(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】キャップされたおよびキャップされていない抗体システインのための大規模産生プロセス、ならびに治療的タンパク質コンジュゲーションにおけるその使用
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20220928BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20220928BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20220928BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K16/00
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2019542559
(86)(22)【出願日】2018-02-01
(86)【国際出願番号】 IB2018050638
(87)【国際公開番号】W WO2018146585
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-21
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100137040
【氏名又は名称】宮澤 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100147186
【氏名又は名称】佐藤 眞紀
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】カウシック ダッタ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ マニュエル ゴメス
(72)【発明者】
【氏名】フランク ダブリュ. コッチ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィマルクマール ビー. パテル
(72)【発明者】
【氏名】アマーナウス シャストゥリー プラシャド
(72)【発明者】
【氏名】レニー エル. プロコピオ-メリノ
(72)【発明者】
【氏名】ショウテン チョン
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-534119(JP,A)
【文献】Bioconjugate Chem,2012年,vol.23,p.1396-1405
【文献】Biotechnology and Bioengineering ,2007年,vol.98, no.6,p.1183-1194
【文献】Journal of Bacteriology,2007年,vol.189, no.23,p.8746-8749
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学物質ペイロードにコンジュゲートされることが可能なシステイン含有
抗体を生成するためのプロセスであって、
(a)システイン、シスチンおよびグルタチオンから選択される1種または複数の増殖成分を含む細胞増殖培地に、システイン含有
抗体を発現することが可能な細胞を播種するステップ;
(b)前記細胞をインキュベートして、
少なくとも5E6細胞/mLの細胞密度を達成するステップ;ならびに
(c)前記細胞をさらにインキュベートして、遊離チオールを含む1つまたは複数のキャップされていないシステイン残基を有するシステイン含有
抗体を発現させるステップ
を含むプロセス
であって、システイン含有抗体を発現することが可能な細胞がCHO細胞であり、かつ細胞増殖培地中の分数システイン制限比が0.8×未満であるプロセス。
【請求項2】
(d)前記発現されたシステイン含有
抗体に、所定のキャッピング部分またはその前駆体を導入するステップ
をさらに含み、それにより、前記
抗体上の1つまたは複数のシステインが、前記所定のキャッピング部分でキャップされ
、かつ前記所定のキャッピング部分が、5-チオ-2-ニトロ安息香酸(TNB)、またはその前駆体である5、5‘―ジチオビズ(2-ニトロベンゾエート(DTNB)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記キャップされた抗体が、単離、精製、および濃縮のうち1つまたは複数からなる更なるプロセスに供される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記細胞増殖培地中の分数システイン制限比
が、0.75×、0.70×、0.65×、0.60×、0.55×、0.50×、0.45×、0.40×、0.35×、0.30×、0.25×、0.20×、0.15×、0.10×または0.05×未満である、、請求項1から
3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記細胞密度が、少なくとも10E6細胞/mL、50E6細胞/mL、100E6細胞/mLまたは500E6細胞/mLである、請求項1
から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記システイン含有
抗体が、抗EDB抗体および抗HER2抗体から選択される抗体である、請求項1から
5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記抗HER2抗体がトラスツズマブである、請求項
6に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、抗体-薬物コンジュゲート(ADC)のより効率的な産生を可能にする、細胞増殖条件の操作による抗体上の5-チオ-2-ニトロベンゾエート(TNB)キャップされたシステインの産生を最適化することである。
【背景技術】
【0002】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、強力な細胞毒性薬物を備えた抗体から典型的になる標的化治療の1つの型である(Chudasamaら、Nature Chemistry、2016;JunutulaおよびGerber、ACS medicinal chemistry letters 2016)。したがって、ADCのおかげで、長期の処置期間での化学療法の使用をしばしば制限または排除してしまうオフターゲット毒性を回避しながら毒性ペイロードを腫瘍へと選択的に送達する見込みが得られている。有望な治療的プラットフォームとして、現在、市場には、少なくとも2つの承認されたADC製品(ブレンツキシマブベドチンおよびトラスツズマブエムタンシン)が存在する。急激に増殖しているADCは、臨床評価を受けている顕著な数の治療的候補を有する。
【0003】
ADCがその治療的潜在力を達成するためには、洗練されたコンジュゲーションテクノロジーが、細胞毒性薬物を抗体に接続するために必要である。2つの市販のADCを含む現行のADC候補のほとんどは、ランダムな表面リジン、または還元された4つの鎖間ジスルフィドの遊離システインを介した従来の非特異的コンジュゲーション方法を利用している。これは、製造再現性の課題を生み出すだけでなく、治療指数を顕著に減少させる、高度に不均一なADC混合物を生じる。
【0004】
これらの問題に対処するために、ADCの分野は、部位特異的コンジュゲーションテクノロジー、例えば、システイン(Cys)ベースの部位特異的ADCに向かって進んできた(Junutulaら、Nat Biotechnol 2008)。操作された対になっていないシステイン残基を含むロバストな求核性チオール側鎖は、均一なADC製品を提供するために、迅速かつ単純な化学的コンジュゲーション反応によって多様なリンカー/ペイロードを結合するのを可能にする。これらの得られたADC分子についてのより規定され改善された薬物動態(PK)プロファイルが報告されている。部位特異的プラットフォームは、その独自の技術的課題を有する。哺乳動物細胞において産生される場合、導入されたシステイン残基上のチオール基は、遊離システインまたはグルタチオン(GSH)とジスルフィドを形成する。これらのいわゆるCysキャッピング改変は、部分的還元ステップを介して、薬物コンジュゲーションの前に除去される必要がある。かかる処理は、抗体鎖間ジスルフィドも還元するので、還元された抗体鎖間ジスルフィドは次いで、還元剤、システインまたはグルタチオンを透析して除き、酸化試薬で処理することを含む再酸化プロセスを介して再形成される必要がある(Junutulaら、Nat Biotechnol 2008)。この煩雑な還元および再酸化プロセスは、潜在的に、抗体にジスルフィドシャッフリングおよびねじれを導入し、これは、タンパク質フォールディングおよびタンパク質の質に悪影響を与え得、得られたADCについてのより不良なPKなどの問題も引き起こす。
【0005】
この潜在的な問題を解決するために、抗体の鎖間ジスルフィドに影響を与えない、チオニトロベンゾエート(TNB)を使用したCysキャッピングの新規選択的還元戦略が開発された(参照によって本明細書に組み込まれるPCT/IB2016/054789を参照のこと)。エルマン試薬(5,5’-ジチオビス(2-ニトロベンゾエート)、DTNB)とシステインの遊離チオール基との反応産物であるTNBキャッピングは、その弱い酸化還元潜在力に起因して、不安定なキャッピングである。還元剤トリス(3-スルホナトフェニル)ホスフィン(TSPP)は、内因性ジスルフィドを還元することなしに、TNBキャッピングを選択的に除去できることが示されている。このTNB/TSPPプロセスとその後の直接的コンジュゲーションは、従来の還元-再酸化ステップの厳しい条件を排除し、元の抗体のフォールディングを完全なままに維持する。しかし、TNBキャッピングのより効率的な方法が、ADCの商業的産生を最適化するために必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、抗体上のシステイン残基のキャッピング状態が、細胞増殖、細胞密度および/または細胞培養などのパラメーターを最適化することによって改変され得るという発見に基づく。したがって、本発明は、操作された対になっていないシステイン残基が遊離チオールでキャップされないままであり、種々の濃度のジチオニトロベンゾエート(DTNB)が異なる細胞培養物状態または細胞密度において添加された場合に、効率的な改変、典型的には、チオニトロベンゾエート(TNB)によるキャッピングを可能にする、哺乳動物細胞における抗体産生プロセスに関する。
【0008】
本発明は、鎖間ジスルフィドの還元を回避し、したがって、コンジュゲーション前の(再)酸化ステップの必要性を排除する、これらのTNBキャップされた抗体を使用して産生される抗体-薬物コンジュゲート(ADC)または治療的タンパク質薬物コンジュゲート、特に、TNBキャップされた抗体のシステイン残基の選択的還元によって形成されるADCにさらに関する。本発明は、その上、改善されたコンジュゲーション効率を有する直接的コンジュゲーションのためのTSPPまたは関連の薬剤による選択的還元を可能にする本明細書に記載される方法に従って作製される新規チオニトロベンゾエートキャップされた抗体にさらに関する。
【0009】
より具体的には、本発明では、抗体上の対になっていない表面システインのキャッピング状態が、細胞増殖、細胞密度または細胞培養条件の注意深い操作によって改善できることが実証された。哺乳動物細胞培養物では、システインは重要なアミノ酸である。培養培地中のシステインおよびその酸化形態であるシスチン(Ctn)は、アミノ酸輸送体Xc
-をおそらくは介して、細胞増殖に優先的に利用される(Satoら、J Biol Chem 1999;以下の図)。細胞の外側のシステイン/シスチン/グルタチオンによるCysキャッピング反応は、緩徐なプロセスであり、結果として、対になっていない表面システインは、高い細胞密度での培養の間、遊離チオールでキャップされないままである。DTNBを特定の段階で細胞培養物に添加した場合、ほぼ均一なTNBキャップされた抗体が生成された。これらの知見は、TNBキャップされた抗体を大量に産生するための実行可能な戦略を提供している。
【0010】
【0011】
さらに、細胞培養プロセスは、典型的には、細胞増殖、生存細胞密度および力価を最大化するため、ならびにアミノ酸置換(即ち、アミノ酸の誤取り込み)を防止するために、アミノ酸、例えば、システインおよびその等価物が制限も枯渇もされないことを確実にするように設計される(米国特許第8,232,075号を参照のこと)。メチオニンの変換からのシステインの生成は、細胞増殖、細胞代謝および生産性の律速であるので、L-システインおよびその酸化形態であるL-シスチンは、哺乳動物細胞培養における重要なアミノ酸とみなされる。しかし、本発明では、細胞培養に利用可能なシステイン/シスチンの量を計画的に制限または枯渇させるいくつかの方法を、TNBによる抗体上のシステイン残基の適切なキャッピング状態を促進するために使用した。
【0012】
したがって、本発明のある実施形態では、化学物質ペイロードにコンジュゲートされることが可能なシステイン含有タンパク質を生成するためのプロセスであって、(a)システイン、シスチンおよびグルタチオンから選択される1種または複数の増殖成分を含む細胞増殖培地に、システイン含有タンパク質を発現することが可能な細胞を播種するステップ;(b)細胞をインキュベートして、増殖培地中に存在する増殖成分の大部分を使い尽くすのに十分な細胞密度を達成するステップ;ならびに(c)細胞をさらにインキュベートして、遊離チオールを含む1つまたは複数のキャップされていないシステイン残基を有するシステイン含有タンパク質を発現させるステップを含むプロセスが提供される。このプロセスは、(d)発現されたシステイン含有タンパク質に、所定のキャッピング部分またはその前駆体を導入するステップをさらに含み得、それにより、タンパク質(複数可)上の1つまたは複数のシステインが、所定のキャッピング部分でキャップされる。この実施形態では、達成される細胞密度は、典型的には、少なくとも約1E6細胞/mLであり、例えば、少なくとも約5E6細胞/mL、10E6細胞/mL、50E6細胞/mL、100E6細胞/mLまたは500E6細胞/mLであり得、好ましくは10E6細胞/mLを上回り得、より好ましくは50E6細胞/mLを上回り得る。
【0013】
所定のキャッピング部分は、アルキル化剤であり得、一部の場合には、さらなる型の薬物コンジュゲーション化学反応に有用なTNBまたは類似の不安定な部分以外の化学的「ハンドル」として作用することに留意されたい。これらのハンドルは、新規アルキル化化学スペーサーを培養培地中に添加することによって抗体に付加される。アルキル化化学スペーサーは、アルデヒド、ケトン、アジドおよびアルキンなどの化学的ハンドルを含有する。ケトンおよびアルデヒドの場合、これらの化学的ハンドルは、さらなるコンジュゲーション化学反応のためのアミノオキシ求核試薬またはヒドラジドと反応して、オキシム/ヒドラゾン産物を形成することができる。アジドおよびアルキンの場合、これらの化学的ハンドルは、環化付加コンジュゲーションを可能にできる。さらなるアルキル化化学スペーサーは、ビオチンの機能的ドメインを含み、ストレプトアビジンとビオチンとの間の緊密な特異的非共有結合相互作用を可能にする。化学的ハンドルマレイミドトリオキサ-4-ホルミルベンズアミド(MTFB)、ジベンゾシクロオクチル-ポリエチレンマレイミド(DBCO-PEG4-マレイミド)およびマレイミド-PEG2-ビオチン(MPB)を議論するWO2017/025897の実施例4を参照のこと。
【0014】
本発明のさらなる実施形態は、化学物質ペイロードにコンジュゲートされることが可能なシステイン含有タンパク質を生成するためのプロセスであって、(a)システイン、シスチンおよびグルタチオンから選択される1種または複数の増殖成分を含む細胞増殖培地に、システイン含有タンパク質を発現することが可能な細胞を播種するステップ;(b)細胞をインキュベートして、遊離チオールを含む1つまたは複数のキャップされていないシステイン残基を有するシステイン含有タンパク質を発現させるステップ;ならびに(c)ステップ(a)、ステップ(b)、またはステップ(a)および(b)の両方において、1種または複数の増殖成分の濃度を、0.4mM未満、0.3mM未満、0.2mM未満、0.1mM未満または0.05mM未満の濃度で維持するステップを含むプロセスを含む。このプロセスは、(d)発現されたシステイン含有タンパク質に、所定のキャッピング部分またはその前駆体を導入するステップをさらに含み得、それにより、タンパク質上の1つまたは複数のシステインが、所定のキャッピング部分でキャップされる。
【0015】
なおさらなる実施形態は、化学物質ペイロードにコンジュゲートされることが可能なシステイン含有タンパク質を生成するためのプロセスであって、(a)システイン、シスチンおよびグルタチオンから選択される1種または複数の増殖成分を含む細胞増殖培地に、システイン含有タンパク質を発現することが可能な細胞を播種するステップであって、増殖成分の初期濃度が、2mM未満、0.4mM未満、0.3mM未満、0.2mM未満、0.1mM未満または0.05mM未満の場合が含まれるがこれらに限定されない、ステップ、ならびに次いで、(b)細胞をインキュベートして、遊離チオールを含む1つまたは複数のキャップされていないシステイン残基を有するシステイン含有タンパク質を発現させるステップを含むプロセスを含む。このプロセスは、(c)発現されたシステイン含有タンパク質に、所定のキャッピング部分またはその前駆体を導入するステップをさらに含み得、それにより、タンパク質上の1つまたは複数のシステインが、所定のキャッピング部分でキャップされる。
【0016】
プロセス中のシステインおよび/またはその代替的形態を計画的に制限することによって、細胞培養物中の増殖成分が使い尽くされる実施形態もまた、本発明の範囲内である。米国特許第8,232,075号に教示される合理的培地設計および化学量論的アプローチを使用して、特定のピーク細胞密度および産生される産物の量のために必要とされるシステイン/シスチンの必要量は、以下の方程式(方程式1)によって計算され得る。この方程式は、CHO培養物について包括的であり、より具体的な方程式は、所与のプロセスにおけるその細胞株についてのシステイン消費速度を決定することによって、特定の細胞株について生成され得る。
【0017】
方程式1.必要なシステイン濃度
必要なシステイン濃度=[(x*m)+(x*m*k)+(p*n)]*f
x:E6細胞/mLに必要なシステイン濃度(0.09mM)
m:ピーク細胞密度(E6細胞/mL)
k:維持因数(10~15%)
p:1g/Lの抗体に必要なシステイン濃度(0.19mM)
n:最終抗体濃度(1g/L)
f:安全性因数(1.1~1.3)
【0018】
所与のプロセスにおける特定の細胞株についてのシステインの必要量を決定した後、培養物中のシステイン/シスチンを計画的に制限または枯渇させるために、分数システイン制限比方程式を使用して、具体的な制限比(方程式2)を標的化するためにプロセス中に提供されるシステイン/シスチンの量を決定することができる。細胞増殖培地中の分数システイン制限比を約1.0×未満まで制限することによって増殖成分が使い尽くされる実施形態が、本発明の範囲内である。これらの比は、例えば、約0.95×、0.90×、0.85×、0.80×、0.75×、0.70×、0.65×、0.60×、0.55×、0.50×、0.45×、0.40×、0.35×、0.30×、0.25×、0.20×、0.15×、0.10×または0.05×であり得る。
【0019】
方程式2.分数システイン制限比
【0020】
【0021】
当然、本発明のシステイン含有タンパク質は、抗体および融合タンパク質が含まれるがこれらに限定されない広範な種々の部分を含む。これらは、抗EDB抗体、およびトラスツズマブを含む抗HER2抗体であり得る。
【0022】
本明細書に記載されるプロセスでは、所定のキャッピング部分は、5-チオ-2-ニトロ安息香酸(TNB)、2-メルカプトピリジン、ジチオジピリジン(DTDP)、4-チオ安息香酸、2-チオ安息香酸、4-チオベンゼンスルホン酸、2-チオベンゼンスルホン酸、メチルスルホネート(Ms)、p-トルエンスルホネート(Ts)およびトリフルオロメタンスルホネート(Tf)からなる群から選択され得る;ならびに/または所定のキャッピング部分は、アルデヒドハンドルを有するマレイミドトリオキサ-4-ホルミルベンズアミド(MTFB)様分子、またはアジドハンドルを有するマレイミドアジド-リジン様分子、またはアルキンハンドルを有するジベンゾシクロオクチル-ポリエチレンマレイミド(DBCO-PEG4-マレイミド)様分子からなる反応性基から選択される。しばしば、所定のキャッピング部分はTNBであり、しばしば、前駆体はDTNBである。
【0023】
また、本明細書に記載されるプロセスでは、キャップされたタンパク質は、プロセス中の1つまたは複数の異なる点において、単離、精製および濃縮のうち1つまたは複数からなるさらなる処理に供される。したがって、本発明のある特定の実施形態では、細胞の少なくとも50%は、所定のキャッピング部分またはその前駆体の導入前に、発現されたシステイン含有タンパク質から分離される。この分離は、遠心分離または濾過によって達成され得る。
【0024】
本発明は、TNBキャップされた(または他の方法でキャップされた)システイン含有タンパク質をコンジュゲートするための実施形態であって、(a)TNBキャップされたシステイン含有タンパク質を、抗体鎖間硫黄結合を顕著に還元することなしにタンパク質からTNBキャッピング部分を脱離させることが可能な還元剤と反応させるステップ;(b)反応混合物を濾過して、過剰な還元剤、脱離されたTNB、またはその両方を除去するステップ;および(c)酸化剤を導入することなしに、抗体上の1つまたは複数の還元された硫黄結合を、反応性連結部分を介してペイロードにコンジュゲートするステップを含む実施形態をさらに提供する。
【0025】
本発明は、その上、TNBキャップされた(または他の方法でキャップされた)システイン含有タンパク質をコンジュゲートするための実施形態であって、(a)TNBキャップされたシステイン含有タンパク質を、任意選択により塩、例えば、塩化ナトリウムまたは他の塩の存在下(実施例8を参照のこと)で、化学量論的過剰の、抗体鎖間硫黄結合を顕著に還元することなしにタンパク質からTNBキャッピング部分を脱離させることが可能な還元剤と反応させるステップ;(b)反応混合物を濾過して、過剰な還元剤、脱離されたTNBのうち1種または複数を除去するステップ;(c)酸化剤を導入して、過剰な還元剤によって引き起こされる還元された鎖間硫黄結合を修復するステップ;および(d)抗体上の1つまたは複数の還元された硫黄結合を、反応性連結部分を介してペイロードにコンジュゲートするステップを含む実施形態をさらに提供する。化学量論的過剰は、典型的には、約4:1~6:1の還元剤対キャップされたシステイン残基(例えば、4つのキャップされたシステインを有する抗体については、16:1~24:1の還元剤対抗体)、好ましくは約5:1である。このプロセスのステップ(c)は、酸化時間を短縮しプロセス温度変化を回避するために、周囲温度で、例えば、約25セルシウス度で実施され得る。低い温度、例えば約4セルシウス度での実施は、より長い酸化時間を必要とするが、標的酸化時間を超えた場合の収量の喪失に対してそれほど感受性でない。上記プロセスは、(e)ステップ(d)の後に過剰なシステインを添加して、連結部分の反応をクエンチするステップ;および(f)クエンチされたリンカー-ペイロードをコンジュゲートから分離するステップをさらに含み得る。システインクエンチは、クロマトグラフィーまたはダイアフィルトレーションによるリンカー-ペイロードの改善された分離を可能にする。さらに、上記プロセスでは、分離は、ダイアフィルトレーションまたはカラムクロマトグラフィー、典型的には、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって実施され得る。HIC精製を実施するためのイソプロパノール含有緩衝液の使用は、精製されたコンジュゲートの増加した回収を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】完全にキャップされていないシステイン変異体抗体を、通常のCD CHO培地における高い細胞密度の安定なCHO発現によって生成した。トラスツズマブシステイン変異体K290C-K334CまたはK392C-K334Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、3E6細胞/mlまたは6E6細胞/mlの密度でCD CHO培地中に播種し、37セルシウス度で72時間培養した。順化培地を、ProAカラムおよびサイズ排除カラム(SEC)を介して精製した。精製された抗体タンパク質を、実施例1に記載されるように、LC/MS解析に供した。
【
図2-2】DTNBを含むCHO培地における安定なCHO細胞株の高い細胞密度の培養条件。トラスツズマブシステイン変異体K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、実施例1に記載されるように、制御された流加バイオリアクター中で、0.6E6細胞/mLの密度で独占所有権のある基本培地中に播種した。
図2Aは、基本培地、供給培地またはDTNBの培養条件を示す。
図2Bは、生存細胞密度(VCD)および培養物生存度を示す。
【
図3-2】Fc K290C部位において完全にTNBキャップされたシステイン変異体抗体を、DTNBを含むCHO培地における高い細胞密度の安定なCHO発現によって生成した。
図2に記載される培養条件からの順化培地を、ProAカラム/SECを介して精製し、抗体トラスツズマブシステイン変異体K183C-K290Cを、実施例1に記載されるように、IDESで消化し(
図3A)、LC/MS解析に供した。
【
図4】Fab K183C部位において完全にTNBキャップされたシステイン変異体抗体を、DTNBを含むCHO培地における高い細胞密度の安定なCHO発現によって生成した。
図2に記載される培養条件からの順化培地を、ProAカラム/SECを介して精製し、抗体トラスツズマブシステイン変異体K183C-K290Cを、実施例1に記載されるように、IDESで消化し、LC/MS解析に供した。
【
図5-2】DTNBを含むHiPDOGおよび流加プロセスにおける安定なCHO発現の高い細胞密度の培養条件。トラスツズマブシステイン変異体K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、制御されたバイオリアクター中で、2E6細胞/mLまたは0.6E6細胞/mLの密度で独占所有権のある基本培地中に播種した。
図5Aは、基本培地、供給培地またはDTNBの培養条件を示す。
図5Bは、生存細胞密度(VCD)を示す。
【
図6-2】完全にキャップされていないシステイン変異体抗体を、DTNBを含むCHO培地における高い細胞密度の安定なCHO発現によって生成した。
図5に記載される培養条件からの順化培地を、ProAカラム/SECを介して精製し、抗体トラスツズマブシステイン変異体K183C-K290Cを、IDESで消化し、LC/MS解析に供した(
図6A)。
図6Bは、キャッピングデータ概略表を示す。
【
図7】生成されたトラスツズマブシステイン変異体K183C-K290C抗体のTNBキャッピング。キャッピングをLC/MS解析によって決定して、変異したシステイン残基のキャッピング種を示した。システイン変異した抗体を、システイン/シスチンを意図的に枯渇させた独占所有権のある基本および供給培地を使用して、高い細胞密度の培養で生成した。DTNB供給を、産生バッチの間に培養物に添加した。培養物からの順化培地を、LC/MS解析前にProA精製した。産生された主要な種(>95%)は、4つのTNBで完全にキャップされた所望のmAbであった;低いレベルの、4つよりも少ないTNBキャップを有する混合種が存在した。
【
図8】供給培地中に高いおよび低いシステイン/シスチン濃度を用いた条件のシステインプロファイル。濃度を、UPLCが実施したアミノ酸解析によって得た;UPLC解析から得られたシスチン濃度を、化学量論的にシステインに変換した。両方の条件が、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を使用し、独占所有権のある基本および供給培地を含む1Lのベンチスケールバイオリアクター中でそれらを実行した。両方の条件が、供給培地中の異なる濃度のシスチンと共に、基本培地中に類似の出発濃度のシステイン/シスチンを有した。各条件からの順化培地試料を、4日目に開始して解析して、バッチを通じたシステイン/シスチン枯渇の時間経過を得た。
【
図9】高いおよび低い補足的シスチン濃度を用いた条件のシステインプロファイル。濃度を、UPLCが実施したアミノ酸解析によって得た;UPLC解析から得られたシスチン濃度を、化学量論的にシステインに変換した。全ての条件が、システイン変異体抗体抗EDB K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を使用し、独占所有権のある基本および供給培地を含む1Lのベンチスケールバイオリアクター中でそれらを実行した。全ての条件が、播種密度条件に従って、基本培地中に類似の出発濃度のシステイン/シスチンを有した。各条件からの順化培地試料を、0日目に開始して解析して、バッチを通じたシステイン/シスチン枯渇の時間経過を得た。
【
図10】標的分数システイン制限比を用いた条件のシステインプロファイル。濃度を、UPLCが実施したアミノ酸解析によって得た;UPLC解析から得られたシスチン濃度を、システインに変換した。全ての条件が、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を使用し、独占所有権のある基本および供給培地を含む1Lのベンチスケールバイオリアクター中でそれらを実行した。分数システイン制限比を、以前に記載した方程式1および2を使用することによって決定した;条件は全て、所望の分数システイン制限比を標的化するために、そのそれぞれの培地中に異なるレベルのシスチンを有した。各条件からの順化培地試料を、4日目に開始して解析して、バッチを通じたシステイン/シスチン枯渇の時間経過を得た。
【
図11-2】高いおよび低いピーク細胞密度条件の生存細胞密度およびシステイン濃度プロファイル。高いおよび低いピーク細胞密度を、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を用いて達成した。両方の条件を、独占所有権のある基本および供給培地を含む1Lのベンチスケールバイオリアクター中で実行した;異なるピーク密度に到達しそれを維持するために、2つの条件について一部のプロセスパラメーターは異なっていたが、システイン/シスチン濃度は、基本培地では類似であり、供給培地では同一であった。
図11Aは、生存細胞密度を示す。
図11Bは、バッチの間のシステイン濃度を示す。各条件からの順化培地試料を、0日目に開始して解析して、バッチを通じたシステイン/シスチン枯渇の時間経過を得た。アミノ酸解析は、UPLCが実施した;UPLC解析から得られたシスチン濃度を、化学量論的にシステインに変換した。
【
図12】条件培地へのDTNB添加の粗製DAR4結果。システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、独占所有権のある基本および供給培地を使用して1Lのバイオリアクター中で培養した。バイオリアクター中の培養がバッチ持続時間中の特定の時点に達した後、細胞を、遠心分離および0.2μm濾過によって順化培地から分離した。順化培地を別々の容器に移し、2mM DTNBを添加し、種々の長さの時間にわたってインキュベートした。異なるインキュベーション時間の試料を、ProA精製し、TNBコンジュゲーション基本プロセスを使用してコンジュゲートし(実施例5を参照のこと)、完全にTNBキャップされた抗体の代用マーカーとして使用される粗製DAR4百分率を決定した。
【
図13】条件培地へのDTNB添加の粗製DAR4結果。システイン変異体抗体抗EDB K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、独占所有権のある基本および供給培地を使用して1Lのバイオリアクター中で培養した。バイオリアクター中の培養がバッチ持続時間中の特定の時点に達した後、細胞を、遠心分離および0.2μm濾過によって順化培地から分離した。順化培地を別々の容器に移し、2mM DTNBを添加し、種々の長さの時間にわたってインキュベートした。異なるインキュベーション時間の試料を、ProA精製し、TNBコンジュゲーション基本プロセスを使用してコンジュゲートし(実施例5を参照のこと)、完全にTNBキャップされた抗体の代用マーカーとして使用される粗製DAR4百分率を決定した。
【
図14】還元後緩衝液交換の影響。TNBキャップされたトラスツズマブK183C-K290C抗体を、6当量のTSPPで還元し(37℃で3時間)、変動する量のmcvcPABC0101とコンジュゲートした;四角:還元後の緩衝液交換、菱形:緩衝液交換なし。%DAR4を、解析的疎水性相互作用クロマトグラフィーによって測定した。
【
図15】再酸化ステップの影響。20当量のTSPPによる還元、緩衝液交換、および10当量のmcvcPABC0101とのコンジュゲーション後の、解析的疎水性相互作用クロマトグラフィートレース(280nmにおける検出);黒色トレース:再酸化なし、灰色トレース:コンジュゲーション前のデヒドロアスコルビン酸による再酸化。過剰コンジュゲートした種は、還元された鎖間ジスルフィド結合へのコンジュゲーションから生じる。
【
図16】システイン変異体抗EDB抗体K183C-K290Cおよびシステイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cの粗製コンジュゲートの比較。コンジュゲートを、以下の実施例9に記載されるプロトコールに従って生成し、解析的疎水性相互作用クロマトグラフィー(280nmにおける検出)によって解析した。
【
図17】システイン変異体トラスツズマブコンジュゲートの疎水性相互作用クロマトグラフィー精製。粗製コンジュゲートを、実施例9に記載される手順に従って調製し、実施例14に記載されるカラムおよび条件を使用して精製した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
一般的手順
細胞培養法
用語「培養物」および「細胞培養物」とは、本明細書で使用する場合、細胞集団の生存および/または増殖に適切な条件下で培地中に懸濁される細胞集団を指す。当業者に明らかなように、一部の実施形態では、これらの用語は、本明細書で使用する場合、細胞集団、および集団が懸濁される培地を含む組み合わせを指す。一部の実施形態では、細胞培養物の細胞は、哺乳動物細胞を含む。
【0028】
本発明は、所望のプロセス(例えば、組換えタンパク質(例えば、抗体)の産生)に適した任意の細胞培養法と共に使用され得る。非限定的な例として、細胞は、バッチまたは流加培養物中で増殖され得、このとき、培養は、組換えタンパク質(例えば、抗体)の十分な発現後に終結され、その後、発現されたタンパク質(例えば、抗体)が収集される。あるいは、別の非限定的な例として、細胞は、バッチ-再供給(batch-refeed)で増殖され得、このとき培養は終結されず、新たな栄養素および他の成分が周期的または連続的に培養物に添加され、その間、発現された組換えタンパク質(例えば、抗体)が、周期的または連続的に収集される。他の適切な方法(例えば、スピンチューブ培養)が、当該分野で公知であり、本発明を実施するために使用され得る。
【0029】
一部の実施形態では、本発明に適切な細胞培養は、流加培養である。用語「流加培養」とは、本明細書で使用する場合、さらなる成分が培養プロセスの開始に引き続く時点(単数または複数)で培養物に提供される、細胞を培養する方法を指す。かかる提供された成分は、典型的には、培養プロセスの間に枯渇された、細胞のための栄養成分を含む。流加培養は、典型的には、いくつかの時点で停止され、培地中の細胞および/または成分は収集され、任意選択により精製される。一部の実施形態では、流加培養は、供給培地が補充された基本培地を含む。一部の実施形態では、ラクテートは、Gagnonらに開示されたグルコースのハイエンドpH制御送達(high-end pH-controlled delivery of glucose)(HiPDOGプロセス)を使用することによって、低いレベルで維持される。
【0030】
一部の実施形態では、本発明に適切な細胞培養は、灌流プロセスである。用語「灌流」とは、本明細書で使用する場合、細胞が接種基本培地を受ける、細胞を培養する方法を指し、細胞が所望の細胞密度に達した時点で、消費された培地が新鮮な培地によって置き換えられるように細胞灌流が開始される。灌流プロセスは、培養物が高い細胞密度に達するのを可能にし、したがって、大量の産物の産生を可能にする。しかし、灌流プロセスの少なくとも一部の形態は、大量の培地を補給することを必要とし、その結果、産物のいくらかの部分が、単一の収集中に濃縮されるのではなく、大きい体積の消費された培地中に含有されることになる。
【0031】
用語「バイオリアクター」とは、本明細書で使用する場合、原核生物または真核生物細胞培養物(例えば、哺乳動物細胞培養物)の増殖のために使用される任意の容器を指す。バイオリアクターは、細胞(例えば、哺乳動物細胞)の培養に有用である限り、任意のサイズのものであり得る。細胞は、実施者によって選択される任意の簡便な体積で増殖され得る。例えば、細胞は、数ミリリットルから数リットルまでの範囲の体積の小規模反応容器中で増殖され得る。あるいは、細胞は、およそ少なくとも1リットルから、10、50、100、250、500、1000、2500、5000、8000、10000、12000、15000、20000もしくは25000リットルまたはそれよりも多くまでの範囲の体積の、あるいはそれらの間の任意の体積の、市販の大規模バイオリアクター中で増殖され得る。
【0032】
一部の実施形態では、細胞は、実施者の要求および細胞自体の要件に依存して、より多いまたは少ない量の時間にわたって、初期増殖期(または増殖期)の間増殖され得る。一部の実施形態では、細胞は、予め規定された細胞密度に達するのに十分な期間にわたって増殖される。一部の実施形態では、細胞は、乱されずに増殖される場合に細胞が最終的に到達する最大細胞密度の所与の百分率である細胞密度に達するのに十分な期間にわたって増殖される。例えば、細胞は、最大細胞密度の1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95または99パーセントの所望の生存細胞密度に達するのに十分な期間にわたって増殖され得る。一部の実施形態では、細胞は、細胞密度が、1日の培養当たり、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%よりも大きくは増加しないところまで、増殖される。一部の実施形態では、細胞は、細胞密度が、1日の培養当たり5%よりも大きくは増加しないところまで、増殖される。
【0033】
一部の実施形態では、細胞は、規定された期間にわたって増殖される。例えば、細胞培養物の出発濃度、細胞が増殖する温度、および細胞の固有の増殖速度に依存して、細胞は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれよりも多い日数、好ましくは4~10日間にわたって、増殖され得る。一部の場合には、細胞は、1カ月以上にわたって増殖させてもよい。本発明の実施者は、タンパク質産生の要件、および細胞自体の要求に依存して、初期増殖期の持続時間を選択することができる。
【0034】
一部の実施形態では、細胞は、所望の細胞密度または産生力価に到達するまで、引き続く産生期で維持され得る。本発明の別の実施形態では、細胞は、引き続く産生期の間、規定された期間にわたって増殖される。例えば、引き続く増殖期の開始時の細胞培養物の濃度、細胞が増殖する温度、および細胞の固有の増殖速度に依存して、細胞は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれよりも多い日数にわたって増殖され得る。一部の場合には、細胞は、1カ月以上にわたって増殖させてもよい。本発明の実施者は、ポリペプチドまたはタンパク質産生の要件、および細胞自体の要求に依存して、引き続く産生期の持続時間を選択することができる。
【0035】
一部の実施形態では、細胞は、組換えタンパク質を発現し、本発明の細胞培養法は、増殖期および産生期を含む。
【0036】
細胞
細胞培養を受け入れる任意の細胞が、本発明に従って利用され得る。一部の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。本発明に従って使用され得る哺乳動物細胞の非限定的な例には、BALB/cマウス骨髄腫系統(NSO/l、ECACC番号85110503);ヒト網膜芽細胞(PER.C6、CruCell、Leiden、The Netherlands);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1系統(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児由来腎臓系統(懸濁培養での増殖のためにサブクローニングされた293または293細胞、Grahamら、J.Gen Virol.、36:59、1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞+/-DHFR(CHO、UrlaubおよびChasin、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216、1980);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.、23:243~251、1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1 587);ヒト子宮頚癌細胞(HeLa、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);buffaloラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.、383:44~68、1982);MRC 5細胞;FS4細胞;およびヒトヘパトーマ系統(Hep G2)が含まれる。一部の好ましい実施形態では、細胞は、CHO細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞は、グルタミンシンテターゼ(GS)遺伝子発現系を使用する。
【0037】
さらに、いくつもの市販および非市販のハイブリドーマ細胞株が、本発明に従って利用され得る。用語「ハイブリドーマ」とは、本明細書で使用する場合、不死化細胞と抗体産生細胞との融合から生じる細胞または細胞の子孫を指す。かかる得られたハイブリドーマは、抗体を産生する不死化細胞である。ハイブリドーマを生み出すために使用される個々の細胞は、ラット、ブタ、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびヒトが含まれるがこれらに限定されない任意の哺乳動物供給源由来であり得る。一部の実施形態では、ハイブリドーマは、ヒト細胞とマウス骨髄腫細胞株との間の融合の産物であるヘテロハイブリッド骨髄腫融合物の子孫を形質細胞と引き続いて融合させたときに生じる、トリオーマ(trioma)細胞株である。一部の実施形態では、ハイブリドーマは、抗体を産生する任意の不死化ハイブリッド細胞株、例えば、クアドローマなどである(例えば、Milsteinら、Nature、537:3053、1983を参照のこと)。当業者は、ハイブリドーマ細胞株が、異なる栄養要件を有し得、および/または最適な増殖のために異なる培養条件を必要とし得ることを理解し、必要に応じて条件を改変することができる。
【0038】
細胞増殖および生産性
高い細胞密度とは、本明細書で使用する場合、1E6細胞/mL、5E6細胞/mL、10E6細胞/mL、50E6細胞/mL、100E6細胞/mLまたは500E6細胞/mLを上回る、好ましくは10E6細胞/mLを上回る、より好ましくは50E6細胞/mLを上回る、細胞密度を指す。
【0039】
一部の実施形態では、細胞増殖は、生存細胞密度(VCD)、最大生存細胞密度または積分生存細胞計数(IVCC)によって決定される。一部の実施形態では、細胞増殖は、最大生存細胞密度によって決定される。
【0040】
用語「生存細胞密度」とは、本明細書で使用する場合、所与の体積の培地中に存在する細胞の数を指す。生存細胞密度は、当業者に公知の任意の方法によって測定され得る。好ましくは、生存細胞密度は、Bioprofile Flex(登録商標)(Nova Biomedical、Waltham、MA)などの自動細胞カウンターを使用して測定される。用語最大細胞密度とは、本明細書で使用する場合、細胞培養の間に達成される最大細胞密度を指す。用語「細胞生存度」とは、本明細書で使用する場合、所与のセットの培養条件または実験バリエーションの下で培養物中の細胞が生存する能力を指す。当業者は、細胞生存度を決定するための多くの方法の1つが本発明に包含されることを理解する。例えば、生きた細胞の膜は通過しないが、死細胞または瀕死細胞の破壊された膜を通過できる色素(例えば、トリパンブルー)を、細胞生存度を決定するために使用できる。
【0041】
用語「積分生存細胞計数(IVCC)」とは、本明細書で使用する場合、生存細胞密度(VCD)曲線下の面積を指す。IVCCは、以下の式を使用して計算できる:
IVCCt+1=IVCCt+(VCDt+VCDt+1)*(Δt)/2
式中、Δtは、t時点とt+1時点との間の時差である。IVCCt=0は無視できるものとしてよい。VCDtおよびVCDt+1は、t時点およびt+1時点における生存細胞密度である。
【0042】
上記方法の一部の実施形態では、生産性は、力価および/または体積生産性によって決定される。
【0043】
用語「力価」とは、本明細書で使用する場合、例えば、所与の量の培地体積中の細胞培養物によって産生された組換え発現されたタンパク質の総量を指す。力価は、典型的には、培地1リットル当たりのタンパク質のグラム数を単位として表現される。
【0044】
上記方法の一部の実施形態では、生産性は、力価によって決定される。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して、少なくとも5%、10%、15%、20%または25%増加される。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して、少なくとも10%増加される。一部の実施形態では、生産性は、対照培養物と比較して、少なくとも20%増加される。
【0045】
細胞培養培地
用語「培地」、「細胞培養培地」および「培養培地」とは、本明細書で使用する場合、増殖中の哺乳動物細胞に栄養を与える成分または栄養素を含有する溶液を指す。典型的には、栄養素には、最小の増殖および/または生存のために細胞によって必要とされる、必須および非必須アミノ酸、ビタミン、エネルギー源、脂質ならびに微量元素が含まれる。かかる溶液は、ホルモンおよび/もしくは他の増殖因子、特定のイオン(例えば、ナトリウム、塩化物イオン、カルシウム、マグネシウムおよびリン酸イオン)、緩衝液、ビタミン、ヌクレオシドもしくはヌクレオチド、微量元素(通常は非常に低い最終濃度で存在する無機化合物)、高い最終濃度で存在する無機化合物(例えば、鉄)、アミノ酸、脂質ならびに/またはグルコースもしくは他のエネルギー源が含まれるがこれらに限定されない、最小の速度を上回って増殖および/または生存を増強する、さらなる栄養素または補足成分もまた含有し得る。一部の実施形態では、培地は、有利には、細胞の生存および増殖に最適なpHおよび塩濃度に処方される。一部の実施形態では、培地は、細胞培養の開始後に添加される供給培地である。
【0046】
アミノ酸濃度を測定するための方法
アミノ酸の濃度は、当業者に公知の任意の方法によって測定され得る。オンラインまたはオフラインの方法でアミノ酸の濃度を測定するための好ましい方法には、例えば、液体クロマトグラフィー、例えば、HPLC、UPLCもしくはLCMS、NMRまたはGCMSが含まれる。
【0047】
一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、細胞培養培地の試料を採取し、前記試料中の前記少なくとも1種のアミノ酸の濃度を測定することによって、オフラインで測定される。一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、実施例3.1、3.2および3.3に開示されるように測定される。オフライン方法でアミノ酸の濃度を測定するための好ましい方法は、UPLCである。
【0048】
一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、オンラインで測定される。一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、ラマン分光法を使用して、オンラインで測定される。一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、ラマン分光法を使用して、オンラインで測定される。一部の実施形態では、アミノ酸の濃度は、試料をリアクターから引き出し、プログラムされた様式でそれを装置に移すオートサンプラーを用いて、HPLCまたはUPLCベースのテクノロジーを使用して、オンラインで測定される。
【0049】
WO2015/140708に記載されるようなさらなる手順もまた、本発明において使用され得、参照によって本明細書に取り込まれる。
【0050】
薬物対抗体比を測定するための方法
薬物対抗体比(DAR)は、当業者に公知の任意の方法によって測定され得る。DARを測定するための好ましい方法には、例えば、液体クロマトグラフィー、例えば、HPLC、UPLCまたはLCMS、質量分析、およびNMRが含まれる。
【0051】
一部の実施形態では、DARは、コンジュゲーション混合物、クロマトグラフィー画分またはさらに精製された材料の試料を採取し、前記試料中の前記の濃度を測定することによって測定される。DARを測定するための好ましい方法は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC HPLC)および逆相HPLCである。
【0052】
さらなる定義
上で提供される定義に加えて、以下のさらなる定義が提供される:
【0053】
CHOは、提供された実施例において開示されるように、治療的タンパク質の産生のために使用される、チャイニーズハムスターの卵巣に由来するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞として、本明細書に記載される。CHO-K1は、Lonzaから市販されているグルタミンシンターゼ(GS)発現系から構成される親CHO細胞株からサブクローニングされた祖先宿主細胞株として、本明細書に記載される。
【0054】
HiPDOGとは、本明細書で使用する場合、「グルコースのハイエンドpH制御送達」(HiPDOG)を指し、これは、細胞培養物中のラクテート蓄積を抑制するためにpHを上昇させることによってもたらされる、濃縮グルコース溶液を送達する栄養素供給法である。
【0055】
用語mAbとは、本明細書で使用する場合、モノクローナル抗体を指す。
【0056】
用語DAR4とは、本明細書で使用する場合、4:1の薬物対抗体比を指し、4つの薬物ペイロードが1つのタンパク質に連結されている(例えば、1つのかかる例を示す以下の図を参照のこと。図中、「R」は、ペイロードを示す)。用語粗製DAR4は、コンジュゲーションプロセスの後であるが最終精製ステップの前の薬物対抗体比を記述する。
【0057】
【0058】
用語UF/DFとは、本明細書で使用する場合、限外濾過/ダイアフィルトレーションを指す。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、本発明の重要な特色を示す。
【0060】
(実施例1)
通常のCD CHO培地における高い細胞密度の安定なCHO発現による、完全にキャップされていないシステイン変異体抗体の生成
システイン変異体抗体トラスツズマブK290C-K334CまたはK392C-K334Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、3E6細胞/mLまたは6E6細胞/mLの密度で通常のCD CHO培地(Thermo Fisher、Waltham、MA)中に播種し、増殖させ、5%CO2を有する加湿インキュベーター中で37セルシウス度に維持した。1つの条件では、5mMのシスチンを、CD CHO培地に添加した。細胞を、37セルシウス度で72時間培養した。細胞生存度を測定し、順化培地を収集した。細胞は、98%よりも高くが生存していた。
【0061】
抗体タンパク質を、以下のように、ProAおよびサイズ排除カラムを介して精製した。順化培地を、0.2μmフィルターで濾過し、50mMトリス、150mM NaCl、pH7.5(TBS)で予め平衡化したプロテインA樹脂(GE Healthcare、Piscataway、NJ)を通過させた。カラムを、2カラム体積(CV)のTBS、5CVのCaCl2、pH7.5、3CVの10mMトリス、10mM NaCl、pH7.5で洗浄し、その後、タンパク質を、150mMグリシン、40mM NaCl、pH3.5の100%ステップを使用して溶出させた。タンパク質を、2M HEPES、pH8.0を使用してpHを7.0に調整し、タンパク質を、PBS(137mM NaCl、2.7mM KCl、8.1mM Na2HPO4、2.7mM KH2PO4、pH7.2で平衡化したSuperdex 200カラム上にロードした。ピーク画分をプールし、50kDa MWCO遠心分離デバイスを使用して10mg/mLに濃縮した。
【0062】
タンパク質試料を、以下のように、Cysキャッピング状態測定のために質量分析によって解析した。液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)解析を、Agilent(Santa Clara、CA)1200キャピラリーHPLCに連結されたWaters Xevo Q-TOF G2質量分析器(Waters、Milford、MA)を使用して実施した。タンパク質試料を、IdeSプロテアーゼ(Promega、Madison、WI)で室温で2時間処理した。タンパク質試料を、0.05%TFA(Sigma-Aldrich、St Louis、MO)で1:1希釈することによって酸性化し、その後液体クロマトグラフィー質量分析解析を行った。試料を、65μl/分の流速で、80℃に維持したWaters BEH300 C4、1.7μm(1.0×50mm)カラムで分離した。移動相Aは、0.05%TFAを含む水であり、移動相Bは、0.05%TFAを含むアセトニトリルであった。タンパク質を、以下の勾配を使用してカラムから溶出させた:0.5分で2%~20%のB、6分で20%~40%のB、および4分で40%~100%のB。質量分析器を、800~3500m/zにわたるポジティブMSのみのモードで実行し、データを、MassLynx(Waters)4.1ソフトウェアを用いて獲得した。抗体に対応するTOF-MSシグナルを要約し、MaxEnt1(Waters)プログラムを使用してデコンボリューションした。システインおよびグルタチオンキャップされた種を、質量シフトによって決定した(Cys:119.004Da、GSH:305.068Da)。
【0063】
図1に示されるように、CD CHO培地について、システイン変異体抗体は、5mMのシスチンを培地に添加した場合、完全にシステイン化された(cysteinylated)。通常のCD CHO培地では、CHO細胞は、3E6細胞/mLの細胞密度で、かなりのキャップされていないシステイン変異体タンパク質を産生した。CHO細胞を6E6細胞/mLに増加させた場合、完全にキャップされていないシステイン変異体抗体が生成され、これは、培地中のほとんどのシスチンが細胞増殖に使用されたことを示唆している。細胞密度の増加は、シスチンの培地を枯渇させ得、結果的に、対になっていない表面システインのキャッピング状態に影響を与え得る。
【0064】
(実施例2)
通常のCHO培地における高い細胞密度の安定なCHOによる、完全にTNBキャップされたシステイン変異体抗体の生成
実施例1に示されるように、高い密度での細胞増殖は、培地中の顕著な量のシステインまたはシスチンを消費し得る。結果的に、完全にキャップされていないシステイン変異体抗体が生成された。実施例1に基づくと、これは、異なる時点において種々の濃度のDTNBを細胞培養物に添加することによって、完全にTNBキャップされたシステイン変異体抗体の大量の生成を可能にした。DTNBは、キャップされていない変異体抗体上の遊離チオールを効率的にアルキル化し、TNBキャップされた抗体の生成を生じた。
【0065】
したがって、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO細胞株を、1Lの初期作業体積を有する制御されたバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中に播種した。示されるように、8つの条件を実行し、
図2Aに示されるように、基本培地中の異なる濃度のシステインおよび/またはシスチンを評価した。流加培養プロセスを、0.6E6細胞/mLで播種し、培養体積に基づいて固定された百分率の栄養素供給で制御し、3日目に開始して投与した;TNBキャップされた抗体を産生する条件は、システインおよびシスチンの両方を含まない供給培地を使用した。7日目に、1mM DTNBを培養物に添加し、細胞培養を、さらに5日間継続した。
【0066】
図2Bに示されるように、細胞の倍加および生存度は、試験した全ての条件下で正常であった。
【0067】
抗体タンパク質を精製したとき、それらをCysキャッピング解析に供した。
図3Aに示されるように、抗体をIdesプロテアーゼによって消化して、Fc断片およびFab2断片を生成した。混合物を、実施例1に上記されたように、LC/MSによって解析した。
図3Bに示されるように、あまり溶媒曝露されなかったFcに位置するK290C部位について、全てのTNB添加条件(実行2~8)は、>95%のTNBキャップされた材料を産生した。
図4に示されるように、より溶媒曝露された軽鎖に位置するFab K183C部位について、TNB添加条件(実行5~8)はまた、TNBキャップされた材料を優勢に生成した。
【0068】
TNBキャッピング効率をさらに改善するために、より高い細胞密度を用いた培養条件を試験した。より良いラクテート制御のためのグルコース制御されたHiPDOGプロセスを利用した(Gagnonら、Biotechnol Bioeng 2011)。播種密度およびシステイン/シスチン培地濃度を用いた実験条件は、
図5Aに示される。ラクテート制御されたHiPDOGプロセス(実行3)は、対応する流加条件(実行7)よりも、顕著に高いピーク細胞密度を生じた(
図5B)。
【0069】
抗体を、順化培地から精製し、LC/MSによるCysキャッピング解析に供した。
図6に示されるように、Fab K183C部位は、条件実行3~7について95%よりも高いTNBキャッピングを達成したが、Fc K290C部位は、条件実行3~7についておよそ98%のTNBキャッピングを達成した。
【0070】
(実施例3)
制限されたシステイン/シスチン曝露を標的化するプロセスにおける、完全にTNBキャップされたシステイン変異体抗体の生成
以下の実施例では、システイン変異体抗体についてのキャッピング効率の読み出しは、最終精製の前の抗体へのリンカー-ペイロードのコンジュゲーション後に得られる粗製DAR4(薬物対抗体比)百分率によって示される。粗製DAR4値は、これらの実施例において、キャッピング効率の代用マーカーとして使用されている;しかし、抗体上の各変異したシステイン残基のキャッピング状態を決定することは、コンジュゲーションプロセスの前に長期LC/MS解析(実施例1に記載される)によって決定され得る。LC/MS解析の一例は、
図7に見出すことができ、図中、抗体1つ当たりの異なるキャッピング種が特定および定量化されている。この解析に使用した試料は、TNBキャップされた抗体を産生するためのDTNB供給を伴う、低いシステイン/シスチンプロセスであった。所望の標的種は、抗体1つ当たり4つのTNBであり、これは、低レベルの還元不能なキャップおよびいくらかのサブ-4抗体種を伴って、この特定の実施例のLC/MS結果において>95%を占める。
【0071】
(実施例3.1)
供給培地中に処方された濃度を減少させることによって、培養物中のシステイン/シスチンを計画的に制限する
アプローチ1:この実施例は、補足的供給培地中に処方されたいずれかの成分の量を減少させることによって、培養物中のシステインおよび/またはシスチン濃度を意図的に制限することを示す。この実施例で使用した2つの条件は、基本培地中に類似の出発濃度のシステインおよび/またはシスチンを有した;しかし、1つの条件は、栄養素供給培地中にシステイン成分もシスチン成分も有さず、第2の条件は、シスチンのみを含有する供給培地を使用した(表1);全ての他のプロセスパラメーターは、これら2つの条件について同一であった。標準的な哺乳動物細胞培養プロセスは、細胞培養培地中でのこれらの成分の溶解度の課題に起因して、さらなる補足的供給中にシステインおよび/またはシスチンを取り込む。
【0072】
この実施例について、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、蠕動ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、独占所有権のある基本および供給培地と共に使用した。培養物をおよそ2E6細胞/mLで播種し、温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO2のいずれかの添加によって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。抗体のTNBキャッピングのために、DTNB供給を、増殖期後に開始して、バイオリアクター中4mMのDTNB濃度の範囲を標的化した。以下に提供される実施例についてのバッチ持続時間は、およそ12日間であった。
【0073】
標準化された粗製DAR4値により、供給培地からのシスチンの除去が、培養物中の利用可能なシステイン/シスチンを枯渇させる首尾よい方法であることが証明され、これにより、細胞増殖に対しても生産性に対しても有害な影響なしに、TNBによる抗体のより良いキャッピングおよびより高い百分率のDAR4抗体-薬物コンジュゲートが可能になった。
【0074】
【0075】
Acquity UPLC(Waters Corp、Milford、MA)を、追跡実験からの条件のアミノ酸解析に使用し、この実験では、対照条件に、7、9および11日目に0.5mMのシスチンを添加して、以前に記載された合理的培地設計に従うバッチ中のいずれの点におけるシスチン制限も回避した(表2);TNBキャッピングのために使用したDTNB標的濃度は、5mMであった。全ての他のプロセスパラメーターは、表1に以前に記載した実験と同一であった。
【0076】
【0077】
これらの結果は、供給培地からシステイン/シスチンを除去することが、この特定の実施例について6~7日目の間に培養物中のシステイン/シスチン濃度の枯渇を生じるということを、明らかに実証している;UPLC解析から得られたシスチン濃度を、化学量論的にシステインに変換し、
図8にグラフで示した。
【0078】
この特定の実施例のバッチ持続時間は、5日目の終わりまでのみであり、過剰なシステイン/シスチンは、実行4の培養物において利用可能であり、抗体の最適未満のTNBキャッピングをもたらすことが理解される。この例では、バッチ持続時間を8日目またはそれよりも後まで延長させることは、最適なTNBキャッピングに適切な環境をもたらす、過剰なシステイン/シスチンを枯渇させるための有効な方法であった。
【0079】
さらに、灌流などの培地交換戦略を、プロセスにおいて後に、実行4の培養物からシステイン/シスチンを枯渇させるために、実行することができることが理解される。より高いレベルのシステイン/シスチンを含む供給培地は、バッチの増殖期の間およびピーク生存細胞密度が達成された後に使用され得、培地交換は、
図8に匹敵するシステイン/シスチン枯渇の非常に類似のプロファイルを模倣するために、低いレベルのシステイン/シスチンを含有する培地を用いて行うことができる。
【0080】
アプローチ2:この実施例は、補足的供給培地中に処方されたいずれかの成分の量を減少させることによって、培養物中のシステインおよび/またはシスチン濃度を意図的に制限するが、第2の抗体産生細胞株を用いる、アプローチ1に示された同じ戦略を示す。この実施例で使用した条件は、高いまたは低い播種条件にグループ分けされ、基本培地中に類似の出発濃度のシステインおよび/またはシスチンを有した。高いまたは低い播種密度のいずれかの1つの条件は、基本培地中の出発濃度のほかには、システインまたはシスチンの補充を有さなかったが、残りの条件は、別々の補足的シスチン供給を有した(表3);全ての条件は、システインまたはシスチンなしの栄養素供給を有した。全ての他のプロセスパラメーターは、その播種条件に従って、2つの条件について同一であった(例えば、より高い播種密度条件は、より高い補足的栄養素供給速度を必要とした)。
【0081】
この実施例について、抗EDBについてのシステイン変異体抗体K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、蠕動ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、独占所有権のある基本および供給培地と共に使用した。培養物をおよそ0.6E6細胞/mLまたは3E6細胞/mLで播種し、温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO2のいずれかの添加によって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。抗体のTNBキャッピングのために、DTNB供給を、増殖期後に開始して、バイオリアクター中4mMのDTNB濃度の範囲を標的化した。以下に提供される実施例についてのバッチ持続時間は、およそ12日間であった。
【0082】
第2の細胞株の評価は、任意の補足的供給からのシステインおよび/またはシスチンの除去が、培養物中の利用可能なシステイン/シスチンを枯渇させるロバストな戦略であり、それが次いで、TNBによる抗体のより良いキャッピングを可能にすることを実証している。この戦略は、細胞増殖に対しても生産性に対しても有害な影響なしに、より高い百分率の粗製DAR4抗体-薬物コンジュゲートを最終的にもたらす(表3)。
【0083】
【0084】
Acquity UPLC(Waters Corp、Milford、MA)を、アプローチ2(表4)の条件のアミノ酸解析に使用した。UPLC解析から得た全てのシスチン濃度を、システインに変換し、
図9に示した。これらの結果は、システイン/シスチンの補充を除去することが、早くも7日目に培養物中の濃度の枯渇を生じ(
図9)、粗製DAR4値によって示されるように、最適なTNBキャッピングに適切な環境をもたらすことを明確に示している。
【0085】
【0086】
(実施例3.2)
化学量論的アプローチおよび標的化された分数システイン制限比を使用して、培養物中のシステイン/シスチンを制限する:以前に記載された合理的培地設計および化学量論的アプローチを使用して、特定のピーク細胞密度および産生される産物の量のために必要とされるシステイン/シスチンの必要量を計算でき、その特定のプロセスに最適な培地を設計するためにそれを使用できる(方程式1)。この実施例では、システイン/シスチンの必要量を、プロセスの推定ピーク生存細胞密度および収集力価を使用して、合理的培地設計に基づいて計算した。システイン/シスチンの計算された必要量を(例えば、米国特許第8,232,075号で教示される比と比較して)下回る異なる分数システイン制限比の範囲を評価して、許容可能なピーク生存細胞密度および収集力価になおも達しつつ、抗体のTNBキャッピングを促進するために、システイン/シスチンを制限または枯渇させる理想的な標的比を見出した(方程式2を参照のこと)。
【0087】
全ての必要とされるシステイン/シスチン濃度を、標的分数システイン制限比に基づいて計算し、基本培地のみに添加した。
【0088】
システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、蠕動ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、独占所有権のある基本および供給培地と共に使用した。培養物をおよそ2E6細胞/mLで播種し、温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO2のいずれかの添加によって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。抗体のTNBキャッピングのために、DTNB供給を、増殖期後に開始して、バイオリアクター中4mMのDTNB濃度の範囲を標的化した。以下に提供される実施例についてのバッチ持続時間は、およそ12日間であった。基本培地中のシステイン/シスチン濃度は別にして、全てのプロセスパラメーターは、評価した条件の全てについて同一であった。
【0089】
表5は、分数システイン制限比が増加するにつれて、粗製DAR4百分率(したがって、抗体のキャッピング)が減少することを明らかに示している;これは、より低い分数システイン制限比が、抗体のキャッピングに最も最適であることを示しており、この実施例では、0.63×および0.76×の比が、許容可能なピーク生存細胞密度、収集力価および類似のキャッピング結果を提供した(表5)。収集力価および粗製DAR4値は、標準化されている。
【0090】
【0091】
Acquity UPLC(Waters Corp、Milford、MA)を、表5に記載されるものと類似の条件のアミノ酸解析に使用した。UPLC解析から得た全てのシスチン濃度を、化学量論的にシステインに変換した。これらの結果は、より低い分数システイン制限比が、1.15×条件と比較して、培養物中のシステイン/シスチンのレベルをより早期に枯渇させることを明らかに示しており、標的分数システイン制限比を使用することが、一貫した予測可能な低いレベルのCysキャッピングおよび高いTNBキャッピング効率をもたらし得ることを示している(
図10)。
【0092】
(実施例3.3)
ピーク細胞密度を増加させることによって、培養物中のシステイン/シスチンを制限する:実施例3.1で2つの細胞株によって以前に実証されたように、バッチの間に、システイン/シスチンが低い濃度に制限される場合または完全に枯渇される場合、TNBキャッピング効率は増加する。培養物中のシステイン/シスチン濃度のレベルを意図的に減少または枯渇させる第2の例は、ピーク生存細胞密度を使用することによって実施され得る。所与の培養物中の生存細胞密度が増加するにつれて、アミノ酸の消費およびアミノ酸に対する需要も、典型的には同様に増加する(米国特許第8,232,075号)。この実施例では、異なるピーク生存細胞密度が達成された2つの別々の条件を評価した。
【0093】
システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、蠕動ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、独占所有権のある基本および供給培地と共に使用した。条件を、およそ0.6E6または2E6細胞/mLで播種し、温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO2のいずれかの添加によって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。以下に提供される実施例についてのバッチ持続時間は、およそ12日間であった;1つの条件は、低い生存度に起因して、早期に収集した。2つの条件について、一部のプロセスパラメーター、例えば、栄養素供給速度は、異なるピーク細胞密度に到達しそれを持続するために異なっていた。しかし、基本培地中のシステインおよびシスチン濃度は類似であり、供給培地のシスチン濃度は同じであった(表6)。
【0094】
【0095】
Acquity UPLC(Waters Corp、Milford、MA)を、表6に記載される条件のアミノ酸解析に使用した。UPLC解析から得た全てのシスチン濃度を、システインに変換した。これらの条件のアミノ酸解析は、より高いピーク生存細胞密度を用いた条件が、収集まで残存濃度のシステイン/シスチンを維持したより低いピーク生存細胞密度を用いた条件と比較して、バッチ中のシステイン/シスチンのより早期の枯渇に成功したことを示した(
図11B)。粗製DAR4は、これらの試料については解析せず、アミノ酸解析データに基づいた;システイン/シスチンは、高い播種条件についてはより早期に枯渇された。このデータから、効率的なTNBキャッピングに最適な低いシステイン/シスチン環境が、より高いピーク生存細胞密度によって誘導されたことが推測できる。これは、より高い細胞密度に培養物が到達するように促進できる育成条件が、抗体のTNBキャッピングのための所望の環境を促進するために、細胞培養物中のシステイン/シスチンを低いまたは枯渇したレベルで維持する、有効な代替的方法であり得ることを実証している。
【0096】
(実施例4)
細胞の非存在下でのTNBキャップされたCys変異体抗体の生成。所望の抗体薬物コンジュゲートを生成するためのコンジュゲーションステップにおいて引き続いて使用され得るような形態での抗体または融合タンパク質の生成は、慣用的には、製造細胞株の開発の一部として達成される、および/または製造プロセスの上流/細胞培養プロセス部分の一部として達成される。TNBキャップされた抗体の生成の場合、これまでに記載されたアプローチは、以前に記載された細胞培養プロセスの種々のさらなる改変(例えば、システイン/シスチン供給濃度の調整、バッチ長さの改変であるがこれらに限定されない)と共にまたはそれなしで、細胞培養プロセスの一部としてDTNB供給を含めることを介したものであった。これは、所望のキャップされた抗体の産生を可能にするが、これらのアプローチは、製造プロセスの細胞培養物部分に依存し、製造設備の全体的生産性を低減させ得る。したがって、TNBキャップされた抗体の処理量は、設備、特に、細胞培養に使用される産生バイオリアクターまたは発酵槽の最適未満の利用に起因して制限される。
【0097】
この実施例では、システイン変異体組換えタンパク質、例えば、システイン変異体抗体、システイン変異体融合タンパク質などが、細胞培養/発酵技術を介して産生される。次いで、タンパク質含有順化培地が、遠心分離、精密濾過または他の適切な細胞分離技術によって、細胞から分離され得る。細胞分離は、完全でも部分的でもよい。次のステップは、TNBキャップされたタンパク質を生成するための、DTNBとの、変異体cys組換えタンパク質の曝露/インキュベーションである。a)システイン変異体組換えタンパク質を生成するステップとb)システイン変異体組換えタンパク質のキャッピングのステップとを分離することによって、製造プロセスおよび設備は、プロセスのキャッピング部分における細胞培養バイオリアクター/発酵槽の利用を回避し、したがって、バイオリアクター/発酵槽に必要なサイクル時間を最小化することによって、生産性を最大化するために最適化され得る。したがって、バイオリアクター/発酵槽のサイクル時間を最小化することは、(期間当たりに実施されるより多い数のサイクルを介して)より高い処理量を可能にする。
【0098】
アプローチ1:この実施例について、システイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞を、蠕動ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、基本および供給培地と共に使用した。細胞培養物温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO
2のいずれかの添加によって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。細胞培養物の培養後、タンパク質含有順化培地を、遠心分離および0.2um濾過を介して分離した。次いで、順化培地を別々の容器に移した。この容器に、特定の濃度のDTNBを、タンパク質含有順化培地に直接添加した。所望の材料を生成する手順のロバストさを実証するために、種々の期間にわたって反応を生じさせた。
図12(トラスツズマブK183C-K290C)で見られるように、所望の産物が、様々なインキュベーション期間を使用して生成され、より長い時間は、改善された成績をもたらした。
【0099】
アプローチ2:この実施例について、システイン変異体抗体抗EDB K183C-K290Cを安定に発現するCHO-K1細胞の第2の細胞株を、ポンプおよびガスマスフローコントローラーモジュールを備えたBioNetモジュラーコントローラー(Broadley-James Corp.、Irvine、CA)により動作する1LのApplikonバイオリアクター(Applikon,Inc.、Schiedam、Netherlands)中で、基本および供給培地と共に使用した。細胞培養物温度をおよそ37セルシウス度で維持しつつ、pHを、炭酸ナトリウム/カリウム溶液またはCO
2のいずれかによって、7.0近傍で制御した。溶存酸素レベルを、純粋酸素のスパージングによって、>20%の空気飽和度に制御した。細胞培養物の培養後、タンパク質含有順化培地を、遠心分離および0.2um濾過を介して分離した。次いで、順化培地を別々の容器に移した。この容器に、特定の濃度のDTNBを、タンパク質含有順化培地に直接添加した。所望の材料を生成する手順のロバストさを実証するために、種々の期間にわたって反応を生じさせた。
図13(抗EDB K183C-K290C)で見られるように、所望の産物が、様々なインキュベーション期間を使用して生成され、より長い時間は、改善された成績をもたらし、このことは、2つの異なる抗体発現細胞株において同じ傾向が観察されたことを実証している。
【0100】
(実施例5)
TNBコンジュゲーションプロセス。TNBでキャップされたシステイン変異体抗体を、TSPPで選択的に還元する。生成された遊離チオール基は、限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)および再酸化ステップなしの直接的薬物コンジュゲーションを可能にし、プロセスを単純化する。抗体1つ当たり4つのキャッピング(DAR4)の形態の、TNBで完全にキャップされたシステイン変異体抗体トラスツズマブK183C-K290Cが生成され、TSPP処理後に、70%の効率で直接コンジュゲートされた。
【0101】
さらなる例として、TNBキャッピングおよびコンジュゲーション(K183C-K290Cにおける)を、本明細書でさらに議論する。システイン変異体コンジュゲーションのためのTNBキャップコンジュゲーションプロトコールは、粗製コンジュゲートをもたらす2つのステップ:選択的還元およびコンジュゲーションからなる。第1のステップでは、変異体システインの選択的還元を、鎖間ジスルフィドの最小限の還元を伴うまたは還元を伴わない、変異体システイン残基からの保護基(複数可)の除去を達成するために行う。典型的には、これは、過剰量(約7当量)の、トリス(3-スルホナトフェニル)ホスフィン(TSPP)などの還元剤を使用して、周囲温度で2時間実施する。第2のステップでは、保護されていない変異体システインを、リンカー-ペイロードにコンジュゲートする。典型的には、過剰量(約12当量)のリンカー-ペイロードを反応に添加し、反応を、周囲温度で1時間実施して、粗製コンジュゲートを産生する。最終コンジュゲートは、ネイティブの鎖間ジスルフィド結合を維持するが、それは、これらが、還元ステップの間に破損されなかったからである。
【0102】
特定の場合には、1.0g(6.9μmol;60mMヒスチジン、pH7中25mg/mL;38.9mL)のトラスツズマブK183C-K290C抗体に、27.5mgのTSPP(7当量;48.3μmol;水中10mM;4.83mL)を添加した。反応混合物を、周囲温度で2時間インキュベートした。この反応混合物に、111mgのmcvcPABC0101リンカー-ペイロード(12当量、82.7μmol;ジメチルスルホキシド中25mM;3.31mL)を添加した。反応混合物を周囲温度で1時間インキュベートして、粗製コンジュゲートを得た。
【0103】
(実施例6)
還元後ダイアフィルトレーションを用いるTNBコンジュゲーションプロセス。実施例5に記載されるプロセスにおいて使用される過剰量のリンカー-ペイロードは、TSPP還元後に、リンカー-ペイロードと反応する種を除去するためのダイアフィルトレーション(緩衝液交換)ステップを追加することによって低減させることができる。
図14に示されるように、70%のDAR4が、緩衝液交換後に6当量のリンカーペイロードを用いて達成されるが、緩衝液交換が実施されない場合、有意により高い当量が必要とされる。また、TSPPの量は、還元温度および/または時間を増加させることによって、わずかに低減され得る。
【0104】
特定の場合には、4.0g(27.6μmol;60mMヒスチジン、pH7中25mg/mL;156mL)のトラスツズマブK183C-K290C抗体に、93.8mgのTSPP(6当量;165μmol;水中10mM;16.5mL)を添加した。反応混合物を37℃で3時間インキュベートし、次いで、ダイアフィルトレーション(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリューム(diavolume)の60mMヒスチジン、pH7)によって緩衝液交換した。ダイアフィルトレーション後、222mgのmcvcPABC0101リンカー-ペイロード(6等量、165μmol;ジメチルスルホキシド中25mM;6.62mL)を添加した。反応混合物を25℃で1時間インキュベートして、粗製コンジュゲートを得た。
【0105】
(実施例7)
増加したTSPP化学量論、還元後ダイアフィルトレーションおよび再酸化を用いる、TNBコンジュゲーションプロセス。実施例6に記載されるプロセスによって産生される凝集物の量は、TSPP化学量論を増加させることによって低減させることができる。増加したTSPP化学量論は、変異したシステインからTNBをより迅速に除去し、抗体間でのジスルフィド結合の形成を防止する。しかし、増加したTSPP化学量論は、鎖間ジスルフィド結合のごく一部の還元もまた生じる。塩化ナトリウムおよび他の塩の存在(実施例8を参照のこと)は、より高いTSPP化学量論における鎖間ジスルフィド還元の程度を減少させる。ダイアフィルトレーション後の再酸化ステップの追加は、還元された鎖間ジスルフィド結合の一部を修復する。
図15に示されるように、20当量のTSPPによる還元および緩衝液交換の後のコンジュゲーションは、再酸化ステップなしの場合、鎖間ジスルフィド結合還元に起因する低いレベルの過剰コンジュゲートした種を生じる。再酸化をプロセスに追加すると、過剰コンジュゲートした種は形成されない。
【0106】
特定の場合には、24.7g(0.170mmol;60mMヒスチジン中26mg/mL、150mM NaCl、pH7;961mL)のトラスツズマブK183C-K290C抗体に、1.94gのTSPP(20当量;3.41mmol;水中100mM;34.1mL)を添加した。反応混合物を、37℃で3時間撹拌し、次いで、ダイアフィルトレーション(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの60mMヒスチジン、150mM NaCl、pH7)によって緩衝液交換した。ダイアフィルトレーション後、混合物を4℃に冷却し、0.45gのデヒドロアスコルビン酸(15当量;2.56mmol;1:1のDMSO/水中50mM;51.2mL)を添加し、混合物を4℃で16時間撹拌した、混合物を25℃に加熱し、1.37gのmcvcPABC0101リンカー-ペイロード(6等量、1.02mmol;ジメチルスルホキシド中25mM;40.9mL)を添加し、混合物を25℃で1.5時間撹拌して、粗製コンジュゲートを得た。
【0107】
(実施例8)
増加したTSPP化学量論、還元後ダイアフィルトレーション、再酸化およびリンカー-ペイロードクエンチを用いる、TNBコンジュゲーションプロセス。還元混合物中の、実施例7中の塩化ナトリウムなどの塩の存在は、より高いTSPP化学量論において鎖間ジスルフィド還元の程度を減少させる。
【0108】
さらなる例として、再酸化が実施されない場合に形成される過剰コンジュゲートした種の、
図15からの測定を使用すると、鎖間ジスルフィド還元は、塩が存在しなかった場合の約33%から、150~500mMの塩の存在下での10~20%まで減少した。塩、例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸水素カリウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化グアニジニウムおよび硫酸アンモニウムは、鎖間ジスルフィド還元を減少させた。
【0109】
特定の場合には、鎖間ジスルフィド還元は、塩が添加されなかった場合の33%から、それぞれ150mM、250mMおよび500mMの塩化ナトリウムの存在下での15%、14%および12%まで減少した。
【0110】
(実施例9)
増加したTSPP化学量論、還元後ダイアフィルトレーション、再酸化およびリンカー-ペイロードクエンチを用いる、TNBコンジュゲーションプロセス。この実施例は、実施例7と類似であるが、以下を特徴とする:(1)再酸化時間を顕著に低減させ、ダイアフィルトレーション後の時間のかかる冷却およびコンジュゲーション前の加熱を排除する、25℃における再酸化実行、および(2)特定の条件下での下流の精製を改善する、システインとの反応によるリンカー-ペイロードのクエンチ(以下の実施例14を参照のこと)。
【0111】
特定の場合には、80.0g(0.541mmol;60mMヒスチジン中26mg/mL、150mM NaCl、pH7;3053mL)のトラスツズマブK183C-K290C抗体に、6.14gのTSPP(20当量;10.8mmol;水中100mM;108mL)を添加した。反応混合物を、37℃で3時間撹拌し、次いで、ダイアフィルトレーション(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの60mMヒスチジン、150mM NaCl、pH7)によって緩衝液交換した。ダイアフィルトレーション後、0.19gのデヒドロアスコルビン酸(2当量;1.08mmol;1:1のDMSO/水中50mM;21.6mL)を添加し、混合物を25℃で0.5時間撹拌した。次いで、4.35gのmcvcPABC0101リンカー-ペイロード(6等量、3.24mmol;ジメチルスルホキシド中25mM;130mL)を添加し、混合物を25℃で1時間撹拌した。最後に、0.79gのシステイン(12等量、6.48mmol;水中100mM;64.9mL)を添加し、混合物を25℃で1時間撹拌して、粗製コンジュゲートを得た。
【0112】
(実施例10)
TNBコンジュゲーションプロセス-再酸化による抗体断片修復。実施例7および9のような再酸化ステップの追加は、入ってくる抗体中に存在する断片を修復し、そうして、最終コンジュゲートの質および収量を改善した。断片は、鎖間ジスルフィド結合のうち1つまたは複数が完全なままではない抗体に起源する。したがって、実施例9に記載されるプロセスを使用する、15~35%の断片レベルを含む抗体ロットのコンジュゲーションは、低いおよび同等のレベルの断片とのコンジュゲートを産生した。
【0113】
特定の場合には、35%の断片を有する抗体は、およそ10%の断片を有する粗製コンジュゲートを産生した;断片の大部分は、再酸化によって修復された。精製された最終コンジュゲートは、3%未満の断片を含有した。
【0114】
(実施例11)
抗EDB K183C-K290C抗体を用いたTNBコンジュゲーションプロセス。TNBコンジュゲーションプロセスは、トラスツズマブ以外のTNBキャップされた抗体に適切である。
【0115】
特定の場合には、実施例9に記載される手順を使用する、TNBでキャップされた抗EDBK 183C-K290C抗体の処理により、トラスツズマブK183C-K290C抗体を用いて得られたものと匹敵する粗製コンジュゲートが得られた。
図16に示されるように、これらの抗体の粗製コンジュゲートは、約75%のDAR4で、高度に類似している。
【0116】
(実施例12)
TNBコンジュゲーションプロセスによって産生されたコンジュゲートの精製。このプロセスによって産生された粗製コンジュゲートは、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって精製することができる。HIC精製は、遊離リンカー-ペイロード、凝集物、断片およびより低いDARのコンジュゲートを除去するまたは顕著に低減させる。
【0117】
さらなる例として、HIC精製は、直列に接続したCapto(商標)Butyl ImpRes樹脂(GE)カラムおよびToyopearl(登録商標)PPG-600M(Tosoh)カラムを使用して達成できる。Capto(商標)Butyl ImpResは、凝集物、断片およびより低いDARのコンジュゲートの適切な除去を提供し、Toyopearl(登録商標)PPG-600Mは、遊離mcvcPABC0101リンカー-ペイロードを保持する。精製されたコンジュゲートは、限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/DF)によって濃縮および緩衝液交換することができる。UF/DFは、HIC精製後に存在する場合、残存遊離リンカー-ペイロードを除去することもできる。
【0118】
特定の場合には、実施例6に記載されるプロセスによって産生された粗製コンジュゲート(4.0g、26mg/mL)を、1体積の10mMリン酸ナトリウム、pH7で希釈した。希釈された粗製混合物を、20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7でさらに1:1希釈して、HICローディング溶液を得た。HIC精製を、直列に接続したCapto(商標)Butyl ImpRes樹脂(GE)カラム(24cm(h)×2.6cm(d))およびToyopearl(登録商標)PPG-600M(Tosoh)カラム(4cm(h)×2.6cm(d))を使用して達成した。Capto(商標)Butyl ImpResカラム上へのローディング溶液の導入後、精製されたコンジュゲートが、25カラム体積にわたって緩衝液A中に50~100%の緩衝液Bの勾配で、2カラムシリーズから溶出された;緩衝液A:20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7;緩衝液B:10mMリン酸ナトリウム、pH7。所望のコンジュゲートを含有する画分をプールし、濃縮および緩衝液交換のためにUF/DFに供した(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの20mMヒスチジン、pH5.8)。
【0119】
(実施例13)
増加した回収を有するTNBコンジュゲーションプロセスによって産生されたコンジュゲートの精製。HICによって精製する場合、DAR4 ADCの回収は、移動相緩衝液Bへのイソプロパノールの添加によって改善され、したがって、プロセス収量を増加させることができる。
【0120】
特定の場合には、実施例7に記載されるプロセスによって産生された粗製コンジュゲート(12.4g、26mg/mL)を、1体積の10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノールで希釈した。希釈された粗製混合物を、20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7でさらに1:1希釈して、HICローディング溶液を得た。HIC精製を、直列に接続したCapto(商標)Butyl ImpRes樹脂(GE)カラム(22cm(h)×5cm(d))およびToyopearl(登録商標)PPG-600M(Tosoh)カラム(4cm(h)×5cm(d))を使用して達成した。Capto(商標)Butyl ImpResカラム上へのローディング溶液の導入後、精製されたコンジュゲートが、25カラム体積にわたって緩衝液A中に50~100%の緩衝液Bの勾配で、2カラムシリーズから溶出された;緩衝液A:20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7;緩衝液B:10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノール。所望のコンジュゲートを含有する画分をプールし、濃縮および緩衝液交換のためにUF/DFに供した(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの20mMヒスチジン、pH5.8)。プロセス全体についてのADC収量は、イソプロパノールがHIC精製において緩衝液B中に存在した場合、実施例12の精製プロセスを使用した場合よりもおよそ50%改善された。
【0121】
(実施例14)
リンカー-ペイロードクエンチを用いたTNBコンジュゲーションプロセスによって産生されたコンジュゲートの精製。mcvcPABC0101リンカー-ペイロードを、実施例9のように、クエンチステップにおいてシステインでキャップする場合、HIC精製は、Capto(商標)Butyl ImpRes樹脂(GE)カラム単独を使用して達成することができる。システインキャップされたmcvcPABC0101は、DAR4コンジュゲートよりも早く溶出し、Capto(商標)Butyl ImpResカラムで十分に分離される。
図17に示されるように、DAR4コンジュゲートを、この実施例に記載される条件を使用して、システインキャップされたmcvcPABC0101、より低いDARのコンジュゲート、凝集物および断片から分離する。システインキャップされたmcvcPABC0101は、ダイアフィルトレーションによっても容易に清澄化される。
【0122】
特定の場合には、実施例9に記載されるプロセスによって産生された粗製コンジュゲート(40.0g、26mg/mL)を、1体積の10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノールで希釈した。希釈された粗製混合物を、20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7でさらに1:1希釈して、HICローディング溶液を得た。HIC精製を、Capto(商標)Butyl ImpRes樹脂(GE)カラム(24.5cm(h)×10cm(d))を使用して達成した。カラム上へのローディング溶液の導入後、精製されたコンジュゲートが、10カラム体積にわたって緩衝液A中に50~100%の緩衝液Bの勾配で溶出された;緩衝液A:20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7;緩衝液B:10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノール。所望のコンジュゲートを含有する画分をプールし、濃縮および緩衝液交換のためにUF/DFに供した(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの20mMヒスチジン、pH5.8)。
【0123】
別の特定の場合には、実施例9に記載されるプロセスによって産生された粗製コンジュゲート(0.83g、約23mg/mL)を、1体積の10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノールで希釈した。希釈された粗製混合物を、20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7でさらに1:1希釈して、HICローディング溶液を得た。HIC精製を、直列に接続したButyl HP樹脂(GE)カラム(24cm(h)×1.6cm(d))およびToyopearl(登録商標)PPG-600M(Tosoh)カラム(5.3cm(h)×1.6cm(d))を使用して達成した。カラム上へのローディング溶液の導入後、精製されたコンジュゲートが、10カラム体積にわたって緩衝液A中に50~100%の緩衝液Bの勾配で溶出された;緩衝液A:20mMリン酸ナトリウム、1M硫酸アンモニウム、pH7;緩衝液B:10mMリン酸ナトリウム、pH7、5%(v/v)イソプロパノール。所望のコンジュゲートを含有する画分をプールした。高い回収が、DAR4コンジュゲートからのmcvcPABC0101リンカー-ペイロードの分離と共に達成された。
【0124】
(実施例15)
抗体のヒンジ領域におけるジスルフィドスクランブリングを解析するためのアッセイ。TNBコンジュゲーションプロセスの利点は、抗体上のヒンジジスルフィド還元の顕著な減少または完全な排除であり、したがって、ネイティブの鎖間ジスルフィド結合を有するコンジュゲートの産生である。抗体およびコンジュゲートの両方においてヒンジスクランブリングのレベルを測定するためのアッセイを開発した。このアッセイでは、抗体またはコンジュゲートを、以下に示されるように、ヒンジの下で切断する酵素、およびヒンジの上で切断する第2の酵素で処理する:
【0125】
【0126】
次いで、ヒンジ断片を、HPLCまたはLC-MSによって解析して、抗体またはコンジュゲート中に存在したネイティブのおよびスクランブルされたヒンジの量を決定する。
【0127】
1mg/mLのADC試料を、IdeS(酵素1、1μgのADC当たり1単位)で37℃で30分間処理し、その後、Lys-C(酵素2、150μgのADC当たり1μg)で37℃で5分間処理した。次いで、反応をトリフルオロ酢酸でクエンチした。試料をHPLCによって解析した:Waters XBridge BEH C18カラム、カラム温度:60℃、移動相A:水中0.1%のTFA、移動相B:アセトニトリル中0.1%のTFA、勾配:30分間にわたって20~30%の移動相B、流速:0.2mL/分、214nmにおけるUV検出。ピークをMSによって確認した。
【0128】
(実施例16)
システインキャップされた抗体へのコンジュゲーションとの比較。システインキャップされた抗体から産生されたADCは、ヒンジ-スクランブルされた産物を含有する。システインキャップされた抗体をコンジュゲートするために、抗体は、過剰量のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)で完全に還元されなければならず、還元された鎖間ジスルフィド結合は、デヒドロアスコルビン酸で再酸化されて、変異したシステイン残基のみを、コンジュゲーションのための遊離チオールとして利用可能なままにする。次いで、変異したシステイン残基をリンカー-ペイロードにコンジュゲートして、粗製ADCを得る。再酸化ステップは、抗体のヒンジ領域において、ネイティブの鎖間ジスルフィド結合およびスクランブルされたジスルフィド結合の両方を産生する。この完全還元/再酸化プロセスによって産生されたADCについて、実施例15に記載されるアッセイによって測定されたヒンジスクランブリングのレベルは、典型的には5~20%である。ヒンジスクランブリングは出発抗体中では検出されていないので、全てのヒンジスクランブリングがADCコンジュゲーションプロセスに起源することに留意されたい。
【0129】
4.0g(27.6μmol;60mMヒスチジン、pH7中27mg/mL;144mL)のシステインキャップされたトラスツズマブK183C-K290C抗体に、1.65mLの0.5M TCEP(30当量;0.827mmol;水中0.5M溶液)を添加した。反応混合物を37℃で5時間インキュベートし、次いで、ダイアフィルトレーション(TangenX ProStream 50kDメンブレン、110~210g/m2、10ダイアボリュームの60mMヒスチジン、pH7)によって緩衝液交換した。ダイアフィルトレーション後、混合物を4℃に冷却し、0.144gのデヒドロアスコルビン酸(30当量;0.827mmol;1:1のDMSO/水中50mM;16.5mL)を添加し、混合物を4℃でおよそ16時間インキュベートした。混合物を25℃に加熱し、0.185gのmcvcPABC0101リンカー-ペイロード(5等量、0.138mmol;ジメチルスルホキシド中25mM;5.51mL)を添加し、混合物を25℃で1時間インキュベートして、粗製コンジュゲートを得た。HIC精製後、実施例15に記載されるアッセイによって測定されたADC中のヒンジスクランブリングのレベルは、18%であった。
【0130】
比較のために、TNBキャップされた抗体から産生されたADCは上記実施例6、7および9のように、実施例15に記載されるアッセイによって測定した場合、HIC精製後に検出可能なヒンジスクランブリングを含有しない。