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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-27
(45)【発行日】2022-10-05
(54)【発明の名称】哺乳動物における心疾患の処置方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/225 20060101AFI20220928BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
A61K31/225
A61P9/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019555629
(86)(22)【出願日】2018-04-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2018059295
(87)【国際公開番号】W WO2018189246
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】17165863.6
(32)【優先日】2017-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17180011.3
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519003572
【氏名又は名称】セバ・サンテ・アニマル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エステル・エイメ-ディートリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ギヨネ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ローソン
(72)【発明者】
【氏名】リュク・マロトー
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・モナシェ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208122(JP,A)
【文献】特表2009-513660(JP,A)
【文献】特表2016-503795(JP,A)
【文献】特表2015-516441(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121738(WO,A1)
【文献】Am J Pathol,2002年,161(6),2209-2218
【文献】Pharm Therapy,2017年,14-36
【文献】Life Sciences,2003年,73,193-207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/225
A61P 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における心臓弁膜症の処置及び/又は予防における使用のための、サルポグレラート又はその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物であって、前記サルポグレラート又はその塩が、0.5~200mg/kg/日に含まれる治療用量で投与される、医薬組成物又は獣医用組成物
【請求項2】
前記心臓弁膜症が、カルチノイド心疾患に起因するものである、請求項1に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項3】
前記心臓弁膜症が、肺高血圧に関連する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項4】
前記心臓弁膜症が、初期心臓弁異常に起因するものである、請求項1に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項5】
前記心臓弁膜症が、僧帽弁の厚みの増加及び細胞充実性の増加を特徴とする、請求項1に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項6】
前記サルポグレラートが、その塩酸塩の形態である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項7】
前記サルポグレラートが、1日1回~1日3回で投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項8】
前記サルポグレラートが、食後に投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項9】
前記組成物が、経口経路又は非経口経路により投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項10】
前記哺乳動物が、ヒト又は愛玩動物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項11】
前記組成物が、1種又は複数の活性成分を更に含み、前記活性成分が、ホスホジエステラーゼ阻害薬、及び/又は動脈拡張薬、及び/又は血小板凝集阻害薬、及び/又は食欲抑制薬、及び/又は抗片頭痛薬である、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項12】
前記活性成分が、シロスタゾール又はピモベンダンである、請求項11に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【請求項13】
前記組成物が、緩衝剤、及び/又は保存剤、及び/又は酸化剤、及び/又は希釈剤、及び/又は可溶化剤、及び/又は滑沢剤、及び/又は溶媒を更に含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物又は獣医用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物に関し、また、哺乳動物、とりわけ非ヒト哺乳動物における心疾患の処置及び/又は予防のための前記組成物の使用に関する。より詳細には、本発明は、ヒト又は愛玩動物(pets)、いっそうとりわけイヌにおける心臓弁膜症の処置及び/又は予防に使用するための、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物、とりわけ非ヒト哺乳動物は、血管攣縮性狭心症、虚血性心疾患、先天性心臓欠陥、肺高血圧、心臓弁膜症等のような多くの心疾患を患う可能性がある。
【0003】
イヌでは、心臓弁膜症(VHD)(粘液腫性僧帽弁変性(MMVD)、変性性僧帽弁疾患(DMVD)、弁膜変性性疾患(VDD)、又は弁膜症とも称される)は、心臓弁の変性又は病変に起因する、よく見られる心疾患である。この変性は、多くの場合、弁の通過障害に関連しているが、これは更に、一心拍毎に心耳における血液の逆流を引き起こす。この結果、動脈に送られる血液量が減少し、ひいては、僧帽弁の厚みが大きく増加する。
【0004】
ヒトでは、VHDは、先天性の弁異常(僧帽弁逸脱、大動脈二尖弁等)において、又は後天性の状態(心血管危険因子、心内膜炎、薬物誘発性弁膜症等)に続いて発生する連続的な過程である。VHDは、人口の高齢化により、ますます蔓延してきている(55~64歳の2.5%、65~74歳の4.5%、75歳を超える人々の10%を超える、Nkomo VTら、2006)。残念なことに、VHDを予防又は処置するための治療標的は未だ特定されていない。したがって、外科的修復又は置換は、バイオプロテーゼの寿命が不規則であるにもかかわらず、又は機械的プロテーゼの場合、生涯抗凝結薬療法のリスクという代償を伴うにもかかわらず、依然として最も有効な選択肢となっている。
【0005】
VHDの機能的結果として、心筋への容量負荷及び/又は圧負荷が増加し、これは、心不全、及びその結果である息切れ(又は呼吸困難)、咳、腎不全、又は肺水腫につながる。更に、遺伝的特徴、ストレス、不安、低酸素症、感染性、又は内分泌障害は、この疾患を悪化させ得る。
【0006】
イヌでは、弁膜症の変性性変化は、弁尖及び腱索におけるコラーゲン含有量及び組織化の異常を伴う、細胞外マトリックスの過剰産生及び沈着を特徴とする(Serotonin Concentrations in Platelets, Plasma, Mitral Valve Leaflet, and Left Ventricular Myocardial Tissue in Dogs with Myxomatous Mitral Valve Disease、S.E. Cremerら、J Vet Intern Med 2014、1~3頁)。
【0007】
MMVDは、主に、キャバリア・キング・チャールズ、ヨークシャーテリア、プードル等のような小型のイヌに発症する。
【0008】
薬物誘発性弁膜症(麦角(Van Campら、2004)及びフェンフルラミン誘導体(Connollyら、1997)により誘発されるもの、又はパーキンソン病若しくは高プロラクチン血症に対する薬物、例えば、アポモルフィン、ペルゴリド、ロピニロール、プラミペキソール、リスリド、ブロモクリプチン、カベルゴリン、キナゴリドにより誘発されるもの)、又はカルチノイド心疾患(神経内分泌腫瘍により分泌される過剰の血漿セロトニンに関連する弁膜症(Lundinら、1988)等の数多くの所見が、セロトニン作動系の関与を支持している。
【0009】
イヌでは、多様な証拠により、5-HT(及びTGF-β等の関連分子)が、この疾患の病態形成において重要な役割を果たしていることが示唆されている(Oyamaら)。弁間質細胞(VIC)の分化、粘液腫性細胞外マトリックス成分の合成、及びマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路の活性化における5HTの潜在的な役割を明らかにする、遺伝子発現、免疫組織化学、タンパク質ブロッティング、及び細胞培養を含めたさまざまな研究技術が、イヌ弁膜症において、5-HT及びその関連経路が重要な刺激として作用する(Oyama MA、Levy RJ、J Vet Intern Med、2010、24 (1)、27~36頁)という仮説を裏付けるために利用されてきた。
【0010】
セロトニン(又は5-ヒドロキシトリプタミン、5-HT)は、5-HT2受容体の内因性リガンドである。これは、主に末梢に局在する(>95%)、生体アミンである。セロトニンは、腸内で腸クロム親和性細胞によって合成され、門脈循環中に放出され、5-HTトランスポーター(SERT)を介して血小板に取り込まれる。
【0011】
血小板5-HT含有量は、弁膜症の犬では、CKCS(キャバリア・キング・チャールズ)以外の正常イヌと比較して著しく高い。更に、血小板5-HT含有量は、正常CKCSでは、他の品種の正常イヌと比較して高く、この犬種において、弁膜症の病態形成に血小板由来5-HTが潜在的に関与していることを裏付けている(S.E. Cremer、G.E. Singletary、L.H. Olsen、K. Wallace、J. Haggstrom、I. Ljungvall、K. Hoglund、C.A. Reynolds、N. Pizzinat、及びM.A. Oyama、J Vet Intern Med 2014、1~3頁)。
【0012】
末梢5-HT及び5-HT2(5-ヒドロキシトリプタミン)受容体の心血管組織リモデリングへの寄与は、最近、特に心肥大及び弁リモデリングにおいて強調されている(Monassierら、2004、2008; Ayme-Dietrichら、2012)。5-HT2受容体は、正常動物及びヒトでは検出不能であり、又は極めて低いレベルで発現されるが、ストレッサーが加えられた場合に出現する。血小板によって血流中に放出される内因性セロトニンと僧帽弁逆流との間には、関連性が認められる(Tseら、1997)。更に、この最後の研究では、血小板活性化の程度は、僧帽弁逆流の重症度と正の相関関係があり、基礎にある僧帽弁疾患の病因、年齢、及び左心房の大きさとは無関係である。別の古い研究は、この小コホートにおける、僧帽弁逸脱と血栓塞栓症の増加につながる血小板活性化との関連性を報告している(Walsh PNら、1981)。
【0013】
20年より前に、Brandtらは、大動脈弁狭窄の患者が、血小板活性化に起因する血中遊離セロトニンレベルの上昇を示すことを発見した(1992)。近年、Rouzaud-Labordeet al.は、動脈循環セロトニン、セロトニン分解、及び血小板活性化が、大動脈弁狭窄の患者で増加していることを確認した(2015)。
【0014】
このデータを要約すると、僧帽弁逸脱及び大動脈弁狭窄(いずれも変性性心臓弁疾患の最も高頻度の病因である(lung B.ら、2003))の両弁膜病変は、全身性の血小板活性化と関連している。これらの所見は、セロトニン作動系が大動脈弁狭窄及び僧帽弁逆流の病態形成に寄与している可能性があることを示唆しており、抗血小板薬が血小板活性化に起因するセロトニン誘発性弁病変を予防及び/又は抑制し得るという仮説へと導くものである。
【0015】
残念なことに、現在までのところ、哺乳動物、とりわけイヌにおけるこの心疾患の医薬による治療は存在せず、この疾患を処置する唯一の方法は、手術である。それにもかかわらず、既存の少数の医薬は、心筋リモデリングを安定させ、心不全の過程を遅らせることにより、健康状態を改善することを可能にする。
【0016】
研究により、多くの薬物(フェンフルラミン等)及びそれらの代謝産物(ノルフェンフルラミン)が5-HT2セロトニン作動性受容体のアゴニストであることが示されている。更に、薬物処置に起因し得る、セロトニン作動性受容体5-HT2の慢性刺激が、心臓弁の障害を誘発することが示されている(Blanc - SVSE 1 - Physiologie、physiopathologie、 sante publique (Blanc SVSE 1) 2012、Projet SEROVALVE)。
【0017】
5-HT2A及び5-HT2Bという2つのタイプの5-HT2受容体が特に関与している。これらの受容体のアゴニストが、特定の5-HT2B受容体サブタイプに対して著しい親和性を有することが更に示されている(Circulation 2000、102、2836~2841頁、Fitzgeraldら、2000、Rothmanら、2000)。
【0018】
これらの所見は、心臓弁が5-HTアゴニストによって活性化が可能な「セロトニン作動系」を発現し、これがリモデリング及び変性をもたらすという仮説に導く。したがって、心臓弁膜症を回避するための可能な解決策の一つは、内因性セロトニン産生を低下させること、及び/又は5-HT2受容体アンタゴニスト、より特定すると、5-HT2B受容体アンタゴニストを使用することから構成される。
【0019】
Kou-Gi Shyuは、セロトニンが5-HT2B受容体を介して、心臓の発達を制御することを示した。血漿セロトニンレベル及びセロトニン活性は、心肥大の動物実験において増加している。これは、セロトニンが、5-ΗT2B受容体を介して、心肥大又は心不全を誘発することを示す可能性がある(Serotonin 5-ΗT2B Receptor in Cardiac Fibroblast Contributes to Cardiac Hypertrophy A New Therapeutic Target for Heart Failure、Circ Res、2009、104、1~3頁)。
【0020】
5-HT2B受容体のアンタゴニスト薬、例えば、アゴメラチン、アリピプラゾール、SB204741、SB200646、SB228357、及びその他多数のものが周知である。しかし、5-HT2A受容体のアンタゴニストとして確認されているのは、そのうち少数のみである。更に、サルポグレラートが、5-HT2A受容体及び5-HT2B受容体に対するアンタゴニストとして作用する薬物であり、この際5-HT2A受容体が優先されることも強調されている。
【0021】
Rashid, Mらは、サルポグレラートが、5-HT2B受容体と比較して5-HT2A受容体を優先して遮断するアンタゴニストであることを示した(2003b、Identification of the binding sites and selectivity of sarpogrelate, a novel 5-HT2 antagonist, to human 5-HT2A, 5-HT2B and 5-HT2C receptor subtypes by molecular modeling、Life Sci、73、193~207頁)。
【0022】
サルポグレラートは、いくつかの心疾患を処置するために使用されてきたが、心臓弁膜障害の予防にも処置にも関連付けられたことはない。
【0023】
Tatsuya Mutoらは、サルポグレラートが、モルモット心臓において、虚血後心筋機能不全に対する優れたアンタゴニストであることを示した(Molecular and Cellular Biochemistry、2005年4月、272巻、1号、119~132頁)。
【0024】
Miho Sekiguchiらは、イヌモデルに適用した腰椎椎間板ヘルニアにおいて、5-HT2A受容体アンタゴニストが血流に与える効果を研究した(European Spine Journal、2008年2月、17巻、2号、307~313頁)。
【0025】
サルポグレラート又はその他の5-HT2Aアンタゴニストは、血管攣縮性狭心症、虚血性心疾患、再灌流傷害、及び後肢虚血の処置において、臨床上の可能性を有し得る(Expert Opin Investig Drugs、2003年5月、12(5)、805~23頁、The role of 5-HT on the cardiovascular and renal systems and the clinical potential of 5-HT modulation、Doggrell SA1)。
【0026】
別の研究では、サルポグレラートは、糖尿病性腎症の発症又は進行の予防について試験されている(Takahashi, Tら、Diabetes Res Clin Pract、2002年11月、58(2)、123~9頁)。
【0027】
サルポグレラート(ケタンセリンと併用)は、緑内障患者において眼圧を著しく低下させることが示されている(Takenakaら、Investig Ophthalmol Vis Sci 36、S734 (1995)。
【0028】
多くの5-HT2B受容体アンタゴニストは、心疾患の処置のために試験されている。しかしながら、心臓弁膜障害を処置及び/又は予防するために、5-HT2A受容体を特異的に標的にするという考えは、未だ研究されていない。本発明者らは、驚くべきことに、サルポグレラートが、哺乳動物(ヒトを含む)において、とりわけ非ヒト哺乳動物において、僧帽弁の厚みを減少させ、ひいては僧帽弁弁膜症を処置及び/又は予防する上で極めて効果的であることを立証した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0029】
【文献】Serotonin Concentrations in Platelets, Plasma, Mitral Valve Leaflet, and Left Ventricular Myocardial Tissue in Dogs with Myxomatous Mitral Valve Disease、S.E. Cremerら、J Vet Intern Med 2014、1~3頁
【文献】Oyama MA、Levy RJ、J Vet Intern Med、2010、24 (1)、27~36頁
【文献】S.E. Cremer、G.E. Singletary、L.H. Olsen、K. Wallace、J. Haggstrom、I. Ljungvall、K. Hoglund、C.A. Reynolds、N. Pizzinat、及びM.A. Oyama、J Vet Intern Med 2014、1~3頁
【文献】Blanc - SVSE 1 - Physiologie、physiopathologie、 sante publique (Blanc SVSE 1) 2012、Projet SEROVALVE
【文献】Circulation 2000、102、2836~2841頁、Fitzgeraldら、2000; Rothmanら、2000
【文献】Kou-Gi Shyu、Serotonin 5-ΗT2B Receptor in Cardiac Fibroblast Contributes to Cardiac Hypertrophy A New Therapeutic Target for Heart Failure、Circ Res、2009、104、1~3頁
【文献】Rashid, Mら、2003b. Identification of the binding sites and selectivity of sarpogrelate, a novel 5-HT2 antagonist, to human 5-HT2A, 5-HT2B and 5-HT2C receptor subtypes by molecular modeling、Life Sci、73、193~207頁
【文献】Tatsuya Mutoら、Molecular and Cellular Biochemistry、2005年4月、272巻、1号、119~132頁
【文献】Miho Sekiguchiら、European Spine Journal、2008年2月、17巻、2号、307~313頁
【文献】Expert Opin Investig Drugs、2003年5月、12(5)、805~23頁、The role of 5-HT on the cardiovascular and renal systems and the clinical potential of 5-HT modulation、Doggrell SA1
【文献】Takahashi, Tら、Diabetes Res Clin Pract、2002年11月、58(2)、123~9頁
【文献】Takenakaら、Investig Ophthalmol Vis Sci 36、S734 (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
上記を考慮して、本発明者らは、驚くべきことに、5-HT2A受容体のアンタゴニストとして作用するサルポグレラート若しくはその塩が、哺乳動物において、とりわけ非ヒト哺乳動物、いっそうとりわけイヌにおいて、粘液腫性僧帽弁変性(MMVD)を処置及び/又は予防するのに効果的であることを見いだした。
【0031】
したがって、本発明によって解決される課題は、非ヒト哺乳動物及びヒトにおける、セロトニン作動性5-HT2A受容体の刺激により誘発された心臓弁膜症を、サルポグレラート若しくはその塩を用いて僧帽弁の厚みを減少させることによって予防及び/又は処置する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
サルポグレラートには数多くの利点がある。サルポグレラートは、安全であり、非ヒト又はヒトの身体による許容性が高く(生体適合性)、吸収がよく、分布に優れ、代謝がよく、排出に優れ、また最後に、医薬品又は獣医用医薬として使用しやすい。
【0033】
本発明の第1の対象は、哺乳動物における、とりわけ非ヒト哺乳動物における心疾患の処置及び/又は予防に使用するための、より特定すると、MMVDを誘発する肺高血圧の予防及び/又は処置のための、より特定すると、心臓弁膜症、より好ましくは、僧帽弁の厚みの増加を特徴とする弁膜症の予防及び/又は処置のための、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物に関する。
【0034】
本発明の更なる対象は、哺乳動物における、とりわけ非ヒト哺乳動物における心疾患の処置及び/又は予防方法であって、前記哺乳動物に、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物を単独で、又は別の活性成分と一緒に投与する工程を含む方法である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
第1の態様では、本発明は、哺乳動物における、とりわけ非ヒト哺乳動物における心疾患の処置及び/又は予防に使用するための、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物に関する。本発明による医薬組成物又は獣医用組成物は、好ましくは、哺乳動物における、心臓弁膜症の予防及び/若しくは処置並びに/又はVHDに関連する肺高血圧の予防及び/若しくは処置のために使用される。本発明は、ヒト又は愛玩動物、いっそうとりわけイヌにおける心臓弁膜症の処置及び/又は予防に使用するための、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物に関する。
【0036】
医薬組成物又は獣医用組成物は、好ましくは、心臓弁膜症が僧帽弁の厚みの増加及び細胞充実性(cellularity)の増加を特徴とする場合に、僧帽弁の厚みを減少させるために使用される。
【0037】
本発明による医薬組成物又は獣医用組成物は、哺乳動物における心臓弁膜症の処置及び/又は予防に使用され、心臓弁膜症は、カルチノイド心疾患に起因し、心臓弁膜症は、肺高血圧に関連し、又は心臓弁膜症は、初期心臓弁異常若しくは心臓弁病変に起因する。組成物は、慢性腎疾患のための血液透析のような、VHDが広く蔓延している病理学的状況でも使用される。
【0038】
本発明の文脈において、「医薬組成物」とは、疾患を処置、及び/又は診断、及び/又は治療、及び/又は予防するために使用される薬物を含有する組成物を指す。更に、薬物は、ヒトにおける疾患を処置若しくは予防するための特性を有することが示される任意の物質若しくは物質の組み合わせ(組成物)、或いは薬理作用、免疫作用、若しくは代謝作用を及ぼすことにより生理的機能を回復、補正、若しくは変更する目的で、又は医学的診断を行う目的で、ヒトに使用若しくは投与してもよい任意の物質若しくは物質の組み合わせである(Directive 2004/27/ECによる)。
【0039】
FDAの用語集によると、本発明の文脈において、「医薬組成物」は、必須ではないが一般的には他の活性成分若しくは不活性成分と一緒に、原体を含有する最終投与形態である「製剤」も指す。
【0040】
薬物は、公式の薬局方又は処方集によって認識されている物質、疾患の診断、治療、緩和、処置、若しくは予防における使用を目的とする物質、身体の構造若しくは任意の機能に影響を与えることを目的とする物質(食品以外)、医薬の成分としての使用を目的とし、装置又は装置の要素、部品、若しくは付属品ではない物質として定義される(生物由来物質は、この定義に含まれ、概して、同じ法律及び規制が適用されるが、製造プロセスについて、化学的プロセスと生物学的プロセスという違いがある)。
【0041】
本発明によると、「獣医用の」という用語は、「医薬の」と同じ定義を有するが、動物(ヒト以外を意味する)に適合させたものである。「動物」とは、動物界のヒト以外の任意のメンバーで、一生の任意の段階にあるものを意味する。
【0042】
より正確には、「獣医用薬物」(又は医薬若しくは組成物)とは、動物における疾患又は身体的若しくは精神的な異常状態、又はそれらの症状の診断、処置、制御、根絶、緩和、若しくは予防において使用され、或いはそのような使用、又は動物における任意の身体機能、精神機能、若しくは生物機能を回復、補正、制御、若しくは修正に適するように製造、販売、若しくは提示される、任意の物質若しくは物質の混合物を意味する。
【0043】
本発明の文脈において、サルポグレラートとは、(4-[1-ジメチルアミノ-3-[2-[2-(3-メトキシフェニル)エチル]フェノキシ]プロパン-2-イル]オキシ-4-オキソブタン酸(CAS番号125926-17-2、分子量429.5)であり、以下の化学構造を有する。
【0044】
【化1】
【0045】
本発明の文脈において、サルポグレラートという用語は、その薬学的に許容される塩も包含する。そのような薬学的に許容される塩には、無機酸塩及び有機酸塩が含まれる。無機酸塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等であってもよい。有機酸塩としては、フマル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩等が挙げられる。好ましくは、サルポグレラートは、その塩酸塩の形態である。
【0046】
サルポグレラート塩酸塩は、以下の式を有する(CAS番号135159-51-2、分子量465.97)。
【0047】
【化2】
【0048】
本明細書において使用する際、「予防及び/又は処置する」とは、心疾患の制御、軽減、進行遅延、根絶、治療、及び/又は回避を含む。
【0049】
本発明の文脈において、予防及び/又は処置することができる心疾患には、誘発性及び自発性双方の変性性心臓弁膜障害が含まれ、例えば、MMVD(とりわけ血小板活性化及び/又はセロトニン放出が弁膜病変につながる場合、起源(先天性又は後天性)に関わらない)、薬物誘発性弁膜症、VHDに関連する肺高血圧、カルチノイド心疾患、エルゴタミンに誘発された肺線維症及び/又は後腹膜線維症及び/又は弁線維症、線維症、心筋症、肥大型心筋症、拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、先天性心臓欠陥、心不全、うっ血性心不全、大動脈弁狭窄、大動脈弁逆流、大動脈二尖弁、僧帽弁逸脱、バーロー病、リウマチ性心疾患、血液透析患者及び/又は慢性腎疾患患者においてエリスロポエチン処置及び/又は血液透析によって誘発された心臓弁病変、内皮前駆細胞の動員(病態メカニズム及び/又は治療処置)に起因する弁膜病変等がある。
【0050】
サルポグレラート若しくはその塩は、心臓のポンプ機能の機械的補助下にある患者の心臓保護(弁)のためにも使用することができる。
【0051】
本発明の文脈において、肺高血圧は、息切れ、下肢の腫脹、めまい、失神、及びその他の症状につながる、肺血管系として知られる肺動脈、肺静脈、又は肺毛細血管の血圧上昇と定義することができる。
【0052】
サルポグレラートは、心臓弁の厚み、内皮前駆細胞の血中動員、前駆細胞の弁へのリクルート、前駆細胞の筋線維芽細胞への分化、心臓弁前駆細胞の間質移動、及び最終的に心臓弁リモデリングを減少させる。
【0053】
機能的には、サルポグレラートは、心臓弁の漏れ及び狭窄を減少させる。更に、サルポグレラートは、左室機能を保存し、心臓弁疾患に起因する心血管罹患率及び死亡率を減少させ、弁膜症と関連する心房細動、肺高血圧、及び抗凝固療法を回避する。最後に、サルポグレラートは、バイオプロテーゼの変性を軽減し、心臓弁置換術の開始を遅らせる。
【0054】
本発明の第2の特定の実施形態では、組成物は、動物、いっそうとりわけ非ヒト哺乳動物に0.5~50mg/kg/日、好ましくは0.5~45mg/kg/日、又は0.5~40mg/kg/日、又は0.5~35mg/kg/日、又は0.5~30mg/kg/日、又は0.5~25mg/kg/日、又は0.5~20mg/kg/日、又は0.5~15mg/kg/日、又は0.5~10mg/kg/日、又は0.5~5mg/kg/日、又は0.5~2mg/kg/日に含まれる、より好ましくは約2mg/kg/日の治療用量で投与される。
【0055】
本発明の更なる特定の実施形態では、組成物は、動物、いっそうとりわけヒト哺乳動物に、10~200mg/kg/日、好ましくは15~190mg/kg/日、又は20~180mg/kg/日、又は25~170mg/kg/日、又は25~160mg/kg/日、又は25~140mg/kg/日、又は30~130mg/kg/日、又は30~120mg/kg/日、又は30~110mg/kg/日、又は30~105mg/kg/日、又は30~100mg/kg/日に含まれる、より好ましくは約100mg/kg/日の治療用量で投与される。
【0056】
本発明の特定の実施形態では、サルポグレラートは、0.5~200mg/kg/日に含まれる治療用量で投与される。
【0057】
非ヒト哺乳動物では、サルポグレラートは、1日1回、1日2回、とりわけ1日1回(持続放出)投与される。組成物は、経口又は非経口(皮内、皮下、静脈内、筋肉内、灌流等)経路によって投与することができる。
【0058】
更に、ヒト哺乳動物では、サルポグレラートは、1日1回~1日3回、とりわけ1日2~3回、いっそうとりわけ1日2回、更にいっそうとりわけ1日3回投与される。組成物は、経口又は非経口(皮内、皮下、静脈内、筋肉内、灌流等)経路、いっそうとりわけ経口経路によって投与することができる。好ましくは、サルポグレラートは、食後に投与される。
【0059】
処置を受ける哺乳動物は、哺乳動物、つまり、ヒト又は非ヒト哺乳動物である。好ましい実施形態では、哺乳動物は、ヒト又は愛玩動物である。
【0060】
処置を受ける非ヒト哺乳動物は、好ましくはネコ及び犬を含む愛玩動物であり、より好ましくはイヌである。イヌは、小型のイヌ、中型のイヌ、又は大型のイヌであってもよい。
【0061】
より具体的には、組成物は、液剤、懸濁剤、固体若しくは半固体、散剤、ペレット剤、カプセル剤、顆粒剤、糖衣錠、ゲルレ(gelule)、カプセル剤、スプレー剤、丸剤、錠剤、ペースト剤、インプラント、又はゲル剤の形態である。組成物は、経口又は非経口経路によって投与される。
【0062】
非ヒトの哺乳動物、とりわけイヌの場合の好ましい投与は、注射剤形である。ヒト哺乳動物の場合の好ましい投与は、経口剤形である。
【0063】
本発明による使用のための組成物は、経口又は非経口投与のための懸濁剤、液体又は固体製剤の調製に、薬局において従来使用されている成分に対応する、薬学的に許容される添加剤を更に含んでもよい。
【0064】
より正確には、本発明による使用のための組成物は、緩衝剤、及び/又は賦形剤、及び/又は保存剤、及び/又は酸化剤、及び/又は希釈剤、及び/又は可溶化剤、及び/又は滑沢剤、及び/又は溶媒等を更に含む。
【0065】
経口投与用の錠剤又はペレット剤の形態の製剤の場合、溶媒中に、ラクトース一水和物、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、クロスポビドン、芳香剤、及び圧縮性糖類を賦形剤として使用することができる。経口経路の場合の溶媒の例としては、プロピレングリコール、エタノール、ソルビトールシロップ、水、植物油、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0066】
注射用製剤の場合、本発明による医薬組成物は、治療有効量のサルポグレラート若しくはその塩を、緩衝剤、懸濁化剤、可溶化剤、安定剤、等張化剤、及び/又は保存剤と共に、溶媒に添加することによって調製することができる。
【0067】
溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、エタノール、ジエステルプロピレングリコール、プロピレングリコール、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0068】
緩衝剤の例としては、リン酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0069】
懸濁化剤の例としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシセルロース、アンタンガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、及びポリエトキシル化ソルビタンモノラウレート、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0070】
更に、安定剤には、亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム(sodium metalsulfite)、及びエーテルがあり、保存剤には、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、ポリビニルピロリドン、ソルビトールシロップ等、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0071】
等張化剤の例には、マンニトール、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、グリセリン、ラクトース、マンニトール、塩化ナトリウム、デキストロース、硫酸ナトリウム、ソルビトール、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0072】
保存剤の例には、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、p-ヒドロキシ安息香酸w-プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、安息香酸若しくはその塩、メタ重亜硫酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ベンゼトニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、酢酸ナトリウム、パラベン及びその塩、ショ糖、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0073】
組成物は、可溶化剤、抗酸化剤、希釈剤、芳香剤(アプリコット、バニラ、ビーフ)、滑沢剤、界面活性剤、湿潤剤等のような他の賦形剤を更に含んでもよい。
【0074】
可溶化剤の例には、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチンアミド、ポリエトキシル化ソルビタンモノラウレート、マクロゴール、及びカースト油(caste oil)脂肪酸のエチルエステル、又はそれらの組み合わせ、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0075】
希釈剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、カオリン、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸ナトリウム、ラクトース一水和物、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0076】
抗酸化剤の例には、アスコルビン酸(ビタミンC)若しくはその塩、クエン酸若しくはその塩、リンゴ酸、モノチオグリセロール、フマル酸、リン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、ビタミンE(トコフェロール)、アセトン、システイン、ゲンチジン酸エタノールアミン、グルタミン酸一ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシレートナトリウム、又はそれらの組み合わせ等がある。
【0077】
滑沢剤は、油、ワックス、ステアリン酸、ステアレート類(ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等)、タルク、長鎖脂肪酸、ポリエチレングリコール、パルミチン酸、水素化植物油、フマル酸ステアリルナトリウム、安息香酸ナトリウム、及びそれらの混合物等から選択することができる。
【0078】
界面活性剤は、ポロキサマー、ポリソルベート、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油等)、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0079】
湿潤剤は、エタノール等であってもよい。
【0080】
本発明による組成物中のサルポグレラート又はその塩の濃度は、投与経路、症状、動物(非ヒト及びヒトである哺乳動物を意味する)の年齢に依存する。非ヒト哺乳動物の場合、注射用液剤の形態では、組成物は、0.5~130mg/mLのサルポグレラート若しくはその塩を含んでもよい。固体組成物は、10~80mgのサルポグレラート若しくはその塩を含んでもよい。
【0081】
ヒト哺乳動物の場合、固体(経口)組成物は、10~200mgのサルポグレラート若しくはその塩を含んでもよい。
【0082】
本発明による使用のための医薬組成物又は獣医用組成物は、心疾患を処置するために従来使用されている別の活性成分、より具体的には1種又は複数の活性成分を更に含んでもよい。好ましくは、別の活性成分、より具体的には種又は複数の活性成分は、ホスホジエステラーゼ阻害薬、及び/又は動脈拡張薬、及び/又は利尿薬、及び/又はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、及び/又はアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト、及び/又は血小板凝集阻害薬、及び/又は食欲抑制薬(anorexigen)、及び/又は抗片頭痛薬から選択される。
【0083】
より特定すると、好ましいホスホジエステラーゼ阻害薬は、シロスタゾール、ピモベンダン、カフェイン、アミノフィリン、3-イソブチル-1-メチルキサンチン、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、テオフィリン、ビンポセチン、オキシインドール、メセンブレノン、ロリプラム、イブジラスト、ルテオリン、ドロタベリン、ピクラミラスト、ロフルミラスト、アプレミラスト、クリサボロール、シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル、アバナフィル、ウデナフィル、ジピリダモール、イカリイン、キナゾリン、パパベリン等から選択される。より特定すると、好ましいホスホジエステラーゼ阻害薬は、ピモベンダン、又はシロスタゾール(6-[4-(1-シクロヘキシル-1H-テトラゾール-5-イル)-ブトキシ]-3,4-ジヒドロ-2(1H)-キノリノンとも称される。CAS番号:73963-72-1、分子量:369.46g/mol)から選択される。
【0084】
【化3】
【0085】
ピモベンダンは、とりわけ非ヒト哺乳動物の場合、とりわけイヌの場合に、好ましいホスホジエステラーゼ阻害薬である。
【0086】
より特定すると、動脈拡張薬は、アデノシン、アドレナリン、ブラジキニン、ヒスタミン、ニコチン酸、ナイトリックオキシド(nitric oxid)、ジルチアゼム、ベラパミル、ニフェジピン、カプトプリル、エナラプリル、ヒドララジン、プラゾシン、(アセチル-グリセリル-エーテル-ホスホリルコリン(血小板活性化因子)、プロスタサイクリン、二硝酸イソソルビド等から選択される。
【0087】
より特定すると、利尿薬は、アンホテリシンB、クエン酸リチウム、トルバプタン、コニバプタン、ドーパミン、ドルゾラミド、アセタゾラミド、ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド、トルセミド、グルコース、マンニトール、エプレレノン、スピロノラクトン、アミロライド、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン、ベンドロフルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、カンレノエート等から選択される。
【0088】
より特定すると、ACE阻害薬は、カプトプリル、シラザプリル、トランドラプリル、イミダプリル、ベナゼプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、エナラプリル、ゾフェノプリル等から選択される。
【0089】
より特定すると、好ましいアンジオテンシンII受容体アンタゴニストは、フィマサルタン、アジルサルタン、オルメサルタン、エプロサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタン、ロサルタン等から選択される。
【0090】
より特定すると、血小板凝集阻害薬は、シロスタゾール、アスピリン、クロピドグレル、トリフルサル、プラスグレック(prasugrek)、チカグレロル、トクロピジン(toclopidine)、チロフィバン、アプチフィバチド(aptifibatide)、アブシキシマブ、ボラパクサール、テルトロバン、ジピリダモール、ADP受容体アンタゴニスト、GpIIb/IIIa受容体アンタゴニスト等から選択され、好ましいものは、シロスタゾールである。
【0091】
より特定すると、食欲抑制薬は、デクスフェンフルラミン、ジエフチルプロピオン(diehtylpropion)、オキシメタゾリン、フェンテルミン、ベンフルオレックス、ブテノライド、カシン、フェンメトラジン、フェニルプロパノールアミン等から選択され、好ましいものは、デクスフェンフルラミンである。
【0092】
より特定すると、抗片頭痛薬は、麦角タイプの薬、例えば、ジヒドロエルゴタミン、メチセルジド、エルゴタミド、酒石酸エルゴタミン等から選択される。
【0093】
より特定すると、活性成分は、シロスタゾール又はピモベンダンである。
【0094】
別の実施形態では、本発明は、哺乳動物、とりわけ非ヒト哺乳動物における、心臓弁膜症及び/又は肺高血圧の処置及び/又は予防方法であって、前記哺乳動物、とりわけ非ヒト哺乳動物に、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物を投与する工程を含む方法にも関する。上記に記載のすべての実施形態は、本処置方法にも適用される。
【0095】
より特定すると、本発明は、哺乳動物における心臓弁膜症の処置及び/又は予防方法であって、前記哺乳動物に、サルポグレラート若しくはその塩を含む医薬組成物又は獣医用組成物を投与する工程を含む方法に関する。
【0096】
以下の実施形態は、例示的なものであり、本発明の範囲を決して限定するものではない。
【実施例
【0097】
(実施例1)
マウスモデルにおけるサルポグレラートの効果
本実施例では、5-HT2Bアゴニストであるノルデクスフェンフルラミン(NdF)の慢性投与によって、マウスに僧帽弁弁尖損傷を誘発する。これらの病変は、細胞外マトリックスの大量産生を伴う、内皮細胞のリクルート及び弁尖内への移動として現れる。
【0098】
Table 1(表1)に示すように、12週齢を超える体重約30gの雄マウス30匹を3つの群に無作為に割り当てた。
【0099】
【表1】
【0100】
実験開始前に、ベースラインの収縮期血圧、心拍数、及び体重を測定した。この工程後、1mg/kg/日で滅菌水に溶解したNdF又は滅菌水(ビヒクル)を28日間送達する、ミニ浸透圧ポンプ(Alzet(登録商標)1004)をマウスに皮下移植した。投与されるサルポグレラートの用量は、2mg/kg/日とした。
【0101】
実験は、ミニ浸透圧ポンプが作動するように、皮下移植の2日後に開始した。収縮期血圧、心拍数、及び体重は、実験終了まで毎週測定した。終了時(28日目)に、マウスから尿試料を採取して、5-ヒドロキシインドール酢酸濃度(5-HIAA、セロトニン代謝産物)を測定した。NdFは、セロトニンの放出を誘発し、それにより尿中5-HIAAが増加する。
【0102】
次に、非致死量のペントバルビタールを注射した後、心臓内血液穿刺によりマウスを安楽死させ、全血セロトニン濃度を測定した。
【0103】
血中5-HT濃度及び尿中5-HIAA濃度を安楽死後数週間中に測定したが、これをTable 2(表2)にまとめる。すべての血漿を採取し、一度に分析した。
【0104】
【表2】
【0105】
このデータは、Ndfがセロトニンの総血中濃度を上昇させ、反対に、サルポグレラートがこの濃度を低下させることを明確に示している。同時に尿中の5-HIAA量が減少していることから、これは、5-HT合成の減少を意味している。
【0106】
体重(Table 3(表3))、食物摂取量(Table 4(表4))、水摂取量(Table 5(表5))、収縮期血圧(Table 6(表6))、心拍数(Table 7(表7))、細胞充実性に対するサルポグレラートの効果(tables 8-9(表8~9))、及び僧帽弁の厚みの減少に対するサルポグレラートの効果(table 10(表10))の測定値を下記に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
いずれの処置も対照群と比較して体重を変化させなかった。
【0109】
【表4】
【0110】
いずれの処置も対照群と比較して食物摂取量を変化させなかった。
【0111】
【表5】
【0112】
いずれの処置も対照群と比較して水物摂取量を変化させなかった。
【0113】
【表6】
【0114】
いずれの処置も対照群と比較して血圧を変化させなかった。
【0115】
【表7】
【0116】
いずれの処置も対照群と比較して心拍数を変化させなかった。
【0117】
形態計測分析のために、パラフィン包埋後、1つの矢状切片(5μm厚)を採取し、ヘマトキシリン・エオシン染料により染色する。各切片において、僧帽弁を検査し、細胞化を数える。心臓の切片作成には細心の注意を払い、弁が主に横方向に切断されるようにする(弁尖の付着側が弁の両端上に見えるようにする)。
【0118】
弁の組織学的形態計測分析は、カメラ及びデータ収集・分析装置(Leica /Microsystems(登録商標)LAS V4.8)に接続された、40倍の較正された対物レンズを備える顕微鏡(Leica DM750(登録商標)、ドイツ)を用いて、一名の技師が視覚的に実施する。実際には、技師は、各切片上に、それぞれ25μm×25μmの100個の等しい部分に分割された250μm×250μmの大きい正方形を適用する。定量化のために、僧帽弁弁尖切片全体を3つの等しい部分に分割する。近位領域は、弁尖基部に最も近い領域であり、その後中央領域、遠位領域と続く。近位部、中央部、及び遠位部の厚みをそれぞれの領域の異なる3つの部位で測定する。table 8(表8)に、結果平均値をμmで示す。
【0119】
【表8】
【0120】
僧帽弁の厚みの大きな増加が、NdFによって誘発される。この厚みの増加は、サルポグレラートによってほぼ完全に防止される。
【0121】
Tables 9-10(表9~10): 細胞充実性に対するサルポグレラートの効果
【0122】
近位領域、中央領域、及び遠位領域における内皮細胞の密度を評価する。弁尖長25×4μm(100μm2)で細胞数を測定する。結果(平均)を100μm2当たりの細胞数として示す。
【0123】
【表9】
【0124】
内皮細胞充実性の有意な変化は観察されない。
【0125】
【表10】
【0126】
NdFでは、弁の間質細胞充実性の増加が観察される。サルポグレラートは、この増加を防止する。
【0127】
要約すると、サルポグレラートは、血漿中5-HT及び尿中5-HIAA(5-ヒドロキシインドール酢酸)を減少させる。この結果は、サルポグレラートが5-HT合成及び/又は血小板放出を制限することを示している。更に、サルポグレラートは、上記のNdF誘発僧帽弁リモデリングのモデルにおいて、僧帽弁の厚みを著しく減少させ、この5-HT2A受容体アンタゴニストの抗リモデリング効果を証明している。最後に、サルポグレラートは、内皮細胞の間質移動を減少させ、この受容体が、環内皮前駆細胞のリクルートと移動を結びつけるメカニズムに関与していることを示している。
【0128】
(実施例2)
経口製剤(1mg/mL)
1gのサルポグレラート塩酸塩及び1gのベンジル型アルコールを蒸留水に可溶化することによって、1Lの経口溶液を調製する。これは、多回使用ガラスバイアルに入れて保管され、4~40℃に含まれる温度で、少なくとも3か月間物理学的に安定である。用量は、体重10kg当たり1mLである。
【0129】
(実施例3)
経口製剤(1mg/mL)
【0130】
【表11】
【0131】
1Lの経口製剤を以下のプロセスに従って調製する。1gのサルポグレラート塩酸塩、1.5mgのパラヒドロキシ安息香酸メチル、0.2gのパラヒドロキシ安息香酸プロピル、0.1gのヒドロキシセルロース、5gのショ糖、及び0.5gのアプリコット芳香剤を蒸留水に可溶化する。これは、多回使用ガラスバイアルに入れて保管され、4~40℃に含まれる温度で、少なくとも3か月間物理学的に安定である。用量は、体重10kg当たり1mLである。
【0132】
(実施例4)
経口懸濁剤(100mg/g)
【0133】
【表12】
【0134】
1gのヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、40gのエタノール、60gのソルビトールシロップ(70%)、1.2mgのパラヒドロキシ安息香酸メチル、及び0.2gのパラヒドロキシ安息香酸プロピルを含む水溶液900g中に、微粒子化したサルポグレラート塩酸塩100gを分散させることによって、1Lの経口懸濁剤を調製する。これは、多回使用ガラスバイアルに入れて保管され、4~40℃に含まれる温度で、少なくとも3か月間物理学的に安定である。
【0135】
(実施例5)
経口懸濁剤(100mg/g)
【0136】
【表13】
【0137】
1gのヒプロメロース(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、100gのソルビトールシロップ、60gのソルビトールシロップ(70%)、1.5mgのパラヒドロキシ安息香酸メチル、0.2gのパラヒドロキシ安息香酸プロピル、及び0.5gのバニラ芳香剤を含む水溶液900g中に、微粒子化したサルポグレラート塩酸塩100gを分散させることによって、1Lの経口懸濁剤を調製する。これは、多回使用ガラスバイアルに入れて保管され、4~40℃に含まれる温度で、少なくとも3か月間物理学的に安定である。
【0138】
(実施例6)
化合物:錠剤(サルポグレラート塩酸塩50mg)
以下の2工程プロセスに従って、サルポグレラート塩酸塩を含む化合物を調製する。
- 工程1:造粒
【0139】
【表14】
【0140】
500gのサルポグレラート塩酸塩、250gのラクトース一水和物、200gの微結晶セルロース、及び50gのポリビニルピロリドンを乾式混合し、高せん断造粒機DIOSNA(登録商標)でエタノールと共に造粒し、最後に、減圧下、40℃で乾燥させる。
- 工程2:圧縮
【0141】
【表15】
【0142】
工程1で得た500gの顆粒を200gの人工ビーフ芳香剤、275gの圧縮性糖、24gのクロスポビドン、及び1gのステアリン酸マグネシウムと混合し、FROGERAIS(登録商標)打錠機で圧縮し、各200mgの楕円形の二分割可能な化合物にする。
【0143】
(実施例7)
薬物誘発性弁膜症におけるセロトニン作動系の心臓弁膜症への寄与
心血管外科(ストラスブール大学病院)において、心臓弁置換術の際に、ヒト変性弁38個を採取した。21個の変性大動脈弁及び17個の変性僧帽弁をRT-qPCRで分析した。弁に起因しない心不全での移植時に外植された心臓(55歳男性)から、正常な僧帽弁及び動脈弁を得、これらを対照とした。採取した心臓弁組織の疾患病因は、以下の通りの分布を示す。大動脈弁狭窄12例、大動脈弁逆流5例、大動脈二尖弁4例、僧帽弁逸脱12例、バーロー病2例、及びリウマチ性心疾患3例。結果は以下の通りである。
1)5-HT2A及び5-HT2B受容体(5-ヒドロキシトリプタミン受容体2A及び2B:HTR2A及びHTR2B)mRNAは、すべての病的ヒト心臓大動脈弁及び僧帽弁で同様の量が検出される。
2)病的弁組織におけるHTR2B mRNAの発現は、正常弁組織と比較して5~10倍高いが、HTR2A mRNAは、対照と有意に異ならない(Table 11(表16))。5-HT2A受容体mRNA及び5-HT2B受容体mRNAの定量化は、正常僧帽弁及び大動脈弁(n=1)と比較して、変性性僧帽弁(MV)(n=17)及び大動脈弁(AV)(n=21)からのリアルタイム定量的PCRによって実施した。結果は、18Sに対して正規化し、正常MV及びAVと比較して示す。データは、平均2-ΔΔCt±SDとして、対照に対する倍率として示す。
【0144】
【表16】
【0145】
3)HTR2B過剰発現は、病因に関わらず観察される(Table 12(表17))。
【0146】
【表17】
【0147】
次に、5個の変性大動脈弁及び5個の変性僧帽弁における5-HT2受容体の発現をウェスタンブロットにより分析した。結果は以下の通りである。
【0148】
対照と比較して、5-HT2A受容体タンパク質は、僧帽弁で3倍の増加(2.98±0.69)、大動脈弁の病的組織で6倍の増加(6.37±1.97)が観察された。
【0149】
5-HT2B受容体タンパク質については、僧帽弁では11倍の増加(10.99±5.11)、大動脈弁試料では2.6倍の増加(2.63±0.99)が認められた。
【0150】
更に、5-HT2B受容体発現は、免疫組織化学的検査により、内皮細胞(弁表面)に認められるが、弁病変内部にも認められる。5-HT2B陽性細胞の割合は、0.03mm2当たりの全細胞数に対し、僧帽弁病変(n=4、僧帽弁逸脱)では40.2±4.2%、大動脈弁病変(n=4、大動脈弁狭窄)では35.5±3.9%である。
【0151】
要約すると、5HT2A,2B受容体は、ヒト変性性大動脈弁及び僧帽弁で発現される。これら2種の5-HT2受容体は、心臓弁変性に寄与しており、治療標的となり得る。
【0152】
(実施例8)
(ヒト)経口化合物(サルポグレラート塩酸塩50%)
以下の2工程プロセスに従って、サルポグレラート塩酸塩を含む化合物を調製する。
- 工程1:造粒
【0153】
【表18】
【0154】
500gのサルポグレラート塩酸塩、250gのラクトース一水和物、200gの微結晶セルロース、及び50gのポリビニルピロリドンを乾式混合し、高せん断造粒機DIOSNA(登録商標)でエタノールと共に造粒し、最後に、減圧下、40℃で乾燥させる。
- 工程2:圧縮
【0155】
【表19】
【0156】
工程1で得た500gの顆粒を200gの人工ビーフ芳香剤、275gの圧縮性糖、24gのクロスポビドン、及び1gのステアリン酸マグネシウムと混合し、FROGERAIS(登録商標)打錠機で圧縮し、各200mgの楕円形の二分割可能な化合物にする。