必要な配列と、ユーザーの定めた「標的配列」の両方を含む一つのRNA分子を指すか、あるいは、(ii)一つのcrRNAアレイとして転写された、いくつかのガイドRNAを指す(Zetsche,Nat Biotech, 2016)。「標的配列」は、所定のゲノム位置にアニールすることができ、それによって改変すべきゲノム標的を定めるものである。「標的配列」は、通常、約20個のヌクレオチドを含む。
【0032】
Cas9によるDNA切断は、標的DNAにおける短いプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在に左右され、標的にできる配列の選択が制限されている。例えば、Streptococcus pyogenes由来のCas9(SpyCas9)に対応するPAM配列は、5'-NGG-3'である。ある実施形態では、DNA修復コンストラクトは、変異PAM配列を含む。変異により、PAM配列は機能を失うが、タンパク質の発現、安定性、または機能には影響しない。変異PAM配列を含むDNA修復コンストラクトを用いることで、HDR効率が向上する。
【0033】
当業者ならば、CRISPRシステムの他にも、部位特異的DNA編集の代替的な手段が存在することがわかる。すなわち、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼ、またはアルゴノートベースのシステム(Nat Biotechnol. 2016 Jul;34(7):768-73)、または塩基エディタ(Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946)の使用である。本発明は、部位特異的DNA編集にそれらの代替手段を用いることも含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、第1DNA修復コンストラクトは、上記方法の第1工程(ゲノムDNAへの鎖切断の導入)において用いるCRISPRシステムの基盤ではない。第1DNA修復コンストラクトは、PAM配列を含まないからである。そのため、挿入された配列は、第2エンドヌクレアーゼイベントによる挿入後は、それ以上切断され得ない。
【0035】
ある実施形態では、HDR促進試薬はB工程で用いられる。
【0036】
本明細書の文脈では、「HDR促進試薬」という表現は、(i)非相同末端結合(NHEJ)修復経路を阻害し、それによって間接的にHDR経路を促進できる試薬、または、(ii)HDR経路を直接的に促進できる試薬を指す。DNA二本鎖切断に対する細胞の反応は、NHEJ経路とHDR経路から主に成るDNA修復機構の活性化である。NHEJは通常、ランダムな挿入および欠失(indel)を引き起こし、それを用いて遺伝子を削除できる。これは実験用途では有効だが、臨床用途では、本質的に確率論的なNHEJ修復経路は大きな危険性を有する。DSBがNHEJ経路を介して修復される発生確率は、DSBがHDR経路を介して修復される発生確率よりずっと高い(約9:1)。NHEJ経路を阻害することで、細胞の反応がHDR経路へとシフトする。
【0037】
ある実施形態では、相同性アームはそれぞれ約2000塩基対(bp)を含む。
【0038】
ある実施形態では、同じ細胞内の第2ゲノム位置において、第2HDRイベントが判定される。上記細胞は、第2表面タンパク質の第1アイソフォームを発現する。該第1アイソフォームは、該第2表面タンパク質の第2アイソフォームとは、アミノ酸マーカーに関して異なっている。該第1アイソフォームは、核酸配列Yによってコードされるアミノ酸マーカーYを含む。該第2アイソフォームは、核酸配列Zによってコードされるアミノ酸マーカーZを含む。上記第2ゲノム位置は上記核酸配列Yを含む。上記方法は、(a)工程から(d)工程と並行して行われる、さらなる以下の工程
(e)上記第2ゲノム位置において、第2DNA二本鎖切断を誘導する工程と、
(f)上記核酸配列Zおよび相同性アームの第2のペア(上記第2ゲノム位置のDNA配列5’およびDNA配列3’に対して相同である)を含む、第2DNAコンストラクトを提供する工程と、
(g)上記細胞上の上記第2表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現を判定し、任意で、上記第2表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現に基づいて、上記細胞を選別する工程と、
(h)上記第2HDRイベントの発生を判定する工程であって、上記細胞上の上記第2表面タンパク質の上記第2アイソフォームの発現は、上記第2HDRイベントの発生に対応している、工程と、
を含む。
【0039】
本発明の第二の態様によれば、真核細胞内の所定のゲノム位置を、該所定のゲノム位置に遺伝子組み換え核酸配列を挿入することにより編集する方法が提供される。上記方法は、本発明の第一の態様に係る、第1ゲノム位置における第1HDRイベントの判定を含む。このとき、上記第1ゲノム位置は、代理のゲノム位置として働く。上記方法はさらに、(a)工程から(d)工程と並行して行われる、以下の工程
(e)上記所定のゲノム位置において、DNA二本鎖切断を誘導する工程と、
(f)上記遺伝子組み換えDNA配列と、上記所定のゲノム位置のDNA配列5’およびDNA配列3’に対して相同である相同性アームのペアと、を含むDNA修復コンストラクトを提供する工程と、
(g)上記第1ゲノム位置において上記第1HDRイベントが生じた上記細胞を単離し、それによって、上記遺伝子組み換え核酸配列を第2ゲノム位置(すなわち上記所定のゲノム位置)に挿入することに成功した細胞を濃縮する工程と、
を含む。
【0040】
発明者らは、個々の細胞で多重HDRが可能であることを実証した。驚くべきことに、所定のゲノム位置におけるHDRの発生確率は、他の(代理の)ゲノム位置でHDRを経た細胞における方が、該代理のゲノム位置でHDRを経なかった細胞よりも高い(図3)。予期せぬことに、発明者らは、上記代理のゲノム位置でヘテロ接合HDRを経た細胞を単離することにより、所定のゲノム位置においてヘテロ接合HDRを有する細胞を濃縮できることを示した。また、上記代理のゲノム位置でホモ接合HDRを経た細胞を単離することにより、所定のゲノム位置でのホモ接合HDRを有する細胞を濃縮できることも示した(図3)。
【0041】
本発明の第二の態様のある実施形態によれば、上記真核細胞はT細胞であり、上記所定のゲノム位置はFoxp3K276X変異であり、上記DNA鋳型は、上記Foxp3変異の野生型アレルを含む。とりわけ、上記DNA鋳型は、配列番号022または配列番号023であるか、配列番号022または配列番号023を含む。
【0042】
発明者らは、マウスT細胞におけるFoxp3K276X変異を、本発明に係る方法を用いて修正できることを示した(図4)。
【0043】
本発明の第一の態様のある実施形態では、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームの発現に基づいた細胞の精製によって、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームおよび/または上記第2アイソフォームを発現する細胞を選択的に枯渇させる。(図6)。
【0044】
本発明の他の態様によれば、編集済み細胞および非編集細胞の組成物において、編集済み細胞を選択的に枯渇させるまたは濃縮する方法が提供される。上記非編集細胞は、表面タンパク質の第1アイソフォームを発現する。上記編集済み細胞は、本発明の第一の態様に係る方法によって編集されて、上記表面タンパク質の第2アイソフォームを発現する。該第2アイソフォームは、該第1アイソフォームとアミノ酸マーカーに関して異なっている。該第1アイソフォームは、核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含む。該第2アイソフォームは、核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含む。上記編集済み細胞は、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、選択的に濃縮または枯渇させられる(図6および図25図29)。
【0045】
あるいは、本発明のこの態様は、非編集細胞および編集済み細胞の組成物において、細胞を選択的に枯渇させるまたは濃縮する方法と表すこともできる。上記方法は、
(a)細胞を提供する工程であって、該細胞は表面タンパク質の第1アイソフォームを発現し、該第1アイソフォームは上記表面タンパク質の第2アイソフォームとアミノ酸マーカーに関して異なっており、該第1アイソフォームは核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含み、該第2アイソフォームは核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含む、工程と、
(b)上記核酸配列Aを含むゲノム位置でDNA二本鎖切断を誘導する工程と、
(c)上記核酸配列Bと、上記ゲノム位置のDNA配列5’およびDNA配列3’に対して相同である相同性アームのペアと、を含むDNA修復コンストラクトを提供する工程(とりわけ、上記細胞を該DNA修復コンストラクトでトランスフェクションさせる工程)と、
(d)上記細胞を、上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づいて、選択的に濃縮するまたは枯渇させる工程と、
を含む。
【0046】
本明細書の文脈では、「細胞を選択的に枯渇させる」という用語は、あるマーカー/アレルを発現している細胞の総数または濃度を、選択的に減らすことを指す。
【0047】
非限定的な例として、選択的な枯渇は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体薬物複合体(ADC)、または、天然抗原受容体もしくはキメラ抗原受容体(CAR)を有する細胞、によって達成できる。
【0048】
発明者らは、CD45.2またはCD45.1に対する抗体を用いてin vivoにおける選択的な枯渇が可能だと実証した(図25図29)。
【0049】
当業者ならば、非編集細胞の枯渇は、編集済み細胞の濃縮に相当するとわかる。
【0050】
発明者らは、細胞内において一アミノ酸の相違を導入することができ、これらは、2種類のアイソフォーム/アレル(天然および改変)に特異的に結合する2種類の異なるリガンドによって区別できることを実証する。特異的に設計した人工変異、または、稀だが自然に生じる変異(例えば、一ヌクレオチド多形(SNP))を、内因性の表面で発現する遺伝子の中に導入して、その抗原性を変える。当業者ならば、この変異は、本技術分野で知られている任意の方法(HDRおよび塩基エディタを含む)を用いて導入できるとわかる。続いて、この改変されたエピトープを用い、この人工エピトープを特異的かつ選択的に認識するリガンドによって、編集に成功した細胞を選択的に枯渇させる。あるいは、天然エピトープを認識する(したがって宿主細胞を枯渇させ得る)が、改変されたエピトープは認識しない(したがって移植細胞は残しておく)リガンドを用いて、編集済み細胞の枯渇を抑制する。
【0051】
「編集済み/改変細胞」(細胞表面タンパク質の第1アイソフォームが第2アイソフォームに変えられた細胞)が、そのあと、移植(とりわけ養子移入)のために用いられる例では、2つの異なるアイソフォームを用いて、移植細胞と宿主細胞とを区別することができる。これにより、移植細胞の追跡が可能になる。移植細胞は、永久にマーキングされているからである。追跡は、標識化されたリガンドを用いて、in vivoでもex vivoでも行うことができる(例えば、細胞または組織に対するフローサイトメトリーまたは組織化学によって)。移植細胞または宿主細胞のどちらかに特異的なリガンドをin vivoで適用することにより、移植された改変細胞または宿主細胞のいずれか一方だけに結合する抗体を用いて、移植細胞または宿主細胞を選択的に枯渇させることができる。あるいは、選択的細胞枯渇は、移植細胞または宿主細胞のどちらかを認識する天然抗原受容体またはキメラ抗原受容体(CAR)を有する細胞によって行うことができる。そのようなCARをコードするヌクレオチド配列は、特定のアイソフォームを認識するリガンドを産生するハイブリドーマ細胞に由来し得る。
【0052】
改変細胞の選択的枯渇は、「安全スイッチ」を提供するものであり、安全面での重要な特徴となっている。安全スイッチおよび自殺遺伝子の基本的な概念は、[Jones et al., Front Pharmacol.; 5:254. doi: 10.3389]に記載されている。発明者らのアプローチはより単純で、より安全で、より用途が広いものである。原則として、養子移入された任意の細胞を遺伝子操作して、改変アレル/エピトープを持たせることができる。この改変アレル/エピトープは、in vitroまたはin vivoにおいて、選択スイッチ、追跡スイッチ、安全スイッチ、および/または選択的除去スイッチとしての結合場所となる。非限定的な例として、(i)改変アレルのみを有するが、その他の点では遺伝子操作されていない細胞、または、(ii)さらに遺伝子操作された特徴を有する細胞(例えば、CAR細胞)が挙げられる。例えば、移植片対白血病効果のために用いられる異質遺伝子型移植細胞は、移植片対宿主病(GvHD)を引き起こし得る。移植前から改変アレルが組み込まれている場合、異質遺伝子型移植細胞を改変アレルによって排除され、GvHDを軽減/治療することができる。同様に、移植された自系の腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)または病原体特異的リンパ球を遺伝子操作して改変アレルを持たせ、オフターゲット効果または強すぎるオンターゲット効果により望ましくない副作用が生じる場合に、それらを枯渇させることができる。CAR細胞の場合、改変アレルは安全スイッチとして働き得る。さらに、移植された改変細胞は、悪性になったり、または任意の種類の望ましくないオンターゲット損傷もしくはオフターゲット損傷を引き起こしたりする場合、排除することができる。あるいは、疾患を引き起こす宿主細胞を選択的に枯渇させ、一方、自系の改変細胞は残すことができる。発明者らの方法とは対照的に、既存の技術は移植細胞の枯渇に制限されており、宿主細胞の枯渇は容易ではない。改変されたアイソフォームは、宿主細胞を枯渇させる際に、例えば遺伝子修復したまたはその他の点で遺伝子操作した自系の細胞を移植することを可能にする。本発明の方法により導入されるアイソフォーム切替えがなければ、健康な細胞が移植されるときには、宿主細胞の枯渇を中断する必要がある。この場合、新たに移植され修復された細胞が増殖するあいだ、宿主細胞も増殖し、もはや除去できなくなり、病原である宿主細胞が修復細胞に打ち勝つという危険性がある。したがって、本発明の方法によって改変細胞の枯渇を抑制することは、治療アプローチに大きく関連する。例として、抗CD19-CAR細胞によって認識されるCD19エピトープを自系の造血細胞中で変異させて、抗CD19mAbまたは抗CD19CAR細胞が改変細胞に結合させたり破壊したりすることを抑制する一方で、CD19の機能は保持するようにできる。これにより、今日有効な抗CD19-CAR細胞の主な問題を取り除くことができるであろう。抗CD19-CARは、CD19を発現する造血性悪性腫瘍を除去する成功率が極めて高いが、同時に、CD19を発現する健康な宿主細胞も除去することになる。これは低ガンマグロブリン血症につながり、したがって感染の危険性を増すことになる。変異CD19は、健康な自系の造血幹細胞(HSC)により宿主の免疫システムの再構築を可能にし、それにより、抗CD19-CAR細胞に抵抗力のあるB細胞を産生する。したがって、CAR19T細胞は持続的に再発を防止し、一方、編集された抵抗力のある細胞は感染からの自然な防御を提供する。したがって、患者はもはやIVIG注入に左右されない。HSC移植は、非遺伝毒性の事前調整を通じて(例えば抗体を通じて)、部分的キメラ現象として達成し得る可能性がある(Nat Biotech, 2016)。あるいは、天然のCD45エピトープ(例えば、CD45.2)を認識する抗CD45-CAR細胞を用いて、悪性の(またはその他の点で病原性の)造血細胞を含む、すべての造血宿主細胞を除去することができる。健康な自系の造血幹細胞(HSC)の移植や、遺伝子操作されたCD45エピトープ(例えば、CD45.1)を有する他の造血細胞(CD45.2からCD45.1へのスイッチ実験として示された)は、宿主に健康な造血システムを再構築し、該造血システムが抗CD45-CAR細胞によって除去されることはもうない。主な利点は、CD45を発現する悪性腫瘍(T細胞悪性腫瘍および骨髄悪性腫瘍を含むが、これらに限定されない)のすべてを、腫瘍特異的抗原または細胞腫特異的抗原を必要とすることなく、標的にできることである。すなわち、本発明は、造血悪性腫瘍および他の非悪性造血疾患を治療する、広範囲に適用可能なシステムを提供する。さらに、異質遺伝子型細胞を必要とすることなく造血腫瘍を治療することができ、したがって、主な問題であるGvHDを排除できる。さらに、除去段階のあいだに再構築が始まり得るので、回復に要する時間が短くなる。重要なことは、移植細胞を枯渇に対して抵抗性にするのに用いられる変異は、のちに、必要ならば、それらの細胞をふたたび枯渇させるのにも用いることができることである。CAR細胞依存のHSC枯渇は、穏やかな(すなわち非遺伝毒性の事前調整を行う)代替的な方法として用い得る可能性がある。1つの抗原または複数の抗原の組み合わせに向けられており、標的細胞がHSCに特異的に限定されているCAR細胞を用いて、内在性HSCを枯渇させることができる。これは、例えば、抗CD45または抗CD34に合成生物学アプローチで(例えば、ANDゲートを用いて)第2抗原を追加し、特異的かつ排他的にCAR細胞をHSCに向けるものであり得る。
【0053】
本発明のこの態様は、細胞を交換するという普遍的な手法を表わす。細胞は造血細胞でもよいし、自系でも異形遺伝子型でもよい。交換する細胞がHSCである場合、上に記載した方法を用いて、任意の造血悪性腫瘍または他の造血疾患を治療することができる。
【0054】
既存の「安全スイッチ」アプローチと比べた、発明者らのアプローチの他の利点としては、以下の点が挙げられる。発明者らのアプローチは、内在性タンパク質を用いる。導入遺伝子またはタグを細胞内に導入する必要がない。2つのエピトープは機能的に同一であるが、リガンドへの特異的な結合によって区別し得る。上記アプローチは、どちらのリガンドが用いられるかに応じて、移植細胞の枯渇または宿主細胞の枯渇の両方を可能にする。設計された変異がゲノムに導入されるので、安全面での特徴が細胞内に不変に残る。これは、ウイルスによって導入した遺伝子組み換え安全スイッチに起こり得るように、サイレンシングされることがない。さらに、改変エピトープは、人工的な大きな安全スイッチ/自殺遺伝子コンストラクトより抗原性が低く、したがって、宿主細胞によって拒絶されにくい。さらに、改変アイソフォームの使用は位置を狙った変異に基づいており、したがって、他の安全スイッチ/自殺遺伝子よりも安全である可能性が高い。他の安全スイッチ/自殺遺伝子は、通常はウイルス送達によってゲノムにランダムに組み込まれ、したがって挿入突然変異誘発に至ることがある(Cornu, Nat Med, 2017)。
【0055】
当業者ならば、細胞表面タンパク質を第1アイソフォームから第2アイソフォームへ変えるために、HDRの代替となる方法を用い得るとわかる。非限定的な例として、塩基エディタを用いてアイソフォーム切替えを実現できる。これは、非限定的な例として挙げる刊行物[Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946]に記載されている。このアプローチは、dsDNA切断を必要とすることなく所望のアミノ酸を編集可能にすることにより、安全性をさらに高め得る。塩基エディタまたは関連する技術は、プラスミドまたはミニサークル(dsDNA)、mRNA、またはRNPとして送達できる。
【0056】
細胞表面タンパク質の第1アイソフォームの第2アイソフォームへのスイッチングが、本発明の方法による病原性遺伝子(例えば、Foxp3遺伝子)の修復と結び付いている例では、第1アイソフォームを発現する細胞を枯渇させることにより、in vivoで(すなわち、宿主への移植後に)、非修復細胞を枯渇させることができる。発明者らは、アイソフォーム切替えが生じた細胞では、遺伝子修復の成功率が高いことを実証した。第1遺伝子におけるアイソフォーム切替えを、第2遺伝子における遺伝子修復と結び付けることにより、安全面での特徴を改変細胞に含ませることができる。
【0057】
アイソフォーム切替えは、宿主中の編集済みの移植細胞を追跡するのにも用いることができる。
【0058】
本発明のこの態様の代替的態様によれば、非編集細胞および編集済み細胞の組成物において、細胞を選択的に枯渇させるまたは濃縮する方法が提供される。上記方法は、
(a)細胞を提供する工程であって、該細胞は表面タンパク質の第1アイソフォームを発現し、該第1アイソフォームは上記表面タンパク質の第2アイソフォームとアミノ酸マーカーに関して異なっており、該第1アイソフォームは核酸配列Aによってコードされるアミノ酸マーカーAを含み、該第2アイソフォームは核酸配列Bによってコードされるアミノ酸マーカーBを含む、工程と、
(b)上記細胞中で、部位特異的遺伝子操作によって、核酸配列Aから核酸配列Bへの交換を誘導し、それによって、上記細胞中で、上記第1アイソフォームの発現を上記第2アイソフォームの発現へと変える工程と、
(c)上記表面タンパク質の上記第1アイソフォームまたは上記第2アイソフォームの発現に基づき、上記細胞を選択的に濃縮する/枯渇させる工程と、
を含む。
【0059】
この代替的態様のいくつかの実施形態において、遺伝子操作は、上記細胞に、塩基エディタ([Komor et al., Nature 533, 420-424, doi:10.1038/nature17946]に記載)とガイドRNAを提供することにより、実行される(とりわけ、上記細胞にこれらをトランスフェクションすることにより)。上記塩基エディタは、アミノ酸マーカーAをコードする核酸配列Aを、アミノ酸マーカーBをコードする核酸配列Bに変えることができる。上記ガイドRNAは、上記塩基エディタを、アミノ酸マーカーAをコードする核酸配列Aに誘導することができる。
【0060】
本発明の他の態様によれば、以下の要素を含むキットが提供される:
(a)細胞表面タンパク質をコードする遺伝子のゲノム位置を標的とするガイドRNA。上記遺伝子には、核酸マーカー配列に関して異なる2つのアイソフォームが存在する。アイソフォーム1は、第1マーカー配列を含む。アイソフォーム2は、第2マーカー配列を含む。上記ゲノム位置は、PAM配列と上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列とを含む。
(b)DNAコンストラクトであって、(i)上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列、(ii)上記PAM配列(とりわけ、変異して機能しない上記PAM配列)、ならびに、(iii)上記細胞表面タンパク質をコードする上記遺伝子の上記ゲノム位置のゲノムDNA配列5’およびゲノムDNA配列3’に対して相同である相同性アームのペア、を含む、DNAコンストラクト。
(c)任意で、アイソフォーム1およびアイソフォーム2の遺伝子産物にそれぞれ特異的に結合する、第1抗体および第2抗体。
【0061】
上記キットは、アイソフォーム1をアイソフォーム2に、またはアイソフォーム2をアイソフォーム1に形質転換させることができる。「上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列を含むDNAコンストラクト」という表現は、上記第1マーカー配列または上記第2マーカー配列のどちらかを含んでいるコンストラクトを指す。このとき、上記キットのユーザーは、どちらのマーカー配列が含まれているかを知っている。上記キットが両方のコンストラクトを含む場合、これらのコンストラクトは物理的に離れており(例えば、別々のチューブに入っており)、それに従ってラベル付けされている。
【0062】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記キットはHDR促進試薬(とりわけバニリンおよび/またはルカパリブ)を含む。
【0063】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ少なくとも85塩基対(bp)を含む。とりわけ、それぞれ少なくとも450bpを含む。さらにとりわけ、それぞれ約2000bpを含む。本発明のこの態様のある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ少なくとも2000bpを含む。発明者らは、上記相同性アームの長さが長くなると、HDR効率が上昇することを示した(図4D)。長い鋳型を用いる場合は、HDR促進試薬の量は減らしてよい。これは、臨床用途においてHDR促進試薬が引き起こし得る副作用を最小限にするために望ましい。ある例では、長い相同性アームは、HDR促進化合物よりも効率的であり、より望ましい。他の例では、短い鋳型(例えばssDNA鋳型)をHDR促進分子と組み合わせて用いるのが、より望ましい。発明者らはまた、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える例(例えば、配列の制限により、sgRNAを変異部位の50bp内に設計することができない例)においては、相同性アームの長さを長くするとHDRが可能になることを示した(図4H)。これは、重要かつ驚くべき知見である。他の文献は、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える場合、HDRを達成できないと記載しているからである(Paquet et al, Nature. 2016 May 5;533(7601):125-9)。長い鋳型は、サイレント変異が不可能な場合にPAM配列を変異させる必要をなくすることもできる。
【0064】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞表面タンパク質はヒト細胞の表面タンパク質である。
【0065】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞表面タンパク質は、マウスThy1またはマウスCD45である。
【0066】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞表面タンパク質はマウスThy1であり、上記ガイドRNAは配列番号001であり、上記DNAコンストラクトは、配列番号013(no mut)、配列番号014(mut)、配列番号015(4x mut)、配列番号024(2kb)、配列番号025(4kb)、配列番号026(1kb)、および配列番号027(160bp)から選択される。
【0067】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞表面タンパク質はマウスThy1であり、上記ガイドRNAは配列番号008であり、上記DNAコンストラクトは、配列番号017(120bp)および配列番号018(180bp)から選択される。
【0068】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞表面タンパク質はマウスCD45であり、上記ガイドRNAは配列番号003であり、上記DNAコンストラクトは、配列番号009、配列番号019(1kb)、配列番号020(2kb)、および配列番号021(4kb)から選択される。
【0069】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記キットは、安定したCas9発現のために遺伝子操作された、マウスT細胞株をさらに含む。発明者らは、そのようなCas9発現が安定したT細胞株(EL-4 ATCC TIB-39)を確立した(図8)。安定したCas9発現を有する細胞を用いることの利点は、トランスフェクションさせるべきDNAの量が減り、それにより細胞の生存率が上がり、HDR効率を高められることである。こうした細胞では、ガイドRNAとDNA修復コンストラクトだけをトランスフェクションすればよい。
【0070】
他の態様によれば、造血細胞において所定のゲノム位置を編集する方法が提供される。該方法は以下の工程を含む:
(a)造血細胞を提供する工程。
(b)該造血細胞を、該造血細胞を活性化できる因子の存在下、第1培養工程において培養する工程。
(c)該造血細胞を、下記(i)および(ii)でトランスフェクションさせる工程。
(i)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ、第1マーカー遺伝子およびガイドRNAをコードするDNA発現コンストラクトであって、該ガイドRNAは上記所定のゲノム位置にアニールできる、DNA発現コンストラクト
(ii)DNA修復コンストラクトであって、(ゲノムDNAに挿入する)所定の遺伝子組み換えDNA配列と、上記所定のゲノム位置のゲノムDNA配列5’およびゲノムDNA配列3’に対して相同である相同性アームと、を含むDNA修復コンストラクト
(d)該造血細胞を、該造血細胞を活性化できる因子の存在下、第1培養工程において培養する工程。
(e)上記第1マーカー遺伝子を発現する造血細胞を、単離工程において単離する工程。
(f)該単離された造血細胞を、第3培養工程において培養する工程であって、該第3培養工程は該造血細胞を相同組み換え修復(HDR)促進試薬で処理することを含む工程。
【0071】
本明細書の文脈において、「DNA発現コンストラクト」という表現は、(i)CRISPR関連エンドヌクレアーゼと、マーカー遺伝子と、ガイドRNAとを含む一つのDNAコンストラクト、または、(ii)上記の各要素を含む複数のDNAコンストラクト、を指す。3つの要素すべてを1つのコンストラクト上に含む利点は、マーカー遺伝子に対して陽性である細胞はすべて、他の要素に対しても陽性であることである。当業者ならば、ガイドRNAは、in vitro転写ガイドRNAの形態で提供されてもよく、エンドヌクレアーゼは、mRNAまたはタンパク質として提供されてよいとわかる。エンドヌクレアーゼとガイドRNAは組み合わせられて、リボヌクレオタンパク質粒子(RNP)の形態で提供されてもよい。DNA発現コンストラクトがマーカー遺伝子(とりわけ蛍光タンパク質をコードする遺伝子)を含む場合、該DNA発現コンストラクトを取り込んだ細胞を特定するのに用いることができる。
【0072】
初代細胞における遺伝子編集には、RNPの使用が必須であると報告されている(Schumannet al., 2015, PNAS)。また、一般に、血液および免疫システムの細胞では、エレクトロポレーションでむきだしのDNAを移植すると、内在する細胞防御機構の活性化により大量の細胞死に至り得ることが報告されている(Cornu, Nat Med, 2017)。驚くべきことに、発明者らは、Cas9、ガイドRNA、およびGFPを含むDNA発現コンストラクトを用いて、初代T細胞においてエレクトロポレーションおよび遺伝子編集(HDRを含む)を達成することができた。
【0073】
DNA二本鎖切断に対する細胞の反応は、NHEJ経路とHDR経路から主に成るDNA修復機構の活性化である。NHEJは通常、ランダムな挿入および欠失(indel)を引き起こし、それを用いて遺伝子を削除することができる。これは実験用途では有効だが、臨床用途では、本質的に確率論的なNHEJ修復経路は大きな危険性を有する。NHEJ経路を阻害することで、細胞の反応がHDR経路へとシフトする。
【0074】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記DNA修復コンストラクトの上記相同性アームは、それぞれ、約2000塩基対(bp)を含む。ある実施形態では、相同性アームは、それぞれ、少なくとも2000bpを含む。発明者らは、上記相同性アームの長さが長くなるとHDR効率が上昇することを示した(図4D)。長い鋳型を用いる場合は、HDR促進試薬の量は減らしてよい。これは、臨床用途においてHDR促進試薬が引き起こし得る副作用を最小限にするために望ましい。ある例では、長い相同性アームは、HDR促進化合物よりも効率的であり、より望ましい。他の例では、短い鋳型、例えばssDNA鋳型をHDR促進分子と組み合わせて用いるのがより望ましい。発明者らはまた、相同性アームの長さを長くすると、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える例(例えば、配列の制限により、sgRNAを変異部位の50bp内に設計することができない例)において、HDRが可能になることを示した(図4H)。これは、重要かつ驚くべき知見である。他の文献は、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える場合、HDRを達成できないと記載しているからである(Paquet et al, Nature. 2016 May 5;533(7601):125-9)。長い鋳型は、サイレント変異が不可能な場合にPAM配列を変異させる必要をなくすることもできる。
【0075】
Cas9によるDNA切断は、標的DNAにおける短いプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の存在に左右され、標的にできる配列の選択が制限されている。例えば、Streptococcus pyogenes由来のCas9(SpyCas9)に対応するPAM配列は、5'-NGG-3'である。ある実施形態では、DNA修復コンストラクトは、変異PAM配列を含む。変異により、PAM配列は機能を失うが、タンパク質の発現、安定性、または機能には影響しない。変異PAM配列を含むDNA修復コンストラクトを用いることで、HDR効率が向上する(図3D)。
【0076】
DNA修復コンストラクトが提供されない例では、DNA二本鎖切断は主にNHEJ経路を介して修復される。
【0077】
HDR促進試薬を用いて、細胞の反応をHDR経路の方へシフトさせることができる。
【0078】
一般的に用いられるHDR促進試薬は、SCR7(リガーゼIV阻害剤)(Singhet al., 2014, Genetics)およびRS-1(Song et al., 2016, NatCommunications)である。HDR効率を高め得るさらなる試薬が求められているが、応えられていない。低分子を用いてNHEJを阻害し、それによってHDRを高める一般的な手法が考えられてきた。しかし、本明細書で提示されたような、個々の分子および最適条件の選択は、本技術分野において一度も考えられたり示唆されたりしたことはない。
【0079】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記HDR促進試薬は、バニリンおよびルカパリブから成る群から選択される。バニリンおよびその誘導体は、従来、NHEJ経路を阻害することが示唆されてきた(Durant and Karan, 2003, Nucleic Acids Research, Vol. 31, No. 195501-5512)。発明者らは、バニリンおよび他のHDR促進試薬がHDR効率に与える影響を体系的に実験した(図1C図2F)。そして驚くべきことに、バニリンが実際にHDR効率を高めるのに対し、その誘導体は高めないことを発見した。バニリンの、他のHDR促進試薬に対する利点は、バニリンが水溶性であることである。他のHDR促進成分は、水溶性媒体に溶媒化するのにDMSOを必要とする。
【0080】
本明細書の文脈において、バニリンは、4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(CAS番号121-33-5)を指す。
【0081】
本明細書の文脈において、ルカパリブは、8-フルオロ-2-{4-[(メチルアミノ)メチル]フェニル}-1,3,4,5-テトラヒドロ-6H-アゼピノ[5,4,3-cd]インドール-6-オン(CAS番号283173-50-2)を指す。
【0082】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記HDR促進試薬は、バニリンおよび/またはルカパリブである。ある実施形態では、上記HDR促進試薬は、濃度50μMから500μMのバニリンおよび/または濃度0.5μMから2.5μMのルカパリブである。ある実施形態では、上記HDR促進試薬は、濃度約300μMのバニリンおよび/または濃度約1μMのルカパリブである。
【0083】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記造血細胞は、造血幹細胞(血球芽球)、CD4+T細胞、CD8+T細胞、メモリーT細胞、調節T細胞(T reg)、ナチュラルキラー細胞(NK)、自然リンパ球(ILC)、樹状細胞(DC)、Bリンパ球、粘膜関連インバリアントT細胞(MAIT)、およびガンマデルタT細胞(γδT)を含む群から選択される。
【0084】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記第1培養工程および上記第2培養工程は、上記造血細胞を活性化モノクローナル抗体抗CD3および抗CD28と接触させることを含む。上記各抗体は水溶性でもよいし、固定されていてもよい(特に、培養皿、ビーズ、または人工抗原提示細胞(APC)に)。
【0085】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記請求項のいずれか一つに記載の方法は、上記トランスフェクションを、エレクトロポレーション、リポソームおよび/またはエクソソームを用いたトランスフェクション、弾道移送、ナノワイヤを用いたトランスフェクション、Cell Squeeze技術、浸透圧衝撃、ウイルス送達、またはソノポレーションによって達成することができる。
【0086】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記単離工程は、細胞をフローサイトメトリーまたは磁気ビーズ単離によって単離することを含む。
【0087】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記HDR促進試薬を用いた処理は、22時間から26時間行われ、とりわけ24時間行われる。上記処理後、細胞を洗浄して上記HDR促進試薬を取り除く。
【0088】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記DNA発現コンストラクトはミニサークルプラスミドである。本明細書の文脈では、「ミニサークルプラスミド」という用語は、原核生物ベクター部品の全体から分離された、小さな環状のプラスミド誘導体を指す。
【0089】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記第1培養工程および上記第2培養工程は、18時間から36時間行われ、とりわけ22時間から26時間行われ、さらにとりわけ24時間行われる。
【0090】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記第3培養工程は5日から10日間行われ、とりわけ6日から8日間行われ、さらにとりわけ7日間行われる。
【0091】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記第1マーカー遺伝子は、蛍光タンパク質(とりわけ緑色蛍光タンパク質(GFP))をコードする。
【0092】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記第1マーカー遺伝子は上記細胞表面で発現するタンパク質をコードする。このとき、上記細胞表面で発現する該タンパク質は、該タンパク質に特異的に結合するリガンドを用いて検出可能である。
【0093】
上記DNA修復コンストラクトは第2マーカー遺伝子をコードする発現カセットに結合しており、上記第1マーカー遺伝子および上記第2マーカー遺伝子を発現する造血細胞は、上記単離工程において単離される、上記請求項のいずれか一項に記載の方法。上記第2マーカー遺伝子は、蛍光タンパク質または上記細胞表面で発現するタンパク質をコードしてよい。上記細胞表面で発現したタンパク質は、上記タンパク質に特異的に結合するリガンドを用いて検出できる。上記第1マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質は、上記第2マーカー遺伝子によってコードされるタンパク質とは異なる。当業者ならば、「第2マーカー遺伝子をコードする発現カセットに結合したDNA修復コンストラクト」の提供は、上記DNA修復コンストラクトと、上記第2マーカー遺伝子をコードする発現カセットの両方を含むDNAプラスミドを提供することにより実現され得ることがわかる。
【0094】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記造血細胞はT細胞である。
【0095】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記単離工程は、上記T細胞を芽球段階(blasting stage)において単離することを含む。発明者らは、芽球段階にある細胞の方が、芽球段階にない細胞よりも、HDR効率が高いことを示した(図2Eおよび図3E)。したがって、芽球段階で細胞を単離することで、HDR効率を高めることができる。
【0096】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記T細胞はナイーブマウスT細胞(とりわけナイーブマウスCD4+T細胞)である。当業者ならば、この実施形態は、本発明に係る方法が行われる前にナイーブであるT細胞について述べているとわかる。該方法を行った後は、該T細胞はもはやナイーブとは見なし得ない。
【0097】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記T細胞はナイーブヒトT細胞である。当業者ならば、この実施形態は、本発明に係る方法が行われる前にナイーブであるT細胞について述べているとわかる。該方法を行った後は、該T細胞はもはやナイーブとは見なし得ない。
【0098】
本発明の他の態様によれば、上記請求項のいずれか一項に記載の方法を用いて所定のゲノム位置を編集した造血細胞が、疾患の治療方法または予防方法に用いるために提供される。
【0099】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記造血細胞はT細胞である。
【0100】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記疾患は多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常(IPEX;OMIM http://www.omim.org/entry/304790)またはIPEX様症候群であり、上記ゲノム位置は、Foxp3遺伝子、CD25遺伝子、Stat5b遺伝子、Stat1遺伝子、およびItch遺伝子から選択される遺伝子に含まれる変異である(Verbsky and Chatila, Curr Opin Pediatr. 2013 Dec;25(6):708-14)。上記遺伝子に含まれる変異により、遺伝子産物の発現または通常の機能が妨げられる。本発明の方法に従ってこれらのゲノム位置を編集することで、該変異が除去され、それにより遺伝子発現およびタンパク質発現が回復される。
【0101】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記ゲノム位置はFoxp3遺伝子に含まれる変異であり、上記疾患は多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常である。本発明のこの態様のある実施形態では、上記ゲノム位置はFoxp3K276X変異である。Foxp3遺伝子に含まれる変異により、遺伝子産物の発現または通常の機能が妨げられる。本発明の方法に従ってこれらのゲノム位置を編集することで、該変異が除去され、それにより、Foxp3遺伝子およびFoxp3タンパク質の発現が回復する。
【0102】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記造血細胞はマウスT細胞であり、上記ゲノム位置はFoxp3K276X変異である。この変異は、臨床上関連のあるヒトFoxp3変異を再現する(Ramsdell et al., Nature reviews. Immunology 14, 343-349 (2014); Linet al., The Journal of allergy and clinical immunology 116, 1106-1115 (2005))。
【0103】
本明細書の文脈では、「Foxp3遺伝子」という用語はヒトforkheadbox P3(NCBI GENE ID: 50943)またはマウスforkhead box P3(NCBI GENE ID:20371)に関する。
【0104】
発明者らは、マウスT細胞におけるFoxp3K276X変異を、本発明に係る方法を用いて修正できることを示した(図4)。
【0105】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記ゲノム位置はCTLA-4遺伝子に含まれる変異であり、上記疾患はCTLA-4変異と関連するヒト免疫調節異常症候群である(Schubert et al., Science Translational Medicine 5, 215ra174-215ra174(2013); Kuehn et al., Science (New York, N.Y.) 345, 1623-1627 (2014))。
【0106】
本発明のこの態様のある実施形態では、疾患の治療または予防は、本発明に係る方法によって編集された細胞の養子移入(とりわけ、本発明に係る方法によってゲノム欠陥が修正された細胞の養子移入)によって行われる。
【0107】
養子細胞治療は、長い間、血小板輸血、赤血球輸血、および造血幹細胞移植で成功裡に用いられてきた。より最近では、養子リンパ球送達が、さまざまな疾患の場面において臨床的な有効性を示し、それによって、感染症、炎症性疾患および自己免疫性疾患、臓器移植および癌の治療としての応用が、前途有望に広がっている。細胞ベースの治療が、次の医療の「柱」となると提案されてきた。本発明に係る方法によって達成される狙いを付けた改変によれば、移植細胞産物をカスタマイズして、遺伝子欠陥を修復したり、移植細胞の能力を増強させたり、あるいは細胞にさらなる所望の特徴(例えば、誘導分子または安全スイッチ)を備えさせたりすることができるようになる。本発明は、造血細胞において正確な遺伝子編集を行う、効率的で、信頼性が高く、安価な方法を提供する。
【0108】
本発明の他の態様によれば、ルカパリブがHDR促進試薬として提供される。本発明のこの態様のある実施形態では、ルカパリブは濃度0.5μMから2.5μM(とりわけ濃度約1μM)で適用される。本発明のこの態様のある実施形態では、ルカパリブはバニリンとともに(とりわけ50μMから500μMのバニリンとともに)適用される。
【0109】
本発明の他の態様によれば、高解像度エピトープマッピングの方法が提供される。該方法は以下の工程を含む:
(a)リガンドに結合できる遺伝子産物を発現する細胞を、提供する工程。上記遺伝子産物に含まれる1つまたは複数のマーカーは、上記リガンドへの結合を判定し、それに加えてエピトープを含む。上記1つまたは複数のマーカーは線状の配列でもよく、非線状の配列でもよい。上記遺伝子産物は、上記細胞のゲノムDNAに含まれるヌクレオチド配列によってコードされる。上記エピトープは、上記ヌクレオチド配列に含まれる1つまたは複数のオリジナルエピトープコード配列によってコードされる。
(b)CRISPR関連エンドヌクレアーゼ(Cas9)と、上記オリジナルエピトープコード配列を標的とするガイドRNAとをコードするDNA発現コンストラクトで上記細胞をトランスフェクションすることにより、上記コード配列中の二本鎖切断を誘導する工程。
(c)上記細胞内にDNA修復コンストラクトを提供する工程。該DNA修復コンストラクトは、(i)上記オリジナルエピトープコード配列とは異なる、遺伝子組み換えエピトープコード配列と、(ii)上記オリジナルエピトープコード配列のゲノムDNA配列5’およびゲノムDNA配列3’に対して相同である相同性アームのペアと、を含む。
【0110】
上記の工程を実行することにより、上記細胞において、相同組み換え修復(HDR)イベントが誘導される。これにより、上記細胞において、上記遺伝子産物の変異が発現する。
(d)続いて、上記変異が上記リガンドに結合できるかどうかを評価する。
【0111】
上記(1つまたは複数の)マーカーは、アミノ酸(上記遺伝子産物がポリペプチドの場合)でもよく、核酸でもよい。上記(1つまたは複数の)マーカーは、上記マーカーアミノ酸またはマーカー核酸に付着する、(i)炭水化物、(ii)脂質、または、(iii)タンパク質と、糖、脂質および他の分子との組み合わせ(翻訳後修飾または非古典的抗原に見られる)、を含んでよい。
【0112】
本明細書の文脈において、「エピトープマッピング」という用語は、遺伝子産物上にあるリガンドの結合部位(エピトープ)を、実験的に特定し特徴づけるプロセスを指す。該プロセスは、いくつかの異なるエピトープバリアントを含む遺伝子産物の、いくつかのバリアントを体系的に生成することを含む。該プロセスはまた、上記リガンドの上記遺伝子産物への結合を、体系的に試験することを含む。本発明に係る方法は、一つのアミノ酸を変異させることにより、エピトープを正確に特徴づけることを可能にする。該方法はまた、一つのアミノ酸を除去または変異させることにより、既知のエピトープまたはエピトープの可能性があるものを除去することを可能にする。このようにして、あるアミノ酸がリガンドの結合にとって、必要および/または十分であるかを分析することができる。
【0113】
特定のリガンドについて正確なエピトープを知ることは、さまざまな理由で重要である。(a)既存のリガンド(例えば、治療用の抗体またはキメラ抗原受容体(CAR)の最適化。(b)知的財産(例えば、治療用の抗体)の保護。(c)自由に操作できるか否かの判定。理想的には、エピトープをマッピングするタンパク質には、内因性の翻訳後修飾が全て含まれているべきである。このことは、細胞ベースのアッセイである、本発明の方法により可能である。エピトープマッピング用の既存のアッセイには、よく知られた限界がある。用いられる細胞は、(i)所定の標的細胞ではない可能性が高く、(ii)エピトープの候補は、ペプチドまたは導入遺伝子として発現するかもしれず、(iii)したがって、それらにおいて最も一般的なコピー数および発現レベルは、生理学的なものではなく、(iv)翻訳後修飾が異なるかもしれない。本発明は、所定の細胞において(例えば、標的の腫瘍細胞において)生理学的に発現し、すべての翻訳後修飾を含む抗原を、エピトープマッピングする方法を提供する。
【0114】
本明細書の文脈では、「リガンド」という表現は、遺伝子産物に特異的に結合(解離定数≦10-7)できる任意の分子を指す。本発明の文脈では、「遺伝子産物」は本発明の方法によって編集され、この遺伝子産物への分子(リガンド)の結合がテストされる。該分子(リガンド)は、タンパク質、RNA、さらにはDNAからも選択できる。したがって、本発明に係る方法は、タンパク質とタンパク質の相互作用、タンパク質とRNAの相互作用、およびタンパク質とDNAの相互作用のマッピングを可能にする。
【0115】
当業者ならば、「オリジナルエピトープコード配列を標的とするガイドRNA」という表現が、(i)該エピトープコード配列を直接DSBせしめるガイドRNA、(ii)該エピトープコード配列から5’方向または3’方向に最大20bpの範囲において、DSBせしめるガイドRNA、または(iii)該エピトープコード配列から5’方向または3’方向に最大50bpまでもの範囲において、DSBせしめるガイドRNA、を指すとわかる。
【0116】
ガイドRNAの設計上の要求により、エピトープコード配列を直接標的とするガイドRNAを設計することが不可能である例では、該エピトープコード配列から5’方向または3’方向に最大20bp(最大50bp)の範囲を標的とするガイドRNAを用いてもよい。20bpより大きな距離だと、HDR効率は大きく低下する。
【0117】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記DNA修復コンストラクトの上記相同性アームは、それぞれ、約2000塩基対(bp)を含む。ある実施形態では、相同性アームは、それぞれ、少なくとも2000bpを含む。発明者らは、上記相同性アームの長さが長くなるとHDR効率が上昇することを示した(図4D)。長い鋳型を用いる場合は、HDR促進試薬の量は減らしてよい。これは、臨床用途においてHDR促進試薬が引き起こし得る副作用を最小限にするために望ましい。ある例では、長い相同性アームは、HDR促進化合物よりも効率的であり、より望ましい。他の例では、短い鋳型、例えばssDNA鋳型をHDR促進分子と組み合わせて用いるのがより望ましい。発明者らはまた、相同性アームの長さを長くすると、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える例(例えば、配列の制限により、sgRNAを変異部位の50bp内に設計することができない例)において、HDRが可能になることを示した(図4H)。これは、重要かつ驚くべき知見である。他の文献は、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える場合、HDRを達成できないと記載しているからである(Paquet et al, Nature. 2016 May 5;533(7601):125-9)。長い鋳型は、サイレント変異が不可能な場合にPAM配列を変異させる必要をなくすることもできる。
【0118】
重要なことに、本発明に係る方法は、所定の遺伝子産物を内因的に発現する細胞におけるエピトープマッピングを、過剰発現の必要なしに可能にする。これにより、すべての翻訳後修飾を含む全長タンパク質において、エピトープの特徴づけが可能になる。
【0119】
本明細書の文脈では、「抗原」という用語は、リガンドによって特異的に認識され結合される分子を指す。抗原は、タンパク質、翻訳後修飾されたタンパク質、脂質、またはタンパク質の文脈において登場する糖であり得る。抗体または抗体由来のリガンド(例えば、Fabフラグメントまたはキメラ抗原受容体)によって認識されるエピトープの文脈では、抗原決定基は、リガンドによって特異的に認識される任意の構造でよい。
【0120】
CRISPR関連エンドヌクレアーゼは、(該エンドヌクレアーゼをコードする)DNAまたはmRNAとして提供してもよいし、タンパク質として提供してもよい。ガイドRNAは、(該ガイドRNAをコードする)DNAとして提供してもよいし、in vitroでの合成RNAとして提供してもよい。エンドヌクレアーゼとガイドRNAは、組み合わせてリボヌクレオタンパク質粒子(RNP)の形態でも提供し得る。
【0121】
DNA二本鎖切断に対する細胞の反応は、非相同末端結合(NHEJ)経路とHDR経路から主に成る、DNA修復機構の活性化である。HDRによるゲノムDNA修復の際には、遺伝子組み換えエピトープコード配列はコピーされ、ゲノムDNAに挿入される。当業者ならば、DNA修復コンストラクトは線状(一本鎖または二本鎖)でもよく、環状(例えば、プラスミド、ミニサークルプラスミド)でもよいとわかる。
【0122】
本発明のこの態様のある実施形態では、DNA修復コンストラクトは提供されず、DNA修復はNHEJ経路を介して達成される。いくつかの例では、この方法は遺伝子産物の発現を停止させず、変異型遺伝子産物の発現に至る。こうした例では、変異型がリガンドに結合できるかどうかを評価し得る。
【0123】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞は真核細胞である。
【0124】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記遺伝子産物はポリペプチドである。上記遺伝子産物がポリペプチドである例において、リガンドは(非限定的な例として)、免疫細胞に対する水溶性または膜結合性の抗原受容体、抗原受容体の天然または人工誘導体、B細胞抗原受容体(免疫グロブリン)、またはT細胞受容体でよい。リガンドはまた、任意の種類の抗原受容体(天然でも人工でも)を含む細胞でもよい。
【0125】
本発明のこの態様のある実施形態では、所定のエピトープを有する細胞は、生理的に生じる細胞(言い換えれば、健康な細胞)である。ある実施形態では、所定のエピトープを有する細胞は、疾患を有していてもよい(例えば、腫瘍細胞)。あるいは、抗原を有する細胞は、デザイナー抗原またはそれらの任意の組み合わせを有する、人工細胞でもよい。遺伝子産物は天然に生じる抗原でもよく、改変された抗原(腫瘍抗原を含む)でもよく、あるいは、人工的に改変または合成された抗原でもよい。これらの例において可能な用途は、改変された腫瘍抗原に対するリガンドの正確な結合部位の高解像度マッピングである。
【0126】
個人化された腫瘍治療において、患者の腫瘍細胞を用いて腫瘍抗原を特徴づけ、入手可能な治療抗体に最もよく結合するエピトープを特定することができる。患者由来の腫瘍を単離し、それから固定してエピトープマッピングに用いる。今度はこの情報を用いてリガンドそのものを最適化する。最適化は、誘導突然変異生成によって、または、本明細書に開示のものに類似の手順を用いたリガンドの抗原結合領域の突然変異生成によって、行う。エピトープを変化させるよりむしろ、リガンドそのものを改変して、抗原とリガンドとの親和性を高めることができる。同じ手順を用いて、その抗原を改変することにより腫瘍治療を逃れた腫瘍細胞の、エピトープを特徴づけることができる。その後、この情報を用いて、治療耐性のある腫瘍細胞を認識できるリガンドを作製することができる。
【0127】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記遺伝子産物はキメラ抗原受容体(CAR)である。本明細書の文脈では、「キメラ抗原受容体」という用語は、T細胞受容体のドメインおよびB細胞受容体のドメインを有する、遺伝子操作された受容体を指す。CARは、タンパク質、脂質、および糖を含む広範囲の抗原を認識する。遺伝子産物がCARである例では、上記リガンドはそれぞれの抗原である。
【0128】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記遺伝子産物は抗体(B細胞受容体、免疫グロブリン)である。このようにすれば、特定の抗原に結合するのに必要なB細胞受容体の正確な領域を決定できる。この情報を用いて、該受容体の結合特性を改変できる(例えば、抗体の結合親和性を増すことができる)。
【0129】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記遺伝子産物はT細胞受容体である。
【0130】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記リガンドはポリペプチドである。
【0131】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記リガンドは抗原受容体である。特定の抗原受容体(抗体)に対する変異型遺伝子産物の結合を評価するために、遺伝子産物の2つ以上のエピトープを認識するポリクローナル抗体を、ポジティヴ・コントロールとして用いることができる。
【0132】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記リガンドはT細胞受容体(TCR)である。そのような場合、T細胞全体、またはT細胞受容体を有する他の細胞を用いて、TCR/抗原相互作用を探ることができる。
【0133】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記リガンドはキメラ抗原受容体(CAR)である。
【0134】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ、少なくとも85塩基対(bp)を含む。ある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ、少なくとも450bpを含む。ある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ、約2000bpを含む。ある実施形態では、上記相同性アームはそれぞれ、少なくとも2000bpを含む。発明者らは、上記相同性アームの長さが長くなると、HDR効率が上昇することを示した(図4D)。長い鋳型を用いる場合は、HDR促進試薬の量は減らしてよい。これは、臨床用途においてHDR促進試薬が引き起こし得る副作用を最小限にするために望ましい。ある例では、長い相同性アームは、HDR促進化合物よりも効率的であり、より望ましい。他の例では、短い鋳型(例えばssDNA鋳型)をHDR促進分子と組み合わせて用いるのが、より望ましい。発明者らはまた、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える例(例えば、配列の制限により、sgRNAを変異部位の50bp内に設計することができない例)においては、相同性アームの長さを長くするとHDRが可能になることを示した(図4H)。これは、重要かつ驚くべき知見である。他の文献は、誘導されたDNA切断と変異部位との距離が50bpを超える場合、HDRを達成できないと記載しているからである(Paquet et al, Nature. 2016 May 5;533(7601):125-9)。長い鋳型は、サイレント変異が不可能な場合にPAM配列を変異させる必要をなくすることもできる。
【0135】
本発明のこの態様のある実施形態では、第1スクリーニング工程において、短い相同性アーム(少なくとも85bp)とHDR促進試薬を用いて本発明に係る方法を行う。第2検証工程では、長い相同性アーム(約2000bp以上)を用いて、かつHDR促進試薬は用いずに、本発明に係る方法を行う。
【0136】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記細胞は、(c)工程後、HDR促進試薬を含む細胞培地内にて、22時間から26時間(とりわけ約24時間)保たれる。
【0137】
in vivoにおけるHDR媒介エピトープマッピングのための様々なパラメータの最適化を含む、最適化法を適用することができる(図3)。
【0138】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記HDR促進試薬は、バニリン、ルカパリブ、ベラパリブ(velaparib)、ルミネスピブ、L75507、SCR7-X、およびRS-1を含む群から選択される。
【0139】
本発明のこの態様のある実施形態では、上記HDR促進試薬は、バニリンおよび/またはルカパリブである。ある実施形態では、上記HDR促進試薬は、濃度50μMから500μMのバニリンおよび/または濃度0.5μMから2.5μMのルカパリブである。ある実施形態では、上記HDR促進試薬は、濃度約300μMのバニリンおよび/または濃度約1μMのルカパリブである。
【0140】
一つに分けられるような各特徴に対応する各代替例を、本明細書では「実施形態」として提示している。そのような代替例を自由に組み合わせて、本明細書に記載の発明の個々の実施形態を作ることができると理解されたい。
【0141】
本発明を、以下の実施例および図面によりさらに例示する。該実施例および図面から、さらなる実施形態および利点を引き出すことができる。これらの実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0142】
図1A-B】図1は、初代T細胞における効率的なプラスミドベースの遺伝子切除を示す。A)EL-4細胞におけるプラスミドベースの遺伝子編集のプロトコル。遺伝子Xを標的とするsgRNAと、Cas9と、GFPとをコードするプラスミドを、エレクトロポレーションする(工程1)。24時間後、トランスフェクションに成功した細胞を、GFP発現に基づくフローサイトメトリーで精製する(工程2)。その後、in vitroでの遺伝子編集のため、細胞を9日間増殖させる(工程3)。B)初代CD4+T細胞におけるプラスミドベースの遺伝子編集のプロトコル。エレクトロポレーションの前に、細胞を抗CD3mAbおよび抗CD28mAbで活性化する。24時間後、遺伝子Xを標的とするsgRNAと、Cas9と、GFPとをコードするプラスミドをエレクトロポレーションする(工程1)。24時間後、トランスフェクションに成功した細胞を、GFP発現に基づいて精製する(工程2)。図示するように、in vitroで9日間増殖させる(工程3)。
図1C-H】C)CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA90.2、配列番号001)をコードするプラスミド、または空のベクターpx458(コントロール)で、aと同様にトランスフェクションさせたEL-4細胞のフローサイトメトリー。フローサイトメトリーのヒストグラム(左パネル)および複数の実験の定量化(n=3)。エラーバーは標準偏差(SD)を表わす(右パネル)。D)CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA90.2、配列番号001)をコードするプラスミド、または空のベクター(コントロール)で、bと同様にトランスフェクションさせた初代T細胞。フローサイトメトリーのヒストグラム(左パネル)および2回の実験の定量化。エラーバーはSDを表わす(右パネル)。E)cと同じ条件だが、CD45.2を標的とするsgRNA(sgRNA45.2、配列番号003)または空のベクター(コントロール)を用いる。3回の実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす。F)dと同じ条件だが、CD45.2を標的とするsgRNA(sgRNA45.2、配列番号003)または空のベクター(コントロール)を用いる。3回の実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす。G)aと同様に、ただし、CD90.2とCD45.2を同時に標的とする2つのsgRNA(sgRNA90.2およびsgRNA45.2、配列番号001および配列番号003)をコードする2つのプラスミドでトランスフェクションさせたEL-4細胞。空のpx458ベクターでトランスフェクションさせた細胞(左パネル)またはCD90.2およびCD45.2を標的とするsgRNA(配列番号001および配列番号003)をコードするプラスミドでトランスフェクションさせた細胞(右パネル)のフローサイトメトリー。2回の実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす。H)CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA90.2、配列番号001)または空のベクター(コントロール)で、bと同様にトランスフェクションさせた初代CD4+T細胞。GFP+細胞を精製した(工程2)直後、2×10個の精製した細胞を、RAG KOレシピエントに静脈注射した。10日後、脾臓およびリンパ節から細胞を収穫した。リンパ節および脾臓中の生存CD4+T細胞における、CD90.2のフローサイトメトリーヒストグラム(左パネル)および複数のレシピエントの定量化(右パネル)。2回の実験で、合計6体のレシピエント(右パネル)。
図2A-D】図2は、初代T細胞における点変異の標的導入を示す。A)Balb/cマウスに由来し、ビーズ濃縮したナイーブCD4+T細胞を、24時間活性化させた。その後、(i)空のpx458プラスミド(コントロール)、(ii)CD90.1を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.1、配列番号008)をコードするプラスミド単独、または、(iii)sgRNA CD90.1と、サイズが異なる3種類のSSDNA CD90.2鋳型(90bp:配列番号016、120bp:配列番号017、および180bp:配列番号018)と、でエレクトロポレーションした(工程1、補図1a)。エレクトロポレーションから24時間後、GFP+細胞を精製し、続いて、精製された細胞をin vitroで培養した。9日後、細胞を収穫し、CD90.1およびCD90.2についてフローサイトメトリーを行った。1回の実験から代表的データを示す。B)C57Bl6/Nマウスに由来する、ビーズ濃縮したナイーブCD4+T細胞を、(a)と同様に活性化させエレクトロポーションした。ただし、CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)をコードするプラスミドと、180bpのCD90.1ssDNA鋳型(配列番号013)とを用いた。続く24時間、細胞をin vitroで培養し、GFP発現させた。GFP+細胞の精製直後、24時間のあいだ、DMSO(左パネル)またはNHEJ阻害剤SCR7-X(XcessBioから購入。[Greco et al., DNA Repair (Amst). 2016 Jul;43:18-23]を参照せよ)(右パネル)を添加した。9日後、細胞を収穫し、CD90.2およびCD90.1についてフローサイトメトリーを行った。1回の実験から代表的データを示す。C)EL-4細胞を、CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)をコードするプラスミドと、180bpのCD90.1ssDNA鋳型(配列番号013)とでエレクトロポレーションした。続く24時間、細胞をin vitroで培養し、GFP発現させた。GFP+細胞の精製直後、24時間のあいだ、NHEJ阻害剤であるSCR7-X、バニリン、またはルカパリブを添加した。9日間、in vitroで増殖させ、それから細胞を収穫し、未処理サンプル(左パネル)および処理済みサンプル(右パネル)におけるCD90.2およびCD90.1の発現についてフローサイトメトリーを行った。3回の実験から代表的データを示す。D)EL-4細胞を、CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)をコードするプラスミドと、さまざまな長さのCD90.1dsDNA鋳型(160bp:配列番号027、1kb:配列番号026、2kb:配列番号024、4kb:配列番号025)を含む環状プラスミドと、でエレクトロポレーションした。続く24時間、細胞をin vitroで培養し、GFP発現させた。GFP+細胞の精製直後、24時間のあいだ、バニリン(NHEJ阻害剤)を添加した。9日間、in vitroで増殖させたあと、細胞を収穫し、CD90.2およびCD90.1についてフローサイトメトリーを行った。代表的なフローサイトメトリープロット(左パネル)およびHDR(ヘテロ接合およびホモ接合)を経た細胞の平均頻度についての複数の実験の定量化(右パネル)を示す(n=3実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす)。
図2E-H】E)C57BI6/Nマウスに由来するビーズした濃縮ナイーブCD4+T細胞を活性化させ、(i)空のpx458プラスミド、または、(ii)CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)をコードするプラスミドと、1kbのCD90.1dsDNA鋳型(配列番号026)とを含むプラスミド、でエレクトロポレーションした。続く24時間、細胞をin vitroで培養し、GFP発現させた。GFP+細胞の精製直後、24時間のあいだ、バニリン(NHEJ阻害剤)を添加した。9日間、in vitroで増殖させたあと、細胞を収穫し、CD90.2およびCD90.1についてフローサイトメトリーを行った。フローサイトメトリープロットは、全生存細胞に対するゲーティング(左パネル)および芽球に対するゲーティング(右パネル)を示す。2回の実験から代表的データを示す。F)HDR頻度の相対的な向上(倍率の変化)にバニリンが与える効果の、dsDNA鋳型の長さの関数としての定量化。Dと同様の実験。鋳型ごとの、バニリンなしの場合に対する、バニリン処理された細胞のHDR頻度の上昇率。(n=3実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす)。G)NHEJ阻害剤なしの長い鋳型の方が、NHEJ阻害剤と組み合わせた短い鋳型よりも、HDR頻度が高い。短い鋳型(160bp、1kb)にNHEJ阻害剤(バニリン)を加えて得たHDR頻度と、長い鋳型(2kb,4kb)でNHEJ阻害剤なしで得たHDR頻度の定量化。Dと同様の実験(n=3実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす)。H)切断位置から変異位置までの距離がHDR効率に与える影響。意図した変異をカバーする、CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)(上部パネル)、または、50bp離れた位置をカバーするsgRNA(sgRNA CD90.2-A、配列番号002)(下部パネル)を用いて、CD90.2細胞をCD90.1細胞へと編集した。Dと同様の実験設定。切断位置から変異位置までの距離が50bpあると、短い鋳型(160bp、1kb)を用いたHDRはうまくいかない。長い鋳型(2kb、4kb)ならば、この障害を乗り越える(n=3実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす)。
図3A-C】図3は、代理の細胞表面マーカーのアイソフォーム切替をモニタリングするによる、HDR編集済み細胞の濃縮を示す。A)mus musculus(C57BL6)のゲノムの、CD45.1およびCD45.2遺伝子アイソフォームの整列。CD45.1およびCD45.2の細胞外ドメインは、3つの異なる領域(R1、R2、R3と表示)において、ヌクレオチド6個分異なる(赤で表示)。CD45.2の領域R1は配列番号032であり、CD45.1の領域R1は配列番号033であり、CD45.2の領域R2は配列番号034であり、CD45.1の領域R2は配列番号035であり、CD45.2の領域R3は配列番号036であり、CD45.1の領域R3は配列番号037である。sgRNA結合部位は緑線で、PAM配列は黒線で示す。B)天然CD45.1エピトープの、遺伝子編集ベースの高解像度マッピング。図5Aと同様の実験設定。所定のSNPにできるだけ近いCD45.2遺伝子を標的とする3つの異なるsgRNA(sgRNA CD45.2_R1、sgRNA CD45.2_R2、およびsgRNA CD45.2_R3)を用いて、初代CD4T細胞中の3つの候補領域を切断した。そして、3つの異なる180bpのssDNA CD45.1鋳型(R1、R2、R3)で修復した。GFP+細胞の精製直後、バニリン(NHEJ阻害剤)を24時間、添加した。9日後、細胞を収穫し、CD45.2およびCD45.1についてフローサイトメトリーを行った。実験は、1回はEL-4細胞を用いて、一回は初代CD4T細胞を用いて行った。C)Bで得られた結果を、長い(1kb CD45.1 dsDNA)鋳型を用いて検証。Lys277Glu変異は、CD45.2反応性をCD45.1反応性に切替えるために、必要かつ十分である。データを、代表的なフローサイトメトリープロット(左パネル)および複数の実験の定量化(右パネル)として示す。(n=3実験から代表的データを示す。エラーバーはSDを表わす)。
図3D-E】D)代理の細胞表面マーカーのアイソフォーム切替を用いた、HDR編集済み細胞の濃縮。2つのsgRNA(sgRNA CD90.2およびsgRNA CD45.2 R1)をコードするプラスミドと、2kbのdsDNA鋳型(CD90.1およびCD45.1)とでEL-4細胞をエレクトロポレーションして、多重HDRを発生させた。続く24時間、細胞をin vitroで培養して、GFP発現させた。GFP+細胞の精製直後、バニリン(NHEJ阻害剤)を24時間添加した。細胞を9日間、in vitroで増殖させ、それから収穫し、フローサイトメトリーでCD90.2、CD90.1、CD45.2、およびCD45.1の発現について調べた。上部パネル:CD90.1(緑)およびCD90.1(赤)に対するプレゲーティング。すなわち、アイソフォームが切替えられた細胞は、第2遺伝子座(Ptprc)におけるHDRイベントが同じ細胞内でリンクしていることを実証する。CD45アイソフォームが切替えられた細胞(下部パネル)は、CD90アイソフォームも切替えられた細胞において、より高頻度で認められる。2回の実験から代表的データを示す(1回は長い鋳型を、1回は180bpのssDNA鋳型を用いた)。E)HDR編集済み細胞の接合状態の選択。dと同様の実験データ。上部パネル:ヘテロ接合CD90.1/CD90.2細胞に対してプレゲーティング(赤実線)することで、ヘテロ接合CD45.1/CD45.2細胞(左下部パネル)が濃縮される。ホモ接合CD90.1/CD90.1細胞に対してプレゲーティング(上部パネル、赤点線)することで、ホモ接合CD45.1/CD45.1細胞(下部パネル)が濃縮される。
図4A-B】図4は、scurfy細胞、および、ヒトFoxp3K276X変異を有する細胞の遺伝子修正を示す。同図はまた、アイソフォームを切替えた代理表面マーカーに対してゲーティングする際の、遺伝子修復細胞の相対的頻度の上昇を示す。A)(i)野生型foxp3(C57BL/6)のゲノムDNA配列(配列番号038)と、(ii)未成熟なストップコドンを導入する標的変異Foxp3K276X(配列番号039)を有する、Foxp3遺伝子座のゲノムDNA配列と、(iii)フレームシフトが生じる自然発生的な2bpの挿入(配列番号040)を有する、scurfyマウス(B6.Cg-Foxp3sf/J)のFoxp3遺伝子座のゲノムDNA配列、の整列。sgRNA結合部位は緑線で、PAM配列は黒線で示す。B)Foxp3K276X C57BL/6マウスに由来する全てのCD4+T細胞の、遺伝子編集プロトコル。in vitroで活性化させ、Foxp3K276X変異を標的とするsgRNAをコードするプラスミドと、1kbの野生型(wt)Foxp3修復鋳型を含む環状プラスミドと、でエレクトロポレーションする(工程1)。トランスフェクションに成功した細胞を、GFP発現に基づいて単離する(工程2)。遺伝子編集のために、(i)rhIL-2およびTGF-βのみの存在下で、または、(ii)それに加えてレチノイン酸(RA)およびサイトカイン中和抗体(抗IL-4および抗IFNγ)の存在下で、細胞を7日間、in vitroで増殖させる(工程3)。
図4C-D】C)Bと同様の実験設定で、コントロールマウス(WT)由来またはFoxp3K276Xマウスに由来する全てのCD4+T細胞を用いる。CD25およびFoxp3発現のフローサイトメトリー(生存しているCD4+T細胞にゲーティング)。空のpx458プラスミドでエレクトロポレーションした野生型細胞は、CD4+Foxp3+CD25+T細胞に分化する(左パネル)。sgRNA Foxp3K276XのみでエレクトロポレーションしたFoxp3K276X細胞は、Foxp3に分化しない(中央パネル)。sgRNA Foxp3K276Xおよび1kbのFoxp3 dsDNA修復鋳型でエレクトロポレーションしたFoxp3K276X細胞は、Foxp3タンパク質発現を回復する(右パネル)。上の行:TGF-βのみによるFoxp3誘導。下の行:RAと組み合わせたTGF-βによるFoxp3誘導。TGF-βのみと比較すると、TGF-βとRAとの組み合わせでは、完全なFoxp3遺伝子座を有する細胞(すなわち、野生型細胞および修復細胞)におけるFoxp3発現細胞の頻度がより高くなる。Foxp3K276X細胞を用いた2回の実験およびFoxp3sf/J細胞を用いた1回の実験から、代表的データを示す。D)CD45の多重アイソフォーム切替えを代理マーカーとして用いた、遺伝子修復済みFoxp3発現細胞の濃縮。bと同様の実験設定。ただし、2つのsgRNA(sgRNA Foxp3K276XおよびsgRNA CD45.2_R1)をコードするプラスミドと、2つの1kbのdsDNA鋳型(野生型Foxp3およびCD45.1)と、で同時にエレクトロポレーションした。7日後、CD45.2、CD45.1、CD25、およびFoxp3のフローサイトメトリーを行った(生存CD4+細胞にゲートした)。上部パネル:CD45.1-細胞に対するプレゲーティング(緑の線)およびCD45.1+細胞に対するプレゲーティング(赤の線)。下部パネル:アイソフォームを切替えたCD45.1+細胞中における、CD25+Foxp3+細胞の濃縮。Foxp3K276X細胞を用いた2回の実験およびFoxp3sf/J細胞を用いた1回の実験から代表的データを示す。
図5A-D】図5は、図2に関連する補足データを示す。A)CD4T細胞におけるプラスミドベースのHDRのプロトコル。ビーズ濃縮したナイーブCD4+T細胞を、in vitroで24時間活性化させた。その後、遺伝子Xを標的とするsgRNA、Cas9およびGFPコードするプラスミドで、エレクトロポレーションする。さらに、(i)ssDNA HDR鋳型、または、(ii)pUC57ベクター(ここでは鋳型Yとして示す)でクローニングしたHDR鋳型を含む、環状dsDNAプラスミド、のいずれかとコトランスフェクションさせる(工程1)。24時間後、トランスフェクションが成功した細胞を、GFP発現に基づくフローサイトメトリーで精製する(工程2)。細胞選別の直後、NHEJ阻害剤で24時間、インキュベートする。選別後、4日間で再活性化させた後、遺伝子編集のために、6日~9日間、in vitroで細胞を増殖させる(工程3)。EL-4細胞を同じようにトランスフェクションする。ただし、EL-4細胞は、エレクトロポレーション前、または選別から4日後にTCR活性化を必要とせず、エレクトロポレーションパラメータは異なる(「材料および方法」を参照)。B)ゲノムCD90.1およびCD90.2のntおよびaa配列。CD90.1のnt:配列番号041、CD90.2のnt: 配列番号042。R108Qを発生させる、CGA(CD90.1)CAA(CD90.2)SNPを、赤でハイライト表示する。C)実験リードアウトのグラフ表示:Q1:未編集の細胞、または、タンパク質発現が停止しない変異(例えば、インフレーム変異)を有する細胞。Q2:NHEJ後の細胞。Q3:編集済みCD90.2/CD90.1ヘテロ接合細胞。Q4:編集済みホモ接合CD90.1細胞、または、1つのKOアレルと、1つのHDR編集済みアレルとを有する細胞。D)サイズが異なる3種類のssDNA CD90.2鋳型(90bp:配列番号016、120bp:配列番号017、180bp:配列番号018)を、sgRNA90.1の切断部位を中心として示した概略図。
図5E-F】E)アイソフォーム切替え用の鋳型における、異なる変異の影響。変異のない、180bpのssDNA CD90.1鋳型(no mt、配列番号013)。変異PAM(mt PAM (1nt)、配列番号014)。または、変異PAM(2nt)に加えて3つのさらなる変異(mt PAM (2nt)+ 3 other nt、配列番号014)。EL-4細胞を、aと同様に、CD90.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD90.2、配列番号001)をコードするプラスミドと、異なる180bpのssDNACD90.1鋳型と、でトランスフェクションさせた。9日後、フローサイトメトリーを行った。F)図2Dと同じ実験であるが、データを異なるゲーティング手法で分析した。芽球にゲーティングした代表的なフローサイトメトリープロット、および、複数の実験を横断したHDR効率の定量化(n=3;エラーバーはSDを表わす)を示す。ヘテロ接合細胞とホモ接合細胞の頻度は、すべてのリンパ球にゲーティングした場合に比べ、芽球における場合の方が高い。G)切断位置から変異位置までの距離が、HDR効率に与える影響を判定するための実験設計。CD90.2を標的とする2つの異なるsgRNAが、所定の変異に対して結合する部位:sgRNA CD90.2(配列番号001)は変異部位に結合するのに対し、sgRNA CD90.2-A(配列番号002)は変異部位から50nt離れた部位に結合する。上部のバーは、異なる長さの修復鋳型を表わす。
図6A-Q1】図6は、図3に関連する補足データを示す。CD45.2からCD45.1への正確なアイソフォーム切替えを、サンガーシーケンシングで検証した。図5Aに示したように、CD45.2を標的とするsgRNA(sgRNA CD45.2)をコードするプラスミドおよびCD45.1の環状dsDNA2kbプラスミド鋳型で、EL-4細胞をエレクトロポレーションした。細胞をin vitroで9日間培養し、それから収穫して、CD45.2およびCD45.1発現に基づいてフローサイトメトリーで選別した。これにより、4つの定義された集団、CD45.2/CD45.1(Q1)、CD45.2/CD45.1(Q2)、CD45.2/CD45.1(Q3)、およびCD45.2/CD45.1(Q4)に分離した。Q1:配列番号047および配列番号048(上から3行目)。Q2:配列番号049(1行目、2行目、3行目、6行目、10行目、11行目)および配列番号047(4行目、5行目、7行目、8行目、9行目)。Q3:配列番号050、配列番号051、配列番号052、配列番号053、配列番号054、配列番号054、配列番号055、配列番号056、配列番号057、配列番号058、配列番号54、配列番号059。Q4:配列番号049(1行目、2行目、4行目、5行目、7行目、8行目、9行目、11行目、12行目、14~22行目)、配列番号060(3行目)、配列番号047(6行目、10行目)、配列番号061(13行目)。DNAを抽出し、サンガーシーケンシングのためにPCRアンプリコンをクローニングした。四分割された配列群のそれぞれにおいて、ゲノム配列の右側に変異を記載してシーケンシング結果を示す。四分割された配列群のそれぞれの下部右側の数字は、wt配列の頻度、または、NHEJ対HDR修復を示す。矢印の上の丸数字1は、CD45.1鋳型に導入されたAに対するPAM変異930Gを表す。矢印の上の丸数字2は、所定の変異(Lys277Glu)を表す。Q3およびQ4集団の鋳型の両側にはindelは見つからなかった(データは不図示)。
図6A-Q2】図6A-Q1に同じ。
図6A-Q3】図6A-Q1に同じ。
図6A-Q4】図6A-Q1に同じ。
図6B】選別・精製後のデータを図6Bに示す。左パネル:4つの個別の細胞集団を定める4つの四分象限のラベルの凡例である。右パネル:4つの精製した集団の電子オーバーレイを示す。以下に定めた4つの集団が精製された。CD45.2+/CD45.1-(Q1;赤)、CD45.2-/CD45.1-(Q2;緑)、CD45.2+/CD45.1+(Q3;青)、およびCD45.2-/CD45.1+(Q4、オレンジ)。このことは、アイソフォーム/アレルの切替えにより、オリジナルのアレルおよび編集済みアレルの発現に基づいて、複数の遣伝子型/複数の表現型の混合集団の中から、純度の高い個別の集団を単雕できることを実証する。
図7図7は、(A)Thy1.2についてホモ接合、(B)Thy1.2およびThy1.1についてヘテロ接合、または(C)Thy1.1についてホモ接合である同系交配類似遺伝子型マウスにおいて、2種類のモノクローナル抗体が、アイソフォームThy1.1(クローンOX-7)とアイソフオームhy1.2(クローン53.2-1)とを区別できることを示す。同図はまた、2つのアイソフオームの接合性を、一細胞レベルで判定できることを示す。アイソフオームThy1.1とアイソフォームThy1.2とのゲノムの相違は、一つのヌクレオチドの相違である(配列番号041および配列番号042におけるヌクレオチド14)。
図8図8は、安定してCas9を発現するマウス細胞株の世代を示す。A)これらの細胞におけるゲノムCas9DNAの存在をPCRで確認し、Cas9遺伝子座(順プライマー:AACAGCCGCGAGAGAATGAA、配列番号030、逆プライマー:TCGGCCTTGGTCAGATTGTC、配列番号031)を増幅させた。この遺伝子座を、Cas9遺伝子組み換えマウス(Cas9Tgマウス)におけるCas9配列または野生型マウス(WTマウス)と比較した。B)Thy1.2およびCD45.2に対するsgRNAを、該sgRNAに続くT7プロモーターをコードするdsDNA鋳型からin vitro転写で作製し、Cas9発現細胞株にトランスフェクションした。すべてのテストされた細胞株において、in vitro転写sgRNAのエレクトロポレーションは、Thy1およびCD45(Q2)のホモ接合で多重化した遣伝子を高効率で除去するのに十分である。6つの異なるCas9発現EL-4細胞株のFACSプロットを示す。
図9図9は、末梢血またはヒト臍帯血に由来する初代ヒトT細胞の、トランスフェクションを示す。実験条件は、マウス細胞に用いたものに対応する。詳しいプロトコルについては、「方法」の節を参照されたい。手短に述べると、PBMCまたはナイーブT細胞をヒト血液から単雕し、in vitroで抗CD3および抗CD28抗体を用いて活性化させる。それから、ガイドRNAと、Cas9ヌクレアーゼ(または他のヌクレアーゼ)と、GFPのような選択マーカー(エレクトロポレーションの成功を示すために用いられる)とを発現するプラスミドで、エレクトロポレーションする。GFPは、GMPを産生することが立証されている代替マーカーと取換えてもよい(例えば、tNGFR(短縮型神経成長困子受容体))。具体的な条件は、「材料および方法」の節に記載する。
図10図10は、Cas9リボヌクレオタンパク質粒子(RNP)を用いた、EL-4細胞の遣伝子編集を示す。EL-4細胞に、crRNAtracrRNA/Cas9複合体および+/-HDR2kb鋳型をトランスフェクションした。エレクトロポレーション条件(「方法」の節に記載)以外は、プラスミドベースのアプローチと同じ手法である。
図11図11は、Cas9リボヌクレオタンパク質粒子(RNP)を用いた、初代マウスT細胞の遺伝子編集を示す。初代マウスT細胞に、crRNA:tracrRNA/Cas9複合体および+/-HDR2kb鋳型をトランスフェクションした。プラスミドベースのアプローチと同じ手法である。
図12図12は、プラスミドベースのアプローチとRNPベースのアプローチを用いた、Foxp3遣伝子の修復を示す。A:Foxp3 KOマウス由来のCD4T細胞を、(i)sgRNAプラスミド単独、または(ii)sgRNAプラスミドおよびFoxp3野生型HDR鋳型、でトランスフェクションさせた。トランスフェクション(プラスミドトランスフェクション)から24時間後、GFP+細胞とGFP-細胞を選別し、細胞選別の直後、Foxp3分化カクテルの存在下にて実験の終了まで増殖させた。B:Foxp3 KOマウス由来のCD4T細胞を、(i)crRNA:tracrRNA/Cas9 RNP複合体単独、または(ii)+/-HDR鋳型(180bpのssDNAまたは2kbのプラスミド)を伴って、トランスフェクションさせた。RNPトランスフェクション細胞の全プールを、Foxp3分化カクテルの存在下、実験の終了まで増殖させた。
図13図13は、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)によるトランスフェクションの際に生じた、編集済み細胞を示す。A:養子T細胞移植およびLCMV感染後、末梢リンパ節(LN)、腸間膜LN(mesLN)、および膵臓(SP)において、編集済み/CD45.1+細胞(sgRNA ICOS、sgRNA BCl6またはコントロール(空のプラスミド))が回復しうることを実証する。B:ICOSの標的化を実証する(コントロール、およびBCl6(他のTFHマーカー)に対するsgRNAに関して、種々の器官でICOS MFIが減少する)。C:濾胞性ヘルパーT細胞の分化(CXCR5およびPD1によって定められる)が損なわれているICOSが低い(欠失した)集団と、ICOS集団(高ICOS)集団とを示す。
図14図14は、ヒトCD4+T細胞クローンにおける、エレクトロポレーション条件の最適化を示す。ヒト抗原特異的CD4+T細胞クローンを、同族ペプチドで活性化した。その後、Neonエレクトロポレーターを用いてエレクトロポレーションを行い、図示したように、異なるバッファ(バッファTおよびバッファR、どちらもNeonキットによって提供されるThermo Fisher/Invitrogen製)、および、異なるエレクトロポレーション条件(電圧、幅、パルス)を比較した。トランスフェクションに用いたプラスミドはp-EGFP-N1であった(設計された「小さな(GFP)プラスミド」)。プラスミドpEGFP-N1は4.7kbであり、Takara/C1ontech製である。生存リンパ球の分析は、生存リンパ球にゲーティングしたFSC/SSCおよびGFP発現に基づく。参考として示したのは[Schuman et al PNAS 2015, doi: 10.1073/pnas]で公開されたプロトコルである。大部分の条件では、細胞の大多数が死亡した。どの条件においても、生存細胞のトランスフェクション効率(GFP発現によって読み取る)は低かった。このプラスミドの選択:我々は、このプラスミドを成功裡に用いて、マウスT細胞のエレクトロポレーション条件を最適化した。
図15図15は、ヒトCD4+T細胞クローンのエレクトロポレーション条件の最適化を示す。大きなCas9-GFP発現プラスミドpx458を用いた(Addgene pSpCas9(BB)-2A-GFP (PX458) No 48138)以外は、図14と同じ条件である。小さなプラスミドの場合と同様、大部分のエレクトロポレーション条件では、細胞の大多数が死亡した。大きなプラスミドでは、最良の条件(Schumann et al.)ですらGFP発現をもたらさなかった。
図16図16は、健康な成人ドナーの末梢血に由来するヒトナイーブCD4+T細胞の精製における、品質コントロール(純度チェック)を示す。細胞の単離は、「材料および方法」に記載した通りである。ナイーブT細胞の濃縮前後に純度チェックを行った。濃縮前は、33.5%の細胞がCD45RO-CD45RA+ナイーブT細胞であった。濃縮後は、94.7%の細胞がCD45RA+CD45RO-ナイーブT細胞であった。
図17図17は、初代ヒトCD4+T細胞のエレクトロポレーション条件の最適化を示す。初代ヒトCD4+T細胞の単離および活性化は、「材料および方法」に記載した通りである。トランスフェクション効率(GFP+の割合)を、T細胞活性化がない場合、刺激が低い場合、刺激が中程度である揚合、または刺激が高い場合で比較した。活性化条件は「材料および方法」に記載した通りである。小さなプラスミドp-EGFP-N1(上部パネル)を、大きなプラスミドpx458(下部パネル)と比較した。エレクトロポレーションの設定は、[Schuman et al., PNAS 2015, doi: 10.1073/pnas]に記載した通りである。
図18図18は、初代ヒトCD4+T細胞のエレクトロポレーション条件の最適化を示す。品質コントロール。活性化状態をモニタリングし、メモリー(CD45RO+)T細胞とナイーブ(CD45RA+)T細胞との相対分布を比較した。活性化条件は「材料および方法」に記載した通りである。
図19図19は、初代ヒトCD4+T細胞のエレクトロポレーション条件の最適化を示す。初代ヒトCD4+T細胞の単離および活性化は、「材料および方法」に記載した通りである。大きなpx458プラスミドを用いた。トランスフェクション効率(GFP+の割合)を、T細胞活性化がない場合、刺激が低い場合、刺激が中程度である場合、または刺激が高い場合で比較した(全PBMC、上部パネル)。ナイーブT細胞を濃縮し、続いて中程度のまたは高い活性化を行った場合と比較した(下部パネル)。プログラムX-001を用いるAmaxa Transfection System(Lonza)によって、エレクトロポレーションを行った。これらの条件では、トランスフェクション効率は低いかゼロである。
図20図20は、初代ヒトCD4+T細胞のエレクトロポレーション条件の最適化を示す。初代ヒトCD4+T細胞の単離および活性化は、「材料および方法」に記載した通りである。大きなpx458プラスミドを用いた。プラスミドのトランスフェクション後、生存率(生存細胞をゲーティング)を、T細胞活性化がない場合、刺激が低い場合、刺激が中程度である場合、または刺激が高い揚合で比較した(全PBMC、上部パネル)。ナイーブT細胞を濃縮し、続いて中程度のまたは高い活性化を行った場合と比較した(下部パネル)。プログラムT-020を用いるAmaxa Transfection System(Lonza)によって、エレクトロポレーションを行った。これらの条件を用いると、生存率は高い。
図21図21は、初代ヒトCD4+T細胞のエレクトロポレーション条件の最適化を示す。初代ヒトCD4+T細胞の単離および活性化は、「材料および方法」に記載した通りである。大きなpx458プラスミドを用いた。プラスミドのトランスフェクション後、トランスフェクション効率(GFP+の割合)を、T細胞活性化がない場合、刺激が低い場合、刺激が中程度である揚合、または刺激が高い揚合で比較した(全PBMC、上部バネル)。ナイーブT細胞を濃縮し、中程度のまたは高い活性化を行った場合と比較した(下部パネル)。プログラムT-020を用いるAmaxa Transfection System(Lonza)によって、エレクトロポレーションを行った。これらの条件を用いると、トランスフェクション効率は高い(8~20%)。活性化前にナイーブT細胞を濃縮すると、全PBMCと比較してGFP+細胞の割合が高くなる。
図22図22は、ヒト臍帯血リンパ球(とりわけT細胞)の、フローサイトメトリーによる特徴づけを示す。大半は、ナイーブT細胞(CD45RA+CD45RO-)である。
図23図23は、プラスミドトランスフェクション後の細胞生存率とCas9 RNPトランスフェクション後の細胞生存率との比較を示す。出発物質:ヒト臍帯血(ナイーブCD4+T細胞を事前に濃縮していない)。「材料および方法」の節に記載されたように、培地活性化力(medium activation strength)を用いて細胞を活性化した。プラスミドpx458およびAmaxa program T-020によるエレクトロポレーション後の生存率(左パネル)を、NeonエレクトロポレーターによるCas9 RNPエレクトロポレーション(「材料および方法」の節および[Schuman et al., PNAS 2015, doi: 10.1073/pnas]に記載)後の生存率(右パネル)と比較した。これらのエレクトロポレーション条件では、同等の生存率が得られる。
図24図24は、プラスミドトランスフェクションによるトランスフェクション効率と、Cas9 RNPトランスフェクションによるトランスフェクション効率との比較を示す。出発物質:ヒト臍帯血(ナイーブCD4+T細胞を事前に濃縮していない)。「材料および方法」の節に記載されたように、培地活性化力(medium activation strength)を用いて細胞を活性化した。プラスミドpx458およびAmaxa program T-020によるエレクトロポレーション後のトランスフェクション効率(左パネル)を、Neonエレクトロポレーターによる標識化crRNA:tracrRNA-Atto 550/Cas9 RNPエレクトロポレーション(「材料および方法」の節および[Schuman et al., PNAS 2015, doi: 10.1073/pnas]に記載)後のトランスフェクション効率(右パネル)と比較した。
図25図25は、in vivo(末梢血)における、CD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。リンパ球を枯渇させたRAG KOマウスを、「材料および方法」の節に記載したように、1:1の比で混合したホモ接合CD45.1+/CD45.1+同族マウス系統由来のT細胞およびホモ接合CD45.2+/CD45.2+同族マウス系統由来のT細胞で再構築した。未処理の宿主(「未処理」)における枯渇と、CD4枯渇mAb(クローンGK1.5)(「a-CD4 AB」)または抗CD45.2mAb(クローン104)を注入した宿主における枯渇と、を比較した。「材料および方法」の節に記載したように、抗CD45.2mAbは、(i)ビオチン化されているが毒物に結合していない抗CD45.2mAb(「a-CD45.2 AB」と称する)か、(ii)ビオチン化されておりストレプトアビジン-SAP毒物と共役させた抗CD45.2mAb(「a-CD45.2-ZAP」と称する)であった。枯渇から一週間後、末梢血を分析した。上部パネル:左:ゲーティング手法:リンパ球/CD4+CD3+T細胞。棒グラフ(上部右パネル):CD45.2+/CD45.1+細胞の比の定量化。下部パネル:代表的なFACSプロット。処埋なし:CD45.2+細胞およびCD45.1+細胞が、1:1割合で残った。抗CD4mAbによる非選択的枯渇:CD45.1細胞およびCD45.2細胞は、ともに、区別なく排除される。抗CD45.2mAbによる枯渇:CD45.2+細胞の選択的枯渇により、CD45.1+細胞が相対的に増加する。毒物を抗CD45.ZmAbに結合することはより効率的だが、結合していないmAbでもCD45.2+細胞を枯渇させる。このことは、in vivoにおいて、非常に密接に関達したアレルを用いた細胞の選択的枯渇が可能であることを実証する。
図26図26は、in vivo(リンパ器官)における、CD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。図25におけるものと同じ設定であるが、リンパ節および脾臓の分析である。細胞枯渇の分析のためのゲーティング手法。リンパ球ゲート、生体染色、CD3+CD4+T細胞。抗CD4mAbにより枯渇処理した宿主マウスは、リンパ球ゲートに見られるリンパ球が大幅に減少し、CD3CD4染色でも同様に減少する。
図27図27は、in vivo(リンパ器官)におけるCD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。図xyにおけるものと同じ設定であるが、リンパ節および脾臓の分析である。「材料および方法」の節に記載したように、リンパ節(LN)、腸間膜リンパ節(mesLN)、および脾臓(SP)におけるCD45.1+T細胞およびCD45.2+T細胞の存在を分析した。末梢血について観察したように、分析した3つの未処理の器官すべてにおいて、CD45.1+/CD45.2+細胞が1:1の比率で見られた。抗CD4mAbでの非選択的枯渇は、すべての器官において、CD45.1+T細胞およびCD45.2+T細胞を枯渇させる。対照的に、抗CD45.ZmAb(毒物ありまたは毒物なし)の投与は、CD45.2+細胞を選択的に枯渇させ、CD45.1+細胞を相対的に濃縮する。相対数を示す代表的なフローサイトメトリープロットを示す。毒物をCD45.2mAbに結合することで、枯渇がより効率的になる。このことは、in vivoにおいて、非常に密接に関達したアレルを用いた細胞の選択的枯渇が可能であることを実証する。
図28図28は、in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。リンパ器官におけるT細胞の絶対数の定量化。図25におけるものと同じ設定だが、リンパ節(LN)および腸間膜リンパ節(mesLN)を分析した。
図29図29は、in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。リンパ器官におけるT細胞の絶対数の定量化。図25におけるものと同じ設定だが、脾臓(SP)を分析した。
図30図30は、in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。リンパ器官におけるT細胞の相対数の定量化。図25におけるものと同じ設定だが、リンパ節(LN)および腸間膜リンパ節(mesLN)を分析した。
図31図31は、in vivoにおけるCD45.2+細胞の選択的枯渇を示す。リンパ器官におけるT細胞の相対数の定量化。図25におけるものと同じ設定だが、脾臓(SP)を分析した。
【実施例
【0143】
〔初代T細胞における効率的なプラスミドベースの遺伝子除去〕
これまでに、化学的に修飾されたガイドRNA(Hendel et al.,Nat Biotech 33, 985-989, 2015)、または、ヒトT細胞におけるCRISPR/Cas9媒介ゲノム編集用のCas9/sgRNAリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体(Schumann, PNAS 112 10437-10442, 2015)の使用に成功したことが報告されている。DNAベースのアプローチは、行われたとしても、上手く行かなかったと報告されていた。しかし、効率的なプロトコルが利用可能ならば、数多くのプラスミドが利用できるようになる(Addgene.org/crispr)。一方、組み換えタンパク質として利用可能なゲノム編集ヌクレアーゼは、ごくわずかしかない。そこで、本発明者らは、初代T細胞におけるプラスミドベースのゲノム編集アプローチを開発することを目指した。有効なT細胞へのエレクトロポレーションプロトコル(Steiner et al., Immunity 35, 169-181, 2011)に基づき、本発明者らは、GFP発現プラスミドを用いる、EL-4細胞およびマウスの初代CD4T細胞用の実験条件を最適化した(図1Aおよび図1B)。本発明者らは、細胞表面タンパク質をコードする遺伝子に関して、一つの細胞における遺伝子編集の効率をフローサイトメトリーによって定量化した。EL-4細胞およびマウスの初代CD4T細胞の両方において、CD90.2およびPtprcの除去効率は極めて高かった。CD90.2およびPtprcの遺伝子産物であるCD45が、コントロール条件に比べて、大多数の細胞において失われていた(図1Cから図1F)。上記した多重遺伝子編集用のプロトコルを用いることで、細胞のうちほとんど半分が、CD90.2およびCD45.2の発現を同時に失った。このことは、両遺伝子のホモ接合的切除を示す(図1G)。続いて、本発明者らは、上記の編集はin vivoでも起こりうるだろうかと考えた。このため、本発明者らは、エレクトロポレーションした細胞を、GFP選別の直後、リンパ欠失RAG KOマウスに養子移植(AT)した。ATの10日後、本発明者らは、リンパ節(LN)および脾臓(SP)において回復したT細胞におけるCD90.2の欠失は、in vitroにおける遺伝子編集と同等であることを観察した(図1H)。回復した細胞は生存しており、実質的に増殖していた。このように、このプラスミドベースのアプローチにより、in vitroでもin vivoでも、T細胞における効率的な遺伝子除去が可能である。
【0144】
〔初代T細胞における点変異の標的導入〕
遺伝子編集によって引き起こされたDNA二本鎖切断(DSB)は、大部分は非相同末端結合(NHEJ)によって修復され、ランダムなindelとなる。一方、HDRによるDSB修復は制御されたゲノム編集を可能にし、したがって、臨床用途に望ましいが、生じる数がずっと少ない(Wang et al., Annual review of biochemistry 85, 227-264, 2016)。しかし、HDRイベントを容易に定量化する適切なアッセイがないため、細胞一般における(とりわけ初代細胞における)HDRの効率を向上させることができない。初代CD4T細胞におけるHDRの効率を迅速に評価できるようにするため、本発明者らは、新たなアッセイを設計した(図5A)。マウスCD90の2つのアイソフォーム(CD90.1およびCD90.2)は、一つのヌクレオチド(nt)で異なっており、これは一つのアミノ酸(aa)の相違(CD90.1:アルギニン(Arg);CD90.2グルタミン(Gln))となる(図5B)。これらは、2種類のモノクローナル抗体(mAb)で区別しうる(Williams et al., Science (New York, N.Y.) 216, 696-703, 1982)。本発明者らは、1つのアイソフォームからもう1つのアイソフォームへとDNA編集が成功したことは、2種類のアイソフォーム特異的mAbを用いて定量化できるのではないかという仮説を立てた。アイソフォーム切替えアッセイ(ISA)を確立するために、本発明者らは、Balb/cマウス(CD90.1/CD90.1)由来のT細胞を、3つの異なるサイズのHDR鋳型を提供することにより変換して、CD90.2アイソフォームを発現させられるかを実験した(図5C)。CD90.1を標的とするsgRNAのみが遺伝子欠失をもたらし、これはトランスフェクションに成功した細胞の約20%であった(図2A)。CD90.2をコードする一本鎖DNA(ssDNA)鋳型を設けることで、CD90.1/CD90.2についてヘテロ接合である少数の細胞と、CD90.2についてホモ接合である少数の細胞が検出された(図2A)。本発明者らは、最長のssDNA(180bp、すなわち、変異の5’末端および3’末端に隣接する90bp)を用いたアイソフォーム切替えのみを検出し、それより短い鋳型を用いたアイソフォーム切替えは検出しなかった(図2Aおよび図5C)。したがって、内在性遺伝子のアイソフォーム切替えを用いて、一つの細胞においてNHEJ同様にHDRを定量化できる。HDRの効率が比較的低いため、本発明者らは、上記システムをさらに最適化することにした。そこで、CD90.2アイソフォームをCD90.1アイソフォームに戻すことにより、上記アッセイがより一般的に働くか実験した。C57BL/6Nマウス由来のCD4T細胞(CD90.2/CD90.2)を用いて、本発明者らは、フローサイトメトリーによる点変異の導入のモニタリングの実行可能性を確認した(図2B)。しかし、ヘテロ接合的またはホモ接合的に編集されたT細胞の頻度は、低いままであった。そこで本発明者らは、上記細胞を、NHEJを阻害するDNAリガーゼIV阻害剤SCR7に対して一時的に曝露させた。以前に報告されたように、SCR7-Xの存在により、HDRの効率が10倍を超えて増加した(図2B)。次に、HDR鋳型を変異させることにより、変異PAM配列を有するHDR鋳型はHDRの効率を約2倍に増加させるのに対し、一方、追加の変異をしてもHDRの効率をさらに増加させはしないことが実証された(図5D)。したがって、本発明者らは、そのあとの実験の大半において、PAM変異配列を用いた。NHEJをSCR7-Xで阻害するとHDRが実質的に高まる(図2B)ので、本発明者らは、NHEJ経路を阻害するいくつかの小分子、または、HDRを直接増加させるいくつかの小分子を比較して、T細胞に対して最良のHDR促進戦略を発見した。SCR7-Xの他に、DNA PK阻害剤であるバニリンおよびPARP1阻害剤であるルカパリブは、HDRの頻度を最も増加させた(図2C)。他の化合物(ベリパリブ、L75507(Ref Yu et al./Qi, Cell Stem Cell 2015)、ルミネスピブ、RS-1(Ref Song, Nat Comm, 2016)、およびバニリン誘導体A14415、A1359、L17452(Ref Durant, Karran, Nucl Acid Research 2003))はHDRの増加がそれより少なかったり、あるいは毒性があったりした。バニリンがHDRを最も増加させ、その上、唯一の水溶性化合物であったので、本発明者らは以降の実験ではバニリンに焦点を当てた。
【0145】
本発明者らが評価した次のパラメータは、修復鋳型の長さであった。昨今の遺伝子編集の報告はしばしば、比較的短いssDNA鋳型(通常、200bp未満)を用いていた。しかし本発明者らによる結果(図2A)は、より長い鋳型の方がHDRの効率をより高くできるかもしれないことを示唆した。さらに、胚性幹細胞(ES細胞)における遺伝子ターゲティングの相同性アームは、通常、ずっと長い(数kb)。実際、環状dsDNA(プラスミド)CD90.1 HDR鋳型の相同性アームの増加は、HDRの効率と正に相関していた(図2D)。相同性が1kbと2kbの間であるときに、最大の増加が見られた(図2D)。さらに、本発明者らは、大きな芽球においてHDRの効率が最大であることに気が付いた。該芽球中では、4kbの相同性のときに、30%超がHDRを起こしていた(図5F)。重要なことに、上記の最適化された条件によれば、マウスの初代CD4T細胞でも同様のHDR頻度を示した。芽球段階の初代T細胞の最大で4分の1が、CD90.1をホモ接合的に発現させていた(図2E)。注目すべきは、バニリンのHDR促進効果は、鋳型が短い場合(160bp、1kb)の方が、鋳型が長い場合(2kb、4db)より高かったことである(図2F)。このため、本発明者らは、NHEJ阻害剤を伴わない長い鋳型は、NHEJ阻害剤と併用した短い鋳型と似たようなHDR頻度を示すのではないかと考えた。直接の比較によって、バニリンを使用しない2kbおよび4kbの鋳型は、バニリンの存在下での160bpおよび1kbの鋳型よりも、ずっと高いHDR頻度が得られることが示された(図2G)。したがって、臨床用途では、長いdsDNAは、望ましくない副作用を持ち得るNHEJ阻害剤に代わる、有効な代替策と成り得る。
【0146】
最後に、本発明者らは、変異に対する切断部位がHDRの効率にどのような効果をもたらすのかを調べた(図2H)。このため、本発明者らは、変異部位に直接結合するsgRNA CD90.2を、変異から50bp離れて結合する第2のsgRNA(sgRNA CD90.2-A)と比較した(図5G)。どちらのsgRNAも、細胞の大多数において、CD90.2の欠失を伴うDSBを効率的に誘導した(図2H)。従来の研究(Paquet et al., Nature 533, 125-129, 2016)と一致して、短い(160bpおよび1kb)鋳型を用いた場合には、離れたsgRNA(sgRNA CD90.2-A)を用いると、HDR修復は完全にだめになった(図2G)。一方、長い鋳型(2kb、4kb)はHDRを部分的に回復させた。このように、ISAは、HDRの効率を定量化するための、簡単で、迅速で、費用効果のよいシステムである。長いdsDNA鋳型は、HDRの効率を増加させ、NHEJ阻害剤に対する要求を減らし、切断位置から変異位置までの制限を克服するために考慮するに値する。
【0147】
〔代理細胞表面マーカーのアイソフォーム切替えのモニタリングによる、HDR編集済み細胞の濃縮〕
CD90 ISAを用いて発見された最適化条件がより一般的に適用可能かテストするために、本発明者らは、多数のCD45スプライスフォームが発現する遺伝子であるPtprcに目を向けた。2つのアイソフォームCD45.1およびCD45.2は、2種類のmAbで区別することができる。しかし、CD90.1およびCD90.2と対照的に、mAb抗CD45.1(クローンA20)およびmAb抗CD45.2(クローン104)によって認識される正確なエピトープは知られていない。CD45.1およびCD45.2の細胞外ドメインは6nt異なるが、どのエピトープがアレルの違いとして認識されるかは知られていない。1つのnt置換はサイレントだが、他の5つはaa配列を変化させる(図3A)。そこで本発明者らは、上記5つのnt置換候補を、初代T細胞中で直接、個別にまたは組み合わせて編集することで、上記2つの既知のmAbによって認識されるエピトープを細かくマッピングすることができると仮説を立てた。本発明者らは、上記5つのnt候補を、CD45.1配列の一部をコードする3つのssDNA鋳型(配列番号033、配列番号035、配列番号037)によってカバーされる3つのゲノム領域に分類した。そして、SNPにできるだけ近く結合している3つのsgRNA(配列番号003、配列番号004、配列番号005)を設計した(図3A)。T細胞HDRプロトコルを用いて、本発明者らは、3つのsgRNAすべてが効率的な切断に至ることを発見した(図3B)。いくつかの細胞において、領域R1内で一つのntを交換することで、mAb CD45.1を結合させることができ、mAb CD45.2の結合を阻害することができた。それと対照的に、R2およびR3を編集しても、抗CD45.1の結合は生じなかった(図3B)。より長い修復鋳型を用いると、HDR効率は増大し、この結果が追認された(図3C)。4つの精製集団すべてのサンガーシーケンシングにより、正確な編集が確認された(図6)。このように、Lys277Glu置換は、CD45.1エピトープとmAb CD45.1クローンA20との反応性を説明するのに、必要かつ十分である。これらの結果は、初代細胞における(すなわち内在性抗原の天然の姿における)エピトープマッピングの実現可能性を実証する。
【0148】
次に、本発明者らは、CD90 ISAおよびCD45 ISAを結合して、一つの細胞における多重HDRを定量できるかどうかを考えた。このため、本発明者らは、CD90.2およびCD45.2を標的とするsgRNAをコードするプラスミドを、CD90.1およびCD45.1の修復鋳型とともにエレクトロポレーションした。これらの条件下での切断効率は、プラスミドの数がより少ない場合に比べて多少低かったが、CD90およびCD45の個々のアレルに対するHDRは非常に効率的であった。それから、本発明者らは、同じ細胞中の2つのHDRイベントが互いに独立しているのか、それとも結びついているのかを調べようとした。本発明者らは、CD90.1のままであった細胞に比べて、CD90.2からCD90.1へ切替わった細胞においては、CD45.2からCD45.1へ切替わっている細胞が、2倍存在することを見出した(図3D)。重要なのは、CD90.2/CD90.1ヘテロ接合型細胞の三分の一は、CD45.2/CD45.1についてもヘテロ接合型であったことである(図3E)。同様に、ホモ接合型CD45.1細胞のもっとも高い相対頻度は、CD90.1についてホモ接合型である細胞の中に見出された(図3E)。このように、1つの遺伝子座におけるアイソフォーム切替えは、他の遺伝子座におけるアイソフォーム切替えと結びついている。予期せぬことに、この結びつきは、HDRの接合子の構造に対して定量的である。すなわち、一アレル性HDRを経た細胞は、第2の遺伝子座においても一アレル性HDRを経る可能性が高く、二アレル性HDRを経た細胞は、第2の遺伝子座を修復するのに二アレル性HDRを経る可能性が高い。したがって、本発明者らは、代理マーカーのHDR遺伝子編集イベントを評価することによって、マーカーの利用ができない所定の第2遺伝子座でのHDR遺伝子編集の接合子の構造を、濃縮および/または選択できるのではないかと提案する。
【0149】
〔Scurfy細胞の遺伝子修正〕
最後に、本発明者らは、新たに開発されたT細胞編集プロトコルを適用して、一遺伝子疾患を修正しようと試みた。ヒトの多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う伴性劣性免疫調節異常(IPEX)症候群を引き起こす原型的な変異は、T調節細胞(Treg)の機能および免疫調節の維持に重要な転写因子をコードする、Foxp3遺伝子の変異である(Josefowicz, et al., Annual review of immunology 30, 531-564, 2012)。マウスのFoxp3の変異は、scurfyと名付けられた、非常によく似た症候群に至る(Ramsdell et al.,Nature reviews. Immunology 14, 343-349, 2014)。Foxp3のエキソン8に2bpを挿入することで、scurfy表現型に至るフレームシフトが生じる。発症したマウスは、免疫寛容の完全な機能停止により、免疫システムの活動の制御不能、組織浸潤、および多臓器の免疫媒介性破壊に至り、それによって引き起こされた多臓器不全により、出生後数週間以内に死亡する。遺伝的にマーキングされたFoxp3遺伝子座を有するFoxp3欠失マウスは、「Tregになろうとする」細胞を含む。このことは、scurfyマウスの中に、Foxp3遺伝子座を積極的に転写してFoxp3Tregになるよう定められている細胞は存在しはするが、Foxp3がないために、そうした細胞はTregであると識別され得ず、抑制機能を失っていることを示す。このため、発明者らは、scurfyT細胞の遺伝子修正により、Foxp3タンパク質の発現が回復されるはずだと仮説を立てた。
【0150】
仮説を検証するため、本発明者らは、scurfyマウスに由来するT細胞と、周知のヒトIPEX疾患を引き起こすFoxp3変異を再現するFoxp3K276X変異(「Foxp3 KO」)(Ramsdell, Nature reviews. Immunology 14, 343-349, 2014)を有する遺伝子標的マウスに由来するT細胞を用いた。したがって、この変異を修復することは、臨床的に関連がある。どちらの変異も、Foxp3タンパク質の発現を停止させる。本発明者らは、HDRベースの遺伝子修復アプローチを、罹患マウス由来のT細胞に適応させた。そして、Foxp3誘導シグナルTGF単独、またはレチノイン酸(RA)とTGFの組合せを提供することによって、遺伝子を修正したFoxp3ノックアウト細胞のin vitroでのTregの分化能を調べた(Chen et al., TheJournal of Experimental Medicine 198, 1875-1886, 2003)(図4B)。TGF単独による遺伝子修復および刺激の後では、野生型T細胞の10%がCD25Foxp3になった。一方、sgRNAFoxp3K276XのみをトランスフェクションしたFoxp3K276X CD4+T細胞では、Foxp3細胞は検出されなかった。それと対照的に、Foxp3野生型修復鋳型は、細胞のうち3.5%においてFoxp3の発現を回復させた(図4C、上側パネル)。エレクトロポレーションされたT細胞をTGFおよびRAに曝露させると、野生型T細胞では80.2%がFoxp3を発現させた。しかし、HDR修復鋳型のないFoxp3K276XCD4+T細胞ではFoxp3の発現は検出できず、野生型Foxp3HDR鋳型で修復されたFoxp3K276XCD4+T細胞では22.1%のFoxp3T細胞が検出された(図4c、下部パネル)。Scurfy細胞を用いても、類似の結果が得られた(データは図示せず)。最後に、本発明者らは、多重HDRを用いて、正確に修復された細胞を濃縮しようとした(図3Dに図示した通り)。本発明者らはCD45を代理の細胞表面マーカーとして用いて、アイソフォーム切替えをモニタリングした。実際、CD25Foxp3細胞は、CD45.1細胞よりもCD45.1細胞において実質的に濃縮されていた(図4D)。要するに、本発明者らは、初代T細胞でFoxp3を修復する条件を確立し、遺伝子修正細胞の濃縮に多重HDRを適用し得ることを実証した。
【0151】
〔方法〕
[マウス初代CD4T細胞における遺伝子編集]
C57BL6NまたはBalb/cマウスの脾臓(SP)およびリンパ節(LN)から、EasySepTM Mouse Naive CD4+ T Cell Isolation Kit(STEMCELL Technologies Inc)を用いて、ナイーブCD4T細胞を精製した(純度:96%超)。RPMI(Sigma)に、10%熱不活性化FCS(Atlanta biologicals)、2mMGlutamax(Gibco)、50μM -メルカプトエタノール(Gibco)、10mM HEPES(Sigma)、および非必須アミノ酸(Gibco)を添加して、完全RPMI培地(CM RPMI)を作製した。T細胞活性化のため、モノクローナル抗体(mAb)の抗CD3(ハイブリドーマクローン2C11、1μg/mL)および抗CD28(ハイブリドーマクローンPV-1、0.5μg/mL、ともにBioXcell)でコーティングした24ウェルプレート(Corning)中に、2×10個のナイーブCD4T細胞を播種した。培養条件は、50IU/mlの組換えヒトインターロイキン-2(rhIL-2)(RD systems)と、プレート結合モノクローナル抗体(mAb)の抗CD3(ハイブリドーマクローン2C11、1μg/mL)、および抗CD28(ハイブリドーマクローンPV-1、0.5μg/mL)(BioXcell)との存在下にて、24時間、37℃、5%COとした。24時間後、T細胞を収穫し、PBSで洗浄した。活性化させた2×10個のT細胞を、Invitrogen Neon(登録商標)Transfection Systemを用いて、以下の条件にてエレクトロポレーションした。電圧(1550V)、幅(10mS)、パルス(3)(Invitrogen)、100μLチップ、バッファR(すべてのエレクトロポレーションでバッファRを用いた)。6.5μgの空のプラスミドpx458(Addgene plasmid number 48138)、または、図の説明文および補表1に記載したプラスミド(Addgene plasmid numbers 82670-82677)で、細胞をトランスフェクションさせた。HDRのため、細胞を、12μg(または1200ng、600ng、250ng)のHDR鋳型(プラスミドの場合:補表3、Addgene 82661-82669)または10μLの10μMストックssDNA鋳型(IDT)でコトランスフェクションさせた。エレクトロポレーション後、24ウェルプレート中に細胞を播種した。培養条件は、650μLのCM RPMIに50IU/mLのrhIL-2を加え、最初の活性化に用いた濃度の半分のプレート結合mAbs(すなわち抗CD3(0.5μg/mL)および抗CD28(0.25μg/mL))の存在下とした。細胞を、6.5μgの空のプラスミドpx458(Addgene plasmid number 48138)またはdsDNA修復鋳型を含むプラスミドで、トランスフェクションさせた。HDRのため、細胞を、12μg(または1200ng、600ng、250ng)のHDR鋳型(プラスミドの場合)または10μLの10μMストックssDNA鋳型(IDT)でコトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後に、FACSAria Cell Sorterを用いて、GFP細胞およびGFP細胞を98%超の純度まで選別した(BD Biosciences)。選別の直後、96ウェルの平底プレート中に細胞を播種した。培養条件は、抗体の活性化はなく、250μLのCM RPMIに50UのrhIL-2/mLを添加した。それに引き続く24時間、HDR実験のために、NHEJ阻害剤またはHDR促進剤の存在下にて選別した細胞を培養し、HDRを増やした(図の説明文に記載の通り)。GFPによる選別後4日目に、プレート結合抗CD3(0.5μg/mL)および抗CD28(0.25μg/mL)を用いて細胞を再活性化させ、その後9日間、実験の終了まで培地中で増殖させた。
【0152】
[EL-4細胞における遺伝子編集]
EL-4細胞をATCC(ATCCTIB-39TM)から購入し、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(Atlantabiologicals)、2mM Glutamax(Gibco)、および50μM β-メルカプトエタノール(Gibco)を添加したRPMI(Sigma)中で増殖させた。FACS分析により、EL-4細胞によるホモ接合のCD90.2およびCD45.2発現は、初代T細胞のそれと同等であることが確かめられた。2×10個のEL-4細胞を、以下の条件にて、Invitrogen Neon(登録商標)Transfection Systemを用いてエレクトロポレーションした。電圧(1080V)、幅(50ms)、パルス数(1)、100μLチップ(Invitrogen)。エレクトロポレーション後、650μLCM RPMIを入れた24ウェルプレート中に細胞を播種した。プラスミドの量およびHDR鋳型の濃度は、上述した初代T細胞のものと同じであった。トランスフェクションから24時間後に、FACSAria Cell Sorterを用いて、GFP細胞およびGFP細胞を98%超の純度まで選別した(BD Biosciences)。選別の直後、96ウェルの平底プレート中に細胞を播種した。それに引き続く24時間、HDR実験のために、NHEJ阻害剤またはHDR促進剤の存在下にて選別した細胞を培養し、HDRを増やした。それに続く9日間、細胞を培地中で増殖させた。
【0153】
[Foxp3修復プロトコル]
Foxp3K276X C57BL/6マウス由来のT細胞の大部分は表現型としては高く活性化されているが、エレクトロポレーションのためにT細胞をin vitroで再活性化する必要があった。in vitroにおける再活性化がない場合は、エレクトロポレーション後、GFP発現T細胞が得られなかった(データは図示せず)。健康なマウス由来の初代T細胞をエレクトロポレーションするのに用いたプロトコルを、TCR刺激を減らすことによって調整し、細胞の生存率とトランスフェクション率とのバランスを取った。さらに、全てのCD4T細胞を出発集団として用いた。これは、ナイーブT細胞が少ないためである(データは図示せず)。すべてのCD4T細胞を、プールしたSPおよびLN由来のFoxp3K276X(C57BL/6)またはB6.Cg-Foxp3sf/J(C57BL/6;データは図示せず)から、EasySepTM CD4+ T Cell Isolation Kit(STEMCELL Technologies Inc)を用いて精製した(純度96%超)。T細胞の活性化のために、2×10個のCD4T細胞を、抗CD3(クローン2C11;0.5μg/mL)および抗CD28(クローンPV-1;0.25μg/mL)(BioXcell)でコートした24ウェルプレート中に播種した。培養条件は、24時間、37℃、5%COにて、50IU/mL rhIL-2(RD systems)を添加した。24時間後、T細胞を収穫し、PBSで洗浄した。2×10個の活性化T細胞を、以下の条件にて、Invitrogen Neon(登録商標)Transfection Systemを用いてエレクトロポレーションした。電圧:1550V、幅:10ms、パルス数:3(Invitrogen)。6.5μgのプラスミド(p240_LTJ_sgRNAFoxp3K276Xおよびp236_LTJ_sgRNAFoxp3sf/J; Addgene numbers 82675, 82676)および12μgのdsDNA野生型Foxp3修復鋳型(Addgene 82664)で、細胞をトランスフェクションさせた。エレクトロポレーション後、24ウェルプレート中に細胞を播種した。培養条件は、650μLのCM RPMIに50IU/mLのrhIL-2を加え、最初の活性化に用いた濃度の半分のプレート結合mAbs(すなわち抗CD3(0.25μg/mL)および抗CD28(0.12μg/mL))の存在下とした。トランスフェクションから24時間後に、FACSAria Cell Sorterを用いて、GFP細胞およびGFP細胞を98%超の純度まで選別した(BD Biosciences)。選別の直後、精製した細胞を、プレート結合抗CD3(0.5μg/mL)および抗CD28(0.25μg/mL)で再活性化させた。そして実験の終了まで、rhIL-2(250IU/mL)、TGF(5ng/mL、RD Systems)、抗IFNγ(10mg/mL、BioXcell)、抗IL-4(10mg/mL、BioXcell)、およびレチノイン酸(10mM、Sigma)の存在下にて増殖させた(図の説明文に記載の通り)。
【0154】
[マウス]
C57BL/6N(Charles River stock No: 027)は、Charles River laboratoryから購入した。Balb/c(Jackson laboratory Stock No: 000651)マウスは、WernerKrenger (Basel University Hospital)からご恵贈いただいた。Foxp3K276XC57BL/6(Jackson laboratory Stock No: 019933)マウスは、EdPalmer (Basel University Hospital)からご恵贈いただいた。B6.Cg-Foxp3sf/Jマウスは、Jackson laboratory から購入した(Stock No: 004088)。B6.129S7-Rag1tm1Mom/J (Jackson laboratory Stock No: 002216)は、Swiss Immunological Mouse Repository (SwImMR)から得た。動物に対する操作は全て、スイス連邦法およびスイス州法に従って行われた。The Animal Research Commission of the Canton of Basel-Stadt,Switzerlandが、動物研究のプロトコルを承認した。
【0155】
[フローサイトメトリーおよび抗体]
細胞を染色した後、BD Fortessa(BD Biosciences)で捕捉し、FlowJo software(Tree Star)を用いて分析した。以下の蛍光色素共役mAbsを用いて、表面の表現型に応じて染色した:抗CD90.2(クローン53-2.1)、抗CD90.1(クローンOX7)、抗CD45.2(クローン104)、抗CD45.1(クローンA20、以上すべてeBioscience)、抗CD4(クローンRM4-5)、抗CD25(クローンPC61、いずれもBiolegend)。製造者のプロトコルに従って細胞内染色を行い、これによってFoxp3(クローンFJK-16s)(eBioscience)の発現を判定した。表面抗体の染色の前に、細胞をZombie UVdye(Biolegend)を用いて染色し、生死を判別した。
【0156】
[sgRNAの設計]
本稿において用いたすべてのsgRNA、プライマー、およびHDR鋳型のDNA配列を、5’から3’の方向で捕捉情報に示す。sgRNAは、CRISPRtool(http://crispr.mit.edu)およびsgRNA Scorer 1.0sg(https://crispr.med.harvard.edu)を用いて設計した。sgRNA配列を、それぞれのスコアとともに補表1に示す。CD45エピトープマッピングの場合、候補領域につき2つのsgRNAを設計した。所定のSNPに最も近いsgRNAで得られた結果を主図に示す。しかし、テストした6つのsgRNAはすべて効率的に切断し、どちらのsgRNAでも領域R1のエピトープを切り替えた(データは不図示)。切断位置から変異位置までの距離の違いは、影響を与えなかった。
【0157】
[sgRNAのpx458プラスミドへのクローニング]
pSpCas9(BB)-2A-GFP (PX458)は、Feng Zhangからご恵贈いただいた(Addgene plasmid # 48138)。px458へのクローニングは、[Schumann et al., PNAS 11210437-10442 (2015)]を改変した。px458プラスミドを、BbsIで、1.5時間、37℃で消化した。続いて、20分間、65℃で熱不活性化した。製造者(Macherey-Nagel)の推奨に従ってNucleospin gel and PCRclean-up purification kitを用い、消化したプラスミドをゲル精製した。各sgRNAの順オリゴヌクレオチドおよび逆オリゴヌクレオチド(オリゴ)を、HOで100μMに稀釈した。オリゴをリン酸化およびアニールするために、2μLの各オリゴをT4ライゲーションバッファおよびT4 PNKと混合し、最終的に20μLの量とした。そして、30分間、37℃でインキュベートし(リン酸化)、続いて5分間、95℃でインキュベートし、その後、温度を20℃まで1℃/分の速度で下降させた(アニーリング)。アニール・リン酸化したオリゴを、HOで1:200に稀釈した。各sgRNAのライゲーション反応は、消化・精製したpx458プラスミド100ngと、リン酸化・アニールしたオリゴ稀釈液2μL、T4ライゲーションバッファ、およびT4リガーゼとを、最終量が20μLとなるように混合して行った。ライゲーションは1時間、22℃で行った。細菌の形質転換は、5μLのライゲーション反応液を、50μLの氷冷した化学的にコンピテントなJM109細菌と混合して行った。混合物を30分間氷上でインキュベートし、続いて、42℃で30秒間熱ショックを加え、続いて2分間氷上でインキュベートした。それから、200μLのSOC培地(Sigma)を添加し、1時間、37℃で細菌を増殖させた。すべての形質転換反応を、50μg/mLのアンピシリンを含むLBプレート上に播種した。上記プレートを、一晩、37℃でインキュベートした。PCRコロニースクリーニングの後シーケンシングして、sgRNAが正しく挿入されたかどうかについてコロニーを調べた。プラスミドはAddgene.org(Addgene plasmid numbers 82670-82677)から入手可能である。
【0158】
[Addgeneプラスミドpx458へのクローニングのためのPCRコロニーのスクリーニング]
各プレートから2つのコロニー由来の細菌をピペットチップで採取し、PCRチューブ中で、HO、REDTaq(登録商標)ReadyMixTM PCRReaction Mix(Sigma)、および特定のプライマー(順プライマーGAGGGCCTATTTCCCATGATTCC、配列番号028;逆プライマーTCTTCTCGAAGACCCGGTG、配列番号029)と混合した。アニーリング温度64.9℃、35サイクルで、PCRを行った。陽性のコロニー(sgRNAが挿入)はPCRアンプリコンを示さないが、陰性のコロニーは264bpのアンプリコンを示す。
【0159】
[プラスミドのシーケンシング]
各LBプレートから2つのコロニーをピペットチップで採取し、50μg/mLのアンピシリンを添加した5mLのLB培地に播種した。培養物は一晩、37℃で増殖させた。製造者の推奨に従い、GenElute Plasmid Miniprep kit(Sigma)で培養物由来のプラスミドDNAを単離した。sgRNAの正しい挿入を、U6-順プライマー(ACTATCATATGCTTACCGTAAC、配列番号0043)を用いてプラスミドDNAをシーケンシングして確かめた。
【0160】
[HDR修復鋳型]
DNA修復鋳型を、sgRNAの結合部位に隣接する相同ゲノムDNA配列として設計した。断りのない限り、可能な限りsgRNAの中心に修復鋳型を配置し、それにより対称的な相同性アームとした。断りのない限り、サイレント変異(すなわち、アミノ酸配列を変えない変異)をPAM配列内に導入した。短いssDNA鋳型は、IDTから購入した。凍結乾燥したssDNAオリゴを、ddHO中で10μMに戻した。具体的な配列については、補表2を参照。CD90.1、CD45.1、およびFoxp3用のdsDNA鋳型(160bp、1kb、2kbおよび/または4kb)を、Genscriptから、pUC57にクローニングした合成DNAとして購入した(具体的な配列については、補表3を参照)。実験に用いる前に、Maxi preps(Sigma)で各プラスミドを下処理した。すべてのHDR実験において、環状HDR鋳型プラスミドを用いた。その方が、線状プラスミドを用いるより良い結果が得られたためである(データは不図示)。HDR鋳型を含むプラスミドは、Addgene.org(Addgene plasmid numbers82661-82669)から入手可能である。
【0161】
[小分子]
HDRを向上させるため、以下のNHEJ阻害剤を用いた。バニリン(Durant,Nucl Acid Res, 2003):HOで戻し、最終濃度300μM(Sigmacat#V1104)。SCR7-X:DMSO中、最終濃度1μM(Xcess Biosciencescat#M60082)。SCR7-XはXcess Biosciencesから購入したので、この化合物を、最近提案されている通り「SCR7-X」と称することにする(Greco et al., DNA Repair 2016)。ルカパリブ/AG-014699/PF-01367338:DMSO中、最終濃度1μM(Selleckchem cat#S1098)。ベリパリブ/ABT-888:DMSO中、最終濃度5μM(Selleckchem cat#S1004)。RS-1(Song et al., NatComm 2016):DMSO中、最終濃度7.5μM(MerckMillipore cat# 553510)。RS-1:DMSO中、最終濃度7.5μM(Sigma cat#R9782);ルミネスピブ/AUY-922/NVP-AUY922、DMSO中、最終濃度1μM(Selleckchem cat#S1069)。L-755,507:DMSO中、最終濃度5μM(Tocris cat#2197)。バニリン誘導体(Durant, Nucl AcidRes, 2003):6-ニトロベラトルアルデヒド:DMSO中、最終濃度3μM(Maybridgecat#11427047)。4,5-ジメトキシ-3-ヨードベンズアルデヒド:DMSO中、最終濃度3μM(Maybridgecat#11328426)。6-ブロモベラトルアルデヒド:DMSO中、最終濃度3μM(Maybridgecat#11480124)。
【0162】
[ゲノムDNAのシーケンシング]
別々に選別された細胞集団(例えば、CD45.2/CD45.1、CD45.2/CD45.1、CD45.2/CD45.1、およびCD45.2/CD45.1)由来のゲノムDNAを、当該細胞を抽出バッファ(100mM Tris(pH8.5)、5mM Na-EDTA、0.2% SDS、200mM NaCl、および100μg/mL プロテイナーゼK;すべてSigma)で、1時間、56℃でインキュベートして抽出した。プロテイナーゼKを、95℃で15分間、熱不活性化した。その後、サンプルを同体積のイソプロパノールと混合し、DNAの沈降を促進するために何回か転倒させた。2分間の遠心分離の後、上澄みを取り除き、ペレットを70%エタノールで洗浄した。遠心分離によりDNAをペレット状にし、空気乾燥させ、milliQ水に再懸濁し、NanoDrop device(Witec)で濃度を測定した。BamHI(順:TAAGCAGGATCCATTCCTTAGGACCACCACCTG、配列番号044)およびSalI(逆:TGCTTAGTCGACACACCGCGATATAAGATTTCTGC、配列番号045)突出部を含むPCRプライマーを購入(Microsynth)して、HDR実験用の2kbの領域を増幅した。この領域では、sgRNAの位置はPCR産物の中心にある。種々のゲノムDNAサンプル(2~6ng)のPCRには、Phusion polymerase(Thermo Scientific)を用いた。2kbのフラグメントに対して用いられた最適なアニーリング温度は、68.1℃であった。PCR産物を1.5%アガロースゲルにロードし、製造者(Macherey-Nagel)の推奨に従ってNucleospin gel and PCRclean-up purification kitを用いて、バンドを精製した。精製したPCR産物(160ng)を、BamHIバッファを用いて、1.5時間、37℃で、BamHIおよびSalIで消化した。消化したPCR産物を1.5%アガロースゲルにロードし、製造者の推奨に従ってNucleospin gel and PCR clean-up purification kitを用いて、バンドを精製した。消化・精製した2kbのPCRアンプリコン90ngを、1時間、22℃で、50ngまたは100ngのpGEM3Zプラスミドにライゲーションした。当該pGEM3Zプラスミドは、それぞれBamHI/SalIで消化し精製しておいたものである(Promega)。10μLのライゲーション反応物を50μLの氷冷した化学的にコンピテントなJM109細菌(Promegaから購入、またはRbClプロトコルhttp://openwetware.org/wiki/RbCl_competent_cellによって作製)と混合して、形質転換させた。混合物を30分間氷上でインキュベートし、続いて42℃で30秒間熱ショックを加え、続いて2分間氷上でインキュベートした。それから、200μLのSOC培地(Sigma)を添加し、1時間、37℃で細菌を増殖させた。すべての形質転換反応物を、50μg/mL アンピシリン、0.1mM IPTG(Promega)、および35μg/mL x-Gal(Promega)を含むLBプレート上に播種した。上記プレートを、一晩、37℃でインキュベートした。各プレートから、ピペットチップを用いて12個のコロニーを採取し、50μg/mL アンピシリンを添加したLB培地(5mL)に播種した。培養物を一晩、37℃で増殖させた。培養物由来のプラスミドDNAを、製造者の推奨に従いGenElute Plasmid Miniprep kit(Sigma)によって単離した。上記2kbのフラグメントに対して、T7、SP6、およびインターナルプライマー(GAGAAAGCAACCTCCGGTGT、配列番号0046)を用いたシーケンシングにDNAを供した。Lasergene(DNASTAR Inc.)を用いて配列を分析した。
【0163】
[ヒトT細胞の単離および抗体]
ヒト初代T細胞を、健康なドナーの軟膜(Blutspendezentrum,Basel)から、LymphoprepTM(Stemcell Technologies)密度勾配を用いて単離した。製造者のプロトコルに従ってEasysep Human naive CD4+ T-cell enrichment kit(Stemcell Technologies)を用いて、ナイーブなCD4T細胞を事前に濃縮した。あるいは、ナイーブT細胞の単離工程を経ずに、臍帯血をPBMCの源として用いた(ナイーブなT細胞が高頻度で現れることを考慮して)。純度を測るため、ナイーブなCD4T細胞の濃縮前のサンプルおよび濃縮後のサンプルを、以下の抗体で染色した。αCD4-FITC(OKT-4)、αCD25-APC(BC96)、αCD45RA-BV711(HI100)、αCD45RO-BV450(UCHL1)、αCD62L-BV605(DREG-56)、αCD3-PerCP(HIT3a)、およびZombie-UV生体染色(いずれもBiolegendで購入したもの)。
【0164】
要約すると、50mLの軟膜1つに対して、フィルタを有する50mL Falconチューブを2本用意し、各チューブに16mLのLympoprepを入れ、300gで1分間遠心分離する。50mLフィルタチューブの両方に等量の血液を分注し、PBSをつぎ足して50mLにする。2000rpmで15分間遠心分離する(加速時間:4、減速時間:1)。血清のうちいくらかを取り除いて捨てる。白色の軟膜を、新しい50mL Falconチューブに注意深く注入する。殺菌したPBSを濃縮したPBMC分画に添加して約50mLにし、300gで5分間遠心分離する。上澄みを捨てて、ペレットを10mLのPBSで再懸濁し、つぎ足して50mLにし、300gで5分間遠心分離する。必要ならば、精製工程の前に、赤血球溶解バッファで赤血球を溶解させる。
【0165】
[ヒトT細胞のトランスフェクションのプロトコル]
血液または臍帯血由来のナイーブCD4T細胞または全PBMCを、トランスフェクションに用いた。T細胞を活性化させるために、モノクローナル抗体(mAb)a-CD3(ハイブリドーマクローンOKT3、5μg/mL(高)、2.5μg/mL(中)、1μg/mL(低))およびa-CD28(ハイブリドーマクローンCD28、2.5μg/mL(高)、1μg/mL(中)、0.5μg/mL(低)、いずれもBiolegend)でコートした24ウェルプレート(Corning)中に、2×10個の細胞を播種した。培養条件は、50IU/mL 組み換えヒトインターロイキン-2(rhIL-2)(RD systems)の存在下にて、24時間、37℃、5%のCOとした。24時間後、T細胞を収穫し、PBSで洗浄した。2×10個の活性化T細胞を、Amaxa Transfection System, T-020 program(プラスミド用)で、あるいはNeon(登録商標)Transfection System(ThermoFisher)を以下の条件で用いて、エレクトロポレーションした:電圧(1600V)、幅(10ms)、パルス(3)、100μLチップ、バッファR(RNP用)。6.5μgの空のプラスミドpx458(Addgene plasmid number: 48138)、またはcrRNA:tracerRNA-Atto 550(IDT)およびCas9(Berkeley)複合体で、細胞をトランスフェクションさせた。エレクトロポレーション後、24ウェルプレート中に細胞を播種した。培養条件は、650μLの完全培地に50IU/mL rhIL-2を加え、最初の活性化に用いた濃度の半分のプレート結合mAbs(すなわち抗CD3(2.5μg/mL、1.25μg/mL、0.5μg/mL)および抗CD28(1.25μg/mL、0.5μg/mL、0.25μg/mL))の存在下とした。GFP細胞またはAtto550細胞の発現は、24時間後、Fortessa analyzer(BD Biosciences)を用いて評価した。
【0166】
[Cas9 RNPアセンブリ]
Alt-R CRISPR crRNAおよびAtto550標識化tracrRNA(どちらもIDT)ならびにCas9ヌクレアーゼ(Berkeley)を含むCas9リボヌクレオタンパク質(RNP)を、Neon(登録商標)Transfection System(ThermoFisher)を用いて、マウス/ヒト初代T細胞またはEL4細胞に送達した。送達は、IDTの提供するプロトコル(https://eu.idtdna.com/pages/docs/default-source/CRISPR/idt_protocol_nep-of-jurkat-rnp-rt_crs-10061-prv2-1.pdf?sfvrsn=20)をアレンジしたものである。要約すると、RNAオリゴ(crRNAおよびtracrRNA)をNuclease-Free IDTEバッファ中で、それぞれ最終濃度200μMで再懸濁した。2つのRNAオリゴを等モル濃度で混合し、最終複合濃度44μMとした。それから、複合体を95℃で5分間加熱し、次に卓上で室温(15~25℃)まで冷却した。トランスフェクション前に、36μMのCas9タンパク質をcrRNA:tracrRNA複合体と緩やかに事前混合しておき、室温で10~20分間インキュベートした。IDTの推奨に従い、実験ごとに新たなcrRNA:tracrRNA複合体を調製した。
【0167】
RNPを有するEL4細胞を、以下の条件にて、Neon(登録商標)Transfection System(ThermoFisher)を用いてトランスフェクションさせる:電圧(1380V)、幅(50ms)、パルス(1)、100μLチップ、バッファR(RNP用)。
【0168】
RNPを有する初代T細胞を、以下の条件にて、Neon(登録商標)Transfection System(ThermoFisher)を用いてトランスフェクションさせる:電圧(1550V)、幅(10ms)、パルス(3)、100μLチップ、バッファR(RNP用)。
【0169】
[CD45.2の枯渇実験]
CD4T細胞を、EasySep Mouse CD4+T Cell Isolation Kit(Stem cell Technologies)を用いて、C57BL6(CD45.2)マウスおよびC57BL6類似遺伝子型(CD45.1)マウスから単離した。RAG KOマウスを、1:1の比率の10×10個のCD45.2ドナーCD4T細胞およびCD45.1ドナーCD4T細胞で再生させた。T細胞の移植と同日に、マウスにPBSを腹腔内注射する(未処置群)か、あるいは、マウスに枯渇a-CD4 Ab(クローンGK1.5、250μg)を腹腔内注射した(3日間連続)。CD45.2ビオチン化抗体(分子量:160kDa、Biolegend)とストレプトアビジン-SAP複合体(ストレプトアビジン1個ごとに2.8個のサポリン分子、分子量:135kDa、Advanced Targeting Systems)とを1:1のモル比で結合させ、その後使用直前にPBSで稀釈して、CD45.2-ZAP抗毒素を調製した。これは、最初の公開(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5179034/)に記載されている方法と同じである。抗毒素、または非複合CD45.2抗体を含むコントロールを、静脈注射でin vivo投与した。1週間後、血液、末梢リンパ節(LN)、腸間膜LN(mesLN)、および脾臓(SP)を回収し、細胞を以下の蛍光色素複合mAbで染色した:抗CD45.2(104)、抗CD45.1(A20)、抗CD4(RM4-5)、抗CD3(145-2C11)(いずれもBiolegend)。サンプルをBD Fortessa(BD Biosciences)上で捕捉し、FlowJo software(Tree Star)を用いて分析した。
【0170】
図7の実験条件]
(a)C57BL6/N Thy1.2+マウス、(b)C57BL6 Thy1.1+/Thy1.2+マウス、または(c)C57BL6Thy1.1+マウスの血液を採取し、Thy1.2(mAbクローン53-2.1を用いる)およびThy1.1(mAbクローンOX-7を用いる)の発現を、FACSを用いて調べた。FACSプロットは、溶解した全血球に対するゲーティングを表わす。細胞をBD Fortessa上で捕捉し、FlowJo software(Tree Star)を用いて分析した。d)は、mus musculus(C57BL6)のThy1.2およびThy1.1アイソフォームのゲノム配列を整列させたものである。2つのアイソフォームは、正方形で示す一つのヌクレオチドで異なっている。
【0171】
図8の実験条件]
Cas9および抗生物質選択マーカー(ピューロマイシン)の哺乳類発現カセットをコードするが、sgRNAは有さないプラスミド(px459)で、EL-4細胞をエレクトロポレーションした。抗生物質による選択後、細胞を一つずつ選別して、サブクローンを確立させた。Cas9の存在は、各サブクローンから抽出されるゲノムDNAをPCRすることによって確認した。(A)ポジティヴ・コントロールとして、Cas9遺伝子組み換えマウス由来のゲノムDNAを用いた。CD45.2およびCD90.2を標的とするin vitroで転写したsgRNAをトランスフェクションさせて、Cas9の機能をテストした。(B)テストした6つのクローンすべてにおいて、2つのsgRNAのコトランスフェクションにより、48.3~61%の細胞における両遺伝子の二アレル性欠失が生じた。
【0172】
図13の実験条件]
SM+ Ly5.1由来のCD4細胞を、空のpx458プラスミド、または、ICOSおよびBCl6に対するsgRNAを含むプラスミドでトランスフェクションさせた。最初の活性化工程から48時間後に、GFP+細胞を選別した。50,000個の細胞を、C57BL6 Ly5.2レシピエントに静脈内注射した。T細胞移植から5日後、C57BL6レシピエントに、2×10PFUのアームストロングLCMVウイルスを腹腔内注射した。LCMV投与から7日後、マウスを安楽死させ、LN、mesLN、SPを摘出し、FACSでTFHマーカーを調べた。
【0173】
【表1】
【0174】
【表2】
【0175】
【表3】
図1A-B】
図1C-H】
図2A-D】
図2E-H】
図3A-C】
図3D-E】
図4A-B】
図4C-D】
図5A-D】
図5E-F】
図6A-Q1】
図6A-Q2】
図6A-Q3】
図6A-Q4】
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図16
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図21
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図31
【配列表】
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